説明

端子金具付き電線及びその製造方法

【課題】防食剤を使用することなく電線と端子金具との接続部分の電食を確実に防止する。
【解決手段】本発明の端子金具付き電線は、金属製の芯線11を絶縁被覆13で覆ったアルミ電線10と、芯線11とは異種の金属製であって、アルミ電線10と接続されるワイヤバレル25を設けた雌端子金具20と、雌端子金具20とイオン化傾向が近い金属を主成分とする半田からなり、アルミ電線10の絶縁被覆13の一部が皮剥きされて露出された芯線11を半田によってシールした状態で、ワイヤバレル25が圧着される半田シール30と、露出された芯線11に連なる絶縁被覆13と半田シール30との間をシールした状態でこれらを接続するシール接続部14とを備えた構成としたところに特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子金具付き電線及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のワイヤハーネス等の分野においても、軽量化等を目的としてアルミ電線を使用するようになった。アルミ電線は例えば、複数本のアルミ素線を撚り合わせた撚り線からなる芯線を絶縁被覆で覆った構造であって、ハーネス化される場合は一般に、電線の端末に端子金具が接続される。具体的には、アルミ電線の被覆の端末が皮剥きされて芯線の端末が露出され、この露出された芯線の端末に対して、端子金具に設けられたワイヤバレル(電線接続部)が圧着され、併せて残った絶縁被覆の端末に、ワイヤバレルの後方に設けられたインシュレーションバレルが圧着されて接続されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで電線を端子金具に導通接続させるに当たり、電線の芯線と端子金具とが異種の金属によって形成されている場合には、特に両者の接触部分に水分が介在すると、両金属が水中にイオンとして溶け込んで電気化学的反応により腐食が進行する電食が発生することが知られている。端子金具は強度上の問題等で銅合金製とするのが一般的であるため、上記のように電線にアルミ電線を使用すると、正に電食が問題となる。具体的には、ワイヤバレルが芯線に圧着された部分において、埃や砂が侵入して混じった塩分が付着しさらに水分が付着すると、接触部分が電解質溶液に浸漬された状態となって、イオン化傾向が大きい金属(卑な金属)であるアルミニウムが溶解する、すなわち電食が進むおそれがある。
そこで従来では、ワイヤバレルの圧着部分に、シリコーンゴム、キレート剤等からなる防食剤を塗布することで、電食を防止するようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−50736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記した防食剤を塗布する方法では、バレルの圧着形状によって塗布条件を変える必要がある、塗布層の厚さにばらつきが出て品質が安定しない、塗布層の剥がれに注意が必要、さらにはメンテナンス時に簡単にリペアできない等、数々の問題があり、新たな対策の出現が切望されていた。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、その目的は、防食剤を使用することなく電線と端子金具との接続部分の電食を確実に防止するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の端子金具付き電線は、金属製の芯線を被覆で覆った電線と、芯線とは異種の金属製であって、電線と接続される電線接続部を設けた端子金具と、端子金具とイオン化傾向が近い金属を主成分とする半田からなり、電線の被覆の一部が皮剥きされて露出された芯線を半田によってシールした状態で、電線接続部が圧着される半田シールと、露出された芯線に連なる被覆と半田シールとの間をシールした状態でこれらを接続するシール接続部とを備えた構成としたところに特徴を有する。
【0007】
このような構成によると、露出された芯線からこの芯線に連なる被覆にかけての領域が半田シールとシール接続部とに覆われることで、露出された芯線が防水される。また、露出された芯線に連なる被覆と半田シールとの間がシール接続部によってシールされることで、半田シール内への浸水が阻止される。そして、半田シールに端子金具の電線接続部が圧着されることで、芯線と端子金具との間の電気的接続が取られる。
【0008】
