説明

等速自在継手

【課題】 潤滑剤の使用量を必要最小限度とし、低コストで外輪の内部の潤滑を保持できる等速自在継手を提供する。
【解決手段】 外輪1の内部のみに多孔性固形潤滑剤11を充填し、外輪1の開口端部1bの外周面に、外輪1の開口部13を閉塞する伸縮自在なシート12を装着する。多孔性固形潤滑剤11は、潤滑油を含む潤滑成分及び樹脂成分を必須成分とし、前記樹脂成分が発泡して多孔質化された固形物であり、かつ前記潤滑成分を樹脂内部に吸蔵してなり、樹脂成分の発泡は潤滑成分の存在下で行う。シート12は樹脂製とし、網目の大きさは、多孔性固形潤滑剤11が含有する潤滑成分を不透過とする大きさとし、50〜1000メッシュとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の駆動軸や各種産業機械に用いられ、回転トルクを伝達する等速自在継手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
等速自在継手には角度変位のみを許容する固定型等速自在継手と角度変位および軸方向変位(プランジング)を許容する摺動型等速自在継手とがあり、使用箇所により使い分けがなされている。例えば、自動車においては、ハンドルの回転トルクを伝達するステアリングシャフトには固定型等速自在継手が使用され、車輪に動力を伝達するドライブシャフトには摺動型等速自在継手が使用される。
【0003】
図2に固定型等速自在継手の一つであるボールフィクス型等速自在継手(BJ)を示す。この等速自在継手は、外側継手部材である外輪1、内側継手部材である内輪3、ボール4、ケージ5で主要部が構成されている。外輪1の内部には、内輪3、ボール4およびケージ5からなり、前記外輪1に対して相対動作する内部部品10が収容されている。外輪1は、内球面に複数のトラック溝1aが形成されている。内輪3は、外球面に外輪1のトラック溝1aと対をなす複数のトラック溝3aが形成され、これら外輪1のトラック溝1aと内輪3のトラック溝3aとの間に複数のボール4が介在され、このボール4は外輪1と内輪3との間に配置されるケージ5のポケット5aで保持されている。
【0004】
内輪3は中心孔2を有し、この中心孔2には軸部材であるシャフト6の一端が挿嵌されている。このシャフト6から外輪1の開口端部1bに亙って、樹脂製で筒状のブーツ7が取り付けられている。
【0005】
このブーツ7は、大径部7aと小径部7bおよび蛇腹部7cとからなり、蛇腹部7cは大径部7aと小径部7bを連結している。大径部7aは外輪1の開口端部1bの外周面に取り付けられ、小径部7bはシャフト6の外周面に取り付けられ、それぞれの取り付け部分はブーツバンド8、9で締め付けて固定されている。蛇腹部7cは大径部側から小径部側に向けて縮径し、複数の山部7c1と谷部7c2が交互に形成されている。
【0006】
さて、このような等速自在継手には、外輪1と内部部品10の摺動部および内部部品10を構成する部品(内輪3、ボール4、ケージ5)の摺動部(以下これらを摺動部とする)を有する外輪1の内部のみに潤滑剤を充填させる技術が知られている。
【0007】
しかし、上記のように外輪1の内部のみに潤滑剤を充填させる場合、等速自在継手を回転させた場合、その遠心力で外輪1の内部の摺動部に存在していた潤滑剤が外輪1の開口部13を介して外部へ飛び出て、外輪1の内部の潤滑剤量が減少して潤滑不足となり、前記摺動部における摩擦による発熱の増加と、この摺動部の摩擦による劣化が懸念されていた。
【0008】
この問題は、等速自在継手が高作動角をとった状態で回転する場合に顕著になる。この理由としては、等速自在継手が高作動角をとった状態で回転する場合、内部部品10が外輪1の開口部13から外部に飛び出て、内部部品10の外輪1の内部で供給された潤滑剤が存在する摺動部が外輪1から開口部13を介して外部に出るため、外輪1の内部の潤滑剤が外部へ逃げやすい状態になるためである。
【0009】
また、上記のように、外輪1の内部から開口部13を介して潤滑剤が外部へ飛び出ることで、この飛び出た潤滑剤が、外輪1の開口端部1bに取り付けられたブーツ7の内面に付着して堆積し、これによりブーツ7に過大な負荷を加えて異常変形させ、劣化させてしまうことが考えられた。また、ブーツ7のように外輪1に取り付けるブーツが蛇腹部7cを有する場合、外輪1の内部の潤滑剤が、開口部13を介して外部へ飛び出ると、この潤滑剤がブーツ7の蛇腹部7cの山部7c1と谷部7c2との間に挟まれて吸着するため、外輪1の内部に戻る潤滑剤の量が減少し、外輪1の内部の潤滑が充分に得られなくなることが考えられた。
