説明

粘着体および粘着シート

【課題】硬化前の組成物は低粘度で塗工性が良く、無溶剤化が可能であり、硬化後は粘着力が低く、かつ粘着力の経時上昇が小さく、基材への密着性が良好であり、また被着体への密着性および再剥離性に優れ、かつ濡れ性も良好である、耐久性に優れた粘着体を提供する。
【解決手段】主鎖に、ポリエーテル鎖、ポリエステル鎖、および/またはポリカーボネート鎖を有し分子末端に加水分解性シリル基を有するシリル基含有重合体(S)と、アクリル重合体(P)とを含む硬化性組成物を硬化させて得られる粘着体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着体および粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤は、被着体と接着して剥がれ難いことが要求される。一方粘着剤は、テープ等の形状に成形され、貼り合わせた直後から良好な接着性を発現させることが求められている。また同時に粘着剤には、糊残りが無いように剥離できる再剥離性が要求される。接着剤が永久接着を要求されることに対して、粘着剤では一時的な接着性と再剥離性とがそろって要求される。したがって接着剤と粘着剤とは、似てはいるが根本的に要求特性が異なる。
【0003】
従来の粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、オキシアルキレン系粘着剤が知られている。特に最近は、強い粘着力を有する強粘着型粘着剤から、微小な粘着力を有する微粘着型粘着剤まで広範囲の用途にアクリル系粘着剤が使用される傾向がある。しかし、アクリル系粘着剤は、被着体に貼付した後、経時変化によって、粘着力が上昇したり移行性が高くなる傾向がある。このため被着体に糊残りが生じ易く、再剥離性が不充分になりやすいという問題がある。
ゴム系粘着剤は、取り扱い性や粘着性能の調整のため低分子量可塑剤の添加が不可欠である。そのため長期間経過すると、低分子量可塑剤が表面に移行して、著しい性能低下を起こす問題がある。
シリコーン系粘着剤は、耐熱性に優れる。しかし高価であり、特殊な用途にしか展開されていない。
【0004】
ウレタン系粘着剤は、経時変化が少なく安定性に優れるという特性を有する(特許文献1参照。)。しかし製造工程が長い傾向にあり、アクリル系粘着剤と比較すると高価になりがちである。また製造工程が長いため、品質のばらつきが発生しやすく、工程管理が煩雑になりやすいという問題があった。
オキシアルキレン系粘着剤は、有機溶剤を使用せずに塗布可能という特性を有する(特許文献2、3参照。)。しかし粘着付与樹脂のブリードが発生することがあり、長期の粘着力の安定性という点で問題があった。
【0005】
近年、電気部品、電子材料などを製造する際、保護シートや保護テープが多用されている。これらの部品や材料を、保管、搬送などの工程において、傷やほこりから守るためである。特に電子部品、光学部材の製造においては、微小な塵が製造途中の製品に付着することを徹底的に排除する必要がある。塵は汚染の原因となり、製品不良を発生させるからである。この保護シートや保護テープとしては、低い粘着力を有する粘着剤の層が設けられた粘着性シートや粘着性テープが採用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−12751号公報
【特許文献2】国際公開第2005/73333号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2005/73334号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アクリル系などの従来の粘着剤においては、基材への密着性や濡れ性が劣る、粘着力が経時的に上昇しやすい、という問題があった。特に粘着力が低い粘着剤を製造しようとした場合、初期の粘着力が低くなるように粘着剤の組成を調整しても、貼着時間が長時間になれば粘着力が上昇するという問題があった。粘着力が上昇すると被着体が変形したり、破損する可能性が生じる。また逆に一定時間後に粘着力が低くなるよう粘着剤の組成を調整すると、そもそも初期に充分な粘着力が得られないという問題があった。充分な粘着力が得られないと被着体から意図せずに剥離してしまい、保護シートなどの所定の役割を果たせない。また粘着剤層の厚さを薄くして、粘着力の上昇を抑制することもある。しかしこの場合、保持力が低下したり厚みの精度を上げることが困難であった。
【0008】
特許文献1に記載のウレタン系粘着剤の原料である樹脂を製造する際に、原料のわずかな反応性の差を利用して所定の構造を有する高分子を得ている。しかし反応性の差による構造の制御は、精密な反応条件の制御が必要である。結果としてこの樹脂の製造においては、分子量の制御が難しく、所望の性能の粘着剤を得ることが困難であった。特に高分子量体の生成と、それに伴うゲル化の進行の制御が困難であった。分子量は、分子の凝集力と関係し、粘着性、再剥離特性に影響がある。またゲル化が極度に進行すると、得られる組成物が高粘度化しやすい。組成物が高粘度であると、粘着剤の成形加工の際に、所定厚さを均一に有する粘着体層を得ることが困難な場合や、得られた粘着体の表面が平滑でなくなる場合があり、製造上の問題があった。溶剤を利用して見かけの粘度を低下させても、厚い粘着体が得にくい、発泡が生じやすい、長い乾燥時間が必要になるなどの問題が発生する。
【0009】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたもので、硬化前の組成物は低粘度で塗工性が良く、無溶剤化が可能であり、硬化後は粘着力が低く、かつ粘着力の経時上昇が小さく、基材への密着性が良好であり、また被着体への密着性および再剥離性に優れ、かつ濡れ性も良好である、耐久性に優れた粘着体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の態様を有する。
[1]主鎖に、ポリエーテル鎖、ポリエステル鎖、および/またはポリカーボネート鎖を有し分子末端に加水分解性シリル基を有するシリル基含有重合体(S)と、アクリル重合体(P)とを含む硬化性組成物を硬化させて得られる粘着体。
[2]前記シリル基含有重合体(S)が、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、および、ポリエーテルポリエステルポリオールからなる群から選ばれる1種以上のポリオール化合物の末端に加水分解性シリル基を導入して得られるシリル基含有重合体(S1)である[1]に記載の粘着体。
[3]前記シリル基含有重合体(S)が、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、および、ポリエーテルポリエステルポリオールからなる群から選ばれる1種以上のポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させて得られるポリウレタンプレポリマーの末端に加水分解性シリル基を導入して得られるシリル基含有重合体(S2)である[1]に記載の粘着体。
[4]前記シリル基含有重合体(S)が、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、および、ポリエーテルポリエステルポリオールからなる群から選ばれる1種以上のポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させて得られるポリウレタンプレポリマーを、さらに鎖延長剤を用いて鎖延長反応させて得られるポリウレタン重合体の分子末端に加水分解性シリル基を導入して得られるシリル基含有重合体(S3)である[1]に記載の粘着体。
【0011】
[5]前記アクリル重合体(P)が、数平均分子量が1万〜100万である[1]〜[4]のいずれかに記載の粘着体。
[6]前記シリル基含有重合体(S)の加水分解性シリル基が、イソシアネートシラン類、アミノシラン類、メルカプトシラン類、エポキシシラン類、および、ヒドロシラン類から選ばれる1種以上のシラン化合物を用いて導入された、[1]〜[5]のいずれかに記載の粘着体。
[7]前記加水分解性シリル基がトリアルコキシシリル基である[1]〜[6]のいずれかに記載の粘着体。
[8]剥離粘着力が8N/25mm以下である[1]〜[7]のいずれかに記載の粘着体。
[9]基材層と少なくとも1層の粘着体層とを有する粘着シートであって、該粘着体層が[1]〜[8]のいずれか一項に記載の粘着体からなることを特徴とする粘着シート。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、硬化前の組成物は低粘度で塗工性が良く、無溶剤化が可能であり、硬化後は粘着力が低く、かつ粘着力の経時上昇が小さく、基材への密着性が良好であり、また被着体への密着性および再剥離性に優れ、かつ濡れ性も良好である、耐久性に優れた粘着体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書における分子量分布とは、質量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で割った値をいう。本明細書における数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、分子量既知の標準ポリスチレン試料を用いて作成した検量線を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定することによって得られるポリスチレン換算分子量である。
本明細書における平均水酸基価(OHV)は、JIS−K−1557−6.4に基づいた測定値である。
【0014】
本明細書において、粘着性(adherence property)とは、軽い圧力で被着材に接着し、かつ、任意に再剥離可能な性質である。粘着剤(pressure sensitive adhesive)とは、粘着性を有し、軽い圧力で被着材に接着する物質である。また再剥離性を有し、一時的な接着に用いる。一方、接着剤は永久接着性能を有する点で、粘着剤とは異なる。
粘着体(adherence substance)とは、粘着性を有する成形体である。また粘着性シート(単に、粘着シートともいう。)(pressure sensitive adhesive sheet)とは、粘着性を有するシートである。ただし本明細書においては厚さは問わず、シートとフィルムとは区別しない。粘着性シートは、通常は、少なくとも基材層と粘着体層とを構成要素として有する積層体である。また粘着性テープ(単に、粘着テープともいう。)(pressure sensitive adhesive tape)とは、テープ形状の粘着性シートである。
【0015】
本明細書において、剥離粘着力(被着体からの剥離強度)により、粘着剤を分類することがある。剥離粘着力が0N/25mmを超え1N/25mm以下の場合を微粘着、剥離粘着力が1N/25mmを超え8N/25mm以下の場合を低粘着、剥離粘着力が8N/25mmを超え15N/25mm以下の場合を中粘着、剥離粘着力が15N/25mmを超え50N/25mm以下の場合を強粘着という。なお特に断りがない場合には、剥離粘着力はJIS−Z−0237(1999)−8.3.1に規定される180度引きはがし法に準拠し、以下の試験方法に従う。
