説明

等速自在継手用ブーツ及び等速自在継手

【課題】等速自在継手用ブーツと等速自在継手との間のシール性を向上させること。
【解決手段】等速自在継手用ブーツ9は、ブーツバンドの締め付けによって等速自在継手の外側継手部材に固定される大径取付け部9aを備える。大径取付け部9aには、厚肉部18aと薄肉部18bが円周方向交互に設けられている。バンド取付け溝16における厚肉部18aの外周面に、径方向外方に突出する突出部21を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速自在継手用ブーツ及び等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や各種産業機械の動力伝達系において、駆動側と従動側の二軸間の角度変位を許容しながらトルク伝達を行うため、等速自在継手が広く使用されている。この等速自在継手は、カップ状の外側継手部材と、外側継手部材の内側に配置された内側継手部材と、内側継手部材と外側継手部材との間に介在するローラやボール等からなるトルク伝達要素と、外側継手部材の開口部を封止するブーツとを主要な構成要素とする。
【0003】
ブーツは、外側継手部材の内部に封入した潤滑剤の流出や該内部への異物の混入を防止するためのもので、図11に従来のブーツ59の一例を示す。ブーツ59は、外側継手部材52の開口部外周面52aに装着される大径取付け部59aと、内側継手部材に結合したシャフト54の外周面に装着される小径取付け部59bと、大径取付け部59aと小径取付け部59bを繋ぐ蛇腹部59cとを有する。
【0004】
ブーツ59の大径取付け部59aと小径取付け部59bの外周面には、その全周にわたって、バンド取付け溝66,67が形成されている。ブーツ59の大径取付け部59aおよび小径取付け部59bをそれぞれ外側継手部材52の開口部外周面52aおよびシャフト54の外周面に嵌合した状態で、バンド取付け溝66,67に収容したブーツバンド63a,63bを加締め等の手段で縮径させることにより、大径取付け部59aおよび小径取付け部59bが内径方向に締め付けられ、大径取付け部59aおよび小径取付け部59bがそれぞれ外側継手部材52およびシャフト54に固定される(特許文献1参照)。
【0005】
ブーツ59の大径取付け部59aの内周面は、嵌合相手となる外側継手部材52の外周面52aの形状に対応した形状に形成される。外側継手部材の外周面形状としては、円筒面状のもの(以下、「円筒タイプ」と称する)と、断面非真円状のもの(以下、「非真円タイプ」と称する)との二種類がある。図11(B)は、このうちで非真円タイプの外側継手部材52、およびこれに適合する大径取付け部59aを表している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−101721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図11(B)に示すように、従来では、非真円タイプの外側継手部材52に対応したブーツ59の大径取付け部59aの外周面(バンド取付け溝66の底面も含む)はいずれも円筒面状に形成されている。その一方、大径取付け部59aの内周面60は、その全面にわたって外側継手部材の開口部外周面の非真円形状と対応する形状に形成されている。従って、ブーツ59の大径取付け部59aにおける肉厚は円周方向で不均一であり、これにより大径取付け部59aには厚肉部68aと薄肉部68bが円周方向交互に形成されている。
【0008】
このような形態の大径取付け部59aをブーツバンド63aで締め付けた場合、ブーツバンドの縮径量はその全周にわたって均一であるため、締め付け後の厚肉部68aでは径方向の圧縮率が小さくなり、薄肉部68bでは径方向の圧縮率が大きくなる。圧縮率が小となる厚肉部68aは、圧縮率が大となる薄肉部68bに比較して、外側継手部材52の開口部外周面52aに対する接触面圧が減少する。そのため、ブーツ59と外側継手部材52との間のシール性が低下し、低面圧部分を介して潤滑剤の漏洩や継手内部への異物の侵入を生じる可能性がある。
