説明

第三級アミンの製造方法

【課題】第三級アミンを選択的に合成することができる製造方法の提供。
【解決手段】パラジウムが活性炭担体に担持される触媒と水素との存在下で、ニトリル化合物から第三級アミンを製造する方法。そのニトリル化合物由来の第一級、第二級及び第三級アミンのうちの、該第二級及び該第三級アミンの少なくとも該第三級アミンを含み、該第三級アミンは、H−NMRスペクトルから算出される割合において、その製造される第一級、第二級及び第三級アミンおけるアミン全量に対して80%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第三級アミンの製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、パラジウム触媒の存在下において、水素雰囲気下で、ニトリル化合物から第三級アミンの製造方法に関する。本発明の第三級アミンの製造方法によれば、第三級アミンを選択的に合成することができる。
【背景技術】
【0002】
第三級アミンは、乳化剤、分散剤、防錆剤、殺菌剤、均染剤などの多くの化学製品や医薬品の中間体等種々の用途に用いられる有用な物質である。
従来より、アルコール又はアルデヒドと、アンモニア又は第一級又は第二級アミンとを反応させて、アミンを製造する方法はよく知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、アルコール等と反応させて、第三級アミンを選択的に得ることは困難であった。
また、第二級アミンをニトリル及び水素と反応させて、第三級アミンを製造する方法(特許文献2参照)が知られている。更に、第一級アミンとニトリル化合物とから脂肪族アミンをアルキル化することにより、第二級アミン及び第三級アミンを合成する方法が知られている(特許文献3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開昭52-196404号公報
【特許文献2】特開平10-338664号公報
【特許文献3】特開2005−239594号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2に記載の第三級アミンの製造方法では、パラジウムを触媒として、第二級アミンをニトリル及び水素と反応させて、第三級アミンが製造されている。しかし、この製造方法では、第二級アミンを用いる必要があり、更に、その反応において、加熱条件及び加圧条件が必要とされる。
また、特許文献3に記載の第三級アミンの製造方法では、白金元素を触媒として用いて、第一級アミンをアルキル化する方法により第三級アミンが製造されている。しかし、第三級アミンの原料である第一級アミンは、極性分子であることから、その第一級アミンが触媒毒となり白金元素の触媒活性を低下させるという問題がある。また、製造後のアミンには、第二級アミンが含まれる場合が多く、第三級アミンを選択的に得る上で十分ではないという問題や、用いる脂肪族アミンの種類によっては、酸の添加が必要となる問題があり、第三級アミンの更なる効率的且つ選択的な製造方法が必要とされている。
【0005】
本発明は、上記の従来の問題を解決するためになされたものであり、ニトリル化合物から第三級アミンを効率的に且つ選択的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のとおりである。
1.パラジウムが活性炭担体に担持される触媒と水素との存在下で、下記一般式(1)で表されるニトリル化合物からアミンが製造され、上記アミンは、上記ニトリル化合物由来の第一級、第二級及び第三級アミンのうちの、該第二級及び該第三級アミンの少なくとも該第三級アミンを含み、該第三級アミンは、H−NMRスペクトルから算出される割合において、その製造される第一級、第二級及び第三級アミンの全量に対して80%以上であることを特徴とする第三級アミンの製造方法。
【化1】

〔但し、一般式(1)において、Rは炭素数1〜12の直鎖アルキル基、下記一般式(2)で表されるアルコキシアルキル基、又は下記一般式(3)で表されるジアルキルアミノアルキル基を示す。〕
【化2】

