粘膜送達を向上させるためのタイトジャンクション調節ペプチド化合物
活性薬剤の粘膜上皮輸送用の配列を含む化合物及び成分が提供される。輸送及び送達用のタイトジャンクション調節ペプチド成分が記載されている。透過性は、可逆性をもって促進することが可能である。送達促進用の化合物及び成分は、ペプチド若しくはタンパク質、抱合体、又は他の類似の型及び構造体であってもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
あらゆる疾患又は障害の治療における根源的な関心事は、治療用薬剤の対象への安全で効果的な送達の確保である。治療剤の慣習的な送達経路には、静脈内注射及び経口投与が含まれる。しかしながら、これらの送達方法では、不利益に悩まされることになり、従って、別の送達系が必要とされる。
【0002】
注射による薬物投与の主たる不利益は、大抵、薬物の投与に熟練した人材を要することである。加えて、熟練した人材も、注射によって薬物を投与する際に危険にさらされる。また、自己投与する薬物の場合、多くの患者は定期的に自ら注射を行うことを嫌がるか、又は行うことができない。また、注射は、高い感染の危険を伴う。薬物の注射の他の不利益としては、個体間での異なる送達結果、並びに薬物作用の予期せぬ強度や期間が挙げられる。
【0003】
このような不利益にも関わらず、多くの重要な治療用化合物にとって、注射が、依然として承認された唯一の送達方法である。これらには、従来からの薬物、並びに急速に広がっている一連のペプチド及びタンパク質のバイオセラピューティック(biotherapeutic)が含まれる。これら化合物の、例えば、経口、経鼻及び他の粘膜経路による別の投与経度による送達が望まれるが、より低いバイオアベイラビリティが提示される可能性がある。例えば、ペプチド及びタンパク質の治療用化合物等の高分子種においては、不活性化しやすいことや、粘膜関門での不十分な吸収により、別の投与経路が制限されることになるであろう。
【0004】
一定の治療剤の経口投与では、肝臓での初回通過代謝及び/又は消化管における分解により、非常に低いバイオアベイラビリティと、作用においてかなりの時間遅延が示される。
【0005】
治療用化合物の粘膜投与により、注射及び他の投与方法に対して、例えば、送達の簡便性及びスピード、並びに適応性の問題と副作用を低減する、又は排除するといった利点が与えられる。しかしながら、生物活性薬剤の粘膜投与は、粘膜関門作用及び他のファクタにより制限される。
【0006】
上皮細胞は、粘膜関門を構成し、外的環境、粘膜、及び粘膜下組織及び細胞外区画との間に重大な境界面を提供している。粘膜上皮細胞の最も重要な機能の一つは、粘膜透過性を決定して調節することである。この文脈において、上皮細胞は、異なる生理学的区画間に選択的な透過障壁を作り出す。選択的透過性は、細胞質中での制御された分子輸送(経細胞経路)及び細胞間の空間の制御された透過性(傍細胞経路)の結果として生じるものである。
【0007】
上皮細胞間の細胞間結合は、上皮性関門機能及び細胞間接着の維持及び制御に関与していることが知られている。上皮及び内皮細胞のタイトジャンクション(TJ)は、特に傍細胞経路の透過性を制御し、細胞表面を頂端部と側底部の区画に分割する細胞−細胞結合にとって特に重要である。タイトジャンクションは、上皮細胞間の連続した円周状の細胞間接触を形成し、水、溶液、及び免疫細胞の傍細胞移動のために制御する障壁を作り出す。また、これらは、頂端と側底の膜の領域間の膜脂質の交換を制限することで、細胞極性に寄与する第二の種類の障壁も提供する。
【0008】
タイトジャンクションは、細胞間での密封を作り出して、傍細胞経路に沿った溶質の分散に対する主たる障壁を生じること、そして頂端及び側底の細胞膜領域間の境界として作用して細胞極性を作り出して維持することのそれぞれにより、直接的に上皮細胞のバリアー及びフェンスの機能に関与しているものと考えられている。また、タイトジャンクションは、白血球が炎症部位に到達するための遊出にも関係している。白血球は、化学誘引物質に応答して、内皮を横切り、粘膜感染の場合には、炎症を起こした上皮を横切ることにより血液から移動する。遊出は、主に傍細胞経路全体に起こり、高度な協調性と、可逆的な手段において、タイトジャンクションの開閉により制御されているものと思われる。
【0009】
内在性及び周辺細胞膜タンパク質の両方を含む、数多くのタンパク質が、TJとの関連で同定されている。これらタンパク質の複雑な構造及び相互作用的機能についての現段階における理解は、未だ限定的なものである。上皮結合に関連する多くのタンパク質の中でも、上皮結合の生理学的調節において機能する可能性のある、複数のカテゴリーの経上皮膜タンパク質が同定されている。これらタンパク質には、数多くの「ジャンクション接着分子」(JAM)及び、オクルディン(occludin)、クローディン(claudin)、及びゾヌリン(zonulin)と命名された他のTJ関連分子が含まれる。
【0010】
JAM、オクルディン、及びクローディンは、傍細胞空間へと伸長しており、特に、これらのタンパク質は、隣り合う上皮細胞間の上皮性関門及び上皮細胞層を通るチャネルを作り出す候補として考えられている。一のモデルにおいて、オクルディン、クローディン及びJAMは、同種親和性の結合パートナとして相互作用して、上皮細胞間における水、溶質、及び免疫細胞の傍細胞移動に対する制御された障壁を作り出すということが提唱されている。
【0011】
薬物送達との関連では、薬物が、送達促進剤の助けなしに粘膜表面の上皮細胞層を透過する能力は、分子サイズ、溶解性及びイオン化を含む、多数の要因に関連するものと思われる。一般的に約300−1,000ダルトン未満の低分子は、多くの場合、粘膜障壁を透過できるが、しかしながら、分子量が増大すると透過性は急速に低下する。これらの理由により、粘膜薬物投与は、典型的に、注射による投与よりも大量の薬物を必要とする。大きな分子の薬物を含む他の治療用化合物は、しばしば粘膜送達では効果を奏しない。大きな分子の薬物は、本質的な透過性の乏しさに加え、多くの場合、拡散が制限されやすく、同時に、管腔及び細胞での酵素分解を受けて、粘膜部位にて迅速に排除されやすい。従って、治療上有効量にあるこれらの大きな分子を送達させようとした場合、これら分子が粘膜両面を横断して、迅速に標的組織に作用できる体循環へ透過するのを助けるためには、細胞透過促進剤が必要とされる。
【0012】
粘膜組織は、粘膜分泌物中に存在する酵素活性が、治療剤、特にペプチド及びタンパク質のバイオアベイラビリティを厳格に制限できる一方で、高分子の自由拡散に対する頑強な障壁を提供する。鼻粘膜のような特定の粘膜部位においては、送達されたタンパク質や他の高分子種の典型的な滞留時間は、迅速な粘膜毛様体のクリアランスにより、制限され、例えば約15−30分か、これ以下である。
【0013】
当該技術分野においては、中枢神経系のような標的組織及び生理学的区画を含む、促進された粘膜送達を提供する医薬製剤及び治療用化合物の投与方法に対する、長年に渡って満たされない需要が存在している。
【0014】
より具体的には、当該技術分野において、哺乳動物対象内の疾患及び他の有害な状態を治療する治療用化合物を粘膜送達するための、安全で信頼できる方法及び組成物に対する需要が存在する。迅速に作用し、簡単に投与され、粘膜刺激作用や組織損傷などの有害な副作用が制限される、1又は2以上の粘膜経路を介した、治療用量の高分子薬物の効果的な送達を提供する方法及び組成物に対する関連需要も存在する。
【0015】
また、当該技術分野において、粘膜上皮関門のメカニズムを克服するバイオセラピューティック化合物の粘膜送達を促進する方法及び組成物に対する需要も未だ存在する。粘膜上皮の選択的透過性は、現在まで、生物学的に活性なペプチド及びタンパク質を含む、治療用高分子の粘膜送達に対する主な障害を提供してきた。従って、当該技術分野において、バイオセラピューティック化合物の粘膜送達を促進する新規な方法及びツールに対する満たされない需要が残っている。また、当該技術分野において、特に、これまでに粘膜関門を横断する送達において不応であるとされてきたバイオセラピューティック化合物の粘膜送達を促進する新規方法及び製剤に対する需要が存在する。
【0016】
発明の詳細な説明
本発明は、哺乳動物対象内で、生物活性薬剤の粘膜送達を促進する、新たに発見されたタイトジャンクション開放ペプチドの新たな使用法を含む、新規な医薬組成物を提供することにより、先の需要を満足し、更なる目的と利点を満たす。
【0017】
本発明の一の側面は、生物活性薬剤と、粘膜送達を促進するのに有効な量にある、哺乳動物対象内での生物活性薬剤の粘膜上皮輸送を可逆的に促進するタイトジャンクション調節ペプチド(TJMP)とを含む医薬製剤である。
【0018】
好ましくは、タイトジャンクション調節剤成分は、2−500個のアミノ酸残基、又は2−100個のアミノ酸残基、又は2−50個のアミノ酸残基から構成されるペプチド又はタンパク質部分を含む。前記タイトジャンクション調節ペプチド及びタンパク質は、モノマ又はオリゴマであってもよく、例えば、ダイマであってもよい。
【0019】
タイトジャンクション調節ペプチドは、適切な技術分野の当業者に公知の技法と合致する、組換え方法又は化学合成方法により作製することができる。
【0020】
上皮タイトジャンクションの機能を調節可能なペプチドは、先に記載されている(Johnson, P.H.及びS.C.Quay,Expert.Opin.Drug Deliv.2:281−98, 2000)。特に、新たなタイトジャンクション調節(TJM)ペプチドのPN159は、組織障壁間の経上皮電気抵抗(TER)を低下させ、低い細胞毒性で細胞生存性を高く維持したまま、分子量3,000Daのデキストランの経細胞輸送を増大させることが示されている。
【0021】
本発明の好ましい態様において、TJMPは、以下からなる群から選択される:
NH2−KLALKLALKALKAALKLA−アミド
NH2−GWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKIL−アミド
NH2−LLETLLKPFQCRICMRNFSTRQARRNHRRRHRR−アミド
NH2−AAVALLPAVLLALLAPRKKRRQRRRPPQ−アミド
NH2−RKKRRQRRRPPQCAAVALLPAVLLALLAP−アミド
NH2−RQIKIWFQNRRMKWKK−アミド
NH2−KGSKKAVTKAQKKDGKKRKRSRKESYSVYVYKVLKQ−アミド
NH2−KLWSAWPSLWSSLWKP−アミド
NH2−RRRQRRKRGGDIMGEWGNEIFGAIAGFLG−アミド
マレイミド−GLGSLLKKAGKKLKQPKSKRKV−アミド
NH2−KETWWETWWTEWSQPGRKKRRQRRRRPPQ−アミド
【0022】
本発明の他の好ましい態様において、TJMPは、以下からなる群から選択される:
CNGRCGGKKKLKLLLKLL
LRKLRKRLLRLRKLRKRLLR
【0023】
一の局面において、本発明は、前記ペプチドが水溶性ポリマに結合したタイトジャンクション調節ペプチドの存在によって促進される経粘膜送達に適した治療用の低分子、ペプチド及びタンパク質の製剤について記載する。好ましくは、前記水溶性ポリマは、α−置換ポリアルキレンオキシド誘導体、アルキルキャップ付きポリエチレンオキシド、ビス−ポリエチレンオキシド、ポリ(乳酸−グリコリド共重合体(lactic−co−glycolide))及びその誘導体のようなポリ(オルトエステル)、ポリエチレングリコール (PEG) ホモポリマ及びその誘導体、ポリプロピレングリコールホモポリマ及びその誘導体、ポリ(アルキレンオキシド)の共重合体、並びにポリ(アルキレンオキシド)のブロック共重合体又はこれらの活性誘導体、からなる群から選択されるポリアルキレンオキシドである。好ましくは、前記ポリアルキレンオキシドは、約200ないし約50,000の分子量を有する。より好ましくは、前記ポリアルキレンオキシドは、約200ないし約20,000の分子量を有する。特に好ましいポリアルキレンオキシドは、ポリエチレングリコール及びポリエチレンオキシドである。
【0024】
前記TJMPは、複数の水溶性鎖に結合されていてもよい。好ましい態様において、前記ポリ(アルキレンオキシド)鎖は、ポリエチレングリコール(PEG)鎖であり、約0.2ないし約200キロダルトン(kDa)の分子サイズを有していてもよい。
【0025】
水溶性ポリマは、スペーサを介してタイトジャンクション調節ペプチドに結合されていてもよい。この結合は可逆的なものであってもよい。該水溶性ポリマは、直鎖状であってもよく、又は分枝状であってもよい。
【0026】
1の態様において、前記ペプチドは、1本のポリ(アルキレンオキシド)鎖に共有結合している。適切な態様において、ポリ(アルキレンオキシド)は、2.00未満、又は1.20未満の多分散値(Mw/Mn)を有する。ポリ(アルキレンオキシド)鎖は、分枝していても、又は分枝していなくてもよい。
【0027】
ポリ(エチレングリコール)(PEG)及びPEGの誘導体のような水溶性ポリマとの結合は、特に、注射剤形用のタンパク質の半減期を向上させるためのストラテジとして用いられてきた(Caliceti,P.及びF.M.Veronese,Adv. Drug Deliv. Rev.55:1261−77, 2003)。PEG等のポリマによるペプチド及びタンパク質の修飾の他の潜在的な利点には、化学的な安定化(Diwan,M.及びT.G.Park,Int.J.Pharm.252:111−22, 2003)及び生化学的な安定化(Na,D.H.ら,J.Pharm.Sci.93:256−61, 2004)及び免疫原性の弱化(Yang,Z.ら,Cancer Res.64:6673−78, 2004)が含まれる。
【0028】
タンパク質に結合したPEGを使用するほとんどの例は、PEG鎖が、上記の効果を与えるために十分な長さの分子量を有する場合である。特に、少なくとも20kDaの分子量を有するPEGが必要であることが記載されている。例えば、Holtsbergら(Holtsberg,F.W.ら,J.Control Rel.80:259−71, 2002)は、PEGに結合されたアルギニンデイミナーゼ(タンパク質)を、PEGが20kDa以上である場合に、マウスに静脈内投与すると、製剤の薬物動態特性及び薬力学的特性が増大することを示した。PEGの分子量が20kDa未満の場合、効果は殆どみられなかった。また別の例において、サケカルシトニン(ペプチド)の単一PEG化は、結果としてラットの鼻腔内バイオアベイラビリティを増大させ、その向上性はPEGの分子量(MW)に反比例している(Lee,K.C.,ら,Calcif.Tissue Int.73:545−9, 2003, 及びShin,B.S.ら,Chem.Pharm.Bull.(東京)52:957−60, 2004)、引用によりここにその全部が取り込まれる。
【0029】
いくつかの好ましいポリ(アルキレンオキシド)は、α−置換ポリ(アルキレンオキシド)誘導体、ポリ(エチレングリコール)(PEG)ホモポリマ及びその誘導体、ポリ(プロピレングリコール) (PPG) ホモポリマ及びその誘導体、ポリ(エチレンオキシド) (PEO) ポリマ及びその誘導体、ビス−ポリ(エチレンオキシド) 及びその誘導体、ポリ(アルキレンオキシド)の共重合体、及びポリ(アルキレンオキシド)のブロック共重合体、ポリ(ラクチド−グリコリド共重合体(lactide−co−glycolide))及びその誘導体、又はこれらの活性誘導体からなる群から選択される。前記水溶性ポリマは、約200ないし約40,000Da、好ましくは、約200ないし約20,000Da、又は約200ないし10,000Da、又は約200ないし5,000Daの分子量を有していてもよい。
【0030】
タイトジャンクション調節ペプチドとPEG又は他の水溶性ポリマとの間の抱合体は、タンパク分解、酵素作用又は加水分解全般を含む生理学的プロセスに対する耐性を有していてもよい。これに代わり、前記抱合体は、例えばプロドラッグアプローチ(pro−drug approach)等の、生分解プロセスにより切断されてもよい。好ましくは、該分子は、一本のポリ(アルキレンオキシド)鎖に共有結合しており、該ポリ(アルキレンオキシド)鎖は、分枝していなくても、又は分枝していてもよい。結合の方法は、一般的に当業者に公知であり、例えば、米国特許第5,595,732号;米国特許第5,766,897号;米国特許第5,985,265号;米国特許第6,528,485号;米国特許第6,586,398号;米国特許第6,869,932号;及び米国特許第6,706,289号がある。
【0031】
本発明の別の局面では、TJMPは、粘膜組織障壁間の電気抵抗を低下させる。好ましい態様において、電気抵抗の低下は、透過促進剤を適用する前の電気抵抗の少なくとも80%である。適切な態様では、TJMPは、粘膜組織障壁間の分子の透過性を、好ましくは少なくとも2倍増大させる。別の態様では、増大される透過性は、傍細胞性のものである。別の態様では、増大した透過性は、タイトジャンクションの調節により生じる。これに代わる態様では、増大する透過性は、経細胞性であるか、又は経細胞性及び傍細胞性の混合である。
【0032】
本発明の別の局面では、粘膜組織層は、上皮細胞層から構成される。好ましい態様では、前記上皮細胞は、気管、気管支、肺胞、鼻、肺、胃腸、表皮及び頬のものからなる群から選択され、好ましくは、鼻のものである。
【0033】
本発明の別の局面では、活性薬剤はペプチド又はタンパク質である。該ペプチド又はタンパク質は、2ないし1,000個のアミノ酸を有していていもよい。好ましい態様では、該ペプチド又はタンパク質は、2ないし50個のアミノ酸から構成される。別の態様では、該ペプチド又はタンパク質は、環状である。別の態様では、該ペプチド又はタンパク質は、物理的結合又は化学結合を介して、ダイマ又はより高次のオリゴマを形成する。
【0034】
好ましい態様では、前記ペプチド又はタンパク質は、GLP−1、PYY3−36、PTH1−34 及びエキセンディン−4からなる群から選択される。別の態様では、生物活性薬剤は、β−インターフェロン、α−インターフェロン、インシュリン、エリスロポエチン、G−CSF、GM−CSF、成長ホルモン、及びこれらのいずれかの類似体からなる群から好ましく選択されるタンパク質である。
【0035】
本発明の透過化処理ペプチド(Permeabilizing peptide)には、WEAALAEALAEALAEHLASQPKSKRKV(配列番号57)の配列を含む、PN529が含まれる。
【0036】
本発明の別の局面は、上記のいずれかの製剤を調製すること、及びこのような製剤を動物の粘膜表面と接触させること、を含む動物へ分子を投与する方法である。好ましい態様では、該粘膜表面は、鼻腔内のものである。
【0037】
本発明の別の局面は、上記のいずれかの製剤を含み、液体である剤形であり、好ましくは液滴の形態にある剤形である。これに代わり、該剤形は、投与前に液体中に再溶解されるか、粉末、又はカプセル、錠剤もしくはゲルの形態として投与される、いずれかの固体であってもよい。
【0038】
本発明の別の局面は、哺乳動物対象内での生物薬剤の粘膜上皮輸送を可逆的に促進し、タイトジャンクション調節成分ペプチド(TJMP)、TJMP類似体、TJMP若しくはTJMP類似体の抱合体、又はこれらの複合体を有する分子である。
【0039】
本発明の透過化処理ペプチドには、NH2−KLALKLALKALKAALKLA−アミドの配列を有するPN159が含まれる。本発明には、ここに開示されるPN159の類似体、これら類似体の配合物、そしてPN159のあらゆる誘導体、変異体、断片、模倣薬、又は融合分子が含まれる。
【0040】
透過化処理剤は、典型的に、対象内の、上皮タイトジャンクション構造及び/又は粘膜上皮表面の生理を調節することにより、粘膜上皮傍細胞輸送を可逆的に促進する。この効果は、典型的に、透過化処理剤による、隣り合う上皮細胞の上皮膜接着タンパク質間のホモタイプ又はヘテロタイプの結合の阻害を伴う。このホモタイプ又はヘテロタイプの結合をブロックするための標的タンパク質は、種々の適切なジャンクション接着分子(JAM)、オクルディン、又はクローディンから選択することができる。
【0041】
上皮細胞の生物学
マウスのジャンクション接着分子−1(JAM−1)をコード化するcDNAがクローニングされており、これは、約32−kDの分子量を有する予想上のI型膜貫通タンパク質(単一の膜貫通ドメインを含む)に相当する(Williamsら, Molecular Immunology 36:1175−1188, 1999;Guptaら,IUBMB Life 50:51−56,2000;Ozakiら, J.Immunol.163:553−557,1999;Martin−Paduraら,J.Cell.Biol.142:117−127,1998)。前記分子の細胞外領域には、アミノ末端の「VH型」及びカルボキシ末端の「C2型」カルボキシ末端β−サンドイッチフォールド(β−sandwich fold)として記載される2つのIg様ドメインが含まれる(Bazzoniら,Microcirculation 8:143−152,2001)。マウスのJAM−1には、N−グリコシル化のための2箇所の部位と、細胞質ドメインが含まれる。JAM−1タンパク質は、イムノグロブリン(Ig)スーパファミリのメンバであり、上皮細胞及び内皮細胞の両方のタイトジャンクションに局在している。超微構造研究により、JAM−1が、オクルディン及びクローディンの原線維を含む膜領域に限定されていることが示されている。
【0042】
「血管内皮ジャンクション関連分子(Vascular endothelial junction−associated molecule)」(VE−JAM)と呼ばれる別のJAMファミリのメンバは、2つの細胞外イムノグロブリン様ドメイン、膜貫通ドメイン、及び比較的短い細胞質尾部を含んでいる。VE−JAMは、主として、内皮細胞の細胞間境界に局在している(Palmeriら, J.Biol.Chem.275:19139−19145,2000)。VE−JAMは、細静脈の内皮細胞から高発現されており、他の血管の内皮からも発現されている。別に報告されたJAMファミリメンバのJAM−3は、それぞれJAM−2及びJAM−1と36%及び32%の同一性を示す予想アミノ酸配列を有する。JAM−3は、広範囲な組織における発現を示し、腎臓、脳、及び胎盤において明確により高い発現を示す。細胞レベルでは、JAM−3転写物は、内皮細胞内で発現される。JAM−3とJAM−2は、結合パートナであることが報告されている。特にJAM−3の外部ドメインは、報告によるとJAM2−Fcに結合する。JAM−3タンパク質は、活性化後に末梢血液リンパ球でアップレギュレートされる(Pia Arrateら,J.Biol.Chem.276:45826−45832,2001)。
【0043】
他に上皮タイトジャンクション制御に関連すると提唱される膜貫通型接着タンパク質は、オクルディンである。オクルディンは、65kDのII型膜貫通タンパク質であり、4つの膜貫通ドメイン、2つの細胞外ループ、及び大型のC末端細胞質ドメインから構成される(Furuseら,J.Cell.Biol.123:1777−1788(1993);Furuseら,J.Cell.Biol.127:1617−1626,1994)。免疫フリーズフラクチャ電子顕微鏡で観察した場合、オクルディンはタイトジャンクション原線維内に直接的に集中している(Fujimoto,J.Cell.Sci.108:3443−3449,1995)。
【0044】
タイトジャンクションの、更なる2種類の内在性膜タンパク質、クローディン−1及びクローディン−2は、ニワトリの肝臓由来のジャンクションが豊富な膜の直接的な生化学的分画法により同定された(Furuseら,J.Cell.Biol.141:1539−1550,1998)。クローディン−1とクローディン−2は、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドのゲル電気泳動上で幅広い約22kDのゲルバンドとして、オクルディンと共に同時精製されることが明らかとなった。マウスcDNAライブラリからクローニングされた、密接に関連する2種類のタンパク質の推定配列から、4つの膜貫通へリックス、2つの短い細胞外ループ、及び短い細胞質N末端及びC末端が予測される。オクルディンと類似するトポロジにも関わらず、これらは配列相同性を分かち合っていない。後に、さらに6種類のクローディン遺伝子産物(クローディン−3ないしクローディン−8)がクローニングされ、免疫金フリーズフラクチャ標識法(immunogold freeze fracture labeling)により決定されたところによると、タイトジャンクション原線維内に局在化していることが示された(Moritaら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA96:511−516,1999)。オクルディンの不存在下で障壁が維持されることを考慮して、クローディン−1ないしクローディン−8は細胞外空間の主な密封を形成する要素の候補として考えられてきた。
【0045】
上皮ジャンクションに局在化する他の細胞質タンパク質には、ゾヌリン、シンプレキン、シングリン、及び7H6が含まれる。報告によればゾヌリンは、オクルディンの細胞質尾部に結合する細胞質タンパク質である。このタンパク質ファミリを代表するものは、「ZO−1、ZO−2、及びZO−3」である。ゾヌリンは、コレラ菌から得られる閉鎖帯毒素(zonula occludens toxin)(ZOT)のヒトタンパク質類似体であると仮定されている。
【0046】
ゾヌリンは、恐らく、組織形態発生、腸管腔と間隙間の体液、高分子、及び白血球の移動、並びに炎症/自己免疫疾患を含む、発生学的、生理学的、及び病理学的プロセスの間、タイトジャンクション制御の役割を果たしているものと考えられている(例として、Wangら,J.Cell.Sci.113:4435−40,2000;Fasanoら,Lancet355:1518−9,2000;Fasano,Ann.N.Y.Acad.Sci,915:214−222,2000を参照)。タイトジャンクションが解放して透過性が増大する病態の、セリアック病の急性期の間、ゾヌリン発現が腸組織において増大する。ゾヌリンは、タイトジャンクション分解を促進して、次いで、インビトロで非ヒト霊長類の腸管上皮における腸透過性の増大を促進する。
【0047】
コレラ菌ZOTの活性断片とヒトのゾヌリンのアミノ酸比較から、これら2つのタンパク質のN末端領域内に、推定上のレセプタ結合ドメインが同定された。ZOTの生物活性ドメインは、哺乳動物レセプタと相互作用し、その後、細胞内シグナルを活性化させて細胞間タイトジャンクションの分解に導くことにより、腸透過性を増大させる。ZOTの生物活性ドメインは、タンパク質のカルボキシル末端側に局在しており、コレラ菌によって作り出される推定上の切断産物と一致する。このドメインは、ZOTの哺乳動物類似体であるゾヌリンの推定上のレセプタ結合モチーフと共通している。部位特異的変異導入実験と組み合された、ZOTの活性断片とゾヌリン間のアミノ酸比較により、プロセッシングを受けたZOTのアミノ末端側と、ゾヌリンのアミノ末端側のオクタペプチドのレセプタ結合ドメインが示唆されている(Di Pierroら,J.Biol.Chem.276:19160−19165,2001)。ZO−1は、報告によれば、アクチン、AF−6、ZO関連キナーゼ(ZO−associated kinase)(ZAK)、フォドリン及びα−カテニンに結合する。
【0048】
本発明の範囲内で用いるための透過化処理ペプチドには、天然又は合成であり、治療活性又は予防活性を有し、ペプチド(2個以上の共有結合したアミノ酸から構成される)、タンパク質、ペプチド又はタンパク質の断片、ペプチド又はタンパク質の類似体、ペプチド又はタンパク質の模倣薬、又は活性ペプチド又はタンパク質の化学的に修飾された誘導体若しくは塩が含まれる。従って、ここで使用される「透過化処理ペプチド(permeabilizing peptide)」という用語は、多くの場合、これらの活性種、即ち、ペプチド又はタンパク質、ペプチド又はタンパク質の断片、ペプチド又はタンパク質の類似体、ペプチド又はタンパク質の模倣薬、又は活性ペプチド又はタンパク質の化学的に修飾された誘導体若しくは塩の全てを包含することが意図されることになる。多くの場合、透過化処理ペプチド又はタンパク質は、天然又は自然の(例えば、野生型、天然変異体、又は対立遺伝子変異体)ペプチド又はタンパク質の配列内でのアミノ酸の部分置換、付加、又は欠失により直ちに得ることができるムテインである。更に、自然のペプチド又はタンパク質の生物活性断片も含まれる。このような変異誘導体及び断片は、自然のペプチド又はタンパク質の所望の生物活性を実質的に保持している。ペプチド又はタンパク質が糖鎖を有する場合、これらの糖種における変異により特徴付けられる生物学的に活性な変異体も、本発明に包含される。
【0049】
本発明の方法及び組成物において用いる透過化処理ペプチド、タンパク質、類似体及び模倣薬は、しばしば、哺乳動物対象内の上皮ジャンクションの構造及び/又は生理を調節することにより可逆的に粘膜上皮傍細胞輸送を促進する透過化処理ぺプチド、タンパク質、類似体又は模倣薬を、粘膜送達の促進、又は透過化処理に効果的な量で含む医薬組成物中にて製剤される。
【0050】
生物活性薬剤
本発明の方法及び組成物は、広範囲の生物活性薬剤の粘膜送達、例えば鼻腔内の粘膜送達を促進させて、哺乳動物対象内での治療上、予防上、又は他の所望の生理学的結果を達成することを目的とする。ここで使用される「生物活性薬剤」には、ここに開示される方法及び組成に従って哺乳動物対象に粘膜投与した場合に、生理学的反応を生じさせるあらゆる物質が含まれる。この文脈における有用な生物活性薬剤には、臨床医学の全ての主要な分野で用いられる治療剤及び予防剤、並びに、栄養分、補因子、酵素(内在性又は外来性)、抗酸化剤等が含まれる。従って、生物活性薬剤は、水溶性又は非水溶性であってもよく、より分子量の大きなタンパク質、ペプチド、糖質、糖タンパク質、脂質、及び/又は糖脂質、ヌクレオシド、ポリヌクレオチド、並びにその他の活性薬剤が含まれていてもよい。
【0051】
本発明の方法及び組成物の範囲内にある有用な医薬品には、低分子薬、ペプチド、タンパク質、及びワクチン剤を含む広範囲の化合物を包含する、薬物並びに高分子治療剤又は予防剤が含まれる。本発明で用いるための代表的な医薬品は、対象内での選択された疾患又は障害の治療用又は予防に対して生物学的に活性である。この文脈における生物学的活性は、実際の患者、細胞培養、サンプルアッセイ、又は許容可能なモデル動物を伴う適切なインビトロ又はインビボでのアッセイ系により評価される、生理学的パラメータ、マーカー、又は対象疾患若しくは障害に関連する臨床症状に対する、いかなる有意な(即ち、測定可能で統計学的に有意な)効果としても測定することができる。
【0052】
本発明の方法及び組成物は、哺乳動物対象内の疾患又は他の症状の治療に対して、例えば、治療用化合物及び予防用化合物の粘膜送達の向上したスピード、持続時間、フィデリティ又は制御を提供することで、該化合物が対象内の選択した生理学的区画へ(例えば、鼻粘膜内へ若しくは鼻粘膜間で、体循環若しくは中枢神経系(CNS)内へ、又は、対象内の選択されるあらゆる標的器官、組織、体液、又は細胞若しくは細胞外区画へ)到達することにより媒介される、予期せぬ利点を提供する。
【0053】
種々の典型的な態様において、本発明の方法及び組成物には、以下から選択される1又は2種類以上の生物活性薬剤が取り込まれていてもよい:
モルヒネ、ヒドロモルフォン、オキシモルホン、ラボルファノール(lovorphanol)、レバロルファン、コデイン、ナルメフェン、ナロルフィン、ナロゾン(nalozone)、ナルトレキソン、ブプレノルフィン、ブトルファノール、及びナルブフィン(nalbufine)のようなオピオイド又はオピオイドアンタゴニスト;
コルチゾン、ヒドロコルチゾン、フルドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニソロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、パラメタゾン、及びフルオシノロンのようなコルチコステロン;
コルヒチン、イブプロフェン、インドメタシン、及びピロキシカムのようなその他の抗炎症剤;アシクロビル、リバビリン、トリフルオロチリジン、アラ−A(アラビノフラノシルアデニン)、アシルグアノシン、ノルデオキシグアノシン、アジドチミジン、ジデオキシアデノシン、及びジデオキシシチジンのような抗ウィルス剤;スピロノラクトンのような抗アンドロゲン;
テストステロンのようなアンドロゲン;
エストラジオールのようなエストロゲン;
プロゲスチン;
パパベリンのような筋弛緩剤;
ニトログリセリン、血管作動性腸管ペプチド及びカルシトニン関連遺伝子ペプチドのような血管拡張剤;
シプロヘプタジンのような抗ヒスタミン剤;
ドキセピン、イミプラミン及びシメチジンのような、ヒスタミンレセプタ部位遮断活性を有する薬剤;
デキストロメトルファンのような鎮咳剤;クロザリルのような神経遮断薬;抗不整脈剤;
抗てんかん薬;
スーパーオキシドジスムターゼ及びニューロエンケファリナーゼ(neuroenkephalinase)のような酵素;
アムホテリシンB、グリセオフルビン、ミコナゾール、ケトコナゾール、チオコナゾール、イトラコナゾール及びフルコナゾールのような抗真菌剤;
ペニシリン、セファロスポリン、テトラサイクリン、アミノグルコシド、エリスロマイシン、ゲンタマイシン、ポリミキシンBのような抗菌薬;
5−フルオロウラシル、ブレオマイシン、メトトレキセート、及びヒドロキシ尿素、ジデオキシイノシン、フロクスウリジン、6−メルカプトプリン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、タキソール及びパクリタキセルのような抗癌剤;
トコフェロール、レチノイド、カロテノイド、ユビキノン、金属キレート剤、及びフィチン酸のような抗酸化剤;
キニジンのような抗不整脈剤;並びに
プラゾシン、ベラパミル、ニフェジピン、及びジルチアゼムのような血圧降下薬;アセトアミノフェン及びアスピリンのような鎮痛薬;
ヒト化抗体、及び抗体断片を含む、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体;
アンチセンスオリゴヌクレオチド;並びに、
RNA、DNA、及び治療用ペプチド及びタンパク質をコードする遺伝子を含むウィルスベクタ。
【0054】
これらの典型的なクラスと種の活性薬剤に加え、本発明の方法及び組成物の範囲内において、単独で又は組み合わせにより、哺乳動物対象内の選択された疾患又は障害の治療又は予防に有効な、上記若しくは本明細書の他の部分に記載されているか、又は当該技術分野において公知の、あらゆる生理活性薬剤、並びに、複数の活性薬剤のあらゆる組合せが、本発明の方法及び組成物に包含される(「Physicians’ Desk Reference」、Litton Industries,Inc.、Medical Economics Company、を参照)。
【0055】
用いる化合物のクラスに関係なく、本発明で用いるための生物活性薬剤は、対象に深刻で許容できない毒性又は他の有害な副作用を与えることなく、所望の生理学的効果を提供するのに十分な量で、本発明の組成物及び方法において存在することになる。全ての生物活性薬剤の適切な投与量は、当業者であれば、過度の実験を行うことなく、直ちに決定するであろう。本発明の方法及び組成物は、生物活性薬剤の促進された送達を提供するので、従来の投与量よりも十分に低い投与量を用いて良好な結果を得ることができる。一般的に、活性物質は、用いる特定の物質にもよるが、組成物中に、全鼻腔内製剤の重量の約0.01%ないし約50%、しばしば約0.1%ないし約20%、そして通常は約1.0%ないし5%又は10%の量で存在する。
【0056】
ここで用いる生物学的に活性な「ペプチド」及び「タンパク質」という用語には、種々のサイズのポリペプチドが含まれており、本発明を特定のサイズのアミノ酸重合体に限定するものではない。タンパク質又はペプチドが、特定の生理学的、免疫学的、治療的又は予防的効果若しくは反応を引き出すという意味における生物学的な活性を示す限り、2、3個のアミノ酸の長さの小さなペプチドからあらゆるサイズのタンパク質、並びに、ペプチド−ペプチド、タンパク質−タンパク質融合体及びタンパク質−ペプチド融合体が、本発明に包含される。
【0057】
本発明は、生物活性ペプチド及びタンパク質の粘膜送達を促進するための新規な製剤及び同調投与方法(coordinate administration method)を提供する。本発明に用いるための治療用ペプチド及びタンパク質の例には、以下のものが含まれるが、これらに限定されるものではない:組織プラスミノゲン活性化因子(TPA)、表皮成長因子 (EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF−酸性又は塩基性)、血小板由来増殖因子(PDGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF−α又はβ)、血管作動性腸管ペプチド、腫瘍壊死因子(TNF)、視床下部放出因子、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、副甲状腺ホルモン(PTH)、卵胞刺激ホルモン(FSF)、黄体化ホルモン放出ホルモン(LHRH)、エンドルフィン、グルカゴン、カルシトニン、オキシトシン、カルベトシン、アルドエテコン(aldoetecone)、エンケファリン、ソマトスタチン、ソマトトロピン、ソマトメジン、ゴナドトロピン、エストロゲン、プロゲステロン、テストステロン、α−メラニン細胞刺激ホルモン、非天然オピオイド、リドカイン、ケトプロフェン、スフェンタニル、テルブタリン、ドロペリドール、スコポラミン、ゴナドレリン、シクロピロックス、ブスピロン、カルシトニン、クロモリンナトリウム又はミダゾラム、シクロスポリン、リシノプリル、カプトプリル、デラプリル、シメチジン、ラニチジン、ファモチジン、スーパーオキシドジスムターゼ、アスパラギナーゼ、アルギナーゼ、アルギニンデアミナーゼ、アデノシンデアミナーゼ、リボヌクレアーゼ、トリプシン、キモトリプシン並びにパパイン。更なる有用なペプチドの例には、ボンベシン、サブスタンスP、バソプレッシン、α−グロブリン、トランスフェリン、フィブリノーゲン、β−リポタンパク質、β−グロブリン、プロトロンビン、セルロプラスミン、α2−糖タンパク質、α2−グロブリン、フェチュイン、α1−リポタンパク質、α1−グロブリン、アルブミン、プレアルブミン並びにその他の生物活性タンパク質及び組換えタンパク質産物が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
本発明のより詳細な局面において、既存の疾患若しくは障害を治療(即ち、その症状の発症若しくは重症度を取り除くか、又は軽減させる)するための、又は対象の疾患若しくは障害の危険性が同定された対象内での疾患若しくは障害の発症を防ぐための、特定の生物活性ペプチド又はタンパク質治療剤の粘膜送達を促進するための方法及び組成物が提供される。本発明のこれらの局面において有用な生物活性ペプチド及びタンパク質には、以下のものが含まれるが、これらに限定されるものではない:造血剤;抗感染剤;抗痴呆剤;抗ウィルス剤;抗腫瘍剤;解熱剤;鎮痛剤;抗炎症剤;抗潰瘍剤;抗アレルギー剤;抗うつ剤;精神作用剤;強心薬;抗不整脈剤;血管拡張剤;降圧利尿剤のような血圧降下剤;抗糖尿病剤;血液凝固薬;コレステロール低下薬;骨粗しょう症治療薬;ホルモン;抗生物質;ワクチン;等。
【0059】
本発明のこれらの局面で用いるための生物活性ペプチド及びタンパク質には、以下のものが含まれるが、これらに限定されるものではない:サイトカイン;ペプチドホルモン;成長因子;心血管系に作用する因子;細胞接着因子;中枢又は末梢神経系に作用する因子;ホルモン電解質(humoral electrolytes)及び血液有機物質(hemal organic substance)に作用する因子;骨及び骨格の成長又は生理に作用する因子;胃腸系に作用する因子;腎臓及び泌尿器に作用する因子;結合組織及び皮膚に作用する因子;感覚器官に作用する因子;免疫系に作用する因子;呼吸器系に作用する因子;生殖器官に作用する因子;及び種々の酵素。
【0060】
例えば、本発明の方法及び組成物の範囲内において投与可能なホルモンには、アンドロゲン、エストロゲン、プロスタグランジン、ソマトトロピン、ゴナドトロピン、インターロイキン、ステロイド及びサイトカインが含まれる。
【0061】
本発明の方法及び組成物の範囲内において投与可能なワクチンには、肝炎、インフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、 パラインフルエンザウィルス(PIV)、結核、カナリア痘、水痘、麻疹、おたふく風邪、風疹、肺炎、及びヒト免疫不全ウィルス(HIV)用のワクチンといった、細菌性及びウィルス性ワクチンが含まれる。
【0062】
本発明の方法及び組成物の範囲内において投与可能な細菌トキソイドには、ジフテリア、破傷風、シュードモナス、及び結核菌が含まれる。
【0063】
本発明の範囲内で用いるための心血管作動薬及び血栓溶解薬には、ヒルゲン、ヒルロス(hirulos)、及びヒルジンが含まれる。
【0064】
本発明の範囲内において有用に投与される抗体試薬には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体、抗体断片、融合体及びマルチマ、並びにイムノグロビンが含まれる。
【0065】
ここで用いる「保存的アミノ酸置換」という用語は、類似する側鎖を有するアミノ酸残基の一般的な互換性を指す。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸の通常置換可能なグループは、アラニン、バリン、ロイシン、及びイソロイシンであり;脂肪族−ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸のグループは、セリン及びスレオニンであり;アミド含有側鎖を有するアミノ酸のグループは、アスパラギン及びグルタミンであり;芳香族側鎖を有するアミノ酸のグループは、フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファンであり;塩基性側鎖を有するアミノ酸のグループは、リシン、アルギニン、及びヒスチジンであり;そして、硫黄含有側鎖を有するアミノ酸のグループは、システインとメチオニンである。保存的置換の例には、イソロイシン、バリン、ロイシン又はメチオニンのような非極性(疎水性)残基の、別の非極性(疎水性)残基との置換が含まれる。同様にして、本発明は、アルギニンとリシン間、グルタミンとアスパラギン間、及びスレオニンとセリン間といった、極性(親水性)残基の置換も意図している。加えて、リシン、アルギニン、若しくはヒスチジンといった塩基性残基の他の塩基性残基への置換、又は、アスパラギン酸若しくはグルタミン酸といった酸性残基の他の酸性残基への置換も意図している。例示的な保存的アミノ酸置換のグループには、以下のものがある:バリン−ロイシン−イソロイシン、フェニルアラニン−チロシン、リシン−アルギニン、アラニン−バリン、及びアスパラギン−グルタミン。
【0066】
生物活性ペプチド又はタンパク質類似体という用語には、20種類の従来のアミノ酸の立体異性体(例えば、D−アミノ酸)、又はα,α−二置換アミノ酸、N−アルキルアミノ酸、乳酸のような非天然アミノ酸を取り込んだ自然のペプチド又はタンパク質の修飾型も更に含まれる。これらや他の非従来型アミノ酸は、本発明の範囲内において有用な自然のペプチド及びタンパク質内に置換又は挿入されてもよい。非従来型アミノ酸の例には、以下のものが含まれる:4−ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタメート、ε−N,N,N−トリメチルリシン、ε−N−アセチルリシン、O−ホスホセリン、N−アセチルセリン、N−ホルミルメチオニン、3−メチルヒスチジン、5−ヒドロキシリシン、ω−N−メチルアルギニン、並びに他の類似アミノ酸及びイミノ酸(例えば、4−ヒドロキシプロリン)。これに加え、生物活性ペプチド又はタンパク質類似体には、糖質、脂質の、及び/又は、対象ペプチド又はタンパク質の天然若しくは人工の構造構成要素として、又は該ペプチド又はタンパク質に結合しているか、若しくは該ペプチド又はタンパク質に付随したタンパク様部位の、単一又は複数の置換、欠失及び/又は付加が含まれる。
【0067】
一の局面において、本発明の範囲内において有用なペプチド(ポリペプチドを含む)は、20種類の遺伝子にコードされたアミノ酸(又はD−アミノ酸)の天然側鎖の1又は2個以上を、例えば、アルキル、低級アルキル、4、5、6、7員環アルキル、アミド、アミド低級アルキル、アミドジ(低級アルキル)、低級アルコキシ、ヒドロキシ、カルボキシ及びその低級エステル誘導体、並びに4、5、6、7員複素環のような基を有する他の側鎖で置換することにより修飾すると、ペプチド模倣体を生じる。例えば、プロリン類似体は、プロリン残基の環の大きさを5員環から、4、6、又は7員環へと変化させることで作り出すことができる。環状基は、飽和していても、又は不飽和であってもよく、不飽和であれば、芳香族又は非芳香族であってもよい。複素環基には、1又は2個以上の窒素、酸素、及び/又は硫黄ヘテロ原子が含まれていてもよい。このような基の例には、フラザニル、フリル、イミダゾリジニル、イミダゾリル、イミダゾリニル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、モルホリニル(例えば、モルホリノ)、オキサゾリル、ピペラジニル(例えば、1−ピペラジニル)、ピペリジル(例えば、1−ピペリジル、ピペリジノ)、ピラニル、ピラジニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリジル、ピリミジニル、ピロリジニル(例えば、1−ピロリジニル)、ピロリニル、ピロリル、チアジアゾリル、チアゾリル、チエニル、チオモルホリニル(例えば、チオモルホリノ)並びにトリアゾリルが含まれる。これらの複素環基は、置換されていても、置換されていなくてもよい。基が置換される場合、該置換基は、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、酸素、又は置換フェニル若しくは非置換フェニルであってもよい。
【0068】
ペプチド及びタンパク質、並びにペプチド及びタンパク質類似体及び模倣体も、米国特許第4,640,835号;米国特許第4,496,689号;米国特許第4,301,144号;米国特許第4,670,417号;米国特許第4,791,192号;又は米国特許第4,179,337号に説明されるように、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリオキシアルケン等の種々の非タンパク質性ポリマの1又は2種類以上に共有結合していてもよい。
【0069】
本発明の範囲内にあるその他のペプチド及びタンパク質類似体及び模倣体には、グリコシル化変異体、及び他の化学的部分との共有結合又は凝集による抱合体が含まれる。共有結合誘導体は、当該技術分野でよく知られた方法により、アミノ酸側鎖、又はN末端若しくはC末端に見いだせる基に官能性を結合させることにより調製することができる。これらの誘導体には、カルボキシル末端又はカルボキシル側鎖を含む残基の脂肪族エステル若しくはアミド、ヒドロキシ基含有残基のO−アシル誘導体、及びアミノ末端アミノ酸、又は、例えばリシン若しくはアルギニン等のアミノ基含有残基のN−アシル誘導体が含まれるが、これらに限定されるものではない。アシル基は、C3ないしC18の通常のアルキルを含むアルキル部分の群から選択され、それによって、アルカノイルアロイル種を形成する。例えば、免疫原性部分等の担体タンパク質への共有結合も用いることができる。
【0070】
これらの修飾に加え、生物活性ペプチド及びタンパク質の糖鎖修飾の変化は、例えば、その合成及びプロセッシング中に、又は更なるプロセッシング工程において、ペプチドの糖鎖パターンを修飾することにより行うことが可能である。上記修飾を達成するにあたって特に好ましい方法は、通常これらの修飾を提供している細胞から得られるグリコシル化酵素、例えば、哺乳動物のグリコシル化酵素等にペプチドを曝すことである。脱グリコシル化酵素を用いて、本発明の範囲内にある有用な修飾ペプチド及びタンパク質を得ることも十分に可能である。例えば、ホスホチロシン、ホスホセリン、若しくはホスホスレオニン等のリン酸化アミノ酸残基、又はリボシル基若しくは架橋試薬等の他の部分等といった別の軽微な修飾を有する、自然の一次アミノ酸配列の変種も包含される。
【0071】
ペプチド模倣体は、リン酸化、スルホン化、ビオチン化、又は、他の部分、特にリン酸基に似た分子形状を有する部分の付加若しくは除去により化学的に修飾されたアミノ酸残基を有していてもよい。
【0072】
また、本発明の範囲内で用いるために活性ペプチドを環化するか、又は該ペプチドの末端部にデスアミノ若しくはデスカルボキシ残基を取り込ませることが可能であり、これによって末端のアミノ基又はカルボキシル基が無くなり、プロテアーゼに対する感受性が低下するか、又はペプチドのコンフォメーションが限定されることになる。本発明のペプチド類似体又は模倣体の中のC末端官能基には、アミド、アミド低級アルキル、アミドジ(低級アルキル)、低級アルコキシ、ヒドロキシ、及びカルボキシ、並びにこれらの低級エステル誘導体、並びにこれらの医薬的に許容可能な塩が含まれる。
【0073】
効果的に含水率を調節してタンパク質の安定性を向上させる種々の添加剤、希釈剤、基剤及び送達媒体が、本発明の範囲内において提供される。この意味において抗凝集剤として有効なこれらの試薬と担体材料には、例えば、ポリエチレングリコール、デキストラン、ジエチルアミノエチルデキストラン、及びカルボキシメチルセルロースといった種々の機能性を有するポリマが含まれ、これらポリマは、該ポリマと一緒に混合された、又は該ポリマと結合されたペプチド及びタンパク質の安定性を顕著に増加させ、固相凝集を減少させる。場合によって、タンパク質の活性及び物理的安定性は、ペプチド又はタンパク質薬剤水溶液への種々の添加剤により向上させることも可能である。例えば、ポリオール(糖を含む)、アミノ酸、コラーゲンやゼラチンのようなタンパク質、及び種々の塩といった添加物を用いることができる。
【0074】
特定の添加剤、特に糖及び他のポリオールも、例えば、凍結乾燥タンパク質等の乾燥タンパク質に対して顕著な物理的安定性を与える。これらの添加剤を本発明の範囲内で用いることで、凍結乾燥している間だけではなく、乾燥状態での保存期間中においても、タンパク質を凝集から保護することも可能である。例えば、スクロース及びフィコール70(スクロースの構成単位を有するポリマ)は、種々の条件下における固相インキュベーション中に、ペプチド又はタンパク質凝集に対する顕著な保護作用を示す。これらの添加剤は、ポリママトリックス内に埋め込まれた固体タンパク質の安定性を向上させることもできる。
【0075】
