説明

精密送り装置および精密移動装置

【課題】高精度な位置検出に基づく高精度な移動および位置決めが可能な精密送り装置および精密移動装置を提供すること。
【解決手段】ベース2に支持されたテーブル31を所定の移動方向へ駆動する精密送り装置9は、テーブル31に接続されたロッド41と、ロッド41を移動方向に進退駆動する駆動機構4と、ベース2に対するロッド41の変位を検出するレーザ干渉計5とを有し、駆動機構4は、ロッド41への駆動力が移動方向の軸線に対して対称に作用するリニアモータ44を有し、レーザ干渉計5のレーザ光路56はロッド41を貫通して移動方向に延びており、ロッド41の移動軸線と駆動機構4の推力軸線とレーザ干渉計5の検出軸線とが一致している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密送り装置および精密移動装置に関し、測定装置や工作機械などの載物テーブルあるいはコラム等を高精度で移動し位置決めする装置に関する。
【背景技術】
【0002】
精密な運動精度が要求される精密位置決めシステムや、精密測定機器および工作機械など、精密移動装置においては、移動対象である載物テーブルや主軸コラム等に高い幾何運動精度が求められるほか、直動方向の位置が正確に検出され制御されることが求められる。
このような移動対象の位置検出や位置制御に当たって、機構的にはアッベの原理が遵守されていることが望ましい。すなわち、移動対象の位置を同定する検出軸線が、移動対象の移動によって実行される測定や加工などの作用点を通るように配置され、加えて移動対象の運動や位置決め制御のために、駆動軸線あるいは推力軸線と案内軸線とがともに移動対象の重心を通り、さらに各軸線が検出軸線とも一致することが望まれる。
従来、精密移動装置の駆動機構には、ボールねじ、摩擦駆動、ベルト駆動、ラック・アンド・ピニオンなどの伝達機構が採用されている(特許文献1および特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1の装置では、移動対象であるテーブル等の移動体を駆動機構で駆動する際に、伝達機構として駆動ローラを用い、駆動体であるロッドに摩擦転動させて駆動力を付与している。この際、ロッドの反対側には駆動ローラの圧接力を受ける従動ローラが配置されるが、ロッドに対する駆動力は駆動ローラ側だけである。
特許文献1の装置では、ロッドとテーブルとを接続する際に流体静圧継手が用いられている。なかでも、給排静圧軸受あるいは真空圧バランス型静圧空気軸受では、圧縮方向及び引張方向に強い剛性を確保することができ、このような高剛性の静圧軸受を用いた駆動機構により、高精度直動テーブルの幾何運動精度の高度化が図られている。
特許文献1の静圧継手では、ロッド側にヨーイング方向の運動誤差を吸収するジンバル機構に支持されたスラスト板が設けられ、テーブル側はピッチング方向の運動誤差を吸収する同様のジンバル機構により支持される構成とすることで、継手を介してテーブルの移動方向以外の力の伝達が生じないようにされている。
【0004】
特許文献2の装置では、テーブルの下方に送りねじ軸を用いたスライダ駆動機構が設置され、この送りねじ軸により上方のテーブルを水平に移動させている。
特許文献2の装置では、テーブルの側方にレーザ干渉計による位置検出機構が設置される。この際、レーザ干渉計の光源からテーブル端部に至るレーザ光路は、ベローズを用いた伸縮性の筒体によって囲われ、内部を減圧されており、レーザ光路における空気ゆらぎの影響を排除して更なる高精度化が図られている。
このようなレーザ干渉計により、高精度化の要件である駆動機構ないし移動体の高い幾何運動精度に加えて、移動体の送り方向の位置を正確に検出し制御することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−205292号公報
【特許文献2】特開2000−55617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前述した特許文献1あるいは特許文献2においては、それぞれ駆動機構として摩擦式の駆動ローラあるいはボールねじ軸を用いており、これらの移動軸線(移動部分がガイドされる方向)と推力軸線(駆動力が作用する方向)とが必ずしも一致せず、前述したオフセット量が問題となる。
さらに、移動軸線および推力軸線を一致させて移動対象の重心を通過するように配置し、測定や加工などの作用点を通過するように検出軸線を配置したうえ、これらの移動軸線、推力軸線および検出軸線を全て一致させることは、設計上、極めて困難である。
