説明

管体および管体の製造方法

【課題】フランジ部の溶接部近傍での亀裂の発生を抑える。
【解決手段】管体は、フェライト系ステンレス鋼製の管本体と、フランジ部と、溶接部とを備える。フランジ部は、管本体の軸方向端部が径方向外側に曲げられて形成された環状の部分である。溶接部は、管本体とフランジ部とに渡って設けられる。そして、フェライト系ステンレス鋼にNiを添加した場合のNi当量nと降伏応力σとの関係がσ=an+b(a,bは定数)である場合において、溶接部におけるNi当量pと、管本体の板厚に対する前記溶接部の板厚の比qとは、x-y座標系において、点(p,q)が、x=(300-b)/a、x=(355-b)/a、y=355/(ax+b)、y=300/(ax+b)を示すラインL1〜L4で囲まれた領域内に位置するように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管体および管体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
管本体とフランジ部とを有する管体の製造方法として、例えば特許文献1に示すものが知られている。ここでは、まず、金属の板材が曲げられて管状に形成される。次に、板材の向かい合う端部が溶接される。これにより、管本体が形成される。そして、管本体の端部が径方向外側に折り曲げられることにより、フランジ部が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−329557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、フランジ部を形成する工程では、管本体の端部が折り曲げられる。このとき、管本体の折り曲げを受ける部分には強い負荷がかかるため、溶接部近傍において亀裂が発生し易い。このため、特許文献1では、鍔部に圧縮残留応力を形成するような冷間加工を施し、割れの進展を食い止めようとしている。しかしこの方法だと冷間加工する工程が増えるため生産性が低下する。
【0005】
本発明の課題は、生産性を低下させずにフランジ部の溶接部近傍での亀裂の発生を抑えることができる管体および管体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明に係る管体は、フェライト系ステンレス鋼製の管本体と、フランジ部と、溶接部とを備える。フランジ部は、管本体の軸方向端部が径方向外側に曲げられて形成された環状の部分である。溶接部は、管本体とフランジ部とに渡って設けられる。そして、フェライト系ステンレス鋼にNiを添加した場合のNi当量nと降伏応力σとの関係がσ=an+b(a,bは定数)である場合において、溶接部におけるNi当量pと、管本体の板厚に対する溶接部の板厚の比qとは、x-y座標系において、点(p,q)が、

【0007】


【0008】


【0009】


【0010】
を示すラインで囲まれた領域内に位置するように設定されている。
【0011】
第2発明に係る管体は、第1発明の管体であって、管体を構成するフェライト系ステンレス鋼は、SUS436Lである。そして、定数a,bは、それぞれa=32.583、b=276.39である。なお、SUS436Lは、重量%で、C:0.025%以下、Si:1.00%以下、Mn:1.00%以下、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cr:16.00〜19.00%、Mo:0.75〜1.50%、N:0.025%以下、Ti、Nb、Zr又はそれらの組合せを8×(C%+N%)〜0.80%含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼材である。
【0012】
第3発明に係る管体は、第1発明又は第2発明の管体であって、qは、0.95≦q≦1.25を満たす。
【0013】
第4発明に係る管体の製造方法は、フェライト系ステンレス鋼製の板材を管状に曲げる工程と、管本体を形成する工程と、フランジ部を形成する工程とを備える。管本体を形成する工程では、板材の向かい合う端部をNiを含有する溶接ワイヤを用いて溶接することにより管本体を形成する。フランジ部を形成する工程では、管本体の軸方向端部を径方向外側に曲げて環状のフランジ部を形成する。そして、管本体を形成する工程では、フェライト系ステンレス鋼にNiを添加した場合のNi当量nと降伏応力σとの関係がσ=an+b(a,bは定数)である場合において、溶接ワイヤによる溶接によって形成される溶接部におけるNi当量をp、管本体の板厚に対する溶接部の板厚の比をqとすると、x-y座標において、点(p,q)が、