電線接続部の圧着部分では、イオン化傾向の近い金属同士の接触となるために、仮に水分が付着したとしても電食は起き難い。一方、半田シールと芯線との間は、異種金属同士の接触となるが、この接触部分すなわち半田シール内への浸水は阻止されているから、同接触部分に電食が発生するには至らない。この結果、防食剤を使用することなく電線と端子金具との接続部分の電食を確実に防止できる。
【0009】
本発明の実施の態様として、以下の構成が好ましい。
<構成1>
被覆は、半田の融点では溶融状態とされる樹脂製とされており、シール接続部は、半田シールを形成する際に溶融した半田の熱によって被覆が溶融し、この溶融した被覆が芯線を構成する複数の素線間に浸透した被覆浸透部を含んだ構成としてもよい。
このような構成によると、半田付けすることでシール接続部を形成することができる。つまり、シール接続部を被覆とは別部材で形成する必要がなく、部品点数が少なくて済む。また、シール接続部が被覆浸透部を含んで構成されているため、被覆の表面のみならず被覆浸透部においても半田シールとシール接続することができる。これにより、半田シールとシール接続部との界面に沿うシール部分の距離が長くなり、シール効果をより高めることができる。
【0010】
構成1において、露出された芯線における複数の素線間には、半田が充填されており、半田シールは、複数の素線間に含浸された半田含浸部と、被覆浸透部とからなる構成としてもよい。
このような構成によると、芯線の内部においても半田含浸部でシールすることができるため、電線内部から半田シール内への浸水を阻止することができる。
【0011】
<構成2>
シール接続部は、両端に開口する筒状をなし、一端側に半田シールが連設され、他端側の内周面に被覆の外周面が密着した状態で、露出された芯線からこの芯線に連なる被覆に亘って嵌着されるスリーブからなる構成としてもよい。
このような構成によると、露出された芯線からこの芯線に連なる被覆に亘ってスリーブを嵌着し、スリーブの一端側に半田シールを連設することで、露出された芯線をスリーブと半田シールとによって覆うことができる。また、スリーブの他端側の内周面を被覆の外周面に密着させることにより、スリーブと被覆との間をシールすることができる。
【0012】
構成2において、スリーブは、端子金具とイオン化傾向が近い金属製であって、露出された芯線からこの芯線に連なる被覆に亘って圧着されており、半田シールは、スリーブの一端側開口から突出して露出された芯線を包囲し、かつスリーブの一端側に半田付けされている構成としてもよい。
このような構成によると、スリーブが金属製とされているため、半田シールをスリーブの一端側に対して半田付けによって連設することができる。また、スリーブと芯線との間は、異種金属同士の接触となるが、この接触部分すなわちスリーブ内への浸水は阻止されているから、同接触部分に電食が発生するには至らない。一方、電線接続部の圧着部分では、イオン化傾向の近い金属同士の接触となるために、仮に水分が付着したとしても電食は起き難い。
【0013】
構成2において、スリーブの他端側を絞りかしめすることにより、残された被覆と芯線との間をシールする構成としてもよい。
このような構成によると、スリーブ外部からスリーブ内への浸水を阻止することができ、かつ電線内部からスリーブ内への浸水を阻止することができる。
【0014】
上記の構成に共通する実施の態様として、以下の構成が好ましい。
電線接続部は、半田シールに圧着される一対のバレル片から構成されており、両バレル片の突出端を重ね合わせつつ半田シールの外周を左右両側から抱き込むようにしてかしめられる構成としてもよい。
このような構成によると、ワイヤバレルを備えた既存の端子金具をそのまま適用することができる。
【0015】
電線が、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の芯線を備えたアルミ電線である一方、端子金具が銅合金製である構成としてもよい。
このような構成によると、電食する可能性が高いアルミ電線を使用した場合にも、電食の発生を有効に防ぐことができる。
【0016】
また、本発明は、金属製の芯線を被覆で覆った電線における芯線に、芯線とは異種の金属製の端子金具に設けられた電線接続部が接続された端子金具付き電線を製造する方法であって、電線の被覆の端末を皮剥きして芯線の一部を露出する工程と、端子金具とイオン化傾向が近い金属を主成分とする半田を、電線における露出した芯線からこの芯線に連なる被覆に亘って半田付けすることで半田シールを形成する工程と、露出された芯線の端末に連なる被覆と半田シールとの間をシールした状態でこれらを接続するシール接続部を形成する工程と、半田シールに端子金具の電線接続部を圧着する工程と、が順次に行われるようにしてもよい。これにより、本発明の端子金具付き電線を、確実に製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、防食剤を使用することなく電線と端子金具との接続部分の電食を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態1においてアルミ電線の端末の絶縁被覆を除去した状態を示した側面図
