説明

箔加工用接着剤および箔加工方法

【課題】 多色のオフセット印刷機等の複数の印刷ユニットを有するオフセット印刷機を用いて、基材への接着剤の塗布と箔加工とをインラインで行う方法を提供する。またその方法に好適な接着剤を提供する。
【解決手段】 複数のユニットを有するオフセット印刷機において、樹脂ワニスを50〜90%含有する接着剤を用いて、(イ)一つのユニットでオフセット印刷により基材上に全面若しくは部分的に前記の接着剤層を設け、連続して(ロ)次のユニットでその表面に箔フィルムを圧着した後に該フィルムを剥がすことを特徴とする箔加工物の作成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷機を用いて、インラインで箔加工用の接着剤を塗布して箔加工を行う方法およびその方法に用いられる接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷物等の箔加工(箔押しとも呼ばれる)とは印刷物の加工方法の一つである。箔加工したい文字や図案を彫刻した金属版(押し型)を加熱して、金箔、銀箔、色箔等の一般にメタリック調の箔フィルムを、印刷物の表面に該金属版で圧着し、箔による文字や図案を印刷物に付加する。印刷物に高級感を与える方法として広く用いられている。
【0003】
従来は基材(印刷物)にオフラインにて接着剤付きの箔フィルムを型押しにて熱圧着することで箔加工を行っていた。ここでオフラインとは、基材の印刷と箔加工とは連続した工程ではなく、使用する機械装置等が異なっていて、別の作業として行われることを言う。オフラインでの箔加工は、印刷と箔加工とは順番の前後はあっても少なくとも2工程が必要である。
【0004】
箔加工は印刷された基材に行われる場合もあり、箔加工後に印刷される場合もある。印刷後に箔加工する場合は、印刷されたインキの乾燥を待たなければならない。通常の油性の酸化重合乾燥型の平版オフセットインキでは十分乾燥するには一日程度を要する。
【0005】
また箔加工するためには押し型を作成する必要があり、さらに箔を基材に熱圧着しなければいけない。熱圧着には通常は110℃程度に加温することが必要であり、圧着のスピードは速くても3500枚/時程度である。
【0006】
以上の事情により、箔加工物の作製には時間とコストを要していた。また押し型を用いるので、細かい形態の箔加工は困難であった。
【0007】
特許文献1には、箔加工する部材の表面に紫外線硬化性の接着剤を盛り上げて印刷した後、その接着剤を硬化させ、さらにその上に箔を載せて扁平な押圧体を押し付けて箔を接着させることにより箔加工を行う方法が記載されている。この方法では刻印版(前記の押し型)を作製する必要が無いとされているが、接着剤の印刷と箔加工とは別の工程になり、工数が増す。また箔を接着できる程度に接着力を残して硬化させることは容易ではないと考えられる。
【0008】
特許文献2には、紙基材に接着剤層を介して金箔を貼り付け、その金箔に絵柄を印刷した印刷物が記載されている。接着剤層は紫外線硬化型樹脂からなる印刷インキにより形成される。印刷方法としてオフセット印刷が例示されている。金箔を貼り付ける工程は接着剤や絵柄等の印刷とは別工程であり、やはり工数が増える問題がある。
【0009】
【特許文献1】特開平6−183125号公報
【特許文献2】特開2001−96885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、多色のオフセット印刷機等の複数の印刷ユニットを有するオフセット印刷機を用いて、基材への接着剤の塗布と箔加工とをインラインで行う方法を提供することを課題とする。またその方法に好適な接着剤を提供することを課題とする。
ここでインラインとは、接着剤の塗布(すなわち接着剤層の形成)と箔加工とを一つのオフセット印刷機で連続して一工程で行うことを言う。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは箔加工方法について鋭意検討を行い、複数のユニットを有するオフセット印刷機において、樹脂ワニスを50〜90%含有する接着剤を用いて、次の(イ)及び(ロ)の二つの工程をその順に連続して行うことにより、基材への箔加工をインラインで行えることを見出し、本発明を完成した。
(イ)一つのユニットでオフセット印刷により基材上に全面若しくは部分的に前記の接着剤層を設ける。すなわち本発明の接着剤は、平版オフセット印刷により基材に塗布することができる。通常の平版印刷版を用いて、インキと同様に版の画線部のパターンで基材に接着剤層を形成できる。
(ロ)次のユニットでその表面に箔フィルムを圧着した後に該フィルムを剥がす。
フィルムを剥がしたとき、接着剤層の部分の箔は基材に残り、箔加工が完成する。
【0012】
本発明の箔加工には押し型は不要である。オフセット印刷により接着剤層を形成した分部分のみに箔加工が行われる。また箔を接着させるために加熱することも不要である。
【0013】
基材は印刷されていても良く、同じ印刷機内で接着剤層を形成する前に基材に印刷することもできる。さらに箔加工の後、連続して同じ印刷機で箔加工部を含む基材に印刷をすることも可能である。
