等速ジョイントおよび自動車の推進軸
【課題】軸方向荷重がかかって底突きした際に、連結する2つの伝達軸に屈曲角度を付与できる等速ジョイント、およびこの等速ジョイントを備えて等速ジョイントの近傍で推進軸の破損を生じさせることが可能な自動車の推進軸を提供する。
【解決手段】第一推進軸3に連結される外輪部材16と、第二推進軸4に連結される動力伝達部材17と、を備えた等速ジョイント2において、軸心Oから偏心した位置において、端壁15および動力伝達部材17の少なくとも一方に突当て部26を突設し、軸方向荷重が加わって端壁15と動力伝達部材17とが突当て部26を介して突き当たったとき、軸心Oと直交する方向回りの回転力が外輪部材16および動力伝達部材17の少なくとも一方に生ずる構成とした。
【解決手段】第一推進軸3に連結される外輪部材16と、第二推進軸4に連結される動力伝達部材17と、を備えた等速ジョイント2において、軸心Oから偏心した位置において、端壁15および動力伝達部材17の少なくとも一方に突当て部26を突設し、軸方向荷重が加わって端壁15と動力伝達部材17とが突当て部26を介して突き当たったとき、軸心Oと直交する方向回りの回転力が外輪部材16および動力伝達部材17の少なくとも一方に生ずる構成とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速ジョイントおよび自動車の推進軸に関する。
【背景技術】
【0002】
車体の前方にエンジンを搭載して動力を後輪に伝達する自動車の場合、基本的に推進軸を車体中央下部に配置して動力を伝達している。車両の前方衝突時に客室前方のエンジンルームをクラッシャブルゾーンとして衝突エネルギを吸収するにあたり、前記推進軸は、クラッシャブルゾーンの変形を確保するために要するエンジンおよび変速機の後方移動に対してつっかえ棒として働くおそれがある。
【0003】
そのため、推進軸に前方からの所定の荷重が作用したときに、推進軸を意図的に破損もしくは車体から離脱させることによりエンジンや変速機を移動しやすくする技術が提案されている。これらの技術として、推進軸のパイプ部を強化炭素繊維(CFRP)にしたものや、推進軸を等速ジョイントの底部において貫通させることで推進軸の長さを短縮する技術が提案されているが、これらの技術では推進軸の製作コストのアップにつながりやすい。
【0004】
そこで推進軸に小径部を形成し、ジョイントを屈曲させることにより小径部周りに曲げ荷重を作用させて破損させる構造が開示されている。その構造例を図11、図12に示す。図11、図12は、2つの軸から構成された2ピース構成の推進軸の場合を示している。図11において、推進軸61は、第二ジョイントとしての等速ジョイント62を介して互いに連結される車両前方寄りの第一推進軸63と車両後方寄りの第二推進軸64とから構成される。第一推進軸63は、前端が十字軸ジョイントからなる第一ジョイント65を介して自動車のエンジンに結合した変速機(図示せず)に連結し、後端が等速ジョイント62に連結される。第二推進軸64は、前端が等速ジョイント62に連結され、後端が十字軸ジョイントからなる第三ジョイント66を介して後輪用の終減速機(図示せず)に連結される。車両が前方衝突等した場合、第三ジョイント66が図12(a)の状態から図12(b)の状態のように推進軸61に対して屈曲することで小径部64A周りが変形、破損する。
【0005】
推進軸に局所的な加工を施し、車両の衝突時にその加工部を破損させる他の構造例として特許文献1〜4に記載のものが挙げられる。しかし、特許文献1に記載の技術は、推進軸を拡径する方向に加工することから、推進軸の強度が低下しやすいという問題がある。また、特許文献2に記載の技術は、推進軸の加工が複雑となって製造コストが高くなりやすく、推進軸の捩じり強度の低下が懸念される。また、特許文献3に記載の技術は、推進軸の縮径加工範囲が長く、加工が複雑となって製造コストが高くなりやすい。さらに、特許文献4に記載の技術は、推進軸の縮径加工形状が両端で異なるため、加工治具の点数が増加することになり、さらに組み付け方向を誤らないようにするなどの誤作業の防止対策が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−178105号公報
【特許文献2】特開平5−280527号公報
【特許文献3】特開平10−129283号公報
【特許文献4】特開2002−79840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エンジンからの推進軸の軸方向に作用する振動を吸収する方法として摺動式の等速ジョイントを採用する例があり、その多くが図11に示したように2ピース構成の推進軸の場合、3箇所あるジョイントの内の中央の第二ジョイントに採用している。しかし、摺動式の等速ジョイントは、図13(a)の状態から軸方向の荷重が作用して図13(b)の状態のように底付きした場合、動力伝達部材67の前端が外輪部材68の底部(端壁69)に周方向に均等に当接するため、ジョイントの屈曲が生じず、推進軸61に曲げ荷重を作用させることが困難となる。
【0008】
そのため、ジョイントに屈曲角度を与えることにより曲げ荷重を発生させ推進軸を破損させる場合、図11に示した第一ジョイント65或いは第三ジョイント66を利用してこれらの近傍で推進軸を破損させざるを得ない。したがって、従来では、第一ジョイント65或いは第三ジョイント66の近傍での推進軸の破損を考慮しなければならない分、車両の各装置のレイアウトに制約を受けやすいという問題がある。
【0009】
特に、第一ジョイント65や第三ジョイント66を構成する十字軸ジョイントに大きな屈曲角度を付与しようとすると、強度の点からジョイントを構成する2つのヨークの形状を大きくする必要があり、重量の増加と製作コスト高につながる。また、推進軸の径は車両の音振動性能の最適化のためや車両レイアウトの制約により決定されることが多いが、決定された推進軸の径サイズに応じて縮径加工し、その径に応じて大きさの異なる複数種のジョイントを溶接することになるため、部品種類の増加や加工治具の種類の増加につながり、推進軸の生産性が低下しやすいという問題がある。
【0010】
本発明は、このような課題を解決するために創案されたものであり、軸方向荷重が作用して底突きした際に、連結する2つの伝達軸に屈曲角度を付与できる等速ジョイント、およびこの等速ジョイントを備えて等速ジョイントの近傍で推進軸の破損を生じさせることが可能な自動車の推進軸を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明は、第一伝達軸に連結され、軸方向に沿う摺動溝が内周面に複数形成されかつ第一伝達軸寄りに端壁が形成された外輪部材と、第二伝達軸に連結され、前記各摺動溝をそれぞれ摺動可能な摺動子を備えた動力伝達部材と、を備えた摺動式等速ジョイントであって、軸心から偏心した位置において、前記端壁および前記動力伝達部材の少なくとも一方に突当て部が突設され、軸方向荷重が加わって前記端壁と前記動力伝達部材とが前記突当て部を介して突き当たったとき、軸心と直交する方向回りの回転力が前記外輪部材および前記動力伝達部材の少なくとも一方に生ずることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、軸方向荷重が作用して端壁と動力伝達部材とが突当て部を介して底突きとして突き当たると、突当て部は軸心から偏心していることにより、外輪部材および動力伝達部材に回転モーメントが生じる。したがって、軸方向荷重の一部が、外輪部材および動力伝達部材の少なくとも一方を軸心と直交する方向回りに回転させる回転力に変換される。これにより、連結する2つの伝達軸に屈曲角度が付与される。
【0013】
また、本発明は、前記突当て部は、前記端壁の肉盛部から構成されることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、摺動溝の溝長さを変えるのみで突当て部を形成できるため、構造が簡単となり、等速ジョイントの製造コストのアップを抑制できる。
【0015】
また、本発明は、前記突当て部は、前記摺動溝の溝端面周りに取り付けた突当て部材から構成されることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、摺動溝の溝長さが全て等しい従来既製品の外輪部材に対して別部材からなる突当て部材を取着するのみで突当て部を形成できるため、構造が簡単となり、等速ジョイントの製造コストのアップを抑制できる。
