説明

粉体樹脂浸漬処理方法および粉体樹脂浸漬処理装置

【課題】周方向に部分的な対象部を有する対象物への浸漬処理を高速で行うことができる粉体樹脂浸漬処理方法および粉体樹脂浸漬処理装置を提供する。
【解決手段】対象物Wを粉体槽82に保持される粉体樹脂Rに浸漬させる粉体樹脂浸漬処理方法において、対象物Wは、浸漬処理が必要な対象部Tと浸漬処理が不要な非対象部nTとを周方向Zに有し、対象物Wと粉体槽82とを相対的に回転させることで対象部Tを周方向Zに順次浸漬処理する回転浸漬工程を有する。回転浸漬工程では、対象物Wと粉体槽82とを相対的に回転し、対象部Tが周方向Zに順次浸漬処理する。こうして周方向Zに部分的に対象部Tを有する対象物Wに対して、粉体樹脂Rの浸漬を対象部Tのみに行うことができ、非対象部nTには粉体樹脂Rを付着させない。また、対象物Wを回転させながら浸漬処理を行うため、工程スピードが速く、量産に適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物を粉体槽に保持される粉体樹脂に浸漬させる粉体樹脂浸漬処理方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コイルの接合部の絶縁処理を行う技術として、粉体槽内に収容された粉体樹脂にコイルの接合部を浸漬させる技術の一例が開示されている(例えば特許文献1を参照)。特許文献1の従来技術では、コイルの接合部が回転電機の一端側の全周に亘って軸方向に突出して配置されているため、回転電機の一端面を粉体樹脂の表面に対して平行にして粉体樹脂に向けて降下させることで、接合部を粉体樹脂に浸漬させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−290691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の従来技術を用いて浸漬処理を行うと、コイルの一端側は全体的に粉体樹脂に浸漬することになるため、コイルの周方向一部に浸漬処理を不要とする非対象部を有する場合は、この方法は使えない。
【0005】
一方、上記非対象部に粉体樹脂が付着すると、粉体樹脂が無駄となるばかりでなく、付着した粉体樹脂によってコイルの放熱性が悪化するという懸念も生じる。
【0006】
ここで、浸漬処理が必要な対象部を浸漬処理する際、コイルの接合部を一本または複数本ずつ浸漬させる方法も考えられるが、処理スピードの点で不利である。
【0007】
本発明はこのような点に鑑みてなしたものであり、周方向に部分的な対象部を有する対象物への浸漬処理を高速で行うことができる粉体樹脂浸漬処理方法および粉体樹脂浸漬処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、対象物を粉体槽に保持される粉体樹脂に浸漬させる粉体樹脂浸漬処理方法において、前記対象物は、浸漬処理が必要な対象部と浸漬処理が不要な非対象部とを周方向に有し、前記対象物と前記粉体槽とを相対的に回転させることで前記対象部を周方向に順次浸漬処理する回転浸漬工程を有することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、回転浸漬工程では、対象物と粉体槽とを相対的に回転し、対象部が周方向に順次浸漬処理する。こうして周方向に部分的に対象部を有する対象物に対して、粉体樹脂の浸漬を対象部のみに行うことができ、非対象部には粉体樹脂を付着させないようにすることができる。また、対象物(または粉体槽)を相対的に回転させながら浸漬処理を行うため、工程スピードが速く、量産に適する。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記回転浸漬工程の前および後の一方または双方に、前記粉体槽の対向する槽壁の一方が前記対象部と前記非対象部との境界に位置するように設定する境界部位置設定工程と、前記対象部の一部を前記粉体槽に浸漬させる境界部浸漬工程と、を有することを特徴とする。この構成によれば、槽壁を対象部と非対象部との境界に位置するようにすることで、対象部は槽内に、非対象部は槽外となる。これによって、非対象部に粉体樹脂が付着することを確実に防止できる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記回転浸漬工程と同時に前記粉体槽を前記対象物の回転接線方向に対して一方向または往復方向に移動させる粉体槽移動工程を有することを特徴とする。この構成によれば、粉体槽が対象物の回転接線方向に移動するので、境界付近の対象部が粉体槽の槽壁に干渉しない。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記回転浸漬工程と同時に前記対象物を回転接線方向に対して一方向または往復方向に移動させる対象物移動工程を有することを特徴とする。この構成によれば、粉体槽を定位置に据え置くことができるため、粉体槽内の粉体樹脂の表面高さを安定させることができる。
【0013】
請求項5に記載の発明は、前記回転浸漬工程は、前記対象物の回転を繰り返すことにより前記粉体樹脂を前記対象部に複数回浸漬させることを特徴とする。この構成によれば、粉体樹脂を複数回浸漬させることで、粉体樹脂を多層にすることができる。したがって、粉体樹脂の付着不良を低減でき、より確実に絶縁性能を確保できる。
【0014】
請求項6に記載の発明は、前記境界は、前記対象部の一端側に第1境界と他端側に第2境界とを有し、前記境界部位置設定工程は、前記粉体槽の対向する槽壁の一方が前記第1境界に位置するように設定し、前記回転浸漬工程は、前記粉体槽の対向する槽壁に他方が前記第2境界に到達するまで前記粉体槽と前記対象物とを相対的に回転させることを特徴とする。この構成によれば、対象部の両端側に非対象部が設けられている場合であっても、対象部のみを確実に浸漬処理することができる。
【0015】
請求項7に記載の発明は、前記粉体槽の粉体樹脂表面位置を一定に維持する表面位置維持工程を有することを特徴とする。この構成によれば、回転浸漬工程において粉体樹脂が減った分を常に補給できるので、粉体樹脂表面位置(上述した粉面と同位置である。以下同じ。)を一定に維持することができる。
【0016】
請求項8に記載の発明は、前記表面位置維持工程は、粉体樹脂を貯留する貯留槽から常に前記粉体槽に粉体樹脂をかけ流すことを特徴とする。この構成によれば、粉体樹脂が常に貯留槽から供給されるので、簡単な構成で粉体樹脂表面位置を一定に維持できる。
【0017】
請求項9に記載の発明は、前記表面位置維持工程は、前記粉体槽内に貯留可能な粉体樹脂の容量(以下では単に「貯留可能容量」とも呼ぶ。)を減少させることで前記粉体槽から粉体樹脂を溢れさせることを特徴とする。この構成によれば、浸漬処理中(回転浸漬工程)に粉体樹脂が減っても、貯留可能容量が減少するので結果的に粉体槽から粉体樹脂を溢れる。したがって、粉体樹脂表面位置を高精度で一定に維持できる。
【0018】
請求項10に記載の発明は、前記表面位置維持工程は、前記粉体槽の態様を変化させること、および、前記粉体槽内に備える可撓性部材を膨張縮小することのうち一方または双方によって、前記粉体槽内に貯留可能な粉体樹脂の容量を減少させることを特徴とする。この構成によれば、浸漬処理によって粉体樹脂の容量が減ったとしても、粉体槽内の貯留可能容量が減少するので結果的に粉体槽から粉体樹脂を溢れる。したがって、粉体樹脂表面位置を高精度で一定に維持できる。
【0019】
請求項11に記載の発明は、前記粉体槽内および補填槽内のうち一方または双方の粉体樹脂は、流動手段の作用により流動していることを特徴とする。この構成によれば、粉体槽内の粉体樹脂が固化することがないので、対象物をスムーズに粉体樹脂内に沈めることができる。
【0020】
請求項12に記載の発明は、前記流動手段は、圧縮空気が多孔板を介して前記粉体樹脂内へ噴出することを特徴とする。この構成によれば、粉体槽内でエアバブリングが行われるので、粉体樹脂の固化を効果的に防止できる。
【0021】
請求項13に記載の発明は、浸漬処理中に前記粉体槽を振動させることを特徴とする。この構成によれば、例えば粉面(粉体樹脂の表面を意味する。以下同じ。)に到達した気泡が破裂する等を要因として、粉体槽内に貯留する粉体樹脂の粉面変動が生じても、当該粉面変動を粉体槽の振動によって消失させることができる。したがって、対象物について対象部以外の部位に粉体樹脂が付着するのを確実に防止することができる。
【0022】
請求項14に記載の発明は、浸漬処理中または浸漬処理前に前記対象物を所定温度以上に加熱することを特徴とする。この構成によれば、対象物を加熱すれば、粉体樹脂に浸漬させるべき対象部も加熱される。所定温度が粉体樹脂の凝固点であるように調整すれば、粉体樹脂による対象物の浸漬処理を素早く行うことができる。