【0010】
上記の課題を解決する等速自在継手として、外輪1の内部とブーツ7の内部に潤滑剤を充填し、ブーツ7の内部に充填した潤滑剤で、外輪1の内部の潤滑を補う等速自在継手が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−165988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
さて、上記の等速自在継手は、外輪1の内部を充分に潤滑させることができるが、外輪1の内部だけではなく、ブーツ7の内部にも潤滑剤を充填させるため、潤滑剤の使用量が多くなり、製造コストが嵩む問題があった。また、ブーツ7の内部にも潤滑剤を充填させるため、等速自在継手の重量が大きくなる問題もあった。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、潤滑剤の使用量を必要最小限度とし、低コストで外輪の内部の潤滑を保持できる等速自在継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するための本発明の等速自在継手は、開口部を有する外側継手部材と、前記外側継手部材の内部に収容され、前記外側継手部材に対して相対動作する内側継手部材を含む内部部品とを備え、前記外側継手部材の内部に潤滑剤を充填させた等速自在継手であり、前記外側継手部材の開口部を伸縮自在なシートで閉塞したことを特徴とする。
【0014】
本発明のように、外側継手部材の内部に潤滑剤を充填させ、外側継手部材の開口部を伸縮自在なシートで閉塞することで、等速自在継手が回転する際、その遠心力で外側継手部材の内部から開口部を介して潤滑剤が外部へ出て行こうとするが、前記シートで塞き止められてシートに付着する。このシートに付着した潤滑剤は、等速自在継手の回転時に、その遠心力で外側継手部材の内部に戻るため、外側継手部材の内部の潤滑を保つことができる。
【0015】
なお、上記の作用は、等速自在継手が高作動角をとった状態で回転する場合に顕著となる。これは、シートは変形しやすく、外力による変形を許容することに起因している。詳説すると、等速自在継手が高作動角をとった状態で回転する際、内部部品が外側継手部材の開口部から外部に飛び出ようとしてシートに接触するが、この際、シートは外側継手部材の開口部を閉塞したまま、内部部品の接触に追従して変形する。このような内部部品とシートの接触により、シートに付着した潤滑剤がシートから剥がれて外側継手部材の内部に戻るため、シートから外側継手部材の内部に戻る潤滑剤量は、既に述べた等速自在継手の遠心力による場合のみよりも多くなるためである。
【0016】
前記シートは網目状とするのが望ましい。
【0017】
これは、前記した伸縮自在なシートを網目状とすることで、等速自在継手が回転する際に生じる発熱で外側継手部材の内部の空気が膨張しても、シートの網目が通気機能を果たすため、外側継手部材内部の膨張した空気を外部へ逃がすことができる。また、このように、外側継手部材の内圧上昇を抑えることで、外側継手部材の発熱による内温上昇を防止
し、等速自在継手の耐久性を向上させることができる。
【0018】
前記シートは樹脂製とするのが望ましい。
【0019】
これは、シートを樹脂製とすることで、シートを外側継手部材の開口部の形状に合わせて加工する際の加工作業が容易となる。また、樹脂は軽量であるため、重量面で等速自在継手に悪影響を与えることもない。なお、樹脂として弾性のあるものを使用すると、シートは弾性力により変形しやすくなり、外力による変形を許容しやすくなるため、既に説明した本発明の等速自在継手に係るシートの効果を効率的に得ることができる。
【0020】
前記シートの網目は50〜1000メッシュであるのが望ましい。
【0021】
シートの網目が50メッシュ未満であると、等速自在継手の回転時に、潤滑剤がシートの網目を通り抜けて外部へ飛び出し易くなるため、外側継手部材の内部の潤滑剤量が減少して潤滑不足になり易くなる。また、1000メッシュを越えると、外側継手部材の内圧および内温上昇を充分に抑えることができない。
【0022】
前記潤滑剤は、潤滑油を含む潤滑成分及び樹脂成分を必須成分とし、前記樹脂成分が発泡して多孔質化された固形物であり、かつ前記潤滑成分を樹脂内部に吸蔵してなる多孔性固形潤滑剤とするのが望ましい。
【0023】