【図2】図1の露出された芯線に半田付けすることで半田シールを形成した状態を示した側面図
【図3】図2の半田シールにワイヤバレルを圧着し、残された絶縁被覆にインシュレーションバレルを圧着した状態を示した側面図
【図4】半田シールの内部構造を示した断面図
【図5】図4におけるA−A線断面図
【図6】図4におけるB−B線断面図
【図7】実施形態2においてアルミ電線の端末に金属スリーブが外嵌される前の状態を示した一部切り欠き側面図
【図8】図4のスリーブをアルミ電線の端末に圧着し、金属スリーブから突出して露出された芯線に半田付けすることで半田シールを形成した状態を示した側面図
【図9】図5の半田シールにワイヤバレルで圧着し、金属スリーブにインシュレーションバレルを圧着した状態を示した側面図
【図10】実施形態3におけるシール接続部を示した断面図であって、図6に対応する図
【発明を実施するための形態】
【0019】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を図1ないし図6の図面を参照しながら説明する。本実施形態では、アルミ電線10に適用した場合を例示しており、図3に示すように、アルミ電線10と、雌側の端子金具20(以下、雌端子金具20)と、半田シール30と、シール接続部14とを備えてなるアルミ電線付き雌端子金具を例示している。
【0020】
アルミ電線10は、図1に示すように、複数本からなるアルミニウムまたはアルミニウム合金製の素線12を撚り合せた撚り線によって芯線11が形成され、この芯線11の回りが合成樹脂製の絶縁被覆13で覆われた構造となっている。絶縁被覆13は樹脂製であって、例えば塩化ビニル(融点:180℃)など熱溶着可能な合成樹脂で構成されている。アルミ電線10の絶縁被覆13の端末は、皮剥きされて、芯線11が所定長さに亘って露出されている。図2に示すように、露出された芯線11の端末を包囲するようにして半田シール30が設けられている。この半田シール30は、図4および図5に示すように、芯線11の表面のみならず芯線11の内部における複数の素線12間にも充填されており、芯線11の外周面に被着した半田コート14Cと、各素線12間に含浸された半田含浸部14Bとからなる。
【0021】
雌端子金具20は、銅合金製の板材をプレス加工することで形成され、相手の雄端子金具(図示せず)と電気的に接続される略角筒形をなす端子接続部21の後方に、ワイヤバレル25とインシュレーションバレル26とが設けられた構造である。ワイヤバレル25とインシュレーションバレル26と次述する底板22とによって本発明の電線接続部が構成されている。
【0022】
端子接続部21の内部には、図3に示すように、底板22の前縁から折り返されるようにして弾性接触片23が設けられており、同端子接続部21に対して上記した相手の雄端子金具のタブが前方から挿入され、弾性接触片23と弾性的に接触することにより、雄端子金具と雌端子金具20とが電気的に接続されるようになっている。
【0023】
先に半田シール30を説明すると、この半田シール30は、雌端子金具20とイオン化傾向が近い金属を主成分とする半田からなる。半田の種類としては、鉛フリー半田が用いられており、具体的には、Sn−Ag−Cu(錫−銀−銅)系、Sn−Cu(錫−銅)系、Sn−Zn(錫−亜鉛)系などを用いることができる。鉛フロー半田の融点は、Sn−Ag−Zn系で220℃と、従来の鉛含有半田の融点(183℃)よりもかなり高くなっている。したがって、半田の融点では、絶縁被覆13がその融点(180℃)よりも高温に加熱されるため、溶融状態とされる。
【0024】
半田シール30は、アルミ電線10の絶縁被覆13が皮剥きされて露出された芯線11の端末を半田によって包囲することで芯線11が外気に晒されないようにシールしている。残された絶縁被覆13の端末には、同残された絶縁被覆13の端末と半田シール30との間をシールした状態でこれらを接続するシール接続部14が形成されている。半田シール30は、図3に示すように、オーバーラップ圧着方式でワイヤバレル25によって圧着されるようになっているものの、この圧着によって半田シール30が割れないように圧着条件が設定されている。
【0025】