【0014】


【0015】


【0016】


【0017】
を示すラインで囲まれた領域内に位置するように溶接を行う。
【0018】
第5発明に係る管体の製造方法は、第4発明の管体の製造方法であって、管本体を構成するフェライト系ステンレス鋼は、SUS436Lである。そして、定数a,bは、それぞれa=32.583、b=276.39である。
【0019】
第6発明に係る管体の製造方法は、第4発明又は第5発明の管体の製造方法であって、 qは、0.95≦q≦1.25を満たす。
【0020】
第7発明に係る管体の製造方法は、第4発明から第6発明の管体の製造方法であって、溶接ワイヤは、オーステナイト系ステンレス鋼製である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、フランジ部の溶接部近傍での亀裂の発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】管体の外観斜視図。
【図2】管体の製造工程を示す図。
【図3】スピニング加工装置を示す模式図。
【図4】溶接金属と母材との板厚が同じである場合の溶接金属の降伏応力と亀裂発生率の関係を示すグラフ。
【図5】フェライト系ステンレス鋼にNiを添加した場合の降伏応力とNi当量との関係を示すグラフ。
【図6】溶接金属と母材との板厚比と溶接金属のNi当量との範囲を示す図。
【図7】実施例1の母材としてのSUS436LにNiを添加した場合の降伏応力とNi当量との関係を示すグラフ。
【図8】実施例1における溶接金属と母材との板厚比と溶接金属のNi当量との望ましい範囲を示す図。
【図9】他の実施形態における溶接金属と母材との板厚比と溶接金属のNi当量との範囲を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態に係る管体1を図1に示す。この管体1は、管本体2と、フランジ部3と、溶接部4とを備える。管本体2は、フェライト系ステンレス鋼製の板材から形成されている。管本体2は円筒形の外形を有する。フランジ部3は、管本体2の軸方向端部が径方向外側に曲げられて形成されている。フランジ部3は、管本体2の軸方向端部において周方向に沿って設けられており、環状の形状を有する。フランジ部3は、管本体2の軸方向に対して概ね垂直に設けられている。溶接部4は、管本体2において管本体2の軸方向に沿って設けられている。また、溶接部4は、フランジ部3において径方向に沿って設けられている。溶接部4は、管本体2とフランジ部3とに渡って設けられており、管本体2とフランジ部3との接合部において概ね90度の角度で屈曲している。
【0024】
次に、管体1の製造方法について説明する。まず、図2(a)に示すように、フェライト系ステンレス鋼製の板材5が曲げられて、管状に形成される。例えば、平坦な板材5がプレス加工を受けることにより、管状に形成される。
【0025】
次に、図2(b)に示すように、板材5の向かい合う端部が溶接されることにより、管本体2が形成される。ここでは、プラズマ溶接により板材5の端部が溶接される。すなわち、付き合わされた板材5の端部に沿って溶接トーチが移動し、板材5の端部が溶かされることにより溶接される。また、溶接の際、溶接部4にフィラーワイヤが供給される。フィラーワイヤは、Niを含有している。これにより、溶接部4にNiを添加することができる。フィラーワイヤとしては、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼製のものが用いられる。なお、フィラーワイヤは、公知のワイヤ供給装置によって供給され、その供給速度が調整可能となっている。従って、フィラーワイヤの供給速度を調整することにより、溶接部4へのNiの添加量および溶接部4の板厚を調整することができる。
【0026】
次に、図2(c)に示すように、管本体2の軸方向端部を径方向外側に曲げることにより、環状のフランジ部3が形成される。ここでは、スピニング加工によってフランジ部3が形成される。スピニング加工を行うための装置の一例を図3に示す。この装置は、固定部材11と、第1スピニングローラ12と、第2スピニングローラ13とを有する。管本体2の一端は、固定部材11に固定される。固定部材11は、図示しない駆動手段によって回転駆動され、これにより、管本体2が回転する(矢印A1参照)。そして、第1スピニングローラ12が回転しながら管本体2の外周面に接触し、管本体2の外周面に接触した状態のまま管本体2の軸方向に移動する(矢印A2参照)。また、これと同時に、管本体2の内周面には、第2スピニングローラ13が回転しながら接触する。そして、第2スピニングローラ13が管本体2の軸方向および径方向に移動することによって(矢印A3参照)、管本体2の軸方向端部が径方向外側へ向けて曲げられる。このような第2スピニングローラ13の動作が複数回繰り返されることにより、管本体2の軸方向端部が徐々に曲げられて、フランジ部3が形成される。
【0027】
ここで、上記のフランジ部3を形成する工程では、スピニング加工により、フランジ部3は、径方向外側に引き伸ばされると共に、周方向にも引き伸ばされる。このため、従来の管体1の製造方法では、特にフランジ部3の溶接部4に強い負荷がかかり、その近傍に亀裂が発生することが多い。
【0028】
本発明の発明者は、研究の結果、上記のような亀裂の発生は、溶接部4すなわち溶接金属の強度と、管本体2及びフランジ部3すなわち母材の強度との差が大きいことにより、溶接金属又は母材に歪みが集中することが原因であることを突き止めた。つまり、溶接金属の強度が、母材の強度よりも大きい場合には、歪みが溶接金属に集中しやすくなるため、溶接金属において亀裂が発生する。逆に、溶接金属の強度が母材の強度よりも小さい場合には、溶接金属と母材との境界に位置する熱影響部に歪みが集中しやすくなるため、熱影響部において亀裂が発生する。従って、亀裂の発生を抑えるためには、溶接金属の強度と母材の強度とを近似させて、溶接金属が母材の変形に同調して変形するようにすればよい。そして、溶接金属の降伏応力を調整することにより、溶接金属の強度と母材の強度とを近似させて亀裂の発生を抑えることを、本発明の発明者は案出した。
【0029】
図4に、溶接金属の降伏応力とスピニング加工時の亀裂発生率との関係を表すグラフを示す。このグラフは、溶接金属の降伏応力の異なる複数のサンプルについて、スピニング加工時の亀裂の発生率を調べたものである。母材としては、フェライト系ステンレス鋼であるSUS436Lを用いた。また、母材の板厚と溶接金属の板厚とは同じとなるように、溶接後の溶接金属および母材に研磨を施した。図4において横軸は溶接金属の降伏応力を示している。縦軸は、亀裂発生率を示している。亀裂発生率は、10個のサンプルのうち亀裂が発生した個数の割合である。図4から分かるように、降伏応力が300MPa以上355MPa以下では、亀裂発生率はゼロであった。すなわち、亀裂は発生しなかった。一方、降伏応力が300MPaより小さい場合、および355MPaより大きい場合には、亀裂が発生した。特に、降伏応力が300MPaより小さい場合には溶接金属に亀裂が発生した。また、降伏応力が355MPaより大きい場合には、母材に亀裂が発生した。
【0030】
以上の結果により、溶接金属の降伏応力を300MPa以上355MPa以下に設定することにより、亀裂の発生を抑えることができることがわかる。
【0031】
フェライト系ステンレス鋼製の部材を溶接する場合、溶接金属の降伏応力は、溶接金属へのNiの添加量を調整することによって、調整することができる。ここで、図5に示すように、溶接金属の降伏応力は、溶接金属中のNi当量に比例する。なお、Ni当量は、次のように定義される。
Ni当量(%) = Ni(%) + 30C(%) +0.5Mn(%)
図5のグラフにおいて、横軸は溶接金属中のNi当量を示している。縦軸は溶接金属の降伏応力を示している。従って、降伏応力σと溶接金属中のNi当量nとの関係は、以下の数1式のように示すことができる。なお、数1式においてa,bは定数であり、試験的に求めることができる。
【0032】
【数1】

