説明

管状ワーク用引抜加工装置

【課題】管状ワークの外表面を高平滑面に加工することができる管状ワーク用引抜加工装置を提供する。
【解決手段】引抜加工装置10の引抜ダイス20は、ワーク40が縮径加工されながら離れる第1曲面部1Cと、ダイスベアリング部2Bと、ダイスベアリング部2Bの上流端F1に滑らかに連なる第2曲面部2Cを有する案内部2Dと、を備える。案内部2Dは、第1曲面部1Cから離れたワーク40と再接触して該ワーク40を縮径加工しながらダイスベアリング部2Bへ案内するものである。ワーク引抜方向Nにおいて、引抜プラグ30のプラグベアリング部3Bの中央位置G3は、ダイスベアリング部2Bの上流端F1からダイスベアリング部2Bの長さL4の20%までの上流領域2Baに配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高平滑な外表面を有する引抜管を得ることができる管状ワーク用引抜加工装置及び管状ワークの引抜加工方法に関する。
【0002】
なお本明細書及び特許請求の範囲において、「アルミニウム」の語は、特に示さない限り純アルミニウム及びアルミニウム合金の両方を含む意味で用いる。また、「上流」及び「下流」とは、それぞれワークの引抜方向の上流及び下流を意味している。
【背景技術】
【0003】
従来、外表面の表面粗さRyが1.0〜3.0μm程度のアルミニウム管は、例えば、アルミニウム素材(例:アルミニウムビレット)を順次押出加工及び引抜加工することにより製造されていた。こうして得られた引抜管は「ED(Extrusion Drawing)管」と呼ばれている。この引抜管は、例えば電子写真装置(複写機、レーザビームプリンタ等)の感光ドラム基体に用いられている。
【0004】
而して、特開2005−118799号公報には、管状ワークとしての金属管の外径を縮径加工する引抜ダイスを具備した引抜加工装置(縮径加工装置)が開示されている(特許文献1参照)。この引抜加工装置は、管の内表面を加工するための引抜プラグを具備しておらず、すなわち空引き方式を採用したものであり、そのため引抜加工によって管の肉厚が増大するという特徴を有している。この引抜加工装置の目的は、引抜プラグを用いないで管の肉厚の増大を抑制するとともに、引抜加工時に管の外表面に発生するチャタリングマークを防止することにある。
【0005】
特開平8−66715号公報には、管を製造する方法でなく中実な線材又は棒材を引抜加工により製造する方法が開示されている(特許文献2参照)。この方法で用いられるワークは、管状のものではなく中実なものである。したがって、この方法に用いられる引抜加工装置は、引抜プラグを具備する必要のないものである。
【0006】
また、特開平5−285528号公報及び特開2007−75531号公報には、引抜プラグを用いて管状ワークを引抜加工する場合において、ワークの外表面を高平滑面に加工する方法が開示されている(特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−118799号公報
【特許文献2】特開平8−66715号公報
【特許文献3】特開平5−285528号公報
【特許文献4】特開2007−75531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
而して、引抜管は様々な用途に用いられるものであるが、例えば上述した感光ドラム基体に用いられる引抜管は、その外表面が鏡面状態であることが望ましい。そこで従来では、管の外表面を切削加工することにより、管の外表面を鏡面状態にしていた。このように外表面が切削加工された引抜管は「切削管」と呼ばれている。一方、外表面が切削加工されていない引抜管は「無切削管」と呼ばれている。
【0009】
切削管は、管の外表面を切削加工する必要があるため、製造コストが高くつくという欠点があった。したがって、製造コストを低くするためには、切削管ではなく無切削管を用いることが望ましい。
【0010】
しかしながら、無切削管は、その外表面に引抜加工時に生じた凹状欠陥としてのオイルピットが多数存在している。そのため、表面粗さRyが例えば1.0μm以下といった高平滑な外表面を有する無切削管を得ることは非常に困難であった。
【0011】
そこで本発明者らは、引抜加工においてオイルピットが生じる原因について鋭意研究したところ、次のような知見を得た。この知見について図5及び6を参照して以下に説明する。なお図5及び6では、管状ワーク40は他の部材と区別し易くするためドットハッチングで示している。
【0012】
図5において、110は、従来の管状ワーク用引抜加工装置である。この引抜加工装置110は、ワーク40の外表面40aを加工する引抜ダイス120と、ワーク40の内表面40bを加工する引抜プラグ130とを含む引抜加工工具111を具備している。
【0013】
図6に示すように、引抜ダイス120のダイス孔121の周面において、ダイスアプローチ部101Aの下流端に縦断面円弧状の曲面部101C(その曲率半径R1)が滑らかに連なって形成されており、さらに、ダイスベアリング部101Bの上流端F1にこの曲面部101Cが滑らかに連なって形成されている。ダイスアプローチ部101Aと曲面部101Cは、ワーク引抜方向Nの下流側に向かってその直径が漸次減少するように形成されている。また、引抜ダイス120のダイス軸Xを含む断面において、ダイス軸Xに対する曲面部101Cの接線の傾きは、ワーク引抜方向Nに進むにつれて漸次小さくなっている。ダイスベアリング部101Bは、ダイス軸Xと略平行に形成されている。F2は、ダイスベアリング部101Bの下流端である。L4は、ダイスベアリング部101Bの長さである。L1は、ダイスアプローチ部101Aと曲面部1Cとを合計した、ダイス軸Xと平行な方向の長さである。102Eは、引抜ダイス120のリリーフ部である。L5は、リリーフ部102Eのダイス軸Xと平行な方向の長さである。
【0014】
引抜プラグ130は、引抜プラグ130を支持する支持棒131の先端部に設けられるとともに、ワーク40の中空部40c内に配置されている。引抜プラグ130の周面には、プラグアプローチ部103Aとプラグベアリング部103Bとが形成されている。プラグベアリング部103Bは、ダイスベアリング部101Bに対向して配置されている。プラグベアリング部103Bの長さL6は、ダイスベアリング部101Bの長さL4よりも短く設定されている(即ち、L6<L4)。プラグアプローチ部103Aとプラグベアリング部103Bとの間の角部は丸く面取り加工されており、そのため、この角部に縦断面円弧状の曲面部103C(その曲率半径R3)が形成されており、すなわち、プラグアプローチ部103Aとプラグベアリング部103Bとが曲面部103Cを介して滑らかに連らなっている。G1及びG2は、それぞれプラグベアリング部103Bの上流端及び下流端である。Dpは、プラグベアリング部103Bの直径である。
