説明

粒子状物質検出センサ

【課題】一対の電極間に堆積する粒子状物質の量によって変化する電気的特性を検出して被測定ガス中に含まれる粒子状物質の量を検出する粒子状物質検出センサの不感時間の安定化を図り、信頼性の高い粒子状物質検出センサを提供する。
【解決手段】被測定ガス導入孔201を検出部11に対向する位置であってに周方向に回転させた場合、該導入孔201の開口端縁を検出部11に投影したときに、11検出部において一対の検出電極110、120間に生じる電界強度が均一となる範囲の内側に位置するように穿設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両用内燃機関の排気浄化システムに好適に利用されて、被測定ガスとなる排出ガス中に存在する粒子状物質を検出する粒子状物質検出センサに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ディーゼルエンジン等において、排気ガスに含まれる環境汚染物質、特に煤粒子(Soot)及び可溶性有機成分(SOF)を主体とする粒子状物質(Particulate Matter;以下、適宜PMと称する)を捕集するために、排気通路にディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、適宜DPFと称する)を設置することが行われている。DPFは、耐熱性に優れる多孔質セラミックスからなり、多数の細孔を有する隔壁に排気ガスを通過させてPMを捕捉する。
【0003】
DPFは、PM捕集量が許容量を超えると、目詰まりが生じて圧力損失が増大したり、PMのすり抜けが増加したりする虞があり、定期的に再生処理を行って捕集能力を回復させている。
【0004】
DPFの再生時期は、一般的には、PM捕集量の増加により前後差圧が増大することを利用して決定されている。このため、DPFの上流及び下流の圧力差を検出する差圧センサが設置される。再生処理は、ヒータ加熱あるいはポスト噴射等により高温の燃焼排気をDPF内に導入し、PMを燃焼除去することによって行われる。
【0005】
一方、燃焼排気中のPMを直接検出可能な粒子状物質検出センサ(以下、適宜、PMセンサと称する。)について種々提案されている。このPMセンサを、例えばDPFの下流に設置して、DPFをすり抜けるPM量を測定し、車載式故障診断装置(OBD;On Board Diagnosis)において、DPFの作動状態の監視、例えば亀裂や破損といった異常の検出に利用することができる。
【0006】
あるいはDPFの上流に設置して、DPFに流入するPM量を測定し、差圧センサに代わる再生時期の判断に利用することも検討されている。
【0007】
このようなPMセンサの一例として、特許文献1には、絶縁性を有する基板の表面に、一対の導電性電極を形成し、基板の裏面又は内部に発熱体を形成した電気抵抗式のスモークセンサが開示されている。
このセンサは、スモーク(微粒炭素)が導電性を有することを利用したもので、検出部となる電極間に、スモークが堆積することで生じる抵抗値の変化を検出する。
発熱体は、検出部を所望の温度(例えば、400℃〜600℃)に加熱し、電極間抵抗を測定した後に、付着したスモークを焼き切って検出能力を回復させる。
【0008】
特許文献2には、長手軸方向に対して平行に検出電極を設けた検出素子に対して垂直方向に流れる被測定ガスを、複数のカバー体で検出素子を覆って検出素子の背面側から導入することにより、流れ方向を素子の軸方向に移動させて検出電極に対して平行となるように誘導して検出する検出装置及び検出方法が開示されている(特許文献2、fig1、fig2等参照)。
【0009】
特許文献3には、櫛歯状に形成された検出電極間に印加する電圧を可変とし、測定開始初期には高い電圧の印加により検出電極間の電界強度を高くし、PMの堆積速度を促進させ、不感時間の短縮を図り、不感時間経過後には低い電圧の印加により、検出電極間の電界強度を低くしてPMの堆積速度を低下させて、再生処理を必要とするまでの期間の延長を図っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、特許文献2にあるような複雑な経路では、PMを検出部に正しく誘導するための何らかの手段が必要となり、センサの構造が複雑化し、製造コストの増加を招く虞がある。