【0023】
請求項15に記載の発明は、浸漬処理が必要な対象部と浸漬処理が不要な非対象部とを周方向に有する対象物を把持する把持部と、前記対象物に浸漬させる粉体樹脂を保持する粉体槽と、を有する粉体樹脂浸漬処理装置において、前記把持部および前記粉体槽のうち一方または双方を回転させる回転駆動装置を有し、前記回転駆動装置は、前記把持部と前記粉体槽とを相対的に回転させることで前記対象部を周方向に順次浸漬処理を行うことを特徴とする。この構成によれば、周方向に部分的に対象部を有する対象物に対して、粉体樹脂の浸漬を対象部のみに行うことができ、非対象部には粉体樹脂を付着させないようにすることができる。また、対象物(または粉体槽)を相対的に回転させながら浸漬処理を行うため、工程スピードが速くなり、量産に適する。
【0024】
請求項16に記載の発明は、前記回転駆動装置は、前記粉体槽の対向する槽壁の一方が前記対象部と前記非対象部との境界に位置する状態を境界部位置として設定し、前記対象部を前記境界部位置から順次浸漬処理を行うことを特徴とする。この構成によれば、槽壁を対象部と非対象部との境界に位置するようにすることで、対象部は槽内に、非対象部は槽外となる。これによって、非対象部に粉体樹脂が付着することを確実に防止できる。
【0025】
請求項17に記載の発明は、前記粉体槽を前記対象物の回転接線方向に対して一方向または往復方向に移動させる粉体槽移動装置を備えることを特徴とする。この構成によれば、粉体槽が対象物の回転接線方向に移動するので、境界付近の対象部が粉体槽の槽壁に干渉しない。
【0026】
請求項18に記載の発明は、前記把持部を前記対象物の回転接線方向に対して一方向または往復方向に移動させる対象物移動装置を備えることを特徴とする。この構成によれば、粉体槽を定位置に据え置くことができるため、粉体槽内の粉体樹脂の表面高さを安定させることができる。
【0027】
請求項19に記載の発明は、前記回転駆動装置は、前記把持部の回転を繰り返すことにより粉体樹脂を前記対象部に複数回浸漬させることを特徴とする。この構成によれば、粉体樹脂を複数回浸漬させることで、粉体樹脂を多層にすることができる。したがって、粉体樹脂の付着不良を低減でき、より確実に絶縁性能を確保できる。
【0028】
請求項20に記載の発明は、前記粉体槽移動装置は、前記回転駆動装置の動作に連動していることを特徴とする。この構成によれば、対象物(または粉体槽)の相対的な回転に応じて粉体槽(または対象物)の位置を変えることができる。
【0029】
請求項21に記載の発明は、前記境界は、前記対象部の一端側に第1境界と他端側に第2境界とを有し、前記回転駆動装置は、前記対象物が前記粉体槽の対向する槽壁に一方が前記第1境界に位置する前記境界部位置から前記粉体槽の対向する槽壁に他方が前記第2境界に到達するまで回転させることを特徴とする。この構成によれば、対象部の両端側に非対象部が設けられている場合であっても、対象部のみを確実に浸漬処理できる。
【0030】
請求項22に記載の発明は、前記粉体槽の粉体樹脂表面位置を一定に維持する表面位置維持手段を有することを特徴とする。この構成によれば、粉体槽内の粉体樹脂量が減っても、粉体樹脂の付着位置を容易に高精度で管理できる。
【0031】
請求項23に記載の発明は、前記表面位置維持手段は、前記粉体槽の上流側に位置し、粉体樹脂を貯留する貯留槽を有し、前記貯留槽に貯留された粉体樹脂を常に前記粉体槽にかけ流すことを特徴とする。この構成によれば、粉体樹脂が常に貯留槽から供給されるので、簡単な構成で粉体樹脂表面位置を一定に維持できる。
【0032】
請求項24に記載の発明は、前記粉体槽は槽壁の高さが異なる高位壁と低位壁とを有し、前記貯留槽から流れてくる粉体樹脂が前記低位壁を超えて溢れさせることによって粉体樹脂表面位置を一定に維持することを特徴とする。この構成によれば、低位壁の上端が粉体樹脂表面位置となり、これを超える分の粉体樹脂が停滞することなく溢れ落ちる。したがって、低位壁の上端位置を適切に調整することで、粉体樹脂表面位置を高精度で一定に維持できる。
【0033】
請求項25に記載の発明は、前記貯留槽の底部はテーパ状に形成されることを特徴とする。この構成によれば、底部はテーパ状であるので、粉体樹脂は傾斜面を積極的に下方へ流れる。したがって、貯留槽に滞留する粉体樹脂の容量を最小限に抑えて、粉体樹脂を粉体槽にかけ流すことができる。
【0034】
請求項26に記載の発明は、前記表面位置維持手段は、前記粉体槽内に貯留可能な粉体樹脂の容量を変化させる容量変化手段を有することを特徴とする。この構成によれば、浸漬処理中(回転浸漬工程)において粉体樹脂が減っても、貯留可能容量が減少するので結果的に粉体槽から粉体樹脂を溢れる。したがって、粉体樹脂表面位置を高精度で一定に維持できる。
【0035】
請求項27に記載の発明は、前記容量変化手段は、前記粉体槽の態様(例えば底部や側部等)を変化させる態様変化機構および前記粉体槽内に備えられて膨張縮小可能な可撓性部材のうち一方または双方で構成することを特徴とする。この構成によれば、浸漬処理によって粉体樹脂の容量が減ったとしても、粉体槽内の貯留可能容量が減少するので結果的に粉体槽から粉体樹脂を溢れる。したがって、粉体樹脂表面位置を高精度で一定に維持できる。
【0036】
請求項28に記載の発明は、前記粉体槽内および前記補填槽内のうち一方または双方の粉体樹脂は、流動手段の作用により流動していることを特徴とする。この構成によれば、粉体槽内や補填槽内の粉体樹脂が固化することがないので、対象物をスムーズに粉体樹脂内に沈めることができる。
【0037】
請求項29に記載の発明は、前記流動手段は、前記粉体槽および前記補填槽のうち一方または双方における底部にエアチャンバを設け、前記エアチャンバにより生成される圧縮空気を多孔板を介して粉体槽内に噴出させる構成とすることを特徴とする。この構成によれば、粉体槽内でエアバブリングが行われるので、粉体樹脂の固化を効果的に防止できる。
【0038】
請求項30に記載の発明は、前記粉体槽を振動させる振動装置を有することを特徴とする。この構成によれば、例えば粉面に到達した気泡が破裂する等を要因として、粉体槽内に貯留する粉体樹脂の粉面変動が生じても、当該粉面変動を粉体槽の振動によって消失させることができる。したがって、対象物について対象部以外の部位に粉体樹脂が付着するのを確実に防止することができる。
【0039】
請求項31に記載の発明は、浸漬処理中または浸漬処理前に前記対象物を所定温度以上に加熱する加熱装置を有することを特徴とする。この構成によれば、対象物を加熱すれば、粉体樹脂に浸漬させるべき対象部も加熱される。所定温度が粉体樹脂の凝固点であるように調整すれば、粉体樹脂による対象物の浸漬処理を素早く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】充填工程における粉体樹脂浸漬処理装置の構成例を示す側面図である。
【図2】対象物の構成例を示す図である。
【図3】上下移動部の第1構成例を模式的に示す縦断面図である。
【図4】水平移動部の第1構成例を模式的に示す縦断面図である。
【図5】アーム、貯留槽、粉体槽および補填槽の構成例を示す平面図である。
【図6】回転浸漬工程における粉体樹脂浸漬処理装置の構成例を示す側面図である。
【図7】上下移動部の構成例を説明する図である。
【図8】水平移動部による水平移動を説明する図である。
【図9】回転浸漬工程(境界部位置設定工程、境界部浸漬工程、粉体槽移動工程および対象物移動工程)を説明する図である。
【図10】粉面低下状態の補填槽を模式的に示す縦断面図である。
【図11】第1容量変化手段によって粉面を上昇させた補填槽を模式的に示す縦断面図である。
【図12】粉面低下状態の粉体槽を模式的に示す縦断面図である。
【図13】第2容量変化手段によって粉面を上昇させた粉体槽を模式的に示す縦断面図である。
【図14】粉面低下状態の補填槽を模式的に示す縦断面図である。
【図15】第3容量変化手段によって粉面を上昇させた補填槽を模式的に示す縦断面図である。
【図16】粉面低下状態の粉体槽を模式的に示す縦断面図である。
【図17】第4容量変化手段によって粉面を上昇させた粉体槽を模式的に示す縦断面図である。
【図18】粉体樹脂浸漬処理装置の他の構成例を示す側面図である。
【図19】粉体槽の構成例を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
【0042】
まず、粉体樹脂浸漬処理装置の構成例について、側面図で示す図1を参照しながら説明する。この図1には、後述する図6との対比において、補填槽内の粉体樹脂を粉体槽(さらには貯留槽)に充填する充填工程を実現する姿勢状態を表す。なお特に明示しない限り、「充填」には「補填」を含むものとする。
【0043】
