説明

管状ライニング材及び既設管の更生方法

【課題】 熱可塑性フィラメント及び補強繊維フィラメントの複合材料からなるライナー基材に対し、加熱の不均一化を解消することができるライニング材及びそのライニング材を使用した既設管の更生方法を提供する。
【解決手段】 一実施形態では、ライニング材1は、熱可塑性フィラメント及び補強繊維フィラメントを含む複合材料からなるライナー基材2と、ライナー基材の外側に配設される外面被覆材層3aとからなる。外面被覆材層3aは、ライナー基材2の熱可塑性フィラメントの構成材料の融点よりも高い融点の熱可塑性材料により形成される。既設管5の更生は、外面被覆材層3aの熱可塑性材料の融点未満の温度でライナー基材2を加熱して軟化させ、拡径手段により内側から加圧し、ライニング材1を既設管5の内周面に沿う管状に成形してライニングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状ライニング材及びその管状ライニング材を使用した既設管の更生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、下水道管等の地中埋設管を開削せずに更生する方法として、未硬化のFRP筒状体を管路内に挿入する方法や、熱可塑性樹脂製の管状のライニング材(以下、ライナーと呼ぶ場合もある)を既設管に挿入して既設管の内面に貼り付けることにより、この既設管内面をライニングする方法などがあり、実用化されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されているように、既設管の内径よりも小径であって、形状記憶温度において管状に形状回復するライニング材を既設管内に挿入し、ライニング材を加熱して形状回復させた後、加圧して膨張拡径させ、既設管の内周面に密着させてライニングする更生方法がある。
【0004】
また、最近では、特許文献2や特許文献3に記載されているように、繊維で補強された熱可塑性複合材料からなるライナーをダクト内に挿入し、そのライナーを加熱するとともに圧力を加え、既設管に接触させてライニングする方法が提案されている。
【0005】
この特許文献2や特許文献3に開示されているライナーは、加熱される前段階では、熱可塑性プラスチック材料からなる熱可塑性フィラメントと、ガラス繊維からなる補強繊維フィラメントとの複合材料によって略筒型に形成されている。このライナーを使用した既設管の更生方法としては、ダクト内に前記ライナーを挿入した後、加熱手段によってライナーを加熱することで、前記熱可塑性フィラメントを溶融させる。これにより、溶融したプラスチック材料の中に補強繊維フィラメントが分散される。その後、ライナー内側に圧力を加えて拡径させると共にプラスチック材料を冷却固化させることで、補強繊維フィラメントで補強された強固な複合ライニング材が成形され、この複合ライニング材によって既設管が更生されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−230412号公報
【特許文献2】特許第4076188号公報
【特許文献3】特表2004−508989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、前記特許文献2や特許文献3に開示されているような繊維強化複合材料からなるライニング材を使用したライニング方法にあっては、以下に述べるような課題があり、実用化を図るためには未だ改良の余地があった。
【0008】
先ず、既設管の更生作業において、熱可塑性フィラメントを構成しているプラスチック材料の溶融に比較的長い時間を要することが挙げられる。例えば、老朽化した既設管に生じた亀裂等の損傷箇所から地中水が既設管内部に浸入している場合、その部分では浸入水によってライニング材が冷やされてしまう。また、地下水の浸入がなくとも、既設管内は比較的低温であるため、ライニング材が冷やされてしまい、プラスチック材料の加熱溶融を迅速に行うことが困難な環境にある。
【0009】
また、特許文献2には、ライナーの内表面にポリエチレン等のプラスチック材料からなるバリア層を設ける例が挙げられているが、熱可塑性フィラメントを構成しているプラスチック材料を内側から加熱して溶融させる前に、内表面のバリア層が溶融して流動したり、プラスチック材料に対する熱伝達をバリア層が阻害したりするおそれがある。このような場合にも、プラスチック材料の溶融が迅速に行えない状況となる。
【0010】
その結果、熱可塑性フィラメント全体を溶融させるのに比較的長い時間を要したり、加熱が不均一になったりして、施工時間の長期化に繋がってしまう。
【0011】
また、このようなライニング材に対する加熱が不均一になると、熱可塑性フィラメントに溶け残りが発生しやすくなってしまう。溶け残りが発生すると、その部分では、プラスチック材料の中に補強繊維フィラメントを分散させた構成が得られなくなり、ライニング材の強度の不均一化を招いてしまうことになり好ましくない。
【0012】
このような溶け残りの発生を回避するべく、プラスチック材料に対する加熱温度を高く設定したり、加熱時間を長く設定したりすることも考えられる。しかしながら、これでは、部分的に加熱が過剰となる可能性があり、この加熱過剰箇所にあってはプラスチック材料の一部分が流動して、ライニング材に偏肉が発生してしまう可能性がある。偏肉が発生した場合にも、その部分では、プラスチック材料の中に補強繊維フィラメントを分散させた構成が得られなくなり、ライニング材の強度の不均一化を招くおそれがある。
【0013】
本発明は、このような事情にかんがみてなされたものであり、その目的とするところは、熱可塑性フィラメント及び補強繊維フィラメントの複合材料を含むライニング材を保護しつつ加熱の均一化を図り、十分な強度を発揮させることのできる管状ライニング材、及びそのライニング材を使用した既設管の更生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、既設管の内壁をライニングする管状ライニング材を前提とする。この管状ライニング材に対し、熱可塑性フィラメント及び補強繊維フィラメントを含む複合材料からなる筒状布帛のライナー基材と、このライナー基材を被覆し、前記熱可塑性フィラメントを構成している熱可塑性材料の融点よりも高融点である熱可塑性材料を含有する被覆層とを備えさせている。
【0015】
この特定事項により、既設管の内部に管状ライニング材を挿入した後に、この管状ライニング材を加熱する際、管状ライニング材に与えた熱で、ライナー基材に含む熱可塑性フィラメントを溶融してライナー基材を軟化させるが、その間、ライナー基材を被覆している被覆層については溶融させないようにすることが可能となる。このため、ライナー基材を被覆層で保護した状態で、熱可塑性フィラメントの略全体を十分に加熱することができる。その結果、管状ライニング材に対する加熱の不均一化を解消することが可能となり、比較的短時間で、熱可塑性フィラメントの全体を溶融させることができる。
【0016】