更に、例えばスクロース等の更なる添加剤は、本発明の特定の徐放性剤において生じる可能性のある高温多湿の空気中での固相凝集に対してタンパク質を安定化させる。ゼラチンやコラーゲンのようなタンパク質は、安定化剤又は充填剤としての役割も果たし、この文脈において不安定なタンパク質の変性及び凝集を減少させる。これらの添加剤は、本発明の範囲内のポリマ融解工程及び組成物に取り込むことが可能である。例えば、ポリペプチドの微小粒子は、単に、上記の種々の安定化添加剤を含む溶液を凍結乾燥させるか、又はスプレドライさせるだけで調製することが可能である。従って、非凝集ペプチド及びタンパク質の徐放が、長時間に渡って得られることになる。
【0076】
凝集しやすいペプチド及びタンパク質の粘膜送達用製剤であって、ペプチド又はタンパク質が、実質的に純粋で非凝集形態にて安定化される製剤を生じさせる、種々の更なる調製用成分及び調製方法、並びに特別な製剤用添加剤が本明細書にて提供される。広範囲な成分と添加剤が、これらの方法及び製剤へ使用されることが意図される。これら抗凝集剤の典型例は、ポリペプチドの疎水性側鎖に選択的に結合するシクロデキストリン(CD)の結合ダイマである。これらCDダイマは、顕著に凝集を阻害するようにタンパク質の疎水性パッチに結合することが判明している。この阻害は、CDダイマ及び関与するタンパク質の両方に関して選択的である。このような選択的なタンパク質凝集の阻害は、本発明に係る鼻腔内送達の方法及び組成物の範囲内で、更なる利点を提供する。この関連において使用される更なる薬剤には、ペプチドとタンパク質の凝集を特異的にブロックする、リンカにより制御された種々のジオメトリを有するCDの3量体及び4量体が含まれる(Breslowら,J.Am.Chem.Soc.118:11678−11681,1996;Breslowら,PNAS USA94:11156−11158,1997)。
【0077】
電荷変化用及びpH調整用の薬剤及び方法
疎水性粘膜障壁間の送達を促進するための生物活性薬剤(例えば、高分子薬、ペプチド又はタンパク質)の輸送特性を向上させるために、本発明は、本明細書に記載する選択された生物活性薬剤又は送達促進剤の電荷を変化させるための技術及び試薬も提供する。この点において、高分子の相対的透過性は、一般的にその分配係数と関係している。分子のpKaと粘膜表面のpHに依存した分子のイオン化の程度も、該分子の透過性に影響する。粘膜送達用の生物活性薬剤及び透過化処理剤の透過及び分配は、例えば、帯電した官能基の電荷の変更、送達用担体若しくは前記活性薬剤がその中で送達される溶液のpHの変更、又は電荷変化剤若しくはpH変化剤と前記活性薬剤との同調投与により達成される、活性薬剤と透過化処理剤の電荷変化又は電荷伝搬により促進することができる。
【0078】
保存剤
クロロブタノール、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸ナトリウム (0.5%)、フェノール、クレゾール、p−クロロ−m−クレゾール、フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、酢酸フェニル水銀、ホウ酸フェニル水銀、硝酸フェニル水銀、チメロサール、ソルビン酸、塩化ベンゼトニウム又は塩化ベンザルコニウムのような保存剤を、本発明の製剤に添加して、微生物の増殖を阻害することが可能である。
【0079】
pH及び緩衝系
一般的に、pHは、クエン酸及びクエン酸ナトリウムのようなクエン酸塩からなる系のような緩衝剤を用いて制御される。更なる適切な緩衝系には、酢酸と酢酸塩の系、コハク酸とコハク酸塩の系、リンゴ酸とリンゴ酸塩の系、及びグルコン酸とグルコン酸塩の系が含まれる。これに代わり、酢酸とクエン酸ナトリウムの系、クエン酸、酢酸ナトリウムの系、 及びクエン酸、クエン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウムの系といった、混合の酸/塩系から構成される緩衝系を用いることも可能である。全ての緩衝系において、最終pH調整のために、塩酸のような追加の酸、及び水酸化ナトリウムのような追加の塩基が添加されてもよい。
【0080】
上皮ジャンクションの構造及び/又は生理を調節する更なる薬剤
上皮タイトジャンクションは、本発明の範囲内で提供されるような、十分なジャンクション開放を促進するジャンクション生理調節剤で処理されない限り、一般的に約15オングストロームの半径を有する分子に対して不透過性なものである。本発明の方法及び組成物の範囲内において、二次的な生理調節のための有用な標的としての役割を果たす「二次」タイトジャンクション調節組成物の中でも、ZO1−ZO2ヘテロダイマ複合体は、粘膜上皮の傍細胞透過性を直ちに効果的に変化させる外来性の薬物による生理調節に適していることが示されている。このような薬剤で十分に研究されてきたものは、「閉鎖帯毒素(zonula occludens toxin)」(ZOT)として知られるコレラ菌由来の細菌毒素である。国際公開公報第96/37196号;米国特許第5,945,510号;米国特許第5,948,629号;米国特許第5,912,323号;米国特許第5,864,014号;米国特許第5,827,534号;米国特許第5,665,389号;及び米国特許第5,908,825号を参照。従って、ZOT、及びZO1−ZO2複合体を調節する他の薬剤は、1又は2種類以上の生物活性薬剤と共に組み合わせて製剤されるか、又は同調投与されることになる。
【0081】
製剤と投与
本発明の粘膜送達製剤には、典型的には1又は2種類以上の医薬的に許容可能な担体と、任意に他の治療用成分と共に組み合されて投与される生物活性薬剤が含まれる。該担体は、製剤の他の成分と適合し、かつ対象内で許容できない有害な作用を誘発しないという意味において「医薬的に許容可能」でなければならない。このような担体は本明細書中の上記に記載されているか、又は薬理学の分野における当業者によく知られている。望ましくは、該製剤には、投与される生物活性薬剤と不適合であることが知られている酵素や酸化剤等の物質が含まれるべきではない。該製剤は、薬学の分野においてよく知られるあらゆる方法により調製することができる。
【0082】
本発明の組成物及び方法は、口腔送達、直腸送達、膣送達、鼻腔内送達、肺内送達、又は経皮的送達を含む種々の粘膜投与方法、又は眼、耳、皮膚又は他の粘膜表面への局所的送達により対象に投与することができる。本発明に係る組成物は、しばしば鼻スプレ又は肺スプレとして水溶液において投与され、当業者に公知の種々の方法によりスプレの形態に調剤することができる。鼻スプレとしての液体を調剤するための好ましい装置が、米国特許第4,511,069号に開示されている。このような製剤は、本発明に係る組成物を水に溶解して水溶液を作り、該溶液を滅菌することにより簡便に調製することができる。製剤は、例えば、米国特許第4,511,069号に開示される密封された調剤装置のような、多重投与用容器中に提供することもできる。その他の適切な鼻スプレ送達装置は、「Transdermal Systemic Medication」、Y.W.Chien編、Elsevier Publishers、ニューヨーク、1985年;及び米国特許第4,778,810号に記載されている。更なるエアロゾル送達形態には、例えば、水、エタノール、又はこれらの混合物等の医薬用溶媒に溶解又は懸濁された生物活性薬剤を送達する、圧縮空気噴霧器、ジェット噴霧器、超音波噴霧器、及び圧電式噴霧器等が含まれていてもよい。
【0083】
本発明の鼻及び肺スプレ用溶液には、典型的に、薬物、又は送達される薬物であって、任意に非イオン性表面活性剤(例えば、ポリソルベート80)のような表面活性剤と共に製剤される薬物、及び1又は2種類以上の緩衝剤、安定化剤又は等張化剤が含まれる。本発明のある態様においては、鼻スプレ用溶液には、更に噴射剤が含まれる。鼻スプレ用溶液のpHは、任意に約pH3.0ないし7.2の間にあるが、所望の場合には、pHは、帯電高分子種(例えば治療用ペプチド又はタンパク質)の実質的に非イオン化状態での送達を最適化するように調整される。用いられる医薬用溶媒は、弱酸性の水性緩衝剤(pH3−6)であってもよい。これらの組成物中で用いるための適切な緩衝剤は、上記に説明される通りであるか、又は当該技術分野において公知である。保存剤、界面活性剤、分散剤、又はガスを含む、他の成分を添加して化学的安定性を向上させるか又は維持することができる。適切な保存剤には、フェノール、メチルパラベン、パラベン、m−クレゾール、チオメルサール、塩化ベンザルコニウム等が含まれるが、これらに限定されるものではない。適切な界面活性剤には、オレイン酸、ソルビタントリオレエート、ポリソルベート、レシチン、ホスファチジルコリン、並びに種々の長鎖のジグリセリド及びリン脂質が含まれるが、これらに限定されるものではない。適切な分散剤には、エチレンジアミン四酢酸等が含まれるが、これらに限定されるものではない。適切なガスには、窒素、ヘリウム、クロロフルオロカーボン (CFC)、ヒドロフルオロカーボン(HFC)、二酸化炭素、空気等が含まれるが、これらに限定されるものではない。適切な安定化剤及び等張化剤には、糖及び他のポリオール、アミノ酸、並びに有機塩及び無機塩が含まれる。
【0084】
液体経粘膜製剤は、例えば、装置、又は液滴(スプレ)等の滴として投与することができる。スプレは、ポンプ、噴霧器により、又は当該技術分野に記載するその他の方法により作り出すことが可能である。肺送達の場合、肺深部沈着用の液滴は、肺管(pulmonary passage)内への沈着に適切な最小粒子サイズが、多くの場合、約10μm未満の空気力学的質量中央等価径(mass median equivalent aerodynamic diameter)(MMEAD)であり、通常は5μm未満のMMEADであり、通常は約2μm未満のMMEADであることを示す。鼻送達の場合、液滴の粒子サイズは、通常約1000μm未満のMMEADであり、通常100μm未満のMMEADである。
【0085】
別の態様においては、粘膜製剤は、鼻腔内投与用に適切な粒子サイズにあるか、又は適切な粒子サイズの範囲内にある、乾燥した、通常凍結乾燥された形態にある生物活性薬剤を含む乾燥粉末製剤として投与される。肺送達の場合、肺深部沈着用の粉末粒子は、肺管内への沈着に適切な最小粒子サイズが、多くの場合、約10μm未満の空気力学的質量中央等価径(MMEAD) であり、通常は5μm未満の MMEADであり、通常は約2μm未満のMMEADであることを示す。鼻送達の場合、粉末粒子サイズは、通常約1000μm未満のMMEADであり、通常100μm未満のMMEADである。これらのサイズの範囲にある鼻腔での呼吸に適した粉末は、ジェットミル、スプレドライ、溶媒沈殿、超臨界流体濃縮(supercritical fluid condensation)等といった種々の従来技術により製造することができる。これらの適切なMMEADを有する乾燥粉末は、肺又は鼻での吸入による患者の呼吸に依存して粉末をエアロゾル化量(aerosolized amount)へと分散させる、従来のドライパウダー吸入器(DPI)を介して患者に投与することができる。これに代わり、外部電源を用いて粉末をエアロゾル化量へと分散させる、例えば、ピストンポンプ等のエアアシステッド装置(air−assisted device)により乾燥粉末を投与することもできる。薬物粉末粒子は、乾燥状態にて、ラクトース等の適切な担体を含む巨大粒子(>100um MMEAD)へと凝集した粒子として製剤することができ、この場合、薬物粒子と担体粒子の凝集塊は、粉末の投薬により粉砕される。
【0086】
乾燥粉末装置は、典型的に、単一のエアロゾル投与量(「ひと吹き」)を作り出すために、約1mgないし20mgの範囲内にある粉末量を要する。必要な又は所望の生物活性薬剤投与量が、上記量よりも少ない場合、粉末化された活性薬剤は、典型的には、医薬用乾燥充填粉末と混合されて必要な総粉末量が提供される。好ましい乾燥充填粉末には、スクロース、ラクトース、デキストロース、マンニトール、グリシン、トレハロース、ヒト血清アルブミン(HSA)、及び澱粉が含まれる。他の適切な乾燥充填粉末には、セロビオース、デキストラン、マルトトリオース、ペクチン、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム等が含まれる。
【0087】
本発明の範囲内の粘膜送達用の組成物を製剤するために、生物活性薬剤を種々の医薬的に許容可能な添加剤、並びに活性薬剤を分散させるための基剤又は担体と組み合わせることもできる。望ましい添加剤には、アルギニン、水酸化ナトリウム、グリシン、塩酸、クエン酸等といったpH調整剤が含まれるが、これらに限定されるわけではない。これに加え、局所麻酔薬(例えば、ベンジルアルコール)、等張化剤 (例えば、塩化ナトリウム、マンニトール、ソルビトール)、吸収阻害剤 (例えば、Tween80)、溶解促進剤(例えば、シクロデキストリン及びその誘導体)、安定化剤 (例えば、血清アルブミン)、及び還元剤 (例えば、グルタチオン)が含まれていてもよい。粘膜送達用の組成物が液体の場合、0.9%(w/v)の生理食塩水の張度を単位とし、これを参照にして測定される製剤の張度は、典型的に、鼻腔粘膜の投与部位に実質的な不可逆性の組織損傷を誘発しない値に調整される。一般的に、溶液の張度は、約1/3ないし3、又は1/2ないし2、又は3/4ないし1.7の値に調整される。
【0088】
生物学的に活性な薬剤は、該活性薬剤及びあらゆる所望の添加剤を分散させる能力を有する親水性化合物を含むであろう、基剤又は媒体中に分散させることができる。該基剤は、以下のものを含む広範囲の適切な媒体から選択することができるが、これらに限定されるものではない:ポリカルボン酸又はその塩の共重合体、他のモノマ(例えば、(メト)アクリル酸メチル、アクリル酸等)を有するカルボン酸無水物(例えば、無水マレイン酸)、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンといった親水性ビニルポリマ、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体、並びにキトサン、コラーゲン、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、ヒアルロン酸、及びこれらの非毒性金属塩といった天然ポリマ。例えば、ポリ乳酸、ポリ(乳酸−グリコール酸) 共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ(ヒドロキシ酪酸−グリコール酸) 共重合体及びこれらの混合物等の生分解性ポリマが、しばしば基剤又は担体として選択される。これに代わるものとして、又は、これに加え、ポリグリセリン脂肪酸エステル、スクロース脂肪酸エステル等といった合成脂肪酸エステルを担体として用いることもできる。親水性ポリマ及び他の担体を単一で又は組み合わせにより用いることも可能であり、部分結晶化、イオン結合、架橋結合等により、担体に向上した構造的完全性を与えることができる。担体は、直接鼻腔粘膜に投与するための、流体又は粘性溶液、ゲル、ペースト、粉末、微粒子及びフィルムを含む種々の形態において提供することができる。この文脈において選択された担体の使用により、結果として生物活性薬剤の吸収が促進されるであろう。
【0089】
生物活性薬剤は、種々の方法に従って基剤又は担体と組み合わせることが可能であり、活性薬剤の放出は、拡散、単体の分解、又は水チャネルの関連製剤によるものであってもよい。一定の状況下では、活性薬物は、例えばイソブチル2−シアノアクリレート等の適切なポリマから調製されるマイクロカプセル(ミクロスフェア)又はナノカプセル(ナノスフェア)内に分散され(例えば、Michaelら,J.Pharmacy Pharmacol.43:1−5,1991を参照)、そして長時間にわたる持続的な送達と生物活性をもたらす、鼻腔粘膜に適合される生体適合分散媒体中にも分散される。
【0090】
本発明の医薬品の粘膜送達を更に促進するために、活性薬剤を含む製剤には、基剤又は賦形剤として親水性の低分子量化合物が含まれていてもよい。このような親水性低分子量化合物は、生理学的活性を有するペプチド又はタンパク質のような水溶性活性薬剤がその基剤を通じて、該活性薬剤が吸収される体表面に拡散できるような、通過用媒体を提供する。該親水性の低分子量化合物は、任意に粘膜又は投与環境空気(administration atmosphere)から水分を吸収して水溶性の活性ペプチドを溶解させる。親水性低分子量化合物の分子量は、一般的に10000以下であり、好ましくは3000以下である。例示的な親水性低分子量化合物には、スクロース、マンニトール、ラクトース、L−アラビノース、D−エリトロース、D−リボース、D−キシロース、D−マンノース、D−ガラクトース、ラクツロース、セロビオース、ゲンチビオース(gentibiose)、グリセリン及びポリエチレングリコールのような、オリゴ糖、二糖類及び単糖類といったポリオール化合物が含まれる。本発明の範囲内で担体として有用な親水性低分子量化合物のその他の例には、N−メチルピロリドン、及びアルコール(例えば、オリゴビニルアルコール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等)が含まれる。これらの親水性低分子量化合物は、単体で、又は相互に組み合わせて又は鼻腔内製剤の他の活性成分若しくは不活性成分と組み合わせて用いることができる。
【0091】
本発明の組成物には、上記に代わり、pH調整剤及び緩衝剤、張度調整剤、湿潤剤等のような、生理学的条件に近づけるために必要な医薬的に許容可能な担体物質として、例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ソルビタンモノラウレート、トリエタノールアミンオレエート等が含まれていてもよい。固体組成物の場合、例えば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカリン、滑石粉、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウム等を含む従来の非毒性の医薬的に許容可能な担体を用いることができる。
【0092】
本発明の特定の態様において、生物活性薬剤は、例えば、持続放出性ポリマを含む組成物のような、徐放性製剤において投与される。活性薬剤は、例えば、ポリマ、マイクロカプセル送達システム又は生体接着ゲルといった徐放性媒体等の、迅速な放出を防ぐ担体と共に調製することができる。本発明の種々の組成物中の活性薬剤の持続的な送達は、例えばモノステアリン酸アルミニウムヒドロゲル及びゼラチン等の、吸収を遅延させる薬剤を組成物中に含ませることにより生じさせることができる。
【0093】
ここで用いる「対象」という用語は、本発明の組成物を投与することのできるあらゆる哺乳動物患者を意味する。
【0094】
キット
本発明には、上記の医薬組成物、有効成分、及び/又は、これらを哺乳動物対象中の疾患及び他の障害の予防及び治療に用いるために投与する手段を含むキット、パッケージ及び複合容器ユニット(multicontainer unit)も含まれる。簡潔に言うと、これらのキットには、粘膜送達用の医薬製剤中に製剤された1又は2種類以上の生物活性薬剤を含む容器又は製剤が含まれる。生物活性薬剤は、任意により、バルク分散容器(bulk dispensing container)中に含まれるか、又は単位投与形態若しくは多重単位投与形態で含まれる。例えば肺又は鼻腔内スプレアプリケータ等の、任意の分散手段を提供することができる。パッケージ部材には、同封の医薬品を、例えば鼻腔内の粘膜投与に用いることで、特定の疾患又は障害の治療又は予防できることを示す標示又は説明書が任意に含まれる。
【0095】
ポリヌクレオチド送達促進ポリペプチド
本発明の更なる態様では、両親媒性アミノ酸配列を含むようなポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドが、選択されるか又は合理的に設計される。例えば、疎水性配列ドメイン又はモチーフを形成する複数の非極性若しくは疎水性アミノ酸残基が帯電性の配列ドメイン又はモチーフを形成する複数の帯電性アミノ酸残基に結合することで生じた両親媒性ペプチドを含む、有用なポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドを選択することができる。
【0096】
別の態様では、タンパク質導入(protein transduction)ドメイン又はモチーフ、及び融合性ペプチド(fusogenic peptide)ドメイン又はモチーフを含むように、ポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドが選択される。タンパク質導入ドメインは、細胞の膜に挿入可能であり、好ましくは細胞の膜の間を通過可能なペプチド配列である。融合性ペプチドは、例えば、細胞膜又はエンドソームを覆う膜等の脂質膜を不安定化させることが可能なペプチドであり、この不安定化は低pHで促進することができる。融合性(fusogenic)ドメイン又はモチーフの例は、幅広く多様なウィルス融合タンパク質又は他のタンパク質、例えば繊維芽細胞成長因子4(FGF4)等に見出される。
【0097】
本発明のポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドを合理的に設計するために、タンパク質導入ドメインが、細胞膜を通じた細胞内への核酸の侵入を促進する部位として用いられる。特定の態様では、輸送された核酸は、エンドソーム内に封入されることになる。エンドソーム内部は低pHを有しており、結果としてエンドソームの膜が融合性ペプチドモチーフによって不安定化されることになる。エンドソーム膜の不安定化と破壊により、siNAが細胞質中に放出され、そこでsiNAは、RISC複合体と結合して標的mRNAに向かうことが可能になる。
【0098】
本発明のポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドに任意に取り込むためのタンパク質導入ドメインの例には、以下のものが含まれる。
1. TATタンパク質導入ドメイン(PTD)(配列番号1) KRRQRRR;
2. ペネトラチンPTD (配列番号2) RQIKIWFQNRRMKWKK;
3. VP22 PTD(配列番号3) DAATATRGRSAASRPTERPRAPARSASRPRRPVD;
4. カポジFGFシグナル配列(配列番号4) AAVALLPAVLLALLAP、及び配列番号5)AAVLLPVLLPVLLAAP;
5. ヒトβ3インテグリンシグナル配列(配列番号6) VTVLALGALAGVGVG;
6. gp41融合配列(配列番号7) GALFLGWLGAAGSTMGA;
7. カイマンクロコディルス(Caiman crocodylus)Ig(v)軽鎖(配列番号8) MGLGLHLLVLAAALQGA;
8. hCT誘導ペプチド(配列番号9) LGTYTQDFNKFHTFPQTAIGVGAP;
9. トランスポータン(Transportan)(配列番号10) GWTLNSAGYLLKINLKALAALAKKIL;
10.ロリゴマ(Loligomer)(配列番号11) TPPKKKRKVEDPKKKK;
11.アルギニンペプチド(配列番号12) RRRRRRR;及び
12.両親媒性モデルペプチド(配列番号13) KLALKLALKALKAALKLA。
【0099】
本発明のポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドに任意に取り込むためのウィルス融合ペプチドの融合性ドメインの例には、以下のものが含まれる:
1.インフルエンザ HA2(配列番号14) GLFGAIAGFIENGWEG;
2.センダイ F1(配列番号15) FFGAVIGTIALGVATA;
3.呼吸器合胞体ウイルス F1(配列番号16) FLGFLLGVGSAIASGV;
4.HIV gp41(配列番号17) GVFVLGFLGFLATAGS;及び
5.エボラ GP2(配列番号18) GAAIGLAWIPYFGPAA。
【0100】
本発明の更なる態様では、本発明の方法及び組成物の範囲内において、ポリペプチド−siNA複合体の形成を促進して、及び/又はsiNAの送達を促進する、DNA結合ドメイン又はモチーフを取り込むポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドが提供される。この文脈における例示的なDNA結合ドメインには、DNA結合性制御タンパク質及び以下で同定された他のタンパク質に関して、以下の文献に説明されるような、種々の「ジンクフィンガ」ドメインが含まれる(例えば、Simpsonら,J.Biol.Chem.275:28011−28018,2003)。
【0101】
表1
【0102】
*上記表には、C−x(2,4)−C−x(12)−H−x(3)−Hというモチーフパターンにより特徴付けられ、それ自体を用いて、本発明に係る更なるポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドを選択して設計可能な、2本鎖DNA結合用の保存されたジンクフィンガモチーフが示されている。
【0103】
**表1に、Sp1、Sp2、Sp3、Sp4、DrosBtd、DrosSp、CeT22C8.5、及びY4pB1A.4として示される配列は、本明細書において、それぞれ配列番号19、20、21、22、23、24、25、及び26と定める。
【0104】
本発明のポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドを構築するために有用な別のDNA結合ドメインの例には、例えば、HIV Tatタンパク質配列の一部分が含まれる(下記実施例を参照)。
【0105】
本明細書で下記に記載する本発明の例示的態様において、ポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドは、先に記載したあらゆる構造要素、ドメイン又はモチーフを、標的細胞内へのsiNAの送達を効果的に促進する1本のペプチドへと組み合わせることにより、合理的に設計して構築することができる。例えば、TATポリペプチドのタンパク質導入ドメインが、HA2と称されるインフルエンザウィルスのヘマグルチニンタンパク質のN末端の20個のアミノ酸に融合され、本明細書の例示的ポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドの1つが得られた。本開示では、種々の別のポリヌクレオチド送達促進ポリペプチド構築物も提示されており、本発明の概念を広く適用することで、siNA送達を促進するために効果的なポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドの多様な集合が作り出されて用いられることを証明している。
【0106】
本発明の更なる例示的なポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドは、以下のペプチドから選択することができる:
WWETWKPFQCRICMRNFSTRQARRNHRRRHR(配列番号27);
GKINLKALAALAKKIL(配列番号28)、RVIRVWFQNKRCKDKK(配列番号29)、
GRKKRRQRRRPPQGRKKRRQRRRPPQGRKKRRQRRRPPQ(配列番号30)、
GEQIAQLIAGYIDIILKKKKSK(配列番号31)、ポリLys−Trp、4:1、分子量20,000−50,000;及びポリOrn−Trp、4:1、分子量20,000−50,000。本発明の組成物及び方法の範囲内で有用な、更なるポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドには、メリチンタンパク質配列の全部又は一部が含まれる。
【0107】
本発明は、下記の実施例により例示されるが、これは、請求項に記載される本発明の範囲を制限するものではない。
【0108】
実施例1
粘膜送達−透過動態及び細胞毒性器官モデル(Organotypic Model)
以下の方法は、一般的に、生物活性治療剤、及び哺乳動物の対象内の上皮ジャンクションの構造及び/又は生理機能を調節して可逆的に粘膜上皮の傍細胞輸送を促進する、粘膜送達を可逆的に促進するのに効果的な量の透過化処理ペプチドの粘膜送達パラメータ、動態及び副作用を評価するのに有用である。
【0109】
EpiAirwayTMシステムが、偽重層上皮層気道(pseudostratified epithelium lining the respiratory tract)のモデルとして、MatTek Corp(アッシュランド、マサチューセッツ州)により開発された。該上皮細胞層を、底が多孔性膜の細胞培養インサート上で、空気−液体境界面にて成長させると、結果として、細胞が非常に極性を帯びた形態へと分化する。頂端部表面は、微絨毛超微細構造の繊毛を有し、該上皮は、粘液を生産する(ムチンの存在がイムノブロッティング法により確認された)。インサートは、0.875cmの直径を有し、0.6cm2の面積を提供する。細胞は、出荷の約3週間前に工場でインサート上に播種される。1つの「キット」は、24個のユニットからなる。
【0110】
A.到着したら、ユニットを6ウェルマイクロプレート中の滅菌支持体上に置く。各ウェルは5mLの有標の培養培地を受容する。このDMEMを基礎とする培地は、血清を含まないが、上皮成長因子及び他の因子が補充されている。培地は、毎回、鼻腔内送達に関して考えられるあらゆるサイトカインと成長因子の内在濃度について試験されるが、現在まで、インシュリン以外で実験されたサイトカイン又は因子は皆無であった。5mLの体積は、ユニットの高さにおいて、基底部分との接触を提供するが、上皮の頂端部表面は、直接空気と接触したままにさせるのに丁度十分な量である。本工程と、ユニットの底部と培地の間に絶対に空気が入らないようにユニットを液体含有ウェルに移すことを伴う後の全ての工程において、滅菌されたピンセットを用いる。
【0111】
B.プレート中のユニットを、インキュベータ内で5%CO2の大気中に37℃で、24時間維持する。この時間の終了時に培地を新鮮な培地と交換し、ユニットをインキュベータに戻して更に24時間維持する。
【0112】
実験プロトコル−透過動態
A.24個のEpiAirwayTMユニットの「キット」は、各製剤が4つのウェルに重複して適用される、5種類の異なる製剤の評価に、通常用いることができる。各ウェルは、透過動態(4時点)、経上皮電気抵抗(TER)の測定に用いられる。余った一連のウェルは、透過動態の測定中に擬処理されるコントロールとして用いられるが、それ以外では、経上皮抵抗と生存率を測定するための試験サンプル含有ユニットと同様に取り扱われる。
【0113】
B.全ての実験において、試験される粘膜送達製剤は、頂端部表面全体を覆うのに十分な100μLの量で、各ユニットの頂端部表面に適用される。頂端部表面に適用された濃度にある適量の試験製剤(通常100μL以下を要する)を、後のELISA又は他の指定アッセイによる活性物質の濃度測定のために取っておく。
【0114】
C.ユニットは、実験まで待つことなく6ウェルプレート中に静置する:各ウェルは、0.9mLの培地を含み、この量であれば、ユニットの多孔性膜の底部に接触するのに十分だが、上面には何ら有効な静水圧が生じない。
【0115】
D.潜在的な誤差源を最小化して、濃度勾配の形成を回避するため、本試験の各時点において、ユニットを、一の0.9mL含有ウェルから他のウェルへと移す。これらの移動は、100μLの量の試験物質が、頂端部表面に適用された時点を時間0として基準にした、以下の時点において行う:15分、30分、60分、及び120分。
【0116】
E.各時点の間、プレート中のユニットは37℃のインキュベータ中に置いておく。各ウェルに0.9mLの培地を含むプレートも、インキュベータ内に維持することで、プレートを取り出して、滅菌ピンセットを用いてユニットを一のウェルから他のウェルに移す短い時間においても、温度に最小の変化しか生じなくなる。
【0117】
F.透過した試験物質の濃度を測定するため、並びに、該試験物質が細胞毒性を有していた場合には、上皮からの細胞質内酵素である乳酸デヒドロゲナーゼの放出のために、各時点の終了時に、各ユニットを移し出したウェルから培地を取り出し、2本の試験管分注する(一の試験管は、700μLを、他方は200μLを受容する)。これらのサンプルは、アッセイを24時間以内に行う場合には、冷蔵庫内に静置し、又は該サンプルを、更に分注して、アッセイ用に融解させるまで−80℃で凍結して維持する。凍結融解サイクルを繰り返す反復は、回避すべきである。
【0118】
G.間違いを最小にとどめるため、全ての試験管、プレート、及びウェルは、実験を始める前に事前に標識する。
【0119】
H.120分の時点の終了時に、ユニットを最後の0.9mL含有ウェルから、各ウェルに0.3mLの培地を含む24ウェルマイクロプレートに移す。この体積も、ユニットの底部に接触するのに十分だが、ユニットに対して上面の静水圧を生じさせない。ユニットを、経上皮抵抗の測定前にインキュベータに戻す。
【0120】
実験プロトコル−経上皮電気抵抗
A.呼吸気道上皮細胞は、インビボでもインビトロでもタイトジャンクションを形成し、それにより組織を横断する溶質の流れを制限する。摘出された気管組織において、これらのジャンクションは、数百オーム x cm2の経上皮抵抗を与える。MatTekのEpiAirwayTMユニットでは、経上皮電気抵抗(TER)は、製造元により、ルーチン的に、約1000オーム x cm2であると報告されている。本実施例において測定されたデータは、透過試験の一連の工程の間擬曝露されたコントロールのEpiAirwayTMユニットのTERは、これよりも多少低いものであったが(700−800オーム x cm2)、低分子の透過はTERの逆数に比例するので、この値でも、十分に高いものであり、透過に対して頑強なバリアを提供する。反対に、細胞を有しない多孔性膜の底部を有するユニットは、最小の膜間抵抗(約5−20オーム x cm2)を示すだけである。
【0121】
B.正確なTER測定では、電気抵抗計の電極が膜の上下の有効面積上に配置され、膜から電極までの距離が再現性を以て調節されることが要求される。マットテック社により推奨され、本実施例の全ての実験で採用したTER測定法では、フロリダ州、サラソタのWorld Precision Instruments,Inc.からの、EVOMTM上皮電圧抵抗計とENDOHMTM組織抵抗測定チャンバを用いる。
【0122】
C.前記チャンバには、最初、電極を平衡化するためにTER測定前の少なくとも20分間、ダルベッコリン酸緩衝食塩水(PBS)を充填しておく。
【0123】
D.TERの測定は、チャンバ内では1.5mLのPBSと、測定される膜底部を有するユニット内では350μLのPBSで行う。上端の電極を、細胞を含まないユニット(しかし、350μLのPBSを含む)の膜の直ぐ上の位置に調節し、次いで固定して再現可能な配置を確保する。細胞無しのユニットの抵抗は、典型的には、5−20オーム x cm2(「バックグラウンド抵抗」)である。
【0124】
E.チャンバを準備してバックグラウンド抵抗を記録したら、透過測定に用いた24ウェルプレート中のユニットをインキュベータから取り出し、TER測定のために個別にチャンバ内に静置する。
【0125】
F.各ユニットを、最初に、確実に膜底部を湿らせるようにPBSを含むペトリ皿に移す。350μLの分量のPBSをユニットに添加し、次いで標識した試験管内へ慎重に吸引して頂端部表面を洗浄する。350 μLのPBSによる2回目の洗浄液をユニットに添加し、同じ回収用試験管内へと吸引する。
【0126】
G.ユニットを、チャンバ(新しい1.5mLの分量のPBSを含む)内に静置する直前に、その外部表面上の過剰量PBSが無くなるように丁寧に吸水する。上端の電極をチャンバ上に配置する前に、350μLの分量のPBSをユニットに添加し、EVOMメータでTERを測定する。
【0127】
H.ユニットのTERをENDOHMチャンバ内で測定した後、該ユニットを取り出し、PBSを吸引して保管し、そして該ユニットを、頂端部表面が空気と接するように、各ウェルに0.3mLの培地を含む24ウェルプレートへと戻す。
【0128】
I.ユニットは、以下の順序に従って読み取る:全ての擬処理したコントロール、次いで、全ての製剤処理したサンプル、次いで各擬処理したコントロールの2回目のTER測定。全てのTER値は、組織の面積の関数として報告する。TERは以下に従って計算する:
【0129】
【0130】
ここで、RIは、膜を有するインサートの抵抗であり、Rbは、ブランクインサートの抵抗であり、Aは、膜の面積(0.6cm2)である。鼻腔内送達促進剤、例えば、透過化処理ペプチドを含む医薬製剤の効果は、EpiAirwayTM細胞膜(粘膜上皮細胞層)間のTERにより測定される。透過化処理ペプチドをエピエアウェイ(商標)セルメンブランに、1.0mMの濃度で適用する。コントロール値(コントロール=約1000オーム−cm2;100に基準化する)に対するTER値の低下は、細胞膜抵抗の低下と粘膜上皮細胞透過性の上昇を示す。
【0131】
実験プロトコル−LDHアッセイ
細胞死の量は、CytoTox96細胞毒性アッセイキット(Promega Corp、マジソン、ウィスコンシン州)を用いて、細胞からの乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の喪失を測定することにより評価した。50マイクロリットルのサンプルを96ウェルアッセイプレートに注入した。新しい、細胞を含まない培地をブランクとして用いた。50 μlの基質溶液を各ウェルに添加し、プレートをを暗所にて室温で30分間インキュベートした。インキュベーション後、各ウェルに50μlの停止溶液を添加し、プレートを吸光度プレートリーダにより490nmで読み取った。
【0132】
実験プロトコル−EIA法
EIAキット(商品番号S−1178(EIAH6101)は、Peninsula Laboratories Inc(BACHEM事業部、サンカルロス、カルフォルニア州、800−922−1516)から購入した。17x120mmポリプロピレンコニカルチューブ(商品番号352097、Falcon、フランクリンレイクス、ニュージャージー州)を、全てのサンプル調製に用いた。8つのスタンダードをPTH定量化に用いた。残りのアッセイ手順は、前記キットのインサートと同様であった。
【0133】
実施例2
PN159による上皮透過の促進
以下の本実施例は、PN159に例示される本発明の透過促進ペプチドが、PTH及びペプチドYYを含むペプチド治療薬物に対して粘膜透過を促進することを実証する。本発明のペプチドによるこの透過促進活性は、PN159で証明されるように、1又は複数種類の低分子透過促進剤の使用により達成される上皮透過促進と同等か、これを超えるものであろう。
【0134】
ペプチドYY3−36 (PYY3−36)は、数多くの臨床試験の対象となった、34個のアミノ酸のペプチドである。この生物活性ペプチドの粘膜送達は、低分子透過促進剤を含む製剤において促進することができる。従って、本試験では、PN159に例示される本発明の透過促進ペプチドが、低分子透過促進剤の役割に取って代わり、ペプチドYYの粘膜送達を促進できるかどうかを評価した。これらの試験には、PN159が経上皮電気抵抗(TEER)を低下させ、マーカー物質の透過を増大させるインビトロでの作用の評価と、インビトロでの結果と一致することを示すインビボでの関連試験が含まれていた。
【0135】
本実施例においては、PN159とPTHの組み合わせについて記載する。PTHは、完全長ペプチド(1−84)であるか、又は(1−34)のような断片であってもよい。製剤は、PTH、透過化処理ペプチド、及び1又は2種類以上の他の透過促進剤との組合せであってもよい。また、製剤には、緩衝剤、等張化剤、pH調整剤、及びアミノ酸、糖若しくはポリオール、ポリマ、及び塩といった、ペプチド/タンパク質安定剤を含んでいてもよい。
【0136】
本試験は、PTHの透過に対する、PN159単独又は他の透過促進剤との組合せでの効果を評価するように設計された。評価したPN159濃度は、25、50、及び100 μMである。他の透過促進剤は、45mg/mlのM−β−CD、1mg/mlのDDPC、及び1mg/mlのEDTAである。ソルビトールを等張化剤(146−190 mM)として用いて、製剤のオスモル濃度を220mOsm/kgに調整した。製剤のpHを4.5に定めた。本実施例におけるモデルペプチドとしてPTHを選んだ。2mg/mlのPTHを、他の透過促進剤有り又は無しでPN159と共に配合した。インビトロの上皮組織モデルを用いて、該配合物を試験し、PTHの透過、経上皮電気抵抗(TER)をモニタし、及びLDHアッセイにより製剤の細胞毒性をモニタした。
【0137】
経上皮電気抵抗
本試験のTER測定の結果は、80%を超えるTERの減少が、PN159により生じたことを示す。より高いPN159濃度において、より大きなTER低下が観測された。頂端部側面に添加した培地はTERを減少させなかったが、triton Xで処理されたグループは、予想通り、大幅なTER低下を示した。
【0138】
細胞毒性
本試験のLDHのデータは、細胞を25−100μMのPN159で処理した際に、有意な細胞毒性が観察されなかったことを示す。頂端部側面に添加した培地は細胞毒性を示さなかったが、Triton Xで処理されたグループは、予想通り、著しい細胞毒性を示した。
【0139】
透過
他の促進剤有り又は無しの場合の、PN159についてのPTH1−34透過データを図1及び2にそれぞれ示す。PN159の存在下で有意なPTH透過の増大が観察された。25、50、及び100μMのPN159の間に、透過%の有意差は観察されなかった。PTH透過に対するPN159の効果は、45/1/1mg/ml のM−β−CD/DDPC/EDTAと同程度のものである。45/1/1mg/ml のM−β−CD/DDPC/EDTAとPN159の組み合わせにおいて、PTH透過の更なる増大が観察された。
【0140】
実施例3
PN159による、低分子透過促進剤と同等又はこれを超えるペプチドホルモン治療剤に対するインビボでの透過促進
生後3−6ヶ月で体重が2.1−3.0kgにあるオスのニュージーランド白色ウサギ(New Zealand white rabbit)20羽を、各グループが4体の動物からなる5種類の処理グループのいずれかに無作為に振り分けた。試験動物に、ピペットを用いて、15μl/kgを鼻腔内投与した。下記の表5に、5種類の異なる投与グループの組成を示す。
【0141】
投与グループ1(表2参照)には、低分子透過促進剤を含むPYYの臨床用製剤を用いた。これらの試験における低分子促進剤には、メチル−βシクロデキストリン、ホスファチジルコリンジデカノイル(DDPC)、及び/又はEDTAが含まれていた。 投与グループ2は、リン酸緩衝食塩水(PBS)に溶解されたPYYを摂取した。投与グループ3−5では、種々の濃度のPN159を投与グループ2のものに添加し、それによって、投与グループ3−5のそれぞれは、PYY、PN159、及びPBSから構成された。
【0142】
表2
【0143】
一連の血液サンプル(それぞれ約2ml)を、末梢耳静脈からの直接静脈穿刺により、抗凝固剤としてEDTAを含む血液回収用試験管内へと回収した。血液サンプルは、投与後から0、2.5、5、10、15、30、45、60、及び120分後に回収した。血液回収後、抗凝固のために該試験管を複数回緩やかに振って、50μlのアプロチニン溶液を添加した。血液を、約4℃にて、約1,600 x gで15分間遠心し、血漿サンプルを2つの重複する分量にて分注して約−70℃で凍結保存した。
【0144】
処理グループ中の4体の動物を平均化すると、以下のPYY血漿濃度が測定された(表3):
【0145】
表3
【0146】
上記データから計算された薬物動態データを、下記表4に示す:
【0147】
表4
【0148】
グループ2(促進剤無し)の製剤との比較により、以下の相対的な促進率が決定された(表5):
【0149】
表5
【0150】
先のデータは、グラフを用いて図3に描かれており、PN159に例示される本発明の透過化処理ペプチドは、低分子透過促進剤と比較しても同程度かこれを超える程度に、ヒトホルモンペプチド治療剤のインビボでの鼻腔内透過を促進できることを示している。該ペプチドの最大の効果は、50μMの濃度において見られる。100μMの濃度では、50μMと共に低分子透過促進剤よりも高い透過を生じているが、結果として50μMよりも多少低い透過となっていた。
【0151】
実施例4
PN159による、オリゴペプチド治療剤に対する透過促進
本実施例は、本発明の例示的ペプチド、PN159が、哺乳動物細胞レセプタに対するオリゴペプチドアゴニストのモデルである、環状ペンタペプチドのメラノコルチン−4レセプタアゴニスト(MC−4RA)の上皮透過を促進する効力を示す。本実施例では、1又は2種類以上の透過処理ペプチドとMC−4RAの組み合わせについて記載する。この文脈における有用な製剤には、オリゴペプチド治療剤、透過化処理ペプチド、及び1又は2種類以上の他の透過促進剤の組み合わせが含まれていてもよい。また、製剤には、緩衝剤、等張化剤、pH調整剤、並びにアミノ酸、糖若しくはポリオール、ポリマ、及び塩といった、ペプチド/タンパク質安定剤が含まれていてもよい。
【0152】
本試験では、MC−4RAの透過に対するPN159の作用を評価した。MC−4RAは、約1,100Daの分子量を有し、MC−4レセプタの活性を調節するメタンスルホン酸塩であった。評価したPN159濃度は、5、25、50及び100μMである。45mg/mlのM−β−CDを全ての製剤で可溶化剤として用いることで、10mg/mlのペプチド濃度が達成された。PN159の作用は、単独又はEDTA (1、2.5、5、又は10mg/ml)との組合せのいずれかにおいて評価した。製剤のpHを4に定め、オスモル濃度は、220mOsm/kgであった。
【0153】
HPLC法
側底部培地中のMC−4RAの濃度を、C18 RP クロマトグラフィを1mL/分の流速と25℃のカラム温度で用いたPR−HPLCにより分析した。
溶媒A:水中の0.1%TFA; 溶媒B:ACN中の0.1%TFA
注入量:50μL
検出:220nm
測定時間:15分
MC−4RAは、pH4でオスモル濃度が〜220mOsm/kgの、5、25、50及び100μMのPN159と配合した。インビトロでの上皮組織モデルを用いて、該配合物を試験し、PTHの透過、経上皮電気抵抗(TER)をモニタし、さらにMTT及びLDHアッセイにより製剤の細胞毒性をモニタした。
【0154】
MC−4RAの透過試験の結果を図4に示す。これらの試験から、PN159は、ペプチドホルモン治療剤の粘膜透過の促進に加え、オリゴペプチド治療剤の上皮透過も顕著に促進することが証明される。
【0155】
実施例5
PN159による、低分子薬物に対する透過促進
本実施例は、本発明の例示的ペプチド、PN159が、アセチルコリンエステラーゼ(ACE)の阻害物質であるガランタミンに例示される低分子薬物の上皮透過を促進する効力を示す。本実施例では、1又は2種類以上の透過処理ペプチドと低分子薬物の組み合わせについて記載する。この文脈における有用な製剤には、低分子薬物、透過化処理ペプチド、及び1又は2種類以上の他の透過促進剤の組み合わせが含まれていてもよい。また、製剤には、緩衝剤、等張化剤、pH調整剤、安定剤及び/又は保存剤が含まれていてもよい。
【0156】
本発明では、ガランタミンをPN159と組み合わせて、鼻粘膜間のガランタミンの透過を促進する。ガランタミンは、単独で鼻上皮膜を透過可能な低分子であるから、上記薬物透過の増大は予期せぬものである。従って、ペプチドの透過を促進する賦形剤の添加により媒介されるガランタミンの上皮透過の有意な促進は、このような賦形剤は、通常ガランタミンの上皮組織層の透過を有意に増大させると予想されないという前提から、驚くべきことである。従って、本発明は、ガランタミン及び他の低分子薬物のバイオアベイラビリティを増大させることにより、これらの経鼻送達を促進することになる。
【0157】
本試験において、乳酸塩の形態にある40mg/mlのガランタミンを、pH5.0でオスモル濃度が〜270mOsm/kgの溶液中で、25、50及び100μMにあるPN159と配合した。上記のように、インビトロでの上皮組織モデルを用いて、該配合物を試験し、ガランタミンの透過、経上皮電気抵抗(TER)をモニタし、さらにLDH及びMTTアッセイにより製剤の細胞毒性をモニタした。ガランタミンの透過測定は、以下のように、標準的なHPLC分析により行った。
【0158】
HPLC分析
製剤及び側底部培地(透過サンプル)中のガランタミン濃度を、UV検出を用いたアイソクラティックLC(Waters Alliance)法により測定した。
カラム:Waters Symmetry Shield、C18、5um、25 x 0.46cm
移動相:50mMギ酸アンモニウム中の5%ACN、pH3.0
流速:1ml/分
カラム温度:30℃
検量線:0−400μg/mlガランタミンHBr
検出:285nmのUV
【0159】
先の試験によれば、PN159は低分子の経粘膜送達を向上させる。低分子量薬物のモデルとしてガランタミンを選択したが、この分子に関する結果は、他の低分子薬物に対する透過化処理ペプチドの活性を予測するものであると考えられる。この文脈における透過化活性を評価するため、乳酸塩の形態にある40mg/mlのガランタミンを、pH5.0でオスモル濃度が〜270mOsm/kgの溶液中で、25、50及び100μMにあるPN159と配合した。インビトロでの上皮組織モデルを用いて、該配合物を試験し、ガランタミンの透過、経上皮電気抵抗(TER)をモニタし、さらにLDH及びMTTアッセイにより製剤の細胞毒性をモニタした。
【0160】
インビトロ組織モデルにおいて、PN159の添加により、細胞障壁間の薬物透過に劇的な増大が生じた。具体的には、40mg/mlのガランタミンにより、Pappに2.5−3.5倍の増加が認められた。(図5)
【0161】
PN159は、ガランタミンの存在下において、実施例IIに記載されるのと全く同様に、TERを低下させた。
乳酸ガランタミン(galantamine lactate)及び試験した全ての濃度でのPN159の存在下では、細胞生存率が高く維持された(80%を超える)。反対に、LDHで測定したところ、PN159と乳酸ガランタミン(galantamine lactate)の存在下では細胞毒性は低かった。これら両方のアッセイにより、PN159が上皮膜に対する毒性を有しないことが示される。
【0162】
先の結果をまとめると、本実施例において、PN159は、低分子量薬物のモデルとしてのガランタミンの上皮透過を驚くほど増大させることが実証された。溶液中でのガランタミンへのPN159の添加により、上皮単層間のガランタミン透過が有意に促進される。PN159は、高い細胞生存率と低い細胞毒性により測定されるように、上皮膜中の細胞に害を与えることなく上皮膜間のTERを一時的に低下させることが証拠により示されている。したがって、PN159は、インビトロのモデルを用いてここに示されたのと同様のメカニズムにより、インビボでガランタミン及び他の低分子薬物のバイオアベイラビリティを促進する代表的なペプチドである。更に、PN159がより高い濃度でもガランタミンの透過を促進するであろうことが予想される。
【0163】
化学的安定性
