説明

糖脂肪酸エステルの製造方法

【課題】糖脂肪酸エステルを製造するに当って、ピリジン等の臭いを発生する有機溶媒を用いずに、糖の分解や着色が少なく、また高置換度の糖脂肪酸エステルを製造する方法を提供することが本発明の課題である。
【解決手段】無機または有機のアニオンとイミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオンなどの有機のカチオンとの組合せからなるイオン液体中で、デンプン、デキストリン、セルロース、グリコーゲン、プルラン、イヌリン、ヒアルロン酸、β−グルカンなどの糖と脂肪酸ビニルエステルとを反応させ、糖脂肪酸エステルを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は糖脂肪酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
でんぷん脂肪酸エステルやデキストリン脂肪酸エステルなどは、主に化粧品用の油ゲル化剤として利用されており、その製法として従来種々の方法が用いられており、その代表的なものとして以下のようなものが挙げられる。
1.でんぷん類をピリジンなどの塩基性有機化合物の存在下、脂肪酸クロライド又は脂肪酸無水物と反応させる方法(例えば特許文献1及び非特許文献1等参照)。
2.ショ糖脂肪酸エステルの製法には、直接エステル化法、エステル交換法(溶媒法、ミクロエマルジョン法、無溶媒法)、酵素法がある(例えば非特許文献2等参照)。
1)直接エステル化法はショ糖と脂肪酸を高温で、あるいは触媒として酸性化合物を用いて反応させる方法である。温和な条件で反応させる方法として、脂肪酸クロライドあるいは脂肪酸無水物を用いる方法があり、その際有機溶媒を用いることもある。上記1のでんぷん脂肪酸エステルの製法もこの直接エステル化法に当る。
2)エステル交換法には、ジメチルホルムアミド(以下、DMF)、アセチルモルホリン、N−ジメチルベンジルアミン等を溶媒として用いる溶媒法、乳化剤の存在下、プロピレングリコールや水などの溶媒によってエマルジョンを形成させ反応を行うミクロエマルジョン法、乳化剤と反応原料を加熱溶解して反応を行う無溶媒法がある。
(1)溶媒法はショ糖と脂肪酸メチルを、炭酸カリウムを触媒として、DMF溶液中で減圧下反応させる。次いで、未反応のショ糖を、トルエンを加えて回収分離する。その後、有害なDMFを除く。トルエン及びDMFは回収されリサイクル使用される。
(2)ミクロエマルジョン法は、ショ糖をプロピレングリコールやグリセリン、水などの溶剤に溶解した溶液と脂肪酸メチルの混合物に、乳化剤として石鹸を10%以上加えて加熱攪拌して、透明状態のミクロエマルジョンを得る。これに少量の触媒を加え減圧下でプロピレングリコールなどを留去すると、ミクロエマルジョン状態を保ちながら、エステル交換反応が進みショ糖脂肪酸エステルが生成してくる。
(3)無溶媒法は、ショ糖と油脂(トリグリセリド)を溶媒を使用しないで直接反応させる方法と、ショ糖と脂肪酸メチルを混合して180〜200℃の高温で反応させる方法がある。
3)酵素法は微生物やその生産物、たとえば酵素を用いてショ糖エステルを合成するもので、他の有機化合物と同様に、化学的合成法にはない種々の利点が考えられ、研究が進められている。
【0003】
3.澱粉にエステル化試薬としての脂肪酸ビニルエステルを非水有機溶媒中でエステル化触媒を用いて反応させ澱粉エステルを製造するエステル交換法も開示されている(特許文献2参照)。この方法ではジメチルスルホキシドやジメチルホルムアミド等の有機溶媒を使用したり、脂肪酸ビニルエステルそのものを溶媒として利用するものである。
4.ショ糖と脂肪酸ビニルエステルを塩基性触媒の存在下、ジメチルスルホキシド中で反応させるエステル交換法(非特許文献3参照)は、ショ糖に対し0.25倍モル量のラウリン酸ビニルの添加(p.543、図1)で約8時間後にモノエステルが100%合成できると記載されている。また、ショ糖に対し4倍モル量のラウリン酸ビニルの添加(p.543、図2のB)で、3日後にモノエステルが約65%、ジエステルが約20%得られる。モノエステルはショ糖一分子(グルコースとフルクトースからなる二糖類)当たり一つ、つまり単糖単位当たりの置換度0.5、の脂肪酸がエステル結合したモノエステルを得る方法として記載。高置換度1以上を得るのは難しいことが記載。またエステル置換位置は1H−NMRよりメインは2位、次いで3位であり(p.544、第二カラム、21行目及びp.545、図5)、結合位置選択性が高い。