【0009】
また、ブーツ59の大径取付け部59aを外側継手部材の開口部外周面に嵌合する際に、両者の円周方向の位相が少しでもずれると、厚肉部68aの内周面(凸曲面62a)と薄肉部68bの内周面(凹曲面62b)との境界部70で、外側継手部材の開口部外周面との間に隙間を生じ、この隙間によりシール性が低下して同様の問題を生じる可能性がある。
【0010】
以上の実情に鑑み、本発明は、等速自在継手用ブーツと外側継手部材との間のシール性を向上させることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、等速自在継手の外側継手部材の開口部外周面に嵌合される大径取付け部を備え、大径取付け部に厚肉部と薄肉部とが円周方向交互に設けられ、大径取付け部の内周面が前記外側継手部材の断面非真円に形成された開口部外周面形状に対応した形状をなし、ブーツバンドからの締め付け力で大径取付け部が外側継手部材の開口部外周面に固定される等速自在継手用ブーツにおいて、大径取付け部の外周面のうち、ブーツバンドの内径側を、断面非真円形状に形成したことを特徴とするものである。
【0012】
この構成であれば、ブーツバンドの締め付け後は、ブーツの大径取付け部の外周面に、半径方向の圧縮率が大きい高圧縮部分と、半径方向の圧縮率が小さい低圧縮部分とが形成される。高圧縮部分ではその内周面の面圧(外側継手部材の開口部外周面に対する接触面圧)を高めることができる。そのため、内周面の面圧分布を調整することが可能となり、面圧を全周にわたって均一化して、ブーツと外側継手部材との間のシール性向上を図ることができる。
【0013】
この断面非真円形状の大径取付け部は、例えばブーツバンドの内径側の外周面に突出部を設けることで形成することができる。ブーツバンドの締め付け後は、突出部が高圧縮部分となり、その他の領域が低圧縮部分となり、均一な面圧が得られる。その他の領域は円筒面状に形成するのが望ましい。
【0014】
また、本発明は、等速自在継手の外側継手部材の開口部外周面に嵌合される大径取付け部を備え、大径取付け部に厚肉部と薄肉部とが円周方向交互に設けられ、大径取付け部の内周面が前記外側継手部材の断面非真円に形成された開口部外周面形状に対応した形状をなし、ブーツバンドからの締め付け力で大径取付け部が外側継手部材の開口部外周面に固定される等速自在継手用ブーツにおいて、大径取付け部の内周面のうち、ブーツバンドの内径側に、肉盛りにより突出部を設けたことを特徴とするものである。
【0015】
この構成でも、ブーツバンドの締め付け後は、ブーツの大径取付け部の内周面のうち、突出部が半径方向の圧縮率の大きい高圧縮部分となり、その他の領域が半径方向の圧縮率の小さい低圧縮部分になる。高圧縮部分では外側継手部材の開口部外周面に対する接触面圧が高まるため、内周面の面圧分布を調整することができ、面圧を全周にわたって均一化することが可能となる。
【0016】
これらの突出部を厚肉部に形成すれば、外側継手部材の開口部外周面に対する厚肉部の接触面圧を高めることができる。これにより、厚肉部での低面圧を解消して全周にわたって面圧を均一化することができ、ブーツと外側継手部材との間のシール性向上を図ることができる。
【0017】
突出部を、厚肉部と薄肉部の境界部に形成すれば、ブーツの大径取付け部と外側継手部材の開口部外周面との間に円周方向の位相ずれを生じた状態で両者を嵌合し、ブーツバンドを締め付けた場合でも、突出部が高圧縮状態となるため、厚肉部と薄肉部の境界部内周面で外側継手部材の開口部外周面に対する接触面圧を増大させることができる。これにより、位相ずれに伴う隙間の発生が防止され、全周にわたって十分な接触面圧を確保できる。そのため、ブーツと外側継手部材との間のシール性向上を図ることができる。
【0018】
厚肉部に、ブーツ素材よりも硬質の硬質部材を配置すれば、硬質部材の存在分だけ厚肉部におけるブーツ素材の肉厚が減少する。従って、ブーツバンドの締め付け時における厚肉部での圧縮率を増大させ、厚肉部と外側継手部材との間の接触面圧をさらに増大させることができ、ブーツと外側継手部材との間のシール効果が向上する。