雌端子金具20に設けられたワイヤバレル25は、オープンバレル形式であって、左右一対の幅広のバレル片25Aが、底板22の左右の側縁から互いに対向するようにして立ち上がり形成されている。このワイヤバレル25は、上記した半田シール30にかしめ圧着されるものであって、前記したように両バレル片25Aの突出端を重ね合わせつつ半田シール30の外周を左右両側から抱き込むようにして、いわゆるオーバラップ型にかしめられるようになっている。
【0026】
インシュレーションバレル26は、同じくオープンバレル形式であって、ワイヤバレル25側のバレル片25Aよりも幅狭で背が高い左右一対のバレル片26Aが、同じく底板22の左右の側縁から互いに対向するようにして立ち上がり形成されている。このインシュレーションバレル26は、半田シール30のうち絶縁被覆13の端末に圧着された領域にかしめ圧着されるものであって、同様にオーバラップ型にかしめられるようになっている。
【0027】
シール接続部14は、皮剥きされることで残された絶縁被覆13の端末と一体に形成され、残された絶縁被覆13の端末に連設されている。このシール接続部14は、図6に示すように、半田シール30を形成する際に溶融した半田の熱によって絶縁被覆13の端末が溶融され、この溶融した絶縁被覆13および溶融した半田が冷却固化されたものである。すなわち、シール接続部14は、軸心側から順に、溶融した半田が各素線12間に充填された半田含浸部14B、溶融した絶縁被覆13の端末が各素線12間に浸透した被覆浸透部14A、半田コート14Cとから構成されている。
【0028】
シール接続部14では、図4に示すように、被覆浸透部14Aが形成されたことで絶縁被覆13の先端外周面が半田コート14Cの内部に向けて斜め前方に食い込んだ形態とされている。このため、芯線11の外部では絶縁被覆13の先端外周面と半田コート14Cとの界面が互いに密着し合うことでシール部分が形成されている。このシール部分は、被覆浸透部14Aが形成されない場合には、芯線11の軸線方向と直交する方向に形成されるのに対して、被覆浸透部14Aが形成された場合には、斜め前方に延びる形態で形成されるため、より長くなる。この結果、シール部分の長さが長くなり、シール性能を高めることができる。さらに、芯線11の内部でも被覆浸透部14Aが半田含浸部14Bと密着し合うことでシール部分が形成されているため、これによってもシール性能を高めることができる。これにより、半田シール30と残された絶縁被覆13との連結部分は、シール接続部14によってシールされる。したがって、半田シール30と残された絶縁被覆13との連結部分から半田シール30内への浸水が阻止される。
【0029】
続いて、本実施形態に係る雌端子金具付きアルミ電線の製造工程を説明する。まず、図1に示すように、アルミ電線10の絶縁被覆13の端末が皮剥きされて、芯線11の端末が所定長さに亘って露出状態とされる。この露出された芯線11の端末は、圧着後に寸法管理ができる程度に十分な露出量とされている。例えば、露出された芯線11の端末の長さを、雌端子金具20のワイヤバレル25のバレル片25Aの幅の2倍弱程度の寸法に設定してもよい。
【0030】
次に、この露出された芯線11の端末に、半田を含浸させる。具体的には、露出された芯線11の端末を、半田槽等に貯留された溶融半田にどぶ漬けするフロー方式によって各素線12間に溶融した半田が含浸される。溶融半田の種類としては、鉛フリー半田が用いられており、本実施形態では、例えば成分割合が、Sn:約80%、Zn:約20%のものが適用されている。この成分割合の半田は、アルミニウムに対する濡れやすさに優れている特性を持つ。
【0031】
露出された芯線11が溶融半田にどぶ漬けされると、芯線11に濡れ広がった溶融半田が残された絶縁被覆13の端末に接触し、溶融半田の熱によって残された絶縁被覆13の端末が溶融される。溶融した半田は、各素線12間に充填されて、冷却固化されることにより半田シール30が形成される。一方、溶融された絶縁被覆13は、各素線12間に浸透しつつ半田シール30と接触した状態のまま、冷却固化されてシール接続部14が形成される。これにより、半田シール30と残された絶縁被覆13との間がシール接続部14でシールされる。
【0032】
このように、シール接続部14の内部では、溶融された半田及び溶融された絶縁被覆13が各素線12間に染み込んで、溶融された絶縁被覆13が芯線11に浸透した状態で冷却固化される。こうして、アルミ電線10の内部と半田シール30内との間がシール接続部14でシールされる。したがって、シール接続部14では、半田シール30と残された絶縁被覆13との連結部分から半田シール30内への浸水が阻止され、かつアルミ電線10内部から半田シール30内への浸水も阻止される。
