説明

糖尿病の治療又は予防に使用されるピリミジニウム誘導体

本発明は、糖尿病の予防又は治療のための方法及び組成物に関する。詳細には本発明は、II型又はI型糖尿病の予防及び治療で使用される式(I)で示される化合物を開示する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病の予防又は治療のための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は世界的な健康問題であり、その発生数は急速に増加しつつある。世界保健機関によれば、2000年には世界中で少なくとも1億7100万人、つまり世界人口の2.8%が糖尿病に罹患しており、2030年までにその数はほぼ二倍になると推定されている。少なくとも20年の間に、北米の糖尿病率は実質的に増加した。2005年には、糖尿病患者は米国だけでも約2080万人存在した。糖尿病の有病率は年齢と共に上昇しており、高齢者人口が増加するにつれ、糖尿病を有する高齢者の数が増加すると予測される。糖尿病では、様々な治療が利用できるが、現在のところは、依然として治癒されることのない慢性病であり、このためこの疾患を治療及び/又は予防するための更なる方法が求められている。
【0003】
適度のコーヒー消費が、ヒトのII型糖尿病のリスク低下に関連し、そのような最大50%までのリスク低下が、カフェイン消費に関係しないことが、近年の疫学的証拠で示された(非特許文献1〜7参照)。しかしながら、コーヒー飲料又はその成分が血糖値を低下させるメカニズムは、未だに確認されていない。このメカニズムの解明、又はこの有利な効果を担うコーヒー飲料中の特異的成分の同定は、疑いもなく、糖尿病予防又は治療の新規な組成物又は方法をもたらすであろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Bidel他著、2006年, Diabetologia, 49巻、p2618−26
【非特許文献2】Greenberg他著、2006年、Am J Clin Nutr 84巻、p682−93
【非特許文献3】Hiltunen著、2006年、 Eur J Clin Nutrl
【非特許文献4】Paynter他著、2006年、Am J Epidemiol.
【非特許文献5】Pereira他著、2006年、Arch Intern Med. 166巻、p1311−6
【非特許文献6】van Dam及びFreskens著、2002年、Lancet 360巻、p1477−8
【非特許文献7】van Dam及びHu著、2005年、JAMA 294巻、p97−104
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、意外にも血糖値低下の主要なメカニズムの一つである脂肪細胞によるグルコース取り込みに影響を及ぼすインスリン様効果又はインスリン増加効果を有することがここに発見された、活性化学成分N−メチルピリジニウム(N−MP)及びその誘導体の同定を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
I型及びII型糖尿病の特徴の一つは、膵臓から十分なインスリン分泌がなされずに、血糖値が増加することである。インスリン処置では、インスリン受容体を活性化させてシグナル経路を活性化し、脂肪細胞又は筋肉細胞へのグルコース取り込みを増加させる。それゆえ、グルコース取り込みは、インスリン感受性を測定する際の非常に関連性のあるエンドポイントアッセイである。
【0007】
具体的には本発明の発明者らは、培養された脂肪細胞を深炒りコーヒー(N−MPが自然に高濃度である)、N−MPを添加したコーヒー、又は純粋化合物としてのN−MPのいずれかで処置すると、対照細胞に比較して、脂肪細胞への2−デオキシグルコース取り込みが増加することを見いだした。したがって、一実施形態において、本発明は、糖尿病を予防又は治療する方法を提供する。
【0008】
具体的には本発明の発明者らは、培養された脂肪細胞を深炒りコーヒー(N−MPが自然に高濃度である)、N−MPを添加したコーヒー、又は純粋化合物としてのN−MPのいずれかで処置すると、対照細胞に比較して、脂肪細胞への2−デオキシグルコース取り込みが増加することを見いだした。したがって、一実施形態において、本発明は、糖尿病を予防又は治療する方法、例えば、効果的な量の単離されたN−メチルピリジニウム又は薬学的に許容しうるその誘導体と、薬学的に許容しうる賦形剤と、を含む医薬組成物を、必要とする対象に投与することを含む、その対象の脂肪細胞又は筋肉細胞へのグルコース取り込みを改善する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】N−MPが、様々な検査濃度での、1及び5分間の処置時間で、マウス脂肪細胞による2−DG取り込みを、インスリンと同程度に増加させることを示す(統計学的有意差なし)。
