説明

立体特異的ヒドロキシル化

本発明は、産生培地においてヒドロキシラーゼ活性を発現する微生物を用い、α−アミノ−S−カルボン酸誘導体またはα−アミノ−R−スルホン酸誘導体を立体特異的ヒドロキシル化して、トランスに配置されたヒドロキシル基および酸性基を有するα−アミノ−β−ヒドロキシ−S−カルボン酸−またはα−アミノ−β−ヒドロキシ−R−スルホン酸−化合物を形成する方法であって、前記産生培地に、S−カルボン酸またはR−スルホン酸誘導体を加え、酸素および補基質の存在下、浸透圧によって活性化した微生物の輸送システムを使用して微生物におけるヒドロキシル化を行い、その後、微生物から能動的または受動的に放出させて、産生培地から得る、方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産生培地においてヒドロキシラーゼ活性を示す微生物を用い、α−アミノ−S−カルボン酸およびα−アミノ−R−スルホン酸誘導体を立体特異的にトランス−ヒドロキシル化して、トランスに配置されたヒドロキシル基および酸性基を有するα−アミノ−β−ヒドロキシ−S−カルボン酸およびα−アミノ−β−ヒドロキシ−R−スルホン酸化合物を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関係している生物システム(酵素)を用い、少ない触媒工程で行うことによってもたらされる化学変化は、生体内変化としても知られており、「白色バイオテクノロジー」の分野で行われる活動に属しているが、これは、特に持続可能性が関係していることから、化学工業にとって非常に重要な要素となってきている。基本的には、本明細書では、触媒システムは、非常に広範囲にわたる基質に関するものが好ましい。例えばヒドロキシル化反応としての酸化/還元反応の場合、これに必要とされる補因子の再生は技術的問題を有している。補因子の再生が全細胞システム(これは、無傷の、生きている、または休止状態の微生物を意味する)においてのみ有効である場合には、きわめて多くの困難を克服しなければならない。一例を挙げると、これは、通常、基質の細胞内への輸送の速度制限に関係し、他方では、補基質の再生のための経済的に価格が付された基質の使用に関係し、3番目には、細胞外への、および生成物が最終的に獲得されうる培地内への、生成物の輸送に関する。
【0003】
補因子であるNADHまたはNADPHに関係する立体特異的ヒドロキシル化では、補因子の再生に関する問題は、産生株またはいわゆる膜反応器における補因子の再生のため、例えばギ酸デヒドロゲナーゼなどの第2の酵素システムを取り入れることによって解決される。これに必要な基質、すなわち上記例におけるギ酸は、反応で消費される。酸素分子の改善を伴うヒドロキシル化反応のための2−オキソグルタル酸依存性ジオキシゲナーゼは知られているが、これまで、必要とされる補基質は反応および全細胞システムで消費させるには高価すぎて不経済であることが立証されていることから、それらは実際の実施には適用できない。
【0004】
特許文献1には、2−オキソグルタル酸の存在下でエクトインをヒドロキシル化してヒドロキシエクトインを形成するために、インビトロで用いられた、ストレプトマイセス・クリソマルス(Streptomyces chrysomallus)のテトラヒドロピリミジン・ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素について開示されている。ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)および大腸菌(E. coli)における、遺伝子配列をコードした酵素の発現について言及されている。生きた細胞における酵素の発現に関しては、まず、細胞は、テトラヒドロピリミジンと接触させてヒドロキシル化することを目的として、酵素にとって望ましい条件を作り出すために、浸透性にしなければならないという要求に着目した。しかしながら、生きた細胞からヒドロキシル化生成物を解放することに関する問題については述べられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2001/038500号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エクトインは、エクトイン生合成遺伝子を通じて、多くの細菌、例えばハロモナス・エロンガータ(Halomonas elongata)において産生されるテトラヒドロピリミジンである。