説明

立体表示装置およびバリア素子

【課題】良好な立体表示を行うことができるようにする。
【解決手段】表示部1と、表示部1の背面側に配置されたバリア素子2とを備える。バリア素子1は、表示部1に向けて画像表示用の光線を出射するスリット部22を有する。スリット部22は、横方向に間隔を空けて複数配置されている。複数のスリット部22を、横方向の間隔(バリアピッチ)が中心部から周辺部に行くに従い狭くなるように配置する。スリット部1の横方向の配置間隔は、表示部1とスリット部22との間の屈折率の異なる2つの層(空気層4および基材21)の屈折率差によって生ずるスリット部22の光学的な位置ずれを補償するように最適化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、パララックスバリア(視差バリア)方式による立体視を可能にする立体表示装置およびバリア素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、特殊な眼鏡を装着する必要がなく、裸眼で立体視が可能な立体表示方式の一つとして、パララックスバリア方式の立体表示装置が知られている。パララックスバリア方式による立体表示装置の一般的な構成例としては、液晶表示パネル等の表示部の前面に、パララックスバリアを対向配置したものがある。また、例えば特許文献1に記載されているように、表示部として透過型の表示パネルを用い、その表示パネルの背面側(バックライト側)にパララックスバリアを配置する構成もある。
【0003】
パララックスバリア方式の場合、表示部に立体視用の視差画像(2視点の場合には右眼用視差画像と左眼用視差画像)を空間分割して表示し、その視差画像を視差分離手段としてのパララックスバリアによって水平方向に視差分離することで立体視が行われる。パララックスバリアの一般的な構造としては、光を透過するスリット部と、光を遮蔽する遮蔽部とを水平方向(横方向)に交互に設けたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−187823号公報(図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パララックスバリア方式の立体表示装置においては、パララックスバリアの視差分離機能によって、観察者の左右の眼に、別々の視差画像からの光を入射させることで、立体視を実現している。このため、良好な立体視を実現するためには、表示パネルの各画素とパララックスバリアのスリット部等との相対的な位置関係が設計値に従って正確に位置合わせされている必要がある。例えば何らかの要因でスリット部の位置が設計値からずれると、立体視の品質に劣化が発生する問題がある
【0006】
しかしながら、表示パネルの背面側にパララックスバリアを配置する構成の場合、例えば表示部とスリット部との間に屈折率差のある複数の層(例えば空気層とパララックスバリアの基材)が介在すると、その屈折率差があることによって、スリット部の光学的な位置が設計値からずれてしまい、結果として良好な立体表示を行うことができなくなってしまう。
【0007】
本開示の目的は、良好な立体表示を行うことができるようにした立体表示装置およびバリア素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示による立体表示装置は、表示部と、表示部の背面側に配置されたバリア素子とを備え、バリア素子が、表示部に向けて画像表示用の光線を出射するスリット部を有しているものである。そして、スリット部が、横方向に間隔を空けて複数配置されていると共に、横方向の間隔が中心部から周辺部に行くに従い狭くなるように配置されているものである。
【0009】
本開示によるバリア素子は、画像表示用の光線を出射するスリット部を有し、スリット部は、横方向に間隔を空けて複数配置されていると共に、横方向の間隔が中心部から周辺部に行くに従い狭くなるように配置されているものである。
【0010】
本開示の立体表示装置またはバリア素子では、複数のスリット部の間隔(バリアピッチ)が、中心部から周辺部に行くに従い狭くなることで、例えば表示部とスリット部との間に屈折率差のある複数の層が介在した場合に、その屈折率差によって生ずるスリット部の光学的な位置ずれが補償される。
【発明の効果】
【0011】