PN159の化学的安定性を、治療に適切な保存条件下において測定した。stability−indicating HPLCメソッドを用いた。溶液(50mM)を種々のpH(4.0、7.3、及び9.0)と温度(5℃、25℃、35℃、40℃及び50℃)の条件下で保存した。pH4のサンプルは、10mMのクエン酸バッファを含んでいた。pH7.3と9.0のサンプルは、10mMのリン酸バッファを含んでいた。代表的な保存安定性データ(アレニウスのプロットを含む)を図6に示す。図に示すように、PN159は、低温及び低pHで最も化学的に安定していた。例えば、5℃でpH4.0又はpH7.3では、6ヶ月の保存で、事実上100%のPN159回収率が認められた。保存温度を25℃に高めた場合、pH4又はpH7のサンプルでは、6ヶ月後に、それぞれ7%と26%の元のPN159の喪失が認められた。pH9で、更に/又は例えば40ないし50℃の高温においては、迅速なPN159の劣化が生じた。4.0ないし7.3のpH範囲と、冷蔵から周囲温度までの温度の範囲が、鼻腔内用製剤に最も適している。従って、これらのデータは、鼻腔内用製剤に適切な保存条件下において、PN159が化学的保全性を維持できることを示す。透過した薬物対時間の比率に顕著な増大が見られた。これらのデータを用いて、表6に示す透過性定数(Papp)を計算した。
【0164】
表6
【0165】
PN159が存在しない場合、ガランタミンのPappは、約2.1x10−6cm/秒であった。25、50及び100mMのPN159が存在する場合、Pappは、それぞれ、5.1x10−6、6.2x10−6、及び7.2x10−6cm/秒であった。従って、PN159は、この低分子量薬物のモデルに、2.4倍ないし3.4倍のPappの増加を提供した。
【0166】
低分子量化合物からなる経粘膜製剤に対するPN159の有用性を確証したので、これらの知見から、例えば治療用ペプチド及びタンパク質等の、より大きな分子についても同様のことが推定できるかどうかを確認することが重要であった。この目的のため、治療用ペプチドのモデルとしてのサケカルシトニンを用いて、25、50及び100mMのPN159が存在しない、又は存在する場合において、インビトロでの組織試験を行った。PN159が存在しない場合、カルシトニンのPappは、約1x10−7cm/秒であり、ガランタミンよりも約一桁小さい値であったが、恐らく、分子量の差によるものであろう。データから、PN159の存在下でのカルシトニン透過の劇的な増大が明らかとなり、カルシトニン単独の場合と比較して、Pappが最大で23倍ないし47倍増加していた(表6)。
【0167】
これらの発見の普遍性を探索すべく、更なる2種類のペプチド、即ちヒト副甲状腺ホルモン1−34 (PTH1−34)及びヒトペプチドYY3−36 (PYY3−36)を、PN159が存在しない状態及び存在する状態で、インビトロモデルにて試験した(表6に示すPappデータ)。PN159が存在しない場合、これら2種類のペプチドのPappは、カルシトニンのPappと一致するものであった。PTH1−34の場合、PN159の存在により、Pappは約3−5倍増大した。PYY3−36をPN159の存在下で製剤した場合、Pappは約12倍ないし17倍増大した。これらのデータにより、PN159が、経粘膜薬物送達に有用性を有するという我々の発見の普遍性が確認される。
【0168】
実施例6
PN159のD−アミノ酸型
表7に列挙するD−アミノ酸置換PN159ペプチドを合成して精製し、上記の実施例に記載する方法を用いて、これらがTER及び透過性を促進する能力について試験した。
【0169】
表7
【0170】
PN407は、軽微ではあるが、統計上有意な透過の向上を示す。PN159の全てのD型及びレトロ−インベルソ型は、TER回復の低下を示し、インビボでの送達に有用であろう、長期的なTER低下効果を示唆している。ランダムD置換(PN434)は、TER低下及び透過性促進の両方において、活性の無いものを生じさせる場合がある。
【0171】
実施例7
PN159の長さの変化
表8に列挙する長さの変化を有するPN159ペプチドを合成して精製し、上記の実施例に記載する方法を用いて、これらがTER及び透過性を促進する能力について試験した。
【0172】
表8
【0173】
結果は、PN159の長さが、そのTER低下及び透過活性促進に重要であることを示す。PN159の20アミノ酸への伸長は、TER低下効果を向上させたが、透過効果を低下させた。TER回復は、より遅いものである。PN159の16アミノ酸への短縮は、TER低下に何らの効果も示さなかったが、透過効果を低下させた。PN159の14アミノ酸への短縮は、大幅に透過効果を低下させ、PN159の長さが透過性に重大なものであることを示している。透過作用とは対照的に、PN159の長さによるTER低下への効果は、比較的緩やかなものである。
【0174】
実施例8
PN159中のトリプトファン及びアルギニン置換
表9に列挙するアミノ酸置換を有するPN159ペプチドを合成して精製し、上記の実施例に記載する方法を用いて、これらがTER及び透過性を促進する能力について試験した。
【0175】
表9
【0176】
結果は、アルギニングのアニジニウム頭部基が、リシン及びヒスチジンよりも効果的であることを示す。トリプトファンは、水−膜境界において選択的なアミノ酸である。PN407は、軽微ではあるが、統計上有意な透過の向上を示す。リシンをアルギニンで置換すると、大幅に透過性が低下するが、TER低下に与える影響は比較的小さく、透過性に関するリシンの重要性が示唆される。10番目のアミノ酸のアラニンのアスパラギンとの単一置換は、透過性を失わせ、PN159の活性に関するαへリックスの重要性を示している。
【0177】
実施例9
PN159の疎水性変化
表10に列挙するアミノ酸置換を有するPN159ペプチドを合成して精製し、上記の実施例に記載する方法を用いて、これらがTER及び透過性を促進する能力について試験した。
【0178】
表10
【0179】
PN159は280度の疎水性面を有する。結果は、疎水性面の減少が、PN159活性の低下を生じる場合があることを示す。また、PN159の両親媒性も、その活性に重要である。
【0180】
インビトロでの方法及びプロトコル
各TJMPを、経上皮電気抵抗(TER)、TER回復、細胞毒性(LDH)、及びサンプル透過(EIA)についてアッセイした。細胞培養条件及び各アッセイのプロトコルは、下記で詳細に説明する。
【0181】
実施例10
インビトロでの方法及びプロトコル
タイトジャンクション調節ペプチド又はTJMPは、上皮細胞間に隙間を生じさせて上皮の障壁機能を低下させる効果により、タイトジャンクションの結合性を弱めることができるペプチドである。タイトジャンクション結合性の状態は、ヒト鼻上皮組織モデルシステム間の電気抵抗のレベルとサンプル透過度を測定することにより、インビトロで評価することができる。電気抵抗の低下と透過の促進は、タイトジャンクションが弱められ、上皮細胞間に隙間が生じたことを示す。実際、(TER)低下と呼ばれる組織膜間の電気抵抗の測定される低下を誘起し、組織膜を通る低分子の透過の向上を促進するペプチドは、TJMPとして分類される。加えて、TJMPの細胞毒性レベルを評価することにより、これらのペプチドが、例えば、鼻腔内薬物送達等の粘膜表面を横断する薬物送達において、タイトジャンクション調節ペプチドとして機能することができるかどうかが決定される。
【0182】
本発明の代表的ペプチドをスクリーニングするために用いたアッセイ(実施例25の表23を参照)を、本実施例に記載する。これらのアッセイには、経上皮電気抵抗(TER)、細胞毒性(LDH)、及びサンプル透過が含まれる。また、使用した試薬及び細胞培養条件も記載する。
表11に、これ以降の実施例で用いたサンプル試薬を例示する。
【0183】
表11
【0184】
細胞培養
EpiAirwayTMシステムが、偽重層上皮層気道のモデルとして、MatTek Corp(アッシュランド、マサチューセッツ州)により開発された。該上皮細胞を、底が多孔性膜の細胞培養インサート上で、空気−液体境界面にて増殖させると、結果として、細胞が非常に極性を帯びた形態へと分化する。頂端部表面は、微絨毛超微細構造の繊毛を有し、該上皮は、粘液を生産する(ムチンの存在がイムノブロッティング法により確認された)。細胞は、出荷の約3週間前に工場でインサート上に播種される。
【0185】
EpiAirwayTM培養膜は、実験を開始する1日前に受け取った。これらの培養膜は、フェノールレッド不含かつヒドロコルチゾン不含の、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium) (DMEM)中で出荷された。細胞は、繊毛を有する偽重層であり、ポリカーボネートフィルタシステムからなるミリポアマルチスクリーンCaco−2 96ウェルアッセイシステム(Millipore Multiscreen Caco−2 96−well assay system)上でコンフルエントまで増殖されている。受け取りの後、該インサートシステムを、未開封のまま4℃で保存し、及び/又は各ウェルに250μlの基礎培地(フェノールレッド不含かつヒドロコルチゾン不含のダルベッコ改変イーグル培地 (DMEM))中で、37℃/5%CO2にて、使用前まで24−48時間培養する。
【0186】
このモデルシステムを用いて、TJMPがTEERを調節し、細胞毒性に作用し、そして上皮細胞単層の透過を促進する効果を評価した。
【0187】
MatTek Corp(アッシュランド、マサチューセッツ州)の細胞株が、正常なヒト由来気管/気管支上皮細胞(EpiAirwayTM組織モデル)の供給源となる。該細胞は、透明な親水性のテフロン(PTEE)からなるミリポア−ミリセル−CMフィルタ(Millipore Millicell−CM filter)上にコンフルエントになるまで増殖されたインサートとして提供される。受け取りの後、該膜を、1mlの基礎培地(フェノールレッド不含かつヒドロコルチゾン不含のダルベッコ改変イーグル培地 (DMEM))中で、37℃/5%CO2にて、使用前まで24−48時間培養する。インサートを、各回収の日のために培養する。
【0188】
マディンダービ(Madin−Darbey)イヌ腎細胞(MDCK)、ヒト腸上皮細胞(Caco−2)、及びヒト気管支上皮(16HBE14o−)細胞を、Millipore社のマルチスクリーンCaco−2 96ウェルインサート(Millipore Multiscreen Caco−2 96−well insert)上に播種した。これらの細胞を単層で、エピエアウェイ上皮細胞と同様の条件下で増殖させた。
【0189】
ペプチド合成
ペプチド合成は、ノヴァバイオケムTGRレジン(NovaBiochem TGR resin)を用いて50umolのスケールでレイニンシンフォニー(Rainin Symphony)シンセサイザーで行った。DMF中の20%のピペリジンで10分間の処理を2回繰り返すことにより脱保護を行った。脱保護の後、レジンを、5%のHOBtを含有する10mLのDMFで1回洗浄し(30秒間)、そして10mLのDMFで4回洗浄した(30秒間)。DMF中の5倍過剰量のFmocアミノ酸を反応槽へ供給し、続いて、6.25倍過剰量のN−メチルモルホリンと5倍過剰量のHCTUを含有する活性剤溶液を等量供給することによりカップリングを行った。本合成を通じて、40分間のカップリング時間を用いた。第1のカップリング反応の後で、第2のカップリング工程を開始する前に、レジンを10mLのDMFで2回洗浄した(30秒間)。PEG化ペプチドについては、ペプチド合成の終了後に、N末端Fmoc基を取り除き、2倍等量のDMF中のO−(N−Fmoc−2−アミノメチル)−O’−(2−カルボキシエチル)−ウンデカエチレングリコールを、反応槽に手動で添加した。手動で2倍等量の活性剤溶液を反応槽に供給し、カップリングを一晩進行させた。殆どの場合、97%を超えるカップリング効率が達成され、全ての未反応ペプチドは無水酢酸によりキャッピングされた。
【0190】
個々の反応槽にて、10mLの2.5%TIS含有TFA、2.5%水を供給し、続いて穏やかに3時間窒素撹拌することにより開裂を行った。開裂溶液を自動的にコニカルチューブへ回収させて貯蔵し、減圧下で蒸発させることにより体積を減少させた。生じた溶液を、過剰量の冷却エーテルで粉砕し、濾過して、冷却エーテルで十分に洗浄した。乾燥後、粗ペプチドをミリポア水に溶解させ、乾燥するまで凍結乾燥した。
【0191】
FITC(フルオレセイン−5−イソチオシアネート)−デキストラン透過アッセイ
分子量3000を有するFITC標識デキストラン(FD3)を用いて、個々のTJMPの上皮細胞単層透過に対する効力を評価した。組織インサートプレートを、基礎培地として200μlのDPBS++を含む96ウェルレシーバプレートに移した。各組織培養インサートの頂端部表面を、20μlの単一の試験製剤のサンプル(試験製剤の詳細については実施例25の表24を参照)と共に、暗室内でシェーカ(〜100rpm)上にて37℃で1時間インキュベートさせた。1時間のインキュベーション時間の後、下層にある基礎培地サンプルを各組織培養インサートから取り出し、蛍光分光法によりFD3濃度を定量するまで、暗室内にて室温で一時的に保存した。FD3測定のために、150μlの基礎培地サンプルを、黒色で、透明の底を有する96ウェルプレートに移した。Biotek Instruments社のFLx800蛍光プレートリーダを用いて、485/20の励起後の528/20の蛍光放出を測定した。
【0192】
透過は、以下に従って計算した:
【0193】
透過の式の用語は、以下のように定義される:
Cb:側底部濃度
Ca:頂端部濃度
Vb:側底部量
Va:頂端部量
SA:フィルタ面積
dt:経過時間
【0194】
各組織インサートを、1mlのMatTek基礎培地を含む個別のウェル内に静置する。インサートの頂端部表面に、25μlの試験製剤を、試験設計に従って適用し、該サンプルを、37℃にてシェーカ(〜100rpm)上に1.5時間置く。FITC標識デキストラン溶液をインサートの頂端部表面に添加し、インキュベーション時間経過後に、側底部培地を用いて蛍光測定を行う。FITC−デキストランの濃度は、細胞に与えた開始材料の百分率として表わされる。分子量4000を有するFITC標識デキストラン(MW4000)を用いて、個々のTJMP透過の積み荷サイズ(cargo size)の限界を評価した。サイズ限界試験を行うために、種々のサイズのFITC標識デキストランが利用可能であることに注意すべきである。
【0195】
経上皮電気抵抗(TER)及びTER回復
TER測定は、電極リードを有するEVOM上皮電圧抵抗計(EVOM Epithelial Voltohmmeter)(World Precision Instruments社、サラソタ、フロリダ州)に連結されたエンドーム−12組織抵抗測定チャンバ(Endohm−12 Tissue Resistance Measurement Chamber)を用いて行う。キャリブレーションをチェックする前に、電源をオフにして電極と組織培養ブランクインサートをMatTek培地中にて、少なくとも20分間平衡化させる。バックグラウンドの抵抗を、エンドーム(Endohm)組織チャンバ中の1.5mlの培地と、ブランクインサート中の300μlの培地を用いて測定する。先端電極を、インサートの膜の上面の近傍に、接触しないように調節する。ブランクインサートのバックグラウンド抵抗は、約5−20オームとなるはずである。各TER測定において、300μlのMatTek培地をインサートに添加し、これに続いて、エンドームチャンバ中に静置する。全てのTER値は、組織の表面積の関数として報告する。
【0196】
TERは、以下に従って計算した:
【0197】
ここで、RIは、膜を有するインサートの抵抗であり、Rbは、ブランクインサートの抵抗であり、Aは、膜の面積(0.6cm2)である。コントロール値(コントロール =約1000オーム−cm2;100に基準化する)に対するTER値の低下は、細胞膜抵抗の低下と粘膜上皮細胞透過性の上昇を示す。
【0198】
TER回復に関しては、処理の1、3、5、及び21時間後にTERを測定した。TERのパーセンテージは以下に従って計算した:
【0199】
【0200】
ある態様において、TER測定は、電極リードを有するREMSオートサンプラ(REMS Autosampler)(World Precision Instruments社、サラソタ、フロリダ州)を用いて行った。キャリブレーションをチェックする前に、電源をオフにして電極と組織培養ブランクインサートをMatTek Air−100TM培地中にて、少なくとも20分間平衡化させる。インサートシステムのバックグラウンド抵抗は、ブランクインサートプレートの複数回の測定により確証し、同値を標準値として各試験に用いた。インサートを試験製剤とインキュベートする前に、時刻ゼロのTER(TER0)を測定した。先端電極を、インサートの膜の上面の近傍に、接触しないように調節する。ブランクインサートのバックグラウンド抵抗は、約5−20オームとなるはずである。各TER測定において、100μlのMatTek Air−100TM培地をインサートに、250μlを基底ウェル(basal well)内に添加し、これに続いて、エンドーム(Endohm)チャンバ中に静置する。全てのTER値は、組織の表面積の関数として報告する。抵抗を、オーム*cm2及び初期TER値の百分率の両方で表わした。
【0201】
抵抗値は以下に従って計算した:
【0202】
TER計算の式の用語は、以下のように定義される:
TER0:時刻ゼロでのTER測定値
TERt:試験製剤とのインキュベーション後の時刻tでのTER測定値
ブランク:バックグラウンド抵抗測定値
コントロール値に対するTERの低下は、細胞膜抵抗の低下と粘膜上皮細胞透過性の上昇を示す。
【0203】
細胞毒性(LDHアッセイ)
細胞死の量は、サイトトックス96細胞毒性アッセイキット(CytoTox 96 Cytoxicity Assay Kit)(Promega Corp、マジソン、ウィスコンシン州)を用いて、細胞からの乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の喪失を測定することにより評価する。50マイクロリットルのサンプルを96ウェルアッセイプレートに注入する。新しい、細胞を含まない培養培地をブランクとして用いる。50マイクロリットルの基質溶液を各ウェルに添加し、そして該プレートを暗所にて室温で30分間インキュベートする。インキュベーション後、各ウェルに50μlの停止溶液を添加し、プレートを吸光度プレートリーダにより490nmで読み取る。側底部培地へのLDHの放出の測定値は、サンプルの相対的細胞毒性を示す。コントロールのインサートの、0.3%オクチルフェノールポリ(エチレングリコールエーテル)x(TritonX−100)による100パーセントの溶解により、LDH値が全溶解のパーセンテージで表わされることになる。
【0204】
これに代わり、細胞毒性は、WST−1アッセイにより測定することもできる。WST−1アッセイでは、細胞の生存率が、ミトコンドリアの代謝活性に基づいて測定される。ペプチド処理、洗浄、及び処理の10分後でのTER測定の後に、細胞単層の頂端部側面を、WST−1試薬(Roche社)を用いて37℃で4時間インキュベートした。マイクロプレートリーダを用いて、OD450nmで頂端部の細胞上清を測定した。値%=サンプルOD450/培地コントロールOD450。
【0205】
ある態様において、細胞死の量は、サイトトックス96細胞毒性アッセイキット(CytoTox 96 Cytoxicity Assay Kit)(Promega Corp、マジソン、ウィスコンシン州)を用いて、細胞から頂端部培地への乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出を測定することにより評価した。リン酸緩衝食塩水(PBS)に希釈された1%オクチルフェノールポリ(エチレングリコールエーテル)x(TritonX−100TM)は、100%の培養細胞溶解を生じ、本試験において、LDHアッセイのポジティブコントロールとしての役目を果たした。テスト製剤との1時間のインキュベーション時間の後(試験製剤の詳細については実施例25の表24を参照)、各インサートの総液体量を、培養培地を用いて200μlの終量にした。次いで、頂端部培地を、複数連ピペットセットを用いて4回ピペッティングして、100μlの量へと混和した。混和後、各インサートの頂端部側面からの100μlのサンプルを、新しい96ウェルプレートへと移した。頂端部培地サンプルをプレートシーラーで密封し、同日の分析のために室温で保存するか、又は翌日の分析のために4℃で一晩保存した。LDH濃度を測定するため、新しい96ウェルプレート中で、100μlの頂端部培地サンプルのうち5μlを45μlのDPBS中に希釈した。新しい、細胞を含まない培養培地をブランクとして用いる。50マイクロリットルの基質溶液を各ウェルに添加し、そして直接光を避けて室温で30分間インキュベートした。30分間のインキュベーション後、各ウェルに50 μlの停止溶液を添加した。Biotek Instruments社のuQuant吸光プレートリーダを用いて、吸光度(OD)を490nmで測定した。頂端部培地へのLDHの放出の測定値は、サンプルの相対的細胞毒性を示す。各試験製剤の細胞毒性の百分率は、個々の試験製剤の測定吸光度から、PBSコントロール(LDH放出の基底レベル)を引算し、そしてその値を1%Triton X−100のポジティブコントロールの測定吸光度で割って、100を掛けることにより算出した。
【0206】
細胞毒性の百分率を計算するために用いた式は、以下の通り:
【0207】
オスモル濃度
サンプルを、Advanced Instruments Inc.(ノーウッド、マサチューセッツ州)のモデル20200(Model 20200)により測定した。
【0208】
実施例11
インビトロで上皮タイトジャンクションを調節して上皮細胞層透過を促進するペプチド
表12は、TERアッセイ及び透過動態により測定されるように、インビトロで上皮タイトジャンクションタンパク質を調節して上皮細胞層透過を促進する、11種類のペプチドのアミノ酸配列を示す。これら実施例の目的のため、その類似した活性を理由に、PN27及びPN28の両方を代表するものとしてPN27を選択した。
【0209】
表12
【0210】
実施例12
タイトジャンクション調節ペプチドはTERを低下させる
本実施例では、種々のペプチドが、TER低下によりアッセイされるように、インビトロで上皮細胞単層中のタイトジャンクションタンパク質を調節する効力を評価した。各TJMPについて、EpiAirway上皮細胞において行った実験から得られたTERデータのまとめを、表13に示す。表中の強調された枠は、試験した濃度の範囲内で、そのTJMPについて観察された最も大きなTER低下を表す。
【0211】
表13
【0212】
PN159、PN202、PN27、及びPN283は、TERを90%超える程低下させ、PN161、PN250、PN228、PN73、及びPN58は、TERを82%ないし88%低下させた。PN28は、示されていないが、PN27と機能的に同等である。最後に、PN183は、55%のTER低下を有していた。これらのデータは、試験した全てのTJMPが、インビトロで上皮細胞タイトジャンクションを弱めることができることを示す。
【0213】
以上に加え、EpiAirway上皮細胞層がTJMPによる処理の後に回復する速度を測定するため、TER回復解析を行った。驚くべきことに、結果は、PN250、PN202、及びPN161が、試験した全てのTJMP中で最も迅速な回復時間を有することを示している。これらのデータは、TJMPの上皮細胞層に対する効果が、事実上、一過性のものであることを示す。
【0214】
実施例13
タイトジャンクション調節ペプチドのインビトロでの透過動態
本実施例では、TJMPがEpiAirway上皮細胞層透過を媒介する効果について検討した。表14は、透過百分率で示される、各TJMPの透過動態のまとめを示す。表中の強調された枠は、試験した濃度の範囲内で、そのTJMPについて観察された最も高い透過度を表す。
【0215】
表14
【0216】
これらのデータは、試験した全てのTJMPが、上皮細胞単層のインビトロでの透過を促進できることを示す。通常、透過性の度合いは、ペプチドがTERを低下させる能力と相関している。
【0217】
実施例14
タイトジャンクション調節ペプチドは、重大な細胞毒性を生じない
本実施例では、TJMPへ曝露した後の、上皮細胞への細胞毒性作用を評価した。各ペプチドによる15分間と60分間の処理の後にLDHアッセイを行った。全ての場合において、15分間処理の後には、殆ど全くLDH放出が観察されなかった。60分間処理の後では、細胞毒性レベルは試験ペプチド間で異なっていたが、許容できる範囲内にあり、試験した全てのペプチドが、重大な細胞障害を生じないことを示している。
【0218】
実施例15
タイトジャンクション調節ペプチドによるTER低下は、試験した全ての上皮細胞の種類で一致する
EpiAirway上皮細胞培養システムで観察されたTERの結果が、他の上皮細胞の種類を代表するものなのかどうかを決定するため、MDCK、Caco−2、及び16HBE14o−細胞をTJMPで処理し、TERについてアッセイした。全ての場合において、これらの細胞種で観察されたTERの結果は、EpiAirway上皮細胞で観察されたTERの結果と一致しており、これらのTJMPが、全ての上皮細胞の種類においてTERを低下させる能力を有することが示された。
【0219】
実施例16
性能に基づいて等級付けされたタイトジャンクション調節ペプチド
表15に示すように、9種類のTJMPを、その透過レベル、TER値、TER回復速度、及び細胞毒性に従って、4種類の異なる性能階層に等級付けして分類した。PN183とPN28は、表15に含めなかった。下記の表には、各TJMPの最適濃度(即ち、最も高い透過性レベルに関連し、重大な細胞毒性を示さない、最大のTER低下度)、並びに、これに対応する、ペプチドによるEpiAirway上皮細胞の15分間処理後、及びペプチドによるEpiAirway上皮細胞の60分間処理後の透過の百分率がまとめられている。加えて、15分間及び60分間の処理についてのLDH値(細胞毒性)が、各ペプチドについて示されている。またTER回復も示されている。TER回復速度は、勾配値(slope value)と直接相関している(即ち、より大きな勾配値(slope value)は、より迅速なTER回復と相関している)。
【0220】
【0221】
実施例17
タイトジャンクション調節ペプチドは、FITC−デキストランMW4000の上皮細胞単層間の透過を促進する
本実施例では、各TJMPの存在下でのFITC−デキストランMW4000の透過動態を決定するために試験を行った。この実験では、透過が、ペプチドと上皮細胞単層とのインキュベーション時間に依存するのかどうか、そして透過が貨物サイズ依存性であるのかどうかを評価した。細胞透過は、TJMP及びFITC−デキストランMW4000を用いた、15分間の細胞処理後と60分間の細胞処理後にアッセイした(図7)。PYY製剤をポジティブコントロールとして用い、リン酸緩衝食塩水(PBS)をネガティブコントロールとして用いた。ペプチドは、最も高い透過性レベルに関連し、重大な細胞毒性を示さない最大のTER低下度を示す濃度において試験した。
【0222】
同一のTJMPでは、60分間の処理で、15分間の処理よりも有意に高い透過度が示された。驚くべきことに、PN161、PN127、及びPN228は、PN159と同等の透過レベルを示した(約7.5%)。PN250、PN283、PN202、PN58のTJMPは、細胞との60分間のインキュベーションの後に、約5%の透過を達成したが、これはPN161、PN127、PN228及びPN159により達成される透過を僅かに下回るものである。これらのデータは、試験した全てのTJMPは、FITC−デキストランMW4000の透過を促進することができ、この促進は、該ペプチドが、どのくらい長く上皮細胞層と接触しているかに依存することを示す。
【0223】
先の実験は、試験したTJMPが、上皮細胞単層のインビトロでの透過を促進できることを証明する。
【0224】
実施例18
タイトジャンクション調節ペプチドによるインビトロでの透過促進は、インビボで観察される透過促進と強く相関する
インビトロのEpiAirway上皮細胞モデルシステムにおいて観察されたTJMP透過動態が、同一のTJMPについて観察されるインビボでの薬物動態データと相関するのかどうかを決定するために線形回帰分析を行った。インビトロでの透過データが、インビボでの成功についての良好な指標として機能するかどうかを決定するため、PYY及びTJMPを用いて行ったインビボでの薬物動態試験から得られた曲線下面積−最終値(AUC−last)を、PYY及びTJMPを用いて行ったインビトロでの上皮細胞単層透過試験に対してプロットした。インビトロでの透過をパーセンテージで表し、AUC−lastを、分*pg/mlで表した。10種類の異なるTJMPについてのインビトロ及びインビボでの試験をグラフ化し、線形回帰を行った。0.82のR2値(82%の相関)が得られ、インビボで得られたAUC値とインビトロで観察された透過パーセントに強い相関関係が存在することが示された。驚くべきことに、アッセイ間の変動性(inter−assay variability)を排除した場合、0.996のR2値(事実上、100%)が得られ、インビトロでの透過性とインビボでの成功に直接相関関係が存在することが示された。従って、インビトロでの透過を用いて、インビボでの成功を予測することが可能である。
【0225】
実施例19
TJMPによる、ペプチドホルモン治療剤に対する、低分子透過促進剤と同等又はこれを超える、インビボでの透過促進
生後3−6ヶ月で体重が2.1−3.0kgにあるオスのニュージーランド白色ウサギ(New Zealand white rabbit)20羽を、各グループが4体の動物からなる5種類の処理グループのいずれかに無作為に振り分けた。試験動物に、ピペットを用いて、15μl/kgを鼻腔内投与した。下記の表19に、5種類の異なる投与グループの組成を示す。
【0226】
投与グループ1(表16参照)には、低分子透過促進剤を含むPYYの臨床用製剤を用いた。これらの試験における低分子促進剤には、メチル−β−シクロデキストリン、ホスファチジルコリンジデカノイル(DDPC)、及び/又はEDTAが含まれていた。 投与グループ2は、リン酸緩衝食塩水(PBS)に溶解されたPYYを摂取した。投与グループ3−5では、種々の濃度のPN159を投与グループ2のものに添加し、それによって、投与グループ3ないし5のそれぞれは、PYY、PN159、及びPBSから構成された。
【0227】
表16
【0228】
一連の血液サンプル(それぞれ約2ml)を、末梢耳静脈からの直接静脈穿刺により、抗凝固剤としてEDTAを含む血液回収用試験管内へと回収した。血液サンプルは、投与後から0、2.5、5、10、15、30、45、60、及び120分後に回収した。血液回収後、抗凝固のために該試験管を複数回緩やかに振って、50μlのアプロチニン溶液を添加した。血液を、約4℃にて、約1,600 x gで15分間遠心し、血漿サンプルを2つの重複する分量にて分注して約−70℃で凍結保存した。
【0229】
処理グループ中の4体の動物を平均化すると、以下のPYY血漿濃度が測定された(表17):
【0230】
表17
【0231】
上記データから算出された薬物動態データを以下の表18に示す:
【0232】
表18
【0233】
グループ2(促進剤無し)の製剤との比較により、以下の相対的な促進率が決定された(表19):
【0234】
表19
【0235】
先のデータは、TJMPが、低分子透過促進剤と比較しても同程度かこれを超える程度に、ヒトホルモンペプチド治療剤のインビボでの鼻腔内透過を促進することを示している。該ペプチドの最大の効果は、50μMの濃度において見られる。100μMの濃度では、50μMと共に低分子透過促進剤よりも高い透過を生じているが、結果として50μMよりも多少低い透過となっていた。
【0236】
実施例20
TJMPによる、オリゴペプチド治療剤に対する透過促進
本実施例は、本発明の例示的ペプチド、PN159が、哺乳動物細胞レセプタに対するオリゴペプチドアゴニストのモデルである、環状ペンタペプチドのメラノコルチン−4レセプタアゴニスト(MC−4RA)の上皮透過を促進する効力を示す。本実施例では、1又は2種類以上の透過処理ペプチドとMC−4RAの組み合わせについて記載する。この文脈における有用な製剤には、オリゴペプチド治療剤、透過化処理ペプチド、及び1又は2種類以上の他の透過促進剤の組み合わせが含まれていてもよい。また、製剤には、緩衝剤、等張化剤、pH調整剤、並びにアミノ酸、糖若しくはポリオール、ポリマ、及び塩といった、ペプチド/タンパク質安定剤が含まれていてもよい。
【0237】
本試験では、MC−4RAの透過に対するPN159の作用を評価した。MC−4RAは、約1,100Daの分子量を有し、MC−4レセプタの活性を調節するメタンスルホン酸塩であった。評価したPN159濃度は、5、25、50及び100μMである。45mg/mlのM−β−CDを全ての製剤で可溶化剤として用いることで、10mg/mlのペプチド濃度が達成された。PN159の作用は、単独又はEDTA(1、2.5、5、又は10mg/ml)との組合せにおいて評価した。製剤のpHを4に定め、オスモル濃度は、220mOsm/kgであった。
【0238】
HPLC法
側底部培地中のMC−4RAの濃度を、C18 RPクロマトグラフィを1mL/分の流速と25℃のカラム温度で用いたPR−HPLCにより分析した。
溶媒A:水中の0.1%TFA; 溶媒B:ACN中の0.1%TFA
注入量:50μL
検出:220nm
測定時間:15分
【0239】
MC−4RAは、pH4でオスモル濃度が〜220mOsm/kgの、5、25、50及び100μMのPN159と配合した。インビトロでの上皮組織モデルを用いて、該配合物を試験し、PTHの透過、経上皮電気抵抗(TER)をモニタし、更にMTT及びLDHアッセイにより製剤の細胞毒性をモニタした。
【0240】
MC−4RA透過の試験の結果から、TJMPは、ペプチドホルモン治療剤の粘膜透過の促進に加え、オリゴペプチド治療剤の上皮透過も顕著に促進することが証明された。
【0241】
実施例21
TJMPによる、低分子薬物に対する透過促進
本実施例は、本発明の例示的ペプチド、PN159が、アセチルコリンエステラーゼ(ACE)の阻害物質であるガランタミンに例示される低分子薬物の上皮透過を促進する効力を示す。本実施例では、1又は2種類以上の透過処理ペプチドと低分子薬物の組み合わせについて記載する。この文脈における有用な製剤には、低分子薬物、透過化処理ペプチド、及び1又は2種類以上の他の透過促進剤の組み合わせが含まれていてもよい。また、製剤には、緩衝剤、等張化剤、pH調整剤、安定剤及び/又は保存剤が含まれていてもよい。
【0242】
本発明は、ガランタミンをPN159と組み合わせて、鼻粘膜間のガランタミンの透過を促進する。ガランタミンは、単独で鼻上皮膜を透過可能な低分子であるから、上記薬物透過の増大は予期せぬものである。従って、ペプチドの透過を促進する賦形剤の添加により媒介されるガランタミンの上皮透過の有意な促進は、このような賦形剤は、通常ガランタミンの上皮組織層の透過を有意に増大させると予想されないという前提から、驚くべきことである。従って、本発明は、ガランタミン及び他の低分子薬物のバイオアベイラビリティを増大させることにより、これらの経鼻送達を促進する。
【0243】
本試験において、乳酸塩の形態にある40mg/mlのガランタミンを、pH5.0でオスモル濃度が〜270mOsmの溶液中で、25、50及び100μMにあるPN159と配合した。上記のように、インビトロでの上皮組織モデルを用いて、該配合物を試験し、ガランタミンの透過、経上皮電気抵抗(TER)をモニタし、さらにLDH及びMTTアッセイにより製剤の細胞毒性をモニタした。ガランタミンの透過測定は、以下のように、標準的なHPLC分析により行った。
【0244】
HPLC分析
製剤及び側底部培地(透過サンプル)中のガランタミン濃度を、UV検出を用いたアイソクラティックLC(Waters Alliance社)法により測定した。
カラム:Waters Symmetry Shield、C18、5um、25x0.46cm
移動相:50mMギ酸アンモニウム中の5%ACN、pH3.0
流速:1ml/分
カラム温度:30℃
検量線:0−400μg/mlガランタミンHBr
検出:285nmのUV
【0245】
先の試験によれば、PN159は低分子の経粘膜送達を向上させる。低分子量薬物のモデルとしてガランタミンを選択したが、この分子についての結果は、他の低分子薬物に対する透過化処理ペプチドの活性を予測するものであると考えられる。この文脈における透過化活性を評価するため、乳酸塩の形態にある40mg/mlのガランタミンを、pH5.0でオスモル濃度が〜270mOsmの溶液中で、25、50及び100μMにあるPN159と配合した。インビトロでの上皮組織モデルを用いて、該配合物を試験し、ガランタミンの透過、経上皮電気抵抗(TER)をモニタし、更にLDH及びMTTアッセイにより製剤の細胞毒性をモニタした。
【0246】
インビトロ組織モデルにおいて、PN159の添加により、細胞障壁間の薬物透過に劇的な増大が生じた。具体的には、40mg/mlのガランタミンにより、Pappに2.5−3.5倍の増加が認められた。
【0247】
PN159は、ガランタミンの存在下において、先の実施例に記載されるのと全く同様に、TERを低下させた。
【0248】
乳酸ガランタミン(galantamine lactate)及び試験した全ての濃度でのPN159の存在下では、細胞生存率が高く維持された(80%を超える)。反対に、LDHで測定したところ、PN159と乳酸ガランタミン(galantamine lactate)の存在下では細胞毒性は低かった。これら両方のアッセイにより、PN159が上皮膜に対する毒性を有しないことが示される。
【0249】
PN159が存在しない場合、ガランタミンのPappは、約2.1x10−6cm/秒であった。25、50及び100mMのPN159が存在する場合、Pappは、それぞれ、5.1x10−6、6.2x10−6、及び7.2x10−6cm/秒であった。従って、PN159は、この低分子量薬物のモデルに、2.4倍ないし3.4倍のPappの増加を提供した。
【0250】
TJMPは、低分子量薬物のモデルとしてのガランタミンの上皮透過を驚くほど増大させた。溶液中でのガランタミンへのPN159の添加により、上皮単層間のガランタミン透過が有意に促進された。PN159は、高い細胞生存率と低い細胞毒性により測定されるように、膜中の細胞に害を与えることなく上皮膜間のTERを一時的に低下させることが証拠により示されている。TJMPは、インビトロのモデルを用いてここに示されたのと同様のメカニズムにより、インビボでガランタミン及び他の低分子薬物のバイオアベイラビリティを促進した。更に、TJMPがより高い濃度でもガランタミンの透過を促進するであろうことが予想される。
【0251】
実施例22
TJMPによるタンパク質の透過促進
低分子量化合物からなる経粘膜製剤に対するPN159の有用性を確証したので、これらの知見から、例えば治療用ペプチド及びタンパク質等の、より大きな分子についても同様のことが推定できるかどうかを確認することが重要であった。この目的のため、治療用ペプチドのモデルとしてのサケカルシトニンを用いて、25、50及び100mMのPN159が存在しない、又は存在する場合において、インビトロでの組織試験を行った。PN159が存在しない場合、カルシトニンのPappは、約1 x 10−7cm/秒であり、ガランタミンよりも約一桁小さい値であったが、恐らく、分子量の差によるものであろう。データから、PN159の存在下でのカルシトニン透過の劇的な増大が明らかとなり、カルシトニン単独の場合と比較して、Pappが最大で23倍ないし47倍増加している(表20)。
【0252】
表20
【0253】
これらの発見の普遍性を探索すべく、更なる2種類のペプチド、即ちヒト副甲状腺ホルモン1−34(PTH1−34)及びヒトペプチドYY3−36(PYY3−36)を、PN159が存在しない状態及び存在する状態で、インビトロモデルにて試験した(表20に示すPappデータ)。PN159が存在しない場合、これら2種類のペプチドのPappは、カルシトニンのPappと一致するものであった。PTH1−34の場合、PN159の存在により、Pappは約3−5倍増大した。PYY3−36をPN159の存在下で製剤した場合、Pappは約12倍ないし17倍増大した。これらのデータにより、TJMPが、低分子及びタンパク質の経粘膜薬物送達を促進したという我々の発見の普遍性が確認される。
【0254】
実施例23
TJMPの化学的安定性
PN159の化学的安定性を、治療に適切な保存条件下において測定した。stability−indicating HPLCメソッドを用いた。溶液(50mM)を種々のpH(4.0、7.3、及び9.0)と温度(5℃、25℃、35℃、40℃及び50℃)の条件下で保存した。pH4のサンプルは、10mMのクエン酸バッファを含んでいた。pH7.3と9.0のサンプルは、10mMのリン酸バッファを含んでいた。保存安定性の結果(アレニウスのプロットを含む)は、PN159が、低温及び低pHで最も化学的に安定していたことを示す。例えば、5℃でpH4.0又はpH7.3では、6ヶ月の保存で、事実上100%のPN159回収率が認められた。保存温度を25℃に高めた場合、pH4又はpH7のサンプルでは、6ヶ月後に、それぞれ7%と26%の元のPN159の喪失が認められた。pH9で、更に/又は例えば40ないし50℃の高温においては、迅速なPN159の劣化が生じた。4.0ないし7.3のpH範囲と、冷蔵から周囲温度までの温度の範囲が、鼻腔内用製剤に最も適している。従って、これらのデータは、鼻腔内用製剤に適切な保存条件下において、TJMPが、化学的保全性を維持できることを示す。
【0255】
実施例24
鼻腔内投与によるウサギ内での、タイトジャンクション調節ペプチドのインビボ評価
ペプチドYY(PYY)の血漿中での薬物動態特性を評価するために、鼻腔内(IN)送達により投与される種々のタイトジャンクション調節ペプチド(TJMP)を用いて、ウサギ内での薬物動態(PK)試験を行った。
【0256】
モデル動物
本試験では、ニュージーランド白色ウサギ(New Zealand white rabbit)(Hra:(NZW)SPF)を試験対象として用いて、鼻腔内投与及び静脈内点滴により、MC−4RAの血漿薬物動態を評価した。動物の取り扱いは、米国農務省動物福祉法(USDA Animal Welfare Act)(9連邦規制基準、第1、2、及び3章)、及び「the Guide for the Care and Use of Laboratory Animals」(研究用動物資源協会(ILAR)刊行物、1996年、National Academy Press)に概略される規定に従った。
【0257】
ウサギに投与された薬物から得られる薬物動態プロファイルは、ヒト体内での同一の薬物のPKプロファイルに近似することから、本試験の対象動物として、ウサギを選択した。
【0258】
投薬量投与
試験した9種類のTJMPの試験についての実験設計及び投与計画を、表21にまとめる。全ての実験グループに、205μg/kgのPYY(3−36)を、個々のTJMP又はリン酸緩衝食塩水(PBS;ネガティブコントロール)との組合せで、鼻腔内投与により摂取させた。ピペットマンと使い捨てのプラスチック製チップを用いて、各製剤を左の鼻腔に1回投与した。毛細管作用により溶液が鼻腔へ引かれるように、動物の頭部を後方に傾けて動物が吸息した時点で投薬量を投与した。鼻腔内投与後、該動物の頭部を、後方に傾けた位置に約15秒抑え、投与された投薬量の損失を防いだ。処置の間、鼻腔内粘膜との接触により生じる可能性のある組織損傷を回避するよう、極度の注意を払った。
【0259】
表21
【0260】
PN556は、PN283と同じ一次配列を有するが、ペプチドのN末端においてマレイミド修飾を有していない。
【0261】
血液及び血漿サンプル回収
投薬量を鼻腔内投与した後、一連の血液サンプルを、各動物から末梢耳静脈の直接静脈穿刺により採取した。血液サンプルは、投与前と、投与から5、10、15、20、30、45、60、90、120及び180分後に回収した。サンプルは、抗凝固剤としてEDTA二カリウムを含む試験管内に回収した。サンプルは、遠心を行うまで冷却しておいた。全てのサンプルを回収から1時間以内に遠心した。血漿を回収して、事前に標識しておいたプラスチック製バイアルに移し、ドライアイス/アセトン槽で凍結させて、次いで薬物動態分析を行うまで約−70℃で保存した。
【0262】
各血液サンプル採取時に臨床観察を行い、鼻腔内投与の5分後と1時間後の直前に、鼻腔内投与試験グループの全ての動物に両鼻孔の検査を行った。
【0263】
分析方法
全ての試験グループの各動物からのサンプルは、ELISAによりPYY(3−36)濃度について分析した。投与前後の被検物は、品質管理のためにHPLCにかけた。血漿の一定分量(0.1 mL)は、生物分析用内部標準を添加した後に、アセトニトリルでタンパク質沈殿させた。上清を窒素乾燥させ、HPLCバッファで再溶解して、次いでHPLC装置に注入した。溶出物を陽イオンエレクトロスプレイオン化タンデム3連四重極子質量分析計で検出した。PKデータをWinNonlin(Pharsight Corp.、マウンテンビュー)により解析した。
【0264】
結果
各試験グループの平均血漿PKパラメータを表22にまとめる。どの製剤の投与後にも、有害な臨床兆候は観察されなかった。製剤を鼻腔内投与した動物の両鼻孔の投与後検査では、発赤、又は腫脹も見つからなかった。本PK試験では、Cmax(最高観察濃度)、Tmax(最高濃度の時刻)、及び最終及び無限大(inf)のAUC(曲線下面積)を評価した。8種類のTJMPを、そのインビボでの透過性レベルに従って、階層Iが最も高いインビボでの透過性レベルを有するTJMPを含み、これに続く各階層が段階的に低下したインビボでの透過性レベルを有するTJMPを含むような4種類の異なる性能階層に等級付けして分類した。
【0265】
表22
【0266】
これらのデータは、PN161とPN27について観察されたインビボでの透過性が、PN159と同程度であることを示し;そして残りのTJMPが、試験した濃度において、PN159を下回るインビボでの透過性レベルしか達成しなかったことを示す。
【0267】
実施例25
インビトロで上皮細胞層透過を促進するタイトジャンクション調節ペプチド
本実施例では、本発明の代表的ペプチドPN679及びPN745(表23に示す)、並びに上皮細胞単層透過促進に効果的な各ペプチドの濃度を決定するためにスクリーニングされた各ペプチドの試験製剤(表24に示す)について記載する。
【0268】
表23
【0269】
下記の表24には、本発明の代表的ペプチド(表24の「活性薬剤」の列)を含む個々の試験製剤、並びにTER、LDH(細胞毒性)及びサンプル透過促進アッセイにより試験され、ポジティブ及びネガティブ試験製剤コントロールとしての役目を果たした試験製剤が記載されている。各ペプチドを、25μM、100μM、250μM、500μM及び1000μMの濃度で試験した。PN159(試験製剤#11)は、ここにおいて、TJMPポジティブコントロールとしての役目を果たし、効果的にTERを低下させ、25μMの濃度でサンプル透過を促進させる能力を先に示している。1%のTriton X−100TM(試験製剤#14)は、細胞毒性(LDH)アッセイ及びTER低下アッセイの両方においてポジティブコントロールとして機能した。「特別ソース(Special sauce)」(SS)は、ここにおいて、低分子透過促進剤としての役目を果たした。またDPBS++は、ネガティブコントロールとしての役目を果たした。各試験製剤は、300μlの終量を有し、標的pH5を有していた試験製剤#12以外の各製剤は、標的pH7を有していた。1%のTriton X−100TM(試験製剤#14)は、細胞毒性(LDH)アッセイにおいて、ポジティブコントロールとして機能した。
【0270】
各試験製剤が、TER、LDH及びサンプル透過に対して有する効果を評価するため、各試験製剤の全300μlの量のうち、20μlのサンプルだけをヒト由来気管/気管支上皮細胞(EpiAirwayTM組織モデルシステム)に適用した。
【0271】
表24
SS=「特別ソース(special sauce)」
【0272】
実施例26
PN679及びPN745は、インビトロでタイトジャンクションタンパク質を調節する
本実施例は、代表的ペプチドPN679及びPN745が、効果的にTERを低下させ、重大な細胞毒性を生じることなく濃度依存的に有意にサンプル透過を促進することから、これらのペプチドが有効なTJMPであることが示されることを実証する。表25には、実施例25の表24に記載される試験製剤のTER、LDH及びサンプル透過(FD3)のデータがまとめられている。PN679の試験製剤#1及びPN745の試験製剤#6は、アッセイを2回行った。TER、LDH及びサンプル透過の追加のアッセイの結果は、括弧内に示されている。
【0273】
表25
SS=「特別ソース(special sauce)」
【0274】
本発明の代表的ペプチドであるPN679(試験製剤#1、#2、#3及び#4)又はPN745(試験製剤#6、#7、#8及び#9)のいずれかを100μM、250μM、500μM及び1000μMの濃度で含む試験製剤は、「特別ソース」と同程度であり、そして確立されたTJMPコントロールのPN159よりも有意に低い程度にまでTERを低下させた。予想された通り、ネガティブコントロールのDPBS++は、TERを有意に低下させることはなかった。これら両ペプチドがTERを低下させる能力は、これらがFD3分子の透過を促進する能力と強く相関していた。PN679(試験製剤#4)及びPN745(試験製剤#9)の両方の100μMの投与量は、PN159のTJMPと同程度の透過パーセントを示したが、より低い細胞毒性(より低いLDH放出%)を示していた。より高濃度にある各ペプチドも、PN159を超えるFD3透過の増大を生じさせただけではなく、LDH放出レベルも増大させ、細胞毒性を増大させたことが示された。予想通り、コントロールのDPBS++は、測定可能なLDH放出を誘起しなかった。観察されたTER低下、サンプル透過及び細胞毒性(LDH放出)に基づき、各代表的ペプチドPN679及びPN745の100μMの投与量が、これら2種類のTJMPの更なる分析用に最適なことは、明白である。
【0275】
先のデータは、代表的ペプチドPN679及びPN745が、インビトロで、ヒト上皮細胞単層のTERを低下させ、重大な毒性無しに低分子の透過を促進するという予期せぬ発見を示す。これらのデータは、タイトジャンクション調節ペプチド(TMJP)が、例えば鼻腔内(IN)薬物送達等の、粘膜表面間の薬物送達で用いるための優れた候補であることを示す。
【0276】
実施例27
タイトジャンクション調節ペプチドによるインビトロでの透過促進は、インビボで観察される透過促進と強く相関する