5.でんぷんは酢酸誘導体を中心にエステル化がなされており、紙や繊維の強度を高めるために利用されてきた(非特許文献4参照)。低置換度の酢酸でんぷんエステルは炭酸ナトリウム水溶液を触媒として用い、酢酸ビニルを反応させて単糖単位6〜8個に一つのアセチル基が導入できる。また、高置換度酢酸でんぷんエステルは無水酢酸―ピリジン系で合成できる。
【特許文献1】特公昭55−47070号公報
【特許文献2】特開平8−188601号公報
【非特許文献1】STARCH CHEMISTRY AND TECHNOLOGY I, ACADEMIC PRESS, p.445-449,p.458-460
【非特許文献2】シュガーエステル物語(第一工業製薬株式会社)、p.32−49
【非特許文献3】M. A. Cruces他, Improved Synthesis of Sucrose Fatty Acid Monoesters,J. Am. Oil Chem. Soc., 78(5), 541-6(2001)
【非特許文献4】澱粉科学実験法(朝倉書店)p.250−252
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
直接エステル化法は糖と脂肪酸を高温で反応させる方法であるが、コストが高く、現在、直接エステル化法を用いた製造は行われておらず、糖が加熱や酸性化合物に対して極めて不安定であるため用いることができない。
又温和な条件で反応させる、脂肪酸クロライドあるいは脂肪酸無水物を用いる方法では、一般には製法が複雑でコスト高であり、保存安定性が低いこと、希望する置換度のものを得ることが難しいこと、収率が低いこと、コストが高いこと、脂肪酸無水物は副生成物に等モル量の脂肪酸が生成すること、などの問題があった。
更にピリジンなどの塩基性有機溶媒を用いるものでは、該溶媒に特異な臭いがあり、製造時における作業者への影響、特に揮発に伴う臭いがあり問題となっていた。また、副生する塩化水素をピリジン塩酸塩などの形で除去させるため、繰り返しの利用が難しいことや、使用する脂肪酸クロライドの等モル量以上のピリジンが必要となることなど、多量の廃液の処理が必要となり、これら廃液の処理には環境への影響、例えば、焼却エネルギー、焼却残渣の埋立、大気への影響などが伴うことも問題となっていた。
【0005】
エステル交換法によるものでは、反応物の中に、反応原料の一部や熱などで生じた微量の着色物質などの副生成物が含まれ、安全衛生面や、色、臭いなどの点で、これらの副生成物を除去することが必要である。また、ショ糖などの二糖類に比べデキストリンやでんぷんは分子量が大きいことと溶媒への溶解性が低いことから、反応効率が低く、アルカリ触媒を使用する製法では高温反応や長時間反応を行うために糖が熱分解を受けて褐変して、合成物が着色してしまう問題があった。
ミクロエマルジョン法は、安全性は高いものの、多量の石鹸を除去する必要があった。
無溶媒法は、溶媒の損失や回収コストが全く要らないため安価であるが、ショ糖脂肪酸エステルのほかにモノ、及びジグリセリドを含む混合物となること、デキストリンやでんぷんなどの高分子は、デキストリンやでんぷんの分解や着色が起こる問題があった。
糖に脂肪酸ビニルエステルを非水溶媒中でエステル化触媒を用いて反応させる方法は置換度が低いと言う問題があった。
【0006】
以上のように従来の方法では分解や着色、臭い、廃液処理が少なく、且つでんぷんやデキストリンの高置換度体を得ることは難しく、またピリジン等のものではその発生する臭いの除去等の操作が必要となり、得られた糖脂肪酸エステルは糖の分解や着色のあるものであった。
したがって、糖脂肪酸エステルを製造するに当って、ピリジン等の臭いを発生する有機溶媒を用いずに、糖の分解や着色が少なく、また高置換度の糖脂肪酸エステルを製造する方法を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、このような事情に鑑み、ピリジン等の臭いを発生する有機溶媒を用いることなく、糖の着色や分解が少ない糖脂肪酸エステルの製法を鋭意検討した結果、糖と脂肪酸ビニルエステルを、アニオンと有機のカチオンとの組合せからなるイオン液体中で、反応させることにより上記の目的が達成できることを見出し本発明に到達したものである。