【0007】
このような装置において、アッベの原理を満たせず、オフセット量の影響が問題となる場合、駆動機構の位置決めの再現性の高さを前提に、移動対象の駆動によって実行される測定や加工などの作用点において、別途、レーザ干渉測長計などの上位基準となる第3の位置観測装置を用いた校正や補正の作業が必要となり、機器構成の複雑化、保守性の低下、コストの増加などの原因となっていた。
これらは、テーブル等の移動体を含む精密移動装置において問題となるだけでなく、テーブル等の移動体を駆動する装置、つまり移動対象を含まない精密送り装置においても同様に問題となる。
【0008】
本発明の主な目的は、高精度な位置検出に基づく高精度な移動および位置決めが可能な精密送り装置および精密移動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の精密送り装置は、ベースに支持されて所定の移動方向に沿って移動可能な移動体を前記移動方向へ駆動する精密送り装置であって、
前記移動体に接続された駆動体と、前記駆動体を前記移動方向に沿って進退駆動する駆動機構と、前記ベースに対する前記移動体の変位を検出する変位検出器とを有し、
前記駆動機構は、前記駆動体への駆動力が前記駆動体の前記移動方向の軸線に対して対称に作用する駆動源を有し、
前記変位検出器は、前記駆動体を貫通して前記移動方向に延びるレーザ光路を有するレーザ干渉計であることを特徴とする。
【0010】
本発明の精密移動装置は、ベースに支持されて所定の移動方向に沿って移動可能な移動体と、前記移動体に接続された駆動体と、前記駆動体を前記移動方向に沿って進退駆動する駆動機構と、前記ベースに対する前記移動体の変位を検出する変位検出器とを有し、
前記駆動機構は、前記駆動体への駆動力が前記駆動体の前記移動方向の軸線に対して対称に作用する駆動源を有し、
前記変位検出器は、前記駆動体を貫通して前記移動方向に延びるレーザ光路を有するレーザ干渉計であることを特徴とする。
【0011】
このような構成では、移動体が駆動体を介して駆動機構により所定の移動方向へと駆動される。駆動機構からの駆動力は駆動体の移動方向の軸線に対して対称(線対称あるいは直交面における点対称)とされ、その結果、駆動力の軸線である推力軸線と、駆動体の移動軸線とを一致させることができる。
さらに、変位検出器のレーザ光路は駆動体を貫通するように配置することで、レーザ干渉計の検出軸線を、駆動機構の移動軸線および推力軸線に一致させることができる。
なお、駆動体の移動軸線に対して対称な駆動力とする具体的構成としては、以下に述べる構成が採用できる。
【0012】
本発明において、前記駆動源は、前記駆動体に設置された可動子と、前記駆動体を挟んで対向する少なくとも一対の固定子と、を有するリニアモータであることが望ましい。
この構成において、リニアモータを構成する可動子および固定子は、何れか一方を誘導コイル等の電機子とし、何れか他方を磁界生成用の磁石とすればよい。通常、移動する側である可動子を磁石とし、固定子を誘導コイルとすればよい。
このような構成では、駆動体に設置された可動子が駆動体を挟んで設置された固定子により推力を受けて駆動される。この際、少なくとも一対の固定子が対向配置されることにより、各固定子から可動子に作用する推力は、駆動体の中心を通る推力軸線に合成され、これにより推力軸線と移動軸線とを一致させることができる。
【0013】
本発明において、前記固定子は、前記駆動体の周囲に筒状に配置されることが望ましい。
このような構成では、駆動体の周囲から一様な駆動力が付与され、合成される駆動力の推力軸線を、中心にある駆動体の移動軸線に一致させることが容易にできる。
このような構成としては駆動体に沿って配列された固定子の列を、駆動体の周囲に複数列配置する構成のほか、駆動体を一巡する環状の固定子を移動軸線に沿って複数配列した構成を利用することができる。
【0014】
このようなリニアモータを採用することで、以下のような優れた効果が得られる。
すなわち、従来技術として述べたローラあるいはボールねじ等の駆動機構や伝達機構では、摩擦やロストモーションおよび転がり接触に起因する非線形な負荷変動を伴うことがあり、その解決には駆動の加減速時におけるオーバーシュートの抑制や、安定した精密位置決め制御にゲインスケジューリング法などの特殊な制御手法を必要とするといった難点がある。
これに対し、リニアモータは、基本的に固定側と可動側とが非接触なアクチュエータであり、前述した従来の伝達機構における摩擦やロストモーションなどの非線形な要素を排除することができる。
