説明

立体異性体環状化合物及びその製造方法

【課題】フォトレジスト基材の材料を提供する。
【解決手段】純度が90%以上の下記式(1)又は式(2)のいずれか一方のみで表される化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体等の電気・電子分野や光学分野等で用いられるフォトレジスト基材、特に超微細加工用フォトレジスト基材に関する。
【背景技術】
【0002】
極端紫外光(Extream Ultra Violet Light:以下、EUVLと表記する場合がある)又は電子線によるリソグラフィーは、半導体等の製造において、高生産性、高解像度の微細加工方法として有用であり、それに用いる高感度、高解像度のフォトレジストが求められている。フォトレジストは、所望する微細パターンの生産性、解像度等の観点から、その感度を向上させることが欠かせない。
【0003】
EUVLによる超微細加工の際に用いられるフォトレジストとしては、例えば、他のレジスト化合物と比較して光酸発生剤の濃度が高い化学増幅ポジ型フォトレジストを用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、実施例のフォトレジストは、ラインエッジラフネスの観点から、電子線を用いた場合で例示された100nmまでの加工が限界であると考えられる。これは基材として用いる高分子化合物の集合体又は各々の高分子化合物分子が示す立体的形状が大きく、該作製ライン幅及びその表面粗さに影響を及ぼすことがその主原因と推定される。
【0004】
本発明者は既に高感度、高解像度のフォトレジスト材料としてカリックスレゾルシナレン化合物を提案している(特許文献2及び3参照)。また、特許文献4には、カリックスレゾルシナレン化合物が開示されている。
【特許文献1】特開2002−055457号公報
【特許文献2】特開2004−191913号公報
【特許文献3】特開2005−075767号公報
【特許文献4】米国特許6093517号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、EUVLによる超微細加工技術として、さらなる高感度、高解像度が求められている。上記特許文献1〜4に開示されたフォトレジスト材料では、この要求レベルである高感度、高解像度を十分発揮できていない。
本発明者は、高感度及び高解像度を得るためには、立体異性体の割合を制御する必要があることを見出した(特願2008−315972)。
しかし、特許文献1〜4に記載の製造方法では、立体異性体の割合を制御することは容易ではない。
そこで、本発明者は、立体異性体の割合を制御する方法として、立体異性体の単体と立体異性体の混合物等を混合することにより、立体異性体の割合を制御する方法を発明した。
従って、本発明は、上記方法に用いるカリックスレゾルシナレン化合物の立体異性体の単体のみを取り出す方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の化合物等が提供される。
1.純度が90%以上の下記式(1)又は式(2)のいずれか一方のみで表される化合物。
【化5】

[式中、Rは、下記式(3)〜(5)のいずれかで表される基である。
は、水酸基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20の直鎖状アルコキシ基、置換もしくは無置換の炭素数3〜12の分岐アルコキシ基、置換もしくは無置換の炭素数3〜20の環状アルコキシ基、置換もしくは無置換の炭素数6〜10のアリーロキシル基、アルコキシアルコキシ基、シロキシ基、又はこれらの基と二価の基とが結合した基であり、
前記二価の基は、置換もしくは無置換のアルキレンオキシ基、置換もしくは無置換のアリーレンオキシ基、置換もしくは無置換のシリレンオキシ基、これらの基が2以上結合した基、又はこれらの基と、エステル結合、炭酸エステル結合又はエーテル結合が結合した基である。
は、水素、Rで表される基、炭素数1〜20の直鎖状脂肪族炭化水素基、炭素数3〜12の分岐脂肪族炭化水素基、炭素数3〜20の環状脂肪族炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族基又は酸素原子を含む基である。
式(1)内及び式(2)内に複数あるR、R及びRは、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【化6】