【0015】
この引抜加工装置110を用いて管状ワーク40を引抜加工する場合、ワーク40は、引抜ダイス120のダイスアプローチ部101A又は曲面部101Cに接触して曲面部101Cにより縮径加工されながら曲面部101Cからダイスベアリング部101Bへ案内される。そして、該ワーク40がダイスベアリング部101Bと引抜プラグ130のプラグベアリング部103Bとの間を通過することにより、ワーク40の外表面40a及び内表面40bがダイスベアリング部101B及びプラグベアリング部103Bによって同時に仕上げ加工される。この仕上げ加工のとき、ワーク40はダイスベアリング部101Bとプラグベアリング部103Bとにより加圧されて、ワーク40の肉厚が減少する。このようなワーク40の材料流動を経て引抜管41が得られる。
【0016】
このようなワーク40の材料流動において、従来では、一般に、引抜加工の教科書に記載されているように、引抜ダイス120の曲面部101Cに接触したワーク40は、曲面部101Cに接触した状態のままで曲面部101Cからダイスベアリング部101Bへ案内されるものと考えられていた。しかしながら、実際の引抜加工ではそのようなワーク40の材料流動は生じず、すなわち、図6に示すように、曲面部101Cに接触したワーク40は、曲面部101Cからダイスベアリング部101Bへ案内される際に曲面部101Cから一旦離れ、そしてダイスベアリング部101Bに再接触していた。そのため、ワーク40が曲面部101Cからダイスベアリング部101Bへ移動する途中で、ワーク40が過度に縮径加工される。これにより、ワーク40の外表面40aが縦断面円弧状に凹んで該外表面40aに激しい微細な凹凸(図示せず)が多数発生する。この激しい凹凸の凹部に引抜加工用潤滑油(図示せず)が溜まる。そしてこの状態のままでワーク40がダイスベアリング部101Bとプラグベアリング部103Bとの間を通過することにより、ワーク40の外表面40a及び内表面40bがダイスベアリング部101B及びプラグベアリング部103Bにより加圧され、その結果、引抜管41の外表面41aに多数の微細なオイルピット(図示せず)が発生する。このような多数のオイルピットが原因で引抜管41の外表面41aが粗くなる。以上のような知見を発明者らは得ることができた。
【0017】
なお、上述した特開平5−285528号公報及び特開2007−75531号公報は、ワークの外表面を高平滑面に加工するための、引抜ダイスに対する引抜プラグの配置位置や引抜プラグの各部位の寸法についての好ましい設定条件を開示している。しかるに、本発明の引抜ダイスは従来の引抜ダイスとは形状が異なるため、この設定条件を本発明に対して適用することは適切ではないと思われる。
【0018】
本発明は、上記技術背景と発明者らが得た上記知見とに基づいてなされたもので、その目的は、管状ワークの外表面を高平滑面に加工することができる管状ワーク用引抜加工装置及び管状ワークの引抜加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は以下の手段を提供する。
【0020】
[1] 管状ワークの外表面を加工する引抜ダイスと、前記ワークの中空部内に配置されるとともにワークの内表面を加工する引抜プラグとを具備し、
前記引抜ダイスは、
ワークが縮径加工されながら離れる第1曲面部と、
前記第1曲面部におけるワーク離れ位置よりも内側且つ下流側に配置されたダイスベアリング部と、
前記ダイスベアリング部の上流端に滑らかに連なる第2曲面部を有するとともに前記第1曲面部から離れたワークと再接触して該ワークを縮径加工しながら前記ダイスベアリング部へ案内する案内部と、
を備えており、
前記引抜プラグは、前記ダイスベアリング部の長さよりも短いプラグベアリング部を備えており、
ワークの引抜方向において、前記プラグベアリング部の中央位置が、前記ダイスベアリング部の上流端からダイスベアリング部の長さの20%までの上流領域に配置されていることを特徴とする管状ワーク用引抜加工装置。
【0021】
[2] ワーク引抜方向において、前記プラグベアリング部の上流端が前記ダイスベアリング部の上流端に対して同じ位置か又は下流側に配置されている請求項1記載の管状ワーク用引抜加工装置。
【0022】
[3] 前記プラグベアリング部の長さが、前記ダイスベアリング部の長さの20%以下に設定されている前項1又は2記載の管状ワーク用引抜加工装置。
【0023】
[4] 前記プラグのプラグアプローチ角が10〜20°の範囲に設定されている前項1〜3のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
【0024】
[5] 前項1〜4のいずれかに記載の引抜加工装置を用いて管状ワークを引抜加工することを特徴とする管状ワークの引抜加工方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明は以下の効果を奏する。
【0026】
[1]の発明では、管状ワークは引抜ダイスの第1曲面部により縮径加工されながら、案内部に向かって誘導されるように第1曲面部から離れる。そして、該ワークは案内部に再接触して案内部により縮径加工されながら案内部からダイスベアリング部へ案内されて、ワークがダイスベアリング部と引抜プラグのプラグベアリング部との間を通過する。これにより、ワークの内表面及び外表面がそれぞれ加工される。
【0027】
上記のようなワークの材料流動において、引抜ダイスのダイスベアリング部は第1曲面部におけるワーク離れ位置よりも内側に配置されているので、ワークが第1曲面部からダイスベアリング部へと移動する間にワークが過度に縮径加工されるのを防止することができる。
【0028】
さらに、ダイスベアリング部の上流端に案内部の第2曲面部が滑らかに連なっているので、案内部に再接触したワークはこの第2曲面部を通ってダイスベアリング部に向かって円滑に移動することができる。
【0029】
さらに、引抜プラグのプラグベアリング部の長さが引抜ダイスのダイスベアリング部の長さよりも短く設定されることにより、プラグベアリング部とダイスベアリング部との両部位からワークにその外表面を高平滑面に加工するのに必要な圧力を確実に与えることができる。
【0030】
以上の効果が相乗的に作用することにより、ワークの外表面を高平滑面に加工することができる。
【0031】
さらに、ワークの引抜方向において、プラグベアリング部の中央位置は、ダイスベアリング部の上流端からダイスベアリング部の長さの20%までの上流領域に配置されることにより、ワークの外表面を確実に高平滑面に加工することができる。
【0032】