即ち本発明は(1)アニオンと有機のカチオンとの組合せからなるイオン液体中で、糖と脂肪酸ビニルエステルとを反応させることを特徴とする、糖脂肪酸エステルの製造方法、(2)イオン液体におけるアニオンが無機アニオンまたは有機アニオンである1記載の方法、(3)イオン液体における有機のカチオンがイミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオンから選ばれる一種以上であり、アニオンがCHSOイオン、塩素イオン、臭素イオン、BF4-イオン、PF6-イオン、CF3SO3-イオン、(CF3SO22-イオンから選ばれる一種以上である1記載の方法、(4)糖がデンプン、デキストリン、セルロース、グリコーゲン、プルラン、イヌリン、ヒアルロン酸、β−グルカン、キシラン、デキストランから選ばれるものである、1、2または3の方法、(5)脂肪酸ビニルエステルが、下記一般式(I)で表される1、2、3または4記載の方法、
(化2)
1−COO−CH=CHR2 (I)
(式中R1は炭素数1〜21の炭化水素基であり、R2は水素、または炭素数1〜6の炭化水素基である。)、(6)酸性もしくはアルカリ性触媒を用いる1、2、3、4または5記載の方法、(7)アルカリ性触媒が炭酸塩、炭酸水素塩、アルカリ金属水酸化化合物、アンモニアから選ばれる少なくとも一種である6記載の方法、(8)イオン液体が、有機のカチオンがイミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオンから選ばれる一種以上であり、アニオンが塩素イオン、臭素イオン、CHSOイオンから選ばれる一種以上であるイオン液体と、有機のカチオンがイミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオンから選ばれる一種以上であり、アニオンがBF4-イオン、PF6-イオン、CF3SO3-イオン、(CF3SO22-イオンから選ばれる一種以上であるイオン液体との混合物である、1、2、3、4、5、6または7記載の方法、及び(9)糖がデキストリンであり、脂肪酸ビニルエステルが、ラウリン酸ビニルエステル、ミリスチン酸ビニルエステル、パルミチン酸ビニルエステル、ステアリン酸ビニルエステルから選ばれる少なくとも一種であり、アルカリ性触媒が炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアから選ばれる少なくとも一種である、7または8記載の方法、に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、反応に悪影響を及ぼす副生物が生ぜず純度の高い生成物が得られ、高置換度の糖脂肪酸エステルを製造することが出来るものである。さらに蒸気圧がほとんどなく、環境中に蒸発せず、引火性も無く安全性の高いイオン液体を溶媒として用いるためピリジン等の有機溶媒を用いた場合のように臭いを発生することも無く、又、糖の分解や着色が少なく、精製が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は糖脂肪酸エステルの製造にイオン液体(イオン性液体)を使用する。該イオン液体は、アニオンと有機のカチオンとからなる有機塩であり、蒸気圧がほとんどないため、環境中に蒸発することがなく、引火性も無く安全性の高いものである。
イオン液体を構成する有機カチオンとしては、イミダゾール、ピリジン、アンモニア、ピロリン、ピラゾール、カルバゾール、インドール、ルチジン、ピロール、ピラゾール、ピペリジン、ピロリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネンなどの窒素原子にプロトンもしくはアルキル基が結合したものなどが挙げられる。
より具体的には1,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチル−イミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウム、1−デシル−3−メチルイミダゾリウム、1−テトラデシル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘキサデシル−3−メチルイミダゾリウム、1−オクタデシル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチルピリジン、1−ブチルピリジン、1−ヘキシルピリジン、1−ブチル−4−メチルピリジン、1−ブチル−3−メチルピリジン、1−ヘキシル−4−メチルピリジン、1−ヘキシル−3−メチルピリジン、4−メチル−オクチルピリジン、3−メチル−オクチルピリジン、3,4−ジメチル−ブチルピリジン、3,5−ジメチル−ブチルピリジン、トリメチルプロピルアンモニウム、メチルプロピルピペリジニウム等が挙げられる。
【0010】
