竪型炉内の溶融物レベル計測方法及び計測装置
【課題】溶融物のレベル計測の精度を向上させる。
【解決手段】溶鉱炉1の高さ方向に沿って並ぶ複数の電極E1〜E6を設け、その複数の電極のうちの最上部および最下部に設けた2本の電極E1,E6を電流印加用電極として電流を印加し、該電流印加用電極以外の複数の電極を電圧検出用電極として電圧を計測し、印加電流値と、計測電圧値とから溶融物レベルを把握する。その際、溶鉱炉の出銑口2よりも上方で且つ溶融スラグ層があると推定される高さ範囲に2本の電圧検出用電極E3,E4を配置し、その電極によって計測された電圧値に基づき溶融スラグ層の電気抵抗を求め、その求めた電気抵抗を使用して溶鉱炉内の溶融物レベルの演算値を補正する。
【解決手段】溶鉱炉1の高さ方向に沿って並ぶ複数の電極E1〜E6を設け、その複数の電極のうちの最上部および最下部に設けた2本の電極E1,E6を電流印加用電極として電流を印加し、該電流印加用電極以外の複数の電極を電圧検出用電極として電圧を計測し、印加電流値と、計測電圧値とから溶融物レベルを把握する。その際、溶鉱炉の出銑口2よりも上方で且つ溶融スラグ層があると推定される高さ範囲に2本の電圧検出用電極E3,E4を配置し、その電極によって計測された電圧値に基づき溶融スラグ層の電気抵抗を求め、その求めた電気抵抗を使用して溶鉱炉内の溶融物レベルの演算値を補正する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉その他の竪型炉内の溶融物のレベル計測を精度良く行う方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄業で使用される竪型炉の一つとして高炉がある。高炉は、最上流工程に位置するため、その操業の安定化技術が重要視されている。高炉では、炉頂部から原料となる鉄鉱石とともにコークスを投入し、羽口から圧送される熱風により鉄鉱石が還元されることで、溶銑を作っている。この際できる溶銑滓(スラグ及び溶銑)は炉底部に貯留され、一定時間間隔毎に出銑口を穿孔することで高炉の外へ排出している。
【0003】
ここで、高炉の炉下部の通気性を確保することは、高炉の安定操業において大変重要である。例えば、羽口先に存在するレースウェイ形状は、溶銑滓の液面レベルが低いときには、安定した形状を保っているが、その液面が上昇すると、レースウェイ形状が徐々に変化することで、炉心を流れていた熱風は、徐々に外側を流れるようになり、方角によって送風圧が異なる差圧変動状態となる。このような状態では、均一な造銑ができなくなるなど、炉況に不具合が生じる。炉況に不具合が生じた場合は、複数の出銑口を開孔して、溶滓を排出して送風圧を適正に戻すなど、炉下部の通気性を確保するアクションをとる必要がある。
さらに、溶滓レベルが過度に上昇しすぎると、最悪の場合には、羽口溶損トラブルに繋がることも懸念される。このようなトラブルが発生した場合は、長時間、操業に影響が出るのはもちろんのこと、安全面に関しても問題となると考えられる。
このようなことから、溶融物である溶滓のレベルを把握する必要がある。
【0004】
ここで、溶鉱炉内の溶融物レベルを計測する従来技術としては、例えば特許文献1に記載された技術がある。この技術は、溶鉱炉側面に対し高さ方向に沿って少なくとも4つの電極が並ぶように設け、これらの電極のうち最上部および最下部に設けた2本の電極を電流印加用電極として電流を印加し、電流印加用電極以外の電極を電圧検出用電極として電圧を計測することによって、計測した電圧またはその電圧から求まる電気抵抗の変化から溶鉱炉内の溶融物レベルを把握する計測方法である。例えば2本の電圧検出用電極を、出銑口を挟んで当該出銑口の上下位置に配置すると共に、その2本の電圧検出用電極間の電圧を計測し、その計測した電圧から求まる電気抵抗から炉内の溶融物のレベルを計測している。
【特許文献1】特開2006−176805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、溶融スラグ(溶けた滓)の見かけ電気抵抗は、温度や、塩基度、スラグ中に含まれるコークスの量や接触状態などによって変化する。そのスラグ層の電気抵抗が変化すると、溶融物のレベルが変化していなくても、計測した電圧、及びその電圧から求めた電気抵抗が変化してしまうことから、その分、溶融物のレベル変化の計測精度が悪くなるおそれがある。
本発明は、上記のような点に着目してなされたものであり、溶融物のレベル計測の精度を向上することが可能な竪型炉内の溶融物レベル計測方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、竪型炉の高さ方向に沿って並ぶ複数の電極を設け、その複数の電極のうちの最上部および最下部に設けた2本の電極を電流印加用電極として電流を印加し、該電流印加用電極以外の複数の電極を電圧検出用電極として電圧を計測し、上記印加した電流値と、上記計測した電圧値とから竪型炉内の溶融物レベルを計測する竪型炉内の溶融物レベル計測方法において、
竪型炉の出銑口よりも上方で且つ溶融スラグ層があると推定される高さ範囲に2本以上の電圧検出用電極を配置し、その電圧検出用電極によって計測された電圧値に基づき溶融スラグ層の電気抵抗を求め、その求めた溶融スラグ層の電気抵抗を使用して竪型炉内の溶融物レベルの計測値を補正することを特徴とするものである。
本発明では、上記2本の電極によって溶融スラグ層の電気抵抗値、つまりスラグの見かけ電気抵抗を求めることが出来る。
【0007】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した構成に対し、上記電圧検出用電極を、竪型炉の出銑口よりも上方に少なくとも3本配置し、その少なくとも3本の電圧検出用電極によって計測された電圧値を組合せて溶融物のレベルを演算することを特徴とするものである。
本発明では、上記3本の電極を使用した電圧によって、少なくとも溶滓レベルを計測できる。
次に、請求項3に記載した発明は、請求項2に記載した構成に対し、上記電圧検出用電極を、竪型炉の出銑口よりも下方に少なくとも1本配置し、複数の電圧検出用電極によって計測された電圧値に基づき溶銑層のレベルを演算することを特徴とするものである。
本発明では、溶銑レベルも計測できる。
【0008】
次に、請求項4に記載した発明は、竪型炉の高さ方向に沿って並ぶ複数の電極を設け、その複数の電極のうちの最上部および最下部に設けた2本の電極を電流印加用電極として電流を印加し、該電流印加用電極以外の複数の電極を電圧検出用電極として電圧を計測し、上記印加した電流値と、上記計測した電圧値とから竪型炉内の溶融物レベルを計測する竪型炉内の溶融物レベル計測装置において、
竪型炉の出銑口よりも上方で且つ溶融スラグ層があると推定される高さ範囲に2本以上の電圧検出用電極を配置し、その電圧検出用電極によって計測された電圧値に基づき溶融スラグ層の電気抵抗を求めるスラグ抵抗検出手段と、その求めた溶融スラグ層の電気抵抗を使用して竪型炉内の溶融物レベルの演算値を補正する補正手段とを備えることを特徴とする竪型炉内の溶融物レベル計測装置を提供するものである。
なお、本件発明において竪型炉とは、高炉などの溶鉱炉、キュポラ、シャフト式のスクラップ溶解炉、ガス化溶融炉などをいう。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶融スラグ層の電気抵抗を個別に測定、つまり溶融スラグの見かけ電気抵抗の変化を検出することで、溶融スラグの見かけ電気抵抗の変化とレベル変化を区別することが可能となり、溶融物のレベル計測の精度が向上、つまり、より信頼性のある溶融物のレベル計測を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明に基づく実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、竪型炉の例として高炉を例に挙げるが、他の竪型炉でも同様にして本件発明を適用することが出来る。