【0017】
また、本発明は、等速ジョイントがトリポート型ジョイントであることを特徴とする。
さらに、本発明は、等速ジョイントがダブルオフセット型ジョイントであることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、汎用のトリポート型ジョイント或いはダブルオフセット型ジョイントを利用できるため、等速ジョイントの製造コストのアップを抑制できる。
【0019】
また、本発明は、前端が自動車のエンジンに結合した変速機に連結し、後端が終減速機に連結される推進軸を備え、複数設けられたジョイントの一部に等速ジョイントを設け、前端側から軸方向荷重が加わって前記端壁と前記動力伝達部材とが前記突当て部を介して突き当たったとき、軸心と直交する方向回りの回転力が推進軸に生ずることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、車両が前方衝突すると、等速ジョイントにおいて端壁と動力伝達部材とが突当て部を介して突き当たる。突当て部が軸心から偏心していることにより外輪部材および動力伝達部材に回転モーメントが生じ、軸方向荷重の一部が、外輪部材および動力伝達部材の少なくとも一方を、軸心と直交する方向回りに回転させる回転力に変換される。この回転力により等速ジョイントが屈曲し、推進軸に屈曲角度が付与される。
【0021】
また、本発明は、前記等速ジョイントに溶接される推進軸の等速ジョイント寄りの軸径を小径に形成したことを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、等速ジョイントの近傍に位置する小径の部位において推進軸を破損させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、軸方向荷重が作用したときに、等速ジョイントを屈曲点として、連結する2つの伝達軸に屈曲角度を付与できるため、等速ジョイントの近傍において伝達軸を効果的に破損できる。したがって、本発明の等速ジョイントを備える自動車の推進軸によれば、等速ジョイントの近傍において推進軸を破損できる。特に、この等速ジョイントを2ピース構成の推進軸において中央の第二ジョイントとして備えた場合、従来では推進軸の破損箇所を推進軸の前端の第一ジョイント或いは後端の第三ジョイントの近傍に設定せざるを得なかったところ、第二ジョイントの近傍においても破損可能となることから、その分、車両のレイアウト設計の自由度を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態に係る等速ジョイントおよび推進軸の全体構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る等速ジョイントおよび推進軸の要部の側断面図である。
【図3】図2におけるA−A断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る等速ジョイントおよび推進軸の作用説明図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る等速ジョイントおよび推進軸の要部の側断面図である。
【図6】図5におけるB−B断面図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る等速ジョイントおよび推進軸の要部の側断面図である。
【図8】本発明の第4実施形態に係る等速ジョイントおよび推進軸の要部の側断面図である。
【図9】1ピース構成の推進軸に本発明の等速ジョイントを適用した場合の側断面図である。
【図10】2ピース構成の推進軸において、本発明の等速ジョイントの動力伝達部材を第一推進軸側に連結した場合の側断面図である。
【図11】従来の推進軸の全体構成図である。
【図12】従来の推進軸における十字軸ジョイント周りの側面図である。
【図13】従来の推進軸における等速ジョイント周りの側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る等速ジョイントを自動車の推進軸(プロペラシャフト)に適用した形態について説明する。図1において、推進軸1は、2つの軸から構成されたいわゆる2ピース構成の推進軸であって、第二ジョイントとしての等速ジョイント2を介して互いに連結される車両前方寄りの第一推進軸3と車両後方寄りの第二推進軸4とから構成される。
【0026】
「第1実施形態」
第一推進軸3は、中空管からなる部材であって、前端が第一ジョイント5を介して自動車のエンジンに結合した変速機(図示せず)に連結し、後端が等速ジョイント2に連結される。第一ジョイント5は、変速機と第一推進軸3の前端とにそれぞれ取り付けた一対のコ字形のヨーク6、7を十字軸8を介して互いに軸支するいわゆる十字軸ジョイントである。また、第一推進軸3の後端寄りは、後に詳述するように管の座屈を意図的に生じさせるための小径部3Aとして成形されている。小径部3Aは例えば中空管の絞り加工により成形される。
【0027】
第二推進軸4も中空管からなる部材であって、前端が等速ジョイント2に連結され、後端が第三ジョイント9を介して後輪用の終減速機(図示せず)に連結される。具体的には、第二推進軸4の前端は連結軸10を介して等速ジョイント2に連結される。連結軸10は第二推進軸4の前端に溶接等により一体化されている。連結軸10には中間軸受11が組み付けられており、この中間軸受11のアウタケース側が弾性体からなる防振部材12とブラケット13とを介して車体側に支持されている。第三ジョイント9は、終減速機と第二推進軸4の後端とにそれぞれ取り付けた一対のコ字形のヨーク6、7を十字軸8を介して互いに軸支する十字軸ジョイントである。また、第二推進軸4の後端寄りにも絞り加工等による小径部4Aが形成されている。
【0028】
等速ジョイント2は、摺動式の等速ジョイントであって、第一推進軸3(第一伝達軸)に連結され、軸方向に沿う摺動溝14が内周面に等間隔で複数形成されかつ第一推進軸3寄りに端壁15が形成された外輪部材16と、第二推進軸4(第二伝達軸)に連結され、各摺動溝14をそれぞれ摺動可能な摺動子を備えた動力伝達部材17と、を備えて構成される。
【0029】
等速ジョイント2としては例えばトリポート型等速ジョイントであり、図2、図3に示すように、外輪部材16の内周面には3本の摺動溝14が円周方向に等間隔で形成されている。外輪部材16は一端側が端壁15により閉塞され、他端側が開口形成された筒状を呈した部材であり、図2に示すように、摺動溝14の溝端面18は端壁15において形成される。端壁15の外壁側には第一推進軸3の後端が溶接等により一体化されている。前記連結軸10の前端周りは外輪部材16の開口部19を挿通して外輪部材16の内部に同軸状に位置する。開口部19は、外輪部材16に取着したシール支持部材20と連結軸10との間に掛け渡した弾性体からなるシール部材21により塞がれる。
【0030】
動力伝達部材17は、連結軸10の前端に外嵌固定されるボス部22およびボス部22の円周方向等分位置から径方向外方に突出した三本のトラニオンジャーナル23を有するスパイダ24と、 各トラニオンジャーナル23の回りにワッシャやニードルローラ等を介して回転自在に取り付けられ、トルクを伝達する前記摺動子としてのローラ25と、を備える。ローラ25が摺動溝14を摺動(転動)することで外輪部材16と動力伝達部材17とが軸方向に相対移動可能となり、さらにローラ25の外周が球面に形成されているため、外輪部材16と連結軸10とに角度がついた場合であってもスパイダ24が傾斜した状態でローラ25は摺動溝14をスムーズに摺動可能である。
【0031】
等速ジョイント2の軸心Oから偏心した位置において、端壁15および動力伝達部材16の少なくとも一方には、端壁15と動力伝達部材17とが互いに近接する方向の軸方向荷重が加わったときに両者を局所的に突き当てる突当て部26が突設される。図2は端壁15側に突当て部26を設けた態様を示しており、具体的には3つある摺動溝14の内の1つの摺動溝14の溝端面18を突当て部26に充てている。すなわち、端壁15の肉盛部が突当て部26を構成する。なお、突当て部26を設けない場合の溝端面18を仮想線にて示してある。突当て部26を構成する溝端面18と他の溝端面18はいずれも、軸心Oに向かうにしたがい第一伝達軸(第一推進軸3)側に変位する傾斜状、かつ第一伝達軸側に向けて凸となる曲面状に形成されている。
