説明

粒状複合炭素材料およびその製造方法、ならびにリチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池

【課題】水系結合剤を用いる場合において、良好な充放電特性とサイクル特性、特に優れた急速充放電効率を発揮できるリチウムイオン二次電池用負極材料とその製造方法、該負極材料を含むリチウムイオン二次電池用負極、および該負極を用いたリチウムイオン二次電池の提供。
【解決手段】黒鉛質物を含有する粒状炭素材料の少なくとも一部に、親水性気相成長炭素繊維が付着した粒状複合炭素材料。該粒状複合炭素材料を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料およびリチウムイオン二次電池。また、親水性気相成長炭素繊維を、黒鉛質物を含有する粒状炭素材料に、機械的エネルギーを付与して付着させる粒状複合炭素材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に水系結合剤を用いて負極を作製した場合であっても、急速充放電が可能なリチウムイオン二次電池を得ることができるリチウムイオン二次電池用負極材料として好適な粒状複合炭素材料とその製造方法、該粒状複合炭素材料を含むリチウムイオン二次電池用負極材料、該リチウムイオン二次電池用負極材料を含むリチウムイオン二次電池用負極、および該負極を用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化あるいは高性能化に伴い、電池の高エネルギー密度化に対する要望はますます高まっている。このような状況のなか、エネルギー密度が高く、高電圧化が可能な電池としてリチウムイオン二次電池が注目されている。リチウムイオン二次電池は、正極、負極、電解液を主要構成要素としており、該負極は、一般的に、負極材料と、負極材料同士および負極材料と集電体とを結着させるための結合剤とからなる負極合剤ペーストを調製し、該ペーストを銅箔などの集電体の上に塗布し、プレスして作製される。
【0003】
負極材料としては、充放電特性に優れる黒鉛が多用されている。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛粒子(特許文献1)、タールやピッチなどを原料としたメソフェーズピッチやメソフェーズ小球体などを熱処理して得られるメソフェーズ系黒鉛質粒子(特許文献2、特許文献4)、黒鉛の表面を有機化合物で被覆し熱処理してなる複合系黒鉛質粒子(特許文献3)、および、リチウムと合金を形成する金属と黒鉛を含有する複合系黒鉛質粒子(特許文献4)などが挙げられる。
【0004】
結合剤の分散媒には有機溶媒と水系溶媒とがあり、結合剤の種類に応じて選択されるが、環境面、安全面、コスト面などの観点から、水系溶媒、したがって水系結合剤の使用が望ましい。しかし、水系溶媒を用いた場合には、負極材料が本来有する性能、特に急速充放電効率を充分に引き出せない場合が多々ある。
黒鉛は比較的、水に馴染みにくいため、黒鉛に水系結合剤を配合すると、黒鉛の親水性を有する部分に選択的に水系結合剤が付着するものと推測される。黒鉛の親水性を有する部分は、充放電サイトであるエッジ部分と考えられており、その部分を水系結合剤が覆うことによって、急速充放電効率が損なわれたものと推測される。すなわち、一般の水系結合剤は、カルボキシメチルセルロースやスチレン−ブタジエンゴムなど、電子伝導やイオン伝導に寄与しないものであり、これらが黒鉛のエッジ部分に選択的に多く付着すると、リチウムイオンの動きを阻害してしまうものと考えられる。
特に、メソフェーズ小球体の黒鉛化物は、粒子表面に露出する黒鉛エッジ面が少なく、電解液の分解反応が抑制され、優れた初期充放電効率を有するなどの特徴があるものの、その反面、水系結合剤を配合した場合には、少ないエッジ面を水系結合剤が覆ってしまうため、急速充放電効率が大きく低下する。
【0005】
本発明者らは、先に、メカノケミカル処理により親水化した黒鉛質粒子を負極材料の主原料に用いることを提案した(特許文献5)。これによれば、水系結合剤を用いた場合であっても、リチウムイオン二次電池の急速充放電効率を格段に向上させることができた。しかし、水系結合剤を用い、充放電の電流値を高く設定した場合には、有機結合剤、すなわち、有機溶媒を分散媒とした結合剤であるポリフッ化ビニリデンを用いたときに比べて、急速充放電効率が劣ることがあり、充放電効率のさらなる改良が望まれていた。
【特許文献1】特公昭62−23433号公報
【特許文献2】特開平5−290833号公報
【特許文献3】特開平4−368778号公報
【特許文献4】特開平5−286763号公報
【特許文献5】特開2003−132889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記のような状況を鑑みてなされたものであり、水系結合剤を用いる場合において、良好な充放電特性とサイクル特性、特に優れた急速充放電効率を発揮できるリチウムイオン二次電池用負極材料として好適な粒状複合炭素材料とその製造方法、該粒状複合炭素材料を含むリチウムイオン二次電池用負極材料、該リチウムイオン二次電池用負極材料を含むリチウムイオン二次電池用負極、および該負極を用いたリチウムイオン二次電池を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、黒鉛質物を含有する粒状炭素材料の少なくとも一部に、親水性気相成長炭素繊維が付着した粒状複合炭素材料である。
【0008】
本発明の粒状複合炭素材料において、前記親水性気相成長炭素繊維は、気相成長炭素繊維に金属酸化物の粒子が付着したものであることが好ましい。
【0009】
本発明の粒状炭素材料において、前記金属酸化物は、シリカ、アルミナおよびチタニアから選ばれる1種または2種以上であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、親水性気相成長炭素繊維を、黒鉛質物を含有する粒状炭素材料に、機械的エネルギーを付与して付着させることを特徴とする粒状複合炭素材料の製造方法である。
【0011】
また、本発明は、前記いずれか一つの粒状複合炭素材料を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料である。
【0012】
また、本発明は、前記リチウムイオン二次電池用負極材料を含むリチウムイオン二次電池用負極である。
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、前記リチウムイオン二次電池用負極材料と水系結合剤を含むことが好ましい。
【0014】
また、本発明は、前記のリチウムイオン二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の粒状複合炭素材料は、黒鉛質物を含む粒状炭素材料の少なくとも一部に、親水性気相成長炭素繊維が付着しているので、濡れ性などの表面特性が改善されている。負極の結合剤として、有機溶剤系はもちろんのこと、水系溶剤を用いた場合にも、高い急速充放電効率、優れたサイクル特性を有し、放電容量、初期充放電効率についても高い値を有するリチウムイオン二次電池が得られる。そのため、本発明のリチウムイオン二次電池は、近年の高エネルギー密度化に対する要望を満たし、搭載する機器の小型化および高性能化に有効であるほか、さらに、製造過程において、環境面、安全面にも寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明をより具体的に説明する。
本発明の粒状複合炭素材料は、黒鉛質物を含有する炭素材料の粒子の少なくとも一部に、親水性気相成長炭素繊維が付着したものである。
(親水性気相成長炭素繊維)