本開示の立体表示装置またはバリア素子によれば、複数のスリット部の間隔を、中心部から周辺部に行くに従い狭くなるようにしたので、例えば表示部とスリット部との間に屈折率差のある複数の層が介在した場合に、その屈折率差によって生ずるスリット部の光学的な位置ずれが補償される。これにより、良好な立体表示を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本開示の一実施の形態に係る立体表示装置の全体構成の一例を示す断面図である。
【図2】バリア機能を有するバックライトの構成例を示す断面図である。
【図3】図2に示したバックライトにおける光変調素子の電極構成を示す斜視図である。
【図4】図2に示したバックライトにおける光線の出射状態を示す説明図である。
【図5】バリア素子の基本設計例を示す断面図である。
【図6】屈折率差による設計値との光学的な位置ずれについての説明図である。
【図7】入射角と光学的な位置ずれ量についての説明図である。
【図8】9視点の場合の第1視点に対する入射角についての説明図である。
【図9】9視点の場合の第9視点に対する入射角についての説明図である。
【図10】最小の入射角と最大の入射角とについての説明図である。
【図11】入射角と光学的な位置ずれ量についての説明図である。
【図12】ずれ量の計算についての説明図である。
【図13】第1の視点位置に対するずれ量の計算についての説明図である。
【図14】第2の視点位置に対するずれ量の計算についての説明図である。
【図15】最適化後のスリット位置についての説明図である。
【図16】スリット部の配置の第1の具体例を示す平面図である。
【図17】スリット部の配置の第2の具体例を示す平面図である。
【図18】スリット部の配置の第3の具体例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
[立体表示装置の全体構成]
図1は、本開示の一実施の形態に係る立体表示装置の一構成例を示している。この立体表示装置は、画像表示を行う表示部1と、表示部1の背面側に配置され、画像表示用の光を出射するバリア素子(パララックスバリア)2および面光源3とを備えている。
【0015】
表示部1は、透過型の2次元表示パネル、例えば透過型の液晶表示パネルを用いて構成され、例えばR(赤色)用画素、G(緑色)用画素、およびB(青色)用画素からなる画素を複数有し、それら複数の画素がマトリクス状に配置されている。表示部1は、バリア素子2および面光源3からの光を画像データに応じて画素ごとに変調させることで2次元的な画像表示を行うようになっている。
【0016】
この立体表示装置は、バリア素子2を可変式のパララックスバリアで構成した場合、2次元(2D)表示モードと、3次元(3D)表示モードとを任意に選択的に切り替えることが可能となる。2次元表示モードと3次元表示モードとの切り替えは、表示部1に表示する画像データの切り替え制御と、バリア素子2の視差分離機能のオン・オフの切り替え制御とを行うことで可能となる。この場合、表示部1には、3次元画像データに基づく画像と2次元画像データに基づく画像とを選択的に切り替えて表示する。なお、3次元画像データとは、例えば、3次元表示における複数の視野角方向に対応した複数の視差画像を含むデータである。例えば2眼式の3次元表示を行う場合、右眼表示用と左眼表示用の視差画像のデータである。3次元表示モードでの表示を行う場合には、例えば1画面内にストライプ状の複数の視差画像が含まれる合成画像を表示する。
【0017】
面光源3は、例えば、CCFL(Cold Cathode Fluorescent Lamp)等の蛍光ランプや、LED(Light Emitting Diode)を用いて構成されている。バリア素子2は、3次元表示を行う場合に、表示部1に表示された視差合成画像に含まれる複数の視点画像を立体視が可能となるように複数の視点方向に分離するものであり、立体視を可能にするように表示部1に対して所定の位置関係で対向配置されている。バリア素子2は、基材21と、光を遮蔽する遮蔽部23と、光を透過(出射)し、表示部1の各画素11に対して立体視が可能となるように所定の条件で対応付けられた視差分離部としてのスリット部22とを有している。
【0018】
バリア素子2は、固定式のパララックスバリアであっても良いし、可変式のパララックスバリアであっても良い。固定式のパララックスバリアの場合、例えば透明な平行平面板(基材21)の表面に、薄膜状の金属などでスリット部22および遮蔽部23となるパターンを形成したものを用いることができる。可変式のパララックスバリアとする場合、例えばバックライト方式の液晶表示素子による表示機能(光変調機能)を用いて、スリット部22および遮蔽部23のパターンを選択的に形成することができる。
【0019】