インビトロのEpiAirway上皮細胞モデルシステムにおいて観察されたTJMP透過動態が、同一のTJMPについて観察されるインビボでの薬物動態データと相関するのかどうかを決定するために線形回帰分析を行った。インビトロでの透過データが、インビボでの成功についての良好な指標として機能するかどうかを決定するため、PYY及びTJMPを用いて行ったインビボでの薬物動態試験から得られた曲線下面積−最終値(AUC−last)を、PYY及びTJMPを用いて行ったインビトロでの上皮細胞単層透過試験に対してプロットした。インビトロでの透過をパーセンテージで表し、AUC−lastを、分*pg/mlで表した。10種類の異なるTJMPについてのインビトロ及びインビボでの試験をグラフ化し、線形回帰を行った。0.82のR2値(82%の相関)が得られ、インビボで得られたAUC値とインビトロで観察された透過パーセントに強い相関関係が存在することが示された。驚くべきことに、アッセイ間の変動性(inter−assay variability)を排除した場合、0.996のR2値 (事実上、100%)が得られ、インビトロでの透過性とインビボでの成功に直接相関関係が存在することが示された。従って、インビトロでの透過を用いて、インビボでの成功を予測することが可能である。
【0277】
実施例28
TJMPによる、ペプチドホルモン治療剤に対する、低分子透過促進剤と同等又はこれを超える、インビボでの透過促進
生後3−6ヶ月で体重が2.1−3.0kgにあるオスのニュージーランド白色ウサギ(New Zealand white rabbit)20羽を、各グループが4体の動物からなる5種類の処理グループのいずれかに無作為に振り分けた。試験動物に、ピペットを用いて、15μl/kgを鼻腔内投与した。下記の表26に、5種類の異なる投与グループの組成を示す。
【0278】
投与グループ1(表26参照)には、低分子透過促進剤を含むPYYの臨床用製剤を用いた。これらの試験における低分子促進剤には、メチル−β−シクロデキストリン、ホスファチジルコリンジデカノイル(DDPC)、及び/又はEDTAが含まれていた。 投与グループ2は、リン酸緩衝食塩水(PBS)に溶解されたPYYを摂取した。投与グループ3−5では、種々の濃度のPN159を投与グループ2のものに添加し、それによって、投与グループ3ないし5のそれぞれは、PYY、PN159、及びPBSから構成された。
【0279】
表26
【0280】
一連の血液サンプル(それぞれ約2ml)を、末梢耳静脈からの直接静脈穿刺により、抗凝固剤としてEDTAを含む血液回収用試験管内へと回収した。血液サンプルは、投与から0、2.5、5、10、15、30、45、60、及び120分後に回収した。血液回収後、抗凝固のために該試験管を複数回緩やかに振って、50μlのアプロチニン溶液を添加した。血液を、約4℃にて、約1,600 x gで15分間遠心し、血漿サンプルを2つの重複する分量にて分注して約−70℃で凍結保存した。
【0281】
処理グループ中の4体の動物を平均化すると、以下のPYY血漿濃度が測定された(表27):
【0282】
表27
【0283】
上記データから算出された薬物動態データを以下の表28に示す:
【0284】
表28
【0285】
グループ2(促進剤無し)の製剤との比較により、以下の相対促進率が決定された(表29):
【0286】
表29
【0287】
先のデータは、TJMPが、低分子透過促進剤と比較しても同程度かこれを超える程度に、ヒトホルモンペプチド治療剤のインビボでの鼻腔内透過を促進することを示している。該ペプチドの最大の効果は、50μMの濃度において見られる。100μMの濃度では、50μMと共に低分子透過促進剤よりも高い透過を生じているが、結果として50μMよりも多少低い透過となっていた。
【0288】
実施例29
TJMPによる、オリゴペプチド治療剤に対する透過促進
本実施例は、本発明の例示的ペプチドPN159が、哺乳動物細胞レセプタに対するオリゴペプチドアゴニストのモデルである、環状ペンタペプチドのメラノコルチン−4レセプタアゴニスト(MC−4RA)の上皮透過を促進する効力を示す。本実施例では、1又は2種類以上の透過処理ペプチドとMC−4RAの組み合わせについて記載する。この文脈における有用な製剤には、オリゴペプチド治療剤、透過化処理ペプチド、及び1又は2種類以上の他の透過促進剤の組み合わせが含まれていてもよい。また、製剤には、緩衝剤、等張化剤、pH調整剤、並びにアミノ酸、糖若しくはポリオール、ポリマ、及び塩といった、ペプチド/タンパク質安定剤が含まれていてもよい。
【0289】
本試験では、MC−4RAの透過に対するPN159の作用を評価した。MC−4RAは、約1,100Daの分子量を有し、MC−4レセプタの活性を調節するメタンスルホン酸塩であった。評価したPN159濃度は、5、25、50及び100μMである。45mg/mlのM−β−CDを全ての製剤で可溶化剤として用いることで、10mg/mlのペプチド濃度が達成された。PN159の作用は、単独又はEDTA (1、2.5、5、又は10mg/ml)との組合せにおいて評価した。製剤のpHを4に定め、オスモル濃度は、220mOsm/kgであった。
【0290】
HPLC法
側底部培地中のMC−4RAの濃度を、C18 RPクロマトグラフィを1mL/分の流速と25℃のカラム温度で用いたPR−HPLCにより分析した。
溶媒A:水中の0.1%TFA; 溶媒B:ACN中の0.1%TFA
注入量:50μL
検出:220nm
測定時間:15分
MC−4RAは、pH4でオスモル濃度が〜220mOsm/kgの、5、25、50及び100μMのPN159と配合した。インビトロでの上皮組織モデルを用いて、該配合物を試験し、PTHの透過、経上皮電気抵抗(TER)をモニタし、さらにMTT及びLDHアッセイにより製剤の細胞毒性をモニタした。
【0291】
MC−4RA透過の試験の結果から、TJMPは、ペプチドホルモン治療剤の粘膜透過の促進に加え、オリゴペプチド治療剤の上皮透過も顕著に促進することが証明された。
【0292】
実施例30
TJMPによる、低分子薬物に対する透過促進
本実施例は、本発明の例示的ペプチド、PN159が、アセチルコリンエステラーゼ(ACE)の阻害物質であるガランタミンに例示される低分子薬物の上皮透過を促進する効力を示す。本実施例では、1又は2種類以上の透過処理ペプチドと低分子薬物の組み合わせについて記載する。この文脈における有用な製剤には、低分子薬物、透過化処理ペプチド、及び1又は2種類以上の他の透過促進剤の組み合わせが含まれていてもよい。また、製剤には、緩衝剤、等張化剤、pH調整剤、安定剤及び/又は保存剤が含まれていてもよい。
【0293】
本発明は、ガランタミンをPN159と組み合わせて、鼻粘膜間のガランタミンの透過を促進する。ガランタミンは、単独で鼻上皮膜を透過可能な低分子であるから、上記薬物透過の増大は予期せぬものである。従って、ペプチドの透過を促進する賦形剤の添加により媒介されるガランタミンの上皮透過の有意な促進は、このような賦形剤は、通常ガランタミンの上皮組織層の透過を有意に増大させると予想されないという前提から、驚くべきことである。従って、本発明は、ガランタミン及び他の低分子薬物のバイオアベイラビリティを増大させることにより、これらの経鼻送達を促進する。
【0294】
本試験において、乳酸塩の形態にある40mg/mlのガランタミンを、pH5.0でオスモル濃度が〜270mOsm/kgの溶液中で、25、50及び100μMにあるPN159と配合した。上記のように、インビトロでの上皮組織モデルを用いて、該配合物を試験し、ガランタミンの透過、経上皮電気抵抗(TER)をモニタし、さらにLDH及びMTTアッセイにより製剤の細胞毒性をモニタした。ガランタミンの透過測定は、以下のように、標準的なHPLC分析により行った。
【0295】
HPLC分析
製剤及び側底部培地(透過サンプル)中のガランタミン濃度を、UV検出を用いたアイソクラティックLC(Waters Alliance社)法により測定した。
カラム:Waters Symmetry Shield、C18、5um、25 x 0.46cm
移動相:50mMギ酸アンモニウム中の5% ACN、pH 3.0
流速:1ml/分
カラム温度:30℃
検量線:0−400μg/mlガランタミンHBr
検出:285nmのUV
【0296】
先の試験によれば、PN159は低分子の経粘膜送達を向上させる。低分子量薬物のモデルとしてガランタミンを選択したが、この分子についての結果は、他の低分子薬物に対する透過化処理ペプチドの活性を予測するものであると考えられる。この文脈における透過化活性を評価するため、乳酸塩の形態にある40mg/mlのガランタミンを、pH5.0でオスモル濃度が〜270mOsm/kgの溶液中で、25、50及び100μMにあるPN159と配合した。インビトロでの上皮組織モデルを用いて、該配合物を試験し、ガランタミンの透過、経上皮電気抵抗(TER)をモニタし、さらにLDH及びMTTアッセイにより製剤の細胞毒性をモニタした。
【0297】
インビトロ組織モデルにおいて、PN159の添加により、細胞障壁間の薬物透過に劇的な増大が生じた。具体的には、40mg/mlのガランタミンにより、Pappに2.5−3.5倍の増加が認められた。
【0298】
PN159は、ガランタミンの存在下において、先の実施例に記載されるのと全く同様に、TERを低下させた。
【0299】
乳酸ガランタミン(galantamine lactate)及び試験した全ての濃度でのPN159の存在下では、細胞生存率が高く維持された(80%を超える)。反対に、LDHで測定したところ、PN159と乳酸ガランタミン(galantamine lactate)の存在下では細胞毒性は低かった。これら両方のアッセイにより、PN159が上皮膜に対する毒性を有しないことが示される。
【0300】
PN159が存在しない場合、ガランタミンのPappは、約2.1x10−6cm/秒であった。25、50及び100mMのPN159が存在する場合、Pappは、それぞれ、5.1x10−6、6.2x10−6、及び7.2x10−6cm/秒であった。従って、PN159は、この低分子量薬物のモデルに、2.4倍ないし3.4倍のPappの増加を提供した。
【0301】
TJMPは、低分子量薬物のモデルとしてのガランタミンの上皮透過を驚くほど増大させた。溶液中でのガランタミンへのPN159の添加により、上皮単層間のガランタミン透過が有意に促進された。PN159は、高い細胞生存率と低い細胞毒性により測定されるように、膜中の細胞に害を与えることなく上皮膜間のTERを一時的に低下させることが証拠により示されている。TJMPは、インビトロのモデルを用いてここに示されたのと同様のメカニズムにより、インビボでガランタミン及び他の低分子薬物のバイオアベイラビリティを促進した。更に、TJMPがより高い濃度でもガランタミンの透過を促進するであろうことが予想される。
【0302】
実施例31
TJMPによるタンパク質の透過促進
低分子量化合物からなる経粘膜製剤に対するPN159の有用性を確証したので、これらの知見から、例えば治療用ペプチド及びタンパク質等の、より大きな分子についても同様のことが推定できるかどうかを確認することが重要であった。この目的のため、治療用ペプチドのモデルとしてのサケカルシトニンを用いて、25、50及び100mMのPN159が存在しない、又は存在する場合において、インビトロでの組織試験を行った。PN159が存在しない場合、カルシトニンのPappは、約1x10−7cm/秒であり、ガランタミンよりも約一桁小さい値であったが、恐らく、分子量の差によるものであろう。データから、PN159の存在下でのカルシトニン透過の劇的な増大が明らかとなり、カルシトニン単独の場合と比較して、Pappが最大で23倍ないし47倍増加している(表30)。
【0303】
表30
【0304】
これらの発見の普遍性を探索すべく、更なる2種類のペプチド、即ちヒト副甲状腺ホルモン1−34(PTH1−34)及びヒトペプチドYY3−36(PYY3−36)を、PN159が存在しない状態及び存在する状態で、インビトロモデルにて試験した(表30に示すPappデータ)。PN159が存在しない場合、これら2種類のペプチドのPappは、カルシトニンのPappと一致するものであった。PTH1−34の場合、PN159の存在により、Pappは約3−5倍増大した。PYY3−36をPN159の存在下で製剤した場合、Pappは約12倍ないし17倍増大した。これらのデータにより、TJMPが、低分子及びタンパク質の経粘膜薬物送達を促進したという我々の発見の普遍性が確認される。
【0305】
実施例32
TJMPの化学的安定性
PN159の化学的安定性を、治療に適切な保存条件下において測定した。stability−indicating HPLCメソッドを用いた。溶液(50mM)を種々のpH(4.0、7.3、及び9.0)と温度(5℃、25℃、35℃、40℃及び50℃)の条件下で保存した。pH4のサンプルは、10mMのクエン酸バッファを含んでいた。pH7.3と9.0のサンプルは、10mMのリン酸バッファを含んでいた。保存安定性の結果(アレニウスのプロットを含む)は、PN159が、低温及び低pHで最も化学的に安定していたことを示す。例えば、5℃でpH4.0又はpH7.3では、6ヶ月の保存で、事実上100%のPN159回収率が認められた。保存温度を25℃に高めた場合、pH4又はpH7のサンプルでは、6ヶ月後に、それぞれ7%と26%の元のPN159の喪失が認められた。pH9で、更に/又は例えば40ないし50℃の高温においては、迅速なPN159の劣化が生じた。4.0ないし7.3のpH範囲と、冷蔵から周囲温度までの温度の範囲が、鼻腔内用製剤に最も適している。従って、これらのデータは、鼻腔内用製剤に適切な保存条件下において、TJMPが、化学的保全性を維持できることを示す。
【0306】
実施例33
鼻腔内投与によるウサギ内での、タイトジャンクション調節ペプチドのインビボ評価
ペプチドYY(PYY)の血漿中での薬物動態特性を評価するために、鼻腔内(IN)送達により投与された種々のタイトジャンクション調節ペプチド(TJMPs)を用いて、ウサギ内での薬物動態(PK)試験を行った。
【0307】
モデル動物
本試験では、ニュージーランド白色ウサギ(New Zealand white rabbit)(Hra:(NZW)SPF)を試験対象として用いて、鼻腔内投与及び静脈内点滴により、MC−4RAの血漿薬物動態を評価した。動物の取り扱いは、米国農務省動物福祉法(USDA Animal Welfare Act)(9連邦規制基準、第1、2、及び3章)、及び「the Guide for the Care and Use of Laboratory Animals」(研究用動物資源協会(ILAR)刊行物、1996年、National Academy Press))に概略される規定に従った。
【0308】
ウサギに投与された薬物から得られる薬物動態プロファイルは、ヒト体内での同一の薬物のPKプロファイルに近似することから、本試験の対象動物として、ウサギを選択した。
【0309】
投薬量投与
試験した9種類のTJMPについての実験設計及び投与計画を、表31にまとめる。全ての実験グループに、205μg/kgのPYY(3−36)を、個々のTJMP又はリン酸緩衝食塩水(PBS;ネガティブコントロール)との組合せで、鼻腔内(IN)投与により摂取させた。ピペットマンと使い捨てのプラスチック製チップを用いて、各製剤を左の鼻腔に1回投与した。毛細管作用により溶液が鼻腔へ引かれるように、動物の頭部を後方に傾けて動物が吸息した時点で投薬量を投与した。鼻腔内投与後、該動物の頭部を、後方に傾けた位置に約15秒抑え、投与された投薬量の損失を防いだ。処置の間、鼻腔内粘膜との接触により生じる可能性のある組織損傷を回避するよう、極度の注意を払った。
【0310】
表31
【0311】
PN556は、PN283と同じ一次配列を有するが、ペプチドのN末端においてマレイミド修飾を有していない。
【0312】
血液及び血漿サンプル回収
投薬量を鼻腔内投与した後、一連の血液サンプルを、各動物から末梢耳静脈の直接静脈穿刺により採取した。血液サンプルは、投与前と、投与から5、10、15、20、30、45、60、90、120及び180分後に回収した。サンプルは、抗凝固剤としてEDTA二カリウムを含む試験管内に回収した。サンプルは、遠心を行うまで冷却しておいた。全てのサンプルを回収から1時間以内に遠心した。血漿を回収して、事前に標識しておいたプラスチック製バイアルに移し、ドライアイス/アセトン槽で凍結させて、次いで薬物動態分析を行うまで約−70℃で保存した。
【0313】
各血液サンプル採取時に臨床観察を行い、鼻腔内投与の5分後と1時間後の直前に、鼻腔内投与試験グループの全ての動物に両鼻孔の検査を行った。
【0314】
分析方法
全ての試験グループの各動物からのサンプルは、ELISAによりPYY(3−36)濃度について分析した。投与前後の被検物は、品質管理のためにHPLCにかけた。血漿の一定分量(0.1mL)は、生物分析用内部標準を添加した後に、アセトニトリルでタンパク質沈殿させた。上清を窒素乾燥させ、HPLCバッファで再溶解して、HPLC装置に注入した。溶出物を陽イオンエレクトロスプレイオン化タンデム3連四重極子質量分析計で検出した。PKデータをWinNonlin (Pharsight Corp.、マウンテンビュー)により解析した。
【0315】
結果
各試験グループの平均血漿PKパラメータを表32にまとめる。どの製剤の投与後にも、有害な臨床兆候は観察されなかった。製剤を鼻腔内投与した動物の両鼻孔の投与後検査では、発赤、又は腫脹も見つからなかった。本PK試験では、Cmax(最高観察濃度)、Tmax(最高濃度の時刻)、及び最終及び無限大(inf)のAUC(曲線下面積)を評価した。8種類のTJMPsを、そのインビボでの透過性レベルに従って、階層Iが最も高いインビボでの透過性レベルを有するTJMPsを含み、これに続く各階層が段階的に低下したインビボでの透過性レベルを有するTJMPsを含むような4種類の異なる性能階層に等級付けして分類した。
【0316】
表32
【0317】
実施例34
精製
下記のPEG化PN159ペプチドを合成した(表33):
【0318】
表33
【0319】
150mg量の粗ペプチドを、0.1%のTFAを含む15mLの水と3mLの酢酸に溶解した。撹拌と超音波処理の後、該混合物を1.5mLエッペンドルフチューブに移して、13000rpmで遠心した。上清を回収してMillex GV 0.22 umシリンジフィルタに通してろ過した。この溶液を、5mLの注入ループを通じて、5mL/分の流速でZorbax 300SB C18カラム(内径21.2mm x 250mm、粒子サイズ7um)に充填した。溶媒Aが水中に0.1%のTFAで、溶媒Bがアセトニトリル中に0.1%のTFAである場面で、毎分0.2%Bの直線AB勾配を実施することにより、抽出を行った。これらの条件下において、ペプチドは、15−17%Bの範囲で溶出した。
【0320】
実施例35
細胞
タイトジャンクション調節ペプチド(TJMPs)を、経上皮電気抵抗(TER)及び透過性に対する効果に基づいてスクリーニングするために、EpiAirwayTM細胞(96ウェルフォーマット(Air−196−HTS)、又は個々の24ウェルインサート(Air−100)のヒト気管/気管支組織モデルをMatTek Corporation(アッシュランド、マサチューセッツ州)から購入した。培養組織は、単一のドナーに由来するものであり、HIV、B型肝炎、C型肝炎、マイコプラズマ、細菌、酵母及び菌類についてのスクリーニングでは陰性であった。
【0321】
EpiAirway組織は、培地が補充されたアガロースゲル上で冷却された状態で出荷された。EpiAirway組織は、製造元から提供された培地を用いて、37℃で24時間かけて回復させた。EpiAirwayモデル用の完全培地(complete medium)(Epi−CM)には、DMEM、EFG及び他の因子、ゲンタマイシン(5ug/ml)、アンホテリシンB(0.25ug/ml)並びにpH指示薬としてフェノールレッドが含まれていた。
【0322】
実施例36
TERの測定
Air−196−HTSのTER測定は、オートメイティッドティッシューレジスタンスシステム(Automated Tissue Resistance System)(REMS)(World Precession Instrument(WPI)社(サラソタ、フロリダ州))を用いて行った。96ウェルHTSフォーマット中でTERをモニタする場合には、エンドームマルチ(Endhom−Multi)(STX)を細胞培養フード中で用いてコンタミネーションを防いだ。一晩回復させたインサートでは、頂端部側面に100ulの培地を用い、基底チャンバに250ulを用いた。ブランクインサート(Millipore)を用いてバックグラウンドTERを測定し、組織インサートから引き算した。インサートをペーパータオル上に反転させることにより、培地をデカントした。ペーパータオル上でインサートを優しく軽く叩いて、頂端部の培地を最大限除去した。他のTER測定時点のため、処理の直後に、インサートを150ulのEpi−CMで3回軽くリンスし、TER測定前に完全に水気を切った。
【0323】
結果(図8)は、単層上皮細胞を用いて試験した、本発明のタイトジャンクション調節ペプチドのPN159、及びPN159のPEG化型が、上皮透過性促進に対して強力で可逆的な効果を有することを示している。両者に観察された効果は、予想可能な態様で生じる。結果は、PEG−159が、PN159単独の場合に比べて、有意にイオン透過性を促進する(TERを低下させる)ことを示している。PEG−PN159と159間のTERにおける最大の差異は、50uMのPEG−PN159で見られる。
【0324】
実施例37
透過性アッセイ
フルオレセイン−5−イソチオシアネート(FITC)標的デキストラン(MW3,000)を、処理混合物に0.1−1mg/mlで添加した。該処理混合物を頂端部壁の側面に添加し、そのプレートを楕円シェーカ(New Brunswick Scientific社、エジソン、ニュージャージー州)中で、37℃にて、100rpmで、指定時間インキュベートした。インキュベーションの終了時に、3通りの200ulの基底培地を、壁面が暗色の蛍光読取用プレートに移した。波長470 nmの蛍光強度を、マイクロプレート蛍光リーダFLx800(BIO−TEK INSTRUMENTS,INC、ウィヌースキ、バーモント州)により測定した。標準の段階希釈を用いて検量線を得て、濃度を計算した。透過性は、ドナー質量(頂端部チャンバ)の比率、又はアクセプタ質量(基底チャンバ)の比率として、2通りに測定して、パーセンテージで表わした。
【0325】
本発明のPN159及びPEG−PN159の両方の存在下において、PTH透過の有意な増大が観察された(図9)。両者に観察された効果は、10uMないし100uMにおいて、幾分か濃度依存的である。更に、結果は、PEG−PN159が、PN159と比べて、有意に分子透過性を促進することを示す。
【0326】
PEG−PN159による透過性の増大をPN159と比較した場合(2つの値の間の比率として図10にプロットされている)、透過増大の最大の差異は、50uMの濃度において見られる。
【0327】
実施例38
細胞毒性アッセイ
LDHアッセイを用いて、処置による細胞毒性を評価した。LDH濃度は、サイトトックス96非放射性細胞毒性アッセイ(CytoTox96 Non−Radioactive Cytotoxic Assay)(Promega社、マジソン、ウィスコンシン州)を用いて、製造元のプロトコルに従って測定した。側底部のLDH濃度については、3つの系の50ulの基底培地を用いてLDH濃度を測定した。頂端部LDH濃度については、150ulのEpi−CMを頂端部チャンバに添加することにより150ulの希釈頂端部サンプルを取り出し、上下にピペッティングすることにより培地を撹拌し、そして150ulの培地を取り出して、3つの系の50ulでのアッセイのために2倍希釈した(最終的な8倍希釈のため)。LDHの総量は、終濃度0.9%のTriton−X100で細胞を溶解して測定した。各サンプル中のLDH濃度は、Triton−X100による細胞溶解物に対するパーセンテージとして表わした。結果(図11)は、PEG−PN159が、PN159よりも低い毒性を有することを示す。
【0328】
実施例39
ウサギ体内での薬物動態データ
本試験では、生後約3か月のオスのニュージーランド白色ウサギ(New Zealand white rabbit)を25羽用いた。ピペットマンと使い捨てのプラスチック製チップを用いて、ウサギに、1回の鼻腔内投与、即ち、一方の鼻孔に1回投与分のタイトジャンクション(TJ)ペプチド及びPYY3−36グループを摂取させた。表34に示すTJペプチド及びコントロールに従って、ウサギに投与した。TJペプチド(PN407、PN408、PN526 (PEG−PN159)、及びPN159)は、全て、カルシウム及びマグネシウム含有の0.75xDPBS中に存在する。ネガティブコントロールは、カルシウム及びマグネシウム含有の0.75xDPBS(PBS)のみである。TJペプチドは含まないが、DDPC、EDTA、及びMbCDを含むクエン酸バッファ中のPYY3−36ポジティブコントロール製剤を比較のために用いた(PDF)。
【0329】
投薬量を送達すると共に、動物の頭部を僅かに後方に傾けた。投与後、該動物の頭部を後方に傾けた位置に約15秒間抑えた。一連の血液サンプル(それぞれ約1.5mL)を、末梢耳静脈からの直接静脈穿刺により、抗凝固剤としてEDTAを含む血液回収用試験管内へと回収した。血液サンプルは、鼻腔内グループへの投与から0(投与前)、5、10、15、30、45、60、120及び240分後に回収した。回収後、抗凝固のために該試験管を複数回上下逆にした。回収用試験管に50μLのアプロチニン溶液を添加して穏やかに、しかし十分に混和した。混和したサンプルを、約4℃にて、約1,600 x gで15分間遠心するまで、冷却パック上に静置した。血漿を2つの重複する分量(それぞれ約0.35mL)に分注して約−70℃で凍結保存した。
【0330】
表34
【0331】
ウサギ血漿中のPYY3−36の生物分析アッセイを、市販のELISAキット(「Active Total Peptide YY (PYY) ELISA」、カタログ番号DSL−10−33600、Diagnostic Systems Laboratories,Inc.、ウェブスター、テキサス州)を用いて行った。該アッセイは、酵素により増幅される「ワンステップ(one−step)」サンドイッチ型イムノアッセイである。該アッセイにおいては、標準物質、コントロール及び未知のサンプルは、抗PYY抗体と共に、該抗体とは別の種類の抗PYY抗体でコーティングされたマイクロタイトレーションウェル(microtitration well)中にてインキュベートされる。インキュベーションと洗浄の後、前記ウェルを、発色性基質のテトラメチルベンジジンと共にインキュベートする。次いで、酸性停止溶液を添加して、基質の酵素によるターンオーバーの度合いを、450及び620nmの二波長吸光度測定により測定する。測定される吸光度は、存在するPYYの濃度に比例する。
【0332】
5パラメータロジスティックデータ処理方法(five−parameter logistic data reduction method)を標準物質の結果に適用して、各アッセイ用の検量線を作成した。該検量線を用いて、未知のサンプルの吸光度結果を内挿して、該サンプルのPYY濃度値を求めた。以下の例外を除いて、アッセイの全工程においてキットの構成成分を用いた:PYY3−36標準試料を用いて、標準物質とコントロールを作った;標準物質とコントロールは、精製した(stripped)(C18固相抽出カラム)プールしたウサギ血漿を希釈剤として用いて調製した;そして、必要な場合には、未知のサンプルを、精製した(stripped)プールしたウサギ血漿中に希釈した。このキットの抗体の組み合わせは、無傷のヒトPYY1−36を検出するように最適化され、マウスPYY1−36とヒトPYY3−36間で完全な交叉反応性を示す。
【0333】
コントロール(PBS及びPDF)とTJペプチド(PN159、PN407、PN408、及びPN526)製剤の平均薬物動態(PK)データ及び標準偏差(SD)を表35に示す。各タイトジャンクション調節剤とコントロールの相対的バイオアベイラビリティ(BA%)を表36に示す。薬物動態変数の変動係数の百分率を表37に示す。
【0334】
表35
【0335】
表36
【0336】
表37
【0337】
定量化の下限(LLQQ)は、15.8pg/mLであると考えられた。NUMBERを下回る全ての生データ値は、解析用に7.9pg/mLに定めた。経鼻投与後の平均PYY血漿濃度を、図12中の直線プロットと、図13中の対数直線プロットに示す。経鼻投薬量を投与された動物の平均PYY3−36血清濃度は、全てのグループについて投与から15−34分後に最高濃度(Tmax)を示した。205μg/kgの投薬量での経鼻PBS;PDF;PN159;PN407;PN408及びPN526の平均Cmaxは、それぞれ2,646.25;19,004.40;18,346.60;13,980.20;15,420.00及び36,066.20pg/mLであった。経鼻PBS;PDF;PN159;PN407;PN408及びPN526の平均AUClastは、それぞれ118,438.13;1,289,219.50;973,038.80;725,950.50;721,601.50及び1,786,973.50分*pg/mLであった。経鼻PBS;PDF;PN159;PN407;PN408及びPN526の平均AUCinfは、それぞれ147,625.18;1,319,034.73;985,572.89;753,080.86;758,951.24及び1,819,888.30分*pg/mLであった。全ての経鼻製剤について、t1/2は、約35−48分であった;しかしながら、PBSでは83分であった。標準偏差を含む全薬物動態パラメータの完全なリストについては表35を参照。タイトジャンクション調節剤対PDF製剤のAUClastに基づくBA%は、PN159、PN407、PN408及びPN526について、それぞれ75、56、56及び139%であった。PBSのバイオアベイラビリティ%は、PDFとの比較で9%に過ぎなかった。変動係数についても比較した(表37)。全てのタイトジャンクション調節剤は、製剤間の薬物動態パラメータをCmaxとAUCについて比較した場合に、近似する変動値を有していた。5種類の全ての製剤グループ間の薬物動態を、一元配置分散分析モデルを用いて分析し、PBS製剤が、Cmax、AUClast及びAUCinfにおいて、PN526よりも有意に低いことが判明した(Tmax:p=0.27;Cmax:p=0.009;AUClast:p=0.008;AUCinf:p=0.0097)。
【0338】
Cmaxを比較すると、PEG化タイトジャンクション調節剤PN526では、PDFよりも1.9倍高く、PBS、PN407及びPN408よりも、それぞれ13.6倍、2.6倍及び2.3倍高かった。AUClastを比較すると、PEG化タイトジャンクション調節剤PN526では、PDFよりも1.4倍高く、PBS、PN407及びPN408よりも、それぞれ15.1倍、2.5倍及び2.5倍高かった。t1/2は、PBSで80分であったことを除けば、全てのグループにおいて約40分であった。
【0339】
薬物動態パラメータのCmaxとAUCについて比較した場合、PN526とPBS製剤の間に有意差があった;しかしながら、タイトジャンクション調節剤間には有意性は認められなかった。
【0340】
バイオアベイラビリティは、PN526において、他の全てのタイトジャンクション調節剤との比較において増大され、薬物動態パラメータは、PBSコントロール製剤と比較して、統計学的に有意なものであった。これらのデータは、PEG化ペプチド製剤のPN526が、PEG化ペプチドを含まない製剤、PN159、PN407、PN408、及びPBSよりもBA%を増大させたことを示している。更に、PN526のBA%は、PEG化ペプチドを含まないポジティブコントロールであるPDFをも超えていた。
【0341】
ここに示す実施例は、単に例示の目的のためのものであり、請求項に記載される本発明の範囲の限定を意図するものではない。ここでは特別な用語と値を用いたが、このような用語及び値は、典型例として理解されるべきものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0342】
本開示に引用される全ての刊行物及び参考文献は、あらゆる目的のために、引用することにより、その全体がここに取り込まれている。
【図面の簡単な説明】
【0343】
【図1】図1には、PN159と更なる促進剤(Me−β−CD、DDPC、EDTA)を用いた場合の、PTH1−34の透過に対するPN159の作用が例示されている。
【図2】図2には、PN159を更なる促進剤無しで用いた場合の、PTH1−34の透過に対するPN159の作用が例示されている。
【図3】図3には、ペプチドYYのインビボでの透過に対するPN159の作用が例示されている。
【図4】図4には、MC−4レセプタアゴニストの透過に対するPN159の作用が例示されている。
【図5】図5には、40mg/mlの乳酸ガランタミン(galantamine lactate)の上皮単層間のインビトロでの透過に対する25−100μMのPN159の作用が示されている。
【図6】図6には、(A)5℃、(B)25℃、及び(C)40℃での、TJMペプチドの化学的安定性が示されている。pH4.0、pH7.3及びpH9.0でのデータは、それぞれ黒塗菱形、白抜き四角及び黒塗三角で表わされている。
【図7】図7には、各タイトジャンクション調節ペプチド(TJMP)の存在下での、FITC−デキストランMW4000の透過動態が例示されている。PYY製薬がポジティブコントロールとして働き、リン酸緩衝食塩水(PBS)がネガティブコントロールであった。細胞の透過は、細胞をTJMPとFITC−デキストランMW4000で15分間処理した後と60分間処理した後に評価した。グラフには、透過が、TJMPと上皮細胞の接触する時間の長さに依存し、試験した全てのTJMPがFITC−デキストランMW4000の透過を促進することが示されている。
【図8】図8には、PN159及びPEG−PN159で1時間処理した後の経上皮電気抵抗(TER)の低下が例示されている。
【図9】図9には、PN159及びPEG−PN159で処理した後のFITCデキストラン3000の透過性の増大が例示されている。
【図10】図10には、PN159及びPEG−PN159の透過比率が例示されている。
【図11】図11には、PN159のPEG化が毒性を低下させることが例示されている(LDHアッセイ)。
【図12】図12には、PEG化ペプチドPN529(PEG−PN159)を経鼻投与した後の、増大されたPYY3−36の血漿濃度の平均値が例示されている。
【図13】図13には、PEG化ペプチドPN529(PEG−PN159)を経鼻投与した後の、増大されたPYY3−36の血漿濃度の平均値が例示されている(長い直線状のプロット)。
【技術分野】
【0001】
背景技術
あらゆる疾患又は障害の治療における根源的な関心事は、治療用薬剤の対象への安全で効果的な送達の確保である。治療剤の慣習的な送達経路には、静脈内注射及び経口投与が含まれる。しかしながら、これらの送達方法では、不利益に悩まされることになり、従って、別の送達系が必要とされる。
【0002】
注射による薬物投与の主たる不利益は、大抵、薬物の投与に熟練した人材を要することである。加えて、熟練した人材も、注射によって薬物を投与する際に危険にさらされる。また、自己投与する薬物の場合、多くの患者は定期的に自ら注射を行うことを嫌がるか、又は行うことができない。また、注射は、高い感染の危険を伴う。薬物の注射の他の不利益としては、個体間での異なる送達結果、並びに薬物作用の予期せぬ強度や期間が挙げられる。
【0003】
このような不利益にも関わらず、多くの重要な治療用化合物にとって、注射が、依然として承認された唯一の送達方法である。これらには、従来からの薬物、並びに急速に広がっている一連のペプチド及びタンパク質のバイオセラピューティック(biotherapeutic)が含まれる。これら化合物の、例えば、経口、経鼻及び他の粘膜経路による別の投与経度による送達が望まれるが、より低いバイオアベイラビリティが提示される可能性がある。例えば、ペプチド及びタンパク質の治療用化合物等の高分子種においては、不活性化しやすいことや、粘膜関門での不十分な吸収により、別の投与経路が制限されることになるであろう。
【0004】
一定の治療剤の経口投与では、肝臓での初回通過代謝及び/又は消化管における分解により、非常に低いバイオアベイラビリティと、作用においてかなりの時間遅延が示される。
【0005】
治療用化合物の粘膜投与により、注射及び他の投与方法に対して、例えば、送達の簡便性及びスピード、並びに適応性の問題と副作用を低減する、又は排除するといった利点が与えられる。しかしながら、生物活性薬剤の粘膜投与は、粘膜関門作用及び他のファクタにより制限される。
【0006】
上皮細胞は、粘膜関門を構成し、外的環境、粘膜、及び粘膜下組織及び細胞外区画との間に重大な境界面を提供している。粘膜上皮細胞の最も重要な機能の一つは、粘膜透過性を決定して調節することである。この文脈において、上皮細胞は、異なる生理学的区画間に選択的な透過障壁を作り出す。選択的透過性は、細胞質中での制御された分子輸送(経細胞経路)及び細胞間の空間の制御された透過性(傍細胞経路)の結果として生じるものである。
【0007】
上皮細胞間の細胞間結合は、上皮性関門機能及び細胞間接着の維持及び制御に関与していることが知られている。上皮及び内皮細胞のタイトジャンクション(TJ)は、特に傍細胞経路の透過性を制御し、細胞表面を頂端部と側底部の区画に分割する細胞−細胞結合にとって特に重要である。タイトジャンクションは、上皮細胞間の連続した円周状の細胞間接触を形成し、水、溶液、及び免疫細胞の傍細胞移動のために制御する障壁を作り出す。また、これらは、頂端と側底の膜の領域間の膜脂質の交換を制限することで、細胞極性に寄与する第二の種類の障壁も提供する。
【0008】
タイトジャンクションは、細胞間での密封を作り出して、傍細胞経路に沿った溶質の分散に対する主たる障壁を生じること、そして頂端及び側底の細胞膜領域間の境界として作用して細胞極性を作り出して維持することのそれぞれにより、直接的に上皮細胞のバリアー及びフェンスの機能に関与しているものと考えられている。また、タイトジャンクションは、白血球が炎症部位に到達するための遊出にも関係している。白血球は、化学誘引物質に応答して、内皮を横切り、粘膜感染の場合には、炎症を起こした上皮を横切ることにより血液から移動する。遊出は、主に傍細胞経路全体に起こり、高度な協調性と、可逆的な手段において、タイトジャンクションの開閉により制御されているものと思われる。
【0009】
内在性及び周辺細胞膜タンパク質の両方を含む、数多くのタンパク質が、TJとの関連で同定されている。これらタンパク質の複雑な構造及び相互作用的機能についての現段階における理解は、未だ限定的なものである。上皮結合に関連する多くのタンパク質の中でも、上皮結合の生理学的調節において機能する可能性のある、複数のカテゴリーの経上皮膜タンパク質が同定されている。これらタンパク質には、数多くの「ジャンクション接着分子」(JAM)及び、オクルディン(occludin)、クローディン(claudin)、及びゾヌリン(zonulin)と命名された他のTJ関連分子が含まれる。
【0010】
JAM、オクルディン、及びクローディンは、傍細胞空間へと伸長しており、特に、これらのタンパク質は、隣り合う上皮細胞間の上皮性関門及び上皮細胞層を通るチャネルを作り出す候補として考えられている。一のモデルにおいて、オクルディン、クローディン及びJAMは、同種親和性の結合パートナとして相互作用して、上皮細胞間における水、溶質、及び免疫細胞の傍細胞移動に対する制御された障壁を作り出すということが提唱されている。
【0011】
薬物送達との関連では、薬物が、送達促進剤の助けなしに粘膜表面の上皮細胞層を透過する能力は、分子サイズ、溶解性及びイオン化を含む、多数の要因に関連するものと思われる。一般的に約300−1,000ダルトン未満の低分子は、多くの場合、粘膜障壁を透過できるが、しかしながら、分子量が増大すると透過性は急速に低下する。これらの理由により、粘膜薬物投与は、典型的に、注射による投与よりも大量の薬物を必要とする。大きな分子の薬物を含む他の治療用化合物は、しばしば粘膜送達では効果を奏しない。大きな分子の薬物は、本質的な透過性の乏しさに加え、多くの場合、拡散が制限されやすく、同時に、管腔及び細胞での酵素分解を受けて、粘膜部位にて迅速に排除されやすい。従って、治療上有効量にあるこれらの大きな分子を送達させようとした場合、これら分子が粘膜両面を横断して、迅速に標的組織に作用できる体循環へ透過するのを助けるためには、細胞透過促進剤が必要とされる。
【0012】
粘膜組織は、粘膜分泌物中に存在する酵素活性が、治療剤、特にペプチド及びタンパク質のバイオアベイラビリティを厳格に制限できる一方で、高分子の自由拡散に対する頑強な障壁を提供する。鼻粘膜のような特定の粘膜部位においては、送達されたタンパク質や他の高分子種の典型的な滞留時間は、迅速な粘膜毛様体のクリアランスにより、制限され、例えば約15−30分か、これ以下である。
【0013】
当該技術分野においては、中枢神経系のような標的組織及び生理学的区画を含む、促進された粘膜送達を提供する医薬製剤及び治療用化合物の投与方法に対する、長年に渡って満たされない需要が存在している。
【0014】
より具体的には、当該技術分野において、哺乳動物対象内の疾患及び他の有害な状態を治療する治療用化合物を粘膜送達するための、安全で信頼できる方法及び組成物に対する需要が存在する。迅速に作用し、簡単に投与され、粘膜刺激作用や組織損傷などの有害な副作用が制限される、1又は2以上の粘膜経路を介した、治療用量の高分子薬物の効果的な送達を提供する方法及び組成物に対する関連需要も存在する。
【0015】
また、当該技術分野において、粘膜上皮関門のメカニズムを克服するバイオセラピューティック化合物の粘膜送達を促進する方法及び組成物に対する需要も未だ存在する。粘膜上皮の選択的透過性は、現在まで、生物学的に活性なペプチド及びタンパク質を含む、治療用高分子の粘膜送達に対する主な障害を提供してきた。従って、当該技術分野において、バイオセラピューティック化合物の粘膜送達を促進する新規な方法及びツールに対する満たされない需要が残っている。また、当該技術分野において、特に、これまでに粘膜関門を横断する送達において不応であるとされてきたバイオセラピューティック化合物の粘膜送達を促進する新規方法及び製剤に対する需要が存在する。
【0016】
発明の詳細な説明
本発明は、哺乳動物対象内で、生物活性薬剤の粘膜送達を促進する、新たに発見されたタイトジャンクション開放ペプチドの新たな使用法を含む、新規な医薬組成物を提供することにより、先の需要を満足し、更なる目的と利点を満たす。
【0017】
本発明の一の側面は、生物活性薬剤と、粘膜送達を促進するのに有効な量にある、哺乳動物対象内での生物活性薬剤の粘膜上皮輸送を可逆的に促進するタイトジャンクション調節ペプチド(TJMP)とを含む医薬製剤である。
【0018】
好ましくは、タイトジャンクション調節剤成分は、2−500個のアミノ酸残基、又は2−100個のアミノ酸残基、又は2−50個のアミノ酸残基から構成されるペプチド又はタンパク質部分を含む。前記タイトジャンクション調節ペプチド及びタンパク質は、モノマ又はオリゴマであってもよく、例えば、ダイマであってもよい。
【0019】
タイトジャンクション調節ペプチドは、適切な技術分野の当業者に公知の技法と合致する、組換え方法又は化学合成方法により作製することができる。
【0020】
上皮タイトジャンクションの機能を調節可能なペプチドは、先に記載されている(Johnson, P.H.及びS.C.Quay,Expert.Opin.Drug Deliv.2:281−98, 2000)。特に、新たなタイトジャンクション調節(TJM)ペプチドのPN159は、組織障壁間の経上皮電気抵抗(TER)を低下させ、低い細胞毒性で細胞生存性を高く維持したまま、分子量3,000Daのデキストランの経細胞輸送を増大させることが示されている。
【0021】
本発明の好ましい態様において、TJMPは、以下からなる群から選択される:
NH2−KLALKLALKALKAALKLA−アミド
NH2−GWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKIL−アミド
NH2−LLETLLKPFQCRICMRNFSTRQARRNHRRRHRR−アミド
NH2−AAVALLPAVLLALLAPRKKRRQRRRPPQ−アミド
NH2−RKKRRQRRRPPQCAAVALLPAVLLALLAP−アミド
NH2−RQIKIWFQNRRMKWKK−アミド
NH2−KGSKKAVTKAQKKDGKKRKRSRKESYSVYVYKVLKQ−アミド
NH2−KLWSAWPSLWSSLWKP−アミド
NH2−RRRQRRKRGGDIMGEWGNEIFGAIAGFLG−アミド
マレイミド−GLGSLLKKAGKKLKQPKSKRKV−アミド
NH2−KETWWETWWTEWSQPGRKKRRQRRRRPPQ−アミド
【0022】
本発明の他の好ましい態様において、TJMPは、以下からなる群から選択される:
CNGRCGGKKKLKLLLKLL
LRKLRKRLLRLRKLRKRLLR
【0023】
一の局面において、本発明は、前記ペプチドが水溶性ポリマに結合したタイトジャンクション調節ペプチドの存在によって促進される経粘膜送達に適した治療用の低分子、ペプチド及びタンパク質の製剤について記載する。好ましくは、前記水溶性ポリマは、α−置換ポリアルキレンオキシド誘導体、アルキルキャップ付きポリエチレンオキシド、ビス−ポリエチレンオキシド、ポリ(乳酸−グリコリド共重合体(lactic−co−glycolide))及びその誘導体のようなポリ(オルトエステル)、ポリエチレングリコール (PEG) ホモポリマ及びその誘導体、ポリプロピレングリコールホモポリマ及びその誘導体、ポリ(アルキレンオキシド)の共重合体、並びにポリ(アルキレンオキシド)のブロック共重合体又はこれらの活性誘導体、からなる群から選択されるポリアルキレンオキシドである。好ましくは、前記ポリアルキレンオキシドは、約200ないし約50,000の分子量を有する。より好ましくは、前記ポリアルキレンオキシドは、約200ないし約20,000の分子量を有する。特に好ましいポリアルキレンオキシドは、ポリエチレングリコール及びポリエチレンオキシドである。
【0024】
前記TJMPは、複数の水溶性鎖に結合されていてもよい。好ましい態様において、前記ポリ(アルキレンオキシド)鎖は、ポリエチレングリコール(PEG)鎖であり、約0.2ないし約200キロダルトン(kDa)の分子サイズを有していてもよい。
【0025】
水溶性ポリマは、スペーサを介してタイトジャンクション調節ペプチドに結合されていてもよい。この結合は可逆的なものであってもよい。該水溶性ポリマは、直鎖状であってもよく、又は分枝状であってもよい。
【0026】
1の態様において、前記ペプチドは、1本のポリ(アルキレンオキシド)鎖に共有結合している。適切な態様において、ポリ(アルキレンオキシド)は、2.00未満、又は1.20未満の多分散値(Mw/Mn)を有する。ポリ(アルキレンオキシド)鎖は、分枝していても、又は分枝していなくてもよい。
【0027】
ポリ(エチレングリコール)(PEG)及びPEGの誘導体のような水溶性ポリマとの結合は、特に、注射剤形用のタンパク質の半減期を向上させるためのストラテジとして用いられてきた(Caliceti,P.及びF.M.Veronese,Adv. Drug Deliv. Rev.55:1261−77, 2003)。PEG等のポリマによるペプチド及びタンパク質の修飾の他の潜在的な利点には、化学的な安定化(Diwan,M.及びT.G.Park,Int.J.Pharm.252:111−22, 2003)及び生化学的な安定化(Na,D.H.ら,J.Pharm.Sci.93:256−61, 2004)及び免疫原性の弱化(Yang,Z.ら,Cancer Res.64:6673−78, 2004)が含まれる。
【0028】
タンパク質に結合したPEGを使用するほとんどの例は、PEG鎖が、上記の効果を与えるために十分な長さの分子量を有する場合である。特に、少なくとも20kDaの分子量を有するPEGが必要であることが記載されている。例えば、Holtsbergら(Holtsberg,F.W.ら,J.Control Rel.80:259−71, 2002)は、PEGに結合されたアルギニンデイミナーゼ(タンパク質)を、PEGが20kDa以上である場合に、マウスに静脈内投与すると、製剤の薬物動態特性及び薬力学的特性が増大することを示した。PEGの分子量が20kDa未満の場合、効果は殆どみられなかった。また別の例において、サケカルシトニン(ペプチド)の単一PEG化は、結果としてラットの鼻腔内バイオアベイラビリティを増大させ、その向上性はPEGの分子量(MW)に反比例している(Lee,K.C.,ら,Calcif.Tissue Int.73:545−9, 2003, 及びShin,B.S.ら,Chem.Pharm.Bull.(東京)52:957−60, 2004)、引用によりここにその全部が取り込まれる。
【0029】
いくつかの好ましいポリ(アルキレンオキシド)は、α−置換ポリ(アルキレンオキシド)誘導体、ポリ(エチレングリコール)(PEG)ホモポリマ及びその誘導体、ポリ(プロピレングリコール) (PPG) ホモポリマ及びその誘導体、ポリ(エチレンオキシド) (PEO) ポリマ及びその誘導体、ビス−ポリ(エチレンオキシド) 及びその誘導体、ポリ(アルキレンオキシド)の共重合体、及びポリ(アルキレンオキシド)のブロック共重合体、ポリ(ラクチド−グリコリド共重合体(lactide−co−glycolide))及びその誘導体、又はこれらの活性誘導体からなる群から選択される。前記水溶性ポリマは、約200ないし約40,000Da、好ましくは、約200ないし約20,000Da、又は約200ないし10,000Da、又は約200ないし5,000Daの分子量を有していてもよい。
【0030】
タイトジャンクション調節ペプチドとPEG又は他の水溶性ポリマとの間の抱合体は、タンパク分解、酵素作用又は加水分解全般を含む生理学的プロセスに対する耐性を有していてもよい。これに代わり、前記抱合体は、例えばプロドラッグアプローチ(pro−drug approach)等の、生分解プロセスにより切断されてもよい。好ましくは、該分子は、一本のポリ(アルキレンオキシド)鎖に共有結合しており、該ポリ(アルキレンオキシド)鎖は、分枝していなくても、又は分枝していてもよい。結合の方法は、一般的に当業者に公知であり、例えば、米国特許第5,595,732号;米国特許第5,766,897号;米国特許第5,985,265号;米国特許第6,528,485号;米国特許第6,586,398号;米国特許第6,869,932号;及び米国特許第6,706,289号がある。
【0031】
本発明の別の局面では、TJMPは、粘膜組織障壁間の電気抵抗を低下させる。好ましい態様において、電気抵抗の低下は、透過促進剤を適用する前の電気抵抗の少なくとも80%である。適切な態様では、TJMPは、粘膜組織障壁間の分子の透過性を、好ましくは少なくとも2倍増大させる。別の態様では、増大される透過性は、傍細胞性のものである。別の態様では、増大した透過性は、タイトジャンクションの調節により生じる。これに代わる態様では、増大する透過性は、経細胞性であるか、又は経細胞性及び傍細胞性の混合である。
【0032】
本発明の別の局面では、粘膜組織層は、上皮細胞層から構成される。好ましい態様では、前記上皮細胞は、気管、気管支、肺胞、鼻、肺、胃腸、表皮及び頬のものからなる群から選択され、好ましくは、鼻のものである。
