説明

糖ペプチドおよびそのプロテオグリカンイニシエーターとしての使用

本発明は、プロテオグリカンのイニシエーターとして使用することができる新規物質を探索すること、およびそのようなイニシエーターとして使用できる物質を効率よく合成する方法を提供する。本発明は、以下の式:


(式中、Glyは、グリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、Yはセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子)で示される構造を有する、糖ペプチドもしくはその改変体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、糖ペプチドの新規合成方法に関する。本発明はまた、プロテオグリカンのイニシエーターとして使用され得る新規糖ペプチドおよびその利用法に関する。
【背景技術】
ヒトゲノムの解析が完了し、次なる研究対象、ポストゲノム候補のひとつとして糖鎖が注目されている。糖鎖は遺伝子の直接的な支配を受けない。タンパク質のDNAにあたるような鋳型が糖鎖には存在せず、機能性糖鎖の生体内での存在量も少なく、単一の構造を大量に得るのが困難であるため、その機能解明がそれほど進んでおらず未知の領域がまだまだ多くある。しかし、ウイルスの感染に際しての細胞表面での宿主認識分子としての働きなどの糖鎖の役割のほんの一部だけに注目しても生体内において非常に重要な役割を担っていることがわかる。また、糖鎖は糖タンパク質、糖脂質などのように複合糖質として存在することが多い。これら複合糖質のうち本研究ではプロテオグリカンと呼ばれる糖タンパク質の一群に注目した。
プロテオグリカンは側鎖としてグリコサミノグリカン鎖(GAG鎖)と呼ばれる長い糖鎖を持つタンパク質の総称である。グリコサミノグリカンは古くはムコ多糖と呼ばれていた酸性多糖と同じもので、ウロン酸(もしくはガラクトース)とアミノ糖の2糖を繰り返し単位とする構造を持ち、その糖の種類や立体構造によって4つに大別することができる(表1)。これらのうちヒアルロン酸は生体内ではプロテオグリカンとしてではなく遊離のGAG鎖として存在している。ヒアルロン酸以外のGAG鎖は水酸基やアミノ基の硫酸化、ウロン酸残基の5位のエピ化などの修飾を受け多彩な微細構造の変化がある。このためGAG鎖は抗血液凝固活性など様々な機能を持つことができる。またコンドロイチン硫酸とタンパク質の結合領域の4糖にもリン酸化や硫酸化などの修飾が起こる。これらのGAG鎖の修飾は、生物種や組織の違い、加齢や病理的変化によってその有無や程度が異なり、全く乱雑ではないものの複雑で、たとえコアタンパク質遺伝子のクローニングをしたとしてもそれだけではGAG鎖の微細構造をそろえることはできない。酵素処理産物の解析により機能性ドメインの構造が明らかになっても還元末端から非還元末端までの配列はまだほとんど明らかになっていない。

一方コアとなるタンパク質は様々な種類があり、すべてのプロテオグリカンのコアタンパク質に対する共通点がある訳ではない。よってプロテオグリカンを分類する場合はGAG鎖の種類によってコンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカンなどのように呼ばれることが多いが、2種以上のGAG鎖を持つプロテオグリカンも多く存在する。
生体内に見られるプロテオグリカンの例を挙げる。軟骨中にはその主要構成成分のひとつとしてアグリカンと呼ばれるコンドロイチン硫酸プロテオグリカンが存在している。このアグリカンは多数の高度に硫酸化されたGAG鎖を持ち、リンクタンパク質など他の軟骨構成成分と大きな会合体を形成することで軟骨特有の物性を担っていることが知られている。細胞膜貫通型プロテオグリカンファミリーであるシンデカンは、膜貫通型タンパク質であるインテグリンファミリーや基底膜の主要な成分であるI型コラーゲン繊維やフィブロネクチンと複雑に相互作用しレセプターのように働くことによりインテグリンが担っている細胞接着を調節および制御している可能性があるといわれている。デコリンと呼ばれる小型のプロテオグリカンはTGF−β(トランスフォーミング成長因子−β)を貯留しその機能を調節しているといわれ、TGF−βが過剰になることによって起こる疾患(糸球体ネフローゼ、慢性リウマチ関節炎など)の治療薬開発の標的になろうとしている。また、脳内にもプロテオグリカンの存在が確認されており、アルツハイマー病およびパーキンソン病で確認されているある種のタンパク質の凝集にプロテオグリカンもしくはGAG鎖が何らかの役割を担っている可能性がある(Jeffrey A.Cohlberg,Jie Li,Vladimir N.Uversky,and Anthony L.Fink(2002)Biochemistry 41,1502−1511)。他にも基底膜や角膜などの成分としてもその存在が報告されている。
このようにプロテオグリカンは細胞外マトリックスや膜成分として体内に広く分布し、生体組織を構成したり生理現象の制御に関与したり重要な機能を担っていることから、その詳細な機能解明と応用を目指して盛んに研究が進められている。
プロテオグリカンを特徴づけているGAG鎖とコアタンパク質との結合部分にはいくつかの共通点が見られる。ケラタン硫酸型の一部を除くほとんどのGAG鎖はコアタンパク質のセリン(Ser)またはスレオニン(Thr)残基の側鎖水酸基と結合していることが知られている。これらO結合型のGAG鎖のうちコンドロイチン硫酸/デルマタン硫酸型、ヘパラン硫酸/ヘパリン型の両グループはGAG鎖の還元末端側に特有の4糖からなる共通結合領域を介してコアタンパク質と結合している(図1)。またこれらの4糖共通結合領域を持つプロテオグリカンにはGAG鎖結合のための共通したアミノ酸配列があることがわかっている。いくつかのプロテオグリカンでGAG鎖が結合していると思われるセリン残基周辺のアミノ酸配列について相同性を調べた報告がある(Mario A.Bourdon,Tom Krusius,Steven Campbell,Nancy B.Schwartz,and Erkki Rouslahti(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84,3194−3198)。これによるとセリンのすぐC末端側にグリシン(Gly)があり、さらにC末端側に任意のアミノ酸一残基隔ててもう1つグリシンがあることがわかった。また、N末端側に数残基隔てて2つまたは3つの連続した酸性アミノ酸も存在していた。さらにこれらの条件のいくつかまたはすべてを満たすペプチドを合成しキシロース転移酵素のアクセプター活性を調べることで、セリン残基のすぐ隣のグリシンが非常に重要であることが判明しており、ついでもう1つのグリシンが重要であり(Ser−Gly−Xaa−Gly)、酸性アミノ酸の存在もアクセプター活性を高めることがわかっている。ただし条件を満たすような配列から必ずGAG鎖が伸長するとは限らずSer−Glyの25回の繰り返しのうち60%程度のSerにGAG鎖が結合しているという報告もある(Mario A.Bourdon,Ake Oldberg,Michael Pieschbacher,and Erkki Rouslahti(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82,1321−1325)。逆に全く異なった配列からGAG鎖が伸長している場合もある。
上記以外のケラタン硫酸型のGAG鎖はO結合型、N結合型の両方があり同様にGAG鎖とコアタンパク質の間に結合領域があるが、どちらも一般の糖タンパク質によく見られる配列にGAG鎖は結合している。(図2)
プロテオグリカンの生合成は遺伝子をもとにコアタンパク質が作られ、コアタンパク質がGAG鎖伸長のイニシエーターとなり、小胞体、ゴルジ体と進んでいくに従って還元末端側から順番にGAG鎖が糖転移酵素によって合成され、さらに硫酸化などの修飾を受けていく。そして細胞外マトリックスや細胞膜など機能するべき場所へと届けられる(Jeremiah E.Silbert,Geetha Sugumaran(1995)Biochimica et Biophysica Acta 1241,371−384)(図3)。天然のコアタンパク質以外にもGAG鎖伸長の酵素の基質となり、イニシエーターとしてはたらく化合物について複数の興味深い研究報告がある。
前述のようなペプチドや天然のコアタンパク質ではなく全く異なった物質とも言えるp−ニトロフェニル−β−D−キシロシドが一番目のガラクトース転移酵素のよい基質となりコンドロイチン硫酸鎖伸長のイニシエーターとなるという報告がある(M.Okayama,K.Kimata,and S.Suzuki(1973)J.Biochem.74,1069−1073)。この化合物は還元末端のアグリコン部分が蛍光物質(Y.Fukunaga,M.Sobue,N.Suzuki,H.Kushida,S.Suzuki,S.Suzuki(1975)Biochimica et Biophysica Acta 381,443−447)や、様々なアルキル鎖(M.Sobue,H.Habuchi,K.Ito,H.Yonekura,K.Oguri,K.Sakurai,S.Kamohara,Y.Ueno,R.Noyori and S.Suzuki(1987)Biochem.J.241,591−601)であってもイニシエーター活性があることがわかっている。また、プロテオグリカンを生産しうる細胞の培養系へこれらβ−D−キシロシドを導入することでGAG鎖の伸長が起こるが、同一のアグリコンを持つβ−D−キシロシドであっても培養する細胞によって伸長するGAG鎖の種類が違うことが知られている。このことはGAG鎖の分化の選択性はイニシエーターの性質というよりも生合成が行われる細胞やゴルジ内の環境によるところが大きいと示唆している。また、同じ4糖結合領域をもつヘパラン硫酸/ヘパリン型のGAG鎖を持つプロテオグリカンを生産する細胞を用いた場合には特定のアグリコンを持つ場合に限ってのみイニシエーター活性が認められている。これはGAG鎖の種類によって、生合成が行われるゴルジのコンパートメントが異なり、このコンパートメントへイニシエーターであるβ−D−キシロシドが浸透するためには、アグリコンに特別な構造が必要なことを示唆している。もしくは、ヘパラン硫酸/ヘパリン型のGAG鎖骨格を生合成する糖転移酵素はコアタンパク質の構造に敏感なのかもしれない。
これらの研究成果をふまえ、本研究では新たなGAG鎖伸長のイニシエーターとなりうる化合物として、ただGAG鎖伸長のイニシエーターとなるのではなくプロテオグリカンの構造を模倣したGAG鎖伸長というよりもむしろプロテオグリカン生合成のイニシエーターともいえる糖ペプチドを合成することとした。
ところで、これまでに当研究室では北海道で多く生産されている牛乳から大量に安価で入手できるラクトースの新たな活用法として、資源として有機合成の出発物質として有効利用し、これを全く別の有用な価値の高い糖、例えば、糖鎖合成の鍵中間体へ変換し応用する研究を行ってきた(Shin−Ichiro Nishimura,Koji Matsuoka,Tetsuya Furuike,Norio Nishi,Seiichi Tokura,Ken Nagami,Sadao Murayama,and Keisuke Kurita(1994)Macromolecules 27 157−163;Tetsuro Tsuda,Tetsya Fruike,and Shin−Ichiro Nishimura(1996)Bull.Chem.Soc.Jpn.69,411−416)。ラクトースは2糖でありガラクトース(Gal)とグルコース(Glc)がβ1→4結合を介している(Galβ1→4Glc)。オリゴ糖を合成する場合、単糖をそれぞれ対応するグリコシルドナー・グリコシルアクセプターに調製し、立体化学を制御したうえでグリコシデーションを行う逐次合成をする必要がある。しかしこのβ1→4結合をそのまま持つような糖を合成する場合、ラクトースを出発物とすることでグリコシデーションや、煩雑な保護基の導入・架け替え・脱保護をする回数を減らすことができ非常に効率的になる。図1にある4糖共通結合領域のうち還元末端側の2糖であるガラクトースとキシロースに注目すると、β1→4結合を含み、ガラクトースとグルコースからなるラクトースとは6位のヒドロキシメチル基の有無以外、立体配置が同じであることがわかる。
そこで目的となる糖ペプチドの糖ユニットとしてプロテオグリカンに見られるGAG鎖の4糖共通結合領域の還元末端側の2糖を採用し、これまでに当研究室で培ってきたラクトースを変換するという技術と方法論を応用・発展させ、逐次合成ではなくラクトースを出発物質とした新規合成法により2糖ユニットを調製することとした。一方、目的となる糖ペプチドのうちペプチドユニットは先に述べたような比較的重要だと考えられるSer−Gly−Xaa−Glyを満たすもっとも簡単な配列としてSer−Glyの繰り返し配列とした。この繰り返しは天然のプロテオグリカンの中にも確認されている(糖鎖工学、pp.254−281、III.プロテオグリカンの糖鎖工学、鈴木旺;Mario A.Bourdon,Ake Oldberg,Michael Pieschbacher,and Erkki Rouslahti(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82,1321−1325;H.Clem Robinson,Alan A.Horner,Magnus Hook,Soren Ogren,and Ulf Lindahl(1978)J.Biol.Chem.253,19,6687−6693;Ramana V.Tantravahi,Richard L.Stevens,K.Frank Austen,and John H.Weis(1986)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83,9207−9210;およびShalom Avraham,Richard L.Stevens,Christopher F.Nicodemus,Michel C.Gartner,K.Frank Austen,and John H.Weis(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,3763−3767)。さらに生体高分子であるプロテオグリカンのコア構造により近づけるため複数の糖鎖を持つポリ糖ペプチドの形を最終的な合成目的構造とした。このペプチド配列には後述の合成戦略に関連して、繰り返し単位のC末端側にGlyがくることによりラセミ化を防ぐことができるメリットもある。
このポリ糖ペプチドは生体内においてGAG鎖が伸長することでプロテオグリカンそのものの代用になることが考えられる。たとえば、4糖共通結合領域を持つプロテオグリカンを含む軟骨組織中にこの化合物を投与すると、プロテオグリカンを生合成している軟骨細胞において、この化合物をイニシエーターとして疑似プロテオグリカンの生合成が起こり、これにより軟骨組織そのものの生合成が活性化されることが考えられる。つまり、目的となるポリ糖ペプチドはGAG鎖伸長のイニシエーター活性が認められた場合、リウマチ関節炎や変形性関節炎など軟骨の破壊を伴う疾患に対する治療として、軟骨の再生を促進する働きが期待される。
以上のような状況にかんがみ、プロテオグリカンの構造を模倣したGAG鎖伸長のイニシエーターとなりうるポリ糖ペプチドを提供すること、糖ペプチドの効率的な合成法を提供すること、GAG鎖伸長のイニシエーター(イニシエーター)としての活性のある物質を提供することが当該分野において熱望されている。
【発明の開示】
上述のように、本発明は、プロテオグリカンのイニシエーターとして使用することができる新規物質を探索すること、およびそのようなイニシエーターとして使用できる物質を効率よく合成する方法を提供することを課題とした。
本発明の上記課題は、ラクトースの改変体を糖ペプチドの合成に用いることによって、効率よく糖ペプチドを合成することを見出したことによって一部解決された。本発明はまた、ポリ糖ペプチドがプロテオグリカンのイニシエーターとして使用することができることを見出したことによって一部解決された。
したがって、本発明は以下を提供する。
1. 以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、Yはセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子)で示される構造を有する、糖ペプチドまたはその改変体。
2.前記Xは、−(1)−β−D−Xylp、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−GlcpA、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−GlcpA−(1,4)−β−D−GalpNAcおよび−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−GlcpA−(1,4)−α−D−GlcpNAc(式中、Xylpは、キシロピラノース、Galpは、ガラクトピラノース、GlcpAは、グルクロン酸、Acは、アセチル)からなる群より選択される構造で示される糖鎖またはその改変体を含む、項目1に記載の糖ペプチドまたはその改変体。
3.前記Xは、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp(式中、Xylpは、キシロピラノース、Galpは、ガラクトピラノース)で示される糖鎖またはその改変体を含む、項目1に記載の糖ペプチドまたはその改変体。
4.前記Yは、セリンもしくはスレオニンまたはその生物学的適合性を有する改変体である、項目1に記載の糖ペプチドまたはその改変体。
5.前記Yは、セリンまたはその生物学的適合性を有する改変体である、項目1に記載の糖ペプチドまたはその改変体。
6.以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Serはセリンまたはその改変体、AはO−HまたはO−X、ここでOは該セリンに由来する酸素原子、Xは糖鎖またはその改変体)に示される構造を有するモノマーユニット(i)、および/または
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Thrはスレオニンまたはその改変体、AはO−HまたはO−X、ここでOは該スレオニンに由来する酸素原子、Xは糖鎖またはその改変体)に示される構造を有するモノマーユニット(ii)で構成され、総アミノ酸残基の数が4以上であり、但し少なくとも1つのAがO−Xである、糖ペプチドまたはその改変体。
7.前記モノマーユニット(i)と前記モノマーユニット(ii)との総和に対する該モノマーユニット(i)の割合が、0.1〜0.9である、項目6に記載の糖ペプチドまたはその改変体。
8.以下の式:

(式中、Glyは、グリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、Yはセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子、nは1以上の整数)で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体。
9.前記糖ペプチドのペプチド部分は4以上のアミノ酸を含む、項目1に記載の糖ペプチドまたはその改変体。
10.前記糖ペプチドのペプチド部分は8以上のアミノ酸を含む、項目1に記載の糖ペプチドまたはその改変体。
11.前記糖ペプチドのペプチド部分は環状ペプチドを形成する、項目1に記載の糖ペプチドまたはその改変体。
12.前記糖ペプチドのペプチド部分は、アセチル化されたものである、項目1に記載の糖ペプチドまたはその改変体。
13.前記アセチル化は、前記ペプチド部分のN末端に存在する、項目12に記載の糖ペプチドまたはその改変体。
14.以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、YおよびYはそれぞれ独立してセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子、nは1以上の整数)で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体。
15.糖ペプチドまたはその改変体を含む、プロテオグリカンイニシエーターとして使用するための組成物。
16.以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、Yはセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子)で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体;
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Serはセリンまたはその改変体、AはO−HまたはO−X、ここでOは該セリンに由来する酸素原子、Xは糖鎖またはその改変体)に示される構造を有するモノマーユニット(i)および/または
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Thrはスレオニンまたはその改変体、AはO−HまたはO−X、ここでOは該スレオニンに由来する酸素原子、Xは糖鎖またはその改変体)に示される構造を有するモノマーユニット(ii)で構成され、総アミノ酸残基の数が4以上であり、但し少なくとも1つのAがO−Xである、糖ペプチドまたはその改変体;
以下の式:

(式中、Xは糖鎖またはその改変体、Yはセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子、nは1以上の整数)で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体;
および
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、YおよびYはそれぞれ独立してセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子、nは1以上の整数)で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体、
からなる群から選択される少なくとも1つの糖ペプチドまたはその改変体を含む、項目15に記載の組成物。
17.前記Xは、−(1)−β−D−Xylp、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−GlcpA、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−GlcpA−(1,4)−β−D−GalpNAcおよび−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−GlcpA−(1,4)−α−D−GlcpNAc(式中、Xylpは、キシロピラノース、Galpは、ガラクトピラノース、GlcpAは、グルクロン酸、Acは、アセチル)からなる群より選択される構造で示される糖鎖またはその改変体を含む、項目15に記載の組成物。
18.前記Xは、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp(式中、Xylpは、キシロピラノース、Galpは、ガラクトピラノース)で示される糖鎖またはその改変体を含む、項目15に記載の組成物。
19.前記Yは、セリンもしくはスレオニンまたはその生物学的適合性を有する改変体である、項目15に記載の組成物。
20.前記Yは、セリンまたはその生物学的適合性を有する改変体である、項目15に記載の組成物。
21.糖ペプチドまたはその改変体を含む、プロテオグリカンの異常レベルに関連する状態、障害または疾患の予防、処置または予後のための医薬組成物。
22.以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、Yはセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子)で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体;
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Serはセリンまたはその改変体、AはO−HまたはO−X、ここでOは該セリンに由来する酸素原子、Xは糖鎖またはその改変体)に示される構造を有するモノマーユニット(i)および/または、
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Thrはスレオニンまたはその改変体、AはO−HまたはO−X、ここでOは該スレオニンに由来する酸素原子、Xは糖鎖またはその改変体)に示される構造を有するモノマーユニット(ii)で構成され、総アミノ酸残基の数が4以上であり、但し少なくとも1つのAがO−Xである、糖ペプチドまたはその改変体;
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、Yはセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子、nは1以上の整数)で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体;