〔但し、一般式(2)において、Rは炭素数1〜3の直鎖アルキル基を示し、Rは炭素数1〜8の直鎖アルキレン基を示す。〕
【化3】

〔但し、一般式(3)において、Rは炭素数1〜3の直鎖アルキル基を示し、Rは炭素数1〜8の直鎖アルキレン基を示す。〕
2.反応温度が10〜60℃、反応圧力が0.09〜0.11MPaである上記1.記載の第三級アミンの製造方法。
3.上記触媒におけるパラジウム量が上記ニトリル化合物に対して、0.5重量%以上である上記1.又は上記2.記載の第三級アミンの製造方法。
4.反応溶媒が用いられ、上記ニトリル化合物と上記触媒とが該反応溶媒に懸濁される上記1.〜3.のいずれか一項記載の第三級アミンの製造方法。
5.上記反応溶媒がメタノール、酢酸エチル、シクロヘキサン又はテトラヒドロフランである上記4.記載の第三級アミンの製造方法。
6.上記反応溶媒がメタノールである上記4.記載の第三級アミンの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の第三級アミンの製造方法によれば、所定のニトリル化合物を水素雰囲気下で、パラジウム触媒を用いることにより、第一級アミンを全く合成することなく、第三級アミンを選択的に製造することができる。
更に、本発明によれば、第一級アミン又は第二級アミンを用いなくとも、ニトリル化合物のみを用いて、高い選択性で第三級アミンを製造することができる。
また、常圧でも第三級アミンを選択的に製造することができるので、製造設備を簡略化することができ、広範な産業分野で利用することができる。
また、触媒におけるパラジウムの量を0.5重量%以上とすることで、より高い選択率で第三級アミンを製造することができる。
また、反応溶媒を用いることにより、効率的に第三級アミンを製造することができる。
また、反応溶媒として、メタノール、酢酸エチル、シクロヘキサン又はテトラヒドロフランを用いることにより、より効率的に第三級アミンを製造することができる。
更に、反応溶媒として、メタノールを用いることにより、溶媒が留去されやすく、より効率的に第三級アミンを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳しく説明する。
〔1〕第三級アミンの製造方法
本発明の第三級アミンの製造方法は、パラジウムが活性炭担体に担持される触媒と水素との存在下で、下記一般式(1)で表されるニトリル化合物からアミンが製造され、上記アミンは、上記ニトリル化合物由来の第一級、第二級及び第三級アミンのうちの、該第二級及び該第三級アミンの少なくとも該第三級アミンを含み、該第三級アミンは、H−NMRスペクトルから算出される割合において、その製造される第一級、第二級及び第三級アミンの全量に対して80%以上であることを特徴とする第三級アミンの製造方法。
【化1】

〔但し、一般式(1)において、Rは炭素数1〜12の直鎖アルキル基、下記一般式(2)で表されるアルコキシアルキル基、又は下記一般式(3)で表されるジアルキルアミノアルキル基を示す。〕
【化2】

