説明

粉体塗料、微粉体及び粉体塗料の製造方法、微粉体の製造装置、並びに粉体塗料の塗装方法

【課題】 PET樹脂が本来有する特性を生かした薄い塗膜を形成することができ、これによりコスト低減及び用途拡大を図ることができる粉体塗料、微粉体及び粉体塗料の製造方法、微粉体の製造装置、並びに粉体塗料の塗装方法を提供する。
【解決手段】 本発明の粉体塗料は、平均粒径が10〜30μmであるPET樹脂(PET樹脂)と、PET樹脂に対して2〜10重量%添加された非晶性ポリエステルとを含んでなる。ここで、本発明の粉体塗料は、上記のPET樹脂に対して0.5〜1.5重量%添加された流動化促進剤を含み、更には、ET樹脂に対して0.5〜1.0重量%添加された脱泡剤を含むことが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETともいう)系の樹脂、特にPETボトル等から再生された再生PET樹脂を用いた粉体塗料、微粉体及び粉体塗料の製造方法、微粉体の製造装置、並びに粉体塗料の塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、資源の有効利用が注目されており、その1つとしてPETボトル等の再利用がある。PETボトルを再利用するためには、一般家庭等から回収されたPETボトルを破砕してフレーク(薄片)とし、このフレークを造粒して再生ペレットを形成することにより再生PET樹脂を得る。この再生PET樹脂が種々の製品の原料となって再利用される。再生PET樹脂を用いて製造される製品の1つに粉体塗料がある。ここで、粉体塗料とは粉状の塗料をいい、被塗物にまぶした後に加熱して(焼き付けて)溶融させることにより塗膜を形成する塗料である。この粉体塗料は、溶剤を用いないために衛生面等に優れた塗料である。
【0003】
以下の特許文献1〜5には、主に改質剤の添加によってPET樹脂又は再生PET樹脂を変性させて溶融温度を下げ、焼き付け温度を低温化させることによりエネルギーコストの低減を図った粉体塗料が開示されている。
【特許文献1】特開2000−53892号公報
【特許文献2】特開平10−287844号公報
【特許文献3】特開平11−106701号公報
【特許文献4】特開2000−248204号公報
【特許文献5】特開平9−299877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の特許文献に開示された技術においては、上述の通り改質剤の添加によってPET樹脂又は再生PET樹脂が変性しているため、これらの溶融温度が低下するという利点を有する。しかしながら、改質剤の添加によって本来PET樹脂が有している高付着力、強靱性、高摩耗性、高耐薬品性等の諸特性が弱められてしまっているという欠点を有する。
【0005】
また、塗膜を形成する場合において、膜厚が薄い程広い面積に塗膜を形成することができるが、上記の特許文献に開示された粉体塗料を塗布して形成される塗膜は膜厚が100μm以上の厚膜であるため、塗膜を形成するために多くの粉体塗料が必要になっていた。更に、塗膜を形成すると被塗物の寸法が塗膜の厚みの分だけ変化することになるが、形成される塗膜が厚膜であると被塗物の寸法が大きく変わることになるため、用途が制限されるという問題があった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、PET樹脂が本来有する特性を生かした薄い塗膜を形成することができ、これによりコスト低減及び用途拡大を図ることができる粉体塗料、微粉体及び粉体塗料の製造方法、微粉体の製造装置、並びに粉体塗料の塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の粉体塗料は、平均粒径が10〜30μmであるポリエチレンテレフタレート樹脂と、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂に対して2〜10重量%添加された非晶性ポリエステルとを含むことを特徴としている。
この発明によると、熱可塑性を有する平均粒径が10〜30μmのポリエチレンテレフタレート樹脂を主原料としており、付着力及び強靱性を増すための非晶性ポリエステルがポリエチレンテレフタレート樹脂の変性を最小限に抑える程度に添加されている。