【0032】
従来、3つの摺動溝14の開口部19からの溝長さは全て等しく、溝端面18とローラ25との距離は3つの摺動溝14において全て等しい関係にある。これに対し、本発明では、1つの摺動溝14の開口部19からの溝長さを他の摺動溝14よりも短くしている。これにより、溝長さを短くした摺動溝14の溝端面18が突当て部26を構成することとなり、この突当て部26を構成する溝端面18とローラ25との距離は、他の溝端面18とローラ25との距離よりも短く設定されることになる。
【0033】
図4を参照して推進軸1の作用を説明する。図4(a)は推進軸1の平常時の状態を示し、ローラ25は摺動溝14の溝長さ方向中程に位置している。車両が前方衝突するなどして第一推進軸3が後退すると、この第一推進軸3と一体に連結された外輪部材16も後退し、図4(b)に示すように、突当て部26を構成する溝端面18のみがローラ25に突き当たる。
【0034】
突当て部26を構成する溝端面18とローラ25とが突き当たったまま、図4(c)に示すように、第一推進軸3からの軸方向荷重を受けて第一推進軸3および連結軸10が一体となって後退するので、防振部材12の一部が後方に伸びるように変形する。突当て部26が軸心Oから偏心していることにより外輪部材16および動力伝達部材17には回転モーメントが生じ、第一推進軸3からの軸方向荷重がさらに大きくなると、軸方向荷重の一部が、外輪部材16および動力伝達部材17の少なくとも一方を、突当て部26を回転中心として軸心Oと直交する方向(図4における紙面奥−手前方向)回りに回転させる回転力に変換される。特に、本実施形態では、突当て部26を構成する溝端面18が傾斜状かつ曲面状に形成されているため、この溝端面18とローラ25の外周面との間での前記回転力の発生が比較的スムーズとなる。この回転力により、図4(d)に示すように、第一推進軸3と第二推進軸4との互いの軸心に角度が付与され、第一推進軸3および第二推進軸4に曲げ応力が生ずる。これと前後して防振部材12は第一推進軸3からのさらなる軸方向荷重を受けて破断し、推進軸1は連結軸10においてブラケット13からの支持が解かれるようになっている。
【0035】
さらに第一推進軸3と第二推進軸4とが互いに傾くと、図4(e)に示すように、残り2つの摺動溝14においても溝端面18とローラ25とが突き当たる。この状態でさらに第一推進軸3から軸方向荷重がかかり、第一推進軸3、第二推進軸4に生じた曲げ応力が材料の許容値を超えると、第一推進軸3、第二推進軸4の少なくとも一方が変形し、車両の衝突エネルギが吸収される。本実施形態では、第一推進軸3の後端周りに小径部3Aを形成しているため、図4(f)に示すように、主にこの小径部3Aと大径部との段差辺りで座屈が生じることにより車両の衝突エネルギが吸収されるようになっている。また、第一推進軸3からの軸方向荷重の大きさによっては座屈箇所が破断し、これにより第一推進軸3の後方移動が許容される。
【0036】
以上のように、軸心Oから偏心した位置において、端壁15および動力伝達部材17の少なくとも一方に突当て部26を突設し、軸方向荷重が加わって端壁15と動力伝達部材17とが突当て部26を介して突き当たったとき、軸心Oと直交する方向回りの回転力が外輪部材16および動力伝達部材17の少なくとも一方に生ずる等速ジョイント2とすれば、軸方向荷重が作用したときに、等速ジョイント2を屈曲点として、外輪部材16に連結される第一伝達軸の軸心と動力伝達部材17に連結される第二伝達軸の軸心とに交差角度を与えることができる。これにより、第一伝達軸および第二伝達軸の少なくとも一方に曲げ応力を生じさせることができ、等速ジョイント2の近傍において第一伝達軸や第二伝達軸を効果的に変形させることができる。
【0037】
また、前端が自動車のエンジンに結合した変速機に連結し、後端が終減速機に連結される推進軸1を備え、複数設けられたジョイントの一部に本発明の等速ジョイント2を設け、前端側から軸方向荷重が加わって端壁15と動力伝達部材17とが突当て部26を介して突き当たったとき、軸心Oと直交する方向回りの回転力が推進軸1に生ずる構成としたことにより、車両の前方衝突時等に等速ジョイント2の近傍において推進軸1を効果的に変形させることができ、エンジンや変速機を後方へ移動しやすくすることができる。
本実施形態のように、2ピース構成の推進軸1において中央の第二ジョイントに等速ジョイント2を設けた場合、従来では推進軸の破損箇所を推進軸の前端の第一ジョイント或いは後端の第三ジョイントの近傍に設定せざるを得なかったところ、第二ジョイントの近傍においても破損可能となることから、その分、車両のレイアウト設計の自由度を広げることができる。
【0038】
特に、推進軸1の等速ジョイント2寄りの軸径を小径に形成すれば、この小径の部位にて推進軸1を変形させることができる。本実施形態の場合、第一推進軸3の後端周りに小径部3Aを形成したので、等速ジョイント2の近傍に位置するこの小径部3Aにおいて曲げ応力を効果的に生じさせることができ、主に大径部側との段差辺りにおいて座屈などの変形を引き起こすことができる。
【0039】
さらに、突当て部26を、端壁15の肉盛部から構成すれば、摺動溝14の溝長さを変えるのみで突当て部26を形成できるため、構造が簡単となり、等速ジョイント2の製造コストのアップを抑制できる。
【0040】
「第2実施形態」
図5および図6は第2実施形態にかかる図面であり、第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
第2実施形態は、等速ジョイント2をダブルオフセット型ジョイントとした形態に関するものである。
【0041】
この等速ジョイント2は、第一推進軸3(第一伝達軸)に連結され、軸方向に沿う摺動溝34が内周面に等間隔で複数形成されかつ第一推進軸3寄りに端壁35が形成された外輪部材36と、第二推進軸4(第二伝達軸)に連結され、各摺動溝34をそれぞれ摺動可能な摺動子を備えた動力伝達部材37と、を備えて構成される。
【0042】
外輪部材36の内周面には複数(本実施形態では8本)の摺動溝34が円周方向に等間隔で形成されている。外輪部材36は一端側が端壁35により閉塞され、他端側が開口形成された筒状を呈した部材であり、摺動溝34の溝端面38は端壁35において形成される。端壁35の外壁側には第一推進軸3の後端が溶接等により一体化されている。連結軸10の前端周りは外輪部材36の開口部39を挿通して外輪部材36の内部に同軸状に位置する。
【0043】
動力伝達部材37は、連結軸10の前端に外嵌固定される内輪部材40と、トルクを伝達する前記摺動子としての複数(本実施形態では8個)のボール41と、ケージ42とを備える。ケージ42は内外周面が球面を呈した円筒形状をなし、周方向に等間隔でボール保持孔が形成されている。各ボール41はケージ42のボール保持孔に保持される。ボール41が摺動溝34を摺動することで外輪部材36と動力伝達部材37とが軸方向に相対移動可能となり、さらにケージ42のボール保持孔の孔内周面が球面に形成されているため、外輪部材36と連結軸10とに角度がついた場合であってもケージ42が傾斜した状態でボール41が摺動溝34をスムーズに摺動する。
【0044】
等速ジョイント2の軸心Oから偏心した位置において、端壁35には、端壁35と動力伝達部材37とが互いに近接する方向の軸方向荷重が加わったときに両者を局所的に突き当てる突当て部26が突設される。この第2実施形態も第1実施形態と同様に突当て部26として摺動溝の溝端面を利用しており、摺動溝34の内の1つの摺動溝34の溝端面38を突当て部26に充てている。すなわち、端壁35の肉盛部が突当て部26を構成する。突当て部26を構成する溝端面38と他の溝端面38はいずれも、軸心Oに向かうにしたがい第一伝達軸側に変位する傾斜状、かつ第一伝達軸側に向けて凸となる曲面状に形成されている。
【0045】