親水性気相成長炭素繊維は、親水化処理を施した気相成長炭素繊維を言う。親水性気相成長炭素繊維を用いることにより、リチウムイオン二次電池用負極を作製したときに、結合剤、特に水系結合剤が親水性気相成長炭素繊維を覆うか、または親水性気相成長炭素繊維に含浸して介在し、粒状複合炭素材料同士および粒状複合炭素材料と集電体とを強固に結着する。同時に、粒状複合炭素材料に含まれる黒鉛質物(特に黒鉛質物のエッジ面)を結合剤によって完全に被覆することがないため、リチウムイオンの黒鉛質物の層間への挿入、離脱(イオン伝導性)を阻害しない。さらに、結合剤の中に親水性気相成長炭素繊維が介在することによって、粒状複合炭素材料同士および粒状複合炭素材料と集電体との間で導電性が保たれ、高い電子伝導性を有する。
【0017】
本発明において、親水性気相成長炭素繊維の親水性は、該炭素繊維を水中に入れて分散させた後、懸濁状態から該炭素繊維が沈降するまでの時間により判断する。例えば、親水性気相成長炭素繊維0.1gを10mlの脱イオン水に入れ、超音波を約1分間印加して分散させた後、24時間以上放置しても沈降分離せずに懸濁状態を維持していれば、親水性ありと判断する。親水性を有しない炭素繊維は、通常数時間以内に沈降分離する。
【0018】
(気相成長炭素繊維)
親水性気相成長炭素繊維は、気相成長炭素繊維を後述する親水化処理を施して作製される。気相成長炭素繊維としては、カーボンナノチューブとカーボンナノファイバーが好ましく、特に黒鉛化度が高いものや構造欠陥の少ないものが、導電性の点から好ましい。
気相成長炭素繊維は、鉄、コバルト、ニッケルなどの金属を触媒に用いて、一酸化炭素や炭化水素などの炭素源物質を分解して生成される。特に炭素源物質として一酸化炭素を用いた場合には、高黒鉛化度の気相成長炭素繊維が生成されるので好ましい。該炭素繊維は、用途に応じて、洗浄、精製、熱処理などを受ける。例えば、2800℃以上の温度で熱処理すれば、黒鉛化度を上げ、同時に触媒金属を除去することができるので好ましい。
【0019】
また、気相成長炭素繊維の直径は500nm以下、特に5〜300nm、さらには20〜200nmであることが好ましい。直径が大きくなると、結合剤を気相成長炭素繊維の周辺に取り込むことが難しくなったり、導電性の向上効果が小さくなるなどの問題がある。また、該炭素繊維の直径に対する長さの比(アスペクト比)は、好ましくは3以上、より好ましくは3〜1000、さらに好ましくは10〜300である。なお、直径およびアスペクト比は、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡で観察し、複数(100本)について、直径と長さを計測し、算術平均して求める。
【0020】
(親水性気相成長炭素繊維の製造方法)
気相成長炭素繊維を親水化する方法としては、該炭素繊維の表面で、親水性モノマーを湿潤状態にし電解重合する方法、該炭素繊維を有機過酸化物で処理する方法、活性炭素繊維の紙に、酸化剤、酸、塩基、アミンなどの添着剤の水溶液と界面活性剤の混和物を散布または浸漬する方法、気相成長炭素繊維を硝酸、硫酸、過塩素酸で処理する方法、気相成長炭素繊維をオゾン、硝酸ガスなどで処理する方法、気相成長炭素繊維をコロナ処理またはプラズマ処理する方法などが挙げられる。しかし、これら公知の方法は、いずれも、高価な薬剤、高腐食性または毒性を有する酸、または励起プロセスを含む高価な装置を必要としており、実用化するためには多大なコスト削減が必要である。
【0021】
本発明における好適な親水化方法は、気相成長炭素繊維の表面に、金属酸化物の粒子を付着させるという簡単な方法であり、極めて低コストの親水化方法である。すなわち、気相成長炭素繊維と金属酸化物の粒子を、水または界面活性剤を含有する水や、アセトン、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、ピリジン、キノリン、ピロリドンなどの有機溶媒などの液状媒体に分散させ、その後、液状媒体を蒸発などにより除去すれば、気相成長炭素繊維の少なくとも一部に、金属酸化物の粒子が付着したものが得られる。該媒体に気相成長炭素繊維と金属酸化物の粒子を分散させる際に、超音波を印加すると、より短時間集で均一分散させることができるので、好ましい。
【0022】
本発明における金属酸化物は、好ましくはシリカ、アルミナおよびチタニアから選ばれる1種または2種以上である。より好ましいのはアルミナである。特に好ましいのは、気相法で製造された金属酸化物である。金属酸化物は粒子状で本発明に使用される。その平均粒子径は好ましくは100nm以下、より好ましくは1〜50nm、さらに好ましくは5〜40nmである。100nmを超えると分散性が悪くなり、充分な親水性が得られないことがある。また、前記粒子は凝集していない一次粒子であることが好ましい。一次粒子が凝集した二次粒子も、その平均粒子径が100nmを超えない限り、混入していても差し支えない。金属酸化物の粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡で観察し、複数(50個)について粒子径を計測し、算術平均して求める。
金属酸化物と気相成長炭素繊維との混合割合は、質量比で1:99〜50:50、好ましくは3:97〜20:80である。この割合で金属酸化物を混合させることにより、気相成長炭素繊維を親水化することが可能となる。
【0023】
(黒鉛質物を含有する粒状炭素材料)
本発明に使用される粒状炭素材料は、粒状炭素材料の全体または一部が黒鉛質物からなり、これ自体でリチウムイオン二次電池の負極材料として作用するものである。他の炭素材料(非晶質ハードカーボンなど)、有機物、金属または金属化合物との混合物、付着物、集合物、造粒物、被覆物、積層物であってもよい。また、本発明に使用される粒状炭素材料は、液相、気相、固相における各種化学的処理、熱処理、酸化処理や機械的処理を施したものでもよい。形状も粒状であればよく、球状、楕円状、鱗片状、板状などのいずれでもよい。
【0024】
粒状炭素材料としては、高い放電容量を得る観点から、結晶性の高いものが好ましい。すなわち、X線広角回折における炭素網面層の格子面間隔d002 で0.34nm未満、好ましくは0.337nm以下であることが好ましい。なお、格子面間隔d002 は、CuKα線をX線源、高純度シリコンを標準物質に使用して、粒状炭素材料の(002)回折ピークを測定し、そのピーク位置よりd002 を算出する。算出方法は学振法(日本学術振興会第117委員会が定めた測定法)に従うものであり、具体的には、「炭素繊維」(大谷杉郎著、733−742頁(1986年3月)、近代編集社)などに記載された方法によって測定した値である。
【0025】
粒状炭素材料の平均粒子径は特に限定されないが、負極の厚みなどにより調整される。一般的には1〜100μm、好ましくは5〜40μmである。平均粒子径はレーザー回折式粒度分布計を用いて測定した粒度分布の累積度数が体積百分率で50%となる粒子径である。
粒状炭素材料の比表面積は、大きすぎると初期充放電効率の低下やリチウムイオン二次電池の安全性の低下を招くので、好ましくは20m2/g以下であり、より好ましくは0.1〜5m2/gである。比表面積の測定は窒素ガス吸着BET法による。
また、粒状炭素材料の真比重は、高い放電容量を得る観点から2.2以上であることが好ましい。真比重はブタノールを溶媒に用いた液相置換法により測定する。
【0026】
本発明に使用される粒状炭素材料として、具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛粒子、石油系または石炭系のタールまたはピッチを加熱して得られるメソフェーズ焼成炭素(バルクメソフェーズ)、メソフェーズ小球体、コークス類(生コークス、グリーンコークス、ピッチコークス、ニードルコークス、石油コークスなど)を2500℃以上の温度で熱処理して得られた黒鉛質物が挙げられる。
なかでも、本発明の主目的である水系結合剤を用いた場合の急速充放電効率を向上させるという観点からは、メソフェーズ小球体の黒鉛質物が好ましい。