〔但し、一般式(2)において、Rは炭素数1〜3の直鎖アルキル基を示し、Rは炭素数1〜8の直鎖アルキレン基を示す。〕
【化3】

〔但し、一般式(3)において、Rは炭素数1〜3の直鎖アルキル基を示し、Rは炭素数1〜8の直鎖アルキレン基を示す。〕
【0009】
本発明における触媒は担体上に金属パラジウムが担持されたものが用いられる。パラジウムを用いることにより、パラジウムの触媒反応により、水素還元反応、及びニトリル化合物のジアルキル化反応が促進されて、第三級アミンを選択的に製造することができる。
【0010】
上記触媒担体としては活性炭である。上記活性炭においては、石炭由来の活性炭よりも植物由来の活性炭がより好ましい。
【0011】
上記触媒におけるパラジウムの含有量は、上記触媒全体に対して、1重量%以上であり、5重量%以上が好ましく、8重量%がより好ましく、10重量%が更に好ましい。また、上記パラジウムの含有量は、通常、50重量%以下であり、30重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましい。
添加する触媒量は、パラジウム含有量が10重量%である場合、ニトリル化合物に対して、5重量%以上であり、10重量%以上がより好ましい。
即ち、上記パラジウム触媒におけるパラジウム量は、上記ニトリル化合物に対して、金属分として0.3〜10重量%が好ましく、0.5〜5重量%がより好ましく、1〜2重量%が更に好ましい。上記範囲とすることで第三級アミンの選択率の高い製造方法とすることができる。
【0012】
上記触媒は、目的とする触媒に含まれるパラジウムの原料(塩化パラジウム、硝酸パラジウム等の触媒原料)を活性炭担体に担持させた後、その活性炭担体に担持された、この触媒原料を還元剤で還元することで好適に製造することができる。
【0013】
本発明に用いられるこの触媒の形状は特に限定されず、例えば粉末状、球状、円柱状のものが挙げられる。反応生成物との分離や回収を効率的に行うためには粉末状のものが好ましい。
【0014】
本発明において、上記ニトリル化合物は、上記触媒と水素との存在下で水素還元反応をされる。水素の存在下での反応とは、水素を含有する雰囲気下での反応であり、水素が100%でもよいし、水素と、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスとを含むものであってもよい。水素ガス濃度は70容量%以上が好ましく、80容量%以上がより好ましい。
反応における水素の量は、上記ニトリル化合物の当量以上であればよいが、ニトリル化合物に対して5倍当量以上の大過剰が好ましく、10倍当量以上がより好ましく、30倍当量以上が更に好ましい。
また、圧力条件は、減圧、加圧又は常圧のいずれでもよいが、上記圧力は0.09〜5MPaが好ましく、0.09〜1.2MPaがより好ましく、0.1〜1.1MPaが更に好ましい。加圧とすることで、反応を促進することもできるが、製造条件を簡略化できる点で、0.09〜0.11MPa範囲の常圧又は常圧付近が好ましい。
尚、この反応は、バッチ反応でも連続反応でもよい。
【0015】
反応温度は、ニトリル化合物の種類、反応溶媒及び反応時間等の反応条件により適宜選択される。加熱することで、反応を促進することができるが、加熱する温度は、用いる溶媒の沸点以下が好ましい。尚、反応温度は、例えば、0〜200℃であり、好ましくは10〜150℃であり、より好ましくは10〜100℃であり、更に好ましくは10〜60℃である。
また、20〜25℃の加熱することのない常温付近での反応温度とすることもできる。
また、反応時間は、反応温度及び触媒量等により適宜選択されるが、通常3〜48時間、好ましくは6〜36時間、更に好ましくは8〜24時間である。
【0016】
上記一般式(1)で表されるニトリル化合物におけるRは、炭素数1〜12の直鎖アルキル基、上記一般式(2)で表されるアルコキシアルキル基、又は上記一般式(3)で表されるジアルキルアミノアルキル基である。
上記Rの直鎖アルキル基は、炭素数1〜12であり、炭素数1〜8が好ましく、炭素数1〜4がより好ましい。この直鎖アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基等が挙げられる。
【0017】
上記一般式(2)で表されるアルコキシアルキル基におけるRは炭素数1〜3の直鎖アルキル基を示し、Rは炭素数1〜8の直鎖アルキレン基を示す。
上記Rの直鎖アルキル基は炭素数1〜3であり、炭素数1〜2が好ましい。このRの炭素数1〜3の直鎖アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基が挙げられる。
また、上記Rの直鎖アルキレン基は、炭素数1〜8であり、炭素数1〜4が好ましい。この直鎖アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基、n−ペンチレン基、n−ヘキシレン基、n−へプチレン基、n−オクチレン基が挙げられる。
【0018】
上記一般式(3)で表されるジアルキルアミノアルキル基におけるRは炭素数1〜3の直鎖アルキル基を示し、Rは炭素数1〜8の直鎖アルキレン基を示す。