以上のダブルオフセット型の等速ジョイント2によっても、車両が前方衝突するなどして第一推進軸3から軸方向加重が作用すると、突当て部26を構成する溝端面38のみがボール41に突き当たるため、外輪部材36および動力伝達部材37の少なくとも一方を、突当て部26を回転中心として軸心Oと直交する方向回りに回転させる回転力が生じ、第一推進軸3と第二推進軸4との互いの軸心がずれて、第一推進軸3および第二推進軸4に曲げ応力が生ずる。これにより、小径部3A等において第一推進軸3を効率的に座屈させることができる。また、突当て部26を、摺動溝34の溝端面38自体から構成することにより、摺動溝34の溝長さを変えるのみで突当て部26を形成できるため、構造が簡単となり、ダブルオフセット型の等速ジョイント2の製造コストのアップを抑制できる。
【0046】
「第3実施形態」
図7は第3実施形態にかかる図面であり、第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
第1実施形態が突当て部26を端壁15の肉盛部から構成したのに対し、第3実施形態は、突当て部26を摺動溝14の溝端面18周りに取り付けた突当て部材51から構成したことを特徴とする。
【0047】
突当て部材51としては例えばボルトを利用することができる。図7では、軸心Oから偏心した位置の端壁15に雌螺子を螺設し、この雌螺子にボルトの雄螺子をねじ込み固定した態様を示している。これにより、摺動溝14の溝端面18においてボルト頭が位置することとなり、このボルト頭にローラ25が突き当たることで、第1実施形態と同様に、軸心Oと直交する方向回りに回転させる回転力が生じ、第一推進軸3と第二推進軸4との互いの軸心がずれて、小径部3Aにおいて第一推進軸3が座屈する。ボルトは例えばねじ込み作業をしやすいように六角孔付きボルトからなる。
【0048】
この第3実施形態によれば、摺動溝14の溝長さを変える必要がなくなり、摺動溝14の溝長さが全て等しい従来既製品の外輪部材16に対して別部材からなる突当て部材51を取着するのみで突当て部26を形成することができる。特に突当て部材51をボルトから構成し、このボルトを外輪部材16にねじ込む構造とすれば、組み付け作業も容易となる。なお、ダブルオフセット型の等速ジョイント2においても突当て部26を突当て部材51から構成することができる。
【0049】
「第4実施形態」
図8は第4実施形態にかかる図面であり、第2実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
第1実施形態〜第3実施形態が突当て部26を端壁15、35側に突設したのに対し、第4実施形態は突当て部26を動力伝達部材37側に突設した形態に関するものである。
【0050】
図8は、等速ジョイント2をダブルオフセット型の等速ジョイントとし、突当て部26を構成する突設部材52をケージ42の前端に取着した態様を示している。突設部材52は例えば溶接等によりケージ42に固定される。突当て部26をケージ42に一体成形する態様でも差し支えない。
【0051】
この第4実施形態によっても、車両が前方衝突するなどして第一推進軸3から軸方向加重がかかると、端壁35が突設部材52に突き当たり、外輪部材36および動力伝達部材37の少なくとも一方を、突当て部26を回転中心として軸心Oと直交する方向回りに回転させる回転力が生じ、第一推進軸3と第二推進軸4との互いの軸心がずれて、第一推進軸3および第二推進軸4に曲げ応力が生ずる。これにより、小径部3A等において第一推進軸3を効果的に座屈させることができる。
【0052】
以上、等速ジョイント2とこれを備える自動車の推進軸1の好適な実施形態を説明した。本発明は、軸心Oと直交する方向回りの回転力が外輪部材16、36および動力伝達部材17、37の少なくとも一方に生じるように突当て部26を設ければよいのであり、突当て部26の形成箇所は1つに限られることはない。
【0053】
例えば、軸心Oから偏心した位置であって、かつ互いに近接した位置に2つまたはそれ以上の突当て部26を形成しても、外輪部材16、36および動力伝達部材17、37の少なくとも一方に、軸心Oと直交する方向回りの回転力を生じさせることが可能である。第2実施形態を例にすると、互いに隣接する2つの摺動溝34の溝端面38にそれぞれ突当て部26を形成しても、外輪部材16および動力伝達部材17には回転モーメントが生じるため、軸心Oと直交する方向回りの回転力が生じることとなる。
【0054】
また、例えば突当て部26を構成する端壁15,35の肉盛部にスリットや切欠き、中空孔等を形成して、肉盛部の軽量化を図ることができる。
さらに、突当て部26による偏心質量を相殺する手段として、等速ジョイント2に肉盛りや研削加工等が適宜に施される。
【0055】
さらに、自動車の推進軸としては概ね車両レイアウトに応じて1ピース構成から3ピース構成まであり、等速ジョイントも目的に応じて配置箇所が様々であり、本発明はいずれの構成、配置箇所においても適用可能である。
【0056】
例えば、図9は1ピース構成の推進軸1を示し、単体の推進軸53は、前端が第一ジョイント54を介して自動車のエンジンに結合した変速機に連結し、後端が第二ジョイント55を介して後輪用の終減速機に連結されている。本発明の等速ジョイント2は図示するように第一ジョイント54に適用可能であり、また第二ジョイント55にも適用可能である。
【0057】
さらに、図10は2ピース構成の推進軸1において、本発明の等速ジョイント2の動力伝達部材17を第一推進軸3側に、外輪部材16を第二推進軸4側に連結した態様を示している。すなわち、この推進軸1は、前端が第一ジョイント5を介して自動車のエンジンに結合した変速機に連結し、後端が連結部材10を介して動力伝達部材17に連結される第一推進軸3と、前端が外輪部材16に連結され、後端が第三ジョイント9を介して後輪用の終減速機に連結される第二推進軸4とを備える。第二推進軸4の前端周りは小径部4Aとして成形されている。この推進軸1によっても、車両の前方衝突時等に等速ジョイント2の近傍に位置する小径部4Aにおいて推進軸1を効果的に変形させることができる。等速ジョイント2を第一ジョイント5或いは第三ジョイント9に適用することも可能である。
【0058】
また、3ピース構成の推進軸においては4つのジョイントの内のいずれかに本発明の等速ジョイント2を適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 推進軸
2 等速ジョイント
3 第一推進軸(第一伝達軸)
3A 小径部
4 第二推進軸(第二伝達軸)
14,34 摺動溝
15,35 端壁
16,36 外輪部材
17,37 動力伝達部材
18,38 溝端面
25 ローラ(摺動子)
26 突当て部
41 ボール(摺動子)
51 突当て部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速ジョイントおよび自動車の推進軸に関する。
【背景技術】
【0002】
車体の前方にエンジンを搭載して動力を後輪に伝達する自動車の場合、基本的に推進軸を車体中央下部に配置して動力を伝達している。車両の前方衝突時に客室前方のエンジンルームをクラッシャブルゾーンとして衝突エネルギを吸収するにあたり、前記推進軸は、クラッシャブルゾーンの変形を確保するために要するエンジンおよび変速機の後方移動に対してつっかえ棒として働くおそれがある。
【0003】
そのため、推進軸に前方からの所定の荷重が作用したときに、推進軸を意図的に破損もしくは車体から離脱させることによりエンジンや変速機を移動しやすくする技術が提案されている。これらの技術として、推進軸のパイプ部を強化炭素繊維(CFRP)にしたものや、推進軸を等速ジョイントの底部において貫通させることで推進軸の長さを短縮する技術が提案されているが、これらの技術では推進軸の製作コストのアップにつながりやすい。
【0004】
そこで推進軸に小径部を形成し、ジョイントを屈曲させることにより小径部周りに曲げ荷重を作用させて破損させる構造が開示されている。その構造例を図11、図12に示す。図11、図12は、2つの軸から構成された2ピース構成の推進軸の場合を示している。図11において、推進軸61は、第二ジョイントとしての等速ジョイント62を介して互いに連結される車両前方寄りの第一推進軸63と車両後方寄りの第二推進軸64とから構成される。第一推進軸63は、前端が十字軸ジョイントからなる第一ジョイント65を介して自動車のエンジンに結合した変速機(図示せず)に連結し、後端が等速ジョイント62に連結される。第二推進軸64は、前端が等速ジョイント62に連結され、後端が十字軸ジョイントからなる第三ジョイント66を介して後輪用の終減速機(図示せず)に連結される。車両が前方衝突等した場合、第三ジョイント66が図12(a)の状態から図12(b)の状態のように推進軸61に対して屈曲することで小径部64A周りが変形、破損する。
