説明

細胞の示差的標識

本発明は、再ミエリン化またはミエリン修復に関連するマーカー遺伝子の神経細胞特異的発現を示す動物モデルの産生に関連する。本発明において例示された組成物および方法は、脱髄疾患の薬剤スクリーニングおよび/または治療のために、特に再ミエリン化を促進または阻害する化合物の同定において、特に有用である。グリア細胞の亜集団は、成熟または前駆オリゴデンドロサイトである。さらに、その細胞の亜集団は、再ミエリン化および/またはミエリン化し得る。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ニューロンの脱髄は、神経系のミエリンの減少によって特徴付けられる有害な状態である。ミエリンは、中枢神経系(CNS)および末梢神経系(PNS)の重要な構成成分であり、ニューロンの軸索を包み、そしてミエリン鞘と呼ばれる絶縁層を形成する。ミエリン鞘の存在は、軸索を伝播する電位の形式の神経シグナルの速度および完全性を増強する。ミエリン鞘の喪失は、神経シグナルがその標的に到達するのがあまりに遅い、非同期的(例えば神経におけるある軸索が他のものより早く伝導する)、間欠的(例えば伝導が高周波でのみ損傷される)、または全く到達しないので、感覚、運動および他の型の機能に有意な障害を生じる。
【0002】
神経組織は、ニューロンおよび支持細胞またはグリア細胞を含む。グリア細胞は、哺乳類脳において、約10対1でニューロンより数が多い。グリア細胞を、4つの型:星状細胞、オリゴデンドロサイト、シュワン細胞、およびミクログリア細胞に分類し得る。ミエリン鞘は、ある型のグリア細胞、すなわちCNSにおいてはオリゴデンドロサイト、およびPNSにおいてはシュワン細胞の細胞膜または原形質膜によって形成される。ミエリン形成の活発な時期の間、CNS中の各オリゴデンドロサイトは、1日あたり約5000μmのミエリン表面領域を、そして1分あたり約10のミエリンタンパク質分子を産生しなければならない(Pfeifferら、Trends Cell Biol.3:191−197(1993))。ミエリン化オリゴデンドロサイトが脱髄病変において同定され、脱髄した軸索を、新規に合成されたミエリンで修復し得ることを示唆する。
【0003】
ニューロンの脱髄は、CNSおよびPNSの多数の遺伝性および後天性の疾患において現れる。これらの疾患は、多発性硬化症(MS)、進行性多巣性白質脳症(PML)、脳脊髄炎、橋中心髄鞘崩壊症(CPM)、抗MAG疾患、白質ジストロフィー、副腎白質ジストロフィー(ALD)、アレキサンダー病、カナバン病、クラッベ病、異染性白質ジストロフィー(MLD)、ペリツェウス・メルツバッハー病、レフサム病、コケイン症候群、Van der Knapp症候群、およびツェルウェガー症候群、ギラン・バレー症候群(GBS)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパシー(CIDP)、および多巣性運動ニューロパシー(MMN)を含む。これらの疾患の大部分に関して、治癒はなく、そして有効な治療はほとんどない。
【0004】
多発性硬化症は、最もよくある中枢神経系の脱髄性疾患であり、世界で約6,000,000人、および米国において250,000から350,000人が冒されている。その疾患は、再発および寛解によって臨床的に特徴付けられ、最終的には慢性の能力障害を引き起こす。多発性硬化症の初期は、ミエリン鞘に対する自己免疫炎症性攻撃によって特徴付けられ、麻痺、協調の欠如、感覚の障害、および視力障害を引き起こす。続く疾患の慢性進行期は、典型的にはミエリン鞘の活発な変性および脱髄病変の不適切な再ミエリン化のためである(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。
【0005】
オリゴデンドロサイトが脱髄疾患の主な標的細胞であり、そしてこれらの疾患からの回復は、オリゴデンドロサイトによる正常なミエリンの修復を必要とすることが公知である。しかし、再ミエリン化は多くの場合非効率的な過程であり、有意な能力障害および/または死を引き起こす。再ミエリン化の主要な細胞メカニズムは、発生のミエリン形成とは異なり得るという証拠が蓄積されつつある(非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7;非特許文献8;非特許文献9)。従って、再ミエリン化を理解することが、ミエリン修復の原因、効果および寛解オプションを同定することの重要な局面の1つである。実際、MS研究における大きなチャレンジは、再ミエリン化の失敗の原因を理解すること、およびその結果を軽減する方法を考案することである。近年、いくつかの証拠が、MSにおける脱髄病変が、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を欠損しておらず、むしろ再ミエリン化の失敗はオリゴデンドロサイトの不十分な再増殖と関連することを示唆した(非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12)
現在、再ミエリン化された軸索を同定する能力は、そのような軸索のミエリン鞘は、より薄い傾向があるという前提に基づき、それは同定のために電子顕微鏡(EM)分析を必要とする。EM分析は、インビボにおける再ミエリン化の日常的な分析のためには、特に脱髄と再ミエリン化が1つの特定の部位に正確に位置していないかもしれない実験的自己免疫脳脊髄炎(EAE)のような状況においては、非常に困難および高価である。従って、ニューロンの再ミエリン化の分子的基礎の同定および解明を促進し得る方法および組成物に対する大きな必要性が依然として存在する。再ミエリン化を促進するために有効な生物学的に活性な薬剤を開発すること、および再ミエリン化を阻害し得る薬剤を同定することの差し迫った必要性も存在する。同じことがニューロンの損傷にあてはまる。
【0006】
ニューロンの損傷は、神経系の多くの有害な状態の原因である。CNSのニューロンは、低い再生能力しか有さず、そして従って、CNSに対する損傷は、多くの場合機能的な障害を引き起こし、それはほとんど不可逆的である。脳卒中、外傷、または他の原因によって起こる損傷は、認知、感覚、および運動機能、およびさらに生命機能の維持における一生の喪失を引き起こし得る。アルツハイマー病、パーキンソン病、脳卒中、頭部および脊髄の外傷のような多くの疾患は、全てCNSに対する損傷と関連し、それは多くの場合重症であり、長く続き、または永続的でさえある。
【0007】
失われたニューロン細胞は、通常置換されず、そして残ったものは一般的に切断された連結を再生することはできないが、制限された量の局所のシナプス再編成が、損傷部位の近くで起こり得る。CNSにおける再生失敗は、多くの因子に起因し、それらは軸索の成長を抑制するグリア細胞の表面における阻害分子の存在、成長を育成するラミニンのような適当な基質分子の欠如、および細胞の生存および分化に必要な遺伝子発現のプログラムを活性化するために必要な、適当な栄養因子の欠如を含む。
【0008】
PNSのニューロンは、比較的高い再生能力を有する。例えば、非特許文献13を参照のこと。損傷した神経線維は、長い距離を越えて再び成長し、最終的には非常によく機能を回復する。その再生能力の違いは、内因性の違いのためではないことが報告され、例えばもし移植されたPNSの部分を通って成長する機会があれば、CNSのニューロンは遠い距離を越えてその軸索を延長する(例えば坐骨神経)。従って、CNSのニューロンは、細胞外環境から再成長を促進するシグナルを受け取れば、成長する能力を保持すると考えられる。損傷後に軸索を再生するニューロンの能力は、損傷したニューロンの内因性の因子および周囲の環境によって決定されると考えられる。広範な研究努力にも関わらず、ニューロンの再生に関わる正確な分子メカニズムの解明の進歩は、ニューロンの再生を確認および定量するための簡便な研究ツールおよびモデルがないことによって妨害されてきた。そのようであるので、ニューロンの再生の検出および定量を助ける方法および組成物に対する大きな必要性が依然として存在する。
【0009】
本発明は、これらの必要性を満たし、そして関連する利点も提供する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Franklin、Nat.Rev.Neurosci.3:705−714(2002)
【非特許文献2】Bruckら、J.Nuerol.Sci.206:181−185(2003)
【非特許文献3】Compstonら、Lancet 359:1221−1231(2002)
【非特許文献4】Franklin、Nat.Rev.Neurosci.3:705−714(2002)
【非特許文献5】Balabanovら、Nat.Neurosci.8:262−264(2005)
【非特許文献6】Farhadiら、J.Neurosci.23:10214−10223(2003)
【非特許文献7】Ruffiniら、Am.J.Pathol.165:2167−2175(2004)
【非特許文献8】Arnettら、Science 306:2111−2115(2004)
【非特許文献9】Stidworhtyら、Brain 127:1928−1941(2004)
【非特許文献10】Changら、J.Neurosci.20:6404−6412(2000)
【非特許文献11】Lucchinettiら、Brain 122:2279−2295(1999)
【非特許文献12】Maedaら、Ann.Neurol.49:776−785(2001)
【非特許文献13】HomerおよびGage、Nature 407:963−970(2000)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、脱髄の傷害時に、先在するミエリン化細胞と再ミエリン化細胞を区別する方法を提供する。その方法は、(a)神経細胞の集団に、複数の導入遺伝子を導入することであって、ここで少なくとも第1の導入遺伝子は第1の蛍光マーカータンパク質をコードし、そして第2の導入遺伝子は第2の蛍光マーカータンパク質をコードし、ここで当該第1のマーカータンパク質および当該第2のマーカータンパク質は、異なる検出可能な波長を放出し;そして当該第1の導入遺伝子の発現は、脱髄の誘導前に先在するミエリン化細胞を示し、そして当該第2の導入遺伝子の発現は、再ミエリン化細胞を示す;(b)当該神経細胞の集団を、脱髄傷害に供すること;および(c)当該第1のマーカーまたは当該第2のマーカータンパク質を発現する細胞を同定し、それによって当該先在ミエリン化細胞を当該再ミエリン化細胞から区別する工程を含む。本発明の方法はさらに、第2のマーカータンパク質を発現する細胞の数を計測することによって、再ミエリン化の程度を定量することを含み得る。1つの局面において、第1の導入遺伝子および第2の導入遺伝子を、ミエリン化細胞に特異的な調節エレメントと作動可能に連結するよう設計する。好ましい局面において、第2の導入遺伝子は、脱髄傷害時に再ミエリン化する能力を示す前駆細胞において発現される第3の導入遺伝子によって時間的に調節される。さらに好ましい局面において、第2の導入遺伝子は、当該第1の導入遺伝子の発現が抑制されているときに発現し、それを第1の導入遺伝子を発現オペロンから切り出すことによって行い得る。
【0012】