すなわち、23℃の環境で、厚さ1.5mmのブライトアニール処理したステンレス鋼板(SUS304(JIS))に、測定する粘着シート試験片(幅:25mm)を貼着し、質量が2kgのゴムロールで圧着する。30分後、JIS−B−7721に規定する引張り試験機を用い、剥離強度(180度ピール、引張り速度300mm/分)を測定する。こうして得られる貼着30分後の剥離強度の値を本発明における「剥離粘着力」とする。
【0016】
<シリル基含有重合体(S)>
本発明の粘着体はシリル基含有重合体(S)とアクリル重合体(P)とを含む硬化性組成物を硬化させて得られる。シリル基含有重合体(S)は、主鎖にポリエーテル鎖、ポリエステル鎖、および/またはポリカーボネート鎖を有し分子末端に加水分解性シリル基を有する。
シリル基含有重合体(S)は、下記(S1)〜(S3)のうちいずれか1種のみ、または、2種以上を混合して用いることが好ましい。このうち特に得られる硬化体が柔軟性と濡れ性に優れる点から(S1)が好ましい。
【0017】
<シリル基含有重合体(S1)>
シリル基含有重合体(S1)は、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、および、ポリエーテルポリエステルポリオールからなる群から選ばれる1種以上のポリオール化合物の末端に加水分解性シリル基を導入して得られる。
本発明におけるポリエーテルポリオールは、ポリエーテル鎖(−OR−)n1[Rは炭素数2〜4のアルキレン基、n1は1〜1000の整数]を有するポリオールであり、ポリエステル鎖を有さない。
ポリエステルポリオールは、ポリエステル鎖(−OC(O)−R−)n2[Rは炭素数2〜8のアルキレン基またはアリーレン基、n2は1〜1000の整数]を有するポリオールであり、ポリエーテル鎖を有さない。
ポリカーボネートポリオールは、ポリカーボネート鎖(−OC(O)−O−R−)n3[Rは炭素数2〜20のアルキレン基またはアリーレン基、n3は1〜1000の整数]を有するポリオールであり、ポリエーテル鎖およびポリエステル鎖のいずれも有さない。
ポリエーテルポリエステルポリオールは、ポリエーテル鎖およびポリエステル鎖の両方を有するポリオールである。
シリル基含有重合体(S1)は、特に、上記ポリオール化合物に、後述する(PQ1)〜(PQ5)のいずれかに記載の方法で加水分解性シリル基を導入して得られるものが好ましい。
【0018】
<シリル基含有重合体(S2)>
シリル基含有重合体(S2)は、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、および、ポリエーテルポリエステルポリオールからなる群から選ばれる1種以上のポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させて得られるポリウレタンプレポリマーの末端に、加水分解性シリル基を導入して得られるものである。
シリル基含有重合体(S2)は、特に、ポリウレタンプレポリマーに、後述する(PQ1)〜(PQ5)のいずれかに記載の方法で加水分解性シリル基を導入して得られるものが好ましい。
【0019】
<シリル基含有重合体(S3)>
シリル基含有重合体(S3)は、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、および、ポリエーテルポリエステルポリオールからなる群から選ばれる1種以上のポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させて得られるポリウレタンプレポリマーを、さらに鎖延長剤を用いて鎖延長反応させて得られるポリウレタン重合体の分子末端に、加水分解性シリル基を導入して得られるものである。
シリル基含有重合体(S3)は、特に、ポリウレタン重合体に、後述する(PQ1)〜(PQ5)のいずれかに記載の方法で加水分解性シリル基を導入して得られるものが好ましい。
【0020】
<ポリオール化合物>
本発明にかかるポリオール化合物としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリエステルポリオールを用いることができる。ポリオール化合物としてはこれらのポリオールの1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。特にポリエーテル骨格(ポリエーテル鎖)を有するポリオールの少なくとも1種を用いることが粘着体の柔軟性を確保する点で好ましい。粘着体が柔軟であることは、被着体から粘着体を剥離する際に、滑らかに剥離することなくバリバリという音を発する現象、いわゆるジッピングの抑制に効果的であると考えられる。またポリエーテル骨格を有することにより、硬化性組成物の粘度を低くできる。さらにポリエーテル骨格を有することにより、粘着体の表面抵抗を低くでき、剥離帯電を抑制できると推定される。
シリル基含有重合体(S)におけるエーテル結合(−OR−)の割合は、エーテル結合とエステル結合(−OC(O)−R−)との合計(100モル%)に対して、40〜100モル%が好ましく、50〜100モル%がより好ましく、60〜100モル%がさらに好ましい。
【0021】
ポリエーテル骨格を有するポリオールとは、例えばポリエーテルポリオール、ポリエーテルポリエステルポリオールなどのようにポリエーテル鎖を有するポリオールを意味する。
本発明においてシリル基含有重合体(S)を得るためのポリオール化合物として、特にポリエーテルポリオールおよびポリエーテルポリエステルポリオールから選ばれる1種または2種以上のポリオールを用いるか、ポリエーテルポリオールおよびポリエーテルポリエステルポリオールから選ばれる1種または2種以上のポリオールと、ポリエステルポリオールおよびポリカーボネートポリオールから選ばれる1種または2種以上のポリオールとを併用することが好ましい。さらに好ましくは、ポリエーテルポリオールまたはポリエーテルポリエステルポリオールを用いる。
【0022】
上記ポリエーテルポリオールとしては、ポリオキシアルキレンポリオールが好ましい。
ポリオキシアルキレンポリオールを構成するアルキレン基としては、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、プロピレン基、ブチレン基、メチルトリメチレン基等が挙げられる。これらは対応する環状エーテル化合物やエポキシド化合物を開環重合することにより得られる。環状エーテル化合物としては、テトラヒドロフラン、オキセタンなどが挙げられる。エポキシド化合物としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどが挙げられる。ポリエーテルポリオールとしては、ポリオキシテトラメチレンポリオール、ポリオキシエチレンポリオール、ポリオキシプロピレンポリオール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオールが好適に例示できる。
【0023】
上記ポリエーテルポリエステルポリオールとしては、エーテルジオール類と二塩基酸化合物との縮合重合で得られるポリオール、エポキシド化合物と環状エステル類との開環共重合(特にランダム共重合が好ましい)で得られるポリオールなどが例示できる。エーテルジオール類としては、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールなどが例示できる。二塩基酸化合物としては、フタル酸、マレイン酸、アジピン酸、フマル酸などが例示できる。環状エステル類(ラクトン類)としては、β−プロピオラクトン(炭素数3)、δ−バレロラクトン(炭素数5)、ε−カプロラクトン(炭素数6)が挙げられる。これらのうちでもε−カプロラクトンがより好ましい。エポキシド化合物は前述のとおりである。
【0024】
上記ポリエステルポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの低分子ジオール類と前述の二塩基酸化合物との縮合重合で得られるポリオールが例示できる。
上記ポリカーボネートポリオールとしては、アルキレンカーボネート、ジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネートからなる低分子カーボネート化合物と、ジオール化合物とを反応させて得られるものが好ましい。具体的には、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ(3−メチルペンテンカーボネート)ジオール、ポリプロピレンカーボネートジオールなどが例示できる。また、それらの混合物またはそれらの共重合物などであってもよい。
【0025】
本発明においてシリル基含有重合体(S)を得るためのポリオール化合物の水酸基数は2〜3が好ましく、2が最も好ましい。すなわちポリオール化合物としてジオールを用いることが特に好ましい。水酸基数がこの範囲であれば、得られるポリウレタンプレポリマーの粘度を低く抑えやすいため好ましい。
また該ポリオール化合物の平均水酸基価は5〜225mgKOH/gが好ましく、7〜115mgKOH/gがより好ましく、10〜112mgKOH/gが特に好ましい。平均水酸基価がこの範囲であれば、得られるシリル基含有重合体(S)の粘度を低く抑えやすいため好ましい。
特にシリル基含有重合体(S1)を得る場合のポリオール化合物の平均水酸基価は5〜112mgKOH/gが好ましく、7〜56mgKOH/gがより好ましい。さらに7〜28mgKOH/gが特に好ましい。またシリル基含有重合体(S2)または(S3)を得る場合のポリオール化合物の平均水酸基価は25〜225mgKOH/gが好ましく、30〜115mgKOH/gがより好ましい。
【0026】
<ポリイソシアネート化合物>
シリル基含有重合体(S2)または(S3)を得るためにはポリウレタンプレポリマーを用いる。このポリウレタンプレポリマーの合成に用いるポリイソシアネート化合物としては、公知のものを使用することができる。具体的にはジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレン−ビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネートおよびヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物が挙げられる。これらは1種類のみを用いても、2種類以上を併用してもよい。得られる粘着体の柔軟性が向上することから屈曲鎖を有するポリイソシアネート化合物が好ましい。具体的には、トリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートが例示できる。このうちトリレンジイソシアネートまたはイソホロンジイソシアネートが特に好ましい。
【0027】
<ポリウレタンプレポリマー>
シリル基含有重合体(S2)または(S3)を得るためのポリウレタンプレポリマーは、前記ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させて得られる。ポリウレタンプレポリマーの末端はイソシアネート基または水酸基であり、加水分解性シリル基の導入方法により適宜選択される。すなわちイソシアネート基末端ポリウレタンプレポリマーであっても、水酸基末端ポリウレタンプレポリマーであってもよい。