【0027】
(粒状複合炭素材料)
本発明の粒状複合炭素材料は、粒状炭素材料の表面に、親水性気相成長炭素繊維が付着した構成である。したがって、親水性を有する。該粒状複合炭素材料についても、水中に入れて分散させた後、懸濁状態から該粒状複合炭素材料が沈降するまでの時間により親水性を判断することができる。すなわち、粒状複合炭素材料0.1gを10mlの脱イオン水に入れ、超音波を約1分間印加して分散させた後、24時間以上放置しても沈降分離せずに懸濁状態を維持していれば親水性ありと判断する。親水性気相成長炭素繊維は、単繊維にまで分散した状態で粒状炭素材料の表面に付着していてもよいし、複数が凝集した繊維塊の状態で付着していてもよい。付着した気相成長炭素繊維が粒状炭素材料の表面で起毛した状態にあることが特に好ましい。起毛とは、粒状炭素材料の表面の外方向に向けて、突き出た状態を言う。その形状や方向は問わない。起毛は分岐していても、複数本が収束していてもよい。
粒状複合炭素材料のX線広角回折における炭素網面層の格子面間隔d002 は、0.34nm未満、好ましくは0.337nm以下であることが好ましい。この範囲であると高い放電容量を得ることができる。
【0028】
付着した後の気相成長炭素繊維は、付着前の気相成長炭素繊維と同様な形状を維持していることが好ましい。すなわち、付着後も直径に対する長さの比(アスペクト比)が3以上であることが好ましく、3〜500であることがさらに好ましく、10〜100であることが最も好ましい。この範囲であると、優れた導電性向上の効果が得られる。なお、アスペクト比は、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡で観察し、複数(100本)について直径と長さを計測し、算術平均して求める。
粒状複合炭素材料の平均粒子径は特に問わないが、一般的には1〜100μm、好ましくは5〜50μmである。比表面積は大きすぎると初期充放電効率の低下や電池の安全性の低下を招くため、好ましくは30m2/g以下であり、より好ましくは0.1〜10m2/gである。粒状複合炭素材料の真比重は、高い放電容量を得る観点から、2.2以上であることが好ましい。粒状複合炭素材料の平均粒子径、比表面積および真比重の求め方は、前記した粒状炭素材料の場合と同じである。
【0029】
気相成長炭素繊維に親水性を付与した物質、例えば、金属酸化物の粒子は、粒状複合炭素材料において、気相成長炭素繊維に付着していることが好ましい。該金属酸化物の粒子は、粒状複合炭素材料の炭素材料の表面に付着していても差し支えない。
親水性気相成長炭素繊維の粒状炭素材料に対する付着量は、粒状炭素材料/親水性気相成長炭素繊維の割合で、90/10〜99.9/0.1であることが好ましく、97/3〜99.5/0.5であることがより好ましい。親水性気相成長炭素繊維が過剰の場合には、初期充放電効率を低下させるおそれがあり、過少の場合には、急速充放電効率の向上効果が小さい。前記割合は、粒状複合炭素材料の断面を透過型電子顕微鏡で観察し、複数(50個)について両者の面積率を計測し、算術平均して求める。
【0030】
(粒状複合炭素材料の製造方法)
本発明の粒状複合炭素材料が得られる製造方法であれば、いかなる方法も採用できるが、親水性気相成長炭素繊維を乾式で、粒状炭素材料に混合し、機械的エネルギーを付与して、両者に圧縮力や剪断力を加え、粒状炭素材料の表面に親水性気相成長炭素繊維を付着させる方法が好ましい。この方法によれば、親水性気相成長炭素繊維の一部が、粒状炭素材料の表面に埋設され、強固に付着させることができる。また、同時に該気相成長炭素繊維を解繊することがあり、さらに親水性を向上させることができるので好ましい。
【0031】
機械的エネルギーを付与する方法は、被処理物(親水性気相成長炭素繊維と粒状炭素材料)に主に圧縮力と剪断力を同時にかける処理方法である。剪断力や圧縮力は通常一般の攪拌力よりも大きいが、機械的エネルギーは、粒状炭素材料の表面にかけることが好ましい。粒状炭素材料の粒子骨格が破壊されると、リチウムイオン二次電池にしたときの初期充放電効率が低下する傾向がある。剪断力や圧縮力は一般的に機械的エネルギー付与処理による粒状炭素材料の平均粒子径の低下率を20%以下に抑える程度であることが好ましい。また、機械的エネルギーによって、親水性気相成長炭素繊維を破壊しないことが好ましい。
【0032】
機械的エネルギーを付与する装置は、被処理物に圧縮力と剪断力を同時にかけることができる装置であれば、装置の種類、構造は特に限定されない。例えば、加圧ニーダー、二本ロールなどの混練機、回転ボールミル、「ハイブリダイゼーションシステム」[(株)奈良機械製作所製](なお、「ハイブリダイゼーションシステム」は(株)奈良機械製作所の登録商標)などの高速衝撃式乾式粉体複合化装置、メカノマイクロ[(株)奈良機械製作所製]、「メカノフュージョン」システム[ホソカワミクロン(株)製](なお、「メカノフュージョン」はホソカワミクロン(株)の登録商標)などの圧縮剪断式乾式粉体複合化装置などを使用することができる。
【0033】
中でも回転速度差を利用して剪断力および圧縮力を同時にかける装置が好ましい。例えば、図1( A) および( B) に模式的機構を示す「メカノフュージョン」システムが好ましい。具体的には回転ドラム11と、該ドラム11と回転速度の異なる内部部材(インナーピース)12と、被処理物13の循環機構14(例えば,循環用ブレード)と排出機構15とを有する装置である。この装置において、図1( A) に示すように、回転ドラム11と内部部材12との間に供給された被処理物13に遠心力を付与しながら、内部部材12により回転ドラム11との速度差に起因する圧縮力と剪断力とを同時に繰返し付加することにより、機械的エネルギーを被処理物13に付与することができる。
また例えば、図2に模式的に示す「ハイブリダイゼーションシステム」を用いることもできる。すなわち、固定ドラム21、高速回転するローター22、被処理物23の循環機構24と排出機構25、ブレード26、ステーター27およびジャケット28を有する装置を用い、被処理物23を固定ドラム21とローター22との間に供給し、固定ドラム21とローター22の速度差に起因する圧縮力と剪断力とを被処理物23に付加する装置を用いて機械的エネルギーを付与してもよい。
【0034】
機械的エネルギーを付与する条件は、使用する装置によっても異なり一概には言えないが、例えば、図1( A) 、( B) に示すような回転ドラム11と内部部材12を備えた装置を用いる場合には、被処理物13を回転ドラム11に供給し、回転ドラム11と内部部材12との周速度差が5〜50m/sec 、両者間の距離が1〜100mm、処理時間が3〜90min の条件で操業するのが好ましい。被処理物13は該装置内の循環機構14により循環され、機械的エネルギーを付与され、排出機構15から排出される。
また図2に示すような固定ドラム21とブレード26を有する高速回転ローター22を備えた装置を用いる場合には、被処理物23を循環機構24に供給し、固定ドラム21と回転ローター22との周速度差が10〜100m/sec 、処理時間が30sec 〜10min の条件で操業するのが好ましい。被処理物23は該装置内の循環機構24により循環され、機械的エネルギーを付与され、排出機構25から排出される。
【0035】
親水性気相成長炭素繊維と粒状炭素材料への機械的エネルギーを付与する前、処理中、処理後のいずれかにおいて、本発明が期待する急速充放電効率などの特性を損なわない範囲において、カーボンブラック、気相成長炭素繊維(非親水性)などの公知の導電剤、異種炭素材料などの各種添加剤を添加することができる。
【0036】