および
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、YおよびYはそれぞれ独立してセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子、nは1以上の整数)で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体、
からなる群から選択される、少なくとも1つの糖ペプチドまたはその改変体を含む、項目21に記載の組成物。
23.前記プロテオグリカンの異常レベルに関連する状態、障害または疾患は、慢性関節リウマチ、変形性関節炎、軟骨破壊、骨粗鬆症、糸球体ネフローゼ、皮膚の脆弱化、扁平角膜、コラーゲン繊維の構造異常,皮膚の脆弱化、角膜不透明化、X連鎖性先天性定常夜盲症、軟骨基質欠損、屈指−関節症−内反股−心膜炎症候群、卵丘・卵母細胞複合体のマトリックス欠損、不妊、Dyssegmental Dysplasia、骨格異常、神経筋シナプス形成の異常、Schwartz−Jampel症,Silverman−Handmaker型、Wingless様表現型、Simpson−Golabi−Behmel症および骨格異常からなる群より選択される状態、障害または疾患を包含する、項目21に記載の医薬組成物。
24.以下の工程:
(a)被検体の状態、障害または疾患を同定する工程;
(b)同定された該被検体の状態、障害または疾患から、必要とされるプロテオグリカンを決定する工程;
(c)該プロテオグリカンを生体内で増加させるためのイニシエーターとして使用される糖ペプチドまたはその改変体を提供する工程;
(d)該糖ペプチドまたはその改変体を該被検体に投与する工程、
を包含する、プロテオグリカンを必要とする状態、障害または疾患の治療のための方法。
25.以下の工程:
(a)グルコース残基を含む糖鎖またはその改変体を提供し、該グルコース残基を残基内1,6脱水縮合させて、1,6無水糖鎖を生成する工程;
(b)セリンおよび/またはスレオニンを含むペプチドまたはその改変体を提供する工程;および
(c)該1,6無水糖鎖と該ペプチドまたはその改変体とを脱炭素化およびカップリング反応させて、キシロース残基が該セリンおよび/またはスレオニンに結合された糖ペプチドまたはその改変体を生成する工程、
を包含する、キシロース残基がペプチドに結合した糖ペプチドまたはその改変体の製造方法。
26.前記工程(a)は、前記1,6無水糖鎖を保護することを包含する、項目25に記載の方法。
27.前記工程(c)は、脱保護することを包含する、項目26に記載の方法。
28.前記脱保護は、水素添加による脱保護である、項目27に記載の方法。
29.さらに、
(d)前記糖ペプチドまたはその改変体を重合して糖ペプチド重合体を生成する工程、
を包含する、項目25に記載の方法。
30.さらに、
(e)前記糖ペプチド重合体を分離する工程、
を包含する、項目29に記載の方法。
31.さらに、
(f)前記糖ペプチドまたはその改変体を環化する工程、
を包含する、項目25に記載の方法。
本発明者らは、ラクトースを糖鎖有機合成の出発物質として活用し、糖鎖合成の鍵中間体など価値の高い有用な糖への変換や応用の研究を続けてきた。ラクトースと図1の4糖結合領域の還元末端側の2糖の立体構造が非常に似ていることをふまえて、本研究では新たなGAG鎖伸長のイニシエーターとなりうる化合物として、プロテオグリカンの構造を模倣し、GAG鎖伸長のイニシエーターとなりうるポリ糖ペプチドを、ラクトースを出発物質として新規合成法により効率的に有機合成し、この化合物のGAG鎖伸長のイニシエーターとしての活性を調べることによって本発明は完成した。
このポリ糖ペプチドは生体内においてGAG鎖が伸長することでプロテオグリカンそのものの代用になることが考えられる。たとえば、4糖共通結合領域を持つプロテオグリカンを含むような軟骨組織中にこの化合物を投与すると、軟骨細胞はプロテオグリカンを生合成しているので、この化合物をイニシエーターとして疑似プロテオグリカンの生合成が起こり、ひいては軟骨組織そのものの生合成が活性化されることが考えられる。このことから目的となるポリ糖ペプチドはGAG鎖伸長のイニシエーター活性が認められた場合、リウマチ関節炎や変形性関節炎など軟骨の破壊を伴う疾患に対する治療として、軟骨の再生を促進するという働きが期待される。
【図面の簡単な説明】
図1は、GAG鎖とコアタンパク質との間に見られる4糖結合領域の構造を示す図である。本図では、GAGs→4GlcAβ1→3Galβ1→4Galβ1→4Xylβ1→O−セリンが示される。
図2は、ケラタン硫酸に見られる結合領域の例を示す図である。
図3は、プロテオグリカン生合成の経路を例示する図である。リボソームで翻訳されてできたコアタンパク質は、本図に示されるような経路で細胞マトリックス、あるいは細胞膜へと配送され、この過程でそれぞれに特異的なGAG鎖をつける。また本図において、エンドサイトーシスによるリサイクル経路も存在することもまた示される。
図4は、本発明の合成戦略を示す図である。本図では、ラクトースを出発物質として糖ユニットとペプチドユニットとを別々に調製した後、グリコシデーション、水素添加による脱保護、そしてDPPAによる連続縮重合を行うという合成経路を用いて目的とするポリ糖ペプチドを生成する戦略が示される。
図5は、1,6無水ラクトース(Ac保護)のH NMRスペクトルの例を示す図である。
図6は、2糖ユニット13のH NMRスペクトルの例を示す図である。本図では、特徴的な4位のdddが確認できる。
図7は、2糖テトラペプチドモノマーのDPPAによる反応後のMALDI−TOF−MSの例示である図である。本図においては、ポリマーの大半が二量体で環化したこと(図中、環状糖ペプチド20)が示される。
図8は、アセチル化したモノマーを用いた重合反応のMALDI−TOF−MSの例示である図である。
図9は、本発明の例示的重合後のH NMRスペクトルの比較の例を示す図である。各スペクトルは、上から順に、遊離なモノマー、環状糖ペプチド、直鎖状ポリマーのスペクトルを示す。矢印は、それぞれアセチル化したモノマー由来、Serα−H(糖あり)、Serα−H(糖なし)のピークの位置を示す。本図において、二糖ユニット由来のモノマーのスペクトルの保存性が高いことが示されている。
図10は、本発明の合成スキーム1を例示する図である。スキーム1は、工程a〜eの5つの工程において進行された。これら工程a〜eは、以下の条件である:a.AcO中30%HBr/AcOH;b.アセトン中PCPONa;c.i.KOH、ii.ピリジン中AcO;d.i.MeOH中NaOMe、ii、DMF中NaH、iii.BnBr;e.CHCl中PhSTMS、TMSOTf。本図のスキーム1に従えば、アノマー位の立体は、ほぼα結合に偏った(α:β>20:1)。
図11は、本発明の合成スキーム2を例示する図である。スキーム2は、工程a〜dの4つの工程において進行された。これら工程a〜dは、以下の条件である:a.i.TsCl/ピリジン ii.2−ブタノン中NaI(還流);b.DAST、CHCl中NBS;c.DMF中DBU(還流);d.O、MeOH中MeS:THF。
図12は、本発明の合成スキーム3を例示する図である。スキーム3は、工程a〜eの5つの工程において進行された。これら工程a〜eは、以下の条件である:a.i.ピリジン中TsCl ii.2−ブタノン中NaI(還流);b.DMF中DBU(還流);c.MeOH中O、MeS:THF;d.i.CHCl中DIBAL−H、ii.オキサリルクロリド、CHCl中DMF;e.THF中NaBHCN(還流)。
図13は、本発明の合成スキーム4を例示する図である。スキーム4は、工程a〜bの2つの工程において進行された。これら工程a〜bは、以下の条件である:a.TsOH・HO、ベンゼン中BnOH(還流);b.DMF中DPPA、TEA。
図14は、本発明の合成スキーム5を例示する図である。スキーム5は、工程a〜bの2つの工程において進行された。これら工程a〜bは、以下の条件である:a.NIS、CHCN中TfOH:CHCl;b.Pd−C、DMF中H、HO、AcOH(圧力下)。工程aの後、生成される化合物14は、α体とβ体とに分けられた(α:β=1:10)。
図15は、本発明の合成スキーム6を例示する図である。スキーム6は、図中に示される3工程において進行された。これら工程は、以下の条件である:a.i.DMF中DPPA、TEA、ii.2N HCl−ジオキサン;b.DMF中DPPA、TEA。
図16は、本発明の合成スキーム7を例示する図である。スキーム7は、工程a〜bの2つの工程において進行された。これら工程a〜bは、以下の条件である:a.CHCN中NIS、TfOH:CHCl;b.i.DMF中Pd−C、H、HO、AcOH(圧力下) ii.NHaq.。
図17は、本発明の合成スキーム8を例示する図である。スキーム8は、工程a〜bの2つの工程において進行された。これら工程a〜bは、以下の条件である:a.DMF中AcO;b.DMF中DPPA、TEA。
図18は、2糖テトラペプチド17を用いた場合の、NHAC−Kn細胞の培養培地から抽出したFITCラベル多糖のTSK GEL G−3000からの溶出プロフィールを示す図である。矢印は、48時間後の培養培地を示し、そして破線は、細胞がない場合のイニシエーターと培養培地との混合物を示す。この矢印は、ボイドボリュームを示している。
図19は、ポリ糖ペプチド19を用いた場合の、NHAC−Kn細胞の培養培地から抽出したFITCラベル多糖のTSK GEL G−3000からの溶出プロフィールを示す図である。矢印は、48時間後の培養培地を示し、そして破線は、細胞がない場合のイニシエーターと培養培地との混合物を示す。この矢印は、ボイドボリュームを示している。
【発明を実施するための最良の形態】
(詳細な説明)
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
(用語)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
本明細書において「糖鎖」とは、単位糖(単糖および/またはその誘導体)が1つ以上連なってできた化合物をいう。単位糖が有する水酸基およびアミノ酸は、後述の「保護基」で保護されていてもよい。単位糖が2つ以上連なる場合は、各々の単位糖同士の間は、グリコシド結合による脱水縮合によって結合する。このような糖鎖としては、例えば、生体中に含有される多糖類(グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、シアル酸ならびにそれらの複合体および改変体など)の他、分解された多糖、糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、糖脂質などの複合生体分子から分解または誘導された糖鎖など広範囲なものが挙げられるがそれらに限定されない。したがって、本明細書では、糖鎖は、「多糖(ポリサッカリド)」、「糖質」、「炭水化物」および「糖」と互換可能に使用され得る。また、特に言及しない場合、本明細書において「糖鎖」は、糖鎖および糖鎖含有物質の両方を包含することがある。単位糖同士の結合は、その位置によって、α1,2−、α1,3−、α1,4−、α1,6−、β1,2−などがあり、それらの表示は結合する単位糖における炭素の位置を併記すること、および通常その結合に関するアノマー(α、β)を記載する。糖鎖の結合に関する情報は複雑であり、ポリペプチド、ポリヌクレオチドのように簡素化することが困難であるが、例えば、Trends in Glycoscience and Glycotechnology 14,127−137(2002)では、リニアコードで糖鎖を表すことを提唱している。本明細書では、通常、D型またはL型の別、アノマー型(例えば、αまたはβ型)、結合(例えば、1,4など)、糖の種類(例えば、グルコース、本明細書ではしばしば3文字表記する)およびピラノース型、フラノース型などを利用して糖鎖を表記するが、当該分野において慣用される他の表現様式もまた使用され得る。本発明の通常の表記様式に従えば、例えば、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galpは、1つ目のXyl(キシロース)がピラノース型であり、β型をしており、D型のものであって、キシロースが他の分子と1位で結合していることを示し、2つ目のGal(ガラクトース)がピラノース型であり、β型をしており、D型のものであって、ガラクトースがキシロースと1,4結合していることを示す。
糖鎖としては、好ましくは、−(1)−β−D−Xylp、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−GlcpA、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−GlcpA−(1,4)−β−D−GalpNAcまたは−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−GlcpA−(1,4)−α−D−GlcpNAc(式中、Xylpは、キシロピラノース、Galpは、ガラクトピラノース、GlcpAは、グルクロン酸、Acは、アセチル)の構造で示される糖鎖が挙げられる。さらに好ましくは、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp(式中、Xylpは、キシロピラノース、Galpは、ガラクトピラノース)が挙げられる。
本明細書において「単糖」とは、これより簡単な分子に加水分解されず、一般式C2nで表される化合物をいう。ここで、n=2、3、4、5、6、7、8、9および10であるものを、それぞれジオース、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトース、オクトース、ノノースおよびデコースという。一般に鎖式多価アルコールのアルデヒドまたはケトンに相当するもので、前者をアルドース,後者をケトースという。
本明細書において単糖または糖鎖の「改変体」とは、単糖または糖鎖上の一つ以上の水酸基が別の置換基に置換され、結果生じる物質が単糖の範囲内にないものをいう。そのような単糖の誘導体としては、カルボキシル基を有する糖(例えば、C−1位が酸化されてカルボン酸となったアルドン酸(例えば、D−グルコースが酸化されたD−グルコン酸)、末端のC原子がカルボン酸となったウロン酸(D−グルコースが酸化されたD−グルクロン酸)、アミノ基またはアミノ基の誘導体(例えば、アセチル化されたアミノ基)を有する糖(例えば、N−アセチル−D−グルコサミン、N−アセチル−D−ガラクトサミンなど)、アミノ基およびカルボキシル基を両方とも有する糖(例えば、N−アセチルノイラミン酸(シアル酸)、N−アセチルムラミン酸など)、デオキシ化された糖(例えば、2−デオキシ−D−リボース)、硫酸基を含む硫酸化糖、リン酸基を含むリン酸化糖などがあるがそれらに限定されない。あるいは、ヘミアセタール構造を形成した単糖または糖鎖において、アルコールと反応してアセタール構造のグリコシドもまた、単糖または糖鎖の誘導体の範囲内にある。
本明細書において「複合糖鎖」または「糖鎖含有物質」は、互換可能に使用され、糖鎖および糖鎖以外の物質を含む物質をいう。このような糖鎖含有物質は、生体内に多く見出され、例えば、生体中に含有される多糖類の他、分解された多糖、糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、糖脂質などの複合生体分子から分解または誘導された糖鎖など広範囲なものが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「残基」は、当該分野において通常の意味で用いられ、重合体における単位物質の分子の根幹部をいう。従って、糖鎖または糖ペプチドにおいて、キシロース残基という場合、キシロースから糖またはペプチドとの結合に必要な部分(例えば、水素原子)を除いた部分をいう。ただし、特に区別を必要としない場合は、糖残基またはアミノ酸残基は、通常の糖またはアミノ酸と互換可能に使用され得る。
本明細書において「無水糖鎖」とは、水素基および水酸基とを脱水させることによって得られる糖鎖をいう。そのような無水糖鎖としては、たとえば、1,6無水ラクトースなどが挙げられるがそれに限定されない。
本明細書において「残基内脱水縮合」とは、糖鎖において用いられる場合、その糖鎖のある糖残基内の水素基および水酸基を脱水させて縮合させることをいう。
本明細書において「脱炭素化」とは、有機化合物において、炭素原子を脱離させるような反応をいう。そのような脱炭素化としては、例えば、糖鎖上のヒドロキシルメチルの除去などが挙げられるがそれに限定されない。
本明細書において「カップリング」とは、2以上の分子を結合させる反応をいう。例えば、ペプチドおよび糖鎖が提供される場合、そのペプチドおよび糖鎖はカップリングされて、糖ペプチドが提供される。
本明細書では、「保護基」とは、ある化学反応からの影響を抑制するような置換基をいい、反応性の高い位置を反応させないために導入される。そのような保護基は、所望の反応において保護される置換基がその反応によって改変されないようなものであれば、どのようなものを用いてもよい。そのような保護基としては、例えば、アニリンのニトロ化を行なう際に,そのまま硝酸と処理するとアミノ基が酸化されることから、予めアセチル化しておきニトロ化を行なった後,アセチル基を加水分解で外すと目的のニトロアニリンが得られる。この場合、アセチル基はアミノ基の保護基という。反応の条件および/または目的に応じて種々の保護基を使い分けることができる。例えば、ヒドロキシ基の保護基にはアセチル基、ベンゾイル基、ベンジル基、シリル基などが使用され得、アミノ基にはアセチル基のほかベンジルオキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基などが使用され得る。
本明細書において「脱保護」とは、保護基を脱離させる反応をいう。そのような脱保護の反応としては、例えば、水素添加、加水分解、酸化還元反応などが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「重合」とは、ある構成単位(例えば、本発明の糖ペプチドまたはその改変体)を2つ以上縮合などの反応によって連結する反応をいう。重合は通常、同じ構成単位を連結することによって達成されるが、異なる構成単位を連結することによっても得られる。そのような重合は、本明細書において特に共重合ともいう。本発明の糖ペプチドが重合される場合、通常、ペプチド部分がペプチド結合を介して重合する。本明細書において「重合体」とは、そのような重合反応によって得られた化合物をいう。本明細書において「重合」は、ホモ重合またはヘテロ重合の両方を指す。「ホモ重合」とは、同一の単量体による重合をいい、「ヘテロ重合」とは、異なる単量体を用いた重合をいう。本明細書では、糖ペプチドが重合したものを特にポリ糖ペプチドという。
本明細書において「環化」とは、ある分子が環状に連結される反応をいい、特に、非環式化合物の分子内または分子間で結合ができて環構造をつくる反応をいう。本発明の糖ペプチドの環化は、通常、分子間で結合ができて環構造を作る。
本明細書において、目的の物質の「分離」とは、その物質が、分離前に試料中に存在する状態から実質的に引き離すまたは精製することをいう。従って、試料から分離された物質は、分離される前に含んでいた目的の物質以外の物質の含量が少なくとも低減している。
本明細書において、物質(例えば、糖鎖、糖ペプチド、核酸またはタンパク質などの生物学的因子)の「単離」とは、その生物学的因子が天然に存在する生物体の細胞内の他の物質(例えば、糖鎖または糖鎖含有物質である場合、糖鎖または糖鎖含有物質以外の因子、あるいは、目的とする糖鎖または糖鎖含有物質以外の糖鎖または糖鎖含有物質;核酸である場合、核酸以外の因子および目的とする核酸以外の核酸配列を含む核酸;タンパク質である場合、タンパク質以外の因子および目的とするタンパク質以外のアミノ酸配列を含むタンパク質など)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」、糖鎖または糖鎖含有物質には、本発明の精製方法によって精製された糖鎖または糖鎖含有物質が含まれる。したがって、単離された糖ペプチドまたはその改変体は、化学的に合成した糖ペプチドまたはその改変体を包含する。
本明細書において、物質(例えば、糖鎖、核酸またはタンパク質などの生物学的因子)の「精製」とは、その物質に天然に随伴する因子の少なくとも一部を除去することをいう。したがって、精製および分離は、その形態が一部重複する。したがって、通常、精製された物質(例えば、糖鎖または糖鎖含有物質のような生物学的因子)におけるその物質の純度は、その物質が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)が、天然に随伴する因子が低減されている限り、濃縮されていない状態も「精製」の概念に包含される。
本明細書において物質(例えば、糖ペプチドまたはその改変体)の「濃縮」とは、その物質が濃縮前に試料に含まれている含有量よりも高い濃度に上昇させる行為をいう。従って、濃縮もまた、精製および分離と、その概念が一部重複する。したがって、通常、濃縮された物質(例えば、糖ペプチドまたはその改変体)は、その物質が通常存在する状態における不純物の含有量は低減されているが、目的とする物質の含有量が増加している限り、ある特定の不純物が増加していてもよく、「精製」されていない状態も「濃縮」の概念に包含される。
本明細書において「糖ペプチド」とは、糖が結合したペプチドをいい、本明細書において糖タンパク質と互換可能に用いられる。本明細書において「糖タンパク質」としては、例えば、酵素、ホルモン、サイトカイン、抗体、ワクチン、レセプター、血清タンパク質およびそれらのフラグメント、ならびにそれらの模倣物などが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「糖ペプチドの改変体」は、糖ペプチドの一部が置換基などによって改変された化合物をいう。従って、糖ペプチドの改変体は、そのペプチド部分が改変されていてもよく、糖部分が改変されていてもよい。
本明細書において「生物学的適合性」とは、生物に投与しても有害な影響を与えない性質をいう。そのような性質は、実際に生物自体に投与しても判定することができるが、細胞に投与し、その増殖の阻害を観察することによってもまた判定することができる。あるアミノ酸の生物学的適合性を有する(改変体は、例えば、そのアミノ酸が、アルキル基などが付加されることによって改変されていてもよく、そのような生物学的適合性は、実際のそのアミノ酸またはそれを含む化合物を生物または細胞に投与することおよび改変されていないアミノ酸またはそれを含む化合物を等量投与すること、ならびにそれらの成長・増殖に関するパラメータを比較することによって判定することができる。
本明細書において使用される用語「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものも包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然のアミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。従って、本発明のスクリーニング方法が目的とする酵素がポリペプチドである場合、このような改変体を使用してもよい。
本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。本明細書において「ヌクレオチド」は、アミノ酸をコードすることができる限り、天然のものでも非天然のものでもよい。
本明細書において核酸配列、アミノ酸配列などの「相同性」とは、2以上の核酸配列、アミノ酸配列などの、互いに対する同一性の程度をいう。従って、ある2つの核酸配列、アミノ酸配列などの相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の核酸配列、アミノ酸配列などが相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。本明細書において、遺伝子(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「類似性」とは、上記相同性において、保存的置換をポジティブ(同一)とみなした場合の、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、保存的置換がある場合は、その保存的置換の存在に応じて同一性と類似性とは異なる。また、保存的置換がない場合は、同一性と類似性とは同じ数値を示す。
本明細書では塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。