(構成)
図1は、本実施形態に係る溶融物レベル測定方法を説明するための溶融物レベル計測装置の概略構成図である。この実施形態では、使用する電極が6本の場合の例で説明する。
その構成を説明すると、図1に示すように、溶鉱炉1の側面に沿って高さ方向に並ぶようにして6本の電極E1〜E6(上から電極E1、電極E2、・・・、電極E6)が配置されている。6本の電極E1〜E6のうちの、4本の電極E1〜E4は、出銑口2よりも上方に配置され、残りの2本の電極E5,E6は出銑口2よりも下方に配置されている。
【0011】
上記6本の電極E1〜E6のうちの最上部および最下部に設けた2本の電極E1,E6は、電流印加用電極を構成する。この2つの電流印加用電極E1,E6は、ケーブル3を介して信号発生器4に接続されている。信号発生器4は電流信号を発信し、その電流信号を2つの電流印加用電極E1,E6を通じて溶鉱炉1内に流す。また、信号発生器4は、電流信号と同一の波形となる信号を後述のレベル演算装置5にも供給する。
【0012】
上記2つの電流印加用電極E1,E6間に配置される、その他の電極E2〜E5は、電圧検出用電極を構成する。それらの電圧検出用電極E2〜E5は、ケーブル6を介してレベル演算装置5に接続される。
これによって、本実施形態では、電圧検出用電極として、出銑口2よりも上方に3本の電極E2〜E4が配置され、出銑口2よりも下方に1本の電極E5が配置されることになる。
【0013】
上記出銑口2よりも上方に配置した3本の電圧検出用電極E2〜E4のうち、一番上方に位置する電極E2は、溶滓レベルLVL1の想定される上限レベル以上の高さ位置に設定される。この電極E2は、溶滓レベル計測用の電極である。
また、上記出銑口2よりも上方に配置した3本の電圧検出用電極E2〜E4のうち、下側の2本の電極E3,E4は、溶融スラグ層7があると推定される高さ範囲に配置されている。この2本の電極E3,E4のうち、上側の電極E3は、溶融スラグ層電気抵抗参照用の電極である。
【0014】
ここで、対象とする高炉1によって異なるが、炉内の溶銑レベルLVL2が変化してレベルが高い場合でも出銑口2より50cm程度であると考えられている。これに基づき、本実施形態では、出銑口2よりも上部に設ける電極のうち最下部の電極E4は、出銑口2より50cm+α(αは余裕代)だけ上部に設置する。このようにすることで、電極E4は、スラグ層7があると推定される高さ位置に設定される。また、溶融スラグ層電気抵抗参照用の電極E3の位置は、炉内に常時溶融スラグ層7が存在する高さにするため、可能な限り上記電極E4に近い位置が望ましい。ただし、下側の電極E4に近づき過ぎると測定の分解能が不足するおそれがある。このため、溶滓レベルLVL1を計測するための電極E2を、最初に設置して電圧を測定し、使用する装置の分解能にあわせて電極E3の設置位置を決定すればよい。
出銑口2よりも下方に配置した電極のうち、電極E5は、炉底1aの高さに設定し、電極E6を炉底1aより下方に配置する。
【0015】
上記各電極E1〜E6は、例えば、図2に示すようにして炉側面に設置される。この例では、電極Eを設定する位置において、炉壁を構成する鉄皮12及びスタンプ材11に同軸に挿通孔が形成されるように開孔することで、レンガ10(例えばカーボンレンガからなる。)の外表面を露出させる。そして、その挿通孔12a、11aに電極Eを差し込み、その電極Eの先端部をレンガ10に当接させる。このとき、電極Eの先端部を、レンガ10の外表面に確実に密着させ電気的接触を図れるようにするために、電極をレンガ10に向けて付勢するバネ13(図2ではコイルバネ)が備えられている。図2に示す構造では、挿通孔12a、11aよりも内径が大きな筒部材14を備え、その筒部材14を、上記挿通孔12a、11aと同軸に配置した状態で炉から側方に突設させる。その筒部材14の突出端に固定された支持板15の中央部に、上記電極Eを軸方向に移動可能な状態で支持させると共に、その支持板15に反力を取ったバネ部材の弾性力で電極Eをレンガ10の外表面に向けて付勢する。その電極Eの他端部は、弛ませて余裕のあるケーブル16を介してワンタッチのコネクタ17に接続され、そのコネクタ17に対し対応するケーブル3,6の端部が接続されている。
【0016】
また、上記電極Eの外周は、少なくとも挿通孔12a、11aに挿入される部分、つまり鉄皮12近傍位置が、セラミックスなどの絶縁体のカバー18で被覆されていて、電極Eから鉄皮12に電流が流れ込むのを抑制している。なお、カバー18から電極Eの先端部は突出している。このように電極Eを設置することで、炉内へ効率的に電流を流すことが可能で、計測精度を向上させることが可能となる。
また、上記信号発生器4は、矩形波などからなる所定の電流信号を出力する。
また、上記レベル演算装置5は、図3に示すように、信号処理部5Aとレベル演算本体部5Bとを備える。そして、レベル演算装置5は、入力した信号に基づき、溶融スラグ層7の電気抵抗r2(スラグの見かけ電気抵抗)、溶銑レベルLVL2、溶滓レベルLVL1を演算する。
【0017】
(レベル測定原理)
まず、出銑口2よりも上にある、電圧検出用電極E2,E4を、電圧検出端子として使用する場合を考える。
溶滓レベルLVL1と電圧の関係は、図4(b)に示すような等価回路で表される。この等価回路から、電極E2と電極E4との間における電気抵抗Rを合成抵抗として計算すると溶滓レベルLVL1(x1+x2)とRとの関係は次の式で表される。
【0018】
【数1】
【0019】
ここで、
r0:レンガ10の電気抵抗率
r1:溶銑の電気抵抗率
r2:スラグの見かけ電気抵抗率(溶融スラグ層7の電気抵抗率)
LDOWN:炉底1aから電極E5までの距離
LUP:電極E2〜E4までの距離
x1:溶銑厚さ(高さ)
x2:スラグ厚さ(高さ)
である。
そして、この2本の電極E2,E4間の電圧変化から溶滓レベルLVL1の時間変化を知ることが可能である。
また、出銑口2下の電圧電極E5と、出銑口2上に設置した電極E2を電圧検出端子として使用する場合を考える。
溶滓レベルLVL1と電圧の関係は、図5(b)に示すような等価回路で表される。この等価回路から、電極E2と電極E5との間における電気抵抗R′を合成抵抗として計算すると、R′は次の式で表される。
【0020】
【数2】
【0021】
ここで、x3は、スラグ表面(上面)から電極E2までの距離であり、
L=x1+x2+x3である。
そして、上記(1)式と(2)式を連立方程式として、x1,x2について解くことができる。ここで、x1は溶銑レベルLVL2(層厚)、x2はスラグ層7のレベル(層厚)である。
ただし、上述のように、溶融スラグ層7の電気抵抗r2は一定でなく、変化する。したがって、電気抵抗r2が変化すると、式(1)の電気抵抗R、式(2)の電気抵抗R′ともに変化することになるので、電気抵抗r2を測定値から決定する必要がある。
そのため、出銑口2よりも上にある、電極E3,E4を電圧検出端子として使用する場合を考える。
電極E3と電極E4との間に生じる電圧は、レンガ10と溶融スラグの並列抵抗に比例し、溶融スラグ層7の電気抵抗r2が変化することによって、この電圧も変化する。従って、電極E3と電極E4との間における電気抵抗Rsは以下の式で表される。
【0022】
【数3】
【0023】
ここで、x4は、電極E3と電極E4との間の電極間距離である。
上記(3)式からr2を求めると、
【0024】
【数4】
と表される。
【0025】
このように、電極E3,E4を電圧検出端子として溶融スラグ層7の電気抵抗値r2、すなわち、スラグの見かけ電気抵抗値r2を求めることが出来る。
そして、上記(4)式で表される実際のスラグ層7の電気抵抗r2を使用することで、上述の連立方程式から求められるx1,x2から、正確な溶滓レベルLVL1(=x1+x2)および溶銑レベルLVL2(=x1)を測定することが出来る。