本発明の粒状複合炭素材料は、その特徴を生かして負極材料以外の用途に転用することもできるが、特にリチウムイオン二次電池の負極材料として好適である。すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材料は、少なくとも前記粒状複合炭素材料を含有する結果、水系結合剤を用いた場合においても、充放電特性とサイクル特性、特に急速充放電効率に優れたリチウムイオン二次電池用負極となる。
【0037】
(負極)
本発明では、黒鉛質物を含有する粒状炭素材料の少なくとも一部に、親水性気相成長炭素繊維が付着した粒状複合炭素材料を含有する負極材料を用いて負極を作製するが、この際に、負極の作製に通常使用される導電剤、改質材などの添加剤を混合してもよい。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、気相成長炭素繊維、またはこれらの黒鉛化物などを混合してもよい。該添加物の添加量は、一概には言えないが、粒状炭素材料と該添加物の合計量に対して0.1〜10質量%である。
【0038】
本発明における粒状複合炭素材料を含有する負極材料を用いる負極の作製は、該負極材料の性能を充分に引き出し、かつ粉末に対する賦型性が高く、化学的、電気化学的に安定な負極を得ることができる成形方法であれば何ら制限されず、通常の成形方法に準じて行うことができる。
【0039】
負極作製には、前記負極材料に結着剤を加えた負極合剤を用いることができる。結着剤としては、電解質に対して化学的安定性、電気化学的安定性を有するものが好ましく、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、さらにはカルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴムなどが用いられる。これらを併用することもできる。
【0040】
なお、本発明では、前記負極材料を用いることにより、有機溶媒に溶解および/または分散する有機溶媒系結着剤はもちろんのこと、水溶性および/または水分散性の水系結着剤を用いても優れた充放電特性を発現する負極を得ることができる。
前記のうちでも、本発明の目的を達成し、効果を最大限に活かす上で、カルボキシメチルセルロース(水溶性)、ポリビニルアルコール(水溶性)、スチレンブタジエンゴム(水分散性)などの水系結着剤を用いることが特に好ましい。
結着剤は、通常、負極合剤の全量中0.5〜20質量%の割合で使用されることが好ましい。
【0041】
負極合剤の調製は、例えば、黒鉛質物を含有する粒状炭素材料の少なくとも一部に、親水性気相成長炭素繊維が付着した粒状複合炭素材料を分級等によって適当な粒径に調整し、結着剤と混合することによって実施される。この負極合剤を、通常、集電体の片面もしくは両面に塗布して負極合剤層を形成する。また負極合剤を溶媒に分散させ、ペースト状にした後、集電体に塗布、乾燥すれば、集電体に均一かつ強固に接着した負極合剤層が形成される。ペーストは、プラネタリーミキサーなどの自公転式ミキサーで撹拌することにより調製することができる。溶媒は負極合剤の調製に使用される通常の溶媒で差し支えない。
【0042】
例えば、本発明の負極材料と、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂粉末あるいはカルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴムなどの水溶性または水分散性結着剤を、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、水、アルコールなどの溶媒と混合してスラリーや溶液とした後、これを集電体に塗布すればよい。中でも、溶媒乾燥除去における安全面、環境面への影響を配慮して、水またはアルコールなどを溶媒として、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴムなどを溶解、分散させてなる水系スラリーを用いることが好ましい。
ペーストは、公知の攪拌機、混合機、混練機、ニーダーなどを用いて混合することにより調製される。
【0043】
本発明による負極材料と結着剤とを混合してなる負極合剤を集電体に塗布し、乾燥した後の膜厚は10〜200μm、好ましくは20〜200μmである。
また前記負極材料の粒子と結着剤としてのポリエチレン、ポリビニルアルコールなどの樹脂粉末とを乾式混合し、金型内でホットプレス成形して負極を製造することもできる。 負極合剤層を形成した後、プレス加工などの圧着を行うと、負極合剤層と集電体との接着強度をさらに高めることができる。
【0044】
負極に用いる集電体の形状は、特に限定されないが、箔状、またはメッシュ、エキスパンドメタルなどの網状のものなどが用いられる。集電体としては、例えば銅、ステンレス、ニッケルなどを挙げることができる。集電体の厚みは、箔状の場合、5〜20μmであることが好ましい。
【0045】
(正極)
正極の材料(正極活物質)としては、充分量のリチウムを吸蔵/脱離し得るものを選択することが好ましい。そのような正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物、遷移金属カルコゲン化物、バナジウム酸化物(V2 5 、V6 13、V2 4 、V3 8 など)およびそのリチウム化合物などのリチウム含有化合物、一般式MX Mo6 8-y (式中Xは0≦X≦4、Yは0≦Y≦1の範囲の数であり、Mは遷移金属などの金属を表す)で表されるシェブレル相化合物、活性炭、活性炭素繊維などを用いることができる。
【0046】
前記リチウム含有遷移金属酸化物は、リチウムと遷移金属との複合酸化物であり、リチウムと2種類以上の遷移金属を固溶したものであってもよい。リチウム含有遷移金属酸化物は、具体的には、LiM(1)1-p M(2)p 2 (式中Pは0≦P≦1の範囲の数であり、M(1)、M(2)は少なくとも一種の遷移金属元素からなる。)またはLiM(1)2-Q M(2)Q 4 (式中Qは0≦Q≦2の範囲の数であり、M(1)、M(2)は少なくとも一種の遷移金属元素からなる。)で示される。
前記において、Mで示される遷移金属元素としては、Co、Ni、Mn、Cr、Ti、V、Fe、Zn、Al、In、Snなどが挙げられ、好ましくはCo、Ni、Fe、Mn、Ti、Cr、V、Alが挙げられる。
【0047】
リチウム含有遷移金属酸化物としては、より具体的に、LiCoO2 、Lip Niq 1-q 2(MはNiを除く前記遷移金属元素、好ましくはCo、Fe、Mn、Ti、Cr、V、Alから選ばれる少なくとも一種、0.05≦p≦1.10、0.5≦q≦1.0である。)で示されるリチウム複合酸化物、LiNiO2 、LiMnO2 、LiMn2 4 、LiNi0.9 Co0.1 2 、LiNi0.5 Co 0.52 などが挙げられる。
【0048】
前記のようなリチウム含有遷移金属酸化物は、例えば、リチウム、遷移金属の酸化物または塩類を出発原料とし、これら出発原料を所望の組成に応じて混合し、酸素雰囲気下、600〜1000℃の温度で焼成することにより得ることができる。なお出発原料は酸化物または塩類に限定されず、水酸化物などでもよい。
本発明では、正極活物質は、前記化合物を単独で使用しても2種類以上併用してもよい。例えば、正極材料に炭酸リチウムなどの炭酸アルカリ塩を添加することもできる。
【0049】
このような正極材料によって正極を形成するには、例えば正極材料と結着剤および電極に導電性を付与するための導電剤よりなる正極合剤を集電体の両面に塗布することで正極合剤層を形成する。結着剤としては、負極で例示したものがいずれも使用可能である。導電剤としては、例えば炭素材料、黒鉛やカーボンブラックが用いられる。
【0050】
集電体の形状は特に限定されず、箱状、またはメッシュ、エキスパンドメタルなどの網状などのものが用いられる。集電体の基板としては、アルミニウム、ステンレス、ニッケルなどを挙げることができる。その厚さは、10〜40μmが好適である。