ポリウレタンプレポリマーを合成する際に、前記ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させる割合は、ポリオール化合物の分子量(平均水酸基価)および目標とするポリウレタンプレポリマーの分子量によって適宜選択される。イソシアネート基末端ポリウレタンプレポリマーを得る場合には、反応させる前記ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との割合は、「ポリイソシアネート化合物のNCO基/ポリオール化合物のOH基」のモル比の100倍の値で定義されるイソシアネート指数が100超〜200であることが好ましく、105〜170がより好ましい。水酸基末端ポリウレタンプレポリマーを得る場合には、前記反応させるポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との割合は、イソシアネート指数で50〜100未満が好ましく、50〜98がより好ましい。
ポリウレタンプレポリマーの分子量は、数平均分子量で2,000〜100,000が好ましい。より好ましくは3,000〜80,000である。
【0028】
シリル基含有重合体(S3)を得るためのポリウレタン重合体は、ポリウレタンプレポリマーを、さらに鎖延長剤を用いて鎖延長反応させて得られる。ポリウレタンプレポリマーは、シリル基含有重合体(S2)の場合と同様である。
【0029】
<鎖延長剤>
鎖延長剤としては、ポリウレタンプレポリマーとしてイソシアネート基末端ポリウレタンプレポリマーを用いる場合は、低分子ジオール類、低分子ジアミン類が好ましい。低分子ジオール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどが好適に例示できる。低分子ジアミン類としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン;ピペラジン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジアミン等の脂環式ジアミン;及びトリレンジアミン、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。
ポリウレタンプレポリマーとして水酸基末端ポリウレタンプレポリマーを用いる場合は、鎖延長剤としてジイソシアネート化合物が好ましい。ジイソシアネート化合物はポリウレタンプレポリマーに用いるものと同様である。
【0030】
<ポリウレタン樹脂>
本発明にかかるポリウレタン樹脂は、前記ポリウレタンプレポリマーを鎖延長反応させて得られる。ポリウレタン樹脂の末端はイソシアネート基、水酸基、またはアミノ基であり、加水分解性シリル基の導入方法により適宜選択される。すなわちイソシアネート基末端ポリウレタン樹脂であっても、水酸基末端ポリウレタン樹脂であっても、アミノ基末端ポリウレタン樹脂であってもよい。
ポリウレタン樹脂を合成する際に、前記ポリウレタンプレポリマーと鎖延長剤とを反応させる割合は、ポリウレタンプレポリマーの分子量および目標とするポリウレタン樹脂の分子量によって適宜選択される。
【0031】
イソシアネート基末端ポリウレタンプレポリマーを低分子ジオール類を鎖延長剤として用いて鎖延長する場合、ポリウレタンプレポリマーと低分子ジオール類との割合は、「ポリウレタンプレポリマーのNCO基/低分子ジオール類のOH基」のモル比の100倍の値で定義されるイソシアネート指数が100超〜200であることが好ましく、100超〜150がより好ましい。この範囲であるとイソシアネート基末端ポリウレタン樹脂が得られる。
また水酸基末端ポリウレタン樹脂を得る場合には、該イソシアネート指数が50〜100未満であることが好ましく、50〜98がより好ましい。
【0032】
イソシアネート基末端ポリウレタンプレポリマーを低分子ジアミン類を鎖延長剤として用いて鎖延長する場合、ポリウレタンプレポリマーと低分子ジアミン類との割合は、「ポリウレタンプレポリマーのNCO基/低分子ジアミン類のNH基」のモル比の100倍の値で定義されるイソシアネート指数が50〜100未満であることが好ましく、50〜98がより好ましい。この範囲であるとアミノ基末端ポリウレタン樹脂が得られる。
また、イソシアネート基末端ポリウレタン樹脂を得る場合は、イソシアネート指数が100超〜200であることが好ましく、100超〜150がより好ましい。
【0033】
水酸基末端ポリウレタンプレポリマーを、鎖延長剤としてジイソシアネート化合物を用いて鎖延長して、イソシアネート基末端ポリウレタン重合体を得る場合、ポリウレタンプレポリマーとジイソシアネート化合物との割合は、「鎖延長剤のNCO基/ポリウレタンプレポリマーのOH基」のモル比の100倍の値で定義されるイソシアネート指数が100超〜200であることが好ましく、101〜150がより好ましい。
また水酸基末端ポリウレタン重合体を得る場合には、該イソシアネート指数が50〜100未満であることが好ましく、50〜98がより好ましい。
【0034】
ポリウレタン重合体の分子量は、数平均分子量で4,000〜500,000が好ましい。より好ましくは8,000〜250,000である。
【0035】
<加水分解性シリル基>
本発明において加水分解性シリル基とは、加水分解性基を有するシリル基である。具体的には、−SiX(3−a)で表されるシリル基が好ましい。ここで、aは1〜3の整数を示す。aは好ましくは2〜3であり、3が最も好ましい。
またRは炭素数1〜20の1価の有機基であり、炭素数1〜6の1価の有機基が好ましい。具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。Rは置換基を有していてもよい。該置換基の例としてはメチル基、フェニル基等が挙げられる。
加水分解性シリル基がRを複数有する場合、該複数のRは互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、aが1である場合、1個のケイ素原子(Si)に結合している2個のRはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の1価の有機基を示す。
【0036】
また上記Xは水酸基(−OH)又は加水分解性基を示す。該加水分解性基としては、例えば−OR基(Rは炭素数4以下の炭化水素基)が挙げられる。かかる−OR基は、アルコキシ基又はアルケニルオキシ基であることが好ましく、アルコキシ基が特に好ましい。
アルコキシ基又はアルケニルオキシ基の炭素数は4以下が好ましい。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基又はプロペニルオキシ基等が挙げられる。これらの中でもメトキシ基またはエトキシ基がより好ましい。この場合、硬化性組成物の硬化速度をより高めることができる。
加水分解性シリル基中にXが複数個存在する場合、該複数のXは互いに同一でも異なってもよい。すなわち、aが2または3である場合、Xはそれぞれ独立に、水酸基又は加水分解性基を示す。
加水分解性シリル基としては、トリアルコキシシリル基が好ましく、トリメトキシシリル基またはトリエトキシシリル基がより好ましく、トリメトキシシリル基が特に好ましい。シリル基含有重合体(S)の貯蔵安定性が良好であり、かつ、硬化性組成物の硬化速度が速く粘着体の製造に好適であるためである。
【0037】
<加水分解性シリル基の導入>
本発明においては、ポリオール化合物、ポリウレタンプレポリマーまたはポリウレタン重合体の分子末端に加水分解性シリル基を導入する。加水分解性シリル基の導入方法としては、イソシアネートシラン類を用いる方法(PQ1)、アミノシラン類を用いる方法(PQ2)、メルカプトシラン類を用いる方法(PQ3)、エポキシシラン類を用いる方法(PQ4)、およびヒドロシラン類を用いる方法(PQ5)が例示できる。
【0038】
シリル基含有重合体(S)がウレタン結合またはウレア結合を有する場合、ウレタン結合とウレア結合との合計量(MU)と加水分解性シリル基の量(MS)との割合(MU/MSのモル比)は特に制限はないが、MU/MS(モル比)が1/1〜100/1であることが好ましい。この範囲にあることにより粘着体の粘着力と柔軟性が制御される。また粘着力の安定性も良好となる。ウレタン結合はイソシアネート基と水酸基との反応により形成され、ウレア結合はイソシアネート基とアミノ基との反応により形成される。
シリル基含有重合体(S2)または(S3)の場合、MU/MSのモル比はポリウレタンプレポリマーまたはポリウレタン重合体の分子量などにより制御できる。
【0039】
<イソシアネートシラン類を用いる方法(PQ1)>
方法(PQ1)においては、ポリオール化合物、ポリウレタンプレポリマーまたはポリウレタン重合体の末端の官能基がイソシアネート基と反応しうる基であり、該末端の官能基とイソシアネートシラン類とを反応させることにより加水分解性シリル基を導入する。
イソシアネートシラン類としては、イソシアネートメチルトリメトキシシラン、2−イソシアネートエチルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、4−イソシアネートブチルトリメトキシシラン、5−イソシアネートペンチルトリメトキシシラン、イソシアネートメチルトリエトキシシラン、2−イソシアネートエチルトリエトキシシラン、3イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、4−イソシアネートブチルトリエトキシシラン、5−イソシアネートペンチルトリエトキシシラン、イソシアネートメチルメチルジメトキシシシラン、2−イソシアネートエチルエチルジメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン又は3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
これらの中でも、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン又は3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0040】
イソシアネート基と反応しうる基としては、水酸基、アミノ基が例示できる。水酸基を用いる場合は、ポリオール化合物、水酸基末端ポリウレタンプレポリマー、水酸基末端ポリウレタンプレポリマーをさらにジイソシアネート化合物を用いて鎖延長反応させて得られた水酸基末端ポリウレタン樹脂、イソシアネート基末端ポリウレタンプレポリマーに低分子ジオール類を反応させて得られた水酸基末端ポリウレタン樹脂等を用いることができる。
またアミノ基を用いる場合は、イソシアネート基末端ポリウレタンプレポリマーをさらに低分子ジアミン類を用いて鎖延長反応させて得られたアミノ基末端ポリウレタン樹脂等を用いることができる。
【0041】
この反応には触媒を用いてもよい。触媒としては、公知のウレタン化反応触媒が用いられる。例えば、有機酸塩・有機金属化合物類、第三級アミン類等が挙げられる。具体的な有機酸塩・有機金属化合物類としては、ジブチルスズジラウレート(DBTDL)等のスズ触媒、2−エチルヘキサン酸ビスマス[ビスマストリス(2−エチルヘキサノエート)]等のビスマス触媒、ナフテン酸亜鉛等の亜鉛触媒、ナフテン酸コバルト等のコバルト触媒、2−エチルヘキサン酸銅等の銅触媒等が例示できる。第三級アミン類としては、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリン等が挙げられる。
【0042】
<アミノシラン類を用いる方法(PQ2)>
方法(PQ2)においては、ポリウレタンプレポリマーまたはポリウレタン重合体の末端の官能基がアミノ基と反応しうる基であり、該末端の官能基とアミノシラン類とを反応させることにより加水分解性シリル基を導入する。必要に応じて、ポリオール化合物、ポリウレタンプレポリマーまたはポリウレタン樹脂の末端に、アミノ基と反応しうる基を導入してもよい。