本明細書におけるエクトインヒドロキシラーゼは、エクトインをヒドロキシエクトインに転換する能力がある。しかしながら、形成されるエクトインの一部、通常は50%未満しかヒドロキシエクトインに転換されない。エクトインおよびヒドロキシエクトインはかなりの費用をかけなければ分離できないことから、純粋なヒドロキシエクトインの単離は時間がかかり、かつ高価である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、産生培地においてヒドロキシラーゼ活性を発現する微生物を用い、α−アミノ−S−カルボン酸誘導体またはα−アミノ−R−スルホン酸誘導体を立体特異的ヒドロキシル化して、トランスに配置されたヒドロキシル基および酸性基を有するα−アミノ−β−ヒドロキシ−S−カルボン酸−またはα−アミノ−β−ヒドロキシ−R−スルホン酸−化合物を形成する方法であって、前記産生培地に、S−カルボン酸またはR−スルホン酸誘導体を加え、酸素および補基質の存在下、浸透圧によって活性化した微生物の輸送システムを使用して微生物におけるヒドロキシル化を行い、その後、微生物から能動的または受動的に放出させて、産生培地から得る、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の生成物の一部の例。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次の微生物において、多くの潜在的なエクトインヒドロキシラーゼが単離されている:
【表1】

【0010】
クロモハロバクター・サレキシゲンス(C. salexigens)のヒドロキシラーゼを用いた、ヒドロキシエクトインを形成するためのエクトインの、ならびにヒドロキシル化化合物を形成するためのエクトイン類似体の、インビトロにおける生体触媒作用を確認した。最初の結果は他のヒドロキシラーゼと同様の活性を示唆した。
【0011】
したがって、本発明の目的は、全細胞システムにおいて2−オキソグルタル酸依存性ジオキシゲナーゼを用いて、立体特異的ヒドロキシル化、特にエクトインの立体特異的ヒドロキシル化を可能にし、かつ、類似構造の分子の立体特異的ヒドロキシル化もまた、経済的に有意な量で可能にする、生物システムを提供することである。本明細書における標的化合物として特に興味深いのは、化学品、化粧品、および医薬品の生産工程および/または生成物の用途に利用されうる相溶性溶質の物質カテゴリに由来するものである。これら全細胞システムは、培地から得られる反応物質の回収に必要とされ、かつ、輸送システムまたは、例えばいわゆる漏出などの他の手段を通じて、生成物を排出することが可能な輸送用システムを有していなければならない。
【0012】
本目的は、産生培地においてヒドロキシラーゼ活性を発現する微生物を利用し、α−アミノ−S−カルボン酸誘導体(以後、S−カルボン酸誘導体という)または、それぞれのα−アミノ−R−スルホン酸誘導体(以後、R−スルホン酸誘導体という)を立体特異的ヒドロキシル化して、α−アミノ−β−ヒドロキシ−S−カルボン酸−またはα−アミノ−β−ヒドロキシ−R−スルホン酸−化合物を形成するための方法であって、S−カルボン酸またはR−スルホン酸誘導体を産生培地に加え、酸素および補基質の存在下、例えば、浸透圧により活性化した微生物の輸送システムを使用して微生物におけるヒドロキシル化を行い、その後、微生物から能動的または受動的に放出させて、産生培地から得る方法を提案することにより、達成される。ヒドロキシル化は、ヒドロキシル基およびカルボン酸基またはスルホン酸基が環状化合物においてトランス配置を取るような方式で、定位置的にもたらされる。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態は、下位請求項の対象である。
【0014】
この文脈において、能動活性とは、輸送システムを用いて解放されることを意味するのに対し、受動活性とは、機械刺激受容チャネルまたは漏出を通じた解放である。
【0015】
本発明の意味する範囲内にある誘導体および化合物は、特に、酸自体であるが、それらの塩、エステル、およびアミドであってもよい。
【0016】
