説明

管状治療具留置装置

【課題】上行大動脈や近位弓部大動脈に大動脈瘤が発生したとしても、管状治療具を比較的容易に留置することが可能な管状治療具留置装置を提供する。
【解決手段】径方向に拡張可能なステントグラフトSGを患部に留置するための管状治療具留置装置1。管状治療具留置装置1は、可撓性を有し、管状の第1シース10と、可撓性を有し、第1シース10の内側を第1シース10の軸方向に沿って進退可能に構成された管状の第2シース60と、第2シース60の内側を第2シース60の軸方向に沿って進退可能に構成され、縮径された状態のステントグラフトSGを第2シース60の先端から露出させるためのロッド部材50と、第1シース10先端部近傍位置を、所定の曲率に屈曲させる機能を有する第1屈曲機構と、第2シース60の先端部近傍位置を、所定の曲率に屈曲させる機能を有する第2屈曲機構とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、径方向に拡張可能な管状治療具を患部に留置するための管状治療具留置装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、大動脈を説明するために示す図である。図1(a)は上行大動脈から総腸骨動脈までの血管を模式的に示す図であり、図1(b)は胸部大動脈を説明するために示す図である。
【0003】
大動脈は、図1(a)に示すように、心臓の左心室から上行して弓状に屈曲した後、下行して腹部大動脈の分岐部で分岐されて総腸骨動脈へと至る動脈であり、全身への血液循環の大元となる動脈である。
【0004】
この大動脈を構成する血管壁の一部がこぶ状に膨らんだ状態を、「大動脈瘤」という。大動脈瘤は、大動脈の様々な部位に発生し得るものであり、放置すると瘤破裂により死に至る可能性もある重篤な疾患である。
【0005】
大動脈瘤の外科的治療法としては、大動脈瘤が発生した患部の血管ごと人工血管に置き換える、いわゆる「人工血管置換術」が良く知られているが、近年、「ステントグラフト内挿術」などと呼ばれる手法が注目されている。
この手法は、シース内部に縮径保持されたステントグラフトを備えるステントグラフト留置装置を用いて、例えば、鼠径部と呼ばれる太股の付け根部分を小さく切開してシースを大動脈内に挿入し、患部においてシースの先端からステントグラフトを露出させてステントグラフトを患部に留置することにより、大動脈瘤の破裂を防止する方法である。
ステントグラフト内挿術は、開胸又は開腹手術を行わなくてもよいため、体力的に通常の開胸又は開腹手術が困難な患者に有用な治療法である。
【0006】
このようなステントグラフト内挿術に用いることが可能なステントグラフト留置装置としては、例えば、特許文献1又は2に開示されたステントグラフト留置装置などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−350785号公報
【特許文献2】国際公開第2005/99806号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上行大動脈や近位弓部大動脈(大動脈弓のうち上行大動脈に近い部位。図1(b)参照。)に大動脈瘤が発生した場合、従来のステントグラフト留置装置では次のような問題が考えられる。
【0009】
すなわち、従来のステントグラフト留置装置を用いて、鼠径部を介して上行大動脈や近位弓部大動脈の患部にステントグラフトを留置しようとした場合、近位弓部大動脈又は上行大動脈は、下行大動脈に対して弓状に屈曲した位置又はさらに奥まった位置にあるため、患部の位置までステントグラフト(ステントグラフト留置装置の先端部)を到達させるのは容易ではない。患部の位置までステントグラフトを到達させようとしてステントグラフト留置装置を無理やり押し進めると、ステントグラフト留置装置が血管壁に接触して血管を損傷させてしまったり、ステントグラフト留置装置が血管壁に接触することで壁在血栓・壁在粥腫を遊離させてしまったりする場合がある。壁在血栓・壁在粥腫が遊離すると、脳梗塞等の合併症を引き起こしかねない。
【0010】
つまり、従来のステントグラフト留置装置においては、上行大動脈や近位弓部大動脈に大動脈瘤が発生した場合、血管損傷や壁在血栓・壁在粥腫の遊離を発生させずにステントグラフトを留置するのは容易ではないという問題がある。
【0011】
なお、このような問題は、ステントグラフト留置装置に限った問題ではない。例えば、径方向に拡張可能なステントを患部に留置するためのステント留置装置など、ステントグラフト以外の管状治療具を患部に留置するための管状治療具留置装置にも起こり得る問題である。
【0012】
そこで、本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、上行大動脈や近位弓部大動脈に大動脈瘤が発生したとしても、管状治療具を比較的容易に留置することが可能な管状治療具留置装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[1]本発明の管状治療具留置装置(1)は、径方向に拡張可能な管状治療具(SG)を患部に留置するための管状治療具留置装置(1)であって、可撓性を有し、管状の第1シース(10)と、可撓性を有し、前記第1シース(10)の内側を前記第1シース(10)の軸方向に沿って進退可能に構成された管状の第2シース(60)と、前記第2シース(60)の内側を前記第2シース(60)の軸方向に沿って進退可能に構成され、縮径された状態の前記管状治療具(SG)を前記第2シース(60)の先端から露出させるためのロッド部材(50)と、前記第1シース(10)の先端部又は先端部近傍位置を、所定の曲率に屈曲させる機能を有する第1屈曲機構(30)と、前記第2シース(60)の先端部又は先端部近傍位置を、所定の曲率に屈曲させる機能を有する第2屈曲機構(80)とを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の管状治療具留置装置によれば、第1及び第2シースと各シースの先端部又は先端部近傍位置を所定の曲率に屈曲させる機能を有する第1及び第2屈曲機構とを備えているため、下行大動脈から遠位弓部大動脈のあたりまでは第1屈曲機構によって第1シースを屈曲させながら進行させてゆき、そこから先(近位弓部大動脈から上行大動脈まで)は第2屈曲機構によって第2シースを屈曲させながら進行させてゆくことにより、管状治療具留置装置を血管壁に接触させること無く、近位弓部大動脈や上行大動脈に発生した大動脈瘤の位置まで管状治療具留置装置の先端部を到達させることができる。その結果、近位弓部大動脈や上行大動脈の患部にも管状治療具を比較的容易に留置することが可能となる。
また、本発明の管状治療具留置装置によれば、近位弓部大動脈や上行大動脈の患部に管状治療具を留置するにあたって、管状治療具留置装置を無理やり押し進ませるものではないため、上述した血管損傷の問題や壁在血栓・壁在粥腫の遊離の問題の発生を抑制することが可能となる。
【0015】
