説明

粘着剤層付位相差フィルム、ならびにそれを用いた楕円偏光板および液晶表示装置

【課題】ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルムと粘着剤層との密着性が向上した粘着剤層付位相差フィルム、ならびにこれを用いた楕円偏光板および液晶表示装置を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルム20、プライマー層30および粘着剤層40がこの順に積層されてなり、プライマー層30が、水溶性エポキシ樹脂と、けん化度が95.0モル%以上であるポリビニルアルコール系樹脂とを含有する粘着剤層付位相差フィルム10、ならびにこれを用いた楕円偏光板および液晶表示装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムに関し、より詳しくは、ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルムに特定のプライマー層および粘着剤層を積層させた粘着剤層付位相差フィルムに関する。また、本発明は、該粘着剤層付位相差フィルムを用いた楕円偏光板および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置は、低消費電力、低電圧動作、軽量、薄型などの特徴を生かして、携帯電話、携帯情報端末、コンピュータ用のモニター、テレビなど、情報用表示デバイスとして急速に普及してきている。液晶技術の発展に伴い、さまざまなモードの液晶ディスプレイが提案され、応答速度やコントラスト、狭視野角といった液晶ディスプレイの問題点が解消されつつある。しかしながら、依然として、陰極線管(CRT)に比べて視野角が狭いことが指摘され、視野角拡大のための各種の試みがなされている。
【0003】
液晶ディスプレイにおける視野角拡大のための手段の1つとして、液晶のモードに合わせた位相差フィルムを用いることが挙げられる。その例としては、各種プラスチックの延伸フィルム等からなる複屈折性フィルム、ディスコティック液晶やネマチック液晶が配向固定されたフィルム、フィルム基材上に上記の液晶層が形成されたものなどが挙げられる。
【0004】
複屈折性フィルムの具体例としては、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂などの延伸フィルムが挙げられる。
【0005】
ポリオレフィン系樹脂の位相差フィルムとしては、脂環式ポリオレフィンまたはノルボルネン系樹脂とも称される非晶性の環状ポリオレフィン系樹脂が、耐熱、耐湿性に比較的優れること、透明度に優れること、および位相差値の調整が比較的簡便に行なえることなどの理由により広く用いられている。たとえば、特許文献1には、環状ポリオレフィンフィルムからλ/2延伸フィルムやλ/4延伸フィルムを作製した例が示されている(実施例参照)。また、特許文献2には、ポリプロピレン系樹脂を位相差フィルムに適用することが開示されている。しかし、非極性であるポリオレフィン系樹脂は、しばしば粘着剤との密着力に劣るため、改善が求められてきた。
【0006】
一方、特許文献3には、二種の位相差板の間に介在させるプライマー層として、水溶性エポキシ樹脂を含有する組成物を用いることが開示されている。
【特許文献1】特開平11−149015号公報
【特許文献2】特開2007−286615号公報
【特許文献3】特開2007−272176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鎖状ポリオレフィンであるポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルムは、一般に環状ポリオレフィン系樹脂と比較して、粘着剤層との密着性に劣るため、液晶セルのガラス基板に粘着剤層を用いて貼合された、偏光板と位相差フィルムなどとの積層体からなる光学部材を該液晶セルから剥離する際、粘着剤層が光学部材から剥れて液晶セル側に残ってしまう不具合が発生することがあった。
【0008】
本発明はかかる問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルムと粘着剤層との密着性が向上した粘着剤層付位相差フィルムを提供することである。また、本発明の別の目的は、該粘着剤層付位相差フィルムを用いた楕円偏光板、さらには、該楕円偏光板を用いた液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルム、プライマー層および粘着剤層がこの順に積層されてなり、該プライマー層が、水溶性エポキシ樹脂と、けん化度が95.0モル%以上であるポリビニルアルコール系樹脂とを含有する粘着剤層付位相差フィルムを提供する。
【0010】
ここで、上記位相差フィルムは、プロピレンとエチレンとの共重合体からなり、該エチレン由来の構成単位の含有率は、10重量%以下であることが好ましい。上記位相差フィルムは、1/4波長板であってもよい。
【0011】
また、本発明は、上記いずれかに記載の粘着剤層付位相差フィルムにおける位相差フィルム上に偏光板が積層されてなる楕円偏光板が提供される。本発明の楕円偏光板は、上記位相差フィルムと上記偏光板との間に、さらに1/2波長板を備えていてもよい。
【0012】
さらに本発明は、液晶セルと、該液晶セルの片面または両面に積層された本発明の楕円偏光板とを備える液晶表示装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、位相差フィルムと粘着剤層との密着性が向上された粘着剤層付位相差フィルムおよびこれを用いた楕円偏光板が提供される。かかる粘着剤層付位相差フィルムおよび楕円偏光板によれば、液晶セルのガラス基板に貼合された位相差フィルムまたは位相差フィルムを備える偏光板を液晶セルから剥離し貼り直す際、粘着剤がガラス基板上に残存することを防止し得る。かかる本発明の位相差フィルムおよびこれを用いた楕円偏光板は、液晶表示装置などに好適に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、実施の形態を示して本発明を詳しく説明する。図1は、本発明の粘着剤層付位相差フィルムの好ましい一例を示す断面模式図である。図1に示されるように、本発明の粘着剤層付位相差フィルム10は、ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルム20と、位相差フィルム20の一方の面に積層されたプライマー層30と、プライマー層30上に積層された粘着剤層40とを備える。以下、各層について詳細に説明する。
【0015】
<<粘着剤層付位相差フィルム>>
<位相差フィルム>
本発明においては、ポリプロピレン系樹脂を延伸して位相差フィルムとする。ポリプロピレン系樹脂フィルムは結晶性であるため、位相差値の発現率が極めて高く、延伸によって容易に大きな位相差値を得ることができる。したがって、ポリプロピレン系樹脂を用いることにより、薄い膜厚で所望の位相差値を有する位相差フィルムを得ることができる。
【0016】
また、ポリプロピレン系樹脂は、波長400nmにおける面内の最大屈折率と最小屈折率との差(複屈折)Δn400と、波長500nmにおける面内の最大屈折率と最小屈折率との差(複屈折)Δn500との比(Δn400/Δn500)が1.05未満であるため、それぞれポリプロピレン系樹脂で構成される1/2波長板と1/4波長板とを組み合わせた場合、優れた広帯域1/4波長板とすることができる。本明細書では、上記したΔn400/Δn500の値をもって「位相差の波長分散」(本明細書中において、単に「波長分散」と呼ぶことがある。)と定義する。
【0017】
さらに、ポリプロピレン系樹脂は、その光弾性係数が約2×10-13cm2/dyne前後と小さいため、位相差フィルムをポリプロピレン系樹脂から構成することにより、1/2波長板と1/4波長板との貼合時、もしくは直線偏光板との貼合時に、貼りムラを抑制することができる。また、耐熱性試験時での白抜けをも抑制することができる。加えて、ポリプロピレン系樹脂は、高倍率で延伸できるため、横延伸で完全一軸性のフィルムを作製することが可能であり、薄膜化と幅広化を同時に達成でき、利用効率に優れる。
【0018】
本発明においては、上記ポリプロピレン系樹脂を製膜することにより原反フィルムを得た後、これを延伸して、位相差を発現させて位相差フィルムを得る。位相差フィルムの膜厚は、たとえば25μm以下程度とすることができ、好ましくは20μm以下である。膜厚が25μmを超えると、薄膜化のメリットが有効に発揮されにくくなる。また、その膜厚があまり小さいと、フィルムにシワなどが発生しやすく、巻き取りや貼合時のハンドリング性を悪化させる傾向にある。そこで、位相差フィルムの膜厚は5μm以上であることが好ましく、さらには8μm以上であることがより好ましい。
