説明

等速ジョイント

【課題】射出成形によって3つのボールポケットが空いたケージを成形する等速ジョイントにおいて、過大なトルクがケージに負荷された場合に破断する危険性の高いボールポケットを減らす。
【解決手段】サブマリンゲートで形成されるケージ10の1点の射出成形ゲートを、ケージ外周面のうち、ケージ10の中心軸線方向の位置に関して3つのボールポケット12、12、12の最大径になる位置から反第2軸11側の位置であって、円周方向の位置に関して隣り合うボールポケット12、12の間の壁部に設けることにより、3つある反第2軸11側の端部14とボールポケット12との間の最も狭い部分のうち、少なくとも2つからウェルド部分を外し、破断する危険性の高いボールポケット12を少なくとも2つ減らした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動軸と被駆動軸の2軸を連結して、駆動軸の動力を被駆動軸に伝達する等速ジョイントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のドライブシャフトの回転トルクを車軸に伝達する部品として等速ジョイントが従来から知られている。
【0003】
前記等速ジョイントは、駆動軸と被駆動軸との等速性を維持しながら両軸の角度変位を許容する部材であるため、自動車以外の各種産業機械にも多用されている。
【0004】
等速ジョイントには、角度変位のみを許容する固定型等速ジョイントと、角度変位と軸方向変位を許容する摺動型等速ジョイントとが存在している。
【0005】
前記摺動型等速ジョイントとしては、外輪と、ケージと、3つのボールとを備えたトリボールジョイントと称される等速ジョイントが知られている。外輪には、内部軸心上にガイド軸を設けることにより環状空間が形成されている。環状空間内に組込まれるケージには、ボールを保持するボールポケットが周方向に120°の間隔で形成されている。環状空間の外壁面と内壁面の少なくとも一方には、各ボールポケットに対応する位置に軸方向に延びる3本のトラック溝が周方向に120°の間隔をおいて設けられている。各ボールポケット内に組込まれたボールは、前記トラック溝に沿って転動自在であり、そのボールを介して外輪とケージの相互間で回転トルクの伝達を行なうようになっている。
【0006】
この種の等速ジョイントにおいては、各種部品を鉄鋼等の金属から構成すると、強度が高いものの重く、グリース潤滑が必要である。このようなものは、動作音が大きい等の特徴が有り、使用箇所が制限される。例えば、食品製造機器、医療機器、事務機器、家庭用電化製品、音響機器などのように静粛性やグリースの飛散が許されない条件下で使用される機器には適していない。
【0007】
このため、等速ジョイントの各種部品を合成樹脂の成形品とし、各種部品の軽量化を図ると同時に、グリース潤滑を不要とし、動作音の低減を図ったものがある(例えば、特許文献1、2参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2006−38204号公報
【特許文献2】特開2006−118703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前掲の特許文献1等で開示された等速ジョイントは、ケージ、第2軸および挿入孔を合成樹脂の一体射出成形品とすることで、駆動軸または被駆動軸とケージとを同心上に配置することが可能となり、等速ジョイントの等速精度が低下することを防止している。
このようなケージを射出成形する場合、図9に示すように、溶融樹脂を注入するための射出成形ゲートGは、カップ状のケージ91の中心軸線に沿ってケージ底部から突出する第2軸92の軸方向端面に設けられている。第2軸92が別体の場合には、第2軸92を軸方向に突き合わすためにケージ91の外底面に形成されるケージ中心軸線と直交する平面部に設けられている。この理由は、機能的、外観的に影響が無い位置であるということと、金型構造が複雑にならない位置であるということを兼ね備えているためである。