そして、このようなレベル測定原理に基づき、上記レベル演算本体部5Bは、溶銑滓レベルLVL1(x1+x2)と、溶銑レベルLVL2(=x1)場合によってスラグ層厚(=x2)を求める。
【0026】
図6に、上記測定原理に基づく、レベル演算本体部5Bの処理ブロックを示す。すなわち、レベル演算本体部5Bは、スラグ電気抵抗算出部5Ba、第1抵抗補正部5Bb、第2抵抗補正部5Bc、溶滓レベル演算部5Bd、及び溶銑レベル演算部5Beを備える。
スラグ電気抵抗算出部5Baは、電気抵抗Rsに基づき(4)式によってスラグの見かけ電気抵抗値r2を算出する。
【0027】
第1抵抗補正部5Bbは、算出した電気抵抗値r2に基づき、(1)式を補正する。
第2抵抗補正部5Bcは、算出した電気抵抗値r2に基づき、(2)式を補正する。
溶滓レベル演算部5Bdは、補正後の(1)式から、溶滓レベルLVL1(=x1+x2)を求める。
溶銑レベル演算部5Beは、補正後の(2)式から、溶銑レベルLVL2(=x1)を、場合によって溶融スラグ層7の厚さ(=x2)を求める。
ここで、スラグ電気抵抗算出部5Baはスラグ抵抗検出手段を、第1抵抗補正部5Bb、及び第2抵抗補正部5Bcは、補正手段を構成する。
【0028】
次に、電気抵抗を演算する信号処理部5Aを説明する。
ここで、電気抵抗の測定方法としては、交流電流を印加する方法も考えられるが、測定する抵抗値(電圧値)が小さいため、印加する電流は大きくしないと測定が行えない。ところが交流電流を大きくすると、交流電流が作り出す磁束の時間変化によって誘導起電力を発生させ、その誘導起電力がノイズとして検出され、大きな誘導起電力ノイズは真の信号と判別できなくなる。このため、十分な計測精度が得られない。
また、直流電流の場合は、さらに高炉内部で発生する起電力や熱起電力との識別が不可能となるため、やはり精度が不十分である。
【0029】
一方、印加する電流信号としてM系列信号を適用すると、S/Nよく測定が可能である。このため、本実施形態では、信号発生器4の発信する電流信号としてM系列信号を使用する。
そして、信号処理部5Aは、入力したアナログの電圧波形をA/D変換器でデジタル化した電圧信号波形に変換し、得られた電圧信号波形について信号処理本体部で相関演算を施して電圧値を算出する。
ここで、検出電圧波形は、印加信号波形に相似形をなすと期待されるが、実際には図7に示すように誘導起電力がノイズとして重畳された状態で検出される。また、ランダムなノイズも検出電圧信号上に現れる可能性があり、ノイズを取り除くための信号処理が必要である。
【0030】
信号処理部5Aの処理を、図8を参照しつつ説明する。
なお、信号発生器4の発信する電流信号として、矩形波信号と疑似ランダム信号のいずれかを発信するとする。
信号処理本体部は、まず、ステップS10にて、印加電流が疑似ランダム信号か否かを判定し、疑似ランダム信号と判定した場合にはステップS20に移行し、矩形波信号と判定した場合にはステップS60に移行する。
ステップS20では、入力した電圧波形を、所定サンプリング周期でサンプリングして、A/D変換器でデジタル化した電圧信号波形に変換して、ステップS30に移行する。
ステップS30では、誘導起電力ノイズ(誘電起電力成分)と信号成分との分離処理を行う。
【0031】
誘導起電力によるノイズは、図6に示したように、電圧検出波形の符号の切り変わり直後に現れる。電圧の時間変化率ΔV/Δtの絶対値は符号が変化した瞬間非常に大きい値をとる。その後徐々に減少し0に近い値となる。これに鑑み、図9に示すように、閾値を設定して、ΔV/Δtの絶対値が閾値よりも大きい時間区間を誘導起電力ノイズ区間と決定し、ΔV/Δtの絶対値が閾値よりも小さい区間部分を信号成分区間として分離する。
【0032】
続いて、ステップS40に移行して、誘導起電力ノイズの除去処理を施す。
誘導起電力ノイズは、計測を行う際の検出系の構成で決定されるため、検出系のケーブルや電極の構成を変更しない限り符号の切り換り後同じ時間だけ現れる。これに鑑み、図10のように、ステップS30で決定した誘導起電力ノイズ区間の一定時間を、検出電圧波形の各符号切り換り時点から除去する。このとき、本実施形態で、計算を容易にするためこの区間の電圧を0Vとする。またこのとき、0Vとしたデータの数nを数えて記録しておく。さらに0Vとした区画はデータから除去し、信号成分のデータのみを結合した信号とする。
【0033】
ここで、上述の電圧信号波形に変換する際にサンプリングしたデータ数は、信号成分と誘導起電力ノイズ成分の各区間の合計のデータ数であり、これをNとしたとき、それから誘導起電力ノイズ成分のデータ数を減算した(N−n)個のデータが信号成分となる。よって、誘導起電力ノイズ区間を除去した検出電圧波形は、データ数が(N−n)となる。
続いてステップS50に移行して、相関演算処理を行う。
【0034】
なお、擬似ランダム信号は、入力(参照)信号波形とステップS40で求めた検出電圧波形の相関計算処理を行って、S/Nのよい測定結果が得られる。ただし、ステップS40で誘導起電力ノイズ成分の区間は除去したので、入力(参照)信号の対応する時間区間のデータも除去して(N−n)個のデータとする。
印加信号波形のi番目のデータをf(i)、検出電圧波形のi番目のデータをg(i)とすると、自己相関関数V(j)は次のような式で表される。
【0035】
【数5】
【0036】
そして、整数jを0〜(N−n)の間で変化させたときのV(j)の最大値が、電気抵抗算出の際に使用する検出電圧Vとなる。
また、数周期の擬似ランダム信号に関して相関演算を行い、各周期でのV(j)の最大値の平均をとることで、S/Nをさらに向上することができる。
一方、ステップS10にて、印加電流が矩形波信号と判定された場合には、ステップS60に移行する。ステップS60では、ステップS20の処理と同様に、入力した電圧波形を、所定サンプリング周期でサンプリングして、A/D変換器でデジタル化した電圧信号波形に変換してステップS70に移行する。ステップS70では、ステップS30と同様に、誘導起電力ノイズ(誘電起電力成分)と信号成分との分離処理を行う。即ち、閾値を設定して、ΔV/Δtの絶対値が閾値よりも大きい時間区間を誘導起電力ノイズ区間と決定し、ΔV/Δtの絶対値が閾値よりも小さい区間部分を信号成分区間として分離する。更に、ステップS80では、ステップS40と同様に誘導起電力ノイズ区画を除去し、信号成分のみの波形とする。
【0037】
その後、ステップS90にて、信号成分の電圧を絶対値に変換し、その平均値を求める電圧値とする。
そして、ステップS100では、上記求めた電圧値を、電流値で除算して電気抵抗を算出して出力する。
上記電気抵抗の算出は、図6の処理ブロック5Aa〜5Ac毎に、つまり対象とする電極間毎に、つまり電極E2−E4、電極E3−E4,電極E2−E5毎に処理されて、上記レベル演算本体部5Bに出力され、上述のように各種の溶融物レベルが求められる。
【0038】
(作用効果)
炉1の炉下部を、溶銑、スラグ、炉内の積層コークスおよび炉下部を構成するレンガ10などを含めて導電体の塊とみなすと、溶融物のレベルが増加するにつれて、導電体の体積は増加するため電気抵抗は減少する。また、溶融物のレベルが減少するにつれて、導電体の体積は減少するため電気抵抗は増加する。印加する電流が一定であれば、レベルが下がるに従って検出される電圧も増加し、レベルが上昇するにつれて電圧は降下する。
従って、上述のように、電気抵抗R、R′を測定することで、各種の溶融物レベルを把握することが出来る。
【0039】
ここで、溶融スラグ自体の電気抵抗率は、おおよそ1mΩ・mであることが分かっている。しかしながら、スラグ中にはコークスが密に存在するため、溶融スラグ層7の見かけ電気抵抗率r2は小さく0.1mΩ・m程度であると考えられる。溶融スラグ自体の電気抵抗は炉壁レンガ10の電気抵抗よりも高いかほぼ同等であるが、炉内の溶融スラグ中には、上述のように、コークスが存在しコークスの粒子1つ1つは電気抵抗が低いため、溶融スラグがコークスの粒子間を満たした際には、溶融スラグ層7の見かけ電気抵抗r2は大きく減少することになる。