粉体樹脂浸漬処理装置10は、貯留槽および粉体槽にそれぞれ粉体樹脂を充填する充填工程と、対象物を粉体槽に充填された粉体樹脂に浸漬させる回転浸漬工程とを繰り返すことにより、対象物を粉体樹脂に浸漬させる機能を実現する。図1に示す粉体樹脂浸漬処理装置10は、回転把持装置20、駆動装置40、テーブル50、移動装置60、基台70、上下移動部80、水平移動部90、図示しない制御装置などを有する。駆動装置40、テーブル50、移動装置60、基台70、上下移動部80および水平移動部90は、「粉体槽移動装置」に相当する。各要素の内容(構成、機能、作用等)については後述する。制御装置は粉体樹脂浸漬処理装置10の作動全体を司る。制御装置の構成は任意であって、例えばCPUを中心にプログラム実行で作動する構成としてもよく、回路素子からなるハードウェアロジックによって作動する構成としてもよい。このように制御装置は周知であるので図示および説明を省略する。
【0044】
ここで、対象物W(ワーク)として用いる固定子用コイルについて、図2を参照しながら説明する。図2(A)には平面図を示し、図2(B)には側面図を示し、図2(C)には斜視図を示す。これらの図2(A)、図2(B)および図2(C)に示す対象物Wの固定子用コイルは、例えば導電性を有する長板状の線材を用いて所定形状(例えばドーナツ状)に形成され、回転電機の固定子を構成する固定子コア(固定子鉄心)に収容する。
【0045】
対象物Wは、複数相(例えばU相、V相、W相の三相等)の各相について、複数本の線材どうしを接続する接合部Waを多数有する。また対象物Wは、外部装置(例えばECU等)との接続を行う接続部Wbを複数有する。図示するように、多数の接合部Waは径方向X(中心Cから放射状の方向)に突出させるように形成し、複数の接続部Wbは軸方向Yに突出させるように形成する。接合部Waは溶接等により既に接続しているので粉体樹脂に浸漬して絶縁処理を行う必要がある反面、接続部Wbは外部装置との接続を行う必要があるので粉体樹脂が付着するのは好ましくない。こうしたことから、径方向Xに突出して周方向Zに部分的に存在する多数の接合部Waは絶縁処理を行う対象部Tとなり、軸方向Yに突出する複数の接続部Wbは絶縁処理を行う必要がない非対象部nTとなる。
【0046】
図1に戻り、粉体樹脂浸漬処理装置10の各要素について説明する。図1に示す回転把持装置20は「回転駆動装置」に相当し、モータ21、支持部22、伝達軸23、把持部24などを有する。回転運動駆動源に相当するモータ21は、図示しない制御装置から伝達される信号(回転量や回転速度等を含む)に基づいて、主軸21aを回転する。主軸21aには、把持部24に固定された伝達軸23が取り付けられている。モータ21で発生する回転動力は、主軸21aおよび伝達軸23を通じて把持部24に伝達され、結果として把持部24に把持された対象物Wを回転させる。支持部22は、支持体22aと支持柱22bとを有する。支持体22aは、モータ21を支持するとともに、ベアリングを介して伝達軸23を回転可能に支持する。支持柱22bは後述する基台本体73に固定され、支持体22aを支持する。
【0047】
上述した回転把持装置20は、対象物Wを交換して把持する交換把持機能と、把持中の対象物Wを回転させる回転機能とを併せ持つ。交換把持機能は把持部24を用いて行われ、処理済みの対象物Wと未処理の対象物Wとを交換し、交換後の対象物Wを把持する機能である。より具体的には、把持部24に備えられる把持爪24aによって対象物Wを把持したり開放したりする。回転機能は、周方向Zにおける対象部Tの一端側(第1境界)から他端側(第2境界)までの間にある多数の接合部Waを順次浸漬処理するために対象物Wを回転させる機能である。
【0048】
駆動装置40は充填手段および浸漬手段に相当し、取付部材41、ロッド42、シリンダ43、アーム44などを有する。進退運動駆動源に相当するシリンダ43は、図示しない制御装置から伝達される信号(運動量や運動速度等を含む)に基づいて、ロッド42を所定方向(図1では上下方向)に進退運動させる。取付部材41はロッド42の先端部に固定され、アーム44を取り付ける部材である。アーム44はロッド42の進退運動に伴って移動しても対象物Wとの干渉を回避する形状、すなわち側面から見てクランク状に形成されている。
【0049】
アーム44には、図5に示すように、取付部材を介して貯留槽81および粉体槽82が取り付けられている。この構成によれば、シリンダ43の作用でロッド42を進退運動させることにより、貯留槽81および粉体槽82の上下方向位置が変化する。上述したように駆動装置40は図示しない制御装置によって作動が制御されるので、貯留槽81および粉体槽82は、図1に示す充填工程(粉体樹脂充填位置)と、後述する図6に示す回転浸漬工程(粉体樹脂浸漬位置)との切り換えを繰り返し行うことができる。
【0050】
アーム44には、第2振動装置30を備える。第2振動装置30は例えばバイブレータ等が該当し、アーム44を通じて粉体槽82を振動させる機能を有する。粉体槽82の振動は、後述する第2流動手段83によって粉体槽82内に発生する気泡B(エアバブル)が上端面すり切り位置Sp(図3を参照)で破裂する際に発生する粉面変動を消失させるために行う。第2振動装置30の振動量(周期,方向,変位等)は、粉体槽82内で発生させた気泡Bの大きさや数量等に応じて、粉面変動が消失するように適切に設定する。
【0051】
上下移動部80は、補填槽91の内部(槽内)に収容可能な大きさで形成する。この上下移動部80は、図3に示すように、ともに粉体樹脂Rを充填する貯留槽81と粉体槽82とを有する。貯留槽81は、上方が開口する箱状に形成され、開口部から槽内に粉体樹脂Rを充填(または補填)する。この貯留槽81には、テーパ状底部81aや底部排出口81bなどを有する。テーパ状底部81aは、貯留槽81の底面が一端側から他端側(図3では左槽壁から右槽壁)に向かって下りスロープ状に形成されている。底部排出口81bは、テーパ状底部81aのスロープ下端側に備えられ、貯留槽81に貯留された粉体樹脂Rを粉体槽82にかけ流すように形成されている。
【0052】
貯留槽81の下流側に設けられる粉体槽82は、貯留槽81と同様に上方が開口する箱状に形成され、開口部から槽内に粉体樹脂Rを充填(または補填)する。この粉体槽82には、開口部に段差を設けた高位壁82aおよび低位壁82bや、充填された粉体樹脂Rを流動させるための第2流動手段83などを備える。高位壁82aは粉体槽82の槽壁が高い部位であり、低位壁82bは粉体槽82の槽壁が低い部位である。段差の角度は任意であり、直角状に形成してもよく、スロープ状に形成してもよい。粉体槽82の貯留可能容量を超える粉体樹脂Rは、高位壁82aよりも低い低位壁82bの上端面から溢れて落下する。したがって、低位壁82bの上端面は「粉体樹脂表面位置Rs」に相当する。また、少なくとも貯留槽81に粉体樹脂Rが残留する限りにおいて粉体樹脂表面位置Rsが一定に維持されるので、上下移動部80は「表面位置維持手段」に相当する。なお、粉体槽82から溢れて落下した粉体樹脂Rは、図6に示すように粉体槽82の下方に位置する補填槽91によって回収される。
【0053】
図3に示す第2流動手段83は、第2多孔板83aと第2エアチャンバ83bとで構成される。すなわち、第2エアチャンバ83bで圧縮空気を生成し、直上に位置する第2多孔板83aを介して槽内に気泡Bを噴出させてエアバブリングを行い、粉体樹脂Rを流動させる。図3に示す例では、第2多孔板83a全体から満遍なく気泡Bを噴出させている。
【0054】
図4に示す補填槽91は、上方が開口する円筒箱状に形成され、開口部から槽内に粉体樹脂Rを充填する。また補填槽91には、槽内に充填された粉体樹脂Rを流動させるための第1流動手段92を備える。図4に示す第1流動手段92は、第1多孔板92aと第1エアチャンバ92bとで構成される。すなわち、第1エアチャンバ92bで圧縮空気を生成し、直上に位置する第1多孔板92aを介して槽内に気泡Bを噴出させてエアバブリングを行い、粉体樹脂Rを流動させる。図4に示す例では、第1多孔板92a全体から満遍なく気泡Bを噴出させている。
【0055】
図1に戻って、上述した補填槽91とテーブル50との間には、当該補填槽91の全体を振動させる第1振動装置51を備える。この第1振動装置51は、第2振動装置30と同様に、例えばバイブレータ等が該当する。補填槽91の振動は、第1流動手段92によって補填槽91内に発生する気泡Bが粉体樹脂表面位置Rs(図4を参照)で破裂する際に発生する粉面変動を消失させるために行う。第1振動装置51の振動量(周期,方向,変位等)は、補填槽91内で発生させた気泡Bの大きさや数量等に応じて、粉面変動が消失するように適切に設定する。
【0056】
