説明

粘着シート

【課題】被着体を固定する際の固定力および弾性率が高く、かつ取り外しが容易であるとともに、糊残りが発生し難い粘着シートを提供することである。
【解決手段】側鎖結晶性ポリマーと、該側鎖結晶性ポリマー100重量部に対して10〜110重量部の発泡剤と、を含有し、前記側鎖結晶性ポリマーは、融点が30℃以上かつ前記発泡剤の発泡温度未満であり、前記融点未満の温度で結晶化しかつ融点以上の温度で流動性を示すとともに、重量平均分子量が10,000〜700,000であり、厚さが10〜70μmである粘着シートを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密研磨や研削に好適な粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子(LED)やフラットパネルディスプレイ(FPD)等の製造工程において、サファイアガラス等からなる基板の精密研磨や研削は、通常、仮止め部材を介して基板を台座に固定した状態で行われる。前記仮止め部材には、基板を加工する際には高い固定力が要求され、基板を取り外す際には固定力が低下して傷や汚れ等のない状態で基板を取り外せることが要求される。また、基板の固定状態を安定させる上で、仮止め部材の弾性率は高い方が好ましい。仮止め部材としては、発泡粘着シートやワックス等が挙げられる。
【0003】
発泡粘着シートは、所定の感圧性接着剤に発泡剤を含有してなり、加熱処理による発泡剤の膨脹ないし発泡で粘着力が低下するものである(例えば、特許文献1,2を参照)。
しかしながら、発泡粘着シートは固定力および弾性率が低いため、基板の固定状態が安定し難く、それゆえ基板の加工精度に劣るという問題がある。
【0004】
一方、ワックスは、融点未満の温度で結晶化して固定力が発現し、融点以上の温度で流動性を示して固定力が低下するものである。
しかしながら、ワックスによる固定力の低下は十分ではない。そのため、基板をワックスから取り外す際には基板をずらす必要があり、その結果、基板に傷が生じてしまう。また、取り外した基板上にはワックスが残りやすく、別途洗浄工程が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−33487号公報
【特許文献2】特開平5−43851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、被着体を固定する際の固定力および弾性率が高く、かつ取り外しが容易であるとともに、糊残りが発生し難い粘着シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)側鎖結晶性ポリマーと、該側鎖結晶性ポリマー100重量部に対して10〜110重量部の発泡剤と、を含有し、前記側鎖結晶性ポリマーは、融点が30℃以上かつ前記発泡剤の発泡温度未満の温度であり、前記融点未満の温度で結晶化しかつ融点以上の温度で流動性を示すとともに、重量平均分子量が10,000〜700,000であり、厚さが10〜70μmであることを特徴とする粘着シート。
(2)前記側鎖結晶性ポリマーは、炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレート30〜100重量部と、炭素数1〜6のアルキル基を有する(メタ)アクリレート0〜70重量部と、極性モノマー0〜10重量部と、を重合させて得られる重合体である前記(1)記載の粘着シート。
(3)前記炭素数1〜6のアルキル基を有する(メタ)アクリレートがブチルアクリレートである前記(1)または(2)記載の粘着シート。
(4)前記融点以上かつ前記発泡剤の発泡温度未満の温度を経た後の23℃における垂直剥離強度が10〜500N/cm2である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の粘着シート。
(5)23℃における貯蔵弾性率G’が4×106〜5×107Paである前記(1)〜(4)のいずれかに記載の粘着シート。
(6)60℃における貯蔵弾性率G’が1×103〜7×104Paである前記(1)〜(5)のいずれかに記載の粘着シート。
(7)前記融点以上かつ前記発泡剤の発泡温度未満の温度で貼着した被着体を、前記融点未満の温度で固定し、前記発泡剤の発泡温度以上の温度で取り外す前記(1)〜(6)のいずれかに記載の粘着シート。
【0008】