【0033】
本発明の別の局面では、活性薬剤はペプチド又はタンパク質である。該ペプチド又はタンパク質は、2ないし1,000個のアミノ酸を有していていもよい。好ましい態様では、該ペプチド又はタンパク質は、2ないし50個のアミノ酸から構成される。別の態様では、該ペプチド又はタンパク質は、環状である。別の態様では、該ペプチド又はタンパク質は、物理的結合又は化学結合を介して、ダイマ又はより高次のオリゴマを形成する。
【0034】
好ましい態様では、前記ペプチド又はタンパク質は、GLP−1、PYY3−36、PTH1−34 及びエキセンディン−4からなる群から選択される。別の態様では、生物活性薬剤は、β−インターフェロン、α−インターフェロン、インシュリン、エリスロポエチン、G−CSF、GM−CSF、成長ホルモン、及びこれらのいずれかの類似体からなる群から好ましく選択されるタンパク質である。
【0035】
本発明の透過化処理ペプチド(Permeabilizing peptide)には、WEAALAEALAEALAEHLASQPKSKRKV(配列番号57)の配列を含む、PN529が含まれる。
【0036】
本発明の別の局面は、上記のいずれかの製剤を調製すること、及びこのような製剤を動物の粘膜表面と接触させること、を含む動物へ分子を投与する方法である。好ましい態様では、該粘膜表面は、鼻腔内のものである。
【0037】
本発明の別の局面は、上記のいずれかの製剤を含み、液体である剤形であり、好ましくは液滴の形態にある剤形である。これに代わり、該剤形は、投与前に液体中に再溶解されるか、粉末、又はカプセル、錠剤もしくはゲルの形態として投与される、いずれかの固体であってもよい。
【0038】
本発明の別の局面は、哺乳動物対象内での生物薬剤の粘膜上皮輸送を可逆的に促進し、タイトジャンクション調節成分ペプチド(TJMP)、TJMP類似体、TJMP若しくはTJMP類似体の抱合体、又はこれらの複合体を有する分子である。
【0039】
本発明の透過化処理ペプチドには、NH2−KLALKLALKALKAALKLA−アミドの配列を有するPN159が含まれる。本発明には、ここに開示されるPN159の類似体、これら類似体の配合物、そしてPN159のあらゆる誘導体、変異体、断片、模倣薬、又は融合分子が含まれる。
【0040】
透過化処理剤は、典型的に、対象内の、上皮タイトジャンクション構造及び/又は粘膜上皮表面の生理を調節することにより、粘膜上皮傍細胞輸送を可逆的に促進する。この効果は、典型的に、透過化処理剤による、隣り合う上皮細胞の上皮膜接着タンパク質間のホモタイプ又はヘテロタイプの結合の阻害を伴う。このホモタイプ又はヘテロタイプの結合をブロックするための標的タンパク質は、種々の適切なジャンクション接着分子(JAM)、オクルディン、又はクローディンから選択することができる。
【0041】
上皮細胞の生物学
マウスのジャンクション接着分子−1(JAM−1)をコード化するcDNAがクローニングされており、これは、約32−kDの分子量を有する予想上のI型膜貫通タンパク質(単一の膜貫通ドメインを含む)に相当する(Williamsら, Molecular Immunology 36:1175−1188, 1999;Guptaら,IUBMB Life 50:51−56,2000;Ozakiら, J.Immunol.163:553−557,1999;Martin−Paduraら,J.Cell.Biol.142:117−127,1998)。前記分子の細胞外領域には、アミノ末端の「VH型」及びカルボキシ末端の「C2型」カルボキシ末端β−サンドイッチフォールド(β−sandwich fold)として記載される2つのIg様ドメインが含まれる(Bazzoniら,Microcirculation 8:143−152,2001)。マウスのJAM−1には、N−グリコシル化のための2箇所の部位と、細胞質ドメインが含まれる。JAM−1タンパク質は、イムノグロブリン(Ig)スーパファミリのメンバであり、上皮細胞及び内皮細胞の両方のタイトジャンクションに局在している。超微構造研究により、JAM−1が、オクルディン及びクローディンの原線維を含む膜領域に限定されていることが示されている。
【0042】
「血管内皮ジャンクション関連分子(Vascular endothelial junction−associated molecule)」(VE−JAM)と呼ばれる別のJAMファミリのメンバは、2つの細胞外イムノグロブリン様ドメイン、膜貫通ドメイン、及び比較的短い細胞質尾部を含んでいる。VE−JAMは、主として、内皮細胞の細胞間境界に局在している(Palmeriら, J.Biol.Chem.275:19139−19145,2000)。VE−JAMは、細静脈の内皮細胞から高発現されており、他の血管の内皮からも発現されている。別に報告されたJAMファミリメンバのJAM−3は、それぞれJAM−2及びJAM−1と36%及び32%の同一性を示す予想アミノ酸配列を有する。JAM−3は、広範囲な組織における発現を示し、腎臓、脳、及び胎盤において明確により高い発現を示す。細胞レベルでは、JAM−3転写物は、内皮細胞内で発現される。JAM−3とJAM−2は、結合パートナであることが報告されている。特にJAM−3の外部ドメインは、報告によるとJAM2−Fcに結合する。JAM−3タンパク質は、活性化後に末梢血液リンパ球でアップレギュレートされる(Pia Arrateら,J.Biol.Chem.276:45826−45832,2001)。
【0043】
他に上皮タイトジャンクション制御に関連すると提唱される膜貫通型接着タンパク質は、オクルディンである。オクルディンは、65kDのII型膜貫通タンパク質であり、4つの膜貫通ドメイン、2つの細胞外ループ、及び大型のC末端細胞質ドメインから構成される(Furuseら,J.Cell.Biol.123:1777−1788(1993);Furuseら,J.Cell.Biol.127:1617−1626,1994)。免疫フリーズフラクチャ電子顕微鏡で観察した場合、オクルディンはタイトジャンクション原線維内に直接的に集中している(Fujimoto,J.Cell.Sci.108:3443−3449,1995)。
【0044】
タイトジャンクションの、更なる2種類の内在性膜タンパク質、クローディン−1及びクローディン−2は、ニワトリの肝臓由来のジャンクションが豊富な膜の直接的な生化学的分画法により同定された(Furuseら,J.Cell.Biol.141:1539−1550,1998)。クローディン−1とクローディン−2は、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドのゲル電気泳動上で幅広い約22kDのゲルバンドとして、オクルディンと共に同時精製されることが明らかとなった。マウスcDNAライブラリからクローニングされた、密接に関連する2種類のタンパク質の推定配列から、4つの膜貫通へリックス、2つの短い細胞外ループ、及び短い細胞質N末端及びC末端が予測される。オクルディンと類似するトポロジにも関わらず、これらは配列相同性を分かち合っていない。後に、さらに6種類のクローディン遺伝子産物(クローディン−3ないしクローディン−8)がクローニングされ、免疫金フリーズフラクチャ標識法(immunogold freeze fracture labeling)により決定されたところによると、タイトジャンクション原線維内に局在化していることが示された(Moritaら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA96:511−516,1999)。オクルディンの不存在下で障壁が維持されることを考慮して、クローディン−1ないしクローディン−8は細胞外空間の主な密封を形成する要素の候補として考えられてきた。
【0045】
上皮ジャンクションに局在化する他の細胞質タンパク質には、ゾヌリン、シンプレキン、シングリン、及び7H6が含まれる。報告によればゾヌリンは、オクルディンの細胞質尾部に結合する細胞質タンパク質である。このタンパク質ファミリを代表するものは、「ZO−1、ZO−2、及びZO−3」である。ゾヌリンは、コレラ菌から得られる閉鎖帯毒素(zonula occludens toxin)(ZOT)のヒトタンパク質類似体であると仮定されている。
【0046】
ゾヌリンは、恐らく、組織形態発生、腸管腔と間隙間の体液、高分子、及び白血球の移動、並びに炎症/自己免疫疾患を含む、発生学的、生理学的、及び病理学的プロセスの間、タイトジャンクション制御の役割を果たしているものと考えられている(例として、Wangら,J.Cell.Sci.113:4435−40,2000;Fasanoら,Lancet355:1518−9,2000;Fasano,Ann.N.Y.Acad.Sci,915:214−222,2000を参照)。タイトジャンクションが解放して透過性が増大する病態の、セリアック病の急性期の間、ゾヌリン発現が腸組織において増大する。ゾヌリンは、タイトジャンクション分解を促進して、次いで、インビトロで非ヒト霊長類の腸管上皮における腸透過性の増大を促進する。
【0047】
コレラ菌ZOTの活性断片とヒトのゾヌリンのアミノ酸比較から、これら2つのタンパク質のN末端領域内に、推定上のレセプタ結合ドメインが同定された。ZOTの生物活性ドメインは、哺乳動物レセプタと相互作用し、その後、細胞内シグナルを活性化させて細胞間タイトジャンクションの分解に導くことにより、腸透過性を増大させる。ZOTの生物活性ドメインは、タンパク質のカルボキシル末端側に局在しており、コレラ菌によって作り出される推定上の切断産物と一致する。このドメインは、ZOTの哺乳動物類似体であるゾヌリンの推定上のレセプタ結合モチーフと共通している。部位特異的変異導入実験と組み合された、ZOTの活性断片とゾヌリン間のアミノ酸比較により、プロセッシングを受けたZOTのアミノ末端側と、ゾヌリンのアミノ末端側のオクタペプチドのレセプタ結合ドメインが示唆されている(Di Pierroら,J.Biol.Chem.276:19160−19165,2001)。ZO−1は、報告によれば、アクチン、AF−6、ZO関連キナーゼ(ZO−associated kinase)(ZAK)、フォドリン及びα−カテニンに結合する。
【0048】
本発明の範囲内で用いるための透過化処理ペプチドには、天然又は合成であり、治療活性又は予防活性を有し、ペプチド(2個以上の共有結合したアミノ酸から構成される)、タンパク質、ペプチド又はタンパク質の断片、ペプチド又はタンパク質の類似体、ペプチド又はタンパク質の模倣薬、又は活性ペプチド又はタンパク質の化学的に修飾された誘導体若しくは塩が含まれる。従って、ここで使用される「透過化処理ペプチド(permeabilizing peptide)」という用語は、多くの場合、これらの活性種、即ち、ペプチド又はタンパク質、ペプチド又はタンパク質の断片、ペプチド又はタンパク質の類似体、ペプチド又はタンパク質の模倣薬、又は活性ペプチド又はタンパク質の化学的に修飾された誘導体若しくは塩の全てを包含することが意図されることになる。多くの場合、透過化処理ペプチド又はタンパク質は、天然又は自然の(例えば、野生型、天然変異体、又は対立遺伝子変異体)ペプチド又はタンパク質の配列内でのアミノ酸の部分置換、付加、又は欠失により直ちに得ることができるムテインである。更に、自然のペプチド又はタンパク質の生物活性断片も含まれる。このような変異誘導体及び断片は、自然のペプチド又はタンパク質の所望の生物活性を実質的に保持している。ペプチド又はタンパク質が糖鎖を有する場合、これらの糖種における変異により特徴付けられる生物学的に活性な変異体も、本発明に包含される。
【0049】
本発明の方法及び組成物において用いる透過化処理ペプチド、タンパク質、類似体及び模倣薬は、しばしば、哺乳動物対象内の上皮ジャンクションの構造及び/又は生理を調節することにより可逆的に粘膜上皮傍細胞輸送を促進する透過化処理ぺプチド、タンパク質、類似体又は模倣薬を、粘膜送達の促進、又は透過化処理に効果的な量で含む医薬組成物中にて製剤される。
【0050】
生物活性薬剤
本発明の方法及び組成物は、広範囲の生物活性薬剤の粘膜送達、例えば鼻腔内の粘膜送達を促進させて、哺乳動物対象内での治療上、予防上、又は他の所望の生理学的結果を達成することを目的とする。ここで使用される「生物活性薬剤」には、ここに開示される方法及び組成に従って哺乳動物対象に粘膜投与した場合に、生理学的反応を生じさせるあらゆる物質が含まれる。この文脈における有用な生物活性薬剤には、臨床医学の全ての主要な分野で用いられる治療剤及び予防剤、並びに、栄養分、補因子、酵素(内在性又は外来性)、抗酸化剤等が含まれる。従って、生物活性薬剤は、水溶性又は非水溶性であってもよく、より分子量の大きなタンパク質、ペプチド、糖質、糖タンパク質、脂質、及び/又は糖脂質、ヌクレオシド、ポリヌクレオチド、並びにその他の活性薬剤が含まれていてもよい。
【0051】
本発明の方法及び組成物の範囲内にある有用な医薬品には、低分子薬、ペプチド、タンパク質、及びワクチン剤を含む広範囲の化合物を包含する、薬物並びに高分子治療剤又は予防剤が含まれる。本発明で用いるための代表的な医薬品は、対象内での選択された疾患又は障害の治療用又は予防に対して生物学的に活性である。この文脈における生物学的活性は、実際の患者、細胞培養、サンプルアッセイ、又は許容可能なモデル動物を伴う適切なインビトロ又はインビボでのアッセイ系により評価される、生理学的パラメータ、マーカー、又は対象疾患若しくは障害に関連する臨床症状に対する、いかなる有意な(即ち、測定可能で統計学的に有意な)効果としても測定することができる。
【0052】
本発明の方法及び組成物は、哺乳動物対象内の疾患又は他の症状の治療に対して、例えば、治療用化合物及び予防用化合物の粘膜送達の向上したスピード、持続時間、フィデリティ又は制御を提供することで、該化合物が対象内の選択した生理学的区画へ(例えば、鼻粘膜内へ若しくは鼻粘膜間で、体循環若しくは中枢神経系(CNS)内へ、又は、対象内の選択されるあらゆる標的器官、組織、体液、又は細胞若しくは細胞外区画へ)到達することにより媒介される、予期せぬ利点を提供する。
【0053】
種々の典型的な態様において、本発明の方法及び組成物には、以下から選択される1又は2種類以上の生物活性薬剤が取り込まれていてもよい:
モルヒネ、ヒドロモルフォン、オキシモルホン、ラボルファノール(lovorphanol)、レバロルファン、コデイン、ナルメフェン、ナロルフィン、ナロゾン(nalozone)、ナルトレキソン、ブプレノルフィン、ブトルファノール、及びナルブフィン(nalbufine)のようなオピオイド又はオピオイドアンタゴニスト;
コルチゾン、ヒドロコルチゾン、フルドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニソロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、パラメタゾン、及びフルオシノロンのようなコルチコステロン;
コルヒチン、イブプロフェン、インドメタシン、及びピロキシカムのようなその他の抗炎症剤;アシクロビル、リバビリン、トリフルオロチリジン、アラ−A(アラビノフラノシルアデニン)、アシルグアノシン、ノルデオキシグアノシン、アジドチミジン、ジデオキシアデノシン、及びジデオキシシチジンのような抗ウィルス剤;スピロノラクトンのような抗アンドロゲン;
テストステロンのようなアンドロゲン;
エストラジオールのようなエストロゲン;
プロゲスチン;
パパベリンのような筋弛緩剤;
ニトログリセリン、血管作動性腸管ペプチド及びカルシトニン関連遺伝子ペプチドのような血管拡張剤;
シプロヘプタジンのような抗ヒスタミン剤;
ドキセピン、イミプラミン及びシメチジンのような、ヒスタミンレセプタ部位遮断活性を有する薬剤;
デキストロメトルファンのような鎮咳剤;クロザリルのような神経遮断薬;抗不整脈剤;
抗てんかん薬;
スーパーオキシドジスムターゼ及びニューロエンケファリナーゼ(neuroenkephalinase)のような酵素;
アムホテリシンB、グリセオフルビン、ミコナゾール、ケトコナゾール、チオコナゾール、イトラコナゾール及びフルコナゾールのような抗真菌剤;
ペニシリン、セファロスポリン、テトラサイクリン、アミノグルコシド、エリスロマイシン、ゲンタマイシン、ポリミキシンBのような抗菌薬;
5−フルオロウラシル、ブレオマイシン、メトトレキセート、及びヒドロキシ尿素、ジデオキシイノシン、フロクスウリジン、6−メルカプトプリン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、タキソール及びパクリタキセルのような抗癌剤;
トコフェロール、レチノイド、カロテノイド、ユビキノン、金属キレート剤、及びフィチン酸のような抗酸化剤;
キニジンのような抗不整脈剤;並びに
プラゾシン、ベラパミル、ニフェジピン、及びジルチアゼムのような血圧降下薬;アセトアミノフェン及びアスピリンのような鎮痛薬;
ヒト化抗体、及び抗体断片を含む、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体;
アンチセンスオリゴヌクレオチド;並びに、
RNA、DNA、及び治療用ペプチド及びタンパク質をコードする遺伝子を含むウィルスベクタ。
【0054】
これらの典型的なクラスと種の活性薬剤に加え、本発明の方法及び組成物の範囲内において、単独で又は組み合わせにより、哺乳動物対象内の選択された疾患又は障害の治療又は予防に有効な、上記若しくは本明細書の他の部分に記載されているか、又は当該技術分野において公知の、あらゆる生理活性薬剤、並びに、複数の活性薬剤のあらゆる組合せが、本発明の方法及び組成物に包含される(「Physicians’ Desk Reference」、Litton Industries,Inc.、Medical Economics Company、を参照)。
【0055】
用いる化合物のクラスに関係なく、本発明で用いるための生物活性薬剤は、対象に深刻で許容できない毒性又は他の有害な副作用を与えることなく、所望の生理学的効果を提供するのに十分な量で、本発明の組成物及び方法において存在することになる。全ての生物活性薬剤の適切な投与量は、当業者であれば、過度の実験を行うことなく、直ちに決定するであろう。本発明の方法及び組成物は、生物活性薬剤の促進された送達を提供するので、従来の投与量よりも十分に低い投与量を用いて良好な結果を得ることができる。一般的に、活性物質は、用いる特定の物質にもよるが、組成物中に、全鼻腔内製剤の重量の約0.01%ないし約50%、しばしば約0.1%ないし約20%、そして通常は約1.0%ないし5%又は10%の量で存在する。
【0056】
ここで用いる生物学的に活性な「ペプチド」及び「タンパク質」という用語には、種々のサイズのポリペプチドが含まれており、本発明を特定のサイズのアミノ酸重合体に限定するものではない。タンパク質又はペプチドが、特定の生理学的、免疫学的、治療的又は予防的効果若しくは反応を引き出すという意味における生物学的な活性を示す限り、2、3個のアミノ酸の長さの小さなペプチドからあらゆるサイズのタンパク質、並びに、ペプチド−ペプチド、タンパク質−タンパク質融合体及びタンパク質−ペプチド融合体が、本発明に包含される。
【0057】
本発明は、生物活性ペプチド及びタンパク質の粘膜送達を促進するための新規な製剤及び同調投与方法(coordinate administration method)を提供する。本発明に用いるための治療用ペプチド及びタンパク質の例には、以下のものが含まれるが、これらに限定されるものではない:組織プラスミノゲン活性化因子(TPA)、表皮成長因子 (EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF−酸性又は塩基性)、血小板由来増殖因子(PDGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF−α又はβ)、血管作動性腸管ペプチド、腫瘍壊死因子(TNF)、視床下部放出因子、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、副甲状腺ホルモン(PTH)、卵胞刺激ホルモン(FSF)、黄体化ホルモン放出ホルモン(LHRH)、エンドルフィン、グルカゴン、カルシトニン、オキシトシン、カルベトシン、アルドエテコン(aldoetecone)、エンケファリン、ソマトスタチン、ソマトトロピン、ソマトメジン、ゴナドトロピン、エストロゲン、プロゲステロン、テストステロン、α−メラニン細胞刺激ホルモン、非天然オピオイド、リドカイン、ケトプロフェン、スフェンタニル、テルブタリン、ドロペリドール、スコポラミン、ゴナドレリン、シクロピロックス、ブスピロン、カルシトニン、クロモリンナトリウム又はミダゾラム、シクロスポリン、リシノプリル、カプトプリル、デラプリル、シメチジン、ラニチジン、ファモチジン、スーパーオキシドジスムターゼ、アスパラギナーゼ、アルギナーゼ、アルギニンデアミナーゼ、アデノシンデアミナーゼ、リボヌクレアーゼ、トリプシン、キモトリプシン並びにパパイン。更なる有用なペプチドの例には、ボンベシン、サブスタンスP、バソプレッシン、α−グロブリン、トランスフェリン、フィブリノーゲン、β−リポタンパク質、β−グロブリン、プロトロンビン、セルロプラスミン、α2−糖タンパク質、α2−グロブリン、フェチュイン、α1−リポタンパク質、α1−グロブリン、アルブミン、プレアルブミン並びにその他の生物活性タンパク質及び組換えタンパク質産物が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
本発明のより詳細な局面において、既存の疾患若しくは障害を治療(即ち、その症状の発症若しくは重症度を取り除くか、又は軽減させる)するための、又は対象の疾患若しくは障害の危険性が同定された対象内での疾患若しくは障害の発症を防ぐための、特定の生物活性ペプチド又はタンパク質治療剤の粘膜送達を促進するための方法及び組成物が提供される。本発明のこれらの局面において有用な生物活性ペプチド及びタンパク質には、以下のものが含まれるが、これらに限定されるものではない:造血剤;抗感染剤;抗痴呆剤;抗ウィルス剤;抗腫瘍剤;解熱剤;鎮痛剤;抗炎症剤;抗潰瘍剤;抗アレルギー剤;抗うつ剤;精神作用剤;強心薬;抗不整脈剤;血管拡張剤;降圧利尿剤のような血圧降下剤;抗糖尿病剤;血液凝固薬;コレステロール低下薬;骨粗しょう症治療薬;ホルモン;抗生物質;ワクチン;等。
【0059】
本発明のこれらの局面で用いるための生物活性ペプチド及びタンパク質には、以下のものが含まれるが、これらに限定されるものではない:サイトカイン;ペプチドホルモン;成長因子;心血管系に作用する因子;細胞接着因子;中枢又は末梢神経系に作用する因子;ホルモン電解質(humoral electrolytes)及び血液有機物質(hemal organic substance)に作用する因子;骨及び骨格の成長又は生理に作用する因子;胃腸系に作用する因子;腎臓及び泌尿器に作用する因子;結合組織及び皮膚に作用する因子;感覚器官に作用する因子;免疫系に作用する因子;呼吸器系に作用する因子;生殖器官に作用する因子;及び種々の酵素。
【0060】
例えば、本発明の方法及び組成物の範囲内において投与可能なホルモンには、アンドロゲン、エストロゲン、プロスタグランジン、ソマトトロピン、ゴナドトロピン、インターロイキン、ステロイド及びサイトカインが含まれる。
【0061】
本発明の方法及び組成物の範囲内において投与可能なワクチンには、肝炎、インフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、 パラインフルエンザウィルス(PIV)、結核、カナリア痘、水痘、麻疹、おたふく風邪、風疹、肺炎、及びヒト免疫不全ウィルス(HIV)用のワクチンといった、細菌性及びウィルス性ワクチンが含まれる。
【0062】
本発明の方法及び組成物の範囲内において投与可能な細菌トキソイドには、ジフテリア、破傷風、シュードモナス、及び結核菌が含まれる。
【0063】
本発明の範囲内で用いるための心血管作動薬及び血栓溶解薬には、ヒルゲン、ヒルロス(hirulos)、及びヒルジンが含まれる。
【0064】
本発明の範囲内において有用に投与される抗体試薬には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体、抗体断片、融合体及びマルチマ、並びにイムノグロビンが含まれる。
【0065】
ここで用いる「保存的アミノ酸置換」という用語は、類似する側鎖を有するアミノ酸残基の一般的な互換性を指す。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸の通常置換可能なグループは、アラニン、バリン、ロイシン、及びイソロイシンであり;脂肪族−ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸のグループは、セリン及びスレオニンであり;アミド含有側鎖を有するアミノ酸のグループは、アスパラギン及びグルタミンであり;芳香族側鎖を有するアミノ酸のグループは、フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファンであり;塩基性側鎖を有するアミノ酸のグループは、リシン、アルギニン、及びヒスチジンであり;そして、硫黄含有側鎖を有するアミノ酸のグループは、システインとメチオニンである。保存的置換の例には、イソロイシン、バリン、ロイシン又はメチオニンのような非極性(疎水性)残基の、別の非極性(疎水性)残基との置換が含まれる。同様にして、本発明は、アルギニンとリシン間、グルタミンとアスパラギン間、及びスレオニンとセリン間といった、極性(親水性)残基の置換も意図している。加えて、リシン、アルギニン、若しくはヒスチジンといった塩基性残基の他の塩基性残基への置換、又は、アスパラギン酸若しくはグルタミン酸といった酸性残基の他の酸性残基への置換も意図している。例示的な保存的アミノ酸置換のグループには、以下のものがある:バリン−ロイシン−イソロイシン、フェニルアラニン−チロシン、リシン−アルギニン、アラニン−バリン、及びアスパラギン−グルタミン。
【0066】
生物活性ペプチド又はタンパク質類似体という用語には、20種類の従来のアミノ酸の立体異性体(例えば、D−アミノ酸)、又はα,α−二置換アミノ酸、N−アルキルアミノ酸、乳酸のような非天然アミノ酸を取り込んだ自然のペプチド又はタンパク質の修飾型も更に含まれる。これらや他の非従来型アミノ酸は、本発明の範囲内において有用な自然のペプチド及びタンパク質内に置換又は挿入されてもよい。非従来型アミノ酸の例には、以下のものが含まれる:4−ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタメート、ε−N,N,N−トリメチルリシン、ε−N−アセチルリシン、O−ホスホセリン、N−アセチルセリン、N−ホルミルメチオニン、3−メチルヒスチジン、5−ヒドロキシリシン、ω−N−メチルアルギニン、並びに他の類似アミノ酸及びイミノ酸(例えば、4−ヒドロキシプロリン)。これに加え、生物活性ペプチド又はタンパク質類似体には、糖質、脂質の、及び/又は、対象ペプチド又はタンパク質の天然若しくは人工の構造構成要素として、又は該ペプチド又はタンパク質に結合しているか、若しくは該ペプチド又はタンパク質に付随したタンパク様部位の、単一又は複数の置換、欠失及び/又は付加が含まれる。
【0067】
一の局面において、本発明の範囲内において有用なペプチド(ポリペプチドを含む)は、20種類の遺伝子にコードされたアミノ酸(又はD−アミノ酸)の天然側鎖の1又は2個以上を、例えば、アルキル、低級アルキル、4、5、6、7員環アルキル、アミド、アミド低級アルキル、アミドジ(低級アルキル)、低級アルコキシ、ヒドロキシ、カルボキシ及びその低級エステル誘導体、並びに4、5、6、7員複素環のような基を有する他の側鎖で置換することにより修飾すると、ペプチド模倣体を生じる。例えば、プロリン類似体は、プロリン残基の環の大きさを5員環から、4、6、又は7員環へと変化させることで作り出すことができる。環状基は、飽和していても、又は不飽和であってもよく、不飽和であれば、芳香族又は非芳香族であってもよい。複素環基には、1又は2個以上の窒素、酸素、及び/又は硫黄ヘテロ原子が含まれていてもよい。このような基の例には、フラザニル、フリル、イミダゾリジニル、イミダゾリル、イミダゾリニル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、モルホリニル(例えば、モルホリノ)、オキサゾリル、ピペラジニル(例えば、1−ピペラジニル)、ピペリジル(例えば、1−ピペリジル、ピペリジノ)、ピラニル、ピラジニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリジル、ピリミジニル、ピロリジニル(例えば、1−ピロリジニル)、ピロリニル、ピロリル、チアジアゾリル、チアゾリル、チエニル、チオモルホリニル(例えば、チオモルホリノ)並びにトリアゾリルが含まれる。これらの複素環基は、置換されていても、置換されていなくてもよい。基が置換される場合、該置換基は、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、酸素、又は置換フェニル若しくは非置換フェニルであってもよい。
【0068】
ペプチド及びタンパク質、並びにペプチド及びタンパク質類似体及び模倣体も、米国特許第4,640,835号;米国特許第4,496,689号;米国特許第4,301,144号;米国特許第4,670,417号;米国特許第4,791,192号;又は米国特許第4,179,337号に説明されるように、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリオキシアルケン等の種々の非タンパク質性ポリマの1又は2種類以上に共有結合していてもよい。
【0069】
本発明の範囲内にあるその他のペプチド及びタンパク質類似体及び模倣体には、グリコシル化変異体、及び他の化学的部分との共有結合又は凝集による抱合体が含まれる。共有結合誘導体は、当該技術分野でよく知られた方法により、アミノ酸側鎖、又はN末端若しくはC末端に見いだせる基に官能性を結合させることにより調製することができる。これらの誘導体には、カルボキシル末端又はカルボキシル側鎖を含む残基の脂肪族エステル若しくはアミド、ヒドロキシ基含有残基のO−アシル誘導体、及びアミノ末端アミノ酸、又は、例えばリシン若しくはアルギニン等のアミノ基含有残基のN−アシル誘導体が含まれるが、これらに限定されるものではない。アシル基は、C3ないしC18の通常のアルキルを含むアルキル部分の群から選択され、それによって、アルカノイルアロイル種を形成する。例えば、免疫原性部分等の担体タンパク質への共有結合も用いることができる。
【0070】
これらの修飾に加え、生物活性ペプチド及びタンパク質の糖鎖修飾の変化は、例えば、その合成及びプロセッシング中に、又は更なるプロセッシング工程において、ペプチドの糖鎖パターンを修飾することにより行うことが可能である。上記修飾を達成するにあたって特に好ましい方法は、通常これらの修飾を提供している細胞から得られるグリコシル化酵素、例えば、哺乳動物のグリコシル化酵素等にペプチドを曝すことである。脱グリコシル化酵素を用いて、本発明の範囲内にある有用な修飾ペプチド及びタンパク質を得ることも十分に可能である。例えば、ホスホチロシン、ホスホセリン、若しくはホスホスレオニン等のリン酸化アミノ酸残基、又はリボシル基若しくは架橋試薬等の他の部分等といった別の軽微な修飾を有する、自然の一次アミノ酸配列の変種も包含される。
【0071】
ペプチド模倣体は、リン酸化、スルホン化、ビオチン化、又は、他の部分、特にリン酸基に似た分子形状を有する部分の付加若しくは除去により化学的に修飾されたアミノ酸残基を有していてもよい。
【0072】
また、本発明の範囲内で用いるために活性ペプチドを環化するか、又は該ペプチドの末端部にデスアミノ若しくはデスカルボキシ残基を取り込ませることが可能であり、これによって末端のアミノ基又はカルボキシル基が無くなり、プロテアーゼに対する感受性が低下するか、又はペプチドのコンフォメーションが限定されることになる。本発明のペプチド類似体又は模倣体の中のC末端官能基には、アミド、アミド低級アルキル、アミドジ(低級アルキル)、低級アルコキシ、ヒドロキシ、及びカルボキシ、並びにこれらの低級エステル誘導体、並びにこれらの医薬的に許容可能な塩が含まれる。
【0073】
効果的に含水率を調節してタンパク質の安定性を向上させる種々の添加剤、希釈剤、基剤及び送達媒体が、本発明の範囲内において提供される。この意味において抗凝集剤として有効なこれらの試薬と担体材料には、例えば、ポリエチレングリコール、デキストラン、ジエチルアミノエチルデキストラン、及びカルボキシメチルセルロースといった種々の機能性を有するポリマが含まれ、これらポリマは、該ポリマと一緒に混合された、又は該ポリマと結合されたペプチド及びタンパク質の安定性を顕著に増加させ、固相凝集を減少させる。場合によって、タンパク質の活性及び物理的安定性は、ペプチド又はタンパク質薬剤水溶液への種々の添加剤により向上させることも可能である。例えば、ポリオール(糖を含む)、アミノ酸、コラーゲンやゼラチンのようなタンパク質、及び種々の塩といった添加物を用いることができる。
【0074】
特定の添加剤、特に糖及び他のポリオールも、例えば、凍結乾燥タンパク質等の乾燥タンパク質に対して顕著な物理的安定性を与える。これらの添加剤を本発明の範囲内で用いることで、凍結乾燥している間だけではなく、乾燥状態での保存期間中においても、タンパク質を凝集から保護することも可能である。例えば、スクロース及びフィコール70(スクロースの構成単位を有するポリマ)は、種々の条件下における固相インキュベーション中に、ペプチド又はタンパク質凝集に対する顕著な保護作用を示す。これらの添加剤は、ポリママトリックス内に埋め込まれた固体タンパク質の安定性を向上させることもできる。
【0075】
更に、例えばスクロース等の更なる添加剤は、本発明の特定の徐放性剤において生じる可能性のある高温多湿の空気中での固相凝集に対してタンパク質を安定化させる。ゼラチンやコラーゲンのようなタンパク質は、安定化剤又は充填剤としての役割も果たし、この文脈において不安定なタンパク質の変性及び凝集を減少させる。これらの添加剤は、本発明の範囲内のポリマ融解工程及び組成物に取り込むことが可能である。例えば、ポリペプチドの微小粒子は、単に、上記の種々の安定化添加剤を含む溶液を凍結乾燥させるか、又はスプレドライさせるだけで調製することが可能である。従って、非凝集ペプチド及びタンパク質の徐放が、長時間に渡って得られることになる。
【0076】
凝集しやすいペプチド及びタンパク質の粘膜送達用製剤であって、ペプチド又はタンパク質が、実質的に純粋で非凝集形態にて安定化される製剤を生じさせる、種々の更なる調製用成分及び調製方法、並びに特別な製剤用添加剤が本明細書にて提供される。広範囲な成分と添加剤が、これらの方法及び製剤へ使用されることが意図される。これら抗凝集剤の典型例は、ポリペプチドの疎水性側鎖に選択的に結合するシクロデキストリン(CD)の結合ダイマである。これらCDダイマは、顕著に凝集を阻害するようにタンパク質の疎水性パッチに結合することが判明している。この阻害は、CDダイマ及び関与するタンパク質の両方に関して選択的である。このような選択的なタンパク質凝集の阻害は、本発明に係る鼻腔内送達の方法及び組成物の範囲内で、更なる利点を提供する。この関連において使用される更なる薬剤には、ペプチドとタンパク質の凝集を特異的にブロックする、リンカにより制御された種々のジオメトリを有するCDの3量体及び4量体が含まれる(Breslowら,J.Am.Chem.Soc.118:11678−11681,1996;Breslowら,PNAS USA94:11156−11158,1997)。
【0077】
電荷変化用及びpH調整用の薬剤及び方法
疎水性粘膜障壁間の送達を促進するための生物活性薬剤(例えば、高分子薬、ペプチド又はタンパク質)の輸送特性を向上させるために、本発明は、本明細書に記載する選択された生物活性薬剤又は送達促進剤の電荷を変化させるための技術及び試薬も提供する。この点において、高分子の相対的透過性は、一般的にその分配係数と関係している。分子のpKaと粘膜表面のpHに依存した分子のイオン化の程度も、該分子の透過性に影響する。粘膜送達用の生物活性薬剤及び透過化処理剤の透過及び分配は、例えば、帯電した官能基の電荷の変更、送達用担体若しくは前記活性薬剤がその中で送達される溶液のpHの変更、又は電荷変化剤若しくはpH変化剤と前記活性薬剤との同調投与により達成される、活性薬剤と透過化処理剤の電荷変化又は電荷伝搬により促進することができる。
【0078】
保存剤
クロロブタノール、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸ナトリウム (0.5%)、フェノール、クレゾール、p−クロロ−m−クレゾール、フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、酢酸フェニル水銀、ホウ酸フェニル水銀、硝酸フェニル水銀、チメロサール、ソルビン酸、塩化ベンゼトニウム又は塩化ベンザルコニウムのような保存剤を、本発明の製剤に添加して、微生物の増殖を阻害することが可能である。
【0079】
pH及び緩衝系
一般的に、pHは、クエン酸及びクエン酸ナトリウムのようなクエン酸塩からなる系のような緩衝剤を用いて制御される。更なる適切な緩衝系には、酢酸と酢酸塩の系、コハク酸とコハク酸塩の系、リンゴ酸とリンゴ酸塩の系、及びグルコン酸とグルコン酸塩の系が含まれる。これに代わり、酢酸とクエン酸ナトリウムの系、クエン酸、酢酸ナトリウムの系、 及びクエン酸、クエン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウムの系といった、混合の酸/塩系から構成される緩衝系を用いることも可能である。全ての緩衝系において、最終pH調整のために、塩酸のような追加の酸、及び水酸化ナトリウムのような追加の塩基が添加されてもよい。
【0080】
上皮ジャンクションの構造及び/又は生理を調節する更なる薬剤
上皮タイトジャンクションは、本発明の範囲内で提供されるような、十分なジャンクション開放を促進するジャンクション生理調節剤で処理されない限り、一般的に約15オングストロームの半径を有する分子に対して不透過性なものである。本発明の方法及び組成物の範囲内において、二次的な生理調節のための有用な標的としての役割を果たす「二次」タイトジャンクション調節組成物の中でも、ZO1−ZO2ヘテロダイマ複合体は、粘膜上皮の傍細胞透過性を直ちに効果的に変化させる外来性の薬物による生理調節に適していることが示されている。このような薬剤で十分に研究されてきたものは、「閉鎖帯毒素(zonula occludens toxin)」(ZOT)として知られるコレラ菌由来の細菌毒素である。国際公開公報第96/37196号;米国特許第5,945,510号;米国特許第5,948,629号;米国特許第5,912,323号;米国特許第5,864,014号;米国特許第5,827,534号;米国特許第5,665,389号;及び米国特許第5,908,825号を参照。従って、ZOT、及びZO1−ZO2複合体を調節する他の薬剤は、1又は2種類以上の生物活性薬剤と共に組み合わせて製剤されるか、又は同調投与されることになる。
【0081】
製剤と投与
本発明の粘膜送達製剤には、典型的には1又は2種類以上の医薬的に許容可能な担体と、任意に他の治療用成分と共に組み合されて投与される生物活性薬剤が含まれる。該担体は、製剤の他の成分と適合し、かつ対象内で許容できない有害な作用を誘発しないという意味において「医薬的に許容可能」でなければならない。このような担体は本明細書中の上記に記載されているか、又は薬理学の分野における当業者によく知られている。望ましくは、該製剤には、投与される生物活性薬剤と不適合であることが知られている酵素や酸化剤等の物質が含まれるべきではない。該製剤は、薬学の分野においてよく知られるあらゆる方法により調製することができる。
【0082】
本発明の組成物及び方法は、口腔送達、直腸送達、膣送達、鼻腔内送達、肺内送達、又は経皮的送達を含む種々の粘膜投与方法、又は眼、耳、皮膚又は他の粘膜表面への局所的送達により対象に投与することができる。本発明に係る組成物は、しばしば鼻スプレ又は肺スプレとして水溶液において投与され、当業者に公知の種々の方法によりスプレの形態に調剤することができる。鼻スプレとしての液体を調剤するための好ましい装置が、米国特許第4,511,069号に開示されている。このような製剤は、本発明に係る組成物を水に溶解して水溶液を作り、該溶液を滅菌することにより簡便に調製することができる。製剤は、例えば、米国特許第4,511,069号に開示される密封された調剤装置のような、多重投与用容器中に提供することもできる。その他の適切な鼻スプレ送達装置は、「Transdermal Systemic Medication」、Y.W.Chien編、Elsevier Publishers、ニューヨーク、1985年;及び米国特許第4,778,810号に記載されている。更なるエアロゾル送達形態には、例えば、水、エタノール、又はこれらの混合物等の医薬用溶媒に溶解又は懸濁された生物活性薬剤を送達する、圧縮空気噴霧器、ジェット噴霧器、超音波噴霧器、及び圧電式噴霧器等が含まれていてもよい。
【0083】
本発明の鼻及び肺スプレ用溶液には、典型的に、薬物、又は送達される薬物であって、任意に非イオン性表面活性剤(例えば、ポリソルベート80)のような表面活性剤と共に製剤される薬物、及び1又は2種類以上の緩衝剤、安定化剤又は等張化剤が含まれる。本発明のある態様においては、鼻スプレ用溶液には、更に噴射剤が含まれる。鼻スプレ用溶液のpHは、任意に約pH3.0ないし7.2の間にあるが、所望の場合には、pHは、帯電高分子種(例えば治療用ペプチド又はタンパク質)の実質的に非イオン化状態での送達を最適化するように調整される。用いられる医薬用溶媒は、弱酸性の水性緩衝剤(pH3−6)であってもよい。これらの組成物中で用いるための適切な緩衝剤は、上記に説明される通りであるか、又は当該技術分野において公知である。保存剤、界面活性剤、分散剤、又はガスを含む、他の成分を添加して化学的安定性を向上させるか又は維持することができる。適切な保存剤には、フェノール、メチルパラベン、パラベン、m−クレゾール、チオメルサール、塩化ベンザルコニウム等が含まれるが、これらに限定されるものではない。適切な界面活性剤には、オレイン酸、ソルビタントリオレエート、ポリソルベート、レシチン、ホスファチジルコリン、並びに種々の長鎖のジグリセリド及びリン脂質が含まれるが、これらに限定されるものではない。適切な分散剤には、エチレンジアミン四酢酸等が含まれるが、これらに限定されるものではない。適切なガスには、窒素、ヘリウム、クロロフルオロカーボン (CFC)、ヒドロフルオロカーボン(HFC)、二酸化炭素、空気等が含まれるが、これらに限定されるものではない。適切な安定化剤及び等張化剤には、糖及び他のポリオール、アミノ酸、並びに有機塩及び無機塩が含まれる。
【0084】
液体経粘膜製剤は、例えば、装置、又は液滴(スプレ)等の滴として投与することができる。スプレは、ポンプ、噴霧器により、又は当該技術分野に記載するその他の方法により作り出すことが可能である。肺送達の場合、肺深部沈着用の液滴は、肺管(pulmonary passage)内への沈着に適切な最小粒子サイズが、多くの場合、約10μm未満の空気力学的質量中央等価径(mass median equivalent aerodynamic diameter)(MMEAD)であり、通常は5μm未満のMMEADであり、通常は約2μm未満のMMEADであることを示す。鼻送達の場合、液滴の粒子サイズは、通常約1000μm未満のMMEADであり、通常100μm未満のMMEADである。
【0085】
別の態様においては、粘膜製剤は、鼻腔内投与用に適切な粒子サイズにあるか、又は適切な粒子サイズの範囲内にある、乾燥した、通常凍結乾燥された形態にある生物活性薬剤を含む乾燥粉末製剤として投与される。肺送達の場合、肺深部沈着用の粉末粒子は、肺管内への沈着に適切な最小粒子サイズが、多くの場合、約10μm未満の空気力学的質量中央等価径(MMEAD) であり、通常は5μm未満の MMEADであり、通常は約2μm未満のMMEADであることを示す。鼻送達の場合、粉末粒子サイズは、通常約1000μm未満のMMEADであり、通常100μm未満のMMEADである。これらのサイズの範囲にある鼻腔での呼吸に適した粉末は、ジェットミル、スプレドライ、溶媒沈殿、超臨界流体濃縮(supercritical fluid condensation)等といった種々の従来技術により製造することができる。これらの適切なMMEADを有する乾燥粉末は、肺又は鼻での吸入による患者の呼吸に依存して粉末をエアロゾル化量(aerosolized amount)へと分散させる、従来のドライパウダー吸入器(DPI)を介して患者に投与することができる。これに代わり、外部電源を用いて粉末をエアロゾル化量へと分散させる、例えば、ピストンポンプ等のエアアシステッド装置(air−assisted device)により乾燥粉末を投与することもできる。薬物粉末粒子は、乾燥状態にて、ラクトース等の適切な担体を含む巨大粒子(>100um MMEAD)へと凝集した粒子として製剤することができ、この場合、薬物粒子と担体粒子の凝集塊は、粉末の投薬により粉砕される。
【0086】
乾燥粉末装置は、典型的に、単一のエアロゾル投与量(「ひと吹き」)を作り出すために、約1mgないし20mgの範囲内にある粉末量を要する。必要な又は所望の生物活性薬剤投与量が、上記量よりも少ない場合、粉末化された活性薬剤は、典型的には、医薬用乾燥充填粉末と混合されて必要な総粉末量が提供される。好ましい乾燥充填粉末には、スクロース、ラクトース、デキストロース、マンニトール、グリシン、トレハロース、ヒト血清アルブミン(HSA)、及び澱粉が含まれる。他の適切な乾燥充填粉末には、セロビオース、デキストラン、マルトトリオース、ペクチン、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム等が含まれる。
【0087】
本発明の範囲内の粘膜送達用の組成物を製剤するために、生物活性薬剤を種々の医薬的に許容可能な添加剤、並びに活性薬剤を分散させるための基剤又は担体と組み合わせることもできる。望ましい添加剤には、アルギニン、水酸化ナトリウム、グリシン、塩酸、クエン酸等といったpH調整剤が含まれるが、これらに限定されるわけではない。これに加え、局所麻酔薬(例えば、ベンジルアルコール)、等張化剤 (例えば、塩化ナトリウム、マンニトール、ソルビトール)、吸収阻害剤 (例えば、Tween80)、溶解促進剤(例えば、シクロデキストリン及びその誘導体)、安定化剤 (例えば、血清アルブミン)、及び還元剤 (例えば、グルタチオン)が含まれていてもよい。粘膜送達用の組成物が液体の場合、0.9%(w/v)の生理食塩水の張度を単位とし、これを参照にして測定される製剤の張度は、典型的に、鼻腔粘膜の投与部位に実質的な不可逆性の組織損傷を誘発しない値に調整される。一般的に、溶液の張度は、約1/3ないし3、又は1/2ないし2、又は3/4ないし1.7の値に調整される。
【0088】
生物学的に活性な薬剤は、該活性薬剤及びあらゆる所望の添加剤を分散させる能力を有する親水性化合物を含むであろう、基剤又は媒体中に分散させることができる。該基剤は、以下のものを含む広範囲の適切な媒体から選択することができるが、これらに限定されるものではない:ポリカルボン酸又はその塩の共重合体、他のモノマ(例えば、(メト)アクリル酸メチル、アクリル酸等)を有するカルボン酸無水物(例えば、無水マレイン酸)、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンといった親水性ビニルポリマ、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体、並びにキトサン、コラーゲン、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、ヒアルロン酸、及びこれらの非毒性金属塩といった天然ポリマ。例えば、ポリ乳酸、ポリ(乳酸−グリコール酸) 共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ(ヒドロキシ酪酸−グリコール酸) 共重合体及びこれらの混合物等の生分解性ポリマが、しばしば基剤又は担体として選択される。これに代わるものとして、又は、これに加え、ポリグリセリン脂肪酸エステル、スクロース脂肪酸エステル等といった合成脂肪酸エステルを担体として用いることもできる。親水性ポリマ及び他の担体を単一で又は組み合わせにより用いることも可能であり、部分結晶化、イオン結合、架橋結合等により、担体に向上した構造的完全性を与えることができる。担体は、直接鼻腔粘膜に投与するための、流体又は粘性溶液、ゲル、ペースト、粉末、微粒子及びフィルムを含む種々の形態において提供することができる。この文脈において選択された担体の使用により、結果として生物活性薬剤の吸収が促進されるであろう。
【0089】
生物活性薬剤は、種々の方法に従って基剤又は担体と組み合わせることが可能であり、活性薬剤の放出は、拡散、単体の分解、又は水チャネルの関連製剤によるものであってもよい。一定の状況下では、活性薬物は、例えばイソブチル2−シアノアクリレート等の適切なポリマから調製されるマイクロカプセル(ミクロスフェア)又はナノカプセル(ナノスフェア)内に分散され(例えば、Michaelら,J.Pharmacy Pharmacol.43:1−5,1991を参照)、そして長時間にわたる持続的な送達と生物活性をもたらす、鼻腔粘膜に適合される生体適合分散媒体中にも分散される。
【0090】
本発明の医薬品の粘膜送達を更に促進するために、活性薬剤を含む製剤には、基剤又は賦形剤として親水性の低分子量化合物が含まれていてもよい。このような親水性低分子量化合物は、生理学的活性を有するペプチド又はタンパク質のような水溶性活性薬剤がその基剤を通じて、該活性薬剤が吸収される体表面に拡散できるような、通過用媒体を提供する。該親水性の低分子量化合物は、任意に粘膜又は投与環境空気(administration atmosphere)から水分を吸収して水溶性の活性ペプチドを溶解させる。親水性低分子量化合物の分子量は、一般的に10000以下であり、好ましくは3000以下である。例示的な親水性低分子量化合物には、スクロース、マンニトール、ラクトース、L−アラビノース、D−エリトロース、D−リボース、D−キシロース、D−マンノース、D−ガラクトース、ラクツロース、セロビオース、ゲンチビオース(gentibiose)、グリセリン及びポリエチレングリコールのような、オリゴ糖、二糖類及び単糖類といったポリオール化合物が含まれる。本発明の範囲内で担体として有用な親水性低分子量化合物のその他の例には、N−メチルピロリドン、及びアルコール(例えば、オリゴビニルアルコール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等)が含まれる。これらの親水性低分子量化合物は、単体で、又は相互に組み合わせて又は鼻腔内製剤の他の活性成分若しくは不活性成分と組み合わせて用いることができる。
【0091】
