説明

管楽器演奏装置および管楽器の自動演奏方法

【課題】管楽器からの音の音色や音程の再現性を高めることを可能とする、管楽器の演奏装置・管楽器の自動演奏方法を提供すること。
【解決手段】リードを備えた管楽器のマウスピースに取り付けられる管楽器演奏装置において、空気をマウスピースに導く流路と、流路内を流れる空気流量を調節する流量調整部と、接触部材がリードに対して接触する箇所を変更する位置変位部と、接触部材の押圧方向について定められる接触部材の基準位置と、接触部材がリードを押圧する押圧力を対応させた対応データを記憶する記憶部と、接触部材がリードに接触して押圧する際に生じる目標押圧力を特定する目標押圧力特定部とを設け、位置変位部を記憶部の対応データに基づき目標押圧力特定部により特定された目標押圧力に対応する接触部材の目標位置に基づき接触部材の位置を変位させるように制御した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管楽器を演奏するための管楽器演奏装置、および管楽器を自動的に演奏する管楽器自動演奏方法に関する。
【背景技術】
【0002】
管楽器を自動的に演奏する演奏装置として、従来より特許文献1に記載されるような演奏用アクチュエータを用いるものが知られている。このような演奏用アクチュエータは、外部から管楽器のマウスピースに対して空気を供給する流路と、供給する空気の流量を調整する流量調整弁とを備えるとともに、マウスピースの空気流入口に接触する可撓性の膜を備えており、この可撓性の膜を振動させる振動装置を備えている。
【0003】
このような演奏用アクチュエータは、流量調整弁を開いて管楽器のマウスピースに空気を供給すると同時に、可撓性の膜を振動させる。このとき、マウスピースに供給された空気は管楽器内を通過して外部に放出されるが、その際に前述した可撓性の膜が振動しているため、演奏用アクチュエータから管楽器内に供給される空気の圧力が振動する可撓性の膜の周波数と略同一の周波数で変動する。このように、可撓性の膜の振動数に対応した音が管楽器から発せられるため、管楽器から発せられる音を、可撓性の膜の振動数を変化させることで任意の音色に調整することができる。
【0004】
また、この演奏用アクチュエータでは、流量調整弁の開度を調節することによって、管楽器内に流入する空気の流量を調節し、管楽器から発せられる音色の音量を調節することも可能である。すなわち、演奏装置による管楽器の演奏中に、演奏する楽曲に合わせて流量調整弁の開度を調節することで、楽曲を自動演奏する場合においても、曲に対する抑揚をつけた演奏を行うことができる。
【特許文献1】特開2004−258443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような管楽器の自動演奏を行う演奏装置に用いる演奏用アクチュエータは、演奏中に流量調整弁の開度を調節することで管楽器の音量を調節するとともに、アクチュエータの空気流入口付近に設けられたリードに接触部材を接触させることで、発生する音の音量や音程、音色を調節することができる。これは、人間の演奏者が管楽器を演奏する場合に、アクチュエータに相当するマウスピースの開口部付近において下唇を接触させる位置を変更することで、発生する音の音色や音量等を調節する動作に相当する。
【0006】
ところで、前述のようにアクチュエータのリードに対して接触部材を接触させて、発生させる音色等を調節する場合に、接触部材の位置を精密に制御しても、リードの撓み等よって、接触部材がリードに対して接触する箇所を再現することが困難である。
【0007】
一方、接触部材をリードに対して接触させる際に生じる押圧力を検出し、この押圧力に基づいて接触部材のリードに対する接触箇所を再現すると、比較的高い再現性が得られる。しかし、演奏中にリードに対する接触部材の接触箇所を変更すると、演奏中にリードが自励振動しているため、その反力が押圧力として検出されてしまい、その結果、押圧力の検出結果が振動的に出力され、楽器から発生させる音に悪影響が出る場合がある。