【0005】
推進軸に局所的な加工を施し、車両の衝突時にその加工部を破損させる他の構造例として特許文献1〜4に記載のものが挙げられる。しかし、特許文献1に記載の技術は、推進軸を拡径する方向に加工することから、推進軸の強度が低下しやすいという問題がある。また、特許文献2に記載の技術は、推進軸の加工が複雑となって製造コストが高くなりやすく、推進軸の捩じり強度の低下が懸念される。また、特許文献3に記載の技術は、推進軸の縮径加工範囲が長く、加工が複雑となって製造コストが高くなりやすい。さらに、特許文献4に記載の技術は、推進軸の縮径加工形状が両端で異なるため、加工治具の点数が増加することになり、さらに組み付け方向を誤らないようにするなどの誤作業の防止対策が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−178105号公報
【特許文献2】特開平5−280527号公報
【特許文献3】特開平10−129283号公報
【特許文献4】特開2002−79840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エンジンからの推進軸の軸方向に作用する振動を吸収する方法として摺動式の等速ジョイントを採用する例があり、その多くが図11に示したように2ピース構成の推進軸の場合、3箇所あるジョイントの内の中央の第二ジョイントに採用している。しかし、摺動式の等速ジョイントは、図13(a)の状態から軸方向の荷重が作用して図13(b)の状態のように底付きした場合、動力伝達部材67の前端が外輪部材68の底部(端壁69)に周方向に均等に当接するため、ジョイントの屈曲が生じず、推進軸61に曲げ荷重を作用させることが困難となる。
【0008】
そのため、ジョイントに屈曲角度を与えることにより曲げ荷重を発生させ推進軸を破損させる場合、図11に示した第一ジョイント65或いは第三ジョイント66を利用してこれらの近傍で推進軸を破損させざるを得ない。したがって、従来では、第一ジョイント65或いは第三ジョイント66の近傍での推進軸の破損を考慮しなければならない分、車両の各装置のレイアウトに制約を受けやすいという問題がある。
【0009】
特に、第一ジョイント65や第三ジョイント66を構成する十字軸ジョイントに大きな屈曲角度を付与しようとすると、強度の点からジョイントを構成する2つのヨークの形状を大きくする必要があり、重量の増加と製作コスト高につながる。また、推進軸の径は車両の音振動性能の最適化のためや車両レイアウトの制約により決定されることが多いが、決定された推進軸の径サイズに応じて縮径加工し、その径に応じて大きさの異なる複数種のジョイントを溶接することになるため、部品種類の増加や加工治具の種類の増加につながり、推進軸の生産性が低下しやすいという問題がある。
【0010】
本発明は、このような課題を解決するために創案されたものであり、軸方向荷重が作用して底突きした際に、連結する2つの伝達軸に屈曲角度を付与できる等速ジョイント、およびこの等速ジョイントを備えて等速ジョイントの近傍で推進軸の破損を生じさせることが可能な自動車の推進軸を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明は、第一伝達軸に連結され、軸方向に沿う摺動溝が内周面に複数形成されかつ第一伝達軸寄りに端壁が形成された外輪部材と、第二伝達軸に連結され、前記各摺動溝をそれぞれ摺動可能な摺動子を備えた動力伝達部材と、を備えた摺動式等速ジョイントであって、軸心から偏心した位置において、前記端壁および前記動力伝達部材の少なくとも一方に突当て部が突設され、軸方向荷重が加わって前記端壁と前記動力伝達部材とが前記突当て部を介して突き当たったとき、軸心と直交する方向回りの回転力が前記外輪部材および前記動力伝達部材の少なくとも一方に生ずることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、軸方向荷重が作用して端壁と動力伝達部材とが突当て部を介して底突きとして突き当たると、突当て部は軸心から偏心していることにより、外輪部材および動力伝達部材に回転モーメントが生じる。したがって、軸方向荷重の一部が、外輪部材および動力伝達部材の少なくとも一方を軸心と直交する方向回りに回転させる回転力に変換される。これにより、連結する2つの伝達軸に屈曲角度が付与される。
【0013】
また、本発明は、前記突当て部は、前記端壁の肉盛部から構成されることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、摺動溝の溝長さを変えるのみで突当て部を形成できるため、構造が簡単となり、等速ジョイントの製造コストのアップを抑制できる。
【0015】
また、本発明は、前記突当て部は、前記摺動溝の溝端面周りに取り付けた突当て部材から構成されることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、摺動溝の溝長さが全て等しい従来既製品の外輪部材に対して別部材からなる突当て部材を取着するのみで突当て部を形成できるため、構造が簡単となり、等速ジョイントの製造コストのアップを抑制できる。
【0017】
また、本発明は、等速ジョイントがトリポート型ジョイントであることを特徴とする。
さらに、本発明は、等速ジョイントがダブルオフセット型ジョイントであることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、汎用のトリポート型ジョイント或いはダブルオフセット型ジョイントを利用できるため、等速ジョイントの製造コストのアップを抑制できる。
【0019】
また、本発明は、前端が自動車のエンジンに結合した変速機に連結し、後端が終減速機に連結される推進軸を備え、複数設けられたジョイントの一部に等速ジョイントを設け、前端側から軸方向荷重が加わって前記端壁と前記動力伝達部材とが前記突当て部を介して突き当たったとき、軸心と直交する方向回りの回転力が推進軸に生ずることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、車両が前方衝突すると、等速ジョイントにおいて端壁と動力伝達部材とが突当て部を介して突き当たる。突当て部が軸心から偏心していることにより外輪部材および動力伝達部材に回転モーメントが生じ、軸方向荷重の一部が、外輪部材および動力伝達部材の少なくとも一方を、軸心と直交する方向回りに回転させる回転力に変換される。この回転力により等速ジョイントが屈曲し、推進軸に屈曲角度が付与される。
【0021】
また、本発明は、前記等速ジョイントに溶接される推進軸の等速ジョイント寄りの軸径を小径に形成したことを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、等速ジョイントの近傍に位置する小径の部位において推進軸を破損させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、軸方向荷重が作用したときに、等速ジョイントを屈曲点として、連結する2つの伝達軸に屈曲角度を付与できるため、等速ジョイントの近傍において伝達軸を効果的に破損できる。したがって、本発明の等速ジョイントを備える自動車の推進軸によれば、等速ジョイントの近傍において推進軸を破損できる。特に、この等速ジョイントを2ピース構成の推進軸において中央の第二ジョイントとして備えた場合、従来では推進軸の破損箇所を推進軸の前端の第一ジョイント或いは後端の第三ジョイントの近傍に設定せざるを得なかったところ、第二ジョイントの近傍においても破損可能となることから、その分、車両のレイアウト設計の自由度を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態に係る等速ジョイントおよび推進軸の全体構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る等速ジョイントおよび推進軸の要部の側断面図である。