多孔性固形潤滑剤は、樹脂成分を発泡させた発泡体にグリースや潤滑油等の潤滑成分を保持させたもので、外力により潤滑成分を滲出させる自己潤滑能を有する。そのため、外側継手部材の内部に充填する潤滑剤を多孔性固形潤滑剤とすると、等速自在継手の回転時にも、樹脂成分に保持された潤滑成分は、回転時の遠心力により外側継手部材の開口部から外部へ飛び出にくいため、外側継手部材の内部の潤滑を効率よく保ち、前記摺動部での摩擦による発熱の増加と、この摺動部の摩擦による劣化の防止に寄与することができる。また、多孔性固形潤滑剤の潤滑成分は、等速自在継手の回転時の遠心力により外側継手部材の内部から外部へ飛び出にくい、潤滑成分量を必要最小限度に抑え、等速速自在継手の製造コストの削減にも寄与することができる。
【0024】
なお、外側継手部材の内部に充填する潤滑剤として、前記の多孔性固形潤滑剤と、潤滑油又はグリースのうち少なくともいずれか一方を併用するのが好ましい。
【0025】
これは、外側継手部材の内部に潤滑剤として多孔性固形潤滑剤のみを充填する場合、等速自在継手の使用状況(温度など)により潤滑成分の滲出量に変動が生じることから、外側継手部材の内部の潤滑性にも変動が生じるためである。そのため、外側継手部材の内部に充填する潤滑剤として、本発明のように、多孔性固形潤滑剤と、潤滑油又はグリースのうち少なくともいずれか一方を併用すると、多孔性固形潤滑剤と併用する潤滑油やグリースが、多孔性固形潤滑剤の自己潤滑能を補うため、外側継手部材の内部の潤滑を安定して保つことができる。なお、多孔性固形潤滑剤と併用する潤滑剤は、液状のものであれば上記したグリースや潤滑油に限られることはない。
【発明の効果】
【0026】
本発明の等速自在継手は、外側継手部材の開口部を伸縮自在なシートで閉塞する。これにより、等速自在継手の回転時に、遠心力で外側継手部材から開口部を介して外部へ飛び出ようとする外側継手部材の内部の潤滑剤が塞き止められ、シートに付着する。
【0027】
このシートに付着した潤滑剤は、等速自在継手の回転時の遠心力によりシートから剥がれて外側継手部材の内部に戻るため、外側継手部材の内部の潤滑を保ち、外側継手部材の内部の摺動部における摩擦による発熱の増加と、この摺動部の摩擦による劣化を防止することができる。
【0028】
また、上記のように、本発明は、外側継手部材の内部に充填した潤滑剤が外部に飛び出て減少するのを防止できるため、潤滑剤を外側継手部材の内部以外に充填させて外側継手部材の内部の潤滑を補う必要がなくなる。このため、潤滑剤の使用量を必要最小限度に抑え、等速自在継手の製造コストを削減することができる。
【0029】
さらに、外側継手部材の内部に充填した潤滑剤は、外側継手部材の開口部から外部に飛び出すことがないため、その外部側のブーツに付着することもなく、ブーツの劣化を防止することができる。
【0030】
なお、上記の作用および効果は、等速自在継手が高作動角をとった状態で回転する場合に顕著となる。これは、等速自在継手が高作動角をとった状態で回転する場合、外側継手部材の内部から開口部を介して外部に飛び出ようとする内部部品が開口部を閉塞するシートに接触し、このシートは、接触する内部部品に追従して、開口部を閉塞したまま変形する。この内部部品とシートの接触により、シートに付着した潤滑剤は剥がれて外側継手部材の内部に戻るため、シートから外側継手部材の内部に戻る潤滑剤量は、上記した等速自在継手の遠心力による場合のみよりも多くなるためである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に本発明の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0032】
図1に本発明の実施形態を示す。なお、本実施形態において、図2に示す等速自在継手と同じ部位、機能、形態を有する部品については同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0033】
本実施形態では、外輪1の開口端部1bの外周面に、外輪1の開口部13を閉塞する伸縮自在なシート12を取り付ける。このシート12は樹脂製で、後に詳述する多孔性固形潤滑剤11が含有する潤滑成分を不透過とする網目を有し、中心にはシャフト6を挿通する挿通孔が形成されている。
【0034】
この場合、後に詳述する外輪1の内部に充填した多孔性固形潤滑剤11の潤滑成分は、等速自在継手の回転時にその遠心力で外輪1の内部から開口部13を介して外部へ飛び出ようとするが、開口部13はシート12で閉塞されているため、遠心力で飛ばされた潤滑成分がシート12で塞き止められ、シート12に付着する。このシートに12に付着した潤滑成分は、等速自在継手の回転時に、その遠心力でシート12から剥がれて外輪1の内部に戻る。この結果、外輪1の内部の潤滑が保つことができるため、外輪1の内部の摺動部における摩擦による発熱の増加と、この摺動部の摩擦による劣化を防止することができる。