固定式および可変式のいずれの構成を取る場合にも、バリア素子2は、空気層4(第1の層)を介して表示部1の背面側に対向配置され、スリット部22および遮蔽部23と空気層4との間には、空気層4とは屈折率の異なる基材21(第2の層)が配置された構成となる。スリット部22の配置間隔は、空気層4と基材21との屈折率差によって生ずるスリット部22の光学的な位置ずれを補償するように最適化されている。具体的には、スリット部22は、横方向に間隔を空けて複数配置されているが、横方向の間隔が中心部から周辺部に行くに従い狭くなるように配置されている。スリット部22の光学的な位置ずれの詳細、およびその最適化方法については後述する。
【0020】
[バリア素子2の変形例]
図1では、バリア素子2と面光源3とを用いる構成例を示したが、可変式のパララックスバリアにする場合、例えば高分子分散液晶(PDLC;Polymer Dispersed LiquidCrystal)を用いて、エッジライト方式の構成にすることも可能である。例えばバリア素子2および面光源3に代えて、図2(A),(B)に示したようなバリア機能を有するバックライトを用いても良い。
【0021】
このバリア機能を有するバックライトは、導光板10と、導光板10の側面に配置された光源20と、導光板10の背後に配置された光変調素子30および反射板40とを備えている。
【0022】
導光板10は、導光板10の側面に配置した光源20からの光を導光板10の上面に導くものである。この導光板10は、導光板10の上面に配置される表示部1(図1)に対応した形状、例えば、上面、下面および側面で囲まれた直方体状となっている。導光板10は、側面から入射した光源20からの光を散乱し、均一化する機能を有している。導光板10は、例えば、ポリカーボネート樹脂(PC)やアクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート(PMMA)などの透明熱可塑性樹脂を主に含んで構成されている。
【0023】
光源20は、例えば線状光源であり、例えば、熱陰極管(HCFL;Hot Cathode FluorescentLamp)、CCFL、または複数のLEDを一列に配置したものなどからなる。光源20は、図2(A)に示したように、導光板10の一の側面にだけ設けられていてもよいし、導光板10の2つの側面、3つの側面または全ての側面に設けられていてもよい。
【0024】
反射板40は、導光板10の背後から光変調素子30を介して漏れ出てきた光を導光板10側に戻すものであり、例えば、反射、拡散、散乱などの機能を有している。これにより、光源20からの射出光を効率的に利用することができ、また、正面輝度の向上にも役立っている。この反射板40は、例えば、発泡PET(ポリエチレンテレフタレート)や銀蒸着フィルム、多層膜反射フィルム、白色PETなどからなる。
【0025】
光変調素子30は、本実施の形態において、導光板10の背後(下面)に空気層を介さずに密着しており、例えば接着剤(図示せず)を介して導光板10の背後に接着されている。この光変調素子30は、例えば、図2(B)に示したように、透明基板31、下側電極32、配向膜33、光変調層34、配向膜35、上側電極36および透明基板37を反射板40側から順に配置されたものである。
【0026】
透明基板31,37は、光変調層34を支持するものであり、一般に、可視光に対して透明な基板、例えば、ガラス板や、プラスチックフィルムによって構成されている。下側電極32は、透明基板31のうち透明基板37との対向面上に設けられたものであり、例えば、図3に光変調素子30の一部を抜き出して示したように、面内の一の方向に延在する帯状の形状となっている。また、上側電極36は、透明基板37のうち透明基板31との対向面上に設けられたものであり、例えば、図3に示したように、面内の一の方向であって、かつ下側電極32の延在方向と交差(直交)する方向に延在する帯状の形状となっている。
【0027】
なお、下側電極32および上側電極36の形状は、駆動方式に依存するものである。例えば、これらが上述したような帯状の形状となっている場合には、例えば、各電極を単純マトリクス駆動することが可能である。一方の電極がベタ膜となっており、他方の電極が微小な方形状となっている場合には、例えば、各電極をアクティブマトリクス駆動することが可能である。また、一方の電極がベタ膜となっており、他方の電極が細かな引出線がついたブロック状となっている場合には、例えば、それぞれの分割ブロックを独自に駆動できるセグメント方式にすることもできる。
【0028】