しかしながら、第2軸92の軸方向端面等に射出成形ゲートGを配置した場合、低トルクで使用する限り差し支えはないが、静止状態からの急激な回転が頻繁に加わるような使用条件や、ケージ91を形成する合成樹脂の耐熱温度近傍での使用が続く場合や、前記合成樹脂の機械的強度より高いトルクが加わった場合においてはケージ91が破壊される恐れがある。この理由は、第2軸92の軸方向端面等に射出成形ゲートGを配置すると、ボールポケット93を形成するコアピンに溶融樹脂が第2軸92側からぶつかり、コアピンをケージ円周方向両側に分かれて回り込み、ケージ91に3つ存在するボールポケット93と反第2軸側の端部94との間における最も狭い部分で合流し、ウェルド部分W1が発生するためである。係るウェルド部分W1は、ケージ91の中でも最も薄肉で負荷に対して最も弱い部分にあるため、過度なトルクがケージ91に加わった場合等にウェルド部分W1が割れて等速ジョイントの等速精度が低下する恐れがある。
【0010】
前記の事情に鑑み、この発明の課題は、射出成形によって3つのボールポケットが空いたケージを成形する等速ジョイントにおいて、過大なトルクがケージに負荷された場合に破断する危険性の高いボールポケットを減らすことにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を達成するため、この発明は、一端が開口する環状空間を有し、その環状空間の内壁面を形成するガイド軸が該環状空間と同心に配置され、該環状空間の外壁面と内壁面の少なくとも一方に軸方向に延びる3本のトラック溝が周方向に120°の間隔をおいて形成された外輪と、前記外輪の前記環状空間内に組込まれ、その外輪の開口端側に位置する端部に第2軸が設けられたケージと、前記ケージに保持されて前記トラック溝に沿って転動可能なボールとを備え、前記ケージが合成樹脂の射出成形体とされた等速ジョイントにおいて、前記ケージの射出成形ゲートが、ケージ外周面の1箇所に設けられている構成を採用した。
【0012】
ケージの射出成形ゲートをケージ外周面の1箇所に設ければ、3つ存在する上記最も狭い部分の少なくとも1箇所を外してウェルドを発生させることができる。このため、この発明は、過大なトルクを負荷された場合に破断する危険性の高いボールポケットを少なくとも1つ減らすことができる。ケージを樹脂成形するこの種の等速ジョイントは、複数の射出成形ゲートを設けるのに適しておらず、また、複数の射出成形ゲートを設けるとウェルドがさらに多くなるため一層の強度低下につながり、また金型構造が複雑になることから金型製作コストが高くなるため、この発明のような1点ゲートの採用が優れる。
【0013】
具体的には、前記第2軸と前記ケージとが一体の合成樹脂の射出成形体とされており、前記ケージがカップ状に形成され、前記第2軸が前記ケージの中心軸線に沿ってケージ底部から突出していることが好ましい。
駆動軸または被駆動軸と連結される第2軸とケージとが同心に一体成形されるので、第2軸の取り付け誤差がなくなる分、高い等速精度を得ることができる。
なお、第2軸の外周に射出成形ゲートを設けることにより上記最も狭い部分からウェルドを外すことは可能であるが、第2軸の外周に射出成形ゲートを設けると、ゲート処理を精密に行なわないと連結軸との嵌合ができない場合が生じるため、そのような不具合の発生を避けるためにもこの構成のように、ケージの外周に一点ゲートを設けることが好ましい。
【0014】
また、前記射出成形ゲートは、ケージの中心軸線方向の位置に関して3つのボールポケットの最大径になる位置から反第2軸側の位置に設けられていることが好ましい。この構成を採用すれば、上記最も狭い部分に発生するウェルド部分を除き、他のウェルド部分が3つのボールポケットよりも第2軸側のケージ部分に長く発生する。このため、他のウェルド部分のウェルド強度を確保し易い。
【0015】
ここで、ケージの反第2軸側の端部に近い位置に射出成形ゲートを設けるほど、前記他のウェルドを長く発生させることができる。
【0016】
特に、ボールポケットと反第2軸側の端部との間に射出成形ゲートを設ければ、上記最も狭い部分の3箇所全部からウェルドを外すことができる。
【0017】
しかし、上述のように、この種のケージは、ボールポケットと反第2軸側の端部との間が、ケージにおける最も狭い部分であり、そのような狭い場所に射出成形ゲートを設けることは金型制作上および金型強度上難しい。
【0018】
上述のことを考慮すると、前記射出成形ゲートは、円周方向の位置に関して隣り合うボールポケットの間の壁部に設けられていることが好ましい。この構成を採用すれば、前記他のウェルド部分を長くしつつ、射出成形ゲートを容易に設けることができ、金型強度も維持できる。
【0019】