また正極の場合も負極と同様に、正極合剤を溶剤中に分散させることでペースト状にし、このペースト状の正極合剤を集電体に塗布、乾燥することによって正極合剤層を形成してもよく、正極合剤層を形成した後、さらにプレス加圧等の圧着を行っても構わない。これにより正極合剤層が均一かつ強固に集電体に接着される。
【0051】
以上のような負極および正極を形成するに際しては、従来公知の導電剤や結着剤などの各種添加剤を適宜に使用することができる。
【0052】
(電解質)
本発明に用いられる電解質としては通常の非水電解液に使用されている電解質塩を用いることができ、例えば、LiPF6 、LiBF4 、LiAsF6 、LiClO4 、LiB(C6 5 4 、LiCl、LiBr、LiCF3 SO3 、LiCH3 SO3 、LiN(CF3 SO2 2 、LiC(CF3 SO2 3 、LiN(CF3 CH2 OSO2 2 、LiN(CF3 CF2 OSO2 2 、LiN(HCF2 CF2 CH2 OSO2 2 、LiN{(CF3 2 CHOSO2 2 、LiB{C6 3 (CF3 2 4 、LiAlCl4 、LiSiF6 などのリチウム塩などを用いることができる。特にLiPF6 、LiBF4 が酸化安定性の点から好ましく用いられる。
電解液中の電解質塩濃度は0.1〜5mol/L が好ましく、0.5〜3.0mol/L がより好ましい。
【0053】
前記非水電解質は、液系の非水電解液としてもよいし、固体電解質あるいはゲル電解質など高分子電解質としてもよい。前者の場合、非水電解質電池は、いわゆるリチウムイオン電池として構成され、後者の場合、非水電解質電池は、高分子固体電解質電池、高分子ゲル電解質電池などの高分子電解質電池として構成される。
【0054】
液系の非水電解質液とする場合には、溶媒として、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、1,1 −または1,2 −ジメトキシエタン、1,2 −ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトン、1 ,3−ジオキソラン、4 −メチル−1 ,3 −ジオキソラン、アニソール、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、クロロニトリル、プロピオニトリル、ホウ酸トリメチル、ケイ酸テトラメチル、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、酢酸エチル、トリメチルオルトホルメート、ニトロベンゼン、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、テトラヒドロチオフェン、ジメチルスルホキシド、3−メチル−2−オキサゾリドン、エチレングリコール、ジメチルサルファイトなどの非プロトン性有機溶媒を用いることができる。
また、電池の性能を向上させる添加剤などを含有していても差し支えない。
【0055】
非水電解質を高分子固体電解質、高分子ゲル電解質などの高分子電解質とする場合には、可塑剤(非水電解液)でゲル化されたマトリクスの高分子化合物を含むが、このマトリクス高分子化合物としては、ポリエチレンオキサイドやその架橋体などのエーテル系高分子化合物、ポリメタクリレート系高分子化合物、ポリアクリレート系高分子化合物、ポリビニリデンフルオライドやビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素系高分子化合物などを単独、もしくは混合して用いることができる。
これらの中で、酸化還元安定性の観点などから、ポリビニリデンフルオライドやビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素系高分子化合物を用いることが望ましい。
【0056】
これら高分子固体電解質または高分子ゲル電解質には可塑剤が含有されるが、可塑剤としては前記の電解質塩や非水溶媒が使用可能である。高分子ゲル電解質の場合、可塑剤である非水電解液中の電解質塩濃度は0.1〜5mol/L が好ましく、0.5〜2.0mol/L がより好ましい。
このような高分子電解質の製造方法は特に制限されないが、例えば、マトリクスを形成する高分子化合物、リチウム塩および非水溶媒(可塑剤)を混合し、加熱して高分子化合物を溶融する方法、有機溶剤に高分子化合物、リチウム塩および非水溶媒を溶解させた後、混合用有機溶剤を蒸発させる方法、ならびに高分子電解質の原料となる重合性モノマー、リチウム塩および非水溶媒を混合し、混合物に紫外線、電子線または分子線などを照射して重合性モノマーを重合させ高分子電解質を製造する方法などを挙げることができる。
また、前記固体電解質中の溶媒の混合割合が10〜90質量%であると、導電率が高く、かつ機械的強度が高く、成膜しやすいので好ましく、より好ましくは30〜80質量%である。
【0057】
(リチウムイオン二次電池)
リチウムイオン二次電池は、通常、負極、正極および非水電解質を主たる電池構成要素とし、負極、正極はそれぞれリチウムイオンの担持体からなり、充放電過程におけるリチウムイオンの出入は層間で行われる。そして充電時にはリチウムイオンが負極中に吸蔵され、放電時には負極から脱離する電池機構を構成する。
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の負極材料を用いること以外は特に限定されず、他の電池構成要素については一般的なリチウムイオン二次電池の要素に準じる。
【0058】
本発明のリチウムイオン二次電池に使用するセパレータは、特に限定されるものではないが、例えば織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜などが挙げられる。特に合成樹脂製微多孔膜が好適に用いられるが、その中でもポリオレフィン系微多孔膜が、厚さ、膜強度、膜抵抗の面で好適である。具体的には、ポリエチレンおよびポリプロピレン製微多孔膜、またはこれらを複合した微多孔膜などである。
【0059】
本発明のリチウムイオン二次電池において、ゲル電解質を用いることも可能である。
ゲル電解質二次電池は、負極、正極およびゲル電解質を、例えば負極、ゲル電解質、正極の順で積層し、電池外装材内に収容することで構成される。なお、さらに負極と正極の外側にゲル電解質を配するようにしてもよい。
【0060】
本発明に係るリチウムイオン二次電池の構造は任意であり、その形状、形態について特に限定されるものではなく、円筒型、角型、コイン型、ボタン型などの中から任意に選択することができる。より安全性の高い密閉型非水電解液電池を得るためには、過充電などの異常時に電池内圧上昇を感知して電流を遮断させる手段を備えたものであることが好ましい。アルミラミネートフィルムなどに封入した構造とすることもできる。
【実施例】
【0061】
本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるもの はない。また、実施例および比較例では、図3に示す構成の評価用ボタン型二次電池を作製して評価した。実電池は、本発明の趣旨に基づき、公知の方法に準じて作製することができる。
なお、実施例および比較例において、平均粒子径、平均直径、アスペクト比、比表面積、親水性(静置分離時間)、真比重、X線回折による格子面間隔d002 および気相成長炭素繊維の付着量は、それぞれ前述した方法により測定した。
【0062】
(実施例1)
(親水性気相成長炭素繊維の製造)
酸化第二鉄5gを、外径50mmの石英ガラス製反応管に充填し、一酸化炭素を90体積%、水素を10体積%含有するガスを毎分1000ml流通させ、石英管の外部に設置した電気炉で550℃に加熱して3時間維持した。酸化第二鉄の表面から気相成長炭素繊維が成長し、該気相成長炭素繊維が互いに絡み合った集合体が75g生成した。該気相成長炭素繊維の平均直径は120nm、アスペクト比は30であった。