本発明の粘着シートは、テープの形態で使用することもできる。すなわち、本発明にかかる粘着テープは、基材フィルムの少なくとも片面に粘着剤層を設けてなり、該粘着剤層が前記(1)〜(7)のいずれかに記載の粘着シートからなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の粘着シートを用いれば、精密研磨や研削を精度よく行うことができる。すなわち、本発明にかかる精密研磨方法は、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の粘着シートを用いて被研磨物を精密研磨する方法であって、前記粘着シートを被研磨物と台座との間に介在させる工程と、前記粘着シートの温度を前記融点以上かつ前記発泡剤の発泡温度未満の温度にした後に前記融点未満の温度にし、該粘着シートを介して前記被研磨物を台座に固定する工程と、固定した前記被研磨物を精密研磨する工程と、前記粘着シートの温度を前記発泡剤の発泡温度以上の温度にし、精密研磨した前記被研磨物を粘着シートから取り外す工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明にかかる研削方法は、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の粘着シートを用いて被研削物を研削する方法であって、前記粘着シートを被研削物と台座との間に介在させる工程と、前記粘着シートの温度を前記融点以上かつ前記発泡剤の発泡温度未満の温度にした後に前記融点未満の温度にし、該粘着シートを介して前記被研削物を台座に固定する工程と、固定した前記被研削物を研削する工程と、前記粘着シートの温度を前記発泡剤の発泡温度以上の温度にし、研削した前記被研削物を粘着シートから取り外す工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
なお、本発明における前記「シート」は、シート状のみに限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない限りにおいて、シート状ないしフィルム状をも含む概念である。
また、本発明における前記「発泡温度」は、発泡剤が膨脹ないし発泡を開始する温度のことを意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被着体を固定する際の固定力および弾性率が高く、それゆえ被着体の固定状態が安定するので精密研磨や研削を精度よく行うことができるという効果がある。しかも、取り外しが容易であるとともに、糊残りが発生し難いという効果もある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<粘着シート>
本発明の粘着シートは、側鎖結晶性ポリマーと発泡剤とを含有するものである。前記側鎖結晶性ポリマーは、融点未満の温度で結晶化し、かつ融点以上の温度で相転移して流動性を示すポリマーある。すなわち、側鎖結晶性ポリマーは、温度変化に対応して結晶状態と流動状態とを可逆的に起こすポリマーである。
【0014】
本発明の粘着シートは、側鎖結晶性ポリマーを主成分として含有し、発泡剤を側鎖結晶性ポリマー100重量部に対して10〜110重量部、好ましくは20〜80重量部、より好ましくは40〜60重量部の割合で含有する。これにより、前記融点以上かつ発泡剤の発泡温度未満の温度では、流動性を示す側鎖結晶性ポリマーによって粘着シートが粘着力を発現するようになるので、被着体を貼着することが可能になる。
【0015】
また、粘着シートが被着体表面に存在する微細な凹凸や空隙内に隙間なく浸入するようになる。この状態の粘着シートを前記融点未満の温度に冷却すると、側鎖結晶性ポリマーが結晶化することによってアンカー効果が発現し、それゆえ高い固定力が得られる。しかも、結晶化した側鎖結晶性ポリマーを含む粘着シートは高い弾性率を示すので、被着体の固定状態を安定させることができ、被着体を精度よく加工することができる。
【0016】
さらに、粘着シートを発泡剤の発泡温度以上の温度に加熱すると、側鎖結晶性ポリマーが流動性を示すことによって粘着シートの凝集力が低下するとともに、発泡剤も膨張ないし発泡するので、前記固定力を十分に低下させることができ、被着体を粘着シートから簡単に取り外すことができる。したがって、本発明の粘着シートは、前記融点以上かつ発泡剤の発泡温度未満の温度で貼着した被着体を、前記融点未満の温度で固定し、発泡剤の発泡温度以上の温度で取り外す粘着シートとして使用することができる。
【0017】