また、前記射出成形ゲートはサブマリンゲートで形成されていることが好ましい。この構成を採用すれば、サブマリンゲートのため、ケージ外周のゲート痕が他のゲート形式よりも小さくなり、可動側金型からケージをエジェクトした後にゲートカットが不要になる。
【0020】
また、前記ボールポケットの内周面の開口部に、その内接円径が前記ボールの直径よりも小径の突出部が形成されている構成を採用すれば、突出部がボールの抜け止めとなるため、等速ジョイントの組立て及び分解作業が容易になる。また、突出部もケージとの一体射出成形で容易に形成することができる。
【0021】
前記突出部の突出長さが必要以上に長くなると、コアピンを抜くときにアンダーカットとなる突出部が破損するおそれがあり、また、短か過ぎるとボールが脱落するおそれがある。これらの問題を避けるには、前記複数の突出部の内接円径が前記ボールの直径の80〜99%であることが好ましい。
【0022】
また、前記ケージを形成する合成樹脂は、その全体に占める配合量として繊維状補強材を3〜45重量%含有する強化合成樹脂であることが好ましい。前記ケージの機械的強度を増すことができるためである。
【0023】
前記繊維状補強材は、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、及びウィスカー類からなる群から選ばれる少なくとも一種から採用することができる。
【0024】
また、前記外輪が合成樹脂の射出成形体とされている構成を採用すれば、等速ジョイントをより軽量化することができる。
【0025】
また、前記外輪を形成する合成樹脂がその全体に占める配合量として固体潤滑剤を5〜35重量%含有する潤滑性合成樹脂である構成を採用することができる。この構成を採用すれば、前記ボールと摺動するための低摩擦特性を有する外輪を形成することができる。また、グリース等の潤滑剤が全く不要な等速ジョイントが得られる。
【発明の効果】
【0026】
上述のように、この発明は、射出成形によって3つのボールポケットが空いたケージを成形する等速ジョイントにおいて、ケージの外周に1箇所の射出成形ゲートを設けることにより、過大なトルクがケージに負荷された場合に破断する危険性の高いボールポケットを減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、この発明の第1の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1、図2は、第1の実施形態に係る等速ジョイントの全体構造を示す。図示のように、第1の実施形態に係る等速ジョイントは、外輪1、ケージ10および3つのボール20から構成されている。
【0028】
外輪1は、一端が開口するカップ部2を有する。そのカップ部2の閉塞端に第1軸3が一体に設けられている。カップ部2の中心軸線上にガイド軸4がカップ部2と一体に設けられている。ガイド軸4とカップ部2とで環状空間5が形成されている。カップ部2、ガイド軸4、及び環状空間5は、同心に形成されている。環状空間5の外壁面を形成するカップ部2の内周と、環状空間5の内壁面を形成するガイド軸4の外周とに、軸方向に延びる3本のトラック溝6、7が周方向に120°の間隔をおいて設けられている。なお、第1の実施形態では、環状空間5の外壁面と内壁面の一方のみにトラック溝を設けることもできる。カップ部2とガイド軸4の先端にテーパ2a、4aが形成され、ケージ10を組み込むときにボール20を滑らせてトラック溝6、7に導くことができるようになっている。
【0029】
第1軸3は、被駆動軸又は駆動軸(図示省略)との連結に利用される。
【0030】
外輪1、第1軸3及びガイド軸4とは、合成樹脂の射出成形で一体形成されている。ガイド軸4は、トラック溝7のひけを防止するため、中空軸とされている。
【0031】
外輪1の射出成形ゲートG1は、ガイド軸4の先端中心に設けられている。このため、外輪1の120°対称形状性と相俟って、カップ部2、ガイド軸4の各トラック溝6、7への溶融樹脂の充填バランスが均一になり、各トラック溝6、7の相互精度に殆ど差が生じない。その結果、非常に高い等速精度を求められる用途にも使用可能な等速ジョイントが得られる。
【0032】
射出成形ゲートG1をピンポイントゲートにすれば、ガイド軸4の先端中心に円形ゲート痕が残るだけなので、ゲート痕が目立たない。
【0033】