本明細書において、「アミノ酸」は、天然のものでも非天然のものでもよい。特に区別する場合、それぞれ天然アミノ酸および非天然アミノ酸という。「誘導体アミノ酸」または「アミノ酸アナログ」とは、天然に存在するアミノ酸とは異なるがもとのアミノ酸と同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体アミノ酸およびアミノ酸アナログは、当該分野において周知である。用語「天然のアミノ酸」とは、天然のアミノ酸のL−異性体を意味する。天然のアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、?−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンである。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体であるが、D体のアミノ酸を用いた形態もまた本発明の範囲内にある。用語「非天然アミノ酸」とは、タンパク質中で通常は天然に見出されないアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸の例として、ノルロイシン、パラ−ニトロフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、パラ−フルオロフェニルアラニン、3−アミノ−2−ベンジルプロピオン酸、ホモアルギニンのD体またはL体およびD−フェニルアラニンが挙げられる。「アミノ酸アナログ」とは、アミノ酸ではないが、アミノ酸の物性および/または機能に類似する分子をいう。アミノ酸アナログとしては、例えば、エチオニン、カナバニン、2−メチルグルタミンなどが挙げられる。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様な様式で機能する化合物をいう。
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に受け入れられた1文字コードにより言及され得る。
本明細書において、「対応する」ヌクレオチド、単糖またはアミノ酸とは、あるポリヌクレオチド分子、糖鎖分子またはポリペプチド分子において、比較の基準となるポリヌクレオチド、糖鎖分子またはポリペプチドにおける所定のヌクレオチド、単糖またはアミノ酸と同様の作用を有するか、または有することが予測されるヌクレオチド、単糖またはアミノ酸をいい、特に酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸または糖鎖もしくは単糖をいう。あるいは、酵素分子のコンフォメーション変化に寄与する場合、そのような変化に寄与するアミノ酸または糖鎖もしくは単糖をいう。
本明細書において、「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの長さは、上述のようにそれぞれアミノ酸または核酸の個数で表すことができるが、上述の個数は絶対的なものではなく、同じ機能を有する限り、上限または加減としての上述の個数は、その個数の上下数個(または例えば上下10%)のものも含むことが意図される。そのような意図を表現するために、本明細書では、個数の前に「約」を付けて表現することがある。しかし、本明細書では、「約」のあるなしはその数値の解釈に影響を与えないことが理解されるべきである。
本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリペプチドまたはタンパク質)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能を発揮する活性が包含される。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がイニシエーターである場合、生物学的活性は、そのイニシエーターが目的とする分子の成長が開始または増強される性質をいう。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。
本明細書において、ペプチドを生産する方法は、合成技術を用いてもよいし、遺伝子工学を用いてもよい。そのような遺伝子工学的手法としては、例えば、そのポリペプチドを産生する初代培養細胞または株化細胞を培養し、培養上清などから単離または精製することによりそのポリペプチドを得る方法が挙げられる。あるいは、遺伝子工学的手法を利用して、そのポリペプチドをコードする遺伝子を適切な発現ベクターに組み込み、これを用いて発現宿主を形質転換し、この形質転換細胞の培養上清から組換えポリペプチドを得ることができる。上記宿主細胞は、生理活性を保持するポリペプチドを発現するものであれば、特に限定されず、従来から遺伝子操作において利用される各種の宿主細胞(例えば、大腸菌、酵母、動物細胞など)を用いることが可能である。このようにして得られた細胞に由来するポリペプチドは、天然型のポリペプチドと実質的に同一の作用を有する限り、アミノ酸配列中の1以上のアミノ酸が置換、付加および/または欠失していてもよく、糖鎖が置換、付加および/または欠失していてもよい。好ましくは、糖鎖はないほうが有利である。所望の糖鎖を本発明によって結合することができるからである。
あるアミノ酸は、相互作用結合能力の明らかな低下または消失なしに、例えば、カチオン性領域または基質分子の結合部位のようなタンパク質構造において他のアミノ酸に置換され得る。あるタンパク質の生物学的機能を規定するのは、タンパク質の相互作用能力および性質である。従って、特定のアミノ酸の置換がアミノ酸配列において、またはそのDNAコード配列のレベルにおいて行われ得、置換後もなお、もとの性質を維持するタンパク質が生じ得る。従って、生物学的有用性の明らかな損失なしに、種々の改変が、本明細書において開示されたペプチドまたはこのペプチドをコードする対応するDNAにおいて行われ得る。
上記のような改変を設計する際に、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。タンパク質における相互作用的な生物学的機能を与える際の疎水性アミノ酸指数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Kyte.JおよびDoolittle,R.F.J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したタンパク質の二次構造に寄与し、次いでそのタンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り当てられる。それらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5))である。
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において等価なタンパク質)を生じさせ得ることが当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。米国特許第4、554、101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
本明細書において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例としては、例えば、親水性指数または疎水性指数が、±2以内のもの同士、好ましくは±1以内のもの同士、より好ましくは±0.5以内のもの同士のものが挙げられるがそれらに限定されない。従って、保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン、などが挙げられるがこれらに限定されない。
本明細書において、O型の糖鎖結合について言及する場合、「保存的置換」は、セリンおよびスレオニンならびにそれらの生物学的適合性を有する改変体のうち酸素原子を保持するものからなる群の中での置換をいう。
本明細書において、ペプチドの「改変体」とは、もとのペプチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。置換は、上述の保存的置換でもよく、そうでなくてもよい。置換されるアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸であってもよい。あるいは、置換されるアミノ酸は、アミノ酸アナログでもよい。
本明細書において「イニシエーター」とは、高分子合成酵素反応において、合成される高分子化合物の反応の開始に必要な物質をいい、本明細書において「プライマー」ともいう。本明細書において、「プロテオグリカンイニシエーター」とは、生体または細胞内において、投与された後に糖鎖および/またはペプチド鎖が伸長する能力を有する物質をいう。そのようなプロテオグリカンイニシエーターは、投与されるべき生物に応じて適切なものが変動することは当業者には明らかである。
本明細書において「プロテオグリカンの異常レベルに関連する状態、障害または疾患」とは、生体内または細胞内のプロテオグリカンの通常のレベルとは異なるレベルに起因するかまたはそのようなレベルを伴う状態、障害または疾患をいう。そのような疾患、障害または状態としては、例えば、循環器系疾患(貧血(例えば、再生不良性貧血(特に重症再生不良性貧血)、腎性貧血、癌性貧血、二次性貧血、不応性貧血など)、癌または腫瘍(例えば、白血病、多発性骨髄腫)など);神経系疾患(痴呆症、脳卒中およびその後遺症、脳腫瘍、脊髄損傷など);免疫系疾患(T細胞欠損症、白血病など);運動器・骨格系疾患(骨折、骨粗鬆症、関節の脱臼、亜脱臼、捻挫、靱帯損傷、変形性関節症、骨肉腫、ユーイング肉腫、骨形成不全症、骨軟骨異形成症など);皮膚系疾患(無毛症、黒色腫、皮膚悪性リンパ腫、血管肉腫、組織球症、水疱症、膿疱症、皮膚炎、湿疹など);内分泌系疾患(視床下部・下垂体疾患、甲状腺疾患、副甲状腺(上皮小体)疾患、副腎皮質・髄質疾患、糖代謝異常、脂質代謝異常、タンパク質代謝異常、核酸代謝異常、先天性代謝異常(フェニールケトン尿症、ガラクトース血症、ホモシスチン尿症、メープルシロップ尿症)、無アルブミン血症、アスコルビン酸合成能欠如、高ビリルビン血症、高ビリルビン尿症、カリクレイン欠損、肥満細胞欠損、尿崩症、バソプレッシン分泌異常、侏儒症、ウオルマン病(酸リパーゼ(Acid lipase)欠損症)、ムコ多糖症VI型など);呼吸器系疾患(肺疾患(例えば、肺炎、肺癌など)、気管支疾患、肺癌、気管支癌など);消化器系疾患(食道疾患(たとえば、食道癌)、胃・十二指腸疾患(たとえば、胃癌、十二指腸癌)、小腸疾患・大賜疾患(たとえば、大腸ポリープ、結腸癌、直腸癌など)、胆道疾患、肝臓疾患(たとえば、肝硬変、肝炎(A型、B型、C型、D型、E型など)、劇症肝炎、慢性肝炎、原発性肝癌、アルコール性肝障害、薬物性肝障害)、膵臓疾患(急性膵炎、慢性膵炎、膵臓癌、嚢胞性膵疾患)、腹膜・腹壁・横隔膜疾患(ヘルニアなど)、ヒルシュスプラング病など);泌尿器系疾患(腎疾患(腎不全、原発性糸球体疾患、腎血管障害、尿細管機能異常、間質性腎疾患、全身性疾患による腎障害、腎癌など)、膀胱疾患(膀胱炎、膀胱癌など)など);生殖器系疾患(男性生殖器疾患(男性不妊、前立腺肥大症、前立腺癌、精巣癌など)、女性生殖器疾患(女性不妊、卵巣機能障害、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮癌、子宮内膜症、卵巣癌、絨毛性疾患など)など);循環器系疾患(心不全、狭心症、心筋梗塞、不整脈、弁膜症、心筋・心膜疾患、先天性心疾患(たとえば、心房中隔欠損、心室中隔欠損、動脈管開存、ファロー四徴)、動脈疾患(たとえば、動脈硬化、動脈瘤)、静脈疾患(たとえば、静脈瘤)、リンパ管疾患(たとえば、リンパ浮腫)など)などが挙げられるがそれらに限定されない。
そのようなプロテオグリカンの異常に関連するかまたはプロテオグリカンを必要とする状態、障害または疾患としては、好ましくは、慢性関節リウマチ、変形性関節炎、軟骨破壊、骨粗鬆症、糸球体ネフローゼ、皮膚の脆弱化、扁平角膜、コラーゲン繊維の構造異常,皮膚の脆弱化、角膜不透明化、X連鎖性先天性定常夜盲症、軟骨基質欠損、屈指−関節症−内反股−心膜炎症候群、卵丘・卵母細胞複合体のマトリックス欠損、不妊、Dyssegmental Dysplasia、骨格異常、神経筋シナプス形成の異常、Schwartz−Jampel症,Silverman−Handmaker型、Wingless様表現型、Simpson−Golabi−Behmel症、骨格異常などが挙げられるがそれらに限定されない。より好ましくは、そのような状態、障害または疾患は、関節炎(例えば、慢性関節リウマチ、変形性関節炎)を含む。
本明細書において「生体」とは、生物学的な有機体をいい、動物、植物、菌類、ウイルスなどを含むがそれらに限定されない。そのような生体は、プロテオグリカンが生存に関係する生物であれば、どのようなものでもよく、動物、植物、細菌、ウイルスを問わない。生体は、好ましくは動物(たとえば、脊椎動物、無脊椎動物)が挙げられる。より好ましくは、生体は、好ましくは、脊椎動物(たとえば、メクラウナギ類、ヤツメウナギ類、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳動物など)であり、より好ましくは、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)であり得る。より好ましくは霊長類であり、もっとも好ましくはヒトである。
本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。本明細書において使用される細胞は、天然に存在する細胞であっても、人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子改変細胞)であってもよい。細胞の供給源としては、例えば、単一の細胞培養物であり得、あるいは、正常に成長したトランスジェニック動物の胚、血液、または体組織、または正常に成長した細胞株由来の細胞のような細胞混合物が挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、プロテオグリカンの伸長をすることが知られる細胞が用いられ得る。好ましくは、本明細書では、細胞は軟骨細胞であり得る。
(本明細書において用いられる一般技術)
本明細書において使用される技術は、そうではないと具体的に指示しない限り、当該分野の技術範囲内にある、有機化学、生化学、医学、薬学、遺伝子工学、分子生物学および関連する分野における周知慣用技術を使用する。そのような技術は、例えば、以下に列挙した文献および本明細書において他の場所おいて引用した文献においても十分に説明されている。
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Maniatis,T.et al.(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.,et al.eds,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons Inc.,NY,10158(2000);Innis,M.A.(1990).PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications:Protocols for Functional Genomics,Academic Press;Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac,IRL Press;Adams,R.L.et al.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman & Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(1996).Bioconjugate Techniques,Academic Press;Method in Enzymology 230、242、247、Academic Press、1994;畑中、西村ら、糖質の科学と工学、講談社サイエンティフィク、1997;糖鎖分子の設計と生理機能 日本化学会編、学会出版センター、2001などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
薬学の分野では、例えば、日本薬局方第14版またはその最新版、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition,A.R.Gennaro,ed.,Mack Publishing Company,1990などが本明細書において参考として援用される。
医学の分野においても、種々の技術常識を示す文献を用いて、当業者は本発明を実施することができる。そのような文献は当業者には周知である。
(有機化学)
本発明の化合物は、(A)−(B)という模式図で表すことができる。(A)は、糖鎖またはその改変体であり、(B)はペプチドまたはその改変体であり得る。本発明の化合物はまた、このような構造の重合体であり得る。
(A)および(B)は、以下のような官能基で置換することができる。そのような置換基を以下に説明する。
本明細書において「アルキル」とは、メタン、エタン、プロパンのような脂肪族炭化水素(アルカン)から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいい、一般にC2n+1−で表される(ここで、nは正の整数である)。アルキルは、直鎖または分枝鎖であり得る。本明細書において「置換されたアルキル」とは、以下に規定する置換基によってアルキルのHが置換されたアルキルをいう。これらの具体例は、C1〜C2アルキル、C1〜C3アルキル、C1〜C4アルキル、C1〜C5アルキル、C1〜C6アルキル、C1〜C7アルキル、C1〜C8アルキル、C1〜C9アルキル、C1〜C10アルキル、C1〜C11アルキルまたはC1〜C12アルキル、C1〜C2置換されたアルキル、C1〜C3置換されたアルキル、C1〜C4置換されたアルキル、C1〜C5置換されたアルキル、C1〜C6置換されたアルキル、C1〜C7置換されたアルキル、C1〜C8置換されたアルキル、C1〜C9置換されたアルキル、C1〜C10置換されたアルキル、C1〜C11置換されたアルキルまたはC1〜C12置換されたアルキルであり得る。ここで、例えばC1〜C10アルキルとは、炭素原子を1〜10個有する直鎖または分枝状のアルキルを意味し、メチル(CH−)、エチル(C−)、n−プロピル(CHCHCH−)、イソプロピル((CHCH−)、n−ブチル(CHCHCHCH−)、n−ペンチル(CHCHCHCHCH−)、n−ヘキシル(CHCHCHCHCHCH−)、n−ヘプチル(CHCHCHCHCHCHCH−)、n−オクチル(CHCHCHCHCHCHCHCH−)、n−ノニル(CHCHCHCHCHCHCHCHCH−)、n−デシル(CHCHCHCHCHCHCHCHCHCH−)、−C(CHCHCHCH(CH、−CHCH(CHなどが例示される。また、例えば、C1〜C10置換されたアルキルとは、C1〜C10アルキルであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。
本明細書において「シクロアルキル」とは、環式構造を有するアルキルをいう。「置換されたシクロアルキル」とは、以下に規定する置換基によってシクロアルキルのHが置換されたシクロアルキルをいう。具体例としては、C3〜C4シクロアルキル、C3〜C5シクロアルキル、C3〜C6シクロアルキル、C3〜C7シクロアルキル、C3〜C8シクロアルキル、C3〜C9シクロアルキル、C3〜C10シクロアルキル、C3〜C11シクロアルキル、C3〜C12シクロアルキル、C3〜C4置換されたシクロアルキル、C3〜C5置換されたシクロアルキル、C3〜C6置換されたシクロアルキル、C3〜C7置換されたシクロアルキル、C3〜C8置換されたシクロアルキル、C3〜C9置換されたシクロアルキル、C3〜C10置換されたシクロアルキル、C3〜C11置換されたシクロアルキルまたはC3〜C12置換されたシクロアルキルであり得る。例えば、シクロアルキルとしては、シクロプロピル、シクロヘキシルなどが例示される。
本明細書において「アルケニル」とは、エチレン、プロピレンのような、分子内に二重結合を一つ有する脂肪族炭化水素から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいい、一般にC2n−1−で表される(ここで、nは2以上の正の整数である)。「置換されたアルケニル」とは、以下に規定する置換基によってアルケニルのHが置換されたアルケニルをいう。具体例としては、C2〜C3アルケニル、C2〜C4アルケニル、C2〜C5アルケニル、C2〜C6アルケニル、C2〜C7アルケニル、C2〜C8アルケニル、C2〜C9アルケニル、C2〜C10アルケニル、C2〜C11アルケニルまたはC2〜C12アルケニル、C2〜C3置換されたアルケニル、C2〜C4置換されたアルケニル、C2〜C5置換されたアルケニル、C2〜C6置換されたアルケニル、C2〜C7置換されたアルケニル、C2〜C8置換されたアルケニル、C2〜C9置換されたアルケニル、C2〜C10置換されたアルケニル、C2〜C11置換されたアルケニルまたはC2〜C12置換されたアルケニルであり得る。ここで、例えばC2〜C10アルキルとは、炭素原子を2〜10個含む直鎖または分枝状のアルケニルを意味し、ビニル(CH=CH−)、アリル(CH=CHCH−)、CHCH=CH−などが例示される。また、例えば、C2〜C10置換されたアルケニルとは、C2〜C10アルケニルであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。
本明細書において「シクロアルケニル」とは、環式構造を有するアルケニルをいう。「置換されたシクロアルケニル」とは、以下に規定する置換基によってシクロアルケニルのHが置換されたシクロアルケニルをいう。具体例としては、C3〜C4シクロアルケニル、C3〜C5シクロアルケニル、C3〜C6シクロアルケニル、C3〜C7シクロアルケニル、C3〜C8シクロアルケニル、C3〜C9シクロアルケニル、C3〜C10シクロアルケニル、C3〜C11シクロアルケニル、C3〜C12シクロアルケニル、C3〜C4置換されたシクロアルケニル、C3〜C5置換されたシクロアルケニル、C3〜C6置換されたシクロアルケニル、C3〜C7置換されたシクロアルケニル、C3〜C8置換されたシクロアルケニル、C3〜C9置換されたシクロアルケニル、C3〜C10置換されたシクロアルケニル、C3〜C11置換されたシクロアルケニルまたはC3〜C12置換されたシクロアルケニルであり得る。例えば、好ましいシクロアルケニルとしては、1−シクロペンテニル、2−シクロヘキセニルなどが例示される。
本明細書において「アルキニル」とは、アセチレンのような、分子内に三重結合を一つ有する脂肪族炭化水素から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいい、一般にC2n−3−で表される(ここで、nは2以上の正の整数である)。「置換されたアルキニル」とは、以下に規定する置換基によってアルキニルのHが置換されたアルキニルをいう。具体例としては、C2〜C3アルキニル、C2〜C4アルキニル、C2〜C5アルキニル、C2〜C6アルキニル、C2〜C7アルキニル、C2〜C8アルキニル、C2〜C9アルキニル、C2〜C10アルキニル、C2〜C11アルキニル、C2〜C12アルキニル、C2〜C3置換されたアルキニル、C2〜C4置換されたアルキニル、C2〜C5置換されたアルキニル、C2〜C6置換されたアルキニル、C2〜C7置換されたアルキニル、C2〜C8置換されたアルキニル、C2〜C9置換されたアルキニル、C2〜C10置換されたアルキニル、C2〜C11置換されたアルキニルまたはC2〜C12置換されたアルキニルであり得る。ここで、例えば、C2〜C10アルキニルとは、例えば炭素原子を2〜10個含む直鎖または分枝状のアルキニルを意味し、エチニル(CH=C−)、1−プロピニル(CHC=C−)などが例示される。また、例えば、C2〜C10置換されたアルキニルとは、C2〜C10アルキニルであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。
本明細書において「アルコキシ」とは、アルコール類のヒドロキシ基の水素原子が失われて生ずる1価の基をいい、一般にC2n+1O−で表される(ここで、nは1以上の整数である)。「置換されたアルコキシ」とは、以下に規定する置換基によってアルコキシのHが置換されたアルコキシをいう。具体例としては、C1〜C2アルコキシ、C1〜C3アルコキシ、C1〜C4アルコキシ、C1〜C5アルコキシ、C1〜C6アルコキシ、C1〜C7アルコキシ、C1〜C8アルコキシ、C1〜C9アルコキシ、C1〜C10アルコキシ、C1〜C11アルコキシ、C1〜C12アルコキシ、C1〜C2置換されたアルコキシ、C1〜C3置換されたアルコキシ、C1〜C4置換されたアルコキシ、C1〜C5置換されたアルコキシ、C1〜C6置換されたアルコキシ、C1〜C7置換されたアルコキシ、C1〜C8置換されたアルコキシ、C1〜C9置換されたアルコキシ、C1〜C10置換されたアルコキシ、C1〜C11置換されたアルコキシまたはC1〜C12置換されたアルコキシであり得る。ここで、例えば、C1〜C10アルコキシとは、炭素原子を1〜10個含む直鎖または分枝状のアルコキシを意味し、メトキシ(CHO−)、エトキシ(CO−)、n−プロポキシ(CHCHCHO−)などが例示される。