一方、発泡剤の含有量が10重量部より少ないと、発泡剤による固定力の低下が得られ難くなるので、剥離性が低下するとともに、被着体から粘着シートを剥離する際に粘着シートが被着体上に残る、いわゆる糊残りが多くなる。また、発泡剤の含有量が110重量部より多いと、相対的に側鎖結晶性ポリマーの割合が低下するので、被着体を固定する際の固定力が低下し、それに伴い加工精度も低下する。
【0018】
側鎖結晶性ポリマーの前記融点とは、ある平衡プロセスにより、最初は秩序ある配列に整合されていた重合体の特定部分が無秩序状態となる温度を意味し、示差熱走査熱量計(DSC)により10℃/分の測定条件で測定して得られる値である。
【0019】
前記融点は、その下限値が30℃以上である。これにより、室温(23℃)では側鎖結晶性ポリマーが結晶化しているので、粘着シートは粘着力を発現していない状態にある。したがって、被着体に対する粘着シートの位置決めを容易に行うことができ、作業性が向上する。また、前記融点の上限値は、発泡剤を膨張ないし発泡させることなく被着体を貼着して固定する上で、発泡剤の発泡温度未満の温度である。前記融点の好ましい範囲としては、30〜70℃、より好ましくは40〜60℃である。前記融点を特定の値とするには、側鎖結晶性ポリマーの組成等を変えることによって任意に行うことができる。
【0020】
前記側鎖結晶性ポリマーの組成としては、例えば炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレート30〜100重量部と、炭素数1〜6のアルキル基を有する(メタ)アクリレート0〜70重量部と、極性モノマー0〜10重量部と、を重合させて得られる重合体等が挙げられる。
【0021】
前記炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えばセチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等の炭素数16〜22の線状アルキル基を有する(メタ)アクリレートが挙げられ、前記炭素数1〜6のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられ、前記極性モノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基含有エチレン不飽和単量体;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有するエチレン不飽和単量体等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
側鎖結晶性ポリマーの好ましい組成としては、例えばベヘニルアクリレート39〜50重量部と、ブチルアクリレート40〜60重量部と、ヒドロキシエチルアクリレート1〜10重量部と、を重合させて得られる共重合体等が挙げられる。特に、炭素数1〜6のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしてブチルアクリレートを採用すると、固定力が向上する傾向にあるので好ましい。
【0023】
重合方法としては、特に限定されるものではなく、例えば溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等が採用可能である。例えば溶液重合法を採用する場合には、前記で例示したモノマーを溶剤に混合し、40〜90℃程度で2〜10時間程度攪拌することによって前記モノマーを重合させることができる。
【0024】
側鎖結晶性ポリマーの重量平均分子量は10,000〜700,000、好ましくは10,000〜600,000である。前記重量平均分子量が10,000より小さいと、粘着シートの粘着力が強くなる傾向にあり、剥離性が低下するとともに、糊残りが多くなる。また、前記重量平均分子量が700,000より大きいと、側鎖結晶性ポリマーの流動性が低下するので、アンカー効果が発現し難くなり、被着体を加工する際の固定力および加工精度が低下する。前記重量平均分子量は、側鎖結晶性ポリマーをゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。
【0025】
一方、前記発泡剤としては、特に限定されるものではなく、通常の化学発泡剤、物理発泡剤がいずれも採用可能である。化学発泡剤には、熱分解型および反応型の有機系発泡剤ならびに無機系発泡剤が包含される。
【0026】