【0019】
本発明に用いる位相差フィルムは、面内の位相差値R0が70〜160nmの範囲であること好ましい。また、位相差フィルムのNz係数は、0.9〜1.6の範囲が好ましく、とりわけ0.95〜1.05の範囲にあることがより好ましい。位相差フィルムの面内の位相差値R0およびNz係数は、上記範囲から、適用される液晶表示装置に要求される特性に合わせて適宜選択され得る。ここで、位相差フィルムの面内遅相軸方向の屈折率をnx、面内進相軸方向(遅相軸と面内で直交する方向)の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnz、および位相差フィルムの厚みをdとしたときに、位相差フィルムの面内の位相差値R0、厚み方向の位相差値Rth、およびNz係数は、それぞれ下式(I)、(II)および(III)で定義される。
【0020】
0=(nx−ny)×d (I)
th=〔(nx+ny)/2−nz〕×d (II)
z=(nx−nz)/(nx−ny) (III)
また、上記式(I)、(II)および(III)から、Nz係数と面内の位相差値R0および厚み方向の位相差値Rthとの関係は、次の式(IV)で表すことができる。
【0021】
z=Rth/R0+0.5 (IV)
なお、Nz係数がほぼ1である場合、上記式(III)より、nyとnzがほぼ等しいことを意味するから、そのような位相差フィルムは、ほぼ完全な一軸性である。
【0022】
(ポリプロピレン系樹脂)
次に、本発明に用いられる位相差フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂についてさらに詳細に説明する。本発明に用いる位相差フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂は、重合用触媒を用いて、プロピレンを単独重合する方法や、プロピレンと他の共重合性コモノマーとを共重合する方法によって製造することができる。重合用触媒としては、従来公知の重合用触媒を用いることができ、たとえば、次のようなものを挙げることができる。
(1)マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分からなるTi−Mg系触媒、
(2)マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と、必要に応じて電子供与性化合物等の第三成分とを組み合わせた触媒系、
(3)メタロセン系触媒など。
【0023】
上記の触媒系の中でも、本発明の位相差フィルムに用いるポリプロピレン系樹脂の製造においては、マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と電子供与性化合物とを組み合わせた触媒系が、最も一般的に使用できる。マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分としては、たとえば、特開昭61−218606号公報、特開昭61−287904号公報、特開平7−216017号公報などに記載の触媒系が挙げられる。有機アルミニウム化合物としては、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドとの混合物、テトラエチルジアルモキサンなどを好ましく用いることができる。また、電子供与性化合物としては、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、tert−ブチルプロピルジメトキシシラン、tert−ブチルエチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシランなどを好ましく用いることができる。
【0024】
メタロセン系触媒としては、たとえば、特許第2587251号公報、特許第2627669号公報、特許第2668732号公報などに記載の触媒系が挙げられる。
【0025】
ポリプロピレン系樹脂は、たとえば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンの如き炭化水素化合物に代表される不活性溶剤を用いる溶液重合法、液状のモノマーを溶剤として用いる塊状重合法、気体のモノマーをそのまま重合させる気相重合法などによって製造することができる。これらの方法による重合は、バッチ式で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。
【0026】
ポリプロピレン系樹脂の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチックのいずれであってもよい。本発明においては、耐熱性の点から、シンジオタクチックあるいはアイソタクチックのポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
【0027】
本発明に用いる位相差フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体で構成することができるほか、プロピレンを主体とし、それと共重合可能なコモノマーを少量の割合で共重合させたものであってもよい。共重合体とすることにより、ポリプロピレン系樹脂の加工性や透明性を向上させることが可能である。共重合体とする場合、共重合体中のコモノマー由来の構成単位の含有率は、たとえば20重量%以下であり、好ましくは10重量%以下、より好ましくは7重量%以下である。また、共重合体中のコモノマー由来の構成単位の含有率は、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上である。コモノマー由来の構成単位の含有率が10重量%を超えると、樹脂の融点が下がり、耐熱性が悪くなる傾向にある。また、コモノマー由来の構成単位の含有率が1重量%未満であると、共重合により得られ得る、たとえば加工性や透明性向上等の効果が認められない傾向にある。なお、2種類以上のコモノマーとポリプロピレンとの共重合体とする場合には、その共重合体に含まれる全てのコモノマーに由来する構成単位の合計含有率が、前記範囲であることが好ましい。共重合体中のコモノマー由来の構成単位の含有率は、「高分子分析ハンドブック」(1995年、紀伊国屋書店発行)の第616頁に記載されている方法に従い、赤外線(IR)スペクトル測定を行なうことにより求めることができる。
【0028】
プロピレンと共重合可能なコモノマーとしては、たとえば、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンを挙げることができる。炭素原子数4〜20のα−オレフィンとして、具体的には、次のようなものを挙げることができる。
【0029】
1−ブテン、2−メチル−1−プロペン(以上、炭素原子数4);1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン(以上、炭素原子数5);1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン(以上、炭素原子数6);1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン(以上、炭素原子数7);1−オクテン、5−メチル−1−ヘプテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−メチル−3−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン(以上、炭素原子数8);1−ノネン(炭素原子数9);1−デセン(炭素原子数10);1−ウンデセン(炭素原子数11);1−ドデセン(炭素原子数12);1−トリデセン(炭素原子数13);1−テトラデセン(炭素原子数14);1−ペンタデセン(炭素原子数15);1−ヘキサデセン(炭素原子数16);1−ヘプタデセン(炭素原子数17);1−オクタデセン(炭素原子数18);1−ノナデセン(炭素原子数19)など。
【0030】
上記共重合可能なコモノマーの中でも、加工性の観点から、エチレンおよび炭素原子数4〜12のα−オレフィンが好ましく用いられる。好ましく用いられる炭素原子数4〜12のα−オレフィンとしては、たとえば、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン;1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン;1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン;1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン;1−オクテン、5−メチル−1−ヘプテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−メチル−3−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン;1−ノネン;1−デセン;1−ウンデセン;1−ドデセンなどを挙げることができる。プロピレンとの共重合性の観点からは、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセンおよび1−オクテンが好ましく、とりわけエチレン、1−ブテンおよび1−ヘキセンがより好ましい。したがって、好ましい共重合体としては、プロピレン/エチレン共重合体、プロピレン/1−ブテン共重合体およびプロピレン/1−ヘキセン共重合体などを挙げることができる。