【0035】
また、上記のように、本発明は、外輪1の内部に充填した潤滑剤が開口部13を介して外部に飛び出て減少するのを防止できるため、潤滑剤を外輪1の内部以外に充填させて外輪1の内部の潤滑を補う必要がなくなる。このため、潤滑剤の必要最小限度に抑え、等速自在継手の製造コストを削減することができる。
【0036】
さらに、外輪1の内部に充填した後に詳述する多孔性固形潤滑剤11が含有する潤滑成分は、外輪1の内部から開口部13を介して外部に飛び出ることがないため、その外部側のブーツ7に付着することもなく、ブーツ7の劣化を防止できる。
【0037】
上記の作用および効果は、等速自在継手が高作動角をとった状態で回転する場合に顕著となる。これは、等速自在継手が高作動角をとった状態で回転する場合、外輪1の内部から開口部13を介して外部に飛び出ようとする内部部品10が、開口部13を閉塞するシート12に接触し、このシート12は、接触する内部部品10に追従して、開口部13を閉塞したまま変形する。このような内部部品10とシート12の接触により、シート12に付着した後に詳述する多孔性固形潤滑剤11が含有する潤滑成分がシート12から剥がれて外輪1の内部に戻るため、シート12から外輪1の内部に戻る潤滑剤量は、上記した等速自在継手の遠心力による場合のみよりも多くなるためである。
【0038】
また、シート12は網目状であるため、等速自在継手が回転する際に生じる発熱で外輪1の内部の空気が膨張しても、シート12の網目が通気機能を果たすため、外輪1の内部の膨張した空気を外部へ逃がすことができる。また、このように、外輪1の内圧上昇を抑えることで、外側継手部材の発熱による内温上昇を防止し、等速自在継手の耐久性を向上させることができる。
【0039】
さらに、シート12は樹脂製であるため、シート12を外輪1の開口部13の形状に合わせて加工する際の加工作業が容易となる。また、樹脂は軽量であるため、重量面で等速自在継手に悪影響を与えることもない。なお、樹脂として弾性のあるものを使用すると、シート12は弾性力により変形しやすくなり、外力による変形を許容しやすくなるため、既に説明した本発明のシート12の作用および効果を効果的に得ることができる。なお、シート12に使用する樹脂としては、例えば、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン、テフロン(登録商標)等を挙げることができる。
【0040】
シート12の網目の大きさは、後に詳述する多孔性固形潤滑剤11が含有する潤滑成分を不透過とする大きさにする。この大きさは、50〜1000メッシュである。
【0041】
シート12の網目が50メッシュ未満であると、等速自在継手の回転時に、潤滑成分がシート12の網目を通り抜けて外部へ飛び出し易くなり、外輪1の内部の潤滑成分量が減少して潤滑不足になり易くなる。また、1000メッシュを越えると、上記したように、外輪1の内圧および内温上昇を充分に抑えることができない。
【0042】
また、本実施形態の等速自在継手は、外輪1の内部のみに潤滑剤として多孔性固形潤滑剤11を充填する。
【0043】
この多孔性固形潤滑剤11は、潤滑油を含む潤滑成分及び樹脂成分を必須成分とし、前記樹脂成分が発泡して多孔質化された固形物であり、かつ前記潤滑成分を樹脂内部に吸蔵してなる。なお、ここでいう「吸蔵」とは、学術用語の吸蔵の意味と同様であり、液体の潤滑成分が固体の樹脂中に化合物にならないで含まれることを意味する。
【0044】
このように、多孔性固形潤滑剤11は、樹脂成分を発泡させた発泡体にあらかじめグリースや潤滑油等の潤滑成分を保持させたものであるため、外力により潤滑成分を滲出させる自己潤滑能を有する。そのため、外輪1の内部に充填する潤滑剤を多孔性固形潤滑剤11とした本実施形態は、等速自在継手の回転時にも、樹脂成分に保持された潤滑成分は、回転時の遠心力により外輪1の内部から開口部13を介して外部へ飛び出にくいため、外輪1の内部の潤滑を効率よく保ち、外輪1の内部の摺動部における摩擦による発熱の増加と、この摺動部の摩擦による劣化の防止に寄与することができる。また、多孔性固形潤滑剤11の潤滑成分は、等速自在継手の回転時の遠心力により外輪1の内部から外部へ飛散しにくいため、潤滑成分量を必要最小限度に抑え、等速自在継手の製造コストの削減に寄与することができる。