本発明はまた、神経損傷時に、先在ニューロンを再生ニューロンから区別する方法を提供する。その方法は、(a)ニューロン細胞の集団に、複数の導入遺伝子を導入することであって、ここで少なくとも第1の導入遺伝子は第1の蛍光マーカータンパク質をコードし、そして第2の導入遺伝子は第2の蛍光マーカータンパク質をコードし、ここで当該第1のマーカータンパク質および当該第2のマーカータンパク質は、異なる検出可能な波長を放出し;そして当該第1の導入遺伝子の発現は、神経損傷前の先在するニューロンを示し、そして当該第2の導入遺伝子の発現は再生ニューロンを示す;(b)当該ニューロン細胞の集団を、神経損傷に供すること;および(c)当該第1のまたは当該第2のマーカータンパク質を発現するニューロン細胞を同定し、それによって当該先在ニューロンを当該再生ニューロンから区別することを含む。1つの局面において、第2の導入遺伝子は、第1の導入遺伝子の発現が抑制される場合に発現する。別の局面において、第2の導入遺伝子の発現は、第3の導入遺伝子によって時間的に調節され、ここで第3の導入遺伝子は、軸索の損傷時に誘導される調節エレメントに作動可能に連結されており、そしてここで第3の導入遺伝子の発現時に、第1の導入遺伝子の発現は抑制される。
【0013】
本発明は、再ミエリン化を検出および定量するためのモデル系を提供するために設計された組成物および方法を提供する。1つの局面において、本発明は、その発現は外因性の薬剤によって誘導可能であるマーカータンパク質をコードする導入遺伝子を含むトランスジェニック動物を提供し、それによって、発現はグリア細胞において異なって発現する遺伝子由来の調節エレメントによって調節され、そしてここでこのマーカータンパク質の発現は、特定のグリア細胞の亜集団において異なって起こる。
【0014】
グリア細胞の亜集団は、成熟または前駆オリゴデンドロサイトである。さらに、その細胞の亜集団は、再ミエリン化および/またはミエリン化し得る。それに加えて、調節エレメントを、グリア細胞、特にミエリン化または再ミエリン化に関与するグリア細胞において異なって発現するあらゆる遺伝子から選択する。他の実施態様において、そのグリア細胞の亜集団は、シュワン細胞、星状細胞、ニューロンまたは軸索である;その細胞は成熟または前駆細胞であり得る。
【0015】
別の局面において、本発明は、2つまたはそれ以上のマーカータンパク質をコードする少なくとも2つの導入遺伝子を含むトランスジェニック動物を提供し、ここで1つまたはそれ以上のマーカータンパク質の発現は、外因性の物質によって時間的に調節され、ここで発現はグリア細胞の2つの異なる亜集団において異なって起こる。1つの例において、そのマーカータンパク質は蛍光マーカータンパク質であり、それぞれ異なる検出可能な波長を放出する。さらに、異なるマーカータンパク質の検出は、その動物の神経系における、再ミエリン化神経細胞の存在または欠如を示す。
【0016】
それに加えて、本発明は、本発明のトランスジェニック動物から得られる細胞を提供し、その細胞を細胞培養法のようなインビトロまたはインビボの方法において利用する。それに加えて、本発明は、細胞培養またはトランスジェニックの使用におけるような、インビボおよびインビトロの使用に適当であるベクターを提供する。
【0017】
本発明のそのトランスジェニック動物、細胞およびベクターは、ミエリン化を再ミエリン化から検出する、または検出および定量する、および区別するモデル系を提供する。そのモデル系は、2つのトランスジェニック動物を設計することを含み、それを続いて組み合わせてダブルトランスジェニック動物を産生する、その過程の概観を図2および3で説明する。
【0018】
本発明の1つの局面において、第1のトランスジェニック動物を、細胞特異的な方式で作用する遺伝子配列由来の転写調節領域を利用する、同族リコンビナーゼタンパク質を発現するよう設計する。それに加えて、そのリコンビナーゼを、例えば外因性の物質によって誘導された場合にのみ活性であるように遺伝子操作する。
【0019】
本発明の別の局面において、第2のトランスジェニック動物を、細胞特異的な方式で作用する遺伝子配列由来の転写調節領域を利用するレポーター遺伝子/産物を発現するよう設計する。1つの実施態様において、導入されるその遺伝子構築物は、2つの目的の遺伝子を、1つの転写ユニット由来のプロモーター/エンハンサーエレメントと組み合わせて含む。しかし、目的の第1の遺伝子は、転写終了シグナル(例えばストップコドン)を含み、そしてさらにその遺伝子は、同族のリコンビナーゼタンパク質(例えばCre)によって認識され得る配列に隣接される。さらに、もし第1の目的の遺伝子が切除されたときのみ発現する、第2の目的の遺伝子をこの遺伝子に作動可能に連結し、ここでそのような切除は、同族の隣接配列を認識するリコンビナーゼタンパク質の存在下で媒介され得る。それに加えて、発現が、目的のタンパク質を望ましい細胞膜に局在化させる細胞局在化シグナルを含むように、目的のタンパク質を設計する。従って、できたトランスジェニック動物は、第1のまたは第2の望ましい遺伝子産物を、それぞれ細胞特異的な方式で産生することができ、そしてここで第2の目的の遺伝子の発現は、第1の目的の遺伝子の部位特異的組換え切除に依存する。
【0020】
本発明のさらなる局面において、上記で記載した第1および第2のトランスジェニック動物を組み合わせて(すなわち交配して)、そして第1および第2の動物の導入遺伝子、誘導性のリコンビナーゼおよびレポーター遺伝子を含む子孫を選択する。本発明の子孫トランスジェニック動物は、再ミエリン化を同定および定量するためのシステムを提供する。1つの実施態様において、細胞特異的な方式でリコンビナーゼタンパク質を機能的に活性化するために分子をトランスジェニック動物に投与する。さらに、機能的なリコンビナーゼの発現は、第1の目的の遺伝子の切除を可能にし、そして従って第2の目的の遺伝子の細胞特異的な方式での発現を可能にする。従って、子孫トランスジェニック動物は、細胞特異的な方式でリコンビナーゼタンパク質の誘導性の形式を発現する。そのリコンビナーゼは、第1のレポーター遺伝子を切除し得、それによって第2の目的の遺伝子の、細胞特異的な方式での発現を可能にする。好ましい実施態様において、第1および第2の目的の遺伝子は、本明細書中でさらに記載されるように、蛍光タンパク質をコードする。
【0021】
好ましい実施態様において、選択された子孫トランスジェニック動物は、1つの細胞型において第1の目的の遺伝子を、そして第2の細胞型において第2の目的の遺伝子を発現する。従って、目的の遺伝子の発現のモニタリングにおいて、そのモデル系は、目的の特定の遺伝子の細胞特異的発現の同定および/または定量を可能にし、そしてそのような発現が、ミエリン化に対して再ミエリン化に相関するかどうかを区別することを可能にする。リコンビナーゼが調節可能に発現し、そして第1の目的の遺伝子が続いて切除される、そのトランスジェニック動物において、そのモデル系は、再ミエリン化に関連し得る、第2の目的の遺伝子の特異的検出および定量を可能にする。
【0022】
1つの実施態様において、第1のトランスジェニック動物を得るために使用する遺伝的構築物は、リコンビナーゼ遺伝子に作動可能に連結した、血小板由来成長因子α(PDGFα)受容体遺伝子をコードし、ここでそのリコンビナーゼは、CreERt2のような外因性の物質によって、機能的に調節(誘導)される。そのプロモーターは、内因性PDGFα受容体遺伝子からとる。そのリコンビナーゼは、合成ステロイドホルモン(タモキシフェン)の投与後に限っては誘導性であり、CreERt2タンパク質は、それが機能的である核内に移動する。それに加えて、第2の遺伝的動物を得るために、第2の遺伝的構築物を使用し、ここでその構築物は、「フロックス(floxed)」第1のマーカー遺伝子および、第1のマーカー遺伝子の下流に第2のマーカー遺伝子をコードし、ここで両方の遺伝子は、プロテオリピドタンパク質(PLP)プロモーターエレメントのコントロール下にある。できたトランスジェニック動物を続いて交配し、そして子孫の遺伝子型を同定して、第1および第2の遺伝子構築物を有する動物を同定する。そのようであるので、本発明のアッセイに使用される好ましい子孫は、ダブルトランスジェニック(F1)である。
【0023】
よって、本発明の1つの局面において、再ミエリン化をアッセイするために、組織培養の人工産物を含まない、トランスジェニック動物モデル系が提供される。さらに、本発明のある局面において、トランスジェニック動物の神経系に、侵襲性または非侵襲性の手順によって、物理的および神経毒性の負荷をかけ、ここでそのようなトランスジェニック動物を含むモデル系はまた、神経学的修復または毒性の検出の手段を提供する。さらに、そのモデル系は、トランスジェニック動物において、ある期間における、負荷の効果または生物学的に活性な薬剤の投与の効果をモニターすることを可能にする。さらに、そのような効果のモニタリングは、同じ動物において1回以上の機会であり得る。
【0024】
別の局面において、本発明は、(a)当該動物のゲノムに安定に組み込まれた、1つまたはそれ以上のレポーター遺伝子またはレポータータンパク質をコードするトランスジェニックヌクレオチド配列;および(b)動物においてそれぞれ細胞特異的に発現する、当該1つまたはそれ以上のレポーター遺伝子またはレポータータンパク質の神経細胞特異的発現を提供する能力を有する、非ヒトトランスジェニック動物を提供する。
【0025】
それに加えて、本発明は、トランスジェニック動物由来の細胞を含む。さらに、そのような細胞を、生化学的、生物学的製剤、またはミエリン形成機構現象を研究するための、細胞培養技術および細胞に基づくアッセイにおいて使用するために、さらに遺伝的に改変し得る。
【0026】
本発明はまた、再ミエリン化を促進する生物学的薬剤の候補を同定するためのシステムを提供するトランスジェニック動物を産生する方法を提供する。その方法は、(a)レポータータンパク質をコードする1つまたはそれ以上の遺伝子または遺伝子産物を異なって発現し得る遺伝子構築物を構築すること;(b)当該遺伝子構築物を、1匹またはそれ以上の動物に導入すること;(c)当該1つまたはそれ以上のレポータータンパク質の発現または発現の調節を検出すること;および(d)1つまたはそれ以上のレポータータンパク質の発現に基づいて、当該薬剤の投与に反応してニューロンのミエリン化および/または再ミエリン化が起こるかどうかを決定することを含む。
【0027】
関連するが別の実施態様において、本発明は、動物において再ミエリン化が起こるかどうかを決定する方法を提供する。その方法は、(a)トランスジェニック動物を提供する;(b)当該外因性物質を投与して、当該第3の導入遺伝子の発現を誘導する;(c)当該動物を脱髄傷害に供する;および(d)当該第1のおよび/または当該第2のマーカータンパク質の発現を検出し、それによって再ミエリン化が起こったかどうかを決定する工程を含む。
【0028】
本発明はまた、コントロール動物(すなわち薬剤が投与されない)と比較して、マーカー遺伝子/遺伝子産物の異なった細胞特異的発現を比較するために、生物学的に活性な薬剤を1匹の動物(すなわち試験動物)に投与するアッセイを提供し、ここでそのマーカー遺伝子産物を検出/定量して、薬剤の投与が再ミエリン化の調節を引き起こしたかどうかを決定する。
【0029】
本発明はさらに、細胞培養アッセイを利用して、ニューロンの再ミエリン化を促進する生物学的に活性な薬剤を開発する方法を提供する。その方法は、(a)本明細書中で記載された方法によって産生されたトランスジェニック動物から神経細胞を得て、そして培養すること;(b)生物学的に活性な薬剤の候補を、対象の脱髄病変由来のミエリン化細胞と接触させること;および(c)コントロール細胞と比較して、1つまたはそれ以上の遺伝子または遺伝子産物の変化した発現、または当該1つまたはそれ以上の遺伝子産物の変化した活性を検出すること、当該1つまたはそれ以上の遺伝子または遺伝子産物は、ミエリン形成および/または再ミエリン化と相関する;および(d)当該遺伝子または遺伝子産物の発現レベル、または当該遺伝子産物の活性レベルが、当該コントロール細胞と比較して調節されるなら、当該薬剤を候補として選択することを含む。