上述した駆動装置40および水平移動部90は、テーブル50の上面側に取り付けられる。また、レール71,72上を移動するための車輪等(すなわち車輪,ベアリング,ローラ等)を下面側に有する。このテーブル50は、移動装置60によって水平方向(図1では図面前後方向、後述する図8では矢印D8方向)に移動される。移動装置60は図示しない制御装置から伝達される信号(移動量や移動速度等を含む)に基づいて作動が制御されるので、結果として上下移動部80(特に粉体槽82)や水平移動部90の水平移動が制御される。
【0057】
次に、図1に示す充填工程と、図6に示す回転浸漬工程とについて説明する。充填工程では、粉体槽82の上端面(すなわち図3に示す上端面すり切り位置Sp)まで粉体樹脂Rを充填する。回転浸漬工程では、対象物Wを粉体槽82に充填された粉体樹脂Rに浸漬させる。充填工程と回転浸漬工程とは、対象物Wを構成する全ての接合部Waを浸漬処理するまで連続的に繰り返す。充填工程および回転浸漬工程のうち一方または双方において、第1流動手段92および第2流動手段83の作用による粉体樹脂Rの流動と、第1振動装置51および第2振動装置30の作用による粉面変動の消失とを併せて行う。
【0058】
なお、対象物Wの全部またはその一部(具体的には接合部Waの全部)は、図示しない加熱装置(例えばヒーター等)を用いて、浸漬処理中または浸漬処理前に所定温度以上となるように加熱する。所定温度は粉体樹脂Rが固化し易い温度であって、一例として粉体樹脂Rにビスフェノール型エポキシを適用する場合は170〜180度である。以下では、各工程の具体的な作動や作用等について説明する。
【0059】
(充填工程)
まず、駆動装置40を駆動してロッド42を下方向(図6に示す矢印D4方向)に伸縮する。この伸縮は、粉体槽82の上端面を補填槽91の粉体樹脂表面位置Rsよりも下方に沈め、図1に示す状態(粉体樹脂充填位置)に達するまで行う。粉体樹脂充填位置は、上下移動部80(特に図3に示す貯留槽81)の上端面が補填槽91の粉体樹脂表面位置Rsよりも下方となる位置である。
【0060】
図1の粉体樹脂充填位置では、貯留槽81および粉体槽82が空の場合は各上端面まで粉体樹脂Rを充填し、貯留槽81および粉体槽82が上端面に達しない程度まで粉体樹脂Rが入っている場合は不足分を補填する。これらの充填または補填によって、粉体槽82は粉体樹脂表面位置Rsまで粉体樹脂Rが満たされる。
【0061】
(境界部位置設定工程)
境界部位置設定工程は、上述した貯留槽81および粉体槽82への粉体樹脂Rの充填と並行して(あるいは充填後に)行う。具体的には、把持部24の作用によって未処理の対象物Wに交換して把持した後、モータ21の駆動によって対象物Wを回転させる。対象物Wの回転は、最初に浸漬させようとする特定の接合部Waが初期姿勢(すなわち真下となる姿勢)に達するまで行う。この「特定の接合部Wa」は、対象部Tの一端側(後述する図9(A)に示す第1境界E1)に位置する接合部Wa、あるいは対象部Tの他端側(後述する図9(C)に示す第2境界E2)に位置する接合部Waが該当する。
【0062】
対象物Wの回転と並行して(あるいは回転後に)、移動装置60の駆動により上下移動部80(特に粉体槽82)を、粉体槽82の対向する槽壁の一方が初期境界位置(対象部Tと非対象部nTとの境界に位置するように設定する。
【0063】
(回転浸漬工程)
回転浸漬工程は、対象物Wと粉体槽82とを相対的に回転させることで対象部Tを周方向Zに順次浸漬処理するため、境界部浸漬工程、粉体槽移動工程、表面位置維持工程などを有する。境界部浸漬工程は、対象部Tの一部(すなわち上述した特定の接合部Wa)を粉体槽82内の粉体樹脂Rに浸漬させる。粉体槽移動工程は、粉体槽82を対象物Wの回転接線方向に対して一方向または往復方向に移動させる。表面位置維持工程は、粉体槽82内の粉体樹脂Rにかかる粉体樹脂表面位置Rsを維持する。以下では、各工程の具体的な内容について説明する。
【0064】
(境界部浸漬工程)
まず境界部浸漬工程は、特定の接合部Waを粉体樹脂Rに浸漬させる工程である。具体的には、上述したように対象物Wおよび粉体槽82の各位置決めを終えた後に、駆動装置40を駆動してロッド42を上方向(図1に示す矢印D1方向)に伸縮する。この伸縮は、粉体槽82の上端面が図6に示す状態(粉体樹脂浸漬位置)に達するまで行う。粉体樹脂浸漬位置は、粉体槽82の上端面(すなわち上端面すり切り位置Sp)が対象物Wの浸漬を施す規定の部位よりも下方となる位置である。特定の接合部Waが粉体樹脂Rに浸漬される状態は、例えば後述する図9(A)または図9(C)に示すような状態である。こうして加熱された接合部Waが粉体槽82内の粉体樹脂Rに浸漬されると、当該粉体樹脂Rが固化することにより絶縁処理が施される。
【0065】
(表面位置維持工程)
上述した境界部浸漬工程や、後述する粉体槽移動工程において、駆動装置40の駆動によって上下移動部80(貯留槽81および粉体槽82)が移動(上昇)する。この移動に伴って、補填槽91の粉体樹脂表面位置Rsよりも上方に位置するようになり、図7に示すように粉体樹脂Rが流れる。具体的には図7(A)に示すように貯留槽81を下方向(矢印D5方向)に粉体槽82に下ろし、下ろした状態で各槽をそれぞれアーム44に取り付ける構成である(図3および図5をも参照)。この構成によれば、図7(B)の矢印D6や図7(C)の矢印D7で示すような流れで、粉体樹脂Rを貯留する貯留槽81から常に粉体槽82に粉体樹脂Rをかけ流す。そのため、粉体槽82における低位壁82bの上端面位置を示す粉体樹脂表面位置Rs(図3を参照)を維持できる。
【0066】
(粉体槽移動工程)
特定の接合部Waを粉体樹脂Rに浸漬した後は、対象物Wの回転と粉体槽82の水平移動とを協調して作動させることにより、対象部Tにかかる多数の接合部Waについて全て浸漬処理を行う。対象物Wの回転は、上述したようにモータ21の駆動によって実現する。粉体槽82の水平移動は、図8に示すように移動装置60の駆動によって水平移動部90を水平方向(矢印D8方向)に移動させて実現する。図8から明らかなように、粉体槽82の水平方向距離は、対象部Tの周方向距離よりも大幅に短い。そのため、図9に示すように三段階に分けて協調作動を行う。
【0067】
説明を簡単にするため、対象部Tについて第1境界E1から第2境界E2に向かって多数の接合部Waを順次浸漬処理する例について説明する。まず、上述した境界部位置設定工程を行うと、図9(A)に示すような状態になる。図9(A)の状態では、粉体槽82の一端側(図面左側)槽壁と対象部Tの第1境界E1が最接近しており、第1境界E1およびその近傍に位置する接合部Waのみが粉体樹脂Rに浸漬する。そして、粉体槽82を対象物Wの回転接線方向に対して一方向(図9では図面左方向)に移動させることによって、対象部Tの接合部Waを粉体樹脂Rに順次浸漬する。すなわち、対象物Wを矢印D10方向に回転させるとともに、粉体槽82を矢印D11方向に移動させる。対象物Wの回転速度と粉体槽82の移動速度は、接合部Waに粉体樹脂Rが所望膜厚で形成されるように適切に設定する。そのため、(対象物Wの回転速度)≧(粉体槽82の移動速度)となったり、(対象物Wの回転速度)≦(粉体槽82の移動速度)となったりする。
【0068】
粉体槽82の中心位置で対象物Wの接合部Waが最下位置となるまで協調作動すると、図9(B)に示すような状態になる。このまま続けて対象物Wを回転させるとともに粉体槽82を移動させると、すぐに粉体槽82の他端側(図面右側)槽壁に達する。そこで、図9(B)に示す状態では、対象物Wの回転のみを行う。所要の回転角だけ対象物Wを回転させた後は、再び対象物Wを矢印D10方向に回転させるとともに、粉体槽82を矢印D12方向(矢印D11と同方向)に移動させる。この場合における対象物Wの回転速度と粉体槽82の移動速度は、接合部Waに粉体樹脂Rが所望膜厚で形成されるとともに、粉体槽82の他端側槽壁と対象部Tの第2境界E2が最接近する状態で停止するように設定する。こうして、図9(A)に示す状態から最終的に図9(C)に示す状態へ至る。この間、加熱された接合部Waが粉体槽82内の粉体樹脂Rに順次浸漬されると、当該粉体樹脂Rが固化することにより絶縁処理が施される。
【0069】
以上によって一の対象物Wについて浸漬処理を終えるので、再び充填工程に戻る。こうして図1に示す充填工程と図6に示す回転浸漬工程とを繰り返すことにより、多数の対象物Wについて浸漬処理を行うことができる。
【0070】
なお上述した説明の粉体槽移動工程は、対象部Tの第1境界E1から第2境界E2に向かって浸漬処理を行うため、図9(A)→図9(B)→図9(C)で進行するように協調作動させた(図9に示す実線の矢印D13)。一の対象物Wに対する浸漬処理は、上述した一方向の協調作動に限らず行うことも可能である。例えば、同じ一方向の協調作動であっても、対象部Tの第2境界E2から第1境界E1に向かって浸漬処理を行うため、図9(C)→図9(B)→図9(A)で進行するように協調作動させてもよい(図9に示す二点鎖線の矢印D13)。