また、このような複雑な経路を介したのでは、PMが検出部以外に付着し、被測定ガス中のPM量を素早く、正確に検出することができない虞もある。
【0011】
さらに、櫛歯状に形成された検出電極間に電圧を印加すると電極の先端部は電界集中により電界強度が高くなり、リード部に直交するように接続された検出電極の根本部は電界強度が低くなり、検出電極間に電界強度が不均一となる部分が不可避的に発生する。
【0012】
このように電界強度に不均一な部分が存在すると、PMの堆積速度が一定とならず、不感時間にバラツキを生じることが判明した。特に、特許文献2にあるように、印加電圧を高くしてPMの堆積量の増加を図ろうとした場合に、このような電界強度の分布が生じていると、電界強度の高い部分にPMが堆積し易く、電界強度の低い部分との堆積量の差が拡大され、不感時間のバラツキが大きくなる虞があり、不感時間のバラツキが大きいと、その後の出力結果にも影響するためセンサとしての信頼性が損なわれる。
【0013】
さらに、従来、粒子状物質検出センサを被測定ガス流路に固定する際、周方向に対して検出素子の方向が特定されておらず、任意の方向からセンサ内に被測定ガスが導入されるよう、検出素子を保護するカバー体の側面に一定間隔で複数の開口を設けるのが一般的であり、被測定ガスの流れに対する検出素子の取付方向によってセンサ出力にバラツキを生じる虞があった。
【0014】
そこで、本発明は、係る実情に鑑み、簡易な構成により検出素子に設けた一対の電極間に堆積する粒子状物質の量によって変化する電気的特性を検出して被測定ガス中に含まれる粒子状物質の量を検出する粒子状物質検出センサの不感時間の安定化を図り、信頼性の高い粒子状物質検出センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の発明では、耐熱性基体の表面に所定の間隙を設けて対向する一対の検出電極を設けた検出部と、該検出部を保護しつつ被測定ガスを上記検出部へ導入する被測定ガス導入孔を設けたカバー体とを具備し、上記検出電極間に発生させた電界による静電気力を利用して上記検出部に被測定ガス中の粒子状物質を捕集し、上記検出電極間に堆積する粒子状物質の量によって変化する電気的特性を検出して、被測定ガス中の粒子状物質を検出する粒子状物質検出センサにおいて、
上記被測定ガス導入孔を周方向に回転させ、上記検出部に対向する位置とした場合、該導入孔の開口端縁を上記検出部に投影したときに、該検出部において上記一対の検出電極間に生じる電界強度が均一となる範囲の内側に位置するように穿設する(請求項1)。
【0016】
第1の発明によれば、上記被測定ガス導入から被測定ガスの流れによって運ばれた粒子状物質が上記検出部に誘導される際に、上記被測定ガス導入孔の開口端縁を投影した領域の外側に位置する上記検出電極間の電界強度が不均一な部分には到達し難くなり上記検出電極間の電界強度が均一な領域にのみ到達する。
このため、検出電極間の電界強度が高い部分への局所的な粒子状物質堆積が抑制され、不感時間の安定化と検出部への粒子状物質の過剰な堆積により再生処理を要するまでの時間の長期化を図ることができる。
【0017】
より具体的には、第2の発明では、上記一対の検出電極が、上記耐熱性基体の長手軸方向に平行となるように形成し外部に設けた検出回路部に接続する一対の検出電極リード部に対して直交方向に延設した複数の電極を交互に配設した一対の櫛歯状電極、又は、上記耐熱性基体の長手軸方向に平行となるように形成し外部に設けた検出回路部に接続する一対の検出電極リード部を直交方向に屈曲せしめ、該検出電極リード部に延設した複数の電極を上記耐熱性基体の長手方向に平行となるように交互に配設した一対の櫛歯状電極のいずれかであって、上記導入孔開口端縁の投影位置が、上記一対の検出電極の一方の先端部が他方の検出電極と上記検出電極リード部との接続部によって略コ字形に取り囲まれた領域よりも内側に位置するように上記被測定ガス導入孔を穿設し、複数の電極の直線部分が平行に並んだ領域に被測定ガスを誘導せしめる(請求項2)。
【0018】
第2の発明によれば、上記検出部の電界強度が均一となる領域の内側の領域に対向する位置に上記被測定ガス導入孔が開口しているので、該導入孔を通過して粒子状物質が被測定ガスの流れに沿って直進して上記検出部に到達する際に電界強度の均一な領域にのみ粒子状物質が堆積するので電界強度の不均一な領域で局所的な粒子状物質の堆積を起こしがたくなる。このため、不感時間の変動や、粒子状物質の局所的な偏在による導電経路の形成により早期に検出不能となるような誤作動が抑制される。