これにより、熱可塑性材料の中に補強繊維フィラメントを分散させた構成、つまり、溶融した熱可塑性材料が補強繊維フィラメントを包囲した構成を管状ライニング材の全体に亘って得るための施工時間を短縮することができる。また、管状ライニング材に対する加熱が均一化されることにより、熱可塑性フィラメントに溶け残りを生じることがなくなり、また、熱可塑性フィラメントの一部分が過剰加熱されて流動してしまうといったことも回避できる。
【0017】
前記被覆層は、ライナー基材に外装させる構成であってもよいし、また、ライナー基材に内装させる構成であってもよい。
【0018】
先ず、前記被覆層をライナー基材に外装させる構成の場合、被覆層として、既設管の内径よりも小さい外径を有する筒状の外面被覆材層を備えさせる。これにより、外面被覆材層が既設管とライナー基材との間に介在し、既設管内の低温環境下でライナー基材が冷やされるのを抑え、熱可塑性フィラメントを構成している熱可塑性材料を十分に昇温させることが可能となる。
【0019】
具体的には、前記外面被覆材層は、複数の層が一体化された複層構造であり、前記熱可塑性材料により形成されて断熱性を有する内側断熱層と、この内側断熱層の外周側に形成されて不透水性材料からなる外側遮水層とを含むことが好ましい。
【0020】
このような構成により、内側断熱層は、浸入水等の存在する既設管内の低温環境によりライナー基材が冷やされるのを防ぐとともに加熱の際の熱損失を防ぎ、外側遮水層は、ライナー基材が浸入水等に接触するのを防ぐ。かかる外面被覆材層の断熱性能と遮水性能とによって、既設管内での管状ライニング材に対する加熱の不均一化を解消することができる。
【0021】
また、前記外面被覆材層は、前記内側断熱層が織布、組布、編布、フェルト、又は不織布のいずれかからなるものが好ましい。
【0022】
これにより、筒状布帛からなるライナー基材の外面に追従させた形状でライナー基材を被覆することができ、ライナー基材と外面被覆材層とを縫い合わせておくこともでき、取り扱いが容易となる。また、外面被覆材層として必要な断熱性能に合わせ、枚数を重ね合わせることで容易に肉厚を調整することもできる。
【0023】
前記内側断熱層を構成する熱可塑性材料は、ライナー基材の熱可塑性フィラメントを構成する熱可塑性材料により選択されるが、全般的に高融点であるポリエチレンテレフタレート繊維又は酢酸セルロース繊維を用いることで、ライナー基材と内側断熱層との溶融するタイミングをずらすことができる。
【0024】
また、前記外面被覆材層は、前記内側断熱層が独立気泡を有する発泡成形体であってもよい。これにより、内側断熱層に対して、高い断熱性、保温性、及び軽量性を備えさせることが可能となる。
【0025】
また、前記外面被覆材層は、前記外側遮水層を、柔軟性を有する不透水性フィルム材から構成することが好ましい。また、前記外側遮水層を、常温で低弾性率である合成樹脂系材料により形成する構成であってもよい。
【0026】
かかる外側遮水層としては、例えば、薄膜状のポリエチレンやEVA樹脂材等を用いることができる。これにより、外側遮水層は、ライナー基材の外面に追従した形状で好適に被覆するものとなり、既設管内の浸入水等とライナー基材との接触を防ぐことができる。
【0027】
また、前記外面被覆材層は、水と反応する発熱剤を含有する発熱管状体であって、既設管とライナー基材との間で発熱し、前記ライナー基材を加熱する構成であってもよい。
【0028】
ここで、水と反応する発熱剤には、例えば塩化カルシウム等を用いることができる。これにより、外面被覆材層が既設管内の地下水や流水に接触して発熱し、ライナー基材の外面側からライナー基材を補助的に加熱することができる。
【0029】
より具体的には、前記外面被覆材層としての発熱管状体は、発熱剤を均一に分散させた織布、組布、編布、フェルト、又は不織布のいずれかからなる層を含む構成であることが好ましい。
【0030】
これにより、発熱剤を均一に含有させた発熱管状体とすることができ、均一な発熱性を備えさせることが可能になる。また、発熱管状体をライナー基材の形状に追従させて形成することも容易となり、ライナー基材の外面を均等に加熱することが可能となる。
【0031】
また、前記被覆層をライナー基材に内装させる構成とする場合、被覆層としてライナー基材の内面に、間隙又は開孔を備えて通気性を有する一方、加熱溶融により前記間隙又は開孔が閉塞されうる筒状の内面被覆材層を備えさせる。
【0032】
これにより、管状ライニング材を内面側から加熱する際、管状ライニング材に与えた熱で先ずライナー基材を溶融させ、その後、ライナー基材の内面を被覆している内面被覆材層を溶融させることが可能となる。このとき、内面被覆材層は、間隙又は開孔を備えて通気性を有するので、ライナー基材に対する加熱作用を妨げることがない。その結果、熱可塑性フィラメントの略全体を十分に加熱することができ、管状ライニング材に対する加熱の不均一化が解消されて、比較的短時間で、熱可塑性フィラメントの全体を溶融させることが可能になる。
【0033】
また、ライナー基材が溶融した後、内面被覆材層が溶融して前記間隙又は開孔が閉塞されるので、溶融した内面被覆材層がライナー基材の内面を覆って保護する。これにより、更生された既設管は、ライナー基材によるライニング層が露出せず、管内の流体に曝されることがない。したがって、かかる管状ライニング材により更生された既設管は、下水等の酸性成分を含有する流体に対する耐腐食性が高められ、腐食による強度低下のおそれがなくなり、更生後の管内を長期的に良好な状態で維持することが可能となる。
【0034】
具体的には、前記内面被覆材層は、織布、組布、編布、フェルト、又は不織布のいずれかからなることが好ましい。これにより、筒状布帛からなるライナー基材の内面に追従させた形状でライナー基材の内面を被覆することができ、取り扱いも容易であり、また必要な内面保護性能に合わせて枚数を重ねることで容易に肉厚を調整することもできる。
【0035】
また、前記内面被覆材層は、有孔シート材又は有孔フィルム材からなる構成であってもよい。この場合、内面被覆材層を比較的薄く形成することができるので、内径寸法を大きく狭めることなくライナー基材の内面を覆うことが可能となる。
【0036】
また、管状ライニング材を内面側から加熱する際、内面被覆材層の通気度が小さすぎると、自然な空気の出入りが困難となり、ライナー基材に対する加熱を阻害するおそれがある。一方、内面被覆材層の通気度が大きすぎると、空隙部が大きくなりライナー基材に対する保護作用が低下する。そこで、好ましくは、前記内面被覆材層における加熱溶融前のフラジール通気度を、1000〜30000cm3/cm2・minとすることである。ここで、フラジール通気度は、JIS L 1096に規定されるフラジール形試験法により測定される通気性の評価値をいう。
【0037】
さらに、管状ライニング材を加熱後、ライナー基材によるライニング層を内面被覆材層により保護して水密性や耐腐食性を好適に得るため、加熱溶融後の単位面積当たりの体積が0.003〜0.05cm3/cm2となる内面被覆材層とすることが好ましい。これにより、内面被覆材層に欠損を生じたり、逆に樹脂だまりを生じたりさせることなく、均一にライナー基材を被覆させることが可能となる。