なお、リニアモータは、半導体製造装置などの精密送り装置に多く採用されているが、本発明のように、移動軸線、推進軸線および検出軸線までを全て一致させることができる構成はなく、これらの軸線を全て一致させる構成は本発明に独自のものである。
【0015】
本発明の駆動源としてのリニアモータは、前述したように筒状に配置することが望ましいが、駆動体を挟んで対向する一対のリニアモータ構造であれば、各々の駆動力による推力軸を駆動体の中心に一致させることができ、かつ構造を簡略化して設備コストも低減できる。従って、本発明の実施にあたり、リニアモータの構成および配置は、要求される精度等に応じて適宜選択することが望ましい。
【0016】
本発明において、前記駆動源は、前記駆動体を挟んで配置された一対の駆動ローラとしてもよい。
このような構成では、リニアモータのような非接触での駆動力伝達はできないが、駆動体に対して対称に配置された一対の駆動ローラを同期回転させることで、駆動体に対して対称な駆動力を付与することができ、移動軸線と推力軸線とを一致させることができる。
さらに、一対の駆動ローラを用いた構成では、リニアモータに比べて極めて簡単な構成とすることができ、設備コストも大幅に削減することができ、用途に応じて選択すれば、各軸線の一致による十分な精度を得ることができる。
【0017】
本発明においては、前記駆動体を前記移動方向に沿って移動自在に支持するガイド機構を有することが望ましい。
このような構成では、駆動機構として非接触のリニアモータを用いる場合でも、駆動体をガイド機構で支持することができる。
ここで、ガイド機構は支持された駆動体の移動方向(案内軸線)を決定するものとなる。従って、ガイド機構においては、設置方向を精密に調整することが望ましく、かつガイド機構としても、駆動体の周囲に筒状あるいは環状に形成されるなど、案内軸線が駆動体に要求される移動軸線に一致するように調整することが望ましい。
【0018】
本発明において、前記駆動体は、前記移動体に接続される側の先端が閉鎖され、前記先端の内側には前記レーザ光路に直交する反射面を有する構成とすることができる。
ここで、反射面としては、レーザ干渉計からのレーザ光を適切に反射できるものであればよく、高精度の平滑面のほか、コーナーキューブなどの再帰反射性の反射体を用いることができる。
このような構成では、レーザ干渉計から駆動体内のレーザ光路に送られたレーザ光は、反射面で反射してレーザ干渉計に戻され、これにより検出軸線と駆動体の移動軸線および推進軸線との一致を図ることができる。
この際、駆動体の先端は閉鎖されているため、レーザ光路を高真空とすることができるとともに、レーザ光路が駆動体の先端までで完結するため、駆動体の先端より先の、移動体との接続には任意の形式の継手あるいは接続手段を用いることができる。
【0019】
本発明において、前記移動体と前記駆動体とを接続する継手を有し、
前記継手は、前記移動体に接続されかつ前記移動方向と直交する移動側対向面と、前記駆動体に接続されかつ前記移動側対向面に対向する駆動側対向面と、前記移動側対向面および駆動側対向面の間に形成される静圧隙間に加圧された流体を導く流体供給路と、負圧源に連結され前記静圧隙間から前記流体を排出する流体供給路と、を有する給排静圧継手であり、
前記レーザ光路は、前記駆動体ないし前記駆動側対向面を貫通しかつ前記移動側対向面を反射面とすることが望ましい。
【0020】
このような構成では、駆動機構により駆動体を駆動することで、駆動体および継手を介して移動体が移動される。継手として、給排静圧継手を用いることで、駆動源からの振動の影響を回避し、かつ移動方向のみの駆動による高精度な移動が行われる。
移動体の移動は変位検出器により検出される。変位検出器は、レーザ干渉計による高精度を有するとともに、駆動体を貫通するレーザ光路によりオフセット誤差を回避できるため、移動体の位置決め精度を高めることができる。
なお、給排静圧継手で用いる流体としては、空気その他の気体のほか、液体も利用可能である。ただし、空気を用いれば、その確保および装置の保守が容易であるうえ、漏洩しても問題が生じない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態の全体構成を示す模式図。
【図2】本発明の第2実施形態の全体構成を示す模式図。
【図3】前記第2実施形態の要部を示す断面図。
【図4】本発明の第3実施形態の要部を示す断面図。
【図5】本発明の第4実施形態の全体構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1および図2には、本発明の第1実施形態が示されている。