下側電極32および上側電極36のうち少なくとも上側電極36(このバックライトの上面側の電極)は透明な導電性材料、例えば、酸化インジウムスズ(ITO;Indium Tin Oxide)からなる。ただし、下側電極32(このバックライトの下面側の電極)については、透明な材料でなくてもよく、例えば、金属によって構成されていてもよい。なお、下側電極32が金属によって構成されている場合には、下側電極32は、反射板40と同様、導光板10の背後から光変調素子30に入射する光を反射する機能も兼ね備えていることになる。従って、この場合には、反射板40をなくすることも可能である。
【0029】
下側電極32および上側電極36を光変調素子30の法線方向から見たときに、光変調素子30のうち下側電極32および上側電極36が互いに対向している箇所に対応する部分が光変調セル30−1を構成している。各光変調セル30−1は、下側電極32および上側電極36に所定の電圧を印加することにより別個独立に駆動することの可能なものであり、下側電極32および上側電極36に印加される電圧値の大きさに応じて、光源20からの光に対して透明性を示したり、散乱性を示したりする。
【0030】
このバックライトでは、光変調素子30の下側電極32および上側電極36間に印加される電圧に応じて部分的に黒表示と白表示とを切り替えることができる。これにより、バリア素子2(図1)のスリット部22および遮蔽部23と同等のバリアパターンを形成することができる。
【0031】
光変調層34は、図2(B)に示したように、バルク34Aと、バルク34A内に分散された微粒子状の複数の微粒子34Bとを含んだ複合層となっている。バルク34Aおよび微粒子34Bは光学異方性を有している。バルク34Aおよび微粒子34Bの常光屈折率は互いに等しく、かつバルク34Aおよび微粒子34Bの異常光屈折率は互いに等しいことが好ましい。この場合に、例えば、下側電極32および上側電極36間に電圧が印加されていない部分(図4(A)の透過領域30A)では、正面方向および斜め方向を含むあらゆる方向において屈折率差がほとんどなく、高い透明性が得られる。これにより、例えば、正面方向に向かう光および斜め方向に向かう光は、光変調層34内で散乱されることなく、光変調層34を透過する。その結果、例えば、図4(A),(B)に示したように、光源20からの光Lは、透過領域30Aの界面(透明基板31または導光板10と空気との界面)において全反射され、透過領域30Aの輝度(黒表示の輝度)が、光変調素子30を設けていない場合(図4(B)中の一点鎖線)と比べて下がる。
これにより、バリア素子2(図1)の遮蔽部23として機能させることができる。
【0032】
また、下側電極32および上側電極36間に電圧が印加されている部分(図4(A)の散乱領域30B)では、光変調層34において、正面方向および斜め方向を含むあらゆる方向において屈折率差が大きくなり、高い散乱性が得られる。これにより、正面方向に向かう光および斜め方向に向かう光は、光変調層34内で散乱される。その結果、例えば、図4(A),(B)に示したように、光源20からの光Lは、散乱領域30Bの界面(透明基板31または導光板10と空気との界面)を透過すると共に、反射板40側に透過した光は反射板40で反射され、光変調素子30を透過する。従って、散乱領域30Bの輝度は、光変調素子30を設けていない場合(図4(B)中の一点鎖線)と比べて極めて高くなり、しかも、透過領域30Aの輝度が低下した分だけ、部分的な白表示の輝度(輝度突き上げ)が大きくなる。
これにより、バリア素子2(図1)のスリット部22として機能させることができる。
【0033】
このバリア機能を有するバックライトを用いる場合にも、図1のバリア素子2と同様に、バックライトは空気層4(第1の層)を介して表示部1の背面側に対向配置され、スリット部22および遮蔽部23(光変調層34)と空気層4との間には、空気層4とは屈折率の異なる第2の層(主に導光板10および透明基板37)が配置された構成となる。
【0034】
[スリット部22の設計値と光学的な位置ずれについて]
図5は、この立体表示装置において例えば2眼式にする場合の各部の配置の基本設計例を示している。なお、図5では表示部1とバリア素子2のスリット部22および遮蔽部23との間の屈折率差によって生ずる光学的な位置ずれについては考慮していない。図5において、Lは表示部1における画素11(左眼用画素11Lおよび右眼用画素11R)のピッチ(画素ピッチ)、Rは観察者(左眼51Lおよび右眼51R)と表示部1との視点距離、rは表示部1(画素11)とバリア素子2のスリット部22および遮蔽部23との距離(バリア距離)を表している。Pはスリット部22の横方向の間隔(バリアピッチ)を表している。Eは左眼51Lと右眼51Rとの間隔(視点間距離)を表している。LC0は表示部1の中心位置(表示中心位置)を表している。