【0033】
上記の数1式により、溶接金属の降伏応力が300MPa以上355MPa以下となるNi当量の値を求めることができる。すなわち、溶接金属の降伏応力が300MPaとなるNi当量は、以下の数2式により求められる。
【0034】
【数2】

【0035】
また、溶接金属の降伏応力が355MPaとなるNi当量は、以下の数3式により求められる。
【0036】
【数3】

【0037】
従って、溶接金属中のNi当量nが、

【0038】
の範囲内で設定されることにより、亀裂の発生を抑えることができる。
【0039】
ところで、溶接金属の強度と母材の強度とは、降伏応力のみによって定まるのではなく、溶接金属の板厚と母材の板厚の影響を受ける。従って、溶接金属にNiを添加することによりNi当量を調整する場合には、上記のようなNi当量の範囲に加えて、溶接金属と母材との板厚とを考慮することが有効であることを本発明の発明者は案出した。溶接金属の板厚をTw、母材の板厚をTbとすると、母材の降伏応力が300MPaである場合には、母材の歪みと溶接金属の歪みとは、以下の数4式が満たされたときに同じになる。
【0040】
【数4】

【0041】
また、母材の降伏応力が355MPaである場合には、母材の歪みと溶接金属の歪みとは、以下の数5式が満たされたときに同じになる。
【0042】
【数5】