【図2】インスリンを併用されたN−MPが、1及び10分間の処置時間で、マウス脂肪細胞による2−DG取り込みを、インスリン単独よりも統計学的に高度に増加させることを示す。
【図3】マウス脂肪細胞をコーヒーで処置すると、1分間の処置時間の後、2−DG取り込みが、インスリン(統計学的有意差なし)と同様である非処置対照細胞に比較して増加したことを示す。
【図4】マウス脂肪細胞をコーヒーとインスリンの併用で処置すると、インスリン単独での1分間の細胞処置に比較して、付加効果を有さなかったことを示す。
【図5】コーヒーにN−MPを強化すると、1、5及び120分間の処置時間後に、マウス脂肪細胞への2−DG取り込みが、コーヒー単独で示された効果に比較して増加したことを示す。最も注目すべきこととして、コーヒーにN−MP及びインスリンを強化すると、120分間の処置時間後に、コーヒー又はインスリンを単独で暴露された細胞に比較して、最も顕著な2−DG取り込み増加が示された。
【図6】マウス脂肪細胞への2−デオキシグルコース取り込みに対するトリゴネリンの影響を示す。
【図7】マウス脂肪細胞(3T3−L1)への2−DG取り込み[%]に対するN−メチルピリジニウムの影響を示す。上のパネルはN−メチルピリジニウム単独での結果を示し、下のパネルはN−メチルピリジニウムをインスリンと併用した結果を示す。
【図7a】マウス脂肪細胞(3T3−L1)への2−DG取り込み[%]に対するN−メチルピリジニウムの影響を示す。上のパネルはN−メチルピリジニウム単独での結果を示し、下のパネルはN−メチルピリジニウムをインスリンと併用した結果を示す。
【図8】マウス脂肪細胞(3T3−L1)への2−DG取り込みに対するヨウ化N−2−メチルピコリニウムの影響を示す。
【図9】マウス脂肪細胞(3T3−L1)への2−DG取り込みに対するヨウ化N−3−メチルピコリニウムの影響を示すグラフである。
【図10】インスリンを併用しなかった場合の、マウス脂肪細胞(3T3−L1)への2−DG取り込みに対するヨウ化N−4−メチルピコリニウムの影響を記載する。
【図11】インスリンを併用した場合の、マウス脂肪細胞(3T3−L1)への2−DG取り込みに対するヨウ化N−4−メチルピコリニウムの影響を記載する。
【図12】マウス脂肪細胞(3T3−L1)への2−DG取り込みに対するトリゴネリン及びN−MP誘導体(10%)の影響を記載する。
【図13】マウス脂肪細胞(3T3−L1)への2−DG取り込みに対するトリゴネリン及びN−MP誘導体(20%)の影響を記載する。
【図14】マウス脂肪細胞(3T3−L1)への2−DG取り込みに対するトリゴネリン及びN−MP誘導体(40%)の影響を記載する。
【図15】マウス脂肪細胞への2−DG取り込み[%]に対するヨウ化N−エチルピリジニウム(NEP)の影響を記載する。左パネル:インスリンとの併用処置なし。右パネル:インスリンと併用処置。
【図15a】マウス脂肪細胞への2−DG取り込み[%]に対するヨウ化N−エチルピリジニウム(NEP)の影響を記載する。左パネル:インスリンとの併用処置なし。右パネル:インスリンと併用処置。
【図15b】マウス脂肪細胞への2−DG取り込み[%]に対するヨウ化N−エチルピリジニウム(NEP)の影響を記載する。左パネル:インスリンとの併用処置なし。右パネル:インスリンと併用処置。
【図15c】マウス脂肪細胞への2−DG取り込み[%]に対するヨウ化N−エチルピリジニウム(NEP)の影響を記載する。左パネル:インスリンとの併用処置なし。右パネル:インスリンと併用処置。
【図16】3T3−L1への2−DG取り込み[%]に対するヨウ化N−セチルピリジニウムの影響を示す。左パネル:インスリンとの併用処置なし。右パネル:インスリンと併用処置。
【図16a】3T3−L1への2−DG取り込み[%]に対するヨウ化N−セチルピリジニウムの影響を示す。左パネル:インスリンとの併用処置なし。右パネル:インスリンと併用処置。
【図16b】3T3−L1への2−DG取り込み[%]に対するヨウ化N−セチルピリジニウムの影響を示す。左パネル:インスリンとの併用処置なし。右パネル:インスリンと併用処置。
【図16c】3T3−L1への2−DG取り込み[%]に対するヨウ化N−セチルピリジニウムの影響を示す。左パネル:インスリンとの併用処置なし。右パネル:インスリンと併用処置。
