説明

粘着剤及びラベル

【課題】 可食性で安全性に優れると共に、耐湿性及び耐老化性にも優れ、青果物等の食品に対して長期にわたって安定した十分な接着力が得られる粘着剤及びこのような粘着剤を用いたラベルを提供する。
【解決手段】 粘着剤として、グリセリン及び/又は乳酸ナトリウムを含む溶剤に、少なくとも澱粉とカードランとpH調整剤とが溶解されて、pHが11.2〜13.0の範囲のものを用い、この粘着剤をラベル基材11の片面における粘着剤層12に使用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は粘着剤及びラベルに係り、特に、青果物等の食品に直接貼付させるラベル等の粘着剤層に使用する粘着剤において、可食性で安全性に優れると共に、耐湿性及び耐老化性にも優れ、青果物等の食品に対して長期にわたって安定した十分な接着力が得られるようにした点に特徴を有するものである。
【背景技術】
【0002】
ラベル基材の片面に粘着剤層が設けられたラベルが様々な分野で使用されており、近年においては、生産者等を表示したラベルを、直接、青果物等の食品に貼付させることが行われている。
【0003】
ここで、ラベルの粘着剤層に用いる粘着剤としては、一般に、アクリル酸エステル共重合体のエラストマーを用いたアクリル系の粘着剤や、天然ゴム等のエラストマーを用いたゴム系の粘着剤が使用されている。
【0004】
しかし、上記のような粘着剤は、食品添加物として認可されたものではなく、口に入れて食するには不向きな材料である。そして、このような粘着剤を用いたラベルを青果物等の食品に直接貼付させた場合、このラベルを剥がす際に、粘着剤の一部が青果物等の食品に残る可能性があり、このような食品をそのまま食することは、食の安全・安心の点から問題となるおそれがある。
【0005】
また、近年においては、特許文献1に示されるように、コラーゲン加水分解物と乳酸ナトリウムとを用いた可食性の粘着剤が提案されている。
【0006】
しかし、この特許文献1に示される粘着剤の場合、必ずしも十分な接着力を有しているとはいえず、このような粘着剤を用いたラベルを、上記のように青果物等の食品に直接貼付した場合、ラベルが簡単に剥がれたりするという問題があった。
【0007】
さらに、可食性で青果物等の食品に対する接着力を高めた粘着剤として、特許文献2に示されるように、本出願人は、乳酸ナトリウム及び/又はグリセリンを用いた溶剤に、少なくとも多糖類を溶解させた粘着剤を開発した。
【0008】
しかし、この特許文献2に示される粘着剤においても、耐湿性や耐老化性が必ずしも十分ではなく、食品等に対して長期にわたって安定した十分な接着力を得ることは困難であった。
【特許文献1】特開2003−238934号公報
【特許文献2】特開2006−117724号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、ラベル等を青果物等の食品に直接貼付させる場合における上記のような問題を解決することを課題とするものであり、可食性で安全性に優れると共に、耐湿性及び耐老化性にも優れ、青果物等の食品に対して長期にわたって安定した十分な接着力が得られる粘着剤及びこのような粘着剤を用いたラベルを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る粘着剤においては、上記のような課題を解決するため、グリセリン及び/又は乳酸ナトリウムを含む溶剤に、少なくとも澱粉とカードランとpH調整剤とを溶解させて、pHが11.2〜13.0の範囲になるようにした。
【0011】
なお、この発明の粘着剤においては、上記のpHを11.5〜12.6の範囲にすることがより好ましい。
【0012】
ここで、この発明における粘着剤において、上記の澱粉としては、ワキシ架橋澱粉、エーテル化架橋澱粉及びワキシエーテル化架橋澱粉から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、特に、ワキシエーテル化架橋澱粉を用いることがより好ましい。
【0013】
また、この発明の粘着剤において、上記のpH調整剤としては、リン酸三カリウムK3PO4を用いることが好ましい。
【0014】
また、この発明に係るラベルにおいては、ラベル基材の片面に設ける粘着剤層に上記のような粘着剤を用いるようにしたのである。
【発明の効果】
【0015】
この発明の粘着剤においては、上記のようにグリセリン及び/又は乳酸ナトリウムを含む溶剤に、少なくとも澱粉とカードランとpH調整剤とを溶解させて、pHが11.2〜13.0の範囲になるようにしたため、上記のカードランにより非水溶性の膜が形成されて粘着剤の耐湿性が向上すると共に、アルカリ性にしたことによって耐老化性が向上され、青果物等の食品に対して長期にわたって安定した十分な接着力が得られるようになる。特に、この粘着剤におけるpHを11.5〜12.6の範囲にすると、粘着剤における耐湿性が一層向上されるようになる。