【0019】
また、第3の発明では、上記一対の検出電極が上記耐熱性基体の軸方向に対して平行に一定の間隙を隔てて対向し直線状に伸びる一つの平行電極であって該平行電極の相対向する内側を検出部とし、少なくとも上記一対の平行電極の一端を屈曲せしめて延設して平行電極の外側を通って外部に設けた検出回路部に接続する一対の検出電極リード部を具備し、上記導入孔開口端縁の投影位置が上記一対の平行電極の屈曲する部分と上記一対の検出電極リード部を除き上記一対の平行電極の直線部分を区画するように上記被測定ガス導入孔を穿設し、上記一対の平行電極の直線部分の端縁の内側に被測定ガスを誘導せしめる(請求項3)。
【0020】
第3の発明によれば、上記平行電極の直線部分の内側に形成された電界強度が均一となる領域にのみ被測定ガスが誘導されるので、センサの出力が安定し、信頼性の高い粒子状物質検出センサが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態における粒子状物質検出センサの概要を示し、(a)は、要部断面図、(b)は、要部拡大図、(c)は、本図(b)中A−Aに沿った矢視断面図。
【図2】本発明の第1の実施形態における粒子状物質検出センサに用いられる検出素子の概要を示す展開斜視図。
【図3】本発明の効果の説明に用いる検出部における等電位線と電気力線とを示す模式図。
【図4】本発明の効果の説明に用いる検出部における電界強度分布を示す模式図。
【図5】本発明の効果の説明に用いる検出部における電界ベクトルを有限要素法により解析した解析図。
【図6】比較例と共に本発明の効果を示し、(a)は、本発明の実施例として不感時間経過時における粒子状物質の堆積状態を示す模式図、(b)は、本発明の実施例として検出満了時における検出部全体の粒子状物質の堆積状態を示す模式図、(c)は、比較例における粒子状物質の堆積状態を示す模式図、(d)は、比較例として示す検出満了時における検出部全体の粒子状物質の堆積状態を示す模式図。
【図7】比較例と共に本発明の効果を示し(a)はセンサ出力の経時変化を示す特性図、(b)は、不感時間に対する効果の違いを示す特性図拡大図。
【図8】本発明の第1の実施形態における粒子状物質検出センサに用いられ検出素子の変形例を示し、(a)は要部拡大図、(b)は、断面図。
【図9】本発明の第2の実施形態における粒子状物質検出センサに用いられる検出素子の概要を示す展開斜視図。
【図10】本発明の第2の実施形態における粒子状物質検出センサの効果を説明するための模式図であって、(a)は、等電位線及び電気力線を示す模式図、(b)は、電界強度分布を示す模式図。
【図11】本発明の第3の実施形態における粒子状物質検出センサの概要を示し、(a)は要部平面図、(b)は、断面図。
【図12】本発明の第3の実施形態における粒子状物質検出センサの効果を示し、(a−1)、(b−1)、(c-1)は、断面模式図、(a-2)、(b−2)、(c−2)は側面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の粒子状物質検出センサ1は、内燃機関の排気浄化装置に適用されて、被測定ガス中に配設される検出部11に堆積する粒子状物質の量によって変化する電気抵抗や静電容量等の電気的特性を検出して、被測定ガス中に含まれる粒子状物質の検出に好適に利用されるものである。具体的には、DPFの下流に設置されて、DPFの異常検出に利用することができる。あるいは、DPFの上流に設置されて、DPFに流入する粒子状物質PMを直接検出するシステムに利用することもできる。
【0023】
図1、図2を参照して、本発明の第1の実施形態における粒子状物質検出センサ1並びに粒子状物質検出素子10の概要について説明する。
本発明の粒子状物質検出センサ1は、耐熱性基体100の表面に所定の間隙を設けて対向する一対の検出電極110、120を設けた検出部11と、検出部11を保護しつつ被測定ガスを検出部11へ導入する被測定ガス導入孔201を設けたカバー体20とを具備し、検出電極110、120間に発生させた電界による静電気力を利用して検出部11に被測定ガス中の粒子状物質を捕集し、検出電極110、120間に堆積する粒子状物質の量によって変化する電気的特性を検出して、被測定ガス中の粒子状物質を検出する粒子状物質検出センサである。