【0019】
硬質部材は、インサート成形等の手段で厚肉部の内部に埋め込むこともでき、この場合は硬質部材の経年劣化を防止することができる。
【0020】
本発明の等速自在継手は、上記何れかの構成のブーツと、軸方向一端に開口部を有し、内周に、トラック溝およびトラック溝よりも内径側に位置するトラック溝間領域が円周方向交互に形成され、トラック溝間領域の外径側で外周面が除肉された外側継手部材と、外側継手部材の内側に配置された内側継手部材と、内側継手部材と外側継手部材との間でトルク伝達を行うトルク伝達要素と、ブーツの大径取付け部の外周面に装着され、大径取付け部に内径方向の締め付け力を付与するブーツバンドとを備えるものである。
【0021】
この等速自在継手においては、トルク伝達要素として例えばローラを使用することができる(トリポード型等速自在継手等)。この他、トルク伝達要素としてボールを使用することもでき(ツェッパ型等速自在継手等)、この場合のボールは6個又は8個を使用することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のような本発明によれば等速自在継手用ブーツと外側継手部材との間のシール性を向上させることができ、潤滑剤漏れや継手内部への異物の侵入を長期間確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係るブーツと等速自在継手を示す図であり、(A)が軸方向断面図、(B)が(A)のZ−Z線矢視断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る等速自在継手用ブーツを示す図であり、(A)が軸方向断面図、(B)が(A)のX−X線断面図である。
【図3】等速自在継手用ブーツの大径取付け部の変形例を示す径方向断面図である。
【図4】等速自在継手用ブーツの大径取付け部の変形例を示す径方向断面図である。
【図5】等速自在継手用ブーツの大径取付け部の変形例を示す径方向断面図である。
【図6】等速自在継手用ブーツの大径取付け部の変形例を示す径方向断面図である。
【図7】等速自在継手用ブーツの大径取付け部の変形例を示す径方向断面図である。
【図8】ツェッパ型等速自在継手を示す軸方向断面図である。
【図9】ツェッパ型等速自在継手用ブーツの大径取付け部の径方向断面図である。
【図10】ツェッパ型等速自在継手用ブーツの大径取付け部の径方向断面図である。
【図11】従来のブーツを示す図であり、(A)が軸方向断面図、(B)が(A)のY−Y線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照して説明する。
【0025】
図1に、等速自在継手の一例として自動車のドライブシャフトのインボード側に使用されるトリポード型等速自在継手1を示す。トリポード型等速自在継手1は、二軸間のプランジングを可能とした摺動型等速自在継手で、主な構成要素として、外側継手部材2、内側継手部材6、トルク伝達要素としてのローラ8、シャフト4、およびブーツ9を備える。
【0026】
外側継手部材2は有底筒状であり、その開口端とは反対側にステム部3を一体に備える。ステム部3は、トランスミッションまたはデファレンシャルに連結される。外側継手部材2の内周面には、軸方向に延在する3本の直線状のトラック溝5が円周方向等間隔で形成される。隣接するトラック溝5間の内周面は、トラック溝5よりも内径側に位置するトラック溝間領域Rを構成する。
【0027】
外側継手部材2は、いわゆる非真円タイプであり、図1(B)に示すように、円筒状の外周面2aのうち、トラック溝間領域Rの外径側を除肉した形状を有する。具体的に説明すると、外周面2aは、トラック溝5の外径側に形成された部分円筒面状の凸曲面11bと、トラック溝間領域Rの外径側に形成された部分円筒面状の凹曲面11aとを円周方向交互に有する。凹曲面11aは軸心からの偏心位置を中心とする部分円筒面状で、凸曲面11bは軸心を中心とする部分円筒面状である。