イオン液体を構成するアニオンは無機アニオン、有機アニオンのいずれも用いられ、無機アニオンの例としてはCl、Br、I、NO、BF、PF、AlCl、有機アニオンの例としてはCHSOイオン、乳酸イオン、CHCOO、CHOSO、CFSO、(CFSO、(CSO、などが挙げられる。
これらカチオンとアニオンの組み合わせにより様々な塩を作成することができる。また、市販のものもそのまま、必要なら適切な精製を行い使用することができる。
【0011】
イオン液体を例示すれば、1,3−ジメチルイミダゾリウムメチルサルフェイト、1−エチル−3−メチル−イミダゾリウムブロマイド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメタンスルフォネイト、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロフォスフェイト、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−テトラデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルフォネイト、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−エチルピリジニウムブロマイド、1−ブチルピリジニウムブロマイド、1−ヘキシルピリジニウムヘキサフルオロフォスフェイト、1−ブチル−4−メチルピリジニウムテトラフルオロボレイト、3,5−ジメチルブチルピリジニウムクロライド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラクロロアルミネイト、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロフォスフェイト、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルフォネイト、1−ブチルピリジニウムニトレイト、ジメチルメチル−2−メトキシエチルアンモニウムテトラフルオロボレイト、ジメチルメチル−2−メトキシエチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルフォニルイミド、トリメチルプロピルアンモニウムビストリフルオロメタンスルフォニルイミド、メチルプロピルピペリジニウムビストリフルオロメタンスルフォニルイミド等が挙げられる。
【0012】
イオン液体の製造方法の具体例として、例えば有機アミンにハロゲン化アルキルを付加させてイオン液体を製造する方法や、この後、更に目的のアニオンを有する塩を用いてアニオン交換反応を行ない製造する方法もある。または、有機アミンに目的のアニオンを有する酸とを中和により混ぜ合わせる方法もある。また、これら以外の方法によって作成しても良い。
イオン液体は不揮発性であり、分解点は300℃以上、多くは400℃以上のものが多いため、200℃以下では安定性が高い。又室温下で固体であっても反応時に液状であれば本発明のイオン液体として用いることが出来る。
イオン液体は水混和性、非水混和性のものなど、アニオンとカチオンの組み合わせによりどちらにも設計可能である。Cl、Br、I、NO、BF、PF、CFSO、AlCl、CHSOイオン、乳酸イオン、CHCOO、CHOSOなどはカチオンの種類に係わらず水混和性のものが多く、特にCl、Brはカチオンの窒素原子に結合したアルキル鎖が長鎖であっても水混和性を示すものが多い。また、イオン液体の中には、酸性や塩基性を示すものもあり、触媒能を示すものもある。このため、複数のイオン液体を組み合わせて用いることも可能である。酸性や塩基性を示すイオン液体としては、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラクロロアルミネイト、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラクロロアルミネイトなどが挙げられる。この場合、これらは酸性またはアルカリ性触媒の機能をも果たすことができる。
【0013】
糖は単糖、オリゴ糖、多糖及びこれらの誘導体など、分子内に1つ以上の水酸基を持つものを用いることができる。単糖としては、グルコース、ガラクトース、フルクトース、アラビノース、イノシトール、ガラクツロン酸、ガラクトサミン、キシロース、グルクロン酸、ソルビトールなど、オリゴ糖としては、ショ糖、マルトース、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ラクトース、セロビオース、フラクトオリゴ糖、イヌリンなど、多糖としてはでんぷん、デキストリン、グリコーゲン、セルロース、プルラン、ヒアルロン酸、β−グルカン、キシラン、デキストラン、植物性多糖類やその分解物などが挙げられる。