本明細書において「炭素環基」とは、炭素のみを含む環状構造を含む基であって、前記の「シクロアルキル」、「置換されたシクロアルキル」、「シクロアルケニル」、「置換されたシクロアルケニル」以外の基をいう。炭素環基は芳香族系または非芳香族系であり得、そして単環式または多環式であり得る。「置換された炭素環基」とは、以下に規定する置換基によって炭素環基のHが置換された炭素環基をいう。具体例としては、C3〜C4炭素環基、C3〜C5炭素環基、C3〜C6炭素環基、C3〜C7炭素環基、C3〜C8炭素環基、C3〜C9炭素環基、C3〜C10炭素環基、C3〜C11炭素環基、C3〜C12炭素環基、C3〜C4置換された炭素環基、C3〜C5置換された炭素環基、C3〜C6置換された炭素環基、C3〜C7置換された炭素環基、C3〜C8置換された炭素環基、C3〜C9置換された炭素環基、C3〜C10置換された炭素環基、C3〜C11置換された炭素環基またはC3〜C12置換された炭素環基であり得る。炭素環基はまた、C4〜C7炭素環基またはC4〜C7置換された炭素環基であり得る。炭素環基としては、フェニル基から水素原子が1個欠失したものが例示される。ここで、水素の欠失位置は、化学的に可能な任意の位置であり得、芳香環上であってもよく、非芳香環上であってもよい。
本明細書において、「芳香族(官能)基」または「芳香環(官能)基」とは、芳香族の特性を有する環系化合物またはその部分をいい、一般にπ電子が4n+2個ある環状共役系を含む安定な構造を有する。このような芳香族官能基は、他の芳香族官能基とも相互作用することができる。芳香族官能基の例としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン、アントラセン、フラン、ピリジン、アズレン、シクロオクタテトラエンジアニオンなどが挙げられるがそれらに限定されない。芳香族官能基は、炭素環であってもよくヘテロ環であってもよい。
本明細書において「アルコール」とは、脂肪族炭化水素の1または2以上の水素原子をヒドロキシル基で置換した有機化合物をいう。本明細書においては、ROHとも表記される。ここで、Rは、アルキル基である。好ましくは、Rは、C1〜C6アルキルであり得る。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「ヘテロ環基」とは、炭素およびヘテロ原子をも含む環状構造を有する基をいう。ここで,ヘテロ原子は、O、SおよびNからなる群より選択され、同一であっても異なっていてもよく、1つ含まれていても2以上含まれていてもよい。ヘテロ環基は、芳香族系または非芳香族系であり得、そして単環式または多環式であり得る。「置換されたヘテロ環基」とは、以下に規定する置換基によってヘテロ環基のHが置換されたヘテロ環基をいう。具体例としては、C3〜C4炭素環基、C3〜C5炭素環基、C3〜C6炭素環基、C3〜C7炭素環基、C3〜C8炭素環基、C3〜C9炭素環基、C3〜C10炭素環基、C3〜C11炭素環基、C3〜C12炭素環基、C3〜C4置換された炭素環基、C3〜C5置換された炭素環基、C3〜C6置換された炭素環基、C3〜C7置換された炭素環基、C3〜C8置換された炭素環基、C3〜C9置換された炭素環基、C3〜C10置換された炭素環基、C3〜C11置換された炭素環基またはC3〜C12置換された炭素環基の1つ以上の炭素原子をヘテロ原子で置換したものであり得る。ヘテロ環基はまた、C4〜C7炭素環基またはC4〜C7置換された炭素環基の炭素原子を1つ以上ヘテロ原子で置換したものであり得る。ヘテロ環基としては、チエニル基、ピロリル基、フリル基、イミダゾリル基、ピリジル基などが例示される。水素の欠失位置は、化学的に可能な任意の位置であり得、芳香環上であってもよく、非芳香環上であってもよい。
本明細書において、炭素環基またはヘテロ環基は、下記に定義されるように1価の置換基で置換され得ることに加えて、2価の置換基で置換され得る。そのような二価の置換は、オキソ置換(=O)またはチオキソ置換(=S)であり得る。
本明細書において「ハロゲン」とは、周期表7B族に属するフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などの元素の1価の基をいう。
本明細書において「ヒドロキシ」とは、−OHで表される基をいう。「置換されたヒドロキシ」とは、ヒドロキシのHが下記で定義される置換基で置換されているものをいう。
本明細書において「チオール」とは、ヒドロキシ基の酸素原子を硫黄原子で置換した基(メルカプト基)であり、−SHで表される。「置換されたチオール」とは、メルカプトのHが下記で定義される置換基で置換されている基をいう。
本明細書において「シアノ」とは、−CNで表される基をいう。「ニトロ」とは、−NOで表される基をいう。「アミノ」とは、−NHで表される基をいう。「置換されたアミノ」とは、アミノのHが以下で定義される置換基で置換されたものをいう。
本明細書において「カルボキシ」とは、−COOHで表される基をいう。「置換されたカルボキシ」とは、カルボキシのHが以下に定義される置換基で置換されたものをいう。
本明細書において「チオカルボキシ」とは、カルボキシ基の酸素原子を硫黄原子で置換した基をいい、−C(=S)OH、−C(=O)SHまたは−CSSHで表され得る。「置換されたチオカルボキシ」とは、チオカルボキシのHが以下に定義される置換基で置換されたものをいう。
本明細書において「アシル」とは、カルボン酸からOHを除いてできる1価の基をいう。アシル基の代表例としては、アセチル(CHCO−)、ベンゾイル(CCO−)などが挙げられる。「置換されたアシル」とは、アシルの水素を以下に定義される置換基で置換したものをいう。
本明細書において「アミド」とは、アンモニアの水素を酸基(アシル基)で置換した基であり、好ましくは、−CONHで表される。「置換されたアミド」とは、アミドが置換されたものをいう。
本明細書において「カルボニル」とは、アルデヒドおよびケトンの特性基である−(C=O)−を含むものを総称したものをいう。「置換されたカルボニル」は、下記において選択される置換基で置換されているカルボニル基を意味する。
本明細書において「チオカルボニル」とは、カルボニルにおける酸素原子を硫黄原子に置換した基であり、特性基−(C=S)−を含む。チオカルボニルには、チオケトンおよびチオアルデヒドが含まれる。「置換されたチオカルボニル」とは、下記において選択される置換基で置換されたチオカルボニルを意味する。
本明細書において「スルホニル」とは、特性基である−SO−を含むものを総称したものをいう。「置換されたスルホニル」とは、下記において選択される置換基で置換されたスルホニルを意味する。
本明細書において「スルフィニル」とは、特性基である−SO−を含むものを総称したものをいう。「置換されたスルフィニル」とは、下記において選択される置換基で置換されているスルフィニルを意味する。
本明細書において「アリール」とは、芳香族炭化水素の環に結合する水素原子が1個離脱して生ずる基をいい、本明細書において、炭素環基に包含される。
本明細書においては、特に言及がない限り、置換は、ある有機化合物または置換基中の1または2以上の水素原子を他の原子または原子団で置き換えることをいう。水素原子を1つ除去して1価の置換基に置換することも可能であり、そして水素原子を2つ除去して2価の置換基に置換することも可能である。
本発明の物質が置換Rによって置換されている場合、そのようなRは、単数または複数存在し、複数存在する場合は、それぞれ独立して、水素、アルキル、置換されたアルキル、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、アルキニル、置換されたアルキニル、アルコキシ、置換されたアルコキシ、炭素環基、置換された炭素環基、ヘテロ環基、置換されたヘテロ環基、ハロゲン、ヒドロキシ、置換されたヒドロキシ、チオール、置換されたチオール、シアノ、ニトロ、アミノ、置換されたアミノ、カルボキシ、置換されたカルボキシ、アシル、置換されたアシル、チオカルボキシ、置換されたチオカルボキシ、アミド、置換されたアミド、置換されたカルボニル、置換されたチオカルボニル、置換されたスルホニルおよび置換されたスルフィニルからなる群より選択される。好ましくは、Rは、複数存在する場合それぞれ独立して、水素、アルキルおよび置換されたアルキルからなる群より選択され得る。より好ましくは、独立して、Rは、複数存在する場合それぞれ独立して、水素、水酸基、アミノ基、カルボキシル基およびC1〜C6アルキルからなる群より選択され得る。Rは、すべてが水素以外の置換基を有していても良いが、好ましくは、少なくとも1つの水素、水酸基、アミノ基またはカルボキシル基、より好ましくは、2〜n(ここでnはRの個数)の水素、水酸基、アミノ基またはカルボキシル基を有し得る。置換基のうち水素の数が多いことが好ましくあり得る。大きな置換基または極性のある置換基は本発明の効果に障害を有し得るからである。従って、水素以外の置換基としては、好ましくは、水酸基、アミノ基またはカルボキシル基、C1〜C6アルキル、C1〜C5アルキル、C1〜C4アルキル、C1〜C3アルキル、C1〜C2アルキル、メチルなどであり得る。ただし、本発明の効果を増強し得ることもあることから、大きな置換基を有することもまた好ましくあり得る。さらにより好ましくはRは、ペプチド鎖の末端を除きすべてが水素であり得る。ペプチド末端は、水素であってもよいが、水素、水酸基、アミノ基またはカルボキシル基を有し得る。
本明細書において、C1、C2、、、Cnは、炭素数を表す。従って、C1は炭素数1個の置換基を表すために使用される。
本明細書において、「光学異性体」とは、結晶または分子の構造が鏡像関係にあって、重ねあわせることのできない一対の化合物の一方またはその組をいう。立体異性体の一形態であり、他の性質は同じであるにもかかわらず、旋光性のみが異なる。
本明細書においては、特に言及がない限り、置換は、ある有機化合物または置換基中の1または2以上の水素原子を他の原子または原子団で置き換えることをいう。水素原子を1つ除去して1価の置換基に置換することも可能であり、そして水素原子を2つ除去して2価の置換基に置換することも可能である。
置換基としては、アルキル、置換されたアルキル、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、アルキニル、置換されたアルキニル、アルコキシ、置換されたアルコキシ、炭素環基、置換された炭素環基、ヘテロ環基、置換されたヘテロ環基、ハロゲン、ヒドロキシ、置換されたヒドロキシ、チオール、置換されたチオール、シアノ、ニトロ、アミノ、置換されたアミノ、カルボキシ、カルバモイル、置換されたカルボキシ、アシル、アシルアミノ、置換されたアシル、チオカルボキシ、置換されたチオカルボキシ、アミド、置換されたアミド、置換されたカルボニル、置換されたチオカルボニル、置換されたスルホニルまたは置換されたスルフィニルが挙げられるがそれらに限定されない。上記の置換基が置換された基である場合は、そのさらなる置換のための置換基についても上記と同様に選択され得る。
本発明の各方法において、目的とする生成物は、反応液から夾雑物(未反応減量、副生成物、溶媒など)を、当該分野で慣用される方法(例えば、抽出、蒸留、洗浄、濃縮、沈澱、濾過、乾燥など)によって除去した後に、当該分野で慣用される後処理方法(例えば、吸着、溶離、蒸留、沈澱、析出、クロマトグラフィーなど)を組み合わせて処理して単離し得る。
(医薬・化粧品など、およびそれを用いる治療、予防など)
別の局面において、本発明は、医薬(例えば、ワクチン等の医薬品、健康食品、タンパク質または脂質は抗原性を低減した医薬品)および化粧用組成物に関する。この医薬および化粧用組成物は、薬学的に受容可能なキャリアなどをさらに含み得る。本発明の医薬に含まれる薬学的に受容可能なキャリアとしては、当該分野において公知の任意の物質が挙げられる。
そのような適切な処方材料または薬学的に受容可能なキャリアとしては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または薬学的アジュバント挙げられるがそれらに限定されない。代表的には、本発明の医薬は、化合物、またはその改変体もしくは誘導体を、1つ以上の生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに含む組成物の形態で投与される。例えば、適切なビヒクルは、注射用水、生理的溶液、または人工脳脊髄液であり得、これらには、非経口送達のための組成物に一般的な他の物質を補充することが可能である。
本明細書で使用される受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、レシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、そして以下が挙げられる:リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;アスコルビン酸、α−トコフェロール;低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))。
例示の適切なキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、その生成物は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤は所望に応じて含まれ得る。他の例示的な組成物は、pH7.0−8.5のTris緩衝剤またはpH4.0−5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらは、さらに、ソルビトールまたはその適切な代替物を含み得る。
本発明の医薬は、経口的または非経口的に投与され得る。あるいは、本発明の医薬は、静脈内または皮下で投与され得る。全身投与されるとき、本発明において使用される医薬は、発熱物質を含まない、薬学的に受容可能な水溶液の形態であり得る。そのような薬学的に受容可能な組成物の調製は、pH、等張性、安定性などを考慮することにより、当業者は、容易に行うことができる。本明細書において、投与方法は、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、患部への局所投与、皮膚投与など)であり得る。そのような投与のための処方物は、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。
本発明の医薬は、必要に応じて生理学的に受容可能なキャリア、賦型剤または安定化剤(日本薬局方第14版またはその最新版、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition,A.R.Gennaro,ed.,Mack Publishing Company,1990などを参照)と、所望の程度の純度を有する組成物とを混合することによって、凍結乾燥されたケーキまたは水溶液の形態で調製され保存され得る。
本発明の処置方法において使用される組成物の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明の処置方法を被検体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間−1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。
本発明が化粧品として使用されるときもまた、当局の規定する規制を遵守しながら化粧品を調製することができる。
(農薬)
本発明の組成物は、農薬の成分としても用いることができる。農薬組成物として処方される場合、必要に応じて、農学的に受容可能なキャリア、賦型剤または安定化剤などを含み得る。
本発明の組成物が、農薬として使用される場合は、除草剤(ピラゾレートなど)、殺虫・殺ダニ剤(ダイアジノンなど)、殺菌剤(プロベナゾールなど)、植物成長調整剤(例、パクロブトラゾールなど)、殺線虫剤(例、ベノミルなど)、共力剤(例、ピペロニルブトキサイドなど)、誘引剤(例、オイゲノールなど)、忌避剤(例、クレオソートなど)、色素(例、食用青色1号など)、肥料(例、尿素など)などもまた必要に応じて混合され得る。
(保健・食品)
本発明はまた、保健・食品分野においても利用することができる。このような場合、上述の経口医薬として用いられる場合の留意点を必要に応じて考慮すべきである。特に、特定保健食品のような機能性食品・健康食品などとして使用される場合には、医薬に準じた扱いを行うことが好ましい。
本発明は上記のように、医療以外にも、食品検査、検疫、医薬品検査、法医学、農業、畜産、漁業、林業などで、生体分子の検査が必要なものに全て適応可能である。本発明においては特に、食料の安全目的のための(たとえば、BSE検査)使用も企図される。
(好ましい実施形態の説明)
1つの局面において、本発明は、新規糖ペプチドまたはその改変体を提供する。そのような糖ペプチドまたはその改変体は、以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、Yはセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子)で示される構造を有する。ここで、Yの左端はR、Glyの右端はRという置換基で修飾することができる。あるいは、Yの左端はペプチドのN末端、Glyの右端はペプチドのC末端であり得る。
ある実施形態において、Rは、水素、アルキル、置換されたアルキル、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、アルキニル、置換されたアルキニル、アルコキシ、置換されたアルコキシ、炭素環基、置換された炭素環基、ヘテロ環基、置換されたヘテロ環基、ハロゲン、ヒドロキシ、置換されたヒドロキシ、チオール、置換されたチオール、シアノ、ニトロ、アミノ、置換されたアミノ、カルボキシ、置換されたカルボキシ、アシル、置換されたアシル、チオカルボキシ、置換されたチオカルボキシ、アミド、置換されたアミド、置換されたカルボニル、置換されたチオカルボニル、置換されたスルホニル、置換されたスルフィニルおよび上述の「保護基」からなる群より選択される。好ましくは、Rは、水素、アルキルおよび上述の「保護基」からなる群より選択され得る。より好ましくは、Rは、水素、アセチル基およびC1〜C6アルキルからなる群より選択され得る。さらに好ましくは、Rは、水素である。
ある実施形態において、Rは、水素、アルキル、置換されたアルキル、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、アルキニル、置換されたアルキニル、アルコキシ、置換されたアルコキシ、炭素環基、置換された炭素環基、ヘテロ環基、置換されたヘテロ環基、ハロゲン、ヒドロキシ、置換されたヒドロキシ、チオール、置換されたチオール、シアノ、ニトロ、アミノ、置換されたアミノ、カルボキシ、置換されたカルボキシ、アシル、置換されたアシル、チオカルボキシ、置換されたチオカルボキシ、アミド、置換されたアミド、置換されたカルボニル、置換されたチオカルボニル、置換されたスルホニル、置換されたスルフィニルおよび上述の「保護基」からなる群より選択される。好ましくは、Rは、水素、アルキルおよび上述の「保護基」からなる群より選択され得る。より好ましくは、Rは、水素およびC1〜C6アルキルからなる群より選択され得る。さらに好ましくは、Rは、水素である。
ここで、Xとしては、例えば、−(1)−β−D−Xylp、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−GlcpA、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−GlcpA−(1,4)−β−D−GalpNAc、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−GlcpA−(1,4)−α−D−GlcpNAc(式中、Xylpは、キシロピラノース、Galpは、ガラクトピラノース、GlcpAは、グルクロン酸、Acは、アセチル)などで示される糖鎖またはその改変体を含むが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、Xは、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp(式中、Xylpは、キシロピラノース、Galpは、ガラクトピラノース)で示される糖鎖またはその改変体を含む。Xylp(キシロピラノース)を末端に有することが好ましい。プロテオグリカンにおいて通常ペプチドに直接結合する糖鎖として見出されるからである。そのような糖鎖を合成する方法は、当該分野において周知であり、本明細書の記載に基づいて当業者は適宜本発明に関係する糖鎖を合成することができる。
好ましい実施形態において、Yは、セリンもしくはスレオニンまたはその生物学的適合性を有する改変体である。より好ましくは、Yは、セリンまたはその生物学的適合性を有する改変体である。さらに好ましくは、Yは、セリンまたはスレオニンであり、もっとも好ましくは、セリンである。プロテオグリカンにおいて通常見出されるのは、L体のセリンまたはスレオニンであるからである。そのようなペプチド鎖を合成する方法は、当該分野において周知であり、本明細書の記載に基づいて当業者は適宜、有機合成、生化学的合成、自動合成、遺伝子工学などの手法を用いて本発明に関係するペプチド鎖を調製することができる。このような糖ペプチドは、プロテオグリカンの生体内でのイニシエーターとして使用することができる。
より好ましくは、本発明の糖ペプチドのペプチド部分は4以上のアミノ酸を含み、さらに好ましくは、前記糖ペプチドのペプチド部分は8以上のアミノ酸を含む。4以上のアミノ酸を含むことにより、重合がスムーズに進むからであり、8以上のアミノ酸を含むことにより、環化が生じ得るからである。あるいは、8以上のアミノ酸を含むことが好ましいのは、4アミノ酸を含む糖ペプチドをモノマーとしたときに、重合体として最低限含まれるアミノ酸数であるからである。このような糖ペプチドまたはその改変体は、プロテオグリカンのイニシエーターとして使用することができることから、その有用性は、医療などにおいて重要である。
1つの好ましい実施形態において本発明の糖ペプチドのペプチド部分は環状ペプチドを形成したものであり得る。ただし、環状ペプチドは、プロテオグリカンのイニシエーターとしては適切でない場合があることから、別の好ましい実施形態では、環状ペプチドは除去されることが有利であり得る。
別の好ましい実施形態において、本発明の糖ペプチドのペプチド部分は、アセチル化されたものである。アセチル化されることによって重合がスムーズに行くことから、そのようなアセチル化は有利であるといえる。アセチル化の方法は、当業者に周知であり、種々の方法を用いて実施することができる。
好ましくは、そのようなアセチル化は、ペプチド部分のN末端に存在することが有利である。アセチル化がN末端にあることによって重合が促進されるからである。
別の好ましい実施形態において、本発明は、
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Serはセリンまたはその改変体、AはO−HまたはO−X、ここでOは該セリンに由来する酸素原子、Xは糖鎖またはその改変体)に示される構造を有するモノマーユニット(i)および/または
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Thrはスレオニンまたはその改変体、AはO−HまたはO−X、ここでOは該スレオニンに由来する酸素原子、Xは糖鎖またはその改変体)に示される構造を有するモノマーユニット(ii)で構成され、総アミノ酸残基の数が4以上である、糖ペプチドまたはその改変体を提供する。ここで、上記糖ペプチドまたはその改変体を構成する少なくとも1つのモノマーユニット中のAは、O−Xである。本明細書中においては、「少なくとも1つのAがO−Xである」と記載している。好ましくは、総アミノ酸残基の数は、4〜60、より好ましくは、4〜40、さらに好ましくは、4〜32、よりさらに好ましくは、4〜12、なおさらにより好ましくは、8〜12である。好ましい実施形態では、上記モノマーユニット(i)とモノマーユニット(ii)との総和に対するモノマーユニット(i)の割合は、0.1〜0.9であり得る。好ましくは、上記モノマーユニット(i)とモノマーユニット(ii)との総和に対するモノマーユニット(i)の割合は、0.3〜0.7、より好ましくは、0.4〜0.6、なおさらに好ましくは、0.5付近のランダム共重合した糖ペプチドまたはその改変体である。このような糖ペプチドまたはその改変体を提供する方法は、当該分野において公知であるか本発明において記載される新規方法を用いて実施することができる。このような糖ペプチドまたはその改変体は、プロテオグリカンの生体内でのイニシエーターとして使用することができる。ここで、上記糖ペプチドまたはその改変体中のN末端に位置するSerまたはThrの左端はR、C末端に位置するGlyの右端はRという置換基で修飾することができる。あるいは、上記糖ペプチドまたはその改変体のN末端に位置するSerまたはThrの左端はペプチドのN末端、上記糖ペプチドまたはその改変体中のN末端に位置するGlyの右端はペプチドのC末端であり得る。