なお、この明細書において「シースの先端部」とは、シースの先端及びその周辺部分のことを意味する。また、「シースの先端部近傍位置」とは、シースの先端から、管状治療具が装填された位置よりもさらに基端部側の位置までであって、シースの先端部を除く位置のことを意味する。
【0016】
[2]上記[1]に記載の管状治療具留置装置(1)においては、前記第1屈曲機構(30)は、前記第1シース(10)に沿うように前記第1シース(10)の管壁内又は管壁表面に設けられ、前記第1シース(10)の軸方向に沿って進退可能に構成された第1ワイヤ(32)と、前記第1シース(10)の基端部側に設けられ、前記第1シース(10)の屈曲状態を操作するための第1操作部(34)と、前記第1操作部(34)を操作したときの前記第1操作部(34)の動作を前記第1ワイヤ(32)の進退動作に変換して前記第1ワイヤ(32)を進退させる第1運動変換部(36)とを有し、前記第2屈曲機構(80)は、前記第2シース(60)に沿うように前記第2シース(60)の管壁内又は管壁表面に設けられ、前記第2シース(60)の軸方向に沿って進退可能に構成された第2ワイヤ(82)と、前記第2シース(60)の基端部側に設けられ、前記第2シース(60)の屈曲状態を操作するための第2操作部(84)と、前記第2操作部(84)を操作したときの前記第2操作部(84)の動作を前記第2ワイヤ(82)の進退動作に変換して前記第2ワイヤ(84)を進退させる第2運動変換部(86)とを有することが好ましい。
【0017】
このように構成することにより、ワイヤを利用して第1及び第2シースを比較的容易に屈曲させることが可能となる。
【0018】
[3]上記[2]に記載の管状治療具留置装置(1)においては、前記第1及び第2操作部(34,84)はそれぞれ、前記第1又は第2シース(10,60)の軸方向に沿ってスライド可能に構成されたスライド部材であり、前記第1及び第2運動変換部(36,86)はそれぞれ、前記スライド部材をスライドさせたときのスライド量に基づいて、前記第1又は第2ワイヤ(32,82)を所定量進退させることができるように構成されていることが好ましい。
【0019】
このように構成することにより、「スライド部材をスライドさせる」という単純な操作で、各シースの先端部又は先端部近傍位置を所定の曲率に屈曲させることが可能となる。
【0020】
[4]上記[2]に記載の管状治療具留置装置(2)においては、前記第1及び第2操作部(234,284)はそれぞれ、軸部(244)及び支点部(246)を有し当該支点部(246)を回動中心として回動可能に構成されたレバー部材であり、前記第1及び第2運動変換部(236,286)はそれぞれ、前記レバー部材を回動させたときの回動量に基づいて、前記第1又は第2ワイヤ(32,82)を所定量進退させることができるように構成されていることが好ましい。
【0021】
このように構成することにより、「レバー部材をいずれかの方向に回動させる(傾ける)」という単純な操作で、各シースの先端部又は先端部近傍位置を所定の曲率に屈曲させることが可能となる。
【0022】
[5]上記[2]に記載の管状治療具留置装置(3)においては、前記第1及び第2操作部(334,384)はそれぞれ、所定方向に押下可能に構成されたボタン部材であり、前記第1及び第2運動変換部(336,386)はそれぞれ、前記ボタン部材を押下したときの押下量に基づいて、前記第1又は第2ワイヤ(32,82)を所定量進退させることができるように構成されていることが好ましい。
【0023】
このように構成することにより、「ボタン部材を押す」という単純な操作で、各シースの先端部又は先端部近傍位置を所定の曲率に屈曲させることが可能となる。
【0024】
[6]上記[1]〜[5]のいずれか1つに記載の管状治療具留置装置においては、前記第1屈曲機構(30)は、前記第1シース(10)の屈曲状態を維持する機能と、前記第1シース(10)の屈曲状態の維持を解除する機能とをさらに有することが好ましい。
【0025】
このように構成することにより、第1シースの屈曲状態を維持したままで、第2シースを進退させることが可能となる。
【0026】
[7]上記[1]〜[6]のいずれか1つに記載の管状治療具留置装置(1)においては、前記管状治療具がステントグラフト(SG)であることが好ましい。
【0027】
このように構成することにより、本発明の管状治療具留置装置は、上行大動脈や近位弓部大動脈に発生した大動脈瘤にステントグラフトを比較的容易に留置することが可能なステントグラフト留置装置となる。
【0028】
なお、特許請求の範囲及び本欄(課題を解決するための手段の欄)に記載した各部材等の文言下に括弧をもって付加された符号は、特許請求の範囲及び本欄に記載された内容の理解を容易にするために用いられたものであって、特許請求の範囲及び本欄に記載された内容を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】大動脈を説明するために示す図。
【図2】実施形態1に係る管状治療具留置装置1を説明するために示す図。
【図3】実施形態1に係る管状治療具留置装置1を説明するために示す図。
【図4】第1及び第2シース10,60並びに第1及び第2ワイヤ32,82を説明するために示す図。
【図5】実施形態1に係る管状治療具留置装置1を説明するために示す図。
【図6】比較例に係る管状治療具留置装置1aを説明するために示す図。
【図7】実施形態1に係る管状治療具留置装置1を説明するために示す図。
【図8】実施形態2に係る管状治療具留置装置2を説明するために示す図。
【図9】実施形態2に係る管状治療具留置装置2を説明するために示す図。
【図10】実施形態3に係る管状治療具留置装置3を説明するために示す図。
【図11】実施形態3に係る管状治療具留置装置3を説明するために示す図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の管状治療具留置装置について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
【0031】
[実施形態1]
まず、実施形態1に係る管状治療具留置装置1の構成について、図2〜図5を用いて詳細に説明する。
【0032】
図2及び図3は、実施形態1に係る管状治療具留置装置1を説明するために示す図である。図2(a)は管状治療具留置装置1を構成する各部材及びステントグラフトSGを示す図であり、図2(b)は各部材を組み立ててさらにステントグラフトSGを配置した様子を示す図であり、図2(c)は管状治療具留置装置1の先端部近傍(ステントグラフトSGが配置されている部分)を拡大して示す断面図である。なお、図2においては、発明の理解を容易にするため、管状治療具留置装置1を構成する各部材及びステントグラフトSGの大きさ(長さ、径寸法など)や形状などについては、模式的に図示している。
【0033】
図4は、第1及び第2シース10,60並びに第1及び第2ワイヤ32,82を説明するために示す図である。図4(a)は第1シース10を管軸に直交する断面で見たときの断面図であり、図4(b)は図4(a)に符号Aで示す部分を拡大して示す図であり、図4(c)は第2シース60を管軸に直交する断面で見たときの断面図であり、図4(d)は図4(c)に符号Bで示す部分を拡大して示す図である。
