説明

純水製造装置

【課題】比較的簡易な設備で希薄尿素様窒素化合物濃度の被処理水中から尿素様窒素化合物を十分に除去することができる手段を備えた純水製造装置を提供する。
【解決手段】被処理水に紫外線を照射する紫外線酸化装置4を有する純水製造装置において、被処理水は尿素様窒素化合物を含有しており、該紫外線酸化装置4の前段又は後段に尿素様窒素化合物を吸着する酸化セルロース、フェノール樹脂等の尿素様窒素化合物吸着剤を有した尿素様窒素化合物吸着装置3が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は純水製造装置に係り、特に尿素、チオ尿素、スルホニル尿素、アリル尿素、グアニシン、アセチルチオ尿素、フェニル尿素などの尿素様窒素化合物含有水を被処理水(原水)とする純水製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
I.半導体製造工場、液晶製造工場、製薬工業、食品工業、電力工業等の各種の産業又は民生用ないし研究施設等において使用される純水の製造において、原水(被処理水)に含まれるTOC成分をオゾン、過酸化水素、過硫酸、次亜塩素酸等の酸化剤や紫外線酸化装置を用いてイオン状の有機酸に酸化分解し、後段のイオン交換樹脂に吸着させて除去する方法(特開平11−99395)や、生物処理により生物代謝を利用して分解除去する方法(特開平7−313994)、尿素分解酵素を用いて尿素分解をして除去する方法(特開昭63−20316)などが行われている。
II.尿素の吸着剤として、酸化セルロース、ヒドラジド基を有する重合体にホルムアルデヒド又はグリオキザールを反応させてなる物質、カルボキシル基とイミダゾール基を有する物質などが公知である(特開平2−221224,特開昭51−69489,特開昭63−59353)。
【特許文献1】特開平7−313994
【特許文献2】特開平11−99395
【特許文献3】特開昭63−20316
【特許文献4】特開平2−221224
【特許文献5】特開昭51−69489
【特許文献6】特開昭63−59353
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
i) 純水製造装置に用いられている酸化装置、分解装置、生物処理装置などの装置は非常に大型であると共に、非常に高価であり、また広い設置面積を必要とする。
【0004】
例えば、紫外線酸化装置においては、尿素様窒素化合物は難分解性物質のため、紫外線ランプの本数を多く必要とし、装置が非常に大型化し、高価となってしまう。
【0005】
また、オゾン酸化装置の場合、難分解物質の酸化に時間を要し、装置が大型化すると共に、酸化に必要なオゾン発生装置も大きくなり、設備が高価となっていた。
ii) 上記特許文献4〜6に記載の尿素除去は、腎臓疾患患者の人工透析を対象とするものであり、被処理水中の尿素濃度は100mg/dl程度と高濃度であり、純水製造装置の様な希薄な溶液からの尿素除去を対象とはしていない。
iii) 本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、比較的簡易な設備で希薄尿素様窒素化合物濃度の被処理水中から尿素様窒素化合物を十分に除去することができる手段を備えた純水製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の純水製造装置は、被処理水に紫外線を照射する紫外線酸化装置を有する純水製造装置において、被処理水は尿素様窒素化合物を含有しており、該紫外線酸化装置の前段又は後段に尿素様窒素化合物を吸着する尿素様窒素化合物吸着剤を有した尿素様窒素化合物吸着手段が設けられていることを特徴とするものである。
【0007】
なお、尿素様窒素化合物としては、尿素、チオ尿素、スルホニル尿素、アリル尿素、グアニシン、アセチルチオ尿素、フェニル尿素などが例示される。
【発明の効果】
【0008】
かかる本発明の純水製造装置によると、被処理水中の尿素様窒素化合物が吸着剤によって効率よく除去される。この純水製造装置は、尿素様窒素化合物を吸着除去するものであり、尿素様窒素化合物除去設備の構成が簡易であり、設備コストも低い。
【0009】
尿素様窒素化合物吸着手段を紫外線酸化装置の前段に配置した場合には、紫外線酸化装置に流入する尿素様窒素化合物濃度が低下し、紫外線酸化装置の負荷が低減される。
【0010】
尿素様窒素化合物吸着手段を紫外線酸化装置の後段に配置した場合には、紫外線酸化装置で除去しきれなかった尿素様窒素化合物を尿素様窒素化合物吸着手段で吸着除去することができる。
【0011】
尿素様窒素化合物吸着手段をユースポイントへの純水供給配管の末端に設置した場合には、尿素様窒素化合物除去処理が必要な水だけを尿素様窒素化合物吸着除去処理することになり、尿素様窒素化合物吸着手段の負荷が低減される。
【0012】
尿素様窒素化合物吸着剤を繊維状、粒状又はプリーツ膜状などの濾材形状とすることにより、尿素様窒素化合物の吸着除去作用と共に、微粒子の濾過による除去作用も奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0014】