【0035】
表示部1とスリット部22との間に屈折率差のある層がないものとすると、各部の配置を以下の関係を満たす設計値とすることで、観察者の左眼51Lに入射する光線L1Bは左眼用画素11Lからの光のみとなり、右眼51Rに入射する光線L1Aは右眼用画素11Rからの光のみとなる。これにより、2眼式の立体視が行われる。
L:r = E:(R+r)
2L:R = P:(R+r)
【0036】
しかしながら、実際には、スリット部22および遮蔽部23と空気層4との間には、空気層4とは屈折率の異なる基材21が配置されているので、上記した設計値に合わせた構成にすると、図6に示したような光学的な位置ずれが発生する。図6では、右眼51Rに入射する光線L1Aを例にしているが、左眼51Lに入射する光線L1Bについても同様である。空気層4側から基材21側への光線L1Aの入射角をθ1、基材21側から空気層4側への光線L1Aの入射角をθ2、n1を空気層4の屈折率(n1=1.0)、n2を基材21の屈折率とすると、スネルの法則により、以下の関係が成り立つ。
n2 = Sinθ1/Sinθ2
【0037】
屈折率差が無いものとして右眼51Rから観察される、スリット部22の中心位置(屈折率最適化前のスリット中心位置)をLCmとする。この場合、屈折率差がある状態で右眼51Rから最適化前の中心位置LCmを観察すると、屈折率差の影響で光学的にずれた位置LCm’を観察することになる(ずれ量OffMA)。これにより、本来、右眼51Rから見えるはずの右眼用画素11Rが遮断された状態となる。そして、本来は右眼51Rに対して遮断されるはずの左眼用画素11Lからの光線L1A’が右眼51Rに見える状態となってしまう。
【0038】
[スリット部22の配置の最適化の概要]
上記したずれ量OffMAは、上記したスネルの法則により、入射角θ1と入射角θ2とが正弦で比例関係にあるので、図7に模式的に示したように、入射角θ1が大きくなるほど大きくなる。すなわち、ずれ量OffMAは一様ではなく、観察位置(視点位置)に応じて異なる量となる。
【0039】
図8および図9は、9視点の場合の最も外側に位置する視点位置(第1視点および第9視点)での入射角の関係を示している。パララックスバリア方式の場合、画面に対し、適性視距離で視点位置をずらした場合でも逆視を除き3D品質を保証した設計がなされる。図8および図9に示したように、各視点位置と各画素11との角度関係はそれぞれ異なっている。一方、バリア素子2のスリット部22は、どの視点位置でも共通となる。1つのスリット部22は、有効視野角θ0の範囲内においてすべての視点と画素とに関して、3D品質を保証した設計である必要がある。しかしながら、前述の様に入射角によってずれ量が異なるため、これらすべてを完全に保証するための解はない。
【0040】
そこで、有効視野角θ0の範囲内において、あるスリット部22に関して、最小の入射角でのずれ量と最大の入射角でのずれ量との平均値を用いて、その配置を最適化する。図10に示したように、表示部1の中心位置(表示中心位置)LC0を観察中心として有効視野角θ0を定義する。有効視野角θ0は、適視距離と視点数等により決定される。例えば表示部1の画面サイズが40インチ、視点数が9視点に場合、適視距離は1.5m、有効視野角θ0は22°となる。
【0041】
図10に示したように、有効視野角θ0の範囲内で互いに最も外側に位置する第1の観察位置をA、第2の観察位置をBとする。このとき、第1の観察位置Aの右眼51R(第1の視点位置)と、第2の観察位置Bの左眼51L(第2の視点位置)とが、有効視野角θ0の範囲内で互いに最も外側に位置する視点位置となる。この場合、入射角が最大となるのは、第1の観察位置Aの右眼51Rから第2の端部bを見るとき(光線L1Ab)と、第2の観察位置Bの左眼51Lから第1の端部aを見るとき(光線L1Ba)である。入射角が最小となるのは、第2の観察位置Bの左眼51Lから第2の端部bを見るとき(光線L1Bb)と、第1の観察位置Aの右眼51Rから第1の端部aを見るとき(光線L1Aa)である。
【0042】