【0045】
多孔性固形潤滑剤11の樹脂成分には、プラスチックまたはゴムなどのうち、エラストマーまたはプラストマーのいずれかまたは両方を、アロイまたは共重合成分として採用できる。
【0046】
ゴムの場合は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、ウレタンエラストマー、フッ素ゴム、クロロスルフォンゴムなどの各種ゴムを採用できる。
【0047】
また、プラスチックの場合は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアセタール、ポリアミド4,6(PA4,6)、ポリアミド6,6(PA6,6)、ポリアミド6T(PA6T)、ポリアミド9T(PA9T)などの汎用プラスチックやエンジニアリングプラスチックを挙げられる。
【0048】
また、上記のプラスチックに限られることなく、軟質ウレタンフォーム、硬質ウレタンフォーム、半硬質ウレタンフォームなどのポリウレタンフォーム、ポリウレタンエラストマーなどを使用することができる。また、ウレタン系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、ポリ酢酸ビニル系接着剤、ポリイミド系接着剤など各種接着剤を発泡および硬化させて使用することもできる。
【0049】
上記した樹脂成分としては、ポリウレタン樹脂を使用するのが望ましい。ポリウレタン樹脂を使用する場合、多孔性固形潤滑剤11が外力の大きさに対して弾性変形して対応しやすくなり、また、樹脂内部への潤滑成分の吸蔵も確実に行うことができるため、外輪内部の潤滑性を向上させることができる。
【0050】
また、樹脂成分中には必要に応じて顔料や酸化防止剤、金属不活性化剤、帯電防止剤、難燃剤、防黴剤やフィラーなどの各種添加剤等を添加することができる。
【0051】
樹脂成分に発泡により多孔質化される際に生成させる気泡は、連続孔が望ましく、外力の作用によって潤滑成分を樹脂成分の表面から連続孔を介して必要部位に直接供給することが可能である。独立孔の場合は、樹脂成分中の潤滑成分の全量が一時的に気泡中に取り込まれて、必要な時に必要部位に充分供給されない場合がある。
【0052】
潤滑成分を樹脂内部に吸蔵する方法としては、樹脂成分を発泡・硬化後、外部から潤滑成分を注入する後含浸法が知られているが、この後含浸法だけを採用すると、樹脂内部に充分な量の潤滑成分が染み込まないので、潤滑成分の保持力が充分でないものになり、短時間で潤滑剤が析出されて長期的に使用すると潤滑成分が供給不足となる場合がある。そのため、潤滑成分を樹脂内部に吸蔵する方法としては、潤滑成分の存在下で樹脂成分の加熱発泡を行う反応型含浸法を採用するのが望ましい。
【0053】
この反応型含浸法であれば、潤滑成分を樹脂内部に高充填することが可能となり、この潤滑成分を必要箇所に必要量だけ供給することができるため、前記した後含浸工程も省略することができる。なお、後含浸法は、反応型含浸法の補助手段として採用するのが望ましい。
【0054】
また、反応型含浸法は、市販のシリコーン系整泡剤などの界面活性剤を使用し、各原料分子を均一に分散させることが好ましい。なお、整泡剤の種類や量によって表面張力を制御し、生じる気泡の種類(連続型/独立型)や気泡の大きさを制御することが可能である。界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などが挙げられる。
【0055】
潤滑成分(100重量%)の潤滑油の割合は、1重量%〜95重量%が望ましく、好ましくは5重量%〜80重量%である。潤滑油の割合が、1重量%未満の場合は、多孔性固形潤滑剤11は潤滑油を必要箇所(外輪1の内部の摺動部)に充分に供給することが困難になる。また、95重量%を超える多量の配合では、多孔性固形潤滑剤11は、その特有の機能(自己潤滑能)を果たさない場合がある。
【0056】
この発明に用いる潤滑成分としては、発泡体を形成する固形物を溶解しないものであれば種類を選ばずに使用することができるが、例えば潤滑油、グリース、ワックスなどを単独もしくは混合して用いても良い。
【0057】
この発明に用いる潤滑油としては、パラフィン系やナフテン系の鉱物油、エステル系合成油、エーテル系合成油、炭化水素系合成油、GTL基油、フッ素油、シリコーン油等の一般的に使用されている潤滑油またはそれらの混合油が挙げられる。
【0058】