上記Rの直鎖アルキル基は炭素数1〜3であり、炭素数1〜2が好ましい。このRの炭素数1〜3の直鎖アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基が挙げられる。但し、RとRとは、同一であっても、異なっていてもよい。
上記Rの直鎖アルキレン基は、炭素数1〜8であり、炭素数1〜4が好ましい。このRの直鎖アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基、n−ペンチレン基、n−ヘキシレン基、n−へプチレン基、n−オクチレン基が挙げられる。
【0019】
本発明の製造方法は、反応溶媒中、又は無溶媒で行われるが、反応溶媒を用いて反応に供することが好ましい。本発明に用いられる反応溶媒としては、原料のニトリル化合物を溶解し、且つ反応中にニトリル化合物よりもアルキル化を受けにくいものであれば従来公知なものを用いることができる。例えば、有機溶媒及び水が挙げられるが、このうち有機溶媒が好ましい。有機溶媒を用いることにより、触媒の濾別及び濾液の減圧留去により生成物を単離することができる。また、反応溶媒として、水を用いることにより、低コストで安全性の高い反応となる。
上記有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒;シクロヘキサン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどのエステル系溶媒などを用いることができる。これらのうち、反応速度を高めることができ、更に反応液から溶媒を効率的に減圧留去することができることから、メタノール、酢酸エチル、シクロヘキサン、及びテトラヒドロフランが好ましい。これらの溶媒は単独または2種以上併用してもよい。尚、上記溶媒のうちメタールが更に好ましい。メタノールは、留去をしやすく、入手が容易であり、更に安価であることから好ましい。
【0020】
合成されたアミンは、以下の方法により、第一級アミン、第二級アミン及び第三級アミンの混合比率を求めた(以下、同様)。
測定に使用したNMRは、日本電子社製、「JNM AL−400スペクトロメーター」、溶媒は、重クロロホルム、内部標準は、テトラメチルシランである。
そして、混合比率である割合である第三級アミンと第二級アミンの生成比はH−NMRの以下のピークの積分強度から算出した。
第一級アミン:2.68ppm
第二級アミン:2.59ppm
第三級アミン:2.38ppm
そして、それぞれの積分強度比がA:B:Cの場合、A/2:B/4:C/6として求めた。
【0021】
本発明により、第三級アミンを選択的に製造することができる。上記パラジウムが活性炭担体に担持される触媒と水素との存在下で、上記ニトリル化合物からアミンが製造されるが、その製造されるアミンにおいて、上述のH−NMRスペクトルから算出される割合において、上記ニトリル化合物由来の第一級、第二級及び第三級アミンは、第二級及び第三級アミンの少なくとも該第三級アミンを含み、更に、第一級アミンは含まない。本発明では、上記ニトリル化合物を水素により還元することで、第二級アミン及び第三級アミンのみが製造され、第一級アミンは製造されない。
更に、その製造される第三級アミンは、高い選択率で製造され、上述のH−NMRスペクトルから算出される割合において、上記ニトリル化合物由来の第一級アミン、第二級及び第三級アミンおけるアミン全量に対して80%以上であり、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上であり、特に好ましくは100%である。
【0022】
尚、シクロヘキサンカルボニトリルを用いて第二級アミンを選択的に製造することができる。これは、パラジウムが活性炭担体に担持される触媒と水素との存在下で、シクロヘキサンカルボニトリルからアミンが製造され、上記アミンは、上記シクロヘキサンカルボニトリル由来の第一級、第二級及び第三級アミンのうちの、第二級及び第三級アミンのうちの少なくとも第二級アミンを含み、該第二級アミンは、H−NMRスペクトルから算出される割合において、その製造されるアミン全量に対して80%以上であり、上記触媒におけるパラジウム量が上記シクロヘキサンカルボニトリルに対して、1重量%以上である。
【0023】
上記第二級アミンの製造方法は、上記ニトリル化合物について上記シクロヘキサンカルボニトリルを用いるが、それ以外の飽和単環炭化水素基を有するニトリル化合物であっても用いることができる。その飽和単環炭化水素基を有するニトリル化合物としては、シクロペンタンカルボニトリル等が挙げられる。
尚、上記第二級アミンの製造方法は、上記第三級アミンの製造方法と、用いるニトリル化合物以外は同様である。
上記第三級アミン製造方法に用いるニトリル化合物について、飽和単環炭化水素基を有するニトリル化合物を用いることにより、第ニ級アミンを選択的に製造することができる。
シクロヘキサンカルボニトリル等の飽和単環炭化水素基を有するニトリル化合物はシアノ基の周りの立体障害の影響で第三級アミンへのアルキル化が進行しにくいため、第二級アミンを選択的に製造することができると考えられる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
〔1〕実験例1
下式に示すように、バレロニトリルを用いて、水素及びパラジウム担持触媒の存在下において、アミンを製造した。尚、実験例1は、実施例である。
【化4】