[2]の発明では、ワーク引抜方向において、プラグベアリング部の上流端がダイスベアリング部の上流端に対して同じ位置か又は下流側に配置されることにより、ワークの外表面を更に確実に高平滑面に加工することができる。
【0033】
[3]の発明では、プラグベアリング部の長さがダイスベアリング部の長さの20%以下に設定されることにより、ワークの外表面を更に確実に高平滑面に加工することができる。
【0034】
[4]の発明では、プラグアプローチ角が10〜20°の範囲に設定されることにより、ワークの外表面を更に確実に高平滑面に加工することができる。
【0035】
[5]の発明では、管状ワークの外表面を確実に高平滑面に加工することができ、もって高平滑な外表面を有する引抜管を確実に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る管状ワーク用引抜加工装置の概略全体図である。
【図2】図2は、同引抜加工装置を用いてワークを引抜加工している途中の状態における引抜ダイス及び引抜プラグの断面図である。
【図3】図3は、図2の拡大図である。
【図4】図4は、同引抜加工装置の引抜プラグのプラグベアリング部の長さが0mmの場合における、図2に対応する断面図である。
【図5】図5は、従来の引抜加工装置を用いてワークを引抜加工している途中の状態における引抜ダイス及び引抜プラグの断面図である。
【図6】図6は、図5の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
次に、本発明の幾つかの実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0038】
図1〜4は、本発明の一実施形態に係る管状ワーク用引抜加工装置を説明する図である。これらの図において、10は本実施形態の引抜加工装置である。
【0039】
この引抜加工装置10は、図1及び2に示すように、管状ワーク40を引抜加工するものである。この引抜加工装置10によって管状ワーク40が引抜加工されることにより、引抜管41が製造される。この引抜管41は、外表面41aが高平滑面であることを要求される管に用いられるものであり、例えば電子写真装置(複写機、レーザビームプリンタ等)の感光ドラム基体に好適に用いられるものである。なお、感光ドラム基体の外表面にはOPC(有機光導電体)膜等の所定の膜が塗工される。したがって、ワーク40は、感光ドラム基体製造用素管として捉えることができる。なお図4において、41bは引抜管41の内表面である。
【0040】
ワーク40は、例えば、素材としての金属ビレット(例:アルミニウムビレット)を押出加工することにより得られた金属押出管(例:アルミニウム押出管)からなるものである。ワーク40の断面形状は円環状である。ワーク40の外径は例えば15〜50mm、、その肉厚は例えば0.5〜2mmに設定されている。
【0041】
ワーク40の材質は、鉄、鋼、銅、マグネシウム(その合金を含む)、アルミニウム(その合金を含む)等の金属であり、特にアルミニウムであることが望ましい。
【0042】
本実施形態では、ワーク40の縮径率を例えば10〜20%に設定してワーク40を引抜加工装置10により引抜加工し、これにより断面円環状の引抜管41が製造される。このとき、引抜管41の肉厚は、ワーク40の肉厚に対して例えば60〜90%に減少する。
【0043】
なお、ワーク40の縮径率(詳述するとワーク40の外径の縮径率)Qは、引抜加工前のワーク40の外径をD0、引抜加工後のワーク40(即ち引抜管41)の外径をD1としたとき(図2参照)、次式(1)により算出される。
【0044】
Q={1−(D1/D0)}×100% …(1)
【0045】
本実施形態の引抜加工装置10は、図1及び2に示すように、空引き方式ではなくプラグ引き方式を採用したものである。したがって、この引抜加工装置10は、引抜ダイス20と引抜プラグ30とを含む引抜加工工具11を具備しており、更に、牽引装置12、潤滑油供給装置13などを具備している。
【0046】
引抜ダイス20は、ワーク40の外表面40aを加工するものであり、ダイスホルダ(図示せず)により固定状態に保持されている。引抜ダイス20の材質は、超硬、ダイス鋼、高速度工具鋼、セラミック等である。この引抜ダイス20の詳細な構成は後述する。
【0047】
引抜プラグ30は、ワーク40の中空部40c内に配置されるとともにワーク40の内表面40bを加工するものであり、引抜プラグ30を支持する支持棒31の先端部に固定状態に設けられている。この引抜プラグ30は、ワーク引抜方向Nに延びたプラグベアリング部3Bを有する略長玉芯型のものである。引抜プラグ30の材質は、超硬、ダイス鋼、高速度工具鋼、セラミック等である。この引抜プラグ30の詳細な構成は後述する。
【0048】
図1に示すように、牽引装置12は、ワーク40を引抜方向Nに牽引するためのものであり、チャック部12aと、チャック部12aにワーク引抜方向Nの牽引力を付与する駆動源12bとを備えている。チャック部12aは、ワーク40の先端部に形成された口付け部40dをチャックするものである。駆動源12bとしては油圧シリンダ等が用いられる。なお、ワーク引抜方向Nは、引抜ダイス20のダイス軸Xに沿う方向である。
【0049】
潤滑油供給装置13は、ワーク40の外表面40aに引抜加工用潤滑油14を供給付着するものであり、潤滑油14をワーク40の外表面40aに向けて噴出するノズル13aを備えている。ノズル13aは引抜ダイス20の上流側に配置されている。
【0050】
潤滑油14としては、特に限定されるものではなく、具体的に例示すると、出光興産(株)製の商品名「ダフニーマスタードロー」、スギムラ化学工業(株)製の商品名「サンドロー」、共栄油化(株)製の商品名「ストロール」等が用いられる。また、潤滑油14の動粘度は、特に限定されるものではないが、例えば、40℃での動粘度が300〜500mm2/sであることが望ましい。
【0051】
引抜ダイス20の構成は次のとおりである。
【0052】
引抜ダイス20は、図2及び3に示すように、そのダイス孔21の内側に配置される引抜プラグ30と組み合わされて用いられるものであり、ダイスアプローチ部1Aと第1曲面部1Cと繋ぎ部1Bと案内部2Dとダイスベアリング部2Bとリリーフ部2Eとを備えている。これらの部位(1A、1C、1B、2D、2B、2E)は、引抜ダイス20のダイス孔21の周面に、ワーク引抜方向Nに順に並んで設けられている。さらに、これらの部位は、個別に分割されているのではなく、一体形成されている。また、これらの部位の表面は全て鏡面状に研磨加工されている。
【0053】
ダイスアプローチ部1Aは、ワーク引抜方向Nの下流側に向かってその直径が漸次減少するように形成されており、詳述すると円錐テーパ状に形成されている。
【0054】