例えば、同じ印刷機において、(1)基材にまず絵柄等を印刷し、(2)接着剤層を全面または部分的に形成し、(3)箔加工を行い、(4)さらに基材や箔加工部に印刷をする、という作業をインラインで行うことができる。前記(1)の工程を経ないで、印刷していない用紙に(2)〜(4)の加工を行うことももちろん問題なく行える。
【0014】
また本発明で用いる接着剤は着色されていてもよい。着色することにより、接着剤の塗布量の管理を容易にかつ精密に行うことができる。
さらに箔の色に応じて着色することによって下地が透けて見えることを防ぎ、箔の美粧性を高めたり、より薄い箔を使用して箔のコスト低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の接着剤は、通常の平版オフセット印刷用の版上で水との反発によって画像(箔が接着する部分)を形成する。すなわちオフセット印刷によって基材に塗布することができる。これによって、押し型を使うことなく、一般の平版オフセット印刷で形成可能なパターンであれば、精密なパターンや微細なパターンで接着剤を塗布することが容易に行え、すなわち精密、微細な箔加工を容易に行える。
また箔加工と印刷とを一つの印刷機内で完了することができるため、待ち時間等が無く生産性が高い。
【0016】
さらに接着剤を着色することにより、塗布量の管理を容易に行うことができる。また接着剤を箔の色に合わせて着色することで、箔の隠ぺい力を補い、美装効果の高い箔加工を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の接着剤は、樹脂ワニスを主成分とし、酸化重合乾燥により乾燥固化する。好ましく用いられる樹脂ワニスとして、ロジン変性フェノール樹脂ワニス、石油樹脂ワニス、アルキッド樹脂ワニスなどが挙げられる。またドライヤー及び平版オフセットインキに通常用いられる溶剤や助剤を含有してもよい。さらに接着剤の粘度や流動性を調節する目的で炭酸カルシウム等の体質顔料を含有してもよい。
【0018】
さらに接着剤を着色することで、接着剤の塗布量の管理をしやすくし、適正な塗布量を確保できる。これにより適正な箔適性(箔の切れなど)を達成するとともに、次ユニットでの印刷インキによる箔のはがれを防止することができる。
接着剤を着色するために好適に用いられる顔料として、ピグメントイエロー12、13、17、83、97、136、ピグメントレッド53:1、48:2、57:1、ピグメントブルー15:3およびカーボブラックなどが例示される。
【0019】
また接着剤を箔の色に合わせて着色することで、箔の隠ぺい力を補い、下地の影響を極力排除し、美装効果の高い箔加工を可能にする。例えば金箔の場合には接着剤の色としては薄い黄色が適しており、銀箔の場合には薄いグレーなどが適している。
これらの色に着色するためには、具体的には、薄い黄色であればピグメントイエロー12、薄いグレーであればカーボンブラックを添加することができる。接着剤に混ぜやすいように、それぞれの顔料を使用したオフセットインキを接着剤100部中に1から10部程度均一に混ぜても良い。
【0020】
接着剤の粘着性(タック値)を、箔加工よりも後に印刷するインキよりも高くすることで、押した箔がその後連続して行う印刷工程で取られる(箔がはがれてしまう)ことを防ぐことができる。
箔加工より後での印刷に用いられるインキは、インキのタイプ、季節により異なるが、一般的には、タック値で通常7から12程度である。故に接着剤のタック値は12から20程度が好ましい。
尚、粘着性(タック値)はJISK5701−1「平版インキ第一部:試験方法」の4.2粘着性の項に記載のロータリータックメータを用いて測定する。測定条件は、温度32℃、インキ量1.32ml、ローラー回転数400rpmで、1分値を測定する。
【0021】
さらに、塗布後の接着剤中の低粘度液体成分の最適化によって、接着剤の基材への浸透(セット)を促進し、印刷後の接着剤の原反上での粘着性を瞬時に高めることができる。これによって、次ユニットでの印刷で箔が引き剥がされることをより確実に防ぐことができる。印刷後に接着剤は酸化重合乾燥し、箔は強く基材に固着される。
低粘度液体成分として用いられるものとしては、オフセットインキに使用できる一般的な鉱物油、高沸点石油系溶剤等が使用できる。例えば、新日本石油株式会社製AFソルベント4号、5号、6号などが挙げられる。
【実施例】
【0022】
以下に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。尚、部及び%は本明細書において特記しない限り質量基準である。
【0023】
[実施例1]
大日本インキ化学工業株式会社製のロジン変性フェノール樹脂ワニス(ベッカサイト12X0978)・・・38部。
同じくベッカサイト12X1163・・・30部。
大日本インキ化学工業株式会社製のアルキッド樹脂ワニス(ベッカサイト99X0219)・・・20部。
補色インキ(大日本インキ化学工業株式会社製Fグロス85墨)・・・2部。
ドライヤー(大日本インキ化学工業株式会社製マンガンドライヤー)・・・5部。
石油系溶剤(新日本石油株式会社製AFソルベント6号)・・・5部。
以上の合計100部を混合した後、ロールミルで混錬し、実施例1の接着剤を得た。