また、ガイド軸4の先端に凹部4bが形成されている。射出成形ゲートG1のゲート痕は、凹部4bから突き出ていない。このため、よりゲート痕が目立たない。
【0034】
前記ケージ10は、外輪1の環状空間5内に組込まれるカップ状に形成されている。ケージ10の前記環状空間5の開口端側に位置する端部に、第2軸11が一体に設けられている。
【0035】
また、ケージ10には、外輪1の3本のトラック溝6、7のそれぞれに対応してボールポケット12が形成され、各ボールポケット12内にボール20が組込まれている。ボール20のそれぞれは、各トラック溝6、7に沿って転動自在とされている。なお、この実施形態では、ボールポケット12の内面の基本形状を径方向の円筒としたが、角筒にすることも可能である。
【0036】
第2軸11は、ケージ10の中心軸線に沿ってケージ底部10aから突出している。第2軸11は、ひけを防止するため中空軸とされている。第2軸11は、被駆動軸又は駆動軸(図示省略)との連結に利用される。なお、第2軸11は、中実軸にすることもできる。
【0037】
ケージ10のうち、各ボールポケット12のケージ外径側及びケージ内径側の開口端部には、ボール20をボールポケット12に留める突出部13a、13a、13b、13bが形成されている。
【0038】
図3にボールポケット12を外径側から視た様子を示すように、突出部13a、13aは、円周方向に間隔をおいて対向配置で形成されている。突出部13b、13bは、一対の突出部13a、13aと90度の位相差をもった配置で形成されている。
【0039】
一対の突出部13a、13a、及び一対の突出部13b、13bの内接円径dは、ボール20の直径Dより小さい。このため、前記外輪1からケージ10が外れた状態で、ボールポケット12からのボール20の脱落は、前記突出部13a、13bにより内外径いずれの側においても防止される。したがって、このケージ10を備えた等速ジョイントは、その組立て及び分解を簡単に行うことができる。
【0040】
なお、突出部13a、13bの数、周方向配置は、ボール20の抜け止めがなされる限り任意であり、突出部は、周方向に連続する環状のものであってもよい。
【0041】
ケージ10、第2軸11、及び各突出部13a、13bは、合成樹脂の射出成形により一体になっている。ケージ10と第2軸11の一体成形により、軽量化を図ると共に、ケージ10と第2軸11の同心性を確保し、高い等速精度を得ることができる。
【0042】
第2軸11をセラミックスや鉄鋼、ステンレススチール、アルミニウム合金等の金属で形成し、合成樹脂で成形されたケージ10とボルト等の結合手段で結合してもよい。第2軸11が等速ジョイントの全長より長い場合は、トルク損失を防止するため、第2軸11をセラミックスや金属で形成することが好ましい。
【0043】
コアピンを抜くときに突出部13a、13bが破損することの防止と、ボール20の脱落防止性と、ボール20のボールポケット12への組み込み性を得るため、前記の内接円径dをボール20の直径Dの80〜99%の範囲にする。内接円径dは、コアピンのアンダーカットの外接円径と見做せる。特に補強材が配合された合成樹脂を用いる場合は、85〜99%の範囲に厳しく設定すればよい。
【0044】
上記ケージ10、第2軸11等は、全体として前記中心軸回りの前記周方向の120°間隔で回転対称の形状とされている。
【0045】
図4に、ケージ10の射出成形ゲートG2の位置と、発生するウェルド部分W1〜4とを模式的に示す。図5にケージ10の金型を示す。図5はケージ10の金型の一例であり、パーティングラインの位置やサブマリンゲートの形状等は、図5に限定されない。図示のように、射出成形ゲートG2は、ケージ10の外周面の1箇所に設けられている。その結果、ケージ10の中心軸線に沿ったウェルド部分W1は、1つのボールポケット12と反第2軸側の端部14との間の最も狭い部分に発生している。他のウェルド部分W2〜W4は、残り2つのボールポケット12、12と反第2軸側の端部14との間の最も狭い部分から外れている。したがって、第1の実施形態に係るケージ10は、過大なトルクを負荷された場合に破断する危険性が高いボールポケットを2つ減らすことができる。
【0046】
より具体的に述べると、射出成形ゲートG2は、ケージ10の中心軸線方向の位置に関して3つのボールポケット12の最大径になる位置であって、かつ円周方向の位置に関して隣り合うボールポケット12、12の間の壁部に設けられている。他のウェルド部分W2〜W4は、3つのボールポケット12よりも第2軸11側のケージ部分に長く発生する。このため、他のウェルド部分W2〜W4のウェルド強度を確保し易い。