【0071】
一方向の協調作動による浸漬処理によって接合部Waに形成される粉体樹脂Rの膜厚に偏りがある場合には、往復方向に浸漬処理を行ってもよい。例えば図9の矢印D14で示すように、対象部Tの第1境界E1から第2境界E2に向かって進み、再び第1境界E1に戻るように浸漬処理を行うため、図9(A)→図9(B)→図9(C)→図9(B)→図9(A)で進行するように協調作動させるか、この逆順で協調作動させる。境界Eから始める必要がない場合には、例えば図9の矢印D15で示すように、対象部Tの中間部から一端側の境界E(例えば第2境界E2)に向かって進み、反対に他端側の境界E(例えば第1境界E1)を経て、再び中間部に戻るように浸漬処理を行うため、図9(B)→図9(C)→図9(B)→図9(A)→図9(B)で進行するように協調作動させるか、この逆順で協調作動させる。なお、上述した矢印D13,D14,D15のうちで一の方向または二以上の方向の組み合わせに基づいて浸漬処理を繰り返し行って、粉体樹脂Rを対象物W(すなわち対象部Tの接合部Wa)に複数回浸漬させてもよい。
【0072】
上述した実施の形態1によれば、以下に示す各効果を得ることができる。まず請求項1および請求項15に対応し、粉体樹脂浸漬処理装置10は、浸漬処理が必要な対象部Tと浸漬処理が不要な非対象部nTとを周方向Zに有する対象物Wを把持する把持部24と、対象物Wに浸漬させる粉体樹脂Rを保持する粉体槽82と、把持部24を回転させる回転把持装置20(回転駆動装置)とを備えた(図1,図6を参照)。回転把持装置20は、把持部24を回転させることで対象部Tを周方向Zに順次浸漬処理を行う回転浸漬工程を実現する(図9を参照)。この構成によれば、周方向Zに部分的に対象部Tを有する対象物Wに対して、粉体樹脂Rの浸漬を対象部Tのみに行うことができ、非対象部nTには粉体樹脂Rを付着させないようにすることができる。また、対象物Wを回転させながら浸漬処理を行うため、工程スピードが速くなり、量産に適する。
【0073】
請求項2および請求項16に対応し、回転把持装置20は、粉体槽82の対向する槽壁の一方が対象部Tと非対象部nTとの境界Eに位置する状態を境界部位置(すなわち第1境界E1や第2境界E2)として設定し、対象部Tを境界部位置から順次浸漬処理を行う構成とした(図9(A)および図9(C)を参照)。この構成によれば、槽壁を対象部Tと非対象部nTとの境界Eに位置するようにすることで、対象部Tは槽内に、非対象部nTは槽外となる。これによって、非対象部nTに粉体樹脂Rが付着することを確実に防止できる。
【0074】
請求項3および請求項17に対応し、粉体槽82を対象物Wの回転接線方向に対して一方向または往復方向に移動させる粉体槽移動装置、すなわち駆動装置40、テーブル50、移動装置60、基台70、上下移動部80および水平移動部90を備える構成とした(図6および図9を参照)。この構成によれば、粉体槽82が対象物Wの回転接線方向に移動するので、境界E付近の対象部Tが粉体槽82の槽壁に干渉しない。
【0075】
請求項6および請求項21に対応し、境界Eは、対象部Tの一端側に第1境界E1と他端側に第2境界E2とを有し、回転把持装置20は、対象物Wが粉体槽82の対向する槽壁に一方が第1境界E1に位置する境界部位置から粉体槽82の対向する槽壁に他方が第2境界E2に到達するまで回転させる構成とした(図9を参照)。この構成によれば、対象部Tの両端側に非対象部nTが設けられている場合であっても、対象部Tのみを確実に浸漬処理できる。
【0076】
請求項7および請求項22に対応し、粉体槽82の粉体樹脂表面位置Rsを一定に維持する上下移動部80(表面位置維持手段)を有する構成とした(図7を参照)。一の対象物Wに対して充填工程を行うことで表面位置維持工程を実現できる。この構成によれば、粉体槽82内の粉体樹脂量が減っても、粉体樹脂Rの付着位置を容易に高精度で管理できる。
【0077】
請求項8および請求項23に対応し、上下移動部80は、粉体槽82の上流側に位置し、粉体樹脂Rを貯留する貯留槽81を有し、貯留槽81に貯留された粉体樹脂Rを常に粉体槽82にかけ流す構成とした(図7を参照)。この構成によれば、粉体樹脂Rが常に貯留槽81から供給されるので、簡単な構成で粉体樹脂表面位置Rsを一定に維持できる。
【0078】
請求項11および請求項28に対応し、粉体槽82内の粉体樹脂Rは、第2流動手段83の作用により流動している構成とした(図3を参照)。また、補填槽91の粉体樹脂Rは、第1流動手段92の作用により流動している構成とした(図4を参照)。この構成によれば、粉体槽82内や補填槽91内の粉体樹脂Rが固化することがないので、対象物Wをスムーズに粉体樹脂R内に沈めることができる。
【0079】
請求項12および請求項29に対応し、第2流動手段83は粉体槽82における底部に第2エアチャンバ83bを設け、第2エアチャンバ83bにより生成される圧縮空気を第2多孔板83aを介して粉体槽82内に噴出させる構成とする構成とした(図3を参照)。また、第1流動手段92は補填槽91における底部に第1エアチャンバ92bを設け、第1エアチャンバ92bにより生成される圧縮空気を第1多孔板92aを介して補填槽91に噴出させる構成とする構成とした(図4を参照)。この構成によれば、粉体槽82内や補填槽91内でそれぞれエアバブリングが行われるので、粉体樹脂Rの固化を効果的に防止できる。
【0080】
請求項13および請求項30に対応し、特に浸漬処理中において粉体槽82を振動させる第2振動装置30を有する構成とした(図6を参照)。この構成によれば、例えば粉面に到達した気泡Bが破裂する等を要因として、粉体槽82内に貯留する粉体樹脂Rの粉面変動が生じても、当該粉面変動を粉体槽82の振動によって消失させることができる。したがって、対象物Wについて対象部T以外の部位に粉体樹脂Rが付着するのを確実に防止することができる。
【0081】
請求項14および請求項31に対応し、浸漬処理中または浸漬処理前に対象物Wを所定温度以上に加熱する加熱装置を有する構成とした(図示せず)。この構成によれば、対象物W(特に接合部Wa)を加熱すれば、粉体樹脂Rに浸漬させるべき対象部Tも加熱される。所定温度が粉体樹脂Rの凝固点であるように調整すれば、粉体樹脂Rによる対象物Wの浸漬処理を素早く行うことができる。
【0082】
請求項20に対応し、駆動装置40、テーブル50、移動装置60、基台70、上下移動部80および水平移動部90(粉体槽移動装置)は、回転把持装置20の動作に連動(協調作動)している構成とした(図9を参照)。この構成によれば、対象物Wの相対的な回転に応じて粉体槽82の位置を変えることができる。
【0083】
請求項24に対応し、粉体槽82は壁の高さが異なる高位壁82aと低位壁82bとを有し、貯留槽81から流れてくる粉体樹脂Rが低位壁82bを超えて溢れさせることによって粉体樹脂表面位置Rsを一定に維持する構成とした(図7を参照)。この構成によれば、低位壁82bの上端が粉体樹脂表面位置Rsとなり、これを超える分の粉体樹脂Rが停滞することなく溢れ落ちる。したがって、低位壁82bの上端位置を適切に調整することで、粉体樹脂表面位置Rsを高精度で一定に維持できる。
【0084】
請求項25に対応し、貯留槽81の底部はテーパ状に形成したテーパ状底部81aを有する構成とした(図3を参照)。この構成によれば、粉体樹脂Rは傾斜面を積極的に下方へ流れるので、貯留槽81に滞留する粉体樹脂Rの容量を最小限に抑えられ、粉体樹脂Rを粉体槽82にかけ流すことができる。
【0085】
〔実施の形態2〕
実施の形態2は、粉体樹脂表面位置Rsを一定に維持する表面位置維持手段にかかる他の形態である。すなわち実施の形態1では、駆動装置40によって上下移動部80を上下方向に移動させ、図1に示す充填位置と図6に示す回転浸漬位置とを切り換えることで、対象物Wに対する浸漬処理を行った。これに対して、実施の形態2では、駆動装置40に代わる手段によって補填槽91または粉体槽82への充填を実現する。なお説明を簡単にするために、実施の形態2(さらには後述する実施の形態3,4)は、実施の形態1で説明した要素と同一の要素には同一の符号を付して図示および説明を省略する。
【0086】
補填槽91に粉体樹脂Rを一度充填し、その後に充填を行わない場合には、図10に示すように粉体樹脂表面位置Rsが低下する。粉体樹脂表面位置Rsが低下したままでは、実施の形態1では駆動装置40を駆動させて上下移動部80をより深い位置まで移動させる必要がある。よって、アーム44の上下方向長さを十分に確保しておく必要がある。
【0087】