【0030】
関連するが別の実施態様において、本発明は、再ミエリン化を促進する物質の候補を同定する方法を提供する。その方法は、(a)複数のグリア細胞を提供すること、複数のうち少なくとも1つは第1の蛍光マーカータンパク質をコードする第1の導入遺伝子を、そして第2の蛍光マーカータンパク質をコードする第2の導入遺伝子を含み、ここで当該第2のマーカータンパク質は、当該第1のマーカータンパク質と区別でき、ここで当該第1のおよび当該第2のマーカータンパク質の発現は、外因性の物質によって時間的に調節されて、当該第1のマーカータンパク質の発現は、当該外因性物質による誘導の前に存在するミエリン化グリア細胞において起こり、そしてここで当該第2のマーカータンパク質の発現は、当該外因性物質による誘導時に再ミエリン化グリア細胞において起こる;(b)当該外因性物質を投与する;(c)当該細胞を脱髄傷害に供する;(d)当該細胞を、候補物質と接触させる;および(e)コントロールと比較して当該第1のおよび/または当該第2のマーカータンパク質からの蛍光シグナルを検出する工程を含み、ここで当該候補物質との接触後の当該第2のマーカータンパク質の当該蛍光シグナルの減少は、当該物質が再ミエリン化を阻害することを示す;そしてここで当該蛍光シグナルの増加は、当該候補物質が再ミエリン化を促進することを示す。
【0031】
本発明は、脱髄疾患に関連する現象を調節する生物学的に活性な薬剤に関して試験するための別の方法を提供する。その方法は、(a)本明細書中で記載された方法によって産生された試験トランスジェニック動物に、生物学的に活性な薬剤の候補を投与する;(b)当該試験動物においてニューロンの脱髄を誘導する、および(c)当該試験動物を、脱髄の誘導から十分な時間回復させ、脱髄病変の再ミエリン化が示され、それによって再ミエリン化を、1つまたはそれ以上のレポーター遺伝子産物の発現の同定によって検出する;および(d)脱髄疾患に関連する現象に対する当該薬剤の効果を決定する工程を含み、ここで当該1つまたはそれ以上のレポーター遺伝子産物の発現の減少または増加は、当該生物学的に活性な薬剤が再ミエリン化を調節することを示す。
【0032】
再ミエリン化に関連する現象は、中枢神経系のニューロン細胞において特徴付けられる。さらに、再ミエリン化に関連する現象は、中枢神経系または末梢神経系におけるミエリン化軸索の増加によって特徴付けられる。
【0033】
関連するが別の実施態様において、本発明は、候補物質が再ミエリン化を調節するかどうかを決定するための方法を提供する。その方法は、(a)トランスジェニック動物を提供する;(b)当該外因性物質を投与して当該第3の導入遺伝子の発現を誘導する;(c)当該動物を脱髄傷害に供する;(d)当該動物を、当該候補物質に接触させる;および(e)コントロールと比較して、当該第1のおよび/または当該第2のマーカータンパク質からの蛍光シグナルを検出する工程を含み、ここで当該候補物質への接触後の、当該第2のマーカータンパク質の当該蛍光シグナルの減少は、当該物質が再ミエリン化を阻害することを示す;およびここで当該蛍光シグナルの増加は、当該候補物質が再ミエリン化を促進することを示す。
【0034】
トランスジェニック動物およびその細胞を産生するために有用なベクターも、本発明においてさらに提供される。そのベクターは、(a)第1のマーカータンパク質をコードする第1の導入遺伝子(ここで当該第1の導入遺伝子の発現は、グリア細胞特異的調節エレメントのコントロール下にある);および(b)第2のマーカータンパク質をコードする第2の導入遺伝子を含み、ここで当該第2のマーカータンパク質は、当該第1のマーカータンパク質の発現が抑制された場合に発現し、およびここで当該第1のおよび第2のマーカータンパク質は、異なるタンパク質である。望ましい場合、そのベクターは第1および第2のマーカータンパク質をコードし、それらはそれぞれ蛍光であり、そして異なる検出可能な波長を放出する。本発明はまた、ベクターを含む細胞を提供する。1つの局面において、その細胞は、限定されないが、ニューロンおよびグリア細胞を含む神経細胞である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明によるミエリン化および再ミエリン化のシナリオを説明する。
【図2】ミエリン化および再ミエリン化シナリオの対応する構築物を説明する。
【図3】PDGFα/CreERT2およびPLP−TCR/mCherry−F/EGFP−Fの概略図を説明する;タモキシフェンなしで、その構築物は赤色の標識(mCherry)を発現し、一方タモキシフェンありで、Creが誘導され、そしてmCherryを切除し、そして緑色の標識(EGFP)が発現する。
【図4】血小板由来成長因子受容体アルファ(PDGFR−α)をコードしてPDGFR−α/CreERT2マウスを産生する、マウス遺伝子に対するCreERT2ノックインターゲティング構築物の概略図を示す。
【図5】CreERT2ノックインターゲティング構築物のプライマーの配列決定を示す。
【図6】陽性CreERT2ノックインリコンビナントESクローンを同定するためのPCRスクリーニング戦略およびプライマーを示す。
【図7】図6のPCRスクリーニング戦略由来のPCR産物を示す。
【図8】PLPをコードしてPLP/loxP−mCherry−loxP−EGFPマウスを産生する、マウス遺伝子に対するmCherry−EGFPノックインターゲティング構築物の概略図を示す。
【図9】mCherry−Fプラスミドのベクターマップを示す。
【図10】EGFP−Fプラスミドのベクターマップを示す。
【図11】pBS246プラスミドのベクターマップを示す。
【図12】PLPプロモーターカセットのダイアグラムを示す。
【図13】SPRR1/CreおよびTau/mCherry/EGFPの概略図を説明する;損傷なしで、その構築物は赤色の標識(mCherry)を発現し、一方損傷ありで、Creが誘導され、そしてmCherryを切除し、そして緑色の標識(EGFP)を発現する。
【図14】Nestin/CreERT2およびTIMP1/mCherry/EGFPの概略図を説明する:タモキシフェンなしで、その構築物は赤色の標識(mCherry)を発現し、一方タモキシフェンありで、Creが誘導され、そしてmCherryを切除し、そして緑色の標識(EGFP)を発現する。
【発明を実施するための形態】
【0036】
この開示を通して、様々な出版物、特許および公開された特許明細書が、引用を同定することによって参照される。これらの出版物、特許および公開された特許明細書の開示は、これによって本開示の参考文献に組み込まれて、本発明が属する最新技術をより完全に記載する。
【0037】
一般的な技術
本発明の実施は、他に示さなければ、免疫学、生化学、化学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、ゲノム科学および組換えDNAの従来の技術を採用し、それらは当該分野の技術の範囲内である。Sambrook、FritschおよびManiatis、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL、第2版(1989);CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(F.M.Ausubelら編(1987));METHODS IN ENZYMOLOGYシリーズ(Academic Press,Inc.);PCR2:A PRACTICAL APPROACH(M.J.MacPherson、B.D.HamesおよびG.R.Taylor編(1995))、HarlowおよびLane編(1988)ANTIBODIES,A LABORATORY MANUAL、およびANIMAL CELL CULTURE(R.I.Freshney編(1987))を参照のこと。
【0038】
定義
明細書および請求において使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかに他を示さなければ、複数の言及を含む。例えば、「細胞」という用語は、その混合物を含む、複数の細胞を含む。
【0039】
「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「ヌクレオチド配列」、「核酸」および「オリゴヌクレオチド」という用語は、交換可能に使用される。それらは、あらゆる長さのヌクレオチドのポリマー形式を指し、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド、またはそのアナログである。ポリヌクレオチドは、あらゆる3次元構造を有し得、そして公知または未知の、あらゆる機能を行い得る。以下は、ポリヌクレオチドの制限しない例である:遺伝子または遺伝子断片のコーディングまたはノンコーディング領域、連鎖解析から規定された遺伝子座(ローカス)、エキソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、あらゆる配列の単離DNA、あらゆる配列の単離RNA、核酸プローブ、およびプライマー。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログのような、修飾ヌクレオチドを含み得る。存在する場合には、ヌクレオチド構造に対する修飾は、ポリマーの構築の前または後になされる。ヌクレオチドの配列に、非ヌクレオチド構成成分を介在させ得る。重合の後、標識成分との結合のように、ポリヌクレオチドをさらに修飾し得る。
【0040】
「ヌクレオチドプローブ」または「プローブ」は、ハイブリダイゼーション反応において、その対応する標的ポリヌクレオチドを検出または同定するために使用するポリヌクレオチドを指す。
【0041】
「ハイブリダイゼーション」は、1つまたはそれ以上のポリヌクレオチドが反応して、ヌクレオチド残基の塩基間の水素結合によって安定化した複合体を形成する反応を指す。水素結合は、ワトソン−クリック塩基対形成、フーグスティーン結合、またはあらゆる他の配列特異的な方式で起こり得る。その複合体は、2本鎖構造を形成する2本の鎖、複数鎖の複合体を形成する3本またはそれ以上の鎖、1本の自己ハイブリダイズ鎖、またはこれらのあらゆる組み合わせを含み得る。ハイブリダイゼーション反応は、PCRの開始、またはリボザイムによるポリヌクレオチドの酵素的切断のような、より広範囲の過程の工程を構成し得る。
【0042】
ポリヌクレオチドに適用される「ハイブリダイズした」という用語は、ヌクレオチド残基の塩基間の水素結合によって安定化した複合体を形成する、ポリヌクレオチドの能力を指す。水素結合は、ワトソン−クリック塩基対形成、フーグスティーン結合、またはあらゆる他の配列特異的な方式で起こり得る。その複合体は、2本鎖構造を形成する2本の鎖、複数鎖の複合体を形成する3本またはそれ以上の鎖、1本の自己ハイブリダイズ鎖、またはこれらのあらゆる組み合わせを含み得る。ハイブリダイゼーション反応は、PCRの開始、またはリボザイムによるポリヌクレオチドの酵素的切断のような、より広範囲の過程の工程を構成し得る。
【0043】