なお、本発明において、検出回路部が検出する電気的特性としては、検出電極110、120間に堆積する粒子状物質の量に応じて変化する電気抵抗を検出するものでも、静電容量の変化を検出するものでも、検出素子のインピーダンスの変化を検出するものであっても良い。
本発明の粒子状物質検出センサ1は、被測定ガス導入孔201を周方向に回転させ、検出部11に対向する位置とした場合に、導入孔201の開口端縁を検出部11に投影したときに、検出部11において一対の検出電極110、120間に生じる電界強度が均一となる範囲の内側に位置するように穿設したことを特徴とするものである。
図1(a)に示すように、粒子状物質検出センサ1は、粒子状物質検出素子10と粒子状物質検出素子10の検出部11を被測定ガス400中に保持固定するセンサ固定部30と、粒子状物質検出素子10を保護するカバー体20とによって構成されている。
粒子状物質検出素子10は、略平板状に形成された耐熱性基体100の表面に所定の間隙を隔てて対向する一対の検出電極110、120が形成されている。
本実施形態においては、図1、図2に示すように、検出電極110、120は、耐熱性基体100の長手軸方向に平行となるように形成し外部に設けた検出回路部に接続する一対の検出電極リード部111、121を直交方向に屈曲せしめ、該検出電極リード部に延設した複数の電極110、120を上記耐熱性基体の長手方向に平行となるように交互に配設した一対の櫛歯状電極によって形成されている。
さらに、耐熱性基体100の表面側には、検出リードを保護すると共に、検出部11以外への粒子状物質の堆積を抑制する絶縁性保護層13が形成されている。
また、検出部11の裏面側に積層して、耐熱性基体101の表面又は内部に形成した発熱体140と発熱体140に接続して一対の発熱体リード部141a、141bが形成され、さらに発熱体リード部141a、141bに接続してスルーホール電極142a、143bが耐熱性基体101を貫通するように形成され、さらに、スルーホール電極142a、143bに接続して一対の発熱体電極端子部143a、143bが形成され、さらに発熱体電極端子部143a、143は、外部に設けた図略の通電制御装置に接続されている。
【0024】
粒子状物質検出素子10は、絶縁性材料を用いて略筒状に形成したインシュレータ310を介して、センサ固定部30を構成し、金属材料を用いて略筒状に形成したハウジング300の内側に保持され、ハウジング300の外周部に設けたネジ部302によって被測定ガス流路40に螺結され、検出部11が被測定ガス400内に晒されている。
ハウジング300の先端側には、検出部11を覆うカバー体20が固定され検出素子10への被水や飛び石の衝突による素子の破損を防止している。
カバー体20は、金属材料からなり、有底筒状に形成されたカバー体基体200と、この内外を連通するように穿設した開口部(201、202、203,204)及び、フランジ部205によって構成されている。
カバー体基体200の側面には、本発明の要部である被測定ガス導入孔201が検出素子10の検出部11に対向する位置において所定の範囲が開口するように穿設されている。カバー体20に基端側には外径方向に鍔状に張り出すカバー体フランジ部205が設けられ、ハウジング300の先端に設けた加締め部301によって加締め固定されている。
【0025】
本発明の要部である被測定ガス導入孔201は、導入孔201の開口端縁を検出部1に投影したときに、一対の検出電極110、120の一方の先端部が他方の検出電極120、110と検出電極リード部121、111との接続部によって略コ字形に取り囲まれた領域よりも内側に位置するように穿設されている。
より、具体的には、本図(b)に示すように、検出素子10の長手軸方向に対して平行に伸びる検出電極リード部111、121間の距離、即ち、検出素子10の長手軸方向に垂直な方向における検出部の横幅W11及び最上端の検出電極110、120と最下端の検出電極110、120との間の距離、即ち、検出素子10の長手軸方向の縦幅L11によって区画された範囲よりも、導入孔201の開口端縁を投影した横幅W201及び縦幅L201によって区画された領域が狭くなっており、複数の検出電極110、120の直線部分が平行に並んだ領域のみが被測定ガス400に対して対向するようになっている。
