説明

粉体塗布装置および粉体塗布方法

【課題】被塗布物上に形成される塗布膜の,厚さの均一性が高い粉体塗布装置および粉体塗布方法を提供すること。
【解決手段】粉体塗布装置100は,被塗布物10とスクリーン電極1との間を開閉するシャッタ4を備える。そして,始めに,シャッタ4を閉じた状態で,ホッパ2からスクリーン電極1上に粉体21を供給する。そして,シャッタ4を閉じた状態で,ブラシ8を粉体層の表面に摺擦させる。これにより,粉体21は,被塗布物10に移動することなくスクリーン電極1上で均される。その後,スクリーン電極1と転写電極3との間に高電圧を印加して静電界を形成し,シャッタ4を開いた状態にする。そして,ブラシ8を再度粉体層に摺擦させ,スクリーン電極1上の粉体を被塗布物10に塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,被塗布物に粉体を塗布する粉体塗布装置および粉体塗布方法に関する。さらに詳細には,静電力を利用して粉体を被塗布物に転写する粉体塗布装置および粉体塗布方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から,静電力を利用して粉体を被塗布物に転写する静電塗装技術が広く知られている。近年,この静電塗装技術は,被塗布物の塗装の他にも様々な分野で注目されている。例えば,非水型2次電池の電極の製造においても,この静電塗装技術の利用が検討されている。
【0003】
静電塗装技術を利用した粉体塗布方法としては,例えば特許文献1に,スポンジ状のローラ表面に粉体を供給し,そのローラをスクリーン電極に押し付けつつ回転させることで,粉体をスクリーン電極の孔を介して供給する方法が開示されている。また,例えば特許文献2に,スクリーン電極上に粉体を散布し,スクリーン電極を上下振動させることで,粉体をスクリーン電極の孔を介して供給する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭64−9955号公報
【特許文献2】特開昭61−116578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,前記した従来の技術には,次のような問題があった。すなわち,被塗布物上に得られる膜(塗布膜)の厚さにばらつきがある。例えば特許文献1のようにローラから粉体を塗布する場合,被塗布物上に形成される塗布膜の均一性は,ローラでスクリーン電極から押し出される粉体量の均一性にほぼ等しい。この粉体量の均一性は,ホッパーからローラに降り注がれる粉体量の均一性によって決定されるが,ホッパーからの定量供給は非常に難しい。また,ローラ上に供給された粉体は,一部はスポンジ状のローラに吸収され,一部はスポンジの曲面で無作為に跳ね返る。つまり,ローラから押し出される粉体量の制御は極めて難しい。
【0006】
一方,特許文献2のように,ローラを利用しない場合,ローラに起因する塗布膜の厚さ不均一は生じない。しかし,特許文献2のように粉体をホッパーから散布する場合,塗布膜の均一性は,スクリーン電極上に散布される粉体量の均一性にほぼ等しい。この粉体量の均一性は,結局,ホッパーから降り注がれる粉体量の均一性によって決定される。そのため,高精度の塗布膜形成は困難である。
【0007】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,被塗布物上に形成される塗布膜の,厚さの均一性が高い粉体塗布装置および粉体塗布方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題の解決を目的としてなされた粉体塗布装置は,被塗布物に粉体を塗布する粉体塗布装置であって,多数の孔が設けられたスクリーン電極と,スクリーン電極上に粉体を供給する供給手段と,スクリーン電極の,供給手段が粉体を供給する面とは反対側の面と対向し,高電圧が印加されることによってスクリーン電極との間で静電界を形成する転写電極と,スクリーン電極の,供給手段が粉体を供給する面上に位置し,スクリーン電極に対して平行方向に移動し,スクリーン電極上に形成された粉体層を摺擦する摺擦手段と,スクリーン電極と転写電極との間に位置し,両電極間に配置される被塗布物とスクリーン電極との間を開閉するシャッタとを備え,シャッタを閉じた状態で,供給手段からスクリーン電極上に粉体を供給し,摺擦手段がスクリーン電極上に形成された粉体層上でスクリーン電極に対して平行方向に移動し,シャッタを開いた状態で,スクリーン電極と転写電極との間に配置された被塗布物に,スクリーン電極上に供給された粉体を塗布することを特徴としている。
