説明

細径ケーブルハーネス及びその製造方法

【課題】複数本の細径ケーブル同士が確実にシールされた止水部を備えた細径ケーブルハーネス及びその製造方法を提供する。
【解決手段】複数本の細径ケーブル11を有し、少なくとも長手方向の1箇所に樹脂によって一体化されたシール部3が設けられた細径ケーブルハーネス10であって、シール部3は、細径ケーブル11が並列され、この並列箇所で細径ケーブル11が並列方向に沿って交互に並列面の上下に配置されて間隙Gが形成され、間隙Gに紐61が通され、間隙Gを含む並列箇所が充填された樹脂によって一体化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本の細径ケーブルを束ねた細径ケーブルハーネス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末や小型ビデオカメラなどの精密小型機器は、互いにスライド可能あるいは回動可能に連結された筐体内の回路基板を配線材によって接続している。このような配線材として、筐体の挿入口における防水性を確保するために、複数の同軸線と一体化するように形成されたシール部を備え、シール部が、複数の同軸線の間隙を充填する間隙充填部と、複数の同軸線を取り囲む周縁部とを有するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2010/095334号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなシール部では、同軸線同士の間に樹脂が十分に充填されている必要がある。しかし、単に同軸線を束ねると、同軸線同士の間は、その同軸線に沿って微細な間隙しかない状態または全く隙間が無い状態となってしまう。このような状態は、樹脂が充填されづらく、シール部を縦断する連続間隙が同軸線に沿って形成されるおそれがある。すると、その連続間隙を水が伝ってしまい、シール部における防水が不十分となってしまう。
【0005】
本発明の目的は、複数本の細径ケーブル同士が確実にシールされた止水部を備えた細径ケーブルハーネス及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することのできる本発明の細径ケーブルハーネスは、複数本の細径ケーブルを有し、少なくとも長手方向の1箇所に樹脂によって一体化された止水部が設けられた細径ケーブルハーネスであって、
前記止水部は、前記細径ケーブルが並列され、この並列箇所で前記細径ケーブルが並列方向に沿って交互に並列面の上下に配置されて間隙が形成され、前記間隙に線条体が通され、前記間隙を含む前記並列箇所が充填された前記樹脂によって一体化されていることを特徴とする細径ケーブルハーネス。
【0007】
また、本発明の細径ケーブルハーネスの製造方法は、複数本の細径ケーブルを有し、少なくとも長手方向の1箇所に樹脂によって一体化された止水部が設けられた細径ケーブルハーネスの製造方法であって、
前記細径ケーブルを並列させ、この並列箇所で前記細径ケーブルを並列方向に沿って交互に並列面の上下に配置させて間隙を形成し、前記間隙に線条体を通し、前記間隙を含む前記並列箇所に前記樹脂を充填して一体化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、細径ケーブルの間隙に線条体が通されて間隙が適度な大きさに維持され、この間隙に樹脂が充填されているので、止水部を縦断するような連続間隙が確実になくされる。よって、止水部における確実なシール状態を確保することができる。これにより、細径ケーブルハーネスの止水部を介して筐体の内部に水が浸入するような不具合を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る細径ケーブルハーネスを用いた携帯電話機の例であり、(a)は閉じた状態、(b)は開いた状態、(c)は表示部を表にして閉じた状態、を示す図である。
【図2】図1の携帯電話機内における細径ケーブルハーネスの実施形態例の配設構造を示す断面図である。
【図3】本発明に係る細径ケーブルハーネスの一実施形態例を示す斜視図である。
【図4】図3の細径ケーブルハーネスの配設構造を示す断面図である。
【図5】図3の細径ケーブルハーネスのシール部を示し、(a)はシール部の斜視図、(b)はシール部の断面図である。
【図6】本発明に係る細径ケーブルハーネスの製造方法を示す斜視図である。
【図7】本発明に係る細径ケーブルハーネスの製造方法を示す斜視図である。
【図8】本発明に係る細径ケーブルハーネスの製造方法を示す斜視図である。