さらに、本図(c)に示すように、カバー体20の側面の検出素子10の側端縁の両側に対して、被測定ガス導入孔201から導入された被測定ガスを排出する導出孔202が穿設され、検出素子10の背面側には、カバー体20内外の圧力を調整するように被測定ガスを導入又は導出する圧力調整孔204が穿設され、カバー体20の底面には、被測定ガスを先端方向へ向かって排出する導出孔203が穿設されている。
【0026】
図3〜図5を参照して本発明の作動原理について説明する。
図3は、本発明の第1の実施形態における粒子状物質検出センサ1に用いられる検出素子10の検出電極110、120間に所定の電圧+Vを印加したときに発生する電界の等電位線及び電気力線を模式的に示すものであり、図4は、電界強度分布を模式的に示すものであり、図5は、有限要素法によって解析した電界解析図である。
なお、図3、4は、二次元ラプラス方程式(∂U/∂x+∂U/∂y=0)を差分法により解いたシミュレーション結果に基づくものである。
図3、図4に示すように、電圧+Vの印加される検出電極110の先端からGNDに接地される検出電極120に向かって電位が徐々に低下するように電界が形成され、検出電極110の先端部とその周囲を略コ字形に覆うように対向する検出電極120と検出電極リード部121とが接続された根本部との間では、検出電極110の先端から検出電極120に向かって電界ベクトルが放射状に広がるように形成され、検出電極110の先端部の電界強度が最も高くなり、検出電極120と検出電極リード部121とが屈曲するように接続された根本部の電界強度が最も低くなり、検出電極120の先端部とその周囲を略コ字形に覆うように対向する検出電極110と検出電極リード部111とが接続された根本部との間では、電界ベクトルが検出電極110から検出電極120の先端部に向かって逆扇形に収束するように形成され、検出電極110の直線部分と検出電極120の直線部分とが平行に並んで対向する領域では、電界ベクトルが検出電極110、120の端縁に直交するように向かい、電界強度が均一となっている。
さらに、本発明の要部であるカバー体20に設けた被測定ガス導入孔201の開口端縁を検出部11に投影した領域は、電界強度が均一となる領域の内側となっている。
このため、被測定ガス導入孔201からカバー体20内に被測定ガスと共に導入された粒子状物質は、直進して、検出電極110、120間の電界強度が均一な領域に到達し、電界からの静電引力によって捕集され検出電極110、120間に堆積する。
このとき、検出電極110、120間の電界強度が均一であるので、粒子状物質の堆積量も均一となることが判明した。
またカバー体20を組み付ける際に被測定ガス導入孔201が検出部11に正対する位置からずれたり、被測定ガス流路40に粒子状物質検出センサ1を組み付ける際に検出部11が被測定ガス400の流れに対して正対しない角度で周方向に回転した位置にずれたりした場合であっても、本発明の第1の実施形態によれば、少なくとも、検出部11に発生する電界強度不均一領域への流れが阻止されるので、周方向の取り付け位置を気にせずとも安定した粒子状物質の検出を行うことができると期待される。
【0027】
図6を参照して本発明の効果について説明する。
図6(a)は、本発明の第1の実施形態における実施例を示し、検出電極110、120間に粒子状物質が堆積し始めて検出電極110、120に導通が形成され、センサ出力が検出されるようになる不感時間を経過した時点において粒子状物質が堆積した状態を示す模式図である。
本図に示すように、本発明の実施例においては、検出電極110の直線部分の端縁に沿うように均一に粒子状物質が堆積している。
さらに、一定時間経過後に検出部11全体に粒子状物質が堆積し、飽和した状態となりセンサ出力が上限に達した状態では、本図(b)に示すように、被測定ガス導入孔201の開口端縁を投影した領域に一致するように検出電極110、120間に一様に粒子状物質が堆積している。
一方、被測定ガス導入孔を検出部11の範囲よりも大きく穿設した場合を比較例として本図(c)、(d)に示す。