【0016】
また、この粘着剤において、澱粉として、ワキシ架橋澱粉、エーテル化架橋澱粉及びワキシエーテル化架橋澱粉から選択される少なくとも1種を用いると、粘着剤の耐老化性が一層向上し、なかでも、ワキシエーテル化架橋澱粉が粘着剤の耐老化性を向上させる上で特に好ましく、青果物等の食品に対してより長期にわたって安定した十分な接着力が得られるようになる。
【0017】
また、この発明の粘着剤において、上記のpH調整剤としてリン酸三カリウムK3PO4を用いると、粘着剤のpHを上記の範囲に調整することが簡単に行えると共に、食品への添加が認められているため、食の安全・安心の点から問題となることもない。
【0018】
また、この発明に係るラベルにおいては、ラベル基材の片面に設ける粘着剤層に上記のような粘着剤を用いるようにしたため、このラベルを青果物等の食品に直接貼付させた場合に、十分な接着力が長期にわたって得られ、このラベルが簡単に剥がれるのが防止される。
【0019】
また、このラベルを青果物等の食品から剥がす際に、粘着剤の一部が青果物等の食品に残ったとしても、この粘着剤が可食性で安全性が高いため、このような食品をそのまま食しても、食の安全・安心の点から問題となることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、この発明の実施形態に係る粘着剤及びラベルについて具体的に説明する。なお、この発明に係る粘着剤及びラベルは、特に下記の実施形態に示したものに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0021】
ここで、この発明の粘着剤において、澱粉を溶解させる溶剤にグリセリン及び/又は乳酸ナトリウムを含む溶剤を用いるようにしたのは、これらの溶剤が優れた保水能力を有し、上記の澱粉を可塑化すると同時に、粘着性を発揮させることができるためである。
【0022】
そして、澱粉としては、例えば、ワキシスターチ,馬鈴薯系澱粉,米系澱粉,タピオカ系澱粉などの各種澱粉を用いることができるが、粘着剤の耐老化性を向上させるために、上記のようにワキシ架橋澱粉、エーテル化架橋澱粉及びワキシエーテル化架橋澱粉から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、特に、ワキシエーテル化架橋澱粉を用いることがより好ましい。なお、エーテル化架橋澱粉やワキシエーテル化架橋澱粉において、エーテル化させる割合については特に限定されないが、エーテル化度が低いと、粘着剤の耐老化性を向上させる効果が少ない一方、エーテル化度が高くなりすぎると、粘着剤の接着力が低下するおそれがあるため、好ましくはエーテル化度を0.5〜15%程度にし、より好ましくは1〜10%程度にする。
【0023】
そして、上記の澱粉をグリセリン及び/又は乳酸ナトリウムを含む溶剤に溶解させるにあたり、溶解させる澱粉の量が少ないと、十分な接着力が得られなくなる一方、溶解させる澱粉の量が多くなりすぎると、この粘着剤の粘度が高くなり過ぎて、ラベル基材等への塗工が困難になるため、上記の溶剤と澱粉との重量比が、好ましくは90:10〜60:40の範囲、より好ましくは85:15〜65:35の範囲になるようにする。
【0024】
また、上記の粘着剤における耐湿性及び耐老化性をさらに向上させるためには、前記のようにpH調整剤を加えて、粘着剤のpHを11.2〜13.0の範囲、好ましくは11.5〜12.6の範囲にする。
【0025】
ここで、このように粘着剤のpHを調整するpH調整剤としては、安全性の観点から、食品への添加が認められている水酸化ナトリウムNaOH、リン酸三ナトリウムNa3PO4、リン酸三カリウムK3PO4、炭酸ナトリウムNa2CO3、リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4、リン酸水素二カリウムK2HPO4、ピロリン酸四ナトリウムNa427、ピロリン酸四カリウムK427、トリポリリン酸ナトリウムNa5310、炭酸水素ナトリウムNaHCO3などを用いることが好ましい。より好ましくは、食品への添加が認められているが、使用制限がある水酸化ナトリウムNaOHを除く、上記のpH調整剤を用いるようにする。
【0026】