【0043】
数4式および数5式において、σは溶接金属の降伏応力であり上述した数1式から求められる。従って、母材の板厚に対する溶接金属の板厚の比Tw/Tbをyとして、溶接金属中のNi当量をxとすると、数4式は、数1式より以下の数6式のように表せる。
【0044】
【数6】

【0045】
また、数5式は、数1式より以下の数7式のように表せる。
【0046】
【数7】

【0047】
上記の数2式、数3式、数6式、及び数7式をx-y座標系においてグラフ化すると図6のようになる。図6では、横軸すなわちx軸は溶接金属中のNi当量を示している。縦軸すなわちy軸は母材の板厚に対する溶接金属の板厚の比を示している。ラインL1は、数6式を示すラインである。ラインL2は、数7式を示すラインである。ラインL3は、数2式を示すラインである。ラインL4は、数3式を示すラインである。従って、溶接金属おけるNi当量pと、母材の板厚に対する溶接金属の板厚の比qとを、点(p,q)がこれらのラインL1〜L4で囲まれた領域(ハッチングを付した部分参照)内に位置するように設定することにより、溶接金属の強度と母材の強度を近似させることができる。これにより、スピニング加工の際に、溶接金属が母材の変形に同調して変形し、その結果、フランジ部3の溶接部4近傍での亀裂の発生を抑えることができる。
【0048】
また、溶接金属の板厚と母材の板厚とに差がある場合であっても、点(p,q)が上記の範囲内であれば亀裂の発生が抑えられる。従って、点(p,q)が上記の範囲に含まれるように溶接を行えば、抑亀裂の発生を抑えるために、母材と溶接金属とに研磨を施して、母材と溶接金属の板厚を均一にする必要がない。また、溶接成分を調整しているので、冷間加工などの特別の加工をする必要が無い。このため、生産性を向上させることができる。
【実施例1】
【0049】
表1に母材とフィラーワイヤとの材質および成分を示す。母材の材質はSUS436L(JIS)であり、その降伏応力は300MPaである。フィラーワイヤとしては日鐵住金溶接工業のYT-309を用いた。YT-309の材質はY309(JIS)である。
【0050】
【表1】

【0051】
また、SUS436LにNiを添加した場合の降伏応力σと溶接金属中のNi当量nとの関係は、図7のグラフのようになった。これより、降伏応力σと溶接金属中のNi当量nとの関係は、以下の数8式のように示される。
【0052】
【数8】

【0053】
すなわち、a=32.583であり、b=276.39である。従って、数6式、数7式、数2式および数3式は以下の数9式〜数12式のようにそれぞれ表せる。
【0054】
【数9】

【0055】
【数10】

【0056】
【数11】

【0057】
【数12】

【0058】
数9式〜数12式をx-y座標系においてグラフ化すると図8のようになった。ラインL11は、数9式を示すラインである。ラインL12は、数10式を示すラインである。ラインL13は、数11式を示すラインである。ラインL14は、数12式を示すラインである。そして、溶接金属おけるNi当量pと、母材の板厚に対する溶接金属の板厚の比qとを、点(p,q)がこれらのラインL11〜L14で囲まれた領域(ハッチングを付した部分参照)内に位置するように設定した。すなわち、点(p,q)がこれらのラインL11〜L14で囲まれた領域内に位置するような値となるように、フィラーワイヤの供給速度を調整した。具体的には、以下に示す条件で溶接を行った。
【0059】
溶接条件:プラズマアーク溶接(電流:140 A、溶接速度:500 mm/min)
母材の板厚:2.0 mm
ワイヤ直径:0.8 mm
ワイヤ供給速度:500 mm/min(2.0 g/min)
溶接金属のNi当量p:0.89 %
板厚の比q:1.12
x−y座標系において点(p,q)を示すと、点(p,q)は、図8のラインL11〜L14で囲まれた領域内に位置していた(図8の点P1参照)。
【0060】
上記のように溶接を行って形成された管本体2に対して、スピニング加工を行いフランジ部3を形成した。その結果、亀裂発生率はゼロであった。
【比較例1】
【0061】
次に、ワイヤ供給速度を1000 mm/min(3.9 g/min)として溶接を行った。他の条件は実施例1と同じである。この場合、溶接金属のNi当量pは1.52 %であり、母材の板厚に対する溶接金属の板厚の比qは、1.22であった。x-y座標系において点(p,q)を示すと、点(p,q)は、図8のラインL11〜L14で囲まれた領域外に位置していた(図8の点P2参照)
この場合、管本体2に対してスピニング加工によりフランジ部3を形成した結果、亀裂発生率は10%であった。
【0062】
<他の実施形態>
(a)フランジ部3の形成はスピニング加工に限られず他の加工手段によって行われてもよい。
【0063】
(b)母材である管本体2の材質はSUS436Lに限らず、SUS436J1Lなどの他のフェライト系ステンレス鋼であってもよい。SUS436J1Lの成分を以下の表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
(c)フィラーワイヤの材質はY309に限らず、Y310(JIS)、Y430(JIS)などの他のオーステナイト系ステンレス鋼であってもよい。また、フィラーワイヤの材料はオーステナイト系ステンレス鋼に限らず、Niを含有する他の材料であってもよい。
【0066】
(d)溶接方法は、プラズマ溶接に限らず、TIG溶接、レーザー溶接、MIG溶接などの他の溶接法方が用いられてもよい。その際、MIG溶接のように消耗電極が用いられる場合には、Niを含有する溶接ワイヤが消耗電極として用いられる。また、TIG溶接、レーザー溶接のように非消耗電極が用いられる場合には、上述したプラズマ溶接の場合と同様に、Niを含有するフィラーワイヤが溶接部4に供給される。
【0067】
(e)図9に示すように、上述した数6式、数7式、数2式および数3式のラインL1〜L4に加えて、さらに、y=0.95、y=1.25を示すラインL5,L6によって囲まれた領域が用いられてもよい。すなわち、母材の板厚に対する溶接金属の板厚の比qは以下の数13式を満たす。
【0068】
【数13】

