説明

粉末クラッド製造ライン

【課題】板表面に粉末を圧着して粉末圧着材を形成し、続いて粉末圧着材を加熱して粉末を板に融着させることにより製造される粉末クラッドを高品質で高能率に製造できるようにする。
【解決手段】巻戻機3から一定速度で巻き出す板1の表面に粉末圧延機4により粉末を圧着して粉末圧着材5aを形成し、粉末圧着材5aを加熱炉6に導き一定温度で加熱して粉末を板1に融着させた粉末クラッド5を形成し、粉末クラッド5を冷却した後巻取機10により巻き取る粉末クラッド製造ラインであって、加熱炉6の下流に粉末クラッド5の張力を計測する張力計14を設置し、張力計14による検出張力19が、加熱炉6における加熱と張力の作用により粉末クラッド5が許容範囲の幅縮みに収まる張力設定値21に維持されるように巻取機10による粉末クラッド5の巻取張力を制御する張力制御装置20を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板表面に粉末を圧着して粉末圧着材を形成し、続いて粉末圧着材を加熱して粉末を板に融着させることにより製造される粉末クラッドを高品質で高能率に製造できるようにした粉末クラッド製造ラインに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、ステンレス、耐熱合金等の金属板の両面又は片面に、ニッケル等を主成分とする金属の粉末を一体化してロウ材層が形成された粉末クラッドを製造することが行なわれており、このような粉末クラッドを製造する際には、図4に示すような設備を使用することが提案されている。
【0003】
図4に示される粉末クラッド製造設備は、母材である板1が巻かれた板コイル2を一定速度で巻き出すようにした巻戻機3と、該巻戻機3によって板コイル2から巻き出された板1の表面に金属粉末(粉末)を圧着して粉末圧着材5aを形成する粉末圧延機4と、該粉末圧延機4で形成した粉末圧着材5aを加熱して粉末を板1に融着させることにより粉末クラッド5を形成する加熱炉6と、該加熱炉6で粉末が融着した粉末クラッド5を冷却する冷却器7と、該冷却器7で冷却した粉末クラッド5を必要に応じて圧延する圧延機或いはピンチロール8と、該圧延機或いはピンチロール8で圧延された粉末クラッド5を粉末クラッドコイル9に巻き取る巻取機10とを備えてなる構成を有している。
【0004】
前記粉末圧延機4は、回転自在となるよう対向配置された一対のロール11と、該各ロール11上に粉末を供給する粉末供給装置12とを備え、前記一対のロール11間に上方から下方へ向け板1を導入しつつ、前記粉末供給装置12から各ロール11上に粉末を供給して該各ロール11を回転させることにより、前記板1の両面に粉末を圧着させて粉末圧着材5aを形成するようになっている。13a,13bは方向変えローラである。
【0005】
また前記加熱炉6には通常、図示しない電気ヒータを備えてあり、該電気ヒータは不活性ガスの雰囲気温度を高め、輻射熱によって粉末圧着材5aの粉末が融解する温度まで加熱することによって粉末を板1に融着させて粉末クラッド5を形成するようにしている。
【0006】
前記粉末クラッド製造設備により粉末クラッド5を製造するには、先ず、巻戻機3から一定速度で巻き出された板1の表面に粉末圧延機4により粉末が圧着されて粉末圧着材5aが形成される。続いて、粉末が圧着された粉末圧着材5aは加熱炉6に導かれて加熱されることにより粉末が融解して板1に融着されることにより粉末クラッド5が形成される。この時、加熱によって粉末の粒子表面又はその一部が融解して(液相を出させて)軟化することにより粉末は板1に融着する。続いて、粉末クラッド5は冷却器7に導入され冷却されて粉末粒子が固化された後、圧延機8を経て巻取機10に巻き込まれ所定の巻取り速度で巻き取られて粉末クラッドコイル9が形成される。この時、粉末クラッド5は巻取機10の巻取り力によって引っ張られ、この巻取張力によって前記巻戻機3から板1が一定速度で巻き出されるようになっている。
【0007】
尚、前述の如き粉末クラッド製造設備と関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【特許文献1】特開2005−186127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記クラッド材製造設備では、巻戻機3は板1を一定速度で巻き出すようにしており、粉末圧延機4の入側板は巻戻機10によって一定張力に設定され、粉末圧延機4の出側板は巻取機10によって一定張力が付加される。