【0040】
さらに、炉内の炉心コークスは出銑や炉内の状況によって動いていると考えられおり、溶融スラグ中に存在するコークスは接触状態が密になったり疎になったりと変動するものと考えられる。このため、スラグの見かけ電気抵抗r2は、コークスが密になった場合に電気抵抗r2は減少し、コークスが疎になった場合に電気抵抗r2は増加する。
【0041】
これに対し、本実施形態では、溶融スラグの見かけ電気抵抗r2、つまり溶融スラグ層7の電気抵抗r2を求め、その求めた溶融スラグ層7の電気抵抗r2で、計測したレベル検出用の電気抵抗R、R′を補正しているので、スラグの見かけ電気抵抗r2の変化による計測結果への影響を除去し、溶融物レベル、つまり溶滓レベルLVL1や溶銑レベルLVL2の変化をより精度良く求めることが可能となる。
ここで、溶銑レベルLVL2を検出する必要がない場合には、出銑口2よりも下側に配置した電圧検出用電極E5を省略し、電気抵抗R′の算出処理を省略する。
【実施例】
【0042】
次に、本発明の1実施例を説明する。炉として溶鉱炉を使用した場合の例である。
印加電流信号として、クロック周波数6Hz、符号長が127のM系列信号波形を適用し、炉体への印加電流値は±4Aとした。
M系列信号は信号発生器4の本体で製作し、その信号をDA変換して出力する。出力された信号は電流アンプにて増幅して、電極E1と電極E6を介して炉体へと印加する。なお、M系列信号は専用の回路を製作して発生させてもよい。
【0043】
またM系列信号の符号長は1点あたりの測定に十分時間がかけられる場合は、より長い符号長のもの(例えば511など)を使用してもよい。また、検出電圧波形中の信号部分が1符合中で十分得られれば、クロック周波数をより高くすることが可能である。
電極E1は羽口下1mの位置に設置し、その1m下に電圧検出用電極E2を設置した。出銑口2の上1mの位置に電圧検出用電極E4を設置した。電圧検出用電極E3は電極E4の上側30cmの位置に設置した。また、出銑口2よりも2m下の位置に電圧検出用電極E5を設置し、その1m下に電極E6を設置した。以上の6本の電極E1〜E6は、高さ方向に沿って直線上に並ぶように配置した。
【0044】
電極E2−E4、電極E3−E4、電極E2−E5間に生じる電位差は、それぞれケーブル6を介してAD変換器へと接続し、レベル演算装置5に入力されて信号処理を行った。AD変換器のサンプリング周波数は3kHzとした。
検出電圧波形には、M系列信号の符号が切り替わる時点に誘導起電力によるノイズが現れた。このとき、電流波形を参照して符号切り替わり部を検出し、検出電圧波形中の誘導ノイズを100mV/secを閾値として、符号が切り替わる全ての時点からデータをノイズとして切り捨てた。そして、電流波形からも同じ数のデータを切り取る処理を行い、電流波形を参照信号としてノイズ切り取り処理を行った検出電圧波形との相関演算を行う。
【0045】
電極E2−E4間の電気抵抗R、電極E3−E4間の電気抵抗Rs、および電極E2−E5間の電気抵抗R’の24時間にわたる変化を図11に示す。
炉内の溶融物レベルは、出銑の初期には出銑口2の径が小さく出銑速度に比べて造銑滓速度のほうが勝るためにレベルは上昇する。また、出銑中に出銑口2の径が徐々に広がり、やがて出銑速度のほうが勝るようになるとレベルは低下する。
【0046】
電気抵抗R、R’は突然大きく変化していたが、操業状況から炉内の溶融物レベルが短時間のうちに大きく変化することはないと考えられる。このとき、スラグの電気抵抗r2も変化していることから、スラグの電気抵抗r2の変化が影響したと考えられる。
電極E3−E4間の電気抵抗Rsから求めたスラグ電気抵抗r2を用いて、それぞれの測定タイミングのデータを補正すると、電気抵抗RおよびR’から計算される溶滓レベルLVL1(=x1+x2)および溶銑レベルLVL2(=x1)の変化は、図12のようになり、補正前の電気抵抗R、R’に見られたような大きな変化は消失した。
【0047】
なお、電極の設置は、鉄皮12を開口し、鉄皮12とレンガ10の間にあるスタンプ材11を除去してレンガ10の表面を露出させて、先端部がレンガ10に密着するようにバネで押し付ける構造にした。
もっとも、溶鉱炉1の建造時から本発明の適用を計画する場合は、予めレンガ10に電極を埋め込んでおくと接触抵抗などの影響を最小限に抑えることが可能であるので、より精度のよい計測が行える。
ここで、上記実施形態及び実施例では、竪型炉として高炉に本件発明を例にとって説明したが、高炉に限定されるものではなく、銅や鉛などを精錬する溶鉱炉、キュポラ、シャフト式のスクラップ溶解炉、ガス化溶融炉などの竪型炉にも本件発明は適用出来る。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に基づく実施形態に係る溶融物レベル計測装置を説明するための概要構成図である。
【図2】電極の設置状況を模式的に示す図である
【図3】レベル演算装置の構成を示す図である。
【図4】電極E2−E4間の等価回路を示す図である。
【図5】電極E2−E5間の等価回路を示す図である。
【図6】レベル演算部本体の構成を示す図である。
【図7】検出電圧波形の一例を示す図である
【図8】信号処理部の処理を説明する図である。
【図9】誘導起電力ノイズ部分と信号部分の決定方法を説明する図である
【図10】信号処理後の波形の一例を示す図である
【図11】電気抵抗、抵抗R、Rs、R’の時間的変化を示す図である
【図12】補正後の計測レベルの時間的変化を示す図である
【符号の説明】
【0049】
1 炉
1a 炉底
2 出銑口
4 信号発生器
5 レベル演算装置
5A 信号処理部
5B レベル演算本体部
5Ba スラグ電気抵抗算出部
5Bb 第1抵抗補正部
5Bc 第2抵抗補正部
5Bd 溶滓レベル演算部
5Be 溶銑レベル演算部
7 溶融スラグ層
10 レンガ
12 鉄皮
E 電極
E1,E6 電流印加用電極
E2〜E5 電圧検出用電極
LVL1 溶滓レベル
LVL2 溶銑レベル
r2 スラグ電気抵抗
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉その他の竪型炉内の溶融物のレベル計測を精度良く行う方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄業で使用される竪型炉の一つとして高炉がある。高炉は、最上流工程に位置するため、その操業の安定化技術が重要視されている。高炉では、炉頂部から原料となる鉄鉱石とともにコークスを投入し、羽口から圧送される熱風により鉄鉱石が還元されることで、溶銑を作っている。この際できる溶銑滓(スラグ及び溶銑)は炉底部に貯留され、一定時間間隔毎に出銑口を穿孔することで高炉の外へ排出している。
【0003】
ここで、高炉の炉下部の通気性を確保することは、高炉の安定操業において大変重要である。例えば、羽口先に存在するレースウェイ形状は、溶銑滓の液面レベルが低いときには、安定した形状を保っているが、その液面が上昇すると、レースウェイ形状が徐々に変化することで、炉心を流れていた熱風は、徐々に外側を流れるようになり、方角によって送風圧が異なる差圧変動状態となる。このような状態では、均一な造銑ができなくなるなど、炉況に不具合が生じる。炉況に不具合が生じた場合は、複数の出銑口を開孔して、溶滓を排出して送風圧を適正に戻すなど、炉下部の通気性を確保するアクションをとる必要がある。
さらに、溶滓レベルが過度に上昇しすぎると、最悪の場合には、羽口溶損トラブルに繋がることも懸念される。このようなトラブルが発生した場合は、長時間、操業に影響が出るのはもちろんのこと、安全面に関しても問題となると考えられる。
このようなことから、溶融物である溶滓のレベルを把握する必要がある。