【0034】
図5は、実施形態1に係る管状治療具留置装置1を説明するために示す図である。図5(a)は第1操作部34の周辺部分を模式的に示す斜視図であり、図5(b)は第1シース10の先端部を拡大して示す断面図であり、図5(c)は第1シース10を屈曲させていない状態のときの第1ワイヤ32の位置を示す概念図であり、図5(d)は第1シース10を屈曲させた状態のときの第1ワイヤ32の位置を示す概念図である。なお、発明の理解を容易にするため、図5(b)〜図5(d)においては、第1シース10の太さに対して、第1シース10の管壁の厚さ、第1ワイヤ用ルーメン12の径寸法及び第1ワイヤ32の径寸法をある程度誇張して図示している。
【0035】
実施形態1に係る管状治療具留置装置1は、図2及び図3に示すように、径方向に拡張可能なステントグラフトSG(管状治療具)を患部に留置するためのステントグラフト留置装置であって、管状の第1シース10と、第1シース10の内側を第1シース10の軸方向(第1シース10の長手方向)に沿って進退可能に構成された管状の第2シース60と、第2シース60の内側を第2シース60の軸方向(第2シース60の長手方向)に沿って進退可能に構成されたロッド部材50と、第1シース10の先端部近傍位置を、所定の曲率に屈曲させる機能を有する第1屈曲機構30と、第2シースの先端部近傍位置を、所定の曲率に屈曲させる機能を有する第2屈曲機構80とを備える。
【0036】
第1及び第2シース10,60は、ともに可撓性を有する材料で形成されている。可撓性材料としては、例えば、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等から選択された生体適合性を有する合成樹脂(エラストマー)や、これら樹脂に他の材料が混合された樹脂コンパウンド、またはこれらの合成樹脂が多層で構成された多層構造体、さらにはこれら合成樹脂と金属線との複合体などを好ましく用いることができる。
【0037】
第1及び第2シース10,60の管壁内には、図4に示すように、第1又は第2ワイヤ用ルーメン12,62として、後述する第1ワイヤ32又は第2ワイヤ82の径寸法よりも大きな短径を有する断面楕円状の空洞が設けられている。各ルーメン12,62は、第1又は第2シース10,60の長手方向に沿って設けられており、各ルーメン12,62内に第1又は第2ワイヤ32,82が配置されている(図2(c)、図4及び図5(b)参照。)。
【0038】
なお、詳細については後述するが、第1ワイヤ用ルーメン12内に第1ワイヤ32が配置されていないときの第1シース10は、図5(d)に示す屈曲形状となるように予め形状が決められており、図5(c)に示すように、第1ワイヤ用ルーメン12の先端部まで第1ワイヤ32を進行させることにより、第1シース10が真っ直ぐとなるように構成されている。第1ワイヤ用ルーメン12内に第1ワイヤ32が配置されていないときの第1シース10は、例えば、曲率半径が60mmとなるように構成されている。なお、当該曲率半径は60mmに限定されず、20mm〜100mm程度であってもよい。
第2シース60についても、第1シース10と同様に構成されている。
【0039】
第1シース10の内径D1は、第2シース60の外径D2以上となるように構成されている(図4(a)及び図4(c)参照。)。これにより、第1シース10の内部に第2シース60を配置することが可能となる。
【0040】
第1シース10の基端部側(ステントグラフトSGが配置される側とは反対の端部側)には、図2(a)に示すように、第1シース基部20が設けられている。第1シース基部20には、図5(a)に示すように、後述する第1操作部34を操作するための長孔22が、第1シース基部20の軸方向に沿って設けられている。
【0041】
第2シース60の基端部側にも、第1シース10と同様に、第2シース基部70が設けられている(図2(a)参照。)。また、図示による説明を省略するが、第2シース基部20にも、第1シース基部20の長孔22と同様の形状からなる長孔が設けられている。
なお、図2及び図5に示す各シース基部20,70には記載されていないが、第1シース10(第2シース60)内に液体を充填するための液体充填口などが、各シース基部20,70に配設されていてもよい。また、各シース基部20,70の基端部側には、図示しない弁付きキャップが装着されており、各シース10,60内に第2シース60又はロッド部材50を挿入した際の血液等の漏れが無いように構成されている。
【0042】
ロッド部材50は、図2及び図3に示すように、ロッド本体部52と、縮径された状態のステントグラフトSGを保持する保持部54と、ロッド部材50の先端部に配設された先端チップ56とを有する。保持部54は、ロッド本体部52よりも細径である(図2(a)参照。)。
【0043】
ロッド本体部52及び保持部54を構成する材料としては、例えば、樹脂(プラスチック、エラストマー)又は金属など、適度な硬度及び柔軟性を有する種々の材料を好ましく用いることができる。
【0044】
先端チップ56を構成する材料としては、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂又はポリ塩化ビニル系樹脂等から構成された合成樹脂(エラストマー)などの、適度な硬度及び柔軟性を有する種々の材料を好ましく用いることができる。
【0045】
なお、図示による説明は省略するが、ロッド本体部52、保持部54及び先端チップ56には、例えばガイドワイヤを挿通させるためのガイドワイヤ用ルーメンや、縮径状態のステントグラフトSGを患部で拡張させるためのトリガワイヤを挿通させるためのトリガワイヤ用ルーメンなどが、ロッド部材50の軸方向(ロッド部材50の長手方向)に沿って形成されている。
【0046】
また、詳細な説明は省略するが、先端チップ56には、上記トリガワイヤを係止するための係止溝(図示せず。)が設けられている。このようなトリガワイヤ及び先端チップを用いて縮径状態のステントグラフトSGを患部で拡張させる方法(仕組み)については、例えば特許文献1又は2に記載の公知の方法を用いることができる。
【0047】
第1屈曲機構30は、図3に示すように、第1シース10に沿うように第1シース10の管壁内に設けられ、第1シース10の軸方向に沿って(図5(b)に示す矢印R1又はR2方向に向けて)進退可能に構成された第1ワイヤ32と、第1シース10の基端部側に設けられ、第1シース10の屈曲状態を操作するための第1操作部34と、第1運動変換部36とを有する。
【0048】
また、第1屈曲機構30は、第1シース10の先端部近傍位置を所定の曲率に屈曲させる機能(屈曲機能)と、第1シース10の屈曲状態を維持する機能(屈曲状態維持機能)と、第1シース10の屈曲状態の維持を解除する機能(屈曲状態解除機能)とを少なくとも有する。
【0049】