【0031】
プロピレンとこれと共重合可能なコモノマーとの共重合体は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよいが、位相差フィルムとしての透明度や加工性を向上させるという観点からは、プロピレンを主体とするランダム共重合体であることが好ましい。なかでも、プロピレンとエチレンとのランダム共重合体が好ましい。
【0032】
本発明に用いる位相差フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂は、JIS K 7210に準拠した、温度230℃、荷重21.18Nで測定されるメルトフローレイト(MFR)が、0.1〜200g/10分、特に0.5〜50g/10分の範囲にあることが好ましい。MFRがこの範囲にあるポリプロピレン系樹脂を用いることにより、押出機に大きな負荷をかけることなく均一なフィルム状物を得ることができる。
【0033】
ポリプロピレン系樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲で、公知の添加物が配合されていてもよい。添加物としては、たとえば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、造核剤、防曇剤、アンチブロッキング剤などを挙げることができる。酸化防止剤としては、たとえば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤などが挙げられ、また、1分子中にたとえば、フェノール系の酸化防止機構とリン系の酸化防止機構とを併せ持つユニットを有する複合型の酸化防止剤も用いることができる。紫外線吸収剤としては、たとえば、2−ヒドロキシベンゾフェノン系やヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール系の如き紫外線吸収剤、ベンゾエート系の紫外線遮断剤などが挙げられる。帯電防止剤は、ポリマー型、オリゴマー型、モノマー型のいずれであってもよい。滑剤としては、エルカ酸アミドやオレイン酸アミドの如き高級脂肪酸アミド、ステアリン酸の如き高級脂肪酸およびその塩などが挙げられる。造核剤としては、たとえば、ソルビトール系造核剤、有機リン酸塩系造核剤、ポリビニルシクロアルカンの如き高分子系造核剤などが挙げられる。アンチブロッキング剤としては、球状あるいはそれに近い形状の微粒子が、無機系、有機系を問わず使用できる。これらの添加物は、複数種が併用されてもよい。
【0034】
(ポリプロピレン系樹脂の原反フィルム)
本発明においては、ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルムを作製するに際し、まず、上記ポリプロピレン系樹脂を製膜することにより原反フィルムを得る。当該原反フィルムは、透明で実質的に面内位相差のないものであることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂の原反フィルムを製造する方法としては、特に制限されず、たとえば、溶融樹脂からの押出成形法;有機溶剤に溶解させた樹脂を平板上に流延し、溶剤を除去して製膜する溶剤キャスト法などによって、面内位相差が実質的にないポリプロピレン系樹脂の原反フィルムを得ることができる。
【0035】
原反フィルムを製造する方法の例として、押出成形による製膜法(押出成形法)について詳しく説明する。押出成形法においては、ポリプロピレン系樹脂は、押出機中でスクリューの回転によって溶融混練され、Tダイからシート状に押出される。押出される溶融状シートの温度は、180〜300℃程度である。このときの溶融状シートの温度が180℃を下回ると、延展性が十分でなく、得られるフィルムの厚みが不均一になり、位相差ムラのあるフィルムとなる可能性がある。また、その温度が300℃を超えると、樹脂の劣化や分解が起こりやすく、シート中に気泡が生じたり、炭化物が含まれたりすることがある。
【0036】
押出機は、単軸押出機であっても2軸押出機であってもよい。たとえば、単軸押出機を用いる場合は、スクリューの長さLと直径Dの比であるL/Dが24〜36程度、樹脂供給部におけるねじ溝の空間容積V1と樹脂計量部におけるねじ溝の空間容積V2との比(V1/V2)である圧縮比が1.5〜4程度であって、フルフライトタイプ、バリアタイプ、さらにマドック型の混練部分を有するタイプなどのスクリューを用いることができる。ポリプロピレン系樹脂の劣化や分解を抑制し、均一に溶融混練するという観点からは、L/Dが28〜36で、圧縮比V1/V2が2.5〜3.5であるバリアタイプのスクリューを用いることが好ましい。また、ポリプロピレン系樹脂の劣化や分解を可及的に抑制するため、押出機内は、窒素雰囲気または真空にすることが好ましい。さらに、ポリプロピレン系樹脂が劣化したり分解したりすることで生じる揮発ガスを取り除くため、押出機の先端に1mmφ以上5mmφ以下程度のオリフィスを設け、押出機先端部分の樹脂圧力を高めることも好ましい。オリフィスの設置により押出機先端部分の樹脂圧力を高めることは、当該先端部分での背圧を高めることを意味しており、これにより押出の安定性を向上させることができる。用いるオリフィスの直径は、より好ましくは2mmφ以上4mmφ以下である。
【0037】
押出に使用されるTダイは、樹脂の流路表面に微小な段差や傷のないものが好ましく、また、そのリップ部分は、溶融したポリプロピレン系樹脂との摩擦係数の小さい材料でめっきまたはコーティングされ、さらにリップ先端が0.3mmφ以下に研磨されたシャープなエッジ形状のものが好ましい。摩擦係数の小さい材料としては、タングステンカーバイド系やフッ素系の特殊めっきなどが挙げられる。このようなTダイを用いることにより、目ヤニの発生を抑制でき、同時にダイラインを抑制できるので、外観の均一性に優れる原反フィルムが得られる。このTダイは、マニホールドがコートハンガー形状であって、かつ以下の条件(1)または(2)を満たすことが好ましく、さらには条件(3)または(4)を満たすことがより好ましい。
【0038】
(1)Tダイのリップ幅が1500mm未満のとき:Tダイの厚み方向長さ>180mm、
(2)Tダイのリップ幅が1500mm以上のとき:Tダイの厚み方向長さ>220mm、
(3)Tダイのリップ幅が1500mm未満のとき:Tダイの高さ方向長さ>250mm、
(4)Tダイのリップ幅が1500mm以上のとき:Tダイの高さ方向長さ>280mm。
【0039】
このような条件を満たすTダイを用いることにより、Tダイ内部での溶融状ポリプロピレン系樹脂の流れを整えることができ、かつ、リップ部分でも厚みムラを抑えながら押出すことができるため、より厚み精度に優れ、位相差のより均一な原反フィルムを得ることができる。
【0040】
ポリプロピレン系樹脂の押出変動を抑制する観点から、押出機とTダイとの間にアダプターを介してギアポンプを取り付けることが好ましい。また、ポリプロピレン系樹脂中にある異物を取り除くため、リーフディスクフィルターを取り付けることが好ましい。
【0041】
Tダイから押出された溶融状シートは、金属製冷却ロール(チルロールまたはキャスティングロールともいう)と、その金属製冷却ロールの周方向に圧接して回転する弾性体を含むタッチロールとの間に、挟圧させて冷却固化することで、所望の原反フィルムを得ることができる。この際、タッチロールは、ゴムなどの弾性体がそのまま表面となっているものでもよいし、弾性体ロールの表面を金属スリーブからなる外筒で被覆したものでもよい。弾性体ロールの表面が金属スリーブからなる外筒で被覆されたタッチロールを用いる場合は、通常、金属製冷却ロールとタッチロールとの間に、ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートを直接挟んで冷却する。一方、表面が弾性体となっているタッチロールを用いる場合は、ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートとタッチロールとの間に熱可塑性樹脂の二軸延伸フィルムを介在させて挟圧することもできる。
【0042】
ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートを、上記のような冷却ロールとタッチロールとで挟んで冷却固化させるに際しては、冷却ロールおよびタッチロールの表面温度を低くしておき、溶融状シートを急冷させることが好ましい。たとえば、両ロールの表面温度は0℃以上30℃以下の範囲に調整されることが好ましい。これらの表面温度が30℃を超えると、溶融状シートの冷却固化に時間がかかるため、ポリプロピレン系樹脂中の結晶成分が成長してしまい、得られるフィルムは透明性に劣るものとなることがある。ロールの表面温度は、好ましくは30℃未満、さらに好ましくは25℃未満である。一方、ロールの表面温度が0℃を下回ると、金属製冷却ロールの表面が結露して水滴が付着し、原反フィルムの外観を悪化させる傾向がある。
【0043】
使用する金属製冷却ロールは、その表面状態がポリプロピレン系樹脂フィルムの表面に転写されるため、その表面に凹凸がある場合には、得られるポリプロピレン系樹脂フィルムの厚み精度を低下させる可能性がある。そこで、金属製冷却ロールの表面は可能な限り鏡面状態であることが好ましい。具体的には、金属製冷却ロールの表面の粗度は、最大高さの標準数列で表して0.3S以下であることが好ましく、さらには0.1S〜0.2Sであることがより好ましい。
【0044】
金属製冷却ロールとニップ部分を形成するタッチロールとは、その弾性体における表面硬度が、JIS K 6301に規定されるスプリング式硬さ試験(A形)で測定される値として、65〜80であることが好ましく、さらには70〜80であることがより好ましい。このような表面硬度のゴムロールを用いることにより、溶融状シートにかかる線圧を均一に維持することが容易となり、かつ、金属製冷却ロールとタッチロールとの間に溶融状シートのバンク(樹脂溜り)を作ることなくフィルムに成形することが容易となる。
【0045】
溶融状シートを挟圧するときの圧力(線圧)は、金属製冷却ロールに対してタッチロールを押し付ける圧力により決まる。線圧は、50N/cm以上300N/cm以下とするのが好ましく、さらには100N/cm以上250N/cm以下とするのがより好ましい。線圧を前記範囲とすることにより、バンクを形成することなく、一定の線圧を維持しながらポリプロピレン系樹脂の原反フィルムを製造することが容易となる。
【0046】
金属製冷却ロールとタッチロールとの間で、ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートとともに熱可塑性樹脂の二軸延伸フィルムを挟圧する場合、この二軸延伸フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン系樹脂と強固に熱融着しない樹脂であればよく、具体的には、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリルなどを挙げることができる。これらの中でも、湿度や熱などによる寸法変化の少ないポリエステルが最も好ましい。この場合の二軸延伸フィルムの厚さは、通常5〜50μm程度であり、好ましくは10〜30μmである。
【0047】
この方法においては、Tダイのリップから金属製冷却ロールとタッチロールとで挟圧されるまでの距離(エアギャップ)を200mm以下とすることが好ましく、さらには160mm以下とすることがより好ましい。Tダイから押出された溶融状シートは、リップからロールまでの間引き伸ばされて、配向が生じやすくなる。エアギャップを上記の如く短くすることで、配向のより小さいフィルムを得ることができる。エアギャップの下限値は、使用する金属製冷却ロールの径とタッチロールの径、および使用するリップの先端形状により決定され、通常50mm以上である。
【0048】
この方法でポリプロピレン系樹脂の原反フィルムを製造するときの加工速度は、溶融状シートを冷却固化するために必要な時間により決定される。使用する金属製冷却ロールの径が大きくなると、溶融状シートがその冷却ロールと接触している距離が長くなるため、より高速での製造が可能となる。具体的には、600mmφの金属製冷却ロールを用いる場合、加工速度は、最大で5〜20m/分程度となる。
【0049】
金属製冷却ロールとタッチロールとの間で挟圧された溶融状シートは、ロールとの接触により冷却固化する。そして、必要に応じて端部をスリットした後、巻き取り機に巻き取られて原反フィルムとなる。この際、原反フィルムを使用するまでの間、その表面を保護するために、その片面または両面に別の熱可塑性樹脂からなる表面保護フィルムを貼り合わせた状態で巻き取ってもよい。ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートを熱可塑性樹脂からなる二軸延伸フィルムとともに金属製冷却ロールとタッチロールとの間で挟圧した場合には、その二軸延伸フィルムを一方の表面保護フィルムとすることもできる。
【0050】
(位相差フィルムの製造方法)
本発明に用いる位相差フィルムは、上記したようなポリプロピレン系樹脂からなる原反フィルムを横延伸することにより製造できる。ここで、横延伸とは、ロールから巻き出される長尺のフィルムを幅方向(横方向)に延伸することをいう。
【0051】
横延伸は通常、以下の工程を有する。
(A)原反フィルムを、ポリプロピレン系樹脂の融点付近の温度で予熱する予熱工程;
(B)予熱されたフィルムを、当該予熱温度よりも低い温度で横方向に延伸する延伸工程;および、
(C)横方向に延伸されたフィルムを熱固定する熱固定工程。
【0052】
代表的な横延伸の方法としては、テンター法が挙げられる。テンター法は、チャックでフィルム幅方向の両端を固定した原反フィルムを、オーブン中でチャック間隔を広げて延伸する方法である。テンター法に用いる延伸機(テンター延伸機)は通常、予熱工程を行なうゾーン、延伸工程を行なうゾーン、および熱固定工程を行なうゾーンにおいて、それぞれの温度を独立に調節できる機構を備えている。このようなテンター延伸機を用いて横延伸を行なうことにより、軸精度に優れ、かつ均一な位相差を有する位相差フィルムを得ることができる。
【0053】
横延伸の予熱工程(A)は、フィルムを幅方向に延伸する工程の前に設置される工程であり、フィルムを延伸するのに十分な温度までフィルムを加熱する工程である。予熱工程での予熱温度は、オーブンの予熱工程を行なうゾーンにおける雰囲気温度を意味し、延伸されるポリプロピレン系樹脂フィルムの融点付近の温度が採用される。延伸されるフィルムの予熱工程における滞留時間は、30〜120秒であることが好ましい。この予熱工程での滞留時間が30秒に満たないときは、延伸工程でフィルムが延伸されるときに応力が分散し、位相差フィルムとしての軸精度や位相差の均一性に不利な影響を及ぼす可能性があり、また、その滞留時間が120秒を超えるときは、必要以上に熱を受け、フィルムが部分的に融解し、ドローダウンする(下に垂れる)可能性がある。予熱工程での滞留時間は、30〜60秒であることがより好ましい。
【0054】
横延伸の延伸工程(B)は、フィルムを幅方向に延伸する工程である。この延伸工程での延伸温度は通常、予熱温度より低い温度とされる。延伸工程での延伸温度は、オーブンの延伸工程を行なうゾーンにおける雰囲気温度を意味する。予熱されたフィルムを予熱工程よりも低い温度で延伸することにより、フィルムを均一に延伸できるようになり、その結果、光軸および位相差の均一性に優れた位相差フィルムを得ることができる。延伸温度は、予熱工程における予熱温度より5〜20℃低いことが好ましく、7〜15℃低いことがより好ましい。このときの延伸倍率は、光軸を発現させる方向(遅相軸となる方向)で3〜10倍程度の範囲から、必要とする位相差値に合わせて、適宜選択すればよく、好ましくは3〜6倍の範囲である。このときの延伸倍率を3倍以上とすることにより、前記のNz係数を0.9〜1.1の範囲とすることができる。一方、延伸倍率があまり大きくなると、位相差値の均一性が損なわれる可能性があるので、10倍程度までにとどめるのが好ましい。
【0055】
横延伸の熱固定工程(C)は、延伸工程終了時におけるフィルム幅を保った状態で、そのフィルムをオーブン内の所定温度のゾーンに通過させる工程である。フィルムの位相差や光軸など光学的特性の安定性を効果的に向上させるために、熱固定温度は、延伸工程における延伸温度よりも5℃低い温度から延伸温度よりも30℃高い温度までの範囲内であることが好ましい。
【0056】
横延伸の工程は、さらに熱緩和工程を有してもよい。この熱緩和工程は、テンター法においては通常、延伸工程と熱固定工程との間で行なわれ、熱緩和のゾーンは、他のゾーンから独立して温度設定が可能なように設けられるのが通例である。具体的には、熱緩和工程は、延伸工程においてフィルムを所定の幅に延伸した後、無駄な歪を取り除くために、チャックの間隔を数%だけ狭くして、通常は延伸終了時の間隔より0.5〜7%程度狭くして行なわれる。