ダイス軸Xに対するダイスアプローチ部1Aの傾斜角、すなわちダイスアプローチ半角θ1(図2参照)は、例えば20〜40°に設定されている。
【0055】
第1曲面部1Cは、ダイスアプローチ部1Aの下流端にダイスアプローチ部1Aに対して滑らかに連なって形成されており、すなわち第1曲面部1Cはダイスアプローチ部1Aの下流端に段差及び角が生じないように連なって形成されている。さらに、第1曲面部1Cは、ワーク引抜方向Nの下流側に向かってその直径が漸次減少するように形成されている。また、引抜ダイス20のダイス軸Xを含む断面において、ダイス軸Xに対する第1曲面部1Cの接線の傾きは、ワーク引抜方向Nに進むにつれて漸次小さくなっている。第1曲面部1Cの縦断面形状は円弧状である。なお本明細書では、縦断面とは引抜ダイス20のダイス軸Xを含む断面であり、即ち図2及び3に示した断面である。
【0056】
第1曲面部1Cの曲率半径R1は、例えば1〜10mmに設定されている。
【0057】
ダイスアプローチ部1Aと第1曲面部1Cは、最初にワーク40を縮径加工(詳述するとワーク40の外表面40aを縮径加工)する部位である。さらに、第1曲面部1Cは、ワーク40が縮径加工されながら離れる部位である。
【0058】
ダイスアプローチ部1Aと第1曲面部1Cとを合計した、ダイス軸Xと平行な方向の長さL1は、例えば10〜50mmに設定されている。
【0059】
ここで、ワーク40(詳述するとワーク40の外表面40a)がダイスアプローチ部1A又は第1曲面部1Cに最初に接触する位置を「J」とする。また、ワーク40が縮径加工されながら第1曲面部1Cから離れる位置を「K」とする。本実施形態では、ワーク40は、ダイスアプローチ部1Aではなく第1曲面部1Cに最初に接触している。なお本発明では、ワーク40はダイスアプローチ部1Aに最初に接触しても良い。
【0060】
ダイスベアリング部2Bは、第1曲面部1Cにおけるワーク離れ位置Kよりも内側(即ちダイス軸X側)且つ下流側に第1曲面部1Cに対して離間して配置されている。このダイスベアリング部2Bは、ワーク40の外表面40a及び外径寸法を仕上げ加工する部位であり、ダイス軸Xと略平行に延びて形成されている。
【0061】
ダイス軸Xに対するダイスベアリング部2Bの平行度は、±3°以内に設定されている。
【0062】
ダイスベアリング部2Bの長さL4、詳述するとダイスベアリング部2Bのダイス軸Xと平行な方向の長さL4は、例えば3〜15mmに設定されており、好ましくは5mm以上に設定されるのが良い。なお、ダイスベアリング部の長さL4とは、ダイスベアリング部2Bの上流端F1と下流端F2との間の長さである。
【0063】
引抜ダイス20の半径方向rにおいて、第1曲面部1Cにおけるワーク離れ位置Kとダイスベアリング部2Bとの間の段差H1は、様々に設定されるものであるが、好ましくは0.3mm以上3mm未満に設定されるのが良い。
【0064】
案内部2Dは、第1曲面部1Cから離れたワーク40(詳述するとワーク40の外表面40a)と再接触して該ワーク40を縮径加工しながらダイスベアリング部2Bへ案内する部位である。この案内部2Dは、ワーク引抜方向Nの下流側に向かってその直径が漸次減少するように形成されている。ここで、ワーク40が案内部2Dに再接触する位置を「M」とする。
【0065】
この案内部2Dは、ダイスベアリング部2Bの上流端F1にダイスベアリング部2Bに対して滑らかに連なる縦断面円弧状の第2曲面部2Cを有しており、更に、第2曲面部2Cの上流端に第2曲面部2Cに対して滑らかに連なる縦断面逆円弧状の補助曲面部2Aを有している。
【0066】
引抜ダイス20のダイス軸Xを含む断面において、ダイス軸Xに対する第2曲面部2Cの接線の傾きは、ワーク引抜方向Nに進むにつれて漸次小さくなっている。一方、補助曲面部2Aは、第2曲面部2Cの曲がり方向とは反対方向に曲がっている。したがって、引抜ダイス20のダイス軸Xを含む断面において、ダイス軸Xに対する補助曲面部2Aの接線の傾きは、ワーク引抜方向Nに進むにつれて漸次大きくなっている。
【0067】
案内部2Dのダイス軸Xと平行な方向の長さL3は、例えば2〜5mmに設定されている。第2曲面部2Cの曲率半径R21は、例えば1〜10mmに設定されている。補助曲面部2Aの曲率半径R22は、例えば1〜10mmに設定されている。さらに、第2曲面部2Cの曲率半径R21は、第1曲面部1Cの曲率半径R1に対して等しいか又は小さく設定されている(即ち、R21≦R1)。
【0068】
繋ぎ部1Bは、第1曲面部1Cと案内部2Dとの間に配置され、第1曲面部1Cと案内部Dとを繋ぐ部位である。本実施形態では、繋ぎ部1Bは、第1曲面部1Cと案内部2Dとを一体に繋いでいる。したがって、第1曲面部1Cと案内部2Dとは繋ぎ部1Bを介して一体形成されている。さらに、繋ぎ部1Bは、引抜加工時にワーク40と接触しないようにするため、ダイス軸Xと略平行に形成されている。さらに、繋ぎ部1Bの上流端が第1曲面部1Cの下流端に滑らかに連なっている。また、繋ぎ部1Bの下流端が案内部2D(詳述すると案内部2Dの補助曲面部2A)の上流端に滑らかに連なっている。
【0069】
繋ぎ部1Bのダイス軸Xと平行な方向の長さL2は、例えば3〜10mmに設定されている。
【0070】
引抜ダイス20の半径方向rにおいて、繋ぎ部1Bとダイスベアリング部2Bとの間の段差H2は、上記の段差H1と等しいか又は僅かに小さく設定されている(即ちH2≦H1)。しかるに、H2とH1との差は一般的に非常に小さい。したがって、H2とH1は、厳密には異なっているが、通常、等しいと捉えても良い。
【0071】
リリーフ部2Eは、引抜ダイス20のワーク出口部を形成する部位であり、ワーク40(詳述すると引抜管41)と接触しないようにするため、ワーク引抜方向Nの下流側に向かってその直径が漸次増大するように形成されている。ダイス軸Xに対するリリーフ部2Eの傾斜角、すなわちリリーフ部2Eの逃げ半角θ2(図2参照)は、例えば20〜40°に設定されている。したがって、このリリーフ部2Eは、ダイスベアリング部2Bの下流端F2に逃げ半角θ2の角度をなして連なっている。
【0072】
リリーフ部2Eのダイス軸Xと平行な方向の長さL5は、例えば2〜10mmに設定されている。
【0073】
引抜プラグ30の構成は次のとおりである。
【0074】
引抜プラグ30は、その軸が引抜ダイス20のダイス軸Xと一致して配置されており、プラグアプローチ部3Aと第3曲面部3Cとプラグベアリング部3Bとを備えている。これらの部位(3A、3C、3B)は、引抜プラグ30の周面に、ワーク引抜方向Nに順に並んで設けられている。さらに、これらの部位は、個別に分割されているのではなく、一体形成されている。また、これらの部位の表面は全て鏡面状に研磨加工されている。
【0075】