熱分解型の有機系発泡剤としては、例えば各種のアゾ化合物(アゾジカルボンアミド等)、ニトロソ化合物(N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン等)、ヒドラジン誘導体[4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)等]、セミカルバジド化合物(ヒドラゾジカルボンアミド等)、アジド化合物、テトラゾール化合物等が挙げられ、反応型の有機系発泡剤としては、例えばイソシアネート化合物等が挙げられる。
【0027】
熱分解型の無機系発泡剤としては、例えば重炭酸塩・炭酸塩(炭酸水素ナトリウム等)、亜硝酸塩・水素化物等が挙げられ、反応型の無機系発泡剤としては、例えば重炭酸ナトリウムと酸との組み合わせ、過酸化水素とイースト菌との組み合わせ、亜鉛粉末と酸との組み合わせ等が挙げられる。
【0028】
物理発泡剤としては、例えばブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、ジクロロエタン、ジクロロメタン等の塩化炭素水素類、フロン等のフッ化塩化炭化水素類等の有機系物理発泡剤;空気、炭酸ガス、窒素ガス等の無機系物理発泡剤等が挙げられる。
【0029】
また、他の発泡剤として、マイクロカプセル化された熱膨張性微粒子(いわゆるマイクロバルーン発泡剤)を採用することができる。マイクロバルーン発泡剤とは、熱可塑性または熱硬化性樹脂で作られたポリマー殻の内部に、固体、液体または気体からなる加熱膨張性物質を封入したものである。マイクロバルーン発泡剤は加熱によって体積が40倍以上も膨張し、独立気泡形式の発泡体が得られる。したがって、マイクロバルーン発泡剤は、通常の発泡剤に比べて、発泡倍率がかなり大きくなるという特性を有する。
【0030】
マイクロバルーン発泡剤の平均粒径は、5〜50μm程度である。前記平均粒径は、粒度分布測定装置で測定して得られた値である。マイクロバルーン発泡剤は、市販のものを用いることができ、例えばEXPANCEL社製の「551DU40」等が好適である。
【0031】
発泡剤の発泡温度としては、特に限定されるものではないが、通常180℃以下であるのがよく、塗工乾燥時に発泡するのを抑制する上で、90℃以上の温度であるのが好ましい。特に、90℃で膨脹ないし発泡を開始し、120℃で実質的に完全に発泡するのが好ましい。
【0032】
上記した側鎖結晶性ポリマーおよび発泡剤を含有する本発明の粘着シートは、その厚さが10〜70μm、好ましくは10〜50μmである。粘着シートの厚さが10μmより薄いと、粘着シート表面に発泡剤由来の凹凸が発生するか、またはアンカー効果が発現し難くなるので、固定力が低下する。また、粘着シートの厚さが70μmより大きいと、粘着シートの厚さにバラツキが生じるので、均一な固定力等が得られ難くなるとともに、後述する塗布液中の溶剤が揮発し難くなるので、粘着シートに残留する溶剤量が多くなる。
【0033】
また、前記粘着シートは、前記融点以上かつ発泡剤の発泡温度未満の温度を経た後の23℃における垂直剥離強度が、10〜500N/cm2であるのが好ましく、30〜500N/cm2であるのがより好ましく、100〜400N/cm2であるのがさらに好ましく、150〜400N/cm2であるのがさらに好ましい。これにより、該粘着テープは室温で高い固定力を示すことができるので、室温で被着体を確実に固定することができる。
【0034】
一方、前記垂直剥離強度が10N/cm2未満であると、被着体を固定できないおそれがあり、500N/cm2を超えると、固定力を十分に低下させることが困難になり、被着体を取り外すことができないおそれがある。前記垂直剥離強度は、例えば側鎖結晶性ポリマーの組成や発泡剤の割合等を変えることによって任意に調整することができる。前記垂直剥離強度は、後述する実施例に記載の測定方法で測定して得られる値である。
【0035】
前記粘着シートは、通常、23℃における貯蔵弾性率G’が4×106〜5×107Paである。これにより、被着体の固定状態を安定させることができ、被着体を精度よく加工することができる。
【0036】
また、前記粘着シートは、60℃における貯蔵弾性率G’が1×103〜7×104Paであるのが好ましく、1×103〜5×104Paであるのがより好ましい。60℃における貯蔵弾性率G’があまり小さいと、粘着シートの粘着力が強くなる傾向にあるので、剥離性が低下するとともに、糊残りが多くなるおそれがある。また、60℃における貯蔵弾性率G’があまり大きいと、側鎖結晶性ポリマーの流動性が低下する傾向にある。したがって、アンカー効果が発現し難くなるので、固定力が低下するおそれがある。また、側鎖結晶性ポリマーの流動性が低下することに伴い、剥離性も低下するおそれがある。
【0037】