図1において、本実施形態の精密移動装置1は、ベース2上にテーブル機構3、駆動機構4、レーザ干渉計5を備えている。
ベース2は、安定した基礎上に固定され、上面が水平に形成されている。駆動機構4およびレーザ干渉計5は、テーブル機構3に応じた高さとなるように、支持台21,22を介してベース2上に支持されている。これらの駆動機構4およびレーザ干渉計5により、本発明の精密送り装置9が構成されている。
【0023】
テーブル機構3は、移動体であるテーブル31を支持するものであり、ベース2に固定されたガイドレール32を有する。
テーブル31の下面にはガイド軸受33が形成され、テーブル31はガイド軸受33およびガイドレール32を介してベース2に支持されている。
ガイドレール32は、所定の移動方向(テーブル31を移動させる所期の方向)に連続して形成され、上面が水平かつ平滑とされている。
ガイド軸受33は、ガイドレール32の上面との間に圧縮空気を供給することによって静圧隙間を形成する空気静圧軸受であり、テーブル31の荷重によりプリロードを得ている。
テーブル31は、テーブル機構3により移動自在に支持され、前述した移動方向へ滑らかに移動可能である。
【0024】
駆動機構4は、駆動体であるロッド41を駆動するものであり、ベース2に固定されたケーシング42を有するとともに、駆動源としてリニアモータ44を備えている。
ロッド41は、前述したテーブル31の移動方向に延びる中空管状の長尺部材であり、両端(図1右側の基端および同左側の先端)がケーシング42から突出されている。ロッド41の先端は、継手6を介してテーブル31に接続されている。
ケーシング42は、ロッド41を貫通させかつロッド41の外周と滑らかに摺動するロッドガイド43を2箇所に有し、これらのロッドガイド43で支持されることでロッド41はテーブル31の移動方向のまま支持され、かつ長手方向に自由に移動可能とされている。これらのロッドガイド43によりガイド機構が構成されている。
【0025】
リニアモータ44は、ロッド41に設置された可動子としての磁石45と、ケーシング42に設置された固定子としての誘導コイル46とを有する。
磁石45は、環状の磁石あるいは円弧状の磁石を環状に接続したものを、各々の中心孔が揃うように複数重ねて管状にしたものであり、ロッド41の表皮材の内側に収容される。
誘導コイル46は、ロッド41の外周を一巡する環状に形成され、ケーシング42の中央に支持される。誘導コイル46には、図示しない外部の制御装置からロッド41の移動方向および移動速度に応じた駆動電流が供給され、これにより磁石45および誘導コイル46がリニアモータ44として機能する。
これらの誘導コイル46、磁石45、ロッドガイド43およびロッド41は、互いに中心軸が一致するように配置されており、これによりリニアモータ44としての推力軸線とロッド41の移動軸線とが一致され、駆動体であるロッド41への駆動力が、その移動方向である移動軸線に対して対称に作用するような構成とされている。
【0026】
レーザ干渉計5は、本発明の変位検出器であり、受光素子およびスプリッタ等の基本構成が収容された干渉計本体51を有し、この干渉計本体51には光ファイバ52を介して外部のレーザ光源53が接続されている。
干渉計本体51のレーザ出射口54は、金属製のベローズ55を介してロッド41の基端に接続されている。前述の通りロッド41は長手方向に進退し、干渉計本体51に対して距離が変動するが、ベローズ55が伸縮することで、ロッド41と干渉計本体51との接続が維持される。
【0027】
ベローズ55の内部およびロッド41の中空部は互いに連通され、これらの一連の空間によりレーザ光路56が形成される。
ロッド41の先端においてロッド41の中空部はキャップ49により気密状態で封止されている。キャップ49の内側には、反射面を有するミラー57が固定されている。
これにより、レーザ出射口54から出射されたレーザ光は、レーザ光路56を通ってロッド41の先端まで達し、ミラー57で反射されたのち、レーザ光路56を通り干渉計本体51に戻って受光されるようになっている。
測定精度を高めるために、レーザ光路56内は高真空状態まで減圧される。ベローズ55は、ロッド41の移動に伴って長手方向には伸縮可能であるが、金属製とされて径方向には所定の剛性が確保されており、内外の気圧差が大きくても圧壊することはない。
【0028】
このような本実施形態によれば、駆動機構4によりロッド41を駆動することで、ロッド41および継手6を介してテーブル31を移動させることができる。そして、テーブル31の移動は、変位検出器であるレーザ干渉計5により検出される。
