説明

紫外線遮蔽用オーバーコート剤、紫外線遮蔽用オーバーコート層の形成方法、及び紫外線遮蔽用オーバーコート層を備える部材

【課題】透明性と紫外線遮蔽性が高く、容易に使用できる紫外線遮蔽用オーバーコート剤、紫外線遮蔽用オーバーコート層の形成方法、及び紫外線遮蔽用オーバーコート層を備える部材を提供すること。
【解決手段】本発明の紫外線遮蔽用オーバーコート剤は、薄片状酸化チタンを含むことを特徴とする。紫外線遮蔽用オーバーコート剤は、シリコン系バインダーを含んでいてもよい。前記薄片状酸化チタンの平均粒径は、3〜40μmの範囲にあることが好ましい。紫外線遮蔽用オーバーコート剤は、コンクリートの保護を用途とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線による劣化や変色等を防止するために、例えば、屋外で使用される部材の表面に塗布する紫外線遮蔽用オーバーコート剤、紫外線遮蔽用オーバーコート層の形成方法、及び紫外線遮蔽用オーバーコート層を備える部材に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントコンクリート、セメントモルタル、ALC(オートクレーブ軽量コンクリート)、PC(プレキャストコンクリート)、スレート、無機ボード等のセメント系製品は、環境中にある二酸化炭素、亜硫酸ガス、酸性雨等により中性化が生じることが知られている。これらセメント製品に鉄筋が使用されている場合、コンクリートの中性化により鉄筋の腐食が起こり、鉄筋腐食による体積増加がコンクリートのひび割れや剥落等の原因となる。そのため、セメント系製品の表面には、上記の問題を防止するため、表面保護層が形成される。この表面保護層は、通常、プライマー層、パテ層、中塗り層、オーバーコート層を重ねて形成される。
【0003】
ところで、高架橋等のセメント系製品では、長時間の振動によりクラックが発生することは避けられない現象であり、クラックが発生した場合は、クラックの拡大や内部へのガス浸透による被害を少なくするため、出来るだけ早急にクラックを発見し、対応措置をとる必要がある。そのため、上記のオーバーコート層には、クラックを発見しやすくするために、透明性が高いことが求められる。
【0004】
また、上記のオーバーコート層には、紫外線を遮蔽する機能が求められる。これは、表面保護層の内層(プライマー層、パテ層、中塗り層)、またはセメント系製品本体に対する、紫外線の悪影響(劣化や変色等の有害な化学変化)を防止するためである。
【0005】
これまで、透明性を確保しつつ紫外線を遮蔽する技術としては、以下の技術が提案されている。
(1)酸化物微粒子による紫外線遮蔽
酸化チタンや酸化亜鉛、酸化セリウムなどの紫外線吸収性のある無機酸化物の微粒子を、硬化型バインダーに分散させ、それを基材に塗布することで、紫外線遮蔽塗膜を形成する(特許文献1参照)。
(2)無機酸化物膜による紫外線遮蔽
酸化チタンや酸化亜鉛、酸化セリウムなどの紫外線吸収性のある物質の膜を真空蒸着やスパッタリングにより基材上に形成する(特許文献2参照)。
(3)有機系紫外線吸収剤による紫外線遮蔽
サリチル酸系やベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等、有機系の紫外線吸収剤を透明な硬化性バインダーに配合し、それを基板に塗布することで、透明性のある紫外線遮蔽塗膜を形成する(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2004―2563号公報
【特許文献2】特開平7−187718号公報
【特許文献3】特開平7−118564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記(1)の方法では、紫外線遮蔽塗膜の透明性が不十分である。また、配合する無機酸化物の量が少ないと、十分な紫外線遮蔽性を得られない場合がある。