前記各温度における貯蔵弾性率G’は、例えば側鎖結晶性ポリマーの組成等を変えることによって任意に調整することができる。各温度における貯蔵弾性率G’は、後述する実施例に記載の測定方法で測定して得られる値である。
【0038】
なお、前記粘着シートの少なくとも片面には、離型処理を施したフィルム、すなわち離型フィルムを設けるのが好ましい。前記離型フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート等からなるフィルム表面に、シリコンやフッ素等による離型処理を施したものが挙げられる。粘着シートの少なくとも片面に離型フィルムを設けるには、例えば側鎖結晶性ポリマーおよび発泡剤を溶剤に加えた塗布液を、離型フィルム上に塗布して乾燥させればよい。
【0039】
前記塗布液には、例えば架橋剤、タッキファイヤー、可塑剤、老化防止剤、紫外線吸収剤等の各種の添加剤を添加することができる。前記塗布は、一般的にナイフコーター、ロールコーター、カレンダーコーター、コンマコーター等により行うことができる。また、塗工厚みや塗布液の粘度によっては、グラビアコーター、ロッドコーター等により行うこともできる。なお、粘着シートは、前記塗布の他、例えば押し出し成形やカレンダー加工等によりシート状に成形することもできる。
【0040】
<粘着テープ>
次に、本発明にかかる粘着テープについて説明する。本発明にかかる粘着テープは、基材フィルムの少なくとも片面に粘着剤層を設けてなり、該粘着剤層が前記した本発明の粘着シートからなる。したがって、本発明の粘着テープは、前記した粘着シートと同様の効果を奏するとともに、基材フィルムを含む分、粘着シートよりも剛性が高く、取り扱い性に優れるという効果を奏する。
【0041】
前記基材フィルムとしては、例えばポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体、エチレンポリプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂フィルムが挙げられる。
【0042】
前記基材フィルムは、単層体または複層体からなるものであってもよく、厚さは、通常、25〜250μm程度である。基材フィルムの表面には、粘着剤層に対する密着性を向上させるため、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、ブラスト処理、ケミカルエッチング処理、プライマー処理等の表面処理を施すことができる。
【0043】
基材フィルムの片面に粘着剤層を設けるには、前記した側鎖結晶性ポリマーおよび発泡剤を溶剤に加えた塗布液を、基材フィルムの片面に塗布して乾燥させればよい。粘着剤層の厚さは、前記した粘着シートと同様の10〜70μmであり、好ましくは10〜50μmである。
【0044】
一方、前記粘着テープは、基材フィルムの他面にも粘着剤層を設けて両面粘着テープの形態で使用することもできる。他面の粘着剤層は、特に限定されるものではなく、例えば片面の粘着剤層と同様に、本発明の粘着シートからなる粘着剤層であってもよい。この場合、片面の粘着剤層と他面の粘着剤層とは、その組成や厚さが互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。その他の構成は、前記した粘着シートと同様である。
【0045】
<精密研磨方法・研削方法>
次に、本発明にかかる精密研磨方法および研削方法について説明する。本発明にかかる精密研磨方法は、前記した本発明の粘着シートを用いて被研磨物を精密研磨する方法であり、以下の(i)〜(iv)の工程を備える。
(i)前記粘着シートを被研磨物と台座との間に介在させる工程。
(ii)前記粘着シートの温度を前記融点以上かつ発泡剤の発泡温度未満の温度にした後に前記融点未満の温度にし、該粘着シートを介して前記被研磨物を台座に固定する工程。
(iii)固定した前記被研磨物を精密研磨する工程。
(iv)前記粘着シートの温度を発泡剤の発泡温度以上の温度にし、精密研磨した前記被研磨物を粘着シートから取り外す工程。
【0046】
また、本発明にかかる研削方法は、前記した本発明の粘着シートを用いて被研削物を研削する方法であり、以下の(I)〜(IV)の工程を備える。
(I)前記粘着シートを被研削物と台座との間に介在させる工程。
(II)前記粘着シートの温度を前記融点以上かつ発泡剤の発泡温度未満の温度にした後に前記融点未満の温度にし、該粘着シートを介して前記被研削物を台座に固定する工程。
(III)固定した前記被研削物を研削する工程。