【0014】
脂肪酸ビニルエステルは下記一般式(I)で表される。
(化3)
−COO−CH=CHR (I)
式中Rは炭素数1〜21の炭化水素基であり、Rは水素又は炭素数1〜6の炭化水素基である。式中Rの炭化水素基は置換されていてもよく、置換基としては塩素、臭素等のハロゲンが挙げられる。炭化水素基は飽和、不飽和の脂肪族炭化水素基のほかシクロヘキシル等の脂環式基、ベンゼン等の芳香族基のものも用いることが出来る。Rについても同様であり、炭化水素基は置換されていてもよく、置換基としては塩素、臭素等のハロゲンが挙げられる。炭化水素基は飽和、不飽和の脂肪族炭化水素基のほかシクロヘキシル等の脂環式基、ベンゼン等の芳香族基のものも用いることが出来る。
これら脂肪酸ビニルエステルの脂肪酸部分を例示すれば、酢酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、イソステアリン酸、シクロヘキシルカルボン酸、ピバリン酸、モノクロロ酢酸、アジピン酸、メタクリル酸、クロトン酸、ソルビン酸、安息香酸、桂皮酸などが挙げられる。
これらの脂肪酸ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、オクタン酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキシルカルボン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、アジピン酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル、酢酸イソプロペニル、パルミチン酸イソプロペニルなどが挙げられる。
【0015】
酸性の触媒としては、塩酸、酢酸、硝酸、リン酸、クエン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの無機や有機の酸を用いることができる。
アルカリ性の触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、アンモニアなどを用いることができる。
【0016】
糖と脂肪酸ビニルエステルとの反応は、以下のようにして行う。
糖、イオン液体、脂肪酸ビニルエステル、触媒は予め真空乾燥や加熱乾燥により低水分としておく。水分含量が高いと水分と脂肪酸ビニルエステルとの反応が生じ、収率が低下する。
糖をイオン液体に加え、室温下、又は加熱して溶解又は分散させる。次いで、イオン液体に触媒能が無いか低い場合、必要な酸性またはアルカリ性の触媒を添加する。触媒はイオン液体に溶解しても分散状態でも良い。これに脂肪酸ビニルエステルを添加又は少量ずつ滴下する。数時間から数日間、室温ないし100℃以下、例えば60℃前後に加熱して攪拌する。
反応終了後の系内には、イオン液体、触媒のほか、生成した糖脂肪酸エステル、未反応の脂肪酸ビニルや糖、脂肪酸、副生成物のアセトアルデヒドがある。
生成物の回収にはイオン液体や糖脂肪酸エステルの溶解性に応じた方法を取るが、通常の方法を用いることができる。例えば、反応液を糖脂肪酸エステルが溶解しない有機溶媒に添加して沈澱させる。有機溶媒に溶けやすいアセトアルデヒド、イオン液体、脂肪酸ビニルエステル、脂肪酸、触媒を取り除く。更に貧溶媒を用いて精製度を上げる。溶解しない触媒の除去には水洗浄やカラム分離などを用いて行うことができる。
【実施例1】
【0017】
重量平均分子量約9,000のデキストリン8gをブチルメチルイミダゾリウムクロライド100gに溶解した。パルミチン酸ビニル66g、炭酸ナトリウム35gを添加して60℃のオイルバス中で7日間反応した。メタノール、水で洗浄後、乾燥し淡黄色無臭のデキストリンパルミチン酸エステル(化合物1)約29gを得た。メタノール洗浄液からメタノールを留去、次いでろ過を行いブチルメチルイミダゾリウムクロライドを回収した。
赤外吸収スペクトルよりエステル結合(1744cm−1)、糖の水酸基に由来するピーク(1169cm−1、1034cm−1)、アルキル基(2922cm−1、2852cm−1)を確認した。酸価より純度は99%、エステル価の測定より置換度は1.9であった。純度は、酸価から算出した脂肪酸量を引いた残りを糖脂肪酸エステルとして算出した。置換度は、単糖単位当たりにエステル結合した脂肪酸の数を表し、エステル価から算出した。
得られた化合物1を3g、流動パラフィンを27g、を90℃に加熱して溶解させた後、室温放置したところゲル状物質を得た。