本発明の方法は、反応物質/抽出物を、その後に標準的な方法を用いて産生培地から得られるヒドロキシル化生成物に、完全に立体選択的に転換するのに特に適している。ヒドロキシル化生成物は、微生物からも得られうることは理解されよう。
【0017】
微生物は、生来、前記ヒドロキシラーゼ活性を有するものでありうる。この場合、反応物質/抽出物および生成物の導入および排出に必要とされる輸送システムが利用可能であって、ヒドロキシラーゼ遺伝子が恒久的に発現されることを確実にしなければならない。ハロモナス属(Halomonas)、マリノコッカス属(Marinococcus)および、前記ヒドロキシラーゼ活性を有する他の属の極限性細菌の場合には、膜障壁を克服するために必要とされる、関係するメカニズムが存在するが、ヒドロキシラーゼ遺伝子は恒久的には発現しない。例えば、天然に存在するヒドロキシラーゼ遺伝子の恒久的発現は、別の天然に存在するプロモーターの調節下、ゲノムの組換え方法によって、または、天然に存在するプロモーターを置換するための、それ自体は既知の方法で、適切なプロモーターを微生物に導入することによって、遺伝子をもたらすことにより達成されうる。適切なプロモーターは、例えば、マリノコッカス・ハロフィルス(Marinococcus halophilus)に由来する浸透圧誘発性のプロモーターPromA、またはハロモナス・エロンガータ(Halomonas elongata)に由来する浸透圧で誘発可能なエクトイン生合成遺伝子クラスターのプロモーター(ならびにそれらの改質)および他のストレス誘発性のプロモーターまたは定常相プロモーターである。あるいは、天然に存在するヒドロキシラーゼ遺伝子の恒久的発現はまた、適切なプロモーターの制御下、天然に存在するプラスミド上または取り込まれたベクター上に運搬された遺伝子をもたらすことによって、生じうる。突然変異によって組換え修飾された(天然の)プロモーターも使用して差し支えないことは理解されるべきである。
【0018】
しかしながら、ヒドロキシラーゼ遺伝子で変換された微生物が好ましく、前記微生物は、例えば誘導原の使用によるなど、ヒドロキシラーゼを発現させるための既知の方法で操作される。適切な誘導原は乳糖またはIPTGである。しかしながら、ヒドロキシラーゼ活性を誘発する好ましい方法は、例えば温度または浸透圧の変化をもたらすことによって、または、例えば固定相の転移の間などに経験するような欠乏状態を創出することによって、培地にストレス状態を引き起こすことによるものである。好ましい微生物としては、エシェリキア属(Escherichia)、クレブシエラ属(Klebsiella)、ハロモナス属(Halomonas)、バチルス属(Bacillus)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、およびマリノコッカス属(Marinococcus)、特に、大腸菌(Escherichia coli)、ハロモナス・エロンガータ(Halomonas elongata)、枯草菌(Bacillus subtilis)、マリノコッカス・ハロフィルス(Marinococcus halophilus)、およびコリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)が挙げられる。例えばプラスミドの助けを借りるなど、それ自体は既知の方法で標的生命体内に移した、ハロモナス・エロンガータ(H. elongata)DSM2581由来のヒドロキシラーゼを用いることが好ましい。適切なプラスミドは、例えば、pET型(例えばNOVAGEN社(米国マディソン所在)によって提供されるpET22b(+))、pBBR型(Kovach ME, Elzer PH, Hill SD, Robertson GT, Farris MA, Roop MR, Peterson KM (1995) Gene 166:175-176)、およびpHSG575および誘導体(Takeshita S, Sato M, Toba M, Masahashi W, Hashimoto-Gotoh T (1987) Gene 61:63-74)などである。ハロモナス・エロンガータ(Halomonas elongata)DSM2581に由来するヒドロキシラーゼ遺伝子(EctD)については、A. Ures et al., Ectoine Hydroxylase (EctD) from Halomonas elongate. Poster contribution for the annual conference of VAAM in Geuttingen held from Sept. 25 to 28, 2005に記載されている。