【0043】
アミノシラン類としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、3−(2−(2−アミノエチル)アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(6−アミノヘキシル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(N−エチルアミノ)−2−メチルプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノメチルトリメトキシシラン、N−シクロヘキシルアミノメチルトリエトキシシラン、N−シクロヘキシルアミノメチルジエトキシメチルシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニルアミノメチルトリメトキシシラン、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビニルベンジル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール、N−シクロヘキシルアミノメチルトリエトキシシラン、N−シクロヘキシルアミノメチルジエトキシメチルシラン、N−フェニルアミノメチルトリメトキシシラン、(2−アミノエチル)アミノメチルトリメトキシシラン、N,N’−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン等が挙げられる。
これらの中でも、3−アミノプロピルトリメトキシシラン又は3−アミノプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0044】
アミノ基と反応しうる基としては、イソシアネート基、アクリロイル基、メタクリロイル基が例示できる。イソシアネート基を用いる場合は、イソシアネート基末端ポリウレタンプレポリマー、水酸基末端ポリウレタンプレポリマーをさらにジイソシアネート化合物を用いて鎖延長反応させて得られたイソシアネート基末端ポリウレタン重合体、イソシアネート基末端ポリウレタンプレポリマーをさらに低分子ジオール化合物を用いて鎖延長反応させて得られたイソシアネート基末端ポリウレタン樹脂を用いることができる。
【0045】
またアクリロイル基やメタクリロイル基を用いる場合は、イソシアネート基末端ポリウレタンプレポリマーにヒドロキシアルキルアクリレート類またはヒドロキシアルキルメタクリレート類を反応させたもの、ポリオール化合物、水酸基末端ポリウレタンプレポリマーまたは水酸基末端ポリウレタン重合体にアクリル酸類またはメタクリル酸類を反応させたものなどを用いることができる。ヒドロキシアルキルアクリレート類としては、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート等が例示できる。ヒドロキシアルキルメタクリレート類としては、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート等が例示できる。アミノ基とイソシアネート基との反応はウレア結合生成の反応である。この反応には上述のウレタン化反応触媒を用いてもよい。またアミノ基とアクリロイル基との反応はマイケル付加反応である。
【0046】
<メルカプトシラン類を用いる方法(PQ3)>
方法(PQ3)においては、ポリウレタンプレポリマーまたはポリウレタン重合体の末端の官能基がメルカプト基と反応しうる基であり、該末端の官能基とメルカプトシラン類とを反応させることにより加水分解性シリル基を導入する。必要に応じて、ポリオール化合物、ポリウレタンプレポリマーまたはポリウレタン重合体の末端に、メルカプト基と反応しうる基を導入してもよい。
メルカプトシラン類としては、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリエトキシシランなどが挙げられる。これらの中でも、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン又は3−メルカプトプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0047】
メルカプト基と反応しうる基としては、イソシアネート基、アクリロイル基、アリル基が例示できる。イソシアネート基およびアクリロイル基の場合については、アミノシラン類を用いる方法(PQ2)の場合と同様である。アリル基を用いる場合は、ポリウレタンプレポリマーまたはポリウレタン重合体の末端をイソシアネート基とした後、アリルアルコールと反応させることによりアリル基とすることができる。
メルカプト基とイソシアネート基との反応はウレタン化反応と同様であり、触媒を用いてもよい。メルカプト基とアクリロイル基またはアリル基との反応は、ラジカル開始剤を用いることが好ましい。ラジカル開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等が例示できる。
【0048】
<エポキシシラン類を用いる方法(PQ4)>
方法(PQ4)においては、ポリオール化合物、ポリウレタンプレポリマーまたはポリウレタン重合体の末端の官能基がエポキシ基と反応しうる基の場合であり、該末端の官能基とエポキシシラン類とを反応させることにより加水分解性シリル基を導入する。必要に応じて、ポリオール化合物、ポリウレタンプレポリマーまたはポリウレタン重合体の末端に、エポキシ基と反応しうる基を導入してもよい。
エポキシシラン類としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等好ましい。これらの中でも、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン又は3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランが好ましい。
エポキシ基と反応しうる基としては、水酸基、アミノ基が例示できる。それぞれイソシアネートシラン類を用いる方法(PQ1)の場合と同様である。エポキシ基との反応における触媒としては、アミン類、酸無水物類など公知のものが使用される。例えば鎖状脂肪族系ポリアミン、脂環族ポリアミン、芳香族ポリアミン、変性脂肪族系ポリアミン、イミダゾール化合物等が挙げられる。特に、N,N−ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−30)、ベンジルジメチルアミン(BDMA)等の三級アミンが好ましい。
【0049】
<ヒドロシラン類を用いる方法(PQ5)>
方法(PQ5)においては、ポリウレタンプレポリマーまたはポリウレタン重合体の末端の官能基がヒドロシリル化反応しうる基であり、該末端の官能基とヒドロシラン類とを反応させることにより加水分解性シリル基を導入する。必要に応じて、ポリオール化合物、ポリウレタンプレポリマーまたはポリウレタン重合体の末端に、ヒドロシリル化反応しうる基を導入してもよい。
ヒドロシラン類としては、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルジエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、フェニルジメトキシシラン、1−[2−(トリメトキシシリル)エチル]−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン等が挙げられる。
ヒドロシリル化反応しうる基としては、アクリロイル基、アリル基が例示できる。それぞれメルカプトシラン類を用いる方法(PQ3)と同様である。この反応にはヒドロシリル化触媒を用いることが好ましい。ヒドロシリル化触媒としては、塩化白金酸などが例示できる。
【0050】
<アクリル重合体(P)>
本発明においては、硬化性組成物を得るために、シリル基含有重合体(S)とともにアクリル重合体(P)を用いる。なお以下の説明で(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸の一方または両方を意味し、(メタ)アクリル酸エステル等の場合も同様である。
本発明にかかるアクリル重合体(P)としては、(メタ)アクリル酸エステル単位を80〜100質量%有する(メタ)アクリル酸エステル重合体であることが好ましい。具体的には、(メタ)アクリル酸エステル単位の1種からなる単独重合体、(メタ)アクリル酸エステル単位を2種以上有する共重合体、(メタ)アクリル酸エステル単位の1種以上と(メタ)アクリル酸エステル以外の他の単量体単位の1種以上とを有する共重合体のいずれかが好ましい。
【0051】
(メタ)アクリル酸エステル単位としては、下記のものが挙げられる。
・(メタ)アクリル酸アルキルエステル:粘着性の点から、アルキル基の炭素数が1〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、たとえば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、などが挙げられる。
・(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル:(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸−3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸−4−ヒドロキシブチル等。
・(メタ)アクリルアミド:アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等。
・(メタ)アクリル酸モノアルキルアミノアルキルエステル:(メタ)アクリル酸モノメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸モノエチルアミノプロピル等。
・(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルエステル。
・エチレン性不飽和カルボン酸:アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等。
(メタ)アクリル酸エステル以外の他の単量体単位としては、下記のものが挙げられる。
・ビニルエステル:酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等。
・スチレン系単量体:スチレン、α−メチルスチレン等。
・ニトリル系単量体:アクリロニトリル、メタクリロニトリル等
上記単量体単位は単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
(メタ)アクリル酸エステル重合体は、ヒドロキシル基およびカルボキシル基の一方または両方を有してもよい。