【0009】
本発明の粉体塗布装置は,被塗布物とスクリーン電極との間を開閉するシャッタを設けている。そして,シャッタを閉じた状態で,スクリーン電極上に粉体を供給する。さらに,シャッタを閉じた状態で,摺擦手段が粉体層を摺擦する。これにより,スクリーン電極上の粉体層は,被塗布物に移動することなくスクリーン電極上で均される。その後,スクリーン電極と転写電極との間に高電圧を印加して静電界を形成する。そして,シャッタを開いた状態にして,スクリーン電極上の粉体を静電界を介して被塗布物に塗布する。
【0010】
すなわち,本発明の粉体塗布装置では,一旦,シャッタを閉じた状態で粉体を供給し,摺擦手段がスクリーン電極上に形成された粉体層上を平行移動することで粉体層を均す。その後,粉体層の厚さが均一となったところでシャッタを開き,粉体を被塗布物に塗布する。つまり,粉体層の厚さが均一となった状態で粉体を塗布する。そのため,被塗布物に形成される塗布膜の厚さも均一性が高い。
【0011】
また,本発明の粉体塗布装置は,スクリーン電極の,供給手段が粉体を供給する面上に位置し,供給手段が粉体を供給する領域を囲む防止壁を備えるとよい。すなわち,スクリーン電極の,粉体層が形成される面を囲むことで,粉体が装置外に飛散することが抑制される。
【0012】
また,上記の防止壁は,少なくともスクリーン電極を接触する部位が絶縁部材からなるとよい。すなわち,スクリーン電極と接触する部位を絶縁部材とすることで,短絡を防止することができる。
【0013】
また,本発明の粉体塗布装置のシャッタは,閉じた状態でスクリーン電極と接触状態であるとよい。すなわち,シャッタがスクリーン電極の孔を塞ぐことで,摺擦手段が粉体層を摺擦する際にスクリーン電極からシャッタに漏れる粉体の量を少なくすることができる。
【0014】
なお,本発明の粉体塗布装置のシャッタは,閉じた状態でスクリーン電極と非接触状態であってもよい。すなわち,スクリーン電極に接触させるための機構が不要であり,装置の構成がシンプルになる。
【0015】
また,上記の場合,シャッタは,少なくともスクリーン電極を接触する部位が絶縁部材からなるとよい。すなわち,スクリーン電極と接触する部位を絶縁部材とすることで,短絡を防止することができる。
【0016】
また,本発明の粉体塗布装置は,シャッタを開放した状態で,摺擦手段がスクリーン電極に対して平行方向に移動して,被塗布物に粉体を塗布するとよい。すなわち,均された後の粉体を被塗布物に塗布する手段を別に装備することが考えられるが,均し手段として利用した摺擦手段を粉体塗布時にも利用する。つまり,摺擦手段が,均し機能と塗布機能とを兼ねる。これにより,装置の構成がシンプルになる。
【0017】
また,本発明は,被塗布物に粉体を塗布する粉体塗布方法であって,多数の孔が設けられたスクリーン電極と,スクリーン電極と対向し,スクリーン電極との間で静電界を形成する転写電極との間に,被塗布物を配置する配置ステップと,スクリーン電極と被塗布物との間をシャッタで閉じ,シャッタを閉じた状態で,スクリーン電極上に粉体を供給する供給ステップと,供給ステップで粉体の供給を開始した後,シャッタを閉じた状態で,スクリーン電極上に形成された粉体層上に摺擦手段を配置し,摺擦手段をスクリーン電極に対して平行方向に移動し,粉体層を摺擦する摺擦ステップと,スクリーン電極と転写電極との間に高電圧を印加し,静電界を形成する電圧印加ステップと,シャッタを開いた状態で,スクリーン電極上に供給された粉体を静電界を介して被塗布物に塗布する塗布ステップとを含んでいる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば,被塗布物上に形成される塗布膜の,厚さの均一性が高い粉体塗布装置および粉体塗布方法が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態にかかる粉体塗布装置の概略構成(シャッタを閉じ,カバーを開いた状態)を示す図である。