ここで、非晶質ポリエステルの添加量を2重量%以上とするのは形成される塗膜の付着力及び強靱性の点を考慮したためであり、10重量%以下とするのはポリエチレンテレフタレート樹脂の変性を考慮したためである。
また、本発明の粉体塗料は、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂に対して0.5〜1.5重量%添加された流動化促進剤を含むことを特徴としている。
この発明によると、塗膜を平滑化するための流動化促進剤がポリエチレンテレフタレート樹脂の変性を最小限に抑える程度に添加されている。
ここで、流動化促進剤の添加量を0.5重量%以上とするのは形成される塗膜の表面の荒さを考慮したためであり、1.5重量%以下とするのはポリエチレンテレフタレート樹脂の変性を考慮したためである。
更に、本発明の粉体塗料は、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂に対して0.5〜1.0重量%添加された脱泡剤を含むことを特徴としている。
この発明によると、泡の形成を防止するための脱泡剤がポリエチレンテレフタレート樹脂の変性を最小限に抑える程度に添加されている。
ここで、脱泡剤の添加量を0.5重量%以上とするのは形成される塗膜のハジキ(ピンホール)を考慮したためであり、1.0重量%以下とするのはポリエチレンテレフタレート樹脂の変性を考慮したためである。
上記課題を解決するために、本発明の微粉体の製造方法は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む微粉体の製造方法であって、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂を結晶化する結晶化工程(S14)と、平均粒径が500μm程度になるまで前記ポリエチレンテレフタレート樹脂を粗粉砕する粗粉砕工程(S15)と、平均粒径が10〜30μmになるまで前記ポリエチレンテレフタレート樹脂を微粉砕する微粉砕工程(S16)とを含むことを特徴としている。
この発明によると、ポリエチレンテレフタレート樹脂が結晶化された後、結晶化されたポリエチレンテレフタレート樹脂の平均粒径が500μm程度になるまで粗粉砕され、次いでポリエチレンテレフタレート樹脂の平均粒径が10〜30μmになるまで微粉砕される。
ここで、本発明の微粉体の形成方法は、前記微粉砕工程が、冷風を供給しつつ前記ポリエチレンテレフタレート樹脂を微粉砕する工程であることを特徴としている。
この発明によると、ポリエチレンテレフタレート樹脂は冷風が供給された状態で微粉砕される。ここで、供給される冷風の温度はマイナス数十度程度であることが好適である。
上記課題を解決するために、本発明の粉体塗料の製造方法は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む粉体塗料の製造方法であって、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂と添加剤とを混合して前記ポリエチレンテレフタレート樹脂の平均粒径が500μm程度になるまで粗粉砕する第1工程(S11)と、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂及び前記添加剤を加熱しながら混練してペレットを形成する第2工程(S13)と、前記第2工程で形成された前記ペレットを乾燥して前記ペレットに含まれる前記ポリエチレンテレフタレート樹脂を結晶化する第3工程(S14)と、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂の平均粒径が500μm程度になるまで前記ペレットを粗粉砕する第4工程(S15)と、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂の平均粒径が10〜30μmになるまで前記第4工程で得られた粉砕物を微粉砕する第5工程(S16)とを含むことを特徴としている。
この発明によると、ポリエチレンテレフタレート樹脂と添加剤とが混合されてポリエチレンテレフタレート樹脂の平均粒径が500μm程度になるまで粗粉砕され、一度ポリエチレンテレフタレート樹脂が結晶化された後、結晶化されたポリエチレンテレフタレート樹脂の平均粒径が500μm程度になるまで粗粉砕され、次いで粗粉砕されたポリエチレンテレフタレート樹脂の平均粒径が10〜30μmになるまで微粉砕される。