ヒドロキシル基およびカルボキシル基の一方または両方を有する(メタ)アクリル酸エステル重合体を得るためには、重合時のモノマーの一部または全部として、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルおよびエチレン性不飽和カルボン酸の一方または両方を用いればよい。(メタ)アクリル酸エステル重合体を得るための、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの、重合時のモノマー中の比率は0〜20質量%が好ましく、0〜10質量%がより好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体を得るための、エチレン性不飽和カルボン酸の、重合時のモノマー中の比率は0〜25質量%が好ましく、2〜10質量%がより好ましい。これら2種のモノマーの合計は2〜15質量%が好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル重合体の質量平均分子量は1万〜100万であることが好ましく、1万〜80万であることがより好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体の質量平均分子量が1万以上であれば、粘着剤組成物の耐熱性や接着耐久性を高くすることができ、100万以下であれば、被着体の形状変化に対する追従性を高くすることができる。
【0053】
<粘着体の製造方法>
本発明の粘着体の製造方法は、シリル基含有重合体(S1)を用いる場合、ポリオール化合物の分子末端に加水分解性シリル基を導入しシリル基含有重合体(S1)を製造する工程(PP1A)と、該シリル基含有重合体(S1)およびアクリル重合体(P)を含む硬化性組成物を硬化させて粘着体を製造する工程(PP1B)とを有する。
またシリル基含有重合体(S2)を用いる場合、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させてポリウレタンプレポリマーを製造する工程(PP2A)と、該ポリウレタンプレポリマーの分子末端に加水分解性シリル基を導入しシリル基含有重合体(S2)を製造する工程(PP2B)と、該シリル基含有重合体(S2)およびアクリル重合体(P)を含む硬化性組成物を硬化させて粘着体を製造する工程(PP2C)とを有する。
またシリル基含有重合体(S3)を用いる場合、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させてポリウレタンプレポリマーを製造する工程(PP3A)と、該ポリウレタンプレポリマーを、鎖延長剤を用いて鎖延長反応させてポリウレタン樹脂を製造する工程(PP3B)と、該ポリウレタン樹脂の分子末端に加水分解性シリル基を導入しシリル基含有重合体(S3)を製造する工程(PP3C)と、該シリル基含有重合体(S3)およびアクリル重合体(P)を含む硬化性組成物を硬化させて粘着体を製造する工程(PP3D)とを有する。
ここでポリウレタンプレポリマーを製造する工程(PP2A)と(PP3A)とは同じである。また加水分解性シリル基を導入する工程(PP1A)、(PP2B)および(PP3C)は同じである。また硬化性組成物を硬化させて粘着体を製造する工程(PP1B)、(PP2C)および(PP3D)は同じである。
【0054】
<ポリウレタンプレポリマーを製造する工程(PP2A)(PP3A)>
ポリウレタンプレポリマーは、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させて得られる。その反応の割合は上述の通りである。またこの反応には触媒を用いてもよい。触媒としては、上述のウレタン化反応触媒が用いられる。反応の温度は40〜160℃が好ましく、80〜120℃がより好ましい。
【0055】
<ポリウレタン樹脂を製造する工程(PP3B)>
ポリウレタン樹脂は、ポリウレタンプレポリマーに、鎖延長剤を用いて鎖延長反応させて得られる。その反応の割合は上述の通りである。またこの反応には触媒を用いてもよい。触媒としては、上述のウレタン化反応触媒が用いられる。反応の温度は40〜160℃が好ましく、80〜120℃がより好ましい。
【0056】
<加水分解性シリル基を導入する工程(PP1A)(PP2B)(PP3C)>
ポリオール化合物、ポリウレタンプレポリマーまたはポリウレタン樹脂に加水分解性シリル基を導入する工程は、上述の(PQ1)〜(PQ5)の方法で述べたとおりである。加水分解性シリル基を導入する割合(以下、加水分解性シリル基導入割合ということもある。)は、理論的に反応しうる末端の全部を100モル%とした場合に、50〜100モル%導入することが好ましく、80〜100モル%導入することがより好ましい。
【0057】
<硬化性組成物を硬化させて粘着体を製造する工程(PP1B)(PP2C)(PP3D)>
シリル基含有重合体(S)およびアクリル重合体(P)を含む硬化性組成物を硬化させて粘着体を製造する。
本発明にかかる硬化性組成物は、他の加水分解性シリル基を有する重合体を含んでいてもよい。他の加水分解性シリル基を有する重合体の割合は、硬化性組成物全体の30質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
シリル基含有重合体(S)、アクリル重合体(P)および場合により他の加水分解性シリル基を有する重合体は、溶剤の存在下または非存在下で、後述の各種添加剤を含めて、充分に混合されて、硬化性組成物とされることが好ましい。この硬化性組成物においてシリル基含有重合体(S)とアクリル重合体(P)との割合は、質量比で(S):(P)が0.1:99.9〜99.9:0.1であり、1:99〜95:5が好ましく、40:60〜95:5がさらに好ましく70:30〜95:5がより好ましい。該アクリル重合体(P)の割合が(S)と(P)の合計100質量部に対して0.1質量部以上であると粘着力を変化させることができ、5質量部以上であるとさらに粘着力を変化させることができ、99.9質量部以下であると経時的な粘着力の上昇を抑えることができ、60質量部以下であるとさらに経時的な粘着力の上昇を抑えることができ、耐久性に優れた粘着体を得ることができる。
また硬化体の柔軟性に優れることから、硬化性組成物がシリル基含有重合体(S1)とアクリル重合体(P)を含むことが好ましい。
【0058】
<添加剤>
本発明にかかる硬化性組成物には、添加剤を含有させることができる。なお硬化性組成物においては、可塑剤を用いないことが好ましい。特にフタル酸ジオクチル等のエステル系可塑剤は、用いないことが好ましい。エステル系可塑剤を用いると、硬化体と基材との接着力が低下し、糊残り(adhesive deposit)が発生する場合があるからである。
[硬化剤]
本発明にかかる硬化性組成物は水と接触することにより硬化する。したがって大気中の水と反応して湿気硬化する。また、硬化させる直前に、硬化剤として水(HO)を添加してもよい。この場合の水の添加量は、シリル基含有重合体(S)および他の加水分解性シリル基を有する重合体の合計量の100質量部に対して0.01〜5質量部であることが好ましく、0.01〜1質量部がより好ましく、0.05〜0.5質量部が特に好ましい。硬化剤の添加量を0.01質量部以上とすることにより硬化を有効に促進でき、硬化剤の添加量を5質量部以下とすることにより使用時の可使時間を確保できる。
【0059】
[硬化触媒]
硬化性組成物に、加水分解性シリル基の加水分解及び/又は架橋反応を促進するための硬化触媒(硬化促進剤)を含有させることが好ましい。
かかる硬化触媒は加水分解性シリル基の反応を促進する成分として公知のものを適宜使用できる。具体例としては、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、(n−CSn(OCOCH=CHCOOCH、(n−CSn(OCOCH=CHCOO(n−C))、(n−C17Sn(OCOCH=CHCOOCH、(n−C17Sn(OCOCH=CHCOO(n−C))、(n−C17Sn(OCOCH=CHCOO(iso−C17))等の有機スズカルボン酸塩;(n−CSn(SCHCOO)、(n−C17Sn(SCHCOO)、(n−C17Sn(SCHCHCOO)、(n−C17Sn(SCHCOOCHCHOCOCHS)、(n−CSn(SCHCOO(iso−C17))、(n−C17)2Sn(SCHCOO(iso−C17))、(n−C17Sn(SCHCOO(n−C17))、(n−CSnS等の含硫黄有機スズ化合物;(n−CSnO、(n−C17SnO等の有機スズオキシド;エチルシリケート、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジオクチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル及びフタル酸ジオクチルからなる群より選ばれるエステル化合物と、上記有機スズオキシドとの反応生成物;(n−CSn(acac)、(n−C17Sn(acac)、(n−CSn(OC17)(acac)、(n−CSn(OC(CH)CHCO、(n−C17Sn(OC(CH)CHCO、(n−CSn(OC17)(OC(CH)CHCO)、ビスアセチルアセトナートスズ等のキレートスズ化合物(ただし、上記acacはアセチルアセトナト配位子を意味し、OC(CH)CHCOはエチルアセトアセテート配位子を意味する。);テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン及びテトラプロポキシシランからなる群より選ばれるアルコキシシランと、上記キレートスズ化合物との反応生成物;(n−C(CHCOO)SnOSn(OCO
CH)(n−C、(n−C(CHO)SnOSn(OCH)(n−C等の−SnOSn−結合含有有機スズ化合物等のスズ化合物が挙げられる。
【0060】
また、硬化触媒の更なる具体例としては、2−エチルヘキサン酸スズ、n−オクチル酸スズ、ナフテン酸スズ又はステアリン酸スズ等の2価スズカルボン酸塩類;オクチル酸、オレイン酸、ナフテン酸又はステアリン酸等の有機カルボン酸の錫以外の金属塩類;カルボン酸カルシウム、カルボン酸ジルコニウム、カルボン酸鉄、カルボン酸バナジウム、ビスマストリス−2−エチルヘキサノエート等のカルボン酸ビスマス、カルボン酸鉛、カルボン酸チタニウム、又はカルボン酸ニッケル等;テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラ(2−エチルへキシルチタネート)等のチタンアルコキシド類;アルミニウムイソプロピレート、モノ−sec−ブトキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルミニウムアルコキシド類;ジルコニウム−n−プロピレート、ジルコニウム−n−ブチレート等のジルコニウムアルコキシド類;チタンテトラアセチルアセトナート、チタンエチルアセトアセテート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテート等のチタンキレート類;アルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート等のアルミニウムキレート類;ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムビスアセチルアセトナート、ジルコニウムアセチルアセトナートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート等のジルコニウム化合物類;リン酸、p−トルエンスルホン酸又はフタル酸等の酸性化合物類;ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン等の脂肪族モノアミン類;エチレンジアミン、ヘキサンジアミン等の脂肪族ジアミン類;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族ポリアミン類;ピペリジン、ピペラジン、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7等の複素環式アミン類;