プラグベアリング部3Bは、ワーク40の内表面40b及び内径寸法を仕上げ加工する部位であり、引抜ダイス20のダイスベアリング部2Bに対応した位置に配置されており、詳述するとダイスベアリング部2Bに対向して配置されている。さらに、本実施形態では、プラグベアリング部3Bは、ダイス軸Xと略平行に延びて形成されており、したがって、プラグベアリング部3Bはダイスベアリング部2Bと略平行に配置されている。
【0076】
プラグベアリング部3Bの上流端G1と下流端G2との間の長さL6、すなわちプラグベアリング部3Bの長さL6、詳述するとプラグベアリング部3Bのダイス軸Xと平行な方向の長さL6は、ダイスベアリング部2Bの長さL4よりも短く設定されている(即ち、L6<L4)。なお、Dpは引抜プラグ30のプラグベアリング部3Bの直径である。
【0077】
ダイス軸Xに対するプラグベアリング部3Bの平行度は、±3°以内に設定されている。
【0078】
プラグベアリング部3Bの詳細な構成は後述する。
【0079】
プラグアプローチ部3Aは、ワーク引抜方向Nの下流側に向かってその直径が漸次増大するように形成されており、詳述すると円錐テーパ状に形成されている。
【0080】
ダイス軸Xに対するプラグアプローチ部3Aの傾斜角、すなわちプラグアプローチ角θ3(図2参照)は、10〜20°の範囲に設定されるのが望ましく、特に10〜15°の範囲に設定されるのが良い。
【0081】
第3曲面部3Cは、プラグアプローチ部3Aとプラグベアリング部3Bとの間に配置されるとともに、プラグアプローチ部3Aとプラグベアリング部3Bとを滑らかに繋いでいる。換言すると、プラグアプローチ部3Aとプラグベアリング部3Bとは、この第3曲面部3Cを介して滑らかに連なっている。すなわち、この第3曲面部3Cは、プラグベアリング部3Bの上流端G1にプラグベアリング部3Bに対して滑らかに連なって形成されている。さらに、この第3曲面部3Cの上流端にプラグアプローチ部3Aが滑らかに連なって形成されている。引抜プラグ30のダイス軸Xを含む断面において、ダイス軸Xに対する第3曲面部3Cの接線の傾きは、ワーク引抜方向Nに進むにつれて漸次小さくなっている。第3曲面部3Cの縦断面形状は円弧状である。
【0082】
第3曲面部3Cの曲率半径R3は、例えば10〜60mmに設定されている。
【0083】
プラグアプローチ部3Aと第3曲面部3Cは、ワーク40(詳述するとワーク40の内表面40b)と接触して該ワーク40を減肉加工しながら第3曲面部3Cからプラグベアリング部3Bへ案内する部位である。本実施形態では、ワーク40の内表面40bは、プラグアプローチ部3Aに最初に接触している。なお本発明では、ワーク40の内表面40bはプラグアプローチ部3Aではなく第3曲面部3Cに最初に接触しても良い。
【0084】
次に、プラグベアリング部3Bの詳細な構成について図3を参照して以下に説明する。
【0085】
本実施形態では、プラグベアリング部3Bはダイス軸Xと略平行に延びていることから、プラグベアリング部3Bの中央位置G3は、プラグベアリング部3Bにおけるその長さL6の丁度半分の位置である。
【0086】
ここで、プラグベアリング部3Bの中央位置G3に着目した理由は次のとおりである。引抜加工時において、ワーク40の外表面40aの面圧は、プラグベアリング部3Bの中央位置G3で高くなる。したがって、プラグベアリング部3Bの中央位置G3は、ワーク40の外表面40aの表面粗さRyに非常に大きな影響を与える重要な位置である。
【0087】
また、ダイスベアリング部2Bの上流端F1からダイスベアリング部2Bの長さL4の20%までの上流領域2Baを、ダイスベアリング部2Bの「20%上流領域2Ba」とする。さらに、上流領域2Baの長さ、詳述すると上流領域2Baのダイス軸Xと平行な方向の長さを「L4a」とする。したがって、上流領域2Baが20%上流領域の場合、(L4a/L4)×100%=20%である。また、F3は、ダイスベアリング部2Bの上流端F1からダイスベアリング部2Bの長さL4の20%下流側の位置である。したがって、20%上流領域2Baは、F1とF3との間の領域である。
【0088】
ワーク引抜方向Nにおいて、プラグベアリング部3Bの中央位置G3は、ダイスベアリング部2Bの20%上流領域2Baに配置されている。この場合において、上流領域2Baとは、上流領域2Baの上流端(F1)と下流端(F3)とを含んでいる。したがって、プラグベアリング部3Bの中央位置G3は、ダイスベアリング部2Bの上流端F1と同じ位置に配置されていても良いし、ダイスベアリング部2Bの上流端F1からダイスベアリング部2Bの長さL4の20%下流側の位置F3と同じ位置に配置されていても良いし、F1とF3との間の内側に配置されていても良い。特に好ましくは、プラグベアリング部3Bの中央位置G3は、ダイスベアリング部2Bの上流端F1からダイスベアリング部2Bの長さL4の15%までの上流領域に配置されるのが良い。
【0089】
さらに、ワーク引抜方向Nにおいて、プラグベアリング部3Bの上流端G1の位置は、ダイスベアリング部2Bの上流端F1の位置に対して同じ位置か又は下流側に配置されている。
【0090】
図3において、Sは、ダイスベアリング部2Bの上流端F1の位置に対するプラグベアリング部3Bの上流端G1の位置の下流側へのずれ量を示している。したがって、図3に示すように、ダイスベアリング部2Bの上流端F1の位置に対してプラグベアリング部3Bの上流端G1の位置が下流側にずれている場合、ずれ量Sの符号は「+(正)」である。これとは逆に、プラグベアリング部3Bの上流端G1の位置がダイスベアリング部2Bの上流端F1の位置に対して上流側にずれている場合、ずれ量Sの符号は「−(負)」である。また、プラグベアリング部3Bの上流端G1の位置がダイスベアリング部2Bの上流端F1の位置に対して同じ位置に配置されている場合、ずれ量S=0である。
【0091】
また図3において、Tは、ダイスベアリング部2Bの上流端F1の位置に対するプラグベアリング部3Bの中央位置G3の下流側へのずれ量を示している。したがって、図3に示すように、ダイスベアリング部2Bの上流端F1の位置に対してプラグベアリング部3Bの中央位置G3が下流側にずれている場合、ずれ量Tの符号は「+(正)」である。これとは逆に、プラグベアリング部3Bの中央位置G3がダイスベアリング部2Bの上流端F1の位置に対して上流側にずれている場合、ずれ量Tの符号は「−(負)」である。また、プラグベアリング部3Bの中央位置G3がダイスベアリング部2Bの上流端F1の位置に対して同じ位置に配置されている場合、ずれ量T=0である。
【0092】
さらに、プラグベアリング部3Bの長さL6は、ダイスベアリング部2Bの長さL4の20%以下(即ち0〜20%の範囲)に設定されるのが望ましく、特にL4の15%以下(即ち0〜15%の範囲)に設定されるのが望ましい。