このような第1の視点位置(第1の観察位置Aの右眼51R)および第2の視点位置(第2の視点位置の左眼51L)に対してずれ量が最小となるようにスリット部22の配置を最適化すれば良い。図11に示したように、屈折率差が無いものとして第1の視点位置および第2の視点位置から観察される、スリット部22の最適化前の中心位置をLCmとする。屈折率差がある状態で第1の視点位置から最適化前の中心位置LCmを観察したときに屈折率差の影響で光学的にずれて観察される第1のずれ位置をLOMA、屈折率差がある状態で第2の視点位置から最適化前の中心位置LCmを観察したときに屈折率差の影響で光学的にずれて観察される第2のずれ位置をLOMBとする。この場合、スリット部22の最適化後の中心位置LOmを、第1のずれ位置LOMAと第2のずれ位置LOMBとの中点にすれば良い。なお、図11においてdは、バリア素子2の基材21の厚みである。
【0043】
[スリット部22の配置の具体的な計算例]
図12〜図15を参照して、図11に示したようなスリット部22の配置の最適化を行う場合の具体的な設計例について説明する。なお、図12〜図15において、図5〜図11と共通する符号の意味は互いに同じであり、符号の説明は適宜省略する。
【0044】
図12では、図5と同様、2眼式での設計例を示している。この場合、上述したように、
L:r = E:(R+r)
2L:R = P:(R+r)
の関係が成り立つ。これらから以下の式が成り立つ。
r = LR/(E−L)
P = 2L+r/R
【0045】
ここでは表示部1の表示中心位置LC0で対称と考え、片側のみを考慮する。スリット部22の座標は中心を0とする。中心より向かって右側、n番目の最適化前のスリット部22の中心位置LCmの座標は、
LCm = nP
となる。
【0046】
第1の視点位置(右眼51R)の適視座標をLCA、第2の視点位置(左眼51L)の適視座標をLCBとする。最適化前のスリット部22の中心位置LCmに対する、第1の視点位置LCAに対応する光線L1Aの入射角θn1Aは、
θn1A = tan-1{(LCm−LCA)/(R+r)}
同様に、最適化前のスリット部22の中心位置LCmに対する、第2の視点位置LCBに対応する光線L1Bの入射角θn1Bは、
θn1B = tan-1{(LCm−LCB)/(R+r)}
となる
【0047】
第1の視点位置LCAに対応する光線L1Aに対する屈折角θn2Aは、
θn2A = sin-1{sin(θn1A/n2)}
同様に、第2の視点位置LCBに対応する光線L1Bに対する屈折角θn2Bは、
θn2B = sin-1{sin(θn1B/n2)}
【0048】
第1の視点位置LCAから最適化前の中心位置LCmを観察したときには、図13に示したように、屈折率差の影響で光学的に第1のずれ位置LOMAの位置にずれて観察される。この場合のずれ量OffMAは、基材21の厚みをdとして、
OffMA = d{tan(θn1A)−tan(θn2A)}
第1のずれ位置LOMAは、
LOMA = LCm−OffMA
となる。
【0049】
同様に、第2の視点位置LCBから最適化前の中心位置LCmを観察したときには、図14に示したように、屈折率差の影響で光学的に第2のずれ位置LOMBの位置にずれて観察される。この場合のずれ量OffMBは、
OffMB = d{tan(θn1B)−tan(θn2B)}
第2のずれ位置LOMBは、
LOMB = LCm−OffMB
【0050】
以上の説明では、画面右について計算したが、実際には画面左も同様の計算となる。ただし、線対称となるので第1の視点位置LCAと第2の視点位置LCBとに対する各部の横方向の位置関係は逆転することとなる。
【0051】
2視点(2眼式)の場合は、1つの観察位置での右眼51Rおよび左眼51Lの2視点を考慮するが、多視点(3視点以上)の場合、最外となる観察位置をそれぞれ、図10に示したように、第1の観察位置A、第2の観察位置Bと定義する。そして、第1の観察位置Aの右眼51Rを第1の視点位置とし、第2の観察位置Bの左眼51Lを第2の視点位置と定義して同様の計算を行う。
【0052】
スリット部22の最適化後の中心位置LOmは、図15に示したように、第1のずれ位置LOMAと第2のずれ位置LOMBとの中点にすれば良い。すなわち、
LOM = (LOMA+LOMB)/2
【0053】
[スリット部22の配置の具体例]
以上で説明した最適化手法によって構成されたバリア素子2におけるスリット部22の配置の具体例を、図16〜図18に示す。
【0054】