また、上記(2)の方法では、膜を形成するために、スパッタリングなどのプロセスが必要であるが、このようなプロセスには、高い真空度が必要であり、また、重厚な設備と真空を保つための莫大なエネルギーとを要し、生産コストが高くなるという欠点がある。さらに、この方法の場合、現場での施工は不可能である。
また、上記(3)の方法では、吸収剤自体が紫外線により分解されたり、塗膜上にブリードしたりするので、経時的に塗膜の紫外線遮蔽性が低下してしまう。また、無機系の吸収剤と比べると吸収の効率が劣り、十分な紫外線遮蔽性を得るためには膜厚を非常に厚くする必要がある。塗膜を厚くすると、透明性を損なってしまい、施工後のクラックや剥離などの問題も起こりやすくなる。また、膜厚が厚くてもクラックや剥離を生じにくくするためには、下地膜の養生時間を非常に長くする必要があり、結果として、施工に要する時間が長くなってしまう。
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、透明性と紫外線遮蔽性が高く、容易に使用できる紫外線遮蔽用オーバーコート剤、紫外線遮蔽用オーバーコート層の形成方法、及び紫外線遮蔽用オーバーコート層を備える部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)請求項1の発明は、
薄片状酸化チタンを含むことを特徴とする紫外線遮蔽用オーバーコート剤を要旨とする。
【0008】
本発明の紫外線遮蔽用オーバーコート剤を塗布して形成した紫外線遮蔽用オーバーコート層は透明性が高い。そのことにより、下地の上に紫外線遮蔽用オーバーコート層を形成しても、下地の色彩を損なうことがない。
【0009】
また、本発明の紫外線遮蔽用オーバーコート剤を塗布して形成した紫外線遮蔽用オーバーコート層は、紫外線遮蔽性能が高いので、その膜厚を薄くすることができる。紫外線遮蔽用オーバーコート層の膜厚を薄くすると、例えば、下地層を形成し、その上に紫外線遮蔽用オーバーコート層を形成するとき、下地層が完全に硬化しておらず、紫外線遮蔽用オーバーコート層の形成後に下地層が収縮しても、紫外線遮蔽用オーバーコート層にクラックや剥離が発生してしまうようなことが起こりにくい。そのことにより、下地層の養生時間が短くて済むので、紫外線遮蔽用オーバーコート層の形成に要する時間を短縮することができ、施工コストを削減できる。
【0010】
また、本発明の紫外線遮蔽用オーバーコート剤を用いれば、例えば、ハケ塗りやスプレーなどの方法で塗布するだけで、容易に紫外線遮蔽用オーバーコート層を形成することができる。
【0011】
前記薄片状酸化チタンは、薄片状(鱗片状)の形状を有する酸化チタンであって、アナターゼ型及びルチル型のいずれであってもよい。薄片状酸化チタンの大きさは3〜40μmの範囲が好適であり、その厚みは40μm以下の範囲が好適である。薄片状酸化チタンとしては、例えば、大塚化学株式会社製のTF系、ルチル型LSS900、L900を用いることができる。上記TF系のうち、TF−SSは、大きさ約3μmの薄片状酸化チタンである。
【0012】
紫外線遮蔽用オーバーコート剤に占める薄片状酸化チタンの割合は、1〜10重量%の範囲が好適である。薄片状酸化チタンが上記TF−SSの場合、これをシリコン系バインダーへ加えて紫外線遮蔽用オーバーコート剤を調製することができるが、このとき、薄片状酸化チタンの配合量は、シリコン系バインダーを100重量%として、10重量%であることが好ましい。
【0013】
本発明の紫外線遮蔽用オーバーコート剤は、下地層(例えば、塗料のプライマー層、塗料の主剤から成る層)の上に塗布してもよいし、部材の表面に直接塗布してもよい。
(2)請求項2の発明は、
シリコン系バインダーを含むことを特徴とする請求項1記載の紫外線遮蔽用オーバーコート剤を要旨とする。
本発明の紫外線遮蔽用オーバーコート剤は、シリコン系バインダーを含むので、下地に塗布するだけで、容易に、紫外線遮蔽用オーバーコート層を形成することができる。