【図2】スクリーン電極の概略構成を示す図である。
【図3】図2に示したスクリーン電極のA−A断面を示す図である。
【図4】実施の形態にかかる粉体塗布装置の概略構成(シャッタおよびカバーを閉じた状態)を示す図である。
【図5】実施の形態にかかる粉体塗布装置の粉体塗布手順を示すフローチャートである。
【図6】実施の形態にかかる粉体塗布装置の概略構成(シャッタを閉じ,ブラシをかけた状態)を示す図である。
【図7】実施の形態にかかる粉体塗布装置の概略構成(シャッタを開き,ブラシをかけた状態)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下,本発明にかかる装置を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。なお,以下の形態では,リチウムイオン電池の電極板を製造する際に利用される粉体塗布装置として本発明を適用する。
【0021】
[粉体塗布装置の構成]
本形態の粉体塗布装置100は,図1に示すように,スクリーン電極1と,ホッパ2と,転写電極3と,シャッタ4と,飛散防止壁6と,ブラシ8とを備えている。被塗布物10(本形態ではリチウムイオン電池の電極板)は,スクリーン電極1と転写電極3との間に,より具体的にはシャッタ4を閉じた状態でシャッタ4と転写電極3との間に配置される。また,スクリーン電極1と転写電極3とは,直流高圧電源31に電気的に接続される。
【0022】
スクリーン電極1は,図2に示すように,ステンレス製のメッシュ11と,アルミ製の枠体12とから構成されている。本形態では,メッシュ11および枠体12の外形を,200mm×200mmとする。図3は,図2のA−A断面を示している。メッシュ11には,およそ500個の孔14が等間隔で設けられる構成になっている。本形態では,各孔14の最大幅を25μmとする。この貫通孔である孔14を介して,スクリーン電極11の一方の面上に供給される粉体が他方の面側に通り抜け可能になっている。また,一部の孔14は,絶縁性樹脂15によって塞がれている。すなわち,被塗布物10に粉体を塗布したい領域(塗布領域)以外の領域に対応する孔14を絶縁性樹脂15で閉塞している。これにより,所望の領域に粉体を塗布することができる。
【0023】
ホッパ2は,被塗布物10に塗布する粉体21(本形態ではリチウムイオン電池の電極材料)を,スクリーン電極1上に供給するものである。ホッパ2は,不図示の移動機構により,図1中,上下方向,左右方向,奥行き方向の三方に移動自在に設けられており,スクリーン電極1上の面内に均等に粉体21を供給する。
【0024】
転写電極3は,スクリーン電極1のホッパ2が粉体21を供給する面とは反対側の面で対向するように配置され,直流高圧電源31から転写バイアスが印加されることで,スクリーン電極1との間に静電界を形成する。本形態では,転写電極3とスクリーン電極1との距離を,15mmとする。また,転写電極3は,アルミ板であり,被塗布物10を支持する機能を兼ねる。
【0025】
シャッタ4は,スクリーン電極1と転写電極3との間に配置され,スクリーン電極1と転写電極3とが対向する方向に直交する方向(図1中の左右方向あるいは奥行方向)にスライド可能になっている。本形態では,厚みが1.0mmのステンレス板であり,全面がフッ素樹脂でコーティングされたものとする。そして,シャッタ4が両電極1,3間に位置する状態(閉じた状態)では,粉体21の被塗布物10への移動を抑制し,シャッタ4が両電極1,3間に位置しない状態(開いた状態)では,粉体21の被塗布物10への移動が可能になる。なお,開いた状態では,シャッタ4が両電極1,3間から完全に外れた位置にいなければならないものではなく,少なくとも被塗布物10の塗布領域と対向しない位置にいればよい。
【0026】
飛散防止壁6は,スクリーン電極1のホッパ2が粉体21を供給する面上に固定され,ホッパ2が粉体21を供給する領域を囲むように配置されている。本形態では,高さを100mmとし,スクリーン電極1の枠体12に固定される。飛散防止壁6によって,粉体21の装置外への飛散が抑制される。なお,飛散防止壁6は,ポリプロピレン(PP)製であり,他の部位と接触したとしても短絡は生じない。