メタフェニレンジアミン等の芳香族アミン類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン又はトリエタノールアミン等のアルカノールアミン類;トリエチルアミン等のトリアルキルアミン類;上記アミン類と肪族モノカルボン酸(蟻酸、酢酸、オクチル酸、2−エチルヘキサン酸など)、脂肪族ポリカルボン酸(蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸など)、芳香族モノカルボン酸(安息香酸、トルイル酸、エチル安息香酸など)、芳香族ポリカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ニトロフタル酸、トリメリット酸など)、フェノール化合物(フェノール、レゾルシン等)、スルホン酸化合物(アルキルベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸など)、リン酸化合物等の有機酸、及び塩酸、臭素酸、硫酸等の無機酸等の酸からなる第1級〜第3級のアンモニウム−酸塩類;トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、ヘキシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、オクチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、デシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ドデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、オクチルジメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、デシルジメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、ドデシルジメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、ジヘキシルジメチルアンムニウムヒドロキシド、ジオクチルジメチルアンモニウムヒドロキシド、ジデシルジメチルアンモニウムヒドロキシド、ジドデシルジメチルアンモニウムヒドロキシド等のアンモニウム水酸基塩類;エポキシ樹脂の硬化剤として用いられる各種変性アミン等のアミン化合物類等が挙げられる。
【0061】
これらの硬化触媒は1種類のみを用いても、2種類以上を組合せて用いてもよい。2種類以上を組合せる場合は、たとえば、上記2価スズカルボン酸塩、有機スズカルボン酸塩又は有機スズオキシドと、エステル化合物との反応物等の上記金属含有化合物に、脂肪族モノアミン又はその他の上記アミン化合物を組合せることが、優れた硬化性が得られることから好ましい。
硬化触媒を添加する場合、その添加量は、シリル基含有重合体(S)および他の加水分解性シリル基を有する重合体の合計量の100質量部に対して0.001〜10質量部であることが好ましく、0.01〜5質量部がより好ましい。硬化触媒の添加量を0.001質量部以上とすることにより硬化速度を有効に促進でき、硬化触媒の添加量を10質量部以下とすることにより使用時の可使時間を確保できる。
【0062】
[溶剤]
本発明にかかる硬化性組成物は、低粘度であり無溶剤での塗工が可能であるが、溶剤を含有させてもよい。
溶剤は特に限定されないが、例えば、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、エステルアルコール類、ケトンアルコール類、エーテルアルコール類、ケトンエーテル類、ケトンエステル類又はエステルエーテル類が挙げられる。
これらの中でも、溶剤としてアルコール類を用いると、硬化性組成物の保存安定性を向上させることができるため好ましい。このアルコール類としては、炭素数1〜10のアルキルアルコールであることが好ましく、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソペンチルアルコール又はヘキシルアルコールであることがより好ましく、メタノール又はエタノールであることが更に好ましい。特にメタノールを用いた場合に、添加量を増やすと、硬化性組成物の硬化時間を長くすることができる。これは硬化性組成物を調製後の所定粘度まで達する時間、所謂ポットライフを長くするために有効な手法である。
硬化性組成物に溶剤を添加する場合、その添加量は、シリル基含有重合体(S)、アクリル重合体(P)および他の重合体の合計量100質量部に対して、500質量部以下であることが好ましく、1〜100質量部であることがより好ましい。添加量が500質量部を超えると、溶剤の揮発に伴って硬化物の収縮が生じる場合がある。
【0063】
[脱水剤]
本発明にかかる硬化性組成物は、貯蔵安定性を改良するために、本発明の効果を損なわない範囲で少量の脱水剤を含有させてもよい。
かかる脱水剤の具体例としては、オルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル等のオルトギ酸アルキル;オルト酢酸メチル、オルト酢酸エチル等のオルト酢酸アルキル;メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシラン等の加水分解性有機シリコーン化合物;加水分解性有機チタン化合物等が挙げられる。これらの中でもビニルトリメトキシシラン又はテトラエトキシシランがコスト、脱水能力の点から好ましい。
硬化性組成物に脱水剤を添加する場合、その添加量は、シリル基含有重合体(S)、アクリル重合体(P)および他の重合体の合計量の100質量部に対して0.001〜30質量部であることが好ましく、0.01〜10質量部であることがより好ましい。
【0064】
[その他の添加剤]
硬化性組成物に下記の充填剤、補強剤、安定剤、難燃剤、帯電防止剤、離型剤、又は防黴剤等を配合してもよい。
充填剤または補強剤としては、たとえば、カーボンブラック、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、シリカ、ガラス、骨粉、木粉、又は繊維フレークなどが挙げられる。
安定剤としては、たとえば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、または光安定剤などが挙げられる。
難燃剤としては、たとえば、クロロアルキルホスフェート、ジメチルメチルホスホネート、アンモニウムポリホスフェート、又は有機臭素化合物等が挙げられる。
離型剤としては、たとえば、ワックス、石鹸類、又はシリコーンオイル等が挙げられる。防黴剤としては、たとえば、ペンタクロロフェノール、ペンタクロロフェノールラウレート、又はビス(トリ−n−ブチル錫)オキシド等が挙げられる。
また、硬化性組成物に、基材との接着性を向上させる目的で接着性付与剤を添加してもよい。
【0065】
<粘着体>
本発明にかかる硬化性組成物は、シリル基含有重合体(S)、アクリル重合体(P)、任意に配合される他の重合体および必要に応じて添加される添加剤を混合して得られる。
本発明の粘着体は、上記硬化性組成物を硬化させて得られる。上記硬化性組成物を硬化させると、比較的粘着力の低い粘着体が得られる。すなわち本発明の粘着体は上記硬化性組成物を硬化して得られる硬化体である。
本発明の粘着体の剥離粘着力としては、8N/25mm以下が好ましく、0N/25mmを超え8N/25mm以下がより好ましく、0N/25mmを超え1N/25mm以下がさらに好ましく、0.005〜0.8N/25mmが特に好ましい。本発明にかかる硬化性組成物は、粘着性を増大させるような添加剤を含有させないことが好ましい。
【0066】
本発明にかかるシリル基含有重合体(S)およびアクリル重合体(P)を含む硬化性組成物は、粘度が低く、塗工性が良い。したがって溶剤を用いなくても良好な塗工性が得られるため粘着体を成形する際に硬化性組成物の無溶剤化を実現できる。また該組成物は硬化性に優れるため、水分と接触すると、迅速かつ強固に硬化(湿気硬化)して硬化体が得られる。該湿気硬化には加水分解性シリル基(−SiX(3−a))が寄与する。
また、基材上に塗布して硬化させると、基材との良好な接着性が得られる。硬化後の硬化体は、良好な柔軟性を有し、表面の濡れ性が良く、かつ低い粘着性を有する。したがって粘着体層として好適であり、被着体への濡れ性および密着性が良好であるとともに、良好な再剥離性が得られる。
またシリル基含有重合体(S)とアクリル重合体(P)の含有合割合を変えることによって、微粘着から低粘着の領域での粘着力を容易に調整できる。
【0067】
特に、シリル基含有重合体(S)が、ウレタン結合またはウレア結合等の極性結合を有していると、より良好な微粘着性または低粘着性が得られる。その理由は明確ではないが、かかる極性結合は、硬化体における凝集力、粘着体の基材への接着性、および被着体への粘着性を高くする方向に作用すると考えられる。一方、加水分解性シリル基は粘着体の被着体への粘着性を低くする方向に作用すると考えられる。そしてこれらの相互作用が微粘着性または低粘着性に寄与すると考えられる。
また、加水分解性シリル基が導入される位置がシリル基含有重合体(S)の分子末端であるため、分子運動を妨げずに凝集力を上げることができ、安定して粘着力を示すことができる。
したがって、ウレタン結合とウレア結合との合計量(MU)と加水分解性シリル基の量(MS)との割合(MU/MSのモル比)を制御することにより、粘着体の粘着力を制御することができる。
【0068】
基材上に粘着体層を有し、該粘着体層が被着体に剥離可能に粘着される構成の粘着シートにあっては、粘着体層と基材との密着性(接着性)が高くて剥がれ難く、粘着体層と被着体とは糊残りなく剥がれることが好ましい。本発明の硬化性組成物を基材上に塗布し、該硬化性組成物を硬化させると、硬化させた硬化体(粘着体層)と基材とが良好に接着される。ウレタン結合またはウレア結合等の極性結合は、かかる基材との良好な接着性にも寄与していると考えられる。
なお硬化性組成物が硬化する際には基材と接着すると考えられる。一方、硬化した硬化体は被着体と接着することなく粘着性を示す。このため被着体への糊残りが抑制されると考えられる。
また、シリル基含有重合体(S)が、ウレタン結合またはウレア結合等の極性結合を有していると、比較的極性の高い重合体であるアクリル重合体(P)との相溶性が向上する。このため均一な硬化体が得られやすく、剥離時の粘着体の破壊(投錨破壊など)の抑制効果が高く、糊残りが生じにくいと考えられる。
【0069】
また、本発明の硬化性組成物を硬化させて得られる硬化体(粘着体)においては、被着体への良好な濡れ性を得ることができる。かかる良好な濡れ性には、特にポリオールに由来する構造が持つ柔軟性が寄与すると考えられる。すなわち、ポリオールが分岐構造を有さないリニアな構造である場合、自由に動きやすい分子構造であり、柔軟性を高める方向に作用する。またさらにポリオールがポリエーテル骨格を主とする構造の極性は比較的低い。このような分子構造を有すると、被着体へ良好な濡れ性が得られると考えられる。特にポリエーテル骨格の鎖長が長い方が、柔軟性および濡れ性が高くなると考えられる。
【0070】
<硬化性組成物の硬化>
本発明の粘着体は、本発明の硬化性組成物を硬化させて得られる。硬化性組成物の硬化後に成形することも可能である。例えば硬化性組成物を、シート状などの適当な形状に硬化させた後、型抜きを行うなどで所定の形状に成形し、単独で粘着体として利用することが可能である。しかし、基材に硬化性組成物を塗工し、硬化させて積層体として利用することが好ましい。