【図3】図2におけるA−A断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る等速ジョイントおよび推進軸の作用説明図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る等速ジョイントおよび推進軸の要部の側断面図である。
【図6】図5におけるB−B断面図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る等速ジョイントおよび推進軸の要部の側断面図である。
【図8】本発明の第4実施形態に係る等速ジョイントおよび推進軸の要部の側断面図である。
【図9】1ピース構成の推進軸に本発明の等速ジョイントを適用した場合の側断面図である。
【図10】2ピース構成の推進軸において、本発明の等速ジョイントの動力伝達部材を第一推進軸側に連結した場合の側断面図である。
【図11】従来の推進軸の全体構成図である。
【図12】従来の推進軸における十字軸ジョイント周りの側面図である。
【図13】従来の推進軸における等速ジョイント周りの側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る等速ジョイントを自動車の推進軸(プロペラシャフト)に適用した形態について説明する。図1において、推進軸1は、2つの軸から構成されたいわゆる2ピース構成の推進軸であって、第二ジョイントとしての等速ジョイント2を介して互いに連結される車両前方寄りの第一推進軸3と車両後方寄りの第二推進軸4とから構成される。
【0026】
「第1実施形態」
第一推進軸3は、中空管からなる部材であって、前端が第一ジョイント5を介して自動車のエンジンに結合した変速機(図示せず)に連結し、後端が等速ジョイント2に連結される。第一ジョイント5は、変速機と第一推進軸3の前端とにそれぞれ取り付けた一対のコ字形のヨーク6、7を十字軸8を介して互いに軸支するいわゆる十字軸ジョイントである。また、第一推進軸3の後端寄りは、後に詳述するように管の座屈を意図的に生じさせるための小径部3Aとして成形されている。小径部3Aは例えば中空管の絞り加工により成形される。
【0027】
第二推進軸4も中空管からなる部材であって、前端が等速ジョイント2に連結され、後端が第三ジョイント9を介して後輪用の終減速機(図示せず)に連結される。具体的には、第二推進軸4の前端は連結軸10を介して等速ジョイント2に連結される。連結軸10は第二推進軸4の前端に溶接等により一体化されている。連結軸10には中間軸受11が組み付けられており、この中間軸受11のアウタケース側が弾性体からなる防振部材12とブラケット13とを介して車体側に支持されている。第三ジョイント9は、終減速機と第二推進軸4の後端とにそれぞれ取り付けた一対のコ字形のヨーク6、7を十字軸8を介して互いに軸支する十字軸ジョイントである。また、第二推進軸4の後端寄りにも絞り加工等による小径部4Aが形成されている。
【0028】
等速ジョイント2は、摺動式の等速ジョイントであって、第一推進軸3(第一伝達軸)に連結され、軸方向に沿う摺動溝14が内周面に等間隔で複数形成されかつ第一推進軸3寄りに端壁15が形成された外輪部材16と、第二推進軸4(第二伝達軸)に連結され、各摺動溝14をそれぞれ摺動可能な摺動子を備えた動力伝達部材17と、を備えて構成される。
【0029】
等速ジョイント2としては例えばトリポート型等速ジョイントであり、図2、図3に示すように、外輪部材16の内周面には3本の摺動溝14が円周方向に等間隔で形成されている。外輪部材16は一端側が端壁15により閉塞され、他端側が開口形成された筒状を呈した部材であり、図2に示すように、摺動溝14の溝端面18は端壁15において形成される。端壁15の外壁側には第一推進軸3の後端が溶接等により一体化されている。前記連結軸10の前端周りは外輪部材16の開口部19を挿通して外輪部材16の内部に同軸状に位置する。開口部19は、外輪部材16に取着したシール支持部材20と連結軸10との間に掛け渡した弾性体からなるシール部材21により塞がれる。
【0030】
動力伝達部材17は、連結軸10の前端に外嵌固定されるボス部22およびボス部22の円周方向等分位置から径方向外方に突出した三本のトラニオンジャーナル23を有するスパイダ24と、 各トラニオンジャーナル23の回りにワッシャやニードルローラ等を介して回転自在に取り付けられ、トルクを伝達する前記摺動子としてのローラ25と、を備える。ローラ25が摺動溝14を摺動(転動)することで外輪部材16と動力伝達部材17とが軸方向に相対移動可能となり、さらにローラ25の外周が球面に形成されているため、外輪部材16と連結軸10とに角度がついた場合であってもスパイダ24が傾斜した状態でローラ25は摺動溝14をスムーズに摺動可能である。
【0031】
等速ジョイント2の軸心Oから偏心した位置において、端壁15および動力伝達部材16の少なくとも一方には、端壁15と動力伝達部材17とが互いに近接する方向の軸方向荷重が加わったときに両者を局所的に突き当てる突当て部26が突設される。図2は端壁15側に突当て部26を設けた態様を示しており、具体的には3つある摺動溝14の内の1つの摺動溝14の溝端面18を突当て部26に充てている。すなわち、端壁15の肉盛部が突当て部26を構成する。なお、突当て部26を設けない場合の溝端面18を仮想線にて示してある。突当て部26を構成する溝端面18と他の溝端面18はいずれも、軸心Oに向かうにしたがい第一伝達軸(第一推進軸3)側に変位する傾斜状、かつ第一伝達軸側に向けて凸となる曲面状に形成されている。
【0032】
従来、3つの摺動溝14の開口部19からの溝長さは全て等しく、溝端面18とローラ25との距離は3つの摺動溝14において全て等しい関係にある。これに対し、本発明では、1つの摺動溝14の開口部19からの溝長さを他の摺動溝14よりも短くしている。これにより、溝長さを短くした摺動溝14の溝端面18が突当て部26を構成することとなり、この突当て部26を構成する溝端面18とローラ25との距離は、他の溝端面18とローラ25との距離よりも短く設定されることになる。
【0033】
図4を参照して推進軸1の作用を説明する。図4(a)は推進軸1の平常時の状態を示し、ローラ25は摺動溝14の溝長さ方向中程に位置している。車両が前方衝突するなどして第一推進軸3が後退すると、この第一推進軸3と一体に連結された外輪部材16も後退し、図4(b)に示すように、突当て部26を構成する溝端面18のみがローラ25に突き当たる。
【0034】
突当て部26を構成する溝端面18とローラ25とが突き当たったまま、図4(c)に示すように、第一推進軸3からの軸方向荷重を受けて第一推進軸3および連結軸10が一体となって後退するので、防振部材12の一部が後方に伸びるように変形する。突当て部26が軸心Oから偏心していることにより外輪部材16および動力伝達部材17には回転モーメントが生じ、第一推進軸3からの軸方向荷重がさらに大きくなると、軸方向荷重の一部が、外輪部材16および動力伝達部材17の少なくとも一方を、突当て部26を回転中心として軸心Oと直交する方向(図4における紙面奥−手前方向)回りに回転させる回転力に変換される。特に、本実施形態では、突当て部26を構成する溝端面18が傾斜状かつ曲面状に形成されているため、この溝端面18とローラ25の外周面との間での前記回転力の発生が比較的スムーズとなる。この回転力により、図4(d)に示すように、第一推進軸3と第二推進軸4との互いの軸心に角度が付与され、第一推進軸3および第二推進軸4に曲げ応力が生ずる。これと前後して防振部材12は第一推進軸3からのさらなる軸方向荷重を受けて破断し、推進軸1は連結軸10においてブラケット13からの支持が解かれるようになっている。
【0035】
さらに第一推進軸3と第二推進軸4とが互いに傾くと、図4(e)に示すように、残り2つの摺動溝14においても溝端面18とローラ25とが突き当たる。この状態でさらに第一推進軸3から軸方向荷重がかかり、第一推進軸3、第二推進軸4に生じた曲げ応力が材料の許容値を超えると、第一推進軸3、第二推進軸4の少なくとも一方が変形し、車両の衝突エネルギが吸収される。本実施形態では、第一推進軸3の後端周りに小径部3Aを形成しているため、図4(f)に示すように、主にこの小径部3Aと大径部との段差辺りで座屈が生じることにより車両の衝突エネルギが吸収されるようになっている。また、第一推進軸3からの軸方向荷重の大きさによっては座屈箇所が破断し、これにより第一推進軸3の後方移動が許容される。