また、バインダーがシリコン系であることにより、薄片状酸化チタンが紫外線を吸収し、活性酸素を発生させても、バインダーが分解されてしまうようなことが起こりにくい。
また、本発明の紫外線遮蔽用オーバーコート剤を塗布して形成した紫外線遮蔽用オーバーコート層では、薄片状酸化チタンがシリコン系バインダーで覆われているので、薄片状酸化チタンの光触媒活性によって、紫外線遮蔽用オーバーコート層の周囲(例えば下地など)を分解してしまうようなことが起こりにくい。
前記シリコン系バインダーとしては、例えば、無機酸化物粒子や、アクリルシリコーン、塩基性アルコキシシランを主成分として含有し、通常、光触媒コーティング剤の下塗りとして使用されているコーティング剤等が挙げられる。
前記シリコン系バインダーの配合量は、薄片状酸化チタン100重量部に対し、20〜10000重量部の範囲が好適であり、30〜1000重量部の範囲が一層好適である。
(3)請求項3の発明は、
前記薄片状酸化チタンの平均粒径が3〜40μmの範囲にあることを特徴とする請求項1又は2記載の紫外線遮蔽用オーバーコート剤を要旨とする。
【0014】
本発明の紫外線遮蔽用オーバーコート剤を用いて形成した紫外線遮蔽用オーバーコート層は、薄片状酸化チタンの平均粒径が上記範囲内であることにより、透明性が一層高い。
(4)請求項4の発明は、
コンクリートの保護を用途とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の紫外線遮蔽用オーバーコート剤を要旨とする。
【0015】
本発明の紫外線遮蔽用オーバーコート剤を用いて形成した紫外線遮蔽用オーバーコート層は、透明性が高いので、コンクリートに発生したクラックや剥離の発見を容易にする。
(5)請求項5の発明は、
請求項1〜4のいずれかに記載の紫外線遮蔽用オーバーコート剤を下地上に塗布することを特徴とする紫外線遮蔽用オーバーコート層の形成方法を要旨とする。
【0016】
本発明によれば、透明性が高い紫外線遮蔽用オーバーコート層を下地上に形成することができる。そのため、紫外線遮蔽用オーバーコート層によって、下地の色彩を損なうことがない。
【0017】
また、本発明で用いる紫外線遮蔽用オーバーコート剤は紫外線遮蔽性能が高いので、紫外線遮蔽用オーバーコート層の膜厚を薄くすることができる。紫外線遮蔽用オーバーコート層の膜厚が薄いと、例えば、紫外線遮蔽用オーバーコート層の形成時に下地が完全に硬化しておらず、紫外線遮蔽用オーバーコート層の形成後に下地が収縮しても、紫外線遮蔽用オーバーコート層にクラックや剥離が発生してしまうようなことが起こりにくい。そのことにより、下地の養生時間が短くて済むので、紫外線遮蔽用オーバーコート層の形成に要する時間を短縮することができ、施工コストを削減できる。
【0018】
また、本発明によれば、容易に紫外線遮蔽用オーバーコート層を形成することができる。
(6)請求項6の発明は、
前記下地がコンクリートであることを特徴とする請求項5記載の紫外線遮蔽用オーバーコート層の形成方法を要旨とする。
【0019】
本発明で形成する紫外線遮蔽用オーバーコート層は透明性が高いので、コンクリートに発生したクラックや剥離の発見を容易にする。
(7)請求項7の発明は、
基材と、
前記基材の表面に形成された、薄片状酸化チタンを含む紫外線遮蔽用オーバーコート層と、
を備える部材を要旨とする。
【0020】
本発明の部材は、透明性が高い紫外線遮蔽用オーバーコート層を備えているので、基材の色彩を損なうことがない。
【0021】
また、本発明の部材が備える紫外線遮蔽用オーバーコート層は、紫外線遮蔽性能が高いので、その膜厚を薄くすることができる。紫外線遮蔽用オーバーコート層の膜厚が薄いと、例えば、紫外線遮蔽用オーバーコート層の形成時に下地が完全に硬化しておらず、紫外線遮蔽用オーバーコート層の形成後に下地が収縮しても、紫外線遮蔽用オーバーコート層にクラックや剥離が発生してしまうようなことが起こりにくい。そのことにより、下地の養生時間が短くて済むので、部材の製造に要する時間を短縮することができ、施工コストを削減できる。
