説明

竪型炉の炉底耐火物の内張り構造

【課題】大型竪型炉の炉底中央部の内張り耐火物の損耗速度を低減し、補修周期の延長を実現して、溶銑の生産効率の向上に有効な竪型炉の炉底耐火物の内張り構造を提案する。
【解決手段】炉基底部れんが層2上の炉内側に、不定形耐火物のスタンプ層3を形成してなる溶銑製造用竪型炉の炉底耐火物の内張り構造において、そのスタンプ層3の一部または全部、とくに炉底表面中央部にスタンプ層3に代えてプレキャストブロック4を施工した内張り構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉やシャフト炉等の竪型炉におけるその炉底耐火物の内張り構造に関し、特に、れんがとその上に施工される不定形耐火物層からなる炉底耐火物の内張り構造についての提案である。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄鋼産業の分野では溶銑製造設備として、主に鉄鉱石を還元するタイプの高炉が用いられている。その他、近年では、COの削減を目的として、鉄スクラップを溶解するタイプのシャフト炉も注目されている。
【0003】
シャフト炉は竪型溶解炉の一種であって、上部より原料である鉄スクラップと固体燃料であるコークスとを装入し、下部胴周部に設けた羽口から空気を送って該コークスを燃焼させることにより、鉄スクラップを溶解し、炉底近くの出銑口より溶銑とスラグを排出させる構造を有している。
【0004】
かかるシャフト炉の炉底部は、一般に、補修の時間(乾燥時間)を短縮する目的で、例えば、アルミナ(Al)−炭化珪素(SiC)一炭素(C)系耐火物(以下「ASC系耐火物」と略記する)などのスタンプ材を用いてスタンピングして築造するのが普通である。
【0005】
それは、シャフト炉炉底部の場合、損傷が激しく比較的短時間での補修が求められていることから、粉粒状のASC系耐火物などをランマーで加圧形成するだけのスタンピング法が有利でからである。即ち、従来のように、まず、型枠を形成し、その中に不定形耐火物を流し込む方法などでは、養生や乾燥に時間がかかり補修時間が長引く。この点、スタンピング法の方が短時間での施工が可能である。なお、この方法の場合、通常、1回のスタンピングで50〜200mmの厚さの内張り耐火物層を形成しており、これを複数回繰り返すことで、500〜1000mmの内張り耐火物層としている。
【0006】
この点に関し、従来、特許文献1には、シャフト炉の出銑口用スタンピング材として、ASC系耐火物からZrOを主成分とする耐火物に変更することで、耐火物の損耗速度を画期的に低減させるという技術が提案されている。
【0007】
また、特許文献2には、キュポラの炉底耐火物構造として、表面側に耐食性の高い素材にて構成された第1層と、断熱性の高い素材にて構成された第2層と、下面側に型砂層とからなる耐火物構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−263203号公報
【特許文献2】特開2002−147959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載されている従来技術の場合、確かに、出銑口まわりや炉底部に使用する耐火物自体の改良は達成された。しかし、近年のように、シャフト炉自体が大型化すると、特に、その炉底中央部の冷却が追いつかなくなり、この部分の耐火物の損耗速度が予想以上に大きくなる。それ故に、補修の間隔が極端に短くなって炉の稼働率が上がらないという問題があった。
【0010】
即ち、近年では溶銑生産性の向上のために、炉底部の内径が3.0m以上という大型シャフト炉の製作されている。このような大型炉の場合、その炉体が大きくなればなる程、炉底中央部の冷却が不足して侵食が激しくなるだけでなく、出銑速度が70t/hを超えることから、炉底中央部の耐火物が溶銑流によって損傷しやすくなる傾向がある。従って、たとえ出銑口まわりの耐火物の種類を前記のように変えても、炉寿命自体は炉底中央部の損傷が律速となって期待した程には延びず、その炉底耐火物補修のために、炉の稼働率が低下するという問題があった。また、特許文献1のような高価なZrOを炉底耐火物として大量に使用することは、経済的にも実施が困難である。
【0011】