【0036】
以上のように、軸心Oから偏心した位置において、端壁15および動力伝達部材17の少なくとも一方に突当て部26を突設し、軸方向荷重が加わって端壁15と動力伝達部材17とが突当て部26を介して突き当たったとき、軸心Oと直交する方向回りの回転力が外輪部材16および動力伝達部材17の少なくとも一方に生ずる等速ジョイント2とすれば、軸方向荷重が作用したときに、等速ジョイント2を屈曲点として、外輪部材16に連結される第一伝達軸の軸心と動力伝達部材17に連結される第二伝達軸の軸心とに交差角度を与えることができる。これにより、第一伝達軸および第二伝達軸の少なくとも一方に曲げ応力を生じさせることができ、等速ジョイント2の近傍において第一伝達軸や第二伝達軸を効果的に変形させることができる。
【0037】
また、前端が自動車のエンジンに結合した変速機に連結し、後端が終減速機に連結される推進軸1を備え、複数設けられたジョイントの一部に本発明の等速ジョイント2を設け、前端側から軸方向荷重が加わって端壁15と動力伝達部材17とが突当て部26を介して突き当たったとき、軸心Oと直交する方向回りの回転力が推進軸1に生ずる構成としたことにより、車両の前方衝突時等に等速ジョイント2の近傍において推進軸1を効果的に変形させることができ、エンジンや変速機を後方へ移動しやすくすることができる。
本実施形態のように、2ピース構成の推進軸1において中央の第二ジョイントに等速ジョイント2を設けた場合、従来では推進軸の破損箇所を推進軸の前端の第一ジョイント或いは後端の第三ジョイントの近傍に設定せざるを得なかったところ、第二ジョイントの近傍においても破損可能となることから、その分、車両のレイアウト設計の自由度を広げることができる。
【0038】
特に、推進軸1の等速ジョイント2寄りの軸径を小径に形成すれば、この小径の部位にて推進軸1を変形させることができる。本実施形態の場合、第一推進軸3の後端周りに小径部3Aを形成したので、等速ジョイント2の近傍に位置するこの小径部3Aにおいて曲げ応力を効果的に生じさせることができ、主に大径部側との段差辺りにおいて座屈などの変形を引き起こすことができる。
【0039】
さらに、突当て部26を、端壁15の肉盛部から構成すれば、摺動溝14の溝長さを変えるのみで突当て部26を形成できるため、構造が簡単となり、等速ジョイント2の製造コストのアップを抑制できる。
【0040】
「第2実施形態」
図5および図6は第2実施形態にかかる図面であり、第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
第2実施形態は、等速ジョイント2をダブルオフセット型ジョイントとした形態に関するものである。
【0041】
この等速ジョイント2は、第一推進軸3(第一伝達軸)に連結され、軸方向に沿う摺動溝34が内周面に等間隔で複数形成されかつ第一推進軸3寄りに端壁35が形成された外輪部材36と、第二推進軸4(第二伝達軸)に連結され、各摺動溝34をそれぞれ摺動可能な摺動子を備えた動力伝達部材37と、を備えて構成される。
【0042】
外輪部材36の内周面には複数(本実施形態では8本)の摺動溝34が円周方向に等間隔で形成されている。外輪部材36は一端側が端壁35により閉塞され、他端側が開口形成された筒状を呈した部材であり、摺動溝34の溝端面38は端壁35において形成される。端壁35の外壁側には第一推進軸3の後端が溶接等により一体化されている。連結軸10の前端周りは外輪部材36の開口部39を挿通して外輪部材36の内部に同軸状に位置する。
【0043】
動力伝達部材37は、連結軸10の前端に外嵌固定される内輪部材40と、トルクを伝達する前記摺動子としての複数(本実施形態では8個)のボール41と、ケージ42とを備える。ケージ42は内外周面が球面を呈した円筒形状をなし、周方向に等間隔でボール保持孔が形成されている。各ボール41はケージ42のボール保持孔に保持される。ボール41が摺動溝34を摺動することで外輪部材36と動力伝達部材37とが軸方向に相対移動可能となり、さらにケージ42のボール保持孔の孔内周面が球面に形成されているため、外輪部材36と連結軸10とに角度がついた場合であってもケージ42が傾斜した状態でボール41が摺動溝34をスムーズに摺動する。
【0044】
等速ジョイント2の軸心Oから偏心した位置において、端壁35には、端壁35と動力伝達部材37とが互いに近接する方向の軸方向荷重が加わったときに両者を局所的に突き当てる突当て部26が突設される。この第2実施形態も第1実施形態と同様に突当て部26として摺動溝の溝端面を利用しており、摺動溝34の内の1つの摺動溝34の溝端面38を突当て部26に充てている。すなわち、端壁35の肉盛部が突当て部26を構成する。突当て部26を構成する溝端面38と他の溝端面38はいずれも、軸心Oに向かうにしたがい第一伝達軸側に変位する傾斜状、かつ第一伝達軸側に向けて凸となる曲面状に形成されている。
【0045】
以上のダブルオフセット型の等速ジョイント2によっても、車両が前方衝突するなどして第一推進軸3から軸方向加重が作用すると、突当て部26を構成する溝端面38のみがボール41に突き当たるため、外輪部材36および動力伝達部材37の少なくとも一方を、突当て部26を回転中心として軸心Oと直交する方向回りに回転させる回転力が生じ、第一推進軸3と第二推進軸4との互いの軸心がずれて、第一推進軸3および第二推進軸4に曲げ応力が生ずる。これにより、小径部3A等において第一推進軸3を効率的に座屈させることができる。また、突当て部26を、摺動溝34の溝端面38自体から構成することにより、摺動溝34の溝長さを変えるのみで突当て部26を形成できるため、構造が簡単となり、ダブルオフセット型の等速ジョイント2の製造コストのアップを抑制できる。
【0046】
「第3実施形態」
図7は第3実施形態にかかる図面であり、第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
第1実施形態が突当て部26を端壁15の肉盛部から構成したのに対し、第3実施形態は、突当て部26を摺動溝14の溝端面18周りに取り付けた突当て部材51から構成したことを特徴とする。
【0047】
突当て部材51としては例えばボルトを利用することができる。図7では、軸心Oから偏心した位置の端壁15に雌螺子を螺設し、この雌螺子にボルトの雄螺子をねじ込み固定した態様を示している。これにより、摺動溝14の溝端面18においてボルト頭が位置することとなり、このボルト頭にローラ25が突き当たることで、第1実施形態と同様に、軸心Oと直交する方向回りに回転させる回転力が生じ、第一推進軸3と第二推進軸4との互いの軸心がずれて、小径部3Aにおいて第一推進軸3が座屈する。ボルトは例えばねじ込み作業をしやすいように六角孔付きボルトからなる。
【0048】
この第3実施形態によれば、摺動溝14の溝長さを変える必要がなくなり、摺動溝14の溝長さが全て等しい従来既製品の外輪部材16に対して別部材からなる突当て部材51を取着するのみで突当て部26を形成することができる。特に突当て部材51をボルトから構成し、このボルトを外輪部材16にねじ込む構造とすれば、組み付け作業も容易となる。なお、ダブルオフセット型の等速ジョイント2においても突当て部26を突当て部材51から構成することができる。
【0049】
「第4実施形態」
図8は第4実施形態にかかる図面であり、第2実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
第1実施形態〜第3実施形態が突当て部26を端壁15、35側に突設したのに対し、第4実施形態は突当て部26を動力伝達部材37側に突設した形態に関するものである。
【0050】
図8は、等速ジョイント2をダブルオフセット型の等速ジョイントとし、突当て部26を構成する突設部材52をケージ42の前端に取着した態様を示している。突設部材52は例えば溶接等によりケージ42に固定される。突当て部26をケージ42に一体成形する態様でも差し支えない。
【0051】