さらに、上記のpH調整剤の中でも、リン酸三ナトリウムNa3PO4又はリン酸三カリウムK3PO4を用いることが好ましく、特に、溶解性が高く、粘着剤のpHの調整が容易に行える点からリン酸三カリウムK3PO4を用いることがより好ましい。また、添加するpH調整剤の量は、pH調整剤の種類によって異なるが、例えば、リン酸三カリウムK3PO4の場合、一般に上記の澱粉に対して5.3〜44重量%の範囲、好ましくは8〜28重量%の範囲になるようにする。
【0027】
また、この発明の粘着剤において、グリセリン及び/又は乳酸ナトリウムを含む溶剤にカードランを溶解させるにあたり、カードランの溶解量が少ないと、粘着剤の耐湿性を向上させる効果が少なくなる一方、カードランの溶解量が多くなりすぎると、粘着剤の接着力が低下するおそれがあるため、カードランの量を上記の澱粉に対して1〜20重量%の範囲にすることが好ましい。なお、このようにカードランを用いた場合には、粘着剤の粘度が上昇するのが抑制されて、ラベル基材などへの塗工が容易になると共に、耐湿性に加えて粘着剤の接着力も向上する。
【0028】
また、上記の粘着剤の粘度を調整したり、接着力を向上させたりするために、上記の溶剤に単糖類及び/又は少糖類を溶解させることができる。そして、上記の単糖類としては、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等を用いることができる。また、上記の少糖類としては、例えば、トレハロース、マルトース、スクロース、ラクトース、セロビオース、マルトトリオース、ラフィノース、澱粉を分解させた各種のデキストリン等のオリゴ糖を用いることができる。
【0029】
また、上記の粘着剤の粘度を調整したり、接着力を向上させたりする等のために、上記の溶剤に、ワキシ架橋澱粉、エーテル化架橋澱粉及びワキシエーテル化架橋澱粉の少なくとも1種と共に、これ以外の澱粉を溶解させることもできる。
【0030】
また、上記の粘着剤においては、必要に応じて、モルノンなどの防腐剤、ソルビン酸カリウム,ソルビン酸などの保存剤、キトサンなどの抗菌剤を添加させることもできる。
【0031】
そして、この発明の実施形態に係るラベル10においては、図1に示すように、ラベル基材11の片面に上記のような粘着剤を用いた粘着剤層12を設けるようにしている。
【0032】
そして、この実施形態のラベル10においては、粘着剤層12に上記のような粘着剤を用いたため、このラベル10を青果物等の食品(図示せず)に直接貼付させた場合においても、この粘着剤が老化したり、水分によって接着性が低下したりするのが防止され、このラベル10が青果物等の食品から簡単に剥がれるということがなく、長期にわたって十分な接着力が得られる。
【0033】
また、このラベル10を青果物等の食品から剥がす際に、粘着剤の一部が青果物等の食品に残ったとしても、この粘着剤が可食性で安全性が高いため、このような食品をそのまま食しても、食の安全・安心の点から問題となることもない。
【実施例】
【0034】
次に、この発明の実施例に係る具体的な粘着剤について説明し、実施例の粘着剤が優れた特性を示すことを、比較例を挙げて明らかにする。
【0035】
(実施例1)
実施例1においては、グリセリン35gと水35gとからなる溶剤に、澱粉として、ワキシエーテル化架橋澱粉(松谷化学工業(株)製:パインエース5)を25g加えて攪拌し、これを糊化させた後、これに6.25重量%のカードラン水溶液を80g(カードラン固形分5g)と、pH調整剤のリン酸三カリウムK3PO4を2.4g(澱粉に対して9.6重量%)とを加えて攪拌し、実施例1の粘着剤を調製した。なお、この粘着剤のpHは11.2であった。
【0036】
(実施例2)
実施例2においては、pH調整剤のリン酸三カリウムK3PO4を4.0g(澱粉に対して16.0重量%)加えるようにし、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして、実施例2の粘着剤を調製した。なお、この粘着剤のpHは11.9であった。
【0037】
(実施例3)
実施例3においては、pH調整剤のリン酸三カリウムK3PO4を5.6g(澱粉に対して22.4重量%)加えるようにし、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして、実施例3の粘着剤を調製した。なお、この粘着剤のpHは12.0であった。
【0038】
(実施例4)
実施例4においては、pH調整剤に水酸化ナトリウムNaOHを用い、この水酸化ナトリウムNaOHを1.2g(澱粉に対して4.8重量%)加えるようにし、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして、実施例4の粘着剤を調製した。なお、この粘着剤のpHは12.6であった。
【0039】
(実施例5)
