説明

紙・パルプ製品に付着した付着物の分析方法および付着物の付着防止方法

【課題】 紙・パルプ工場で製造される紙・パルプ中に含有される付着物を効率的にかつ精度よく分析する方法およびその分析結果に基づいて当該付着物の発生を防止する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 紙・パルプ製品に付着した付着物と、当該付着物をセルラーゼで処理当該付着物をセルラーゼで処理した付着物とをそれぞれ機器分析法で分析し、その分析結果を対比して、当該付着物の構成成分を特定することを特徴とする紙・パルプ製品に付着した付着物の分析方法により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、紙・パルプ製品に付着した付着物の分析方法及び付着物の付着防止方法に関する。さらに詳しくは、紙・パルプ工場で製造される紙・パルプ製品に付着し、当該製品の品質悪化や製造過程での障害(紙切れ等)の原因となる付着物の構成成分を効率的に、かつ精度よく分析する方法、およびその分析結果に基づいて当該付着物の発生を防止する付着防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙・パルプ工場で製造される紙・パルプ製品中に付着物が斑点状に存在すると、その製品価値を下げ、製造時に斑点の部分から紙切れが生じることもあり、その場合には製造をストップしなければならず、多大な損失となる。紙・パルプ製品に付着する付着物の成分は、スライム(微生物およびそれらが産出する粘質物)、ピッチ、スケール、サイズ、夾雑物、水溶性高分子等の添加薬剤およびこれらの複合体であることが知られている。そこでかかる付着物の構成成分をつきとめるため、付着物の成分分析を行なうことは重要である。
【0003】
従来、かかる付着物の成分分析には赤外吸収分析、ガスクロマトグラフ質量分析、蛍光X線照射などの機器分析法や、呈色反応、顕微鏡観察等、種々の方法が用いられている。しかし、付着物は紙・パルプ製品に付着し存在する場合に、紙・パルプ中に含まれるパルプ繊維と混在している場合が多く、また、紙・パルプ製品中には溶剤等では抽出できない高分子等も含まれているので、精度の高い付着物の成分分析は困難であった。
【0004】
特開2003−164281号公報には、紙製品に付着した付着物から微生物に由来するDNAを抽出し、得られたDNAの塩基配列を指標にして付着物の微生物相または優占微生物を分析する方法が知られている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−164281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、高度な分析技術・装置や煩雑な操作を必要とせず、簡易的に紙・パルプ工場で製造される紙・パルプ製品に付着した付着物の構成成分を、効率的にかつ精度よく分析する方法、およびその分析結果に基づいて当該付着物の発生を防止する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の発明者らは、かかる付着物を簡易に分析できる分析方法として、赤外線吸収分析法やガスクロマトグラフ質量分析法などの機器分析法に着目し、紙・パルプ工場で製造される紙・パルプ製品に付着した付着物の構成成分を効率的にかつ精度よく分析するために、当該付着物と混在するセルロース繊維をセルラーゼ処理により除去する方法を試みた。しかしながら、セルラーゼ処理を行なう際に、pHを酸性にする必要があり、この処理により付着物に含まれる特定の成分(例えば、炭酸カルシウム、水溶性高分子等)が除去されてしまい、分析結果として確認できなかった。そこで、付着物自体と、セルラーゼ処理をした付着物とを機器分析法により分析し、それぞれの分析結果を対比することによって、付着物の構成成分を総合的に特定できる事実を見出し、この発明を完成するに到った。
【0008】
かくしてこの発明によれば、紙・パルプ製品に付着した付着物と、当該付着物をセルラーゼで処理した付着物とをそれぞれ機器分析法で分析し、その分析結果を対比して、当該付着物の構成成分を特定することを特徴とする紙・パルプ製品に付着した付着物の分析方法が提供される。
【0009】
またこの発明によれば、紙・パルプ製品に付着した付着物と、当該付着物をセルラーゼで処理した付着物とをそれぞれ機器分析法で分析し、その分析結果を対比して当該付着物の構成成分を特定することにより、その構成成分に対応する付着防止のための手段を施すことを特徴とする紙・パルプ製品に付着した付着物の付着防止方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
この発明により、紙・パルプ工場で製造される紙・パルプ製品の付着物の構成成分について、より精度の高い特定を行なうことができる。また付着物の構成成分が判明したことで、汚染源をつきとめ、適切な防止対策をとることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明における紙・パルプ製品としては、紙パルプ工場で製造される製品であれば特に制限はなく、新聞紙、OA用紙、ダンボール、包装用紙、フィルム、ティシューペーパー、トイレットペーパー、ペーパータオル、ナプキン、紙おむつ等が挙げられる。
【0012】
本発明においては、上記の紙・パルプ製品に付着した付着物の一部または全部を採取したもの、および当該付着物をセルラーゼで処理したものとを分析試料とし、それぞれを機器分析法により分析する。付着物をセルラーゼで処理することにより、付着物と混在し付着物の構成成分を特定する際に障害となるセルロース繊維が除去されるので、付着物の構成成分の特定を高精度に行なうことが可能となる。さらに、紙・パルプ製品に付着した付着物と、当該付着物をセルラーゼで処理した付着物の両方を機器分析法により分析し、両者の分析結果を対比することによって、セルラーゼ処理により消失してしまう付着物の構成成分を確認することができる。すなわち、予め紙・パルプ製品に付着した付着物の分析結果(ピーク)を確認し、さらにセルラーゼで処理した付着物の分析結果(ピーク)を確認することにより、セルラーゼ処理により消失した成分を特定することができる。
【0013】
本発明における紙・パルプ製品に付着した付着物としては、スライム(微生物およびそれらが産出する粘質物)、ピッチ、スケール、サイズ、夾雑物、水溶性高分子等の添加薬剤およびこれらの複合体等が挙げられる。
【0014】
本発明における機器分析法に用いられる分析機器としては、採取した付着物のピークとセルラーゼで処理した付着物のピークとを精度よく確認できる点で、赤外分光光度計あるいはガスクロマトグラフ質量分析計を用いるのが好ましい。紙・パルプ製品に付着した付着物と、セルラーゼで処理した付着物の両方を同じ分析機器を用いて分析することで、両者の分析結果(ピーク)の違いから付着物の構成成分を、正確かつ高精度に確認することができる。
【0015】
特に、採取した付着物の成分に、水溶性高分子、ピッチ等の有機物が含まれていると推測される場合には、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて分析するのが好ましい。この場合、セルラーゼで処理することによって水溶性高分子が消失してしまうため、予めガスクロマトグラフ質量分析計を用いて採取した付着物を分析し、両者の分析結果(ピーク)の違いを確認することにより、採取した付着物に水溶性高分子、ピッチ等の有機物が含まれていたことを特定することができる。
【0016】
本発明におけるセルラーゼ処理としては、pHが3〜5のセルラーゼ緩衝液に12〜24時間浸漬する処理が挙げられる。セルラーゼ緩衝液としては、セルラーゼ(和光純薬製 生化学用 1060units/mg)に、10mM酒石酸ナトリウム緩衝液を加えて超音波処理したもの等が挙げられる。
【0017】
本発明の紙・パルプ製品に付着した付着物の分析方法において、必要に応じて種々の定性分析を併用してもよい。例えば、酸処理による填料として使用される炭酸カルシウムの定性、デンプン、PVA、ロジンサイズ、微生物由来のタンパク質、SBR、カゼイン等を確認するための呈色反応等が挙げられる。
【0018】
本発明の紙・パルプ製品に付着した付着物の付着防止方法では、付着物自体とセルラーゼ処理した付着物との分析結果を対比して当該付着物の構成成分を特定することにより、その構成成分に対応する付着防止のための手段を施すことができる。付着物の構成成分に対応する付着防止のための手段としては、操業時に、スケール分散剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤、歩留まり剤等の薬剤を最適な箇所に添加する方法、ボイルアウト時の付着物の物理、化学洗浄、スクリーン等による付着物成分の除去、付着物成分に起因する物質の使用停止、使用方法の見なおし等により、確実に付着防止を行なうことができる。
【0019】
この発明を実施例及び試験例により以下に説明するが、これらの実施例及び試験例により限定されるものではない。
【0020】
(セルラーゼ緩衝液の調整)
セルラーゼ(和光純薬製 生化学用 1060units/mg)0.34gに、10mM酒石酸ナトリウム緩衝液20mlに加えて、pH4のセルラーゼ緩衝液を得た。
【実施例】
【0021】
試験例1 赤外分光光度計による付着物の分析
某製紙工場で製造された付着物が存在する紙製品の紙片0.05gを、赤外分光光度計(株式会社堀場製作所製、FT-720)で分析した。分析結果を表1に示す。
【0022】
【表1】