【0019】
微生物である大腸菌(E. coli)BL21(STRATAGENE社(米国ラ・ホーヤ所在)製)は、とりわけ、本発明の方法の実施に適していることが判明した。それでもなお、本方法は、輸送システムを介して抽出物を取り入れ、生成物を培地内に放出する他の微生物、例えば他のプロテオバクテリアまたはグラム陽性菌、特にバチルス属およびコリネバクテリウム属などにも適用することができる。さらには、エクトインヒドロキシラーゼを発現しうる、酵母菌、例えばハンゼヌラ属(Hansenula)およびアークスラ属(Arxula)なども同様に好ましいと考えられる。
【0020】
本明細書で言及するすべての微生物およびプラスミドは、市販されているか、保管場所から自由に入手できるか、あるいは文献に極めて詳細に記載されている。
【0021】
生来的に、2−オキソグルタル酸は、前述のハロモナス・エロンガータ(Halomonas elongata)に由来するジオキシゲナーゼの補基質としての機能を果たす。通常の炭素源を用いて差し支えない;特にグリセリンは、非常に安価な炭素源として使用されうる。再生は、アセチルCoAおよびクエン酸回路を介した既知の方法で行われる。
【0022】
特に重要なのは、使用する微生物の輸送システムである;前記システムは、細胞膜を通じて抽出物を輸送する能力を有しなければならない。大腸菌(E. coli)の場合には、例えば、非常に広範な基質範囲を有し、膜障壁を通じて直鎖および環状分子を輸送する能力を有する、よく特徴付けられた輸送システムであるProPおよびProUが存在する。例えば、グリシンベタイン、ジメチルグリシン、グリシン、ホモベタイン、プロリン、プロリンベタイン、3,4−ジヒドロプロリン、ピペコリン酸、タウリン、カルニチン、γ−ブチロベタイン、トリゴネリンおよびエクトインは、細胞膜を通じて容易に輸送される(G.Gousbet et al., Pipecolic acid is an osmoprotectant for Escherichia coli taken up by the general osmoporters ProU and ProP, Microbiology 140 (1994), 2415-2422; B. Kempf et al., Uptake and synthesis of compatible solutes as microbial stress responses to high-osmolality environments, Arch. Microbiol. 170 (1998), 319-330参照)。本方法の効率は、存在する輸送システムが、その全体またはある程度が除去され、突然変異を生じ、あるいはその選択性が損なわれる場合には、影響を受けうる。
【0023】
本発明が提案する方法は、バッチ方法で、およびフェッドバッチ方法ならびに適切に適用された連続法で、培養するまたは産生する培地を使用して、通常の方法で実施することができる。本発明では連続アプローチが好ましい。ヒドロキシル化生成物は、例えばカラム・クロマトグラフィを用いたクロマトグラフィ・プロセスによって、通常の方法で単離することができる。
【0024】
出発化合物としての役割をするS−カルボン酸誘導体は、アミノ酸の基本構造を有し、それによって両性イオンを形成する能力を有する、α−アミノ−S−カルボン酸誘導体である。
【0025】
特に好ましいのは、α-アミノ基が環系に配置された、環状S−カルボン酸誘導体(およびそれぞれのR−スルホン酸誘導体)である。環系は、カルボン酸のα位の窒素原子に加えて、1つまたは複数の追加の窒素、酸素、または硫黄原子が存在しうる、3〜8員環でありうる。環は、最大6つの炭素原子を有するアルキル基、ハロゲン原子、アミノ、イミノ、ニトロ、CN、ヒドロキシ、エーテル、またはエステル基でさらに置換されていて差し支えなく、特に、エーテルおよびエステル残基には最大6つの炭素原子を有するアルキル残基が適している。当然ながら、非環状抽出物に関しても同様である。
【0026】