【0009】
一方、加熱炉6では、ロウ材層を形成するために粉末が融解する温度まで加熱するようにしているが、粉末が融解する温度まで加熱すると板1が加熱によって軟化するという問題がある。
【0010】
従って、巻戻機3から巻き出される板1が特に薄い材料(例えば数百ミクロンメータ程度)の場合には加熱炉6での加熱により板1が軟化し、この時、粉末圧延機4の出側板の設定張力が大きいと、熱間での張力作用によって粉末クラッド5は図5に示す如く引き伸ばされて幅縮みを生じ、製品品質が低下するという問題がある。
【0011】
又、逆に、設定張力が小さい場合には、粉末クラッド5が加熱炉6内部で自重により垂れ下がり、粉末クラッド5が固定部材に接触することによってクラッド5が傷付くという問題がある。
【0012】
本発明は、斯かる実情に鑑みてなしたもので、板表面に粉末を圧着して粉末圧着材を形成し、続いて粉末圧着材を加熱して粉末を板に融着させることにより製造される粉末クラッドを高品質で高能率に製造できるようにした粉末クラッド製造ラインを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、巻戻機から巻き出される板の表面に粉末圧延機により粉末を圧着して粉末圧着材を形成し、該粉末圧着材を加熱炉に導いて加熱することにより粉末を融解させて板に融着させることにより粉末クラッドを形成し、続いて粉末クラッドを冷却器で冷却し巻取機により巻き取る粉末クラッド製造ラインであって、加熱炉の下流に粉末クラッドの張力を計測する張力計を設置し、該張力計による検出張力が、加熱炉における加熱と張力の作用による板の幅縮みが許容範囲内に収まる張力設定値に維持されるように前記巻取機による巻取張力を制御する張力制御装置を備えたことを特徴とする粉末クラッド製造ライン、に係るものである。
【0014】
上記粉末クラッド製造ラインにおいて、張力計は、粉末クラッドの長手方向に間隔を隔てて接触する固定ローラと、該固定ローラ間に配置して粉末クラッドを前記固定ローラ間に押込むように移動させる移動ローラと、該移動ローラにかかる荷重を検出する荷重計とからなることが好ましい。
【0015】
又、上記粉末クラッド製造ラインにおいて、加熱炉出側に、粉末クラッドの張力計、圧延機或いはピンチロール、巻取機の順に配置することが好ましい。
【0016】
又、上記粉末クラッド製造ラインにおいて、加熱炉内の粉末クラッドの張力を刻々計測して張力設定値と比較し、一定張力値幅に収まるように巻取機により粉末クラッドの張力一定制御を行うようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の粉末クラッド製造ラインにおいては、加熱炉における加熱と張力の作用による板の幅縮みが許容範囲内に収まる張力設定値に維持されるように、巻取機による粉末クラッドの巻取張力を制御しているので、加熱された粉末クラッドが引き伸ばされて部分的な許容範囲以上の幅縮みを生じたり或いは粉末クラッドが垂れ下がって傷付くといった問題を防止でき、且つ高速で安定した粉末クラッドの巻取りができるため、高品質の粉末クラッドを安定して高能率に製造できるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0019】
図1、図2は本発明を実施する形態の一例を示すもので、図1は粉末クラッド製造ラインの全体側面図、図2は図1の部分詳細図である。
【0020】
本発明を適用する粉末クラッド製造ラインの一例を示す図1では、前記図4と同様に、板コイル2の板1を一定速度で横方向に巻き出すようにした巻戻機3と、板1を鉛直下方に導くための方向変えローラ13aと、前記板1の表面に粉末を圧着して粉末圧着材5aを形成する粉末圧延機4と、粉末圧着材5aを再び横方向に向かわせる方向変えローラ13bと、粉末圧着材5aを一定温度に加熱して粉末を融解し板1に融着させて粉末クラッド5を形成する加熱炉6と、粉末クラッド5を冷却して粉末を固化させる冷却器7と、圧延機或いはピンチロール8と、粉末クラッド5を巻き取る巻取機10とを備えた構成を有している。