本図(c)に示すように、不感時間経過時においては、検出電極110の先端近傍に集中できに粒子状物質が局所的に堆積しており、その分布は電界強度の分布と一致している。さらに、比較例では、センサの出力が一定以上となり飽和状態と判断される状態においても本図(d)に示すように、検出電極110、120の先端部と検出電極リード部121、111とが対向する領域には多くの粒子状物質が堆積し、検出電極110、120の直線部分が平行に並んだ領域には、粒子状物質が堆積していない部分が多く残っている。
これは、検出電極110、120間の電界強度の高い部分に集中的に粒子状物質が堆積して、早期に検出電極110、120間の抵抗値が低下して、検出上限を超えたためと推察される。
【0028】
図7を参照して本発明の効果を確認するために行った試験結果について説明する。
図7(a)は、本発明の実施例と比較例とにおいて一定量の粒子状物質を含む被測定ガスを検出したときのセンサ出力の経時変化を示す特性図、(b)は、不感時間の差を詳細に示す拡大図である。
本図(a)に示すように、本発明の実施例では、センサの出力の上昇速度は遅く、出力バラツキも小さく、再生処理を要するまでの時間も長い。
一方、比較例では、センサの出力の上昇速度が速く、出力バラツキも大きく、再生処理を要するまでの時間も短いことが判明した。
また、本図(b)に示すようにセンサ出力が検出されるようになるまでの不感時間は、本発明の方が遅くなるがバラツキは小さく不感時間が一定である。一方、比較例では早期にセンサ出力が検出されるがバラツキが大きく不感時間が一定でない。
これは、上述したように、本発明によれば、電界強度の均一な領域のみに粒子状物質が誘導されるので出力の安定化を図ることが可能となり、また、検出電極110、120の直線部分が平行に並んだ領域に粒子状物質が均一に堆積するため、センサ出力が検出されるまでの時間が遅くなると推察される。
さらに、比較例においては、検出電極110、120間の電界強度の高い部分に局所的に粒子状物質が堆積し早期にセンサ出力が検出されるが、電界強度が不均一な領域への堆積であるため、バラツキが大きくなるものと推察される。
また、粒子状物質の局所的な堆積により、早期に抵抗値の低い導通経路が形成され、センサの検出限界に達してしまうものと推察される。
【0029】
図8(a)、(b)を参照して本発明の第1の実施形態における粒子状物質検出センサ1aの変形例として用いられる検出素子10aについて説明する。なお、上記実施形態と同様の構成については同じ符号を付したので説明を省略する。
上記実施形態においては、検出素子10として、検出電極110、120が検出素子10の長手軸方向に平行となるように配設された例を示したが、本実施形態に示す粒子状物質10aのように、検出電極110a、120aが検出素子10aの長手軸方向に直交する方向に並んだものを用いても良い。この場合においても、カバー体20aの被測定ガス導入孔201aは、粒子状物質検出素子10aの検出部11に対向する位置において、開口部端縁を投影した位置が検出部11aの特定の領域内に位置するように設けられる。
粒子状物質検出素子10では、耐熱性基体100の長手軸方向に平行となるように形成され、外部に設けた図略の検出回路部に接続する一対の検出電極リード部111、121aを直交方向に屈曲せしめ、検出電極リード部111a、121aに延設した複数の検出電極110a、120aを耐熱性基体100の長手方向に平行となるように交互に配設した一対の櫛歯状電極によって形成してある。
さらに、本実施形態においても、上記実施形態と同様、導入孔201aの開口端縁の投影位置が、一対の検出電極110a、120aの一方の先端部が他方の検出電極120a、110aと検出電極リード部121a、111aとの接続部によって略コ字形に取り囲まれた領域よりも内側に位置するように被定ガス導入孔201ahが穿設され、複数の検出電極110a、120aの直線部分が平行に並んだ領域のみが被測定ガスに対向するようになっている。
本実施形態においても、電界強度の均一な領域のみが被測定ガス導入孔201に対向しているので、検出電極110a、120aの電界強度が均一な部分に直線的に衝突した粒子状物質が当該領域に捕集され堆積し、上述と同様の効果が発揮される。
【0030】
図9を参照して、本発明の第2の実施形態における粒子状物質検出センサ1bについて説明する。
上記実施形態においては、検出素子10、10aとして検出電極をいわゆる櫛歯状に形成した場合について説明したが、本実施形態においては、検出素子10bとして、一対の検出電極110b、120が耐熱性基体100の軸方向に対して平行に一定の間隙を隔てて対向し直線状に伸びる一つの平行電極110b、120bであって平行電極110b、120bの相対向する内側を検出部11bとした場合について説明する。