(式中、Arは、置換もしくは無置換の炭素数6〜10のアリーレン基、置換もしくは無置換の炭素数6〜10のアリーレン基を2つ以上組み合わせた基、又はアルキレン基及びエーテル結合の少なくとも一方の1つ以上と置換もしくは無置換の炭素数6〜10のアリーレン基を組み合わせた基であり、
置換基を有する場合の置換基は、臭素、フッ素、ニトリル基、又は炭素数1〜10のアルキル基である。
は、水酸基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜12の分岐脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜20の環状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数6〜10の芳香族基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、カルボキシル基、シリル基、又はこれらの基と二価の基が結合した基であり、
前記二価の基は、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基、置換もしくは無置換のシリレン基、これらの基が2以上結合した基、又はこれらの基1以上と、エステル結合、炭酸エステル結合及びエーテル結合から選択される1以上の基が結合した基である。
、Rは、それぞれ水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜12の分岐脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜20の環状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数6〜12の芳香族基、又はこれら基のうち2以上を組み合わせた基である。
は、アルキレン基、エーテル結合、アルキレン基を2以上組み合わせた基、又はアルキレン基1以上とエーテル結合1以上を組み合わせた基である。
xは1〜5、yは0〜3、zは0〜4の整数である。
複数のR、R、R、Ar、A、x、y及びzは、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。)]
2.Rが、下記式(I)〜(IV)のいずれかの酸解離性溶解抑止基である1記載の化合物。
【化7】

(式(I)〜(IV)において、
αは、置換もしくは無置換の炭素数1〜10の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜10の分岐脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜20の環状脂肪族炭化水素基、又は置換もしくは無置換の炭素数6〜10の芳香族基である。
βは、三級脂肪族構造、芳香族構造、単環状脂肪族構造又は複環状脂肪族構造を有する基が置換したアルコキシ基である。
γは、芳香族構造、単環状脂肪族構造又は複環状脂肪族構造を有する基が置換したアルコキシ基、又は芳香族構造、単環状脂肪族構造、複環状脂肪族構造のうち1以上の構造と、炭素数1〜10の直鎖状脂肪族炭化水素基を組み合わせた基が置換したアルコキシ基である。
δは、置換もしくは無置換の炭素数1〜10の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜10の分岐脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜20の環状脂肪族炭化水素基、又は置換もしくは無置換の炭素数6〜10の芳香族基である。)
3.Rが下記式(6)で表される基であって、式(6)中、Rは下記式(7)〜(38)から選択される基であり、
が水素であり、
同一の芳香環上に存在する2つのRのうち、一方が水酸基であり、他方が溶解性調整基である1又は2記載の化合物。
【化8】


(式中、rはそれぞれ上記式(7)〜(35)で表される置換基のいずれかを表す。)
4.1〜3のいずれか記載の化合物を製造する方法であって、
前記式(1)の化合物の0℃における溶解度と前記式(2)の化合物の0℃における溶解度の差が、1グラム/リットル以上である溶媒中、−50℃以上50℃以下の条件の下で、前記式(1)の化合物と前記式(2)の化合物の混合物から、前記式(1)の化合物又は前記式(2)の化合物を晶析して単離して、前記式(1)の化合物又は前記式(2)の化合物を製造する方法。
5.前記晶析単離工程の温度が、−20℃以上20℃以下である4記載の製造方法。
6.前記溶媒が、含ハロゲン有機溶媒、含酸素有機溶媒から選択される少なくとも1種類の溶媒である4又は5記載の製造方法。
7.1〜3のいずれかに記載の化合物を含む薄膜。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、カリックスレゾルシナレン化合物の立体異性体の単体のみを取り出すことができる。立体異性体の単体は、高感度、高解像度のフォトレジスト材料の原料として使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の化合物は、下記式(1)又は式(2)のいずれか一方のみで表される。
【化9】