【0004】
ここで、溶鉱炉内の溶融物レベルを計測する従来技術としては、例えば特許文献1に記載された技術がある。この技術は、溶鉱炉側面に対し高さ方向に沿って少なくとも4つの電極が並ぶように設け、これらの電極のうち最上部および最下部に設けた2本の電極を電流印加用電極として電流を印加し、電流印加用電極以外の電極を電圧検出用電極として電圧を計測することによって、計測した電圧またはその電圧から求まる電気抵抗の変化から溶鉱炉内の溶融物レベルを把握する計測方法である。例えば2本の電圧検出用電極を、出銑口を挟んで当該出銑口の上下位置に配置すると共に、その2本の電圧検出用電極間の電圧を計測し、その計測した電圧から求まる電気抵抗から炉内の溶融物のレベルを計測している。
【特許文献1】特開2006−176805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、溶融スラグ(溶けた滓)の見かけ電気抵抗は、温度や、塩基度、スラグ中に含まれるコークスの量や接触状態などによって変化する。そのスラグ層の電気抵抗が変化すると、溶融物のレベルが変化していなくても、計測した電圧、及びその電圧から求めた電気抵抗が変化してしまうことから、その分、溶融物のレベル変化の計測精度が悪くなるおそれがある。
本発明は、上記のような点に着目してなされたものであり、溶融物のレベル計測の精度を向上することが可能な竪型炉内の溶融物レベル計測方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、竪型炉の高さ方向に沿って並ぶ複数の電極を設け、その複数の電極のうちの最上部および最下部に設けた2本の電極を電流印加用電極として電流を印加し、該電流印加用電極以外の複数の電極を電圧検出用電極として電圧を計測し、上記印加した電流値と、上記計測した電圧値とから竪型炉内の溶融物レベルを計測する竪型炉内の溶融物レベル計測方法において、
竪型炉の出銑口よりも上方で且つ溶融スラグ層があると推定される高さ範囲に2本以上の電圧検出用電極を配置し、その電圧検出用電極によって計測された電圧値に基づき溶融スラグ層の電気抵抗を求め、その求めた溶融スラグ層の電気抵抗を使用して竪型炉内の溶融物レベルの計測値を補正することを特徴とするものである。
本発明では、上記2本の電極によって溶融スラグ層の電気抵抗値、つまりスラグの見かけ電気抵抗を求めることが出来る。
【0007】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した構成に対し、上記電圧検出用電極を、竪型炉の出銑口よりも上方に少なくとも3本配置し、その少なくとも3本の電圧検出用電極によって計測された電圧値を組合せて溶融物のレベルを演算することを特徴とするものである。
本発明では、上記3本の電極を使用した電圧によって、少なくとも溶滓レベルを計測できる。
次に、請求項3に記載した発明は、請求項2に記載した構成に対し、上記電圧検出用電極を、竪型炉の出銑口よりも下方に少なくとも1本配置し、複数の電圧検出用電極によって計測された電圧値に基づき溶銑層のレベルを演算することを特徴とするものである。
本発明では、溶銑レベルも計測できる。
【0008】
次に、請求項4に記載した発明は、竪型炉の高さ方向に沿って並ぶ複数の電極を設け、その複数の電極のうちの最上部および最下部に設けた2本の電極を電流印加用電極として電流を印加し、該電流印加用電極以外の複数の電極を電圧検出用電極として電圧を計測し、上記印加した電流値と、上記計測した電圧値とから竪型炉内の溶融物レベルを計測する竪型炉内の溶融物レベル計測装置において、
竪型炉の出銑口よりも上方で且つ溶融スラグ層があると推定される高さ範囲に2本以上の電圧検出用電極を配置し、その電圧検出用電極によって計測された電圧値に基づき溶融スラグ層の電気抵抗を求めるスラグ抵抗検出手段と、その求めた溶融スラグ層の電気抵抗を使用して竪型炉内の溶融物レベルの演算値を補正する補正手段とを備えることを特徴とする竪型炉内の溶融物レベル計測装置を提供するものである。
なお、本件発明において竪型炉とは、高炉などの溶鉱炉、キュポラ、シャフト式のスクラップ溶解炉、ガス化溶融炉などをいう。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶融スラグ層の電気抵抗を個別に測定、つまり溶融スラグの見かけ電気抵抗の変化を検出することで、溶融スラグの見かけ電気抵抗の変化とレベル変化を区別することが可能となり、溶融物のレベル計測の精度が向上、つまり、より信頼性のある溶融物のレベル計測を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明に基づく実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、竪型炉の例として高炉を例に挙げるが、他の竪型炉でも同様にして本件発明を適用することが出来る。
(構成)
図1は、本実施形態に係る溶融物レベル測定方法を説明するための溶融物レベル計測装置の概略構成図である。この実施形態では、使用する電極が6本の場合の例で説明する。
その構成を説明すると、図1に示すように、溶鉱炉1の側面に沿って高さ方向に並ぶようにして6本の電極E1〜E6(上から電極E1、電極E2、・・・、電極E6)が配置されている。6本の電極E1〜E6のうちの、4本の電極E1〜E4は、出銑口2よりも上方に配置され、残りの2本の電極E5,E6は出銑口2よりも下方に配置されている。
【0011】
上記6本の電極E1〜E6のうちの最上部および最下部に設けた2本の電極E1,E6は、電流印加用電極を構成する。この2つの電流印加用電極E1,E6は、ケーブル3を介して信号発生器4に接続されている。信号発生器4は電流信号を発信し、その電流信号を2つの電流印加用電極E1,E6を通じて溶鉱炉1内に流す。また、信号発生器4は、電流信号と同一の波形となる信号を後述のレベル演算装置5にも供給する。
【0012】
上記2つの電流印加用電極E1,E6間に配置される、その他の電極E2〜E5は、電圧検出用電極を構成する。それらの電圧検出用電極E2〜E5は、ケーブル6を介してレベル演算装置5に接続される。
これによって、本実施形態では、電圧検出用電極として、出銑口2よりも上方に3本の電極E2〜E4が配置され、出銑口2よりも下方に1本の電極E5が配置されることになる。
【0013】
上記出銑口2よりも上方に配置した3本の電圧検出用電極E2〜E4のうち、一番上方に位置する電極E2は、溶滓レベルLVL1の想定される上限レベル以上の高さ位置に設定される。この電極E2は、溶滓レベル計測用の電極である。
また、上記出銑口2よりも上方に配置した3本の電圧検出用電極E2〜E4のうち、下側の2本の電極E3,E4は、溶融スラグ層7があると推定される高さ範囲に配置されている。この2本の電極E3,E4のうち、上側の電極E3は、溶融スラグ層電気抵抗参照用の電極である。
【0014】
ここで、対象とする高炉1によって異なるが、炉内の溶銑レベルLVL2が変化してレベルが高い場合でも出銑口2より50cm程度であると考えられている。これに基づき、本実施形態では、出銑口2よりも上部に設ける電極のうち最下部の電極E4は、出銑口2より50cm+α(αは余裕代)だけ上部に設置する。このようにすることで、電極E4は、スラグ層7があると推定される高さ位置に設定される。また、溶融スラグ層電気抵抗参照用の電極E3の位置は、炉内に常時溶融スラグ層7が存在する高さにするため、可能な限り上記電極E4に近い位置が望ましい。ただし、下側の電極E4に近づき過ぎると測定の分解能が不足するおそれがある。このため、溶滓レベルLVL1を計測するための電極E2を、最初に設置して電圧を測定し、使用する装置の分解能にあわせて電極E3の設置位置を決定すればよい。
出銑口2よりも下方に配置した電極のうち、電極E5は、炉底1aの高さに設定し、電極E6を炉底1aより下方に配置する。