駆動装置40に代わる手段は、図10および図11に示す第1容量変化手段100である。第1容量変化手段100は、補填槽91について粉体樹脂Rの貯留可能容量を減少させることで、相対的に粉体樹脂表面位置Rsの位置を上昇させる機能を有する。この第1容量変化手段100は、ピストン101、ロッド102、シリンダ103などを有する。ピストン101は水平状の板部材であって、パッキンを通じて補填槽91の全槽壁と接触する。ピストン101は、シリンダ103の作動によって進退運動するロッド102に固定されている。シリンダ103は、図示しない制御装置から伝達される信号(移動量や移動速度等を含む)に基づいて作動が制御される。第1流動手段92はピストン101と一体化されて移動可能になり、第1多孔板92aはパッキンを通じて補填槽91の全槽壁と接触するように構成される。ピストン101が図10に示す位置から図11に示す位置に移動すると、ピストン101と槽壁とによって囲まれる粉体樹脂Rの貯留可能容量が減少するために、相対的に粉体樹脂表面位置Rsが上昇する。このように補填槽91の底面態様が変わる点で、第1容量変化手段100は「態様変化機構」に相当する。したがって、上下移動部80を固定することができる。
【0088】
対象物Wに対する浸漬処理は、図11に示す状態が実施の形態1における充填工程に相当し、図10に示す状態が実施の形態1における回転浸漬工程に相当する。したがって、具体的な作動については実施の形態1と同様であるので、当該実施の形態1と同様の作用効果を得ることができる。
【0089】
上述した第1容量変化手段100は補填槽91に対して適用したが、粉体槽82に対して適用してもよい。図12および図13に示す第2容量変化手段110は、粉体槽82について粉体樹脂Rの貯留可能容量を減少させることで、相対的に粉体樹脂表面位置Rsの位置を上昇させる機能を有する。第2容量変化手段110は第1容量変化手段100と同等の構成であり、「態様変化機構」に相当する。すなわち、ピストン111はピストン101に対応し、ロッド112はロッド102に対応し、シリンダ113はシリンダ103に対応する。対象が補填槽91から粉体槽82に変わっただけである。異なる点は、粉体樹脂Rが低位壁82bから溢れる程度にまでピストン111を上昇させることである。第2流動手段83はピストン111と一体化されて移動可能になり、第2多孔板83aはパッキンを通じて粉体槽82の全槽壁と接触するように構成される。したがって、粉体樹脂Rを一度だけ粉体槽82に充填すればよく、その後の補填を抑えることができる。
【0090】
上述した実施の形態2によれば、請求項9および請求項26に対応し、第1容量変化手段100は補填槽91に貯留可能な粉体樹脂Rの貯留可能容量を減少させることで粉体樹脂表面位置を維持する構成とした(図10および図11を参照)。また第2容量変化手段110は、粉体槽82内に貯留可能な粉体樹脂Rの貯留可能容量を減少させることで粉体槽82から粉体樹脂Rを溢れさせる構成とした(図12および図13を参照)。この構成によれば、浸漬処理中(回転浸漬工程)に粉体樹脂Rが減っても、貯留可能容量が減少するので結果的に粉体槽82から粉体樹脂Rを溢れる。したがって、貯留槽81が不要になり、粉体槽82の粉体樹脂表面位置Rsを高精度で一定に維持できる。
【0091】
請求項10および請求項27に対応し、第1容量変化手段100はピストン101によって補填槽91の底部態様を変化させる態様変化機構を備えた(図10および図11を参照)。また第2容量変化手段110はピストン111によって粉体槽82の底部態様を変化させる態様変化機構を備えた(図12および図13を参照)。この構成によれば、浸漬処理によって粉体樹脂Rの容量が減ったとしても、補填槽91内や粉体槽82内の貯留可能容量が減少するので結果的に粉体槽82から粉体樹脂Rを溢れる。したがって、粉体樹脂表面位置Rsを高精度で一定に維持できる。なお態様変化機構は、槽の底部を変化させる態様で構成のみに限らず、槽の側部を変化させる態様で構成してもよい。
【0092】
〔実施の形態3〕
実施の形態3は、上述した実施の形態2と同様に、粉体樹脂表面位置Rsを一定に維持する表面位置維持手段にかかる他の形態である。実施の形態2と同様に、駆動装置40に代わる手段によって補填槽91または粉体槽82への充填を実現する。
【0093】
駆動装置40に代わる手段は、図14および図15に示す第3容量変化手段120である。第3容量変化手段120は、補填槽91について粉体樹脂Rの貯留可能容量を減少させることで、相対的に粉体樹脂表面位置Rsの位置を上昇させる機能を有する。この第3容量変化手段120は、流体供給源121、供給管122、可撓性部材123などを有する。流体供給源121は、供給管122を通じて可撓性部材123に流体(例えばエア,水、油等)を供給したり排出したりする。この流体供給源121は、図示しない制御装置から伝達される信号(供給量や供給速度等を含む)に基づいて作動が制御される。すなわち、可撓性部材123に送り込まれる流体の容量に応じて、可撓性部材123の大きさが膨張したり縮小したりする。可撓性部材123は、補填槽91の底面側(例えば第1多孔板92aの直上)に配置する。可撓性部材123が図14に示す縮小状態から図15に示す膨張状態に変化すると、膨張した分だけ粉体樹脂Rの貯留可能容量が減少するために、相対的に粉体樹脂表面位置Rsが上昇する。したがって、駆動装置40が不要になり、上下移動部80を所要の位置に固定することができる。
【0094】
対象物Wに対する浸漬処理は、図15に示す膨張状態が実施の形態1における充填工程に相当し、図14に示す縮小状態が実施の形態1における回転浸漬工程に相当する。したがって、具体的な作動については実施の形態1と同様であるので、当該実施の形態1と同様の作用効果を得ることができる。
【0095】
上述した第3容量変化手段120は補填槽91に対して適用したが、粉体槽82に対して適用してもよい。図16および図17に示す第4容量変化手段130は、粉体槽82について粉体樹脂Rの貯留可能容量を減少させることで、相対的に粉体樹脂表面位置Rsの位置を上昇させる機能を有する。第4容量変化手段130は第3容量変化手段120と同等の構成であるので、流体供給源121や供給管122に相当する要素の記載は省略している。対象が補填槽91から粉体槽82に変わっただけであり、異なるのは粉体樹脂Rが低位壁82bから溢れる程度にまで第4容量変化手段130(具体的には可撓性部材)を膨張させることである。したがって、粉体樹脂Rを一度だけ粉体槽82に充填すればよく、その後の補填を抑えることができる。
【0096】
上述した実施の形態3によれば、実施の形態2と同様に、請求項9および請求項26に対応する構成および作用効果を有する。また請求項10および請求項27に対応し、第3容量変化手段120は可撓性部材123によって補填槽91の貯留可能容量を変化させる構成とした(図14および図15を参照)。また第4容量変化手段130は可撓性部材によって粉体槽82の貯留可能容量を変化させる構成とした(図16および図17を参照)。この構成によれば、浸漬処理によって粉体樹脂Rの容量が減ったとしても、補填槽91内や粉体槽82内の貯留可能容量が減少するので結果的に粉体槽82から粉体樹脂Rを溢れる。したがって、粉体樹脂表面位置Rsを高精度で一定に維持できる。
【0097】
〔実施の形態4〕
上述した実施の形態1〜3はいずれも粉体槽82および補填槽91を水平移動させる構成とした。これに対して、実施の形態4では、移動装置60による移動対象物を変更することによって、対象物Wを回転とともに水平移動させる構成とする。
【0098】
図18には、図1に代わる粉体樹脂浸漬処理装置10の他の構成例を示す。図18に示す粉体樹脂浸漬処理装置10が図1に示す粉体樹脂浸漬処理装置10と構造上で異なるのは、次の二点である。第一には、テーブル50を基台70に固定した点である。第二には、回転把持装置20(特に支持柱22b)の下面側に車輪等を備え、レール71,72上を移動可能にした点である。
【0099】
図18に示す粉体樹脂浸漬処理装置10で行う回転浸漬工程は、境界部浸漬工程、対象物移動工程、表面位置維持工程などを有する。すなわち、粉体槽移動工程に代わって、対象物移動工程が行われる。以下では、対象物移動工程について簡単に説明する。
【0100】
(対象物移動工程)
対象物Wの交換および把持を行ってから、初めに特定の接合部Waを粉体樹脂Rに浸漬するまでの諸工程は、実施の形態1で説明した通りである。本形態の粉体槽82は駆動装置40によって上下方向に移動するのみであるので、移動装置60が回転把持装置20(ひいては把持部24に把持された対象物W)を水平方向に移動させる。制御装置は、モータ21による対象物Wの回転と、移動装置60による対象物Wの水平移動とを協調して作動させる。この協調作動では、対象物Wの回転および移動によって対象部Tを周方向Zに順次浸漬処理するため、結果的に図9に示すような動きを実現することができる。
【0101】