該気相成長炭素繊維を、空気を遮断した状態で3000℃で3時間加熱し、黒鉛化した。黒鉛化気相成長炭素繊維10gと気相アルミナ(日本アエロジル(株)製、Al2O3-C 、平均粒子径13nm)1gをアセトン200mlに分散し、超音波を印加しながら1分間攪拌した。混合液をナス型フラスコに入れ、ロータリエバポレーターでアセトンを留去し、黒色混合粉末を得た。該粉末0.1gを10mlの脱イオン水に入れ、超音波を1分間印加し、均一懸濁液を得た。これを1日以上放置しても沈降分離しなかったことから、親水性を有するものと判断した。このようにして親水性気相成長炭素繊維を得た。
【0063】
(粒状炭素材料の製造)
コールタールピッチ(JFEケミカル(株)製)を非酸化性雰囲気中、450℃で12時間加熱して、メソフェーズ小球体(平均粒子径25μm)を得た。引き続き、該小球体を黒鉛坩堝に充填し、3000℃で5時間加熱し、黒鉛化した。このようにして、黒鉛質物を含有する粒状炭素材料を得た。得られた粒状炭素材料は平均粒子径25μmの球状であって、格子面間隔d002 は0.3360nm、真比重は2.238、比表面積は0.50m2/gであった。
【0064】
(粒状複合炭素材料の製造)
前記親水性気相成長炭素繊維1質量部と、前記粒状炭素材料99質量部とを混合し、図2に示す「ハイブリダイゼーションシステム」[(株)奈良機械製作所製]を用いて、下記の条件で機械的エネルギーを付与する処理(メカノケミカル処理)を行った。固定ドラムと回転ローターとの周速度差30m/sec 、処理時間5分の条件で処理することにより、該システム内に投入された被処理物を分散しながら、主として衝撃力、分子間相互作用も含めた圧縮力、摩擦力、剪断力などの機械的エネルギーを繰り返し付与し、該粒状炭素材料の少なくとも一部に該親水性気相成長炭素繊維が付着した粒状複合炭素材料を得た。得られた粒状複合炭素材料は球状であり、メカノケミカル処理前の粒状炭素材料と同じ平均粒子径、格子面間隔および真比重であった。比表面積は2.55m2 /gであった。
【0065】
得られた粒状複合炭素材料は、走査型電子顕微鏡観察によると、低倍率(100倍程度)では球状を呈しているものの、1万倍以上の高倍率では該親水性気相成長炭素繊維が解繊されたり、または凝集している混在状態で、該粒状炭素材料に付着していることが認められた。また、該親水性気相成長炭素繊維の一部が起毛していた。該親水性気相成長炭素繊維の直径は120nm、アスペクト比は20であった。
得られた粒状複合炭素材料0.1gを脱イオン水10mlに入れ、超音波を1分間印加したところ、均一な懸濁状態となり、1日以上放置しても沈降分離しなかったことから、親水性を有するものと判断した。
【0066】
(負極合剤ペーストの調製)
前記粒状複合炭素材料98質量部と、結合剤としてのスチレンブタジエンゴム1質量部とカルボキシメチルセルロース1質量部を水に入れ、プラネタリーミキサーを用いて攪拌混合し、懸濁化して、水系負極合剤ペーストを調製した。
【0067】
(作用電極の作製)
前記負極合剤ペーストを、銅箔(厚み16μm)上に塗布した後、真空中で90℃に加熱して、水を揮発させて乾燥し、負極合剤層をハンドプレスによって加圧した。負極合剤層と銅箔を直径15.5mmの円形状に打抜くことで、集電体の銅箔に密着した負極合剤層(厚み50μm)からなる作用電極2を作製した。
【0068】
(対極の作製)
リチウム金属箔(厚み0.5μm)を集電体ニッケルネットに押付け、直径15.5mmの円形状に打抜いて、ニッケルネットにリチウム金属箔が密着した対極を作製した。
【0069】
(電解質・セパレータの作製)
エチレンカーボネート33mol%−メチルエチルカーボネート67mol%の混合溶媒に、LiPF6 を1mol/dm3 となる濃度で溶解させ、非水電解液を調製した。得られた非水電解液をポリプロピレン多孔質体に含浸させ、電解質液が含浸したセパレータを作製した。
【0070】
(評価電池の作製)
評価電池として図3に示すボタン型二次電池を次の手順により作製した。
集電体37bに密着した作用電極32と集電体37aに密着した対極34との間に、電解質溶液を含浸させたセパレータ35を挟んで、積層した。その後、作用電極32の集電体37b側が外装カップ31内に、対極34の集電体37a側が外装缶33内に収容されるように、外装カップ31と外装缶33とを合わせた。その際、外装カップ31と外装缶33との周縁部に絶縁ガスケット36を介在させ、両周縁部をかしめて密閉した。
【0071】
評価電池について、25℃の温度下で下記のような充放電試験を行い、放電容量、初期充放電効率、急速充電効率、急速放電効率およびサイクル特性(電池特性)を評価した。各試験の試験方法を下記する。評価結果を表1に示した。
(放電容量、初期充放電効率)
0.9mAの電流値で、回路電圧が0mVに達するまで定電流充電を行った後、回路電圧が0mVに達した時点で、定電圧充電に切替え、さらに電流値が20μAになるまで充電を続けた。その間の通電量から充電容量を求めた。その後、120分間休止した。
次に0.9mAの電流値で、回路電圧が1.5mVに達するまで定電流放電を行い、この間の通電量から放電容量を求めた。これを第1サイクルとした。次式から初期充放電効率を計算した。
初期充放電効率(%)=(第1サイクルにおける放電容量/
第1サイクルにおける充電容量)×100
なおこの試験では、リチウムイオンを黒鉛質材料中に吸蔵する過程を充電、黒鉛質材料から離脱する過程を放電とした。
【0072】
(急速充電効率)
引き続き、第2サイクルにて急速充電を行った。
電流値を第1サイクルの8倍の7.2mAとして、回路電圧が0mVに達するまで定電流充電を行い、充電容量を求め、次式から急速充電効率を計算した。
急速充電効率(%)=(第2サイクルにおける定電流充電容量/
第1サイクルにおける放電容量)×100
【0073】
(急速放電効率)
前記第2サイクルの定電流充電に引き続き、第2サイクルにて急速放電を行った。
第1サイクルと同様にして定電流充電に切替え、充電した後、電流値を第1サイクルの16倍の14.4mAとして、回路電圧が1.5mVに達するまで定電流放電を行った。この間の通電量から放電容量を求めた。得られた放電容量から、次式により急速放電効率を計算した。
急速放電効率(%)=(第2サイクルにおける放電容量/
第1サイクルにおける放電容量)×100
【0074】
(サイクル特性)
別の評価電池を用いて、回路電圧が0mVに達するまで4.5mAの電流値で定電流充電を行った後、定電圧充電に切替え、電流値が20μAになるまで充電を続けた。その後、120分間休止した。次に4.5mAの電流値で、回路電圧が1.5Vに達するまで定電流放電を行った。この間の通電量から放電容量を求めた。この充放電を20回繰り返し、得られた放電容量から、次式によりサイクル特性を計算した。
サイクル特性(%)=(第20サイクルにおける放電容量/
第1サイクルにおける放電容量)×100
【0075】
[比較例1]
実施例1において、メソフェーズ小球体の黒鉛化物からなる粒状炭素材料を用いて(ただし、親水性気相成長炭素繊維を使用することなく、したがって、メカノケミカル処理することなく)、負極合剤ペーストを調製した。該負極合剤ペーストを用いて、実施例1と同様な方法と条件で、負極および評価電池を作製した。該評価電池について、実施例1と同様に評価試験を行った。評価結果を表1に示した。
なお、メカノケミカル処理を行っていない粒状炭素材料0.1gを脱イオン水10mlに入れ、超音波を1分間印加したところ、一旦均一な懸濁状態になったが、静置1時間で完全に沈降分離し、透明部分と黒色部分に分かれたことから、親水性を有しないものと判断した。
【0076】
[比較例2]