本発明の方法は、非常に立体特異的な方式で、出発化合物をトランス−β-ヒドロキシ-S−カルボン酸−化合物および/または-R−スルホン酸−化合物に転換する能力があることが判明した。前記転換は、先行技術のアプローチのままの、細胞外の緩衝液内では酵素的に行われないが、転換される微生物自体の細胞内部で行われる、すなわち、生成物を培地へ放出する。
【0027】
他の2−オキソグルタル酸依存性ジオキシゲナーゼとは対照的に、使用するのが好ましいハロモナス・エロンガータ(Halomonas elongata)から生じるものは、比較的特異性が低く、一連の出発化合物をヒドロキシル化する能力がある。幅広い基質範囲は、輸送システムを介して、抽出物を、細胞質で発現されるヒドロキシラーゼへと輸送し、転換後に生成物を培地に放出するシステムの能力によって補充される。これは細胞膜を通過させ、補因子は細胞自体によって再生される。発現細胞が破壊される結果となることなく、生成物は非常に高濃度かつ実質的に任意の所望の量で培地に蓄積され、その後、培地から回収されうる。
【0028】
上述のように、細胞内の運搬に用いられる膜タンパク質(トランスポーター)は、大腸菌(E. coli)の場合には、浸透圧調節物質のトランスポーターであるProPおよびproUが好ましい。これらのトランスポーターは、好ましい基質であるグリシンベタインおよびプロリンベタインに加えて、とりわけ、プロリン、エクトイン、および数多くのエクトイン誘導体も受容する、非特異的なシステムである。基本的には、すべての輸送システムは適切であり、例えばアミノ酸のための他のトランスポーターシステムも含めて、抽出物のための膜障壁を克服することができる。
【0029】
すでに述べたように、大腸菌(E. coli)の輸送システムProPおよびProUは、広範な基質システムを有している。枯草菌(Bacillus subtilis)の既知の輸送システムは、OpuA、OpuB、OpuCおよびOpuDであり、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)ではEctP、BetP、ProPおよびLcoPである。これらすべての輸送システムもまた広範囲にわたる基質を受容する。
【0030】
本発明の方法は、適切な培地において、基質からβ-ヒドロキシ−官能化生成物へのほぼ完全な転換を、最も経済的な方法で可能にし、ここで前記生成物は自身を豊富にする。α−アミノカルボン酸誘導体およびα−アミノスルホン酸誘導体の場合には、本方法は、常に、カルボン酸またはスルホン酸基に対してトランスの位置にヒドロキシル基を有する立体配置をもたらす。一部の生成物を図1に示す。挙げられた物質の中でも、とりわけヒドロキシエクトインおよび同様の誘導体は、それらが、特に化粧品用途および医薬品生成物のための新規の細胞を保護する物質として使用するために加えられることから、特に興味深い。例えば、ヒドロキシル化単量体に基づいた新規の生体高分子は、それらの生体適合性を改善する目的で、化粧品におけるいわゆるスタイリングポリマーまたは表面のコーティングに、両性物質として用いられて差し支えない。先行技術および方法では、これらの物質を、経済的に効率的な方法で、言及した用途のために産生することはできない。
【実施例】
【0031】
エクトインなどのヒドロキシル化
産生株である大腸菌(E. coli)BL21は、プラスミドpET22b(+)−EctD上に、ハロモナス・エロンガータ(Halomonas elongata)に由来するヒドロキシラーゼ遺伝子を含む。次の組成を有する培地において、37℃で培養した:13.61g/lのKH2PO4、4.21g/lのKOH、1.98g/lの(NH4)SO4、0.25g/lのMgSO4×7H2O、1.1mg/lのFeSO4×7H2O、10g/lのNaCl、5g/lのグルコース、KOHで調節したpH7.0、カルベニシリン100mg/l。
【0032】
供給される圧縮空気の流速(0.1〜0.5L/分)および攪拌器の速度(200〜600rpm)を変化させることによって、酸素飽和率が50%を超えるように保ちながら、培地に酸素を通気した。0.6(600nmで)の光学密度に達したときに、1Lあたり1mlのIPTG溶液(23.8mg/ml、無菌濾過)の注入により、発現を誘発した。補因子の再生にとって炭素源と組み合わせることが都合がよい場合には、誘発のおよそ1時間後に基質の無菌的添加を行った(最終濃度2〜20mM)。サンプルを採取し、その後にHPLC解析をすることにより、細胞および培地の両方から、基質のヒドロキシル化を検証した。続いて炭素源(例えばグリセリン)と組み合わせた基質の添加を通じて、収率を改善し、培地中の生成物の濃度を増大させることができた。基質が完全に転換された後、遠心分離によって培養液を培地から分離し、生成物の単離の準備をした。転換率は、1gの乾燥バイオマス・1時間あたり、0.1mmolを上回った。