(IV)前記粘着シートの温度を発泡剤の発泡温度以上の温度にし、研削した前記被研削物を粘着シートから取り外す工程。
【0047】
本発明にかかる精密研磨方法および研削方法では、いずれも前記した粘着シートを用いるので、前記(i),(I)の工程を室温で行えば、粘着シートは前記した理由から粘着力を発現していない状態にあり、それゆえ被研磨物および被研削物に対する粘着シートの位置決めを容易に行うことができる。
【0048】
また、前記(ii),(II)の工程では、被研磨物および被研削物を前記した理由から安定して台座に固定することができる。したがって、前記(iii)の工程では、マイクロメートルスケールの精密研磨を精度よく行うことができる。また、前記(III)の工程では、被研削物を所望の形状に研削することができる。
【0049】
そして、前記(iv),(IV)の工程では、固定力を前記した理由から十分に低下させることができるので、被研磨物および被研削物の取り外しを容易に行うことができる。なお、被研磨物および被研削物としては、所望のものを採用することができ、特に限定されないが、サファイアガラス等が好適である。
【0050】
以下、合成例および実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の合成例および実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の説明で「部」は重量部を意味する。
【0051】
(合成例1)
ベヘニルアクリレート(日油社製)を45部、ブチルアクリレート(日本触媒社製)を50部、ヒドロキシエチルアクリレート(日本触媒社製)を5部、およびパーブチルND(日油社製)を0.5部の割合で、それぞれ酢酸エチル:n−ヘプタン=7:3(重量比)の混合溶媒230部に加えて混合し、60℃で5時間撹拌して、これらのモノマーを重合させた。得られた共重合体の融点は45℃、重量平均分子量は550,000であった。
【0052】
(合成例2)
さらにドデシルメルカプタン(日油社製)を3部加えた以外は前記合成例1と同様にして前記モノマーを重合させた。得られた共重合体の融点は45℃、重量平均分子量は15,000であった。
【0053】
(合成例3)
ベヘニルアクリレート(日油社製)を35部、ステアリルアクリレートを10部、メチルアクリレート(日本触媒社製)を50部、アクリル酸を5部、およびパーブチルND(日油社製)を0.5部の割合で、それぞれ酢酸エチル:n−ヘプタン=7:3(重量比)の混合溶媒230部に加えて混合し、60℃で5時間撹拌して、これらのモノマーを重合させた。得られた共重合体の融点は45℃、重量平均分子量は550,000であった。
【0054】
(比較合成例1)
前記混合溶媒の割合を230部に代えて130部にした以外は、前記合成例1と同様にして前記モノマーを重合させた。得られた共重合体の融点は45℃、重量平均分子量は800,000であった。
【0055】
(比較合成例2)
ベヘニルアクリレート(日油社製)を45部、ブチルアクリレート(日本触媒社製)を50部、ヒドロキシエチルアクリレート(日本触媒社製)を5部、ドデシルメルカプタン(日油社製)を6部、ドデシルメルカプタン(日油社製)を6部、およびパーヘキシルPV(日油社製)を1部の割合で、それぞれトルエン100部に加えて混合し、80℃で5時間撹拌して、これらのモノマーを重合させた。得られた共重合体の融点は45℃、重量平均分子量は7,900であった。
【0056】
前記合成例1〜3および比較合成例1,2の各共重合体は、いずれも側鎖結晶性ポリマーである。これらの各共重合体を、表1に示す。なお、前記重量平均分子量は、共重合体をGPCで測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。前記融点は、DSCを用いて10℃/分の測定条件で測定した値である。
【0057】
【表1】

【0058】
[実施例1〜3および比較例1〜5]
<粘着シートの作製>
まず、前記合成例1〜3および比較合成例1,2で得られた各共重合体を、酢酸エチルを用いて固形分が30%になるよう調整して各共重合体溶液を得た。ついで、各共重合体溶液に発泡剤を表2に示す割合で添加した。なお、発泡剤としては、発泡開始温度(発泡温度)93〜98℃、平均粒径10〜16μmのマイクロカプセル化された熱膨張性微粒子であるEXPANCEL社製の「551DU40」を用いた。また、表2中、発泡剤の添加量は、固形分換算で共重合体(側鎖結晶性ポリマー)100重量部に対する値を示す。
【0059】