【0038】
以上のような被覆層を管状ライニング材に備えさせることにより、ライナー基材に対する均一な加熱と十分な溶融が可能となり、部分的な溶け残りを生じないようにすることができる。その結果、十分な強度を維持して高い耐久性を備えた状態で既設管を更生することが可能となる。なお、管状ライニング材に設ける被覆層として、前記ライナー基材に対し、外面被覆材層と内面被覆材層との両方を備えさせた構成であってもよい。
【0039】
また、上述した各解決手段に係る管状ライニング材を使用した既設管の更生方法も本発明の技術的思想の範疇である。つまり、既設管の内壁に管状ライニング材によるライニング層を形成して更生する既設管の更生方法を前提とする。また、前記管状ライニング材に、熱可塑性フィラメント及び補強繊維フィラメントを含む複合材料からなるライナー基材と、このライナー基材を被覆し、前記熱可塑性フィラメントを構成している熱可塑性材料の融点よりも高融点である熱可塑性材料を含有してなる被覆層とを備えさせる。そして、更生方法として、管状ライニング材を既設管内の補修対象箇所に挿入して配置する挿入工程と、前記管状ライニング材の内側若しくは外側、又は内外両側に加熱手段を配設し、加熱手段を移動させつつ前記管状ライニング材を加熱して軟化又は溶融させる加熱工程と、軟化又は溶融した管状ライニング材を拡径手段により内側から加圧して拡径させ、前記ライナー基材と被覆層とが一体化したライニング層を成形する拡径工程と、成形したライニング層を冷却して既設管の内周面に沿って硬化させる工程とを備えさせる。
【0040】
このような更生方法により、管状ライニング材に与えた熱が、先ずライナー基材に含まれる熱可塑性フィラメントを溶融してライナー基材を軟化させ、その後、ライナー基材を被覆している被覆層を溶融又は軟化する。これにより、管状ライニング材を略均一に加熱することが可能となり、比較的短時間で、熱可塑性フィラメントの全体を溶融させることができる。そして、略均一に加熱溶融した状態で管状ライニング材を拡径してライニング層を形成するので、補強繊維フィラメントで補強された強固な複合ライニング管を既設管内に形成することが可能となる。
【0041】
具体的には、前記加熱工程では、前記被覆層の熱可塑性材料の融点未満の温度で加熱して前記ライナー基材を軟化させた後、加熱温度を上げて前記被覆層を溶融又は軟化させる。これにより、ライナー基材と被覆層とのそれぞれの作用を発揮させつつライナー基材と被覆層とが一体のライニング層を形成することができる。
【0042】
また、前記既設管の更生方法において、前記管状ライニング材は、前記被覆層をライナー基材に内装させた構成とし、前記挿入工程では、先ず前記ライナー基材を既設管内に配置し、その後、前記被覆層に流体圧を作用させて、当該被覆層の内周面が外周側となるように反転させながら既設管内のライナー基材の内側へ挿入するようにしてもよい。
【0043】
これにより、管状ライニング材のライナー基材と被覆層とを個別に用意し、補修対象箇所で組み合わせることができ、多様な既設管に対応させて施工性を高めることができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明では、熱可塑性フィラメント及び補強繊維フィラメントを含む複合材料からなる筒状布帛のライナー基材と、前記ライナー基材を被覆し、前記熱可塑性フィラメントを構成している熱可塑性材料の融点よりも高融点である熱可塑性材料を含有してなる被覆層とを備えさせ、管状ライニング材を加熱する際に、被覆層は溶融させずに、ライナー基材だけを溶融させるようにして既設管の更生を行う。これにより、管状ライニング材に対する加熱を均一に行うことが可能となり、また、ライナー基材を加熱する間の被覆層の作用を十分に発揮させることが可能となって、老朽化した既設管を短時間で好適に更生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施形態1に係る管状ライニング材を示す断面図である。
【図2】実施形態1に係る管状ライニング材を使用した既設管の更生方法を示す説明図である。
【図3】実施形態1に係る管状ライニング材を用いてライニングした状態を示す断面図である。
【図4】実施形態1に係る管状ライニング材の変形例を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態2に係る管状ライニング材を示す断面図である。
【図6】実施形態2に係る管状ライニング材を用いてライニングした状態を示す断面図である。
【図7】本発明の実施形態3に係る管状ライニング材を示す断面図である。
【図8】実施形態3に係る管状ライニング材を用いてライニングした状態を示す断面図である。
【図9】実施形態3に係る管状ライニング材を使用した既設管の更生方法を示す説明図である。
【図10】実施形態3に係る管状ライニング材の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の実施の形態に係る管状ライニング材及びこの管状ライニング材を用いた既設管の更生方法について説明する。
【0047】
管状ライニング材は、既設管の内壁をライニングする部材であって、熱可塑性フィラメント及び補強繊維フィラメントを含む複合材料からなる筒状布帛のライナー基材と、このライナー基材を被覆し、熱可塑性フィラメントを構成している熱可塑性材料の融点よりも高融点である熱可塑性材料を含有してなる被覆層とを備えている。被覆層は、ライナー基材の外面若しくは内面を被覆し、又はライナー基材の外面及び内面の双方を被覆する。このような管状ライニング材の実施形態としては、ライナー基材と被覆層とのそれぞれの構成、材料、及びその組み合わせ方によって多様なバリエーションがある。以下の実施形態では、そのうちのいくつかについて図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0048】
<実施形態1>
本発明の実施形態1に係る管状ライニング材その管状ライニング材を使用した既設管の更生方法について図面を参照しつつ説明する。
【0049】
図1は、実施形態1に係る管状ライニング材を示す断面図である。
【0050】
管状ライニング材1(以下、ライニング材1という。)は、ライナー基材2と、ライナー基材2を被覆する被覆層3とを備えている。
【0051】
これらのうち、ライナー基材2は、熱可塑性フィラメントと補強繊維フィラメントとを含む繊維強化複合材料からなる可撓性を有する筒状布帛である。また、被覆層3は、ライナー基材2に含まれる熱可塑性フィラメントの構成材料の融点よりも高い融点の熱可塑性材料からなる層を含有している。
【0052】
実施形態1では、被覆層3は、ライナー基材2に外装されてライナー基材2の外面を被覆する筒状の外面被覆材層3aとされている。この外面被覆材層3aは、熱可塑性フィラメントの構成材料より高融点の熱可塑性材料を含有する層を含み、複数の層からなる複層構造とされている。