ある実施形態において、Rは、水素、アルキル、置換されたアルキル、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、アルキニル、置換されたアルキニル、アルコキシ、置換されたアルコキシ、炭素環基、置換された炭素環基、ヘテロ環基、置換されたヘテロ環基、ハロゲン、ヒドロキシ、置換されたヒドロキシ、チオール、置換されたチオール、シアノ、ニトロ、アミノ、置換されたアミノ、カルボキシ、置換されたカルボキシ、アシル、置換されたアシル、チオカルボキシ、置換されたチオカルボキシ、アミド、置換されたアミド、置換されたカルボニル、置換されたチオカルボニル、置換されたスルホニル、置換されたスルフィニルおよび上述の「保護基」からなる群より選択される。好ましくは、Rは、水素、アルキルおよび上述の「保護基」からなる群より選択され得る。より好ましくは、Rは、水素、アセチル基およびC1〜C6アルキルからなる群より選択され得る。さらに好ましくは、Rは、水素である。
ある実施形態において、Rは、水素、アルキル、置換されたアルキル、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、アルキニル、置換されたアルキニル、アルコキシ、置換されたアルコキシ、炭素環基、置換された炭素環基、ヘテロ環基、置換されたヘテロ環基、ハロゲン、ヒドロキシ、置換されたヒドロキシ、チオール、置換されたチオール、シアノ、ニトロ、アミノ、置換されたアミノ、カルボキシ、置換されたカルボキシ、アシル、置換されたアシル、チオカルボキシ、置換されたチオカルボキシ、アミド、置換されたアミド、置換されたカルボニル、置換されたチオカルボニル、置換されたスルホニル、置換されたスルフィニルおよび上述の「保護基」からなる群より選択される。好ましくは、Rは、水素、アルキルおよび上述の「保護基」からなる群より選択され得る。より好ましくは、Rは、水素およびC1〜C6アルキルからなる群より選択され得る。さらに好ましくは、Rは、水素である。
別の好ましい実施形態において、本発明は、
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、Yはセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子、nは1以上の整数)で表される構造を有する、糖ペプチドまたはその改変体を提供する。ここで、nは、好ましくは、1〜15、より好ましくは、1〜10、さらにより好ましくは、1〜8、なおより好ましくは、1〜3、さらになおより好ましくは、2〜3である。このような糖ペプチドまたはその改変体を提供する方法は、当該分野において公知であるか本発明において記載される新規方法を用いて実施することができる。このような糖ペプチドまたはその改変体は、プロテオグリカンの生体内でのイニシエーターとして使用することができる。ここで、Yの左端はR、Glyの右端はRという置換基で修飾することができる。あるいは、Yの左端はペプチドのN末端、Glyの右端はペプチドのC末端であり得る。
ある実施形態において、Rは、水素、アルキル、置換されたアルキル、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、アルキニル、置換されたアルキニル、アルコキシ、置換されたアルコキシ、炭素環基、置換された炭素環基、ヘテロ環基、置換されたヘテロ環基、ハロゲン、ヒドロキシ、置換されたヒドロキシ、チオール、置換されたチオール、シアノ、ニトロ、アミノ、置換されたアミノ、カルボキシ、置換されたカルボキシ、アシル、置換されたアシル、チオカルボキシ、置換されたチオカルボキシ、アミド、置換されたアミド、置換されたカルボニル、置換されたチオカルボニル、置換されたスルホニル、置換されたスルフィニルおよび上述の「保護基」からなる群より選択される。好ましくは、Rは、水素、アルキルおよび上述の「保護基」からなる群より選択され得る。より好ましくは、Rは、水素、アセチル基およびC1〜C6アルキルからなる群より選択され得る。さらに好ましくは、Rは、水素である。
ある実施形態において、Rは、水素、アルキル、置換されたアルキル、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、アルキニル、置換されたアルキニル、アルコキシ、置換されたアルコキシ、炭素環基、置換された炭素環基、ヘテロ環基、置換されたヘテロ環基、ハロゲン、ヒドロキシ、置換されたヒドロキシ、チオール、置換されたチオール、シアノ、ニトロ、アミノ、置換されたアミノ、カルボキシ、置換されたカルボキシ、アシル、置換されたアシル、チオカルボキシ、置換されたチオカルボキシ、アミド、置換されたアミド、置換されたカルボニル、置換されたチオカルボニル、置換されたスルホニル、置換されたスルフィニルおよび上述の「保護基」からなる群より選択される。好ましくは、Rは、水素、アルキルおよび上述の「保護基」からなる群より選択され得る。より好ましくは、Rは、水素およびC1〜C6アルキルからなる群より選択され得る。さらに好ましくは、Rは、水素である。
好ましい実施形態において、本発明の糖ペプチドまたはその改変体は、以下の式によって表される:

上記式中、mは1以上である。mは、好ましくは、1〜15、より好ましくは、1〜10、さらにより好ましくは、1〜8、なおより好ましくは、1〜3、なおさらにより好ましくは、2〜3である。
本発明はまた、別の実施形態において、本発明の糖ペプチドまたはその改変体の重合体を提供する。そのような重合体を製造する方法は、当該分野において周知であるか本発明において記載される新規方法を用いて実施することができる。例えば、そのような重合の方法としては、脱水縮合などが挙げられるがそれらに限定されない。
別の局面において、本発明は、
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、YおよびYはそれぞれ独立してセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子、nは1以上の整数)で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体を提供する。ここで、nは、好ましくは、1〜15、より好ましくは、1〜10、さらにより好ましくは、1〜8、なおより好ましくは、1〜3、なおさらにより好ましくは、2〜3である。このような糖ペプチドまたはその改変体を製造する方法は、当業者に周知であるか本発明において記載される新規方法を用いて実施することができる。このような糖ペプチドまたはその改変体は、プロテオグリカンのイニシエーターとして有用である。ここで、Yの左端はR、Glyの右端はRという置換基で修飾することができる。あるいは、Yの左端はペプチドのN末端、Glyの右端はペプチドのC末端であり得る。
ある実施形態において、Rは、水素、アルキル、置換されたアルキル、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、アルキニル、置換されたアルキニル、アルコキシ、置換されたアルコキシ、炭素環基、置換された炭素環基、ヘテロ環基、置換されたヘテロ環基、ハロゲン、ヒドロキシ、置換されたヒドロキシ、チオール、置換されたチオール、シアノ、ニトロ、アミノ、置換されたアミノ、カルボキシ、置換されたカルボキシ、アシル、置換されたアシル、チオカルボキシ、置換されたチオカルボキシ、アミド、置換されたアミド、置換されたカルボニル、置換されたチオカルボニル、置換されたスルホニル、置換されたスルフィニルおよび上述の「保護基」からなる群より選択される。好ましくは、Rは、水素、アルキルおよび上述の「保護基」からなる群より選択され得る。より好ましくは、Rは、水素、アセチル基およびC1〜C6アルキルからなる群より選択され得る。さらに好ましくは、Rは、水素である。
ある実施形態において、Rは、水素、アルキル、置換されたアルキル、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、アルキニル、置換されたアルキニル、アルコキシ、置換されたアルコキシ、炭素環基、置換された炭素環基、ヘテロ環基、置換されたヘテロ環基、ハロゲン、ヒドロキシ、置換されたヒドロキシ、チオール、置換されたチオール、シアノ、ニトロ、アミノ、置換されたアミノ、カルボキシ、置換されたカルボキシ、アシル、置換されたアシル、チオカルボキシ、置換されたチオカルボキシ、アミド、置換されたアミド、置換されたカルボニル、置換されたチオカルボニル、置換されたスルホニル、置換されたスルフィニルおよび上述の「保護基」からなる群より選択される。Rは、水素、アルキルおよび上述の「保護基」からなる群より選択され得る。より好ましくは、Rは、水素およびC1〜C6アルキルからなる群より選択され得る。さらに好ましくは、Rは、水素である。
別の局面において、本発明は、プロテオグリカンイニシエーターとして使用するための組成物であって、糖ペプチドまたはその改変体を含む、組成物を提供する。このような組成物を調製する方法は、当該分野において公知であり、本発明の糖ペプチドまたはその改変体を、適切な溶媒に溶解し、必要に応じて添加物を加えることによって達成される。
好ましい実施形態において、本発明の組成物は、
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、Yはセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子)で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体;
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Serはセリンまたはその改変体、AはO−HまたはO−X、ここでOは該セリンに由来する酸素原子、Xは糖鎖またはその改変体)に示される構造を有するモノマーユニット(i)および/または
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Thrはスレオニンまたはその改変体、AはO−HまたはO−X、ここでOは該スレオニンに由来する酸素原子、Xは糖鎖またはその改変体)に示される構造を有するモノマーユニット(ii)で構成され、総アミノ酸残基の数が4以上であり、但し少なくとも1つのAがO−Xである、糖ペプチドまたはその改変体;
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、Yはセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子、nは1以上の整数(nは、好ましくは、1〜15、より好ましくは、1〜10、さらにより好ましくは、1〜8、なおより好ましくは、1〜3、さらになおより好ましくは、2〜3である))で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体;および
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、YおよびYはそれぞれ独立してセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子、nは1以上の整数(nは、好ましくは、1〜15、より好ましくは、1〜10、さらにより好ましくは、1〜8、なおより好ましくは、1〜3、なおさらにより好ましくは、2〜3である))で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体、
からなる群から選択される少なくとも1つの糖ペプチドまたはその改変体を含む。上記糖ペプチドまたはその改変体は、本明細書において別の場所においてより詳細に記載されており、上述の発明においてそのような記載および好ましい実施形態が適用され得る。
好ましくは、本発明の組成物において、Xは、−(1)−β−D−Xylp、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−GlcpA、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−GlcpA−(1,4)−β−D−GalpNAcおよび−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−GlcpA−(1,4)−α−D−GlcpNAc(式中、Xylpは、キシロピラノース、Galpは、ガラクトピラノース、GlcpAは、グルクロン酸、Acは、アセチル)からなる群より選択される構造で示される糖鎖またはその改変体を含む。このような配列を有することによって、プロテオグリカンのイニシエーターとしての作用が強くなり、生体適合性も増す。
より好ましくは、本発明の組成物において、Xは、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp(式中、Xylpは、キシロピラノース、Galpは、ガラクトピラノース)で示される糖鎖またはその改変体を含む。このような配列を有することによって、プロテオグリカンイニシエーターを簡便なコアとして提供することができ、プロテオグリカンのイニシエーターとしての作用が強くなり、生体適合性も増す。
好ましい実施形態において、本発明の組成物におけるYは、セリンもしくはスレオニンまたはその生物学的適合性を有する改変体である。このような配列を有することによって、プロテオグリカンのイニシエーターとしての作用が強くなり、生体適合性も増す。
より好ましくは、Yは、セリンまたはその生物学的適合性を有する改変体である。さらに好ましくは、Yは、セリンまたはスレオニンであり、もっとも好ましくは、Yは、セリンである。このような配列を有することにより、プロテオグリカンのイニシエーターとしての作用が強くなり、生体適合性も増す。
別の局面において、本発明は、糖ペプチドまたはその改変体を含む、プロテオグリカンの異常レベルに関連する状態、障害または疾患の予防、処置または予後のための医薬組成物を提供する。
好ましい実施形態において、本発明の医薬組成物は、以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、Yはセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子)で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体;
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Serはセリンまたはその改変体、AはO−HまたはO−X、ここでOは該セリンに由来する酸素原子、Xは糖鎖またはその改変体)に示される構造を有するモノマーユニット(i)および/または
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Thrはスレオニンまたはその改変体、AはO−HまたはO−X、ここでOは該スレオニンに由来する酸素原子、Xは糖鎖またはその改変体)に示される構造を有するモノマーユニット(ii)で構成され、総アミノ酸残基の数が4以上であり、但し少なくとも1つのAがO−Xである、糖ペプチドまたはその改変体;
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、Yはセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子、nは1以上の整数(nは、好ましくは、1〜15、より好ましくは、1〜10、さらにより好ましくは、1〜8、なおより好ましくは、1〜3、なおさらにより好ましくは、2〜3である))で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体;
および
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、YおよびYはそれぞれ独立してセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子、nは1以上の整数(nは、好ましくは、1〜15、より好ましくは、1〜10、さらにより好ましくは、1〜8、なおより好ましくは、1〜3、なおさらにより好ましくは、2〜3である))で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体、
からなる群から選択される、少なくとも1つの糖ペプチドまたはその改変体を含有する。上記糖ペプチドもしくはその改変体は、本明細書において別の場所においてより詳細に記載されており、上述の発明においてそのような記載および好ましい実施形態が適用され得る。
好ましい実施形態において、プロテオグリカンの異常レベルに関連する状態、障害または疾患は、慢性関節リウマチ、変形性関節炎、軟骨破壊、骨粗鬆症、糸球体ネフローゼ、皮膚の脆弱化、扁平角膜、コラーゲン繊維の構造異常,皮膚の脆弱化、角膜不透明化、X連鎖性先天性定常夜盲症、軟骨基質欠損、屈指−関節症−内反股−心膜炎症候群、卵丘・卵母細胞複合体のマトリックス欠損、不妊、Dyssegmental Dysplasia、骨格異常、神経筋シナプス形成の異常、Schwartz−Jampel症,Silverman−Handmaker型、Wingless様表現型、Simpson−Golabi−Behmel症および骨格異常からなる群より選択される状態、障害または疾患を包含する。より好ましくは、そのような状態、障害または疾患は、関節疾患(例えば、慢性関節リウマチ、変形性関節炎)であり得る。
本発明の医薬組成物はまた、さらに他の薬剤を含む。そのような薬剤としては、例えば、抗炎症剤、鎮痛剤、ビタミンなどが含まれるがそれらに限定されない。
別の局面において、本発明は、プロテオグリカンを必要とする状態、障害または疾患の治療のための方法を提供する。このような方法は、(a)被検体の状態、障害または疾患を同定する工程;(b)同定された該被検体の状態、障害または疾患から、必要とされるプロテオグリカンを決定する工程;(c)該プロテオグリカンを生体内で増加させるためのイニシエーターとして使用される糖ペプチドまたはその改変体を提供する工程;(d)該糖ペプチドまたはその改変体を該被検体に投与する工程、を包含する。上記方法は、テイラーメイド治療であり得る。プロテオグリカンのイニシエーターとして適切なものの選択は、当該分野において公知の情報を適用することによって行うことができる。本発明は、そのような情報に基づいて、簡便に効率よくプロテオグリカンのイニシエーターを合成することから、有用性を有する。
好ましい実施形態において、上記糖ペプチドまたはその改変体は、
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、Yはセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子)で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体;
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Serはセリンまたはその改変体、AはO−HまたはO−X、ここでOは該セリンに由来する酸素原子、Xは糖鎖またはその改変体)に示される構造を有するモノマーユニット(i)および/または
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Thrはスレオニンまたはその改変体、AはO−HまたはO−X、ここでOは該スレオニンに由来する酸素原子、Xは糖鎖またはその改変体)に示される構造を有するモノマーユニット(ii)で構成され、総アミノ酸残基の数が4以上であり、但し少なくとも1つのAがO−Xである、糖ペプチドまたはその改変体;
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、Yはセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子、nは1以上の整数(nは、好ましくは、1〜15、より好ましくは、1〜10、さらにより好ましくは、1〜8、なおより好ましくは、1〜3、なおさらにより好ましくは、2〜3である))で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体;
および
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、YおよびYはそれぞれ独立してセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子、nは1以上の整数(好ましくは、1〜15、より好ましくは、1〜10、さらにより好ましくは、1〜8、なおより好ましくは、1〜3、なおさらにより好ましくは、2〜3))で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体、
からなる群から選択される少なくとも1つの糖ペプチドまたはその改変体、を含む。上記糖ペプチドまたはその改変体は、本明細書において別の場所においてより詳細に記載されており、上述の発明においてそのような記載および好ましい実施形態が適用され得る。
好ましい実施形態において、上記の治療では、プロテオグリカンを必要とする状態、障害または疾患は、慢性関節リウマチ、変形性関節炎、軟骨破壊、骨粗鬆症、糸球体ネフローゼ、皮膚の脆弱化、扁平角膜、コラーゲン繊維の構造異常,皮膚の脆弱化、角膜不透明化、X連鎖性先天性定常夜盲症、軟骨基質欠損、屈指−関節症−内反股−心膜炎症候群、卵丘・卵母細胞複合体のマトリックス欠損、不妊、Dyssegmental Dysplasia、骨格異常、神経筋シナプス形成の異常、Schwartz−Jampel症,Silverman−Handmaker型、Wingless様表現型、Simpson−Golabi−Behmel症および骨格異常からなる群より選択される状態、障害または疾患を包含する。好ましくは、そのような疾患は、関節疾患(例えば、慢性関節リウマチ、変形性関節炎)である。
別の局面において、本発明は、キシロース残基がペプチドに結合した糖ペプチドまたはその改変体の製造方法を提供する。そのような製造方法は、(a)グルコース残基を含む糖鎖またはその改変体を提供し、該グルコース残基を残基内1,6脱水縮合させて、1,6無水糖鎖を生成する工程;(b)セリンおよび/またはスレオニンを含むペプチドまたはその改変体を提供する工程;および(c)該1,6無水糖鎖と該ペプチドまたはその改変体とを脱炭素化およびカップリング反応させて、キシロース残基が該セリンおよび/またはスレオニンに結合された糖ペプチドまたはその改変体を生成する工程、を包含する。ここで、残基内1,6脱水縮合は、当該分野において公知の方法を用いて行うことができ、以下に示すような実施例などに基づいて行うことができる。好ましくは、工程(a)は、前記1,6無水糖鎖を保護することを包含する。そのような保護基としては、例えば、Boc,ベンジル基、アセチル基などが挙げられるがそれらに限定されない。セリンおよび/またはスレオニンを含むペプチドまたはその改変体は、生物学的方法または有機合成による方法のいずれによっても提供することができる。好ましくは、自動合成を用いることが有利であり得る。脱炭素化およびカップリングもまた、当該分野において公知の方法を用いて行うことができ、以下に示すような実施例などに基づいて行うことができる。好ましくは、工程(c)は、脱保護することを包含する。脱保護は、水素添加によって行うことができる。
好ましい実施形態において、本発明の製造方法は、さらに、(d)前記糖ペプチドまたはその改変体を重合して糖ペプチド重合体を生成する工程、を包含する。重合体を製造する際は、重合することが必要であるからである。重合の方法は、当該分野において公知の方法を用いて行うことができ、以下に示すような実施例などに基づいて行うことができる。
好ましい実施形態において、本発明の製造方法では、さらに、(e)前記糖ペプチド重合体を分離する工程、を包含する。分離は、例えば、クロマトグラフィーなどの分離手法を用いて行うことができる。分離工程は、環化糖ペプチドと直鎖糖ペプチドとを分離することが意図される際には行うことが好ましい。
別の好ましい実施形態において、本発明の製造方法は、さらに、(f)前記糖ペプチドまたはその改変体を環化する工程、を包含する。環化は、通常の重合条件下でも生じ、当該分野において公知の方法を用いて行うことができ、以下に示すような実施例などに基づいて行うことができる。
好ましい実施形態において、本発明の製造方法において用いられる1,6無水糖鎖は、1,6無水ラクトースを含む。ラクトースは、単糖としてグルコースを含んでおり、このグルコースが脱炭素およびカップリングすることによってキシロースに変換することから、新たな糖ペプチドの合成のツールとして使用することができる。
別の好ましい実施形態において、本発明の製造方法で用いられるセリンおよび/またはスレオニンを含むペプチドまたはその改変体は、−Y−Gly−という配列を有し、ここでYはセリンもしくはスレオニンまたはその改変体である。セリンおよびスレオニンは、その側鎖に水酸基を有しており、この水酸基を介して糖鎖と結合することができる。
別の好ましい実施形態において、本発明の製造方法で用いられるセリンおよび/またはスレオニンを含むペプチドまたはその改変体は、−Ser−Gly−Ser−Gly−を含む。このような4量体をとることにより、重合が効率的に行われることから好ましい実施形態といえる。
別の好ましい実施形態において、本発明の製造方法の工程(c)の前に、本発明の製造方法で用いられる−Ser−Gly−Ser−Gly−のうち、N末端側のセリンを保護することを包含することが有利であり得る。このことにより、3つ目のセリンのみを糖鎖結合させることができるからである。