実施例1において、親水性気相成長炭素繊維の代わりに、アルミナを混合していない非親水性気相成長炭素繊維を用いる以外は、実施例1と同様に、メソフェーズ小球体の黒鉛化物からなる粒状炭素材料に該非親水性気相成長炭素繊維が付着した粒状複合炭素材料を調製した。該粒状複合炭素材料を用いて、実施例1と同様な方法と条件で、負極合剤ペースト、負極および評価電池を作製した。該評価電池について、実施例1と同様に評価試験を行なった。評価結果を表1に示した。
なお、非親水性気相成長炭素繊維0.1gを脱イオン水10mlに入れ、超音波を1分間印加したところ、一旦均一な懸濁状態になったが、静置2時間で完全に沈降分離され、透明部分と黒色部分に分かれたことから、親水性を有しないものと判断した。
また、該非親水性気相成長炭素繊維が付着した粒状複合炭素材料0.1gを水10mlに入れ、超音波を1分間印加したところ、一旦均一な懸濁状態になったが、静置3時間で完全に沈降分離し、透明部分と黒色部分に分かれたことから、親水性が低いものと判断した。
【0077】
[実施例2]
(粒状炭素材料の製造)
コールタールピッチ(JFEケミカル(株)製)を非酸化性雰囲気中、450℃で12時間加熱して、メソフェーズ小球体を得、これを粉砕して平均粒子径13μmとした。引き続き、得られた粉砕生成物を黒鉛坩堝に充填し、3000℃で5時間加熱し、黒鉛化した。このようにして、黒鉛質物を含有する粒状炭素材料を得た。得られた粒状炭素材料は、平均粒子径13μmの塊状であって、格子面間隔d002 は0.3360nm、真比重は2.238、比表面積は1.00m2/gであった。
【0078】
(粒状複合炭素材料の製造)
実施例1の親水性気相成長炭素繊維2質量部と、前記粒状炭素材料98質量部とを混合し、図1に示す「メカノフュージョン」システム[ホソカワミクロン(株)製]を用いて、下記の条件でメカノケミカル処理を行った。回転ドラムと内部部材との周速度差15m/sec 、処理時間15分、回転ドラムと内部部材との距離5mmの条件で処理することにより、投入された被処理物に、衝撃力、剪断力などの機械的エネルギーを繰り返し付与し、該粒状炭素材料の少なくとも一部に該親水性気相成長炭素繊維が付着した粒状複合炭素材料を得た。得られた粒状複合炭素材料は塊状であり、メカノケミカル処理前の粒状炭素材料と同じ平均粒子径、格子面間隔、真比重であった。比表面積は3.50m2/gであった。
【0079】
得られた粒状複合炭素材料は、走査型電子顕微鏡観察によると、低倍率(100倍程度)では塊状を呈しているものの、1万倍以上の高倍率では該親水性気相成長炭素繊維が解繊されたり、または凝集して、混在状態で、該メソフェーズ小球体の黒鉛化物の表面に付着し、一部が起毛していることが認められた。該親水性気相成長炭素繊維の直径は120nm、アスペクト比は25であった。
得られた粒状複合炭素材料0.1gを脱イオン水10mlに入れ、超音波を1分間印加したところ、均一な懸濁状態となり、1日以上放置しても沈降分離しなかったことから、親水性を有するものと判断した。
得られた粒状複合炭素材料を用いて、実施例1と同様な方法と条件で、負極合剤ペースト、負極および評価電池を作製した。該評価電池について、実施例1と同様に評価試験を行った。評価結果を表1に示した。
【0080】
[比較例3]
実施例2において、親水性気相成長炭素繊維の代わりに、黒鉛化したがアルミナを添加していない非親水性気相成長炭素繊維を用いる以外は、実施例2と同様に粒状複合炭素材料を調製した。なお、この非親水性気相成長炭素繊維0.1gを10mlの脱イオン水に入れ、超音波を1分間印加したところ、均一懸濁液になったが、静置2時間で完全に沈降分離したので、親水性を有しないものと判断した。
該粒状複合炭素材料を用いて、実施例2と同様な方法と条件で、負極合剤ペースト、負極および評価電池を作製した。該評価電池について、実施例2と同様に評価試験を行った。評価結果を表1に示した。
なお、該粒状複合炭素材料について、実施例2と同様に親水性試験を行ったところ、一旦均一な懸濁状態になったが、静置4時間で完全に沈降分離され、透明部分と黒色部分に分かれたことから、親水性を有しないものと判断した。
【0081】
[比較例4]
実施例2において、親水性気相成長炭素繊維2質量部と、前記メソフェーズ小球体の黒鉛化物98質量部とを、メカノケミカル処理することなく、ヘンシェルミキサー(三井鉱山(株)製)を用いて、攪拌混合し、混合物を得た。該混合物を用いて、実施例2と同様な方法と条件で、負極合剤ペースト、負極および評価電池を作製した。該評価電池について、実施例2と同様に評価試験を行なった。評価結果を表1に示した。
なお、該混合物について、実施例2と同様に親水性試験を行ったところ、一旦均一な懸濁状態になったが、静置6時間で完全に沈降分離され、透明部分と黒色部分に分かれたことから、親水性を有しないものと判断した。
【0082】
(実施例3)
実施例1の親水性気相成長炭素繊維の製造において、気相アルミナに代えて、気相シリカ(日本アエロジル(株)製、AEROSIL300CF、平均粒子径7nm)を用いた以外は、実施例1と同様な方法と条件で、負極合剤ペースト、負極および評価電池を作製した。該評価電池について、実施例1と同様に評価試験を行なった。評価結果を表1に示した。
なお、用いた親水性気相成長炭素繊維および粒状複合炭素材料について、実施例1と同様に親水性試験を行なったところ、1日以上放置しても沈降分離しなかったことから、親水性を有するものと判断した。
【0083】
(実施例4)
実施例1の親水性気相成長炭素繊維の製造において、気相アルミナに代えて、気相チタニア(日本アエロジル(株)製、二酸化チタンP25 、平均粒子径21nm)を用いた以外は、実施例1と同様な方法と条件で、負極合剤ペースト、負極および評価電池を作製した。該評価電池について、実施例1と同様に評価試験を行なった。評価結果を表1に示した。
なお、用いた親水性気相成長炭素繊維および粒状複合炭素材料について、実施例1と同様に親水性試験を行なったところ、1日以上放置しても沈降分離しなかったことから、親水性を有するものと判断した。
【0084】
(実施例5)
実施例1において、親水性気相成長炭素繊維を、下記の親水性気相成長炭素繊維に代えて用いた以外は、実施例1と同様な方法と条件で、負極合剤ペースト、負極および評価電池を作製した。該評価電池について、実施例1と同様に評価試験を行なった。評価結果を表1に示した。
なお、用いた粒状複合炭素材料について、実施例1と同様に親水性試験を行なったところ、1日以上放置しても沈降分離しなかったことから、親水性を有するものと判断した。
(親水性気相成長炭素繊維の製造)
実施例1で使用した気相成長炭素繊維40gに、濃硝酸500mlを静かに注ぎ入れ、均一に混合するようにゆっくり攪拌した。時々、攪拌しながら、5日間放置後、脱イオン水で余分な硝酸を洗浄除去した。洗浄方法としては、洗浄水のpHが6になるまでデカンテーションし、吸引ろ過した。その後、エタノール100mlで吸引洗浄した。得られた気相成長炭素繊維ケーキを60℃の真空乾燥機にて質量が一定になるまで乾燥し、親水性気相成長炭素繊維を得た。なお、親水性気相成長炭素繊維について、実施例1と同様に親水性試験を行なったところ、1日以上放置しても沈降分離しなかったことから、親水性を有するものと判断した。
【0085】
(実施例6)
実施例1において、メソフェーズ小球体の黒鉛化物からなる粒状炭素材料を、下記の造粒型粒状炭素材料に代えて用いた以外は、実施例1と同様な方法と条件で、負極合剤ペースト、負極および評価電池を作製した。該評価電池について、実施例1と同様に評価試験を行なった。評価結果を表1に示した。
なお、用いた粒状複合炭素材料について、実施例1と同様に親水性試験を行なったところ、1日以上放置しても沈降分離しなかったことから、親水性を有するものと判断した。
(粒状炭素材料の製造)