【0022】
前記部材としては、例えば、常時あるいは随時、屋外で使用されるものが広く該当し、例えば、各種建造物、各種建造物へ塗布される塗料、サイディングボード等の意匠性のある建造物部材等が挙げられる。
(8)請求項8の発明は、
前記紫外線遮蔽用オーバーコート層は、シリコン系バインダーを含むことを特徴とする請求項7記載の部材を要旨とする。
本発明の部材が備える紫外線遮蔽用オーバーコート層が含むバインダーはシリコン系であるので、薄片状酸化チタンが紫外線を吸収し、活性酸素を発生させても、バインダーが分解されてしまうようなことが起こりにくい。
また、本発明の部材が備える紫外線遮蔽用オーバーコート層では、薄片状酸化チタンがシリコン系バインダーで覆われているので、薄片状酸化チタンの光触媒活性によって、紫外線遮蔽用オーバーコート層の周囲(例えば下地など)を分解してしまうようなことが起こりにくい。
(9)請求項9の発明は、
前記薄片状酸化チタンの平均粒径が3〜40μmの範囲にあることを特徴とする請求項7又は8記載の部材を要旨とする。
【0023】
本発明における紫外線遮蔽用オーバーコート層は、薄片状酸化チタンの平均粒径が上記範囲内であることにより、透明性が一層高い。
(10)請求項10の発明は、
前記基材がコンクリートであることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の部材を要旨とする。
【0024】
本発明の部材は、透明性が高い紫外線遮蔽用オーバーコート層を備えているので、コンクリートから成る基材に発生したクラックや剥離の発見が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明を実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0026】
(a)紫外線遮蔽用オーバーコート剤の調製
(a−1)紫外線遮蔽用オーバーコート剤Aの調製
TF−SSは、大塚化学株式会社製の薄片状酸化チタンであり、アナターセ型チタン酸とチタン酸カリウムとが混在するものである。TF−SSの平均粒径は3.0μmである。
【0027】
まず、TF−SSの粉末を、シリコン系バインダー(日本曹達製、ビストレイターL NRC−35−A)に加えた。加えるTF−SSの量は、TF−SSとシリコン系バインダーとの総量を100重量%としたとき、10重量%に相当する量とした。
【0028】
次に、TF−SSの分散性を向上させるために、さらに、ポリエチレングリコール20000を加えた。加えるポリエチレングリコール20000の量は、加えたTF−SSを100重量%としたとき、1重量%に相当する量とした。その後、自転公転ミキサーで攪拌し、紫外線遮蔽用オーバーコート剤Aを得た。
(a−2)紫外線遮蔽用オーバーコート剤Bの調製
TF−SSの代わりに、同量のTF−Lを用いる点以外は、紫外線遮蔽用オーバーコート剤Aの場合と同様にして、紫外線遮蔽用オーバーコート剤Bを調製した。なお、TF−Lは、大塚化学株式会社製の薄片状酸化チタンであり、その平均粒径は35.1μmである。
(b)石英基板表面への紫外線遮蔽用オーバーコート層の形成
前記(a−1)で調製した紫外線遮蔽用オーバーコート剤Aを、スプレーによる一度塗りで、50mm×50mmの石英基板に塗布し、室温で16時間以上乾燥させ、紫外線遮蔽用オーバーコート層Aを形成した。紫外線遮蔽用オーバーコート剤Aの塗布量は、コート剤重量として、0.03Kg/m2、0.06Kg/m2、0.08Kg/m2、0.11Kg/m2、0.14Kg/m2の5種類とした。なお、塗布方法は、スプレーによる方法以外に、キャストコート又はハケによる塗布方法であってもよい。
【0029】