硬化性組成物の硬化条件は、必要に応じて設定される。例えば硬化性組成物として硬化触媒を添加したものを用意する。これに所定量の水を硬化剤として添加し充分に混合する。これを基材の上に塗工する。塗工厚さは適宜設定される。この後オーブン等で加熱し、室温で養生することにより硬化性組成物を硬化させることができる。室温で養生する際または養生した後に加湿環境に放置することも有効である。オーブン等による加熱は基材の耐熱温度等により適宜設定される。例えば60〜120℃の環境に1〜30分程度放置することが好ましい。特に溶剤を用いた場合には、一定の乾燥時間を設定することが好ましい。ただし急激な乾燥は、発泡の原因になるため好ましくない。またオーブン内でまたはオーブンから取り出した後に、スチームを当ててもよい。
【0071】
硬化性組成物の塗工は、連続的に行うこともできる。すなわちロールから取り出した基材に、所定量の水を混合した硬化性組成物を塗工し、インラインオーブンで加熱乾燥させる。得られた成形体(積層体)に、必要に応じてセパレータを合わせ、巻き取る。これを必要に応じて加湿した室温環境に保管し養生することにより成形された粘着体が得られる。また別の塗工方法としては、上記の方法において基材とセパレータを逆にしてもよい。
すなわち最初にセパレータ上に塗工し、後から基材を貼着させてもよい。
【0072】
<積層体(粘着シート)>
本発明は、少なくとも1層の基材層と、本発明の粘着体からなる粘着体層とを有する積層体を提供する。積層体がシート形状である場合にはこの積層体は粘着シートとなる。また積層体をテープ形状に成形加工すれば粘着テープが得られる。
なお基材を用いずに後述するセパレータに、硬化性組成物を塗工し、硬化させて硬化体を得た後に、該セパレータを剥離すると、粘着体単体で扱うことも可能となる。この場合に例えば両面粘着シート等が得られる。本発明にかかる硬化性組成物は溶剤を用いない場合であっても低粘度で塗工特性に優れる。このためセパレータに対しても、良好な塗工が可能である。具体的にはセパレータに対して硬化性組成物を塗工し、加熱乾燥させて、さらに別のセパレータを積層させ、養生することで、基材を有していない粘着体のみの粘着性シートが得られる。このとき別のセパレータを用いずに、最初に塗工したセパレータの背面を用いて、巻き取りを行い、粘着体のロールを製造してもよい。
【0073】
積層体は、必要に応じて他の層を有していてもよい。例えば基材層と粘着体層との間に接着層(プライマー層を含む)を設け、基材と粘着体の剥離を防止してもよい。また基材層と粘着体層との間に発泡体等からなる緩衝体層を設けてもよい。また基材層と粘着体層との間に導電材層を設けてもよい。導電材層は、金属系導電材、イオン性導電材、カーボン系導電材等の導電材料を基材層に塗工することで得られる。導電材料は単独で塗工してもよく、各種樹脂等のバインダーを併用して塗工してもよい。また粘着体層の基材層とは反対側に、セパレータ(剥離ライナー)層を設けてもよい。また基材層の粘着体層とは反対側に印刷層を設けてもよい。印刷層を設けると、印字を行うことが可能となり、また意匠性を高くすることも可能である。また基材層を挟んで両面に粘着体層を設けてもよい。
この場合に両面粘着シート等が得られる。
【0074】
<基材>
基材の材質は特に限定されない。好ましい例としてはポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル類;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン−ポリプロピレン共重合体(ブロック共重合体、ランダム共重合体)等のポリオレフィン類;ポリ塩化ビニル等のハロゲン化ポリオレフィン類;ボール紙等の紙類;織布、不織布等の布類;アルミニウム箔等の金属箔等が挙げられる。これらの基材は組み合わせて用いてもよい。例えばPET層、金属箔層、ポリエチレン層を積層した積層体を用いてもよい。
基材の表面は事前の加工を行わなくてもよい。特に紙類の粘着体層との接合面は事前の加工を行わなくても硬化性組成物の硬化に伴う接着効果により剥離しにくくなる。
一方ポリオレフィン類を基材に用いる場合には、硬化性組成物を塗工する面を事前に処理しておくことが好ましい。未処理の面に対しては剥離粘着力が低くなる場合があるためである。すなわちポリオレフィン類を用いた基材の硬化性組成物を塗工する面に対する事前の処理としては、コロナ処理(コロナ放電処理)、プライマー処理が例示できる。特に処理が簡単で工程が簡略化できるためにコロナ処理を行うことが好ましい。
例えば厚さが100μmのポリプロピレンフィルムの片面にコロナ処理を行い、この処理面に硬化性組成物を塗工する。塗工後加熱乾燥を行う。このようにして得られたフィルムは、粘着体を設けていない面(背面)がそのままセパレータとして利用できる。すなわちこのフィルムをそのまま巻き取ることにより粘着フィルムが製造できる。すなわちセパレータを介装することなくロール状に巻回することができる。
【0075】
<粘着体層>
本発明の粘着シート等において、粘着体層の厚さは特に限定されない。例えば、塗工精度の点からは5μm以上が好ましく、20μm以上がさらに好ましく、30μm以上がより好ましい。また粘着力の安定性、経済性の点からは200μm以下が好ましく、100μm以下がさらに好まく、80μm以下がより好ましい。
<セパレータ>
上記の粘着体層の粘着面(被着体を貼着させる面)にセパレータを貼付させてもよい。
セパレータとしては、一般の剥離剤で表面処理を行った紙類の他に、上述の未処理のポリオレフィン類を用いることができる。また紙類等の基材にポリオレフィン類を積層したものも使用できる。従来のセパレータに含まれるシリコーンオイルは電子部品の汚染の原因となるが、ポリオレフィン類をセパレータに用いるとシリコーンオイル等による汚染が防止できる。これは電子部品等の保護シートとして上記粘着シートを適用する際に有益である。またポリオレフィン類を単独でセパレータとして用いると、廃棄物のリサイクルが容易になる。
【0076】
<粘着シートの用途>
本発明の粘着体を用いることにより、特に、被着体への濡れ性および密着性が良好であるとともに、低い粘着力を有し再剥離性に優れた粘着シートが得られる。また、剥離帯電量が抑制され、かつ高速剥離特性にも優れた粘着シートが得られる。したがって、粘着シートの用途としては、具体的には、電子基板、ICチップ等の電子材料用保護シート;偏光板、光拡散板、光拡散シート、プリズムシート等の光学部材用保護シート;各種ディスプレイ用保護シート;自動車用保護シート;建築板材用表面保護フィルム;壁装用化粧シート;金属板、塗装鋼板、合成樹脂板、化粧合板、熱反射ガラスなどの製品の表面保護等が好適に例示される。自動車用保護シート等の比較的大型の保護シートや仮止め用途の場合には、風等ではがれないように、低粘着領域程度の一定の粘着力が要求される場合もある。建築板材用表面保護フィルムは床材保護のため使用され、内装終了後は撤去される。
金属板、塗装鋼板、合成樹脂板、化粧合板、熱反射ガラスなどの製品の表面保護用途では、塵の付着や傷つきが無いようにし、使用後に各種被着体の表面を粘着剤で汚染することなく容易に剥がすことが要求されている。
【0077】
保護シートや保護テープは、部品の一時的固定や保護の役割が終了した時点で、剥離除去される。しかし保護シートが貼着されていた部材から剥離される際に、保護シートと部品との間に静電気(いわゆる剥離帯電)が発生する。この静電気が電子部品の回路に悪影響を与えたり、静電気によって塵やゴミが部材表面に付着しやすくなるという問題がある。また、液晶ディスプレイ(LCD)の表面保護フィルムも、使用時には剥離除去される。保護フィルムが液晶ディスプレイから剥離される時に、剥離帯電が生じる場合がある。
この剥離帯電により、液晶配列が乱され、画像が乱れるという障害を生じる場合がある。
したがって、貼着後に剥離される粘着性シートにおいては、剥離帯電に起因する静電気の発生の抑制や、発生した静電気の速やかな除電が要求される。これは被着体の表面帯電が、異物や塵埃の被着体への付着の原因となるため、または、被着体の機能低下の原因となるためである。
【0078】
また一般的に粘着性シートを剥離するために必要な引っ張り力(剥離強度)は、引っ張り速度(剥離速度)が速いほど大きくなる傾向がある。例えばディスプレイ、偏光板、電子基板、ICチップ等の電子部品等の表面保護シートは、高速でスムーズに剥離できることが好ましい。低速度で剥離する場合の剥離強度に対して、高速で剥離する場合の剥離強度が大きくならないことが要求される。すなわち保護シートは、剥離強度の速度依存性が低く、高速剥離特性が優れることが要求される。
本発明の粘着シートは、このような要求を満たすことができ、特に、電子材料用保護シートや光学部材用保護シートなど、製造工程中で剥離される保護シートとして、本発明の粘着シートは好適である。これは、粘着力が低く再剥離性が良好であるとともに、剥離帯電量が小さく、高速剥離特性に優れるためである。
【0079】
また本発明の粘着体は柔軟性に優れるとともに、濡れ性に優れる。このため被着体の表面に凹凸が存在する場合であっても、良好な密着性が確保される。したがって光学部材保護用粘着シートとして好適である。
すなわち本発明の粘着シートは、光拡散板またはプリズムシートの保護フィルム、特にその凹凸面の保護フィルムとして好適である。また本発明の粘着シートを貼着した光学部材は、粘着体の粘着力の経時変化が小さいために、低い剥離粘着力で剥離することができ、かつ、その剥離粘着力がほとんど変化しない。このため、光学部材の長期間の保管が可能となる。
【0080】
また本発明の粘着シートは、密着性に優れ、貼着した被着体の貼着面内でのずれはほとんど発生しないにもかかわらず、剥離粘着力が低く簡単に剥離可能であり、液晶パネル等の製造工程における貼り合わせに用いることができる。
すなわち、液晶パネル、位相差板、偏光板、光拡散板などで構成される液晶モジュールの組み立てにおいて、ガラス基板あるいはプラスチック基板と位相差板、偏光板、光拡散板などの貼り合わせ時に、容易に貼り直しができることから生産性向上に有効である。
【0081】
また本発明の粘着シートはバックグラインドテープとしても好適である。バックグラインドテープとは、半導体ウエハに電子回路を形成後、バックグラインド(ウエハ裏面の研削)時にウエハ表面を保護するテープである。バックグラインドテープを回路面に貼着し、回路面の損傷、研削水・研削屑の浸入によるウエハ表面の汚染を防止する。本発明の粘着シートは、密着性に優れ、貼着した被着体の貼着面内でのずれはほとんど発生しないが、剥離粘着力が低く簡単に剥離可能である。ポリオレフィン類を基材に用いた場合には、セパレータが不要であり、シリコーンなどの汚染も発生しない。また剥離帯電が抑制されるため回路に損傷を与える危険が少ない。
【実施例】
【0082】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
以下において、プロピレンオキシドをPO、ジブチルスズジラウレートをDBTDL、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン(イソシアネート基(NCO)の含有率:17.87質量%)をTMSと略記する。水は純水を用いた。ステンレス鋼板は、JISに規定されるSUS−304合金の板を用いた。このステンレス鋼板のブライトアニール処理した表面は、ほぼ平滑で光沢を有する。
【0083】
(参考製造例1:複合金属シアン化物錯体触媒の製造)
