説明

立体形状印刷物用印刷治具

【課題】UV硬化型インクジェットプリンターを利用して様々な形状の被印刷物を搭載する治具を極めて容易に提供できる立体形状印刷物用印刷治具を提供する。
【解決手段】印刷治具1は、UV硬化型のプリンターヘッドと向かい合う面に、堤2により仕切られた複数の窪み3と、窪み3に投入された常温より高く100℃よりも低い温度に融点を有する飽和脂肪酸、これをエステル化した蝋或いは油脂又は、飽和炭化水素のいずれかからなる形状記憶剤4と、形状記憶剤4を被覆する樹脂シート5とを備えている。印刷治具1を加熱して、形状記憶剤4を軟化させたのち、被印刷物を押し込んで型を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UV硬化型インクジェットプリンタに用いる立体形状印刷物用印刷治具に関する。
【背景技術】
【0002】
UV硬化タイプのインクジェットプリンタは、プリンターヘッドから噴出されるインク滴を被印刷物の立体形状表面に噴射し、UVランプを利用して硬化させる。インクは一旦硬化すると、十分な硬度を発揮する。紙、PET素材、ABS、PVC、ポリカーボネイト等の樹脂や金属などほとんどあらゆる材質の被印刷物に印刷することができる。このようなインクジェットプリンターの用途としては、例えば、表面印刷にオリジナル性を持たせた携帯電話、小型オーディオプレーヤー、カメラ、筆箱、はさみ、名刺入れ、ヘッドフォン等の小物を記念品等として少量生産をしたりすることが行われる。
【0003】
UV硬化タイプのインクジェットプリンタは、フラットベッド上に被印刷物を平面に搭載し、プリンターヘッドと被印刷物との2次元的に相対位置関係を変化させながら、被印刷物の表面をスキャンしながら印刷する。インクジェットプリンタの2次元的印刷範囲に複数の被印刷物を配置し、一度に複数の印刷を可能とする技術が特許文献1により知られている。本技術によれば、フラットベッド上に複数の被印刷物を搭載可能な移載治具を載せ、各被印刷物の位置を特定した上で、当該位置の被印刷物に印刷を行うことにより、少量マスプロダクション化に資する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−136764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術においては、被印刷物を搭載する移載治具は、プラスチック、ベーク材、アルミニウムが利用されていた。この中で特にアルミニウムが推奨されている。これはインクジェットプリンターで使用されるUVランプが400度に達し、ランプの下部のガラスにおいても200度に達するので、UVランプの発する高熱による変形を避けるためである。しかしながら、印刷を施すべき被印刷物の形状は多様であり、どのような形状のものでもインクジェットプリンターの2次元的印刷範囲内の正確な位置に毎回配置し、かつ印刷の間、姿勢が変化しないように固定して被印刷物を印刷しようとすると、その形状に対応した移載治具を作製しなければならず、アルミニウム等の材質による移載治具ではその製作に多くのコストが発生する。
【0006】
近年、インクジェットプリンターにおいて、熱可塑性樹脂の被印刷物でも変形しないように、ガラス面の改良や、UVランプとしてUV−LEDランプ等の使用により、被印刷物が晒される温度は低下してきている。本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、UV硬化型インクジェットプリンターを利用して様々な形状の被印刷物を搭載する治具を極めて容易に提供できる立体形状印刷物用印刷治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
UVランプによる発熱の影響は低下し、被印刷物の置かれる環境温度は低くなってきており、殆どの熱可塑性樹脂を材料とする被印刷物に対する変形は起きないようになってきている。
本発明にかかるUV硬化型インクジェットプリンターに用いる立体形状印刷物用印刷治具は、UV硬化型のプリンターヘッドと向かい合う面に、堤により仕切られた複数の窪みと、該窪みに投入された常温より高く100℃よりも低い温度に融点を有する飽和脂肪酸或いは飽和炭化水素のいずれかからなる形状記憶剤と、該形状記憶剤を被覆する樹脂シートとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかるUV硬化型インクジェットプリンターに用いる立体形状印刷物用印刷治具は、被印刷物を搭載する搭載枠の形状を自由に変更でき、また加熱すれば初期の平面状態にリセットでき、かつUVにより酸化しても交換が極めて安価に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1に示すように、本実施例による印刷治具1は、UV硬化型インクジェットプリンターのプラテン(被印刷物を搭載する台)6に載せられるものであり、プラテン6とほぼ同形である。UV硬化型インクジェットプリンターは、プリンターヘッドが水平方向に移動し、これと垂直な方向にプラテン6が被印刷物を送り出すことにより、四角形状の領域をプリンターヘッドがスキャンする。よって、印刷治具1もこのスキャンする領域にあわせて四角形状になっている。
【0010】
印刷治具1は、プリンターヘッドと向かい合う面に、格子状に配置された堤2により、四角形状の窪み3が多数仕切られている。各窪み3は、被印刷物が被印刷面を上にして、内側に十分に納まる大きさを有している。
【0011】
各窪み3の中には、常温(20℃±15℃(5-35℃) 日本工業規格JIS-8703)を超えた程度の低い温度(100度以下)で溶解するように調整された飽和脂肪酸、これをエステル化した蝋或いは油脂又は、飽和炭化水素のいずれかからなる形状記憶剤が投入されている。飽和脂肪酸はステアリン酸やパルミチン酸等の常温固形の脂肪酸である。蝋や油脂は、これをエステル化したものを含む。また、飽和炭化水素は、例えばパラフィンである。本実施例においては、軟化した際の粘度が適性であった飽和脂肪酸のエステルからなる油脂のうち、ステアリン酸の含有量が多く融点が70℃に調整された油脂を使用している。融点を70℃としたのは、本実施例において利用されるローランド製のUV硬化型インクジェットプリンター(型名 VersaUV LEF−12)では、プリンターヘッドの作業環境において、60℃を超えないからである。