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、管楽器から発生させる音の音色や音程などの再現性を高めることを可能とする、管楽器の演奏装置および管楽器の自動演奏方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる管楽器演奏装置は、リードを備えた管楽器のマウスピースに取り付けられるものであって、外部から供給される空気を管楽器のマウスピースに導く流路と、前記流路内を流れる空気の流量を調節する流量調整部と、前記リードに接触して押圧する接触部材と、前記接触部材がリードに対して接触する箇所を変更するように、接触部材の位置を変位させる位置変位部と、前記リードに対する接触部材の押圧方向について定められる接触部材の基準位置と、接触部材がリードを押圧する押圧力とを対応させた対応データを記憶する記憶部と、前記接触部材がリードに接触して押圧する際に生じる目標押圧力を特定する目標押圧力特定部と、を備えており、前記位置変位部が、前記記憶部に記憶された対応データに基づいて、前記目標押圧力特定部により特定された目標押圧力に対応する接触部材の目標位置を取得し、該目標位置に基づいて、接触部材の位置を変位させることを特徴としている。
【0010】
このような管楽器演奏装置は、接触部材のリードを押圧する力に対応する、押圧する方向についての接触部材の位置を基準位置として予め定められているため、接触部材がリードを押圧する目標押圧力を特定すると、この目標押圧力に対応する接触部材の目標位置が取得可能となる。そのため、目標位置に基づいて接触部材のリードに対する接触箇所を変位させることにより、力検出部を用いて押圧力を検出する場合のように接触部材の位置が振動的にばらつくことがなく、管楽器から発生させる音の音色や音程などの再現性を高めることができる。
【0011】
また、前述のような対応データは、接触部材がリードを押圧する複数の押圧力の値と、これらの押圧力の値に各々対応する複数の基準位置との関係から定められたマップ情報であってもよい。この場合、前記位置変位部が、前記マップ情報から前記目標押圧力特定部により特定された目標押圧力に対応する接触部材の目標位置を取得するようにすると、好適である。このような管楽器演奏装置は、接触部材がリードを押圧する押圧力と、該押圧力に対応する接触部材の基準位置を複数点について定めるだけで、該押圧力と接触部材との位置関係を精度良く求めることが可能となる。そのため、このようなマップ情報を用いて接触部材の位置を変位させる位置制御を行うことで、管楽器から発生させる音の音色や音程などの再現性を簡単に向上させることができる。
【0012】
また、前記位置変位部は、リードの長さ方向について、接触部材の位置を変位可能とするものであってもよい。この場合、前記複数の基準位置を、リードの長さ方向について異なる位置に複数箇所定め、前記対応データを、これらの基準位置を接触部材がリードを押圧する押圧力と対応させて各々定めたマップ情報とすると好適である。このようなマップ情報を用いて、前記位置変位部が、該マップ情報から前記目標押圧力特定部により特定された目標押圧力に対応する接触部材の目標位置を取得するように構成されると、接触部材がリードと接触する接触箇所を数多く変化させることができる。そのため、管楽器の演奏する際に発生させる音の種類をより多くすることが可能となるという効果が得られる。
【0013】
また、このような管楽器演奏装置は、管楽器を操作する操作部と一体的に構成されていることが好ましい。例えば、本発明に係る管楽器演奏装置を、人間と同様に管楽器を演奏する複数の指部を備え、これらの指部を制御部によって管楽器を演奏するようなロボットのような装置とすることもできる。
【0014】
また、本発明は、管楽器を演奏する自動演奏方法をも提供するものであり、詳細には、リードを備えた管楽器のマウスピースに空気を供給するとともに、前記リードに対して接触部材を接触させる箇所を変更することで演奏を行う管楽器の自動演奏方法であって、前記接触部材がリードに接触して押圧する際に生じる目標押圧力を特定する目標押圧力特定ステップと、前記リードに対する接触部材の押圧方向について定められる接触部材の基準位置と、接触部材がリードを押圧する押圧力とを対応させた対応データに基づいて、前記リードに対する接触部材の押圧方向についての接触部材の目標位置を取得する目標位置取得ステップと、前記取得された目標位置に基づいて、前記接触部材の位置を変位させる位置変位ステップと、を備えることを特徴としている。
【0015】