別の実施形態において、本発明の製造方法で用いられるセリンおよび/またはスレオニンを含むペプチドまたはその改変体は、アセチル化されることが有利であり得る。アセチル化により、重合が効率よく行うことができるからである。
本発明はまた、別の局面において、1,6無水グルコース残基を含む、糖鎖化合物またはその改変体を提供する。好ましくは、この糖鎖化合物は、1,6無水ラクトースまたはその改変体である。より好ましくは、この糖鎖化合物は、1,6無水ラクトースである。
別の局面において、本発明は、糖鎖合成において糖鎖部分提供のために使用される組成物であって、1,6無水グルコース残基を含む、糖鎖化合物またはその改変体を含む、組成物を提供する。好ましくは、この1,6無水グルコース残基は、1,6無水グルコースまたはその改変体を含む。このような糖鎖化合物は、キシロース含有糖ペプチドを効率よく合成するための中間体として有用である。このような糖鎖化合物は、当該分野において周知の技術により合成することができる。
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定されることが理解されるべきである。
【実施例】
以下に本実施例において行った実験の詳細を記載する。
(一般的方法)
(反応のモニタリング)
反応はMERCKのシリカゲルガラスプレート(60F254)を用いてTLCでモニターした。糖鎖を含む化合物についてはアニスアルデヒドと硫酸のメタノール溶液によって、またペプチドおよびアミノ基を含む化合物については和光純薬のニンヒドリンスプレーによってホットプレートで加熱し発色させた。フラッシュカラムクロマトグラフィーには関東化学のシリカゲル60N(球状、中性、40−50μm)を用いた。NMRの測定はJEOLのJMN−lambda−400 FT−NMR spectrometer(H:400MHz)、BRUKERのAVANCE 600(H:600MHz)、同じくBRUKERのAVANCE 500(H:500MHz)を使用した。MALDI−TOF−MSはBRUKERのREFLEX IIIを使用して測定した。またFAB−MSは機器分析センターに依頼しJEOL JMS−HX 110 mass spectrometerを使用しNBA(m−ニトロベンジルアルコール)をマトリックスとして測定した。
(合成実施例)
(O−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチル−α−D−グルコピラノシルブロミド(2))
β−D−ガラクトピラノシル−(1−4)−D−グルコピラノース1(80g,0.222mol)を無水酢酸(480ml)に溶かし、氷で冷やしながら30%HBr酢酸溶液(720ml)を3回に分けてゆっくりと加えた。冷やしたまま遮光した状態で21時間撹拌した。次に遮光したまま減圧濃縮してトルエンで4回共沸した後、EtOH、CHCl、ジエチルエーテル中にて結晶化させ濾取し、2(90g,58%)を得た。
2:H−NMR(500MHz,CDCl,δ):6.53(d,1H,J1,2=4.0Hz,H−1),5.56(t,1H,J3,4=9.7Hz,H−3),5.36(d,1H,H−4’),5.13(dd,1H,J1’,2’=7.9Hz,J2’,3’=10.4Hz,H−2’),4.97(dd,1H,J3’,4’=3.5Hz,H−3’),4.77(dd,1H,H−2),4.51(m,2H,H−1’,H−6a),4.23−4.14(m,3H,H−5,H−6,H−6’a),4.09(dd,1H,J5’,6’b=7.3Hz,J6’a,6’b=11.1Hz,H−6’b),3.91−3.85(m,2H,H−5’,H−4),2.17,2.14,2.10,2.08,2.07,2.06,1.97(s×7,21H,CHCO′7);t.l.c.:Rf=0.48(ヘキサン:EtOAc=1:2)
(ペンタクロロフェニル O−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(3))
2(60g,0.086mol)をアセトン(400ml)に溶かしペンタクロロフェノキシドナトリウム(PCPONa:1.2eq,33.1g)を加えオイルバス中にて40℃で撹拌し、その後60℃に温度を上げ18.5時間撹拌した。減圧濃縮した後、CHClで抽出し、水で十分に洗浄して、MgSOで乾燥させた。セライト濾過にてMgSOを取り除き、濃縮した後、次の反応に進んだ。
3:t.l.c.:Rf=0.55(トルエン:EtOAc=1:2)
(O−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3−ジ−O−アセチル−1,6−アンヒドロ−β−D−グルコピラノース(4))
精製していない3のシロップに5N KOH(400ml)を加えオイルバス中で熱をかけ18時間撹拌した。(45℃:45分 → 50℃:15分 → 60℃:60分 → 80℃:80分 → 100℃:終了まで)その後、氷水で冷やしながら9N HSOで中和し、生成した塩を乾燥させないようにセライト濾過により取り除いた。さらにpHを見ながらNaHCOを加えていき完全に中和した。次に濃縮し、さらにEtOHで2回、トルエンで3回共沸させた。その後、残留物をピリジン(150ml)に溶かし無水酢酸(150ml)を加え、0℃に冷やしながら22時間撹拌した。次に水で洗った後濃縮しトルエンで共沸した。氷水を加え分液漏斗に移しCHClで抽出し、その後氷を加えながら1N HSO、水、飽和NaHCO水溶液、ブラインで洗った。MgSOで乾燥させた後、セライト濾過でMgSOを取り除き、濃縮した後結晶化させ、濾取し4の結晶(14.4g)を得た。濾液をフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し4のシロップ(ca.4g)を得た。(18.4g,37%,3工程超)
4:H−NMR(600MHz,CDCl,δ):5.44(s,1H,H−1),5.37(d,1H,J3’,4’=3.4Hz,H−4’),5.26(dd,1H,J2’,3’=10.4Hz,H−2’),5.14(s,1H,H−3),5.02(dd,1H,H−3’),4.79(d,1H,J1’,2’=8.1Hz,H−1’),4.57(d,1H,H−5),4.54(s,1H,H−2),4.14(dd,1H,H−6’a),4.04(dd,1H,H−6’b),3.97(m,2H,H−5’,H−6a),3.79(t,1H,H−6b),3.54(s,1H,H−4),2.12,2.12,2.10,2.03,2.01,1.96(s×6,18H,CHCO′6);t.l.c.:Rf=0.25(トルエン:EtOAc=1:2),Rf=0.78(クロロホルム:EtOAc:メタノール=5:4:1)
(O−(2,3,4,6−テトラ−O−ベンジル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−1,6−アンヒドロ−2,3−ジ−O−ベンジル−β−D−グルコピラノース(5))
4(8g,13.88mmol)をMeOH:THF=1:1の溶媒(500ml)に溶かし触媒量のNaOMe(0.3eq,225mg)を加え室温で1時間撹拌した。DOWEX 50W×8を、pHを監視しながらくわえていき中和した。濾過、減圧濃縮の後トルエンで共沸した。残留物をDMF(120ml)に溶かし、氷・食塩・MeOHを使って−20℃に冷やした状態でNaH(1.5eq×6,5.0g)を加えた。十分に撹拌した後BnBr(2.0eq×6,19.8ml)をゆっくりと加え、徐々に室温になるように17時間撹拌した。その後MeOHを加え完全に濃縮した後CHClで抽出しブライン、水で洗った。MgSOで乾燥させた後、セライト濾過でMgSOを取り除き、濃縮しフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc=10:0から2:1まで徐々に)により精製し5のシロップ(6.0g,50%、2工程経由)を得た。
5:H−NMR(500MHz,CDCl,δ):7.38−7.21(m,30H,aromatic),5.48(s,1H,H−1),5.05−4.96(m,2H,Ph−CH−O),4.80−4.71(m,3H,Ph−CH−O),4,63−4.50(m,6H,H−5,Ph−CH−O,H−1’,J1’,2’=7.6Hz),4.44−4.36(m,3H,Ph−CH−O),3.94−3.87(m,4H,H−6a,H−2’,H−5’,H−3),3.79(s,1H,H−4),3.67(t,1H,H−6b),3.55−3.45(m,4H,H−6’a,H−3’,H−4’,H−6’b),3.34(s,1H,H−2);t.l.c.:Rf=0.66(トルエン:EtOAc=2:1),Rf=0.45(ヘキサン:EtOAc=2:1)
(フェニルO−(2,3,4,6−テトラ−O−ベンジル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3−ジ−O−ベンジル−1−チオ−D−グルコピラノシド(6))
5のシロップ(4.6g,5.32mmol)をCHCl2(45ml)に溶かしフェニルチオ(トリメチル)シラン(PhSTMS)(6.0eq.,6.23ml)を加え0℃で撹拌し窒素置換した。次にTMSOTf(トリメチルシリルトリフレート)(2.0eq.,1.93ml)を加え窒素下で45.5時間撹拌した。CHClで抽出し飽和CaCO水溶液、ブライン、水で洗った。MgSOで乾燥させた後、セライト濾過でMgSOを取り除き、濃縮した。ここにMeOH:THF=1:1の溶媒(150ml)を加えて溶かし、KCOを加え室温で1時間撹拌した。次にEtOAcで希釈しブラインと水で洗い、MgSOで乾燥させた後、セライト濾過でMgSOを取り除き、濃縮した。フラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc=3:1から2:1)により精製し6のシロップ(3.2g,62%)を得た。(α:β>20:1)
6:H−NMR(500MHz,CDCl,δ):7.45−7.15(m,35H,aromatic),5.52(d,1H,H−1,J1,2=4.7Hz),5.01−4.97(m,2H,Ph−CH−O),4.89−4.55(m,8H,Ph−CH−O),4.51(d,1H,H−1’,J1’,2’=7.7Hz),4.34−4.21(m,2H,Ph−CH−O),4.13(d,1H,H−5),3.93(d,1H,H−4’,J3’,4’=2.0Hz),3.86−3.75(m,5H,H−2’,H−6a,H−4,H−3,H−2),3.63−3.47(m,4H,H−6b,H−6’a,H−3’,H−5’),3.35(dd,1H,H−6’b);t.l.c.:Rf=0.57(トルエン:EtOAc=2:1)
(フェニル O−(2,3,4,6−テトラ−O−ベンジル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3−ジ−O−ベンジル−1−チオ−6−O−p−トルエンスルホニル−α−D−グルコピラノシド(7))
6のシロップ(4.42g,4.53mmol)をピリジン(95ml)に溶かし氷・NaCl・MeOHを使って−20℃に冷やした状態でp−トルエンスルホニルクロリド(5eq.,4.32g)をゆっくりと加え21時間撹拌した。真空ポンプを使い完全に減圧濃縮した後CHClで抽出し1N HCl水溶液、飽和NaHCO水溶液、ブライン、水で洗いMgSOで乾燥させた後、セライト濾過でMgSOを取り除き、濃縮し7のシロップ(5.08g)を得た。そのまま次の反応に進んだ。
7:H−NMR(500MHz,CDCl,δ):7.60−7.11(m,40H,aromatic),5.35(d,1H,H−1),4.97−4.55(m,10H,Ph−CH−O),4.39(dd,1H,H−6’a),4.36−4.25(m,3H,H−1’,Ph−CH−O),4.15(m,1H,H−5),3.96(dd,1H,H−6b),3.93(d,1H,H−4’),3.77−3.65(m,4H,H−2’,H−4,H−3,H−2),3.54(t,1H,H−6’a),3.44(dd,1H,H−3’),3.40(dd,1H,H−5’),3.34(dd,1H,H−6’b);t.l.c.:Rf=0.70(ヘキサン:EtOAc=2:1)
(フェニルO−(2,3,4,6−テトラ−O−ベンジル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3−ジ−O−ベンジル−6−デオキシ−6−ヨード−1−チオ−α−D−グルコピラノシド(8))
精製していない7のシロップを2−ブタノン(39ml)に溶かしNaI(3eq.,2.0g)を加え窒素中、85℃(還流)で7時間撹拌した。セライト濾過、減圧濃縮した後CHClで抽出し10%Na水溶液と水で洗い、MgSOで乾燥させた後、セライト濾過でMgSOを取り除き、濃縮した。フラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc=5:1〜3:1)により精製し8のシロップ(4.29g,87%,2工程超)を得た。
8:H−NMR(500MHz,CDCl,δ):7.59−7.09(m,35H,aromatic),5.35(d,1H,H−1,J1,2=5.0Hz),4.97−4.55(m,10H,Ph−CH−O),4.40(dd,1H,H−6a),4.36−4.24(m,3H,H−1’,Ph−CH−O),4.16−4.14(m,1H,H−5),3.96(dd,1H,H−6b),3.93(d,1H,H−4’),3.77−3.65(m,4H,H−2’,H−4,H−3,H−2),3.54(t,1H,H−6’a),3.44(dd,1H,H−3’),3.41(dd,1H,H−5’),3.35(dd,1H,H−6’b);t,l.c.:Rf=0.77(ヘキサン:EtOAc=2:1)
(フェニル O−(2,3,4,6−テトラ−O−ベンジル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3−ジ−O−ベンジル−1−チオ−α−D−キシロ−ヘキス−5−エノピラノシド(9))
8のシロップ(4.29g,3.95mmol)をDMF(41ml)に溶かしDBUを(1.5eq.,867μl)加え窒素中、160℃(還流)で16時間撹拌した。真空ポンプで完全に濃縮した後CHClで抽出し10%Na水溶液と水で洗い、MgSOで乾燥し、セライト濾過でMgSOを取り除き、濃縮した。フラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc=8:1から徐々に2:1まで)により精製し9のシロップ(2.06g,54%)を得た。
9:H−NMR(400MHz,CDCl,δ):7.52−7.12(m,35H,aromatic),5.56(d,1H,J1,2=4.9Hz,H−1),5.15(s,1H,H−6a),5.03−4.68(m,9H,Ph−CH−O),4.61−4.57(m,3H,H−6b,H−1’,Ph−CH−O),4.44−4.32(m,3H,Ph−CH−O,H−4),3.94(d,1H,H−4’),3.92−3.87(m,2H,H−2’,H−2),3.81(t,1H,H−3),3.67−3.50(m,4H,H−6’a,H−3’,H−5’,H−6’b);t.l.c.:Rf=0.76(ヘキサン:EtOAc=2:1)
(3,4−ジベンジルオキシ−5−チオフェニル−2−(2,3,4,6−テトラ−O−ベンジル−β−D−ガラクトピラノシルオキシ)シクロヘキサノン(10))
9のシロップ(188mg,0.196mmol)をMeOH:THF=1:1の溶媒に溶かし氷で冷やし撹拌ながらOを20分間バブリングした。次にOを15分間バブリングして余分なOを追い出しジメチルスルフド(1.3eq.,19μl)を加え2晩撹拌した。濃縮し、フラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc=4:1)により精製し10のシロップ(178mg,95%)を得た。
10:H−NMR(400MHz,CDCl,δ):7.56−7.19(m,35H,aromatic),5.68(d,1H,J1,2=1.8Hz,H−1),5.03−4.99(m,2H,Ph−CH−O),4.91(d,1H,J1’,2’=7.5Hz,H−1’),4.83−4.55(m,9H,Ph−CH−O,H−4),4.40−4.33(m,2H,Ph−CH−O),4.00(t,1H,H−2),3.93(dd,1H,J2,3=2.7Hz,J3,4=5.2Hz H−3),3.88−3.83(m,2H,H−4’,H−2’),3.59−3.51(m,4H,H−3’,H−5’,H−6’a,H−6’b);t.l.c.:Rf=0.48(ヘキサン:EtOAc=2:1)
(フェニル O−(2,3,4,6−テトラ−O−ベンジル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3−ジ−O−ベンジル−5−ヒドロキシル−1−チオ−α−D−キシロピラノシド(11))
10のシロップ(132.4mg,0.138mmol)をCHCl(13ml)に溶かし窒素気下、−40℃でジイソブチルアルミニウムヒドリド(DIBAL−H)(2.0eq.,275μl)を加え−40℃のまま2時間撹拌した。次に、10%酢酸水溶液を加え撹拌し、CHClで抽出し飽和NaHCO水溶液、水で洗いMgSOで乾燥させた後、セライト濾過でMgSOを取り除き、濃縮した。フラッシュカラムクロマトグラフィー(トルエン:EtOAc=10:1〜5:1)により精製し11のシロップを49.8mg(36%)得た(それほどカラム中で安定ではないので通常はここで精製せずに次の反応へ進み13の段階で精製したほうが好ましい)。
11:H−NMR(400MHz,CDCl,δ):7.46−7.16(m,35H,aromatic),5.51(d,1H,H−1,J1,2=4.7Hz),5.28−5.25(m,1H,H−5),5.02−4.82(m,4H,Ph−CH−O),4.76−4.59(m,7H,H−1’,Ph−CH−O),4.42−4.34(m,2H,Ph−CH−O),3.96−3.76(m,5H,H−4’,H−2’,5−OH,H−2,H−3),3.69−3.48(m,5H,H−6’a,H−4,H−3’,H−5’,H−6’b);t.l.c.:Rf=0.29(ヘキサン:EtOAc=2:1)
(フェニル O−(2,3,4,6−テトラ−O−ベンジル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3−ジ−O−ベンジル−5−クロロ−1−チオ−α−D−キシロピラノシド(12))
精製した11のシロップ(17.6mg,0.0183mmol)をCHCl 0.4mlに溶かしDMFを一滴加えた。窒素下、室温でオキサリルクロリドを(3e.q.,5μl)シリンジでゆっくり加え、そのまま3時間撹拌した。真空ポンプを用い減圧濃縮し黄色のシロップを得た。精製せずに次の反応へ進んだ。
12:H−NMR(500MHz,CDCl,δ):7.54−7.15(m,35H,aromatic),6.11(d,85/100H,J4,5eq=4.2Hz,H−5equatrial),6.07(d,15/100H,J4,5ax=6.2Hz,H−5axial),5.72(d,15/100H,J1,2=4.1Hz,H−1(H−5axial)),5.65(d,85/100H,J1,2=3.3Hz,H−1(H−5equatrial)),5.00−4.54(m,11H,Ph−CH−O,H−1’),4.43−4.34(m,2H,Ph−CH−O),4.09(t,1H,H−4),4.01(t,1H,H−3),3.91(d,1H,H−4’),3.82(dd,1H,H−2),3,79(dd,1H,H−2’),3.64−3.45(m,4H,H−3’,H−5’,H−6’a,H−6’b)
(フェニル O−(2,3,4,6−テトラ−O−ベンジル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3−ジ−O−ベンジル−1−チオ−α−D−キシロピラノシド(13))
精製した11のシロップ(253mg、0.264mmol)を上で述べたようにDIBAL−H、オキサリルクロリドで塩化物12とし、12の粗製のシロップをTHF(5ml)に溶かし、NaBHCN(10e.q.、175mg)を加え窒素気化中、60℃で12時間撹拌した。水を加えCHClで抽出しブラインで洗った。MgSOで乾燥させセライト濾過でMgSOを取り除き減圧濃縮した。フラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し104mgの13のシロップを得た。(11から3つの反応を経て42%の収率だった。)
13:H−NMR(500MHz,CDCl,δ):7.45−7.16(m,35H,aromatic),5.48(d,1H,J1,2=4.7Hz,H−1),5.00−4.59(m,10H,Ph−CH−O),4.45(d,1H,J1’,2’=7.6Hz,H−1’),4.39−4.31(m,2H,Ph−CH−O),4.07(t.1H,H−5a),3.94(d,1H,J3’,4’=2.7Hz,H−4’),3.90(ddd,1H,J4,5a=10.2Hz,J3,4=7.8Hz,J4,5b=5.7Hz,H−4),3.82−3.72(m,4H,H−2’,H−3,H−2,H−5b),3.64(t,1H,H−6a),3.52−3.44(m,3H,H−3’,H−5’,H−6’b)
(N−(p−トルエンスルホニル)−グリシンベンジル エステル(A))
グリシン(10g,0.133mol)、p−トルエンスルホン酸 1水和物(1.2eq.,30.4g)、ベンジルアルコール(10eq.,137.6ml)をベンゼン(250ml)に溶かし120℃で一晩撹拌した。減圧濃縮しジエチルエーテル中で結晶化させAを得た。(30.2g,67%)
A:t.l.c.:Rf=0.70(CHCl:MeOH:HO=65:25:4)
(N−(ベンジルオキシカルボニル)−L−セリル−グリシンベンジル エステル(B))
A(30.2g,89.5mmol)とZ−L−セリン(0.83eq.,17.84g)をDMF(300ml)に溶かし0℃に冷やし撹拌した。全て溶けた後ジフェニルホスホリルアジド(DPPA:1.0eq.,19.3ml)のDMF(130ml)溶液を加え、間隔をおいてさらにDPPA(2.3eq.,28.73ml)のDMF(130ml)の溶液をゆっくり加え24時間撹拌した。真空ポンプで完全に濃縮しEtOAcで抽出し5%HCl水溶液、飽和NaHCO水溶液、ブラインで洗いMgSOで乾燥させた後、セライト濾過でMgSOを取り除き、濃縮した。フラッシュカラムクロマトグラフィー(トルエン:EtOAc=2:1から1:2まで)により精製しその後結晶化させBを得た。(21.8g,75%)
B:H−NMR(500MHz,CDCl,δ):7.38−7.26(m,10H,aromatic),7.11(m,1H,Gly−NH),5.92(m,1H,Ser−NH),5.20−5.08(m,4H,Ph−CH−O),4.30(m,1H,Ser−α−H),4.06(m,3H,Gly−α−H×2,Ser−β−H),3.68−3.66(m,1H,Ser−β−H),3.24−3.20(m,1H,Ser−OH);t.l.c.:Rf=0.82(CHCl:MeOH:HO=65:25:4)
(N−(ベンジルオキシカルボニル)−O−[O−(2,3,4,6−テトラ−O−ベンジル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3−ジ−O−ベンジル−D−キシロピラノシル]−L−セリル−グリシンベンジル エステル(14))
精製した13のシロップ(5.3mg,5.6μmol)をCHCHとCHCN(2:1)の混媒0.3mlに溶かしBの結晶粉末(1.5e.q.,3.3mg)と活性化したMS4Aを加え窒素気下中で撹拌し1時間後にN−ヨードスクシンイミド(NIS:1.2e.q.,1.6mg)を加えた。その間に別の容器にCHCl 500μlを入れそこへ活性化したMS4Aを加えた。しばらくしてからトリフリック酸(TfOH)(5μl)をこの容器に加え1%溶液を作りこのうち10μl(1.2e.q.)を反応系にゆっくり加えた。室温で窒素気下中4.5時間撹拌した。その後トリエチルアミンを加え撹拌しセライト濾過した後、真空ポンプで減圧濃縮した。クロロホルムに溶かし塩水で洗いMgSOで乾燥、セライト濾過後減圧濃縮しフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し14(67%)を得た。(α:β=1:10)α体とβ体はこの段階で分けることができた。
14(β−アノマー):H−NMR(500MHz,CDCl,δ):7.36−7.13(m,40H,aromatic),6.93(m,1H,Gly−NH),5.74−5.73(m,1H,Ser−NH),5.14−4.58(m,14H,Ph−CH−O),4.43−4.31(m,5H,H−1’,H−1,Ser−α−H,Ph−CH−O),4.16−4.14(m,1H,Ser−β−H),3.99−3.88(m,4H,H−5a,H−4,H−4’,Gly−α−H),3.79(dd,1H,H−2’),3.67−3.50(m,6H,Ser−β−H,H−6’a,Gly−α−H,H−5’,H−3’,H−3),3.47(dd,1H,H−6’b),3.35(t,1H,H−2),3.21−3.19(m,1H,H−5b)