ここで、本発明の粉体塗料の製造方法は、前記添加剤が、非晶性ポリエステル、流動化促進剤、及び脱泡剤の少なくとも1つを含むことが望ましい。
また、本発明の粉体塗料の製造方法は、前記第5工程が、冷風を供給しつつ前記粉砕物を微粉砕する工程であることを特徴としている。
この発明によると、粗粉砕されたポリエチレンテレフタレート樹脂は冷風が供給された状態で微粉砕される。ここで、供給される冷風の温度は、マイナス数十度程度であることが好適である。
更に、本発明の粉体塗料の製造方法は、前記第1工程と前記第2工程との間に、前記第1工程で粉砕された粉砕物に着色用の顔料を混合する第6工程を含むことを特徴としている。
この発明によると、ポリエチレンテレフタレート樹脂と添加剤とが混合されてポリエチレンテレフタレート樹脂の平均粒径が500μm程度になるまで粗粉砕された後で顔料が混合され、その後にこれらを含むペレットが形成される。
或いは、本発明の粉体塗料の製造方法は、前記第5工程の後に、前記第5工程で得られた粉砕物に着色用の顔料を混合する第7工程を含むことを特徴としている。
この発明によると、平均粒径が10〜30μmのポリエチレンテレフタレート樹脂が得られた後で顔料が混合される。
上記課題を解決するために、本発明の微粉体の製造装置は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む微粉体の製造装置であって、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂を粉砕し、平均粒径が10〜30μmのポリエチレンテレフタレート樹脂を含む粉砕物を得る粉砕機(11)と、前記粉砕機に冷風を供給する冷風発生装置(16)と、前記粉砕機によって得られた粉砕物から、平均粒径が10〜30μmの前記ポリエチレンテレフタレート樹脂を分級する分級機(12)とを備えることを特徴としている。
この発明によると、冷風が供給されている粉砕機にポリエチレンテレフタレート樹脂が供給されると、平均粒径が10〜30μmのポリエチレンテレフタレート樹脂を含む粉砕物とされ、この粉砕物から平均粒径が10〜30μmのポリエチレンテレフタレート樹脂が分級される。
また、本発明の微粉体の製造装置は、前記冷風発生装置が、前記粉砕機内部の温度が60℃以下となるように前記冷風を供給することを特徴としている。
この発明によると、粉砕機内においてポリエチレンテレフタレート樹脂は、ガラス転移温度である60℃以下の環境下において粉砕される。
上記課題を解決するために、本発明の粉体塗料の塗装方法は、上記の何れかに記載の粉体塗料、又は、上記の何れかに記載の粉体塗料の製造方法によって製造された粉体塗料を被塗物に塗布する塗布工程と、前記被塗物に塗布された前記粉体塗料を加熱する加熱工程と、前記加熱された前記粉体塗料を急冷する急冷工程とを含むことを特徴としている。
この発明によると、粉体塗料が被塗物に塗布され、加熱された後に急冷される。ここで、粉体塗料に含まれるポリエチレンテレフタレート樹脂が結晶化されている場合(特に、上記の粉体塗料の製造方法によって製造された粉体塗料は第3工程で結晶化されているため、第5工程で微粉砕して得られる粉砕物は結晶化されたポリエチレンテレフタレート樹脂が多く含まれる)には、加熱・急冷を経ることにより結晶化されているポリエチレンテレフタレート樹脂は非晶質化される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、付着力及び強靱性を増すための非晶性ポリエステルがPET樹脂の変性を最小限に抑える程度に添加されているため、PET樹脂が本来有する高付着力、強靱性、高摩耗性、高耐薬品性等の特性が生かされた粉体塗料を得ることができるという効果がある。また、PET樹脂の平均粒径が10〜30μmであるため、厚みが100μm以下の塗膜(好ましくは、30〜80μmの薄い塗膜)を形成することができる。これにより、所定の面積を塗装する場合に、厚い塗膜を形成するときに比べて塗装に必要な粉体塗料の量を削減することができ、コスト低減を図ることができるという効果がある。また、塗装の厚みが薄いため、粉体塗料が用いられる用途を拡大することができるという効果がある。
また、本発明によれば、塗膜を平滑化するための流動化促進剤がPET樹脂の変性を最小限に抑える程度に添加されているため、塗装後にはPET樹脂が本来有する上述した各種の特性が生かされ、且つ表面が平滑な塗膜を形成することができるという効果がある。