【0028】
内側継手部材6は、リング状をなし、外側継手部材2の内側に配設される。内側継手部材6の外周には、径方向外方に突出した3本のジャーナル7が円周方向等間隔で設けられており、各ジャーナル7に、外側継手部材2と内側継手部材6との間でトルク伝達を行うトルク伝達要素としてのローラ8が取り付けられている。ローラ8は、その内周面とジャーナル7の外周面との間に多数のニードルローラ19を配置することで、各ジャーナル7に対して回転自在に支持されている。このローラ8をトラック溝5に嵌合させてローラ8をトラック溝5に対して転動させることで、外側継手部材2と内側継手部材6との間の軸方向変位を許容しつつ、作動角をとった外側継手部材2とシャフト4間でのトルク伝達が可能となる。
【0029】
シャフト4は、その一端が内側継手部材6の内周にセレーション嵌合され、他端が車輪ハブ(図示省略)側の等速自在継手に連結される。
【0030】
外側継手部材2の開口部とシャフト4との間の空間は、グリースの漏洩防止や継手内部への異物浸入防止を目的として、ゴム又は樹脂からなるブーツ9で封止される。ブーツ9は外側継手部材2の開口部外周面2aに装着される大径取付け部9aと、シャフト4の外周面に装着される小径取付け部9bと、大径取付け部9aと小径取付け部9bを繋ぐ蛇腹部9cとを有する。
【0031】
ブーツ9の大径取付け部9aと小径取付け部9bの外周面には、その全周にわたって、均一深さのバンド取付け溝16,17が形成されている。ブーツ9の大径取付け部9aおよび小径取付け部9bをそれぞれ外側継手部材2の開口部外周面2aおよびシャフト4の外周面に嵌合した状態で、バンド取付け溝16,17に収容されたブーツバンド13a,13bを加締め等の手段で縮径させることにより、大径取付け部9aおよび小径取付け部9bが内径方向に締め付けられ、大径取付け部9aおよび小径取付け部9bがそれぞれ外側継手部材2およびシャフト4に固定される。
【0032】
ブーツ9の大径取付け部9aには、図2(B)に示すように、半径方向で肉厚を厚くした厚肉部18aと、これよりも肉厚を薄くした薄肉部18bとが円周方向交互に形成される。厚肉部18aの内周面は、外側継手部材2の外周面2aの凹曲面11aに対応する部分円筒面状の凸曲面12aを構成し、薄肉部18bの内周面は、外側継手部材2の外周面2aの凸曲面11bに対応する部分円筒面状の凹曲面12bを構成する。これら凸曲面12aおよび凹曲面12bからなる大径取付け部9aの内周面10は、外側継手部材2の開口部外周面2aと対応する形状をなし、外側継手部材2の開口部外周面2aに均一な締め代をもって嵌合される。
【0033】
バンド取付け溝16の外周面(溝底面)は、図2(B)に示すように円周方向等配位置に突出部21を形成することで断面非真円形状に形成されている。図示例の突出部21は、各厚肉部18aの円周方向中心線P1に対して円周方向で左右対称となる断面円弧状に形成され、円周方向両側の外周面から外径側に滑らかに立ち上がっている。突出部21の最大高さhは、バンド取付け溝16の溝深さよりも小さく、概ね1〜2mm程度である。厚肉部18aは、その円周方向中心線P1上で最も肉厚となり、そこから円周方向両側に向かって徐々に薄肉となる形態になっている。また、図2(A)に示すように、突出部21は、バンド取付け溝16の底面の軸方向一部領域(中間領域)に限って形成されている。バンド取付け溝16の外周面のうち、突出部21の円周方向両側および軸方向両側は円筒面状に形成されている。
【0034】