【0053】
(既設管の更生方法)
ここで、ライニング材1の具体的な説明に先立って、ライニング材1を用いて既設管5の内壁をライニングする更生方法について説明する。
【0054】
図2は、管状ライニング材1を用いて既設管5の内壁をライニングする更生方法を模式的に示した説明図である。
【0055】
図示するように、ライニング材1は、既設管5の補修対象箇所に挿入して管路の更生に使用される。更生作業に先立ち、既設管5に下水等の流下水がある場合には、この流下水を管路からいったん除去する。既設管5の管路には、適当な間隔を設けてマンホールM1、M2が設けられており、近傍のマンホールの上流側に堰き止め部材7を設ける。堰き止めた流下水は、マンホールM1、M2を通して排水ポンプから汲み取り、地上に配設した図示しない排水ホース等を迂回させて下流側へ放出する。さらに、既設管5内に存在する堆積物や木片等の異物を除去し、高圧水洗浄を行ってから管内の更生作業に入る。
【0056】
更生作業としては、先ず、マンホールM1、M2を通してライニング材1を既設管5に挿入する(挿入工程)。ライニング材1の既設管5への挿入作業は、ライナー基材2と外面被覆材層3aとを組み合わせた状態で既設管5内に同時に引き込むようにしても、また、先に外面被覆材層3aを既設管5内に配置し、その内側へライナー基材2を挿入するようにしてもよい。
【0057】
ライニング材1は、例えば、発進側マンホールM1と到達側マンホールM2との間の長さに余裕長さを加えた長さで用意されている。また、到達側マンホールM2側の地上に牽引ワイヤ91を巻き取るウィンチ9等の機器を設置する。牽引ワイヤ91は、到達側マンホールM2から既設管5内に挿通されており、ライナー基材2の内側に配備された加熱装置(加熱手段)6を、発進側マンホールM1から到達側マンホールM2方向に牽引する。
【0058】
挿入工程を経て既設管5に配置されたライニング材1には、内側に前記加熱装置6が設置される。この加熱装置6は、図2に示すように、ライナー基材2を内外両面から加熱するようになっている。
【0059】
この加熱装置6は、ライニング材1の内周面に沿う円筒状の外形を有するライニング用ピグ61と、ライナー基材2に対して外装される筒状の補助用ピグ62とを備えている。ライニング用ピグ61は、ライニング材1の内周側から加熱蒸気等により加熱して、ライニング材1に含まれる熱可塑性材料を溶融する。また、補助用ピグ62は、ライナー基材2の外周面を加熱し、外周側から熱可塑性フィラメントの溶融を補助する(加熱工程)。
【0060】
図2に示すように、加熱装置6のライニング用ピグ61は、後方部分が拡径したテーパー形状とされており、ライニング材1を加熱しつつ前進することで、ライニング材1が軟化されて徐々に拡径するように作用する。
【0061】
この加熱工程では、ライニング材1における外面被覆材層3aの熱可塑性材料の融点未満の温度で加熱する。この加熱により、外面被覆材層3aの熱可塑性材料が溶融しない状態であるのに対し、ライナー基材2の熱可塑性フィラメントは溶融する。そして、ライナー基材2が補強繊維フィラメントを混合した繊維強化樹脂材からなるライニング層を形成するものとなる。
【0062】
ライニング材1は、加熱工程を経た段階では未だ完全に拡径、硬化した状態ではなく、また、ライナー基材2と外面被覆材層3aが密着した状態とはなっていない。図2に示すように、加熱装置6の後方には拡径手段が配備されている。
【0063】
加熱工程を経たライニング材1は拡径手段により内側から加圧されて既設管5の内周面に沿う管状に拡径される(拡径工程)。図2に例示する拡径手段は、反転機8が地上に設置され、先端側から反転させつつ導入される拡径用チューブ81を備えている。
【0064】
拡径用チューブ81は、内圧により十分に拡径することが可能であり、かつ拡張に際して十分な強度を有する拡張性及び耐熱性に優れたエラストマーなどを材料として形成されている。また、拡径用チューブ81は、拡径後にも拡径用チューブ81とライナー基材2とが接着しない材質により形成されている。拡径用チューブ81の外径は、最大拡張時にライニング材1を内側から既設管5の内周面に押圧し得る大きさで確保されている。
【0065】
拡径用チューブ81は、発進側マンホールM1側の地上に設置された反転機8に接続され、拡張していない状態でライナー基材2の内側に導入されている。そして、その後、拡径用チューブ81には、反転機8から加圧気体が供給されて、加熱装置6の後方部分に追従しながら内周面が外周側に反転しつつ拡張していく。これに伴って、ライニング材1は、加熱装置6を経て軟化した部分から順に、拡径用チューブ81によって内側から押圧されて拡径する。ライニング材1の拡径した部分は、既設管5の内周面に密着する。加熱装置6が前進することにより、拡径用チューブ81の拡張範囲も前方へ広げられ、ライニング材1と既設管5との密着状態はそのまま維持されて、広範囲で均一な力を付与することができ、略均一に成形される。
【0066】
既設管5の補修対象箇所の全域にわたってライニング材1が拡径されたならば、冷却及び硬化させ(冷却工程)、これにより、既設管5の内周面がライニング材1により更生される。図3は、既設管5の内周面が、ライナー基材2とその外側の外面被覆材層3aとからなるライニング材1によりライニングされた状態を示している。
【0067】
このように、ライニング材1がライナー基材2に外面被覆材層3aを外装させた構成である場合、外面被覆材層3aが既設管5とライナー基材2との間に介在し、既設管5内の低温環境下でライナー基材2が冷やされるのを抑える。よって、ライナー基材2の熱可塑性フィラメントを構成している熱可塑性材料を十分に加熱溶融することができる。
【0068】
(管状ライニング材)
次に、前記既設管の更生方法において用いる管状ライニング材の具体的な形態について、図1〜図3を参照しつつ説明する。
【0069】
図1に示したように、ライニング材1は、熱可塑性フィラメント及び補強繊維フィラメントを含む繊維強化複合材料からなるライナー基材2と、このライナー基材2を外装する外面被覆材層3aとを備えている。
【0070】
ライナー基材2は、可撓性を有する筒状布帛であり、熱可塑性のフィラメント及び強化繊維のフィラメントからなる複合材料により形成されている。複合材料の母材である熱可塑性フィラメントの樹脂と、強化材である強化繊維フィラメントとの組合せは、多種多様である。代表的な熱可塑性フィラメントの樹脂材料には、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、又はポリブチルテレフタレート等があげられる。また、強化繊維フィラメントとしては、ガラス繊維、炭素繊維等が好ましい。
【0071】
ライナー基材2は、このような熱可塑性フィラメントを母材樹脂として繊維形態で強化繊維フィラメント束内に配置させた繊維束によって構成されており、編物若しくは織物とされて縫合等により筒状に形成されている。また、ライナー基材2は、かかる繊維強化複合材料により形成された布帛そのものの厚みで構成するだけでなく、複数枚の布帛を重ね合わせて、所定の厚みを確保することにより構成されてもよい。