【実施例2】
【0018】
セルロース1gをブチルメチルイミダゾリウムクロライド100gに100℃で溶解した。パルミチン酸ビニル0.5g、炭酸ナトリウム0.2gを添加して60℃のオイルバス中で7日間反応した。メタノール、水で洗浄後、乾燥し、白色無臭のセルロースパルミチン酸エステル(化合物2)約0.8gを得た。
得られた化合物2を0.3g、流動パラフィンを2.7g、を90℃加熱して溶解させた後、室温放置したところゲル状物質を得た。酸価より純度は99%、エステル価の測定より置換度は0.2であった。
【実施例3】
【0019】
重量平均分子量約6,000のデキストリン2gをブチルメチルイミダゾリウムクロライド12g及び1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビストリフロオロメタンスルフォニルイミド10gに溶解した。パルミチン酸ビニル16g、炭酸ナトリウム8gを添加して60℃のオイルバス中で7日間反応した。メタノール、水で洗浄後、乾燥し、淡黄色無臭のデキストリンパルミチン酸エステル(化合物3)約8gを得た。
得られた化合物3を3g、流動パラフィンを27g、を90℃加熱して溶解させた後、室温放置したところゲル状物質を得た。酸価より純度は99%、エステル価の測定より置換度は2.1であった。
【実施例4】
【0020】
グリコーゲン1gをブチルメチルイミダゾリウムクロライド50gに100℃で溶解した。パルミチン酸ビニル0.5g、炭酸ナトリウム0.2gを添加して70℃のオイルバス中で7日間反応した。メタノール、水で洗浄後、乾燥し、白色無臭のグリコーゲンパルミチン酸エステル(化合物4)約0.8gを得た。
得られた化合物4を0.3g、流動パラフィンを2.7g、を90℃加熱して溶解させた後、室温放置したところゲル状物質を得た。酸価より純度は99%、エステル価の測定より置換度は0.2であった。
【実施例5】
【0021】
(比較例)
実施例1のブチルメチルイミダゾリウムクロライドをジメチルスルホキシドに変えて同様に反応させた比較例である。
重量平均分子量約9,000のデキストリン8gをジメチルスルホキシド100gに溶解した。パルミチン酸ビニル66g、炭酸ナトリウム35gを添加して60℃のオイルバス中で7日間反応した。メタノール、水で洗浄後、乾燥し、黄色で溶媒臭のするデキストリンパルミチン酸エステル(化合物5)約18gを得た。酸価より純度は98%、エステル価の測定より置換度は1.1であった。実施例1に比べて収量、置換度の点で著しく劣っていた。
【実施例6】
【0022】
重量平均分子量約40,000のデキストリン2gをエチルメチルイミダゾリウムメタンスルフォネイト20gに溶解した。パルミチン酸ビニル16g、炭酸ナトリウム5gを添加して60℃のオイルバス中で15時間反応させた。メタノール、水で洗浄後、乾燥し淡黄色無臭のデキストリンパルミチン酸エステル(化合物6)約7gを得た。メタノール洗浄液からメタノールを留去、次いでろ過を行いエチルメチルイミダゾリウムメタンスルフォネイトを回収した。
酸価より純度は99%、エステル価の測定より置換度は2.0であった。
【実施例7】
【0023】
実施例6で回収したエチルメチルイミダゾリウムメタンスルフォネイト18gにイヌリン2gを溶解した。ステアリン酸ビニル12.3g、炭酸水素ナトリウム5gを添加して60℃のオイルバス中で5日間反応した。メタノール、水で洗浄後、乾燥し白色無臭のイヌリンステアリン酸エステル(化合物7)約7gを得た。メタノール洗浄液からメタノールを留去、次いでろ過を行いエチルメチルイミダゾリウムメタンスルフォネイトを回収した。回収したエチルメチルイミダゾリウムメタンスルフォネイトを用いて繰返し合成を行い白色無臭のイヌリンステアリン酸エステル(化合物7’)を得た。
いずれも、酸価より純度は99%、エステル価の測定より置換度は1.8であった。
【実施例8】
【0024】
(1)の糖質を(3)のイオン液体に溶解し、(2)の脂肪酸ビニルエステルと(4)の触媒を添加し、60℃のオイルバス中で5日間反応した。メタノール、水で洗浄後、乾燥し、糖脂肪酸エステル(化合物8)を得た。
【実施例9】
【0025】
実施例8と同様にして糖脂肪酸エステル(化合物9)を得た。
【実施例10】
【0026】
実施例8と同様にして糖脂肪酸エステル(化合物10)を得た。
【実施例11】
【0027】
実施例8と同様にして糖脂肪酸エステル(化合物11)を得た。
【実施例12】
【0028】
実施例8と同様にして糖脂肪酸エステル(化合物12)を得た。