以下の方法で、有機配位子としてtert−ブチルアルコールを有する亜鉛ヘキサシアノコバルテート(以下、TBA−DMC触媒という。)を製造した。本例中のポリオールXは、ジプロピレングリコールにプロピレンオキシドを付加重合して得られた、数平均分子量(Mn1)が1000のポリオールである。
まず、500mlのフラスコに、塩化亜鉛の10.2gと水10gからなる水溶液を入れ、この水溶液を40℃に保温しつつ、毎分300回転(300rpm)で撹拌しながら、ここへ4.2gのカリウムヘキサシアノコバルテート(K[Co(CN)])と水75gからなる水溶液を30分間かけて滴下した。滴下終了後、さらに混合物を30分撹拌した。その後、エチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル(以下、EGMTBEと略す。)の40g、tert−ブチルアルコール(以下、TBAと略す。)の40g、水の80g、およびポリオールXの0.6gからなる混合物を前記混合物中に添加し、40℃で30分、さらに60℃で60分間撹拌した。得られた反応混合物を、直径125mmの円形ろ板と微粒子用の定量ろ紙(ADVANTEC社製のNo.5C)とを用いて加圧下(0.25MPa)で50分かけてろ過を行い、固体を分離した。
次に、この複合金属シアン化物錯体を含むケーキに18gのEGMTBE、18gのTBA、および84gの水からなる混合物を添加して30分撹拌した後、加圧ろ過(ろ過時間:15分)を行った。ろ過により得られた複合金属シアン化物錯体を含むケーキに、さらに54gのEGMTBE、54gのTBA、および12gの水からなる混合物を添加して30分撹拌し、有機配位子を有する複合金属シアン化物錯体を含むEGMTBE/TBAのスラリーを得た。このスラリーをTBA−DMC触媒として用いた。
このスラリーを5gほどフラスコに秤り取り、窒素気流で概ね乾かした後、80℃で4時間減圧乾燥した。得られた固体を秤量した結果、スラリー中に含まれる複合金属シアン化物錯体の濃度は4.70質量%であることがわかった。
【0084】
(製造例1:シリル基含有重合体(S1−1)の製造)
撹拌機付きステンレス製10Lの耐圧反応器内に、開始剤として800gのポリオキシプロピレンジオール(水酸基換算Mw=1000)と、重合触媒としてのTBA−DMC触媒を投入した。TBA−DMC触媒の使用量は、仕上がり質量に対して50ppmとした。
反応器内を窒素置換後、140℃に昇温し、撹拌下、80gのPOを反応器内に投入して反応させた。これは最初に少量のPOを供給してTBA−DMC触媒を活性化させるための工程である。
次いで、反応器内の圧力が低下した後、撹拌下、7120gのPOを供給し、反応器内の温度を140℃、撹拌速度を500rpmに保ちながら、11時間撹拌して、重合反応を進行させた。こうしてポリオールAを得た。ポリオールAの平均水酸基価は11mgKOH/gであった。
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコに、上記で得たポリオールAの761.6gと、イソシアネートシラン類としてTMSの31.8gを加え、ウレタン化触媒としてDBTDLを加えた。DBTDLの使用量はポリオールAとTMSの合計量に対して50ppmに相当する量とした。そして80℃まで徐々に昇温し、IRにてNCOのピークが消失するまで反応を行い、シリル基含有重合体(S1−1)を得た。加水分解性シリル基導入割合は100%であった。
【0085】
(製造例2:アクリル重合体(P−1)の製造)
撹拌機、還流冷却器、逐次滴下装置、温度計を備えた反応装置にアクリル酸n−ブチル95質量部、アクリル酸5質量部からなる単量体混合物のうちの20質量%、および酢酸エチル40質量部及び重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.01質量部を加えて加熱し、還流温度で約20分間重合を行った。次いで還流温度条件下で単量体混合物の残量80質量%と、酢酸エチル20部及びアゾビスイソブチロニトリル0.1質量部からなる重合開始剤溶液とを約90分にわたって逐次滴下し、更に40分間酢酸エチル10部及びアゾビスイソブチロニトリル0.2質量部を逐次滴下し更に120分間重合反応を行った。反応終了後、トルエンにて希釈し、固形分40質量%に調整して、粘度7500mPa・s、質量平均分子量18万のアクリル酸エステル重合体溶液(P−1)を得た。
【0086】
(実施例1)
シリル基含有重合体(S1−1)の95質量部とアクリル重合体(P−1)の5質量部を用いた。これら重合体混合物の100質量部、硬化剤として水の0.03質量部、硬化触媒としてDBTDLの1質量部を混合し硬化性組成物を製造した。
得られた硬化性組成物を、厚さ100μmの、表面処理をしていないPETフィルム(基材)上に、乾燥後の膜厚が50μmになるように塗工し、循環式オーブンにおいて100℃で5分乾燥した。そして、23℃で一週間養生した後、23℃かつ相対湿度65%で2時間放置して粘着層を形成して粘着シートを得た。
【0087】
(実施例2〜4、および比較例1,2)
実施例1において、シリル基含有重合体(S1−1)とアクリル重合体(P−1)との混合割合を表1のように変えて硬化性組成物を製造し、実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0088】
(評価方法)
得られた粘着シートについて、下記の方法で剥離強度の測定、密着性および濡れ性の評価を行った。その結果を表1に示す。表中、混合比は質量比である。
[剥離強度]
室温下で、厚さ1.5mmのブライトアニール処理したステンレス鋼板に、得られた粘着シートを貼着し、2kgのゴムロールで圧着した。室温で30分後、室温で24時間(1日)、60℃で168時間(7日)、60℃で336時間(14日)、60℃で504時間(21日)、60℃で672時間(28日)経過後に、JIS B 7721に規定する引張り試験機(オリエンテック社製、RTE−1210)を用い、剥離強度(単位:N/25mm、180度ピール、引張り速度300mm/分)を測定した。この値が小さいほど粘着力が低くて剥がし易く、再剥離性に優れることを示す。室温で30分後の剥離強度の値が本発明における「剥離粘着力」に該当する。表中の「C」は凝集破壊が生じたことを示す。
表には、[室温で30分後の剥離強度]に対する[60℃で672時間(28日)経過後の剥離強度]の比(60℃・4週間/室温30分)の値をあわせて記載する。
【0089】
[耐久性]
室温で30分後の剥離強度に対する、60℃で672時間(28日)経過後の剥離強度の変化率[単位:%]を、次式により求めた。
剥離強度の変化率(%)=[60℃で672時間(28日)経過後の剥離強度−室温で30分後の剥離強度]÷[室温で30分後の剥離強度]×100
該剥離強度の変化率の値が−0〜−20%か、+0〜100%の場合、耐久性は○(良好)と評価した。
なお、通常、粘着材が加熱されると軟化して接着面積が大きくなるため、粘着材自身が変化しなくても剥離強度は初期値より高くなる傾向がある。
【0090】
[密着性]
粘着シートをブライトアニール処理したステンレス鋼板に貼着した後、23℃かつ相対湿度65%の条件下にそれぞれのサンプルを30分間放置した後、剥離し、基材密着性を目視評価した。目視評価では、ステンレス鋼板への糊移行が全くないものを○(良好)、部分的にあるものを△(やや良)、完全に移行しているものを×(不良)として評価した。
ステンレス鋼板への糊移行が無いということは、粘着シートの基材と粘着層との密着性が良好で、粘着層と被着体であるステンレス鋼板とは剥がれ易くて、粘着層と基材とは剥がれ難いことを意味する。
【0091】
[濡れ性]
23℃にて、ブライトアニール処理したステンレス鋼板上に、粘着シートを、25mm×100mmの粘着面を下にして置き、3分静置後の濡れ面積を目視で評価した。粘着面の全面が濡れている場合を「○」、おおよそ全面の2/3が濡れている場合を「N1」、おおよそ全面の1/2が濡れている場合を「N2」、濡れている面が全面の1/3以下である場合を「N3」とし、N1〜3は不適格とした。
【0092】
【表1】

【0093】
表1の結果より、実施例1〜4の硬化性組成物を硬化させて得られる粘着体は、粘着力が低くて再剥離性が良好である一方で粘着力の経時上昇が小さく、時間がたっても被着体への良好な密着性が維持された。また基材への密着性が良好で、被着体への濡れ性および耐久性も良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖に、ポリエーテル鎖、ポリエステル鎖、および/またはポリカーボネート鎖を有し分子末端に加水分解性シリル基を有するシリル基含有重合体(S)と、アクリル重合体(P)とを含む硬化性組成物を硬化させて得られる粘着体。
【請求項2】
前記シリル基含有重合体(S)が、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、および、ポリエーテルポリエステルポリオールからなる群から選ばれる1種以上のポリオール化合物の末端に加水分解性シリル基を導入して得られるシリル基含有重合体(S1)である、請求項1に記載の粘着体。
【請求項3】
前記シリル基含有重合体(S)が、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、および、ポリエーテルポリエステルポリオールからなる群から選ばれる1種以上のポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させて得られるポリウレタンプレポリマーの末端に加水分解性シリル基を導入して得られるシリル基含有重合体(S2)である、請求項1に記載の粘着体。
【請求項4】
前記シリル基含有重合体(S)が、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、および、ポリエーテルポリエステルポリオールからなる群から選ばれる1種以上のポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させて得られるポリウレタンプレポリマーを、さらに鎖延長剤を用いて鎖延長反応させて得られるポリウレタン重合体の分子末端に加水分解性シリル基を導入して得られるシリル基含有重合体(S3)である、請求項1に記載の粘着体。
【請求項5】
前記アクリル重合体(P)の数平均分子量が1万〜100万である、請求項1〜4のいずれかに記載の粘着体。
【請求項6】
前記シリル基含有重合体(S)の加水分解性シリル基が、イソシアネートシラン類、アミノシラン類、メルカプトシラン類、エポキシシラン類、および、ヒドロシラン類から選ばれる1種以上のシラン化合物を用いて導入された、請求項1〜5のいずれかに記載の粘着体。
【請求項7】
前記加水分解性シリル基がトリアルコキシシリル基である請求項1〜6のいずれかに記載の粘着体。
【請求項8】
剥離粘着力が8N/25mm以下である請求項1〜7のいずれかに記載の粘着体。
【請求項9】
基材層と少なくとも1層の粘着体層とを有する粘着シートであって、該粘着体層が請求項1〜8のいずれか一項に記載の粘着体からなることを特徴とする粘着シート。

【公開番号】特開2010−100835(P2010−100835A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217620(P2009−217620)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】