【図9】本発明に係る細径ケーブルハーネスの製造方法を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る細径ケーブルハーネス及びその製造方法の実施形態の例について、図面を参照しつつ説明する。
図1(a)に示すように、本実施形態に係る細径ケーブルハーネスは、例えば、携帯電話機50などのヒンジ構造40で連結された、キー操作部筐体20と、表示部筐体30とを備えた機器に用いられる。
【0011】
図1(a)では、表示部筐体30は、裏面を表にしてキー操作部筐体20の上に閉じている。表示部筐体30は、ヒンジ構造40のX軸周り及びY軸周りに回動可能である。
図1(b)に示すように、キー操作部筐体20には、キー21が配列されている。キー21の操作による電気信号は、キー操作部筐体20内の配線回路(図示省略)から、表示部筐体30内の配線回路(図示省略)へと伝達される。この電気信号の伝達に、本実施形態に係る細径ケーブルハーネスが用いられる。
【0012】
ヒンジ構造40は、Y軸回転軸機構のカバー41を中央にして、左側がX軸回転軸機構Aを含む部分であり、右側が表示部筐体30とキー操作部筐体20とを通電接続する細径ケーブルハーネスを収納する収納部Bを含む部分である。X軸回転軸機構A及び収納部Bは、中央部のカバー41を中央にしてY軸周りに回動する。
【0013】
表示部筐体30は、図1(c)に示すように、Y軸周りに180°回動させ、収納部Bを左側にしてX軸回転軸機構Aを右側にしたり、また、図1(a)に示す状態からX軸周りに回動させて、表示部31を表側にして表示部筐体30をキー操作部筐体20に重ねて閉じた状態とすることができる。
【0014】
図2に、携帯電話機50内における細径ケーブルハーネスの配設構造の例を示す。キー操作部筐体20の中のスペース25には配線回路(図示省略)があり、表示部筐体30の中のスペース35にも配線回路(図示省略)がある。携帯電話機50では、ヒンジ部分に水が浸入しても、スペース25,35の両方ともに、水の浸入が生じないようにする必要がある。
【0015】
本実施形態の細径ケーブルハーネス10は、キー操作部筐体20に挿入される部分と、表示部筐体30に挿入される部分との両方に、シール構造部Sを備えている。シール構造部Sは、複数本の細径ケーブル11に射出成形で樹脂によって一体化するように形成されたシール部(止水部)3と、そのシール部3に巻き付けられたOリング13とで構成される。
【0016】
ヒンジ構造40では、中央カバー41の下のY軸回転軸機構の軸部42は円筒状であり、キー操作部筐体20に固定されている。表示部筐体30は、Y軸周りに回動するとき、軸部42の周りに回動するが、ヒンジ構造40に含まれるX軸回転軸機構Aおよび細径ケーブルハーネス10の収納部Bも、表示部筐体30とともにY軸周りに回動する。この軸部42の円筒状の内筒が細径ケーブルハーネス10の挿入口になっている。
【0017】
細径ケーブルハーネス10は、その両端にコネクタ19が取り付けられている。細径ケーブルハーネス10は、表示部筐体30に設けた挿入口に、防水性のシール構造部Sを嵌め込み、細径ケーブルハーネス10の収納部Bを経由して、ヒンジ構造40のY軸回転軸機構に含まれる円筒部(キー操作部筐体20に開口)の挿入口に、もう一方のシール構造部Sを嵌め込んでいる。
【0018】
上記のように、X軸及びY軸の周りに回動できる二軸のヒンジ構造40によって連結された2つの筐体20,30間を、防水性を確保した上で導通接続するのに、本実施形態における細径ケーブルハーネス10は非常に適している。すなわち、細径ケーブルハーネス10の収納部Bには、複数本の細径ケーブル11がそのまま(捻回及び粘着テープによる捻回状態の固定はある)の状態で配置され、チューブ等のシース部品は用いなくてよい。このため、収納部Bを小型化し、かつ細径ケーブルハーネス10の挿入口の構造についても簡単化することができる。
【0019】
細径ケーブル11としては、AWG(American Wire Gauge)の規格によるAWG40よりも細い同軸ケーブルが用いられ、AWG44よりも細い極細同軸ケーブルを用いるのが望ましい。これにより、細径ケーブルハーネス10は、曲がり易く、筐体20,30が互いに回動等するときの抵抗を小さくすることができる。また、複数本の細径ケーブル11を束ねたときに、束の部分の厚さを薄くすることができ、限られた配線スペースでの高密度配線を可能とする。
【0020】
図3に示すように、細径ケーブルハーネス10では、シール構造部Sが、上述のように、複数本の細径ケーブル11に射出成形より一体化された樹脂成形体であるシール部3と、そのシール部3に巻き付けられたOリング13とで構成される。
【0021】