更に、本発明によれば、泡の形成を防止するための脱泡剤がPET樹脂の変性を最小限に抑える程度に添加されているため、ハジキ(ピンホール)のない塗膜を形成することができるという効果がある。
本発明によれば、一度PET樹脂を結晶化した後で粗粉砕及び微粉砕を順に行っているため、平均粒径が10〜30μmであるPET樹脂を含む微粉体又は粉体塗料を効率的に形成することができるという効果がある。
また、本発明によれば、冷風が供給された状態でPET樹脂が微粉砕されるため、微粉砕時に生ずる熱によってPET樹脂が溶融せず、粉状の微粉体又は粉体塗料を形成する上で極めて好適であるという効果がある。
更に、本発明によれば、平均粒径が10〜30μmのPET樹脂が得られた後で顔料を混合しているため、予め平均粒径が10〜30μmのPET樹脂を大量に製造しておき必要な時に所定の顔料を混合することで、所定の着色がなされた粉体塗料を必要な時に必要な量だけ製造することができるという効果がある。
また、本発明によれば、PET樹脂は、PET樹脂のガラス転移温度以下の環境下において粉砕されるため、PET樹脂が軟化して粉砕が困難になるといった事態は生じない。このため、平均粒径が10〜30μmのポリエチレンテレフタレート樹脂を含む微粉体を効率的に製造することができる。
また、本発明によれば、粉体塗料を被塗物に塗布した後で、加熱・急冷を経ることにより結晶化されているPET樹脂を非晶質化しているため、本来PET樹脂が有している強靱性(特に、延性)を有し、且つ厚みが100μm以下の塗膜(好ましくは、30〜80μmの薄い塗膜)を形成することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態による粉体塗料、微粉体及び粉体塗料の製造方法、並びに粉体塗料の塗装方法について詳細に説明する。
【0010】
〔粉体塗料〕
本発明の一実施形態による粉体塗料は、主原料として熱可塑性を有するPET樹脂を含んでいる。このPET樹脂の平均粒径は10〜30μmである。このPET樹脂に対して、塗膜の付着力及び強靱性を増すための非晶性ポリエステルが2〜10重量%添加されている。また、上記のPET樹脂に対して、塗膜の平滑性を高めるための流動化促進剤が0.5〜1.5重量%添加されている。更に、塗膜のハジキ(ピンホール)を防止するための脱泡剤が0.5〜1.0重量%添加されている。
【0011】
PET樹脂を上記の粒径にするのは、膜厚が100μm以下の塗膜(好ましくは、30〜80μmの薄い塗膜)を形成するためである。PET樹脂に対する上記の各添加剤は、所望の付着力及び強靱性を有する塗膜が形成され、塗膜の表面が平滑に形成され、又は塗膜の表面にハジキが形成されないよう、その最小添加量が設定されている。また、上記の各添加剤は、PET樹脂の変性が最小限になるよう、その最大添加量が設定されている。
【0012】
これらの添加剤を添加してもPET樹脂を殆ど変性させないため、PET樹脂が本来有する高付着力、強靱性(特に、延性)、高摩耗性、高耐薬品性等の特性を有し、膜厚が100μm以下の塗膜(好ましくは、30〜80μmの薄い塗膜)を形成することができる。上記の添加量で非晶性ポリエステルを添加することにより、塗膜の付着力及び強靱性を増すことができる。また、上記の添加量で流動化促進剤を添加することにより塗膜の表面を平滑化することができる。更に、上記の添加量で脱泡剤を添加することにより、ハジキ(ピンホール)の無い塗膜を形成することができる。
【0013】
〔粉体塗料の製造方法〕
次に、上記粉体塗料の製造方法について説明する。図1は、本発明の一実施形態による粉体塗料の製造方法を示す工程図である。本実施形態では、PET樹脂、上述した添加剤、及び着色用の顔料を7:1:2の割合で用いる。尚、PET樹脂としては、例えばPETボトルを破砕・造粒して製造された再生ペレットを用いるのが好適である。但し、本発明は再生ペレットに制限される訳ではなく、石油から生成されるペレット(ヴァージンペレット)を用いても良い。また、着色用の顔料としては、酸化チタン微粉末(粒径0.25μm)を用いることができる。
【0014】
まず、再生ペレットと添加剤とを混合し、再生ペレット(PET樹脂)の平均粒径が500μm程度又はそれ以下になるまで粗粉砕する(工程S11:第1工程)。次に、工程S11で粗粉砕された粉砕物と添加剤及び顔料とをミキサーを用いて混合する(工程S12:第6工程)。尚、添加剤は工程S11,S12の何れの工程でも混合されているが、添加剤の種類に応じて工程S11,S12で分けて混合しても良く、或いは同一の添加剤を2回に分けて混合しても良い。