タック値は19.5であった。
【0024】
[実施例2]
体質顔料(竹原化学工業株式会社製ネオライトSA300)・・・25部。
大日本インキ化学工業株式会社製のロジン変性フェノール樹脂ワニス(ベッカサイト12X0956)・・・55部。
大日本インキ化学工業株式会社製の石油樹脂ワニス(品番18X0103)・・・10部。
ドライヤー(大日本インキ化学工業株式会社製マンガンドライヤー)・・・5部。
石油系溶剤(新日本石油株式会社製AFソルベント6号)・・・5部。
以上の合計100部を混合した後、ロールミルで混錬し、実施例2の接着剤を得た。
タック値は14.5であった。
【0025】
[実施例3]
体質顔料(竹原化学工業株式会社製ネオライトSA300)・・・23部。
黒色顔料(三菱化学株式会社製カーボンブラックMA−7)・・・2部。
大日本インキ化学工業株式会社製のロジン変性フェノール樹脂ワニス(ベッカサイト12X0956)・・・50部。
大日本インキ化学工業株式会社製の重合アマニ油ワニス(ベッカサイト15X0056)・・・15部。
大日本インキ化学工業株式会社製マンガンドライヤー・・・4部。
大日本インキ化学工業株式会社製コバルトドライヤー・・・1部。
石油系溶剤(新日本石油株式会社製AFソルベント6号)・・・5部。
以上の合計100部を混合した後、ロールミルで混錬し、実施例3の接着剤を得た。
タック値は15.5であった。
【0026】
[比較例1]
印刷物の保護や美粧化のため印刷物にフィルムやアルミ箔を貼り合せるラミネーション加工に一般に用いられている2液硬化型水性接着剤の使用を試みた。
アクリル系接着剤(大日本インキ化学工業株式会社製ハイドリューションL−5602A)・・・15部。
硬化剤(大日本インキ化学工業株式会社製エポシキ系硬化剤PLWハードナー52B)・・・0.5部。
【0027】
[比較例2]
体質顔料(竹原化学工業株式会社製ミクロン#300A)・・・8部。
大日本インキ化学工業性ロジン変性フェノール樹脂ワニス(ベッカサイト12X0956)・・・69部。
大日本インキ化学工業株式会社製石油樹脂ワニス(品番18X0103)・・・10部。
ドライヤー(大日本インキ化学工業株式会社製マンガンドライヤー)・・・5部。
石油系溶剤(新日本石油株式会社製AFソルベント6号)・・・8部。
以上の合計100部を混合した後、ロールミルで混錬し、実施例3の接着剤を得た。
タック値は8であった。
【0028】
[試験方法]
下記の印刷条件で印刷機の第1ユニットにて基材(下記のアート紙)に上記実施例および比較例の接着剤を塗布し、該ユニット直後に設置した箔加工ユニット(第2ユニットとする)により、箔加工用フィルム(クルツ社製)を圧着し、直ちにフィルムを剥離した。そして続く第3〜第6ユニットにてプロセスカラー4色を印刷した。
・使用印刷機・・・ディックマンローランド社R700オフセット印刷機(第一ユニットの後に箔加工ユニットを取り付けたもの。該ユニットにおいて箔フィルムの巻き出し、圧着及び巻き取りを行う。)
・印刷速度・・・8,000枚/時。
・使用原反・・・三菱製紙製アート紙(OKトップコートプラス)。
・使用箔・・・・クルツ社製アルミ箔。
・印刷インキ・・大日本インキ化学工業株式会社製フュージョンGプロセス4色。
【0029】
【表1】

【0030】
比較例1は接着剤を塗工中、印刷ユニットの壷より漏れ出し、塗工できなかった。またローラー上で固化し、使用できなかった。
比較例2は接着剤を印刷ユニットで、原反の画線部のみに塗工できたが、タック値が低く粘着性が不足しているため、続く印刷ユニットにて、押した箔がはがれてしまった。
実施例2及び3の接着剤はタック値が実施例1よりも若干低く、そのために箔の白抜けが少し見られたが、実用上は全く差し支えのないレベルである。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂ワニスを50〜90%含有し、オフセット印刷機において、次の(イ)及び(ロ)の二つの工程をその順に連続して行うことによる箔加工物の作製方法に用いられる接着剤。
(イ)一つのユニットでオフセット印刷により基材上に全面若しくは部分的に接着剤層を設ける。
(ロ)次のユニットでその表面に箔フィルムを圧着した後に該フィルムを剥がす。
【請求項2】
オフセット印刷機において、次の(イ)及び(ロ)の二つの工程をその順に連続して行うことによる箔加工物の作製方法。
(イ)一つのユニットでオフセット印刷により基材上に全面若しくは部分的に請求項1に記載の接着剤の層を設ける。
(ロ)次のユニットでその表面に箔フィルムを圧着した後に該フィルムを剥がす。
【請求項3】
前記の接着剤が着色されたものである請求項1に記載の接着剤。
【請求項4】
オフセット印刷機を用いて、請求項2に記載の方法により作製された箔加工物。



【公開番号】特開2008−19307(P2008−19307A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−190311(P2006−190311)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】