このような管楽器の自動演奏方法によると、接触部材のリードを押圧する力に対応する、押圧する方向についての接触部材の位置を基準位置として予め定められているため、接触部材がリードを押圧する目標押圧力を特定すると、この目標押圧力に対応する接触部材の目標位置が取得可能となる。そして、取得した目標位置に基づいて接触部材のリードに対する接触箇所を変位させることにより、管楽器から発生させる音の音色や音程などの再現性を高めることができる。
【0016】
また、前記対応データが、接触部材がリードを押圧する複数の押圧力の値と、これらの押圧力の値に各々対応する複数の基準位置との関係から定められたマップ情報であり、前記目標位置取得ステップにおいて、前記マップ情報から前記目標押圧力特定ステップにより特定された目標押圧力に対応する接触部材の目標位置を取得ものであってもよい。このような管楽器の自動演奏方法によると、接触部材がリードを押圧する押圧力と、該押圧力に対応する接触部材の基準位置を複数点について定めるだけで、該押圧力と接触部材との位置関係を精度良く求めることが可能となる。そのため、このようなマップ情報を用いて接触部材の位置を変位させる位置制御を行うことで、管楽器から発生させる音の音色や音程などの再現性を簡単に向上させることができる。
【0017】
また、接触部材がリードの長さ方向についてその位置を変位可能である場合、前記複数の基準位置を、リードの長さ方向について異なる位置に複数箇所定め、前記対応データを、これらの基準位置を接触部材がリードを押圧する押圧力と対応させて各々定めたマップ情報とすると好適である。このようなマップ情報を用いて、前記位置変位部が、該マップ情報から前記目標押圧力特定部により特定された目標押圧力に対応する接触部材の目標位置を取得するように構成されると、接触部材がリードと接触する接触箇所を数多く変化させることができる。この場合、管楽器の演奏する際に発生させる音の種類をより多くすることが可能となるという効果が得られる。
【発明の効果】
【0018】
以上、説明したように、本発明によると、管楽器から発生させる音の音色や音程などの再現性を高めることが可能な、管楽器の演奏装置に用いる管楽器演奏装置および管楽器の自動演奏方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
発明の実施の形態1.
以下に、図1から図6を参照しつつ本発明の実施の形態1にかかる管楽器演奏用アクチュエータ20について説明する。
【0020】
図1は、本発明に係る管楽器演奏装置としての人間型ロボット(以下、単にロボット2という)の全体像を概略的に表したものであり、このロボット2が、管楽器の一例であるサックスフォン12を演奏する様子を概略的に示している。
【0021】
図1に示すように、ロボット2は、人間と略同様の動きを行うために、腕部や脚部、手部や指部などにおいて多数の関節を備えると共に,該関節部の動作を指令するための制御部90(図2参照)を有し,サックスフォン12を把持するための右手4および左手6を備えている。ロボット2の口部(図示省略)には、マウスピース14を介して後述する管楽器演奏用アクチュエータ(以下、演奏用アクチュエータという)20が搭載されており、ロボット2の外部には、演奏用の加圧空気を一定量供給する空気供給部(図示せず)と、該空気供給部からロボット2の内部に搭載された演奏用アクチュエータ20に対して空気を供給するための空気供給管94が接続されている。このように、ロボット2は、サックスフォン12を把持する右手4および左手6の各指部の関節を動作させるとともに、演奏用アクチュエータ20に所定の流量の空気が供給されることにより、サックスフォン12を演奏することができる。
【0022】
サックスフォン12は、その内部に図示しない空気流路を有しており、空気流路の上流端にマウスピース14が接続されている。マウスピース14は、後述するように演奏用アクチュエータ20を介してロボット2の口部に接続されている。このマウスピース14の構造に関する詳細については後述する。また、サックスフォン12は、図示しない複数のピストンからなるピストン群を有しており、これらのピストン群の各ピストンがロボット2の指部の動作により操作されることで、発生する音の音程を変更することが可能となる。なお、ロボット2の指部を駆動する機構として、電動モータや、電圧が印加されることにより収縮する人工筋肉アクチュエータ等を用いることができる。
【0023】