【0047】
射出成形ゲートG2は、可動側金型31のサブマリンゲート32で形成されている。第2軸11は、固定側金型33のキャビティ34で形成される。サブマリンゲート32に形成されたランナは、ケージ10のエジェクト時にせん断され、突き出しピン35で排出される。ゲート痕は、射出成形ゲートG2の位置に円形の点状に残るだけであり、目立たない。
なお、図5では第2軸11を固定側金型33で形成する構造を示しているが、ケージの向きを変えて第2軸11を可動側金型で形成する金型を用いても良い。第2軸11を可動側金型で形成した場合でも、ゲートの位置に対するウェルドの発生状態に変化は無い。
【0048】
前記外輪1およびケージ10を形成する合成樹脂は、等速ジョイントの使用条件によって適切なものを選択すればよい。例えば、合成樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよく、さらに結晶性樹脂、非結晶性樹脂のいずれでもよい。なお、非結晶性樹脂は靭性が比較的低いため、急激な破壊を回避することができる点で結晶性樹脂の方が好ましい。
【0049】
好ましい合成樹脂としては、潤滑特性に優れた合成樹脂、例えば、ポリアセタール樹脂(POM)、ナイロン樹脂、PFAやFEP、ETFE等の射出成形可能なフッ素樹脂、射出成形可能なポリイミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、全芳香族ポリエステル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリアミドイミド樹脂等が挙げられる。
【0050】
これらの各樹脂は単独で使用してもよく、2種類以上混合したポリマーアロイであってもよい。あるいは、前記以外の潤滑特性の低い合成樹脂に前記の合成樹脂を配合したポリマーアロイであってもよい。
【0051】
また、潤滑特性の低い合成樹脂であっても、固体潤滑剤や潤滑油を添加することで潤滑特性を高めることにより使用可能である。固体潤滑剤として、ポリテトラフルオロエチレン、黒鉛、二硫化モリブデン等を挙げることができる。
【0052】
また、前記合成樹脂にガラス繊維、炭素繊維、各種鉱物性繊維(ウィスカー)を配合して強度を高めてもよく、固体潤滑剤等と併用してもよい。
【0053】
前記ウィスカーとしては、炭酸カルシウムウィスカー、硫酸カルシウムウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、酸化チタンウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー等の公知のウィスカーを使用することができる。
【0054】
この発明で最も使用に適した樹脂材料は、POM、ナイロン樹脂、PPS、PEEKである。ナイロン樹脂はナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、分子鎖中に芳香族環を有する半芳香族ナイロン等のいずれでもよい。POM、ナイロン樹脂、PPSは、耐熱性、潤滑性に優れて比較的安価であるため、コストパフォーマンスの優れた等速ジョイントを得ることができる。
また、PEEKは補強材や潤滑剤を配合しなくても機械的強度や潤滑性に優れるため、高機能な等速ジョイントを得ることができる。
【0055】
外輪1を形成する合成樹脂は、その全体に占める配合量として固体潤滑剤を5〜35重量%含有する潤滑性合成樹脂であることが好ましい。固体潤滑剤が5重量%未満であると、低摩擦特性が得られない場合がある。35重量%以上であると、外輪1の強度低下の懸念がある。
【0056】
ケージ10を形成する合成樹脂は、その全体に占める配合量として繊維状補強材を3〜45重量%含有する強化合成樹脂であることが好ましい。繊維状補強材が3重量%未満であると、ケージ10の補強効果が発揮されず、45重量%以上であると、射出時の流動性が低下し、精度のよい射出成形体が得られない場合がある。
【0057】
上述のように、第1の実施形態に係る等速ジョイントは、外輪1及びケージ10を合成樹脂の成形品とすることによって、軽量であって、トルク伝達時の動作音の小さな等速ジョイントを得ることができる。
【0058】