図4に示すように、筐体20,30の挿入口に嵌め込まれたシール構造部Sは、ヒンジ構造40が水にぬれても、筐体内25,35への水の浸入を防止する。複数本の細径ケーブル11は、外被であるジャケットが絶縁性の樹脂で形成されるので、撥水性があり、水に濡れてもジャケット自体が水の浸入経路となることはない。
【0022】
図5(a)に示すように、樹脂成形体であるシール部3は、複数の細径ケーブル11に一体化されている。図5(b)に示すように、1本の細径ケーブル11は、芯部に位置する信号線11aと、その周囲のシールド線11gと、信号線11aとシールド線11gとを絶縁する層である絶縁層11dと、シールド線11gを被覆する外被であるジャケット11sとで構成された同軸ケーブルである。なお、細径ケーブルハーネス10には、複数本の同軸ケーブルの他に、外部導体のない絶縁ケーブルが含まれていても良い。
【0023】
シール部3には、Oリング用の溝3cが設けられ、外周面3aに対して溝底面3bを持つ。溝3cには、Oリング13が巻き付けられる。Oリング13を用いることで、シール構造部Sを直接構成する部分の寸法精度などの緩和をはかりながら、確実な防水性を得ることができる。
【0024】
樹脂成形体であるシール部3は、複数の細径ケーブル11に一体化されている。しかし、それだけでは防水性の機能を果たすために十分であるとはいえない。例えば、個々の細径ケーブル11の間に微細な間隙があり、その間隙が、細径ケーブル11に沿って連通していては、防水性の機能を得ることはできない。
【0025】
そのため、図5(a),(b)に示すように、シール部3は、細径ケーブル11同士の間隙を充填する間隙充填部3jと、複数の細径ケーブル11を取り囲む周縁部3sとを有している。
【0026】
間隙充填部3jは、少しの間隙も残さず完全に充填することが望ましいが、少しの間隙(孔)があっても間隙が連通してシール部3を縦断するような連続間隙を形成しなければよい。つまり、間隙を最低限、連通して通り抜け可能な連続間隙としない程度に、間隙充填部3jには樹脂を充填する必要がある。
【0027】
しかし、樹脂の充填時に、間隙充填部3jとなる部分の細径ケーブル11同士の間隙が狭く微細であると、この間隙への樹脂の充填が円滑に行われず、細径ケーブル11の長手方向に沿って連続間隙が形成されるおそれがある。
【0028】
このため、本実施形態の細径ケーブルハーネス10では、シール部3において、細径ケーブル11が並列され、この並列箇所における複数箇所で細径ケーブル11が並列方向に沿って交互に上下に配置されて適度な大きさの間隙Gが形成され、この間隙Gに紐(線条体)61が通されている。そして、各細径ケーブル11同士は、紐61が通されたことにより、間隙Gが適度な大きさに維持され、この間隙Gに樹脂が充填されて間隙充填部3jとされている。
【0029】
細径ケーブル11が並列されて並列方向に沿って交互に並列面の上下に配置された細径ケーブル11同士の間隙Gに樹脂が充填されることにより、シール部3を縦断するような連続間隙が形成されることがなく、シール部3における確実なシール状態を確保することができる。これにより、細径ケーブルハーネス10のシール部3を介して筐体20,30の内部に水が浸入するような不具合を確実に防止することができる。
【0030】
また、樹脂成形体であるシール部3は、ジャケット11sとなじんで連続する樹脂として形成され、シール部3とジャケット11sとの接合強度は高いことが望ましい。
【0031】
例えば、細径ケーブル11のジャケット11sの樹脂とシール部3を構成する樹脂とが同じであれば、同材接続となり、材料的に連続性を得て、接合強度を高める上で有効である。例えば、ジャケット11s及びシール部3の樹脂をエチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)とすれば、ジャケット11sと同じ射出成形が行われるため、射出成形による一体化は同材料の接続となる。このため、接続一体化を円滑に行うことができ、接続強度を高くすることができる。また、同様に、ジャケット11s及びシール部3の樹脂をテトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー(PFA)としても、同材接続による接続一体化の円滑化及び接続強度の向上を図ることができる。
【0032】
また、細径ケーブル11のジャケット11sの樹脂とシール部3の樹脂とは必ずしも同じでなくても良い。例えば、ジャケット11sをETFEとし、シール部3をPFAとすれば、シール部3の射出成形が、ジャケット11sよりも高温の溶融状態の樹脂によって行われることとなる。このため、ジャケット11sとのなじみを良くすることができ、また、ジャケット11sを溶融させながら一体化が行われるので、ジャケット11sとシール部3との接続強度を向上させることができる。なお、本実施の形態では、シール部3と複数の細径ケーブル11との接触面は、相互に融けて融着していてもよいし、融着していなくても良い。