【図17】マウス脂肪細胞(3T3−L1)への2−DG取り込みに対するN−MP及びN−MP誘導体の影響を示す。
【図18】マウス脂肪細胞(3T3−L1)への2−DG取り込みに対するトリゴネリン及びN−MP誘導体(10%)の影響を示す。
【図19】マウス脂肪細胞(3T3−L1)への2−DG取り込みに対するトリゴネリン及びN−MP誘導体(20%)の影響を示す。
【図20】マウス脂肪細胞(3T3−L1)への2−DG取り込みに対するトリゴネリン及びN−MP誘導体(40%)の影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で用いられる用語「誘導体」は、同様の生理学的/薬学的効果を有する食物、飲料又は健康もしくはウェルネスを目的とするヒト又は動物の消費に適したN−MPに基づく化合物全てを包含する。そのため、N−MPを核構造として有し、そして同様の生理学的/薬学的効果を有する活性医薬成分(API)の全てが、本発明に含まれる。
【0011】
つまり、本明細書で言及される用語「誘導体」は、詳細には、以下のもの:
【0012】
【化1】

により定義された化合物に関する。
置換基R、R、R、R、R及びRは、Rが少なくともメチル(又はより長い鎖を有する置換基)であることを前提とする、最も広範囲の可能な方法で定義してもよい。
【0013】
例えばそれらは、水素、置換又は非置換の脂肪族又は芳香族炭化水素、例えば、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシアルキル、アルコキシ、フェニル、ベンジル基及びそれらの誘導体から;ハロゲン(Cl、Br、F、I)、NO、CN、NO、OH、SH、NH、カルボキシル、又はアルデヒドなどから選択してもよい。誘導体がN−MP核構造を含まなければならないとの情報、及び一般的な化学的判断、例えば立体障害などに基づけば、API設計の分野の平均的技能を備えた者は、本明細書に開示されたものなどのインビトロ実験に基づいて、いずれかの誘導体が本発明の範囲内に含まれるか否かを決定すること、つまり、それがN−MP核構造を有するか、そして例えば脂肪細胞への2−デオキシグルコース取り込みに基づいて、II型又はI型糖尿病を予防又は治療する能力を有するか、を決定することができよう。本発明によれば、そのような能力は、脂肪細胞への2−デオキシグルコース取り込みの任意の増加と定義される。
【0014】
好ましい実施形態において、式1の置換基は、以下のとおり定義される:
は、C〜C22の分枝状又は直鎖状のアルキル又はヒドロキシアルキル鎖から選択される。更に、R、R、R、R及びRは、独立して、水素、C〜C22の分枝状もしくは直鎖状のアルキルもしくはヒドロキシアルキル鎖、又はカルボキシル(−COOH)基から選択される。薬学的に許容しうるその塩も、包含される。
【0015】
がC(=メチル)であり、そしてR、R、R、R及びRのそれぞれがHである場合に、最良の結果及び効果が実現されることに留意されたい(式8=N−MPを参照されたい)。しかしながら、Rでのより長いアルキル置換基も、培養された脂肪細胞への高度の2−デオキシグルコース取り込み、つまりII型又はI型糖尿病の予防/治療における改善された効果を示した。Rに関する長いアルキル置換基の好ましい例は、メチル、エチル及びセチルである。例えば、ヨウ化N−セチルピリジニウムは、単独使用又はインスリンとの併用で、2−デオキシグルコース取り込みへの優れた効果を示した(図16参照)。
【0016】
更に、ヨウ化N−エチルピリジニウムでは良好な結果を実現することができ、C〜C22の枠組み内の他のアルキル置換基も、本発明で予測される医療使用でN−メチルピリジニウムの適切な誘導体となることも、更に予期される。
【0017】
上述のとおり、置換基R、R、R、R及びRは、水素、C〜C22の分枝状もしくは非分枝状のアルキルもしくはヒドロキシアルキル鎖、又はその代わりにカルボキシル基から選択することができる。同じく本明細書では、R、R、R、R及びRがC(=メチル)であることが、好ましい。しかしながら、上述のコメントを考慮すれば、より長いアルキル鎖、例えばC、C又はCも、本発明の範囲に含まれる。
【0018】
好ましくはR、R、R、R及びRの置換基の全てが水素であり、又は同じく好ましくは、それらの4つが水素であり、残りの1つがC〜C22の分枝状又は非分枝状のアルキル又はヒドロキシアルキル鎖から選択される。より好ましい実施形態において、この残りの置換基はC(=メチル)である。