【0023】



表1の分析結果から、上記の付着物の成分について、ピークを確認することができた。波数が1402,873cm−1付近に現れたピーク及び填料やパルプ繊維等のピークの妨害により、紙製品に付着するさらなる付着物の成分を特定することはできなかった。
【0024】
試験例2 赤外分光光度計によるセルラーゼ処理後の付着物の分析
試験例1で用いた紙製品の紙片をpH4のセルラーゼ緩衝液に浸漬させて、50℃のインキュベータ内で12〜24時間静置させた。静置後、付着物のまわりに存在したパルプ繊維は除去され、付着物のみを取り出した。取り出した付着物を試験例1と同様、赤外分光光度計で分析した。分析結果を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】



表1及び表2の分析結果から、表1の波数が1402,873cm−1付近のピークについては、セルラーゼ処理(酸性水溶液による処理)により消失したことから、付着物の構成成分として炭酸カルシウムが存在していたものと考えられた。再確認するためにセルラーゼ処理する前の紙製品に付着した付着物に、塩酸を滴下し発泡が見られたことから、炭酸カルシウムの存在を特定することができた。さらに、表1と表2とを対比させることで、付着物の主成分がエステル基を有する有機物(ピッチ)および炭酸カルシウムであることが併せて判明した。これらの知見が得られたことにより汚染源を調査し、炭酸カルシウムスラリーの添加ラインおよび故紙から混入する接着剤等の有機物に対して、スケールコントロール剤およびピッチコントロール剤を添加したことで、紙製品に付着した付着物の付着防止を行なうことができた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
紙・パルプ工場で製造される紙・パルプ製品の付着物の分析等において、利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙・パルプ製品に付着した付着物と、当該付着物をセルラーゼで処理した付着物とをそれぞれ機器分析法で分析し、その分析結果を対比して、当該付着物の構成成分を特定することを特徴とする紙・パルプ製品に付着した付着物の分析方法。
【請求項2】
機器分析法が、赤外分光光度計、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いた分析法である請求項1に記載の付着物の分析方法。
【請求項3】
紙・パルプ製品に付着した付着物と、当該付着物をセルラーゼで処理した付着物とをそれぞれ機器分析法で分析し、その分析結果を対比して当該付着物の構成成分を特定することにより、その構成成分に対応する付着防止のための手段を施すことを特徴とする紙・パルプ製品に付着した付着物の付着防止方法。

【公開番号】特開2006−153533(P2006−153533A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−341515(P2004−341515)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(000154727)株式会社片山化学工業研究所 (82)
【Fターム(参考)】