【0015】
次に、工程S12で混合した混合物を混練して配合ペレットを製作する(工程S13:第2工程)。具体的には、混合物を250℃程度に加熱しながら混合物を練り込むことにより、混合物に含まれる再生ペレット、添加剤、及び顔料を混ぜながら溶かして配合ペレットを製作する。以上の工程を終えると、工程S13で製作された配合ペレットを乾燥して配合ペレットに含まれるPET樹脂を結晶化する処理が行われる(工程S14:第3工程)。ここで、PET樹脂を結晶化するのは、平均粒径が10〜30μmであるPET樹脂を含む微粉体又は粉体塗料を効率的に形成するためである。つまり、結晶化されていないPET樹脂は粉砕し難いから、平均粒径を10〜30μmとするには時間を要して非効率であるからである。尚、配合ペレットを乾燥するには、例えば熱風乾燥を行うのが望ましい。この熱風乾燥では、例えば数百℃で数時間配合ペレットを乾燥する。
【0016】
結晶化処理が終了すると、結晶化されたPET樹脂の平均粒径が500μm程度又はそれ以下になるまで配合ペレットを粗粉砕し(工程S15:第4工程)、次いで工程S15で粗粉砕された粉砕物を、PET樹脂の平均粒径が10〜30μmになるまで微粉砕する(工程S16:第5工程)。ここで、PET樹脂の微粉砕は冷風発生装置16からの冷風を供給しつつ行う。供給する冷風は、例えばマイナス数十℃程度に設定することが望ましい。冷風を供給しつつPET樹脂を微粉砕するのは、微粉砕時に生ずる熱によってPET樹脂が溶融してしまい、微粉砕されないといった不具合を防止するためである。ここで、冷風発生装置16からの冷風によって、粉砕されているPET樹脂の温度を、PET樹脂のガラス転移温度である60℃以下に抑えることが好適である。以上の工程を経て粉体塗料が製造される。
【0017】
尚、以上の工程により平均粒径が10〜30μmであるPET樹脂を含む粉体塗料が製造されるが、添加剤及び顔料を含まず平均粒径が10〜30μmであるPET樹脂のみを含む微粉体も製造することもできる。かかる微粉体は、工程S11〜S13を省略し、再生ペレットを乾燥・結晶化処理し(工程S14:結晶化工程)、次いで粗粉砕(工程S15:粗粉砕工程)及び微粉砕(工程S16:微粉砕工程)を順に行うことにより製造される。尚、粗粉砕(工程S15)を行う際に顔料を混合すれば、PET樹脂と顔料とを含む微粉体を製造することも可能である。
【0018】
〔粉砕装置〕
次に、以上説明した粉体塗料又は微粉体を製造する際に用いる粉砕装置について説明する。図2は、粉砕装置の概略構成を示す図である。図2に示す通り、粉砕装置は、ミル11、分級機12、サイクロン装置13、バグフィルタ14、送風機15、冷風発生装置16、バグフィルタ17、及び送風機18を含んで構成される。
【0019】
ミル11は、衝撃式高速回転ミルであり、原料ペレット(粉体塗料の製造に用いる場合には図1に示す配合ペレット)を粒径が500μm以下となるよう粗粉砕するとともに、粒径が40μm以下となるよう微粉砕する。このように、図2に示す粉砕装置においては、ミル11が粗粉砕と微粉砕とを同時に実行している。分級機12は、ミル11で粉砕された粉砕物を、その粒径の大きさに応じて分級する。例えば、粒径15μm付近を基準に分級する。
【0020】
サイクロン装置13は、分級機12で分級された粒径が小さな粉砕物(粒径が25μm以下の粉砕物:以下、微粉という)をサイクロン法により捕集し、粉体塗料として回収する。バグフィルタ14は、サイクロン装置13を通過した空気から粉塵を除去するためのフィルタである。送風機15は、分級機12で分級された微粉を輸送するために、分級機12からサイクロン装置13を介してバグフィルタ14に至る空気の流れをつくるものである。バグフィルタ17は、バグフィルタ14と同様に、分級機12を通過した空気から粉塵を除去するためのフィルタである。送風機18は、分級機12からバグフィルタ17に至る空気の流れをつくるものである。冷風発生装置16は、ミル11に冷風を供給するためのものである。
【0021】