【実施例13】
【0029】
実施例8と同様にして糖脂肪酸エステル(化合物13)を得た。
得られた糖脂肪酸エステルの物性を表1、2、3に示した。
【0030】

【0031】

【0032】

【実施例14】
【0033】
(1)の糖質を(3)のイオン液体に分散し、(2)の脂肪酸ビニルエステルと(4)の触媒を添加し、60℃のオイルバス中で5日間反応した。メタノール、水で洗浄後、乾燥しでんぷん脂肪酸エステル(化合物14)を得た。

【産業上の利用可能性】
【0034】
化粧品用の油ゲル化剤等として有用な糖脂肪酸エステルを高純度で、容易且つ環境汚染の心配のない方法で製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオンと有機のカチオンとの組合せからなるイオン液体中で、糖と脂肪酸ビニルエステルとを反応させることを特徴とする、糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項2】
イオン液体におけるアニオンが無機アニオンまたは有機アニオンである請求項1記載の糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項3】
イオン液体における有機のカチオンがイミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオンから選ばれる一種以上であり、アニオンがCHSOイオン、塩素イオン、臭素イオン、BF4-イオン、PF6-イオン、CF3SO3-イオン、(CF3SO22-イオンから選ばれる一種以上である請求項1記載の糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項4】
糖がデンプン、デキストリン、セルロース、グリコーゲン、プルラン、イヌリン、ヒアルロン酸、β−グルカン、キシラン、デキストランから選ばれるものである、請求項1、2または3記載の糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項5】
脂肪酸ビニルエステルが、下記一般式(I)で表される請求項1、2、3または4記載の糖脂肪酸エステルの製造方法。
(化1)
1−COO−CH=CHR2 (I)
式中R1は炭素数1〜21の炭化水素基であり、R2は水素、または炭素数1〜6の炭化水素基である。
【請求項6】
酸性もしくはアルカリ性触媒を用いる請求項1、2、3、4または5記載の糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項7】
アルカリ性触媒が炭酸塩、炭酸水素塩、アルカリ金属水酸化化合物、アンモニアから選ばれる少なくとも一種である請求項6記載の糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項8】
イオン液体が、有機のカチオンがイミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオンから選ばれる一種以上であり、アニオンが塩素イオン、臭素イオン、CHSOイオンから選ばれる一種以上であるイオン液体と、有機のカチオンがイミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオンから選ばれる一種以上であり、アニオンがBF4-イオン、PF6-イオン、CF3SO3-イオン、(CF3SO22-イオンから選ばれる一種以上であるイオン液体との混合物である、請求項1、2、3、4、5、6または7記載の糖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項9】
糖がデキストリンであり、脂肪酸ビニルエステルが、ラウリン酸ビニルエステル、ミリスチン酸ビニルエステル、パルミチン酸ビニルエステル、ステアリン酸ビニルエステルから選ばれる少なくとも一種であり、アルカリ性触媒が炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアから選ばれる少なくとも一種である、請求項7または8記載の糖脂肪酸エステルの製造方法。

【公開番号】特開2006−265544(P2006−265544A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47779(P2006−47779)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000199441)千葉製粉株式会社 (11)
【Fターム(参考)】