【0057】
<プライマー層>
本発明の粘着剤層付位相差フィルムを構成するプライマー層(図1におけるプライマー層30)は、水溶性エポキシ樹脂およびポリビニルアルコール系樹脂を含有するものである。かかるプライマー層を介在させることにより、位相差フィルムと粘着剤層との密着性を向上させることができる。ここで、「水溶性エポキシ樹脂およびポリビニルアルコール系樹脂を含有する」とは、水溶性エポキシ樹脂とポリビニルアルコール系樹脂との架橋硬化物を含有するか、または、当該架橋硬化物とともに、未反応の水溶性エポキシ樹脂および/もしくはポリビニルアルコール系樹脂を含有することを意味する。
【0058】
プライマー層は、水溶性エポキシ樹脂およびポリビニルアルコール系樹脂を含有する樹脂組成物を位相差フィルム上に塗工した後、乾燥処理を施すことにより形成することができる。該樹脂組成物としては、水溶性エポキシ樹脂およびポリビニルアルコール系樹脂と、主溶媒として水を含有する樹脂組成物(以下、プライマー用塗工液とも称する。)が好ましく用いられる。主溶媒として水を用いることにより、位相差フィルムの位相差値および遅相軸の精度を当該プライマー用塗工液を塗工後も維持することが可能となる。なお、プライマー用塗工液の粘度の調節あるいは表面張力の調整のために、または消泡効果を期待して、たとえばアルコール類などの水溶性有機溶媒を適宜添加してもよい。アルコール類の例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、エチレングリコールなどが挙げられる。
【0059】
プライマー用塗工液に含有される水溶性エポキシ樹脂としては、たとえば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどのポリアルキレンポリアミンと、アジピン酸などのジカルボン酸との反応で得られるポリアミドポリアミンに、エピクロロヒドリンを反応させて得られるポリアミドエポキシ樹脂を挙げることができる。かかるポリアミドエポキシ樹脂の市販品としては、住化ケムテックス(株)から販売されている「スミレーズレジン650(30)」、「スミレーズレジン675」(いずれも商品名)などがある。
【0060】
水溶性エポキシ樹脂の添加量は、溶媒100重量部(溶媒として水のみが使用される場合には、水重量部)に対して、0.2〜5.5重量部程度とすることが好ましい。水溶性エポキシ樹脂の添加量が、溶媒100重量部に対して、0.2重量部未満である場合には、位相差フィルムと粘着剤層との間の十分な密着性が得られない傾向にある。また、水溶性エポキシ樹脂の添加量が、溶媒100重量部に対して、5.5重量部を超える場合には、添加するポリビニルアルコール系樹脂との反応が無視できなくなり、プライマー用塗工液の粘度が上昇したり、ゲル化物が発生する傾向があり好ましくない。水溶性エポキシ樹脂の添加量を上記範囲内とすることにより、位相差フィルムと粘着剤層との間の十分な密着性を与えるプライマー層を形成し得るが、水溶性エポキシ樹脂濃度が比較的高めである、0.5〜5.5重量部程度の範囲から水溶性エポキシ樹脂の添加量を選択することにより、密着性をさらに改善し得る。ただし、水溶性エポキシ樹脂の添加量は、たとえば、0.2〜1.5重量部程度の、水溶性エポキシ樹脂濃度が比較的低い範囲から選択されてもよい。
【0061】
プライマー用塗工液に含有されるポリビニルアルコール系樹脂としては、たとえば、部分ケン化ポリビニルアルコールや完全ケン化ポリビニルアルコールのほか、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、メチロール基変性ポリビニルアルコール、アミノ基変性ポリビニルアルコールなどの、変性されたポリビニルアルコール系樹脂であってもよい。適当なポリビニルアルコール系樹脂の市販品としては、それぞれ(株)クラレから販売されている部分ケン化ポリビニルアルコールである「PVA−403」、カルボキシル基変性部分ケン化ポリビニルアルコールである「KL−506」、「KL−318」、日本合成(株)から販売されているアセトアセチル基を有する変性ポリビニルアルコールである「ゴーセファイマー Z200」(いずれも商品名)などがある。
【0062】
本発明において、ポリビニルアルコール系樹脂のけん化度は、95モル%以上とされる。けん化度が95モル%未満である場合には、ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルムとの密着性が低下する傾向にあり、その結果、粘着剤層付位相差フィルムまたはこれを用いた偏光板を液晶セルから剥離する際、粘着剤層が液晶セル側に残ってしまう場合がある。
【0063】
ポリビニルアルコール系樹脂の添加量は、溶媒100重量部(溶媒として水のみが使用される場合には、水100重量部)に対して、1〜25重量部程度とすることが好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂の添加量が、溶媒100重量部に対して、1重量部未満である場合には、位相差フィルムと粘着剤層との間の十分な密着性が得られない傾向にある。また、ポリビニルアルコール系樹脂の添加量が、溶媒100重量部に対して、25重量部を超える場合には、水溶液粘度が顕著に上昇するとともに、溶液安定性が低下するなどの傾向があり、好ましくない。ポリビニルアルコール系樹脂の添加量を上記範囲内とすることにより、位相差フィルムと粘着剤層との間の十分な密着性を与えるプライマー層を形成し得るが、ポリビニルアルコール系樹脂濃度が比較的高めである、たとえば5〜25重量部程度の範囲からポリビニルアルコール系樹脂の添加量を選択することにより、密着性をさらに改善し得る。ただし、ポリビニルアルコール系樹脂の添加量は、たとえば、1〜6重量部程度の、ポリビニルアルコール系樹脂濃度が比較的低い範囲から選択されてもよい。
【0064】
水溶性エポキシ樹脂は、ポリビニルアルコール系樹脂の硬化剤として機能するものである。水溶性エポキシ樹脂は、ポリビニルアルコール系樹脂との反応性が高いものほど反応後の架橋密度が高くなるため、得られるプライマー層が良好な耐水性を示すようになる。しかし、水溶性エポキシ樹脂の反応性が高すぎると、プライマー用塗工液中で反応が起こりやすくなってしまう。すなわち、水溶性エポキシ樹脂が溶媒と反応して失活するために耐水性が上がらないとか、あるいはプライマー用塗工液中でポリビニルアルコール系樹脂と反応してしまってプライマー用塗工液中の粘度が急激に上昇するために良好な塗膜が得られないなどの不具合を生じやすい。耐水性が良好なプライマー層を形成するためには、プライマー用塗工液中での水溶性エポキシ樹脂の安定性を確保したうえで、溶媒除去時の反応性をなるべく高くすることが重要である。この場合、主に、溶媒を除去することでポリビニルアルコール系樹脂と水溶性エポキシ樹脂の反応が進行することになる。
【0065】
プライマー層は、上記プライマー用塗工液を位相差フィルム上に塗工し、乾燥処理を施すことにより形成することができる。塗工方式としては、特に制限されず、たとえばダイレクト・グラビア法、リバース・グラビア法、ダイコート法、カンマコート法、バーコート法など、公知の各種コーティング法を用いることができる。乾燥処理における乾燥温度は、たとえば60〜100℃程度とすることができる。なお、プライマー用塗工液の塗工に先立って、位相差フィルム表面にコロナ放電処理などの易接着処理を施し、濡れ性を高めておくことが好ましい。これにより、プライマー層とポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルムとの密着性を向上させることができる。
【0066】
プライマー層の厚みは、0.1〜10μm程度の範囲とするのが好ましく、とりわけ0.5〜10μm程度とするのがより好ましい。
【0067】
ここで、上記乾燥処理により、溶媒が除去され、水溶性エポキシ樹脂とポリビニルアルコール系樹脂との架橋硬化物が形成されるが、当該硬化反応は、必ずしも完全である必要はない。すなわち、プライマー層は、水溶性エポキシ樹脂とポリビニルアルコール系樹脂との架橋硬化物のみからなっていてもよいし、または、当該架橋硬化物とともに、未反応の水溶性エポキシ樹脂および/もしくはポリビニルアルコール系樹脂を含有していてもよい。硬化反応が完全に進行していない場合であっても、十分な密着性を得ることができる。また、乾燥処理後におけるプライマー層は、若干の溶媒(たとえば水)を含んでいてもよい。この場合でも、十分な密着性を得ることが可能である。
【0068】
<粘着剤層>