【0009】
式中、Rは、下記式(3)〜(5)のいずれかで表される基である。
【0010】
は、水酸基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20の直鎖状アルコキシ基、置換もしくは無置換の炭素数3〜12の分岐アルコキシ基、置換もしくは無置換の炭素数3〜20の環状アルコキシ基、置換もしくは無置換の炭素数6〜10のアリーロキシル基、アルコキシアルキロキシ基、シロキシ基、又はこれらの基と二価の基とが結合した基であり、
前記二価の基は、置換もしくは無置換のアルキレンオキシ基、置換もしくは無置換のアリーレンオキシ基、置換もしくは無置換のシリレンオキシ基、これらの基が2以上結合した基、又はこれらの基と、エステル結合(−CO−)、炭酸エステル結合(−CO−)又はエーテル結合(−O−)が結合した基である。
【0011】
は、水素、Rで表される基、炭素数1〜20の直鎖状脂肪族炭化水素基、炭素数3〜12の分岐脂肪族炭化水素基、炭素数3〜20の環状脂肪族炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族基又は酸素原子を含む基である。
【0012】
式(1)内及び式(2)内に複数あるR、R及びRは、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0013】
【化10】

【0014】
式中、Arは、置換もしくは無置換の炭素数6〜10のアリーレン基、置換もしくは無置換の炭素数6〜10のアリーレン基を2つ以上組み合わせた基、又はアルキレン基及びエーテル結合の少なくとも一方の1つ以上と置換もしくは無置換の炭素数6〜10のアリーレン基を組み合わせた基である。置換基を有する場合の置換基は、臭素、フッ素、ニトリル基、又は炭素数1〜10のアルキル基である。
【0015】
は、水酸基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜12の分岐脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜20の環状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数6〜10の芳香族基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、カルボキシル基、シリル基、又はこれらの基と二価の基が結合した基であり、二価の基は、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基、置換もしくは無置換のシリレン基、これらの基が2以上結合した基、又はこれらの基1以上と、エステル結合、炭酸エステル結合及びエーテル結合から選択される1以上の基である。
【0016】
、Rは、それぞれ水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜12の分岐脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜20の環状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数6〜12の芳香族基、又はこれら基のうち2以上を組み合わせた基である。
【0017】
は、アルキレン基、エーテル結合、アルキレン基を2以上組み合わせた基、又はアルキレン基1以上とエーテル結合1以上を組み合わせた基である。
【0018】
xは1〜5、yは0〜3、zは0〜4の整数である。
【0019】
複数のR、R、R、Ar、A、x、y及びzは、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0020】
本発明の化合物は、上記式(1)又は式(2)のいずれか一方の立体異性体が、純度90%以上で含まれる。好ましくは、実質的に特定の立体異性体のみからなる化合物であり、最も好ましくは100%である。
【0021】
式(1),(2)において、Rは、好ましくは酸解離性溶解抑止基である。
酸解離性溶解抑止基を例示すると、三級脂肪族構造、芳香族構造、単環状脂肪族構造又は複環状脂肪族構造を有する、少なくとも炭素原子、水素原子及び酸素原子を含む基である。三級脂肪族構造として、tert−ブチル基を例示できる。芳香族構造として、ベンゼン、ナフタレンを例示できる。単環状脂肪族構造として、シクロヘキサン、シクロペンタンを例示できる。複環状脂肪族構造として、アダマンタンやノルボルネンを例示できる。
【0022】
好ましくは、Rは下記式(I)〜(IV)のいずれかで表される。
【化11】