本明細書中で使用される場合、「発現」は、ポリヌクレオチドがmRNAに転写される過程、および/または転写されたmRNA(「転写物」とも呼ばれる)が続いてペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質に翻訳される過程を指す。転写物およびコードされたポリペプチドは、集合的に「遺伝子産物」と呼ばれる。もしポリヌクレオチドがゲノムDNA由来であるなら、真核細胞において発現はmRNAのスプライシングを含み得る。
【0044】
対象におけるヌクレオチド配列またはポリペプチド配列に適用される「異なって発現した」は、コントロールにおいて検出されるものと比較した場合に、その配列の過剰発現または低発現を指す。低発現はまた、コントロールと比較した場合に、試験対象における検出可能な発現の欠如によって証明されるように、特定の配列の発現の欠如も含む。
【0045】
「ポリペプチド」「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、本明細書中で交換可能に使用されて、あらゆる長さのアミノ酸のポリマーを指す。そのポリマーは直鎖または分岐であり得、それは修飾アミノ酸を含み得、そしてそれは非アミノ酸によって中断され得る。その用語はまた、修飾されたアミノ酸ポリマー、例えばジスルフィド結合形成、糖鎖付加、脂質付加、アセチル化、リン酸化、または標識成分との結合のようなあらゆる他の操作も含み得る。本明細書中で使用される場合、「アミノ酸」という用語は、グリシンおよびDまたはL光学異性体の両方、およびアミノ酸アナログおよびペプチド模倣物を含む、天然および/または非天然または合成アミノ酸を指す。
【0046】
本明細書中で使用される場合、「ミエリン化細胞」は、神経系において軸索を絶縁するミエリンを産生し得る細胞を指す。代表的なミエリン化細胞は、中枢神経系においてミエリンの産生を司るオリゴデンドロサイト、および末梢神経系においてミエリンの産生を司るシュワン細胞である。
【0047】
「再ミエリン化する」または「再ミエリン化」という用語は、例えば脱髄傷害に対して反応した、ミエリンの再生を指す。
【0048】
「対象」、「個体」または「患者」は、本明細書中で交換可能に使用され、それは脊椎動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトを指す。哺乳類は、マウス、サル、ヒト、農耕動物、競技用動物、およびペットを含むがこれに限らない。インビボで得られた、またはインビトロで培養された、生物学的実体の組織、細胞、およびその子孫も含まれる。
【0049】
本明細書中で記載された動物モデルまたは細胞培養アッセイにおいて採用される、「生物学的に活性な薬剤」を、単純または複雑な有機または無機分子、ペプチド、ペプチド模倣物、タンパク質(例えば抗体)、リポソーム、低分子干渉RNA、またはポリヌクレオチド(例えばアンチセンス)のような、生物学的または化学的化合物からなる群から選択し得る。さらに、そのような薬剤は複雑な有機または無機分子を含み、粗製または精製植物抽出物のような、不均一な化合物の混合物を含み得る。
【0050】
「プロモーターエレメント」は、そのような配列に連結した遺伝子の転写を促進する調節性配列である。調節性配列は、エンハンサー配列またはその機能的な部分を含み得る。
【0051】
「コントロール」は、比較の目的のための実験において使用される代わりの対象、細胞またはサンプルである。
【0052】
「フロックス」遺伝子は、2つのlox部位によって隣接された遺伝子を指し、そしてここでその遺伝子は転写ターミネーター(例えば停止シグナル)を含む。
【0053】
「ストップライト構築物」は、フロックスの第1の遺伝子を含む遺伝子構築物を指し、それはさらに第2の遺伝子と作動可能に連結している。従って、もし第1のフロックスの遺伝子をリコンビナーゼ(例えばCre)による組換えによって除去すれば、第2の遺伝子が発現する(例えば図3)。「ストップライト構築物」はまた、「ストップライトカセット」とも呼ばれ、そして任意でプロモーター配列に作動可能に連結し得る。
【0054】
ベクター:
本発明の1つの局面は、導入遺伝子の神経細胞特異的発現を有するトランスジェニック動物を産生するために使用する、ベクター、またはターゲティングベクター/構築物である。本発明の別の局面は、宿主細胞におけるベクターの使用、例えば細胞に基づくアッセイのための、本発明のベクターによる細胞のトランスフェクションである。
【0055】
1つの局面において、本発明のベクターは、以下のものを含む:(a)第1のマーカータンパク質をコードする第1の導入遺伝子(ここで当該第1の導入遺伝子の発現は、グリア細胞特異的調節エレメントのコントロール下にある)、および(b)第2のマーカータンパク質をコードする第2の導入遺伝子、ここで当該第2のマーカータンパク質は、当該第1のマーカータンパク質の発現が抑制された場合に発現し、そしてここで当該第1のおよび第2のマーカータンパク質は異なるタンパク質である。望ましい場合、そのベクターは第1および第2のマーカータンパク質をコードし、それらはそれぞれ蛍光であり、そして異なる検出可能な波長を放出する。
【0056】
好ましい実施態様において、ターゲティングベクターまたは構築物を使用して、神経細胞特異的プロモーター配列に作動可能に連結したトランスジェニックヌクレオチド配列を有するトランスジェニック動物を産生し、ここで当該ヌクレオチド配列はリコンビナーゼをコードする。好ましい実施態様において、第1のターゲティングベクターまたは構築物は、同族のリコンビナーゼタンパク質の発現が、細胞特異的な方式で作用する遺伝子配列由来の転写調節領域を利用するよう設計される。好ましい実施態様において、そのリコンビナーゼは、例えば外因性の物質によって誘導された場合にのみ活性であるよう遺伝子操作される。
【0057】
別の局面において、第2のターゲティングベクターまたは構築物を、細胞特異的な方式で作用する遺伝子配列由来の転写調節領域を利用するレポーター遺伝子/産物を発現する、第2のトランスジェニック動物を産生するために設計する。1つの実施態様において、導入される遺伝子構築物は、2つの目的の遺伝子を、1つの転写ユニット由来のプロモーター/エンハンサーエレメントと組み合わせて含む。好ましい実施態様において、第1の目的の遺伝子は、転写終了シグナル(例えばストップコドン)を含み、そして同族のリコンビナーゼタンパク質(例えば第1のターゲティング構築物によってコードされるリコンビナーゼ)によって認識され得る配列に隣接される。さらに、第1の目的の遺伝子が切除された場合にのみ発現する、第2の目的の遺伝子が、この遺伝子に作動可能に連結し、ここでそのような切除は、同族の隣接配列を認識するリコンビナーゼタンパク質の存在下で媒介され得る。さらなる実施態様において、第1および第2の導入遺伝子は、普通の動物(例えば、記載された動物を交配し、そして両方の導入遺伝子を発現する子孫を選択する)、または宿主細胞(例えば両方のベクター、または導入遺伝子を含む宿主細胞)に存在し、ここでリコンビナーゼの誘導性の発現が、グリア細胞の特定の亜集団におけるマーカータンパク質の異なった発現を可能にする。好ましい実施態様において、異なる亜集団におけるマーカータンパク質の発現は、発生的なミエリン化細胞および再ミエリン化細胞の間の区別を可能にする。
【0058】
好ましい実施態様において、そのゲノムに安定に組み込まれた第1のトランスジェニック動物を産生するために使用する第1の標的構築物は、リコンビナーゼをコードし、ここでそのリコンビナーゼはCreリコンビナーゼであり、それは同族認識配列のloxP配列(すなわちloxP部位)を認識する。認識配列は当該分野で公知であり、そしてタンパク質、DNA、またはRNA分子(例えば制限エンドヌクレアーゼ、修飾メチラーゼ、またはリコンビナーゼ)が認識および結合する特定のDNA配列を意味する。例えば、Creリコンビナーゼの認識配列は、loxPであり、それは8塩基対のコア配列に隣接される2つの13塩基対の反転リピート(リコンビナーゼ結合部位として作用する)から成る、34塩基対の配列である。(Sauer、Curr.Opin.Biotech.5:521−527(1994)を参照のこと)。認識配列の他の例は、リコンビナーゼ酵素λインテグラーゼによって認識される、attB、attP、attL、およびattR配列である。attBは、2つの9塩基対のコアタイプInt結合部位および7塩基対のオーバーラップ領域を含む、約25塩基対の配列である。attPは、コアタイプのInt結合部位およびアームタイプのInt結合部位および、補助タンパク質IHF、FIS、およびXisのための部位を含む、約240塩基対の配列である。Landy、Curr.Opin.Biotech.3:699−707(1993)を参照のこと。そのような部位を本発明によって遺伝子操作して、Hartleyら、米国特許出願公開第20060035269号による開示において開示されたような、当該分野で公知である方法および産物を利用した組換えを増強し得る。
【0059】
Creリコンビナーゼは、野生型または野生型の変異体であり得る。好ましい実施態様において、Creリコンビナーゼはトランスジェニック動物(またはトランスジェニック細胞)において誘導可能である。変異Creリコンビナーゼは、組換えの部位に対して広範な特異性を有する。具体的には、その変異体は、loxP配列および野生型Creリコンビナーゼが活性である他のlox部位配列以外の配列の間の組換えを媒介する。一般的に、開示されたCre変異体は、野生型Creが作用し得るlox部位(野生型lox部位と呼ばれる)間、野生型Creによって効率的に利用されない変異lox部位(変異lox部位と呼ばれる)間、および野生型lox部位および変異lox部位間の効率的な組換えを媒介する。例えば、Creリコンビナーゼ(またはFLPのような他の、類似のリコンビナーゼ)を使用し得るあらゆる方法または技術において、Cre変異体を使用し得る。それに加えて、Cre変異体は、野生型lox部位および変異lox部位間のはるかにより効率的な組換えを可能にするので、Cre変異体は、異なる別の組換えを行うことを可能にする。そのような他の組換えのコントロールを、より洗練された連続的組換えを達成するために使用して、野生型Creリコンビナーゼでは不可能な結果を達成し得る。変異Creリコンビナーゼは、米国特許第6,890,726号の開示において開示されるように、当該分野で公知である。Cre活性の誘導能を、Creタンパク質の局在化によってコントロールし得る。例えば、Creタンパク質は、Creリコンビナーゼとエストロゲン受容体の変異体の融合であり得、Cre融合物、CreERt2を生じる。リガンドの非存在下で、CreERt2は細胞質内にある。しかし、合成ステロイドホルモン(タモキシフェン)の投与後、CreERt2タンパク質は核に移動し、そこで機能的になる(すなわちタモキシフェン誘導性)。
【0060】
本発明の別の局面において、第2のターゲティングベクターは、神経細胞特異的プロモーター配列に作動可能に連結したヌクレオチド配列を含み、ここで当該ヌクレオチド配列はマーカータンパク質をコードする2つまたはそれ以上の遺伝子を含む。1つの実施態様において、その2つまたはそれ以上の遺伝子はそれぞれフルオロフォアまたは蛍光タンパク質をコードする。別の実施態様において、そのトランスジェニックヌクレオチド配列は、第1および第2の遺伝子を直列で、そして神経細胞特異的プロモーターに作動可能に連結して含み、ここで第1の遺伝子はターミネーターまたはストップコドンをコードし、従ってもし第1の遺伝子が発現する場合には第2の遺伝子は発現しない。またさらなる実施態様において、第1の遺伝子はまた、終了/停止配列を含む第1の遺伝子を除去するための手段を提供する認識配列に隣接される。そのような除去または切除は、例えば当該認識配列を認識するリコンビナーゼタンパク質による酵素的なものであり得る。