また、特許文献2に記載されているように、たとえ炉内側(表面側)に耐食性の高い材質を使用したとしも、特に、上・下層で粗・密が不可避に発生するスタンプ施工では、耐食性改善効果が十分に発揮できないという問題も有った。
【0012】
以上、説明したように、大型シャフト炉の場合においては、その炉底中央部の耐火物損耗(侵食)速度が速く、炉寿命を改善するには少なくともこの部分(炉底中央部)の補強は不可欠であることがわかる。
【0013】
そこで、本発明の目的は、従来技術が抱えている上述した課題を解決し、高炉、シャフト炉等の溶銑を生産する竪型炉、特に大型竪型炉の炉底内張り耐火物、とりわけ炉底中央部の内張り耐火物の損耗速度を低減して、補修周期の延長を実現し、溶銑の生産効率の向上に有効な竪型炉の炉底耐火物の内張り構造を提案するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
ところで、発明者らがシャフト炉の炉底耐火物の侵食状況を調査したところ、炉底部の耐火物は中央部の侵食が最も激しいこと、さらに、その侵食された炉底中央部からは水平方向に階層状に侵食が進んでいることを突き止めた。
【0015】
その理由について、鋭意検討を重ねたところ、施工方法がスタンピング法である限り、1回のスタンプ層の積層構造が、上層部は比較的緻密(高密度)な層となるが、下層部はその上層部がクッションとなることから、比較的粗(低密度)な層となることが避けられないことにある。つまり、複数回のスタンピングを経て形成された炉底耐火物層というのは、常に粗と密の部分が交互に積層した構造となるのである。
【0016】
しかも、炉内径が3.0m以上の大型竪型炉の操業においては、炉底中央部のスタンプ層が上記のような侵食を受けると、そうして粗の部分の層の侵食速度のみが速くなるため、この部分が他の部分(密の部分)に先きがけて中央部分から順次に水平方向(炉外方向)へと侵食が進み、さらには、その侵食部分(粗の部分)に溶銑(メタル)が入り込むことで、侵食されていない緻密な耐火物層を剥離浮上させて、炉底耐火物層全体の侵食がより一層進むことが分った。
【0017】
そこで、発明者らは、前記知見に基づき、竪型炉の炉底耐火物の望ましい内張り構造について鋭意研究した結果、炉基底部れんが層上の炉内側に、不定形耐火物のスタンプ層を形成してなる溶銑製造用竪型炉の炉底耐火物の内張り構造において、そのスタンプ層の一部または全部をプレキャストブロックにて置き換えた竪型炉の炉底耐火物の内張り構造が有効であることを突き止め、本発明を開発するに到った。
【0018】
本発明においては、
(1)前記プレキャストブロックの施工範囲は、炉底表面における耐火物侵食速度の速い部分であること、
(2)前記プレキャストブロックの施工範囲は、炉底中央部であって、そのプレキャストブロック下には先施工のスタンプ層を有すると共に、該プレキャストブロックの外周囲にも後施工されたスタンプ層を有すること、
(3)前記プレキャストブロックは、ブロックどうしの接合面に当たる側面に凹部を有すること、
(4)前記プレキャストブロックは、ブロックどうしの接合面に当たる側面に凸部を有すること、
(5)竪型炉は、炉底部の内径が3.0m以上の大型炉であること、
が、より好ましい解決手段である。
【発明の効果】
【0019】
上記のように構成される本発明にかかる炉底耐火物の内張り構造によれば、炉底部の侵食の激しい炉底中央部のみに、予め乾燥されているプレキャストブロックを内張り耐火物として用いるので、従来のような中央部を含む全面をスタンプ材にて施工する場合に比べて、施工の時間を短縮できる。また、本発明によれば、炉底中央部を厚さ方向全体に亘って均一で緻密なプレキャストブロックにて内張り施工することで、スタンプ材積層構造の炉底部と比較すると、溶銑流による耐火物の損耗速度を著しく低減することができる。特に、プレキャストブロックを使用することにより、スタンピング施工時に見られる粗・密が繰返される層状の打ち継ぎ面がなくなって、層間への地金差しが減少し、炉底寿命を高める。
【0020】
従って、本発明によれば、高炉やシャフト炉等の竪型炉の炉底に用いる内張り耐火物層、特に、炉底中央部の損耗速度が大幅に低減し、竪型炉の長期連続操業が可能となり、高稼働率操業が可能になる分、生産性の向上、溶銑製造コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る竪型炉炉底部の部分断面図である。