【0033】
次に、圧着装置により、半田シール30が形成されたアルミ電線10の端末に雌端子金具20が圧着接続される。詳細には、圧着装置にはアンビルとクリンパとが設けられ、雌端子金具20のワイヤバレル25に対して半田シール30が、またインシュレーションバレル26に対して、残された絶縁被覆13の端末がそれぞれ配された状態でセットされ、両バレル25,26は、アンビルとクリンパとの間で挟圧されて共にオーバラップ型にかしめられる(図3参照)。これにより、芯線11と雌端子金具20が半田シール30を通じて導通可能に接続される。以上により、本実施形態に係るアルミ電線10の端末に雌端子金具20を接続する作業が終了する。
【0034】
上記のように形成された雌端子金具20付きのアルミ電線10が、複数本纏められてハーネスが構成され、例えば当該アルミ電線10の端末の雌端子金具20が雌ハウジングに収容され、車両の所定箇所に配線されて、同雌ハウジングが相手の雄ハウジングと嵌合され、対応する雌端子金具20と雄端子金具同士が電気的に接続されるところとなる。
【0035】
以上のように本実施形態によれば、雌端子金具20のワイヤバレル25と半田シール30との圧着部分では、同じ銅合金同士の接触となるために、仮に水分が付着したとしても電食は起き難い。一方、半田シール30の内面とアルミ電線10の芯線11との間は、異種金属同士の接触となるが、この接触部分すなわち半田シール30内への浸水は阻止されているから、同接触部分に電食が発生するには至らない。この結果、防食剤を使用することなくアルミ電線10と雌端子金具20との接続部分の電食を確実に防止することができる。
【0036】
また、この実施形態では、雌端子金具20を半田シール30に接続するのに、ワイヤバレル25を半田シール30に対してかしめ圧着し、インシュレーションバレル26を絶縁被覆13に対してかしめ圧着するようにしているから、雌端子金具として新たな構造のものを準備することなく、ワイヤバレル25とインシュレーションバレル26とを備えた既存の雌端子金具20をそのまま適用することが可能である。
【0037】
<実施形態2>
次に、本発明の実施形態2を図7ないし図9の図面を参照しながら説明する。実施形態2では、実施形態1におけるシール接続部14に相当する部材が金属スリーブ40で構成されており、実施形態1と同じ構成、作用、および効果については重複するため、その説明を省略する。また、実施形態1と同じ構成については、実施形態1と同一の符号を用いるものとする。
【0038】
金属スリーブ40は、図7に示すように、両端が開口する円筒状をなしており、銅合金製の板材を所定形状に打ち抜いた後、円筒状に丸めて端部同士を溶着する等して形成されている。また、金属スリーブ40の内径は、アルミ電線10を金属スリーブ40の内部に挿通できるように、絶縁被覆13の外径とほぼ同じかこれよりやや大きめに設定されている。
【0039】
続いて、本実施形態に係る雌端子金具付きアルミ電線の製造工程を説明する。まず、図7に示すように、アルミ電線10の絶縁被覆13の端末を皮剥きすることで芯線11を露出させる。この露出された芯線11の外周面に、金属スリーブ40を外嵌する。
【0040】
皮剥きされたことで残された絶縁被覆13の端末が金属スリーブ40の他端側42に重ね合わされ、絶縁被覆13の端末から突出して露出された芯線11における絶縁被覆13側の端部が金属スリーブ40の一端側41に重ね合わされた状態に金属スリーブ40をセットする。この状態で、図8に示すように、圧着装置により金属スリーブ40の他端側42が残された絶縁被覆13に対して絞りかしめされ、金属スリーブ40の一端側41が露出された芯線11における絶縁被覆13側の端部に対して絞りかしめされる。この圧着については実施形態1と同様の圧着方法によって行われる。
【0041】
前記圧着により、金属スリーブ40の他端側42では金属スリーブ40と残された絶縁被覆13との間がシールされ、絶縁被覆13と芯線11との間がシールされる。また、金属スリーブ40における一端側41と他端側42との間では、絶縁被覆13の端末が芯線11内部に埋め込まれることで、絶縁被覆13の端末に埋込部15が形成される。したがって、金属スリーブ40の他端側42の圧着によるシールに加えて、埋込部15においてもアルミ電線10内部と露出された芯線11との間がほぼシールされる。
【0042】