駆動機構4は、リニアモータ44を採用することでリニアモータ機構としての基本的な高精度が得られるとともに、ロッド41の周囲に管状に配置されたリニアモータ44とすることで、その推力軸線をロッド41の移動軸線と一致させることができる。これにより、推力軸線と移動軸線に関するオフセット誤差を解消し、テーブル31の位置決め精度を高めることができる。
【0029】
レーザ干渉計5は、レーザ干渉による高精度を有するとともに、ロッド41を貫通するレーザ光路56を用いた配置によりロッド41の移動軸線およびレーザ光による位置検出軸線をテーブル31の移動方向に一致させ、オフセット誤差を回避できるため、テーブル31の位置決め精度を高めることができる。
従って、本実施形態によれば、レーザ干渉計5の検出軸線、駆動機構4の推力軸線、ロッド41の移動軸線を全て一致させることができ、高精度な位置検出に基づく高精度な移動および位置決めが可能な精密送り装置9および精密移動装置1を提供することができる。
【0030】
〔第2実施形態〕
図2および図3には、本発明の第2実施形態が示されている。
図2において、本実施形態の精密移動装置1Aは、ベース2上にテーブル機構3、駆動機構4、レーザ干渉計5を備え、これらの駆動機構4およびレーザ干渉計5により本発明の精密送り装置9Aが構成されている。
本実施形態の精密移動装置1Aおよび精密送り装置9Aは、基本的構成が前述した第1実施形態の精密移動装置1および精密送り装置9と同様であり、共通の構成については、同じ符号を用いて重複する説明を省略する。
【0031】
図2において、ロッド41Aは、先端に前記第1実施形態のようなキャップ49がなく、中央を貫通するレーザ光路56の開口が露出され、継手6Aの中央孔に連通されている。
すなわち、前述した第1実施形態のロッド41が先端閉鎖型であったのに対し、本実施形態のロッド41Aは先端開放型とされている。
また、前述した第1実施形態の継手6がレーザ光路56と絶縁され、任意の継手構造が採用されるものであったのに対し、継手6Aが反射面を含む給排静圧継手とされている。
【0032】
図3において、継手6Aは、テーブル31に接続される移動側部材61と、ロッド41Aの先端に接続される駆動側部材62とを有する。
移動側部材61および駆動側部材62は、それぞれ金属製の円盤状に形成され、一方の表面が高精度の平面となるように研磨されている。これにより、移動側部材61の表面には移動側対向面63が形成され、駆動側部材62の表面には駆動側対向面64が形成されている。
【0033】
移動側部材61は、水平な回動軸71を介して支持部材73に支持され、この支持部材73はテーブル31の側面に固定されている。これにより、移動側のジンバル機構が形成され、移動側部材61および移動側対向面63はピッチング方向に揺動可能である。
駆動側部材62は、垂直な回動軸72を介して支持部材74に支持され、この支持部材74はロッド41Aの先端に固定されている。これにより、駆動側のジンバル機構が形成され、駆動側部材62および駆動側対向面64はヨーイング方向に揺動可能である。
回動軸71、72は、それぞれ移動側部材61あるいは駆動側部材62に固定されたトラニオンピンであり、その外周を一巡するV溝に軸受ボールが配列され、支持部材73、74の受け部内周に単列深溝球軸受を構成したものであり、中心軸まわりの回転は自在であるが、軸方向への移動は規制される。
これらのジンバル機構により、ロッド41Aとテーブル31との間のピッチング方向およびヨーイング方向の傾きが緩和される。なお、ロッド41Aとテーブル31との間の垂直方向および水平方向の変位については、後述する継手6Aの静圧隙間65により緩和される。
【0034】
継手6Aにおいて、移動側部材61および駆動側部材62は互いに向かい合わせに配置され、移動側対向面63および駆動側対向面64の間には後述する流体によって静圧隙間65が形成される。
通常、テーブル31は所定の移動方向へ移動可能であり、ロッド41Aもこの移動方向に延びかつこの移動方向に進退駆動される。移動側部材61および駆動側部材62は互いの回動軸が直交しており、通常は移動側対向面63および駆動側対向面64がそれぞれ前述したテーブル31の移動方向に直交する状態である。ここで、ロッド41Aがテーブル31の移動方向に対して僅かな傾きを生じたとしても、前述した移動側および駆動側のジンバル機構により傾きが吸収され、前述した移動側対向面63および駆動側対向面64がテーブル31の移動方向に直交する状態が維持される。
【0035】
移動側部材61には、流体供給路66および流体排出路67が接続され、静圧隙間65への流体の供給および排出が行われる。