【0033】
また、本発明は、コネクタ19を装着せずに、細径ケーブルハーネス10の細径ケーブル11を配線基板またはFPC(Flexible Printed Circuits)へ接続する場合にも適用可能である。
【0034】
次に、上記の細径ケーブルハーネス10を製造する方法について説明する。
まず、複数本の細径ケーブル11の両端にコネクタ19を接続して細径ケーブルハーネス10とする。コネクタ19は後でつけてもよい。
図6に示すように、複数本の細径ケーブル11を二つの群に分割し、それぞれの群の細径ケーブル11を並列に配置させる。このとき、隣接する細径ケーブル11の間に、1本の細径ケーブル11分のスペースをあけ、ラミネートテープ62を貼り付けて整線する。
【0035】
次に、図7に示すように、並列させたそれぞれの細径ケーブル11の群の一方を湾曲させ、この湾曲させた群の細径ケーブル11を、他方の群の細径ケーブル11の間へ挿入して互い違いに配置させる。これにより、細径ケーブルハーネス10の並列箇所において、細径ケーブル11を並列方向に沿って交互に上下に配置させる。このようにすると、細径ケーブルハーネス10には、3箇所に間隙Gが形成される。
【0036】
さらに、図8に示すように、各間隙Gに線条体である紐61を通し、間隙Gを適度な大きさに維持させる。具体的には、紐61を折り返し、この紐61の折り返し部分を中央の間隙Gへ挿入し、紐61の両端側を折り返して両側の間隙Gへ配置させる。
【0037】
次に、図9に示すように、紐61の折り返し部分へ紐61の両端を通し、紐61の両端を軽く引っ張る。また、この紐61を、細径ケーブルハーネス10の長手方向へ移動させ、シール部3を形成する部分に配置させる。
【0038】
その後、シール部3の射出成形では、上記の紐61を、金型の所定位置を通り抜けるように配置させ、紐61を装着して間隙Gを適度な大きさに維持させたシール部3となる所定箇所を金型内に配置する。その後、樹脂導入口であるゲートを経由させて金型内へ溶融状態の樹脂をノズルから所定の圧力で射出する。
【0039】
このようにすると、細径ケーブル11の周囲及び紐61によって適度な大きさに維持された細径ケーブル11同士の間隙Gへ樹脂が充填される。冷却した後、細径ケーブルハーネス10を金型から取り出すと、縦断するような連続間隙のないシール性に優れたシール部3を有する細径ケーブルハーネス10を得ることができる。
【0040】
なお、シール部3の射出成形において、シール部3となる所定箇所をフラットな状態として金型へ配置させて樹脂を充填してシール部3を成形したが、シール部3となる所定箇所を巻いて束にしてから金型へ配置させて樹脂を充填してシール部3を成形しても良い。また、間隙Gの形成数は、一つのシール部3において、少なくとも長手方向の1箇所設けられていれば良く、3箇所に限定されない。
【符号の説明】
【0041】
3:シール部(止水部)、11:細径ケーブル、10:細径ケーブルハーネス、61:紐(線条体)、G:間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の細径ケーブルを有し、少なくとも長手方向の1箇所に樹脂によって一体化された止水部が設けられた細径ケーブルハーネスであって、
前記止水部は、前記細径ケーブルが並列され、この並列箇所で前記細径ケーブルが並列方向に沿って交互に並列面の上下に配置されて間隙が形成され、前記間隙に線条体が通され、前記間隙を含む前記並列箇所が充填された前記樹脂によって一体化されていることを特徴とする細径ケーブルハーネス。
【請求項2】
複数本の細径ケーブルを有し、少なくとも長手方向の1箇所に樹脂によって一体化された止水部が設けられた細径ケーブルハーネスの製造方法であって、
前記細径ケーブルを並列させ、この並列箇所で前記細径ケーブルを並列方向に沿って交互に並列面の上下に配置させて間隙を形成し、前記間隙に線条体を通し、前記間隙を含む前記並列箇所に前記樹脂を充填して一体化させることを特徴とする細径ケーブルハーネスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−119130(P2012−119130A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266665(P2010−266665)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】