次に、図1に示す演奏用アクチュエータ20の詳細について、図2を用いて説明する。図2は、ロボット2の内部に組み込まれた演奏用アクチュエータ20に対してマウスピース14が接続された様子の内部構造を概略的に示すとともに、演奏用アクチュエータ20を駆動してサックスフォン12を演奏するための各構成をブロック図で示すものである。
【0024】
図2に示すように、演奏用アクチュエータ20は、ロボット2の口部に搭載されるとともに、サックスフォン12に接続されるマウスピース14が取り付けられている。マウスピース14は、空気流入口18を有するマウスピース本体14aと、マウスピース本体14aに対して一端が固定されるとともに、空気流入口18付近に他端が屈曲自由となるように空気の流入方向に伸びるリード14bと、を備えている。なお、リード14bは、後述するように、リードを押圧する接続部材としての弾性部材48と接触することで、サックスフォン12から発生する音の音程等を調整する。
【0025】
演奏用アクチュエータ20は、ロボット2の内部に設けられた制御部90と電気的に接続されるとともに、ロボット2の外部に設けられた空気供給部(図示せず)から空気供給管94を介してその内部に加圧空気を供給されるケース22を備えている。ケース22と空気供給管94の間には、レギュレータ92、配管70および流量調節部としての空気流量調節アクチュエータ60が、この順に直列に接続されている。レギュレータ92によって供給された加圧空気の圧力が調圧されるとともに、調圧された空気が配管70を介して空気流量調節アクチュエータ60の内部に流入する。空気流量調節アクチュエータ60は、ケース22の貫通孔26の外側に配設されるとともに、ロボット2の内部に設けられた制御部90と電気的に接続されており、制御部90からの指令により、ケース22の内部に供給する加圧空気の流量を調節する。
【0026】
また、空気流量調節アクチュエータ60は、図3に示すような中空構造を備える略円盤状のケース62と、誘電エラストマ型樹脂の人工筋肉64とを備えている。ケース62は、その両側面の表面に開口する貫通孔62a、62bを備えており、貫通孔62aは、演奏用アクチュエータ20のケース22の貫通孔26と導通する一方、貫通孔62bには調圧された空気を流入するための配管70が接続されている。このような構成によって、調圧された空気が貫通孔62a、62bを介してケース22の貫通孔26を通過し、ケース22内に流入される。
【0027】
そして、図3に示すように、ケース62の内部には、貫通孔62aと62bとの間を導通可能なスペースとしての貫通孔64aを確保した状態で人工筋肉64が配設されている。この人工筋肉64には制御部90と電気的に接続された図示しない複数の電極が取り付けられており、制御部90からの電気信号によって、その収縮度合いが変化可能となっている。
【0028】
また、空気流量調節アクチュエータ60とケース22の接続部や、空気流量調節アクチュエータ60と配管70の接続部には、各々ゴムパッキン66が配設されており、流入される空気がこれらの接続部から漏れないように構成されている。このような構成により、貫通孔62aと64a、62bから調圧された空気をケース22内に流入するための空気流路65が形成されるとともに、制御部90からの電気信号により、貫通孔64aの空気流入方向についての断面積を変化させることで、流入する空気の流量を調節することができる。すなわち、制御部90によって人工筋肉64の電極間に電圧を印加すると、人工筋肉64は膨張し、この人工筋肉64の膨張によって貫通孔64aの空気流入方向の断面積が減少する方向(図3中A方向)に変形し、ケース22に流入する空気の流量を減少させることができる。このように、演奏する音楽に合わせて、演奏に必要な流入する空気の流量を適宜制御することが可能となっている。
【0029】
ケース22は、箱型形状を有しており、その側面22aには各々空気流量調節アクチュエータ60を接続するための貫通孔26が形成されているとともに、他方の側面22bには、マウスピース本体14aを貫通させつつその位置を固定するための貫通孔24が形成されている。なお、貫通孔24には図示しないゴムパッキン等の封止部材が配設されており、マウスピース本体14aが貫通孔24により固定される際に、それらの隙間から空気が漏れないように構成されている。
【0030】