【0023】
式(I)〜(IV)において、αは、置換もしくは無置換の炭素数1〜10の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜10の分岐脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜20の環状脂肪族炭化水素基、又は置換もしくは無置換の炭素数6〜10の芳香族基である。
【0024】
βは、三級脂肪族構造、芳香族構造、単環状脂肪族構造又は複環状脂肪族構造を有する基が置換したアルコキシ基である。好ましくは、三級脂肪族構造、芳香族構造、単環状脂肪族構造又は複環状脂肪族構造を有する基に含まれる三級炭素が、酸素原子に結合する。
【0025】
γは、芳香族構造、単環状脂肪族構造又は複環状脂肪族構造を有する基が置換したアルコキシ基、又は芳香族構造、単環状脂肪族構造、複環状脂肪族構造のうち1以上の構造と、炭素数1〜10の直鎖状脂肪族炭化水素基を組み合わせた基が置換したアルコキシ基である。芳香族構造、単環状脂肪族構造又は複環状脂肪族構造を有する基が置換したアルコキシ基は、好ましくは、三級脂肪族構造、芳香族構造、単環状脂肪族構造又は複環状脂肪族構造を有する基に含まれる三級炭素が、酸素原子に結合する。
【0026】
δは、置換もしくは無置換の炭素数1〜10の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜10の分岐脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜20の環状脂肪族炭化水素基、又は置換もしくは無置換の炭素数6〜10の芳香族基である。
【0027】
式(1),(2)において、Rは、好ましくは、水素である。
好ましくは、同一の芳香環上に存在する2つのRのうち、一方が水酸基であり、他方が溶解性調整基である。好適な溶解性調整基として、炭素数1〜6のアルコキシ基が挙げられる。
【0028】
Rは、好ましくは、下記式(6)で表される基である。
式(6)中、Rは下記式(7)〜(38)から選択される基である。
【化12】