本発明の組成物には、上記に代わり、pH調整剤及び緩衝剤、張度調整剤、湿潤剤等のような、生理学的条件に近づけるために必要な医薬的に許容可能な担体物質として、例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ソルビタンモノラウレート、トリエタノールアミンオレエート等が含まれていてもよい。固体組成物の場合、例えば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカリン、滑石粉、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウム等を含む従来の非毒性の医薬的に許容可能な担体を用いることができる。
【0092】
本発明の特定の態様において、生物活性薬剤は、例えば、持続放出性ポリマを含む組成物のような、徐放性製剤において投与される。活性薬剤は、例えば、ポリマ、マイクロカプセル送達システム又は生体接着ゲルといった徐放性媒体等の、迅速な放出を防ぐ担体と共に調製することができる。本発明の種々の組成物中の活性薬剤の持続的な送達は、例えばモノステアリン酸アルミニウムヒドロゲル及びゼラチン等の、吸収を遅延させる薬剤を組成物中に含ませることにより生じさせることができる。
【0093】
ここで用いる「対象」という用語は、本発明の組成物を投与することのできるあらゆる哺乳動物患者を意味する。
【0094】
キット
本発明には、上記の医薬組成物、有効成分、及び/又は、これらを哺乳動物対象中の疾患及び他の障害の予防及び治療に用いるために投与する手段を含むキット、パッケージ及び複合容器ユニット(multicontainer unit)も含まれる。簡潔に言うと、これらのキットには、粘膜送達用の医薬製剤中に製剤された1又は2種類以上の生物活性薬剤を含む容器又は製剤が含まれる。生物活性薬剤は、任意により、バルク分散容器(bulk dispensing container)中に含まれるか、又は単位投与形態若しくは多重単位投与形態で含まれる。例えば肺又は鼻腔内スプレアプリケータ等の、任意の分散手段を提供することができる。パッケージ部材には、同封の医薬品を、例えば鼻腔内の粘膜投与に用いることで、特定の疾患又は障害の治療又は予防できることを示す標示又は説明書が任意に含まれる。
【0095】
ポリヌクレオチド送達促進ポリペプチド
本発明の更なる態様では、両親媒性アミノ酸配列を含むようなポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドが、選択されるか又は合理的に設計される。例えば、疎水性配列ドメイン又はモチーフを形成する複数の非極性若しくは疎水性アミノ酸残基が帯電性の配列ドメイン又はモチーフを形成する複数の帯電性アミノ酸残基に結合することで生じた両親媒性ペプチドを含む、有用なポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドを選択することができる。
【0096】
別の態様では、タンパク質導入(protein transduction)ドメイン又はモチーフ、及び融合性ペプチド(fusogenic peptide)ドメイン又はモチーフを含むように、ポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドが選択される。タンパク質導入ドメインは、細胞の膜に挿入可能であり、好ましくは細胞の膜の間を通過可能なペプチド配列である。融合性ペプチドは、例えば、細胞膜又はエンドソームを覆う膜等の脂質膜を不安定化させることが可能なペプチドであり、この不安定化は低pHで促進することができる。融合性(fusogenic)ドメイン又はモチーフの例は、幅広く多様なウィルス融合タンパク質又は他のタンパク質、例えば繊維芽細胞成長因子4(FGF4)等に見出される。
【0097】
本発明のポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドを合理的に設計するために、タンパク質導入ドメインが、細胞膜を通じた細胞内への核酸の侵入を促進する部位として用いられる。特定の態様では、輸送された核酸は、エンドソーム内に封入されることになる。エンドソーム内部は低pHを有しており、結果としてエンドソームの膜が融合性ペプチドモチーフによって不安定化されることになる。エンドソーム膜の不安定化と破壊により、siNAが細胞質中に放出され、そこでsiNAは、RISC複合体と結合して標的mRNAに向かうことが可能になる。
【0098】
本発明のポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドに任意に取り込むためのタンパク質導入ドメインの例には、以下のものが含まれる。
1. TATタンパク質導入ドメイン(PTD)(配列番号1) KRRQRRR;
2. ペネトラチンPTD (配列番号2) RQIKIWFQNRRMKWKK;
3. VP22 PTD(配列番号3) DAATATRGRSAASRPTERPRAPARSASRPRRPVD;
4. カポジFGFシグナル配列(配列番号4) AAVALLPAVLLALLAP、及び配列番号5)AAVLLPVLLPVLLAAP;
5. ヒトβ3インテグリンシグナル配列(配列番号6) VTVLALGALAGVGVG;
6. gp41融合配列(配列番号7) GALFLGWLGAAGSTMGA;
7. カイマンクロコディルス(Caiman crocodylus)Ig(v)軽鎖(配列番号8) MGLGLHLLVLAAALQGA;
8. hCT誘導ペプチド(配列番号9) LGTYTQDFNKFHTFPQTAIGVGAP;
9. トランスポータン(Transportan)(配列番号10) GWTLNSAGYLLKINLKALAALAKKIL;
10.ロリゴマ(Loligomer)(配列番号11) TPPKKKRKVEDPKKKK;
11.アルギニンペプチド(配列番号12) RRRRRRR;及び
12.両親媒性モデルペプチド(配列番号13) KLALKLALKALKAALKLA。
【0099】
本発明のポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドに任意に取り込むためのウィルス融合ペプチドの融合性ドメインの例には、以下のものが含まれる:
1.インフルエンザ HA2(配列番号14) GLFGAIAGFIENGWEG;
2.センダイ F1(配列番号15) FFGAVIGTIALGVATA;
3.呼吸器合胞体ウイルス F1(配列番号16) FLGFLLGVGSAIASGV;
4.HIV gp41(配列番号17) GVFVLGFLGFLATAGS;及び
5.エボラ GP2(配列番号18) GAAIGLAWIPYFGPAA。
【0100】
本発明の更なる態様では、本発明の方法及び組成物の範囲内において、ポリペプチド−siNA複合体の形成を促進して、及び/又はsiNAの送達を促進する、DNA結合ドメイン又はモチーフを取り込むポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドが提供される。この文脈における例示的なDNA結合ドメインには、DNA結合性制御タンパク質及び以下で同定された他のタンパク質に関して、以下の文献に説明されるような、種々の「ジンクフィンガ」ドメインが含まれる(例えば、Simpsonら,J.Biol.Chem.275:28011−28018,2003)。
【0101】
表1
【0102】
*上記表には、C−x(2,4)−C−x(12)−H−x(3)−Hというモチーフパターンにより特徴付けられ、それ自体を用いて、本発明に係る更なるポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドを選択して設計可能な、2本鎖DNA結合用の保存されたジンクフィンガモチーフが示されている。
【0103】
**表1に、Sp1、Sp2、Sp3、Sp4、DrosBtd、DrosSp、CeT22C8.5、及びY4pB1A.4として示される配列は、本明細書において、それぞれ配列番号19、20、21、22、23、24、25、及び26と定める。
【0104】
本発明のポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドを構築するために有用な別のDNA結合ドメインの例には、例えば、HIV Tatタンパク質配列の一部分が含まれる(下記実施例を参照)。
【0105】
本明細書で下記に記載する本発明の例示的態様において、ポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドは、先に記載したあらゆる構造要素、ドメイン又はモチーフを、標的細胞内へのsiNAの送達を効果的に促進する1本のペプチドへと組み合わせることにより、合理的に設計して構築することができる。例えば、TATポリペプチドのタンパク質導入ドメインが、HA2と称されるインフルエンザウィルスのヘマグルチニンタンパク質のN末端の20個のアミノ酸に融合され、本明細書の例示的ポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドの1つが得られた。本開示では、種々の別のポリヌクレオチド送達促進ポリペプチド構築物も提示されており、本発明の概念を広く適用することで、siNA送達を促進するために効果的なポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドの多様な集合が作り出されて用いられることを証明している。
【0106】
本発明の更なる例示的なポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドは、以下のペプチドから選択することができる:
WWETWKPFQCRICMRNFSTRQARRNHRRRHR(配列番号27);
GKINLKALAALAKKIL(配列番号28)、RVIRVWFQNKRCKDKK(配列番号29)、
GRKKRRQRRRPPQGRKKRRQRRRPPQGRKKRRQRRRPPQ(配列番号30)、
GEQIAQLIAGYIDIILKKKKSK(配列番号31)、ポリLys−Trp、4:1、分子量20,000−50,000;及びポリOrn−Trp、4:1、分子量20,000−50,000。本発明の組成物及び方法の範囲内で有用な、更なるポリヌクレオチド送達促進ポリペプチドには、メリチンタンパク質配列の全部又は一部が含まれる。
【0107】
本発明は、下記の実施例により例示されるが、これは、請求項に記載される本発明の範囲を制限するものではない。
【0108】
実施例1
粘膜送達−透過動態及び細胞毒性器官モデル(Organotypic Model)
以下の方法は、一般的に、生物活性治療剤、及び哺乳動物の対象内の上皮ジャンクションの構造及び/又は生理機能を調節して可逆的に粘膜上皮の傍細胞輸送を促進する、粘膜送達を可逆的に促進するのに効果的な量の透過化処理ペプチドの粘膜送達パラメータ、動態及び副作用を評価するのに有用である。
【0109】
EpiAirwayTMシステムが、偽重層上皮層気道(pseudostratified epithelium lining the respiratory tract)のモデルとして、MatTek Corp(アッシュランド、マサチューセッツ州)により開発された。該上皮細胞層を、底が多孔性膜の細胞培養インサート上で、空気−液体境界面にて成長させると、結果として、細胞が非常に極性を帯びた形態へと分化する。頂端部表面は、微絨毛超微細構造の繊毛を有し、該上皮は、粘液を生産する(ムチンの存在がイムノブロッティング法により確認された)。インサートは、0.875cmの直径を有し、0.6cm2の面積を提供する。細胞は、出荷の約3週間前に工場でインサート上に播種される。1つの「キット」は、24個のユニットからなる。
【0110】
A.到着したら、ユニットを6ウェルマイクロプレート中の滅菌支持体上に置く。各ウェルは5mLの有標の培養培地を受容する。このDMEMを基礎とする培地は、血清を含まないが、上皮成長因子及び他の因子が補充されている。培地は、毎回、鼻腔内送達に関して考えられるあらゆるサイトカインと成長因子の内在濃度について試験されるが、現在まで、インシュリン以外で実験されたサイトカイン又は因子は皆無であった。5mLの体積は、ユニットの高さにおいて、基底部分との接触を提供するが、上皮の頂端部表面は、直接空気と接触したままにさせるのに丁度十分な量である。本工程と、ユニットの底部と培地の間に絶対に空気が入らないようにユニットを液体含有ウェルに移すことを伴う後の全ての工程において、滅菌されたピンセットを用いる。
【0111】
B.プレート中のユニットを、インキュベータ内で5%CO2の大気中に37℃で、24時間維持する。この時間の終了時に培地を新鮮な培地と交換し、ユニットをインキュベータに戻して更に24時間維持する。
【0112】
実験プロトコル−透過動態
A.24個のEpiAirwayTMユニットの「キット」は、各製剤が4つのウェルに重複して適用される、5種類の異なる製剤の評価に、通常用いることができる。各ウェルは、透過動態(4時点)、経上皮電気抵抗(TER)の測定に用いられる。余った一連のウェルは、透過動態の測定中に擬処理されるコントロールとして用いられるが、それ以外では、経上皮抵抗と生存率を測定するための試験サンプル含有ユニットと同様に取り扱われる。
【0113】
B.全ての実験において、試験される粘膜送達製剤は、頂端部表面全体を覆うのに十分な100μLの量で、各ユニットの頂端部表面に適用される。頂端部表面に適用された濃度にある適量の試験製剤(通常100μL以下を要する)を、後のELISA又は他の指定アッセイによる活性物質の濃度測定のために取っておく。
【0114】
C.ユニットは、実験まで待つことなく6ウェルプレート中に静置する:各ウェルは、0.9mLの培地を含み、この量であれば、ユニットの多孔性膜の底部に接触するのに十分だが、上面には何ら有効な静水圧が生じない。
【0115】
D.潜在的な誤差源を最小化して、濃度勾配の形成を回避するため、本試験の各時点において、ユニットを、一の0.9mL含有ウェルから他のウェルへと移す。これらの移動は、100μLの量の試験物質が、頂端部表面に適用された時点を時間0として基準にした、以下の時点において行う:15分、30分、60分、及び120分。
【0116】
E.各時点の間、プレート中のユニットは37℃のインキュベータ中に置いておく。各ウェルに0.9mLの培地を含むプレートも、インキュベータ内に維持することで、プレートを取り出して、滅菌ピンセットを用いてユニットを一のウェルから他のウェルに移す短い時間においても、温度に最小の変化しか生じなくなる。
【0117】
F.透過した試験物質の濃度を測定するため、並びに、該試験物質が細胞毒性を有していた場合には、上皮からの細胞質内酵素である乳酸デヒドロゲナーゼの放出のために、各時点の終了時に、各ユニットを移し出したウェルから培地を取り出し、2本の試験管分注する(一の試験管は、700μLを、他方は200μLを受容する)。これらのサンプルは、アッセイを24時間以内に行う場合には、冷蔵庫内に静置し、又は該サンプルを、更に分注して、アッセイ用に融解させるまで−80℃で凍結して維持する。凍結融解サイクルを繰り返す反復は、回避すべきである。
【0118】
G.間違いを最小にとどめるため、全ての試験管、プレート、及びウェルは、実験を始める前に事前に標識する。
【0119】
H.120分の時点の終了時に、ユニットを最後の0.9mL含有ウェルから、各ウェルに0.3mLの培地を含む24ウェルマイクロプレートに移す。この体積も、ユニットの底部に接触するのに十分だが、ユニットに対して上面の静水圧を生じさせない。ユニットを、経上皮抵抗の測定前にインキュベータに戻す。
【0120】
実験プロトコル−経上皮電気抵抗
A.呼吸気道上皮細胞は、インビボでもインビトロでもタイトジャンクションを形成し、それにより組織を横断する溶質の流れを制限する。摘出された気管組織において、これらのジャンクションは、数百オーム x cm2の経上皮抵抗を与える。MatTekのEpiAirwayTMユニットでは、経上皮電気抵抗(TER)は、製造元により、ルーチン的に、約1000オーム x cm2であると報告されている。本実施例において測定されたデータは、透過試験の一連の工程の間擬曝露されたコントロールのEpiAirwayTMユニットのTERは、これよりも多少低いものであったが(700−800オーム x cm2)、低分子の透過はTERの逆数に比例するので、この値でも、十分に高いものであり、透過に対して頑強なバリアを提供する。反対に、細胞を有しない多孔性膜の底部を有するユニットは、最小の膜間抵抗(約5−20オーム x cm2)を示すだけである。
【0121】
B.正確なTER測定では、電気抵抗計の電極が膜の上下の有効面積上に配置され、膜から電極までの距離が再現性を以て調節されることが要求される。マットテック社により推奨され、本実施例の全ての実験で採用したTER測定法では、フロリダ州、サラソタのWorld Precision Instruments,Inc.からの、EVOMTM上皮電圧抵抗計とENDOHMTM組織抵抗測定チャンバを用いる。
【0122】
C.前記チャンバには、最初、電極を平衡化するためにTER測定前の少なくとも20分間、ダルベッコリン酸緩衝食塩水(PBS)を充填しておく。
【0123】
D.TERの測定は、チャンバ内では1.5mLのPBSと、測定される膜底部を有するユニット内では350μLのPBSで行う。上端の電極を、細胞を含まないユニット(しかし、350μLのPBSを含む)の膜の直ぐ上の位置に調節し、次いで固定して再現可能な配置を確保する。細胞無しのユニットの抵抗は、典型的には、5−20オーム x cm2(「バックグラウンド抵抗」)である。
【0124】
E.チャンバを準備してバックグラウンド抵抗を記録したら、透過測定に用いた24ウェルプレート中のユニットをインキュベータから取り出し、TER測定のために個別にチャンバ内に静置する。
【0125】
F.各ユニットを、最初に、確実に膜底部を湿らせるようにPBSを含むペトリ皿に移す。350μLの分量のPBSをユニットに添加し、次いで標識した試験管内へ慎重に吸引して頂端部表面を洗浄する。350 μLのPBSによる2回目の洗浄液をユニットに添加し、同じ回収用試験管内へと吸引する。
【0126】
G.ユニットを、チャンバ(新しい1.5mLの分量のPBSを含む)内に静置する直前に、その外部表面上の過剰量PBSが無くなるように丁寧に吸水する。上端の電極をチャンバ上に配置する前に、350μLの分量のPBSをユニットに添加し、EVOMメータでTERを測定する。
【0127】
H.ユニットのTERをENDOHMチャンバ内で測定した後、該ユニットを取り出し、PBSを吸引して保管し、そして該ユニットを、頂端部表面が空気と接するように、各ウェルに0.3mLの培地を含む24ウェルプレートへと戻す。
【0128】
I.ユニットは、以下の順序に従って読み取る:全ての擬処理したコントロール、次いで、全ての製剤処理したサンプル、次いで各擬処理したコントロールの2回目のTER測定。全てのTER値は、組織の面積の関数として報告する。TERは以下に従って計算する:
【0129】
【0130】
ここで、RIは、膜を有するインサートの抵抗であり、Rbは、ブランクインサートの抵抗であり、Aは、膜の面積(0.6cm2)である。鼻腔内送達促進剤、例えば、透過化処理ペプチドを含む医薬製剤の効果は、EpiAirwayTM細胞膜(粘膜上皮細胞層)間のTERにより測定される。透過化処理ペプチドをエピエアウェイ(商標)セルメンブランに、1.0mMの濃度で適用する。コントロール値(コントロール=約1000オーム−cm2;100に基準化する)に対するTER値の低下は、細胞膜抵抗の低下と粘膜上皮細胞透過性の上昇を示す。
【0131】
実験プロトコル−LDHアッセイ
細胞死の量は、CytoTox96細胞毒性アッセイキット(Promega Corp、マジソン、ウィスコンシン州)を用いて、細胞からの乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の喪失を測定することにより評価した。50マイクロリットルのサンプルを96ウェルアッセイプレートに注入した。新しい、細胞を含まない培地をブランクとして用いた。50 μlの基質溶液を各ウェルに添加し、プレートをを暗所にて室温で30分間インキュベートした。インキュベーション後、各ウェルに50μlの停止溶液を添加し、プレートを吸光度プレートリーダにより490nmで読み取った。
【0132】
実験プロトコル−EIA法
EIAキット(商品番号S−1178(EIAH6101)は、Peninsula Laboratories Inc(BACHEM事業部、サンカルロス、カルフォルニア州、800−922−1516)から購入した。17x120mmポリプロピレンコニカルチューブ(商品番号352097、Falcon、フランクリンレイクス、ニュージャージー州)を、全てのサンプル調製に用いた。8つのスタンダードをPTH定量化に用いた。残りのアッセイ手順は、前記キットのインサートと同様であった。
【0133】
実施例2
PN159による上皮透過の促進
以下の本実施例は、PN159に例示される本発明の透過促進ペプチドが、PTH及びペプチドYYを含むペプチド治療薬物に対して粘膜透過を促進することを実証する。本発明のペプチドによるこの透過促進活性は、PN159で証明されるように、1又は複数種類の低分子透過促進剤の使用により達成される上皮透過促進と同等か、これを超えるものであろう。
【0134】
ペプチドYY3−36 (PYY3−36)は、数多くの臨床試験の対象となった、34個のアミノ酸のペプチドである。この生物活性ペプチドの粘膜送達は、低分子透過促進剤を含む製剤において促進することができる。従って、本試験では、PN159に例示される本発明の透過促進ペプチドが、低分子透過促進剤の役割に取って代わり、ペプチドYYの粘膜送達を促進できるかどうかを評価した。これらの試験には、PN159が経上皮電気抵抗(TEER)を低下させ、マーカー物質の透過を増大させるインビトロでの作用の評価と、インビトロでの結果と一致することを示すインビボでの関連試験が含まれていた。
【0135】
本実施例においては、PN159とPTHの組み合わせについて記載する。PTHは、完全長ペプチド(1−84)であるか、又は(1−34)のような断片であってもよい。製剤は、PTH、透過化処理ペプチド、及び1又は2種類以上の他の透過促進剤との組合せであってもよい。また、製剤には、緩衝剤、等張化剤、pH調整剤、及びアミノ酸、糖若しくはポリオール、ポリマ、及び塩といった、ペプチド/タンパク質安定剤を含んでいてもよい。
【0136】
本試験は、PTHの透過に対する、PN159単独又は他の透過促進剤との組合せでの効果を評価するように設計された。評価したPN159濃度は、25、50、及び100 μMである。他の透過促進剤は、45mg/mlのM−β−CD、1mg/mlのDDPC、及び1mg/mlのEDTAである。ソルビトールを等張化剤(146−190 mM)として用いて、製剤のオスモル濃度を220mOsm/kgに調整した。製剤のpHを4.5に定めた。本実施例におけるモデルペプチドとしてPTHを選んだ。2mg/mlのPTHを、他の透過促進剤有り又は無しでPN159と共に配合した。インビトロの上皮組織モデルを用いて、該配合物を試験し、PTHの透過、経上皮電気抵抗(TER)をモニタし、及びLDHアッセイにより製剤の細胞毒性をモニタした。
【0137】
経上皮電気抵抗
本試験のTER測定の結果は、80%を超えるTERの減少が、PN159により生じたことを示す。より高いPN159濃度において、より大きなTER低下が観測された。頂端部側面に添加した培地はTERを減少させなかったが、triton Xで処理されたグループは、予想通り、大幅なTER低下を示した。
【0138】
細胞毒性
本試験のLDHのデータは、細胞を25−100μMのPN159で処理した際に、有意な細胞毒性が観察されなかったことを示す。頂端部側面に添加した培地は細胞毒性を示さなかったが、Triton Xで処理されたグループは、予想通り、著しい細胞毒性を示した。
【0139】
透過
他の促進剤有り又は無しの場合の、PN159についてのPTH1−34透過データを図1及び2にそれぞれ示す。PN159の存在下で有意なPTH透過の増大が観察された。25、50、及び100μMのPN159の間に、透過%の有意差は観察されなかった。PTH透過に対するPN159の効果は、45/1/1mg/ml のM−β−CD/DDPC/EDTAと同程度のものである。45/1/1mg/ml のM−β−CD/DDPC/EDTAとPN159の組み合わせにおいて、PTH透過の更なる増大が観察された。
【0140】
実施例3
PN159による、低分子透過促進剤と同等又はこれを超えるペプチドホルモン治療剤に対するインビボでの透過促進
生後3−6ヶ月で体重が2.1−3.0kgにあるオスのニュージーランド白色ウサギ(New Zealand white rabbit)20羽を、各グループが4体の動物からなる5種類の処理グループのいずれかに無作為に振り分けた。試験動物に、ピペットを用いて、15μl/kgを鼻腔内投与した。下記の表5に、5種類の異なる投与グループの組成を示す。
【0141】
投与グループ1(表2参照)には、低分子透過促進剤を含むPYYの臨床用製剤を用いた。これらの試験における低分子促進剤には、メチル−βシクロデキストリン、ホスファチジルコリンジデカノイル(DDPC)、及び/又はEDTAが含まれていた。 投与グループ2は、リン酸緩衝食塩水(PBS)に溶解されたPYYを摂取した。投与グループ3−5では、種々の濃度のPN159を投与グループ2のものに添加し、それによって、投与グループ3−5のそれぞれは、PYY、PN159、及びPBSから構成された。
【0142】
表2
【0143】
一連の血液サンプル(それぞれ約2ml)を、末梢耳静脈からの直接静脈穿刺により、抗凝固剤としてEDTAを含む血液回収用試験管内へと回収した。血液サンプルは、投与後から0、2.5、5、10、15、30、45、60、及び120分後に回収した。血液回収後、抗凝固のために該試験管を複数回緩やかに振って、50μlのアプロチニン溶液を添加した。血液を、約4℃にて、約1,600 x gで15分間遠心し、血漿サンプルを2つの重複する分量にて分注して約−70℃で凍結保存した。
【0144】
処理グループ中の4体の動物を平均化すると、以下のPYY血漿濃度が測定された(表3):
【0145】
表3
【0146】
上記データから計算された薬物動態データを、下記表4に示す:
【0147】
表4
【0148】
グループ2(促進剤無し)の製剤との比較により、以下の相対的な促進率が決定された(表5):
【0149】
表5
【0150】
先のデータは、グラフを用いて図3に描かれており、PN159に例示される本発明の透過化処理ペプチドは、低分子透過促進剤と比較しても同程度かこれを超える程度に、ヒトホルモンペプチド治療剤のインビボでの鼻腔内透過を促進できることを示している。該ペプチドの最大の効果は、50μMの濃度において見られる。100μMの濃度では、50μMと共に低分子透過促進剤よりも高い透過を生じているが、結果として50μMよりも多少低い透過となっていた。
【0151】
実施例4
PN159による、オリゴペプチド治療剤に対する透過促進
本実施例は、本発明の例示的ペプチド、PN159が、哺乳動物細胞レセプタに対するオリゴペプチドアゴニストのモデルである、環状ペンタペプチドのメラノコルチン−4レセプタアゴニスト(MC−4RA)の上皮透過を促進する効力を示す。本実施例では、1又は2種類以上の透過処理ペプチドとMC−4RAの組み合わせについて記載する。この文脈における有用な製剤には、オリゴペプチド治療剤、透過化処理ペプチド、及び1又は2種類以上の他の透過促進剤の組み合わせが含まれていてもよい。また、製剤には、緩衝剤、等張化剤、pH調整剤、並びにアミノ酸、糖若しくはポリオール、ポリマ、及び塩といった、ペプチド/タンパク質安定剤が含まれていてもよい。
【0152】
本試験では、MC−4RAの透過に対するPN159の作用を評価した。MC−4RAは、約1,100Daの分子量を有し、MC−4レセプタの活性を調節するメタンスルホン酸塩であった。評価したPN159濃度は、5、25、50及び100μMである。45mg/mlのM−β−CDを全ての製剤で可溶化剤として用いることで、10mg/mlのペプチド濃度が達成された。PN159の作用は、単独又はEDTA (1、2.5、5、又は10mg/ml)との組合せのいずれかにおいて評価した。製剤のpHを4に定め、オスモル濃度は、220mOsm/kgであった。
【0153】
HPLC法
側底部培地中のMC−4RAの濃度を、C18 RP クロマトグラフィを1mL/分の流速と25℃のカラム温度で用いたPR−HPLCにより分析した。
溶媒A:水中の0.1%TFA; 溶媒B:ACN中の0.1%TFA
注入量:50μL
検出:220nm
測定時間:15分
MC−4RAは、pH4でオスモル濃度が〜220mOsm/kgの、5、25、50及び100μMのPN159と配合した。インビトロでの上皮組織モデルを用いて、該配合物を試験し、PTHの透過、経上皮電気抵抗(TER)をモニタし、さらにMTT及びLDHアッセイにより製剤の細胞毒性をモニタした。
【0154】
MC−4RAの透過試験の結果を図4に示す。これらの試験から、PN159は、ペプチドホルモン治療剤の粘膜透過の促進に加え、オリゴペプチド治療剤の上皮透過も顕著に促進することが証明される。
【0155】
実施例5
PN159による、低分子薬物に対する透過促進
本実施例は、本発明の例示的ペプチド、PN159が、アセチルコリンエステラーゼ(ACE)の阻害物質であるガランタミンに例示される低分子薬物の上皮透過を促進する効力を示す。本実施例では、1又は2種類以上の透過処理ペプチドと低分子薬物の組み合わせについて記載する。この文脈における有用な製剤には、低分子薬物、透過化処理ペプチド、及び1又は2種類以上の他の透過促進剤の組み合わせが含まれていてもよい。また、製剤には、緩衝剤、等張化剤、pH調整剤、安定剤及び/又は保存剤が含まれていてもよい。
【0156】
本発明では、ガランタミンをPN159と組み合わせて、鼻粘膜間のガランタミンの透過を促進する。ガランタミンは、単独で鼻上皮膜を透過可能な低分子であるから、上記薬物透過の増大は予期せぬものである。従って、ペプチドの透過を促進する賦形剤の添加により媒介されるガランタミンの上皮透過の有意な促進は、このような賦形剤は、通常ガランタミンの上皮組織層の透過を有意に増大させると予想されないという前提から、驚くべきことである。従って、本発明は、ガランタミン及び他の低分子薬物のバイオアベイラビリティを増大させることにより、これらの経鼻送達を促進することになる。
【0157】
本試験において、乳酸塩の形態にある40mg/mlのガランタミンを、pH5.0でオスモル濃度が〜270mOsm/kgの溶液中で、25、50及び100μMにあるPN159と配合した。上記のように、インビトロでの上皮組織モデルを用いて、該配合物を試験し、ガランタミンの透過、経上皮電気抵抗(TER)をモニタし、さらにLDH及びMTTアッセイにより製剤の細胞毒性をモニタした。ガランタミンの透過測定は、以下のように、標準的なHPLC分析により行った。
【0158】
HPLC分析
製剤及び側底部培地(透過サンプル)中のガランタミン濃度を、UV検出を用いたアイソクラティックLC(Waters Alliance)法により測定した。
カラム:Waters Symmetry Shield、C18、5um、25 x 0.46cm
移動相:50mMギ酸アンモニウム中の5%ACN、pH3.0
流速:1ml/分
カラム温度:30℃
検量線:0−400μg/mlガランタミンHBr
検出:285nmのUV
【0159】
先の試験によれば、PN159は低分子の経粘膜送達を向上させる。低分子量薬物のモデルとしてガランタミンを選択したが、この分子に関する結果は、他の低分子薬物に対する透過化処理ペプチドの活性を予測するものであると考えられる。この文脈における透過化活性を評価するため、乳酸塩の形態にある40mg/mlのガランタミンを、pH5.0でオスモル濃度が〜270mOsm/kgの溶液中で、25、50及び100μMにあるPN159と配合した。インビトロでの上皮組織モデルを用いて、該配合物を試験し、ガランタミンの透過、経上皮電気抵抗(TER)をモニタし、さらにLDH及びMTTアッセイにより製剤の細胞毒性をモニタした。
【0160】
インビトロ組織モデルにおいて、PN159の添加により、細胞障壁間の薬物透過に劇的な増大が生じた。具体的には、40mg/mlのガランタミンにより、Pappに2.5−3.5倍の増加が認められた。(図5)
【0161】
PN159は、ガランタミンの存在下において、実施例IIに記載されるのと全く同様に、TERを低下させた。
乳酸ガランタミン(galantamine lactate)及び試験した全ての濃度でのPN159の存在下では、細胞生存率が高く維持された(80%を超える)。反対に、LDHで測定したところ、PN159と乳酸ガランタミン(galantamine lactate)の存在下では細胞毒性は低かった。これら両方のアッセイにより、PN159が上皮膜に対する毒性を有しないことが示される。
【0162】
先の結果をまとめると、本実施例において、PN159は、低分子量薬物のモデルとしてのガランタミンの上皮透過を驚くほど増大させることが実証された。溶液中でのガランタミンへのPN159の添加により、上皮単層間のガランタミン透過が有意に促進される。PN159は、高い細胞生存率と低い細胞毒性により測定されるように、上皮膜中の細胞に害を与えることなく上皮膜間のTERを一時的に低下させることが証拠により示されている。したがって、PN159は、インビトロのモデルを用いてここに示されたのと同様のメカニズムにより、インビボでガランタミン及び他の低分子薬物のバイオアベイラビリティを促進する代表的なペプチドである。更に、PN159がより高い濃度でもガランタミンの透過を促進するであろうことが予想される。
【0163】
化学的安定性
PN159の化学的安定性を、治療に適切な保存条件下において測定した。stability−indicating HPLCメソッドを用いた。溶液(50mM)を種々のpH(4.0、7.3、及び9.0)と温度(5℃、25℃、35℃、40℃及び50℃)の条件下で保存した。pH4のサンプルは、10mMのクエン酸バッファを含んでいた。pH7.3と9.0のサンプルは、10mMのリン酸バッファを含んでいた。代表的な保存安定性データ(アレニウスのプロットを含む)を図6に示す。図に示すように、PN159は、低温及び低pHで最も化学的に安定していた。例えば、5℃でpH4.0又はpH7.3では、6ヶ月の保存で、事実上100%のPN159回収率が認められた。保存温度を25℃に高めた場合、pH4又はpH7のサンプルでは、6ヶ月後に、それぞれ7%と26%の元のPN159の喪失が認められた。pH9で、更に/又は例えば40ないし50℃の高温においては、迅速なPN159の劣化が生じた。4.0ないし7.3のpH範囲と、冷蔵から周囲温度までの温度の範囲が、鼻腔内用製剤に最も適している。従って、これらのデータは、鼻腔内用製剤に適切な保存条件下において、PN159が化学的保全性を維持できることを示す。透過した薬物対時間の比率に顕著な増大が見られた。これらのデータを用いて、表6に示す透過性定数(Papp)を計算した。
【0164】
表6
【0165】
PN159が存在しない場合、ガランタミンのPappは、約2.1x10−6cm/秒であった。25、50及び100mMのPN159が存在する場合、Pappは、それぞれ、5.1x10−6、6.2x10−6、及び7.2x10−6cm/秒であった。従って、PN159は、この低分子量薬物のモデルに、2.4倍ないし3.4倍のPappの増加を提供した。
【0166】
低分子量化合物からなる経粘膜製剤に対するPN159の有用性を確証したので、これらの知見から、例えば治療用ペプチド及びタンパク質等の、より大きな分子についても同様のことが推定できるかどうかを確認することが重要であった。この目的のため、治療用ペプチドのモデルとしてのサケカルシトニンを用いて、25、50及び100mMのPN159が存在しない、又は存在する場合において、インビトロでの組織試験を行った。PN159が存在しない場合、カルシトニンのPappは、約1x10−7cm/秒であり、ガランタミンよりも約一桁小さい値であったが、恐らく、分子量の差によるものであろう。データから、PN159の存在下でのカルシトニン透過の劇的な増大が明らかとなり、カルシトニン単独の場合と比較して、Pappが最大で23倍ないし47倍増加していた(表6)。
【0167】
これらの発見の普遍性を探索すべく、更なる2種類のペプチド、即ちヒト副甲状腺ホルモン1−34 (PTH1−34)及びヒトペプチドYY3−36 (PYY3−36)を、PN159が存在しない状態及び存在する状態で、インビトロモデルにて試験した(表6に示すPappデータ)。PN159が存在しない場合、これら2種類のペプチドのPappは、カルシトニンのPappと一致するものであった。PTH1−34の場合、PN159の存在により、Pappは約3−5倍増大した。PYY3−36をPN159の存在下で製剤した場合、Pappは約12倍ないし17倍増大した。これらのデータにより、PN159が、経粘膜薬物送達に有用性を有するという我々の発見の普遍性が確認される。
【0168】
実施例6
PN159のD−アミノ酸型
表7に列挙するD−アミノ酸置換PN159ペプチドを合成して精製し、上記の実施例に記載する方法を用いて、これらがTER及び透過性を促進する能力について試験した。
【0169】
表7
【0170】
PN407は、軽微ではあるが、統計上有意な透過の向上を示す。PN159の全てのD型及びレトロ−インベルソ型は、TER回復の低下を示し、インビボでの送達に有用であろう、長期的なTER低下効果を示唆している。ランダムD置換(PN434)は、TER低下及び透過性促進の両方において、活性の無いものを生じさせる場合がある。
【0171】
実施例7
PN159の長さの変化
表8に列挙する長さの変化を有するPN159ペプチドを合成して精製し、上記の実施例に記載する方法を用いて、これらがTER及び透過性を促進する能力について試験した。
【0172】
表8
【0173】
結果は、PN159の長さが、そのTER低下及び透過活性促進に重要であることを示す。PN159の20アミノ酸への伸長は、TER低下効果を向上させたが、透過効果を低下させた。TER回復は、より遅いものである。PN159の16アミノ酸への短縮は、TER低下に何らの効果も示さなかったが、透過効果を低下させた。PN159の14アミノ酸への短縮は、大幅に透過効果を低下させ、PN159の長さが透過性に重大なものであることを示している。透過作用とは対照的に、PN159の長さによるTER低下への効果は、比較的緩やかなものである。
【0174】
実施例8
PN159中のトリプトファン及びアルギニン置換
表9に列挙するアミノ酸置換を有するPN159ペプチドを合成して精製し、上記の実施例に記載する方法を用いて、これらがTER及び透過性を促進する能力について試験した。
【0175】
表9
【0176】
結果は、アルギニングのアニジニウム頭部基が、リシン及びヒスチジンよりも効果的であることを示す。トリプトファンは、水−膜境界において選択的なアミノ酸である。PN407は、軽微ではあるが、統計上有意な透過の向上を示す。リシンをアルギニンで置換すると、大幅に透過性が低下するが、TER低下に与える影響は比較的小さく、透過性に関するリシンの重要性が示唆される。10番目のアミノ酸のアラニンのアスパラギンとの単一置換は、透過性を失わせ、PN159の活性に関するαへリックスの重要性を示している。
【0177】
実施例9
PN159の疎水性変化
表10に列挙するアミノ酸置換を有するPN159ペプチドを合成して精製し、上記の実施例に記載する方法を用いて、これらがTER及び透過性を促進する能力について試験した。
【0178】
表10
【0179】
PN159は280度の疎水性面を有する。結果は、疎水性面の減少が、PN159活性の低下を生じる場合があることを示す。また、PN159の両親媒性も、その活性に重要である。
【0180】
インビトロでの方法及びプロトコル
各TJMPを、経上皮電気抵抗(TER)、TER回復、細胞毒性(LDH)、及びサンプル透過(EIA)についてアッセイした。細胞培養条件及び各アッセイのプロトコルは、下記で詳細に説明する。
【0181】
実施例10
インビトロでの方法及びプロトコル
タイトジャンクション調節ペプチド又はTJMPは、上皮細胞間に隙間を生じさせて上皮の障壁機能を低下させる効果により、タイトジャンクションの結合性を弱めることができるペプチドである。タイトジャンクション結合性の状態は、ヒト鼻上皮組織モデルシステム間の電気抵抗のレベルとサンプル透過度を測定することにより、インビトロで評価することができる。電気抵抗の低下と透過の促進は、タイトジャンクションが弱められ、上皮細胞間に隙間が生じたことを示す。実際、(TER)低下と呼ばれる組織膜間の電気抵抗の測定される低下を誘起し、組織膜を通る低分子の透過の向上を促進するペプチドは、TJMPとして分類される。加えて、TJMPの細胞毒性レベルを評価することにより、これらのペプチドが、例えば、鼻腔内薬物送達等の粘膜表面を横断する薬物送達において、タイトジャンクション調節ペプチドとして機能することができるかどうかが決定される。
【0182】
本発明の代表的ペプチドをスクリーニングするために用いたアッセイ(実施例25の表23を参照)を、本実施例に記載する。これらのアッセイには、経上皮電気抵抗(TER)、細胞毒性(LDH)、及びサンプル透過が含まれる。また、使用した試薬及び細胞培養条件も記載する。
表11に、これ以降の実施例で用いたサンプル試薬を例示する。
【0183】
表11
【0184】
細胞培養
EpiAirwayTMシステムが、偽重層上皮層気道のモデルとして、MatTek Corp(アッシュランド、マサチューセッツ州)により開発された。該上皮細胞を、底が多孔性膜の細胞培養インサート上で、空気−液体境界面にて増殖させると、結果として、細胞が非常に極性を帯びた形態へと分化する。頂端部表面は、微絨毛超微細構造の繊毛を有し、該上皮は、粘液を生産する(ムチンの存在がイムノブロッティング法により確認された)。細胞は、出荷の約3週間前に工場でインサート上に播種される。
【0185】
EpiAirwayTM培養膜は、実験を開始する1日前に受け取った。これらの培養膜は、フェノールレッド不含かつヒドロコルチゾン不含の、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium) (DMEM)中で出荷された。細胞は、繊毛を有する偽重層であり、ポリカーボネートフィルタシステムからなるミリポアマルチスクリーンCaco−2 96ウェルアッセイシステム(Millipore Multiscreen Caco−2 96−well assay system)上でコンフルエントまで増殖されている。受け取りの後、該インサートシステムを、未開封のまま4℃で保存し、及び/又は各ウェルに250μlの基礎培地(フェノールレッド不含かつヒドロコルチゾン不含のダルベッコ改変イーグル培地 (DMEM))中で、37℃/5%CO2にて、使用前まで24−48時間培養する。
【0186】
このモデルシステムを用いて、TJMPがTEERを調節し、細胞毒性に作用し、そして上皮細胞単層の透過を促進する効果を評価した。
【0187】
MatTek Corp(アッシュランド、マサチューセッツ州)の細胞株が、正常なヒト由来気管/気管支上皮細胞(EpiAirwayTM組織モデル)の供給源となる。該細胞は、透明な親水性のテフロン(PTEE)からなるミリポア−ミリセル−CMフィルタ(Millipore Millicell−CM filter)上にコンフルエントになるまで増殖されたインサートとして提供される。受け取りの後、該膜を、1mlの基礎培地(フェノールレッド不含かつヒドロコルチゾン不含のダルベッコ改変イーグル培地 (DMEM))中で、37℃/5%CO2にて、使用前まで24−48時間培養する。インサートを、各回収の日のために培養する。
【0188】
マディンダービ(Madin−Darbey)イヌ腎細胞(MDCK)、ヒト腸上皮細胞(Caco−2)、及びヒト気管支上皮(16HBE14o−)細胞を、Millipore社のマルチスクリーンCaco−2 96ウェルインサート(Millipore Multiscreen Caco−2 96−well insert)上に播種した。これらの細胞を単層で、エピエアウェイ上皮細胞と同様の条件下で増殖させた。
【0189】
ペプチド合成
ペプチド合成は、ノヴァバイオケムTGRレジン(NovaBiochem TGR resin)を用いて50umolのスケールでレイニンシンフォニー(Rainin Symphony)シンセサイザーで行った。DMF中の20%のピペリジンで10分間の処理を2回繰り返すことにより脱保護を行った。脱保護の後、レジンを、5%のHOBtを含有する10mLのDMFで1回洗浄し(30秒間)、そして10mLのDMFで4回洗浄した(30秒間)。DMF中の5倍過剰量のFmocアミノ酸を反応槽へ供給し、続いて、6.25倍過剰量のN−メチルモルホリンと5倍過剰量のHCTUを含有する活性剤溶液を等量供給することによりカップリングを行った。本合成を通じて、40分間のカップリング時間を用いた。第1のカップリング反応の後で、第2のカップリング工程を開始する前に、レジンを10mLのDMFで2回洗浄した(30秒間)。PEG化ペプチドについては、ペプチド合成の終了後に、N末端Fmoc基を取り除き、2倍等量のDMF中のO−(N−Fmoc−2−アミノメチル)−O’−(2−カルボキシエチル)−ウンデカエチレングリコールを、反応槽に手動で添加した。手動で2倍等量の活性剤溶液を反応槽に供給し、カップリングを一晩進行させた。殆どの場合、97%を超えるカップリング効率が達成され、全ての未反応ペプチドは無水酢酸によりキャッピングされた。
【0190】
個々の反応槽にて、10mLの2.5%TIS含有TFA、2.5%水を供給し、続いて穏やかに3時間窒素撹拌することにより開裂を行った。開裂溶液を自動的にコニカルチューブへ回収させて貯蔵し、減圧下で蒸発させることにより体積を減少させた。生じた溶液を、過剰量の冷却エーテルで粉砕し、濾過して、冷却エーテルで十分に洗浄した。乾燥後、粗ペプチドをミリポア水に溶解させ、乾燥するまで凍結乾燥した。
【0191】
FITC(フルオレセイン−5−イソチオシアネート)−デキストラン透過アッセイ
分子量3000を有するFITC標識デキストラン(FD3)を用いて、個々のTJMPの上皮細胞単層透過に対する効力を評価した。組織インサートプレートを、基礎培地として200μlのDPBS++を含む96ウェルレシーバプレートに移した。各組織培養インサートの頂端部表面を、20μlの単一の試験製剤のサンプル(試験製剤の詳細については実施例25の表24を参照)と共に、暗室内でシェーカ(〜100rpm)上にて37℃で1時間インキュベートさせた。1時間のインキュベーション時間の後、下層にある基礎培地サンプルを各組織培養インサートから取り出し、蛍光分光法によりFD3濃度を定量するまで、暗室内にて室温で一時的に保存した。FD3測定のために、150μlの基礎培地サンプルを、黒色で、透明の底を有する96ウェルプレートに移した。Biotek Instruments社のFLx800蛍光プレートリーダを用いて、485/20の励起後の528/20の蛍光放出を測定した。
【0192】
透過は、以下に従って計算した:
【0193】
透過の式の用語は、以下のように定義される:
Cb:側底部濃度
Ca:頂端部濃度
Vb:側底部量
Va:頂端部量
SA:フィルタ面積
dt:経過時間
【0194】
各組織インサートを、1mlのMatTek基礎培地を含む個別のウェル内に静置する。インサートの頂端部表面に、25μlの試験製剤を、試験設計に従って適用し、該サンプルを、37℃にてシェーカ(〜100rpm)上に1.5時間置く。FITC標識デキストラン溶液をインサートの頂端部表面に添加し、インキュベーション時間経過後に、側底部培地を用いて蛍光測定を行う。FITC−デキストランの濃度は、細胞に与えた開始材料の百分率として表わされる。分子量4000を有するFITC標識デキストラン(MW4000)を用いて、個々のTJMP透過の積み荷サイズ(cargo size)の限界を評価した。サイズ限界試験を行うために、種々のサイズのFITC標識デキストランが利用可能であることに注意すべきである。
【0195】
経上皮電気抵抗(TER)及びTER回復
TER測定は、電極リードを有するEVOM上皮電圧抵抗計(EVOM Epithelial Voltohmmeter)(World Precision Instruments社、サラソタ、フロリダ州)に連結されたエンドーム−12組織抵抗測定チャンバ(Endohm−12 Tissue Resistance Measurement Chamber)を用いて行う。キャリブレーションをチェックする前に、電源をオフにして電極と組織培養ブランクインサートをMatTek培地中にて、少なくとも20分間平衡化させる。バックグラウンドの抵抗を、エンドーム(Endohm)組織チャンバ中の1.5mlの培地と、ブランクインサート中の300μlの培地を用いて測定する。先端電極を、インサートの膜の上面の近傍に、接触しないように調節する。ブランクインサートのバックグラウンド抵抗は、約5−20オームとなるはずである。各TER測定において、300μlのMatTek培地をインサートに添加し、これに続いて、エンドームチャンバ中に静置する。全てのTER値は、組織の表面積の関数として報告する。
【0196】
TERは、以下に従って計算した:
【0197】
ここで、RIは、膜を有するインサートの抵抗であり、Rbは、ブランクインサートの抵抗であり、Aは、膜の面積(0.6cm2)である。コントロール値(コントロール =約1000オーム−cm2;100に基準化する)に対するTER値の低下は、細胞膜抵抗の低下と粘膜上皮細胞透過性の上昇を示す。
【0198】
TER回復に関しては、処理の1、3、5、及び21時間後にTERを測定した。TERのパーセンテージは以下に従って計算した:
【0199】
【0200】
ある態様において、TER測定は、電極リードを有するREMSオートサンプラ(REMS Autosampler)(World Precision Instruments社、サラソタ、フロリダ州)を用いて行った。キャリブレーションをチェックする前に、電源をオフにして電極と組織培養ブランクインサートをMatTek Air−100TM培地中にて、少なくとも20分間平衡化させる。インサートシステムのバックグラウンド抵抗は、ブランクインサートプレートの複数回の測定により確証し、同値を標準値として各試験に用いた。インサートを試験製剤とインキュベートする前に、時刻ゼロのTER(TER0)を測定した。先端電極を、インサートの膜の上面の近傍に、接触しないように調節する。ブランクインサートのバックグラウンド抵抗は、約5−20オームとなるはずである。各TER測定において、100μlのMatTek Air−100TM培地をインサートに、250μlを基底ウェル(basal well)内に添加し、これに続いて、エンドーム(Endohm)チャンバ中に静置する。全てのTER値は、組織の表面積の関数として報告する。抵抗を、オーム*cm2及び初期TER値の百分率の両方で表わした。
【0201】
抵抗値は以下に従って計算した:
【0202】
TER計算の式の用語は、以下のように定義される:
TER0:時刻ゼロでのTER測定値
TERt:試験製剤とのインキュベーション後の時刻tでのTER測定値
ブランク:バックグラウンド抵抗測定値