実施例5においては、グリセリン35gと水35gとからなる溶剤に、澱粉として、ワキシエーテル化架橋澱粉(松谷化学工業(株)製:パインエース5)を22gと、ワキシ架橋澱粉(日澱化学(株)製:スターチMH−A)3gとを加えるようにし、上記の実施例2の場合と同様に、pH調整剤のリン酸三カリウムK3PO4を4.0g(澱粉に対して16.0重量%)加えて、実施例5の粘着剤を調製した。なお、この粘着剤のpHは11.9であった。
【0040】
(比較例1)
比較例1においては、pH調整剤のリン酸三カリウムK3PO4を1.2g(澱粉に対して4.8重量%)加えるようにし、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして、比較例1の粘着剤を調製した。なお、この粘着剤のpHは10.8であった。
【0041】
次に、上記のように調製した実施例1〜5及び比較例1の各粘着剤について、それぞれ耐湿性及び耐老化性の評価を行い、その結果を下記の表1に示した。
【0042】
ここで、各粘着剤の耐湿性については、上記の各粘着剤をそれぞれラベル基材の片面に付与した各ラベルをトマトに貼り付け、これを5℃に設定した冷蔵庫で1日冷却させた後、これを常温で放置させて結露させ、この状態で各ラベルをトマトから剥離させるようにした。
【0043】
そして、耐湿性の評価については、トマトから剥離させた時における、各粘着剤の糸引き状態を調べ、糸引きがなかった場合を○、糸引きが生じた面積が4割以下の場合を△、糸引きが生じた面積が4割を超える場合を×で示した。
【0044】
また、各粘着剤の耐老化性については、各粘着剤を温度23℃、湿度50%の雰囲気下において2週間保管し、各粘着剤の保管前と保管後における接着力を調べ、保管前の接着力に対して、保管後における接着力が80%以上維持された場合を○で示し、保管後における接着力の維持が80%未満の場合を×で示した。
【0045】
【表1】

【0046】
この結果、澱粉に耐老化性に優れたワキシエーテル化架橋澱粉を用いた実施例1〜5及び比較例1の各粘着剤においては、何れも保管前の接着力に対して、保管後における接着力が80%以上維持されており、何れも耐老化性は良好であった。また、実施例2〜5の各粘着剤においては、4週間保管後における接着力も、保管前の接着力に対して80%以上維持されており、耐老化性は極めて良好であった。
【0047】
一方、耐湿性については、粘着剤のpHが10.8である比較例1の粘着剤の場合、剥離時における粘着剤の糸引きが多く発生したのに対して、粘着剤のpHが11.2〜13.0の範囲になった実施例1〜5の各粘着剤においては、剥離時における粘着剤の糸引きの発生が少なくなっており、比較例1の粘着剤に比べて耐湿性が向上しており、特に、pHが11.5〜12.6の範囲になった実施例2〜5の各粘着剤においては、糸引きの発生がなく耐湿性がさらに向上していた。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】この発明の一実施形態に係るラベルの概略側面図である。
【符号の説明】
【0049】
10 ラベル
11 ラベル基材
12 粘着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリン及び/又は乳酸ナトリウムを含む溶剤に、少なくとも澱粉とカードランとpH調整剤とが溶解されて、pHが11.2〜13.0の範囲であることを特徴とする粘着剤。
【請求項2】
請求項1に記載の粘着剤において、上記の澱粉が、ワキシ架橋澱粉、エーテル化架橋澱粉及びワキシエーテル化架橋澱粉から選択される少なくとも1種からなることを特徴とする粘着剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の粘着剤において、上記のpH調整剤がリン酸三カリウムK3PO4であることを特徴とする粘着剤。
【請求項4】
ラベル基材の片面に粘着剤層が設けられたラベルにおいて、上記の粘着剤層に請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の粘着剤を用いたことを特徴とするラベル。

【図1】
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【公開番号】特開2009−114310(P2009−114310A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288515(P2007−288515)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000205306)大阪シーリング印刷株式会社 (90)
【Fターム(参考)】