即ち、水素雰囲気下とする水素充填バルーン及び攪拌機を備えた反応装置に、バレロニトリル83mg(1.0ミリモル)と、パラジウム担持触媒をバレロニトリル(基質)に対して10重量%とを下記表1に示される各種溶媒1mlに懸濁した。次いで、常圧での水素雰囲気下及び室温において、24時間攪拌した。また、水素ガス2l(0.1MPa、25℃において約81.8ミリモルに相当)を用いた。
その後、反応液にエーテル20mlを加えて、触媒を45μmメンブランフィルターで濾去した後、溶媒を減圧留去させることによりアミンが得られた。
また、得られたアミンの比率は、H−NMRの測定結果の積分比により第一級アミン、第二級アミン及び第三級アミンの混合割合を確認した(以下、同様)。その結果を表1に併記する。
尚、実験例1−1における製造されたアミン及びバレロニトリル並びに第二級アミン(ジペンチルアミン)のH−NMRの測定結果を図1及び図2並びに図3に示す。
尚、パラジウム担持触媒は、活性炭を担体とし、触媒全体に対して10重量%のパラジウムが担持されている10%Pd/C(エヌ・イーケムキャット株式会社製 Kタイプ)を用いた。また、単に10%Pd/Cとしている場合は、活性炭を担体とし、触媒全体に対して10重量%のパラジウムが担持されている触媒(エヌ・イーケムキャット株式会社製 Kタイプ)のことである(以下、同様)。
更に、収率を表1に併記する。ニトリル化合物3分子から第三級アミン1分子が生成することから、上記収率は、得られた反応液から、溶媒を減圧留去した後の残渣重量を第三級アミンの分子量で割り、得られるモル数を原料のニトリル化合物1ミリモルで割ったモル比を3倍して、さらに100倍したものである。即ち、ニトリル化合物に対する残渣重量のモル%を3倍したものである。
【0025】
【表1】