本図に示すように、一対の平行電極110b、120bの一端を屈曲せしめて延設して平行電極110b、120bの外側を通って外部に設けた図略の検出回路部に接続する一対の検出電極リード部111b、121bと、他端に配設して一対の平行電極110b、120bを直列に接続する受動素子15として所定の抵抗値を有する抵抗素子、又は、所定の静電容量を有する容量素子のいずれかを具備し、導入孔開口端縁201bの投影位置が一対の平行電極110b、120bの屈曲する部分と一対の検出電極リード部111b、121bと受動素子15の接続する部分を除き一対の平行電極110b、120bの直線部分を区画するように被測定ガス導入孔201bが穿設して、一対の平行電極110b、120bの直線部分の内側の端縁を被測定ガス400に対向させている。
【0031】
本実施形態によれば、図10(a)、(b)に示すように、上記実施形態と同様被測定ガス導入孔201bの開口端縁を投影した位置が、平行電極110b、120bが直線状に伸び、平行に並んで対向し、電界強度が均一となる領域を区画しているので、当該領域にのみ粒子状物質が誘導され、捕集堆積するので、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
さらに本実施形態においては、検出部11bに粒子状物質が堆積していない状態において受動素子15を介して一対の平行電極110b、120bが直列に接続した状態となっているので、受動素子15の抵抗値又は静電容量を検出することにより粒子状物質検出センサ1の断線の有無を検出することも可能となりさらに信頼性の高い粒子状物質検出センサが実現できる。
【0032】
上記実施形態においては、カバー体として、一層のみを用いる構成を示したが、カバー体を同心に2重、3重に設けても良い。
さらに、カバー体を複数設けることによって、検出素子が載置される環境の温度変化を抑制し、粒子状物質検出センサのセンサ出力の安定化を図ることも期待できる。
なお、このような場合において、被測定ガスの導入流経路を複雑にすると、被測定ガスの流速が過剰に低下し、被測定ガス導入孔から検出部に向かって直進せず、電界強度の高い領域に引き込まれ易くなり、本発明の効果が低下する虞がある点に留意しなければならない。
【0033】
図11、図12を参照して、本発明の第3の実施形態について説明する。
上記実施形態においては、被測定ガス201を検出部11に対して正対させたときに、導入孔201の開口端縁を投影した領域が電界強度均一領域内に収まるように、導入孔201を1つ穿設した例を示したが、本実施形態においては、図11に示すように、第1の実施形態と同様に検出素子10cの長手軸方向に対して検出電極110、120が平行となるように設けたのに加えて、開口長L201cを検出部11の縦幅L11に対して十分小さくすると共に、複数(n個)の導入孔201cをカバー体20cの周方向に対して等間隔で穿設した点が相違する。
このような構成とすることにより、検出部11が被測定ガスの流れに対して正対するときは当然のことながら、図12(a−1)に示すように、被測定ガスの流れに対して検出部11cが裏面側となるように組み付けられたとしても、検出素子10の裏面側から導入された被測定ガスが検出素子10の裏面に衝突して、渦を発生させながら検出部11側に巻き込まれ、検出部11に堆積する。
このとき、図12(a―2)に示すように、導入孔201cの開口長L201cが検出部11の縦幅L11に対して十分小さいので、電界強度不均一領域には被測定ガスが流れず、電界強度均一領域のみに誘導され、第1の実施形態と同様に、センサの出力を安定させることができる。
また、本図(b−1)に示すように、検出素子10が被測定ガスの流れに対して周方向に斜めに回転して配設された状態であっても、本図(b−2)に示すように、電界強度均一領域にのみ被測定ガスが誘導される。
さらに、本図(c−1)に示すように、検出素子10が、被測定ガスの流れに略平行となるように配設された場合であっても、本図(c−2)に示すように、電界強度不均一領域の周囲を被測定ガスが通過することがなく、検出部11の電界強度均一領域を通過する際に、検出電極110、120間に発生する電界によって粒子状物質が引き寄せられ、検出部11の電界強度均一領域にのみ堆積する。