また、ケース22の内部には、マウスピース本体14aの空気流入口18の付近において固定されたタンギングアクチュエータ30と、ケース22内部の圧力を検出する空気圧センサ80と、リード14bに対して接触する弾性部材48の位置を変位させる位置変位部としての位置変位アクチュエータ50と、を備えている。これらのタンギングアクチュエータ30、空気圧センサ80、位置変位アクチュエータ50は、図2に示すように、制御部90と電気的に接続しており、制御部90からの指令によりその動作が制御されている。以下、タンギングアクチュエータ30、空気圧センサ80、位置変位アクチュエータ50の各構成について詳細に説明する。
【0031】
タンギングアクチュエータ30は、ケース22の側面22b上において、マウスピース本体14aの空気注入口18に対向する位置に固定された固定アクチュエータ30aと、固定アクチュエータ30aに対して空気流入口に流入する空気の流れの方向について伸縮可能に設けられた伸縮機構30bと、を備えている。そして、伸縮機構30bの自由端側の先端には、板状の弾性部材32が固定されており、この弾性部材32が空気注入口18の開口部に対して近接離間する。なお、前述したように、タンギングアクチュエータ30は、制御部90と電気的に接続されており、制御部90からの信号によりタンギングアクチュエータ30に電圧が印加されると、伸縮機構30bが伸びることで弾性部材32が図2中の右方向に移動し、マウスピース本体14aの空気流入口18の近傍に接触する。逆に、タンギングアクチュエータ30に印加される電圧が0となると、弾性部材32は元の位置に戻り、マウスピース本体14aとの接触が解除される。すなわち、タンギングアクチュエータ30に印加する電圧の大きさを制御することで、弾性部材32の図2中に示す矢印C方向の位置を制御して、弾性部材32がマウスピース本体14aの空気流入口18近傍に接触した状態と、接触しない状態とに切り換えることが可能としている。なお、本実施形態では、タンギングアクチュエータでは、約7mmの範囲内で弾性部材32を矢印C方向に移動させることができるとともに、最大約16Hzの周波数で弾性部材2を移動させることができるものとする。
【0032】
空気圧センサ80は、ケース22内の側面22aに取り付けられており、ケース22内部の空気圧を測定するものである。この空気圧センサ80は、制御部90と電気的に接続されており、測定したケース22内の空気圧の値を電気信号に変換して制御部90に送信する。
【0033】
位置変位アクチュエータ50は、ケース22の側面22a上に固定された固定アクチュエータ50aと、この固定アクチュエータ50aから矢印Cの方向について近接離間する方向にスライドするスライド部材50bと、スライド部材50bの自由端の先端に固定され、図2中の高さ方向(Z方向)に向けてケース22の底面22cに対して近接離間するように位置を変位するシャフトを備える押圧アクチュエータ50cと、を備えている。固定アクチュエータ50aは、その内部においてスライド部材50bをスライドさせるための空洞(図示せず)を備えるとともに、スライド部材50bをスライドさせるための図示しない駆動機構を備えている。この駆動機構としては、モータなどの既知の機構を用いることができる。
【0034】
押圧アクチュエータ50cは、図4に示すように、ケース42と、人工筋肉44と、シャフト46とによって構成されている。ケース42は有底円筒形を有しており、その内部に誘電エラストマ型樹脂の人工筋肉44が配設されている。また、この人工筋肉44には制御部90に電気的に接続された図示しない複数の電極が配設されており、制御部90からの電気信号に基づいて、その収縮度合いが制御される。さらに、人工筋肉44の上面44aの略中央には、リード14bを押圧するためのシャフト46の一端が埋設され、シャフト46が人工筋肉44の上面44aから突出した状態で固定されている。また、シャフト46の他端には接触部材としての弾性部材48が固定されており、この弾性部材48がリード14bに接触可能となるように、リード14bに対して近傍に位置するように予め押圧アクチュエータ50cの位置やシャフト46の長さなどが調整されている。なお、弾性部材48は、ゴムなどの所定の弾力を有する略円柱状の柱状部材であり、リード14bに接触してリード14bの振動を調整することができる。
【0035】