【0021】
ここで、前記巻戻機3による板1の巻出し速度は、加熱炉6における一定の加熱温度に対し、移動する粉末圧着材5aの粉末が融解して板1に融着する適温に維持されるように予め実験等によって求めておいた一定速度で板1を巻き出すようにしている。尚、図1、図2に示した前記圧延機或いはピンチロール8は駆動モータを備えて積極的に圧延を行うようにしたものや駆動モータを備えずに軽圧下するようにしたものでもよく、又、冷却器7は不活性ガスによって冷却するようにしたもの、或いは不活性ガスによる冷却と水冷却とを組み合わせるようにしたものでもよい。
【0022】
上記した粉末クラッド製造ラインにおいて、前記冷却器7の出口に粉末クラッド5の張力を計測する張力計14を設ける。該張力計14は図1、図2に示すように、冷却器7の出口に、粉末クラッド5の長手方向に間隔を隔てて配置して粉末クラッド5に接触する固定ローラ15,16と、該固定ローラ15,16間に位置して粉末クラッド5を前記固定ローラ15,16間に押込むように移動させる移動ローラ17と、該移動ローラ17に粉末クラッド5の張力によってかかる荷重を検出する荷重計18とを備えている。図の例では、固定ローラ15,16の下面に接した粉末クラッド5を移動ローラ17により固定ローラ15,16間に押上げるようにしているが、固定ローラ15,16の上面に接するようにした粉末クラッド5を移動ローラ17により固定ローラ15,16間に押下げるようにしてもよい。
【0023】
前記張力計14の荷重計18によって検出される検出張力19は張力制御装置20に入力している。一方、加熱炉6内で一定温度に加熱している粉末クラッド5に作用させる張力を種々変化させた際における板1の伸びを計測する実験を予め実施し、これにより板1が幅縮みしない上限値を求め、幅縮みが発生しない或いは発生しても許容範囲内に収まるような張力設定値21を設定して張力制御装置20に予め入力している。この張力設定値21は、図3に示すように、所要の一定張力値幅Wをもたせて設定することができる。
【0024】
従って、前記張力制御装置20は、張力計14からの検出張力19が、加熱炉6内で加熱される粉末クラッド5の板1が許容範囲内の幅縮みに収まる張力設定値21に維持されるように、巻取機10に指令信号22を出力して巻取機10による巻取張力を制御するようにしている。
【0025】
ここで、例えば銅の板1の表面にリン銅粉末を圧着した粉末圧着材5aを加熱して粉末を融着させることによりリン銅ロウ材を備えた粉末クラッド5を製造する場合について説明する。リン銅粉末を融着するためには加熱炉6において粉末圧着材5aを730℃前後まで加熱する必要がある。一方、粉末圧着材5aを730℃前後まで加熱すると、融点が1083℃である銅の板1は軟化を生じる。この時、加熱された粉末クラッド5に作用する張力が例えば1.5kg/cm2程度以下に維持されていれば板1の幅縮みが大きく問題になることはないが、粉末クラッド5に掛る張力が変動して大きく増加した場合には板1が伸び、製造される粉末クラッド5の幅縮みが生じて目的の製品が製造できなくなる問題がある。
【0026】
ここで、前記張力制御装置20は、張力計14による検出張力19が加熱炉6内での加熱による粉末クラッド5の幅縮みが許容範囲内に収まる、例えば1.0〜1.5kg/cm2の張力設定値21に維持されるように、巻取機10による巻取張力を制御するので、張力変動によって板1が伸びて粉末クラッド5が大きく幅縮みするといった問題を確実に防止することができる。
【0027】
又、上記したように、加熱炉6内で加熱される粉末クラッド5の張力を張力設定値21に維持するようにしているので、粉末クラッド5が加熱炉6内部で垂れ下がって固定部材に接触することによりクラッド材5が傷付くといった問題を防止することができる。
【0028】
尚、上記において、加熱炉6の加熱により前記粉末クラッド5の板1が必要以上に軟化した場合には、圧延機8によって粉末クラッド5を所要の荷重で軽圧下することにより、加工硬化により板1の硬さを高めることができる。
【0029】
次に、上記図示例の作動を説明する。
【0030】
図1、2に示す粉末クラッド製造ラインにおいては、巻戻機3から板1を一定速度で巻き戻すようにした状態において、巻取機10により粉末クラッド5に所定の張力が作用するようにして巻き取る。