【0027】
また,飛散防止壁6は,図4に示すように,上側の開口部に,その開口部を閉じるカバー61を有している。カバー61を閉じる際には,ホッパ2を飛散防止壁6に囲まれた領域外に移動させる。カバー61を閉じた状態では,スクリーン電極1上の粉体層22が飛散防止壁6で囲まれている領域内に閉じ込められた状態になり,粉体の装置外への飛散がほぼ完全に抑制される。また,外部からの異物の混入も抑制される。なお,カバー61は無くても良い。
【0028】
ブラシ8は,平面状のブラシであり,図1中の上下方向,左右方向および奥行方向の3方に移動自在に設けられたフレーム部材81と,フレーム部材81の下面に貼り付けられた発泡ウレタン82とを備える。フレーム部材81は,195mm×195mm×5mmのアルミ板である。フレーム部材81は,発泡ウレタン82を支持する部材であり,所望の剛性を有するものであればどのような材質であっても適用可能である。発泡ウレタン82は,195mm×195mm×5mmのプラスチックスポンジである。発泡ウレタン82は,絶縁性を有する部材であれば適用可能である。ブラシ8は,発泡ウレタン82とスクリーン電極1とが対向するように配置される。
【0029】
[リチウムイオン電池の構成]
続いて,非水型2次電池であるリチウムイオン電池の構成について簡単に説明する。リチウムイオン電池の発電要素は,金属箔の両面に負極用活物質を被膜状に塗布した負極と,金属箔の両面に正極用活物質を被膜状に塗布した正極とを有し,両電極がセパレータを介して対向配置される構造をなしている。そして,電極となる金属箔に粉体である活物質を塗布する際に,本形態の粉体塗布装置100が利用される。
【0030】
具体的に本形態では,正極板の金属箔として,厚さが15μmのアルミ箔を利用し,正極用活物質として,粒径が2μm〜15μmであり,平均粒径が5μmのコバルト酸リチウム(LiCoO2 )を利用する。また,負極板の金属箔として,厚さが15μmの銅箔を利用し,負極用活物質として,粒径が5μm〜20μmであり,平均粒径が8μmのグラファイトカーボンを利用する。また,バインダとして,5重量パーセント濃度のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末を混合する。なお,正極板,正極活物質層,負極板,負極活物質層,バインダに利用される物質は,一例であり,一般的に電池に利用されるものを適宜選択すればよい。
【0031】
[粉体塗布手順]
続いて,粉体塗布装置100の動作手順について,図5のフローチャートを参照しつつ説明する。なお,開始時には,スクリーン電極1と転写電極3との間には電圧が印加されていないものとする。また,カバー61が閉じているものとする。
【0032】
まず,被塗布物10(正極板であればアルミ箔,負極板であれば銅箔)を,転写電極3上に搬入する(S00)。なお,S00の被塗布物10の搬入は,開始直後のタイミングに限るものではなく,後述するS07のシャッタ4を開くタイミングまでに搬入すればよい。
【0033】
次に,飛散防止壁6の上側のカバー61を開く(S01)。これにより,飛散防止壁6で囲まれている領域が開き,当該領域内にホッパ2およびブラシ8が移動可能になる。なお,始めからカバー61が開いている場合には,本ステップをバイパスする。
【0034】
次に,シャッタ4がスクリーン電極1と被塗布物10との間に移動し,シャッタ4を閉じた状態にする(S02)。なお,シャッタ4を閉じた状態では,シャッタ4とスクリーン電極1とが接触しており,シャッタ4がスクリーン電極1の孔14を塞いでいる。
【0035】
次に,ホッパ2の供給口が,飛散防止壁6で囲まれている領域内に移動し,スクリーン電極1から50mmの高さの位置に配置される。そして,ホッパ2を横方向(図1中の左右方向あるいは奥行方向)に移動しながら粉体21(正極板用であればコバルト酸リチウム,負極板用であればグラファイトカーボン)をスクリーン電極1の全面に供給する(S03)。S03では,スクリーン電極1上におよそ10mmの粉体層22が形成されるまで粉体を供給する。