図16(A)は最適化前のスリット部22の配置の第1の具体例を示している。図16(B)は最適化後のスリット部22の配置の第1の具体例を示している。図16(A)の最適化前の配置では、縦ストライプ状にスリット部22と遮蔽部23とが交互に配置されている。バリア幅(遮蔽部23の幅、バリアピッチ)は中心部と周辺部とで幅W1で同一となっている。1つのスリット部22の幅は、中心部と周辺部とで同一となっている。従って、隣り合うスリット部22の間隔(スリットピッチ)は中心部と周辺部とで同一である。これに対して、図16(B)の最適化後の配置では、バリア幅は中心部が幅W1、周辺部が幅W2(<W1)であり、外側に行くに従い幅が狭くなっている。1つのスリット部22の幅は、中心部と周辺部とで同一となっている。従って、隣り合うスリット部22の間隔(スリットピッチ)は中心部と周辺部とで異なり、外側に行くに従い間隔が狭くなっている。
【0055】
図17(A)は最適化前のスリット部22の配置の第2の具体例を示している。図17(B)は最適化後のスリット部22の配置の第2の具体例を示している。図17(A)の最適化前の配置では、斜めストライプ状にスリット部22と遮蔽部23とが交互に配置されている。バリア幅は中心部と周辺部とで幅W1で同一となっている。1つのスリット部22の幅は、中心部と周辺部とで同一となっている。従って、隣り合うスリット部22の間隔は中心部と周辺部とで同一である。これに対して、図17(B)の最適化後の配置では、斜めストライプ形状で、かつ、S字曲線状にスリット部22と遮蔽部23とが交互に配置されている。バリア幅は中心部が幅W1、周辺部が幅W2(<W1)であり、外側に行くに従い幅が狭くなっている。1つのスリット部22の幅は、中心部と周辺部とで同一となっている。従って、隣り合うスリット部22の間隔は中心部と周辺部とで異なり、外側に行くに従い間隔が狭くなっている。
【0056】
図18(A)は最適化前のスリット部22の配置の第3の具体例を示している。図18(B)は最適化後のスリット部22の配置の第3の具体例を示している。図18(A)の最適化前の配置では、スリット部22が斜め方向に直線状にステップ配置配置されている。バリア幅は中心部と周辺部とで幅W1で同一となっている。1つのスリット部22の幅は、中心部と周辺部とで同一となっている。従って、隣り合うスリット部22の間隔は中心部と周辺部とで同一である。これに対して、図18(B)の最適化後の配置では、スリット部22が斜め方向にS字曲線状にステップ配置されている。バリア幅は中心部が幅W1、周辺部が幅W2(<W1)であり、外側に行くに従い幅が狭くなっている。1つのスリット部22の幅は、中心部と周辺部とで同一となっている。従って、隣り合うスリット部22の間隔は中心部と周辺部とで異なり、外側に行くに従い間隔が狭くなっている。
【0057】
[効果]
以上説明したように、本実施の形態に係る立体表示装置およびバリア素子2によれば、複数のスリット部22の間隔を、中心部から周辺部に行くに従い狭くなるようにしたので、表示部1とスリット部22との間に屈折率差のある複数の層が介在した場合に、その屈折率差によって生ずるスリット部22の光学的な位置ずれが補償される。これにより、良好な立体表示を行うことができる。
【0058】
<その他の実施の形態>
本開示は、上記実施の形態の説明に限定されず種々の変形実施が可能である。
本開示に係る立体表示装置は、以下のような構成を取ることができる。
(1)
表示部と、
表示部の背面側に配置されたバリア素子と
を備え、
バリア素子は、
表示部に向けて画像表示用の光線を出射するスリット部を有し、
スリット部は、横方向に間隔を空けて複数配置されていると共に、横方向の間隔が中心部から周辺部に行くに従い狭くなるように配置されている
立体表示装置。
(2)
バリア素子は、第1の層を介して表示部の背面側に対向配置され、
スリット部と第1の層との間には、第1の層とは屈折率の異なる第2の層が設けられている
上記(1)に記載の立体表示装置。
(3)
スリット部の横方向の配置間隔は、第1の層と第2の層との屈折率差によって生ずるスリット部の光学的な位置ずれを補償するように最適化されている
上記(2)に記載の立体表示装置。
(4)
有効視野角の範囲内で互いに最も外側に位置する第1の視点位置と第2の視点位置とからスリット部を観察する場合において、
屈折率差が無いものとして第1の視点位置および第2の視点位置から観察される、スリット部の最適化前の中心位置をLCm、
屈折率差がある状態で第1の視点位置から最適化前の中心位置LCmを観察したときに屈折率差の影響で光学的にずれて観察される第1のずれ位置をLOMA、
屈折率差がある状態で第2の視点位置から最適化前の中心位置LCmを観察したときに屈折率差の影響で光学的にずれて観察される第2のずれ位置をLOMBとすると、
スリット部の最適化後の中心位置は、第1のずれ位置LOMAと第2のずれ位置LOMBとの中点に位置している
上記(3)に記載の立体表示装置。
(5)
第1の層は空気層であり、