このように本発明では、ブーツ9の大径取付け部9aにおいて、ブーツバンド13aの内径側、具体的にはバンド取付け溝16の外周面に突出部21を形成することにより、当該外周面を断面非真円形状に形成している(従来品のブーツ取付け溝16の外周面の真円状輪郭を図2(B)に破線で示す)。従って、ブーツ取付け溝16に収容したブーツバンド13aを締め付けて、円周方向全周にわたって締め付け力を付与すると、突出部21は他所に比べて半径方向の圧縮率が大きい高圧縮部分となる。これにより突出部21の内径側で、厚肉部18aの内周面(凸曲面12a)と外側継手部材2の開口部外周面2aとの間の接触面圧が増大し、薄肉部18bと同程度の接触面圧を確保できる。そのため、大径取付け部9aの内周面10と外側継手部材2の開口部外周面2aとの間の接触面圧を全周にわたって均一化することができ、ブーツ9と外側継手部材2との間のシール性の向上を図ることができる。突出部21の断面形状は、従来品よりも厚肉部18aが厚肉化される形態である限り任意の形状を採用することができ、例示した断面円弧状には限定されない。
【0035】
以上の実施形態では、ブーツ9の大径取付け部9aの外周面に突出部21を形成した場合を例示しているが、同様の作用効果は、図5〜図7に示すように、厚肉部18aの内周面(凸曲面12a)のうち、ブーツバンド13aの内径側(バンド取付け溝16の内径側)に肉盛りにより突出部22を形成することによっても得ることができる(図5〜図7中の破線は従来品における厚肉部18aの内周面形状を表す)。この場合の大径取付け部9aの内周面は、突出部22を除いて外側継手部材2の開口部外周面2aに対応する形状をなし、開口部外周面2aの凸曲面11bに対応する凹曲面12bと、開口部外周面2aの凹曲面11aに対応する凸曲面12aとを有する。大径取付け部9aを外側継手部材2の開口部外周面2aに嵌合した状態(ブーツバンド13aによる締め付け前の状態)では、突出部22での締め代が他所よりも大きくなる。
【0036】
図5は厚肉部18aの内周面(凸曲面12a)に肉盛りして、従来品より曲率半径の小さい円筒面で突出部22を形成したもの、図6は、厚肉部18aの内周面(凸曲面12a)に肉盛りして、従来品より曲率半径の大きい円筒面で突出部22を形成したもの、図7は厚肉部18aの内周面の12a円周方向両側に肉盛りして突出部22を形成したものである。何れの突出部22でも、ブーツバンド13aによる締め付け後は、突出部22の内周面と外側継手部材2の開口部外周面2aとの間の接触面圧が大きくなるため、薄肉部18bと同程度の接触面圧を確保できる。そのため、接触面圧を全周にわたって均一化して、ブーツ9と外側継手部材2との間のシール性の向上を図ることができる。
【0037】
図3に大径取付け部9aの変形例を示す。この変形例が図2(B)と異なる点は、突出部21を大径取付け部9aの外周面で、かつ厚肉部18aと薄肉部18bとの境界部に配置した点にある。具体的には、突出部21は、バンド取付け溝16の外周面のうち、厚肉部18a内周の凸曲面12aの円周方向両端と、これに隣接する薄肉部18bの凹曲面12bとの境界角部20を通る半径方向線P2上に配置されている。
【0038】
かかる構成の突出部21を設けることで、ブーツバンド13aの締め付け後は、突出部21が半径方向の圧縮率の大きい高圧縮部分となる。そのため、突出部21の内径側での接触面圧も増大する。これによりブーツ9の大径取付け部9aを外側継手部材2の開口部外周面2aに嵌合した際に、両者に円周方向の僅かな位相ずれが生じたとしても、大径取付け部9a内周の境界角部20と外側継手部材2の開口部外周面2aとの間の接触面圧を増大させ、両者間での隙間の発生を防止することができる。そのため、接触面圧を全周にわたって均一化することができ、ブーツ9と外側継手部材2との間のシール性の向上を図ることができる。
【0039】
図4に大径取付け部9aの他の変形例を示す。この大径取付け部9aは、厚肉部18aに、ブーツ9の素材より硬質の硬質部材Mを配置した点が図2(B)に示す大径取付け部9aと異なる。硬質部材Mの材質は、ブーツ9の素材より硬質であればよく、例えば金属、樹脂等が挙げられる。この硬質部材Mをインサート部品として樹脂等で射出成形することで、図示のように硬質部材Mと一体化したブーツ9を製作することができる。
【0040】
このように硬質部材Mを厚肉部18aに配置することで、硬質部材Mの存在分だけ厚肉部18aにおけるブーツ素材の肉厚を減少させることができる。従って、ブーツバンド13aの締め付け後における厚肉部18aの圧縮率を増大させ、厚肉部18a内周と外側継手部材2の開口部外周面2aとの間の接触面圧をさらに増大させることができ、ブーツ9と外側継手部材2との間のシール性をより向上させることができる。