【0036】
次に,ホッパ2が飛散防止壁6で囲まれている領域外に移動し,ブラシ8が飛散防止壁6で囲まれている領域内に移動し,発泡ウレタン82と粉体層22とを接触させる。そして,図6に示すように,ブラシ8が,横方向(図6中の左右方向あるいは奥行方向)に移動する(S04)。すなわち,ブラシ8がスクリーン電極1に対して平行移動する。このブラシ8が移動する際,発泡ウレタン82が粉体層22に摺擦し,粉体層22の表面が均される。このブラシ8の摺擦を1分間継続し,粉体層22の厚さを均一化する。なお,ブラシ8による摺擦中,スクリーン電極1の上面側(粉体層22側)は,飛散防止壁6によって覆われている。そのため,粉体は装置外部に飛散し難い。一方,スクリーン電極1の下面側(被塗布物10側)は,シャッタ4が接触している。そのため,粉体はスクリーン電極1から漏れ出さない。
【0037】
具体的には,ブラシ8の中心が,スクリーン電極1の平面上の中心を(X,Y)=(0,0)とした場合の(+2mm,+2mm)の位置になるように移動し,さらにスクリーン電極1とフレーム部材81との距離が15mmとなる高さ,つまり発泡ウレタン82と粉体層22とが接触する高さまで移動する。そして,その高さで,ブラシ8が,(+2mm,−2mm),(−2mm,−2mm),(−2mm,+2mm),(+2mm,+2mm)の順に4秒/周の速度で移動し,この周回移動を1分間継続して行う。
【0038】
粉体層22を均一化した後,直流高圧電源31によってスクリーン電極1と転写電極3との間に高電圧を印加する(S05)。本形態では,直流電圧3kVを印加する。これにより,スクリーン電極1と転写電極3との間には,被塗布物10およびシャッタ4を挟んで静電界が形成される。
【0039】
次に,スクリーン電極1と転写電極3との間に強電場が形成された状態で,シャッタ4がスクリーン電極1と被塗布物10との間から外れる位置に移動し,シャッタ4を開いた状態にする(S06)。
【0040】
シャッタ4を開いた後,図7に示すように,再びブラシ8を駆動し,ブラシ8をS04でのポジションよりも僅かに下降させて粉体層22への押圧力を上げ,発泡ウレタン82を粉体層22に押し当てた状態でブラシ8を周回移動させる(S07)。これにより,スクリーン電極1上の粉体21は,静電界が形成されている領域に孔14を介して注がれる。そして,粉体21は,孔14を通過する際に荷電され,静電力によって粉体21が被塗布物10に塗布される。このとき,スクリーン電極1上の粉体層22は厚さが均一であり,被塗布物10にも粉体21が均一に塗布される。
【0041】
具体的には,ブラシ8を,スクリーン電極1とフレーム部材81との距離が10mmとなる高さまで下降させる。すなわち,ブラシ8の発泡ウレタン部82を粉体層22に押し当てる。そして,その高さで,ブラシ8がS04と同様の運動を行う。なお,S07時において,ブラシ8の粉体層22への押圧力がS04時の高さでも十分の場合は,ブラシ8を下降させる必要はない。
【0042】
粉体21の供給をし終えた後,ブラシ8の摺擦を終了し,電圧印加を終了する(S08)。その後,飛散防止壁6の上側のカバー61を閉じ(S09),被塗布物10を粉体供給装置100から取り出し,不図示の定着装置にて粉体を定着させることで粉体の塗布が完了する。
【0043】
なお,本形態では,シャッタ4が閉じた状態の際,シャッタ4とスクリーン電極1とが接触していることとしているが,シャッタ4とスクリーン電極1とが非接触で対向するように配置してもよい。この場合,シャッタ4とスクリーン電極1とを接触させる機構(例えば,シャッタ4を上下移動させる機構)が不要であり,機器構成がシンプルになる。一方,シャッタ4とスクリーン電極1とを接触させた場合には,粉体層22の均し時(S04)にシャッタ4上に落下する粉体量を少なくすることができ,粉体の浪費が少ない。
【0044】
また,本形態の具体例として示した,摺擦時の移動量,周回速度,均し時間,電圧,粉体の供給量,スクリーン電極1の多孔構造等は,あくまでも一例であってこれに限るものではない。すなわち,これらの数値および構造は,塗布量や粉体21の種類によって適宜選択される。
【0045】