上記構成において、ミル11に原料ペレットが供給されて破砕される。尚、ミル11の周速度は、6000〜9000m/分程度である。ここで、原料ペレットが破砕されている間は、冷風発生装置16からミル11へ冷風が供給されている。尚、冷風発生装置16からミル11に供給される冷風の温度は−30〜−35℃程度であり、その風量は1.5〜2.0m/分程度である。この冷風によってミル11内部の温度を、PET樹脂のガラス転移温度である60℃以下に抑えている。尚、ミル11内部の温度は、単位時間に供給される原料ペレットの量等によっても変化する。このため、冷風発生装置16からミル11に供給される冷風の温度及び風量は、ミル11内部の温度が60℃以下となるよう適宜変更しても良い。
【0022】
ミル11で破砕された破砕物は、分級機12に運ばれて、その粒径に応じて分級される。分級機12で分級された粒径が大きな粉砕物(粒径が25μmよりも大きな粉砕物以下、粗粉という)はミル11に戻されて、再度粉砕される。一方、分級機12で分級された微粉は、サイクロン装置13に輸送されて捕集され、これにより粉体塗料が得られる。このようにして粉砕装置によって原料ペレットが粉砕され、粒径が10〜30μmであるPET樹脂を含む粉体塗料が得られる。
【0023】
尚、以上説明した粉砕装置は1つのミル11を備えた構成であり、このミル11により原料ペレットの粗粉砕及び微粉砕を行っていた。しかしながら、粗粉砕を専用に行うミルと微粉砕を専用に行うミルとを設けた構成とし、粗粉砕を専用に行うミルで粉砕された粉砕物を微粉砕を専用に行うミルで微粉砕するようにしても良い。
【0024】
〔粉体塗料の塗装方法〕
図3は、本発明の一実施形態による粉体塗料の塗布方法を示す工程図である。図3に示す通り、まず、前述した粉体塗料を被塗物に吹き付け、これにより粉体塗料を被塗物に塗布する(工程S21)。尚、粉体塗料の塗布は、静電電着塗装により行っても良い。次に、被塗物に塗布した粉体塗料を加熱して焼き付けを行う(工程S22)。ここで、粉体塗料の加熱温度はPET樹脂の溶融温度(約260℃)又はそれ以上の温度で行う)。加熱を終えると、直ちに焼き付けた粉体塗料を水冷により急冷する(工程S23)。
【0025】
ここで、焼き付けた粉体塗料を急冷すると、粉体塗料に含まれるPET樹脂が結晶化されずに非晶質化される。このため、本来PET樹脂が有している強靱性(特に、延性)を有する塗膜を形成することができる。また、PET樹脂の粒径は10〜30μmであるため、厚みが100μm以下の塗膜(好ましくは、30〜80μmの薄い塗膜)を形成することができる。
【実施例】
【0026】
本発明者等は、以上説明した粉砕装置でPET樹脂(再生PET樹脂)を実際に粉砕し、その粒径分布を計測した。図4は、粉砕装置で粉砕された粉体塗料に含まれるPET樹脂の粒径分布の一実施例を示す図である。図4に示す実施例では、平均粒径が14μmであるPET樹脂が得られている。また、PET樹脂の粒径は多くが10〜30μmの範囲であり、30μmを越える大きさのPET樹脂が僅か(ほぼ零)であることが分かる。
【0027】
また、本発明者等は、以上説明した方法を用いて粉体塗料を製造し、その特性を測定した。図5は、製造された粉体塗料の実施例を示す図表である。図5に示す通り、本実施例ではサンプル番号が「1」〜「12」である計12種類の粉体塗料のサンプルを製造している。これらのサンプルは、再生PET樹脂、顔料、A−PET樹脂、非晶質ポリエステル、流動化促進剤、及び脱泡剤の含有率(混合比)を変えたものである。尚、これらの含有率は、図表の中〜上部にかけて図示されている。ここで、A−PET樹脂とは非晶質のPET樹脂である。
【0028】
尚、図5においては、再生PET樹脂、顔料、A−PET樹脂、及び非晶質ポリエステルの含有率の合計が100%となるよう表記している。これらに加えて流動化促進剤及び脱泡剤を合計すると合計が100%を越えるサンプルがあるが、これは、流動化促進剤及び脱泡剤の含有率の分だけ再生PET樹脂の含有量を減じて図表を読むべき点に注意すべきである。
【0029】
また、図5に示す図表の中〜下部にかけて、上述した塗布方法を用いて形成された塗膜の特性(塗膜性、塗膜強度)の測定結果を図示している。この測定結果を参照すると、まず全てのサンプルにおいて、厚みが40μm程度の薄い塗膜が形成されているのが分かる。これは、PET樹脂の粒径を10〜30μmにしているために薄膜を形成することができたと考えられる。
【0030】