【0019】
本発明の最も好ましい化合物では、2種の異なる誘導体群が存在する。第1の群は、芳香族環の2位、3位又は4位に置換基を有するN−MPの誘導体に基づいている。第2の群は、Cよりも長いR位の置換基に基づいている。
【0020】
第1の群の例:
− R及びRがメチルであり、そしてR、R、R及びRが水素である、式1で示された化合物(式2;N−4−メチルピコリニウムを参照)。
【0021】
【化2】

図10〜14から参照されるとおり、ヨウ化物塩の形態のN−4−メチルピコリニウムは、単独使用又はインスリンとの併用のいずれでも、2−デオキシグルコース(2−DG)取り込みの実質的増加を示す(図10又は11参照)。用いられた濃度とは独立して、2−DG取り込みは、100%よりもかなり高く、場合により、200%の値を超える(図11参照)。最も高い2−DG取り込みの結果がインキュベーション時間の最初の10分間で実現されており、それが、例えばヒト体細胞によるインビボ2−DG取り込みでも、最も重要なパラメータを反映するということに留意されたい。
【0022】
−更に、非常に活性のある誘導体がヨウ化N−3−メチルピコリニウムであり(式3参照)、得られた結果は、ヨウ化N−4−メチルピコリニウムほど優れてはいないが、それでも通常の2−DG取り込みを上回る実質的な改善を示している。
【0023】
【化3】

− 同じく好ましいのは、式4で示されるN−2−メチルピコリニウムである:
【0024】
【化4】

− 更に、それほど好ましくはない式1の実施形態として、式5(式中、RはCH、Hであり、Rはカルボキシルであり、そしてR、R、R及びRはHである)で示されるトリゴネリンがある。
【0025】
【化5】

一般に、式1の4位の置換基が、3位又は2位の置換基よりも良好なインビトロ及びインビボ活性を提供すると仮定される。
第2の群の例:
上述のとおり、Rは、C〜C22アルキル又はヒドロキシアルキルから選択される。
【0026】
− 好ましい実施形態は、式6で示される化合物、即ちR=C16、そしてR、R、R、R及びRがそれぞれ水素である式1で示される化合物である。
【0027】
【化6】

図16は、ヨウ化N−セチルピリジニウムを単独で用いた結果(左パネル)、及びインスリンと併用処置の結果(右パネル)を示す。両方の適用例で、最初の10分間という決定的時間枠組み内のインキュベーション後に、優れた結果を実現することができた。ヨウ化N−セチルピリジニウムのこの優れた効果が、用いられた濃度とはほぼ独立して実現しうることに留意されたい。
【0028】
− 更なる実施形態は、式7で示される化合物、即ちR=C、そしてR、R、R、R及びRのそれぞれが水素である式1で示される化合物である。
【0029】
【化7】

一実施形態において、該医薬組成物は対象に経口投与される。好ましい実施形態において、対象はヒトである。
別の実施形態において、本発明は、効果的な量の単離されたN−メチルピリジニウム又は薬学的に許容しうるその誘導体と、薬学的に許容しうる賦形剤と、を含む医薬組成物を、必要とする対象に投与することを含む、その対象のII型又はI型糖尿病を治療又は予防する方法を提供する。対象の必要性に応じて、インスリンも対象に投与される。好ましくは本発明の医薬組成物は、対象に経口投与される。
【0030】
本発明は、更に別の実施形態において、単離されたN−メチルピリジニウム又は薬学的に許容しうるその誘導体と、薬学的に許容しうる賦形剤と、を含む医薬組成物を提供する。
【0031】
本発明は、更に、単離されたN−メチルピリジニウム又はその誘導体を含む飲料などの食品を提供する。好ましくは該食品は、一定量のN−メチルピリジニウム、又はII型もしくはI型糖尿病の予防に効果的な一定量のその誘導体を含む。本発明の飲料は、例えば、コーヒー、茶、もしくはそれらから調製された飲料、炭酸系もしくはそれ以外のソフトドリンク、蒸留水もしくはスパークリング飲用水、スポーツ飲料もしくはエネルギー飲料、又はアルコール含有飲料、例えばカクテル、ビール、又はワインもしくはハードリカーであってもよい。
【0032】
本発明の最も好ましい実施形態、即ちN−メチルピリジニウム(N−MP)、又は1−メチルピリジニウムそのものは、以下の構造を有する:
【0033】
【化8】