第1ワイヤ32の材料としては、例えば、樹脂(プラスチック、エラストマー)又は金属など、適度な硬度及び柔軟性を有する種々の材料を好ましく用いることができる。樹脂としては、フッ素樹脂などを例示することができ、金属としては、ステンレス鋼(SUS316など)、Ni−Ti合金、Co−Cr合金などを例示することができる。なお、一部の図示による説明は省略するが、第1ワイヤ32の一方端は第1運動変換部36を構成する機構に接続されており、他方端は固定されていない。
【0050】
第1操作部34は、図5(a)に示すように、第1シース10の軸方向に沿って長孔22内でP1方向又はP2方向にスライド(移動)可能に構成されたスライド部材である。
【0051】
なお、図示による説明は省略するが、第1操作部34は、長孔22内での位置を一時的に固定・解除可能に構成されている。これにより、上述した第1屈曲機構30の屈曲状態維持機能及び屈曲状態解除機能を実現することができる。
【0052】
第1運動変換部36は、第1操作部34を操作したときの第1操作部34の動作を第1ワイヤ32の進退動作に変換して第1ワイヤ32を進退させる機能(動作変換・進退機能)と、第1操作部34をスライドさせたときのスライド量に基づいて、第1ワイヤ32の進退量を調整する機能(進退量調整機能)とを少なくとも有する。
【0053】
上記した進退量調整機能とは、第1操作部34のスライド量の数倍又は数分の1の値が第1ワイヤ32の進退量となるように、第1操作部34のスライド量に対する第1ワイヤ32の進退量を調整する機能のことである。例えば、第1操作部34のスライド量の2倍の値が第1ワイヤ32の進退量となるように構成されている場合には、第1操作部34を長孔22内で10mmスライドさせると、第1ワイヤ32は第1シース10の軸方向に沿って20mm進退することとなる。また、第1操作部34のスライド量の2分の1の値が第1ワイヤ32の進退量となるように構成されている場合には、第1操作部34を長孔22内で10mmスライドさせると、第1ワイヤ32は第1シース10の軸方向に沿って5mm進退することとなる。なお、第1操作部34のスライド量に対する第1ワイヤ32の進退量の割合については、上記の具体的数値に限定されるものではなく、適宜設定可能である。また、第1操作部34のスライド量と第1ワイヤ32の進退量とは、必ずしも比例関係でなくてもよい。
【0054】
なお、第1操作部34及び第1運動変換部36の具体的構成(機械的構成や電気的構成)については説明を省略するが、上記した動作変換・進退機能及び進退量調整機能の両機能を実現可能な構成であれば、公知の手段(例えば歯車機構、ラック・アンド・ピニオン機構など)を用いて構わない。
【0055】
ここで、第1シース10を屈曲させていない状態のときの第1ワイヤ32の位置と、第1シース10を屈曲させた状態のときの第1ワイヤ32の位置との関係をもとに、第1屈曲機構30の屈曲機能について説明する。
【0056】
第1シース10を屈曲させていない状態のとき、すなわち、第1シース10が真っ直ぐな状態のときは、図5(c)に示すように、第1ワイヤ用ルーメン12の先端部まで第1ワイヤ32を移動させている。第1ワイヤ用ルーメン12の先端部まで第1ワイヤ32を移動させる(図5(b)に示すR1方向に移動させる)ためには、第1操作部34を図5(a)に示すP1方向に移動させればよい。
一方、第1シース10を屈曲させた状態のときは、第1ワイヤ用ルーメン12内の所定の退避位置まで第1ワイヤ32を移動させている。第1ワイヤ用ルーメン12内の所定の退避位置まで第1ワイヤ32を移動させる(図5(b)に示すR2方向に移動させる)ためには、第1操作部34を図5(a)に示すP2方向に移動させればよい。
つまり、第1操作部34を図5(a)に示すP2方向に移動させることにより、第1シース10の先端部近傍位置を所定の曲率に屈曲させることができ、第1操作部34を図5(a)に示すP1方向に移動させることにより、第1シース10を真っ直ぐにすることができる。
【0057】
第2屈曲機構80は、第2シース60に沿うように第2シース60の管壁内に設けられ、第2シース60の軸方向に沿って進退可能に構成された第2ワイヤ82と、第2シース60の基端部側に設けられ、第2シース60の屈曲状態を操作するための第2操作部84と、第2運動変換部86とを有する。また、第2屈曲機構80は、第2シース60の先端部近傍位置を所定の曲率に屈曲させる機能(屈曲機能)を少なくとも有する。第2屈曲機構80の屈曲機能については、第1屈曲機構30の屈曲機能と同様であるため説明を省略する。
【0058】
第2ワイヤ82の材料としては、上述した第1ワイヤ32と同様の材料を用いることができる。なお、図示による説明は省略するが、第2ワイヤ82の一方端は第2運動変換部86を構成する機構に接続されており、他方端は固定されていない。
【0059】
第2操作部84は、第2シース60の軸方向に沿ってスライド可能に構成されたスライド部材である。第2操作部84は、上記した第1操作部34と同様に、第2シース基部70に設けられた長孔(図示せず。)内で移動可能に構成されている。
【0060】
第2運動変換部86は、第2操作部84を操作したときの第2操作部84の動作を第2ワイヤ82の進退動作に変換して第2ワイヤ82を進退させる機能(動作変換・進退機能)と、第2操作部84をスライドさせたときのスライド量に基づいて、第2ワイヤ82の進退量を調整する機能(進退量調整機能)とを少なくとも有する。第2運動変換部86の進退量調整機能は、第1運動変換部36の場合に説明したものと同様である。
【0061】
なお、第2操作部84及び第2運動変換部86の具体的構成(機械的構成や電気的構成)については説明を省略するが、上記した動作変換・進退機能及び進退量調整機能の両機能を実現可能な構成であれば、公知の手段(例えば歯車機構、ラック・アンド・ピニオン機構など)を用いて構わない。
【0062】
管状治療具留置装置1に装填される管状治療具としてのステントグラフトSGは、図示による説明を省略するが、金属細線がジグザグ状に折り返されるとともに略円筒状に成形された自己拡張型のステント部と、当該ステント部を外周から覆うように縫合固定されたグラフト部とを有する。ステント部を構成する金属細線の材料としては、例えば、ステンレス鋼、Ni−Ti合金、チタン合金などに代表される公知の金属又は金属合金を好ましく用いることができる。グラフト部を構成する材料としては、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂や、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂などを好ましく用いることができる。これらの樹脂材料によって作成されたグラフト部は、生体適合性及び耐久性が比較的高く、かつ、化学的にも安定している。
【0063】
なお、実施形態1に係る管状治療具留置装置1(本発明の管状治療具留置装置)に用いることのできるステントグラフトは、上記の構成・材料からなるステントに限定されるものではなく、上記したものとは異なる構成・材料からなる公知のステントグラフトを用いてもよい。
【0064】