【0026】
〔2〕実験例2
下式に示すように、バレロニトリル83mg(1.0ミリモル)を用いて、水素及びパラジウム担持触媒の存在下において、アミンを製造した。尚、実験例2−1及び2−2が実施例であり、2−3が比較例である。
【化5】

即ち、下記表2に示される触媒を用いたこと、及びバレロニトリルと触媒とをメタノール1mlに懸濁した以外は、実験例1と同様にしてアミンを得た。また、得られたアミン混合物をH−NMRの積分比により確認した。その結果を表2に併記する。
尚、使用した触媒は以下の通りである。
(1)10%Pd/C:活性炭を担体とし、触媒全体に対して10重量%のパラジウムが担持され、水を含まない触媒(エヌ・イーケムキャット株式会社製 Kタイプ)。
(2)10%Pd/C(wet):活性炭を担体とし、触媒全体に対して10重量%のパラジウムが担持され、触媒と同量の水を含ませた触媒(エヌ・イーケムキャット株式会社製 Kタイプ)。
(3)10%Pd/HP20:三菱化学社製ダイヤイオンHP20を担体にし、触媒全体に対して10重量%のパラジウムが担持され、水を含まない触媒(岐阜薬科大学薬品化学研究室製)。
【0027】
【表2】

【0028】
〔3〕実験例3
下式に示すように、バレロニトリル83mg(1.0ミリモル)を用いて、水素存在下において、アミンを製造した。尚、実験例3−1〜3−5が実施例であり、3−6が比較例である。
【化6】

即ち、下記表3に示される触媒を用いたこと、及びバレロニトリルと触媒とをメタノール1mlに懸濁した以外は、実験例1と同様にしてアミンを得た。また、得られたアミン混合物をH−NMRの積分比により確認した。触媒の添加量及びその結果を表3に併記する。
また、実験例3−3で得られたアミン混合物のH−NMRによる分析結果を図4に示す。
尚、使用した触媒は以下の通りである。
(1)10%Pd/C:活性炭を担体とし、触媒全体に対して10重量%のパラジウムが担持され、水を含まない触媒。
(2)5%Pd/C:活性炭を担体とし、触媒全体に対して5重量%のパラジウムが担持され、水を含まない触媒。
(3)10%Pd/C(wet):活性炭を担体とし、触媒全体に対して10重量%のパラジウムが担持され、触媒と同量の水を含む触媒。
(4)5%Pd/C(wet):活性炭を担体とし、触媒全体に対して5重量%のパラジウムが担持され、触媒と同量の水を含む触媒。
(5)1%Pd/C(wet):活性炭を担体とし、触媒全体に対して1重量%のパラジウムが担持され、触媒と同量の水を含む触媒。
【0029】
【表3】

【0030】
〔4〕実験例4
下式に示すように、バレロニトリル83mg(1.0ミリモル)を用いて、水素及びパラジウム担持触媒の存在下において、アミンを製造した。尚、実験例4は実施例である。
【化7】

即ち、バレロニトリルと活性炭担体に対して10重量%のパラジウムが担持されている(10%Pd/C)触媒とをメタノール1mlに懸濁した。添加した触媒量は、バレロニトリルに対して5及び10重量%とした。それ以外は、実験例1と同様にしてアミンを得た。また、得られたアミン混合物をH−NMRの積分比により確認した。触媒の添加量及びその結果を表4に示す。
【0031】
【表4】

【0032】
〔5〕実験例5
下式に示すように、バレロニトリル83mg(1.0ミリモル)を用いて、水素の存在下において、アミンを製造した。尚、実験例5−1が実施例であり、実験例5−2〜5−5が比較例である。
【化8】

即ち、以下に示される白金族元素が担持された触媒を用いたこと、及びバレロニトリルと触媒とをメタノール1mlに懸濁した以外は、実験例1と同様にしてアミンを得た。
また、得られたアミン混合物をH−NMRの積分比により確認した。用いた触媒及びその結果を表5に示す。
尚、使用した触媒は以下の通りである。
(1)10%Pd/C:活性炭を担体とし、触媒全体に対して10重量%のパラジウムが担持される触媒。
(2)10%Rh/C:活性炭を担体とし、触媒全体に対して10重量%のロジウムが担持される触媒。
(3)10%Pt/C:活性炭を担体とし、触媒全体に対して10重量%のプラチナが担持される触媒。
(4)10%Ru/C:活性炭を担体とし、触媒全体に対して10重量%のルテニウムが担持される触媒。
(5)10%Ir/C:活性炭を担体とし、触媒全体に対して10重量%のイリジウムが担持される触媒。
【0033】
【表5】

【0034】
〔6〕実験例6
下式に示すように、ニトリル化合物を用いて、水素及びパラジウムの存在下において、アミンを製造した。尚、実験例6−1〜6−4が実施例であり、6−5及び6−6が比較例である。
【化9】