【0029】
式中、rはそれぞれ上記式(7)〜(35)で表される置換基のいずれかを表す。
【0030】
本発明の化合物は、以下のようにして製造できる。
まず、上記式(1)の構造を有する化合物(以下、化合物(1)ともいう)と、上記式(2)の構造を有する化合物(以下、化合物(2)ともいう)の混合物を製造する。
混合物は、特願2008−158769に記載されるように、例えば、酸触媒存在下、対応する構造のアルデヒド化合物と、対応する構造のフェノール誘導体との縮合環化反応により、カリックスレゾルシナレン誘導体(前駆体)を合成し、R等の基に対応する化合物を、エステル化反応、エーテル化反応、アセタール化反応等により前駆体に導入することで合成できる。
【0031】
次に、化合物(1)の溶解度と化合物(2)の溶解度の差Δdが、1グラム/リットル以上である溶媒中、−50℃以上50℃以下の条件の下で、混合物から、化合物(1)又は化合物(2)のみを晶析して単離する。
【0032】
本発明を実現するためには、立体異性体である化合物(1)及び化合物(2)の溶解度が異なる溶媒を用いる必要があり、−50℃以上50℃以下の条件において、化合物(1)、化合物(2)のそれぞれの溶解度の差Δdが、1グラム/リットル以上である溶媒であり、溶解度の低い方の化合物の単一物が固体として析出して得られる。
特に好ましい溶媒は、−20℃以上20℃以下において、化合物(1)、化合物(2)のそれぞれの溶解度の差Δdが、1グラム/リットル以上である溶媒である。
【0033】
該当する溶媒としては、含ハロゲン有機溶媒、含酸素有機溶媒が例示される。具体的には、含ハロゲン有機溶媒として、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、モノクロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール等が挙げられる。含酸素有機溶媒として、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸エチル、乳酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0034】
化合物(1)と化合物(2)を製造する際に使用する溶媒は、化合物(1)と化合物(2)の分離に使用する溶媒と同一であることが好ましい。
溶媒が同一であれば、化合物(1)と化合物(2)の混合物の洗浄等が不要になり、精製工程をなくすことができるからである。
【0035】
上述したように、本発明の化合物は、−50以上50℃以下で単離する。
−50℃未満であると得られる化合物をフォトレジスト基材に用いた場合に、性能が劣る。この理由として、−50℃未満で単離すると分離できないだけでなく不純物が混在することにより性能劣化の原因になると考えられる。
【0036】
また、50℃を超える温度においては、化合物(1)と化合物(2)の溶解度がともに上昇し、溶媒に溶けやすくなり、結果として、化合物(1)と化合物(2)が分離できなくなる。また、使用する溶媒の種類にもよるが、沸騰や溶媒蒸気の拡散により、濃度の制御が困難になり、発火、爆発等の危険性が生じる。
【0037】
溶解度が低い化合物を全て単離できれば、残りの溶液から他方の溶解度が高い化合物も単離できる。例えば、さらに低い温度で析出させたり、溶液中に溶解している化合物が溶解しない貧溶媒を加えて析出させたりして単離する。
【0038】
本発明の特定の立体異性体である環状化合物は、フォトレジスト基材の材料として使用できる。フォトレジスト基材と溶剤からフォトレジスト組成物を作製できる。フォトレジスト組成物は、必要に応じ、さらに公知の光酸発生剤や酸拡散制御剤等を含むことができる。
【0039】
本発明の化合物から、公知の成形方法によって、シリコンウェハ等の基板に薄膜を形成することができる。
【0040】
形成方法としては、射出成型法、射出圧縮成型法、押出成型法、ブロー成型法、加圧成型法、トランスファー成型法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、キャスト法、蒸着法、熱CVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法等が挙げられ、これら成形方法を所望の製品の形態、性能に応じて適宜選択できる。
【0041】
また、得られた薄膜を熱、紫外線、深紫外線、真空紫外線、極端紫外線、電子線、プラズマ、X線等により硬化(環化付加反応)させてもよい。
【0042】
スピンコーティング法等により本発明の化合物を薄膜に形成する場合、本発明の化合物を有機溶媒に溶解させて塗料として用いることができる。
【0043】
有機溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ジクロロエタン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、テトラクロロベンゼン、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アニソール、アセトフェノン、ベンゾニトリル、ニトロベンゼン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、アセトン等が挙げられる。
【0044】
塗料中における本発明の化合物の濃度は、塗料の粘度や薄膜形成方法等を考慮して適宜調製すればよい。
薄膜の厚さは特に限定されないが、一般に10nm〜10μm程度のものが好適に使用される。薄膜の膜厚は、エリプソメータ、反射光学式膜厚計等による光学的膜厚測定、触針式膜厚測定器やAFM等による機械的膜厚測定が可能である。
【0045】
本発明の化合物を用いた薄膜は、フォトレジスト薄膜としての用途の他、光学レンズ、光ファイバー、光導波路、フォトニック結晶等の種々の光情報処理装置向け光学薄膜、半導体用層間絶縁膜、半導体用保護膜等のULSI装置向け薄膜、液晶ディスプレー、液晶プロジェクター、プラズマディスプレー、ELディスプレー、LEDディスプレー等の画像表示装置向け薄膜、CMOSイメージセンサ、CCDイメージセンサ等に使用される薄膜として有用である。さらにこれら薄膜は、CPU、DRAM、フラッシュメモリ等の半導体装置、情報処理用小型電子回路装置、高周波通信用電子回路装置等の電子回路装置、画像表示装置、光情報処理用装置、光通信用装置等の部材、表面保護膜、耐熱膜において利用することもできる。
【実施例】
【0046】
[実施例1]
窒素気流下、容量200ミリリットルの丸底フラスコに、3−メトキシフェノール10.0g(81ミリモル)、4−ホルミル安息香酸メチル13.2g(80.6ミリモル)、脱水クロロホルム100ミリリットルを加え、−78℃に冷却した。この混合物に対して、3フッ化ホウ素エーテル付加体30.8ミリリットル(250ミリモル)を滴下した後、室温まで昇温して20時間撹拌を継続した後、50℃に昇温し14時間撹拌を継続した。反応溶液を氷浴で0℃まで冷却し、析出した固体をエタノールで洗浄し、下記の構造の環状化合物(1b)を収率25%で得た。H−NMR測定の結果(図1)から、環状化合物(1b)の構造を確認し、液体クロマトグラフィーにより純品であることを確認した。
【化13】

【0047】
窒素気流下、得られた環状化合物(1b)0.8g(0.74ミリモル)、水酸化ナトリウム0.74g(18.5ミリモル)、水10ミリリットルを加え、90℃、5時間加熱撹拌を行った後、放冷した。希塩酸水溶液を加え反応溶液を酸性にし、析出した白色沈殿をろ別し水洗することにより、環状化合物(2b)を収率89%で得た。H−NMR測定の結果(図2)から、環状化合物(2b)の構造を確認し、液体クロマトグラフィーにより純品であることを確認した。
【化14】