N−MPは、天然由来であること、又は天然に、例えば焙煎コーヒー中に様々な量で存在することが公知である。N−MPは、トリゴネリンもしくは高濃度のトリゴネリンを含む供給源を熱処理することにより調製すること、又は当業者に周知の方法により合成することができ、本明細書に全体が参考として援用されているRichard H.Stadler、Natalia Varga、Joerg Hau、Francia Arce Vera、及びDieter H.Welti著、J.Agric.Food Chem.、2002年、50巻5号、p1192〜1199の「Alkylpyridiniums. 1.Formation in Model Systems via Thermal Degradation of Trigonelline」を参照されたい。
【0034】
本発明は、とりわけ、単離されたN−MP、又は薬学的に許容しうるその誘導体を含む組成物に関する。本明細書で用いられる用語「単離された」は、通常は天然に見出される他の材料を実質的に含まない、特に、他の天然由来の細胞材料を実質的に含まないN−MP又はその誘導体を指す。例えば、「単離されたN−MP」は、カフェイン及び/又は他の焙煎コーヒー中に見出される成分を含まない。
【0035】
そのような単離されたN−MP又はその誘導体を、化学的合成もしくは濃縮、又は他の方法で天然の供給源から単離してもよい。例えば先行技術のコーヒー豆、コーヒー飲料又は他のコーヒー製品は、様々な濃度のN−MP又はその誘導体を含んでいてもよく、それは、一部には、コーヒー豆を焙煎する方法又はその度合いによる。そのようなコーヒー豆、コーヒー飲料又はコーヒー製品は、特に、本願にて請求されている発明の範囲から除外される。その一方で、化学的に合成されるか、又は他の方法で(例えば、焙煎コーヒーなどの天然製品からの精製又は濃縮法により)得られるN−MP又はその誘導体を、コーヒー豆、コーヒー飲料又は他のコーヒー製品に添加すれば、これらのコーヒー豆、コーヒー飲料又は他のコーヒー製品は、I型又はII型糖尿病の予防又は治療に用いられるという製品の目的で「単離されたN−MP又はその誘導体」を含むとみなされ、本願にて請求されている発明の範囲に含まれることになる。他のタイプの飲料又は軽食をはじめとする他の食品も、本願にて請求されている発明の範囲に含まれる。
【0036】
本発明に関連して用いられる用語N−MPは、同様の生理学的/薬学的効果を有する食物、飲料又は健康もしくはウェルネスを目的とするヒト又は動物の消費に適したその誘導体など、N−MPの薬学的に許容しうる誘導体を包含する。薬学的に許容しうるN−MP誘導体としては、N−MPの塩、例えば水酸化物、塩化物、ヨウ化物、臭化物、ギ酸塩、酢酸塩、並びに上記概説で得られるそれらの誘導体及び塩が挙げられる。更に、本発明による医薬組成物が、上述のN−メチルピリジニウム又はその誘導体に加えて、1種以上の薬学的に許容しうる賦形剤を含んでいてもよいことに留意しなければならない。
【0037】
本発明の医薬組成物は、NMP又はその誘導体に加えて、II型又はI型糖尿病の治療又は予防での使用で、該組成物の全体的活性を上昇させること、又はその副作用を低下させることができる、1種以上の更なる活性成分を含んでいてもよい。
【0038】
好ましい更なる成分は、インスリンである。同封の実施例及び図面から参照されるとおり、本発明の成分は、インスリンと容易に混和することができ、それにより更に改善された結果及び/又は相乗的結果を実現することができる。例えば、ヨウ化N−メチルピリジニウムの単独使用の影響又はインスリンとの併用の影響を比較した図15を参照されたい。図15の右パネルによれば、組成物の全体的活性がこの方法により改善されうることを認識することができる。
【0039】
更に、コーヒー又はコーヒー抽出物に通常含まれるが式1に基づかない他の活性成分を含むという選択もあり、上述を参照されたい。とりわけ、カテコール、クロロゲン酸及びベヘノイル−5−ヒドロキシトリプタミドの群から選択される物質を、一組成物中で上述の成分と一緒に用いられる成分として挙げることができる。
【0040】
本発明の医薬調製剤は、それ自体が公知である手法、例えば、全てが水溶性又は懸濁性である該化合物を従来どおり溶解又は懸濁することにより、製造される。経口で使用可能な医薬調製剤としては、ゼラチンで製造されたプッシュフィットカプセル(push−fit capsules)、並びにゼラチンとグリセロール又はソルビトールなど可塑化剤とで製造された軟質の密封カプセル(soft sealed capsules)が挙げられる。プッシュフィットカプセルは、液状形態の活性成分を含むことができ、それがラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、及び/又はタルクもしくはステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤、並びに場合により安定化剤と混合されていてもよい。軟質のカプセルでは、活性化合物は、好ましくは緩衝された塩溶液などの適切な液体に溶解又は懸濁されている。加えて、安定化剤が添加されていてもよい。