以上のように、本実施形態によれば、検出部11が任意の周方向の角度で配設された場合であっても、本発明の効果が発揮できる。
加えて、本実施形態は、上記第1の実施形態の変形例として示した粒子状物質検出センサ1aのように、検出素子10aの長手軸方向に対して検出電極110a、120aを直交するように設けた場合には採用できないが、上記第2の実施形態における粒子状物質検出センサ1bにも適用採用可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 粒子状物質検出センサ
10 粒子状物質検出素子
100 絶縁性基体
11 検出部
110、120 検出電極
111、121 検出電極リード部
112、122 検出電極端子部
13 絶縁保護層
14 ヒータ部
140 発熱体
141a、141b 発熱体リード部
142a、142b
20 カバー体
201 粒子状物質導入孔
202、203、204 被測定ガス導出孔
205 カバー体フランジ部
30 センサ固定部
300 ハウジング
301 カバー体加締め部
302 ネジ部
310 インシュレータ
40 被測定ガス流路
400 被測定ガス
【先行技術文献】
【特許文献】
【0035】
【特許文献1】特開昭59−197847号公報
【特許文献2】独国特許出願DE102006015385号明細書
【特許文献3】特表2008−502892号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性基体の表面に所定の間隙を設けて対向する一対の検出電極を設けた検出部と、該検出部を保護しつつ被測定ガスを上記検出部へ導入する被測定ガス導入孔を設けたカバー体とを具備し、
上記検出電極間に発生させた電界による静電気力を利用して上記検出部に被測定ガス中の粒子状物質を捕集し、上記検出電極間に堆積する粒子状物質の量によって変化する電気的特性を検出して、被測定ガス中の粒子状物質を検出する粒子状物質検出センサにおいて、
上記被測定ガス導入孔を上記検出部に対向する位置に周方向に回転させ、該導入孔の開口端縁を上記検出部に投影したときに、該検出部において上記一対の検出電極間に生じる電界強度が均一となる範囲の内側に位置するように穿設したことを特徴とする粒子状物質検出センサ。
【請求項2】
上記一対の検出電極が、上記耐熱性基体の長手軸方向に平行となるように形成し外部に設けた検出回路部に接続する一対の検出電極リード部に対して直交方向に延設した複数の電極を交互に配設した一対の櫛歯状電極、又は、上記耐熱性基体の長手軸方向に平行となるように形成し外部に設けた検出回路部に接続する一対の検出電極リード部を直交方向に屈曲せしめ、該検出電極リード部に延設した複数の電極を上記耐熱性基体の長手方向に平行となるように交互に配設した一対の櫛歯状電極のいずれかであって、
上記導入孔開口端縁の投影位置が、上記一対の検出電極の一方の先端部が他方の検出電極と上記検出電極リード部との接続部によって略コ字形に取り囲まれた領域よりも内側に位置するように上記被測定ガス導入孔を穿設し、複数の電極の直線部分が平行に並んだ領域に被測定ガスを誘導せしめた請求項1に記載の粒子状物質検出センサ。
【請求項3】
上記一対の検出電極が上記耐熱性基体の軸方向に対して平行に一定の間隙を隔てて対向し直線状に伸びる一つの平行電極であって、
少なくとも、該平行電極の相対向する内側を検出部とし、上記一対の平行電極の一端を屈曲せしめて延設して平行電極の外側を通って外部に設けた検出回路部に接続する一対の検出電極リード部を具備し、
上記導入孔開口端縁の投影位置が上記一対の平行電極の屈曲する部分と上記一対の検出電極リード部とを除き上記一対の平行電極の直線部分を区画するように上記被測定ガス導入孔を穿設し、
上記一対の平行電極の直線部分の端縁の内側に被測定ガスを誘導せしめた請求項1に記載の粒子状物質検出センサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−93287(P2012−93287A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242138(P2010−242138)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】