このように構成された押圧アクチュエータ50cは、制御部90によってシャフト46の先端の固定された弾性部材48をリード14bに接触させることができる。すなわち、人工筋肉44の電極間に電圧が印加されることによって、人工筋肉44が膨張し、シャフト46がこの人工筋肉44の膨張に伴って上方向に移動するため、シャフト46の先端に固定された弾性部材48がリード14bに対して近接離間可能に制御可能となる。このように、人工筋肉に印加する電圧の大きさによって、弾性部材48をリード14bに対して押圧する押圧力を制御することができる。なお、本実施形態においては、押圧アクチュエータ50cは最大約20N程度の押圧力で弾性部材48をリード14bに押圧させることが可能となるように構成されている。
【0036】
なお、本実施形態においては、弾性部材48を駆動する機構として人工筋肉を備える人工筋肉アクチュエータを用いた例を示しているが、本発明はこれに限られるものではなく、アクチュエータとしては、既知のモータ等の制御可能な既知の駆動機構を用いることも可能である。
【0037】
この位置変位アクチュエータ50は、図2に示すように、前述の制御部90に対して電気的に接続されており、制御部90からの信号に応じて押圧アクチュエータ50cの位置を図2中の矢印Bの方向に変位可能であるとともに、押圧アクチュエータ50cを駆動することができる。すなわち、スライド部材50bの位置を図2中の矢印Bの方向について変位させるとともに、シャフト46の位置を上下方向に変位させることで、シャフト46の先端に固定された弾性部材48がリード14bに対して接触する接触箇所を変更可能とする。なお、本実施形態においては、押圧アクチュエータ50cは、矢印Bの方向について約30mmの範囲内で移動することができる。
【0038】
また、前述したように、ロボット2の内部に備えられた制御部90は、前述のように、演奏用アクチュエータ20に備えられた空気流量調節アクチュエータ60、タンギングアクチュエータ30、空気圧センサ80、位置変位アクチュエータ50などの各動作を各々制御する。制御部90について、以下詳細に説明する。
【0039】
制御部90は、演算処理を行う演算処理部や記憶部としてのメモリ等の記憶領域を備えるコンピュータから構成されている。前述のメモリ等の記憶部には、制御部90を制御するための所定のプログラムや、演奏する楽曲に関する楽曲データ、およびリードを押圧する押圧力と、接触部材としての弾性部材の位置関係を対応させた対応データ等が記憶されている。対応データは、事前に実験等により取得した弾性部材(接触部材)の位置と、弾性部材がリードを押圧する押圧力との関係を定めるために、弾性部材の押圧方向についての各位置座標に対応する押圧力データを記憶させたものである。そして、複数の位置座標に各々対応する押圧力データをマップ上に表すことで、マップ上に表された各座標点を通る曲線を作成し、接触部材がリードを押圧する押圧力に対応する、弾性部材の押圧方向についての位置座標を取得することができる。このように表されたマップ情報の一例を図5に示す。図5は、ケース22内に定められた所定の基準位置から矢印B方向に所定距離(例えば10mm)離れた位置において、弾性部材48がリードに対して押圧する方向(Z軸方向)についての位置(Z軸位置)と、リードを押圧する押圧力とを対応づけたデータを示すものである。
【0040】
本実施形態においては、接触部材48が図2に示す矢印B方向(X軸方向)についても移動するため、このようなマップ情報を、接触部材48の矢印B方向(X軸方向)の位置について求めておく。この場合、X軸方向の複数の位置(X軸位置)について、前述のようなマップ情報を作成してもよいが、接触部材48がX軸方向にずれた距離に応じた、リードを押圧する方向に関する位置(Z軸位置)の関係を予め求めておくことで、所望の押圧力の大きさに対応する接触部材48の位置を取得するようにしてもよい。このような、接触部材48がX軸方向にずれた距離と、リードを押圧する方向に関する位置(Z軸位置)との関係を示す位置マップ情報の一例を図6に示す。このような図5および図6に示すようなマップ情報を用いることで、所望の押圧力を求めるための接触部材48の位置(X軸位置およびZ軸位置)を取得することが可能となる。
【0041】