【図2】従来竪型炉の炉底部の部分断面図である。
【図3】プレキャストブロック施工時の侵食状況を示す断面図である。
【図4】スタンプ材のみを施工した従来例での侵食状況を示す断面図である。
【図5】プレキャストブロックの一実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、この発明の一実施形態を説明するための竪型炉(キュポラ)の炉下部の部分を概略的に示す図である。この図に示すように、炉側壁は、図示しない鉄皮の内側にれんが2を積層して形成されている。その炉側壁の下部には溶銑と溶滓(スラグ)とを一括して取り出す出銑口1が形成されている。
【0023】
炉底部は、基底部れんが層2を築造した上に、まず、前記ASC系スタンプ材をスタンピング施工してスタンプ層3を形成する。そして、図示例のものは、侵食の激しい炉底中心部にのみ、プレキャストブロック4を載置施工し、次いで、そのプレキャストブロック4のまわりにも、スタンプ材を周知のランマ一によるスタンピング施工を行うことで取り囲むようにしてスタンプ層3を形成することにより、炉底部の内張り構造を構築する。
【0024】
上記のスタンピング処理において、1回のスタンピングで形成する層厚は約80mmとし、通常、5〜10層に分けて、底部のスタンプ(この場合はプレキャストのまわりの外周部スタンプ層を指す)層3を形成する。
【0025】
本発明で用いる前記プレキャストブロック4は、型枠に流し込んで成形し乾燥したものであるから、スタンプ層3とは異なり、厚さ方向にも均質で耐食性に優れた定形耐火物である。また、このプレキャストブロック4は、直方体の如き単純な形状でもよいが、図5に示すように、少なくとも上部外周縁の角部を面取り6あるいはアールを施したり、少なくともスタンプ層に接する側の外周面にスタンプ材が流入するような浮き上がり防止のための凹部7を形成したものがより好ましい。
【0026】
さらに、このプレキャストブロック4は、流し込み型での粗成型後、研削加工を加えて形状を整えるようにことが好ましい。なお、このプレキャストブロック4を複数個並べる場合には、前記面取り6は、互いに対向するブロック相互間については不要で、上述したように外周部のみ面取りすれがよい。それは、この面取り6は外周部まわりのスタンピングの際に、ランマーが該プレキャストブロック4の角部に当たって損傷しないようにするためである。また、前記凹部7は、隣り合うブロック同士の側面については、互いに嵌合する凹部7とこれに嵌合する凸部を有する構造にすることもでき、この場合は浮き上がり防止効果が一層向上し、従来のようなメタル5の差し込みも最小限に抑えることができるようなる。
【0027】
次に、発明者らは、プレキャストブロック4と、スタンプ層3との特性の比較試験を行った。この比較の試験は、竪型炉の炉底部にスタンプ層を形成する通常の方法で、まず、1層が80mmの2層からなるスタンプ層を形成して行った。そして、スタンプ層3については、上層スタンプ層の上部から0〜10mm部分、35〜45mm部分、70〜80mm部分(下部から0〜10mm部分)を採取し、各々の密度を測定した。上層ほど大きく、下層は小さかった。
【0028】
一方、プレキャストブロック4については、スタンプ層3形成時の押し付け圧力にて、80mmの厚さのブロックを作成し密度の測定を行った。そして、こうして得られた4種の耐火物の損耗特性を評価した。その結果を表1に示す。なお、損耗特性は誘導炉内張り侵食試験法により評価した。この試験は誘導炉内に耐火物を内張りし、内部でシャフト炉溶銑を誘導溶解し、耐火物を侵食させる試験であり、侵食による局損部の損耗速度を測定して評価した。試験条件は、加熱条件が1550℃×6hで、40リットル/分の窒素ガスで非大気雰囲気とした。評価には、Cを約4mass%含有するシャフト炉溶銑を使用した。
【0029】
その結果、1回に施工するスタンプ層3であってもその上層部3aと下層部3bとでは、損耗速度に大きな差があることが判明した。一方で、ブレキャストブロックを施工したものでは、損耗速度がスタンプ層の最も優れたものより、更に小さく耐食性に優れていることが判った。
【0030】
【表1】

【実施例】
【0031】