また、前記(a−2)で調製した紫外線遮蔽用オーバーコート剤Bを、スプレーによる一度塗りで、50mm×50mmの石英基板に塗布し、室温で16時間以上乾燥させ、紫外線遮蔽用オーバーコート層Bを形成した。紫外線遮蔽用オーバーコート剤Bの塗布量は、コート剤重量として、0.03Kg/m2、0.06Kg/m2、0.08Kg/m2、0.11Kg/m2、0.14Kg/m2の5種類とした。なお、塗布方法は、スプレーによる方法以外に、キャストコート又はハケによる塗布方法であってもよい。
【0030】
紫外線遮蔽用オーバーコート層A、及び紫外線遮蔽用オーバーコート層Bを、走査型電子顕微鏡(Hitachi製FE-SEM S-4800)を用いて観察し、薄片状酸化チタンの平均粒径を算出した。その結果、紫外線遮蔽用オーバーコート層Aでは、薄片状酸化チタンの平均粒径は約3μmであり、紫外線遮蔽用オーバーコート層Bでは、薄片状酸化チタンの平均粒径は約35μmであった。なお、平均粒径の算出に用いた紫外線遮蔽用オーバーコート層A、Bの表面を表す電子顕微鏡写真を図1、図2に示す。
(c)発明の効果を確かめるための試験とその結果
(i)紫外線遮蔽性の試験
前記(b)で紫外線遮蔽用オーバーコート層A、Bを形成した石英基板について、紫外線遮蔽率を測定した。測定方法は次のとおりとした。
【0031】
紫外線照射の条件は、人工太陽灯を用い、照射強度は、波長365nmにおいて、3mW/cm2となる強度とした。UV強度計(TORAY製、UV−500)のセンサーの上に、石英ガラスのみ(コーティングなし)を載せたときの紫外線強度と、サンプルを載せたときの紫外線強度とをそれぞれ測定した。石英ガラスのみを載せたときの紫外線強度を100としたとき、サンプルを載せたときの紫外線強度がTであったとすると、(100−T)を紫外線遮蔽率とした。紫外線遮蔽率は、波長365nm(UV−A)、254nm(UV−C)において、それぞれ測定した。
【0032】
測定結果を表1に示す。なお、表1には、石英ガラスのみ(コーティングなし)の場合の紫外線遮蔽率もあわせて示す。
【0033】
【表1】

表1に示すように、紫外線遮蔽用オーバーコート剤Aの塗布量が0.11Kg/m2以上である紫外線遮蔽用オーバーコート層Aを形成した石英基板は、波長365nm(UV−A)において、紫外線遮蔽率が95%以上となった。
【0034】
また、紫外線遮蔽用オーバーコート剤Bの塗布量が0.14Kg/m2以上である紫外線遮蔽用オーバーコート層Bを形成した石英基板は、波長365nm(UV−A)において、紫外線遮蔽率が90%以上となった。
(ii)視認性の試験
前記(b)で紫外線遮蔽用オーバーコート層A、Bを形成した石英基板について、視認性を試験した。試験方法は次のとおりとした。
【0035】
オーバーコート層を形成した石英基板の下に14ポイントの大きさで書かれた文字が書かれた紙を置いた。石英基板の上から、その文字が目視で識別できるか否かにより、視認性を評価した。
【0036】
紫外線遮蔽用オーバーコート層Aを形成した石英基板における文字の見え方を図3に示す。この図3に示すように、少なくとも、紫外線遮蔽用オーバーコート剤Aの塗布量が0.14Kg/m2以下の塗布量のときは、文字が認識できることがわかった。
【0037】
紫外線遮蔽用オーバーコート層Bを形成した石英基板における文字の見え方を図4に示す。この図4に示すように、少なくとも、紫外線遮蔽用オーバーコート剤Bの塗布量が0.14Kg/m2以下の塗布量のときは、文字が認識できることがわかった。
(iii)コンクリート中性化保護材との相性に関する試験(その1)
70mm×150mmの強化繊維セメント板に、大日本塗料社製コンクリート保護材(エポキシ樹脂系レジガード#200EH)を塗布し、次に、紫外線遮蔽用オーバーコート剤Aを塗布した。その後、時間が経過しても、表面の色の変化やクラック等の問題は観測されなかった。
【0038】
また、紫外線遮蔽用オーバーコート剤Aの代わりに、紫外線遮蔽用オーバーコート剤Bを用い、同様の試験を行ったが、この場合も、塗布後、時間が経過しても、表面の色の変化やクラック等の問題は観測されなかった。