次に、比較例に係る管状治療具留置装置1aをもとにして、実施形態1に係る管状治療具留置装置1をさらに詳細に説明する。
【0065】
図6は、比較例に係る管状治療具留置装置1aを説明するために示す図である。図6(a)〜図6(e)は大動脈内の患部に向けて管状治療具留置装置1aを進行させる様子を段階的に示す概念図である。なお、図6(a)〜図6(e)に示す「●」は、シース10aの屈曲可能な部位を示している。
図7は、実施形態1に係る管状治療具留置装置1を説明するために示す図である。図7(a)〜図7(f)は大動脈内の患部に向けて管状治療具留置装置1を進行させてステントグラフトSGを留置する様子を段階的に示す概念図である。なお、図6及び図7においては、大動脈内に配置されたガイドワイヤの図示を省略している。
【0066】
実施形態1に係る管状治療具留置装置1は、上述したように、シースとしては2つのシース(第1及び第2シース10,60)を備え、かつ、各シース10,60の先端部近傍位置をそれぞれ所定の曲率に屈曲させる第1及び第2屈曲機構30,80を備えるものであるのに対し、比較例に係る管状治療具留置装置1aは、図6に示すように、シースとしては1つのシース10aのみを備え、かつ、シース10aの先端部近傍位置を所定の曲率に屈曲させる屈曲機構(図示せず。)を備えるものである。
【0067】
このため、比較例に係る管状治療具留置装置1aを用いて、鼠径部を介して上行大動脈や近位弓部大動脈の患部にステントグラフトを留置しようとした場合、図6(a)〜図6(d)から分かるように、遠位弓部大動脈のあたりまでは管状治療具留置装置1aを進行させることができるが、そこから先の近位弓部大動脈及び上行大動脈については、管状治療具留置装置1aの先端部を到達させることができない。近位弓部大動脈や上行大動脈の患部の位置まで管状治療具留置装置1aの先端部を到達させようとして管状治療具留置装置1aを無理やり押し進めると、図6(e)に示すように、管状治療具留置装置1aが血管壁に接触することとなる。その結果、上述した血管損傷の問題や壁在血栓・壁在粥腫の遊離の問題が発生してしまう。
【0068】
これに対し、実施形態1に係る管状治療具留置装置1によれば、第1及び第2シース10,60と各シース10,60の先端部近傍位置を所定の曲率に屈曲させる機能を有する第1及び第2屈曲機構30,80とを備えているため、下行大動脈から遠位弓部大動脈のあたりまでは第1屈曲機構30によって第1シース10を屈曲させながら進行させてゆき(図7(a)及び図7(b)参照。)、そこから先(近位弓部大動脈から上行大動脈まで)は第2屈曲機構80によって第2シース60を屈曲させながら進行させてゆくことにより、管状治療具留置装置1を血管壁に接触させること無く、近位弓部大動脈や上行大動脈に発生した大動脈瘤の位置まで管状治療具留置装置1の先端部を到達させることができる(図7(c)参照。)。患部まで到達した後は、ロッド部材50の位置を固定した状態で第2シース60を引き抜いて第2シース60内からステントグラフトSGを露出させ(図7(d)参照。)、さらに第1シース10も引き抜いてステントグラフトSGを完全に露出させる(図7(e)参照。)。その後は、図示しないトリガワイヤを引いてステントグラフトSG先端部を拡張させ、ロッド部材50とともに管状治療具留置装置1を抜き取ることにより、ステントグラフトSGの留置が完了する(図7(f)参照。)。
【0069】
このように、実施形態1に係る管状治療具留置装置1は、上行大動脈や近位弓部大動脈に大動脈瘤が発生したとしても、ステントグラフトを比較的容易に留置することが可能な管状治療具留置装置(ステントグラフト留置装置)である。
また、実施形態1に係る管状治療具留置装置1によれば、近位弓部大動脈や上行大動脈の患部にステントグラフトSGを留置するにあたって、管状治療具留置装置1を無理やり押し進ませるものではないため、上述した血管損傷の問題や壁在血栓・壁在粥腫の遊離の問題の発生を抑制することが可能となる。
【0070】
実施形態1に係る管状治療具留置装置1においては、上述したように、第1及び第2屈曲機構30,80は、第1又は第2ワイヤ32,82と、第1又は第2操作部34,84と、第1又は第2運動変換部36,86とを有するため、第1及び第2ワイヤ32,82を利用して第1及び第2シース10,60を比較的容易に屈曲させることが可能となる。
【0071】
実施形態1に係る管状治療具留置装置1においては、上述したように、第1及び第2操作部34,84はそれぞれ、第1又は第2シース10,60の軸方向に沿ってスライド可能に構成されたスライド部材であり、第1及び第2運動変換部36,86はそれぞれ、各操作部34,84をスライドさせたときのスライド量に基づいて、各ワイヤ32,82を所定量進退させることができるように構成されている。これにより、「第1又は第2操作部34,84をスライドさせる」という単純な操作で、各シース10,60の先端部近傍位置を所定の曲率に屈曲させることが可能となる。
【0072】
実施形態1に係る管状治療具留置装置1においては、上述したように、第1屈曲機構30は、屈曲状態維持機能及び屈曲状態解除機能を有するため、第1シース10の屈曲状態を維持したままで、第2シース60を進退させることが可能となる。
【0073】
実施形態1に係る管状治療具留置装置1においては、管状治療具がステントグラフトSGである。つまり、実施形態1に係る管状治療具留置装置1は、上行大動脈や近位弓部大動脈に発生した大動脈瘤にステントグラフトSGを比較的容易に留置することが可能なステントグラフト留置装置となる。
【0074】
[実施形態2]
図8及び図9は、実施形態2に係る管状治療具留置装置2を説明するために示す図である。図8(a)は管状治療具留置装置2を構成する各部材及びステントグラフトSGを示す図であり、図8(b)は各部材を組み立ててさらにステントグラフトSGを配置した様子を示す図であり、図8(c)は第1操作部234の周辺部分を模式的に示す斜視図である。なお、図8及び図9において、図2及び図3と同一の部材については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0075】
実施形態2に係る管状治療具留置装置2は、基本的には実施形態1に係る管状治療具留置装置1と良く似た構成を有するが、操作部の構成及び運動変換部の機能が実施形態1に係る管状治療具留置装置1とは異なる。
【0076】
すなわち、実施形態2に係る管状治療具留置装置2においては、図8及び図9に示すように、操作部として、各シース10,60の屈曲状態を操作するための第1及び第2操作部234,284を有する。
【0077】
第1操作部234は、図8(c)に示すように、軸部244及び支点部246を有するレバー部材である。第1操作部234は、支点部246を回動中心として、S1方向又はS2方向に向けて(第1シース基部20の軸方向に沿って)回動可能に構成されている。
【0078】
第1運動変換部236は、第1操作部234を操作したときの第1操作部234の動作を第1ワイヤ32の進退動作に変換して第1ワイヤ32を進退させる機能(動作変換・進退機能)と、第1操作部234を回動させたときの回動量(回動角度)に基づいて、第1ワイヤ32の進退量を調整する機能(進退量調整機能)とを少なくとも有する。