この実施例は、シャフト炉の炉底部に本発明に適合するプレキャストブロックおよび従来比較例であるスタンプ層をそれぞれ施工した場合の、両者の耐食性(炉底損耗速度)について比較試験をしたので、その結果を説明するものである。なお、使用したシャフト炉の内径は3.4mの大型竪型炉である。使用したプレキャストブロックは面取りした凹部を有する図5に示すような直方体形状(サイズ:1500mm×930mm×300mm)の、材質が62mass%Al−32mass%SiC−1.5mass%Cのブロックである。一方、スタンプ層としては、材質が65mass%Al−23mass%SiC−2mass%Cを用いた。
【0032】
実際の試験に当たっては、まず、本発明適用例の内張り構造の例として、炉基底部れんが層の上にスタンプ材を、80mm厚で4層施工した後、その上に、プレキャストブロックを炉中央部に配置し、その後、プレキャストブロックのまわりを4層のスタンプ材で埋めてスタンプ層を形成した。
【0033】
また、比較のための従来例の内張り構造の例として、炉基底部れんが層の上に、材質65mass%Al−23mass%SiC−2mass%Cのスタンプ材を、80mm厚で8層施工したスタンプ層3である。
【0034】
本発明例と比較例の両方について、出銑速度70t/hで60日間操業後、炉内張り耐火物の侵食状況を確認した。侵食速度は炉中央部で表2に示すような結果となった。即ち、プレキャストブロックを施工した本発明例では、ブロックの侵食はブロック施工前の厚さの半分(150mm)以下に止まったが、比較例では、炉中央部で300mm程度の侵食が確認された。また、比較例では、図3に示すように溶銑が粗の層に差し込み、図4に示すように中央部のスタンプ層に浮き上がりが観察された。
【0035】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の技術は、高炉やキューポラのようなシャフト形炉の炉底耐火物の内張り構造としてだけでなく、他の冶金炉や取鍋の底部の構造として適用が可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 出銑口
2 基底部れんが層
3 スタンプ層
3a 上層部
3b 下層部
4 プレキャストブロック
5 メタル
6 面取り
7 凹部(浮き上がり防止)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉基底部れんが層上の炉内側に、不定形耐火物のスタンプ層を形成してなる溶銑製造用竪型炉の炉底耐火物の内張り構造において、そのスタンプ層の一部または全部をプレキャストブロックにて置き換えたことを特徴とする竪型炉の炉底耐火物の内張り構造。
【請求項2】
前記プレキャストブロックの施工範囲は、炉底表面における耐火物侵食速度の速い部分であることを特徴とする請求項1に記載の竪型炉の炉底耐火物の内張り構造。
【請求項3】
前記プレキャストブロックの施工範囲は、炉底中央部であって、そのプレキャストブロック下には先施工のスタンプ層を有すると共に、該プレキャストブロックの外周囲にも後施工されたスタンプ層を有することを特徴とする請求項1または2記載の竪型炉の炉底耐火物の内張り構造。
【請求項4】
前記プレキャストブロックは、ブロックどうしの接合面に当たる側面に凹部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の竪型炉の炉底耐火物の内張り構造。
【請求項5】
前記プレキャストブロックは、ブロックどうしの接合面に当たる側面に凸部を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の竪型炉の炉底耐火物の内張り構造。
【請求項6】
竪型炉は、炉底部の内径が3.0m以上の大型炉であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の竪型炉の炉底耐火物の内張り構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−149863(P2012−149863A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10730(P2011−10730)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】