【0033】
抽出物および炭素源は、同時かつ適当量で加えなければならない。炭素源としてグリセリンを加える場合には、モル比1:1で加える。
【0034】
一例として、2〜20mMの範囲の標準濃度で本方法を行った。さらに高濃度で行うことも可能である。酸素の飽和レベルは決定されていない;重要なのは、十分な量の酸素が微生物にとって利用可能であることである。
【0035】
一例として、プラスミドpET22b(+)−EctDを使用して本発明を行った。pBBR型のプラスミドおよび低コピー・プラスミド、例えばpHSG575もまた、特にハロモナス・エロンガータ(Halomonas elongata)由来のヒドロキシラーゼ遺伝子が、例えばマリノコッカス・ハロフィルス(Marinococcus halophilus)由来のPromAなどの浸透圧誘発性のプロモーター、ストレス誘発性のプロモーター、定常相プロモーター、または他の効率的なプロモーターの制御下にある場合には、適切である。
【0036】
好ましい抽出物は式I、II、およびIIIの化合物であり、ここでR1およびR2は水素であり、R3は、水素、最大6つの炭素原子を有するアルキル基、またはアミノ基であり、xは1〜5の整数であり、yは1〜4である。
【0037】
式IVは、C2上にS型配置を有するグアニジウムエクトインを表す。化合物は、R1=R2=H、y=2、およびR3=NH2を有する式IIIに対応する。
【0038】
生成物の側では、R2はS−カルボキシル基に対してトランスの位置にある3−ヒドロキシル基である。ヒドロキシル化は、トランス−3位にのみ、排他的に生じる。式Vはグアニジウムエクトインのヒドロキシル化生成物を例証している。
【0039】
言うまでもなく、構造I〜Vはさらに、最大6つの炭素原子を有するアルキル基、ハロゲン原子、アミノ、イミノ、ニトロ、CN、ヒドロキシ、エーテル、またはエステル基で置換されて差し支えない。
【0040】
最後に、本発明はまた、新規化合物である3−ヒドロキシ−ホモエクトイン、3−ヒドロキシ−DHMICA、3−ヒドロキシ−ADPC、3−ヒドロキシ−グアニジウムエクトイン、および3−ヒドロキシ−2−アセチジン−2−カルボン酸、およびそれらの誘導体、特にエステル、アミドおよび塩に関する。これらすべての化合物において、ヒドロキシル基はカルボン酸および/またはスルホン酸官能基に対してトランス位置にある。本発明はさらに、ヒドロキシル化化合物からアルカリ加水分解を通じて入手することができる線形化合物:N−α−アセチル−およびN−δ−アセチル−2,5−ジアミノ−3−ヒドロキシ−吉草酸、N−α−アセチル−およびN−β−アセチル−2,3−ジアミノ−3−ヒドロキシプロピオン酸、3−ヒドロキシグルタミン、ならびにそれらの誘導体、特にエステル、アミド、および塩にも関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
産生培地においてヒドロキシラーゼ活性を発現する微生物を用い、α−アミノ−S−カルボン酸誘導体またはα−アミノ−R−スルホン酸誘導体を立体特異的ヒドロキシル化して、トランスに配置されたヒドロキシル基および酸性基を有するα−アミノ−β−ヒドロキシ−S−カルボン酸−またはα−アミノ−β−ヒドロキシ−R−スルホン酸−化合物を形成する方法であって、
前記産生培地に、S−カルボン酸またはR−スルホン酸誘導体を加え、酸素および補基質の存在下、浸透圧によって活性化した微生物の輸送システムを使用して微生物におけるヒドロキシル化を行い、その後、微生物から能動的または受動的に放出させて、産生培地から得る、方法。
【請求項2】
前記微生物が、天然にヒドロキシラーゼ遺伝子を有するか、またはヒドロキシラーゼ遺伝子を有するように転換させた微生物であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記微生物が、トランスポーター遺伝子を有するように転換させた微生物であるか、または天然に適切なトランスポーターシステムを有していることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