(O−[O−(β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−β−D−キシロピラノシル]−L−セリル−グリシン(15))
14のβ体(115mg)をDMF(16ml)に溶かし、水(2ml)、酢酸(0.5ml)、パラジウム−活性炭素(300mg)を入れて水素気下27℃で圧力をかけて撹拌した。反応をモニターしながら触媒を加え温度を32℃に上げた。9時間後、セライト濾過で触媒を取り除き真空ポンプで減圧濃縮した。HPLCにより精製して凍結乾燥し15(6mg、14%)を得た。
(N−(ベンジルオキシカルボニル)−O−(ベンジル)−L−セリル−グリシル−L−セリル−グリシンベンジル エステル(C))
N−(p−トルエンスルホニル)−グリシンベンジル エステル(A)(3g、8.89mmol)およびN−(t−ブトキシカルボニル)−L−serine(Boc−Ser−OH:2g)をDMF(30ml)に溶かし、0℃に冷やした状態でジフェニルホスホリルアジド(DPPA:1.2e.q.)とトリエチルアミン(TEA:2.2e.q.)をこの順番で10%DMF溶液としてから加え室温まで放冷しながら一晩撹拌した。反応終了後、真空ポンプを用いて減圧濃縮しEtOAcで抽出し、5%クエン酸水溶液、飽和NaHCO水溶液、ブラインで洗い、MgSOで乾燥させセライト濾過でMgSOを取り除き減圧濃縮した。このシロップを2N HCl−ジオキサンに溶かし室温で3時間撹拌した後、減圧濃縮し乾固させた。次に同様の手順に従って、このジペプチドとN−(t−ブトキシカルボニル)−グリシンとのをカップリング、およびBoc基の脱保護を行い、さらにN−(ベンジルオキシカルボニル)−O−ベンジル−L−セリンとカップリングした。フラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し、Cを2.67g(32%、a由来)得た。
C:H−NMR(500MHz,CDCl,δ):
(N−(ベンジルオキシカルボニル)−O−(ベンジル)−L−セリル−グリシル−O−[O−(2,3,4,6−テトラ−O−ベンジル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3−ジ−O−ベンジル−D−キシロピラノシル]−L−セリル−グリシンベンジル エステル(16))
フェニル O−(2,3,4,6−テトラ−O−ベンジル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3−ジ−O−ベンジル−1−チオ−α−D−キシロピラノシド(13)のシロップ(380mg、0.403mmol)とC(1.2e.q.、300mg)を14の調製法と同様の手順でグリコシデーションした。その後、フラッシュカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:MeOH=100:1)により精製し、16のα体とβ体の混じったシロップ(310mg、13から53%)と不純物の混じったシロップ(115mg)を得た。
16:H−NMR(500MHz,CDCl,δ):7.35−7.13(m,46H,aromatic、GlyNH),7.01−7.00(m、2H、Gly−NH、Ser−NH)、5.82(m、1H、Ser−NH)、5.12−4.47(m,17H,Ph−CH−O×8,Ser−α)、4.43−4.31(m,5H,H−1’,H−1,Ser−α,Ph−CH−O),4.11(dd、1H,Ser−βa)、3.98−3.95(m,3H,H−4,H−4’,H−5(equatrial)),3.88−3.78(m,5H,Gly−α,Ser−βa、H−2’,Gly−αa),3.65−3.46(m、8H、H−6’a、H−3、H−5’、H−3’、Gly−αb、Ser−βb、Ser−βb、H−6’b)、3.35(t,1H,H−2),3.19(m,1H,H−5(axial))。
(L−セリル−グリシル−O−[O−(β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−β−D−キシロピラノシル]−L−セリル−グリシン(17))
精製した16のα体とβ体の混合シロップ(152mg、0.104mmol)をDMF(6ml)に溶かし、水(0.5ml)と酢酸(0.5ml)を加え、パラジウム?活性炭素(Pd 10%:500mg)を入れ水素気下、35℃で圧力をかけ12時間撹拌した。桐山ろ紙を二重にして濾過して触媒を取り除き、減圧濃縮しゲル濾過(Sephadex G−15、HO)、およびHPLC(YMC−Pack ODS、250×20mm、0.1%TFA水溶液−CHCN)により精製したのち凍結乾燥し、β体(39.1mg、TFA塩として53%)とα体(8.2mg)を得た。次に得られたβ体のうち29.3mg(TFA塩として41μmol)を水(485μl)に溶かしアンモニア水溶液を加え中和した。ゲル濾過により脱塩し、凍結乾燥して17(22.9mg、TFA塩から70%、トータル37%)を得た。
17(NH処理前):H−NMR(500MHz,DO,δ):4.52(t,1H,Ser−α),4.27(d,1H,H−1’,J1’,2’=7.8Hz),4.25(d,1H,H−1,J1,2=7.7Hz),4.05−4.01(m,2H,Ser−α,Ser−βa),3.96−3.79(m,7H,Gly−αa,b,H−5a,Ser−βa,b,Gly−αa,b),3.76−3.72(m,2H,Ser−βb,H−4’),3.67−3.54(m,3H,H−4,H−6’a,b),3.51(dd,1H,H−5’,J5’,6’a=8.3Hz,J5’,6’b=3.7Hz),3.45(dd,1H,H−3’,J3’,4’=3.4Hz),3.42(t,1H,H−3,J3,4=9.1Hz),3.32(dd,1H,H−2’,J2’,3’=9.9Hz),3.20(dd,1H,H−5(axial)),3.15(dd,1H,H−2,J2,3=9.3Hz)
17(NH処理後):H−NMR(500MHz,DO,δ):4.63(t,1H,Ser−α),4.38(d,1H,H−1’,J1’,2’=7.8Hz),4.35(d,1H,H−1,J1,2=7.7Hz),4.15−4.11(m,2H,Ser−α,Ser−βa),4.07−3.89(m,5H,Gly−αa,b,H−5(equatrial),Ser−βa,b),3.86−3.83(m,2H,Ser−βb,H−4’),3.78−3.64(H−4,Gly−αa,b,H−6’a,b),3.61(dd,1H,H−5’,J5’,6’a=8.2Hz,J5’,6’b=3.8Hz),3.56(dd,1H,H−3’,J3’,4’=3.1Hz,J3’,2’=9.9Hz),3.52(t,1H,H−3,J3,4=9.1Hz),3.42(t,1H,H−2’),3.31(t,1H,H−5(axial)),3.25(t,1H,H−2,J2,3=8.5Hz)
(N−アセチル−L−セリル−グリシル−O−[O−(β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−β−D−キシロピラノシル]−L−セリル−グリシン(18))
17(5.8mg、9.66μmol)をDMF(370μl)に溶かし、0℃で無水酢酸(1.5e.q.、10%DMF溶液で14μl)を加え、徐々に室温まで放冷しながら2時間撹拌した。真空ポンプを使い減圧濃縮し、ゲル濾過(Sephadex G−15)により精製し凍結乾燥し18(1.7mg,27%)を得た。
18:H−NMR(500MHz,DO,δ):4.59(t,1H,Ser−α),4.36−4.31(m,3H,H−1’,Ser−α,H−1,J1,2=7.7Hz),4.08(dd,1H,Ser−βa),3.98(dd,1H,H−5(equatrial),J4,5=5.3Hz,Jgem=11.9Hz),3.91(dd,2H,Gly−αa,b),3.85−3.61(m,9H,Ser−βb,Gly−αa,b,H−4’,Ser−βa,b,H−4,H−6’a,b),3.58(dd,1H,H−5’,J5’,6’a=8.3Hz,J5’,6’b=3.8Hz),3.53(dd,1H,H−3’,J3’,4’=3.4Hz),3.48(t,1H,H−3,J3,4=9.1Hz),3.39(dd,1H,H−2’,J2’,3’=9.9Hz),3.28(dd,1H,H−5(axial)),3.21(dd,1H,H−2,J2,3=9.2Hz)
(N−アセチル−L−セリル−グリシル−O−[O−(β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−β−D−キシロピラノシル]−L−セリル−グリシル−ポリ−{L−セリル−グリシル−O−[O−(β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−β−D−キシロピラノシル]−L−セリル−グリシン}(19))
18をDMFに溶かし0℃でジフェニルホスホリルアジド(DPPA)を加え30分間撹拌した。次に17とトリエチルアミン(TEA)を加え放冷しながら12時間撹拌した。12時間後再び0℃に冷やし17とDPPAおよびTEAを加え12時間撹拌した。この追加の操作をさらにもう一回繰り返したあと、エタノールとジエチルエーテルで沈殿させ遠心分離(7000rpm、10分間)し、上澄みを取り除いた。残ったものをエタノールとジエチルエーテル中に懸濁させて遠心分離し上澄みを取り除いた。この操作をさらに一回繰り返し、残留物に窒素ガスを緩やかに当てて乾燥させた。これを水に溶かし25mMNaOH水溶液を加え2時間撹拌し、0.1M酢酸水溶液で中和しゲル濾過(Sephadex G−25)により精製し凍結乾燥した。その後、陰イオン交換ゲルクロマトグラフィー(DEAE−Sephacel)により環状のものと直鎖状のものとを分け、直鎖状のものをゲル濾過(Sephadex G−10)で脱塩、精製しポリマーの各重合度の混合物19を得た。
以上において、本発明の1つの合成例を記した。
(実施例1:プロテオグリカンコア構造の効率的合成)
本実施例において、本発明は、プロテオグリカンコア構造の効率的合成を行った。
この効率的合成を行うにあたり、本発明において目的となるポリ糖ペプチドを合成するにあたって大まかな合成戦略を立てた。まず繰り返し単位となる両末端が遊離の糖ペプチドを調製しこれをDPPA(ジフェニルホスホリルアジド)、TEA(トリエチルアミン)により連続縮重合する。繰り返し単位は、グリコシデーションに必要な脱離基および遊離の水酸基以外の官能基を水素添加により外れる保護基で保護した糖ユニット、ペプチドユニットそれぞれを個々に合成しその後立体選択的にグリコシデーションし、さらに全保護基を水素添加により脱保護し調製した(図4)。DPPAは、ペプチドのカップリング試薬として知られ、糖やペプチドの側鎖の水酸基の存在下でもペプチドのC末端を選択的に活性化することができ、その結果、両末端が遊離の糖ペプチドを用いることで連続縮重合が起こった。この合成戦略は当研究室においてAFGPs(不凍タンパク質)の合成に用いられ確立された方法である(Tetsuro Tsuda and Shin−Ichiro Nishimura(1996)Chem.Commun.2779−2780)。
(実施例2:2糖ユニットの合成)
以下、本発明の実施形態の例示として、GAG鎖伸長のイニシエーターとなりうる2糖としてGalβ1→4Xylを合成するためにコンフォメーションが同じGalβ1→4Glcである2糖のラクトースを出発物質として用い、ラクトースのグルコース残基の6位のヒドロキシメチル基を取り去るというスキームを採用した。キシロース残基とセリン残基の結合はβ結合である必要があるが、後に行うグリコシデーションの際に立体を制御するのでこの段階ではアノマー位に脱離基を導入するだけでよい。また、脱炭素化する6位と脱離基を導入するアノマー位を同時に特異的に保護するような1,6無水ラクトースを中間体とした。
出発物質であるラクトース1を遮光した状態で水酸基をアセチル基で保護し同時にアノマー位に脱離基であるブロモ基を導入する。その後ブロモ基をより強い脱離基(例えば、PCP基(ペンタクロロフェノール基))に替える。次に強塩基条件下において分子内求核置換反応を誘起し精製するために一旦アセチル化し中間体となるアセチル保護された1,6無水ラクトース4を調製した。次に、より安定な保護基であり水素添加によって脱保護できるベンジル基に架け替えた。1,6無水環を導入することによりグルコース残基のコンフォメーションがからへ大幅に変化し、それに伴いH−NMRにも変化がありグルコース残基の1から4位までがすべてシングレットになった(図5)。
次に、1,6無水結合を開裂し6位を遊離にすると同時にアノマー位に比較的安定な脱離基であるチオフェニル基を導入した(Lai−Xi Wang,Nobuo Sakairi,and Hiroyoshi Kuzuhara(1990)J.Chem.Soc.Perkin.Trans.I,1677−1682)。この際のアノマー位の立体はほぼα結合に偏った(α:β>20:1)。これはおそらく3位にある比較的大きな保護基であるベンジル基と1,6無水結合と6位のメチレンによる立体障害によると思われる。また、開裂した後の6は通常のコンフォメーションに戻った(図10、スキーム1)。
6位を取り去るために5、6位間に二重結合を導入しオゾン分解を用いることができるが、オゾンと硫黄原子の親和性が高くチオフェニル基が酸化され反応系が複雑化することが考えられることから、これを避けるために比較的安定な脱離基であるフッ素基を脱離基として用いることができる。
脱離反応のために6位に脱離基としてヨウ素基を導入し(Mazhar−ul−Haque(1977)J.C.S.PerkinII,1509−1513;Calvin L.Stevens,Peter Blumbergs,and Dieter H.Otterbach(1966)J.Org.Chem.31(9),2817−2822)、この段階でアノマー位をDAST(ジメチルアミノイオウトリフルオリド)でフッ素化した。5位と6位の間にE2反応により二重結合を導入し(Ana Calvo−Mateo,Maria Jose Camarasa,and Federico G.De las Heras(1984)J.Carbohydrate Chem.3(3),461−473)、これをオゾン分解しアノマー位に脱離基としてフッ素をもつシクロヘキサノン改変体とした。次にDIBAL−H(ジイソブチルアルミニウムヒドリド)および三フッ化ほう素エーテル錯体(BF:OEt)による脱酸素化(George A.Kraus and Kevin Frazier(1980)J.Org.Chem 46,2419−2423)、水素化リチウムアルミニウム(LiAlH)やLiAlH(O−t−Bu)を用いた反応(Fuqiang Jin,Dengjin Wang,Pat N.Confalone,Michael E.Pierce,Zhe Wang,Guoyou Xu,Anusuya Choudhury,and Dieu Nguyen(2001)Tetrahedron Letters 42,4787−4789;Lakshmi P.Kotra,M.Gary Newton,Chung K.Chu(1998)Carbohydrate Research 306,69−80)、チオカルボニル化後にRaney−Niによる接触水素化(Anthony G.M.Barrett and Albert C.Lee(1992)J.Org.Chem.57,2818−2824;K.C.Nicolaou,D.G.McGarry,P.K.Somers,B.H.Kim,W.W.Ogilvie,G.Yiannikouros,C.V.C.Prasad,C.A.Veale,and R.R.Hark(1990)J.Am.Chem.Soc.112,6263−6276)など種々の反応により脱酸素化を試みた。しかし、塩基性の条件の場合にはアノマー位に導入したフッ素基が副反応を起こしていると考えられ、どの系も好ましい結果は得られなかった。従って、好ましくは、酸性条件を用いることができる。
先にペプチドとのグリコシデーションをした後に脱酸素化を行う経路も試用することができるがシクロヘキサノン改変体ではグリコシデーションが進まず、またペプチドを導入することにより脱酸素化において強塩基性条件が使えなくなることもあることから、本発明ではそれほど好ましくはない(図11、スキーム2)。
そこでフッ素基以外の脱離基を検討する必要があったが、チオフェニル基が酸化されてしまうという懸念を実際に確かめる意味で、もともとあったチオフェニル基のままで同様にオゾン分解までの反応を行ったところ、意外にも今回の条件では懸念されたようなオゾンによるチオフェニル基の酸化は全くおこらなかった。従って、この手法を用いてアノマー位にチオフェニル基を持つシクロヘキサノン改変体10を高収率で得ることができる。
次にシクロヘキサノン改変体10の5位のカルボニル基をDIBAL−Hにより還元し水酸基を導入し脱酸素化を試みた。しかしBF:OEtを用いて水酸基のままで脱酸素化した(Francesco Nicotra,Luigi Panza,Giovanni Russo,and Luca Zucchelli(1992)J.Org.Chem.57,2154−2158)ことはできなかったのでこの水酸基へ脱離基を導入することにした。チオエステル基を導入しラジカル的に脱酸素化する方法(Morris J.Robins,John S.Wilson,and Frits Hansske(1983)J.Am.Chem.Soc.105,4059−4065)も試したがチオエステルの導入の効率はよくない。これには、ラジカル反応の際にチオフェニル基が反応する可能性(Janez Plavec,Weimin Tong,and Jyoti Chattopadhyaya(1993)J.Am.Chem.Soc.115,9734−9746)が考えられることから、反応させる際には留意すべきである。
メシル基(Ms,メタンスルホニル基)、トシル基(Ts,p−トルエンスルホニル基)、などのスルフォニル基系の脱離基は反応性が高く導入後不安定であると考えられそれほど好ましくはないが本発明の範囲内にある。そこでハロゲンを脱離基として導入した。一時的にトリフレート基を経由しブロモ基を導入する方法(Jacques Leroux and Arthur S.Perlin(1978)Carboydrate Research 67,163−178)や四塩化炭素中でトリフェニルフォスフィンを使用する反応(C.R.Haylock,L.D.Melton,K.N.Slessor,and A.S.Tracey(1971)Carbohydrate Research 16,375−382)など数種類の反応系を試した結果、TLC上で反応が進んでいると思われる反応系もあったが、DMFを触媒としてオキサリルクロリドで塩素を導入する系(Ken S.Feldman,Sarah L.Wilson,Michael D.Lawlor,Charles H.Lang,and William J.Scheuchenzuber(2002)Bioorganic & Medicinal Chemistry 10,47−55)がTLC上で最もきれいに短時間で反応が終了し後処理も容易である。つづく水素化の反応は、ヒドリドイオン(H)ソースとしてLiAlH(C.R.Haylock,L.D.Melton,K.N.Slessor,and A.S.Tracey(1971)Carbohydrate Research 16,375−382;Robert K.Ness,Hewitt G.Fletcher,Jr.,and C.S.Hudson(1950)J.Am.Chem.Soc.72(10)4547−4549;Masuo Funabashi and Toshimori Hasegawa(1991)Bull.Chem.Soc.Jpn.64,2528−2531)、NaBH(Harold M.Bell,C.Warren Vanderslice,and Andrea Spehar(1969)J.Org.Chem.34,3923−3926)、NaBHCN(Robert O.Hutchins,Bruce E.Maryanoff,and Cynthia A.Milewski(1971)Chem.Commun.1097−1098)などをいろいろな溶媒中で試した結果、THF(テトラhydrofuran)中でNaBHCNによって水素化することができた。以上により、目的となる水酸基をベンジル基で保護しアノマー位に脱離基を持った2糖ユニット13を得た。この脱酸素化、および水素化の反応では中間生成物が不安定であるために精製は行わずにそのまま次の反応に進んだ。シクロヘキサノン改変体10からの3反応を経ての収率は40%を超え、まずまずの収率で求める2糖ユニットを調製することができた(図12、スキーム3)。出発物であるラクトースからの収率は1%(1.25%)程度になった。合成した2糖ユニットの1H−NMRスペクトルを図6に示す。5位がメチレン基になったことで4位が特徴的にdddに割れているのが判る。
(実施例3:ジペプチドユニットの合成)
本発明の1つの実施形態では、ジペプチドユニットをまず合成した。グリシンのC末端をディーンスターク管を用いて水を反応系から除きながらベンジルエステル化した。精製したグリシンベンジルエステルと、市販されているN末端をZ基(cbz基、ベンジルオキシカルボニル基)で保護した側鎖水酸基が遊離のセリンをDPPA、TEAでカップリングすることができる。これによりセリンの側鎖水酸基のみが遊離であるジペプチドユニットBが得られた。(図13、スキーム4)
(実施例4:グリコシデーションと重合(1))
ここまでで調製した2糖ユニット13とジペプチドユニットBをNIS(N−ヨードスクシンイミド)、TfOH(トリフリック酸(triflic acid)、トリフルオロメタンスルホン酸)を用いてグリコシデーションする(Per J.Garegg(1997)Advances in Carbohydrate Chemistry and Biochemistry 52,179−205)。立体を制御するために、経験的に知られているアセトニトリルの溶媒効果を利用してβ結合を優先的に導入する。しかし2糖ユニットがアセトニトリルに対して非常に溶解しにくいため、ジクロロメタンとの混媒とする。結果、α:β=1:10のようにβ結合を優先させた。またフラッシュカラムクロマトグラフィーによりこの段階でα体とβ体を分けることができた。得られた糖ペプチド14のうちのβ体を水素添加により全保護基を脱保護した(図14、スキーム5)。HPLCにより精製した後DPPA、TEAによる重合を行うと、反応が進行せずモノマー15が残った。原因としては、アミノ酸2残基ごとに糖ユニットが1つという割合が、糖ユニットに対してペプチドの長さが短すぎたために反応が進行しないことと、反応に関与するN末端側のセリン残基に比較的大きな糖ユニットが結合していることによるN末端への立体障害が考えられたので、糖ユニット同士の間隔を空けるためにN末端側へセリン−グリシンの繰り返しをさらに1つ伸ばし、4アミノ酸残基ごとに1つの糖ユニットとなるように繰り返し単位の構造を変更した。
(実施例5:テトラペプチドユニットの合成)
ジペプチドユニットのときと同様にグリシンをベンジルエステル化し、つづいて市販のN末端をBoc基(t−ブチルオキシカルボニル基)で保護した側鎖水酸基が遊離のセリンをDPPAでカップリングし、そして2規定の塩化水素ジオキサン溶液でBoc基を脱保護した。以下同様の手順でN末端をBoc基で保護したグリシン、N末端をZ基で保護し側鎖水酸基をベンジル基で保護したセリン(いずれも市販)とカップリングし、セリンの側鎖水酸基1つだけが遊離のテトラペプチドユニットCが得られる(図15、スキーム6)。精製は最後のカップリングが終了したあとのみで行った。
(実施例6:グリコシデーションと重合(2))
2糖ジペプチドモノマーのときと同様にNIS、TfOHを用いアセトニトリルとジクロロメタンの混媒中でグリコシデーションを行った。α体とβ体の混じった保護されたモノマー16をそのまま水素添加し全保護基を脱保護し、ゲルろ過(Sephadex G−15)したあとHPLCにより17のβ体を単離した。このときHPLCの溶離液に含まれるTFAとモノマーが塩をつくるので、単離後アンモニア水溶液で処理し中和した(図16、スキーム7)。そして、定法に従ってDPPA、TEAを用いての重合を試みたが、MALDI−TOF−MSによると、モノマーはすべて反応しているものの生成物のほとんどは2量体、もしくは3量体において環化した環状糖ペプチド20であった(図7)。この生成物に対して陰イオン交換ゲルDEAE−Sephacelを使用したところ、生成物の大半が水を溶離液としたときに溶離してきたことから陰イオンがないことが証明され、環状になっていることが確認できる。この反応結果は濃度を変えても起こることから、セリンとグリシンの繰り返し構造は2量体、つまり8アミノ酸残基程度でヘリックスが1周し、両末端が非常に近づくのでどうしても環化反応が優先してしまうと考えられる。そこで少々強引ではあるがN末端をなんらかの保護基でふさいでしまい、遊離モノマーとの混合状態でDPPAにより重合を行い、このとき遊離モノマーがN末端を保護したモノマーに比べて少なければ遊離モノマー同士の反応よりもN末端を保護したモノマーとの反応が優先するので、遊離モノマーを分割して加えることで直鎖状のポリマーが優先して生成すると考えられる。