次に、金属スリーブ40の一端側41から突出して露出された芯線11に、半田がコーティングされる。具体的には、露出された芯線11の端末を、半田槽等に貯留された溶融半田にどぶ漬けするフロー方式によって含浸される。露出された芯線11が溶融半田にどぶ漬けされると、芯線11に濡れ広がった溶融半田が露出された芯線11から金属スリーブ40の一端側41に亘って含浸される。そして、含浸された溶融半田が冷却固化されると、半田シール31が形成される。これにより、半田シール31が金属スリーブ40の一端側41に対して半田付けにより連設され、半田シール31と金属スリーブ40の一端側41との間が半田付けによってシールされる。
【0043】
また、半田シール31の内部では、溶融した半田が各素線12間に充填され、冷却固化されることにより、アルミ電線10の内部が半田シール31によってシールされる。これと併行して、溶融半田の熱が金属スリーブ40を介して埋込部15に伝熱され、この熱によって埋込部15を構成する絶縁被覆13が溶融される。埋込部15の内部では、溶融された絶縁被覆13が各素線12間に一部含浸する。
【0044】
さらに、溶融半田の熱が金属スリーブ40を介して他端側42に伝熱され、この熱によって他端側42における絶縁被覆13が溶融され、他端側42の内周面に絶縁被覆13が熱溶着されることで、他端側42の内周面と絶縁被覆13の外周面とが密着する。こうして、金属スリーブ40の他端側42と絶縁被覆13との間がシールされ、金属スリーブ40の他端側42から金属スリーブ40内への浸水が阻止される。
【0045】
次に、圧着装置により、アルミ電線10の端末に対して雌端子金具20が圧着接続される。詳細には、雌端子金具20のワイヤバレル25に対して半田シール31が配され、またインシュレーションバレル26に対して金属スリーブ40が配され、両バレル25,26間に金属スリーブ40の一端側41が配された状態でセットされ、両バレル25,26は、アンビルとクリンパとの間で挟圧されて共にオーバラップ型にかしめられる(図9参照)。これにより、芯線11と雌端子金具20が半田シール31を通じて導通可能に接続される。こうして、本実施形態に係る雌端子金具付きアルミ電線が完成する。
【0046】
以上のように本実施形態によれば、雌端子金具20のワイヤバレル25と半田シール31との圧着部分では、同じ銅合金同士の接触となるために、仮に水分が付着したとしても電食は起き難い。一方、半田シール31とアルミ電線10の芯線11との間は、異種金属同士の接触となるが、この接触部分すなわち半田シール31内への浸水は阻止されているから、同接触部分に電食が発生するには至らない。この結果、防食剤を使用することなくアルミ電線10と雌端子金具20との接続部分の電食を確実に防止することができる。
【0047】
<実施形態3>
次に、本発明の実施形態3を図10の図面を参照しながら説明する。実施形態3は、実施形態1におけるシール接続部14の構成を一部変更したものであって、実施形態1と同じ構成、作用、および効果については重複するため、その説明を省略する。また、実施形態1と同じ構成については、実施形態1と同一の符号を用いるものとする。すなわち、実施形態3のシール接続部16は、各素線12間に被覆浸透部16Aを充填させたものである。これは、加熱によって絶縁被覆13を溶融し、この溶融された絶縁被覆13をアルミ電線10の内部に吸引して冷却固化することによって行われる。このようにすると、シール接続部16を絶縁被覆13のみによって構成することができる。
【0048】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、ワイヤバレルとインシュレーションの両方を備えた雌端子金具を用いたが、インシュレーションバレルを除去してワイヤバレルのみを備えた雌端子金具としてもよい。
(2)ワイヤバレルの形式としては、上記実施形態に例示したオーバラップ形式に限らず、左右一対のバレル片が、芯線の軸線方向にずれて配された形式のものであってもよく、バレル片が1本だけのものであってもよい。さらには、かしめ前に予め筒形に形成されたクローズドバレル形式であってもよい。要は、バレルがかしめられたときに、半田シールに突き刺さる等でこれを破損しないものが好ましい。
【0049】
(3)上記実施形態では、アルミ電線の端末に接続する端子金具として雌端子金具を例示したが、雄タブを備えた雄端子金具、あるいは目玉状の接続部を有するLA端子等の他の端子金具であってもよい。
(4)本発明は、上記実施形態に例示したアルミ電線に銅合金製の端子金具を接続する場合に限らず、電線の芯線とこれに接続される端子金具とが異種の金属によって形成されている場合全般に広く適用することが可能である。
(5)上記実施形態では半田シールをかしめて圧着しているものの、本発明によると、半田シールに対して超音波溶着することで接合してもよい。
【0050】