【0031】
この時、冷却器7出口において粉末クラッド5の張力を計測している張力計14からの検出張力19が張力制御装置20に入力され、更に張力制御装置20には加熱された粉末クラッド5の板1が許容範囲内の幅縮みに収まるように設定された張力設定値21が予め入力されているので、張力制御装置20は加熱炉6内の粉末圧着材5aに作用する張力が常に張力設定値21に維持されるように巻取機10に指令信号22を出力して巻取機10による巻取張力を制御する。
【0032】
ここで、粉末クラッド5を製造する板1と粉末の材料に応じて、加熱炉6での粉末の加熱融解時にクラッド材5が許容範囲内の幅縮みに収まるに収まる張力設定値21を予め実験によって求めて張力制御装置20に設定しておくことにより、種々の材料による粉末クラッド5を安定して製造することができる。
【0033】
従って、巻戻機3による板1の巻出し速度と巻取機10による巻取り速度を高めて、粉末クラッド5の製造速度を高めても、加熱炉6内で加熱された粉末クラッド5が引き伸ばされて幅縮みを生じたり或いは粉末クラッド5が垂れ下がって傷付くといった問題の発生を防止することができ、よって高品質の粉末クラッド5を安定して高能率に製造することができるようになる。
【0034】
なお、本発明の粉末クラッド製造ラインは上記形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明を実施する形態の一例としての粉末クラッド製造ラインの全体概要構成図である。
【図2】図1の部分詳細図である。
【図3】張力設定値の説明用線図である。
【図4】従来のクラッド材製造設備の一例を示す全体概要構成図である。
【図5】粉末クラッドが引き伸ばされて幅縮みを生じた状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 板
3 巻戻機
4 粉末圧延機
5 粉末クラッド
5a 粉末圧着材
6 加熱炉
7 冷却器
8 圧延機或いはピンチロール
10 巻取機
14 張力計
15,16 固定ローラ
17 移動ローラ
18 荷重計
19 検出張力
20 張力制御装置
21 張力設定値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻戻機から巻き出される板の表面に粉末圧延機により粉末を圧着して粉末圧着材を形成し、該粉末圧着材を加熱炉に導いて加熱することにより粉末を融解させて板に融着させることにより粉末クラッドを形成し、続いて粉末クラッドを冷却器で冷却し巻取機により巻き取る粉末クラッド製造ラインであって、加熱炉の下流に粉末クラッドの張力を計測する張力計を設置し、該張力計による検出張力が、加熱炉における加熱と張力の作用による板の幅縮みが許容範囲内に収まる張力設定値に維持されるように前記巻取機による巻取張力を制御する張力制御装置を備えたことを特徴とする粉末クラッド製造ライン。
【請求項2】
張力計は、粉末クラッドの長手方向に間隔を隔てて接触する固定ローラと、該固定ローラ間に配置して粉末クラッドを前記固定ローラ間に押込むように移動させる移動ローラと、該移動ローラにかかる荷重を検出する荷重計とからなることを特徴とする請求項1に記載の粉末クラッド製造ライン。
【請求項3】
加熱炉出側に、粉末クラッドの張力計、圧延機或いはピンチロール、巻取機の順に配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の粉末クラッド製造ライン。
【請求項4】
加熱炉内の粉末クラッドの張力を刻々計測して張力設定値と比較し、一定張力値幅に収まるように巻取機により粉末クラッドの張力一定制御を行うようにしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の粉末クラッド製造ライン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−121049(P2008−121049A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304868(P2006−304868)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】