【0079】
上記した進退量調整機能とは、第1操作部234の回動量(回動角度)に応じた値が第1ワイヤ32の進退量となるように、第1操作部234の回動量に対する第1ワイヤ32の進退量を調整する機能のことである。例えば、第1操作部234を1度回動させると第1ワイヤ32が1mm進退するように構成されている場合には、第1操作部234を10度回動させると、第1ワイヤ32は第1シース10の軸方向に沿って10mm進退することとなる。なお、第1操作部234の回動量に対する第1ワイヤ32の進退量の割合については、上記の具体的数値に限定されるものではなく、適宜設定可能である。また、第1操作部234の回動量と第1ワイヤ32の進退量とは、必ずしも比例関係でなくてもよい。
【0080】
なお、第2操作部284及び第2運動変換部286については、第1操作部234及び第1運動変換部236と同様の構成を有するため、詳細な説明を省略する。
【0081】
また、各操作部234,284及び各運動変換部236,286の具体的構成(機械的構成や電気的構成)については説明を省略するが、上記した動作変換・進退機能及び進退量調整機能の両機能を実現可能な構成であれば、公知の手段(例えば歯車機構、ラック・アンド・ピニオン機構など)を用いて構わない。
【0082】
管状治療具留置装置2においては、第1操作部234を図8(c)に示すS2方向に回動させる(傾ける)ことにより、第1シース10の先端部近傍位置を所定の曲率に屈曲させることができ、第1操作部234を図8(c)に示すS1方向に回動させる(傾ける)ことにより、第1シース10を真っ直ぐにすることができる。第2シース60及び第2操作部284についても同様である。
【0083】
このように、実施形態2に係る管状治療具留置装置2は、実施形態1に係る管状治療具留置装置1とは操作部の構成及び運動変換部の機能が異なるが、第1及び第2シース10,60と各シース10,60の先端部近傍位置を所定の曲率に屈曲させる機能を有する第1及び第2屈曲機構230,280とを備えているため、実施形態1に係る管状治療具留置装置1の場合と同様に、上行大動脈や近位弓部大動脈に大動脈瘤が発生したとしても、ステントグラフトを比較的容易に留置することが可能な管状治療具留置装置(ステントグラフト留置装置)となる。
【0084】
実施形態2に係る管状治療具留置装置2においては、上述したように、第1及び第2操作部234,284はそれぞれレバー部材であり、第1及び第2運動変換部236,286はそれぞれ、各操作部234,284を回動させたときの回動量に基づいて、各ワイヤ32,82を所定量進退させることができるように構成されている。これにより、「第1又は第2操作部234,284をいずれかの方向に回動させる(傾ける)」という単純な操作で、各シース10,60の先端部近傍位置を所定の曲率に屈曲させることが可能となる。
【0085】
実施形態2に係る管状治療具留置装置2は、操作部の構成及び運動変換部の機能が異なる点以外では、実施形態1に係る管状治療具留置装置1と同様の構成を有するため、実施形態1に係る管状治療具留置装置1が有する効果のうち該当する効果をそのまま有する。
【0086】
[実施形態3]
図10及び図11は、実施形態3に係る管状治療具留置装置3を説明するために示す図である。図10(a)は管状治療具留置装置3を構成する各部材及びステントグラフトSGを示す図であり、図10(b)は各部材を組み立ててさらにステントグラフトSGを配置した様子を示す図であり、図10(c)は第1操作部334の周辺部分を模式的に示す斜視図である。なお、図10及び図11において、図2及び図3と同一の部材については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0087】
実施形態3に係る管状治療具留置装置3は、基本的には実施形態1に係る管状治療具留置装置1と良く似た構成を有するが、操作部の構成及び運動変換部の機能が実施形態1に係る管状治療具留置装置1とは異なる。
【0088】
すなわち、実施形態3に係る管状治療具留置装置3においては、図10及び図11に示すように、操作部として、各シース10,60の屈曲状態を操作するための第1及び第2操作部334,384を有する。
【0089】
第1操作部334は、第1シース基部20の内部方向に向けて押下可能に構成されたボタン部材である。
【0090】
第1運動変換部336は、第1操作部334を操作したときの第1操作部334の動作を第1ワイヤ32の進退動作に変換して第1ワイヤ32を進退させる機能(動作変換・進退機能)と、第1操作部334を押下したときの押下量に基づいて、第1ワイヤ32の進退量を調整する機能(進退量調整機能)とを少なくとも有する。
【0091】
上記した進退量調整機能とは、第1操作部334の押下量に応じた値が第1ワイヤ32の進退量となるように、第1操作部334の押下量に対する第1ワイヤ32の進退量を調整する機能のことである。例えば、第1操作部334を1mm押下すると第1ワイヤ32が10mm進退するように構成されている場合には、第1操作部334を5mm押下すると、第1ワイヤ32は第1シース10の軸方向に沿って50mm進退することとなる。なお、第1操作部334の押下量に対する第1ワイヤ32の進退量の割合については、上記の具体的数値に限定されるものではなく、適宜設定可能である。また、第1操作部334の押下量と第1ワイヤ32の進退量とは、必ずしも比例関係でなくてもよい。
【0092】
なお、第2操作部384及び第2運動変換部386については、第1操作部334及び第1運動変換部336と同様の構成を有するため、詳細な説明を省略する。
【0093】
また、各操作部334,384及び各運動変換部336,386の具体的構成(機械的構成や電気的構成)については説明を省略するが、上記した動作変換・進退機能及び進退量調整機能の両機能を実現可能な構成であれば、公知の手段(例えば歯車機構、ラック・アンド・ピニオン機構など)を用いて構わない。
【0094】
管状治療具留置装置3においては、第1操作部334を押すことにより、第1シース10の先端部近傍位置を所定の曲率に屈曲させることができる。また、管状治療具留置装置3は、第1操作部334を押す指を離すとボタンが自然に戻るように構成されているため、第1操作部334から指を離すことにより、第1シース10を真っ直ぐにすることができる。第2シース60及び第2操作部384についても同様である。
【0095】
このように、実施形態3に係る管状治療具留置装置3は、実施形態1に係る管状治療具留置装置1とは操作部の構成及び運動変換部の機能が異なるが、第1及び第2シース10,60と各シース10,60の先端部近傍位置を所定の曲率に屈曲させる機能を有する第1及び第2屈曲機構330,380とを備えているため、実施形態1に係る管状治療具留置装置1の場合と同様に、上行大動脈や近位弓部大動脈に大動脈瘤が発生したとしても、ステントグラフトを比較的容易に留置することが可能な管状治療具留置装置(ステントグラフト留置装置)となる。