そして、制御部90に含まれる演算処理部は、記憶したプログラムに基づいて、このようなマップ情報等のデータを適宜読み出すことで、前述の演奏用アクチュエータを動作させる。すなわち、本実施形態においては、この制御部90と空気流量調節アクチュエータ60とで流量調整部を構成し、制御部90と位置変位アクチュエータ50の押圧アクチュエータ50cとで位置変位部を構成するとともに、接触部材としての弾性部材48をリード14bに対して接触させる押圧力の目標押圧値(目標押圧力)を特定する目標押圧力特定部として作用する。以下、制御部90によりこれらの構成を動作させてサックスフォンを演奏する手順について詳細に説明する。
【0042】
まず、制御部90は空気圧センサ80が測定したケース22内の気圧データを読み取る。そして、読み取った気圧データと、記憶した楽曲データとに基づいて、空気流量調節アクチュエータ60を動作させ、貫通孔64aを通過する空気量を調節する。これによって、ケース22内に流入する空気の量を調節することができる。
【0043】
さらに、制御部90は読み出した楽曲データに基づいて、接触部材としての弾性部材48がリード14bを押圧する目標押圧力を特定する。そして、前述のマップ情報に基づいて、弾性部材48をリード14bに対して接触させるために、矢印B方向の位置(X軸位置)と、押圧方向の位置(Z軸位置)について、弾性部材48の目標位置を取得する。そして、制御部90は、弾性部材48を取得した目標位置へ変位させるように、位置変位アクチュエータ50(固定アクチュエータ50aおよび押圧アクチュエータ50c)を駆動する。このように、楽曲データに基づいてリード14bに接触させる弾性部材48を変位させることで、演奏する楽曲にあわせるように、管楽器から発生させる音の音色や音程などを変化させることが可能となる。
【0044】
そして、これらの弾性部材を変位させるとともに、制御部90は、サックスフォン12のピストン群の各ピストンを右手4および左手6の各指部の関節を駆動して操作させることによって、サックスフォン12から発生する音の音程を変更することが可能となる。なお、ロボット2の指部を駆動する機構として、電動モータや、電圧が印加されることにより収縮する人工筋肉アクチュエータ等の駆動手段を用いることができる。
【0045】
以上、説明したように、本発明によると、力検出部を用いて押圧力を検出する場合のように接触部材の位置が振動的にばらつくことがなく、演奏する楽曲に応じて、管楽器から発生させる音の音色や音程などの再現性を高めることができる。
【0046】
なお、前述の実施形態においては、接触部材としての弾性部材が、押圧方向と水平方向(図2でいう矢印B方向)に変位可能な構造となっているが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、接触部材(弾性部材)を押圧方向のみに変位する構造であってもよい。
【0047】
また、本実施形態においては、ロボット内部に備えられた制御部によって、演奏用アクチュエータに備えられた空気流量調節アクチュエータ、タンギングアクチュエータ、空気圧センサ、位置変位アクチュエータなどの各動作が各々制御されるが、ロボットを動作させる制御部とは別に、演奏用アクチュエータのみを制御する制御手段を別途設けるようにしてもよい。このような実施形態の場合、演奏用アクチュエータとその制御部とを一体的に構成することによって、このような演奏用アクチュエータを自動演奏装置として独立して形成することができるため、管楽器の自動演奏装置として自在に持ち運び可能に利用することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施形態に係る管楽器演奏装置を備えた人間型ロボットの外観を概略的に示す概略図である。
【図2】図1に示すロボットの内部に組み込まれた管楽器演奏用アクチュエータの内部構成を概略的に示した図である。
【図3】図2に示す管楽器演奏用アクチュエータが備える空気流量調節アクチュエータの内部構造を概略的に示す概略図である。
【図4】図2に示す管楽器演奏用アクチュエータが備える押圧アクチュエータの内部構造を概略的に示す概略図である。
【図5】複数の位置座標に各々対応する押圧力データを表すマップ情報の一例を示すグラフである。
【図6】接触部材がX軸方向にずれた距離と、リードを押圧する方向に関する位置(Z軸位置)との関係を示す位置マップ情報の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0049】