【0041】
該医薬調製剤は、例えばゼラチンカプセル又は他の適切な賦形剤中に液状形態で提供されることに加えて、適切な賦形剤を含むことで、活性化合物を医薬で用いられうる調製剤へ加工するのを促してもよい。つまり、所望なら又は必要に応じて適切な補助剤を添加した後に、活性化合物の溶液を固体基板に付着させ、場合により、得られた混合物を粉砕して顆粒の混合物を加工し、錠剤又は糖剤コア(dragee core)を得ることにより、経口使用される医薬調製剤を得ることができる。
【0042】
適切な賦形剤は、詳細には、糖などの充填剤、例えばラクトース又はスクロース、マンニトール又はソルビトール、セルロース調製剤及び/又はリン酸カルシウム、例えばリン酸三カルシウムもしくはリン酸水素カルシウム、並びにデンプンなどの結合剤、例えばトウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、芋でんぷん、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及び/又はポリビニルピロリドンを用いたペーストである。所望なら、崩壊剤、例えば、上述のデンプン及びカルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、又はアルギン酸もしくはその塩、例えばアルギン酸ナトリウムを添加してもよい。補助剤は、中でも、流動調整剤及び滑沢剤、例えばシリカ、タルク、ステアリン酸もしくはその塩、例えばステアリン酸マグネシウム又はステアリン酸カルシウム、及び/又はポリエチレングリコール、である。糖剤コアは、所望なら胃液に耐性のある適切なコーティングを施して提供される。この目的では、濃縮された糖溶液を用いてもよく、それが場合によりアラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール及び/又は二酸化チタン、ラッカー溶液並びに適切な有機溶媒又は溶媒混合物を含んでいてもよい。胃液に耐性のあるコーティングを製造するために、適切なセルロール調製剤、例えばフタル酸アセチルセルロース又はフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースの溶液が用いられる。例えば同定のため、又は活性化合物用量の組合せを特徴づけるために、染料又は顔料を錠剤又は糖衣錠に添加してもよい。
【0043】
非経口投与用の適切な配合剤としては、活性化合物の水溶液が挙げられる。加えて、活性化合物の懸濁液を油状注射用懸濁液として投与してもよい。水性注射懸濁液は、懸濁液の粘度を増加させる物質を含んでいてもよく、そして例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、及び/又はデキストランを含んでいてもよい。場合により、該懸濁液は、安定化剤を含んでいてもよい。非経口投与は、通常、皮下(s.c.)、静脈内(i.v.)、筋肉内(i.m.)、又は腹腔内(i.p.)投与により実施してもよい。
【0044】
本発明の活性成分の1種以上がインスリンと併用される場合、それらが一つの物体として投与されず、併用される薬物として用いられることが考えられる。例えば、本発明の活性成分が、例えば錠剤又はカプセルにより、経口投与で提供され、インスリンが他の方法で、即ち非経口法又は吸入により提供される。それゆえ本発明は、II型又はI型糖尿病の患者に、2種以上の成分を異なる方法で併用使用することも包含する。
【0045】
本発明の活性成分は、適切な医薬組成物中で投与して、1日あたり0.003〜30.0mg/kg患者体重、好ましくは1日あたり0.05〜5.0mg/kg体重の範囲内の投与量で使用されなければならない。最も好ましい投与量は、1日あたり約0.5〜3mg/kg体重であろう。例えば、平均的なヒト患者の日用量は、1日あたり約35〜350mgの量であろう。場合により本発明の成分と一緒に投与されるインスリン又は他の活性成分は、担当の医師により作成される通常の治療計画に従って使用されることになる。
【実施例】
【0046】
製造手順
臭化N−セチルピリジニウム及びトリゴネリン塩酸塩、並びに合成用の全ての化学物質を、ドイツ、シュタインハイム所在のシグマ・アルドリッチ(Sigma−Aldrich)社から得た。全ての化学物質が、入手できる最高純度のものであった。