【0061】
1つの局面において、第2のターゲティングベクターは、ストップライトカセット(例えば図3)を含み、ここでそのストップライトカセットは、プロモーター/エンハンサーエレメントまたは調節性配列のコントロール下にある。ストップライトカセットは、それぞれ異なる蛍光タンパク質をコードする、第1および第2の遺伝子を含み、ここで第1の遺伝子は停止シグナルを含み、そしてさらにリコンビナーゼ酵素のための認識配列に隣接される。従って、第1の遺伝子が発現したら、第2の遺伝子は発現から除外される。本発明において使用し得るマーカー遺伝子の独占的でない例は、サンゴ礁蛍光タンパク質(RCFPs)、HcRed1、AmCyan1、AsRed2、mRFP1、DsRed1、クラゲ蛍光タンパク質(FP)変異体、赤色蛍光タンパク質、緑色蛍光タンパク質(GFP)、青色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、GFP変異体H9、GFP H9−40、EGFP、テトラメチルローダミン、リサミン、テキサスレッド、EBFP、ECFP、EYFP、シトリン、Kaede、Azami Green、Midori Cyan、Kusabira Orange、およびナフトフルオレセイン、またはその機能増強変異体を含む。フルオロフォアタンパク質マーカーをコードする多くの遺伝子が当該分野で公知であり、そのマーカーを本発明で使用し得る。ウェブサイト:<cgr.harvard.edu/thornlab/gfps.htm>を参照のこと。より高い強度の光を放出する、または波長シフトを示す蛍光タンパク質の変異バージョンも、本発明の組成物および方法において利用し得る;そのような変異体は当該分野で公知であり、そして市販で入手可能である。(Clontech Catalogue、2005を参照のこと)。さらに別の実施態様において、蛍光標識が膜結合であるように、蛍光標識をそれぞれファルネシル化する。好ましい実施態様において、ストップライトカセットは、第1のマーカー/標識として赤色蛍光標識(例えばloxP部位に隣接するmCherry)、および第2の蛍光標識としてEGFPをコードする(図3ストップライト)。例えばYangおよびHughes、BioTechniques、31:1036−41(2001)を参照のこと(HEK293細胞におけるCre発現の赤色/緑色レポーターを教示)。
【0062】
第1および第2のターゲティング構築物は、好ましくはプロモーターまたは調節性配列、特に中枢神経系における導入遺伝子の発現に利用可能なもののコントロール下でその導入遺伝子を発現する。その調節性配列は、中枢神経系、特に神経細胞、具体的にはオリゴデンドロサイト、シュワン細胞、星状細胞またはミューラー細胞における、導入遺伝子の異所性の発現を可能にし得る。神経細胞特異的プロモーターの例は、米国特許出願公開第2003/0110524号において開示されるように、当該分野で公知である;ウェブサイト<chinook.uoregon.edu/promoters.html>も参照のこと。代表的な転写調節配列は、以下のタンパク質をコードする遺伝子から選択される転写調節配列を含む:PDGFα受容体、プロテオリピドタンパク質(PLP)、グリア線維性酸性遺伝子(GFAP)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、オリゴデンドロサイト特異的タンパク質(OSP)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、および微小管結合タンパク質1B(MAP1B)、Thy1.2、CC1、セラミドガラクトース転移酵素(CGT)、ミエリン結合糖タンパク質(MAG)、オリゴデンドロサイト−ミエリン糖タンパク質(OMG)、環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、タンパク質2(P2)、チロシンヒドロキシラーゼ、BSF1、ドパミン3−ヒドロキシラーゼ、セロトニン2受容体、コリンアセチルトランスフェラーゼ、ガラクトセレブロシド(GalC)、およびスルファチド。
【0063】
いくつかの実施態様において、調節性配列を改変または修飾して、発現を増強し得る(すなわち、プロモーターの強度を増加させる)。例えば、エンハンサー機能を含むイントロン配列を利用して、プロモーター機能を増加させ得る。ミエリンプロテオリピドタンパク質(PLP)遺伝子は、エンハンサーエレメントとして機能するイントロン配列を含む。この調節エレメント/領域ASE(アンチサイレンサー(antisilencer)/エンハンサー)は、エキソン1DNAの約1kb下流に位置し、そしてほぼ100bpを含む。Mengら、J.Neurosci.Res.82:346−356(2005)。
【0064】
さらに、特定の細胞内位置における導入遺伝子の発現が望ましい場合、その導入遺伝子を、当該分野で広く実施されている組換えDNA技術によって、対応する細胞内局在化配列と作動可能に連結し得る。代表的な細胞内局在化配列は、(a)遺伝子産物の細胞の外への分泌を指示するシグナル配列;(b)タンパク質の、細胞膜または細胞の他の膜性区画への結合を可能にする膜固定ドメイン;(c)コードされたタンパク質の核への転座を媒介する核局在化配列;(d)コードされたタンパク質を主にERに閉じ込める、小胞体保持配列(例えばKDEL配列);(e)タンパク質が細胞膜と結合するようにタンパク質をファルネシル化されるよう設計し得る;または(f)コードされたタンパク質産物の、異なる細胞内分布に役割を果たすあらゆる他の配列を含むがこれに限らない。
【0065】
好ましい実施態様において、第1のベクターは、内因性PDGFα受容体遺伝子から取られたプロモーターを含み、ここでPDGFαはオリゴデンドロサイト前駆細胞では発現するが、成熟オリゴデンドロサイトでは発現しない。PDGFαを、ベクターにおいてCreERT2をコードする配列と作動可能に連結し(図4)、そしてトランスジェニック動物を産生するために使用し得、ここでその動物は、好ましくはマウスである。得られたトランスジェニックマウスは、PDGFα/CreERT2である。さらなる実施態様において、第2のターゲティング構築物は、PLPの調節性配列、ミエリン化オリゴデンドロサイトに特異的なプロモーター配列、および細胞内局在化配列と共にコードされたマーカー遺伝子を含み、特にそのマーカータンパク質はファルネシル化されるよう設計する。好ましい実施態様において、そのベクターはmCherryおよびEGFPの発現をコントロールするPLPプロモーターを含み、それらはどちらも発現するときファルネシル化される。PLP/loxP−mCherry−loxP−EGFPマウスを産生するためのターゲティング構築物を、図8に図示する。
【0066】
さらに別の実施態様において、第1のベクターは、神経の発生の間と比較して、軸索切断後のニューロンにおいて優先的に発現する遺伝子由来のプロモーターを含む。1つの例はSPRR1遺伝子である(Wangら、Disease Gene Candidates Revealed by Expression Profiling of Retinal Ganglion Cell Development、J.Neurosci.27 印刷中(2007))。図13に示す説明的な概略図において、SPRR1プロモーターを、ベクターにおいてCreをコードする配列と作動可能に連結し、そしてトランスジェニック動物を産生するために使用し得、ここでその動物は、好ましくはマウスである。得られたトランスジェニックマウスは、SPRR1/Creである。第2のターゲティング構築物は調節性配列を含み、ここでその調節性配列はTauのプロモーターである。Tauはニューロンにおいて豊富なタンパク質であり、そして他の実施態様において、ニューロンにおいて豊富に発現する他のタンパク質由来の調節性配列を使用し得る。Tauプロモーターを、mCherryおよびEGFPをコードする配列と作動可能に連結し、トランスジェニックマウスTau/loxP−mCherry−loxP−EGFPを生じる。ダブルトランスジェニックマウスを、SPRR1/CreおよびTau/loxP−mCherry−loxP−EGFPマウスから産生し得、損傷前のニューロンは赤色の蛍光を発し(mCherry)、一方軸索切断後再生したニューロンは緑色の蛍光を発する(EGFP)(図13)。
【0067】
別の実施態様において、第1のベクターは、ニューロン前駆細胞において発現する細胞遺伝子由来のプロモーターを含む。1つの例は、内因性Nestin遺伝子である。図14に示す説明的な概略図において、Nestinプロモーターを、ベクターにおいて誘導性CreERT2をコードする配列と作動可能に連結し、そしてトランスジェニック動物を産生するために使用し得、ここでその動物は、好ましくはマウスである。できたトランスジェニックマウスはNestin/CreERT2である。第2のターゲティング構築物は調節性配列を含み、ここでその調節性配列はTIMP1のプロモーターである。TIMP1の発現は、ニューロンの発生およびニューロンの再生の間に増加する(Wangら、Disease Gene Candidates Revealed by Expression Profiling of Retinal Ganglion Cell Development、J.Neurosci.27 印刷中(2007))。他の実施態様において、ニューロンの発生およびニューロンの再生の間に発現が増加する、他の遺伝子の調節性配列を使用し得る。TIMP1プロモーターを、mCherryおよびEGFPをコードする配列と作動可能に連結し、トランスジェニックマウスTIMP1/loxP−mCherry−loxP−EGFPを生じる。ダブルトランスジェニックマウスを、Nestin/CreERT2およびTIMP1/loxP−mCherry−loxP−EGFPマウスから産生し得、そしてタモキシフェンで誘導しない場合はニューロンは赤色の蛍光を発し(mCherry)、そしてタモキシフェンで処理すると緑色の蛍光を発する(EGFP)(図14)。
【0068】
本発明に適当な多数の遺伝的媒体が当該分野で利用可能である。それらは、ウイルスおよび非ウイルス発現ベクターを両方含む。制限されない代表的なウイルス発現ベクターは、レトロウイルスのようなRNAウイルス、およびアデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスのようなDNAウイルス由来のベクターである。非ウイルス発現ベクターは、プラスミド、コスミド、およびDNA/リポソーム複合体を含むがこれに限らない。その遺伝的媒体を、その中に有する外因性遺伝子の組織特異的、細胞特異的、または細胞小器官特異的でさえある発現を指示する調節性配列を有するように、遺伝子操作し得る。
【0069】