【0093】
本実施形態の引抜加工装置10を用いて管状ワーク40を引抜加工する方法は、従来の方法と略同じであり、これを簡単に説明すると次のとおりである。
【0094】
まず、管状ワーク40の先端部にスエージング加工等によってワーク40よりも小径の口付け部40dを形成する。そして、ワーク40の中空部40c内に引抜プラグ30を挿入配置するとともに、ワーク40の先端部(即ち口付け部40d)を引抜ダイス20のダイス孔21内に挿入する。このとき、引抜プラグ30のプラグベアリング部3Bは、引抜ダイス20のダイスベアリング部2Bに対して所定の位置に配置されている。
【0095】
次いで、ワーク40の先端部の口付け部40dを牽引装置12のチャック部12aによりチャックする。そして、図1に示すように、潤滑油供給装置13のノズル13aから潤滑油14をワーク40の外表面40aに供給付着しながら、引抜速度が10〜100m/minの範囲になるようにワーク40を牽引装置12により引抜方向Nに牽引する。これにより、ワーク40を引抜加工する。
【0096】
この引抜加工では、図2及び3に示すように、ワーク40は引抜ダイス20の第1曲面部1Cに接触して第1曲面部1Cにより縮径加工されながら、案内部2Dに向かって誘導されるように第1曲面部1Cから離れる。次いで、該ワーク40が引抜ダイス20の案内部2Dに再接触して案内部2Dにより縮径加工されながら案内部2Dからその第2曲面部2Cを通ってダイスベアリング部2Bへ案内される。このとき、ワーク40の内表面40bは、引抜プラグ30のプラグアプローチ部3A又は第3曲面部3Cに接触して第3曲面部3Cを通ってプラグベアリング部3Bへ案内される。
【0097】
そして、該ワーク40がダイスベアリング部2Bとプラグベアリング部3Bとの間を通過することにより、ワーク40の肉厚が減少するようにワーク40の外表面40a及び内表面40bがそれぞれダイスベアリング部2B及びプラグベアリング部3Bにより加圧される。その結果、ワーク40の外径寸法がダイスベアリング部2Bにより目標寸法に仕上げ加工されると同時に、ワーク40の外表面40aがダイスベアリング部2Bにより高平滑面に仕上げ加工され、さらに、ワーク40の内径寸法がプラグベアリング部3Bにより目標寸法に仕上げ加工されると同時に、ワーク40の内表面40bがプラグベアリング部3Bにより目標面粗さに仕上げ加工される。
【0098】
以上の工程により、研磨加工並の高平滑な外表面41aを有する引抜管41を得ることができる。
【0099】
而して、本実施形態の引抜加工装置10には次の利点がある。
【0100】
引抜ダイス20のダイスベアリング部2Bは第1曲面部1Cにおけるワーク離れ位置Kよりも内側に配置されているので、ワーク40が第1曲面部1Cからダイスベアリング部2Bへと移動する間にワーク40が過度に縮径加工されるのを防止することができる。これにより、ワーク40の外表面40aに、潤滑油14が溜まる激しい凹凸が生じ難くなる[効果1]。
【0101】
さらに、ダイスベアリング部2Bの上流端F1に案内部2Dの第2曲面部2Cが滑らかに連なっているので、案内部2Dに再接触したワーク40はこの第2曲面部2Cを通ってダイスベアリング部2Bに向かって円滑に移動することができる[効果2]。
【0102】
さらに、引抜プラグ30のプラグベアリング部3Bの長さL6が引抜ダイス20のダイスベアリング部2Bの長さL4よりも短く設定されることにより、プラグベアリング部3Bとダイスベアリング部2Bとの両部位からワーク40にその外表面40aを高平滑面に加工するのに必要な圧力を確実に与えることができる[効果3]。
【0103】
以上の効果1〜3が相乗的に作用することにより、ワーク40の外表面40aを高平滑面に加工することができる。
【0104】
さらに、ワーク引抜方向Nにおいて、プラグベアリング部3Bの中央位置G3は、ダイスベアリング部2Bの20%上流領域2Baに配置されることにより、プラグベアリング部3Bとダイスベアリング部2Bとの両部位からワーク40にその外表面40aを高平滑面に加工するのに必要な圧力を更に確実に与えることができる。これにより、ワーク40の外表面40aを確実に高平滑面に加工することができる。
【0105】
さらに、ワーク引抜方向Nにおいて、プラグベアリング部3Bの上流端G1は、ダイスベアリング部2Bの上流端F1に対して同じ位置か又は下流側に配置されることにより、ワーク40の外表面40aを更に確実に高平滑面に加工することができる。
【0106】
さらに、プラグベアリング部3Bの長さL6がダイスベアリング部2Bの長さL4の20%以下(即ち、0≦L6/L4≦0.2)に設定されることにより、ワーク40の外表面40aを更に確実に高平滑面に加工することができるし、更に、ワーク40とプラグベアリング部3Bとの間の接触摩擦力に起因して生じるワーク40の断管を確実に防止することができる。
【0107】
さらに、プラグアプローチ角θ3が10〜20°の範囲に設定されることにより、ワーク40の外表面40aを更に確実に高平滑面に加工することができる。
【0108】
さらに、引抜ダイス20のダイス軸Xを含む断面において、ダイス軸Xに対する第1曲面部1Cの接線の傾きと第2曲面部2Cの接線の傾きとは、それぞれ、ワーク引抜方向Nに進むにつれて漸次小さくなっている。これにより、ワーク40を第1曲面部1Cによって確実に縮径加工することができるし、案内部2Dに再接触したワーク40を第2曲面部2Cによってダイスベアリング部2Bへ確実に案内することができる。
【0109】
さらに、引抜ダイス20の第2曲面部2Cの曲率半径R21は、第1曲面部1Cの曲率半径R1に対して等しいか又は小さく設定されている(即ちR21≦R1)。これにより、ワーク40の外表面40aを更に確実に高平滑面に加工することができる。その理由は、次のとおりである。すなわち、第1曲面部1Cの曲率半径R21を大きくすることにより、ワーク40の外表面40aと引抜ダイス20との間に引き込まれる潤滑油14の引込み量を十分に確保することができる。さらに、第2曲面部2Cの曲率半径R21を小さくすることにより、第2曲面部2Cからワーク40の外表面40aに与える面圧を高めることができる。これによりオイルピットの発生を更に抑制することができる。その結果、ワーク40の外表面40aを更に確実に高平滑面に加工することができる。
【0110】
さらに、案内部2Dは、第2曲面部2Cの上流端に滑らかに連なり且つ第2曲面部2Cの曲がり方向とは反対方向に曲がった補助曲面部2Aを有しているので、第1曲面部1Cから離れたワーク40を案内部2Dで確実に受けることができ、もってワーク40を案内部2Dからダイスベアリング部2Bへ確実に案内することができる。
【0111】