【0047】
N−メチルピリジニウム、N−メチル−2−ピコリニウム及びN−メチル−4−ピコリニウムのヨウ化物塩を、Stadler他(J.Agric.Food Chem.,2002,50(5),pp1192−1199)により記載されたプロトコルを一部改良しながら利用して合成した。簡潔に述べると、過剰のヨウ化メチル(1.2mmol)を、乾燥アセトニトリル(5mL)中の、それぞれピリジン(1mmol)、2−ピコリン(1mmol)、又は4−ピコリン(mmol)の溶液に撹拌しながら滴下した。得られた溶液を加熱し(30分間還流)、その後、室温に放置して冷却し、最後に塩を結晶化させるために氷上に置いた。生成物をアセトニトリルから再結晶化させて、保存のために真空下で保持した。
【0048】
上述のとおり、ヨウ化メチル(1.2mmol)を乾燥アセトニトリル(5mL)中で3−ピコリンと共に加熱することにより、ヨウ化N−メチル−3−ピコリニウムを調製し、続いてまだ温かいその溶液をtert−ブチルメチルエーテル(40mL)で処理して、目的化合物を橙色固体として得た。固体をろ過し、tert−ブチルメチルエーテルで数回に分けて洗浄し、乾燥アセトニトリルで結晶化させて保存のために真空下に保持した。
【0049】
文献(Ciusa及びNebbia、Ciusa, W.;Nebbia,G.著、The preparation of salts of N−methylnicotinic acid. Gaz.Chim.Ital.1950年、80巻、p98−99)に報告されたとおり、ニコチン酸(1mmol)をエタノール(20mL)中でヨウ化メチル(1.2mmol)と共に還流することにより、トリゴネリン塩酸塩を調製した。その溶液を蒸発させた後、残渣をエタノール/水(95/5、v/v)で2回結晶化させた。
【0050】
ヨウ化メチル(2mmol)をtert−ブチルメチルエーテル(1mL)中のピリジン(1mmol)の溶液に添加することにより、ヨウ化N−エチルピリジニウムを調製した。溶液をボルテックス処理して、室温で2日間インキュベートした。最後に、得られた懸濁液を−20℃に(5時間)保持した後、遠心分離して上清を除去した。残渣をtert−ブチルメチルエーテルで洗浄して凍結乾燥させ(0.77ミリバール(77Pa)、25℃、48時間)、保存のために真空下で保持した。
【0051】
分析手順
マウス脂肪細胞(細胞系3T3−L1)及びマウス筋管(細胞系C2C12)を、標準条件下で培養して、慣用される細胞培養培地又はインスリンのいずれか一方で4時間処置した。その後、細胞を2−デオキシグルコース(2−DG)と、各試料、つまりN−MP、コーヒー飲料(コーヒー飲料のNMP含量:26.7mg/L)又は両方の混合物のいずれかと、の混合物に2時間暴露した。その後、細胞を回収して、レソルフィンアッセイ(Yamamoto,N.;Sato,T.;Kawasaki,K.;Murosaki,S.;Yamamoto,Y.著、A nonradioisotope,enzymatic assay for 2−deoxyglucose uptake in L6 skeletal muscle cells cultured in a 96−well microplate.Analytical Biochemistry 2006年、351巻、p139−145)を利用して、測光法により2−DG取り込みを分析した。
【0052】
実験プロトコルを以下に概説する:
【0053】
【表1】

結果から、N−メチルピリジニウム及びその誘導体が、インスリンと同様に、マウス脂肪細胞への2−デオキシグルコース取り込みを増加させ(図1)、インスリンの効果を有意に上昇させ(図2)、そしてコーヒー飲料と併用すると、インスリンの有効性を大きく上昇させることが示された(図5)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離されたN−メチルピリジニウム又は薬学的に許容しうるその誘導体と、薬学的に許容しうる賦形剤と、を含む医薬組成物。
【請求項2】
前記誘導体が、
【化1】

(式中、Rは、C〜C22の分枝状又は直鎖状のアルキル又はヒドロキシアルキル鎖から選択され;かつ
、R、R、R及びRは、独立して、水素、C〜C22の分枝状もしくは直鎖状のアルキルもしくはヒドロキシアルキル鎖、又はカルボキシル(−COOH)基から選択される)、又は薬学的に許容しうるその塩により定義される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