即ち、下記表6に示されるニトリル化合物(1.0ミリモル)と、活性炭を担体とし触媒全体に対して10重量%のパラジウムが担持されている触媒(10%Pd/C)とをメタノール1mlに懸濁した。添加した触媒量は、基質であるニトリル化合物に対して10重量%とした。それ以外は、実験例1と同様にしてアミンを得た。また、得られたアミン混合物をH−NMRの積分比により確認した。その結果を表6に併記する。
【0035】
【表6】

【0036】
〔7〕実験例7
下式に示すように、シクロヘキサンカルボニトリルを用いて、水素及びパラジウムの存在下において、アミンを製造した。尚、実験例7は比較例である。
【化10】

即ち、シクロヘキサンカルボニトリル(1.0ミリモル)を用いて、実施例1に準じて、下記表7に示す条件において、アミンを製造した。また、得られたアミン混合物をH−NMRの積分比により確認した。その結果を表7に併記する。
【0037】
【表7】

【0038】
〔8〕実験例8
下式に示すように、第一級アミンであるn−アミルアミンとバレロニトリルとを用いて、水素及びロジウムの存在下において、アミンを製造した。尚、実験例8は比較例である。
【化11】

即ち、n−アミルアミン87mg(1.0ミリモル)、バレロニトリル166mg(2.0ミリモル)、活性炭を担体とし触媒全体に対して10重量%のパラジウムが担持されている触媒(10%Pd/C)とをメタノール1mlに懸濁した。それ以外は、実験例1と同様にしてアミンを得た。また、得られたアミン混合物をH−NMRの積分比により確認した。その結果を表8に示す。
【0039】
【表8】

【0040】
上記実験例1の結果(表1)より、無溶媒及び、いずれの溶媒を用いた場合にも第三級アミン(トリペンチルアミン)が選択的に製造できることが分かる。また、有機溶媒を用いることにより、第三級アミンが選択的に製造でき、更に、メタノール溶媒を用いることにより、ほぼ定量的な収率を達成できる。従って、本発明の溶媒としてメタノールが最適である。
また、上記実験例2の結果(表2)より、触媒担体が活性炭の場合、第三級アミンが選択的に製造できた。更に、触媒と同量の水を含む場合(2−2)も、第三級アミンが選択的に製造できることが確認できたが、この場合は、比率にして10/100程度第ニ級アミンが混在した。一方、触媒担体が、ポリスチレン系ポリマーである10%Pd/HP20の場合(2−3)は、ニトリル化合物からアミンは製造できなかった。
また、上記実験例3の結果(表3)より、パラジウムの触媒における含有量が10%及び5%の場合(3−1、3−2)は、第三級アミンが選択的に製造できることが分かる。更に、触媒と同量の水を含む触媒であって、パラジウムの含有量が10%、5%及び1%の場合(3−3、3−4、3−5)も、第三級アミンが選択的に製造できることが確認できた。このことから、触媒が水を含んだ状態の含水触媒でも、第三級アミンが選択的に製造されることが分かる。更に、触媒におけるパラジウム含有量が1%(3−5)であっても触媒反応が効果的に行われることが確認できた。
また、上記実験例4の結果(表4)より、パラジウムの含有量が10%の触媒をニトリル化合物に対して、10%及び5%添加した場合も第三級アミンが選択的に製造できることが確認できた。
【0041】
また、上記実験例5の結果(表5)より、白金族元素が担持された触媒において、白金族元素のうちパラジウムを担持する触媒の場合(5−1)、第三級アミンが選択的に製造できることが確認できた。尚、ロジウムの場合(5−2)、第二級アミンが選択的に製造された。また、他の白金族元素であるプラチナの場合(5−3)では、第二級アミン及び第三級アミンの混合物が製造された。更に、ルテニウム(5−4)及びイリジウム(5−5)の場合では、当該反応において、触媒活性を示さず、アミンは製造できなかった。
また、上記実験例6の結果(表6)より、分岐鎖(側鎖を有すること、以下同様)の基を有するニトリル化合物(6−6)では、アミンを製造することができなかった。しかし、直鎖の基を有するニトリル化合物(6−1〜6−4)であれば、第三級アミンが選択的に製造できることが分かる。また、芳香族単環炭化水素基を有するニトリル化合物(6−5)の場合は、第一級アミンが選択的に製造された。
また、上記実験例7の結果(表7)より、飽和単環炭化水素基を有するニトリル化合物を用いた場合、第二級アミンを選択的に製造できることはできたが、第三級アミンを高い選択率で製造することはできなかった。尚、メタノールを反応溶媒に用いた場合(7−1〜7−8)では、第二級アミンが選択的に製造できたが、メタノールを反応溶媒に用いても、触媒量が少ない場合(7−10)は、第三級アミンの割合が大きかった。また、無溶媒での反応では、製造されるアミンのうち、第三級アミンの割合が大きいが、反応温度を高めると第二級アミンが製造される割合が大きくなった。
【0042】
上記実験例8の結果(表8)より、ニトリル化合物に第一級アミンを混在させた上で、本発明に準じて反応させた場合、合成されたアミンは、第二級アミン及び第三級の混合物であった。上記実験例8の方法では、第三級アミンを高い選択率で製造できないことが確認できた。この方法では、第一級アミンが、触媒毒として触媒活性を低下させるなどにより、第三級アミンの合成を阻害すると考えられる。これに対し、本発明では、第一級アミンを用いることなく、ニトリル化合物のみから、水素雰囲気下で、より高い選択率で確実に第三級アミンを製造できることが確認できた。
【0043】
尚、本発明においては、上記具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実験例1−1における製造されたアミンのH−NMRの測定結果を示すグラフである。
【図2】バレロニトリルのH−NMRの測定結果を示すグラフである。
【図3】第二級アミン(ジペンチルアミン)のH−NMRの測定結果を示すグラフである。
【図4】実験例3−3における製造されたアミンのH−NMRの測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウムが活性炭担体に担持される触媒と水素との存在下で、下記一般式(1)で表されるニトリル化合物からアミンが製造され、
上記アミンは、上記ニトリル化合物由来の第一級、第二級及び第三級アミンのうちの、該第二級及び該第三級アミンの少なくとも該第三級アミンを含み、該第三級アミンは、H−NMRスペクトルから算出される割合において、その製造される第一級、第二級及び第三級アミンの全量に対して80%以上であることを特徴とする第三級アミンの製造方法。
【化1】