以上詳細に説明したように本形態の粉体塗布装置100は,被塗布物10とスクリーン電極1との間を開閉するシャッタ4を設けている。そして,シャッタ4を閉じた状態で,スクリーン電極1上に粉体21を供給する。さらに,シャッタ4を閉じた状態で,ブラシ8が粉体層22を摺擦する。これにより,粉体21は,被塗布物10に移動することなくスクリーン電極1上で均される。その後,スクリーン電極1と転写電極3との間に高電圧を印加して静電界を形成する。そして,シャッタ4を開いた状態にして,ブラシ8が再度粉体層22を摺擦し,スクリーン電極1上の粉体を被塗布物10に塗布する。すなわち,粉体塗布装置100では,一旦,シャッタ4を閉じた状態で粉体を供給し,粉体層22を摺擦してスクリーン電極1上の粉体層22を均した後,粉体層22の厚さが均一となったところでシャッタ4を開き,粉体21を被塗布物10に塗布する。つまり,粉体層22の厚さが均一となった状態で粉体21を塗布する。そのため,被塗布物10に形成される塗布膜の厚さも,均一性が高まることが期待できる。
【0046】
特に,リチウムイオン電池に代表される非水型2次電池の電極(被塗布物)では,塗布膜の厚みの均一性として1平方センチ当たり十ミクロン以下の精度が要求される。本形態の粉体塗布装置100は,このような高精度の要求を満たすことが期待できる。
【0047】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,実施の形態では,リチウムイオン電池の電極の製造工程に,本発明を適用しているが,これに限るものではない。例えば,リチウムイオン電池以外の非水型2次電池の製造技術にも適用可能である。また,非水型2次電池の製造技術に限らず,塗装技術や成膜技術にも本発明を適用可能である。また,被塗布物としては,例えば,成形品全般,電子部品,プリント基板,ガラス基板が適用可能である。
【0048】
また,実施の形態では,粉体層22と摺擦する摺擦手段として,矩形の発泡ウレタン82を利用したが,これに限るものではない。例えば,非発泡の材料であってもよい。また,その形状についても,ローラ状のものであってもよいし,ブラシ毛をフレーム部材に植毛したものであってもよい。
【0049】
また,実施の形態では,短絡を抑制するために,発泡ウレタン82,シャッタ4および飛散防止壁6の全体が絶縁材料からなるように構成しているが,一部のみを絶縁材料で構成するようにしてもよい。すなわち,スクリーン電極1との接触部ないし接合部が絶縁部材であればよく,必ずしも全体が絶縁部材である必要はない。
【0050】
また,実施の形態では,ブラシ8がS04での均し機能とS07での塗布機能とを兼ねているが,別々の機構によって実行してもよい。すなわち,塗布手段としては,振動機構やスキージ等によって粉体を押し出してもよい。ただし,ブラシ8が均し機能と塗布機能とを兼ねることで,装置の構成をシンプルにすることができる。
【0051】
また,実施の形態では,カバー61を開いた状態でブラシ8を動作させているが,カバー61を閉じた状態でブラシ8を動作させることが可能な構成であれば,カバー8を閉じた状態でブラシ8を動作させ,粉体層22の均しおよび粉体21の塗布を行ってもよい。この場合,粉体層22が完全に囲まれるため,より粉体21の装置外への飛散が抑制される。
【符号の説明】
【0052】
1 スクリーン電極
14 孔
2 ホッパ(供給手段)
21 粉体
22 粉体層
3 転写電極
31 直流高圧電源
4 シャッタ
6 飛散防止壁
8 ブラシ(摺擦手段)
81 フレーム部材
82 発砲ウレタン
10 被塗布物
100 粉体塗布装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗布物に粉体を塗布する粉体塗布装置において,
多数の孔が設けられたスクリーン電極と,
前記スクリーン電極上に粉体を供給する供給手段と,
前記スクリーン電極の,前記供給手段が粉体を供給する面とは反対側の面と対向し,高電圧が印加されることによって前記スクリーン電極との間で静電界を形成する転写電極と,
前記スクリーン電極の,前記供給手段が粉体を供給する面上に位置し,前記スクリーン電極に対して平行方向に移動し,前記スクリーン電極上に形成された粉体層を摺擦する摺擦手段と,