更なる活性成分、詳細にはインスリンを含む、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
II型又はI型糖尿病の予防又は治療に使用される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に定義された、単離されたN−メチルピリジニウム又は薬学的に許容しうるその誘導体もしくは塩を含む食品。
【請求項6】
一定量の、N−メチルピリジニウム又はII型もしくはI型糖尿病の予防に効果的な薬学的に許容しうるその誘導体もしくは塩を含む、請求項5に記載の食品。
【請求項7】
単離されたN−メチルピリジニウム又は薬学的に許容しうるその誘導体もしくは塩を含む、ヒトの消費に適した飲料。
【請求項8】
一定量の、N−メチルピリジニウム又はII型もしくはI型糖尿病の予防に効果的な薬学的に許容しうるその誘導体もしくは塩を含む、請求項7に記載の飲料。
【請求項9】
コーヒー、茶、炭酸系ソフトドリング、蒸留水、スパークリンウォータ、スポーツ飲料、及びアルコール含有飲料からなる群から選択される、請求項8に記載の飲料。
【請求項10】
効果的な量の単離されたN−メチルピリジニウム又は請求項1〜3のいずれか一項にて定義された薬学的に許容しうるその誘導体と、薬学的に許容しうる賦形剤と、を含む医薬組成物を、必要とする対象に投与することを含む、前記対象の脂肪細胞又は筋肉細胞へのグルコース取り込みを改善する方法。
【請求項11】
前記医薬組成物が対象に経口投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記対象がヒトである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
効果的な量の単離されたN−メチルピリジニウム又は請求項1〜3のいずれか一項にて定義された薬学的に許容しうるその誘導体と、薬学的に許容しうる賦形剤と、を含む医薬組成物を、必要とする対象に投与することを含む、前記対象のII型又はI型糖尿病の治療又は予防の方法。
【請求項14】
II型糖尿病が予防される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
II型糖尿病が治療される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
インスリンも前記対象に投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記医薬組成物が前記対象に経口投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記対象がヒトである、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図7a】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図15a】
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【図15b】
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【図15c】
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【図16】
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【図16a】
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【図16b】
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【図16c】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公表番号】特表2012−508781(P2012−508781A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543767(P2011−543767)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065302
【国際公開番号】WO2010/055170
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(506426030)
【氏名又は名称原語表記】TECHNISCHE UNIVERSITAET MUENCHEN
【Fターム(参考)】