【0041】
図4に示す実施形態では、硬質部材Mが厚肉部18aの内部に埋め込まれており、そのため、硬質部材Mの経年劣化が生じにくいという利点が得られる。経年劣化が問題とならないのであれば、硬質部材Mを厚肉部18aの外周に配置してもよい。また、図5〜図7と同様に、厚肉部18aの内周面に突出部21を形成した構成において、厚肉部18aに硬質部材Mを配置してもよい。本実施形態では、硬質部材Mの断面形状は、厚肉部18aの内周面および外周面形状に倣った楕円状にしているが、その形状は任意である。
【0042】
上記実施形態では、トリポード型の等速自在継手1に使用されるブーツ9を例示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、非真円タイプの外側継手部材2を有する他の形式の等速自在継手のブーツ9にも適用することができる。一例として、図8に、ツェッパ型等速自在継手およびこれに使用されるブーツを示す。
【0043】
図8に示すツェッパ型ジョイント1’は、外側継手部材2と内側継手部材6のプランジングが許容されていない固定型等速自在継手の一種である。このツェッパ型ジョイント1’は、外側継手部材2、内側継手部材6、トルク伝達要素としてのボール23、保持器24を主要な構成要素とする。ツェッパ型ジョイント1’には、ボール23を6個有するものと8個有するものとがある。
【0044】
外側継手部材2には、その内周面の円周方向複数箇所(6箇所もしくは8箇所)に径方向断面が円弧状のトラック溝5が形成されている。内側継手部材6は、外周面の円周方向複数箇所に径方向断面が円弧状のトラック溝6aが形成されている。ボール23は、外側継手部材2のトラック溝5と内側継手部材6のトラック溝6aとで形成されるボールトラックに配置され、円周方向等間隔に保持器24に保持される。
【0045】
外側継手部材2は、円筒状外周面のうちトラック溝間領域の外径側を徐肉した非真円タイプである。この外側継手部材2の開口部外周面2aに嵌合されるブーツ9の大径取付け部9aの内周面は、図2に示すトリポード型等速自在継手用のブーツ9と同様に、外側継手部材2の開口部外周面2a形状に対応した形状をなす。これにより大径取付け部9aには、図9(A)、図9(B)、図10(A)、および図10(B)に示すように、外側継手部材2のトラック溝間領域の外径側に形成される厚肉部18aと、トラック溝5の外径側に形成される薄肉部18bとが円周方向交互に形成されている。図9(A)および図9(B)は6個のボールを使用する等速自在継手に使用するブーツ9を表し、図10(A)および図10(B)は8個のボールを使用する等速自在継手に使用するブーツ9を表す。
【0046】
このうち、図9(A)および図10(A)は、図2(B)に示す実施形態と同様に、厚肉部18aの外周面に突出部21を設けた例であり、図9(B)および図10(B)は、図3に示す実施形態と同様に、厚肉部18aと薄肉部18bとの間の境界部に突出部21を設けた例である。図示は省略するが、図9(A)(B)および図10(A)(B)の各実施形態において、図5〜図7の実施形態と同様に、大径取付け部9aの内周に突出部22を設けてもよい(厚肉部18aと薄肉部18bの間の境界部に突出部22を設けてもよい)。あるいは図4に示す実施形態度同様に、厚肉部18aに補強部材Mを配置してもよい(厚肉部18aと薄肉部18bの間の境界部に補強部材Mを配置してもよい)。これらの構成により得られる作用効果は、図2〜図7に示す各実施形態で説明した作用効果と共通するので重複説明を省略する。
【0047】