すなわち図9において、実線の矢印D13で示すように図9(A)→図9(B)→図9(C)に進行して対象部Tの第1境界E1から第2境界E2への一方向に浸漬処理を行う。逆に、二点鎖線の矢印D13で示すように図9(C)→図9(B)→図9(A)に進行して対象部Tの第2境界E2から第1境界E1への一方向に浸漬処理を行う。また矢印D14で示すように、対象部Tの第1境界E1から第2境界E2に向かって進み、再び第1境界E1に戻る往復方向に浸漬処理を行うか、この逆順で行う。さらに矢印D15で示すように、対象部Tの中間部から一端側の境界Eに向かって進み、反対に他端側の境界Eを経て、再び中間部に戻るように往復方向に浸漬処理を行うか、この逆順で行う。なお、上述した矢印D13,D14,D15のうちで一の方向または二以上の方向の組み合わせに基づいて浸漬処理を繰り返し行って、粉体樹脂Rを対象物W(すなわち対象部Tの接合部Wa)に複数回浸漬させてもよい。
【0102】
上述した実施の形態4によれば、粉体槽移動工程による作用効果を除いて、実施の形態1〜3と同様の作用効果を有する。また、請求項4および請求項18に対応し、把持部24を対象物Wの回転接線方向に対して一方向または往復方向に移動させる移動装置60(対象物移動装置)を備える構成とした(図18を参照)。回転把持装置20は把持部24を回転させ、移動装置60は回転把持装置20を移動させることで、対象物Wにおける対象部Tの接合部Waを周方向Zに順次浸漬処理を行う回転浸漬工程を実現する(図9を参照)。この構成によれば、粉体槽82を定位置に据え置くことができるため、粉体槽82内の粉体樹脂Rの表面高さを安定させることができる。
【0103】
請求項5および請求項19に対応し、回転把持装置20(回転駆動装置)は、把持部24の回転を繰り返すことにより粉体樹脂Rを対象部Tの接合部Waに複数回浸漬させる構成とした(図18および図9を参照)。この構成によれば、粉体樹脂Rを複数回浸漬させることで、粉体樹脂Rを多層にすることができる。したがって、粉体樹脂Rの付着不良を低減でき、より確実に絶縁性能を確保できる。
【0104】
〔他の実施の形態〕
以上では本発明を実施するための形態について実施の形態1〜4に従って説明したが、本発明は当該形態に何ら限定されるものではない。言い換えれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することもできる。例えば、次に示す各形態を実現してもよい。
【0105】
上述した実施の形態1〜4では、対象物W(ワーク)として、接合部Waと接続部Wbとの突出方向が異なる固定子用コイルを適用した(図1,図2,図6を参照)。この形態に代えて、固定子用コイル以外のコイルや、対象物Wの一部(対象部Tの範囲内の接合部Waに相当する特定部位)に対してのみ浸漬処理を行い、他部(非対象部nTの範囲内の接続部Wbに相当する非特定部位)を浸漬処理しない対象物Wを適用することも可能である。これらの対象物Wについても上述した実施の形態1〜3と同様の作用効果を得ることができる。
【0106】
上述した実施の形態1〜4では、対象物W(特に接合部Wa)に対して粉体樹脂Rを用いて浸漬処理を行う構成とした(図1および図6を参照)。この形態に代えて、粉体樹脂R以外の樹脂を用いて浸漬処理や、他の付着物を用いて表面処理を行う構成としてもよい。この場合でも、粉体槽82の表面位置(粉体樹脂表面位置Rsに相当)は、充填工程後には上端面すり切り位置Spになるため、各回転浸漬工程において粉体樹脂Rの付着位置を高精度で管理できる。
【0107】
上述した実施の形態1〜4では、粉体樹脂Rの流動を流動手段(第2流動手段83,第1流動手段92)によって行う構成とした(図3および図4を参照)。この形態に代えて、撹拌手段によって行う構成としてもよい。撹拌手段は、例えば各粉体槽内に備えて回転可能なスクリューや、粉体槽内に備える攪拌子(例えば磁性撹拌子)と当該攪拌子を回転させる回転装置(例えば磁力発生器)などが該当する。これらの構成であっても、粉体樹脂Rを流動させて固化を防止することができる。
【0108】
上述した実施の形態1〜4では、把持部24を粉体槽82に対して相対的に回転可能に支持する構成とした。この形態に代えて、粉体槽82を把持部24に対して相対的に回転可能に支持する構成としてもよい。また、把持部24と補填槽91(粉体槽82を含む)とが相対的に回転可能に支持する構成としてもよい。いずれの形態にせよ、把持部24と粉体槽とが相対的に回転するので、対象部Tの範囲内における多数の接合部Waを連続的に浸漬処理することができる。
【0109】
上述した実施の形態1〜4では、アーム44は側面から見てクランク状に形成した(図1および図6を参照)。この形態に代えて、ロッド42の運動に伴って移動しても対象物Wとの干渉を回避する形状であれは、他の形状(例えばS字状やL字状等)に形成してもよい。また、アーム44を一本で構成してもよい。いずれにせよ、充填工程と回転浸漬工程とを連続的に繰り返し行っても、対象物Wとの干渉を回避することができる。
【0110】
上述した実施の形態1〜4では、粉体槽82は高位壁82aと低位壁82bとを備える構成とした(図1〜図18を参照)。この形態に代えて、実施の形態2における第2容量変化手段110を備える場合や、実施の形態3における第4容量変化手段130を備える場合は、上端面を段差のない平坦な面で構成してもよい。例えば、第2容量変化手段110を備える場合の例を図19(A)に示し、第4容量変化手段130を備える場合の例を図19(B)に示す。これらの形態であっても、貯留槽81が不要になるとともに、粉体樹脂表面位置Rsを高精度で維持することができる。
【0111】
移動装置60の移動対象によって、実施の形態1〜3では粉体槽82(上下移動部80)および補填槽91(水平移動部90)を水平移動させる構成とし、実施の形態4では対象物W(把持部24を含む回転把持装置20)を水平移動させる構成とした(図1および図18を参照)。この形態に代えて、粉体槽82、補填槽91および対象物Wの全てを水平移動させる構成としてもよい。具体的には二通りの構成が考えられる。第1の構成は、図1に示す水平移動部90を移動させる移動装置60と、図18に示す回転把持装置20を移動させる移動装置60とを個別に備える。第2の構成は、図1に示すテーブル50と図18に示す支持柱22bのように各々がレール71,72上で個別に移動可能とし、さらにテーブル50と支持柱22bとの間にはこれらが互いに反対方向に移動するように機能する動力伝達機構を介在させる。動力伝達機構の構成は任意であるが、例えばテーブル50と支持柱22bとにそれぞれ備えるラックと、所定位置に回転可能に軸支されてテーブル50および支持柱22bの各ラックと噛み合うピニオンとが該当する。移動装置60はテーブル50および支持柱22bのうちで一方を所定方向に移動させれば、他方は動力伝達機構を通じて反対方向に移動する。制御装置は、粉体槽82および補填槽91と、対象物Wとを互いに反対方向に水平移動させるとともに、回転と水平移動との協調作動を行うように制御する。特に粉体槽82と対象物Wとが互いに反対方向に移動するように協調作動させると、粉体槽82および対象物Wの移動量が少なく抑えられ、実施の形態1〜3と同じ移動速度で水平移動させれば浸漬処理が速められる。
【符号の説明】
【0112】
10 粉体樹脂浸漬処理装置
20 回転把持装置
21 モータ(回転運動駆動源)
24 把持部
24a 把持爪
30 第2振動装置
40 駆動装置
43 シリンダ(進退運動駆動源)
51 第1振動装置
60 移動装置
80 上下移動部
81 貯留槽
82 粉体槽
82a 高位壁
82b 低位壁
83 第2流動手段
83a 第2多孔板
83b 第2エアチャンバ
90 水平移動部
91 補填槽
92 第1流動手段
92a 第1多孔板
92b 第1エアチャンバ
92c エア供給部
100 第1容量変化手段(容量変化手段)
101,111 ピストン
110 第2容量変化手段(容量変化手段)
120 第3容量変化手段(容量変化手段)
123 可撓性部材
130 第4容量変化手段(容量変化手段)
B 気泡(エアバブル)
E 境界
E1 第1境界
E2 第2境界
R 粉体樹脂
Rs 粉体樹脂表面位置
Sp 上端面すり切り位置
W 対象物
Wa 接合部
Wb 接続部
T 対象部
nT 非対象部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を粉体槽に保持される粉体樹脂に浸漬させる粉体樹脂浸漬処理方法において、
前記対象物は、浸漬処理が必要な対象部と浸漬処理が不要な非対象部とを周方向に有し、
前記対象物と前記粉体槽とを相対的に回転させることで前記対象部を周方向に順次浸漬処理する回転浸漬工程を有することを特徴とする粉体樹脂浸漬処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の粉体樹脂浸漬処理方法において、