【0072】
外面被覆材層3aは、既設管5の内径より小さい外径を有する。また、外面被覆材層3aは、ライナー基材2の熱可塑性フィラメントを構成する熱可塑性材料の融点よりも高い融点の熱可塑性材料からなる層を有する。
【0073】
例示の形態では、外面被覆材層3aは二層構造とされており、熱可塑性フィラメントの熱可塑性材料の融点よりも高い融点の熱可塑性材料により形成された内側断熱層31と、この内側断熱層31の外周側に形成されて不透水性材料からなる外側遮水層32とを有する。
【0074】
二層構造とされた外面被覆材層3aは、既設管5とライナー基材2との間で、内側断熱層31が既設管5内の低温環境に対する断熱作用をもたらし、外側遮水層32が既設管5内の浸入水等に対する遮水作用をなす。内側断熱層31に用いる熱可塑性材料は、ライナー基材2の熱可塑性フィラメントを構成する熱可塑性材料の融点よりも高融点であれば、どのような熱可塑性材料であってもよい。例えば、高密度若しくは低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、酢酸セルロース、ポリブデン、又はポリエチレンテレフタレート等の様々な樹脂材料を用いることが可能である。
【0075】
例示すると、ライナー基材2の熱可塑性フィラメントがポリプロピレン(融点は170℃以下)からなる場合、内側断熱層31には融点が230℃以上であるポリエチレンテレフタレートを採用することができる。また、この場合、内側断熱層31には、ポリエチレンテレフタレート繊維を用いた織布、組布、編布、フェルト、又は不織布などにより形成することができる。
【0076】
ここで、一般的なポリプロピレンの融点は160〜170℃であるのに対し、一般的なポリエチレンテレフタレートの融点は265℃程度である。したがって、ライナー基材2の熱可塑性フィラメントの構成材料の融点よりも、外面被覆材層3aの内側断熱層31の構成材料の融点の方が高いものとなる。また、既設管5の更生過程で用いる上述の加熱装置6は、加熱温度が最大で230℃程度であり、通常使用時で200〜220℃となることから、この加熱温度よりも高い融点であるポリエチレンテレフタレートは内側断熱層31の構成材料として好適である。
【0077】
また、例えば、ライナー基材2の熱可塑性フィラメントが、高密度又は低密度ポリエチレン(融点は140℃)からなる場合も同様に、内側断熱層31には融点が230℃以上であるポリエチレンテレフタレートを採用することができる。この場合には、ライナー基材2の熱可塑性フィラメントの融点が、前記ポリプロピレンよりも低いので、熱可塑性フィラメントに対する加熱温度をより低い温度とすることができ、加熱工程での加熱温度を下げることができるため、作業安全性も高められる。
【0078】
また、例えば、ライナー基材2の熱可塑性フィラメントがポリエチレンテレフタレート(融点は260℃以下)からなる場合、内側断熱層31には融点が280℃以上である酢酸セルロース繊維からなる織布又は不織布等により形成することができる。
【0079】
かかる内側断熱層31の外層となる外側遮水層32は、不透水性材料で形成されており、さらに、既設管5の屈曲部における曲率半径の差に追従しうるように、柔軟性を備えたものとされている。外側遮水層32の構成材料は、不透水性及び柔軟性を有する材料であれば特に限定されず、フィルム材やシート材であることが好ましい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、エラストマー、若しくは合成ゴム等、又は25〜30℃の常温で低弾性率を示す合成樹脂系材料を外側遮水層32の構成材料として用いることができる。
【0080】
ライニング材1は、補修対象箇所の直近のマンホールM1、M2の間隔が短い場合には、ライナー基材2の外面側に外面被覆材層3aを配置させて、ライナー基材2と外面被覆材層3aとを組み合わせた状態で既設管5内に挿入することが可能である。また、マンホールM1、M2の間隔が長い場合には、既設管5内へ外面被覆材層3aを挿入後、ライナー基材2を既設管5及び外面被覆材層3aの内側へ挿入することが好ましく、適正な位置にそれぞれを配置することができる。
【0081】
このようなライニング材1において、ライナー基材2及び外面被覆材層3aが上記構成とされることにより、老朽化した既設管5を好適にライニングすることが可能となる。つまり、内側断熱層31は、浸入水等の存在する既設管5内の低温環境によってライナー基材2が冷やされるのを防ぐとともに加熱の際の熱損失を防ぎ、ライナー基材2を十分に昇温させることを可能にする。また、外側遮水層32は、ライナー基材2が浸入水等に接触して冷やされるのを防ぐ。よって、加熱工程においては、外面被覆材層3aが断熱性能と遮水性能との両方を発揮することで、ライナー基材2を構成している熱可塑性フィラメントの略全体を略均一に加熱することができる。
【0082】
その結果、ライニング材1に対する加熱が均一化され、比較的短時間で、ライナー基材2の熱可塑性フィラメントの全体を溶融させることが可能になり、熱可塑性材料(プラスチック材料)の中に補強繊維フィラメントを分散させた構成をライニング材1の全体に亘って得るための施工時間(加熱時間)の短縮化を図ることができる。また、ライニング材1に対する加熱の均一化により、熱可塑性フィラメントに溶け残りが生じることがなくなり、また、熱可塑性フィラメントの一部分が過剰加熱されて流動してしまうといったことも回避できる。
【0083】
なお、外面被覆材層3aは、熱可塑性フィラメントを構成する熱可塑性材料の融点よりも高い融点の熱可塑性材料からなる内側断熱層31と、この内側断熱層31の外周側に形成されて不透水性材料からなる外側遮水層32とを含む構成であれば、上記のように二層構造に限らず、三層以上の層が形成されたものであってもよい。また、外面被覆材層3aは、ライナー基材2に対する断熱層を外側に設け、遮水層を内側に設ける構成であってもよい。また、外面被覆材層3aに、既設管5とライナー基材2との間の断熱及び遮水作用を持たせることにより、加熱装置6の補助用ピグ62を用いなくとも、十分にライナー基材2を加熱することも可能である。
【0084】
また、図4に示すように、ライニング材1には、ライナー基材2の内面に熱可塑性樹脂フィルム等からなる被覆層21が設けられてもよい。図4は、上記のライニング材1の変形例であり、被覆層21が設けられた例を示す断面図である。
【0085】
この場合、被覆層21は、筒状に形成されて、ライナー基材2の内周面にあらかじめ挿入される。ライナー基材2に被覆層21を挿入した状態で加熱工程および拡径工程を経ることによって、被覆層21は、ライナー基材2の内周面に融着して一体化される。被覆層21は、ライナー基材2の内周面を被覆して平滑面を形成し、遮水性及び流水性を高める。
【0086】