また、第1の実施形態に係る等速ジョイントは、外輪1及びケージ10を合成樹脂の成形品とすることによって、軽量であって、グリース潤滑を不要とすることができる。また、グリース潤滑する必要がないため、ブーツの取り付けを不要とすることができ、部品点数の少ない簡単な構造の小型の等速ジョイントを得ることができる。このため、使用の制限を受けることが少なく、食品製造機器等の各種の機器に使用することが可能である。
【0059】
ボール20は、軸受鋼、ステンレススチール、セラミックス、合成樹脂等のボールを使用することができる。等速ジョイントを医療機器や食品製造機器に使用する場合は、ボール20をステンレススチールやセラミックスにすることで環境的懸念が払拭されるので好ましい。ボール20を合成樹脂にすることで、さらに軽量化、静音化に優れる等速ジョイントを得ることができる。また、衛生的な印象を与えるため、外輪等を形成する合成樹脂は白色系のものを用いるのが好ましい。POMであれば、白色系であると共に、潤滑性も高く、グリースレス化が可能のため最適である。
【0060】
第1の実施形態では、等速ジョイントの軽量化を図るため、ケージ10と第2軸11を合成樹脂で一体成形したが、第2軸11をセラミックスや鉄鋼、ステンレススチール、アルミニウム合金等の金属で形成し、合成樹脂で成形されたケージ10とボルト等の結合手段で結合してもよい。
【0061】
図6に第2の実施形態に係るケージ10を示す。なお、以下、上記第1の実施形態との相違点を述べる。図示のように、射出成形ゲートG2は、ケージ10の中心軸線方向の位置に関して反第2軸側の端部14とボールポケット12との間の最も狭い部分の中間点に設けられている。その結果、ウェルド部分W6〜W9は、いずれも3ヶ所の最も狭い部分から外れている。このため、第2の実施形態は、金型製造の容易性よりも、過大なトルク負荷に対するケージ10の耐久性を優先する場合に好適である。
【0062】
また、図6と図4を比較すれば明らかなように、ウェルド部分W6〜W9は、ウェルド部分W1〜W4以上の長さを有する。すなわち、第2の実施形態に係るケージ10は、各ウェルド部分のウェルド強度を高めることもできる。
【0063】
図7に第3の実施形態に係るケージ10を示す。図示のように、射出成形ゲートG2は、ケージ10の中心軸線方向の位置に関して第2の実施形態と同じであり、円周方向に関して隣り合うボールポケット12、12間の中間点の位置に設けられている。図7と図4を比較すれば明らかなように、ウェルド部分W1、W2が生じる点は同じだが、ウェルド部分W10、W11は、ウェルド部分W3、W4より長くなっている。
【0064】
図8に第4の実施形態に係るケージ10を示す。図示のように、射出成形ゲートG2は、ケージ10の中心軸線方向に関して、第2の実施形態に係る位置から3つのボールポケット12よりも第2軸11側の位置に設けられている。図8と図4を比較すれば明らかなように、ウェルド部分W1が生じる点は第1の実施形態と同じであるが、ウェルド部分W2が存在せず、代わりにウェルド部分W1と180°反対側にウェルド部分W7が生じる。このため、ウェルド部分W1及び中心軸線を含む平面上でケージ10全体としての機械的強度を高め、ウェルド部分W1の負担を軽減することができる。
【0065】
また、図4と図6と図7と図8を比較すれば明らかなように、ケージ10の反第2軸側の端部14に近い位置に射出成形ゲートG2を設けるほど、前記ウェルド部分W3、W4に相当するウェルド部分W8、W9、W10、W11が長くなり、第2軸11側に近い位置に射出成形ゲートG2を設けるほど、ウェルド部分W12、W13が短くなることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】第1の実施形態に係る等速ジョイントの縦断正面図
【図2】図1のケージのII−II線の縦断面図
【図3】図1のケージのボールポケットを示す平面図
【図4】aは図1のケージのウェルド部分を模式的に描いた平面図、bは前記aの正面図、cは前記aと180°反対側の平面図
【図5】図1のケージの金型を示す部分断面図
【図6】aは、第2の実施形態に係るケージの主なウェルド部分を模式的に描いた平面図、bは前記aの正面図、cは前記aと180°反対側の平面図
【図7】aは、第3の実施形態に係るケージの主なウェルド部分を模式的に描いた平面図、bは前記aの正面図、cは前記aと180°反対側の平面図