前記回転浸漬工程の前および後の一方または双方に、前記粉体槽の対向する槽壁の一方が前記対象部と前記非対象部との境界に位置するように設定する境界部位置設定工程と、前記対象部の一部を前記粉体槽に浸漬させる境界部浸漬工程と、を有することを特徴とする粉体樹脂浸漬処理方法。
【請求項3】
請求項2に記載の粉体樹脂浸漬処理方法において、
前記回転浸漬工程と同時に前記粉体槽を前記対象物の回転接線方向に対して一方向または往復方向に移動させる粉体槽移動工程を有することを特徴とする粉体樹脂浸漬処理方法。
【請求項4】
請求項2に記載の粉体樹脂浸漬処理方法において、
前記回転浸漬工程と同時に前記対象物を回転接線方向に対して一方向または往復方向に移動させる対象物移動工程を有することを特徴とする粉体樹脂浸漬処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の粉体樹脂浸漬処理方法において、
前記回転浸漬工程は、前記対象物の回転を繰り返すことにより前記粉体樹脂を前記対象部に複数回浸漬させることを特徴とする粉体樹脂浸漬処理方法。
【請求項6】
請求項2または3に記載の粉体樹脂浸漬処理方法において、
前記境界は、前記対象部の一端側に第1境界と他端側に第2境界とを有し、
前記境界部位置設定工程は、前記粉体槽の対向する槽壁の一方が前記第1境界に位置するように設定し、
前記回転浸漬工程は、前記粉体槽の対向する槽壁に他方が前記第2境界に到達するまで前記粉体槽と前記対象物とを相対的に回転させることを特徴とする粉体樹脂浸漬処理方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の粉体樹脂浸漬処理方法において、
前記粉体槽の粉体樹脂表面位置を一定に維持する表面位置維持工程を有することを特徴とする粉体樹脂浸漬処理方法。
【請求項8】
請求項7に記載の粉体樹脂浸漬処理方法において、
前記表面位置維持工程は、粉体樹脂を貯留する貯留槽から常に前記粉体槽に粉体樹脂をかけ流すことを特徴とする粉体樹脂浸漬処理方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の粉体樹脂浸漬処理方法において、
前記表面位置維持工程は、前記粉体槽内に貯留可能な粉体樹脂の容量を減少させることで前記粉体槽から粉体樹脂を溢れさせることを特徴とする粉体樹脂浸漬処理方法。
【請求項10】
請求項9に記載の粉体樹脂浸漬処理方法において、
前記表面位置維持工程は、前記粉体槽の態様を変化させること、および、前記粉体槽内に備える可撓性部材を膨張縮小することのうち一方または双方によって、前記粉体槽内に貯留可能な粉体樹脂の容量を減少させることを特徴とする粉体樹脂浸漬処理方法。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか一項に記載の粉体樹脂浸漬処理方法において、
前記粉体槽内および補填槽内のうち一方または双方の粉体樹脂は、流動手段の作用により流動していることを特徴とする粉体樹脂浸漬処理方法。
【請求項12】
請求項13に記載の粉体樹脂浸漬処理方法において、
前記流動手段は、圧縮空気が多孔板を介して前記粉体樹脂内へ噴出することを特徴とする粉体樹脂浸漬処理方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載の粉体樹脂浸漬処理方法において、
浸漬処理中に前記粉体槽を振動させることを特徴とする粉体樹脂浸漬処理方法。
【請求項14】
請求項1〜13の何れか一項に記載の粉体樹脂浸漬処理方法において、
浸漬処理中または浸漬処理前に前記対象物を所定温度以上に加熱することを特徴とする粉体樹脂浸漬処理方法。
【請求項15】
浸漬処理が必要な対象部と浸漬処理が不要な非対象部とを周方向に有する対象物を把持する把持部と、前記対象物に浸漬させる粉体樹脂を保持する粉体槽と、を有する粉体樹脂浸漬処理装置において、
前記把持部および前記粉体槽のうち一方または双方を回転させる回転駆動装置を有し、
前記回転駆動装置は、前記把持部と前記粉体槽とを相対的に回転させることで前記対象部を周方向に順次浸漬処理を行うことを特徴とする粉体樹脂浸漬処理装置。
【請求項16】
請求項15に記載の粉体樹脂浸漬処理装置において、
前記回転駆動装置は、前記粉体槽の対向する槽壁の一方が前記対象部と前記非対象部との境界に位置する状態を境界部位置として設定し、前記対象部を前記境界部位置から順次浸漬処理を行うことを特徴とする粉体樹脂浸漬処理装置。
【請求項17】
請求項16に記載の粉体樹脂浸漬処理装置において、
前記粉体槽を前記対象物の回転接線方向に対して一方向または往復方向に移動させる粉体槽移動装置を備えることを特徴とする粉体樹脂浸漬処理装置。
【請求項18】
請求項16に記載の粉体樹脂浸漬処理装置において、
前記把持部を前記対象物の回転接線方向に対して一方向または往復方向に移動させる対象物移動装置を備えることを特徴とする粉体樹脂浸漬処理装置。
【請求項19】
請求項15〜18の何れか一項に記載の粉体樹脂浸漬処理装置において、
前記回転駆動装置は、前記把持部の回転を繰り返すことにより粉体樹脂を前記対象部に複数回浸漬させることを特徴とする粉体樹脂浸漬処理装置。
【請求項20】
請求項17に記載の粉体樹脂浸漬処理装置において、
前記粉体槽移動装置は、前記回転駆動装置の動作に連動していることを特徴とする粉体樹脂浸漬処理装置。
【請求項21】
請求項15〜20の何れか一項に記載の粉体樹脂浸漬処理装置において、
前記境界は、前記対象部の一端側に第1境界と他端側に第2境界とを有し、
前記回転駆動装置は、前記対象物が前記粉体槽の対向する槽壁に一方が前記第1境界に位置する前記境界部位置から前記粉体槽の対向する槽壁に他方が前記第2境界に到達するまで回転させることを特徴とする粉体樹脂浸漬処理装置。
【請求項22】
請求項16〜21の何れか一項に記載の粉体樹脂浸漬処理装置において、
前記粉体槽の粉体樹脂表面位置を一定に維持する表面位置維持手段を有することを特徴とする粉体樹脂浸漬処理装置。
【請求項23】
請求項22に記載の粉体樹脂浸漬処理装置において、
前記表面位置維持手段は、前記粉体槽の上流側に位置し、粉体樹脂を貯留する貯留槽を有し、
前記貯留槽に貯留された粉体樹脂を常に前記粉体槽にかけ流すことを特徴とする粉体樹脂浸漬処理装置。
【請求項24】
請求項23に記載の粉体樹脂浸漬処理装置において、
前記粉体槽は壁の高さが異なる高位壁と低位壁とを有し、
前記貯留槽から流れてくる粉体樹脂が前記低位壁を超えて溢れさせることによって粉体樹脂表面位置を一定に維持することを特徴とする粉体樹脂浸漬処理装置。
【請求項25】
請求項23または24に記載の粉体樹脂浸漬処理装置において、
前記貯留槽の底部はテーパ状に形成されることを特徴とする粉体樹脂浸漬処理装置。
【請求項26】
請求項15〜25の何れか一項に記載の粉体樹脂浸漬処理装置において、
前記表面位置維持手段は、前記粉体槽内に貯留可能な粉体樹脂の容量を変化させる容量変化手段を有することを特徴とする粉体樹脂浸漬処理装置。
【請求項27】
請求項26に記載の粉体樹脂浸漬処理装置において、
前記容量変化手段は、前記粉体槽の態様を変化させる態様変化機構および前記粉体槽内に備えられて膨張縮小可能な可撓性部材のうち一方または双方で構成することを特徴とする粉体樹脂浸漬処理装置。
【請求項28】
請求項15〜27の何れか一項に記載の粉体樹脂浸漬処理装置において、
前記粉体槽内および前記補填槽内のうち一方または双方の粉体樹脂は、流動手段の作用により流動していることを特徴とする粉体樹脂浸漬処理装置。
【請求項29】
請求項28に記載の粉体樹脂浸漬処理装置において、
前記流動手段は、前記粉体槽および前記補填槽のうち一方または双方における底部にエアチャンバを設け、前記エアチャンバにより生成される圧縮空気を多孔板を介して粉体槽内に噴出させる構成とすることを特徴とする粉体樹脂浸漬処理装置。
【請求項30】
請求項28または29に記載の粉体樹脂浸漬処理装置において、
前記流動手段の作用によって生じる粉体樹脂の粉面変動を消失するために、前記粉体槽を振動させる振動装置を有することを特徴とする粉体樹脂浸漬処理装置。
【請求項31】
請求項15〜30の何れか一項に記載の粉体樹脂浸漬処理装置において、
浸漬処理中または浸漬処理前に前記対象物を所定温度以上に加熱する加熱装置を有することを特徴とする粉体樹脂浸漬処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−139993(P2011−139993A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2186(P2010−2186)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】