粘着剤層(図1における粘着剤層40)を形成する粘着剤としては、たとえば、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルなどをベースポリマー粘着剤を挙げることができる。なかでも、アクリル系ポリマーをベースポリマーとするアクリル系粘着剤のように、光学的な透明性に優れ、適度の濡れ性や凝集力を保持し、基材との接着性にも優れ、さらには耐候性や耐熱性などを有し、加熱や加湿の条件下で浮きや剥がれ等の剥離問題を生じないものを選択して用いることが好ましい。アクリル系粘着剤に含有されるアクリル系ベースポリマーとしては、メチル基、エチル基、ブチル基等の炭素数が20以下のアルキル基を有するアクリル酸のアルキルエステルと、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどの官能基含有アクリル系モノマーとのアクリル系共重合体を挙げることができる。該アクリル系共重合体のガラス転移温度は、好ましくは25℃以下、さらに好ましくは0℃以下である。また、該アクリル系共重合体の重量平均分子量は、10万以上であることが好ましい。
【0069】
また、粘着剤層を形成する粘着剤として、光拡散剤が分散された拡散粘着剤を用いることもできる。光拡散剤は、粘着剤層に光拡散性を付与するためのものであり、粘着剤層を構成するベースポリマーと異なる屈折率を有する微粒子であればよく、無機化合物からなる微粒子や有機化合物(ポリマー)からなる微粒子を用いることができる。上記したようなアクリル系ベースポリマーを含めて、粘着剤層を構成するベースポリマーは、1.4前後の屈折率を示すことが多いので、光拡散剤としては、その屈折率が1〜2程度のものを適宜選択すればよい。粘着剤層を構成するベースポリマーと光拡散剤との屈折率差は、通常0.01以上であり、また画像表示装置の明るさと視認性の観点からは、0.01以上0.5以下とするのが好適である。光拡散剤として用いる微粒子は、球形のもの、それも単分散に近いものが好ましく、たとえば、平均粒径が2〜6μm程度の範囲にある微粒子が好適に用いられる。
【0070】
無機化合物からなる微粒子としては、たとえば、酸化アルミニウム(屈折率1.76)、酸化ケイ素(屈折率1.45)などを挙げることができる。
【0071】
また、有機化合物(ポリマー)からなる微粒子としては、たとえば、メラミンビーズ(屈折率1.57)、ポリメタクリル酸メチルビーズ(屈折率1.49)、メタクリル酸メチル/スチレン共重合体樹脂ビーズ(屈折率1.50〜1.59)、ポリカーボネートビーズ(屈折率1.55)、ポリエチレンビーズ(屈折率1.53)、ポリスチレンビーズ(屈折率1.6)、ポリ塩化ビニルビーズ(屈折率1.46)、シリコーン樹脂ビーズ(屈折率1.46)などを挙げることができる。
【0072】
光拡散剤の配合量は、それが分散された粘着剤層に必要とされるヘイズ値や、それが適用される画像表示装置の明るさなどを考慮して、適宜決められるが、一般には、粘着剤層を構成するベースポリマー100重量部に対して、3〜30重量部程度である。
【0073】
光拡散剤が分散された粘着剤層のヘイズ値は、粘着剤層付位相差フィルムまたはこれを用いた偏光板が適用された画像表示装置の明るさを確保するとともに、表示像のにじみやボケを生じにくくする観点から、20〜80%の範囲となるようにするのが好ましい。ヘイズ値は、(拡散透過率/全光線透過率)×100(%)で表される値であり、JIS K 7105に準じて測定される。
【0074】
粘着剤層は、上記したようなベースポリマーを主体とする粘着剤溶液をプライマー層上に塗布し、乾燥させる方法によって形成できるほか、離型処理が施されたフィルムの離型処理面に、粘着剤溶液を塗布し、乾燥させることにより粘着剤層を形成した後、この粘着剤層付フィルムを、粘着剤層側が貼合面となるように、プライマー層表面に貼り合わせる方法によっても形成することができる。なお、粘着剤層が形成されるプライマー層表面には、あらかじめコロナ放電処理を施しておくことが好ましい。これにより、プライマー層と粘着剤層との密着性を向上させることができる。なお、位相差フィルムのプライマー層側とは反対側に偏光板を積層して楕円偏光板を作製する場合においては(楕円偏光板については後述する。)、粘着剤層の形成は、位相差フィルムに偏光板を積層させた後に行なってもよい。
【0075】
粘着剤層の厚みは、通常1〜50μm程度であり、好ましくは5〜40μm程度である。また、光拡散剤が分散された粘着剤層を用いる場合には、該粘着剤層の厚みは、その接着力などに応じて決定されるが、通常は1〜40μm程度である。加工性や耐久性などの特性を損なうことなく、薄型の粘着剤層付位相差フィルムおよびこれを用いた偏光板を得るためには、光拡散剤が分散された粘着剤層の厚みは3〜25μm程度とすることが好ましい。また、光拡散剤が分散された粘着剤層の厚みを3〜25μm程度とすることにより、画像表示装置を正面から見た場合や斜めから見た場合の明るさを保ち、表示像のにじみやボケが生じにくくすることができる。
【0076】
<<楕円偏光板>>
上記本発明の粘着剤層付位相差フィルムは、楕円偏光板に好適に適用することができる。本発明の楕円偏光板において、粘着剤層付位相差フィルムは、1/4波長板として機能してもよいし、1/2波長板として機能してもよい。図2は、本発明の楕円偏光板の好ましい一例を示す断面模式図(図2(A))およびその軸角度の関係を説明するための概略図(図2(B))である。図2に示される楕円偏光板52は、粘着剤層付位相差フィルム10の粘着剤層とは反対側の表面上(すなわち、ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルム上)に直線偏光板50を積層してなる。この例において、粘着剤層付位相差フィルム10は、1/4波長板として機能する。1/4波長板は、直線偏光で入射する光を、円偏光をはじめとする楕円偏光に、また円偏光をはじめとする楕円偏光で入射する光を直線偏光に、それぞれ変換して出射する機能を有する。
【0077】
ここで、本発明の粘着剤層付位相差フィルムを1/4波長板として用いる場合、その面内位相差値R0は、70〜160nmの範囲にあることが好ましく、さらには80〜150nmの範囲にあることがより好ましい。
【0078】
直線偏光板としては、ある方向の振動面を有する直線偏光を吸収し、それと直交する方向の振動面を有する直線偏光を透過する機能が付与された光学部材であって、この分野で一般に用いられているもの使用することができる。具体的には、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルムの少なくとも一方の面に、透明保護層を形成したポリビニルアルコール系の直線偏光板が一般的である。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させることにより、前記したような、ある方向の振動面を有する直線偏光を吸収し、それと直交する方向の振動面を有する直線偏光を透過する機能を付与することができる。二色性色素としては、ヨウ素や二色性有機染料が用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに、一軸延伸、二色性色素による染色、および染色後のホウ酸処理を施すことにより得ることができる。
【0079】
直線偏光板に用いられる透明保護層としては、たとえば、従来から偏光フィルムの保護層として一般的に用いられているトリアセチルセルロース(TAC)やジアセチルセルロースに代表されるアセチルセルロース系樹脂のフィルムを挙げることができるが、その他、ノルボルネン系樹脂に代表される環状ポリオレフィン系樹脂のフィルム、ポリプロピレン系樹脂のフィルム、ポリエチレンテレフタレート樹脂のフィルム、ポリ(メタ)アクリル酸メチルのフィルムなどを用いてもよい。
【0080】
図2(A)に示される楕円偏光板においては、図2(B)を参照して、直線偏光板50の吸収軸22を基準に、反時計回り方向を正として、1/4波長板である粘着剤層付位相差フィルム10の面内遅相軸12に至る角度θが、40〜50度、好ましくはほぼ45度となるように配置することで、ほぼ円偏光板として機能するようになる。あるいは、直線偏光板50の吸収軸22を基準に、反時計回り方向を正として、1/4波長板である粘着剤層付位相差フィルム10の面内遅相軸12に至る角度θが、130〜140度、好ましくはほぼ135度となるように配置することでも、やはりほぼ円偏光板として機能するようになる。以下、角度を表すときは、ここでの説明と同様、吸収軸に対して反時計回りを正とする。
【0081】
図3は、本発明の楕円偏光板の別の好ましい一例を示す断面模式図(図3(A))およびその軸角度の関係を説明するための概略図(図3(B))である。図3に示される楕円偏光板55は、1/4波長板である粘着剤層付位相差フィルム10の粘着剤層とは反対側の表面上(すなわち、ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルム上)に、1/2波長板25を積層し、さらにこの1/2波長板25上に直線偏光板50を積層してなる。1/2波長板25は、直線偏光の向きを回転させる機能を有する。