【0012】
形状記憶剤4には、樹脂シート5が被せられている。樹脂シート5は、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等の薄膜シートが用いられる。これらの材料は、熱安定性に優れかつ化学薬品類に対する優れた耐薬品性を持ち、被覆する対象である肪酸、蝋いずれかの形状記憶剤4には可溶しない。
【0013】
印刷治具1の材質は、溶融した飽和脂肪酸、蝋に可溶しない材質であれば、どのような材質でもかまわない。プラテン6と印刷治具1との位置関係は、予め決められた位置関係で搭載されるようになっている。本実施例で使用したUV硬化型インクジェットプリンターにおいては、四角枠形状のプラテン6を有しているため、印刷治具1はこの枠内にちょうど収まる四角形状としたのである。
【0014】
図2は、ある特定の被印刷物wに適合するように、印刷治具1を調整する過程を示している。
まず、印刷治具1を湯煎或いは電子レンジで加熱し、窪み3内の形状記憶剤4をゲル状に軟化させる(図2A)。本実施例で使用する肪酸、蝋は、融点に近づくまで温度を上げると、軟化し被印刷物wを押し込むとその形状に倣うように変形する。従って、被印刷物wを、印刷する被印刷面wsを上にして樹脂シート5上から形状記憶剤4内に押し入れて7を成形する(図2B)。このようにして、作られた型7を冷却して形状を固定する(図2C)。
【0015】
被印刷物wの被印刷面wsを完全に露出させることができるように、ラード内に押し込むのが望ましい。本実施例で使用したUV硬化型インクジェットプリンターは、厚さ100mmまでの厚さとなっているので、被印刷物と印刷治具とを合わせた高さがこの範囲内に入っていなければならない。尚、UV硬化型インクジェットプリンターは、印刷可能な高低差が2mmまでなので、被印刷面wsは可能な限り水平にしておくべきである。
【0016】
次に、出来上がった印刷治具1の表面をスキャナー(図示せず)でスキャンし、計算機で処理をする。計算機では得られた画像データから、被印刷物wが搭載される型7の位置を特定する。そして、印刷治具1とプラテン6の位置関係は予め決められたものであるため、求めたその位置に対して印刷すべき画像データをUV硬化型インクジェットプリンターに送信する。このような計算機による画像処理は、一般的なものであるが、印刷治具1に形成された型7は、繰返し使うものであり、一旦計算機上で型7の位置が特定されれば、以降は印刷治具1の表面をスキャンする必要は無い。
【0017】
次に、本実施例の印刷治具1を用いた印刷方法について説明する。複数の被印刷物wを、その被印刷面wsがプリンターヘッドに向くようにして、印刷治具1の夫々の型7の中に搭載される。印刷治具1は、UV硬化型インクジェットプリンターのプラテン6の枠の中に予め決められた位置関係で搭載される。
【0018】
UV硬化型インクジェットプリンターのプリンターヘッドは、水平方向に移動しながら、被印刷物ws上にインク滴を着弾させる。1スキャンの印刷が完了すると、プラテン6ともに印刷治具1が垂直方向に移動し、次のスキャンが行われる。これを繰り返して連続的に印刷が行われる。その後、複数の印刷物8は一括して印刷治具1ごとプラテン6から取り出される。その後、印刷治具1には新しい被印刷物wが設置され、上記と同様にして印刷が行われる。
【0019】
印刷治具1を別の被印刷物wに適合した型7に作り変えるときは、まず、まず、印刷治具1を湯煎或いは電子レンジで加熱し、窪み3内の形状記憶剤4を液化させて、今までの形状をリセットする。その後、ゲル状の軟化状態になれば図2において説明したように、新たな被印刷物wを用いて樹脂シート5上から形状記憶剤4内に押し入れて型7を成形する。
【0020】
本実施例においては、樹脂シート5を形状記憶剤4に被せたものであるため、インクが飛散して樹脂シート5が汚れても交換すれば良い。また、形状記憶剤4も比較的容易に入手できるため、形状記憶剤4が汚れたり、酸化した場合には一旦溶かして洗浄し、新たな形状記憶剤4を補充すれば良い。本実施例においては、型7を形成した印刷治具1は冷暗所で保管しておけば、繰返し利用でき、かつ新たな形状の被印刷物wに対しても迅速にかつ安価に、これに適合した印刷治具を製作できるため、印刷に要するコストが低減できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】立体形状印刷物用印刷治具を示す図である。
【図2】立体形状印刷物用印刷治具の使用状態を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
1 印刷治具
2 堤
3 窪み
4 形状記憶剤
5 樹脂シート
6 プラテン
7 型
w 被印刷物
ws 被印刷面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
UV硬化型のプリンターヘッドと向かい合う面に、堤により仕切られた複数の窪みと、該窪みに投入された常温より高く100℃よりも低い温度に融点を有する飽和脂肪酸、これをエステル化した蝋或いは油脂又は、飽和炭化水素のいずれかからなる形状記憶剤と、該形状記憶剤を被覆する樹脂シートとを備えたことを特徴とするUV硬化型インクジェットプリンターに用いる立体形状印刷物用印刷治具。

【請求項2】
前記形状記憶剤は飽和脂肪酸のエステルからなる油脂を主成分とすることを特徴とする請求項1に記載のUV硬化型インクジェットプリンターに用いる立体形状印刷物用印刷治具。

【請求項3】
前記脂肪酸はステアリン酸を主成分とすることを特徴とする請求項1に記載のUV硬化型インクジェットプリンターに用いる立体形状印刷物用印刷治具。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−63554(P2013−63554A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202919(P2011−202919)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(511227141)
【Fターム(参考)】