【0015】
上記各電極E1〜E6は、例えば、図2に示すようにして炉側面に設置される。この例では、電極Eを設定する位置において、炉壁を構成する鉄皮12及びスタンプ材11に同軸に挿通孔が形成されるように開孔することで、レンガ10(例えばカーボンレンガからなる。)の外表面を露出させる。そして、その挿通孔12a、11aに電極Eを差し込み、その電極Eの先端部をレンガ10に当接させる。このとき、電極Eの先端部を、レンガ10の外表面に確実に密着させ電気的接触を図れるようにするために、電極をレンガ10に向けて付勢するバネ13(図2ではコイルバネ)が備えられている。図2に示す構造では、挿通孔12a、11aよりも内径が大きな筒部材14を備え、その筒部材14を、上記挿通孔12a、11aと同軸に配置した状態で炉から側方に突設させる。その筒部材14の突出端に固定された支持板15の中央部に、上記電極Eを軸方向に移動可能な状態で支持させると共に、その支持板15に反力を取ったバネ部材の弾性力で電極Eをレンガ10の外表面に向けて付勢する。その電極Eの他端部は、弛ませて余裕のあるケーブル16を介してワンタッチのコネクタ17に接続され、そのコネクタ17に対し対応するケーブル3,6の端部が接続されている。
【0016】
また、上記電極Eの外周は、少なくとも挿通孔12a、11aに挿入される部分、つまり鉄皮12近傍位置が、セラミックスなどの絶縁体のカバー18で被覆されていて、電極Eから鉄皮12に電流が流れ込むのを抑制している。なお、カバー18から電極Eの先端部は突出している。このように電極Eを設置することで、炉内へ効率的に電流を流すことが可能で、計測精度を向上させることが可能となる。
また、上記信号発生器4は、矩形波などからなる所定の電流信号を出力する。
また、上記レベル演算装置5は、図3に示すように、信号処理部5Aとレベル演算本体部5Bとを備える。そして、レベル演算装置5は、入力した信号に基づき、溶融スラグ層7の電気抵抗r2(スラグの見かけ電気抵抗)、溶銑レベルLVL2、溶滓レベルLVL1を演算する。
【0017】
(レベル測定原理)
まず、出銑口2よりも上にある、電圧検出用電極E2,E4を、電圧検出端子として使用する場合を考える。
溶滓レベルLVL1と電圧の関係は、図4(b)に示すような等価回路で表される。この等価回路から、電極E2と電極E4との間における電気抵抗Rを合成抵抗として計算すると溶滓レベルLVL1(x1+x2)とRとの関係は次の式で表される。
【0018】
【数1】
【0019】
ここで、
r0:レンガ10の電気抵抗率
r1:溶銑の電気抵抗率
r2:スラグの見かけ電気抵抗率(溶融スラグ層7の電気抵抗率)
LDOWN:炉底1aから電極E5までの距離
LUP:電極E2〜E4までの距離
x1:溶銑厚さ(高さ)
x2:スラグ厚さ(高さ)
である。
そして、この2本の電極E2,E4間の電圧変化から溶滓レベルLVL1の時間変化を知ることが可能である。
また、出銑口2下の電圧電極E5と、出銑口2上に設置した電極E2を電圧検出端子として使用する場合を考える。
溶滓レベルLVL1と電圧の関係は、図5(b)に示すような等価回路で表される。この等価回路から、電極E2と電極E5との間における電気抵抗R′を合成抵抗として計算すると、R′は次の式で表される。
【0020】
【数2】
【0021】
ここで、x3は、スラグ表面(上面)から電極E2までの距離であり、
L=x1+x2+x3である。
そして、上記(1)式と(2)式を連立方程式として、x1,x2について解くことができる。ここで、x1は溶銑レベルLVL2(層厚)、x2はスラグ層7のレベル(層厚)である。
ただし、上述のように、溶融スラグ層7の電気抵抗r2は一定でなく、変化する。したがって、電気抵抗r2が変化すると、式(1)の電気抵抗R、式(2)の電気抵抗R′ともに変化することになるので、電気抵抗r2を測定値から決定する必要がある。
そのため、出銑口2よりも上にある、電極E3,E4を電圧検出端子として使用する場合を考える。
電極E3と電極E4との間に生じる電圧は、レンガ10と溶融スラグの並列抵抗に比例し、溶融スラグ層7の電気抵抗r2が変化することによって、この電圧も変化する。従って、電極E3と電極E4との間における電気抵抗Rsは以下の式で表される。
【0022】
【数3】
【0023】
ここで、x4は、電極E3と電極E4との間の電極間距離である。
上記(3)式からr2を求めると、
【0024】
【数4】
と表される。
【0025】
このように、電極E3,E4を電圧検出端子として溶融スラグ層7の電気抵抗値r2、すなわち、スラグの見かけ電気抵抗値r2を求めることが出来る。
そして、上記(4)式で表される実際のスラグ層7の電気抵抗r2を使用することで、上述の連立方程式から求められるx1,x2から、正確な溶滓レベルLVL1(=x1+x2)および溶銑レベルLVL2(=x1)を測定することが出来る。
そして、このようなレベル測定原理に基づき、上記レベル演算本体部5Bは、溶銑滓レベルLVL1(x1+x2)と、溶銑レベルLVL2(=x1)場合によってスラグ層厚(=x2)を求める。
【0026】
図6に、上記測定原理に基づく、レベル演算本体部5Bの処理ブロックを示す。すなわち、レベル演算本体部5Bは、スラグ電気抵抗算出部5Ba、第1抵抗補正部5Bb、第2抵抗補正部5Bc、溶滓レベル演算部5Bd、及び溶銑レベル演算部5Beを備える。
スラグ電気抵抗算出部5Baは、電気抵抗Rsに基づき(4)式によってスラグの見かけ電気抵抗値r2を算出する。
【0027】
第1抵抗補正部5Bbは、算出した電気抵抗値r2に基づき、(1)式を補正する。
第2抵抗補正部5Bcは、算出した電気抵抗値r2に基づき、(2)式を補正する。
溶滓レベル演算部5Bdは、補正後の(1)式から、溶滓レベルLVL1(=x1+x2)を求める。
溶銑レベル演算部5Beは、補正後の(2)式から、溶銑レベルLVL2(=x1)を、場合によって溶融スラグ層7の厚さ(=x2)を求める。
ここで、スラグ電気抵抗算出部5Baはスラグ抵抗検出手段を、第1抵抗補正部5Bb、及び第2抵抗補正部5Bcは、補正手段を構成する。
【0028】
次に、電気抵抗を演算する信号処理部5Aを説明する。
ここで、電気抵抗の測定方法としては、交流電流を印加する方法も考えられるが、測定する抵抗値(電圧値)が小さいため、印加する電流は大きくしないと測定が行えない。ところが交流電流を大きくすると、交流電流が作り出す磁束の時間変化によって誘導起電力を発生させ、その誘導起電力がノイズとして検出され、大きな誘導起電力ノイズは真の信号と判別できなくなる。このため、十分な計測精度が得られない。
また、直流電流の場合は、さらに高炉内部で発生する起電力や熱起電力との識別が不可能となるため、やはり精度が不十分である。
【0029】
一方、印加する電流信号としてM系列信号を適用すると、S/Nよく測定が可能である。このため、本実施形態では、信号発生器4の発信する電流信号としてM系列信号を使用する。
そして、信号処理部5Aは、入力したアナログの電圧波形をA/D変換器でデジタル化した電圧信号波形に変換し、得られた電圧信号波形について信号処理本体部で相関演算を施して電圧値を算出する。
ここで、検出電圧波形は、印加信号波形に相似形をなすと期待されるが、実際には図7に示すように誘導起電力がノイズとして重畳された状態で検出される。また、ランダムなノイズも検出電圧信号上に現れる可能性があり、ノイズを取り除くための信号処理が必要である。
【0030】
信号処理部5Aの処理を、図8を参照しつつ説明する。
なお、信号発生器4の発信する電流信号として、矩形波信号と疑似ランダム信号のいずれかを発信するとする。
信号処理本体部は、まず、ステップS10にて、印加電流が疑似ランダム信号か否かを判定し、疑似ランダム信号と判定した場合にはステップS20に移行し、矩形波信号と判定した場合にはステップS60に移行する。