【0048】
窒素気流下、得られた環状化合物(2b)5.03g(4.88ミリモル)、炭酸水素ナトリウム1.86g(21.95ミリモル)、N−メチル−2−ピロリドン100ミリリットルの混合物へ、2−ブロモ酢酸1−エチルシクロヘキシル6.23g(21.95ミリモル)を滴下した後80℃、8時間加熱撹拌を行った。反応混合物を放冷し、酢酸エチル/水で抽出した。有機層は濃縮をしてヘキサンで再沈し、析出した固体をろ別することにより、環状化合物(3b)を収率83%で得た。H−NMR測定の結果(図3)から、環状化合物(3b)の構造を確認し、液体クロマトグラフィーにより純品であることを確認した。
【化15】

【0049】
[比較例1]
窒素気流下、容量200ミリリットルの丸底フラスコに、3−メトキシフェノール10.0g(81ミリモル)、4−ホルミル安息香酸メチル13.2g(80.6ミリモル)、脱水ジクロロメタン100ミリリットルを加え、−78℃に冷却した。この混合物に対して、3フッ化ホウ素エーテル付加体30.8ミリリットル(250ミリモル)を滴下した後、室温まで昇温して8時間撹拌を継続した。反応溶液を−78℃まで冷却し、析出した固体をジクロロメタン80ミリリットル、水200ミリリットル、エタノールで洗浄し、環状化合物(1a)と環状化合物(1b)の混合物である下記環状化合物(1c)を収量20.5g(収率94%)で得た。H−NMR測定の結果(図4)、下記の構造であることを確認した。
【化16】

【0050】
実施例1と同様にして、下記環状化合物(2a)と環状化合物(2b)の混合物である環状化合物(2c)を収量0.68g(収率90%)で得た。H−NMR測定の結果(図5)、下記の構造であることを確認した。
【化17】

【0051】
実施例1と同様にして、下記環状化合物(3a)と環状化合物(3b)の混合物である環状化合物(3c)を収量5.68g(収率69%)で得た。H−NMR測定の結果(図6)、下記の構造であることを確認した。
本比較例で得られた環状化合物(3c)において、環状構造に結合する安息香酸エステル構造の立体異性体混合比をH−NMR、及び液体クロマトグラフィーにより決定した。下記環状化合物(3a)、(3b)のモル比は2:3であった。しかし、分離不能である構造不明の副生成物を含み、同様の製造法を繰り返し実施しても、その都度、環状化合物(3a)、(3b)のモル比が異なる上、さらに構造不明の副生成物の生成を抑制することができなかった。
【0052】
【化18】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の環状化合物は、フォトレジスト基材の材料として用いることができる。フォトレジスト基材を含むフォトレジスト組成物は、半導体装置等の電気・電子分野や光学分野等において好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例1で合成した化合物(1b)のH−NMRスペクトルである。
【図2】実施例1で合成した化合物(2b)のH−NMRスペクトルである。
【図3】実施例1で合成した化合物(3b)のH−NMRスペクトルである。
【図4】比較例1で合成した化合物(1c)のH−NMRスペクトルである。
【図5】比較例1で合成した化合物(2c)のH−NMRスペクトルである。
【図6】比較例1で合成した化合物(3c)のH−NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純度が90%以上の下記式(1)又は式(2)のいずれか一方のみで表される化合物。
【化1】

[式中、Rは、下記式(3)〜(5)のいずれかで表される基である。
は、水酸基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20の直鎖状アルコキシ基、置換もしくは無置換の炭素数3〜12の分岐アルコキシ基、置換もしくは無置換の炭素数3〜20の環状アルコキシ基、置換もしくは無置換の炭素数6〜10のアリーロキシル基、アルコキシアルコキシ基、シロキシ基、又はこれらの基と二価の基とが結合した基であり、
前記二価の基は、置換もしくは無置換のアルキレンオキシ基、置換もしくは無置換のアリーレンオキシ基、置換もしくは無置換のシリレンオキシ基、これらの基が2以上結合した基、又はこれらの基と、エステル結合、炭酸エステル結合又はエーテル結合が結合した基である。
は、水素、Rで表される基、炭素数1〜20の直鎖状脂肪族炭化水素基、炭素数3〜12の分岐脂肪族炭化水素基、炭素数3〜20の環状脂肪族炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族基又は酸素原子を含む基である。
式(1)内及び式(2)内に複数あるR、R及びRは、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【化2】