【0069】
これにより、母材と溶接金属との間の段差が小さくなり、スピニング加工時にスピニングローラの移動の妨げとなることが抑えられる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、フランジ部の溶接部近傍での亀裂の発生を抑えることができる効果を有し、管体および管体の製造方法として有用である。
【符号の説明】
【0071】
2 管本体
3 フランジ部
4 溶接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライト系ステンレス鋼製の管本体と、
前記管本体の軸方向端部が径方向外側に曲げられて形成された環状のフランジ部と、
前記管本体と前記フランジ部とに渡って設けられた溶接部と、
を備え、
前記フェライト系ステンレス鋼にNiを添加した場合のNi当量nと降伏応力σとの関係がσ=an+b(a,bは定数)である場合において、前記溶接部におけるNi当量pと、前記管本体の板厚に対する前記溶接部の板厚の比qとは、x-y座標系において、点(p,q)が、x=(300-b)/a、x=(355-b)/a、y=355/(ax+b)、y=300/(ax+b)を示すラインで囲まれた領域内に位置するように設定されている、
管体。
【請求項2】
前記フェライト系ステンレス鋼は、SUS436Lであり、
前記定数a,bは、それぞれ、a=32.583、b=276.39である、
請求項1に記載の管体。
【請求項3】
前記qは、0.95≦q≦1.25を満たす、
請求項1又は2に記載の管体。
【請求項4】
フェライト系ステンレス鋼製の板材を管状に曲げる工程と、
前記板材の向かい合う端部をNiを含有する溶接ワイヤを用いて溶接することにより管本体を形成する工程と、
前記管本体の軸方向端部を径方向外側に曲げて環状のフランジ部を形成する工程と、
を備え、
前記管本体を形成する工程では、前記フェライト系ステンレス鋼にNiを添加した場合のNi当量nと降伏応力σとの関係がσ=an+b(a,bは定数)である場合において、前記溶接ワイヤによる溶接によって形成される溶接部におけるNi当量をp、前記管本体の板厚に対する前記溶接部の板厚の比をqとすると、x-y座標系において、点(p,q)が、x=(300-b)/a、x=(355-b)/a、y=355/(ax+b)、y=300/(ax+b)を示すラインで囲まれた領域内に位置するように溶接を行う、
管体の製造方法。
【請求項5】
前記フェライト系ステンレス鋼は、SUS436Lであり、
前記定数a,bは、それぞれ、a=32.583、b=276.39である、
請求項4に記載の管体の製造方法。
【請求項6】
前記qは、0.95≦q≦1.25を満たす、
請求項4又は5に記載の管体の製造方法。
【請求項7】
前記溶接ワイヤは、オーステナイト系ステンレス鋼製である、
請求項4から6のいずれかに記載の管体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−73017(P2011−73017A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225420(P2009−225420)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】