この発明に使用するグリースの増ちょう剤(潤滑油を半固体状又は固体状にする物質)としては、リチウム石鹸、リチウムコンプレックス石鹸、カルシウム石鹸、カルシウムコンプレックス石鹸、アルミニウム石鹸、アルミニウムコンプレックス石鹸等の石鹸類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0059】
このウレア系増ちょう剤としては、例えば、ジウレア化合物、ポリウレア化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0060】
ジウレア化合物は、例えばジイソシアネートとモノアミンの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、へキサンジイソシアネート等が挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、へキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、アニリン、p−トルイジン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。
【0061】
ポリウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミン、ジアミンとの反応で得られる。ジイソシアネート、モノアミンとしては、ジウレア化合物の生成に用いられるものと同様のものが挙げられ、ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン等が挙げられる。グリースの基油としては、前述の潤滑油と同様のものを用いることができる。
【0062】
この発明に使用するワックスとしては炭化水素系合成ワックス、ポリエチレンワックス、脂肪酸エステル系ワックス、脂肪酸アミド系ワックス、ケトン・アミン類、水素硬化油などどのようなものでも良い。これらのワックスに使用する油成分としては前述の潤滑油と同様のものを用いることができる。
【0063】
以上述べたような潤滑成分には、さらに二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、有機モリブデン等の摩擦調整剤、アミン、脂肪酸、油脂類等の油性剤、アミン系、フェノール系などの酸化防止剤、石油スルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、ソルビタンエステルなどの錆止め剤、イオウ系、イオウ−リン系などの極圧剤、有機亜鉛、リン系などの摩耗防止剤、ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレンなどの粘度指数向上剤などの各種添加剤を含んでいても良い。
【0064】
樹脂成分を加熱発泡させる手段としては、例えば、水、アセトン、ヘキサン等の比較的沸点の低い有機溶媒を発泡剤として前記樹脂成分中に含有させ、加熱して気化させる物理的な発泡方法、エアーや窒素などの不活性ガスを外部から樹脂成分中に吹き込む機械的な発泡方法、あるいは、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)やアゾジカルボンイミド(ADCA)等のように温度や光によって分解し、窒素ガスなどを発生させる分解型発泡剤を前記樹脂成分中に含有させる発泡方法などが挙げられる。また、樹脂成分が反応性の高いイソシアネート基を持つ場合には、この樹脂成分と水分子とを反応させて加熱し、二酸化炭素を発生させる化学的な発泡方法を用いても良い。
【0065】
このような反応を伴う発泡を用いるには必要に応じて触媒を使用することが望ましく、例えば、3級アミン系触媒や有機金属触媒などが用いられる。
【0066】
3級アミン系触媒としてはモノアミン類、ジアミン類、トリアミン類、環状アミン類、アルコールアミン類、エーテルアミン類、イミダゾール誘導体、酸ブロックアミン触媒などが挙げられる。
【0067】
また、有機金属触媒としてはスタナオクタエート、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンマーカプチド、ジブチルチンチオカルボキシレート、ジブチルチンマレエート、ジオクチルチンジマーカプチド、ジオクチルチンチオカルボキシレートなどが挙げられる。また、反応のバランスを整えるなどの目的でこれら複数種類を混合して用いても良い。
【0068】