【0096】
実施形態3に係る管状治療具留置装置3においては、上述したように、第1及び第2操作部334,384はそれぞれ、各シース基部20,70の内部方向に向けて押下可能に構成されたボタン部材であり、第1及び第2運動変換部336,386はそれぞれ、各操作部334,384を押下したときの押下量に基づいて、各ワイヤ32,82を所定量進退させることができるように構成されている。これにより、「第1又は第2操作部334,384を押す」という単純な操作で、各シース10,60の先端部近傍位置を所定の曲率に屈曲させることが可能となる。
【0097】
実施形態3に係る管状治療具留置装置3は、操作部の構成及び運動変換部の機能が異なる点以外では、実施形態1に係る管状治療具留置装置1と同様の構成を有するため、実施形態1に係る管状治療具留置装置1が有する効果のうち該当する効果をそのまま有する。
【0098】
以上、本発明の管状治療具留置装置を上記の各実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0099】
(1)上記各実施形態においては、第1及び第2ワイヤ32,82が第1又は第2シース10,60の管壁内に配置されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。第1及び第2ワイヤと他の部材又は血管壁との接触による問題が起こらないように構成されていれば、例えば各シースの管内表面又は管外表面に第1又は第2ワイヤが配置されていてもよい。
【0100】
(2)上記各実施形態においては、第1及び第2ワイヤ用ルーメン12,62の断面形状が楕円状である場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の断面形状(例えば円形状など)であってもよい。また、第1及び第2ワイヤ用ルーメンの断面形状に応じて、断面円形状以外の断面形状からなる第1及び第2ワイヤを用いてもよい。
【0101】
(3)上記各実施形態においては、第1又は第2ワイヤ用ルーメン12,62内に第1又は第2ワイヤ32,82が配置されていないと各シース10,60が屈曲し、第1又は第2ワイヤ用ルーメン12,62内に第1又は第2ワイヤ32,82が配置されていると各シース10,60が真っ直ぐとなるように、各シース10,60及び各ワイヤ32,82が構成されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、各ワイヤ用ルーメン内に各ワイヤが配置されていると各シースが屈曲し、各ワイヤ用ルーメン内に各ワイヤが配置されていないと各シースが真っ直ぐとなるように、各シース及び各ワイヤが構成されていてもよい。要するに、各シースが、屈曲状態から非屈曲状態(真っ直ぐな状態)へと変化したり非屈曲状態から屈曲状態へと変化したりできるように、各シース、各ワイヤ並びに他の部材が構成されていればよい。
【0102】
(4)上記実施形態1においては、第1及び第2操作部34,84が図5(a)に示すP1方向又はP2方向に向けて(第1又は第2シース10,60の軸方向に沿って)スライド可能に構成されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、第1又は第2シース10,60の周方向(シース断面の円周に沿った方向)に沿って第1及び第2操作部がスライド可能に構成されていてもよい。
また、上記実施形態2においては、第1及び第2操作部234,284が図8(c)に示すS1方向又はS2方向に向けて(第1又は第2シース10,60の軸方向に沿って)回動可能に構成されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、第1又は第2シース10,60の周方向(シース断面の円周に沿った方向)に沿って第1及び第2操作部が回動可能に構成されていてもよい。
【0103】
(5)上記実施形態1においては、各操作部34,84として、棒状のスライド部材を例示し、上記実施形態2においては、各操作部234,284として、棒状のレバー部材を例示し、上記実施形態3においては、各操作部334,384として、平面視楕円形状のボタン部材を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、上記した形状とは異なる形状からなるスライド部材、レバー部材又はボタン部材であってもよい。
【0104】
(6)上記実施形態1においては、各操作部34,84は、各シース10,60の軸方向に沿っては移動でき、各シース10,60の周方向(シース断面の円周に沿った方向)に沿っては移動できないように構成されているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、各操作部が各シース10,60の軸方向に沿って移動可能であることとは別に、各操作部の位置を、各シース10,60の周方向に沿って移動できるように構成してもよい。上記実施形態2におけるレバー部材の場合も同様のことが言える。
【0105】
(7)上記各実施形態においては、各シース10,60の屈曲状態を操作するための第1及び第2操作部が、スライド部材、レバー部材又はボタン部材で構成されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の操作手段を用いて本発明における操作部を構成してもよい。
【0106】
(8)上記各実施形態においては、第1及び第2操作部がそれぞれ別体として構成されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、第1操作部が担う機能と第2操作部が担う機能とを切り換えることが可能な切換え手段などを備えていれば、第1操作部と第2操作部とを一体化してもよい。
【0107】
(9)上記実施形態1においては、各運動変換部36,86が進退量調整機能を備えている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、進退量調整機能を備えていない運動変換部を用いてもよい。この場合は、各操作部をスライド移動させた量がそのまま各ワイヤの進退量となる。
【0108】
(10)上記各実施形態においては、シースとしては2つのシース(第1及び第2シース10,60)を備える場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、3つ以上のシースを備え、これら各シースの先端部又は先端部近傍位置を所定の曲率に屈曲させる屈曲機構を備えていてもよい。ただし、3つ以上のシースを備えている場合は、管状治療具留置装置全体の径寸法が大きくなってしまう場合があることに留意する必要がある。
【0109】
(11)上記各実施形態においては、各シースを屈曲させるための屈曲機構として、ワイヤと操作部と運動変換部とを備える屈曲機構を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、温度変化に基づいて軸方向応力を発生可能な形状記憶合金からなるコイルをシース先端部又は先端部近傍位置に巻き、所定の操作によって当該コイルの温度を上昇又は下降させることにより、各シースを屈曲させる屈曲機構を用いてもよい。または、温度変化に基づいてシースの一部分が収縮又は伸長するように構成されたシースを用い、所定の操作によって当該シースの所定部分の温度を上昇又は下降させることにより、各シースを屈曲させる屈曲機構を用いてもよい。