ついで、発泡剤を含有した前記共重合体溶液を、シリコンによる離型処理を施した厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(離型フィルム)の片面に塗布し、80℃の雰囲気温度で乾燥させ、表2に示す厚さを有する各粘着シートを得た(表2中の実施例1〜3および比較例1〜5)。
【0060】
<評価>
上記で得た各粘着シートについて、貯蔵弾性率G’、垂直剥離強度、剥離性、糊残り、および研磨精度を評価した。各評価方法を以下に示すとともに、結果を表2に併せて示す。
【0061】
(貯蔵弾性率G’)
セイコーインスツルメンツ社(Seiko Instruments Inc.)製の動的粘弾性測定装置「DMS 6100」を用いて、10Hz、5℃/分、0〜100℃の昇温過程において、23℃および60℃における粘着シートの貯蔵弾性率G’を測定した。
【0062】
(垂直剥離強度)
融点以上かつ発泡剤の発泡温度未満の温度を経た後の23℃における垂直剥離強度を測定した。具体的には、まず、雰囲気温度23℃において、離型フィルムから剥離した粘着シートを、台板となるステンレス鋼(SUS)製のプレート上に載置した。ついで、雰囲気温度を60℃に昇温した後、粘着シート表面を、縦10mm×横10mm×厚さ10mmのステンレス鋼製のプローブで2kg/cm2の圧力をかけて10秒間圧着した。ついで、圧力を解除し、プローブを粘着シート表面に貼着した状態で20分間放置した後、雰囲気温度を60℃から23℃に降温して20分間放置した。そして、300mm/分の速度でプローブを粘着シート表面から垂直方向に剥離した際の強度を測定した。
【0063】
(剥離性)
まず、雰囲気温度23℃において、離型フィルムから剥離した粘着シートを、台板となるステンレス鋼製のプレート上に載置した。ついで、雰囲気温度を60℃に昇温した後、粘着シート表面を、直径100mm×厚さ500μmの円形のガラス板で2kg/cm2の圧力をかけて10秒間圧着した。ついで、圧力を解除し、ガラス板を粘着シート表面に貼着した状態で20分間放置した後、雰囲気温度を60℃から23℃に降温して20分間放置した。
【0064】
そして、雰囲気温度を23℃から120℃まで昇温し、当該雰囲気温度においてガラス板の自重のみでガラス板が粘着シート表面から剥離するか否かを目視観察した。なお、前記120℃は、側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度であり、かつ発泡剤が実質的に完全に発泡する温度である。また、判定基準は以下のものを用いた。
○:120℃昇温後1分以内にガラス板の自重のみでガラス板が粘着シート表面から剥離した。
×:120℃昇温後5分を超えてもガラス板の自重のみでガラス板が粘着シート表面から剥離しなかった。
【0065】
(糊残り)
前記剥離性の評価において、剥離後のガラス板表面を電子顕微鏡(倍率:100倍)にて観察し、糊残りの有無を確認した。なお、剥離性の評価が×のものについては、手でガラス板を粘着シート表面から剥離することにより評価した。また、判定基準は以下のものを用いた。
○:糊残りがない。
×:糊残りがある。
【0066】
(研磨精度)
まず、雰囲気温度23℃において、離型フィルムから剥離した粘着シートを、台板となるセラミック製のプレート上に載置した。ついで、雰囲気温度を60℃に昇温した後、粘着シート表面を、直径100mm×厚さ500μmの円形のサファイアガラス板で2kg/cm2の圧力をかけて10秒間圧着した。ついで、圧力を解除し、サファイアガラス板を粘着シート表面に貼着した状態で20分間放置した後、雰囲気温度を60℃から23℃に降温して20分間放置した。
【0067】
その後、ウェハーシクネスゲージによりサファイアガラス板の研磨を行った。サファイアガラス板の厚さが500μmから250μmになるまで研磨をした後、雰囲気温度を23℃から120℃まで昇温し、サファイアガラス板を粘着シート表面から剥離した。そして、剥離したサファイアガラス板の厚さをウェハーシクネスゲージを用いて5点測定し、そのバラツキを測定した。なお、判定基準は以下のものを用いた。
○:厚さのバラツキが3μm以内である。
×:厚さのバラツキが3μmより大きい。
【0068】
【表2】

【0069】
表1および表2から明らかなように、実施例1〜3は、垂直剥離強度が高く、それゆえ被着体を固定する際の固定力に優れているのがわかる。また、23℃における貯蔵弾性率G’が高く、研磨精度においても優れた結果を示した。さらに、剥離性および糊残りの評価においても、良好な結果を示しているのがわかる。なお、実施例3の垂直剥離強度の評価結果が実施例1,2よりも若干劣る理由としては、60℃における貯蔵弾性率G’が、実施例1,2よりも高いことによるものと推察される。