樹脂成分の発泡倍率は1.1倍以上100倍未満が望ましい。発泡倍率1.1倍未満の場合は気泡体積が小さく、多孔性固形潤滑剤11に外力が加わったときに変形を許容できないし、または多孔性固形潤滑剤11が硬すぎて変形しないなどの不具合がある。また、100倍以上の時には多孔性固形潤滑剤11が外力に耐える強度を得ることが困難となり、使用中に破損や破壊に至ることがある。
【0069】
なお、外輪1の内部に充填する潤滑剤として、前記の多孔性固形潤滑剤11と、潤滑油又はグリースのうち少なくともいずれか一方を併用すると好ましい。
【0070】
これは、外輪1の内部に潤滑剤として多孔性固形潤滑剤11のみを充填する場合、等速自在継手の使用状況(温度など)により潤滑成分の滲出量に変動が生じることから、外輪1の内部の潤滑性にも変動が生じるためである。そのため、外輪1の内部に充填する潤滑剤として、本発明のように、多孔性固形潤滑剤11と、潤滑油又はグリースのうち少なくともいずれか一方を併用すると、多孔性固形潤滑剤11と併用する潤滑油やグリースが、多孔性固形潤滑剤11の自己潤滑能を補うため、外輪1の内部の潤滑を安定して保つことができる。なお、多孔性固形潤滑剤11と併用する潤滑剤は、液状のものであれば上記したグリースや潤滑油に限られることはない。
【0071】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はあくまで例示であり、特許請求の範囲に記載の意味および内容の範囲内において、全ての変更が可能である。
【0072】
例えば、本実施形態では、等速自在継手のブーツは、蛇腹部を有するブーツとしたが、これに限られることはなく、外輪にブーツアダプタ等の連結部材を介して取り付ける断面U字型のダイアフラムブーツを取り付けた等速自在継手にも適用することができる。
【0073】
また、本発明は各種の等速自在継手に適用することができる。例えば、摺動型等速自在継手であれば、ダブルオフセット型等速自在継手(DOJ)、クロスグルーブ型等速自在継手(LJ)、トリポード型等速自在継手(TJ)が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の等速自在継手を示す断面図である。
【図2】従来の等速自在継手を示す断面図である。
【符号の説明】
【0075】
1 外輪(外側継手部材)
1b 開口端部
3 内輪(内側継手部材)
4 ボール
5 ケージ
10 内部部品
11 多孔性固形潤滑剤
12 シート
13 開口部(外輪)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する外側継手部材と、前記外側継手部材の内部に収容され、前記外側継手部材に対して相対動作する内側継手部材を含む内部部品とを備え、前記外側継手部材の内部に潤滑剤を充填させた等速自在継手であって、
前記外側継手部材の開口部を伸縮自在なシートで閉塞したことを特徴とする等速自在継手。
【請求項2】
前記シートは網目状であることを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手。
【請求項3】
前記シートを樹脂製としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の等速自在継手。
【請求項4】
前記シートの網目が50〜1000メッシュであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の等速自在継手。
【請求項5】
前記潤滑剤を、潤滑油を含む潤滑成分及び樹脂成分を必須成分とし、前記樹脂成分が発泡して多孔質化された固形物であり、かつ前記潤滑成分を樹脂内部に吸蔵してなる多孔性固形潤滑剤としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の等速自在継手。
【請求項6】
前記潤滑剤として、前記多孔性固形潤滑剤と、潤滑油又はグリースのうち少なくともいずれか一方とを併用したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の等速自在継手。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−256181(P2008−256181A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−101895(P2007−101895)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】