図5において、サンプル番号「3」〜「5」のサンプルは測定によって不良と判定された項目である。これら不良と判断された項目があるサンプル番号「3」〜「5」のサンプルに共通しているのは、非晶質ポリエステルが添加されていない点である。前述した通り、非晶性ポリエステルは塗膜の付着力及び強靱性を増すために添加されているものであるため、添加したか否かにより耐衝撃性が大きく変化することが分かる。他のサンプルは、PET樹脂に対して非晶性ポリエステルが3〜9重量%の範囲で添加されており、計測結果からPET樹脂が本来有する高付着力、強靱性等の特性が生かされた粉体塗料を得られている。
【0031】
また、サンプル番号「3」のサンプルは、流動化促進剤及び脱泡剤が何れも添加されていない。このため、表面粗さ及びハジキ(ピンホール)の測定において何れも不良と判定されている。他のサンプルは、PET樹脂に対して流動化促進剤が0.5〜1.0重量%の範囲で添加されており、また、PET樹脂に対して脱泡剤が0.5〜1.5重量%の範囲で添加されている。これらのサンプルは何れも表面粗さが2〜3μm程度であって粗さが小さく、また、ハジキ(ピンホール)が生じていないのがわかる。
【0032】
以上の通り、本発明では、PET樹脂が本来有する高付着力、強靱性、高摩耗性、高耐薬品性等の特性が生かされ、且つ厚みが100μm以下の塗膜(好ましくは、30〜80μmの薄い塗膜)を形成することができる。これにより、所定の面積を塗装する場合に、厚い塗膜を形成するときに比べて塗装に必要な粉体塗料の量を削減することができ、コスト低減を図ることができる。また、塗装の厚みが薄いため、粉体塗料が用いられる用途を拡大することもできる。また、本発明では、塗膜を平滑化するための流動化促進剤、脱泡剤がPET樹脂の変性を最小限に抑える程度に添加されているため、塗装後にはPET樹脂が本来有する上述した各種の特性が生かされ、且つ表面が平滑であってハジキ(ピンホール)のない塗膜を形成することができる。
【0033】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、粉体塗料を製造するときに、上記実施形態では図1に示す工程S12で顔料を混合していた。或いは、添加剤及び顔料を含まず平均粒径が10〜30μmであるPET樹脂のみを含む微粉体を製造する場合(工程S11〜S13を省略した場合)には、工程S15で顔料を混合していた。
【0034】
しかしながら、顔料として用いられる酸化チタン微粉末は粒径が0.25μmであって極めて粒径が小さいため、顔料を混合せずにPET樹脂の微粉体のみを予め作成しておき、この微粉末に顔料をドライブレンドにより混合しても良い(第7工程)。かかる工程を経ることで、製造に時間を要するPET樹脂の微粉体を予め大量に製造しておき、必要な時に所定の顔料を混合することで、所定の着色がなされた粉体塗料を必要な時に必要な量だけ製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態による粉体塗料の製造方法を示す工程図である。
【図2】粉砕装置の概略構成を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態による粉体塗料の塗布方法を示す工程図である。
【図4】粉砕装置で粉砕された粉体塗料に含まれるPET樹脂の粒径分布の一実施例を示す図である。
【図5】製造された粉体塗料の実施例を示す図表である。
【符号の説明】
【0036】
11 ミル(粉砕機)
12 分級機
13 サイクロン装置
16 冷風発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が10〜30μmであるポリエチレンテレフタレート樹脂と、
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂に対して2〜10重量%添加された非晶性ポリエステルと
を含むことを特徴とする粉体塗料。
【請求項2】
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂に対して0.5〜1.5重量%添加された流動化促進剤を含むことを特徴とする請求項1記載の粉体塗料。
【請求項3】
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂に対して0.5〜1.0重量%添加された脱泡剤を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の粉体塗料。
【請求項4】
ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む微粉体の製造方法であって、