平均粒子径5μmの鱗片状人造黒鉛(ティムカルジャパン(株)製、SFG-10)とコールタールピッチ(JFEケミカル(株)製)を熱処理後、最終的に鱗片状人造黒鉛が75質量%となる比率で混合し、二軸混練機を用いて、150℃で1時間混練した。得られた混練生成物を非酸化性雰囲気中500℃で焼成し、粉砕した後、黒鉛坩堝に充填し、2500℃で5時間加熱してコールタールに由来する炭化物の部分を黒鉛化した。得られた造粒型炭素材料は、黒鉛質物を含有する粒状炭素材料であり、複数の鱗片状人造黒鉛が集合、造粒され、その一部が露出した平均粒子径15μmの不定形粒子であった。格子面間隔d002 は0.3359nm、真比重は2.239、比表面積は1.80m2/gであった。
【0086】
[比較例5]
実施例6において、親水性気相成長炭素繊維の代わりに、アルミナを添加していない非親水性気相成長炭素繊維を用いる以外は、実施例6と同様に、造粒型粒状炭素材料の表面に該非親水性気相成長炭素繊維が付着した粒状複合炭素材料を調製した。該粒状複合炭素材料を用いて、実施例6と同様な方法と条件で、負極合剤ペースト、負極および評価電池を作製した。該評価電池について、実施例6と同様に評価試験を行った。評価結果を表1に示した。
なお、該非親水性気相成長炭素繊維が付着した粒状複合炭素材料について、実施例1と同様に親水性試験を行ったところ、一旦均一な懸濁状態になったが、静置3時間で完全に沈降分離され、透明部分と黒色部分に分かれたことから、親水性が低いものと判断した。
【0087】
実施例1と比較例1との対比から、粒状炭素材料に親水性気相成長炭素繊維が付着している場合は、付着していない場合に比べ、放電容量が高く、高い急速充電効率、急速放電効率およびサイクル特性を有することがわかる。
これは、本発明の粒状複合炭素材料が、その表面に親水性気相成長炭素繊維を有することにより、水系結合剤が選択的に該親水性気相成長炭素繊維の周囲に結合し、粒状複合炭素材料同士および粒状複合炭素材料と集電体との導電性が確保され、粒状複合炭素材料が元来有する放電容量を無駄なく発現したものと考えられる。また、粒状複合炭素材料の充放電サイトである黒鉛エッジ部分が水系結合剤によって完全に被覆されることがないため、急速充電効率および急速放電効率が高くなったものと考えられる。さらに、水系結合剤の結合力が高くなり、サイクル特性の向上にも寄与したものと考えられる。
【0088】
実施例1と比較例2との対比、実施例2と比較例3との対比、および実施例6と比較例5との対比から、粒状炭素材料に親水性気相成長炭素繊維が付着している場合は、非親水性気相成長炭素繊維が付着している場合に比べ、高い初期充放電効率、急速充電効率、急速放電効率およびサイクル特性を有することがわかる。
これは、比較例2、比較例3および比較例5では、水系結合剤が非親水性気相成長炭素繊維以外の粒状炭素材料の表面に多く結合するのに対し、本発明の粒状複合炭素材料では、親水性気相成長炭素繊維に水系結合剤が選択的に結合することによって、効果が発現されたものと考えられる。すなわち、比較例2、比較例3および比較例5では、水系結合剤が粒状炭素材料の充放電サイトである黒鉛エッジ部分(親水性)を厚く被覆してしまうため、イオン伝導性が低下するのに対し、本発明の粒状複合炭素材料の場合は、黒鉛エッジ部分に結合する水系結合剤が少ない、もしくは薄膜となり、イオン伝導性が改善したものと考えられる。また、本発明の粒状複合炭素材料は、親水性気相成長炭素繊維が水系結合剤で被覆されているため、親水性気相成長炭素繊維の表面における電解液の分解反応が抑制でき、高い初期充放電効率を維持したものと考えられる。
【0089】
実施例2と比較例4との対比から、本発明の粒状複合炭素材料は、親水性気相成長炭素繊維が単に混在している場合に比べ、放電容量が高く、高い初期充放電効率、急速充電効率、急速放電効率およびサイクル特性を有することがわかる。
これは、比較例4では、親水性気相成長炭素繊維が分離して混在しているため、水系結合剤が親水性気相成長炭素繊維を覆い、粒状炭素材料同士および粒状炭素材料と集電体との結合力が低下して電子伝導性の低下を招くのに対し、本発明の粒状複合炭素材料は、粒状炭素材料と親水性気相成長炭素繊維が一体化されており、親水性気相成長炭素繊維と粒状炭素材料の間の電子伝導性が確保されている効果と考えられる。
【0090】
実施例3、4、5と比較例1、2との対比から、本発明の粒状複合炭素材料のように粒状炭素材料に親水性気相成長炭素繊維が付着している場合は、付着していない場合や非親水性気相成長炭素繊維が付着している場合に比べ、高い急速充電効率、急速放電効率およびサイクル特性を有することがわかる。
また、本発明の粒状複合炭素材料の親水性気相成長炭素繊維については、親水性を付与する方法によらず電池特性が向上することを示している。ただし、特に好適な親水性付与方法として例示した実施例1、2に比べると、実施例5の場合は、若干電池特性が劣っている。
さらに、実施例6に示すように、粒状炭素材料の種類を変えた場合においても、実施例1〜5と同様に、粒状炭素材料の表面に親水性気相成長炭素繊維を付着した効果が現れており、高い急速充電効率、急速放電効率およびサイクル特性を有することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の負極材料は、リチウムイオン二次電池の放電容量、初期充放電効率、急速充電効率および急速放電効率を向上させ、サイクル特性を改良するので、特に水系結合剤を用いて負極を作製した場合のリチウムイオン二次電池の負極材料として利用される。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】実施例で用いたメカノケミカル処理装置(「メカノフュージョン」システム)の構造を示す概略説明図。
【図2】他の実施例で用いたメカノケミカル処理装置(「ハイブリダイゼーションシステム」)の構造を示す概略説明図。
【図3】本発明の負極材料を用いたリチウムイオン二次電池の電池特性を評価するための評価電池の概略断面図。
【符号の説明】
【0093】
11 回転ドラム
12 内部部材(インナーピース)
13 被処理物
14 循環機構
15 排出機構
21 固定ドラム
22 ローター
23 被処理物
24 被処理物の循環機構
25 被処理物の排出機構
26 ブレード
27 ステーター
28 ジャケット
31 外装カップ
32 作用電極
33 外装缶
34 対極
35 電解質溶液含浸セパレータ
36 絶縁ガスケット
37a,37b 集電体
【表1】

【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛質物を含有する粒状炭素材料の少なくとも一部に、親水性気相成長炭素繊維が付着した粒状複合炭素材料。
【請求項2】
前記親水性気相成長炭素繊維が、気相成長炭素繊維に金属酸化物の粒子が付着したものである請求項1に記載の粒状複合炭素材料。
【請求項3】
前記金属酸化物が、シリカ、アルミナおよびチタニアから選ばれる1種または2種以上である請求項1または2に記載の粒状複合炭素材料。
【請求項4】
親水性気相成長炭素繊維を、黒鉛質物を含有する粒状炭素材料に、機械的エネルギーを付与して付着させることを特徴とする粒状複合炭素材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の粒状複合炭素材料を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項6】
請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料を含むリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項7】
請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−8462(P2006−8462A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−189949(P2004−189949)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】