流体供給路66は、流体である圧縮(または加圧)空気を移動側対向面63の外周近傍の複数箇所に配置された(流体)絞りから静圧隙間65へと供給する。
そして、負圧源とリンクする流体排出路67を通って、移動側対向面63の外周近傍の空気が供給される領域より内側の領域から空気が排出される。
これにより、流体供給路66から静圧隙間65の外周近傍に供給された空気は、一部が静圧隙間65の外周から大気開放されるとともに、内側の領域では流体排出路67から排出される。
従って、空気が排出される内側の領域は負圧領域となり、移動側対向面63および駆動側対向面64を近接させるような引張力が生じ、これが静圧継手としてのプリロードとなる。そして、外周近傍の空気供給領域において一定厚みの空気層が圧縮力を受け、これにより給排静圧継手が構成される。
【0036】
駆動側部材62には、中央に貫通孔68が形成されている。
駆動側部材62のロッド41A側には、金属製のベローズ75が接続され、ベローズ75は、ロッド41Aの先端のレーザ光路56の開口の周囲に接続されている。
これらにより、ロッド41Aの内部のレーザ光路56からベローズ75の内部ないし貫通孔68まではテーブル31の移動方向の軸線に沿って連通されている。
【0037】
貫通孔68の駆動側対向面64側近傍にはガラス製の透明板69が設置され、この透明板69により静圧隙間65と貫通孔68、ベローズ75ないしレーザ光路56の内部とは気密状態で遮断されている。但し、透明板69はレーザ干渉計5のレーザ光に対して透明であり、レーザ光路56を通って到達したレーザ光は、透明板69を透過して移動側対向面63で反射され、再び透明板69を透過してレーザ光路56に戻り、レーザ干渉計5で検出されるようになっている。
【0038】
この際、移動側対向面63はテーブル31の移動方向つまりレーザ光路56を通るレーザ光の光軸と直交状態を維持されているため、レーザ光路56からのレーザ光を確実に反射させることができる。
一方、透明板69は、貫通孔68内に固定されるにあたって、テーブル31の移動方向つまりレーザ光路56を通るレーザ光の光軸に対して直交状態ではなく、僅かな角度傾斜した状態で固定されている。これにより、透明板69で生じた反射成分はレーザ光軸から外れ、レーザ干渉計5に戻ることはない。
【0039】
このような本実施形態によれば、前記第1実施形態と同様な効果が得られるとともに、さらに下記の効果が得られる。
本実施形態では、継手6Aとして直交2軸のジンバル機構を含む給排静圧継手を用いたため、駆動機構4で発生する駆動に伴う振動等の影響を回避することができ、かつテーブル31の移動方向のみの駆動による高精度な移動を行うことができる。
また、レーザ光路56の反射面として、移動側対向面63を利用したため、別途のミラー等を省略できるとともに、移動体であるテーブル31側により近い部位での反射が得られるため、検出精度を向上することができる。
【0040】
さらに、駆動側対向面64には、ロッド41A内から貫通孔68まで連通するレーザ光路56と静圧隙間65とを気密状態に仕切る透明板69を設けたため、静圧隙間65の気圧とは関わりなくレーザ光路56の減圧状態を設定することができる。このため、レーザ光路56に要求される高真空に対して静圧隙間65の圧力が高い場合でも、静圧隙間65の流体がレーザ光路56内に流入することが回避できる。
透明板69は、レーザ光路56を通るレーザ光の光軸に対して傾斜しているため、レーザ干渉計5の測定にあたって不必要な反射光を返す可能性を解消することができる。
【0041】
〔第3実施形態〕
図4には、本発明の第3実施形態が示されている。
本実施形態の精密移動装置1Bは、基本的構成が前述した第1実施形態の精密移動装置1と同様であり、共通の構成については、同じ符号を用いて重複する説明を省略する。
なお、精密移動装置1Bに含まれる精密送り装置9Aは、前述した第1実施形態と同様である。
本実施形態においては、精密送り装置9Aとテーブル機構3とを接続するために、直交2軸のジンバル機構を含むが給排静圧式でない継手6Bが採用されている。
【0042】
図4において、精密送り装置9Aから延びる先端開放型のロッド41Aの先端には、前記第2実施形態と同様な支持部材74および垂直な回動軸72Bが固定されている。一方、テーブル31の側面には、前記第1実施形態と同様な支持部材73および水平な回動軸71Bが固定されている。
本実施形態では、前記第2実施形態の移動側部材61および駆動側部材62に替えて、中間部材76が設置されている。中間部材76は、テーブル31側が水平な回動軸71Bに回動連結されるとともに、ロッド41A側が垂直な回動軸72Bに回動連結されている。