なお、このような被覆層21をライナー基材2に一体化させる方法として、ライニング材1の拡径手段である拡径用チューブ81に代えて、チューブ状に形成した被覆層21を用い、拡径工程を兼ねた方法をとることも可能である。すなわち、被覆層21としてチューブ状に形成した内面被覆材を、流体圧により内面被覆材の内周面が外周側となるように反転させつつライナー基材2の内面に挿入していき、これを拡径させることにより、ライナー基材2に対して一体化する。これにより、拡径工程を行うと同時に、ライナー基材2の内周面に被覆層21を形成することが可能となる。
【0087】
<実施形態2>
次に、本発明の実施形態2に係る管状ライニング材について説明する。図5は、実施形態2に係るライニング材1を示す断面図であり、図6は実施形態2に係るライニング材1を用いて既設管5をライニングした状態を示す断面図である。
【0088】
前記実施形態1では、ライニング材1において二層構造からなる外面被覆材層3aについて示したが、本実施形態では外面被覆材層3aが単層からなる例を示す。なお、ライニング材1のライナー基材2の構成については、前記実施形態1と同様であるため、実施形態1と同じ符号を用いて示し、詳細な説明を省略する。
【0089】
図5に示すように、ライニング材1の外面被覆材層3aは、単層からなる管状体で構成されている。この外面被覆材層3aは、ライナー基材2の熱可塑性フィラメントの構成材料の融点よりも高融点の熱可塑性材料からなる熱可塑性樹脂層33を備える。
【0090】
熱可塑性樹脂層33の構成材料には、断熱効果の高い塩化ビニル樹脂や、ウレタン樹脂などの独立気泡を有する発泡成形体を用いることができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂発泡シート材が好ましい。このポリエチレンテレフタレート樹脂発泡シート材の場合、融点が240℃であり、熱伝導率が0.03W/(m・K)である。熱可塑性樹脂層33としては、0.9mmの厚さを有するポリエチレンテレフタレート樹脂発泡シート材を用いることができる。
【0091】
図6は、ライニング材1の加熱工程及び拡径工程を経た状態を示す。このような熱可塑性樹脂層33からなる外面被覆材層3aは、内装されたライナー基材2の加熱工程においても溶融することがなく、ライナー基材2に対する既設管5内の低温環境からの影響を遮断して、十分な加熱及び昇温を可能にする。また、外面被覆材層3aそのものが遮水性を有するため、既設管5に浸入水等が存在するような場合でも、浸入水等が外面被覆材層3aの内側へ浸入するのを防ぐ。
【0092】
その結果、ライニング材1により、加熱工程においてはライナー基材2を構成している熱可塑性フィラメントの略全体を略均一に加熱することができ、比較的短時間で、ライナー基材2の熱可塑性フィラメントの全体を溶融させることが可能になり、熱可塑性材料の中に補強繊維フィラメントを分散させた構成をライニング材1の全体に亘って得るための施工時間の短縮化を図ることができる。また、外面被覆材層3aは単層で構成されるので、材料の成形性がよく、取り扱いも容易であり、生産性も高めることができる。
【0093】
さらに、外面被覆材層3aの変形例として、水と反応して発熱する発熱剤を含有する材料からなる熱可塑性樹脂層33を備えさせてもよい。この場合、外面被覆材層3aは、既設管5とライナー基材2との間で発熱することで、ライナー基材2を加熱することが可能である。水と反応する発熱剤には、例えば塩化カルシウム等を用いることができる。
【0094】
この場合、発熱剤を均一に分散させた熱可塑性材料からなる不織布を用いて外面被覆材層3aを筒状に形成する。さらに、かかる外面被覆材層3aの表裏両面に低強度かつ低融点の薄膜フィルムが積層されていることが好ましい。これにより、外面被覆材層3aの発熱性、及び既設管5への施工容易性を確保するとともに、積層された薄膜フィルムが遮水性を発揮して作業性を低下させることなく好適に既設管5を更生することができる。また、外面被覆材層3aによりライナー基材2を外周面側からも加熱することができ、老朽化した既設管5を安全かつ効率よく更生することができる。
【0095】
<実施形態3>
次に、本発明の実施形態3に係る管状ライニング材について説明する。図7は実施形態3に係るライニング材1を示す断面図であり、図8は、図7のライニング材1を用いて既設管5をライニングした状態を示す断面図である。図9は、図7のライニング材1を用いて既設管5の内壁をライニングする更生方法を模式的に示した説明図である。
【0096】
前記実施形態1、2では、ライニング材1のライナー基材2に外面被覆材層3aを外装させた構成について示したが、本実施形態ではライナー基材2の内面に被覆層3である内面被覆材層3bを設けた例について示す。なお、ライニング材1のライナー基材2の構成については、前記実施形態1と同様であるため、実施形態1と同じ符号を用いて示し、詳細な説明を省略する。
【0097】
図7に示すように、ライニング材1は、被覆層3として内面被覆材層3bを備える。内面被覆材層3bは、ライナー基材2に内装される筒状体であり、ライナー基材2の内面を被覆し、ライナー基材2の熱可塑性フィラメントの構成材料の融点よりも高融点である熱可塑性材料からなる。これにより、ライニング材1の加熱工程では、ライニング材1に加えられた熱でライナー基材を溶融させ、その後、ライナー基材2に内装された内面被覆材層3bを溶融又は軟化させることが可能となる。ライナー基材2と内面被覆材層3bとは、必ずしも一体化されている必要はなく、適宜組み合わせられて、加熱工程及び拡径工程により溶融されて一体化される。
【0098】
内面被覆材層3bはまた、通気性を有する。内面被覆材層3bに通気性を備えさせるため、織布、組布、編布、フェルト、又は不織布等の多孔体を用いて内面被覆材層3bを形成することが好ましい。これにより、内面被覆材層3bは、織布等の織り目や繊維の間隙を通して、熱・空気・水分等を通過させることができる。この場合、内面被覆材層3bは、筒状布帛であるライナー基材2の内面に縫合して固定することが可能である。
【0099】
このような内面被覆材層3bは、ライニング材1の加熱工程において、ライナー基材2に対する加熱作用を妨げない。すなわち、ライニング材1の内面側から作用させる加熱蒸気等が内面被覆材層3bを通過してライナー基材2をも加熱する。このとき、加熱温度をライナー基材2の熱可塑性フィラメントの構成材料に対応させて設定することで、ライナー基材2の熱可塑性材料だけを溶融させることができる。また、ライナー基材2の熱可塑性材料を溶融後、さらに加熱温度を上げることで、続いて内面被覆材層3bを溶融又は軟化させることができ、この加熱により内面被覆材層3bの間隙が閉塞されてライナー基材2を覆うものとなる。
【0100】
内面被覆材層3bは、多数の開孔を有する、有孔シート材又は有孔フィルム材から構成されてもよい。この場合、内面被覆材層3bは、多数の開孔を通して、熱・空気・水分等を通過させることが可能であるので、ライナー基材2に対する加熱を阻害しない。また、加熱工程にて内面被覆材層3bを溶融させることにより、内面被覆材層3bの開孔が閉塞されてライナー基材2を覆うものとなる。