〔但し、一般式(1)において、Rは炭素数1〜12の直鎖アルキル基、下記一般式(2)で表されるアルコキシアルキル基、又は下記一般式(3)で表されるジアルキルアミノアルキル基を示す。〕
【化2】

〔但し、一般式(2)において、Rは炭素数1〜3の直鎖アルキル基を示し、Rは炭素数1〜8の直鎖アルキレン基を示す。〕
【化3】

〔但し、一般式(3)において、Rは炭素数1〜3の直鎖アルキル基を示し、Rは炭素数1〜8の直鎖アルキレン基を示す。〕
【請求項2】
反応温度が10〜60℃、反応圧力が0.09〜0.11MPaである請求項1記載の第三級アミンの製造方法。
【請求項3】
上記触媒におけるパラジウム量が上記ニトリル化合物に対して、0.5重量%以上である請求項1又は2記載の第三級アミンの製造方法。
【請求項4】
反応溶媒が用いられ、上記ニトリル化合物と上記触媒とが該反応溶媒に懸濁される請求項1〜3のいずれか一項記載の第三級アミンの製造方法。
【請求項5】
上記反応溶媒がメタノール、酢酸エチル、シクロヘキサン又はテトラヒドロフランである請求項4記載の第三級アミンの製造方法。
【請求項6】
上記反応溶媒がメタノールである請求項4記載の第三級アミンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−137905(P2009−137905A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317651(P2007−317651)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(805000018)財団法人名古屋産業科学研究所 (55)
【Fターム(参考)】