本発明の純水製造装置は、尿素様窒素化合物吸着剤を有した尿素様窒素化合物吸着手段と、紫外線酸化装置とを備えており、好ましくは第1図〜第3図のように前処理装置1、逆浸透膜処理装置(RO装置)2、尿素様窒素化合物吸着装置3、紫外線酸化装置4、イオン交換装置又は電気脱イオン装置などよりなる脱イオン装置5、限外濾過膜装置(UF装置)などよりなる微粒子除去装置6を備えている。
【0015】
第1図の純水製造装置では、原水は、前処理装置1で処理された後、RO処理され、尿素様窒素化合物が吸着除去された後、紫外線酸化処理され、TOC成分が酸化されてイオン化する。このイオン化した分解物が脱イオン装置5で除去される。脱イオン装置5からの流出水中に含まれる微小なイオン交換樹脂片などの微粒子はUF膜などを備えた微粒子除去装置6で除去される。
【0016】
第2図では、尿素様窒素化合物吸着装置3が紫外線酸化装置4の後段側に配置されており、ここで尿素様窒素化合物の吸着除去が行われる他は第1図と同様の処理が行われる。
【0017】
第3図では、尿素様窒素化合物吸着装置3がUF膜装置6の後段側に配置されており、ここで尿素様窒素化合物の吸着除去が行われる他は第1図と同様の処理が行われる。
【0018】
尿素様窒素化合物吸着装置3としては、好ましくは酸化セルロース又はフェノール樹脂よりなる吸着剤を備えたものが用いられる。酸化セルロースとしては重合度が500〜800程度のリンターセルロースを酸化したものが好適であるが、これに限定されない。フェノール樹脂としては軟化点が120℃程度のノボラック型フェノール樹脂が好適である。
【0019】
これらの吸着剤は、繊維状、粒状又はプリーツ膜状などの濾材形態とされるのが好ましい。繊維としては、直径1nm〜100μm、長さ0.1〜100mm程度のものが好適である。粒子としては平均粒径が0.1〜0.9mm程度のものが好適である。粒子形状は、球状、ペレット状、粉末状、破砕状など任意である。プリーツ膜状としては、膜厚200〜800μmのものが好適である。
【0020】
吸着装置3としては、このような濾材形状の吸着剤を充填した充填床を有する吸着塔が好適である。
【0021】
この吸着装置3は、第1図のように紫外線酸化装置4の前段に設けられてもよく、第2図のように紫外線酸化装置4の後段に設けられてもよく、また第3図のように、ユースポイントへの純水送水配管の末端に設けられてもよい。
【0022】
吸着装置3を紫外線酸化装置4の前段に設けた場合には、紫外線酸化装置4への流入水中の尿素様窒素化合物濃度が低下するので、紫外線酸化装置4の負荷が軽減され、紫外線酸化装置4が構成の簡易なもので足りるようになる。
【0023】
吸着装置3を紫外線酸化装置4の後段に設けた場合には、紫外線酸化装置で処理しきれなかった尿素様窒素化合物のポリッシングの役割を果たし、特に送水配管の末端に設けた場合には、吸着処理すべき水量が少なくて済み、吸着剤量を少なくすることができる。
【0024】
即ち、特に半導体製造などの純水製造設備では、超純水を循環させ、使用場所で必要な量だけを供給する系統となっていることが多い。また使用場所での水質の要求はさまざまであり、有機物除去を必要とする系、有機物質除去を必要としない系、微粒子除去を必要とする系、微粒子除去を必要としない系と分かれていることが多い。
【0025】
そこで、高度な有機物除去を要する系だけに尿素様窒素化合物吸着装置を設置することで、尿素様窒素化合物吸着装置の設置面積、コストを低減することが可能となる。
【0026】
なお、前処理装置1としては、UF膜装置又は精密濾過膜装置の膜濾過装置が好適であるが、これらの膜濾過装置の前段に生物処理装置が設置されてもよい。
【0027】
また、処理される原水としては、市水、井水、工水、回収水などが挙げられる。
【0028】
RO装置2としては、RO装置を直列に2段設置した2段RO処理装置が好適である。
【0029】
紫外線酸化装置4としては、低圧紫外線酸化装置などが好適である。
【0030】
脱イオン装置5としては、上記の通り、電気脱イオン装置やイオン交換装置が好適である。
【実施例】
【0031】
以下、実施例、比較例及び参考例について説明する。
【0032】
なお、これらの例で用いた吸着剤や機器、分析法は次の通りである。
活性炭:栗田工業(株)製「クリコールKW10−30」
尿素様窒素化合物吸着剤(酸化セルロース):ジョンソンエンドジョンソン(株)製
「アブソーバブルヘモスタット」(平均直径2μm、平均長さ5mm)
ノボラック型フェノール樹脂吸着剤:群栄化学工業(株)製PSM−4326
(平均粒径0.3mm)
イオン交換樹脂カラム:栗田工業(株)製「デミエースDY−07」
イオン交換樹脂:栗田工業(株)製「KR−UM2」
UV酸化装置:日本フォトサイエンス(株)製「KUS−1改」(UV酸化分解ランプ
1本の特注品)
TOC計:Sievers社製PPT
尿素分析法:ジアセチル法
【0033】
[参考例1,2,3]
第5図に示すように、原水タンク10内の原水を吸着塔11、イオン交換塔13の順に通水し、原水タンク10に戻す閉鎖循環ラインを採用した。
【0034】
吸着塔11内の吸着剤は活性炭(参考例1)、酸化セルロース(同2)、フェノール樹脂(同3)とした。
【0035】