【0082】
図3に示される楕円偏光板において、直線偏光板および直線偏光板に用いられる透明保護層としては、上記したものを用いることができる。また、1/2波長板としては、従来公知のものを使用することができるほか、本発明の粘着剤層付位相差フィルムが用いられてもよい。本発明の粘着剤層付位相差フィルムを1/2波長板として用いる場合、その面内位相差値R0は、240〜400nmの範囲にあることが好ましく、さらには260〜330nmの範囲にあることがより好ましい。
【0083】
図3(A)に示されるように、1/4波長板と1/2波長板とを組み合わせて用いることにより、これら波長板の積層体は、可視光領域の広い波長範囲、すなわち広帯域で1/4波長板として機能するようになり、その1/2波長板側に直線偏光板を積層した楕円偏光板は、広帯域で、直線偏光を円偏光に、また円偏光を直線偏光に変換できるようになる。さらにこのように構成することで、反射防止効果の角度依存性をも低減できるようになる。
【0084】
図3(A)に示される楕円偏光板においては、図3(B)を参照して、直線偏光板50の吸収軸22を基準に、1/2波長板25の面内遅相軸17に至る角度φが10〜20度、好ましくはほぼ15度となり、1/2波長板25の面内遅相軸17から1/4波長板である粘着剤層付位相差フィルム10の面内遅相軸12に至る角度Ψが55〜65度、好ましくはほぼ60度となるように配置することで、ほぼ円偏光板として機能するようになる。あるいは、直線偏光板50の吸収軸22を基準に、1/2波長板25の面内遅相軸17に至る角度φが100〜110度、好ましくはほぼ105度となり、1/2波長板25の面内遅相軸17から1/4波長板である粘着剤層付位相差フィルム10の面内遅相軸12に至る角度Ψが55〜65度、好ましくはほぼ60度となるように配置することでも、やはりほぼ円偏光板として機能するようになる。後者の関係(直線偏光板50の吸収軸22から1/2波長板25の面内遅相軸17に至る角度φが100〜110度)は、図3(B)において「直線偏光板の吸収軸22」を「直線偏光板の透過軸」と読み替えた状態に相当する。直線偏光板において、吸収軸と透過軸とは面内で直交する関係にある。
【0085】
楕円偏光板の作製にあたり、波長板同士(1/4波長板と1/2波長板)の貼合には、上記した粘着剤層に用いられる粘着剤と同様のものを用いることができる。また、波長板と直線偏光板との貼合には、同様の粘着剤を用いることもできるし、または接着剤を用いることもできる。
【0086】
本発明の楕円偏光板は、直線偏光板とは反対側(1/4波長板側)の表面に、粘着剤付位相差フィルムに由来する粘着剤層を備えている。当該粘着剤層は、液晶セルとの貼合に好適に用いることができる。
【0087】
<<液晶表示装置>>
図4は、本発明の液晶表示装置の一例の構成を示す断面模式図である。図4に示される液晶表示装置は、図2に示される楕円偏光板52を液晶セル60の両側に配置した例であり、具体的には、バックライト側から、バックライト70、楕円偏光板52、液晶セル60および楕円偏光板52の順に配置されている。2つの楕円偏光板52はそれぞれ、1/4波長板である粘着剤層付位相差フィルム10側が液晶セル60に対向するように、その粘着剤層を用いて貼合されている。2つの楕円偏光板52は、それらの直線偏光板50の吸収軸が互いに直交するように配置される。
【0088】
図5は、本発明の液晶表示装置の別の一例の構成を示す断面模式図である。図5に示される液晶表示装置は、図3に示される楕円偏光板55を液晶セル60の両側に配置した例であり、具体的には、バックライト側から、バックライト70、楕円偏光板55、液晶セル60および楕円偏光板55の順に配置されている。2つの楕円偏光板55はそれぞれ、1/4波長板である粘着剤層付位相差フィルム10側が液晶セル60に対向するように、その粘着剤層を用いて貼合されている。2つの楕円偏光板55は、それらの直線偏光板50の吸収軸が互いに直交するように配置される。
【0089】
なお、バックライト70は、液晶表示装置が透過型または半透過反射型である場合に設けられるものであり、反射型の液晶表示装置の場合には、省略されてもよい。また、図4および5においては、液晶セルの両面に本発明の楕円偏光板を用いているが、これに限定されるものではなく、液晶セルの片面に本発明の楕円偏光板を用い、もう一方の面に他の偏光板を貼合してもよい。
【実施例】
【0090】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、使用量ないし含有量を表す「部」および「%」は、特に断りのない限り重量基準である。
【0091】
(製造例1:位相差フィルムの作製)
エチレンユニットを約5%含むプロピレン/エチレンランダム共重合体(住友化学(株)製の「住友ノーブレン W151」)を製膜して、厚さ40μmのポリプロピレン系樹脂からなる原反フィルムを得た。この原反フィルムを、横一軸延伸を行なって、一軸性の位相差フィルムを得た。この位相差フィルムは、R0=90nm、Rth=45nmであり、厚みは9μmであった。次に、ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルムの片面に、表面保護フィルムとして、東レフィルム加工(株)製のトレテック7332を貼合した。
【0092】
(製造例2:プライマー用塗工液Iの調製)
95℃に加熱された水100重量部に、ポリビニルアルコール系樹脂として、日本合成化学工業(株)製の「ゴーセファーマR Z200」(商品名、けん化度が99.0モル%以上の変性ポリビニルアルコール)3重量部を添加、攪拌した後、室温まで冷却した。次に、この溶液に、水溶性エポキシ樹脂として、住化ケムテックス(株)製のポリアミドエポキシ樹脂である「スミレーズレジン 650(30)」(商品名、固形分濃度30%の水溶液)2.0重量部を添加、攪拌することにより、プライマー用塗工液Iを得た。
【0093】
(製造例3:プライマー用塗工液IIの調製)
95℃に加熱された水100重量部に、ポリビニルアルコール系樹脂として、日本合成化学工業(株)製の「ゴーセファーマR Z200」(商品名、けん化度が99.0モル%以上の変性ポリビニルアルコール)3重量部を添加、攪拌した後、室温まで冷却した。次に、この溶液に、水溶性エポキシ樹脂として、住化ケムテックス(株)製のポリアミドエポキシ樹脂である「スミレーズレジン 650(30)」(商品名、固形分濃度30%の水溶液)2.5重量部を添加、攪拌することにより、プライマー用塗工液IIを得た。
【0094】
(製造例4:プライマー用塗工液IIIの調製)
95℃に加熱された水100重量部に、ポリビニルアルコール系樹脂として、日本合成化学工業(株)製の「ゴーセファーマR Z200」(商品名、けん化度が99.0モル%以上の変性ポリビニルアルコール)3重量部を添加、攪拌した後、室温まで冷却した。次に、この溶液に、水溶性エポキシ樹脂として、住化ケムテックス(株)製のポリアミドエポキシ樹脂である「スミレーズレジン 650(30)」(商品名、固形分濃度30%の水溶液)3.0重量部を添加、攪拌することにより、プライマー用塗工液IIIを得た。
【0095】
(製造例5:プライマー用塗工液IVの調製)
95℃に加熱された水100重量部に、ポリビニルアルコール系樹脂として、(株)クラレ製の「ポバール KL−318」(商品名、けん化度が85.0〜90.0モル%の変性ポリビニルアルコール)3重量部を添加、攪拌した後、室温まで冷却した。次に、この溶液に、水溶性エポキシ樹脂として、住化ケムテックス(株)製のポリアミドエポキシ樹脂である「スミレーズレジン 650(30)」(商品名、固形分濃度30%の水溶液)2.5重量部を添加、攪拌することにより、プライマー用塗工液IVを得た。
【0096】
(製造例6:プライマー用塗工液Vの調製)
95℃に加熱された水100重量部に、ポリビニルアルコール系樹脂として、(株)クラレ製の「ポバール KL−506」(商品名、けん化度が74.0〜80.0モル%の変性ポリビニルアルコール)3重量部を添加、攪拌した後、室温まで冷却した。次に、この溶液に、水溶性エポキシ樹脂として、住化ケムテックス(株)製のポリアミドエポキシ樹脂である「スミレーズレジン 650(30)」(商品名、固形分濃度30%の水溶液)2.5重量部を添加、攪拌することにより、プライマー用塗工液Vを得た。
【0097】
<実施例1>
(a)プライマー層の形成
製造例1で得られた位相差フィルムの表面保護フィルムが積層されている側とは反対側の表面に、積算照射量15.9kJ/m2でコロナ放電処理を施した。コロナ放電処理後5分以内に、そのコロナ処理面に、メイヤーバー(#14)を用いて、製造例2で得られたプライマー用塗工液Iを塗工した後、80℃のオーブンで15分間乾燥させ、厚さ1.2μmのプライマー層を位相差フィルム上に形成した。
【0098】
(b)楕円偏光板の作製
ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの両面にケン化されたトリアセチルセルロースからなる保護膜が接着されてなる偏光板(住友化学(株)製のSR062)の一方の表面に、ウレタンアクリレート系感圧粘着剤(リンテック(株)から販売されているNS300MP)を塗工し、粘着剤層付偏光板を得た。次に、上記プライマー層を有する位相差フィルムの表面保護フィルムを剥離した後、その剥離面に、積算照射量15.9kJ/m2でコロナ放電処理を施し、コロナ放電処理後5分以内に、そのコロナ処理面に上記粘着剤層付偏光板を、粘着剤層が貼合面となるように貼合した。次に、得られた位相差フィルム付偏光板のプライマー層表面に、積算照射量15.9kJ/m2でコロナ放電処理を施した後、コロナ放電処理後5分以内に、そのコロナ処理面にアクリル系粘着剤(リンテック(株)から販売されているP3132)を貼合し、粘着剤層付楕円偏光板を得た。
【0099】
<実施例2>
製造例3で得られたプライマー用塗工液IIを用いて、製造例1で得られた位相差フィルム上に厚さ1.2μmのプライマー層を形成した後、実施例1と同様にして、粘着剤層付楕円偏光板を作製した。
【0100】
<実施例3>
製造例4で得られたプライマー用塗工液IIIを用いて、製造例1で得られた位相差フィルム上に厚さ1.2μmのプライマー層を形成した後、実施例1と同様にして、粘着剤層付楕円偏光板を作製した。
【0101】
<比較例1>
製造例5で得られたプライマー用塗工液IVを用いて、製造例1で得られた位相差フィルム上に厚さ1.2μmのプライマー層を形成した後、実施例1と同様にして、粘着剤層付楕円偏光板を作製した。
【0102】
<比較例2>
製造例6で得られたプライマー用塗工液Vを用いて、製造例1で得られた位相差フィルム上に厚さ1.2μmのプライマー層を形成した後、実施例1と同様にして、粘着剤層付楕円偏光板を作製した。
【0103】
<比較例3>
製造例1で得られた位相差フィルムの表面保護フィルムが積層されている側とは反対側の表面に、積算照射量15.9kJ/m2でコロナ放電処理を施した。コロナ放電処理後5分以内に、そのコロナ処理面に、アクリル系粘着剤(リンテック(株)から販売されているP3132)を貼合し、粘着剤層付位相差フィルム(プライマー層なし)を得た。
【0104】
次に、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの両面にケン化されたトリアセチルセルロースからなる保護膜が接着されてなる偏光板(住友化学(株)製のSR062)の一方の表面に、ウレタンアクリレート系感圧粘着剤(リンテック(株)から販売されているNS300MP)を塗工し、粘着剤層付偏光板を得た。次に、上記粘着剤層付位相差フィルムの表面保護フィルムを剥離した後、その剥離面に、積算照射量15.9kJ/m2でコロナ放電処理を施し、コロナ放電処理後5分以内に、そのコロナ処理面に上記粘着剤層付偏光板を、粘着剤層が貼合面となるように貼合し、粘着剤層付楕円偏光板を得た。
【0105】
上記実施例および比較例の粘着剤層付楕円偏光板について、その厚みを(株)ニコン製のデジタル測長器「MH−15M」を用いて測定した。結果を表1に示す。また、粘着剤層と位相差フィルムとの密着性、および、ガラス板に貼合された粘着剤層の剥離性を評価するために次の試験を行なった。
【0106】
(1)投錨力試験
実施例1および比較例1〜2で得られたプライマー層付位相差フィルムのプライマー層表面に、積算照射量15.9kJ/m2でコロナ放電処理を施した後、コロナ放電処理後5分以内に、そのコロナ処理面にアクリル系粘着剤(リンテック(株)から販売されているP3132)を貼合し、粘着剤層付位相差フィルムを作製した。次に、当該、粘着剤層付位相差フィルムの表面保護フィルムを剥離した後、その剥離面に、積算照射量15.9kJ/m2でコロナ放電処理を施した。一方、2軸性の熱可塑性飽和ノルボルネン樹脂フィルムの片面(日本ゼオン(株)製のZB055124)に積算照射量15.9kJ/m2の条件でコロナ放電処理を施した。ついで、当該コロナ放電処理後10分以内に、2軸性の熱可塑性飽和ノルボルネン樹脂フィルムのコロナ処理面に、メイヤーバー(#1)を用いて、エポキシ化合物を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗工した。次に、その塗工面と粘着剤層付位相差フィルムのコロナ処理面とを貼合し、FUSION社製UV照射装置で、500mW/1500mJでUV硬化させ、その後、温度23℃、相対湿度60%の雰囲気下で1日間放置することにより、評価用フィルムを作製した。この評価用フィルムは、熱可塑性飽和ノルボルネン樹脂フィルム/硬化性樹脂組成物の硬化物層/位相差フィルム/プライマー層/粘着剤層の構成を有している。
【0107】
次に、この評価用フィルムを幅25mm、長さ約200mmに切断し、日本システムグループ(株)製「密着力評価装置」を用いて長さ方向に3点の密着力を測定した。測定は、硬度60度のスチレンゴムを粘着剤層に密着させ、0.4MPaの押圧力で押圧しながら、一定の方向から20回摺動させたときに、粘着剤層が位相差フィルムから剥離した長さの3点平均を剥離距離として求めることにより行なった。測定は、温度23℃、相対湿度60%の雰囲気下で実施した。なお、比較例3に関しては、プライマー層を有しない粘着剤層付位相差フィルムを用いて、上記と同様の構成の評価用フィルムを作製し、測定を行なった。結果を表1に示す。
【0108】
(2)ガラス板貼り付け剥離試験
上記投錨力試験で用いた評価用フィルムを幅25mm、長さ約200mmに切断し、その粘着剤層面をソーダガラスに貼合した後、オートクレーブ中、圧力5kgf/cm2、温度50℃で20分間の加圧処理を行ない、温度23℃、相対湿度60%の雰囲気下で、1日放置した。次に、万能引っ張り試験機(AG−1、SHIMAZU(株)製)を用いて、温度23℃、相対湿度60%の雰囲気下で、クロスヘッドスピード(剥離速度)200mm/minで、90°ピール試験により、ガラス板から評価用サンプルを剥離し、その剥離性を評価した。結果を表1にまとめた。評価基準は次のとおりである。
A:ガラス板に粘着剤が残存することなく剥離できた。
B:ガラス板に多量の粘着剤が残存した。
【0109】
【表1】

【0110】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明の粘着剤層付位相差フィルムの好ましい一例を示す断面模式図である。
【図2】本発明の楕円偏光板の好ましい一例を示す断面模式図およびその軸角度の関係を説明するための概略図である。
【図3】本発明の楕円偏光板の別の好ましい一例を示す断面模式図およびその軸角度の関係を説明するための概略図である。
【図4】本発明の液晶表示装置の一例の構成を示す断面模式図である。
【図5】本発明の液晶表示装置の別の一例の構成を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0112】
10 粘着剤層付位相差フィルム、12 1/4波長板の面内遅相軸、17 1/2波長板の面内遅相軸、20 位相差フィルム、22 吸収軸、25 1/2波長板、30 プライマー層、40 粘着剤層、50 直線偏光板、52,55 楕円偏光板、60 液晶セル、70 バックライト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルム、プライマー層および粘着剤層がこの順に積層されてなり、
前記プライマー層は、水溶性エポキシ樹脂と、けん化度が95.0モル%以上であるポリビニルアルコール系樹脂とを含有する粘着剤層付位相差フィルム。
【請求項2】
前記位相差フィルムは、プロピレンとエチレンとの共重合体からなり、
前記エチレン由来の構成単位の含有率は、10重量%以下である請求項1に記載の粘着剤層付位相差フィルム。
【請求項3】
前記位相差フィルムは、1/4波長板である請求項1または2に記載の粘着剤層付位相差フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の粘着剤層付位相差フィルムにおける前記位相差フィルム上に偏光板が積層されてなる楕円偏光板。
【請求項5】
前記位相差フィルムと前記偏光板との間に、さらに1/2波長板を備える請求項4に記載の楕円偏光板。
【請求項6】
液晶セルと、前記液晶セルの片面または両面に積層された請求項4または5の楕円偏光板とを備える液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−210807(P2009−210807A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53647(P2008−53647)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】