【0039】
この結果から、紫外線遮蔽用オーバーコート剤A、Bと大日本塗料社製コンクリート保護材との相性が良いことが分かった。
(iv)コンクリート中性化保護材との相性に関する試験(その2)
70mm×150mmの強化繊維セメント板に、まず、下塗り材として、プライマー(オバナ・セメンテックス社製、OSプライマーERS)を塗布し、次に、中塗り材として、エラスメントEJ(オバナ・セメンテックス社製、混和液にエラスメントEJ粉体を6対11で混合したもの)を塗布し、最後に、紫外線遮蔽用オーバーコート剤Aを塗布した。その後、時間が経過しても、表面の色の変化やクラック等の問題は観測されなかった。
【0040】
また、紫外線遮蔽用オーバーコート剤Aの代わりに、紫外線遮蔽用オーバーコート剤Bを用い、同様の試験を行ったが、この場合も、塗布後、時間が経過しても、表面の色の変化やクラック等の問題は観測されなかった。
【0041】
この結果から、紫外線遮蔽用オーバーコート剤A、Bと上記のプライマー、中塗り材との相性が良いことが分かった。
(比較例)
石英基板に、従来から上塗り材として使用されているフッ素樹脂系レジガードSF(大日本塗料株式会社)を塗布した。これを図5に示す。基板の表面は灰色であり、透明性は全く無かった。
【0042】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】紫外線遮蔽用オーバーコート層Aの表面を表す電子顕微鏡写真である。
【図2】紫外線遮蔽用オーバーコート層Bの表面を表す電子顕微鏡写真である。
【図3】紫外線遮蔽用オーバーコート層Aの視認性に関する試験の結果を表す写真である。
【図4】紫外線遮蔽用オーバーコート層Bの視認性に関する試験の結果を表す写真である。
【図5】石英基板にフッ素樹脂系レジガードSFを塗布した状態を表す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄片状酸化チタンを含むことを特徴とする紫外線遮蔽用オーバーコート剤。
【請求項2】
シリコン系バインダーを含むことを特徴とする請求項1記載の紫外線遮蔽用オーバーコート剤。
【請求項3】
前記薄片状酸化チタンの平均粒径が3〜40μmの範囲にあることを特徴とする請求項1又は2記載の紫外線遮蔽用オーバーコート剤。
【請求項4】
コンクリートの保護を用途とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の紫外線遮蔽用オーバーコート剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の紫外線遮蔽用オーバーコート剤を下地上に塗布することを特徴とする紫外線遮蔽用オーバーコート層の形成方法。
【請求項6】
前記下地がコンクリートであることを特徴とする請求項5記載の紫外線遮蔽用オーバーコート層の形成方法。
【請求項7】
基材と、
前記基材の表面に形成された、薄片状酸化チタンを含む紫外線遮蔽用オーバーコート層と、
を備える部材。
【請求項8】
前記紫外線遮蔽用オーバーコート層は、シリコン系バインダーを含むことを特徴とする請求項7記載の部材。
【請求項9】
前記薄片状酸化チタンの平均粒径が3〜40μmの範囲にあることを特徴とする請求項7又は8記載の部材。
【請求項10】
前記基材がコンクリートであることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−111546(P2010−111546A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286469(P2008−286469)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【出願人】(000206901)大塚化学株式会社 (55)
【Fターム(参考)】