回動軸71Bおよび回動軸72Bとしては、中心軸線まわりに回転可能であるとともに、中心軸線方向に沿って移動を許容するストロークベアリングが用いられている。
【0043】
このような本実施形態においては、前記第2実施形態と同様な効果が得られるとともに、さらに下記の効果が得られる。
本実施形態では、継手6Bにおいて、水平に回動する移動側のジンバル機構および垂直に回動する固定側のジンバル機構が形成され、それぞれピッチング方向の揺動およびヨーイング方向の揺動を許容することができる。また、回動軸71Bおよび回動軸72Bとしてストロークベアリングを用いることで、ロッド41Aの移動軸線と交叉する垂直方向および水平方向の変位を許容することができる。この垂直方向および水平方向の変位への対応は、前述した第1および第2の実施形態では給排静圧式の継手6,6Aによって行われていたものであるが、本実施形態ではストロークベアリングを用いた回動軸71Bおよび回動軸72Bにより対応することができる。
このような構成により、ロッド41Aからテーブル31に移動軸線に沿った方向と異なる方向の力が加えられた場合でも、その伝達を緩和することができる。
【0044】
〔第4実施形態〕
図5には、本発明の第4実施形態が示されている。
図5において、本実施形態の精密移動装置1Cは、ベース2上にテーブル機構3、駆動機構4C、レーザ干渉計5を備え、これらの駆動機構4Cおよびレーザ干渉計5により本発明の精密送り装置9Cが構成されている。
本実施形態の精密移動装置1Cおよび精密送り装置9Cは、基本的構成が前述した第2実施形態の精密移動装置1Aおよび精密送り装置9A(第1実施形態に対して先端開放型のロッド41Aとし、ジンバル機構を含む給排静圧軸受による継手6Aとしたもの)と同様であり、共通の構成については、同じ符号を用いて重複する説明を省略する。
【0045】
図5において、前述した第2実施形態との相違は、駆動機構4Cの駆動源がリニアモータでないことである。
駆動機構4Cは、ロッド41Aを駆動するために、ケーシング42、ロッドガイド43、駆動ローラ44Cを備えている。
駆動機構4Cにおいて、駆動ローラ44Cは、ロッド41Aを挟んで一対が対向配置され、これにより一対の駆動ローラ44Cがロッド41Aに対して対称に配置されている。これらの駆動ローラ44Cには、図示しない電動モータ等の動力源からの回転力が伝達機構を介して伝達され、これにより一対の駆動ローラ44Cは等速で回転してロッド41Aに対して対称な駆動力を付与可能である。
【0046】
このような本実施形態では、前述した第1実施形態の駆動機構4のようにリニアモータ44による非接触での駆動力伝達はできないが、ロッド41Aを挟んで対向配置された一対の駆動ローラ44Cを同期回転させることで、ロッド41Aに対して対称な駆動力を付与することができ、ロッド41Aの移動軸線と駆動機構4Cによる推力軸線とを一致させることができ、前述したレーザ干渉計5の検出軸線との一致と併せて高精度を得ることができる。
さらに、本実施形態では、駆動機構4Cを一対の駆動ローラ44Cを用いた構成とすることで、前記第1実施形態のようなリニアモータ44を用いた駆動機構4に比べて極めて簡単な構成とすることができ、設備コストも大幅に削減することができ、用途に応じて選択すれば、各軸線の一致による十分な精度を得ることができる。
【0047】
〔変形例〕
本発明は前述した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形等は本発明に含まれるものである。
例えば、駆動機構4において、リニアモータ44は、環状の磁石45および環状の誘導コイル46を用いて筒状を形成するものに限らず、磁石45および誘導コイル46を移動軸線に沿って配列したリニアモータ構造を、ロッド41,41Aの周囲に複数配列し、全体として筒状となるように構成してもよい。
【0048】
駆動機構4Cとしては、一対の駆動ローラ44Cに限らず、二対以上の駆動ローラ44Cを用いてもよい。例えば、上下一対の駆動ローラ44Cの他に、水平に並列な一対の駆動ローラ44Cを配置してもよい。このように複数対を用いることでロッド41の支持を兼ねることができ、ロッドガイド43の一方を省略することも可能である。
さらに、他の駆動機構として、駆動ローラ44Cによる摩擦転動に限らず、送りねじ軸等の他の機構を用いてもよく、例えば送りねじ軸をロッド41,41Aの両側に並列に設置し、各々による推力軸線を移動軸線に一致させてもよい。