第2の層はバリア素子の基材である
上記(2)ないし(4)のいずれかに記載の立体表示装置。
(6)
複数のスリット部は、斜めストライプ形状で、かつ、S字曲線状に設けられている
上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の立体表示装置。
(7)
複数のスリット部は、斜め方向にS字曲線状にステップ配置されている
上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の立体表示装置。
【符号の説明】
【0059】
1…表示部、2…バリア素子、3…面光源、4…空気層、10…導光板、11…画素、11L…左眼用画素、11R…右眼用画素、20…光源、21…基材、22…スリット部、23…遮蔽部、30…光変調素子、30A…透過領域、30B…散乱領域、31,37…透明基板、32…下側電極、33,35…配向膜、34…光変調層、34A…バルク、34B…微粒子、36…上側電極、40…反射板、51L…左眼、51R…右眼、d…基材の厚み、n1…空気層の屈折率、n2…基材の屈折率、L1A…第1の視点位置(右眼)に入射する光線、L1B…第2の視点位置(左眼)に入射する光線、P…バリアピッチ、LC0…表示中心位置、LCA…第1の視点位置、LCB…第2の視点位置、LCm…最適化前のスリット中心位置、LOm…最適化後のスリット中心位置、LOMA…第1の視点位置に対する最適スリット位置(第1のずれ位置)、LOMB…第2の視点位置に対する最適スリット位置(第2のずれ位置)、OffMA…第1の視点位置に対する位置ずれ量、OffMB…第2の視点位置に対する位置ずれ量、W1,W2…バリア幅、θ0…有効視野角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示部と、
前記表示部の背面側に配置されたバリア素子と
を備え、
前記バリア素子は、
前記表示部に向けて画像表示用の光線を出射するスリット部を有し、
前記スリット部は、横方向に間隔を空けて複数配置されていると共に、前記横方向の間隔が中心部から周辺部に行くに従い狭くなるように配置されている
立体表示装置。
【請求項2】
前記バリア素子は、第1の層を介して前記表示部の背面側に対向配置され、
前記スリット部と前記第1の層との間には、前記第1の層とは屈折率の異なる第2の層が設けられている
請求項1に記載の立体表示装置。
【請求項3】
前記スリット部の横方向の配置間隔は、前記第1の層と前記第2の層との屈折率差によって生ずる前記スリット部の光学的な位置ずれを補償するように最適化されている
請求項2に記載の立体表示装置。
【請求項4】
有効視野角の範囲内で互いに最も外側に位置する第1の視点位置と第2の視点位置とから前記スリット部を観察する場合において、
前記屈折率差が無いものとして前記第1の視点位置および前記第2の視点位置から観察される、前記スリット部の最適化前の中心位置をLCm、
前記屈折率差がある状態で前記第1の視点位置から前記最適化前の中心位置LCmを観察したときに前記屈折率差の影響で光学的にずれて観察される第1のずれ位置をLOMA、
前記屈折率差がある状態で前記第2の視点位置から前記最適化前の中心位置LCmを観察したときに前記屈折率差の影響で光学的にずれて観察される第2のずれ位置をLOMBとすると、
前記スリット部の最適化後の中心位置は、前記第1のずれ位置LOMAと前記第2のずれ位置LOMBとの中点に位置している
請求項3に記載の立体表示装置。
【請求項5】
前記第1の層は空気層であり、
前記第2の層は前記バリア素子の基材である
請求項2に記載の立体表示装置。
【請求項6】
前記複数のスリット部は、斜めストライプ形状で、かつ、S字曲線状に設けられている
請求項1に記載の立体表示装置。
【請求項7】
前記複数のスリット部は、斜め方向にS字曲線状にステップ配置されている
請求項1に記載の立体表示装置。
【請求項8】
画像表示用の光線を出射するスリット部を有し、
前記スリット部は、横方向に間隔を空けて複数配置されていると共に、前記横方向の間隔が中心部から周辺部に行くに従い狭くなるように配置されている
バリア素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−141331(P2012−141331A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291829(P2010−291829)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】