前記スクリーン電極と前記転写電極との間に位置し,両電極間に配置される被塗布物と前記スクリーン電極との間を開閉するシャッタとを備え,
前記シャッタを閉じた状態で,前記供給手段から前記スクリーン電極上に粉体を供給し,前記摺擦手段が前記スクリーン電極上に形成された粉体層上で前記スクリーン電極に対して平行方向に移動し,
前記シャッタを開いた状態で,前記スクリーン電極と前記転写電極との間に配置された被塗布物に,前記スクリーン電極上に供給された粉体を塗布することを特徴とする粉体塗布装置。
【請求項2】
請求項1に記載する粉体塗布装置において,
前記スクリーン電極の,前記供給手段が粉体を供給する面上に位置し,前記供給手段が粉体を供給する領域を囲む防止壁を備えることを特徴とする粉体塗布装置。
【請求項3】
請求項2に記載する粉体塗布装置において,
前記防止壁は,少なくとも前記スクリーン電極を接触する部位が絶縁部材からなることを特徴とする粉体塗布装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載する粉体塗布装置において,
前記シャッタは,閉じた状態で前記スクリーン電極と接触状態であることを特徴とする粉体塗布装置。
【請求項5】
請求項4に記載する粉体塗布装置において,
前記シャッタは,少なくとも前記スクリーン電極を接触する部位が絶縁部材からなることを特徴とする粉体塗布装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1つに記載する粉体塗布装置において,
前記シャッタを開放した状態で,前記摺擦手段が前記スクリーン電極に対して平行方向に移動して,被塗布物に粉体を塗布することを特徴とする粉体塗布装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1つに記載する粉体塗布装置において,
非水型2次電池の電極板を被塗布物とすることを特徴とする粉体塗布装置。
【請求項8】
被塗布物に粉体を塗布する粉体塗布方法において,
多数の孔が設けられたスクリーン電極と,前記スクリーン電極と対向し,前記スクリーン電極との間で静電界を形成する転写電極との間に,被塗布物を配置する配置ステップと,
前記スクリーン電極と前記被塗布物との間をシャッタで閉じ,前記シャッタを閉じた状態で,前記スクリーン電極上に粉体を供給する供給ステップと,
前記供給ステップで粉体の供給を開始した後,前記シャッタを閉じた状態で,前記スクリーン電極上に形成された粉体層上に摺擦手段を配置し,前記摺擦手段を前記スクリーン電極に対して平行方向に移動し,前記粉体層を摺擦する摺擦ステップと,
前記スクリーン電極と前記転写電極との間に高電圧を印加し,静電界を形成する電圧印加ステップと,
前記シャッタを開いた状態で,前記スクリーン電極上に供給された粉体を前記静電界を介して前記被塗布物に塗布する塗布ステップとを含むことを特徴とする粉体塗布方法。
【請求項9】
請求項8に記載する粉体塗布方法において,
前記シャッタを閉塞した状態では,前記シャッタと前記スクリーン電極とが接触状態であることを特徴とする粉体塗布方法。
【請求項10】
請求項8に記載する粉体塗布方法において,
前記シャッタを閉塞した状態では,前記シャッタと前記スクリーン電極とが非接触状態であることを特徴とする粉体塗布方法。
【請求項11】
請求項8から請求項10のいずれか1つに記載する粉体塗布方法において,
前記塗布ステップでは,前記摺擦手段が前記スクリーン電極に対して平行方向に移動して被塗布物に粉体を塗布することを特徴とする粉体塗布方法。
【請求項12】
請求項8から請求項11のいずれか1つに記載する粉体塗布方法において,
非水型2次電池の電極板を被塗布物とすることを特徴とする粉体塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−207780(P2010−207780A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59839(P2009−59839)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】