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂を結晶化する結晶化工程と、
平均粒径が500μm程度になるまで前記ポリエチレンテレフタレート樹脂を粗粉砕する粗粉砕工程と、
平均粒径が10〜30μmになるまで前記ポリエチレンテレフタレート樹脂を微粉砕する微粉砕工程と
を含むことを特徴とする微粉体の製造方法。
【請求項5】
前記微粉砕工程は、冷風を供給しつつ前記ポリエチレンテレフタレート樹脂を微粉砕する工程であることを特徴とする請求項4記載の微粉体の製造方法。
【請求項6】
ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む粉体塗料の製造方法であって、
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂と添加剤とを混合して前記ポリエチレンテレフタレート樹脂の平均粒径が500μm程度になるまで粗粉砕する第1工程と、
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂及び前記添加剤を加熱しながら混練してペレットを形成する第2工程と、
前記第2工程で形成された前記ペレットを乾燥して前記ペレットに含まれる前記ポリエチレンテレフタレート樹脂を結晶化する第3工程と、
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂の平均粒径が500μm程度になるまで前記ペレットを粗粉砕する第4工程と、
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂の平均粒径が10〜30μmになるまで前記第4工程で得られた粉砕物を微粉砕する第5工程と
を含むことを特徴とする粉体塗料の製造方法。
【請求項7】
前記添加剤は、非晶性ポリエステル、流動化促進剤、及び脱泡剤の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項6記載の粉体塗料の製造方法。
【請求項8】
前記第5工程は、冷風を供給しつつ前記粉砕物を微粉砕する工程であることを特徴とする請求項6又は請求項7記載の粉体塗料の製造方法。
【請求項9】
前記第1工程と前記第2工程との間に、前記第1工程で粉砕された粉砕物に着色用の顔料を混合する第6工程を含むことを特徴とする請求項6から請求項8の何れか一項に記載の粉体塗料の製造方法。
【請求項10】
前記第5工程の後に、前記第5工程で得られた粉砕物に着色用の顔料を混合する第7工程を含むことを特徴とする請求項6から請求項8の何れか一項に記載の粉体塗料の製造方法。
【請求項11】
ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む微粉体の製造装置であって、
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂を粉砕し、平均粒径が10〜30μmのポリエチレンテレフタレート樹脂を含む粉砕物を得る粉砕機と、
前記粉砕機に冷風を供給する冷風発生装置と、
前記粉砕機によって得られた粉砕物から、平均粒径が10〜30μmの前記ポリエチレンテレフタレート樹脂を分級する分級機と
を備えることを特徴とする微粉体の製造装置。
【請求項12】
前記冷風発生装置は、前記粉砕機内部の温度が60℃以下となるように前記冷風を供給することを特徴とする請求項11記載の微粉体の製造装置。
【請求項13】
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の粉体塗料、又は、請求項6から請求項10の何れか一項に記載の粉体塗料の製造方法によって製造された粉体塗料を被塗物に塗布する塗布工程と、
前記被塗物に塗布された前記粉体塗料を加熱する加熱工程と、
前記加熱された前記粉体塗料を急冷する急冷工程と
を含むことを特徴とする粉体塗料の塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−77259(P2007−77259A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−266484(P2005−266484)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】