本発明の1つまたはそれ以上の組成物または方法で利用し得るベクターは、SV−40の誘導体、アデノウイルス、レトロウイルス由来DNA配列、および機能的な哺乳類ベクターおよび機能的なプラスミドおよびファージDNAの組み合わせ由来のシャトルベクターを含む。例えばSouthernおよびBerg、J.Mol.Appl.Genet.1:327−341(1982);Subraminiら、Mol.Cell.Biol.1:854−864(1981)、KaufmannおよびSharp、J.Mol.Biol.159:601−621(1982);Scahillら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:4654−4659(1983)およびUrlaubおよびChasin、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216−4220(1980)によって記載されるもののような、真核生物の発現ベクターが周知であり、それらは本明細書中に参考として援用される。本発明の方法において使用するベクターは、ウイルスベクター、好ましくはレトロウイルスベクターであり得る。複製欠損アデノウイルスが好ましい。例えば、レトロウイルスの構造遺伝子が、単一の目的の遺伝子で置換された「単一遺伝子ベクター」、例えば、参考として本明細書中に援用されるEglitisおよびAndersen、BioTechniques 6:608−614(1988)によって記載されたような、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMulV)、ハーベイマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳癌ウイルス(MuMTV)およびマウス骨髄増殖性肉腫ウイルス(MuMPSV)、および細網内皮症ウイルス(Rev)のような鳥類レトロウイルス、およびラウス肉腫ウイルス(RSV)を、末端反復配列に含まれるウイルス調節性配列のコントロール下で使用し得る。
【0070】
望ましいなら、その遺伝的媒体を、当該分野で公知のあらゆる方法によって、宿主細胞(例えばオリゴデンドロサイトまたはシュワン細胞のようなミエリン化細胞)に挿入し得る。適当な方法は、リン酸カルシウム沈殿、DEAE−デキストラン、エレクトロポレーション、または微量注入を用いたトランスフェクションを含み得る。
【0071】
トランスジェニック動物
本発明の1つの局面は、マーカー遺伝子/産物の時間調節された、かつ細胞特異的な発現を提供し、従って発生的なまたは先在的なミエリンと比較して、新規に形成されたミエリンまたは再ミエリン化の同定を可能にする、ダブルトランスジェニック動物を利用する組成物および方法を含む。
【0072】
1つの実施態様において、その本発明のトランスジェニック動物は、第1の蛍光マーカータンパク質をコードする第1の導入遺伝子、および第2の蛍光マーカータンパク質をコードする第2の導入遺伝子を含み、ここで当該第2のマーカータンパク質は、当該第1のマーカータンパク質と区別でき、そしてここで当該第1および当該第2のマーカータンパク質の発現は、外因性物質によって時間的に調節され、そして当該発現はグリア細胞の亜集団において起こる。1つの局面において、そのグリア細胞の亜集団は、成熟オリゴデンドロサイトである。別の局面において、そのグリア細胞の亜集団は、再ミエリン化オリゴデンドロサイトである。さらに別の局面において、その外因性物質は、当該グリア細胞の亜集団において第3の導入遺伝子の発現を誘導して、当該第1および当該第2のマーカータンパク質の発現を時間的に調節する。いくつかの例において、当該第1のマーカータンパク質の発現は、当該外因性物質による誘導の前に存在するミエリン化グリア細胞において起こり、そしてここで当該第2の蛍光マーカータンパク質の発現は、当該外因性物質による誘導時に、再ミエリン化グリア細胞において起こる。
【0073】
別の実施態様において、そのトランスジェニック動物は、1)プロモーターのコントロール下の誘導性リコンビナーゼと共に、特定の神経細胞の亜集団において発現する神経特異的プロモーター、および2)別の神経細胞の亜集団の、別の神経特異的プロモーターの発現下の、2つのマーカー遺伝子のストップライトカセットを含む。好ましい実施態様において、第1のプロモーターは前駆細胞において特異的に発現し、そして第2のプロモーターは成熟細胞において特異的に発現する。
【0074】
本発明の別の局面は、その発現が再ミエリン化特異的であるため発現の検出/定量は再ミエリン化と相関する、マーカー遺伝子/産物を含むストップライト構築物である。またさらなる局面において、そのような発現における増加または減少は、再ミエリン化の増加または減少と相関する。上記で記載したベクターを使用して、本発明のトランスジェニック動物を産生し得る。
【0075】
好ましい実施態様において、そのトランスジェニック動物、好ましくはマウスは、導入遺伝子CreERT2およびloxP−mCherry−loxP−EGFPを含み、ここでCreERT2は内因性PDGFαプロモーターのコントロール下にあり、そしてloxP−mCherry−loxP−EGFPはPLPプロモーターのコントロール下にある。PDGFα/CreERT2マウスを、PLP/loxP−mCherry−loxP−EGFPマウスと交配することによって、そのトランスジェニックマウスを産生し得る。図4および8において図示したターゲティング戦略およびベクターを使用することによって、PDGFα/CreERT2マウスおよびPLP/loxP−mCherry−loxP−EGFPマウスを産生し得る。
【0076】
さらに別の実施態様において、そのトランスジェニック動物、好ましくはマウスは、導入遺伝子CreおよびloxP−mCherry−loxP−EGFPを含み、ここでCreはSPRR1プロモータのコントロール下にあり、そしてloxP−mCherry−loxP−EGFPはTauプロモーターのコントロール下にある。SPRR1/CreマウスおよびTau/loxP−mCherry−loxP−EGFPマウスを交配することによって、そのトランスジェニックマウスを産生し得る。別の実施態様において、そのトランスジェニック動物、好ましくはマウスは、Nestinプロモーターのコントロール下のCreERT2導入遺伝子およびTIMP1プロモーターのコントロール下のloxP−mCherry−loxP−EGFPを含む。Nestin/CreERT2およびTIMP1/loxP−mCherry−loxP−EGFPマウスを交配することによって、そのトランスジェニックマウスを産生し得る。
【0077】
上記トランスジェニック動物を、当該分野で公知の遺伝子ターゲティング技術を利用して設計する。遺伝子ターゲティングは、標的となる内因性配列と相同性の外因性DNA配列による相同的組換えによる、染色体遺伝子座の指向性の改変を意味する。遺伝子ターゲティングの異なる型の間で、区別がなされる。従って遺伝子ターゲティングを用いて、1つまたはいくつかの内因性遺伝子の発現を改変、および通常は増加させ得る、または内因性遺伝子を外因性遺伝子で置換し得る、または活性なままである特定の内因性遺伝子の遺伝子発現を制御するエレメントのコントロール下に外因性遺伝子を配し得る。この場合、遺伝子ターゲティングは、「ノックイン」(KI)と呼ばれる。あるいは、遺伝子ターゲティングを使用して、1つまたはいくつかの遺伝子の発現を抑制または排除し得、そしてこの型の遺伝子ターゲティングは「ノックアウト」(KO)と呼ばれる(例えばBolkeyら、Ann.Rev.Genet.23:199−225(1989)を参照のこと)。
【0078】
本発明によるトランスジェニック細胞を産生する方法は、当業者に周知である。哺乳類細胞にトランスフェクションするための様々な技術が記載された(Gordon、Intl.Rev.Cytol.115:171−229(1989))。任意で本発明による導入遺伝子を、直線化または非直線化ベクターに含んで、またはベクター断片の形式で、例えば核への微量注入(米国特許第4,873,191号)、リン酸カルシウムによる沈殿によるトランスフェクション、リポフェクチン、エレクトロポレーション(Lo、Mol.Cell.Biol.3:1803−1814(1983))、熱ショック、カチオンポリマーによる形質転換(PEG、ポリブレン、DEAE−デキストラン等)、ウイルス感染(Van der Puttenら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:6148−6152(1985))、または精子(Lavitranoら、Cell 57:717−723(1989))のような、標準的な方法によって宿主細胞に導入し得る。
【0079】
遺伝的構築物を、哺乳類接合体の前核(好ましくはオス前核)に挿入することによって、トランスジェニック動物を遺伝子操作し、そして安定なゲノム組込みが自然に起こることを可能にする。次いでその接合体を、受容性の子宮に移し、そして分娩日まで発達させる。マウスが好ましい種であるが、ラットおよびウサギも前核挿入の可能性のある候補である。接合体をトランスジェニックにする遺伝的構築物は、利用する内因性遺伝子(例えばPDGFα受容体遺伝子)を標的とする遺伝子構築物を含み、その遺伝子を、望ましいエレメント(例えば外因性プロモーター/エンハンサーエレメントおよび/または目的の遺伝子)を含むように変異および/またはさらに改変し得る。
【0080】
胚の顕微操作に関する技術の進歩は、今や異種DNAの哺乳類受精卵への導入も可能にする。例えば、全能性または多能性幹細胞を、微量注入、リン酸カルシウムによる沈殿、リポソームの融合、レトロウイルス感染、または他の手段によって形質転換し得る。形質転換した細胞を、次いで胚に導入し、そしてその胚は次いでトランスジェニック動物に発達する。好ましい実施態様において、発達中の胚に、望ましい導入遺伝子を含むウイルスベクターを感染させて、導入遺伝子を発現するトランスジェニック動物を感染した胚から産生し得る。別の好ましい実施態様において、望ましい導入遺伝子を、胚の前核または細胞質に、好ましくは単一細胞段階で、同時注入し、そしてその胚を成熟トランスジェニック動物に発達させる。トランスジェニック動物を産生するこれらおよび他の変種の方法が、当該分野でよく確立されており、そして従って本明細書中で詳述しない。例えば米国特許第5,175,385および同第5,175,384号を参照のこと。
【0081】
本明細書中で開示された本発明の1つまたはそれ以上の局面において、望ましい導入遺伝子を、単一のコピーとして、または例えばヘッドトゥヘッドの直列、またはヘッドトゥテイルの直列の、コンカテマーで組込み得る。望ましい導入遺伝子を、特定の組織または細胞型、好ましくは中枢神経系の細胞に、選択的に導入および活性化し得る。そのような細胞型特異的活性化に必要な調節性配列は、特定の目的の細胞型に依存し、そして当業者に明らかである。好ましくは、標的となる細胞型は、中枢および末梢神経系を含む神経系に存在する。
【0082】
上記で述べたように、トランスジェニック動物を、2つの型:「ノックアウト」および「ノックイン」に大きく分類することができる。「ノックアウト」は、標的遺伝子の機能の減少を引き起こす、トランスジェニック配列の導入による標的遺伝子の変化を有し、好ましくは標的遺伝子の発現はわずかであるかまたは検出できない。「ノックイン」は、例えばさらなる標的遺伝子のコピーの導入によって、または標的遺伝子の内因性コピーの発現の増強を提供する調節性配列を作動可能に挿入することによって、標的遺伝子の発現の増強を引き起こす、宿主細胞ゲノムの変化を有するトランスジェニック動物である。ノックインまたはノックアウトトランスジェニック動物は、標的遺伝子に関して、ヘテロ接合性またはホモ接合性であり得る。ノックアウトおよびノックインはどちらも、「バイジェニック」であり得る。バイジェニック動物は、少なくとも2つの宿主細胞遺伝子が変化している。好ましいバイジェニック動物は、神経細胞特異的リコンビナーゼをコードする導入遺伝子および神経細胞特異的マーカー遺伝子をコードする別のトランスジェニック配列を有する。本発明のトランスジェニック動物は、広く「ノックイン」として分類し得る。
【0083】