この第4実施形態によっても、車両が前方衝突するなどして第一推進軸3から軸方向加重がかかると、端壁35が突設部材52に突き当たり、外輪部材36および動力伝達部材37の少なくとも一方を、突当て部26を回転中心として軸心Oと直交する方向回りに回転させる回転力が生じ、第一推進軸3と第二推進軸4との互いの軸心がずれて、第一推進軸3および第二推進軸4に曲げ応力が生ずる。これにより、小径部3A等において第一推進軸3を効果的に座屈させることができる。
【0052】
以上、等速ジョイント2とこれを備える自動車の推進軸1の好適な実施形態を説明した。本発明は、軸心Oと直交する方向回りの回転力が外輪部材16、36および動力伝達部材17、37の少なくとも一方に生じるように突当て部26を設ければよいのであり、突当て部26の形成箇所は1つに限られることはない。
【0053】
例えば、軸心Oから偏心した位置であって、かつ互いに近接した位置に2つまたはそれ以上の突当て部26を形成しても、外輪部材16、36および動力伝達部材17、37の少なくとも一方に、軸心Oと直交する方向回りの回転力を生じさせることが可能である。第2実施形態を例にすると、互いに隣接する2つの摺動溝34の溝端面38にそれぞれ突当て部26を形成しても、外輪部材16および動力伝達部材17には回転モーメントが生じるため、軸心Oと直交する方向回りの回転力が生じることとなる。
【0054】
また、例えば突当て部26を構成する端壁15,35の肉盛部にスリットや切欠き、中空孔等を形成して、肉盛部の軽量化を図ることができる。
さらに、突当て部26による偏心質量を相殺する手段として、等速ジョイント2に肉盛りや研削加工等が適宜に施される。
【0055】
さらに、自動車の推進軸としては概ね車両レイアウトに応じて1ピース構成から3ピース構成まであり、等速ジョイントも目的に応じて配置箇所が様々であり、本発明はいずれの構成、配置箇所においても適用可能である。
【0056】
例えば、図9は1ピース構成の推進軸1を示し、単体の推進軸53は、前端が第一ジョイント54を介して自動車のエンジンに結合した変速機に連結し、後端が第二ジョイント55を介して後輪用の終減速機に連結されている。本発明の等速ジョイント2は図示するように第一ジョイント54に適用可能であり、また第二ジョイント55にも適用可能である。
【0057】
さらに、図10は2ピース構成の推進軸1において、本発明の等速ジョイント2の動力伝達部材17を第一推進軸3側に、外輪部材16を第二推進軸4側に連結した態様を示している。すなわち、この推進軸1は、前端が第一ジョイント5を介して自動車のエンジンに結合した変速機に連結し、後端が連結部材10を介して動力伝達部材17に連結される第一推進軸3と、前端が外輪部材16に連結され、後端が第三ジョイント9を介して後輪用の終減速機に連結される第二推進軸4とを備える。第二推進軸4の前端周りは小径部4Aとして成形されている。この推進軸1によっても、車両の前方衝突時等に等速ジョイント2の近傍に位置する小径部4Aにおいて推進軸1を効果的に変形させることができる。等速ジョイント2を第一ジョイント5或いは第三ジョイント9に適用することも可能である。
【0058】
また、3ピース構成の推進軸においては4つのジョイントの内のいずれかに本発明の等速ジョイント2を適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 推進軸
2 等速ジョイント
3 第一推進軸(第一伝達軸)
3A 小径部
4 第二推進軸(第二伝達軸)
14,34 摺動溝
15,35 端壁
16,36 外輪部材
17,37 動力伝達部材
18,38 溝端面
25 ローラ(摺動子)
26 突当て部
41 ボール(摺動子)
51 突当て部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一伝達軸に連結され、軸方向に沿う摺動溝が内周面に複数形成されかつ第一伝達軸寄りに端壁が形成された外輪部材と、
第二伝達軸に連結され、前記各摺動溝をそれぞれ摺動可能な摺動子を備えた動力伝達部材と、を備えた摺動式等速ジョイントであって、
軸心から偏心した位置において、前記端壁および前記動力伝達部材の少なくとも一方に突当て部が突設され、
軸方向荷重が加わって前記端壁と前記動力伝達部材とが前記突当て部を介して突き当たったとき、軸心と直交する方向回りの回転力が前記外輪部材および前記動力伝達部材の少なくとも一方に生ずることを特徴とする等速ジョイント。
【請求項2】
前記突当て部は、前記端壁の肉盛部から構成されることを特徴とする請求項1に記載の等速ジョイント。
【請求項3】
前記突当て部は、前記摺動溝の溝端面周りに取り付けた突当て部材から構成されることを特徴とする請求項1に記載の等速ジョイント。
【請求項4】
トリポート型ジョイントであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の等速ジョイント。
【請求項5】
ダブルオフセット型ジョイントであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の等速ジョイント。
【請求項6】
前端が自動車のエンジンに結合した変速機に連結し、後端が終減速機に連結される推進軸を備え、
複数設けられたジョイントの一部に請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の等速ジョイントを設け、
前端側から軸方向荷重が加わって前記端壁と前記動力伝達部材とが前記突当て部を介して突き当たったとき、軸心と直交する方向回りの回転力が推進軸に生ずることを特徴とする自動車の推進軸。
【請求項7】
前記等速ジョイントに溶接される推進軸の等速ジョイント寄りの軸径を小径に形成したことを特徴とする請求項6に記載の自動車の推進軸。
【請求項1】
第一伝達軸に連結され、軸方向に沿う摺動溝が内周面に複数形成されかつ第一伝達軸寄りに端壁が形成された外輪部材と、
第二伝達軸に連結され、前記各摺動溝をそれぞれ摺動可能な摺動子を備えた動力伝達部材と、を備えた摺動式等速ジョイントであって、
軸心から偏心した位置において、前記端壁および前記動力伝達部材の少なくとも一方に突当て部が突設され、
軸方向荷重が加わって前記端壁と前記動力伝達部材とが前記突当て部を介して突き当たったとき、軸心と直交する方向回りの回転力が前記外輪部材および前記動力伝達部材の少なくとも一方に生ずることを特徴とする等速ジョイント。
【請求項2】
前記突当て部は、前記端壁の肉盛部から構成されることを特徴とする請求項1に記載の等速ジョイント。
【請求項3】
前記突当て部は、前記摺動溝の溝端面周りに取り付けた突当て部材から構成されることを特徴とする請求項1に記載の等速ジョイント。
【請求項4】
トリポート型ジョイントであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の等速ジョイント。
【請求項5】
ダブルオフセット型ジョイントであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の等速ジョイント。
【請求項6】
前端が自動車のエンジンに結合した変速機に連結し、後端が終減速機に連結される推進軸を備え、
複数設けられたジョイントの一部に請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の等速ジョイントを設け、
前端側から軸方向荷重が加わって前記端壁と前記動力伝達部材とが前記突当て部を介して突き当たったとき、軸心と直交する方向回りの回転力が推進軸に生ずることを特徴とする自動車の推進軸。
【請求項7】
前記等速ジョイントに溶接される推進軸の等速ジョイント寄りの軸径を小径に形成したことを特徴とする請求項6に記載の自動車の推進軸。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−225483(P2012−225483A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96092(P2011−96092)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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