(式中、Arは、置換もしくは無置換の炭素数6〜10のアリーレン基、置換もしくは無置換の炭素数6〜10のアリーレン基を2つ以上組み合わせた基、又はアルキレン基及びエーテル結合の少なくとも一方の1つ以上と置換もしくは無置換の炭素数6〜10のアリーレン基を組み合わせた基であり、
置換基を有する場合の置換基は、臭素、フッ素、ニトリル基、又は炭素数1〜10のアルキル基である。
は、水酸基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜12の分岐脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜20の環状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数6〜10の芳香族基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、カルボキシル基、シリル基、又はこれらの基と二価の基が結合した基であり、
前記二価の基は、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基、置換もしくは無置換のシリレン基、これらの基が2以上結合した基、又はこれらの基1以上と、エステル結合、炭酸エステル結合及びエーテル結合から選択される1以上の基が結合した基である。
、Rは、それぞれ水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜12の分岐脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜20の環状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数6〜12の芳香族基、又はこれら基のうち2以上を組み合わせた基である。
は、アルキレン基、エーテル結合、アルキレン基を2以上組み合わせた基、又はアルキレン基1以上とエーテル結合1以上を組み合わせた基である。
xは1〜5、yは0〜3、zは0〜4の整数である。
複数のR、R、R、Ar、A、x、y及びzは、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。)]
【請求項2】
が、下記式(I)〜(IV)のいずれかの酸解離性溶解抑止基である請求項1記載の化合物。
【化3】

(式(I)〜(IV)において、
αは、置換もしくは無置換の炭素数1〜10の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜10の分岐脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜20の環状脂肪族炭化水素基、又は置換もしくは無置換の炭素数6〜10の芳香族基である。
βは、三級脂肪族構造、芳香族構造、単環状脂肪族構造又は複環状脂肪族構造を有する基が置換したアルコキシ基である。
γは、芳香族構造、単環状脂肪族構造又は複環状脂肪族構造を有する基が置換したアルコキシ基、又は芳香族構造、単環状脂肪族構造、複環状脂肪族構造のうち1以上の構造と、炭素数1〜10の直鎖状脂肪族炭化水素基を組み合わせた基が置換したアルコキシ基である。
δは、置換もしくは無置換の炭素数1〜10の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜10の分岐脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜20の環状脂肪族炭化水素基、又は置換もしくは無置換の炭素数6〜10の芳香族基である。)
【請求項3】
Rが下記式(6)で表される基であって、式(6)中、Rは下記式(7)〜(38)から選択される基であり、
が水素であり、
同一の芳香環上に存在する2つのRのうち、一方が水酸基であり、他方が溶解性調整基である請求項1又は2記載の化合物。
【化4】


(式中、rはそれぞれ上記式(7)〜(35)で表される置換基のいずれかを表す。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の化合物を製造する方法であって、
前記式(1)の化合物の0℃における溶解度と前記式(2)の化合物の0℃における溶解度の差が、1グラム/リットル以上である溶媒中、−50℃以上50℃以下の条件の下で、前記式(1)の化合物と前記式(2)の化合物の混合物から、前記式(1)の化合物又は前記式(2)の化合物を晶析して単離して、前記式(1)の化合物又は前記式(2)の化合物を製造する方法。
【請求項5】
前記晶析単離工程の温度が、−20℃以上20℃以下である請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒が、含ハロゲン有機溶媒、含酸素有機溶媒から選択される少なくとも1種類の溶媒である請求項4又は5記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載の化合物を含む薄膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−138114(P2010−138114A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316143(P2008−316143)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】