さらに、引抜ダイス20のダイス軸Xに対するダイスベアリング部2Bの平行度が±3°以内に設定されることにより、ワーク40の外表面40aを更に確実に高平滑面に加工することができる。
【0112】
さらに、引抜ダイス20のダイス軸Xに対するプラグベアリング部3Bの平行度が±3°以内に設定されることにより、ワーク40の外表面40aを更に確実に高平滑面に加工することができる。
【0113】
さらに、引抜ダイス20のダイスベアリング部2Bの長さL4が5mm以上であることにより、ワーク40の外表面40aを更に確実に高平滑面に加工することができる。
【0114】
さらに、引抜ダイス20の半径方向rにおいて、引抜ダイス20の第1曲面部1Cにおけるワーク離れ位置Kとダイスベアリング部2Bとの間の段差H1が、0.3mm以上に設定されることにより、ワーク40が第1曲面部1Cからダイスベアリング部2Bへと移動する間にワーク40が過度に縮径加工されるのを確実に防止することができる。また、この段差が3mm未満に設定されることにより、案内部2Dに再接触したワーク40がダイスベアリング部2Bに案内される際にワーク40がダイスベアリング部2Bから離れるのを確実に防止することができる。これにより、ワーク40の外表面40aを更に確実に高平滑面に加工することができる。
【0115】
さらに、引抜ダイス20の第1曲面部1Cと案内部2Dとダイスベアリング部2Bとが一体形成されているので、第1曲面部1Cの軸とダイスベアリング部2Bの軸との間の軸ずれを防止することができる。これにより、引抜ダイス20の同軸度が高められている。したがって、この引抜ダイス20を用いてワーク40を引抜加工することにより、引抜管41の外径及び内径の寸法精度を確実に向上させることができる。
【0116】
さらに、引抜プラグ30は、プラグベアリング部3Bの上流端G1に滑らかに連なる第3曲面部3Cを備えているので、第3曲面部3Cに接触したワーク40はプラグベアリング部3Bに向かって円滑に移動することができる。これにより、ワーク40の外表面40aを更に確実に高平滑面に加工することができる。
【0117】
さらに、引抜管41の引抜速度が10m/min以上になるようにワーク40を牽引装置12によって牽引することにより、引抜加工能率を向上させることができる。また、引抜速度が100m/min以下になるようにワーク40を牽引装置12によって牽引することにより、ワーク40の外表面40aと引抜ダイス20との間に引き込まれる潤滑油14の引込み量が過剰に増えるのを防止することができる。これにより、オイルピットの発生を更に確実に防止することができ、もってワーク40の外表面40aを更に確実に高平滑面に加工することができる。
【0118】
図4は、本発明の上記実施形態における引抜プラグ30のプラグベアリング部3Bの長さL6が変更された場合を示す図であり、詳述すると、プラグベアリング部3Bの長さL6が0mmの場合における、図3に対応する断面図である。
【0119】
図4に示した引抜プラグ30は、玉芯型のものである。したがって、引抜プラグ30のプラグベアリング部3Bは、ダイス軸Xと略平行に延びて形成されておらず、縦断面円弧状に形成されている。これにより、プラグベアリング部3Bの長さL6が0mmに設定されている。したがって、プラグベアリング部3Bの長さL6は、ダイスベアリング部2Bの長さL4の0%である。このプラグベアリング部3Bの曲率半径は、第3曲面部3Cの曲率半径R3と略等しく設定されており、具体的には例えば10〜60mmに設定されている。
【0120】
さらに、プラグベアリング部3Bの長さL6が0mmであるから、プラグベアリング部3Bの上流端G1と下流端G2と中央位置G3とは、互いに一致しており、且つ、ワーク引抜方向Nにおいて、ダイスベアリング部2Bの20%上流領域2Baに配置されている。その他の構成は、上記実施形態と同じである。
【0121】
以上で、本発明の幾つかの実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に示したものに限定されるものではなく、様々に変更可能である。
【0122】
また本発明では、引抜ダイス20の第1曲面部1Cよりも上流側に、ワーク40の材料流動をサポートする1個又は複数個の補助的なベアリング部や縮径加工部が配置されていても良い。
【0123】
また本発明では、本発明に係る引抜加工装置によって引抜加工されて得られる引抜管は、感光ドラム基体に特に好適に用いられるものであるが、感光ドラム基体に用いられることに限定されるものではなく、様々な用途に用いることができる。
【実施例】
【0124】
次に、本発明の具体的な実施例及び比較例を以下に示す。
【0125】
以下に示す実施例及び比較例で用いた引抜加工用ワークとして、アルミニウム製管状ワーク40を準備した。このワーク40の断面形状は円環状である。ワーク40の材質は、引抜加工用ワークの材料としてよく用いられる材料の一つであるJIS(日本工業規格) A3003相当のアルミニウム合金である。このワーク40は、アルミニウムビレットを押出加工することにより得られたアルミニウム押出管からなるものである。引抜加工前のワーク40の外径D0は20mm、その内径は17mm、その肉厚は1.5mmである。
【0126】
<実施例1〜6及び比較例1〜3>
上記実施形態の引抜加工装置10を用いて、引抜ダイス20に対する引抜プラグ30のプラグベアリング部3Bの配置位置を様々に変えて、上記ワーク40を一回だけ引抜加工し、これにより引抜管41を製造した。引抜加工後のワーク、即ち引抜管41の外径D1は16mm、その内径は14.4mm、その肉厚は0.8mmである。したがって、この引抜加工では、ワーク40の縮径率Qは20%である。また、引抜速度は30m/minである。
【0127】
この引抜加工の際に使用した潤滑油14は、出光興産(株)製の商品名「ダフニーマスタードロー2594」である。この潤滑油14の40℃での動粘度は382.5mm2/sである。
【0128】
そして、引抜管41の外表面41aの表面粗さRyを測定し、外表面41aの表面粗さRyを評価した。その結果を表1に示す。
【0129】
表1の実施例1〜6及び比較例1〜3で用いた引抜ダイス20及び引抜プラグ30の各部位の寸法は、以下のとおりである。
【0130】
引抜ダイス20において、θ1=30°、θ2=20°、L1=10mm、L2=6mm、L3=3mm、L4=9mm、L5=2mm、R1=4mm、R21=4mm、R22=2mm、H2=0.5mmである。この場合、ダイスベアリング部2Bの20%上流領域2Baの長さL4aは、1.8mmである。
【0131】
引抜プラグ30において、Dp=14.4mm、θ3=15°、L6=1.0mm、R3=50mmである。
【0132】
表1中の「表面粗さ」欄の記号の意味は次のとおりである。
【0133】
○:Ryが1.0μm未満(即ち、Ry<1.0μm)