本発明において、トランスジェニック動物を、再ミエリン化を同定および定量するためのモデル系を提供するために設計する。そのような定量は、脱髄傷害の前または後を含む、動物の一生の間のあらゆる時間に起こり得る。そのトランスジェニックモデル系を、ニューロンの再ミエリン化を促進するか、またはそのために有利な生物学的に活性な薬剤の開発にも使用され得る。さらに、そのモデル系を、例えば脱髄傷害後に、試験薬剤が有害な影響を与えるか、または再ミエリン化を抑制するかどうかをアッセイするために利用し得る(図1および2)。さらに、エキソビボ技術を含む、細胞に基づく、または細胞培養の環境で行われるさらなる研究またはアッセイのために、神経細胞を、本発明のトランスジェニック動物から単離し得る。
【0084】
本発明の動物モデルは、中枢神経系および末梢神経系を含む、その動物の神経系におけるニューロン脱髄状態を生じる手順を受け入れられるあらゆる非ヒト脊椎動物を含む。好ましいモデル生物は、哺乳類、霊長類、およびげっ歯類を含むがこれに限らない。好ましいモデルの制限しない例は、ラット、マウス、モルモット、ネコ、イヌ、ウサギ、ブタ、チンパンジー、およびサルである。その試験動物は、野生型またはトランスジェニックであり得る。1つの実施態様において、その動物はげっ歯類である。さらに別の実施態様において、その動物はマウスである。別の実施態様において、その動物はサル種由来である。さらに別の実施態様において、その動物はマーモセットであり、そのサルを、神経学的疾患を調査するために利用する(例えばEslamboi、Brain Res.Bull.68:140−149(2005);Kirikら、Proc.Natl.Acad.Sci.100:2884−2889(2004)))。
【0085】
よって、本発明は、細胞特異的な方式で再ミエリン化を検出および定量するための動物モデルを使用する方法を提供する。そのような実施態様において、その方法は、(a)本発明のトランスジェニック動物において脱髄傷害を誘導する;(b)ミエリン修復が起こる時間を与える;(c)細胞特異的マーカー遺伝子の発現を検出および/または定量する;(d)再ミエリン化が起こったかどうか、およびどのくらい起こったかを決定する工程を含む。
【0086】
本発明の別の局面において、本発明は、再ミエリン化調節活性に関して、生物学的に活性な薬剤を試験する方法を提供する。その方法は、(a)本発明のトランスジェニック動物において脱髄傷害を誘導する;(b)ミエリン修復が起こる時間を与える;(c)試験薬剤を動物に投与する;(d)工程(c)の前および後に、細胞特異的マーカー遺伝子の発現を検出および/または定量する;(e)工程(d)において再ミエリン化が起こったかどうか、およびどれくらい起こったかを検出する;(f)もし再ミエリン化特異的マーカータンパク質が、試験薬剤の投与に反応してアップまたはダウンレギュレートされるなら、その試験薬剤は再ミエリン化調節活性を有すると決定する工程を含む。いくつかの実施態様において、様々な時点で検出を行い、そして試験薬剤の投与を、アッセイの過程の間反復し得る、および異なる投与レジメを用いる。
【0087】
本発明のさらに別の局面において、本発明は、再ミエリン化誘導またはプロモーター活性に関して、候補薬剤を試験する方法を提供する。その方法は、(a)本発明のトランスジェニック動物において脱髄傷害を誘導する;(b)ミエリン修復が起こる時間を与える;(c)試験薬剤を動物に投与する;(d)工程(c)の前および後に、細胞特異的マーカー遺伝子の発現を検出および/または定量する;(e)工程(d)において再ミエリン化が起こったかどうか、およびどれくらい起こったかを検出する;(f)もし細胞特異的マーカータンパク質の発現が、試験薬剤の投与に反応して増加するなら、その試験薬剤は再ミエリン化誘導またはプロモーター活性を有すると決定する工程を含む。いくつかの実施態様において、試験動物における細胞特異的マーカータンパク質の発現を、コントロールまたは参照動物と比較し得る。他の実施態様において、試験動物における細胞特異的マーカータンパク質の発現を、同じ動物において様々な時点で行った測定と比較し、ここで初期の時点を参照またはコントロール時点として使用し得る。さらに他の実施態様において、細胞特異的マーカータンパク質の発現を、多くの試験動物において測定し、ここで試験動物の様々な時点で測定をし、そして対応するコントロール動物と比較し得る。その細胞特異的マーカーは、好ましくは再ミエリン化特異的マーカーである。
【0088】
本発明のさらなる局面において、本発明は、再ミエリン化阻害または抑制活性に関して、候補薬剤を試験する方法を提供する。その方法は、(a)本発明のトランスジェニック動物において脱髄傷害を誘導する;(b)ミエリン修復が起こる時間を与える;(c)細胞特異的マーカー遺伝子の発現を検出および/または定量する;(d)再ミエリン化を検出および定量する;(e)候補薬剤を動物に投与する;(f)工程(e)の前および後で、再ミエリン化が起こったかどうか、およびどのくらい起こったかを検出および定量する;および(g)もし細胞特異的マーカータンパク質の発現が試験薬剤の投与に反応して減少するなら、その試験薬剤は再ミエリン化阻害または抑制活性を有すると決定する工程を含む。いくつかの実施態様において、試験動物における細胞特異的マーカータンパク質の発現を、コントロールまたは参照動物と比較し得る。他の実施態様において、試験動物における細胞特異的マーカータンパク質の発現を、同じ動物において異なる時点で行った測定を比較し、ここで初期の時点を参照またはコントロール時点として使用し得る。他の実施態様において、細胞特異的マーカータンパク質の発現を、多くの試験動物で測定し、ここで試験動物の様々な時点で測定を行い、そして対応するコントロール動物と比較し得る。さらに他の実施態様において、候補薬剤が再ミエリン化阻害または抑制活性を有するかどうかの決定において、細胞特異的マーカー、好ましくは再ミエリン化特異的マーカータンパク質の発現を、試験動物およびコントロールまたは参照動物において測定する。そのような薬剤を、再ミエリン化阻害剤または再ミエリン化毒素と分類し得る。
【0089】
本発明の1つの局面において、目的のタンパク質をコードする遺伝子と作動可能に連結した神経細胞特異的遺伝子をコードするトランスジェニックヌクレオチド配列をゲノムに安定に組込んだトランスジェニック動物を産生し、ここで細胞特異的遺伝子は、目的のタンパク質と同時に細胞特異的な方式で発現し、そしてここで当該遺伝子は誘導性プロモーターのコントロール下にある。いくつかの実施態様において、細胞特異性は、神経細胞、好ましくはグリア細胞、より好ましくは星状細胞、オリゴデンドロサイト、シュワン細胞、またはミューラー細胞に対するものである。別の実施態様において、目的のタンパク質をコードする遺伝子は、リコンビナーゼタンパク質をコードする。
【0090】
本発明のさらに別の局面において、本発明の方法は、ダブルトランスジェニック(F1)動物を含み、ここでそのトランスジェニック動物は、本明細書中の上記で記載した単一のトランスジェニック動物の子孫を意味する。F1動物は、細胞特異的リコンビナーゼの誘導性発現、および蛍光標識をコードする第1または第2の遺伝子の細胞特異的発現の特徴を有する表現型を示し、ここでその細胞特異的な異なる発現は、再ミエリン化と相関し、従って再ミエリン化の検出および定量を可能にする。従って、(F1)動物は、異なる方式で、オリゴデンドロサイトによる蛍光標識の時間調節および細胞特異的発現を示す。好ましい実施態様において、そのトランスジェニック動物はマウスである。
【0091】
従って、本発明の1つの実施態様において、タモキシフェンを(F1)動物に投与して、Creリコンビナーゼ(例えばCreERT2遺伝子)の発現を誘導し、好ましくは第1のマーカータンパク質または標識をコードする、「フロックス」トランスジェニックヌクレオチド配列の、Cre依存性部位特異的組換えを可能にする。好ましい実施態様において、CreERT2遺伝子は、PDGFα受容体遺伝子のコントロール下にあり、従ってオリゴデンドロサイト前駆細胞において、細胞特異的な方式で発現する。Cre依存性組換えの発生の結果として、mCherryをコードする配列が切除され、従って第2のトランスジェニックヌクレオチド配列によるEGFPの発現を可能にする。前述の前駆細胞由来のオリゴデンドロサイトにおいて、再ミエリン化を検出し得る。従って新規に形成されたミエリン(すなわち再ミエリン化)は緑色の蛍光を発し(すなわちEGFP)、一方先在のまたは発生上のミエリンは赤色の蛍光を発する(すなわちmCherry)。さらに、Creの発現は誘導性であるので、EGFPの発現を、時間を調節した方式、および細胞特異的な方式で行って、再ミエリン化特異的ミエリン増殖を検出し得る。好ましい実施態様において、そのダブルトランスジェニック動物はマウスであり、そして二重の導入遺伝子は、それぞれPDGFα受容体/CreERT2およびPLP/loxP−mCherry−loxP−EGFPである。
【0092】
従って、本発明のトランスジェニック動物は、再ミエリン化をアッセイするためのモデル系を産生するために利用し得る組成物および方法を提供する。そのようなモデル系は、再ミエリン化のメカニズムの解明に対する洞察、および再ミエリン化を促進する治療的戦略の開発を提供する。さらに、再ミエリン化特異的マーカータンパク質の発現を、当該分野で公知の技術を利用して容易に検出および定量する。
【0093】
脱髄の誘導および再ミエリン化の評価:
本発明は、再ミエリン化のメカニズムの解明におけるモデル系、および再ミエリン化を促進する治療的戦略の開発を提供する。好ましい実施態様において、そのトランスジェニック動物は、例えばPDGFα受容体/CreERT2マウスとPLP/loxP−mCherry−loxP−EGFPの交配から生じた、ダブルトランスジェニックPDGFα受容体/CreERT2 PLP/loxP−mCherry−loxP−EGFPマウスである(Linら、(2004)J.Neurosci.24:10074−10083;ダブルトランスジェニック動物を産生するための当該分野で公知の方法を教示)。
【0094】
このダブルトランスジェニックマウスは、PDGFα受容体遺伝子の利用に基づいて、前駆体オリゴデンドロサイトではあるが成熟オリゴデンドロサイトではないような、CreERT2の時間的な発現が可能である。マーカー遺伝子は、PLPプロモーターのコントロール下にあり、そしてミエリン化オリゴデンドロサイトにおいて発現する。Creリコンビナーゼの誘導なしで、そのマウスはミエリン化オリゴデンドロサイトにおいて第1のマーカータンパク質(例えばmCherry)を発現する。そのマウスを、Cre活性を誘導するタモキシフェンで処置し得る。Cre活性は、第2のマーカータンパク質(例えばEGFP)の発現を引き起こし得る。
【0095】
このシステムを用いて、脱髄傷害の前にマウスをタモキシフェンで処置し、そして次いで第1および第2のマーカータンパク質の発現を検出することによって、発生的ミエリン化および再ミエリン化オリゴデンドロサイトを区別し得る。上記で議論したように、タモキシフェン処置は、別々の蛍光マーカータンパク質(例えばmCherry)をコードする2つの遺伝子のうち第1のものに隣接するLox認識部位を認識し、そしてそれに作用するCreリコンビナーゼを誘導する。この第1のマーカー遺伝子は、終了または停止シグナルを含み、従って当該第1の遺伝子がCreによる組換えをうけた場合、その遺伝子および停止シグナルの両方が切除され、それによって生じる導入遺伝子は第2の蛍光マーカー(例えばEGFP)に作動可能に連結し、そしてその発現を行うPLPプロモーターエレメントを含む。脱髄傷害後、Cre構築物を含むオリゴデンドロサイト前駆細胞は、第2の蛍光マーカーの発現を可能にする。結果として、これらの動物において、発生的ミエリンは、第1のマーカータンパク質によって蛍光を発し(例えば、もしmCherryが第1のマーカー遺伝子なら赤色)、そして「再ミエリン」は第2の蛍光タンパク質によって蛍光を発する(例えば、もしEGFPが第2のマーカー遺伝子なら緑色)。あるいは、脱髄傷害後あらゆる時点でタモキシフェンをマウスに投与し得、それはCreERT2リコンビナーゼを活性化する。