ステップS20では、入力した電圧波形を、所定サンプリング周期でサンプリングして、A/D変換器でデジタル化した電圧信号波形に変換して、ステップS30に移行する。
ステップS30では、誘導起電力ノイズ(誘電起電力成分)と信号成分との分離処理を行う。
【0031】
誘導起電力によるノイズは、図6に示したように、電圧検出波形の符号の切り変わり直後に現れる。電圧の時間変化率ΔV/Δtの絶対値は符号が変化した瞬間非常に大きい値をとる。その後徐々に減少し0に近い値となる。これに鑑み、図9に示すように、閾値を設定して、ΔV/Δtの絶対値が閾値よりも大きい時間区間を誘導起電力ノイズ区間と決定し、ΔV/Δtの絶対値が閾値よりも小さい区間部分を信号成分区間として分離する。
【0032】
続いて、ステップS40に移行して、誘導起電力ノイズの除去処理を施す。
誘導起電力ノイズは、計測を行う際の検出系の構成で決定されるため、検出系のケーブルや電極の構成を変更しない限り符号の切り換り後同じ時間だけ現れる。これに鑑み、図10のように、ステップS30で決定した誘導起電力ノイズ区間の一定時間を、検出電圧波形の各符号切り換り時点から除去する。このとき、本実施形態で、計算を容易にするためこの区間の電圧を0Vとする。またこのとき、0Vとしたデータの数nを数えて記録しておく。さらに0Vとした区画はデータから除去し、信号成分のデータのみを結合した信号とする。
【0033】
ここで、上述の電圧信号波形に変換する際にサンプリングしたデータ数は、信号成分と誘導起電力ノイズ成分の各区間の合計のデータ数であり、これをNとしたとき、それから誘導起電力ノイズ成分のデータ数を減算した(N−n)個のデータが信号成分となる。よって、誘導起電力ノイズ区間を除去した検出電圧波形は、データ数が(N−n)となる。
続いてステップS50に移行して、相関演算処理を行う。
【0034】
なお、擬似ランダム信号は、入力(参照)信号波形とステップS40で求めた検出電圧波形の相関計算処理を行って、S/Nのよい測定結果が得られる。ただし、ステップS40で誘導起電力ノイズ成分の区間は除去したので、入力(参照)信号の対応する時間区間のデータも除去して(N−n)個のデータとする。
印加信号波形のi番目のデータをf(i)、検出電圧波形のi番目のデータをg(i)とすると、自己相関関数V(j)は次のような式で表される。
【0035】
【数5】
【0036】
そして、整数jを0〜(N−n)の間で変化させたときのV(j)の最大値が、電気抵抗算出の際に使用する検出電圧Vとなる。
また、数周期の擬似ランダム信号に関して相関演算を行い、各周期でのV(j)の最大値の平均をとることで、S/Nをさらに向上することができる。
一方、ステップS10にて、印加電流が矩形波信号と判定された場合には、ステップS60に移行する。ステップS60では、ステップS20の処理と同様に、入力した電圧波形を、所定サンプリング周期でサンプリングして、A/D変換器でデジタル化した電圧信号波形に変換してステップS70に移行する。ステップS70では、ステップS30と同様に、誘導起電力ノイズ(誘電起電力成分)と信号成分との分離処理を行う。即ち、閾値を設定して、ΔV/Δtの絶対値が閾値よりも大きい時間区間を誘導起電力ノイズ区間と決定し、ΔV/Δtの絶対値が閾値よりも小さい区間部分を信号成分区間として分離する。更に、ステップS80では、ステップS40と同様に誘導起電力ノイズ区画を除去し、信号成分のみの波形とする。
【0037】
その後、ステップS90にて、信号成分の電圧を絶対値に変換し、その平均値を求める電圧値とする。
そして、ステップS100では、上記求めた電圧値を、電流値で除算して電気抵抗を算出して出力する。
上記電気抵抗の算出は、図6の処理ブロック5Aa〜5Ac毎に、つまり対象とする電極間毎に、つまり電極E2−E4、電極E3−E4,電極E2−E5毎に処理されて、上記レベル演算本体部5Bに出力され、上述のように各種の溶融物レベルが求められる。
【0038】
(作用効果)
炉1の炉下部を、溶銑、スラグ、炉内の積層コークスおよび炉下部を構成するレンガ10などを含めて導電体の塊とみなすと、溶融物のレベルが増加するにつれて、導電体の体積は増加するため電気抵抗は減少する。また、溶融物のレベルが減少するにつれて、導電体の体積は減少するため電気抵抗は増加する。印加する電流が一定であれば、レベルが下がるに従って検出される電圧も増加し、レベルが上昇するにつれて電圧は降下する。
従って、上述のように、電気抵抗R、R′を測定することで、各種の溶融物レベルを把握することが出来る。
【0039】
ここで、溶融スラグ自体の電気抵抗率は、おおよそ1mΩ・mであることが分かっている。しかしながら、スラグ中にはコークスが密に存在するため、溶融スラグ層7の見かけ電気抵抗率r2は小さく0.1mΩ・m程度であると考えられる。溶融スラグ自体の電気抵抗は炉壁レンガ10の電気抵抗よりも高いかほぼ同等であるが、炉内の溶融スラグ中には、上述のように、コークスが存在しコークスの粒子1つ1つは電気抵抗が低いため、溶融スラグがコークスの粒子間を満たした際には、溶融スラグ層7の見かけ電気抵抗r2は大きく減少することになる。
【0040】
さらに、炉内の炉心コークスは出銑や炉内の状況によって動いていると考えられおり、溶融スラグ中に存在するコークスは接触状態が密になったり疎になったりと変動するものと考えられる。このため、スラグの見かけ電気抵抗r2は、コークスが密になった場合に電気抵抗r2は減少し、コークスが疎になった場合に電気抵抗r2は増加する。
【0041】
これに対し、本実施形態では、溶融スラグの見かけ電気抵抗r2、つまり溶融スラグ層7の電気抵抗r2を求め、その求めた溶融スラグ層7の電気抵抗r2で、計測したレベル検出用の電気抵抗R、R′を補正しているので、スラグの見かけ電気抵抗r2の変化による計測結果への影響を除去し、溶融物レベル、つまり溶滓レベルLVL1や溶銑レベルLVL2の変化をより精度良く求めることが可能となる。
ここで、溶銑レベルLVL2を検出する必要がない場合には、出銑口2よりも下側に配置した電圧検出用電極E5を省略し、電気抵抗R′の算出処理を省略する。
【実施例】
【0042】
次に、本発明の1実施例を説明する。炉として溶鉱炉を使用した場合の例である。
印加電流信号として、クロック周波数6Hz、符号長が127のM系列信号波形を適用し、炉体への印加電流値は±4Aとした。
M系列信号は信号発生器4の本体で製作し、その信号をDA変換して出力する。出力された信号は電流アンプにて増幅して、電極E1と電極E6を介して炉体へと印加する。なお、M系列信号は専用の回路を製作して発生させてもよい。
【0043】
またM系列信号の符号長は1点あたりの測定に十分時間がかけられる場合は、より長い符号長のもの(例えば511など)を使用してもよい。また、検出電圧波形中の信号部分が1符合中で十分得られれば、クロック周波数をより高くすることが可能である。
電極E1は羽口下1mの位置に設置し、その1m下に電圧検出用電極E2を設置した。出銑口2の上1mの位置に電圧検出用電極E4を設置した。電圧検出用電極E3は電極E4の上側30cmの位置に設置した。また、出銑口2よりも2m下の位置に電圧検出用電極E5を設置し、その1m下に電極E6を設置した。以上の6本の電極E1〜E6は、高さ方向に沿って直線上に並ぶように配置した。
【0044】
電極E2−E4、電極E3−E4、電極E2−E5間に生じる電位差は、それぞれケーブル6を介してAD変換器へと接続し、レベル演算装置5に入力されて信号処理を行った。AD変換器のサンプリング周波数は3kHzとした。
検出電圧波形には、M系列信号の符号が切り替わる時点に誘導起電力によるノイズが現れた。このとき、電流波形を参照して符号切り替わり部を検出し、検出電圧波形中の誘導ノイズを100mV/secを閾値として、符号が切り替わる全ての時点からデータをノイズとして切り捨てた。そして、電流波形からも同じ数のデータを切り取る処理を行い、電流波形を参照信号としてノイズ切り取り処理を行った検出電圧波形との相関演算を行う。