△:Ryが1.0μm以上1.3μm未満(即ち、1.0μm≦Ry<1.3μm)
×:Ryが1.3μm以上(即ち、Ry≧1.3μm)
【0134】
引抜管41の外表面41aの表面粗さRyは、レーザ表面粗さ計(レーザのプローブ:2μm)により、引抜管41の外表面41aの周方向と長さ方向とのそれぞれ5箇所を測定し、これらの平均値を表面粗さRyとした。またその測定は、JIS B0601:1994に準拠して行った。
【0135】
【表1】

【0136】
表1から分かるように、ワーク引抜方向Nにおいて、プラグベアリング部3Bの中央位置G3がダイスベアリング部2Bの20%上流領域2Baに配置されている場合(即ち、実施例1〜6の場合)には、ワーク40の外表面40aを確実に高平滑面に加工することができた。
【0137】
さらに、ワーク引抜方向Nにおいて、プラグベアリング部3Bの上流端G1がダイスベアリング部2Bの上流端F1と同じ位置か又は下流側に配置されている場合(即ち、実施例4〜6の場合)には、ワーク40の外表面40aを更に確実に高平滑面に加工することができた。
【0138】
<実施例7〜12>
上記実施形態の引抜加工装置10を用いて、引抜プラグ30のプラグベアリング部3Bの長さL6を様々に変えて、上記ワーク40を一回だけ引抜加工し、これにより引抜管41を製造した。その他の引抜加工条件は、上記実施例1〜6及び比較例1〜3と同じである。
【0139】
そして、引抜管41の外表面41aの表面粗さRyを測定し、外表面41aの表面粗さRyを評価した。その結果を表2に示す。なお、表2中の「表面粗さ」欄の記号の意味は表1と同じである。
【0140】
表2の実施例7〜12で用いた引抜ダイス20及び引抜プラグ30の各部位の寸法は、プラグベアリング部3Bの長さL6を除いて上記実施例1〜6及び比較例1〜3と同じである。各L6は以下のとおりである。
【0141】
実施例7:L6=0mm
実施例8:L6=0.45mm
実施例9:L6=0.9mm
実施例10:L6=1.35mm
実施例11:L6=1.8mm
実施例12:L6=2.25mm
【0142】
【表2】

【0143】
表2から分かるように、プラグベアリング部3Bの長さL6が、特にダイスベアリング部2Bの長さL4の20%以下に設定されている場合(即ち、実施例7〜11の場合)には、ワーク40の外表面40aを確実に高平滑面に加工することができた。さらに、L6がL4の15%以下に設定されている場合(即ち、実施例7〜10の場合)には、ワーク40の外表面40aを更に確実に高平滑面に加工することができた。
【0144】
<実施例13〜17>
上記実施形態の引抜加工装置を用いて、引抜プラグ30のプラグアプローチ角θ3を様々に変えて、上記ワーク40を一回だけ引抜加工し、これにより引抜管41を製造した。その他の引抜加工条件は、上記実施例1〜6及び比較例1〜3と同じである。
【0145】
そして、引抜管41の外表面41aの表面粗さRyを測定し、外表面41aの表面粗さRyを評価した。その結果を表3に示す。なお、表3中の「表面粗さ」欄の記号の意味は表1と同じである。
【0146】
表3の実施例13〜17で用いた引抜ダイス20及び引抜プラグ30の各部位の寸法は、プラグアプローチ角θ3を除いて上記実施例1〜6及び比較例1〜3と同じである。
【0147】
【表3】

【0148】
表3から分かるように、プラグアプローチ角θ3が特に10〜20%の範囲に設定されている場合(即ち、実施例14〜16)には、ワーク40の外表面40aを確実に高平滑面に加工することができた。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明は、管状ワークの外表面を高平滑面に加工することができる管状ワーク用引抜加工装置及び引抜加工方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0150】
10:引抜加工装置
12:牽引装置
20:引抜ダイス
1A:ダイスアプローチ部
1B:繋ぎ部
1C:第1曲面部
2A:補助曲面部
2B:ダイスベアリング部
2Ba:ダイスベアリング部の上流領域
2C:第2曲面部
2D:案内部
L4:ダイスベアリング部の長さ
F1:ダイスベアリング部の上流端
30:引抜プラグ
3A:プラグアプローチ部
3B:プラグベアリング部
3C:第3曲面部
L6:プラグベアリング部の長さ
G1:プラグベアリング部の上流端
G3:プラグベアリング部の中央位置
θ3:プラグアプローチ角
40:ワーク
40a:ワークの外表面
41:引抜管
41a:引抜管の外表面
X:引抜ダイスのダイス軸
N:ワーク引抜方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状ワークの外表面を加工する引抜ダイスと、前記ワークの中空部内に配置されるとともにワークの内表面を加工する引抜プラグとを具備し、
前記引抜ダイスは、
ワークが縮径加工されながら離れる第1曲面部と、
前記第1曲面部におけるワーク離れ位置よりも内側且つ下流側に配置されたダイスベアリング部と、
前記ダイスベアリング部の上流端に滑らかに連なる第2曲面部を有するとともに前記第1曲面部から離れたワークと再接触して該ワークを縮径加工しながら前記ダイスベアリング部へ案内する案内部と、
を備えており、
前記引抜プラグは、前記ダイスベアリング部の長さよりも短いプラグベアリング部を備えており、
ワーク引抜方向において、前記プラグベアリング部の中央位置が、前記ダイスベアリング部の上流端からダイスベアリング部の長さの20%までの上流領域に配置されていることを特徴とする管状ワーク用引抜加工装置。
【請求項2】
ワーク引抜方向において、前記プラグベアリング部の上流端が前記ダイスベアリング部の上流端に対して同じ位置か又は下流側に配置されている請求項1記載の管状ワーク用引抜加工装置。
【請求項3】
前記プラグベアリング部の長さが、前記ダイスベアリング部の長さの20%以下に設定されている請求項1又は2記載の管状ワーク用引抜加工装置。
【請求項4】
前記プラグのプラグアプローチ角が10〜20°の範囲に設定されている請求項1〜3のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の引抜加工装置を用いて管状ワークを引抜加工することを特徴とする管状ワークの引抜加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−194598(P2010−194598A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44563(P2009−44563)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】