以上の説明では、トリポート型等速自在継手とツェッパ型等速自在継手に使用するブーツを例示した。しかし、本発明の等速自在継手用ブーツは、上記の例示した等速自在継手に限らず、ダブルオフセット型等速自在継手、アンダーカットフリー型等速自在継手等の他形式の等速自在継手に使用するブーツとしても広く適用することができる。なお、図1では、トリポード型等速自在継手として、ジャーナル7に一つのローラを外嵌した構成を例示したが、トリポード型等速自在継手としては、ローラを内ローラと外ローラからなる二重構造とし、外ローラを内側継手部材6のジャーナル7に対して首振り揺動可能となるように構成したタイプもある。この種のトリポード型等速自在継手のブーツにも本発明を同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 トリポード型等速自在継手
1’ ツェッパ型ジョイント(等速自在継手)
2 外側継手部材
2a 外周面
5 トラック溝
6 内側継手部材
8 ローラ(トルク伝達要素)
9 等速自在継手用ブーツ
9a 大径取付け部
10 内周面
13a ブーツバンド
18a 厚肉部
18b 薄肉部
21,22 突出部
23 ボール(トルク伝達要素)
M 硬質部材
R トラック溝間領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
等速自在継手の外側継手部材の開口部外周面に嵌合される大径取付け部を備え、大径取付け部に厚肉部と薄肉部とが円周方向交互に設けられ、大径取付け部の内周面が前記外側継手部材の断面非真円に形成された開口部外周面形状に対応した形状をなし、ブーツバンドからの締め付け力で大径取付け部が外側継手部材の開口部外周面に固定される等速自在継手用ブーツにおいて、
大径取付け部の外周面のうち、ブーツバンドの内径側を、断面非真円形状に形成したことを特徴とする等速自在継手用ブーツ。
【請求項2】
ブーツバンドの内径側に設けた突出部で断面非真円形状に形成した請求項1記載の等速自在継手用ブーツ。
【請求項3】
等速自在継手の外側継手部材の開口部外周面に嵌合される大径取付け部を備え、大径取付け部に厚肉部と薄肉部とが円周方向交互に設けられ、大径取付け部の内周面が前記外側継手部材の断面非真円に形成された開口部外周面形状に対応した形状をなし、ブーツバンドからの締め付け力で大径取付け部が外側継手部材の開口部外周面に固定される等速自在継手用ブーツにおいて、
大径取付け部の内周面のうち、ブーツバンドの内径側に、肉盛りにより突出部を設けたことを特徴とする等速自在継手用ブーツ。
【請求項4】
突出部を、厚肉部に形成した請求項2または3記載の等速自在継手用ブーツ。
【請求項5】
突出部を、厚肉部と薄肉部の境界部に形成した請求項2または3記載の等速自在継手用ブーツ。
【請求項6】
厚肉部に、ブーツ素材よりも硬質の硬質部材を配置した請求項1〜5何れか1項に記載の等速自在継手用ブーツ。
【請求項7】
厚肉部の内部に硬質部材を埋め込んだ請求項6記載の等速自在継手用ブーツ。
【請求項8】
請求項1〜5の何れか1項に記載したブーツと、軸方向一端に開口部を有し、内周に、トラック溝およびトラック溝よりも内径側に位置するトラック溝間領域が円周方向交互に形成され、トラック溝間領域の外径側で外周面が除肉された外側継手部材と、外側継手部材の内側に配置された内側継手部材と、内側継手部材と外側継手部材との間でトルク伝達を行うトルク伝達要素と、ブーツの大径取付け部の外周面に装着され、大径取付け部に内径方向の締め付け力を付与するブーツバンドとを備える等速自在継手。
【請求項9】
トルク伝達要素としてローラを有する請求項8に記載した等速自在継手。
【請求項10】
トルク伝達要素としてボールを有する請求項8に記載した等速自在継手。
【請求項11】
6個のボールを有する請求項10記載の等速自在継手。
【請求項12】
8個のボールを有する請求項10記載の等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−41969(P2012−41969A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183054(P2010−183054)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】