【0045】
電極E2−E4間の電気抵抗R、電極E3−E4間の電気抵抗Rs、および電極E2−E5間の電気抵抗R’の24時間にわたる変化を図11に示す。
炉内の溶融物レベルは、出銑の初期には出銑口2の径が小さく出銑速度に比べて造銑滓速度のほうが勝るためにレベルは上昇する。また、出銑中に出銑口2の径が徐々に広がり、やがて出銑速度のほうが勝るようになるとレベルは低下する。
【0046】
電気抵抗R、R’は突然大きく変化していたが、操業状況から炉内の溶融物レベルが短時間のうちに大きく変化することはないと考えられる。このとき、スラグの電気抵抗r2も変化していることから、スラグの電気抵抗r2の変化が影響したと考えられる。
電極E3−E4間の電気抵抗Rsから求めたスラグ電気抵抗r2を用いて、それぞれの測定タイミングのデータを補正すると、電気抵抗RおよびR’から計算される溶滓レベルLVL1(=x1+x2)および溶銑レベルLVL2(=x1)の変化は、図12のようになり、補正前の電気抵抗R、R’に見られたような大きな変化は消失した。
【0047】
なお、電極の設置は、鉄皮12を開口し、鉄皮12とレンガ10の間にあるスタンプ材11を除去してレンガ10の表面を露出させて、先端部がレンガ10に密着するようにバネで押し付ける構造にした。
もっとも、溶鉱炉1の建造時から本発明の適用を計画する場合は、予めレンガ10に電極を埋め込んでおくと接触抵抗などの影響を最小限に抑えることが可能であるので、より精度のよい計測が行える。
ここで、上記実施形態及び実施例では、竪型炉として高炉に本件発明を例にとって説明したが、高炉に限定されるものではなく、銅や鉛などを精錬する溶鉱炉、キュポラ、シャフト式のスクラップ溶解炉、ガス化溶融炉などの竪型炉にも本件発明は適用出来る。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に基づく実施形態に係る溶融物レベル計測装置を説明するための概要構成図である。
【図2】電極の設置状況を模式的に示す図である
【図3】レベル演算装置の構成を示す図である。
【図4】電極E2−E4間の等価回路を示す図である。
【図5】電極E2−E5間の等価回路を示す図である。
【図6】レベル演算部本体の構成を示す図である。
【図7】検出電圧波形の一例を示す図である
【図8】信号処理部の処理を説明する図である。
【図9】誘導起電力ノイズ部分と信号部分の決定方法を説明する図である
【図10】信号処理後の波形の一例を示す図である
【図11】電気抵抗、抵抗R、Rs、R’の時間的変化を示す図である
【図12】補正後の計測レベルの時間的変化を示す図である
【符号の説明】
【0049】
1 炉
1a 炉底
2 出銑口
4 信号発生器
5 レベル演算装置
5A 信号処理部
5B レベル演算本体部
5Ba スラグ電気抵抗算出部
5Bb 第1抵抗補正部
5Bc 第2抵抗補正部
5Bd 溶滓レベル演算部
5Be 溶銑レベル演算部
7 溶融スラグ層
10 レンガ
12 鉄皮
E 電極
E1,E6 電流印加用電極
E2〜E5 電圧検出用電極
LVL1 溶滓レベル
LVL2 溶銑レベル
r2 スラグ電気抵抗
【特許請求の範囲】
【請求項1】
竪型炉の高さ方向に沿って並ぶ複数の電極を設け、その複数の電極のうちの最上部および最下部に設けた2本の電極を電流印加用電極として電流を印加し、該電流印加用電極以外の複数の電極を電圧検出用電極として電圧を計測し、上記印加した電流値と、上記計測した電圧値とから竪型炉内の溶融物レベルを計測する竪型炉内の溶融物レベル計測方法において、
竪型炉の出銑口よりも上方で且つ溶融スラグ層があると推定される高さ範囲に2本以上の電圧検出用電極を配置し、その電圧検出用電極によって計測された電圧値に基づき溶融スラグ層の電気抵抗を求め、その求めた溶融スラグ層の電気抵抗を使用して竪型炉内の溶融物レベルの計測値を補正することを特徴とする竪型炉内の溶融物レベル計測方法。
【請求項2】
上記電圧検出用電極を、竪型炉の出銑口よりも上方に少なくとも3本配置し、その少なくとも3本の電圧検出用電極によって計測された電圧値を組合せて溶融物のレベルを演算することを特徴とする請求項1に記載した竪型炉内の溶融物レベル計測方法。
【請求項3】
上記電圧検出用電極を、竪型炉の出銑口よりも下方に少なくとも1本配置し、複数の電圧検出用電極によって計測された電圧値に基づき溶銑層のレベルを演算することを特徴とする請求項2に記載した竪型炉内の溶融物レベル計測方法。
【請求項4】
竪型炉の高さ方向に沿って並ぶ複数の電極を設け、その複数の電極のうちの最上部および最下部に設けた2本の電極を電流印加用電極として電流を印加し、該電流印加用電極以外の複数の電極を電圧検出用電極として電圧を計測し、上記印加した電流値と、上記計測した電圧値とから竪型炉内の溶融物レベルを計測する竪型炉内の溶融物レベル計測装置において、
竪型炉の出銑口よりも上方で且つ溶融スラグ層があると推定される高さ範囲に2本以上の電圧検出用電極を配置し、その電圧検出用電極によって計測された電圧値に基づき溶融スラグ層の電気抵抗を求めるスラグ抵抗検出手段と、その求めた溶融スラグ層の電気抵抗を使用して竪型炉内の溶融物レベルの演算値を補正する補正手段とを備えることを特徴とする竪型炉内の溶融物レベル計測装置。
【請求項1】
竪型炉の高さ方向に沿って並ぶ複数の電極を設け、その複数の電極のうちの最上部および最下部に設けた2本の電極を電流印加用電極として電流を印加し、該電流印加用電極以外の複数の電極を電圧検出用電極として電圧を計測し、上記印加した電流値と、上記計測した電圧値とから竪型炉内の溶融物レベルを計測する竪型炉内の溶融物レベル計測方法において、
竪型炉の出銑口よりも上方で且つ溶融スラグ層があると推定される高さ範囲に2本以上の電圧検出用電極を配置し、その電圧検出用電極によって計測された電圧値に基づき溶融スラグ層の電気抵抗を求め、その求めた溶融スラグ層の電気抵抗を使用して竪型炉内の溶融物レベルの計測値を補正することを特徴とする竪型炉内の溶融物レベル計測方法。
【請求項2】
上記電圧検出用電極を、竪型炉の出銑口よりも上方に少なくとも3本配置し、その少なくとも3本の電圧検出用電極によって計測された電圧値を組合せて溶融物のレベルを演算することを特徴とする請求項1に記載した竪型炉内の溶融物レベル計測方法。
【請求項3】
上記電圧検出用電極を、竪型炉の出銑口よりも下方に少なくとも1本配置し、複数の電圧検出用電極によって計測された電圧値に基づき溶銑層のレベルを演算することを特徴とする請求項2に記載した竪型炉内の溶融物レベル計測方法。
【請求項4】
竪型炉の高さ方向に沿って並ぶ複数の電極を設け、その複数の電極のうちの最上部および最下部に設けた2本の電極を電流印加用電極として電流を印加し、該電流印加用電極以外の複数の電極を電圧検出用電極として電圧を計測し、上記印加した電流値と、上記計測した電圧値とから竪型炉内の溶融物レベルを計測する竪型炉内の溶融物レベル計測装置において、
竪型炉の出銑口よりも上方で且つ溶融スラグ層があると推定される高さ範囲に2本以上の電圧検出用電極を配置し、その電圧検出用電極によって計測された電圧値に基づき溶融スラグ層の電気抵抗を求めるスラグ抵抗検出手段と、その求めた溶融スラグ層の電気抵抗を使用して竪型炉内の溶融物レベルの演算値を補正する補正手段とを備えることを特徴とする竪型炉内の溶融物レベル計測装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−266669(P2008−266669A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107249(P2007−107249)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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