そこで遊離モノマー17をDMF中、無水酢酸を用いてN末端をアセチル基で保護した。もともと遊離のモノマー17はDMFに対する溶解性はあまり良くなかったが、アセチル化したモノマー18はDMFに対する溶解性が改善した。このことから反応系において、遊離モノマーに比べてアセチル保護したモノマーの存在比が高くなり、遊離モノマーを何回にも分けて加えるときの一回の量が少々多くてもこの存在比の差が保たれると考えられる。これをふまえて、このアセチル保護されたモノマーと遊離のモノマーのモル比が1:1となるようにDPPAによる重合を試みた(図17、スキーム8)。結果、やはり環状の糖ペプチドが生成するが、直鎖状のポリマー19の生成もMALDI−TOF−MSによって確認された(図8)。環状糖ペプチドにはC末端、つまりカルボキシル基がないので陰イオン交換ゲル(DEAE−sephacel)により簡単に環状糖ペプチドと直鎖状ポリ糖ペプチドは分けることができ、それぞれのおおよその重量比は、環状:直鎖状=2:5であった。また、環状糖ペプチド、直鎖状ポリマー、それぞれを重合度が異なったものの混合物のままH−NMRを測定した。スペクトルを図9に示す。全体として、共にモノマーのスペクトルの保存性・対称性が高く重合が確実に進んでいるといえる。
(実施例7:合成物質の活性検定)
(関節軟骨細胞培養系への合成物質の添加)
この実験は、北海道大学医学部の岩崎倫政先生らの協力により行われた。日本白色家兎(2.0kg)の関節軟骨より、軟骨細胞を単離(約1×10細胞)し24ウェルおよび96ウェルのプレートに各細胞数1×10、1×10を播種した。コントロールとして通常の培養を行い、1ng/ml,10ng/ml,100ng/mlの濃度で合成したポリ糖ペプチド19、環状糖ペプチド20、2糖テトラペプチドモノマー17を加えたグループを設定した。上記の濃度をそれぞれ50μlずつ添加した。
1週間後の細胞には合成化合物を添加したことによる大きな変化は見られなかった。ただし、添加したことによって著しく増殖が阻害されることはなく、この化合物の軟骨細胞に対する毒性はないといえる。
(まとめ)
安価な2糖であるラクトースを出発物質として活用し、プロテオグリカンのGAG鎖とコアタンパク質の結合領域に見られる2糖であるGalβ1→4Xylの改変体13に変換する新規合成法を確立した。この改変体はアノマー位に脱離基であるチオフェニル基を有しグリコシデーションなど更なる有機合成への応用が可能である。
またこの改変体を用いて、この結合領域を模倣した糖ペプチドを、2糖ジペプチドのものと2糖テトラペプチドのもの、2種類合成した。
さらにこの2種類の糖ペプチドのうち2糖テトラペプチドのモノマーについて、DPPAを用いた重合反応により直鎖状のポリマーを合成した。また重合反応の副生成物として環状の糖ペプチドを得た。
日本白色家兎の関節軟骨細胞培養系への合成物質の添加では細胞の増殖に影響は見られず、細胞に対する毒性はほとんどないものと判断した。
(結果および考察)
ラクトースを出発物質として、炭素を取り去りたい6位とペプチドとのグリコシデーションに備えて脱離基を導入したい1位を同時に特異的に保護した1,6無水ラクトースを中間体として調製し、この間に他の水酸基をベンジル基で保護した。次に、1,6無水結合を開裂し6位を遊離に、1位にチオフェニル基を導入した。6位の脱炭素化を行うため5,6位間に二重結合を導入しオゾン分解した。このとき懸念されていたチオフェニル基の酸化は起こらなかった。得られたシクロヘキサノン改変体をDIBAL−Hにより還元し、生じた水酸基をオキサリルクロリド、DMFにより塩素化し、この塩素基をTHF中でNaBHCNを用い水素化した。以上、目的となる2糖ユニットを新規合成法により調製することができた。
一方のペプチドユニットは先に述べたSer−Gly−Xaa−Glyを満たす最も簡単な配列としてSer−Glyの繰り返し配列とした。まず、N末端をZ基で、C末端をベンジルエステル基で保護した側鎖水酸基が遊離のジペプチドZ−Ser(OH)−Gly−OBzlを調製した。これを先に合成した2糖ユニットとグリコシデーションし水素添加により全保護基を脱保護し繰り返し単位となる2糖ジペプチドのモノマーを調製した。しかし、このモノマーは重合反応が進行しなかった。これはペプチドユニットが糖の大きさに対して小さすぎたことによる立体障害が原因と考えられる。
これを解決するために両端を保護されたZ−Ser(OBzl)−Gly−Ser(OH)−Gly−OBzlというテトラペプチドを合成し、同様にグリコシデーション、脱保護を行い2糖テトラペプチドのモノマーを調製した。次にDPPAによる連続縮重合を試みたが、ほとんどのものは2量体において環化していた。環化を防ぐためにモノマーのN末端をアセチル基で保護しここへ遊離のモノマーを分割して加える方法で重合を試みた。その結果、やはり環状の糖ペプチドが生成するものの直鎖状のポリマーを得ることに成功した。直鎖状ポリマーと環状糖ペプチドは陰イオン交換ゲルにより容易にわけることができた。
それぞれ分けた環状糖ペプチドと直鎖状ポリマー、および2糖テトラペプチドのモノマーを日本白色家兎の軟骨細胞を培養しているプレートへ撒いたところ、1週間経過した後も細胞は増え続け決定的な毒性はないものと判断された。
(まとめ)
ラクトースを出発物質として、目的となるプロテオグリカンコア構造を模倣したポリ糖ペプチドを新規合成法により合成することができた。この合成法の中でチオフェニル基はオゾン分解では酸化されないことを見いだした。また、副生成物として環状の糖ペプチドが得られた。
軟骨細胞培養系へのこれらの化合物の添加の結果、これらの化合物により細胞の培養に特に変化はなく、毒性はほとんどないと判断された。
従って、本発明では、例示として以下のような、合成模式図が意図される。

(実施例8:生体内における実証:本発明の化合物のプロテオグリカンイニシエーターとしての能力)
実施例7に記載されるのと同様の条件で、軟骨細胞を培養し、培養開始後1日後、7日後、14日後の各ウェル内のコンドロイチン硫酸含有量を市販のキット(例えば、株式会社ホクドー(札幌、日本)の簡易型・酸性ムコ多糖定量キット)を用いて測定した。
上記実施例において合成したポリ糖ペプチド、環状の糖ペプチドおよびその2糖テトラペプチドモノマーを培養系に添加し、添加しない場合をコントロールとして、コンドロイチン硫酸の含有量が変化するかどうかを調べた。ここで、1ng/ml,10ng/ml,100ng/mlの濃度で合成したポリ糖ペプチド19、環状糖ペプチド20、2糖テトラペプチドモノマー17を加えたグループを設定した。上記の濃度をそれぞれ50μlずつ添加した。このアッセイは、細胞外マトリクス中のプロテオグリカン中の量を調べることになる。
細胞を培養し、その後、細胞層(Cell Layer)を物理的に剥離し、遠心分離した。沈澱物(Cell Layer)を検体調製用酵素で溶解(60℃、1時間)し、この溶液中の酸性ムコ多糖含量を簡易型・酸性ムコ多糖定量キットで定量した。検体に発色液を加えて650nmにてすぐに測定した。
このアッセイの結果、ポリ糖ペプチド、環状の糖ペプチドおよびその2糖テトラペプチドモノマーを加えた細胞において、コンドロイチン硫酸の含有量が有意に増加していることが分かった。他方、コントロール細胞では、コンドロイチン硫酸は有意に増加していなかった。従って、ポリ糖ペプチド、環状の糖ペプチドおよびその2糖テトラペプチドモノマーはいずれもプロテオグリカンのイニシエーターとして使用され得ることが実証された。
次に、日本白色家兎(2.0kg)の関節軟骨に直接これら3種の糖ペプチドを注入し動物内で効果があるかどうか確認した。上記実施例において合成したポリ糖ペプチド、環状の糖ペプチドおよびその2糖テトラペプチドモノマーを培養系に添加し、添加しない場合をコントロールとして、コンドロイチン硫酸の含有量が変化するかどうかを調べた。ここで、1ng/ml,10ng/ml,100ng/mlの濃度で合成したポリ糖ペプチド19、環状糖ペプチド20、2糖テトラペプチドモノマー17を加えたグループを設定した。上記の濃度をそれぞれ50μlずつ添加した。
この兎から軟骨組織1〜10mg取り(組織中の酸性ムコ多糖含量により採取量は異ります)に検体調製用酵素溶液10ml加え60℃で1時間加熱し完全に溶解した。上記で得た検体溶液100マイクロリットルおよび各濃度の標準液をマイクロテストチューブに移し反応溶液(用時調製)を1.3ml加え攪拌し、650nmにてすぐに測定した。
このアッセイの結果、ポリ糖ペプチド、環状の糖ペプチドおよびその2糖テトラペプチドモノマーを加えた細胞において、コンドロイチン硫酸の含有量が有意に増加していることが分かった。他方、コントロール細胞では、コンドロイチン硫酸は有意に増加していなかった。従って、ポリ糖ペプチド、環状の糖ペプチドおよびその2糖テトラペプチドモノマーはいずれもプロテオグリカンのイニシエーターとして使用され得ることが実証された。
(実施例9:化学合成イニシエーターを用いる細胞培養物における軟骨細胞および線維芽細胞からの蛍光発生ムコ多糖の分析)
本実施例は、本発明の糖ペプチドおよび糖ペプチドポリマーが、細胞培養中の軟骨細胞からGAGを形成したことを示す。本実施例で使用した糖ペプチドおよび糖ペプチドポリマーはそれぞれ、上記実施例にて作製した2糖テトラペプチドモノマー17およびポリ糖ペプチド19である。本実施例における試薬は、特に示さない限り、Sigma Co.(MO,USA)または和光純薬工業(大阪、日本)から入手可能な高級試薬である。
正常ヒト軟骨細胞(NHAC−Kn)(Bio Whittaker,Inc.(MD,USA)より購入)を48ウェルプレートに1.0×10細胞/ウェルずつ播き、10%(v/v)透析ウシ胎児血清を含有するDulbecco Minimum Eagle培地中で37℃、0.5%CO条件下、一晩培養した。成熟した細胞を、細胞中のGAGコア蛋白質芯の新たな合成を阻害するために、蛋白質合成阻害剤のピューロマイシンを200μM添加し、37℃で1時間インキュベートした。その後、1.0mM 酢酸ナトリウムとペプチドのアミノ基にFITCをラベルした化学合成イニシエーターをFITC濃度で、2糖テトラペプチド17 20μM/ウェル、ポリ糖ペプチド19 60μM/ウェルになるように添加し、48時間、37℃、0.5%CO条件下で培養した。多糖へのバックグラウンドのFITCの取り込みを、細胞なしでインキュベートした細胞から決定した。
FITCでラベルした多糖の取り込みをゲル濾過クロマトグラフィーによって単離した。48時間後、培養細胞の培養上清を回収し、15,000rpmで5分間遠心し、培地と細胞を分けた。フィルター濾過後、TSK gel G−3000(TOSHO)を用いて0.4ml/分、水で溶出した。検出はFITCにて蛍光検出を行なった。(λex=495nm,λem=525nm)。
実験の結果、モノマー、ポリマー共に、化合物の分子量と異なる高分子量の産物を得た。2糖テトラペプチド17の結果を図18に示し、ポリ糖ペプチド19の結果を図19に示す。これら図18および図19より、2糖テトラペプチド17では分子量約50,000のGAGが、ポリ糖ペプチド19ではカラムの排除限界部分にピークが見られる事から、少なくとも分子量200,000以上のGAGが出来ていると考えられる。従って、本実施例においても、ポリ糖ペプチドおよびその2糖テトラペプチドモノマーのいずれもが、プロテオグリカンのイニシエーターとして使用され得ることが実証された。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
本発明により、新規糖ペプチド合成方法が提供される。本発明はまた、プロテオグリカンのイニシエーターとして有用な糖ペプチドおよびポリ糖ペプチドを提供する。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、Yはセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子)で示される構造を有する、糖ペプチドまたはその改変体。
【請求項2】
前記Xは、−(1)−β−D−Xylp、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−GlcpA、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−GlcpA−(1,4)−β−D−GalpNAcおよび−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−GlcpA−(1,4)−α−D−GlcpNAc(式中、Xylpは、キシロピラノース、Galpは、ガラクトピラノース、GlcpAは、グルクロン酸、Acは、アセチル)からなる群より選択される構造で示される糖鎖またはその改変体を含む、請求項1に記載の糖ペプチドまたはその改変体。
【請求項3】
前記Xは、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp(式中、Xylpは、キシロピラノース、Galpは、ガラクトピラノース)で示される糖鎖またはその改変体を含む、請求項1に記載の糖ペプチドまたはその改変体。
【請求項4】
前記Yは、セリンもしくはスレオニンまたはその生物学的適合性を有する改変体である、請求項1に記載の糖ペプチドまたはその改変体。
【請求項5】
前記Yは、セリンまたはその生物学的適合性を有する改変体である、請求項1に記載の糖ペプチドまたはその改変体。
【請求項6】
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Serはセリンまたはその改変体、AはO−HまたはO−X、ここでOは該セリンに由来する酸素原子、Xは糖鎖またはその改変体)に示される構造を有するモノマーユニット(i)、および/または
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Thrはスレオニンまたはその改変体、AはO−HまたはO−X、ここでOは該スレオニンに由来する酸素原子、Xは糖鎖またはその改変体)に示される構造を有するモノマーユニット(ii)で構成され、総アミノ酸残基の数が4以上であり、但し少なくとも1つのAがO−Xである、糖ペプチドまたはその改変体。
【請求項7】
前記モノマーユニット(i)と前記モノマーユニット(ii)との総和に対する該モノマーユニット(i)の割合が、0.1〜0.9である、請求項6に記載の糖ペプチドまたはその改変体。
【請求項8】
以下の式:

(式中、Glyは、グリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、Yはセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子、nは1以上の整数)で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体。
【請求項9】
前記糖ペプチドのペプチド部分は4以上のアミノ酸を含む、請求項1に記載の糖ペプチドまたはその改変体。
【請求項10】
前記糖ペプチドのペプチド部分は8以上のアミノ酸を含む、請求項1に記載の糖ペプチドまたはその改変体。
【請求項11】
前記糖ペプチドのペプチド部分は環状ペプチドを形成する、請求項1に記載の糖ペプチドまたはその改変体。
【請求項12】
前記糖ペプチドのペプチド部分は、アセチル化されたものである、請求項1に記載の糖ペプチドまたはその改変体。
【請求項13】
前記アセチル化は、前記ペプチド部分のN末端に存在する、請求項12に記載の糖ペプチドまたはその改変体。
【請求項14】
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、YおよびYはそれぞれ独立してセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子、nは1以上の整数)で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体。
【請求項15】
糖ペプチドまたはその改変体を含む、プロテオグリカンイニシエーターとして使用するための組成物。
【請求項16】
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、Yはセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子)で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体;
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Serはセリンまたはその改変体、AはO−HまたはO−X、ここでOは該セリンに由来する酸素原子、Xは糖鎖またはその改変体)に示される構造を有するモノマーユニット(i)および/または
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Thrはスレオニンまたはその改変体、AはO−HまたはO−X、ここでOは該スレオニンに由来する酸素原子、Xは糖鎖またはその改変体)に示される構造を有するモノマーユニット(ii)で構成され、総アミノ酸残基の数が4以上であり、但し少なくとも1つのAがO−Xである、糖ペプチドまたはその改変体;
以下の式:

(式中、Xは糖鎖またはその改変体、Yはセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子、nは1以上の整数)で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体;
および
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、YおよびYはそれぞれ独立してセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子、nは1以上の整数)で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体、
からなる群から選択される少なくとも1つの糖ペプチドまたはその改変体を含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記Xは、−(1)−β−D−Xylp、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−GlcpA、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−GlcpA−(1,4)−β−D−GalpNAcおよび−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−Galp−(1,3)−β−D−GlcpA−(1,4)−α−D−GlcpNAc(式中、Xylpは、キシロピラノース、Galpは、ガラクトピラノース、GlcpAは、グルクロン酸、Acは、アセチル)からなる群より選択される構造で示される糖鎖またはその改変体を含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
前記Xは、−(1)−β−D−Xylp−(1,4)−β−D−Galp(式中、Xylpは、キシロピラノース、Galpは、ガラクトピラノース)で示される糖鎖またはその改変体を含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項19】
前記Yは、セリンもしくはスレオニンまたはその生物学的適合性を有する改変体である、請求項15に記載の組成物。
【請求項20】
前記Yは、セリンまたはその生物学的適合性を有する改変体である、請求項15に記載の組成物。
【請求項21】
糖ペプチドまたはその改変体を含む、プロテオグリカンの異常レベルに関連する状態、障害または疾患の予防、処置または予後のための医薬組成物。
【請求項22】
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、Yはセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子)で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体;
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Serはセリンまたはその改変体、AはO−HまたはO−X、ここでOは該セリンに由来する酸素原子、Xは糖鎖またはその改変体)に示される構造を有するモノマーユニット(i)および/または、
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Thrはスレオニンまたはその改変体、AはO−HまたはO−X、ここでOは該スレオニンに由来する酸素原子、Xは糖鎖またはその改変体)に示される構造を有するモノマーユニット(ii)で構成され、総アミノ酸残基の数が4以上であり、但し少なくとも1つのAがO−Xである、糖ペプチドまたはその改変体;
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、Yはセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子、nは1以上の整数)で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体;
および
以下の式:

(式中、Glyはグリシンまたはその改変体、Xは糖鎖またはその改変体、YおよびYはそれぞれ独立してセリンもしくはスレオニンまたはその改変体、Oは該セリンまたは該スレオニンに由来する酸素原子、nは1以上の整数)で表される構造を有する糖ペプチドまたはその改変体、
からなる群から選択される、少なくとも1つの糖ペプチドまたはその改変体を含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記プロテオグリカンの異常レベルに関連する状態、障害または疾患は、慢性関節リウマチ、変形性関節炎、軟骨破壊、骨粗鬆症、糸球体ネフローゼ、皮膚の脆弱化、扁平角膜、コラーゲン繊維の構造異常,皮膚の脆弱化、角膜不透明化、X連鎖性先天性定常夜盲症、軟骨基質欠損、屈指−関節症−内反股−心膜炎症候群、卵丘・卵母細胞複合体のマトリックス欠損、不妊、Dyssegmental Dysplasia、骨格異常、神経筋シナプス形成の異常、Schwartz−Jampel症,Silverman−Handmaker型、Wingless様表現型、Simpson−Golabi−Behmel症および骨格異常からなる群より選択される状態、障害または疾患を包含する、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項24】
以下の工程:
(a)被検体の状態、障害または疾患を同定する工程;
(b)同定された該被検体の状態、障害または疾患から、必要とされるプロテオグリカンを決定する工程;
(c)該プロテオグリカンを生体内で増加させるためのイニシエーターとして使用される糖ペプチドまたはその改変体を提供する工程;
(d)該糖ペプチドまたはその改変体を該被検体に投与する工程、
を包含する、プロテオグリカンを必要とする状態、障害または疾患の治療のための方法。
【請求項25】
以下の工程:
(a)グルコース残基を含む糖鎖またはその改変体を提供し、該グルコース残基を残基内1,6脱水縮合させて、1,6無水糖鎖を生成する工程;
(b)セリンおよび/またはスレオニンを含むペプチドまたはその改変体を提供する工程;および
(c)該1,6無水糖鎖と該ペプチドまたはその改変体とを脱炭素化およびカップリング反応させて、キシロース残基が該セリンおよび/またはスレオニンに結合された糖ペプチドまたはその改変体を生成する工程、
を包含する、キシロース残基がペプチドに結合した糖ペプチドまたはその改変体の製造方法。
【請求項26】
前記工程(a)は、前記1,6無水糖鎖を保護することを包含する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記工程(c)は、脱保護することを包含する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記脱保護は、水素添加による脱保護である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
さらに、
(d)前記糖ペプチドまたはその改変体を重合して糖ペプチド重合体を生成する工程、
を包含する、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
さらに、
(e)前記糖ペプチド重合体を分離する工程、
を包含する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
さらに、
(f)前記糖ペプチドまたはその改変体を環化する工程、
を包含する、請求項25に記載の方法。

【国際公開番号】WO2004/076476
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502823(P2005−502823)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001089
【国際出願日】平成16年2月3日(2004.2.3)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】