【0101】
かかる内面被覆材層3bは、ライナー基材2の熱可塑性フィラメントの構成材料の融点よりも高融点である熱可塑性材料であって通気性を備えた構成であれば、プラスチック材料に限定されず、例えばゴム等のエラストマーも構成材料として採用することができる。
【0102】
ライニング材1を内面側から加熱する際、内面被覆材層3bの通気度が小さすぎると、自然な空気の出入りが困難となり、ライナー基材2に対する加熱を阻害するおそれがあるが、内面被覆材層3bの通気度が大きすぎると、空隙部が大きくなりライナー基材2に対する保護作用が低下する。そこで、このような内面被覆材層3bに求められる通気性として、JIS L 1096に規定されるフラジール形試験法により測定される加熱溶融前のフラジール通気度が、1000〜30000cm3/cm2・minであることが望ましい。
【0103】
また、内面被覆材層3bによりライナー基材2によるライニング層を好適に被覆し、水密性や耐腐食性を確保するため、内面被覆材層3bは、加熱溶融後の単位面積当たりの体積が0.003〜0.05cm/cmであることが望ましい。
【0104】
ライニング材1におけるライナー基材2と内面被覆材層3bとの構成例を以下に示す。
【0105】
(構成例1)
ライナー基材2は、ポリプロピレン(融点160℃)からなる熱可塑性フィラメントと、強化材としてのガラス繊維フィラメントとの複合材料で構成される。
【0106】
これに対し、内面被覆材層3bは、ポリエチレンテレフタレート不織布を用いて形成され、厚さが0.5mm、通気度が3000cm3/cm2・minとされる。ポリエチレンテレフタレートの融点は、概ね250〜260℃であり、ライナー基材2の熱可塑性材料よりも高融点である。
【0107】
(構成例2)
ライナー基材2は、構成例1と同様に、ポリプロピレン(融点160℃)からなる熱可塑性フィラメントと、ガラス繊維フィラメントとの複合材料で構成される。
【0108】
これに対し、内面被覆材層3bは、ポリプロピレンの平織り織布を用いて形成される。ここで、内面被覆材層3bの構成材料は、ライナー基材2の熱可塑性材料(ポリプロピレン)と同じ材料であっても、融点を165〜170℃と、ライナー基材2の熱可塑性材料よりも高いポリプロピレンを選択すればよい。この内面被覆材層3bは、厚さが0.8mm、通気度が20000cm3/cm2・minとされる。
【0109】
(構成例3)
ライナー基材2は、構成例1と同様に、ポリプロピレン(融点160℃)からなる熱可塑性フィラメントと、ガラス繊維フィラメントとの複合材料で構成される。
【0110】
これに対し、内面被覆材層3bは、ポリプロピレン(融点165〜170℃)の繊維束材料を用いて形成される。この内面被覆材層3bは、厚さが0.83m、通気度が5000cm3/cm2・minとされる。
【0111】
(構成例4)
ライナー基材2は、構成例1と同様に、ポリプロピレン(融点160℃)からなる熱可塑性フィラメントと、ガラス繊維フィラメントとの複合材料で構成される。
【0112】
これに対し、内面被覆材層3bは、ナイロン6(融点220〜225℃)の穴あきシート材を用いて形成される。この内面被覆材層3bは、厚さが0.6m、通気度が10000cm3/cm2・minとされる。
【0113】
このように構成されるライニング材1により、更生後の既設管5は、下水等の酸性成分を含有する流体に対する耐腐食性が高められ、腐食による強度低下のおそれがなくなり、更生後の管内を長期的に良好な状態で維持することが可能となる。
【0114】
(既設管の更生方法)
実施形態3に係るライニング材1を用いて既設管5を更生する方法も、前記実施形態1で説明した各工程を経て同様に行われる。つまり、図9に示すように、ライニング材1を、既設管5の補修対象箇所に挿入し、加熱手段としての加熱装置6が設置される。
【0115】
この場合、加熱装置6を、ライニング材1に対して内外両面から加熱するよう配置する。すなわち、ライニング用ピグ61を内面被覆材層3bの内側に配置し、筒状の補助用ピグ62をライナー基材2の外側に配置する。ライニング用ピグ61は、内面被覆材層3bの内周側から加熱蒸気等によりライニング材1を加熱し、ライナー基材2の熱可塑性フィラメントを溶融する。また、補助用ピグ62は、ライナー基材2の外周面を加熱し、外周側から熱可塑性フィラメントの溶融を補助する(加熱工程)。加熱手段としては、これに限定されず、加熱ガス、蒸気、赤外線等による加熱や、加熱及び膨張するバッグ材等の各種の加熱手段を用いることができる。
【0116】
この加熱工程では、ライニング材1における内面被覆材層3bの熱可塑性材料の融点未満の温度で加熱する。これにより、内面被覆材層3bを溶融させない状態で、ライナー基材2の熱可塑性フィラメントを溶融させることができる。そして、ライナー基材2が補強繊維フィラメントを混合した繊維強化樹脂層を形成するものとなる。
【0117】
次いで、加熱温度を上げ、内面被覆材層3bを構成する熱可塑性材料の融点以上の温度で加熱する。これにより、内面被覆材層3bは溶融する。内面被覆材層3bが溶融すると、内面被覆材層3bの間隙又は開孔が閉塞されるので、溶融した内面被覆材層3bがライナー基材2の内面を覆って保護するものとなる。
【0118】
また、このような加熱工程により、ライナー基材2を構成している熱可塑性フィラメントの略全体を略均一に加熱することができる。その結果、ライニング材1に対する加熱が均一化され、比較的短時間で、ライナー基材2の熱可塑性フィラメントの全体を溶融させることが可能になり、熱可塑性材料(プラスチック材料)の中に補強繊維フィラメントを分散させた構成をライニング材1の全体に亘って得るための施工時間(加熱時間)の短縮化を図ることができる。また、ライニング材1に対する加熱の均一化により、熱可塑性フィラメントに溶け残りが生じることがなくなり、また、熱可塑性フィラメントの一部分が過剰加熱されて流動してしまうといったことも回避できる。
【0119】
ライニング材1は、加熱工程の後、前記拡径工程及び冷却工程を経て、既設管5の内壁をライニングするものとなる。更生された既設管5は、ライナー基材2によるライニング層が内面被覆材層3bに覆われて露出せず、管内の流体に曝されることがない。したがって、かかるライニング材1により更生された既設管5は、下水等の酸性成分を含有する流体に対する耐腐食性が高められ、摩耗や腐食による強度低下のおそれがなくなり、更生後の管内を長期的に良好な状態で維持することが可能となる。
【0120】