【0110】
(12)上記各実施形態においては、ステントグラフトを患部に留置するためのステントグラフト留置装置を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。ステントグラフト以外の管状治療具を患部に留置するための管状治療具留置装置(例えば、ステントを患部に留置するためのステント留置装置)にも本発明を適用することができる。
【0111】
(13)本発明の管状治療具留置装置は、上行大動脈や近位弓部大動脈に発生した大動脈瘤に対して管状治療具を比較的容易に留置することが可能であることはもちろんのこと、他の部位(遠位弓部大動脈、下行大動脈など)に発生した大動脈瘤に対しても管状治療具を比較的容易に留置することが可能であることは言うまでもない。また、本発明の管状治療具留置装置について、第1シースの屈曲する向きと第2シースの屈曲する向きとが逆の関係となる(例えば、第1シースが内向きに屈曲し第2シースが外向きに屈曲する)ように構成すれば、例えばS字状に屈曲した位置より先の部分に対しても管状治療具を比較的容易に留置することが可能となる。
【符号の説明】
【0112】
1,1a,2,3 管状治療具留置装置
10,10a 第1シース
12 第1ワイヤ用ルーメン
20 第1シース基部
22 長孔
30,230,330 第1屈曲機構
32 第1ワイヤ
34,234,334 第1操作部
36,236,336 第1運動変換部
50 ロッド部材
52 ロッド本体部
54 保持部
56 先端チップ
60 第2シース
62 第2ワイヤ用ルーメン
70 第2シース基部
80,280,380 第2屈曲機構
82 第2ワイヤ
84,284,384 第2操作部
86,286,386 第2運動変換部
244 軸部
246 支点部
D1 第1シースの内径
D2 第2シースの外径
SG ステントグラフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向に拡張可能な管状治療具(SG)を患部に留置するための管状治療具留置装置(1)であって、
可撓性を有し、管状の第1シース(10)と、
可撓性を有し、前記第1シース(10)の内側を前記第1シース(10)の軸方向に沿って進退可能に構成された管状の第2シース(60)と、
前記第2シース(60)の内側を前記第2シース(60)の軸方向に沿って進退可能に構成され、縮径された状態の前記管状治療具(SG)を前記第2シース(60)の先端から露出させるためのロッド部材(50)と、
前記第1シース(10)の先端部又は先端部近傍位置を、所定の曲率に屈曲させる機能を有する第1屈曲機構(30)と、
前記第2シース(60)の先端部又は先端部近傍位置を、所定の曲率に屈曲させる機能を有する第2屈曲機構(80)とを備えることを特徴とする管状治療具留置装置(1)。
【請求項2】
請求項1に記載の管状治療具留置装置において、
前記第1屈曲機構(30)は、
前記第1シース(10)に沿うように前記第1シース(10)の管壁内又は管壁表面に設けられ、前記第1シース(10)の軸方向に沿って進退可能に構成された第1ワイヤ(32)と、
前記第1シース(10)の基端部側に設けられ、前記第1シース(10)の屈曲状態を操作するための第1操作部(34)と、
前記第1操作部(34)を操作したときの前記第1操作部(34)の動作を前記第1ワイヤ(32)の進退動作に変換して前記第1ワイヤ(32)を進退させる第1運動変換部(36)とを有し、
前記第2屈曲機構(80)は、
前記第2シース(60)に沿うように前記第2シース(60)の管壁内又は管壁表面に設けられ、前記第2シース(60)の軸方向に沿って進退可能に構成された第2ワイヤ(82)と、
前記第2シース(60)の基端部側に設けられ、前記第2シース(60)の屈曲状態を操作するための第2操作部(84)と、
前記第2操作部(84)を操作したときの前記第2操作部(84)の動作を前記第2ワイヤ(82)の進退動作に変換して前記第2ワイヤ(84)を進退させる第2運動変換部(86)とを有することを特徴とする管状治療具留置装置(1)。
【請求項3】
請求項2に記載の管状治療具留置装置において、
前記第1及び第2操作部(34,84)はそれぞれ、
前記第1又は第2シース(10,60)の軸方向に沿ってスライド可能に構成されたスライド部材であり、
前記第1及び第2運動変換部(36,86)はそれぞれ、
前記スライド部材をスライドさせたときのスライド量に基づいて、前記第1又は第2ワイヤ(32,82)を所定量進退させることができるように構成されていることを特徴とする管状治療具留置装置(1)。
【請求項4】
請求項2に記載の管状治療具留置装置において、
前記第1及び第2操作部(234,284)はそれぞれ、
軸部(244)及び支点部(246)を有し当該支点部(246)を回動中心として回動可能に構成されたレバー部材であり、
前記第1及び第2運動変換部(236,286)はそれぞれ、
前記レバー部材を回動させたときの回動量に基づいて、前記第1又は第2ワイヤ(32,82)を所定量進退させることができるように構成されていることを特徴とする管状治療具留置装置(2)。
【請求項5】
請求項2に記載の管状治療具留置装置において、
前記第1及び第2操作部(334,384)はそれぞれ、
所定方向に押下可能に構成されたボタン部材であり、
前記第1及び第2運動変換部(336,386)はそれぞれ、
前記ボタン部材を押下したときの押下量に基づいて、前記第1又は第2ワイヤ(32,82)を所定量進退させることができるように構成されていることを特徴とする管状治療具留置装置(3)。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の管状治療具留置装置において、
前記第1屈曲機構(30)は、前記第1シース(10)の屈曲状態を維持する機能と、前記第1シース(10)の屈曲状態の維持を解除する機能とをさらに有することを特徴とする管状治療具留置装置(1)。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の管状治療具留置装置において、
前記管状治療具がステントグラフト(SG)であることを特徴とする管状治療具留置装置(1)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−227486(P2010−227486A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81224(P2009−81224)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000200035)川澄化学工業株式会社 (103)
【Fターム(参考)】