コントロール値に対するTERの低下は、細胞膜抵抗の低下と粘膜上皮細胞透過性の上昇を示す。
【0203】
細胞毒性(LDHアッセイ)
細胞死の量は、サイトトックス96細胞毒性アッセイキット(CytoTox 96 Cytoxicity Assay Kit)(Promega Corp、マジソン、ウィスコンシン州)を用いて、細胞からの乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の喪失を測定することにより評価する。50マイクロリットルのサンプルを96ウェルアッセイプレートに注入する。新しい、細胞を含まない培養培地をブランクとして用いる。50マイクロリットルの基質溶液を各ウェルに添加し、そして該プレートを暗所にて室温で30分間インキュベートする。インキュベーション後、各ウェルに50μlの停止溶液を添加し、プレートを吸光度プレートリーダにより490nmで読み取る。側底部培地へのLDHの放出の測定値は、サンプルの相対的細胞毒性を示す。コントロールのインサートの、0.3%オクチルフェノールポリ(エチレングリコールエーテル)x(TritonX−100)による100パーセントの溶解により、LDH値が全溶解のパーセンテージで表わされることになる。
【0204】
これに代わり、細胞毒性は、WST−1アッセイにより測定することもできる。WST−1アッセイでは、細胞の生存率が、ミトコンドリアの代謝活性に基づいて測定される。ペプチド処理、洗浄、及び処理の10分後でのTER測定の後に、細胞単層の頂端部側面を、WST−1試薬(Roche社)を用いて37℃で4時間インキュベートした。マイクロプレートリーダを用いて、OD450nmで頂端部の細胞上清を測定した。値%=サンプルOD450/培地コントロールOD450。
【0205】
ある態様において、細胞死の量は、サイトトックス96細胞毒性アッセイキット(CytoTox 96 Cytoxicity Assay Kit)(Promega Corp、マジソン、ウィスコンシン州)を用いて、細胞から頂端部培地への乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出を測定することにより評価した。リン酸緩衝食塩水(PBS)に希釈された1%オクチルフェノールポリ(エチレングリコールエーテル)x(TritonX−100TM)は、100%の培養細胞溶解を生じ、本試験において、LDHアッセイのポジティブコントロールとしての役目を果たした。テスト製剤との1時間のインキュベーション時間の後(試験製剤の詳細については実施例25の表24を参照)、各インサートの総液体量を、培養培地を用いて200μlの終量にした。次いで、頂端部培地を、複数連ピペットセットを用いて4回ピペッティングして、100μlの量へと混和した。混和後、各インサートの頂端部側面からの100μlのサンプルを、新しい96ウェルプレートへと移した。頂端部培地サンプルをプレートシーラーで密封し、同日の分析のために室温で保存するか、又は翌日の分析のために4℃で一晩保存した。LDH濃度を測定するため、新しい96ウェルプレート中で、100μlの頂端部培地サンプルのうち5μlを45μlのDPBS中に希釈した。新しい、細胞を含まない培養培地をブランクとして用いる。50マイクロリットルの基質溶液を各ウェルに添加し、そして直接光を避けて室温で30分間インキュベートした。30分間のインキュベーション後、各ウェルに50 μlの停止溶液を添加した。Biotek Instruments社のuQuant吸光プレートリーダを用いて、吸光度(OD)を490nmで測定した。頂端部培地へのLDHの放出の測定値は、サンプルの相対的細胞毒性を示す。各試験製剤の細胞毒性の百分率は、個々の試験製剤の測定吸光度から、PBSコントロール(LDH放出の基底レベル)を引算し、そしてその値を1%Triton X−100のポジティブコントロールの測定吸光度で割って、100を掛けることにより算出した。
【0206】
細胞毒性の百分率を計算するために用いた式は、以下の通り:
【0207】
オスモル濃度
サンプルを、Advanced Instruments Inc.(ノーウッド、マサチューセッツ州)のモデル20200(Model 20200)により測定した。
【0208】
実施例11
インビトロで上皮タイトジャンクションを調節して上皮細胞層透過を促進するペプチド
表12は、TERアッセイ及び透過動態により測定されるように、インビトロで上皮タイトジャンクションタンパク質を調節して上皮細胞層透過を促進する、11種類のペプチドのアミノ酸配列を示す。これら実施例の目的のため、その類似した活性を理由に、PN27及びPN28の両方を代表するものとしてPN27を選択した。
【0209】
表12
【0210】
実施例12
タイトジャンクション調節ペプチドはTERを低下させる
本実施例では、種々のペプチドが、TER低下によりアッセイされるように、インビトロで上皮細胞単層中のタイトジャンクションタンパク質を調節する効力を評価した。各TJMPについて、EpiAirway上皮細胞において行った実験から得られたTERデータのまとめを、表13に示す。表中の強調された枠は、試験した濃度の範囲内で、そのTJMPについて観察された最も大きなTER低下を表す。
【0211】
表13
【0212】
PN159、PN202、PN27、及びPN283は、TERを90%超える程低下させ、PN161、PN250、PN228、PN73、及びPN58は、TERを82%ないし88%低下させた。PN28は、示されていないが、PN27と機能的に同等である。最後に、PN183は、55%のTER低下を有していた。これらのデータは、試験した全てのTJMPが、インビトロで上皮細胞タイトジャンクションを弱めることができることを示す。
【0213】
以上に加え、EpiAirway上皮細胞層がTJMPによる処理の後に回復する速度を測定するため、TER回復解析を行った。驚くべきことに、結果は、PN250、PN202、及びPN161が、試験した全てのTJMP中で最も迅速な回復時間を有することを示している。これらのデータは、TJMPの上皮細胞層に対する効果が、事実上、一過性のものであることを示す。
【0214】
実施例13
タイトジャンクション調節ペプチドのインビトロでの透過動態
本実施例では、TJMPがEpiAirway上皮細胞層透過を媒介する効果について検討した。表14は、透過百分率で示される、各TJMPの透過動態のまとめを示す。表中の強調された枠は、試験した濃度の範囲内で、そのTJMPについて観察された最も高い透過度を表す。
【0215】
表14
【0216】
これらのデータは、試験した全てのTJMPが、上皮細胞単層のインビトロでの透過を促進できることを示す。通常、透過性の度合いは、ペプチドがTERを低下させる能力と相関している。
【0217】
実施例14
タイトジャンクション調節ペプチドは、重大な細胞毒性を生じない
本実施例では、TJMPへ曝露した後の、上皮細胞への細胞毒性作用を評価した。各ペプチドによる15分間と60分間の処理の後にLDHアッセイを行った。全ての場合において、15分間処理の後には、殆ど全くLDH放出が観察されなかった。60分間処理の後では、細胞毒性レベルは試験ペプチド間で異なっていたが、許容できる範囲内にあり、試験した全てのペプチドが、重大な細胞障害を生じないことを示している。
【0218】
実施例15
タイトジャンクション調節ペプチドによるTER低下は、試験した全ての上皮細胞の種類で一致する
EpiAirway上皮細胞培養システムで観察されたTERの結果が、他の上皮細胞の種類を代表するものなのかどうかを決定するため、MDCK、Caco−2、及び16HBE14o−細胞をTJMPで処理し、TERについてアッセイした。全ての場合において、これらの細胞種で観察されたTERの結果は、EpiAirway上皮細胞で観察されたTERの結果と一致しており、これらのTJMPが、全ての上皮細胞の種類においてTERを低下させる能力を有することが示された。
【0219】
実施例16
性能に基づいて等級付けされたタイトジャンクション調節ペプチド
表15に示すように、9種類のTJMPを、その透過レベル、TER値、TER回復速度、及び細胞毒性に従って、4種類の異なる性能階層に等級付けして分類した。PN183とPN28は、表15に含めなかった。下記の表には、各TJMPの最適濃度(即ち、最も高い透過性レベルに関連し、重大な細胞毒性を示さない、最大のTER低下度)、並びに、これに対応する、ペプチドによるEpiAirway上皮細胞の15分間処理後、及びペプチドによるEpiAirway上皮細胞の60分間処理後の透過の百分率がまとめられている。加えて、15分間及び60分間の処理についてのLDH値(細胞毒性)が、各ペプチドについて示されている。またTER回復も示されている。TER回復速度は、勾配値(slope value)と直接相関している(即ち、より大きな勾配値(slope value)は、より迅速なTER回復と相関している)。
【0220】
【0221】
実施例17
タイトジャンクション調節ペプチドは、FITC−デキストランMW4000の上皮細胞単層間の透過を促進する
本実施例では、各TJMPの存在下でのFITC−デキストランMW4000の透過動態を決定するために試験を行った。この実験では、透過が、ペプチドと上皮細胞単層とのインキュベーション時間に依存するのかどうか、そして透過が貨物サイズ依存性であるのかどうかを評価した。細胞透過は、TJMP及びFITC−デキストランMW4000を用いた、15分間の細胞処理後と60分間の細胞処理後にアッセイした(図7)。PYY製剤をポジティブコントロールとして用い、リン酸緩衝食塩水(PBS)をネガティブコントロールとして用いた。ペプチドは、最も高い透過性レベルに関連し、重大な細胞毒性を示さない最大のTER低下度を示す濃度において試験した。
【0222】
同一のTJMPでは、60分間の処理で、15分間の処理よりも有意に高い透過度が示された。驚くべきことに、PN161、PN127、及びPN228は、PN159と同等の透過レベルを示した(約7.5%)。PN250、PN283、PN202、PN58のTJMPは、細胞との60分間のインキュベーションの後に、約5%の透過を達成したが、これはPN161、PN127、PN228及びPN159により達成される透過を僅かに下回るものである。これらのデータは、試験した全てのTJMPは、FITC−デキストランMW4000の透過を促進することができ、この促進は、該ペプチドが、どのくらい長く上皮細胞層と接触しているかに依存することを示す。
【0223】
先の実験は、試験したTJMPが、上皮細胞単層のインビトロでの透過を促進できることを証明する。
【0224】
実施例18
タイトジャンクション調節ペプチドによるインビトロでの透過促進は、インビボで観察される透過促進と強く相関する
インビトロのEpiAirway上皮細胞モデルシステムにおいて観察されたTJMP透過動態が、同一のTJMPについて観察されるインビボでの薬物動態データと相関するのかどうかを決定するために線形回帰分析を行った。インビトロでの透過データが、インビボでの成功についての良好な指標として機能するかどうかを決定するため、PYY及びTJMPを用いて行ったインビボでの薬物動態試験から得られた曲線下面積−最終値(AUC−last)を、PYY及びTJMPを用いて行ったインビトロでの上皮細胞単層透過試験に対してプロットした。インビトロでの透過をパーセンテージで表し、AUC−lastを、分*pg/mlで表した。10種類の異なるTJMPについてのインビトロ及びインビボでの試験をグラフ化し、線形回帰を行った。0.82のR2値(82%の相関)が得られ、インビボで得られたAUC値とインビトロで観察された透過パーセントに強い相関関係が存在することが示された。驚くべきことに、アッセイ間の変動性(inter−assay variability)を排除した場合、0.996のR2値(事実上、100%)が得られ、インビトロでの透過性とインビボでの成功に直接相関関係が存在することが示された。従って、インビトロでの透過を用いて、インビボでの成功を予測することが可能である。
【0225】
実施例19
TJMPによる、ペプチドホルモン治療剤に対する、低分子透過促進剤と同等又はこれを超える、インビボでの透過促進
生後3−6ヶ月で体重が2.1−3.0kgにあるオスのニュージーランド白色ウサギ(New Zealand white rabbit)20羽を、各グループが4体の動物からなる5種類の処理グループのいずれかに無作為に振り分けた。試験動物に、ピペットを用いて、15μl/kgを鼻腔内投与した。下記の表19に、5種類の異なる投与グループの組成を示す。
【0226】
投与グループ1(表16参照)には、低分子透過促進剤を含むPYYの臨床用製剤を用いた。これらの試験における低分子促進剤には、メチル−β−シクロデキストリン、ホスファチジルコリンジデカノイル(DDPC)、及び/又はEDTAが含まれていた。 投与グループ2は、リン酸緩衝食塩水(PBS)に溶解されたPYYを摂取した。投与グループ3−5では、種々の濃度のPN159を投与グループ2のものに添加し、それによって、投与グループ3ないし5のそれぞれは、PYY、PN159、及びPBSから構成された。
【0227】
表16
【0228】
一連の血液サンプル(それぞれ約2ml)を、末梢耳静脈からの直接静脈穿刺により、抗凝固剤としてEDTAを含む血液回収用試験管内へと回収した。血液サンプルは、投与後から0、2.5、5、10、15、30、45、60、及び120分後に回収した。血液回収後、抗凝固のために該試験管を複数回緩やかに振って、50μlのアプロチニン溶液を添加した。血液を、約4℃にて、約1,600 x gで15分間遠心し、血漿サンプルを2つの重複する分量にて分注して約−70℃で凍結保存した。
【0229】
処理グループ中の4体の動物を平均化すると、以下のPYY血漿濃度が測定された(表17):
【0230】
表17
【0231】
上記データから算出された薬物動態データを以下の表18に示す:
【0232】
表18
【0233】
グループ2(促進剤無し)の製剤との比較により、以下の相対的な促進率が決定された(表19):
【0234】
表19
【0235】
先のデータは、TJMPが、低分子透過促進剤と比較しても同程度かこれを超える程度に、ヒトホルモンペプチド治療剤のインビボでの鼻腔内透過を促進することを示している。該ペプチドの最大の効果は、50μMの濃度において見られる。100μMの濃度では、50μMと共に低分子透過促進剤よりも高い透過を生じているが、結果として50μMよりも多少低い透過となっていた。
【0236】
実施例20
TJMPによる、オリゴペプチド治療剤に対する透過促進
本実施例は、本発明の例示的ペプチド、PN159が、哺乳動物細胞レセプタに対するオリゴペプチドアゴニストのモデルである、環状ペンタペプチドのメラノコルチン−4レセプタアゴニスト(MC−4RA)の上皮透過を促進する効力を示す。本実施例では、1又は2種類以上の透過処理ペプチドとMC−4RAの組み合わせについて記載する。この文脈における有用な製剤には、オリゴペプチド治療剤、透過化処理ペプチド、及び1又は2種類以上の他の透過促進剤の組み合わせが含まれていてもよい。また、製剤には、緩衝剤、等張化剤、pH調整剤、並びにアミノ酸、糖若しくはポリオール、ポリマ、及び塩といった、ペプチド/タンパク質安定剤が含まれていてもよい。
【0237】
本試験では、MC−4RAの透過に対するPN159の作用を評価した。MC−4RAは、約1,100Daの分子量を有し、MC−4レセプタの活性を調節するメタンスルホン酸塩であった。評価したPN159濃度は、5、25、50及び100μMである。45mg/mlのM−β−CDを全ての製剤で可溶化剤として用いることで、10mg/mlのペプチド濃度が達成された。PN159の作用は、単独又はEDTA(1、2.5、5、又は10mg/ml)との組合せにおいて評価した。製剤のpHを4に定め、オスモル濃度は、220mOsm/kgであった。
【0238】
HPLC法
側底部培地中のMC−4RAの濃度を、C18 RPクロマトグラフィを1mL/分の流速と25℃のカラム温度で用いたPR−HPLCにより分析した。
溶媒A:水中の0.1%TFA; 溶媒B:ACN中の0.1%TFA
注入量:50μL
検出:220nm
測定時間:15分
【0239】
MC−4RAは、pH4でオスモル濃度が〜220mOsm/kgの、5、25、50及び100μMのPN159と配合した。インビトロでの上皮組織モデルを用いて、該配合物を試験し、PTHの透過、経上皮電気抵抗(TER)をモニタし、更にMTT及びLDHアッセイにより製剤の細胞毒性をモニタした。
【0240】
MC−4RA透過の試験の結果から、TJMPは、ペプチドホルモン治療剤の粘膜透過の促進に加え、オリゴペプチド治療剤の上皮透過も顕著に促進することが証明された。
【0241】
実施例21
TJMPによる、低分子薬物に対する透過促進
本実施例は、本発明の例示的ペプチド、PN159が、アセチルコリンエステラーゼ(ACE)の阻害物質であるガランタミンに例示される低分子薬物の上皮透過を促進する効力を示す。本実施例では、1又は2種類以上の透過処理ペプチドと低分子薬物の組み合わせについて記載する。この文脈における有用な製剤には、低分子薬物、透過化処理ペプチド、及び1又は2種類以上の他の透過促進剤の組み合わせが含まれていてもよい。また、製剤には、緩衝剤、等張化剤、pH調整剤、安定剤及び/又は保存剤が含まれていてもよい。
【0242】
本発明は、ガランタミンをPN159と組み合わせて、鼻粘膜間のガランタミンの透過を促進する。ガランタミンは、単独で鼻上皮膜を透過可能な低分子であるから、上記薬物透過の増大は予期せぬものである。従って、ペプチドの透過を促進する賦形剤の添加により媒介されるガランタミンの上皮透過の有意な促進は、このような賦形剤は、通常ガランタミンの上皮組織層の透過を有意に増大させると予想されないという前提から、驚くべきことである。従って、本発明は、ガランタミン及び他の低分子薬物のバイオアベイラビリティを増大させることにより、これらの経鼻送達を促進する。
【0243】
本試験において、乳酸塩の形態にある40mg/mlのガランタミンを、pH5.0でオスモル濃度が〜270mOsmの溶液中で、25、50及び100μMにあるPN159と配合した。上記のように、インビトロでの上皮組織モデルを用いて、該配合物を試験し、ガランタミンの透過、経上皮電気抵抗(TER)をモニタし、さらにLDH及びMTTアッセイにより製剤の細胞毒性をモニタした。ガランタミンの透過測定は、以下のように、標準的なHPLC分析により行った。
【0244】
HPLC分析
製剤及び側底部培地(透過サンプル)中のガランタミン濃度を、UV検出を用いたアイソクラティックLC(Waters Alliance社)法により測定した。
カラム:Waters Symmetry Shield、C18、5um、25x0.46cm
移動相:50mMギ酸アンモニウム中の5%ACN、pH3.0
流速:1ml/分
カラム温度:30℃
検量線:0−400μg/mlガランタミンHBr
検出:285nmのUV
【0245】
先の試験によれば、PN159は低分子の経粘膜送達を向上させる。低分子量薬物のモデルとしてガランタミンを選択したが、この分子についての結果は、他の低分子薬物に対する透過化処理ペプチドの活性を予測するものであると考えられる。この文脈における透過化活性を評価するため、乳酸塩の形態にある40mg/mlのガランタミンを、pH5.0でオスモル濃度が〜270mOsmの溶液中で、25、50及び100μMにあるPN159と配合した。インビトロでの上皮組織モデルを用いて、該配合物を試験し、ガランタミンの透過、経上皮電気抵抗(TER)をモニタし、更にLDH及びMTTアッセイにより製剤の細胞毒性をモニタした。
【0246】
インビトロ組織モデルにおいて、PN159の添加により、細胞障壁間の薬物透過に劇的な増大が生じた。具体的には、40mg/mlのガランタミンにより、Pappに2.5−3.5倍の増加が認められた。
【0247】
PN159は、ガランタミンの存在下において、先の実施例に記載されるのと全く同様に、TERを低下させた。
【0248】
乳酸ガランタミン(galantamine lactate)及び試験した全ての濃度でのPN159の存在下では、細胞生存率が高く維持された(80%を超える)。反対に、LDHで測定したところ、PN159と乳酸ガランタミン(galantamine lactate)の存在下では細胞毒性は低かった。これら両方のアッセイにより、PN159が上皮膜に対する毒性を有しないことが示される。
【0249】
PN159が存在しない場合、ガランタミンのPappは、約2.1x10−6cm/秒であった。25、50及び100mMのPN159が存在する場合、Pappは、それぞれ、5.1x10−6、6.2x10−6、及び7.2x10−6cm/秒であった。従って、PN159は、この低分子量薬物のモデルに、2.4倍ないし3.4倍のPappの増加を提供した。
【0250】
TJMPは、低分子量薬物のモデルとしてのガランタミンの上皮透過を驚くほど増大させた。溶液中でのガランタミンへのPN159の添加により、上皮単層間のガランタミン透過が有意に促進された。PN159は、高い細胞生存率と低い細胞毒性により測定されるように、膜中の細胞に害を与えることなく上皮膜間のTERを一時的に低下させることが証拠により示されている。TJMPは、インビトロのモデルを用いてここに示されたのと同様のメカニズムにより、インビボでガランタミン及び他の低分子薬物のバイオアベイラビリティを促進した。更に、TJMPがより高い濃度でもガランタミンの透過を促進するであろうことが予想される。
【0251】
実施例22
TJMPによるタンパク質の透過促進
低分子量化合物からなる経粘膜製剤に対するPN159の有用性を確証したので、これらの知見から、例えば治療用ペプチド及びタンパク質等の、より大きな分子についても同様のことが推定できるかどうかを確認することが重要であった。この目的のため、治療用ペプチドのモデルとしてのサケカルシトニンを用いて、25、50及び100mMのPN159が存在しない、又は存在する場合において、インビトロでの組織試験を行った。PN159が存在しない場合、カルシトニンのPappは、約1 x 10−7cm/秒であり、ガランタミンよりも約一桁小さい値であったが、恐らく、分子量の差によるものであろう。データから、PN159の存在下でのカルシトニン透過の劇的な増大が明らかとなり、カルシトニン単独の場合と比較して、Pappが最大で23倍ないし47倍増加している(表20)。
【0252】
表20
【0253】
これらの発見の普遍性を探索すべく、更なる2種類のペプチド、即ちヒト副甲状腺ホルモン1−34(PTH1−34)及びヒトペプチドYY3−36(PYY3−36)を、PN159が存在しない状態及び存在する状態で、インビトロモデルにて試験した(表20に示すPappデータ)。PN159が存在しない場合、これら2種類のペプチドのPappは、カルシトニンのPappと一致するものであった。PTH1−34の場合、PN159の存在により、Pappは約3−5倍増大した。PYY3−36をPN159の存在下で製剤した場合、Pappは約12倍ないし17倍増大した。これらのデータにより、TJMPが、低分子及びタンパク質の経粘膜薬物送達を促進したという我々の発見の普遍性が確認される。
【0254】
実施例23
TJMPの化学的安定性
PN159の化学的安定性を、治療に適切な保存条件下において測定した。stability−indicating HPLCメソッドを用いた。溶液(50mM)を種々のpH(4.0、7.3、及び9.0)と温度(5℃、25℃、35℃、40℃及び50℃)の条件下で保存した。pH4のサンプルは、10mMのクエン酸バッファを含んでいた。pH7.3と9.0のサンプルは、10mMのリン酸バッファを含んでいた。保存安定性の結果(アレニウスのプロットを含む)は、PN159が、低温及び低pHで最も化学的に安定していたことを示す。例えば、5℃でpH4.0又はpH7.3では、6ヶ月の保存で、事実上100%のPN159回収率が認められた。保存温度を25℃に高めた場合、pH4又はpH7のサンプルでは、6ヶ月後に、それぞれ7%と26%の元のPN159の喪失が認められた。pH9で、更に/又は例えば40ないし50℃の高温においては、迅速なPN159の劣化が生じた。4.0ないし7.3のpH範囲と、冷蔵から周囲温度までの温度の範囲が、鼻腔内用製剤に最も適している。従って、これらのデータは、鼻腔内用製剤に適切な保存条件下において、TJMPが、化学的保全性を維持できることを示す。
【0255】
実施例24
鼻腔内投与によるウサギ内での、タイトジャンクション調節ペプチドのインビボ評価
ペプチドYY(PYY)の血漿中での薬物動態特性を評価するために、鼻腔内(IN)送達により投与される種々のタイトジャンクション調節ペプチド(TJMP)を用いて、ウサギ内での薬物動態(PK)試験を行った。
【0256】
モデル動物
本試験では、ニュージーランド白色ウサギ(New Zealand white rabbit)(Hra:(NZW)SPF)を試験対象として用いて、鼻腔内投与及び静脈内点滴により、MC−4RAの血漿薬物動態を評価した。動物の取り扱いは、米国農務省動物福祉法(USDA Animal Welfare Act)(9連邦規制基準、第1、2、及び3章)、及び「the Guide for the Care and Use of Laboratory Animals」(研究用動物資源協会(ILAR)刊行物、1996年、National Academy Press)に概略される規定に従った。
【0257】
ウサギに投与された薬物から得られる薬物動態プロファイルは、ヒト体内での同一の薬物のPKプロファイルに近似することから、本試験の対象動物として、ウサギを選択した。
【0258】
投薬量投与
試験した9種類のTJMPの試験についての実験設計及び投与計画を、表21にまとめる。全ての実験グループに、205μg/kgのPYY(3−36)を、個々のTJMP又はリン酸緩衝食塩水(PBS;ネガティブコントロール)との組合せで、鼻腔内投与により摂取させた。ピペットマンと使い捨てのプラスチック製チップを用いて、各製剤を左の鼻腔に1回投与した。毛細管作用により溶液が鼻腔へ引かれるように、動物の頭部を後方に傾けて動物が吸息した時点で投薬量を投与した。鼻腔内投与後、該動物の頭部を、後方に傾けた位置に約15秒抑え、投与された投薬量の損失を防いだ。処置の間、鼻腔内粘膜との接触により生じる可能性のある組織損傷を回避するよう、極度の注意を払った。
【0259】
表21
【0260】
PN556は、PN283と同じ一次配列を有するが、ペプチドのN末端においてマレイミド修飾を有していない。
【0261】
血液及び血漿サンプル回収
投薬量を鼻腔内投与した後、一連の血液サンプルを、各動物から末梢耳静脈の直接静脈穿刺により採取した。血液サンプルは、投与前と、投与から5、10、15、20、30、45、60、90、120及び180分後に回収した。サンプルは、抗凝固剤としてEDTA二カリウムを含む試験管内に回収した。サンプルは、遠心を行うまで冷却しておいた。全てのサンプルを回収から1時間以内に遠心した。血漿を回収して、事前に標識しておいたプラスチック製バイアルに移し、ドライアイス/アセトン槽で凍結させて、次いで薬物動態分析を行うまで約−70℃で保存した。
【0262】
各血液サンプル採取時に臨床観察を行い、鼻腔内投与の5分後と1時間後の直前に、鼻腔内投与試験グループの全ての動物に両鼻孔の検査を行った。
【0263】
分析方法
全ての試験グループの各動物からのサンプルは、ELISAによりPYY(3−36)濃度について分析した。投与前後の被検物は、品質管理のためにHPLCにかけた。血漿の一定分量(0.1 mL)は、生物分析用内部標準を添加した後に、アセトニトリルでタンパク質沈殿させた。上清を窒素乾燥させ、HPLCバッファで再溶解して、次いでHPLC装置に注入した。溶出物を陽イオンエレクトロスプレイオン化タンデム3連四重極子質量分析計で検出した。PKデータをWinNonlin(Pharsight Corp.、マウンテンビュー)により解析した。
【0264】
結果
各試験グループの平均血漿PKパラメータを表22にまとめる。どの製剤の投与後にも、有害な臨床兆候は観察されなかった。製剤を鼻腔内投与した動物の両鼻孔の投与後検査では、発赤、又は腫脹も見つからなかった。本PK試験では、Cmax(最高観察濃度)、Tmax(最高濃度の時刻)、及び最終及び無限大(inf)のAUC(曲線下面積)を評価した。8種類のTJMPを、そのインビボでの透過性レベルに従って、階層Iが最も高いインビボでの透過性レベルを有するTJMPを含み、これに続く各階層が段階的に低下したインビボでの透過性レベルを有するTJMPを含むような4種類の異なる性能階層に等級付けして分類した。
【0265】
表22
【0266】
これらのデータは、PN161とPN27について観察されたインビボでの透過性が、PN159と同程度であることを示し;そして残りのTJMPが、試験した濃度において、PN159を下回るインビボでの透過性レベルしか達成しなかったことを示す。
【0267】
実施例25
インビトロで上皮細胞層透過を促進するタイトジャンクション調節ペプチド
本実施例では、本発明の代表的ペプチドPN679及びPN745(表23に示す)、並びに上皮細胞単層透過促進に効果的な各ペプチドの濃度を決定するためにスクリーニングされた各ペプチドの試験製剤(表24に示す)について記載する。
【0268】
表23
【0269】
下記の表24には、本発明の代表的ペプチド(表24の「活性薬剤」の列)を含む個々の試験製剤、並びにTER、LDH(細胞毒性)及びサンプル透過促進アッセイにより試験され、ポジティブ及びネガティブ試験製剤コントロールとしての役目を果たした試験製剤が記載されている。各ペプチドを、25μM、100μM、250μM、500μM及び1000μMの濃度で試験した。PN159(試験製剤#11)は、ここにおいて、TJMPポジティブコントロールとしての役目を果たし、効果的にTERを低下させ、25μMの濃度でサンプル透過を促進させる能力を先に示している。1%のTriton X−100TM(試験製剤#14)は、細胞毒性(LDH)アッセイ及びTER低下アッセイの両方においてポジティブコントロールとして機能した。「特別ソース(Special sauce)」(SS)は、ここにおいて、低分子透過促進剤としての役目を果たした。またDPBS++は、ネガティブコントロールとしての役目を果たした。各試験製剤は、300μlの終量を有し、標的pH5を有していた試験製剤#12以外の各製剤は、標的pH7を有していた。1%のTriton X−100TM(試験製剤#14)は、細胞毒性(LDH)アッセイにおいて、ポジティブコントロールとして機能した。
【0270】
各試験製剤が、TER、LDH及びサンプル透過に対して有する効果を評価するため、各試験製剤の全300μlの量のうち、20μlのサンプルだけをヒト由来気管/気管支上皮細胞(EpiAirwayTM組織モデルシステム)に適用した。
【0271】
表24
SS=「特別ソース(special sauce)」
【0272】
実施例26
PN679及びPN745は、インビトロでタイトジャンクションタンパク質を調節する
本実施例は、代表的ペプチドPN679及びPN745が、効果的にTERを低下させ、重大な細胞毒性を生じることなく濃度依存的に有意にサンプル透過を促進することから、これらのペプチドが有効なTJMPであることが示されることを実証する。表25には、実施例25の表24に記載される試験製剤のTER、LDH及びサンプル透過(FD3)のデータがまとめられている。PN679の試験製剤#1及びPN745の試験製剤#6は、アッセイを2回行った。TER、LDH及びサンプル透過の追加のアッセイの結果は、括弧内に示されている。
【0273】
表25
SS=「特別ソース(special sauce)」
【0274】
本発明の代表的ペプチドであるPN679(試験製剤#1、#2、#3及び#4)又はPN745(試験製剤#6、#7、#8及び#9)のいずれかを100μM、250μM、500μM及び1000μMの濃度で含む試験製剤は、「特別ソース」と同程度であり、そして確立されたTJMPコントロールのPN159よりも有意に低い程度にまでTERを低下させた。予想された通り、ネガティブコントロールのDPBS++は、TERを有意に低下させることはなかった。これら両ペプチドがTERを低下させる能力は、これらがFD3分子の透過を促進する能力と強く相関していた。PN679(試験製剤#4)及びPN745(試験製剤#9)の両方の100μMの投与量は、PN159のTJMPと同程度の透過パーセントを示したが、より低い細胞毒性(より低いLDH放出%)を示していた。より高濃度にある各ペプチドも、PN159を超えるFD3透過の増大を生じさせただけではなく、LDH放出レベルも増大させ、細胞毒性を増大させたことが示された。予想通り、コントロールのDPBS++は、測定可能なLDH放出を誘起しなかった。観察されたTER低下、サンプル透過及び細胞毒性(LDH放出)に基づき、各代表的ペプチドPN679及びPN745の100μMの投与量が、これら2種類のTJMPの更なる分析用に最適なことは、明白である。
【0275】
先のデータは、代表的ペプチドPN679及びPN745が、インビトロで、ヒト上皮細胞単層のTERを低下させ、重大な毒性無しに低分子の透過を促進するという予期せぬ発見を示す。これらのデータは、タイトジャンクション調節ペプチド(TMJP)が、例えば鼻腔内(IN)薬物送達等の、粘膜表面間の薬物送達で用いるための優れた候補であることを示す。
【0276】
実施例27
タイトジャンクション調節ペプチドによるインビトロでの透過促進は、インビボで観察される透過促進と強く相関する
インビトロのEpiAirway上皮細胞モデルシステムにおいて観察されたTJMP透過動態が、同一のTJMPについて観察されるインビボでの薬物動態データと相関するのかどうかを決定するために線形回帰分析を行った。インビトロでの透過データが、インビボでの成功についての良好な指標として機能するかどうかを決定するため、PYY及びTJMPを用いて行ったインビボでの薬物動態試験から得られた曲線下面積−最終値(AUC−last)を、PYY及びTJMPを用いて行ったインビトロでの上皮細胞単層透過試験に対してプロットした。インビトロでの透過をパーセンテージで表し、AUC−lastを、分*pg/mlで表した。10種類の異なるTJMPについてのインビトロ及びインビボでの試験をグラフ化し、線形回帰を行った。0.82のR2値(82%の相関)が得られ、インビボで得られたAUC値とインビトロで観察された透過パーセントに強い相関関係が存在することが示された。驚くべきことに、アッセイ間の変動性(inter−assay variability)を排除した場合、0.996のR2値 (事実上、100%)が得られ、インビトロでの透過性とインビボでの成功に直接相関関係が存在することが示された。従って、インビトロでの透過を用いて、インビボでの成功を予測することが可能である。
【0277】
実施例28
TJMPによる、ペプチドホルモン治療剤に対する、低分子透過促進剤と同等又はこれを超える、インビボでの透過促進
生後3−6ヶ月で体重が2.1−3.0kgにあるオスのニュージーランド白色ウサギ(New Zealand white rabbit)20羽を、各グループが4体の動物からなる5種類の処理グループのいずれかに無作為に振り分けた。試験動物に、ピペットを用いて、15μl/kgを鼻腔内投与した。下記の表26に、5種類の異なる投与グループの組成を示す。
【0278】
投与グループ1(表26参照)には、低分子透過促進剤を含むPYYの臨床用製剤を用いた。これらの試験における低分子促進剤には、メチル−β−シクロデキストリン、ホスファチジルコリンジデカノイル(DDPC)、及び/又はEDTAが含まれていた。 投与グループ2は、リン酸緩衝食塩水(PBS)に溶解されたPYYを摂取した。投与グループ3−5では、種々の濃度のPN159を投与グループ2のものに添加し、それによって、投与グループ3ないし5のそれぞれは、PYY、PN159、及びPBSから構成された。
【0279】
表26
【0280】
一連の血液サンプル(それぞれ約2ml)を、末梢耳静脈からの直接静脈穿刺により、抗凝固剤としてEDTAを含む血液回収用試験管内へと回収した。血液サンプルは、投与から0、2.5、5、10、15、30、45、60、及び120分後に回収した。血液回収後、抗凝固のために該試験管を複数回緩やかに振って、50μlのアプロチニン溶液を添加した。血液を、約4℃にて、約1,600 x gで15分間遠心し、血漿サンプルを2つの重複する分量にて分注して約−70℃で凍結保存した。
【0281】
処理グループ中の4体の動物を平均化すると、以下のPYY血漿濃度が測定された(表27):
【0282】
表27
【0283】
上記データから算出された薬物動態データを以下の表28に示す:
【0284】
表28
【0285】
グループ2(促進剤無し)の製剤との比較により、以下の相対促進率が決定された(表29):
【0286】
表29
【0287】
先のデータは、TJMPが、低分子透過促進剤と比較しても同程度かこれを超える程度に、ヒトホルモンペプチド治療剤のインビボでの鼻腔内透過を促進することを示している。該ペプチドの最大の効果は、50μMの濃度において見られる。100μMの濃度では、50μMと共に低分子透過促進剤よりも高い透過を生じているが、結果として50μMよりも多少低い透過となっていた。
【0288】
実施例29
TJMPによる、オリゴペプチド治療剤に対する透過促進
本実施例は、本発明の例示的ペプチドPN159が、哺乳動物細胞レセプタに対するオリゴペプチドアゴニストのモデルである、環状ペンタペプチドのメラノコルチン−4レセプタアゴニスト(MC−4RA)の上皮透過を促進する効力を示す。本実施例では、1又は2種類以上の透過処理ペプチドとMC−4RAの組み合わせについて記載する。この文脈における有用な製剤には、オリゴペプチド治療剤、透過化処理ペプチド、及び1又は2種類以上の他の透過促進剤の組み合わせが含まれていてもよい。また、製剤には、緩衝剤、等張化剤、pH調整剤、並びにアミノ酸、糖若しくはポリオール、ポリマ、及び塩といった、ペプチド/タンパク質安定剤が含まれていてもよい。
【0289】
本試験では、MC−4RAの透過に対するPN159の作用を評価した。MC−4RAは、約1,100Daの分子量を有し、MC−4レセプタの活性を調節するメタンスルホン酸塩であった。評価したPN159濃度は、5、25、50及び100μMである。45mg/mlのM−β−CDを全ての製剤で可溶化剤として用いることで、10mg/mlのペプチド濃度が達成された。PN159の作用は、単独又はEDTA (1、2.5、5、又は10mg/ml)との組合せにおいて評価した。製剤のpHを4に定め、オスモル濃度は、220mOsm/kgであった。
【0290】
HPLC法
側底部培地中のMC−4RAの濃度を、C18 RPクロマトグラフィを1mL/分の流速と25℃のカラム温度で用いたPR−HPLCにより分析した。
溶媒A:水中の0.1%TFA; 溶媒B:ACN中の0.1%TFA
注入量:50μL
検出:220nm
測定時間:15分
MC−4RAは、pH4でオスモル濃度が〜220mOsm/kgの、5、25、50及び100μMのPN159と配合した。インビトロでの上皮組織モデルを用いて、該配合物を試験し、PTHの透過、経上皮電気抵抗(TER)をモニタし、さらにMTT及びLDHアッセイにより製剤の細胞毒性をモニタした。
【0291】
MC−4RA透過の試験の結果から、TJMPは、ペプチドホルモン治療剤の粘膜透過の促進に加え、オリゴペプチド治療剤の上皮透過も顕著に促進することが証明された。
【0292】
実施例30
TJMPによる、低分子薬物に対する透過促進
本実施例は、本発明の例示的ペプチド、PN159が、アセチルコリンエステラーゼ(ACE)の阻害物質であるガランタミンに例示される低分子薬物の上皮透過を促進する効力を示す。本実施例では、1又は2種類以上の透過処理ペプチドと低分子薬物の組み合わせについて記載する。この文脈における有用な製剤には、低分子薬物、透過化処理ペプチド、及び1又は2種類以上の他の透過促進剤の組み合わせが含まれていてもよい。また、製剤には、緩衝剤、等張化剤、pH調整剤、安定剤及び/又は保存剤が含まれていてもよい。
【0293】
本発明は、ガランタミンをPN159と組み合わせて、鼻粘膜間のガランタミンの透過を促進する。ガランタミンは、単独で鼻上皮膜を透過可能な低分子であるから、上記薬物透過の増大は予期せぬものである。従って、ペプチドの透過を促進する賦形剤の添加により媒介されるガランタミンの上皮透過の有意な促進は、このような賦形剤は、通常ガランタミンの上皮組織層の透過を有意に増大させると予想されないという前提から、驚くべきことである。従って、本発明は、ガランタミン及び他の低分子薬物のバイオアベイラビリティを増大させることにより、これらの経鼻送達を促進する。
【0294】
本試験において、乳酸塩の形態にある40mg/mlのガランタミンを、pH5.0でオスモル濃度が〜270mOsm/kgの溶液中で、25、50及び100μMにあるPN159と配合した。上記のように、インビトロでの上皮組織モデルを用いて、該配合物を試験し、ガランタミンの透過、経上皮電気抵抗(TER)をモニタし、さらにLDH及びMTTアッセイにより製剤の細胞毒性をモニタした。ガランタミンの透過測定は、以下のように、標準的なHPLC分析により行った。
【0295】
HPLC分析
製剤及び側底部培地(透過サンプル)中のガランタミン濃度を、UV検出を用いたアイソクラティックLC(Waters Alliance社)法により測定した。
カラム:Waters Symmetry Shield、C18、5um、25 x 0.46cm
移動相:50mMギ酸アンモニウム中の5% ACN、pH 3.0
流速:1ml/分
カラム温度:30℃
検量線:0−400μg/mlガランタミンHBr
検出:285nmのUV
【0296】
先の試験によれば、PN159は低分子の経粘膜送達を向上させる。低分子量薬物のモデルとしてガランタミンを選択したが、この分子についての結果は、他の低分子薬物に対する透過化処理ペプチドの活性を予測するものであると考えられる。この文脈における透過化活性を評価するため、乳酸塩の形態にある40mg/mlのガランタミンを、pH5.0でオスモル濃度が〜270mOsm/kgの溶液中で、25、50及び100μMにあるPN159と配合した。インビトロでの上皮組織モデルを用いて、該配合物を試験し、ガランタミンの透過、経上皮電気抵抗(TER)をモニタし、さらにLDH及びMTTアッセイにより製剤の細胞毒性をモニタした。
【0297】
インビトロ組織モデルにおいて、PN159の添加により、細胞障壁間の薬物透過に劇的な増大が生じた。具体的には、40mg/mlのガランタミンにより、Pappに2.5−3.5倍の増加が認められた。
【0298】
PN159は、ガランタミンの存在下において、先の実施例に記載されるのと全く同様に、TERを低下させた。
【0299】
乳酸ガランタミン(galantamine lactate)及び試験した全ての濃度でのPN159の存在下では、細胞生存率が高く維持された(80%を超える)。反対に、LDHで測定したところ、PN159と乳酸ガランタミン(galantamine lactate)の存在下では細胞毒性は低かった。これら両方のアッセイにより、PN159が上皮膜に対する毒性を有しないことが示される。
【0300】
PN159が存在しない場合、ガランタミンのPappは、約2.1x10−6cm/秒であった。25、50及び100mMのPN159が存在する場合、Pappは、それぞれ、5.1x10−6、6.2x10−6、及び7.2x10−6cm/秒であった。従って、PN159は、この低分子量薬物のモデルに、2.4倍ないし3.4倍のPappの増加を提供した。
【0301】
TJMPは、低分子量薬物のモデルとしてのガランタミンの上皮透過を驚くほど増大させた。溶液中でのガランタミンへのPN159の添加により、上皮単層間のガランタミン透過が有意に促進された。PN159は、高い細胞生存率と低い細胞毒性により測定されるように、膜中の細胞に害を与えることなく上皮膜間のTERを一時的に低下させることが証拠により示されている。TJMPは、インビトロのモデルを用いてここに示されたのと同様のメカニズムにより、インビボでガランタミン及び他の低分子薬物のバイオアベイラビリティを促進した。更に、TJMPがより高い濃度でもガランタミンの透過を促進するであろうことが予想される。
【0302】
実施例31
TJMPによるタンパク質の透過促進
低分子量化合物からなる経粘膜製剤に対するPN159の有用性を確証したので、これらの知見から、例えば治療用ペプチド及びタンパク質等の、より大きな分子についても同様のことが推定できるかどうかを確認することが重要であった。この目的のため、治療用ペプチドのモデルとしてのサケカルシトニンを用いて、25、50及び100mMのPN159が存在しない、又は存在する場合において、インビトロでの組織試験を行った。PN159が存在しない場合、カルシトニンのPappは、約1x10−7cm/秒であり、ガランタミンよりも約一桁小さい値であったが、恐らく、分子量の差によるものであろう。データから、PN159の存在下でのカルシトニン透過の劇的な増大が明らかとなり、カルシトニン単独の場合と比較して、Pappが最大で23倍ないし47倍増加している(表30)。
【0303】
表30
【0304】
これらの発見の普遍性を探索すべく、更なる2種類のペプチド、即ちヒト副甲状腺ホルモン1−34(PTH1−34)及びヒトペプチドYY3−36(PYY3−36)を、PN159が存在しない状態及び存在する状態で、インビトロモデルにて試験した(表30に示すPappデータ)。PN159が存在しない場合、これら2種類のペプチドのPappは、カルシトニンのPappと一致するものであった。PTH1−34の場合、PN159の存在により、Pappは約3−5倍増大した。PYY3−36をPN159の存在下で製剤した場合、Pappは約12倍ないし17倍増大した。これらのデータにより、TJMPが、低分子及びタンパク質の経粘膜薬物送達を促進したという我々の発見の普遍性が確認される。
【0305】
実施例32
TJMPの化学的安定性
PN159の化学的安定性を、治療に適切な保存条件下において測定した。stability−indicating HPLCメソッドを用いた。溶液(50mM)を種々のpH(4.0、7.3、及び9.0)と温度(5℃、25℃、35℃、40℃及び50℃)の条件下で保存した。pH4のサンプルは、10mMのクエン酸バッファを含んでいた。pH7.3と9.0のサンプルは、10mMのリン酸バッファを含んでいた。保存安定性の結果(アレニウスのプロットを含む)は、PN159が、低温及び低pHで最も化学的に安定していたことを示す。例えば、5℃でpH4.0又はpH7.3では、6ヶ月の保存で、事実上100%のPN159回収率が認められた。保存温度を25℃に高めた場合、pH4又はpH7のサンプルでは、6ヶ月後に、それぞれ7%と26%の元のPN159の喪失が認められた。pH9で、更に/又は例えば40ないし50℃の高温においては、迅速なPN159の劣化が生じた。4.0ないし7.3のpH範囲と、冷蔵から周囲温度までの温度の範囲が、鼻腔内用製剤に最も適している。従って、これらのデータは、鼻腔内用製剤に適切な保存条件下において、TJMPが、化学的保全性を維持できることを示す。
【0306】
実施例33
鼻腔内投与によるウサギ内での、タイトジャンクション調節ペプチドのインビボ評価
ペプチドYY(PYY)の血漿中での薬物動態特性を評価するために、鼻腔内(IN)送達により投与された種々のタイトジャンクション調節ペプチド(TJMPs)を用いて、ウサギ内での薬物動態(PK)試験を行った。
【0307】
モデル動物
本試験では、ニュージーランド白色ウサギ(New Zealand white rabbit)(Hra:(NZW)SPF)を試験対象として用いて、鼻腔内投与及び静脈内点滴により、MC−4RAの血漿薬物動態を評価した。動物の取り扱いは、米国農務省動物福祉法(USDA Animal Welfare Act)(9連邦規制基準、第1、2、及び3章)、及び「the Guide for the Care and Use of Laboratory Animals」(研究用動物資源協会(ILAR)刊行物、1996年、National Academy Press))に概略される規定に従った。
【0308】
ウサギに投与された薬物から得られる薬物動態プロファイルは、ヒト体内での同一の薬物のPKプロファイルに近似することから、本試験の対象動物として、ウサギを選択した。
【0309】
投薬量投与
試験した9種類のTJMPについての実験設計及び投与計画を、表31にまとめる。全ての実験グループに、205μg/kgのPYY(3−36)を、個々のTJMP又はリン酸緩衝食塩水(PBS;ネガティブコントロール)との組合せで、鼻腔内(IN)投与により摂取させた。ピペットマンと使い捨てのプラスチック製チップを用いて、各製剤を左の鼻腔に1回投与した。毛細管作用により溶液が鼻腔へ引かれるように、動物の頭部を後方に傾けて動物が吸息した時点で投薬量を投与した。鼻腔内投与後、該動物の頭部を、後方に傾けた位置に約15秒抑え、投与された投薬量の損失を防いだ。処置の間、鼻腔内粘膜との接触により生じる可能性のある組織損傷を回避するよう、極度の注意を払った。
【0310】
表31
【0311】
PN556は、PN283と同じ一次配列を有するが、ペプチドのN末端においてマレイミド修飾を有していない。
【0312】
血液及び血漿サンプル回収
投薬量を鼻腔内投与した後、一連の血液サンプルを、各動物から末梢耳静脈の直接静脈穿刺により採取した。血液サンプルは、投与前と、投与から5、10、15、20、30、45、60、90、120及び180分後に回収した。サンプルは、抗凝固剤としてEDTA二カリウムを含む試験管内に回収した。サンプルは、遠心を行うまで冷却しておいた。全てのサンプルを回収から1時間以内に遠心した。血漿を回収して、事前に標識しておいたプラスチック製バイアルに移し、ドライアイス/アセトン槽で凍結させて、次いで薬物動態分析を行うまで約−70℃で保存した。
【0313】
各血液サンプル採取時に臨床観察を行い、鼻腔内投与の5分後と1時間後の直前に、鼻腔内投与試験グループの全ての動物に両鼻孔の検査を行った。
【0314】
分析方法
全ての試験グループの各動物からのサンプルは、ELISAによりPYY(3−36)濃度について分析した。投与前後の被検物は、品質管理のためにHPLCにかけた。血漿の一定分量(0.1mL)は、生物分析用内部標準を添加した後に、アセトニトリルでタンパク質沈殿させた。上清を窒素乾燥させ、HPLCバッファで再溶解して、HPLC装置に注入した。溶出物を陽イオンエレクトロスプレイオン化タンデム3連四重極子質量分析計で検出した。PKデータをWinNonlin (Pharsight Corp.、マウンテンビュー)により解析した。
【0315】
結果
各試験グループの平均血漿PKパラメータを表32にまとめる。どの製剤の投与後にも、有害な臨床兆候は観察されなかった。製剤を鼻腔内投与した動物の両鼻孔の投与後検査では、発赤、又は腫脹も見つからなかった。本PK試験では、Cmax(最高観察濃度)、Tmax(最高濃度の時刻)、及び最終及び無限大(inf)のAUC(曲線下面積)を評価した。8種類のTJMPsを、そのインビボでの透過性レベルに従って、階層Iが最も高いインビボでの透過性レベルを有するTJMPsを含み、これに続く各階層が段階的に低下したインビボでの透過性レベルを有するTJMPsを含むような4種類の異なる性能階層に等級付けして分類した。