なお、本発明に係る管状ライニング材1、及び既設管の更生方法は、上記の実施形態以外にも他の様々な形で実施することができる。例えば、ライニング材1における外面被覆材層3aは上記実施形態に限定されるものではなく、単層であっても、二層、三層以上の複層構造であってもよい。また、内面被覆材層3bは、構成材料が、2種類以上の熱可塑性材料の混合物であってもよく、熱可塑性材料と無機材料の複合材料であってもよい。また、図10に示すように、ライニング材1は、ライナー基材2の被覆層3として、外面被覆材層3aと内面被覆材層3bとの両方を備えた構成であってもよい。そのため、上記の実施形態はあくまでも例示であって、限定的なものではない。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、既設管の内面をライニングして更生する場合に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0122】
1 管状ライニング材
2 ライナー基材
3 被覆層
3a 外面被覆材層
31 内側断熱層
32 外側遮水層
33 熱可塑性樹脂層
3b 内面被覆材層
5 既設管
6 加熱装置
61 ライニング用ピグ
62 補助用ピグ
8 反転機
81 拡径用チューブ
9 ウィンチ
91 牽引用ワイヤ
M1、M2 マンホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設管の内壁をライニングする管状ライニング材であって、
熱可塑性フィラメント及び補強繊維フィラメントを含む複合材料からなる筒状布帛のライナー基材と、
前記ライナー基材を被覆し、前記熱可塑性フィラメントを構成している熱可塑性材料の融点よりも高融点である熱可塑性材料を含有する被覆層とを備えることを特徴とする管状ライニング材。
【請求項2】
請求項1に記載の管状ライニング材において、
前記被覆層は、
前記ライナー基材に外装され、既設管の内径よりも小さい外径を有する筒状の外面被覆材層であることを特徴とする管状ライニング材。
【請求項3】
請求項2に記載の管状ライニング材において、
前記外面被覆材層は、複数の層が一体化された複層構造であり、
前記熱可塑性材料により形成されて断熱性を有する内側断熱層と、この内側断熱層の外周側に形成されて不透水性材料からなる外側遮水層とを含むことを特徴とする管状ライニング材。
【請求項4】
請求項3に記載の管状ライニング材において、
前記外面被覆材層は、前記内側断熱層が織布、組布、編布、フェルト、又は不織布のいずれかからなることを特徴とする管状ライニング材。
【請求項5】
請求項4に記載の管状ライニング材において、
前記内側断熱層は、ポリエチレンテレフタレート繊維又は酢酸セルロース繊維からなることを特徴とする管状ライニング材。
【請求項6】
請求項3に記載の管状ライニング材において、
前記外面被覆材層は、前記内側断熱層が独立気泡を有する発泡成形体であることを特徴とする管状ライニング材。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか一つの請求項に記載の管状ライニング材において、
前記外面被覆材層は、前記外側遮水層が柔軟性を有する不透水性フィルム材からなることを特徴とする管状ライニング材。
【請求項8】
請求項7に記載の管状ライニング材において、
前記外側遮水層は、常温で低弾性率である合成樹脂系材料により形成されていることを特徴とする管状ライニング材。
【請求項9】
請求項2に記載の管状ライニング材であって、
前記外面被覆層は、水と反応する発熱剤を含有する発熱管状体であって、既設管とライナー基材との間で発熱し、前記ライナー基材を加熱することを特徴とする管状ライニング材。
【請求項10】
請求項9に記載の管状ライニング材において、
前記発熱管状体は、発熱剤を均一に分散させた発熱剤を均一に分散させた織布、組布、編布、フェルト、又は不織布のいずれかからなる層を含むことを特徴とする管状ライニング材。
【請求項11】
請求項1に記載の管状ライニング材であって、
前記被覆層は、
前記ライナー基材に内装され、間隙又は開孔を備えて通気性を有する一方、加熱溶融により前記間隙又は開孔が閉塞されうる筒状の内面被覆材層であることを特徴とする管状ライニング材。
【請求項12】
請求項11に記載の管状ライニング材において、
前記内面被覆材層は、織布、組布、編布、フェルト、又は不織布のいずれかからなることを特徴とする管状ライニング材。
【請求項13】
請求項11に記載の管状ライニング材において、
前記内面被覆材層は、有孔シート材又は有孔フィルム材からなることを特徴とする管状ライニング材。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれか一つの請求項に記載の管状ライニング材において、
前記内面被覆材層は、加熱溶融前のフラジール通気度が1000〜30000cm/cm・秒であることを特徴とする管状ライニング材。
【請求項15】
請求項11〜14のいずれか一つの請求項に記載の管状ライニング材において、
前記内面被覆材層は、加熱溶融後の単位面積当たりの体積が0.003〜0.05cm/cmであることを特徴とする管状ライニング材。
【請求項16】
既設管の内壁に管状ライニング材によるライニング層を形成して更生する既設管の更生方法であって、
前記管状ライニング材は、熱可塑性フィラメント及び補強繊維フィラメントを含む複合材料からなるライナー基材と、このライナー基材を被覆し、前記熱可塑性フィラメントを構成している熱可塑性材料の融点よりも高融点である熱可塑性材料を含有してなる被覆層とを備え、
この管状ライニング材を既設管内の補修対象箇所に挿入して配置する挿入工程と、
前記管状ライニング材の内側若しくは外側、又は内外両側に加熱手段を配設し、加熱手段を移動させつつ前記管状ライニング材を加熱して軟化又は溶融させる加熱工程と、
軟化又は溶融した管状ライニング材を拡径手段により内側から加圧して拡径させ、前記ライナー基材と被覆層とが一体化したライニング層を成形する拡径工程と、
成形したライニング層を冷却して既設管の内周面に沿って硬化させる工程とを有することを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項17】
請求項16に記載の既設管の更生方法において、
前記加熱工程では、前記被覆層の熱可塑性材料の融点未満の温度で加熱して前記ライナー基材を軟化させた後、加熱温度を上げて前記被覆層を溶融又は軟化させることを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項18】
請求項16に記載の既設管の更生方法において、
前記管状ライニング材は、前記被覆層をライナー基材に内装させる構成であり、
前記挿入工程では、先ず前記ライナー基材を既設管内に配置し、その後、前記被覆層に流体圧を作用させて、当該被覆層の内周面が外周側となるように反転させながら既設管内のライナー基材の内側へ挿入することを特徴とする既設管の更生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−25675(P2011−25675A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135258(P2010−135258)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】