駆動機構4とレーザ干渉計5との間のベローズ55は、テレスコピック構造などで代替してもよい。
前記各実施形態では、テーブル31を移動させる方向を一次元で説明したが、2系統を組み合わせて二次元的な移動を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1,1A〜1C…精密移動装置
2…ベース
3…テーブル機構
4,4C…駆動機構
5…レーザ干渉計
6,6A〜6C…継手
9,9A,9C…精密送り装置
31…移動体であるテーブル
32…ガイドレール
33…ガイド軸受
41,41A…駆動体であるロッド
42…ケーシング
43…ガイド機構であるロッドガイド
44…リニアモータ
44C…駆動ローラ
45…可動子である磁石
46…固定子である誘導コイル
51…干渉計本体
52…光ファイバ
53…レーザ光源
54…レーザ出射口
55…ベローズ
56…レーザ光路
57…反射面を有するミラー
61…移動側部材
62…駆動側部材
63…移動側対向面
64…駆動側対向面
65…静圧隙間
66…流体供給路
67…流体排出路
68…貫通孔
69…透明板
71,72…回動軸
73,74…支持部材
75…ベローズ
76…中間部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースに支持されて所定の移動方向に沿って移動可能な移動体を前記移動方向へ駆動する精密送り装置であって、
前記移動体に接続された駆動体と、前記駆動体を前記移動方向に沿って進退駆動する駆動機構と、前記ベースに対する前記移動体の変位を検出する変位検出器とを有し、
前記駆動機構は、前記駆動体への駆動力が前記駆動体の前記移動方向の軸線に対して対称に作用する駆動源を有し、
前記変位検出器は、前記駆動体を貫通して前記移動方向に延びるレーザ光路を有するレーザ干渉計であることを特徴とする精密送り装置。
【請求項2】
請求項1に記載した精密送り装置において、
前記駆動源は、前記駆動体に設置された可動子と、前記駆動体を挟んで対向する少なくとも一対の固定子と、を有するリニアモータであることを特徴とする精密送り装置。
【請求項3】
請求項1に記載した精密送り装置において、
前記駆動源は、前記駆動体を挟んで配置された一対の駆動ローラであることを特徴とする精密送り装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れかに記載した精密送り装置において、
前記駆動体を前記移動方向に沿って移動自在に支持するガイド機構を有することを特徴とする精密送り装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れかに記載した精密送り装置において、
前記駆動体は、前記移動体に接続される側の先端が閉鎖され、前記先端の内側には前記レーザ光路に直交する反射面を有することを特徴とする精密送り装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れかに記載した精密送り装置において、
前記移動体と前記駆動体を接続する継手を有し、
前記継手は、前記移動体に接続されかつ前記移動方向と直交する移動側対向面と、前記駆動体に接続されかつ前記移動側対向面に対向する駆動側対向面と、前記移動側対向面および駆動側対向面の間に形成される静圧隙間に加圧された流体を導く流体供給路と、負圧源に連結され前記静圧隙間から前記流体を排出する流体排出路と、を有する給排静圧継手であり、
前記レーザ光路を通るレーザ光は、前記駆動体ないし前記駆動側対向面を貫通しかつ前記移動側対向面で反射することを特徴とする精密送り装置。
【請求項7】
ベースに支持されて所定の移動方向に沿って移動可能な移動体と、前記移動体に接続された駆動体と、前記駆動体を前記移動方向に沿って進退駆動する駆動機構と、前記ベースに対する前記移動体の変位を検出する変位検出器とを有し、
前記駆動機構は、前記駆動体への駆動力が前記駆動体の前記移動方向の軸線に対して対称に作用する駆動源を有し、
前記変位検出器は、前記駆動体を貫通して前記移動方向に延びるレーザ光路を有するレーザ干渉計であることを特徴とする精密移動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−79950(P2013−79950A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−206860(P2012−206860)
【出願日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】