(6)実施形態2では金属スリーブを絞りかしめすることによってシールしているものの、本発明によると、スリーブとして熱収縮チューブを用いてもよく、この熱収縮チューブによって芯線11と絶縁被覆13との間を覆うことによってシールしてもよい。
【符号の説明】
【0051】
10…アルミ電線(電線)
11…芯線
12…素線
13…絶縁被覆(被覆)
14,16…シール接続部
14A,16A…被覆浸透部
14B…半田含浸部
20…雌端子金具
25…ワイヤバレル(電線接続部)
30,31…半田シール
40…金属スリーブ(スリーブ)
41…一端側
42…他端側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の芯線を被覆で覆った電線と、
前記芯線とは異種の金属製であって、前記電線と接続される電線接続部を設けた端子金具と、
前記端子金具とイオン化傾向が近い金属を主成分とする半田からなり、前記電線の被覆の一部が皮剥きされて露出された芯線を前記半田によってシールした状態で、前記電線接続部が圧着される半田シールと、
前記露出された芯線に連なる被覆と前記半田シールとの間をシールした状態でこれらを接続するシール接続部とを備えた端子金具付き電線。
【請求項2】
前記被覆は、前記半田の融点では溶融状態とされる樹脂製とされており、前記シール接続部は、前記半田シールを形成する際に溶融した半田の熱によって前記被覆が溶融し、この溶融した被覆が前記芯線を構成する複数の素線間に浸透した被覆浸透部を含んで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の端子金具付き電線。
【請求項3】
前記露出された芯線における前記複数の素線間には、前記半田が充填されており、前記半田シールは、前記複数の素線間に含浸された半田含浸部と、前記被覆浸透部とからなることを特徴とする請求項2に記載の端子金具付き電線。
【請求項4】
前記シール接続部は、両端に開口する筒状をなし、一端側に前記半田シールが連設され、他端側の内周面に前記被覆の外周面が密着した状態で、前記露出された芯線からこの芯線に連なる被覆に亘って嵌着されるスリーブからなることを特徴とする請求項1に記載の端子金具付き電線。
【請求項5】
前記スリーブは、前記端子金具とイオン化傾向が近い金属製であって、前記露出された芯線からこの芯線に連なる被覆に亘って圧着されており、前記半田シールは、前記スリーブの一端側開口から突出して露出された芯線を包囲し、かつ前記スリーブの一端側に半田付けされていることを特徴とする請求項4に記載の端子金具付き電線。
【請求項6】
前記スリーブの他端側を絞りかしめすることにより、前記残された被覆と前記芯線との間をシールすることを特徴とする請求項5に記載の端子金具付き電線。
【請求項7】
前記電線接続部は、前記半田シールに圧着される一対のバレル片から構成されており、両バレル片の突出端を重ね合わせつつ前記半田シールの外周を左右両側から抱き込むようにしてかしめられることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の端子金具付き電線。
【請求項8】
前記電線が、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の芯線を備えたアルミ電線である一方、前記端子金具が銅合金製であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の端子金具付き電線。
【請求項9】
金属製の芯線を被覆で覆った電線における前記芯線に、前記芯線とは異種の金属製の端子金具に設けられた電線接続部が接続された端子金具付き電線を製造する方法であって、
前記電線の被覆の端末を皮剥きして前記芯線の一部を露出する工程と、
前記端子金具とイオン化傾向が近い金属を主成分とする半田を、前記電線における露出した前記芯線からこの芯線に連なる被覆に亘って半田付けすることで半田シールを形成する工程と、
前記露出された芯線の端末に連なる被覆と前記半田シールとの間をシールした状態でこれらを接続するシール接続部を形成する工程と、
前記半田シールに前記端子金具の前記電線接続部を圧着する工程と、
が順次に行われることを特徴とする端子金具付き電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−210593(P2011−210593A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78128(P2010−78128)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】