天然に存在するプロモーターの制御下における前記遺伝子が恒久的発現をもたらすか、または前記微生物が、天然の、突然変異した、または遺伝子修飾された、プロモーターを用いて転換された微生物であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記ヒドロキシラーゼ遺伝子がハロモナス・エロンガータに由来することを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記ヒドロキシラーゼ遺伝子が、pET型、pBBR型またはpHSG575のプラスミド、ならびにそれらの誘導体に含まれることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記微生物が、エシェリキア属、バチルス属、コリネバクテリウム属、クレブシエラ属、マリノコッカス属またはハロモナス属に由来することを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載の方法。
【請求項8】
大腸菌BL21を微生物として使用することを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
炭素源としてグルコース、アセテート、またはグリセリンを用いて再生させることを特徴とする請求項1〜8いずれか1項記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9いずれか1項記載の方法を連続的に行う方法。
【請求項11】
前記トランス−β−ヒドロキシカルボン酸または−スルホン酸−化合物を、クロマトグラフィーによって得ることを特徴とする請求項1〜10いずれか1項記載の方法。
【請求項12】
α−アミノ−S−カルボン酸誘導体が用いられることを特徴とする請求項1〜11いずれか1項記載の方法。
【請求項13】
環系に組み込まれたアミン官能基を含む、環状α−アミノ−S−カルボン酸誘導体が用いられることを特徴とする請求項1〜12いずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記S−カルボン酸誘導体が相溶性溶質であることを特徴とする請求項1〜13いずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記S−カルボン酸誘導体が、エクトイン、ホモエクトイン、DHMICA、ADPC、プロリン、アセチジン−2−カルボン酸またはグアニジウムエクトインであることを特徴とする請求項1〜14いずれか1項記載の方法。
【請求項16】
エクトインからヒドロキシエクトインに完全にヒドロキシル化されることを特徴とする請求項1〜15いずれか1項記載の方法。
【請求項17】
3−ヒドロキシ−ホモエクトイン、3−ヒドロキシ−DHMICA、3−ヒドロキシ−ADPC、3−ヒドロキシ−グアニジウムエクトインおよび3−ヒドロキシ−2−アセチジンカルボン酸、それらのエステルおよび塩、ならびにアルカリ加水分解を通じてそれらから入手可能な線形化合物。

【図1】
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【公表番号】特表2011−502491(P2011−502491A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−532495(P2010−532495)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【国際出願番号】PCT/EP2008/009414
【国際公開番号】WO2009/059783
【国際公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(510126106)
【氏名又は名称原語表記】Rheinische Friedrich−Wilhelms−Universitaet Bonn
【出願人】(510126117)ビトップ アーゲー (4)
【氏名又は名称原語表記】bitop AG
【Fターム(参考)】