2・・・ロボット
10・・・データ記録装置本体
12・・・サックッスフォン(管楽器)
14・・・マウスピース
14a・・・マウスピース本体
14b・・・リード
18・・・空気流入口
20・・・演奏用アクチュエータ
22・・・ケース
48・・・弾性部材(接続部材)
50・・・位置変位アクチュエータ
60・・・空気流量調節アクチュエータ
80・・・空気圧センサ
90・・・制御部
94・・・空気供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リードを備えた管楽器のマウスピースに取り付けられ、その楽器を演奏するための管楽器演奏装置であって、
外部から供給される空気を管楽器のマウスピースに導く流路と、
前記流路内を流れる空気の流量を調節する流量調整部と、
前記リードに接触して押圧する接触部材と、
前記接触部材がリードに対して接触する箇所を変更するように、接触部材の位置を変位させる位置変位部と、
前記リードに対する接触部材の押圧方向について定められる接触部材の基準位置と、接触部材がリードを押圧する押圧力とを対応させた対応データを記憶する記憶部と、
前記接触部材がリードに接触して押圧する際に生じる目標押圧力を特定する目標押圧力特定部と、を備えており、
前記位置変位部が、前記記憶部に記憶された対応データに基づいて、前記目標押圧力特定部により特定された目標押圧力に対応する接触部材の目標位置を取得し、該目標位置に基づいて、接触部材の位置を変位させることを特徴とする管楽器演奏装置。
【請求項2】
前記対応データが、接触部材がリードを押圧する複数の押圧力の値と、これらの押圧力の値に各々対応する複数の基準位置との関係から定められたマップ情報であり、前記位置変位部が、前記マップ情報から前記目標押圧力特定部により特定された目標押圧力に対応する接触部材の目標位置を取得することを特徴とする請求項1に記載の管楽器演奏装置。
【請求項3】
前記複数の基準位置が、リードの長さ方向について異なる位置に複数箇所定められており、前記対応データが、これらの基準位置を接触部材がリードを押圧する押圧力と対応させて各々定めたマップ情報であることを特徴とする請求項2に記載の管楽器演奏装置。
【請求項4】
前記管楽器を操作する操作部と一体的に構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の管楽器演奏装置。
【請求項5】
リードを備えた管楽器のマウスピースに空気を供給するとともに、前記リードに対して接触部材を接触させる箇所を変更することで演奏を行う管楽器の自動演奏方法であって、
前記接触部材がリードに接触して押圧する際に生じる目標押圧力を特定する目標押圧力特定ステップと、
前記リードに対する接触部材の押圧方向について定められる接触部材の基準位置と、接触部材がリードを押圧する押圧力とを対応させた対応データに基づいて、前記リードに対する接触部材の押圧方向についての接触部材の目標位置を取得する目標位置取得ステップと、
前記取得された目標位置に基づいて、前記接触部材の位置を変位させる位置変位ステップと、を備えることを特徴とする管楽器の自動演奏方法。
【請求項6】
前記対応データが、接触部材がリードを押圧する複数の押圧力の値と、これらの押圧力の値に各々対応する複数の基準位置との関係から定められたマップ情報であり、前記目標位置取得ステップにおいて、前記マップ情報から前記目標押圧力特定ステップにより特定された目標押圧力に対応する接触部材の目標位置を取得することを特徴とする請求項5に記載の管楽器の自動演奏方法。
【請求項7】
前記複数の基準位置が、リードの長さ方向について異なる位置に複数箇所定められており、前記対応データが、これらの基準位置を接触部材がリードを押圧する押圧力と対応させて各々定めたマップ情報であることを特徴とする請求項6に記載の管楽器の自動演奏方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−203383(P2008−203383A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37327(P2007−37327)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】