原水として超純水に特級試薬である尿素を0.5mg/L添加した原水を使用し、処理前及び処理後のTOC濃度と尿素濃度及び抵抗率を測定した。
【0036】
なお、通水量は1L/hrとし、吸着塔11の通水SVは10hr−1とした。結果を表1に示す。
【0037】
表1の通り、吸着剤として酸化セルロース又はフェノール樹脂を使用した場合、活性炭を使用した場合に比べ、TOC、尿素の除去性能が優れている。尿素の除去能力は酸化セルロースが特に優れている。
【0038】
【表1】

【0039】
[比較例1、実施例1,2]
吸着塔11とイオン交換塔13の間にUV酸化装置12を設けることにより第4図のラインを構成した。その他は参考例1と同一条件として通水を行い、結果を表2に示した。
【0040】
[比較例2、実施例3,4]
原水の通水速度を2L/hrとした他は比較例1、実施例1,2と同一条件にて通水を行った。結果を表3に示す。
【0041】
なお、吸着剤については比較例1,2は活性炭とし、実施例1,3は酸化セルロースとし、実施例2,4はフェノール樹脂とした。
【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
表2,3の様に、流量を倍の2L/hrに増加させても酸化セルロースを使用した実施例1,3及びフェノール樹脂を使用した実施例2,4では処理水中のTOC、尿素の増加は認められなかった。一方活性炭を使用した比較例1,2では流量を増加させるとTOC、尿素の増加が確認された。
【0045】
このように流量を倍にしても、TOC、尿素の除去効率は変わらなかったことにより、UV酸化装置の負荷を上げても除去性能は変わらないことが言える。即ち、尿素吸着剤をUV酸化装置の前に前置することでUV酸化装置の負荷が減っており、TOC酸化装置の性能能力を落としても処理水のTOC、尿素濃度に影響がないと言える。すなわち、尿素吸着手段をUV酸化装置の前段に設置することにより、UV酸化装置として性能の低いものを選択できるので、全体のコストを下げることができる。
【0046】
[参考例4]
JIS Z 8901試験用粉体2の白色アルミナNo2を上記原水に1mg/L分散させたアルミナ分散原水を作成した。このアルミナ分散原水を孔径0.45μmのMFフィルターに水頭圧0.1MPaで1L/hrの流量にて通水したところ、50Lで通水できなくなった。なお、この処理水の水質を表4に示す。
【0047】
[参考例5]
酸化セルロースの不織布を直径30mmのカラムに150mm高さに充填した。この充填カラムを参考例4と同じMFフィルターの前段に配置し、充填カラムからMFフィルターに直列に参考例4と同一のアルミナ分散原水を同一条件で通水したところ、MFフィルターに400Lまで通水することができた。このときの処理水の水質を表4に示す。
【0048】
【表4】

【0049】
この参考例4,5の通り、酸化セルロース不織布は尿素様窒素化合物吸着剤としてだけでなく、微粒子除去も可能となる。このように、フィルターの機能とTOC除去機能を兼ね備えた酸化セルロース不織布を尿素様窒素化合物吸着剤として用いることにより、吸着装置の後段側の装置の設置面積の低減、コストの低減、交換などのメンテナンスの簡易化が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例の純水製造装置の系統図である。
【図2】別の実施例の純水製造装置の系統図である。
【図3】別の実施例の純水製造装置の系統図である。
【図4】参考例の純水製造装置の系統図である。
【図5】別の参考例の純水製造装置の系統図である。
【符号の説明】
【0051】
1 前処理装置
2 逆浸透膜処理装置
3 尿素様窒素化合物吸着装置
4 紫外線酸化装置
5 脱イオン装置
6 微粒子除去装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に紫外線を照射する紫外線酸化装置を有する純水製造装置において、
被処理水は尿素様窒素化合物を含有しており、
該紫外線酸化装置の前段又は後段に尿素様窒素化合物を吸着する尿素様窒素化合物吸着剤を有した尿素様窒素化合物吸着手段が設けられていることを特徴とする純水製造装置。
【請求項2】
請求項1において、前記吸着手段がユースポイントへの純水供給配管の末端に設置されていることを特徴とする純水製造装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記吸着剤が濾材形状となっていることを特徴とする純水製造装置。
【請求項4】
請求項3において、前記吸着剤は繊維状、粒状又はプリーツ膜状であることを特徴とする純水製造装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記吸着剤は酸化セルロース及び/又はフェノール樹脂よりなることを特徴とする純水製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−86854(P2008−86854A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−267691(P2006−267691)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】