【図8】aは、第4の実施形態に係るケージの主なウェルド部分を模式的に描いた平面図、bは前記aの正面図、cは前記aと180°反対側の平面図
【図9】aは従来例のケージの主なウェルド部分を模式的に描いた平面図、bは前記aの正面図、cは前記aと180°反対側の平面図
【符号の説明】
【0067】
1 外輪
2 カップ部
3 第1軸
4 ガイド軸
4b 凹部
5 環状空間
6、7 トラック溝
10 ケージ
11 第2軸
12 ボールポケット
13a、13b 突出部
14 反第2軸側の端部
20 ボール
G、G1、G2 射出成形ゲート
W1〜W13 ウェルド部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が開口する環状空間を有し、その環状空間の内壁面を形成するガイド軸が該環状空間と同心に配置され、該環状空間の外壁面と内壁面の少なくとも一方に軸方向に延びる3本のトラック溝が周方向に120°の間隔をおいて形成された外輪と、
前記外輪の前記環状空間内に組込まれ、その外輪の開口端側に位置する端部に第2軸が設けられたケージと、
前記ケージに保持されて前記トラック溝に沿って転動可能なボールとを備え、
前記ケージが合成樹脂の射出成形体とされた等速ジョイントにおいて、
前記ケージの射出成形ゲートが、ケージ外周面の1箇所に設けられていることを特徴とする等速ジョイント。
【請求項2】
前記第2軸と前記ケージとが一体の合成樹脂の射出成形体とされており、前記ケージがカップ状に形成され、前記第2軸が前記ケージの中心軸線に沿ってケージ底部から突出していることを特徴とする請求項1に記載の等速ジョイント。
【請求項3】
前記射出成形ゲートは、ケージの中心軸線方向の位置に関して3つのボールポケットの最大径になる位置から反第2軸側の位置に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の等速ジョイント。
【請求項4】
前記射出成形ゲートは、円周方向の位置に関して隣り合うボールポケットの間の壁部に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の等速ジョイント。
【請求項5】
前記射出成形ゲートはサブマリンゲートで形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の等速ジョイント。
【請求項6】
前記ボールポケットの内周面の開口部に、その内接円径が前記ボールの直径よりも小径の突出部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載の等速ジョイント。
【請求項7】
前記内接円径が前記ボールの直径の80〜99%であることを特徴とする請求項6に記載の等速ジョイント。
【請求項8】
前記ケージを形成する合成樹脂は、合成樹脂全体に占める配合量として繊維状補強材を3〜45重量%含有する強化合成樹脂であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載の等速ジョイント。
【請求項9】
前記繊維状補強材が、ガラス繊維、炭素繊維、及びウィスカー類の少なくとも一種であることを特徴とする請求項8に記載の等速ジョイント。
【請求項10】
前記外輪が合成樹脂の射出成形体とされていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1つに記載の等速ジョイント。
【請求項11】
前記外輪の射出成形ゲートが、前記ガイド軸の先端中心に設けられていることを特徴とする請求項10に記載の等速ジョイント。
【請求項12】
前記外輪の射出成形ゲートが、前記ガイド軸の先端に形成された凹部に設けられていることを特徴とする請求項10又は11に記載の等速ジョイント。
【請求項13】
前記外輪を形成する合成樹脂が、合成樹脂全体に占める配合量として固体潤滑剤を5〜35重量%含有する潤滑性合成樹脂であることを特徴とする請求項10乃至12のいずれか1つに記載の等速ジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−1912(P2010−1912A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159211(P2008−159211)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】