【0070】
一方、発泡剤の含有量が特定の割合よりも少ない比較例1は、剥離性および糊残りの評価に劣る結果を示した。また、発泡剤の含有量が特定の割合よりも多い比較例2、厚さが特定の厚さよりも薄い比較例3、および側鎖結晶性ポリマーの重量平均分子量が特定の値よりも大きい比較例4は、いずれも垂直剥離強度が低く、研磨精度に劣る結果を示した。側鎖結晶性ポリマーの重量平均分子量が特定の値よりも小さい比較例5は、剥離性および糊残りの評価に劣る結果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖結晶性ポリマーと、該側鎖結晶性ポリマー100重量部に対して10〜110重量部の発泡剤と、を含有し、
前記側鎖結晶性ポリマーは、
融点が30℃以上かつ前記発泡剤の発泡温度未満の温度であり、
前記融点未満の温度で結晶化しかつ融点以上の温度で流動性を示すとともに、
重量平均分子量が10,000〜700,000であり、
厚さが10〜70μmであることを特徴とする粘着シート。
【請求項2】
前記側鎖結晶性ポリマーは、
炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレート30〜100重量部と、
炭素数1〜6のアルキル基を有する(メタ)アクリレート0〜70重量部と、
極性モノマー0〜10重量部と、
を重合させて得られる重合体である請求項1記載の粘着シート。
【請求項3】
前記炭素数1〜6のアルキル基を有する(メタ)アクリレートがブチルアクリレートである請求項1または2記載の粘着シート。
【請求項4】
前記融点以上かつ前記発泡剤の発泡温度未満の温度を経た後の23℃における垂直剥離強度が10〜500N/cm2である請求項1〜3のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項5】
23℃における貯蔵弾性率G’が4×106〜5×107Paである請求項1〜4のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項6】
60℃における貯蔵弾性率G’が1×103〜7×104Paである請求項1〜5のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項7】
前記融点以上かつ前記発泡剤の発泡温度未満の温度で貼着した被着体を、前記融点未満の温度で固定し、前記発泡剤の発泡温度以上の温度で取り外す請求項1〜6のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項8】
基材フィルムの少なくとも片面に粘着剤層を設けてなり、該粘着剤層が請求項1〜7のいずれかに記載の粘着シートからなることを特徴とする粘着テープ。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の粘着シートを用いて被研磨物を精密研磨する方法であって、
前記粘着シートを被研磨物と台座との間に介在させる工程と、
前記粘着シートの温度を前記融点以上かつ前記発泡剤の発泡温度未満の温度にした後に前記融点未満の温度にし、該粘着シートを介して前記被研磨物を台座に固定する工程と、
固定した前記被研磨物を精密研磨する工程と、
前記粘着シートの温度を前記発泡剤の発泡温度以上の温度にし、精密研磨した前記被研磨物を粘着シートから取り外す工程と、
を含むことを特徴とする精密研磨方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の粘着シートを用いて被研削物を研削する方法であって、
前記粘着シートを被研削物と台座との間に介在させる工程と、
前記粘着シートの温度を前記融点以上かつ前記発泡剤の発泡温度未満の温度にした後に前記融点未満の温度にし、該粘着シートを介して前記被研削物を台座に固定する工程と、
固定した前記被研削物を研削する工程と、
前記粘着シートの温度を前記発泡剤の発泡温度以上の温度にし、研削した前記被研削物を粘着シートから取り外す工程と、
を含むことを特徴とする研削方法。

【公開番号】特開2011−236291(P2011−236291A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107352(P2010−107352)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】