【0316】
表32
【0317】
実施例34
精製
下記のPEG化PN159ペプチドを合成した(表33):
【0318】
表33
【0319】
150mg量の粗ペプチドを、0.1%のTFAを含む15mLの水と3mLの酢酸に溶解した。撹拌と超音波処理の後、該混合物を1.5mLエッペンドルフチューブに移して、13000rpmで遠心した。上清を回収してMillex GV 0.22 umシリンジフィルタに通してろ過した。この溶液を、5mLの注入ループを通じて、5mL/分の流速でZorbax 300SB C18カラム(内径21.2mm x 250mm、粒子サイズ7um)に充填した。溶媒Aが水中に0.1%のTFAで、溶媒Bがアセトニトリル中に0.1%のTFAである場面で、毎分0.2%Bの直線AB勾配を実施することにより、抽出を行った。これらの条件下において、ペプチドは、15−17%Bの範囲で溶出した。
【0320】
実施例35
細胞
タイトジャンクション調節ペプチド(TJMPs)を、経上皮電気抵抗(TER)及び透過性に対する効果に基づいてスクリーニングするために、EpiAirwayTM細胞(96ウェルフォーマット(Air−196−HTS)、又は個々の24ウェルインサート(Air−100)のヒト気管/気管支組織モデルをMatTek Corporation(アッシュランド、マサチューセッツ州)から購入した。培養組織は、単一のドナーに由来するものであり、HIV、B型肝炎、C型肝炎、マイコプラズマ、細菌、酵母及び菌類についてのスクリーニングでは陰性であった。
【0321】
EpiAirway組織は、培地が補充されたアガロースゲル上で冷却された状態で出荷された。EpiAirway組織は、製造元から提供された培地を用いて、37℃で24時間かけて回復させた。EpiAirwayモデル用の完全培地(complete medium)(Epi−CM)には、DMEM、EFG及び他の因子、ゲンタマイシン(5ug/ml)、アンホテリシンB(0.25ug/ml)並びにpH指示薬としてフェノールレッドが含まれていた。
【0322】
実施例36
TERの測定
Air−196−HTSのTER測定は、オートメイティッドティッシューレジスタンスシステム(Automated Tissue Resistance System)(REMS)(World Precession Instrument(WPI)社(サラソタ、フロリダ州))を用いて行った。96ウェルHTSフォーマット中でTERをモニタする場合には、エンドームマルチ(Endhom−Multi)(STX)を細胞培養フード中で用いてコンタミネーションを防いだ。一晩回復させたインサートでは、頂端部側面に100ulの培地を用い、基底チャンバに250ulを用いた。ブランクインサート(Millipore)を用いてバックグラウンドTERを測定し、組織インサートから引き算した。インサートをペーパータオル上に反転させることにより、培地をデカントした。ペーパータオル上でインサートを優しく軽く叩いて、頂端部の培地を最大限除去した。他のTER測定時点のため、処理の直後に、インサートを150ulのEpi−CMで3回軽くリンスし、TER測定前に完全に水気を切った。
【0323】
結果(図8)は、単層上皮細胞を用いて試験した、本発明のタイトジャンクション調節ペプチドのPN159、及びPN159のPEG化型が、上皮透過性促進に対して強力で可逆的な効果を有することを示している。両者に観察された効果は、予想可能な態様で生じる。結果は、PEG−159が、PN159単独の場合に比べて、有意にイオン透過性を促進する(TERを低下させる)ことを示している。PEG−PN159と159間のTERにおける最大の差異は、50uMのPEG−PN159で見られる。
【0324】
実施例37
透過性アッセイ
フルオレセイン−5−イソチオシアネート(FITC)標的デキストラン(MW3,000)を、処理混合物に0.1−1mg/mlで添加した。該処理混合物を頂端部壁の側面に添加し、そのプレートを楕円シェーカ(New Brunswick Scientific社、エジソン、ニュージャージー州)中で、37℃にて、100rpmで、指定時間インキュベートした。インキュベーションの終了時に、3通りの200ulの基底培地を、壁面が暗色の蛍光読取用プレートに移した。波長470 nmの蛍光強度を、マイクロプレート蛍光リーダFLx800(BIO−TEK INSTRUMENTS,INC、ウィヌースキ、バーモント州)により測定した。標準の段階希釈を用いて検量線を得て、濃度を計算した。透過性は、ドナー質量(頂端部チャンバ)の比率、又はアクセプタ質量(基底チャンバ)の比率として、2通りに測定して、パーセンテージで表わした。
【0325】
本発明のPN159及びPEG−PN159の両方の存在下において、PTH透過の有意な増大が観察された(図9)。両者に観察された効果は、10uMないし100uMにおいて、幾分か濃度依存的である。更に、結果は、PEG−PN159が、PN159と比べて、有意に分子透過性を促進することを示す。
【0326】
PEG−PN159による透過性の増大をPN159と比較した場合(2つの値の間の比率として図10にプロットされている)、透過増大の最大の差異は、50uMの濃度において見られる。
【0327】
実施例38
細胞毒性アッセイ
LDHアッセイを用いて、処置による細胞毒性を評価した。LDH濃度は、サイトトックス96非放射性細胞毒性アッセイ(CytoTox96 Non−Radioactive Cytotoxic Assay)(Promega社、マジソン、ウィスコンシン州)を用いて、製造元のプロトコルに従って測定した。側底部のLDH濃度については、3つの系の50ulの基底培地を用いてLDH濃度を測定した。頂端部LDH濃度については、150ulのEpi−CMを頂端部チャンバに添加することにより150ulの希釈頂端部サンプルを取り出し、上下にピペッティングすることにより培地を撹拌し、そして150ulの培地を取り出して、3つの系の50ulでのアッセイのために2倍希釈した(最終的な8倍希釈のため)。LDHの総量は、終濃度0.9%のTriton−X100で細胞を溶解して測定した。各サンプル中のLDH濃度は、Triton−X100による細胞溶解物に対するパーセンテージとして表わした。結果(図11)は、PEG−PN159が、PN159よりも低い毒性を有することを示す。
【0328】
実施例39
ウサギ体内での薬物動態データ
本試験では、生後約3か月のオスのニュージーランド白色ウサギ(New Zealand white rabbit)を25羽用いた。ピペットマンと使い捨てのプラスチック製チップを用いて、ウサギに、1回の鼻腔内投与、即ち、一方の鼻孔に1回投与分のタイトジャンクション(TJ)ペプチド及びPYY3−36グループを摂取させた。表34に示すTJペプチド及びコントロールに従って、ウサギに投与した。TJペプチド(PN407、PN408、PN526 (PEG−PN159)、及びPN159)は、全て、カルシウム及びマグネシウム含有の0.75xDPBS中に存在する。ネガティブコントロールは、カルシウム及びマグネシウム含有の0.75xDPBS(PBS)のみである。TJペプチドは含まないが、DDPC、EDTA、及びMbCDを含むクエン酸バッファ中のPYY3−36ポジティブコントロール製剤を比較のために用いた(PDF)。
【0329】
投薬量を送達すると共に、動物の頭部を僅かに後方に傾けた。投与後、該動物の頭部を後方に傾けた位置に約15秒間抑えた。一連の血液サンプル(それぞれ約1.5mL)を、末梢耳静脈からの直接静脈穿刺により、抗凝固剤としてEDTAを含む血液回収用試験管内へと回収した。血液サンプルは、鼻腔内グループへの投与から0(投与前)、5、10、15、30、45、60、120及び240分後に回収した。回収後、抗凝固のために該試験管を複数回上下逆にした。回収用試験管に50μLのアプロチニン溶液を添加して穏やかに、しかし十分に混和した。混和したサンプルを、約4℃にて、約1,600 x gで15分間遠心するまで、冷却パック上に静置した。血漿を2つの重複する分量(それぞれ約0.35mL)に分注して約−70℃で凍結保存した。
【0330】
表34
【0331】
ウサギ血漿中のPYY3−36の生物分析アッセイを、市販のELISAキット(「Active Total Peptide YY (PYY) ELISA」、カタログ番号DSL−10−33600、Diagnostic Systems Laboratories,Inc.、ウェブスター、テキサス州)を用いて行った。該アッセイは、酵素により増幅される「ワンステップ(one−step)」サンドイッチ型イムノアッセイである。該アッセイにおいては、標準物質、コントロール及び未知のサンプルは、抗PYY抗体と共に、該抗体とは別の種類の抗PYY抗体でコーティングされたマイクロタイトレーションウェル(microtitration well)中にてインキュベートされる。インキュベーションと洗浄の後、前記ウェルを、発色性基質のテトラメチルベンジジンと共にインキュベートする。次いで、酸性停止溶液を添加して、基質の酵素によるターンオーバーの度合いを、450及び620nmの二波長吸光度測定により測定する。測定される吸光度は、存在するPYYの濃度に比例する。
【0332】
5パラメータロジスティックデータ処理方法(five−parameter logistic data reduction method)を標準物質の結果に適用して、各アッセイ用の検量線を作成した。該検量線を用いて、未知のサンプルの吸光度結果を内挿して、該サンプルのPYY濃度値を求めた。以下の例外を除いて、アッセイの全工程においてキットの構成成分を用いた:PYY3−36標準試料を用いて、標準物質とコントロールを作った;標準物質とコントロールは、精製した(stripped)(C18固相抽出カラム)プールしたウサギ血漿を希釈剤として用いて調製した;そして、必要な場合には、未知のサンプルを、精製した(stripped)プールしたウサギ血漿中に希釈した。このキットの抗体の組み合わせは、無傷のヒトPYY1−36を検出するように最適化され、マウスPYY1−36とヒトPYY3−36間で完全な交叉反応性を示す。
【0333】
コントロール(PBS及びPDF)とTJペプチド(PN159、PN407、PN408、及びPN526)製剤の平均薬物動態(PK)データ及び標準偏差(SD)を表35に示す。各タイトジャンクション調節剤とコントロールの相対的バイオアベイラビリティ(BA%)を表36に示す。薬物動態変数の変動係数の百分率を表37に示す。
【0334】
表35
【0335】
表36
【0336】
表37
【0337】
定量化の下限(LLQQ)は、15.8pg/mLであると考えられた。NUMBERを下回る全ての生データ値は、解析用に7.9pg/mLに定めた。経鼻投与後の平均PYY血漿濃度を、図12中の直線プロットと、図13中の対数直線プロットに示す。経鼻投薬量を投与された動物の平均PYY3−36血清濃度は、全てのグループについて投与から15−34分後に最高濃度(Tmax)を示した。205μg/kgの投薬量での経鼻PBS;PDF;PN159;PN407;PN408及びPN526の平均Cmaxは、それぞれ2,646.25;19,004.40;18,346.60;13,980.20;15,420.00及び36,066.20pg/mLであった。経鼻PBS;PDF;PN159;PN407;PN408及びPN526の平均AUClastは、それぞれ118,438.13;1,289,219.50;973,038.80;725,950.50;721,601.50及び1,786,973.50分*pg/mLであった。経鼻PBS;PDF;PN159;PN407;PN408及びPN526の平均AUCinfは、それぞれ147,625.18;1,319,034.73;985,572.89;753,080.86;758,951.24及び1,819,888.30分*pg/mLであった。全ての経鼻製剤について、t1/2は、約35−48分であった;しかしながら、PBSでは83分であった。標準偏差を含む全薬物動態パラメータの完全なリストについては表35を参照。タイトジャンクション調節剤対PDF製剤のAUClastに基づくBA%は、PN159、PN407、PN408及びPN526について、それぞれ75、56、56及び139%であった。PBSのバイオアベイラビリティ%は、PDFとの比較で9%に過ぎなかった。変動係数についても比較した(表37)。全てのタイトジャンクション調節剤は、製剤間の薬物動態パラメータをCmaxとAUCについて比較した場合に、近似する変動値を有していた。5種類の全ての製剤グループ間の薬物動態を、一元配置分散分析モデルを用いて分析し、PBS製剤が、Cmax、AUClast及びAUCinfにおいて、PN526よりも有意に低いことが判明した(Tmax:p=0.27;Cmax:p=0.009;AUClast:p=0.008;AUCinf:p=0.0097)。
【0338】
Cmaxを比較すると、PEG化タイトジャンクション調節剤PN526では、PDFよりも1.9倍高く、PBS、PN407及びPN408よりも、それぞれ13.6倍、2.6倍及び2.3倍高かった。AUClastを比較すると、PEG化タイトジャンクション調節剤PN526では、PDFよりも1.4倍高く、PBS、PN407及びPN408よりも、それぞれ15.1倍、2.5倍及び2.5倍高かった。t1/2は、PBSで80分であったことを除けば、全てのグループにおいて約40分であった。
【0339】
薬物動態パラメータのCmaxとAUCについて比較した場合、PN526とPBS製剤の間に有意差があった;しかしながら、タイトジャンクション調節剤間には有意性は認められなかった。
【0340】
バイオアベイラビリティは、PN526において、他の全てのタイトジャンクション調節剤との比較において増大され、薬物動態パラメータは、PBSコントロール製剤と比較して、統計学的に有意なものであった。これらのデータは、PEG化ペプチド製剤のPN526が、PEG化ペプチドを含まない製剤、PN159、PN407、PN408、及びPBSよりもBA%を増大させたことを示している。更に、PN526のBA%は、PEG化ペプチドを含まないポジティブコントロールであるPDFをも超えていた。
【0341】
ここに示す実施例は、単に例示の目的のためのものであり、請求項に記載される本発明の範囲の限定を意図するものではない。ここでは特別な用語と値を用いたが、このような用語及び値は、典型例として理解されるべきものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0342】
本開示に引用される全ての刊行物及び参考文献は、あらゆる目的のために、引用することにより、その全体がここに取り込まれている。
【図面の簡単な説明】
【0343】
【図1】図1には、PN159と更なる促進剤(Me−β−CD、DDPC、EDTA)を用いた場合の、PTH1−34の透過に対するPN159の作用が例示されている。
【図2】図2には、PN159を更なる促進剤無しで用いた場合の、PTH1−34の透過に対するPN159の作用が例示されている。
【図3】図3には、ペプチドYYのインビボでの透過に対するPN159の作用が例示されている。
【図4】図4には、MC−4レセプタアゴニストの透過に対するPN159の作用が例示されている。
【図5】図5には、40mg/mlの乳酸ガランタミン(galantamine lactate)の上皮単層間のインビトロでの透過に対する25−100μMのPN159の作用が示されている。
【図6】図6には、(A)5℃、(B)25℃、及び(C)40℃での、TJMペプチドの化学的安定性が示されている。pH4.0、pH7.3及びpH9.0でのデータは、それぞれ黒塗菱形、白抜き四角及び黒塗三角で表わされている。
【図7】図7には、各タイトジャンクション調節ペプチド(TJMP)の存在下での、FITC−デキストランMW4000の透過動態が例示されている。PYY製薬がポジティブコントロールとして働き、リン酸緩衝食塩水(PBS)がネガティブコントロールであった。細胞の透過は、細胞をTJMPとFITC−デキストランMW4000で15分間処理した後と60分間処理した後に評価した。グラフには、透過が、TJMPと上皮細胞の接触する時間の長さに依存し、試験した全てのTJMPがFITC−デキストランMW4000の透過を促進することが示されている。
【図8】図8には、PN159及びPEG−PN159で1時間処理した後の経上皮電気抵抗(TER)の低下が例示されている。
【図9】図9には、PN159及びPEG−PN159で処理した後のFITCデキストラン3000の透過性の増大が例示されている。
【図10】図10には、PN159及びPEG−PN159の透過比率が例示されている。
【図11】図11には、PN159のPEG化が毒性を低下させることが例示されている(LDHアッセイ)。
【図12】図12には、PEG化ペプチドPN529(PEG−PN159)を経鼻投与した後の、増大されたPYY3−36の血漿濃度の平均値が例示されている。
【図13】図13には、PEG化ペプチドPN529(PEG−PN159)を経鼻投与した後の、増大されたPYY3−36の血漿濃度の平均値が例示されている(長い直線状のプロット)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の粘膜内で、粘膜の透過性を調節することにより活性薬剤の粘膜上皮輸送を促進する活性を有するペプチド含有化合物、又はその医薬的に許容可能な塩であって、該ペプチドが、10キロダルトン未満の分子量を有し、及び1又は2個以上のアミノ酸残基により伸長された配列番号34に示すアミノ酸配列を含む、ペプチド含有化合物、又はその医薬的に許容可能な塩。
【請求項2】
前記ペプチドが、配列番号41〜43からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
哺乳動物の粘膜内で、粘膜の透過性を調節することにより活性薬剤の粘膜上皮輸送を促進する活性を有するペプチド含有化合物、又はその医薬的に許容可能な塩であって、該ペプチドが、10キロダルトン未満の分子量を有し、及び配列番号35に示すアミノ酸配列を含む、ペプチド含有化合物、又はその医薬的に許容可能な塩。
【請求項4】
前記ペプチドが、配列番号35からなる群から選択される、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
哺乳動物の粘膜内で、粘膜の透過性を調節することにより活性薬剤の粘膜上皮輸送を促進する活性を有するペプチド含有化合物、又はその医薬的に許容可能な塩であって、該ペプチドが、10キロダルトン未満の分子量を有し、及び配列番号38に示すアミノ酸配列を含む、ペプチド含有化合物、又はその医薬的に許容可能な塩。
【請求項6】
前記ペプチドが、配列番号38からなる群から選択される、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
哺乳動物の粘膜内で、粘膜の透過性を調節することにより活性薬剤の粘膜上皮輸送を促進する活性を有するペプチド含有化合物、又はその医薬的に許容可能な塩であって、該ペプチドが、10キロダルトン未満の分子量を有し、及び少なくとも60%のリシン、ロイシン、及び/又はアラニンで強化された配列番号34に示すアミノ酸配列を含む、ペプチド含有化合物、又はその医薬的に許容可能な塩。
【請求項8】
前記ペプチドが、配列番号32、33、36及び50からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
前記粘膜内で細胞生存率を維持したまま、前記透過性が促進される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項10】
前記化合物が、水溶性鎖に共有結合している、請求項1〜8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項11】
前記化合物が、ポリ(アルキレンオキシド)鎖である、請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
前記ポリ(アルキレンオキシド)鎖が、分枝しているか、又は分枝していない、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
前記ポリ(アルキレンオキシド)鎖が、ポリエチレングリコール(PEG)鎖である、請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
前記PEGが、約0.2ないし約200キロダルトン(kDa)の分子サイズを有する、請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
前記PEGが40kDa未満のサイズを有し、好ましくは、前記PEGが20kDa未満のサイズを有し、より好ましくは、前記PEGが10kDa未満のサイズを有する、請求項13に記載の化合物。
【請求項16】
前記PEGが5kDa未満のサイズを有し、好ましくは、前記PEGが2kDa未満のサイズを有する、請求項13に記載の化合物。
【請求項17】
前記ポリ(アルキレンオキシド)が、2.00未満の多分散値(Mw/Mn)を有する、請求項13に記載の化合物。
【請求項18】
前記ポリ(アルキレンオキシド)が、1.20未満の多分散値(Mw/Mn)を有する、請求項13に記載の化合物。
【請求項19】
粘膜上皮輸送を促進するのに効果的な量の請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物、又は配列番号34に示すアミノ酸配列を含む化合物、及び治療上有効な量の活性薬剤を含む、医薬製剤。
【請求項20】
前記製剤が、粘膜組織障壁間の電気抵抗を低下させる、請求項19に記載の製剤。
【請求項21】
前記電気抵抗の低下が、少なくとも80%である、請求項20に記載の製剤。
【請求項22】
前記製剤が、請求項1〜33のいずれか1項に記載の化合物、または配列番号34に示すアミノ酸配列を含む化合物を含まない類似製剤と比べて、粘膜組織障壁間の前記活性薬剤の透過性を増大させる、請求項21に記載の製剤。
【請求項23】
前記透過性の増大が、少なくとも2倍である、請求項22に記載の製剤。
【請求項24】
前記透過性が、傍細胞性である、請求項22に記載の製剤。
【請求項25】
前記増大された透過性が、タイトジャンクションの調節の結果として生じる、請求項22に記載の製剤。
【請求項26】
前記透過性が、経細胞性であるか、又は経細胞性及び傍細胞性の混合である、請求項22に記載の製剤。
【請求項27】
前記粘膜組織障壁が、上皮細胞層である、請求項22に記載の製剤。
【請求項28】
前記上皮細胞が、気管、気管支、肺胞、鼻、肺、胃腸、表皮及び頬のものからなる群から選択される、請求項27に記載の製剤。
【請求項29】
前記上皮細胞が、鼻のものである、請求項28に記載の製剤。
【請求項30】
前記活性薬剤が、ペプチド、タンパク質、又は核酸である、請求項19に記載の製剤。
【請求項31】
前記ペプチド又はタンパク質が、2ないし1000個のアミノ酸から構成される、請求項30に記載の製剤。
【請求項32】
前記ペプチド又はタンパク質が、2ないし50個のアミノ酸から構成される、請求項30に記載の製剤。
【請求項33】
前記ペプチド又はタンパク質が、環状である、請求項30に記載の製剤。
【請求項34】
前記ペプチド又はタンパク質が、ダイマ又はオリゴマである、請求項30に記載の製剤。
【請求項35】
前記ペプチド又はタンパク質が、GLP−1、PYY3−36、PTH1−34 及びエキセンディン−4からなる群から選択される、請求項30に記載の製剤。
【請求項36】
前記タンパク質が、β−インターフェロン、α−インターフェロン、インシュリン、エリスロポエチン、G−CSF、GM−CSF、成長ホルモン、及びこれらの類似体からなる群から選択される、請求項30に記載の製剤。
【請求項37】
請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤を含み、液体である剤形。
【請求項38】
前記液体が、液滴の形態にある、請求項37に記載の剤形。
【請求項39】
前記液体が、エアロゾルの形態にある、請求項37に記載の剤形。
【請求項40】
請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤を含み、固体である剤形。
【請求項41】
前記固体が、投与前に液体中に再溶解される、請求項40に記載の剤形。
【請求項42】
前記固体が、粉末として投与される、請求項40に記載の剤形。
【請求項43】
前記固体が、カプセル、錠剤、又はゲルの形態にある、請求項40に記載の剤形。
【請求項44】
請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤を提供すること、及び該製剤を動物の粘膜表面と接触させることを含む動物へ分子を投与する方法。
【請求項45】
前記粘膜表面が、鼻腔内にある、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤を提供すること、及び該製剤を哺乳動物に投与すること、を含む哺乳動物内に鼻腔内投与された活性薬剤のバイオアベイラビリティを増大させる方法。
【請求項47】
前記活性薬剤が、siRNAである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項48】
前記活性薬剤が、dsDNAである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項49】
前記活性薬剤が、造血性、抗感染性;抗痴呆性;抗ウィルス性、抗腫瘍性、解熱性、鎮痛性、抗炎症性、抗潰瘍性、抗アレルギー性、抗うつ性、精神作用性、強心性、抗不整脈性、血管拡張性、抗高血圧性、降圧利尿性、抗糖尿病性、抗凝血性、コレステロール低下薬、骨粗しょう症治療薬、ホルモン、抗生物質、又はワクチンである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項50】
前記活性薬剤が、サイトカイン、ペプチドホルモン、成長因子、心血管因子、細胞接着因子、中枢又は末梢神経系因子、ホルモン電解質因子(humoral electrolyte factor)、血液有機物質(hemal organic substance)、骨成長因子、消化管因子、腎臓因子(kidney factor)、結合組織因子(connective tissue factor)、感覚器官因子(sense organ factor)、免疫系因子、呼吸器系因子(respiratory system factor)、又は生殖器官因子(genital organ factor)である、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項51】
前記活性薬剤が、アンドロゲン、エストロゲン、プロスタグランジン、ソマトトロピン、ゴナドトロピン、インターロイキン、ステロイド、又はサイトカインである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項52】
前記活性薬剤が、肝炎、インフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、 パラインフルエンザウィルス(PIV)、結核、カナリア痘、水痘、麻疹、おたふく風邪、風疹、肺炎、又はヒト免疫不全ウィルス(HIV)用のワクチンである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項53】
前記活性薬剤が、ジフテリア、破傷風、シュードモナス、又は結核菌用の細菌トキソイドである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項54】
前記活性薬剤が、ヒルゲン、ヒルロス(hirulos)、又はヒルジンである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項55】
前記活性薬剤が、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体、抗体断片、又はイムノグロビンである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項56】
前記活性薬剤が、モルヒネ、ヒドロモルフォン、オキシモルホン、ラボルファノール(lovorphanol)、レバロルファン、コデイン、ナルメフェン、ナロルフィン、ナロゾン(nalozone)、ナルトレキソン、ブプレノルフィン、ブトルファノール、又はナルブフィン(nalbufine)である、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項57】
前記活性薬剤が、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、フルドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニソロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、パラメタゾン、又はフルオシノロンである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項58】
前記活性薬剤が、コルヒチン、アセトアミノフェン、アスピリン、イブプロフェン、ケトプロフェン、インドメタシン、ナプロキセン、メロキシカム、又はピロキシカムである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項59】
前記活性薬剤が、アシクロビル、リバビリン、トリフルオロチリジン、アラ−A(アラビノフラノシルアデニン)、アシルグアノシン、ノルデオキシグアノシン、アジドチミジン、ジデオキシアデノシン、又はジデオキシシチジンである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項60】
前記活性薬剤が、スピロノラクトン、テストステロン、エストラジオール、プロゲスチン、ゴナドトロピン、エストロゲン、又はプロゲステロンである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項61】
前記活性薬剤が、パパベリン、ニトログリセリン、血管作動性腸管ペプチド、カルシトニン関連遺伝子ペプチド、シプロヘプタジン、ドキセピン、イミプラミン、シメチジン、デキストロメトルファン、クロザリル、スーパーオキシドジスムターゼ、ニューロエンケファリナーゼ(neuroenkephalinase)、アムホテリシンB、グリセオフルビン、ミコナゾール、ケトコナゾール、チオコナゾール、イトラコナゾール、フルコナゾール、セファロスポリン、テトラサイクリン、アミノグルコシド、エリスロマイシン、ゲンタマイシン、ポリミキシンB、5−フルオロウラシル、ブレオマイシン、メトトレキセート、及びヒドロキシ尿素、ジデオキシイノシン、フロクスウリジン、6−メルカプトプリン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、タキソール、パクリタキセル、トコフェロール、キニジン、プラゾシン、ベラパミル、ニフェジピン、又はジルチアゼムである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項62】
前記活性薬剤が、組織プラスミノゲン活性化因子(TPA)、表皮成長因子 (EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF−酸性又は塩基性)、血小板由来増殖因子(PDGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF−α又はβ)、血管作動性腸管ペプチド、腫瘍壊死因子(TNF)、視床下部放出因子、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、副甲状腺ホルモン(PTH)、卵胞刺激ホルモン(FSF)、黄体化ホルモン放出ホルモン(LHRH)、エンドルフィン、グルカゴン、カルシトニン、オキシトシン、カルベトシン、アルドエテコン(aldoetecone)、エンケファリン、ソマトスタチン、ソマトトロピン、ソマトメジン、α−メラニン細胞刺激ホルモン、リドカイン、スフェンタニル、テルブタリン、ドロペリドール、スコポラミン、ゴナドレリン、シクロピロックス、ブスピロン、カルシトニン、クロモリンナトリウム又はミダゾラム、シクロスポリン、リシノプリル、カプトプリル、デラプリル、ラニチジン、ファモチジン、スーパーオキシドジスムターゼ、アスパラギナーゼ、アルギナーゼ、アルギニンデアミナーゼ、アデノシンデアミナーゼ、リボヌクレアーゼ、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、ボンベシン、サブスタンスP、バソプレッシン、α−グロブリン、トランスフェリン、フィブリノーゲン、β−リポタンパク質、β−グロブリン、プロトロンビン、セルロプラスミン、α2−糖タンパク質、α2−グロブリン、フェチュイン、α1−リポタンパク質、α1−グロブリン、アルブミン、又はプレアルブミンである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項63】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形を含む溶液と、粘膜スプレ、鼻腔内スプレ、又は肺スプレ(pulmonary spray)用のアクチュエータとを含む、医薬製品。
【請求項1】
哺乳動物の粘膜内で、粘膜の透過性を調節することにより活性薬剤の粘膜上皮輸送を促進する活性を有するペプチド含有化合物、又はその医薬的に許容可能な塩であって、該ペプチドが、10キロダルトン未満の分子量を有し、及び1又は2個以上のアミノ酸残基により伸長された配列番号34に示すアミノ酸配列を含む、ペプチド含有化合物、又はその医薬的に許容可能な塩。
【請求項2】
前記ペプチドが、配列番号41〜43からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
哺乳動物の粘膜内で、粘膜の透過性を調節することにより活性薬剤の粘膜上皮輸送を促進する活性を有するペプチド含有化合物、又はその医薬的に許容可能な塩であって、該ペプチドが、10キロダルトン未満の分子量を有し、及び配列番号35に示すアミノ酸配列を含む、ペプチド含有化合物、又はその医薬的に許容可能な塩。
【請求項4】
前記ペプチドが、配列番号35からなる群から選択される、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
哺乳動物の粘膜内で、粘膜の透過性を調節することにより活性薬剤の粘膜上皮輸送を促進する活性を有するペプチド含有化合物、又はその医薬的に許容可能な塩であって、該ペプチドが、10キロダルトン未満の分子量を有し、及び配列番号38に示すアミノ酸配列を含む、ペプチド含有化合物、又はその医薬的に許容可能な塩。
【請求項6】
前記ペプチドが、配列番号38からなる群から選択される、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
哺乳動物の粘膜内で、粘膜の透過性を調節することにより活性薬剤の粘膜上皮輸送を促進する活性を有するペプチド含有化合物、又はその医薬的に許容可能な塩であって、該ペプチドが、10キロダルトン未満の分子量を有し、及び少なくとも60%のリシン、ロイシン、及び/又はアラニンで強化された配列番号34に示すアミノ酸配列を含む、ペプチド含有化合物、又はその医薬的に許容可能な塩。
【請求項8】
前記ペプチドが、配列番号32、33、36及び50からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
前記粘膜内で細胞生存率を維持したまま、前記透過性が促進される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項10】
前記化合物が、水溶性鎖に共有結合している、請求項1〜8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項11】
前記化合物が、ポリ(アルキレンオキシド)鎖である、請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
前記ポリ(アルキレンオキシド)鎖が、分枝しているか、又は分枝していない、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
前記ポリ(アルキレンオキシド)鎖が、ポリエチレングリコール(PEG)鎖である、請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
前記PEGが、約0.2ないし約200キロダルトン(kDa)の分子サイズを有する、請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
前記PEGが40kDa未満のサイズを有し、好ましくは、前記PEGが20kDa未満のサイズを有し、より好ましくは、前記PEGが10kDa未満のサイズを有する、請求項13に記載の化合物。
【請求項16】
前記PEGが5kDa未満のサイズを有し、好ましくは、前記PEGが2kDa未満のサイズを有する、請求項13に記載の化合物。
【請求項17】
前記ポリ(アルキレンオキシド)が、2.00未満の多分散値(Mw/Mn)を有する、請求項13に記載の化合物。
【請求項18】
前記ポリ(アルキレンオキシド)が、1.20未満の多分散値(Mw/Mn)を有する、請求項13に記載の化合物。
【請求項19】
粘膜上皮輸送を促進するのに効果的な量の請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物、又は配列番号34に示すアミノ酸配列を含む化合物、及び治療上有効な量の活性薬剤を含む、医薬製剤。
【請求項20】
前記製剤が、粘膜組織障壁間の電気抵抗を低下させる、請求項19に記載の製剤。
【請求項21】
前記電気抵抗の低下が、少なくとも80%である、請求項20に記載の製剤。
【請求項22】
前記製剤が、請求項1〜33のいずれか1項に記載の化合物、または配列番号34に示すアミノ酸配列を含む化合物を含まない類似製剤と比べて、粘膜組織障壁間の前記活性薬剤の透過性を増大させる、請求項21に記載の製剤。
【請求項23】
前記透過性の増大が、少なくとも2倍である、請求項22に記載の製剤。
【請求項24】
前記透過性が、傍細胞性である、請求項22に記載の製剤。
【請求項25】
前記増大された透過性が、タイトジャンクションの調節の結果として生じる、請求項22に記載の製剤。
【請求項26】
前記透過性が、経細胞性であるか、又は経細胞性及び傍細胞性の混合である、請求項22に記載の製剤。
【請求項27】
前記粘膜組織障壁が、上皮細胞層である、請求項22に記載の製剤。
【請求項28】
前記上皮細胞が、気管、気管支、肺胞、鼻、肺、胃腸、表皮及び頬のものからなる群から選択される、請求項27に記載の製剤。
【請求項29】
前記上皮細胞が、鼻のものである、請求項28に記載の製剤。
【請求項30】
前記活性薬剤が、ペプチド、タンパク質、又は核酸である、請求項19に記載の製剤。
【請求項31】
前記ペプチド又はタンパク質が、2ないし1000個のアミノ酸から構成される、請求項30に記載の製剤。
【請求項32】
前記ペプチド又はタンパク質が、2ないし50個のアミノ酸から構成される、請求項30に記載の製剤。
【請求項33】
前記ペプチド又はタンパク質が、環状である、請求項30に記載の製剤。
【請求項34】
前記ペプチド又はタンパク質が、ダイマ又はオリゴマである、請求項30に記載の製剤。
【請求項35】
前記ペプチド又はタンパク質が、GLP−1、PYY3−36、PTH1−34 及びエキセンディン−4からなる群から選択される、請求項30に記載の製剤。
【請求項36】
前記タンパク質が、β−インターフェロン、α−インターフェロン、インシュリン、エリスロポエチン、G−CSF、GM−CSF、成長ホルモン、及びこれらの類似体からなる群から選択される、請求項30に記載の製剤。
【請求項37】
請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤を含み、液体である剤形。
【請求項38】
前記液体が、液滴の形態にある、請求項37に記載の剤形。
【請求項39】
前記液体が、エアロゾルの形態にある、請求項37に記載の剤形。
【請求項40】
請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤を含み、固体である剤形。
【請求項41】
前記固体が、投与前に液体中に再溶解される、請求項40に記載の剤形。
【請求項42】
前記固体が、粉末として投与される、請求項40に記載の剤形。
【請求項43】
前記固体が、カプセル、錠剤、又はゲルの形態にある、請求項40に記載の剤形。
【請求項44】
請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤を提供すること、及び該製剤を動物の粘膜表面と接触させることを含む動物へ分子を投与する方法。
【請求項45】
前記粘膜表面が、鼻腔内にある、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤を提供すること、及び該製剤を哺乳動物に投与すること、を含む哺乳動物内に鼻腔内投与された活性薬剤のバイオアベイラビリティを増大させる方法。
【請求項47】
前記活性薬剤が、siRNAである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項48】
前記活性薬剤が、dsDNAである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項49】
前記活性薬剤が、造血性、抗感染性;抗痴呆性;抗ウィルス性、抗腫瘍性、解熱性、鎮痛性、抗炎症性、抗潰瘍性、抗アレルギー性、抗うつ性、精神作用性、強心性、抗不整脈性、血管拡張性、抗高血圧性、降圧利尿性、抗糖尿病性、抗凝血性、コレステロール低下薬、骨粗しょう症治療薬、ホルモン、抗生物質、又はワクチンである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項50】
前記活性薬剤が、サイトカイン、ペプチドホルモン、成長因子、心血管因子、細胞接着因子、中枢又は末梢神経系因子、ホルモン電解質因子(humoral electrolyte factor)、血液有機物質(hemal organic substance)、骨成長因子、消化管因子、腎臓因子(kidney factor)、結合組織因子(connective tissue factor)、感覚器官因子(sense organ factor)、免疫系因子、呼吸器系因子(respiratory system factor)、又は生殖器官因子(genital organ factor)である、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項51】
前記活性薬剤が、アンドロゲン、エストロゲン、プロスタグランジン、ソマトトロピン、ゴナドトロピン、インターロイキン、ステロイド、又はサイトカインである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項52】
前記活性薬剤が、肝炎、インフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、 パラインフルエンザウィルス(PIV)、結核、カナリア痘、水痘、麻疹、おたふく風邪、風疹、肺炎、又はヒト免疫不全ウィルス(HIV)用のワクチンである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項53】
前記活性薬剤が、ジフテリア、破傷風、シュードモナス、又は結核菌用の細菌トキソイドである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項54】
前記活性薬剤が、ヒルゲン、ヒルロス(hirulos)、又はヒルジンである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項55】
前記活性薬剤が、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体、抗体断片、又はイムノグロビンである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項56】
前記活性薬剤が、モルヒネ、ヒドロモルフォン、オキシモルホン、ラボルファノール(lovorphanol)、レバロルファン、コデイン、ナルメフェン、ナロルフィン、ナロゾン(nalozone)、ナルトレキソン、ブプレノルフィン、ブトルファノール、又はナルブフィン(nalbufine)である、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項57】
前記活性薬剤が、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、フルドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニソロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、パラメタゾン、又はフルオシノロンである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項58】
前記活性薬剤が、コルヒチン、アセトアミノフェン、アスピリン、イブプロフェン、ケトプロフェン、インドメタシン、ナプロキセン、メロキシカム、又はピロキシカムである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項59】
前記活性薬剤が、アシクロビル、リバビリン、トリフルオロチリジン、アラ−A(アラビノフラノシルアデニン)、アシルグアノシン、ノルデオキシグアノシン、アジドチミジン、ジデオキシアデノシン、又はジデオキシシチジンである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項60】
前記活性薬剤が、スピロノラクトン、テストステロン、エストラジオール、プロゲスチン、ゴナドトロピン、エストロゲン、又はプロゲステロンである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項61】
前記活性薬剤が、パパベリン、ニトログリセリン、血管作動性腸管ペプチド、カルシトニン関連遺伝子ペプチド、シプロヘプタジン、ドキセピン、イミプラミン、シメチジン、デキストロメトルファン、クロザリル、スーパーオキシドジスムターゼ、ニューロエンケファリナーゼ(neuroenkephalinase)、アムホテリシンB、グリセオフルビン、ミコナゾール、ケトコナゾール、チオコナゾール、イトラコナゾール、フルコナゾール、セファロスポリン、テトラサイクリン、アミノグルコシド、エリスロマイシン、ゲンタマイシン、ポリミキシンB、5−フルオロウラシル、ブレオマイシン、メトトレキセート、及びヒドロキシ尿素、ジデオキシイノシン、フロクスウリジン、6−メルカプトプリン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、タキソール、パクリタキセル、トコフェロール、キニジン、プラゾシン、ベラパミル、ニフェジピン、又はジルチアゼムである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項62】
前記活性薬剤が、組織プラスミノゲン活性化因子(TPA)、表皮成長因子 (EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF−酸性又は塩基性)、血小板由来増殖因子(PDGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF−α又はβ)、血管作動性腸管ペプチド、腫瘍壊死因子(TNF)、視床下部放出因子、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、副甲状腺ホルモン(PTH)、卵胞刺激ホルモン(FSF)、黄体化ホルモン放出ホルモン(LHRH)、エンドルフィン、グルカゴン、カルシトニン、オキシトシン、カルベトシン、アルドエテコン(aldoetecone)、エンケファリン、ソマトスタチン、ソマトトロピン、ソマトメジン、α−メラニン細胞刺激ホルモン、リドカイン、スフェンタニル、テルブタリン、ドロペリドール、スコポラミン、ゴナドレリン、シクロピロックス、ブスピロン、カルシトニン、クロモリンナトリウム又はミダゾラム、シクロスポリン、リシノプリル、カプトプリル、デラプリル、ラニチジン、ファモチジン、スーパーオキシドジスムターゼ、アスパラギナーゼ、アルギナーゼ、アルギニンデアミナーゼ、アデノシンデアミナーゼ、リボヌクレアーゼ、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、ボンベシン、サブスタンスP、バソプレッシン、α−グロブリン、トランスフェリン、フィブリノーゲン、β−リポタンパク質、β−グロブリン、プロトロンビン、セルロプラスミン、α2−糖タンパク質、α2−グロブリン、フェチュイン、α1−リポタンパク質、α1−グロブリン、アルブミン、又はプレアルブミンである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形。
【請求項63】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物又は請求項19〜36のいずれか1項に記載の製剤又は請求項37〜43のいずれか1項に記載の剤形を含む溶液と、粘膜スプレ、鼻腔内スプレ、又は肺スプレ(pulmonary spray)用のアクチュエータとを含む、医薬製品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2009−502967(P2009−502967A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−524269(P2008−524269)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際出願番号】PCT/US2006/029768
【国際公開番号】WO2007/014391
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(507328184)ナステック ファーマスーティカル カンパニー インク. (29)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際出願番号】PCT/US2006/029768
【国際公開番号】WO2007/014391
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(507328184)ナステック ファーマスーティカル カンパニー インク. (29)
【Fターム(参考)】
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