【0096】
試験動物において脱髄を誘導する多くの方法が確立されている。例えば、ニューロンの脱髄を、病原体または物理的損傷、試験動物において炎症および/または自己免疫反応を誘導する物質によって与え得る。好ましい方法は、IFN−γクプリゾン(ビス−シクロヘキサノンオキサルジヒドラゾン)、リゾレシチン、またはエチジウムブロマイドを含むがこれに限らない脱髄誘導物質を採用する。クプリゾン誘導脱髄モデルは、Matsushimaら、Brain Pathol.11:107−116(2001)において記載されている。この方法において、典型的には試験動物にクプリゾンを含む食餌を、約1から約10週の範囲で数週間与える。当業者は、この点で、末梢または中枢神経系において脱髄を誘導するための、当該分野で公知のあらゆる方法を、脱髄傷害を誘導する手段として置き換え得ることを認識する。
【0097】
試験動物における脱髄状態は、一般的に神経系(例えば中枢または末梢神経系)におけるミエリン化軸索の減少、またはオリゴデンドロサイトおよびシュワン細胞のようなミエリン化細胞のマーカーのレベルにおける減少を指す。望ましいなら、当該分野で公知の方法によって、脱髄を特徴付けし得る。形態学的に、ニューロンの脱髄を、中枢神経系におけるオリゴデンドロサイト、または末梢神経系ににおけるシュワン細胞の喪失によって特徴付けし得る。それをまた、神経系におけるミエリン化軸索の減少、またはオリゴデンドロサイトまたはシュワン細胞マーカーのレベルの減少によって決定し得る。オリゴデンドロサイトまたはシュワン細胞の代表的なマーカータンパク質は、CC1、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、セラミドガラクトース転移酵素(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、オリゴデンドロサイト−ミエリン糖タンパク質(OMG)、環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、タンパク質2(P2)、ガラクトセレブロシド(GalC)、スルファチドおよびプロテオリピドタンパク質(PLP)を含むがこれに限らない。そのようであるので、本発明の方法によって同定された候補薬剤は、ニューロンの脱髄の有害な形態学的特徴を阻害し得る物質を含む。
【0098】
適当な方法による脱髄状態の誘導後、その動物を十分な時間回復させ、以前に脱髄した病変における、またはその付近の再ミエリン化を可能にする。再ミエリン化軸索の発達に必要な時間は、異なる動物の間で異なるが、それは一般的に少なくとも約1週間、より多くの場合少なくとも約2から10週間、そしてさらにより多くの場合約4から約10週間を必要とする。
【0099】
上記で記載したような第2のマーカータンパク質(例えばEGFP)の発現によるように、マーカー遺伝子/遺伝子産物の細胞特異的発現の増加を観察することによって(例えば中枢神経または末梢神経系における)、再ミエリン化を確認し得る。本明細書中の1つまたはそれ以上の方法において、脱髄またはミエリン形成を同定しようとする場合、様々なマーカーが当該分野において利用可能である。ミエリン化細胞を同定する代表的なマーカーは、CC1、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、セラミドガラクトース転移酵素(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、オリゴデンドロサイト−ミエリン糖タンパク質(OMG)、環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、タンパク質2(P2)、ガラクトセレブロシド(GalC)、スルファチドおよびプロテオリピドタンパク質(PLP)を含むがこれに限らない。
【0100】
傷害に続いて、および再ミエリン化が起こるのに十分な時間の後、マーカータンパク質の蛍光を、小動物における蛍光の検出に関して当該分野で公知のインビトロまたはインビボの方法を用いて検出し得る。インビボにおける蛍光を、関連する分野において利用可能な装置を利用して検出および/または定量し得る。例えば、視覚化システムと組み合わせた、パルスレーザーダイオードおよび時間相関単一光子計数検出システムを用いて、組織からの蛍光発光のレベルを検出し得る。(Gallantら、Annual Conference of the Optical Society of America(2004);Contagら、Mol.Microbiol.18:593−603(1995);Schindehutteら、Stem Cells 23:10−15(2005))。組織−空気界面における後方反射光子からの大きなシグナルを避けるために、検出ポイントは光源点の右3mmに位置する。レーザーおよびフィルター両方の波長の選択は、選択した蛍光マーカーに依存する。生物学的組織の吸収が低い場合、大きな組織深度(例えばレーザー出力に依存して2、3から数センチメートル)からの蛍光シグナルをインビボイメージングのために検出し得る。
【0101】
イメージングするマウスを、イソフルラン/酸素で麻酔し、そしてイメージングステージに置き得る。腹側および背側の画像を、関連する分野において利用可能なイメージングシステムを用いて、様々な時点で採取し得る(例えばIVISイメージングシステム、Xenogen Corp.、Alameda、CA)。様々な標的組織からの蛍光をイメージングおよび定量し得る。例えば、シグナル強度を、平均+/−平均についての標準誤差として、文字または図で示し得る。蛍光シグナルを、post hoc t検定による分散分析によって分析して、0時および続く各時点における、所定のマーカーに関する蛍光シグナル間の違いを評価し得る。
【0102】
蛍光の視覚化、イメージングまたは検出を、当該分野で公知の、および本明細書中、前述で記載された方法を用いて行い得る。視覚化、イメージングまたは検出を、侵襲的、最小限に侵襲的、または非侵襲的な技術によって行い得る。典型的には、顕微鏡技術を利用して、トランスジェニック動物から得られた細胞/組織からの、生きた細胞からの、またはインビボイメージング技術による蛍光を検出またはイメージングする。前出、「一般的な方法論」。
【0103】
発光、蛍光、または生物発光シグナルを、蛍光マルチウェルプレートリーダー、蛍光標示式細胞分取器(FACS)およびシグナルの空間分解能を提供する自動化された細胞に基づくイメージングシステムを含む、様々な自動化および/またはハイスループット計測システムのいずれか1つによって容易に検出および定量する。Cellomics、Amersham、TTP、Q3DM、Evotec、Universal ImagingおよびZeissによって開発された、自動化蛍光イメージングおよび自動化顕微鏡システムを含む、様々な計測システムが、検出を自動化するために開発された。蛍光退色後回復測定(FRAP)および微速度蛍光顕微鏡も、生きた細胞においてタンパク質の移動度を研究するために使用した。
【0104】
動物から得られた細胞/組織サンプルを調査することによって(例えば切片を作り、そして共焦点顕微鏡を用いてイメージングすることによって)、生きた細胞を調査することによって、またはインビボにおける蛍光の検出によって、蛍光の視覚化(例えば蛍光タンパク質をコードするマーカー遺伝子)を、顕微鏡技術によって行い得る。視覚化技術は、当該分野で公知の、共焦点顕微鏡またはフォトオプティカル(photo−optical)走査技術の利用を含むがこれに限らない。一般的に、バックグラウンドノイズを増加させる、散乱および自己蛍光が両方とも、波長が増加するにつれて抑制されるので、近赤外線の発光波長を有する蛍光標識が、深部組織イメージングにより適している。Mansfieldら、J.Biomed.Opt.10:41207(2005);Zhangら、Drug Met.Disp.31:1054−1064(2003);Flusbergら、Nat.Meth.2:941−950(2005);Mehtaら、Curr.Opin.Neurobiol.14:617−628(2004);Jungら、J.Neurophysiol.92:3121−3133(2004);米国特許第6977733号および同第6839586号によって開示されるような、インビボイメージングの例が当該分野で公知であり、それらの開示はそれぞれ本明細書中で参考として援用される。
【0105】
インビボイメージング過程の1つの例は、インビボイメージング実験の前1週間を含み、脱毛剤(Nair、Carter−Wallace Inc.)を用いて、休止期の背側の毛を脱毛する(約2.5cm×2.5cmの領域)。イメージング実験の日に、そのマウスを麻酔し、そしてその背側の皮膚を顕微鏡ステージの顕微鏡カバーガラスに置く。表皮の脱毛領域を、50W水銀灯で照射し、そして10倍の対物レンズおよびLP520エミッションフィルター(Zeiss)を有する倒立レーザー走査共焦点蛍光顕微鏡(Zeiss LSM 510)を用いてスキャンする。アルゴンレーザー(488nm)のようなレーザーおよび10倍の対物レンズが、深部組織から表皮細胞に、より有効に蛍光発光をイメージングし得る。増強されたエミッターまたはより長い波長のエミッターを利用することによって、より深部の組織のイメージングの感受性を増強し得る。あるいは、マウスのような小動物を、様々な異なる位置(例えば背側、腹側等)を利用して容易に走査/イメージングし得る。インビボイメージングは、肝臓のような深部組織領域でさえ有効であった(例えばZhangら、前出)。
【0106】
DAPIを含むVectashield封入剤(Vector Laboratories)でマウントした細胞/組織切片を、Zeiss Axioplan蛍光顕微鏡で視覚化し得る。Open Labソフトウェアスイートを用いて、アップルマッキントッシュコンピューターに接続したPhotometrics PXL CCDカメラを用いて画像を捕捉し得る。0.04mmの領域に限定された、脳梁の正中における陽性細胞を計測することによって、異なる波長の蛍光を検出および定量する。蛍光または共焦点顕微鏡を利用する、インビトロで組織/細胞からの蛍光のレベルを検出および測定するためのさらなる方法が、当該分野で公知であり、そして上記の本明細書中で開示された1つまたはそれ以上のマーカータンパク質からの蛍光を検出または測定することにおいて利用し得る。
【0107】
別の例において、落射蛍光励起および発光経路において、神経細胞を、Ludlフィルターホイールを備えたAxiovert S100 TV 倒立顕微鏡でイメージングし得る(CarlZeiss、Thornwood、NY、USA)、そして冷却電荷結合素子(CCD)カメラ(Micro−MAXO;Roper Scientific、Trenton、NJ、USA)を使用して画像を採取し得る。2つの異なる蛍光タンパク質のシグナルを単離するために、特異的な励起および発光フィルターおよび共通の二色性エレメントを使用し得る(HQFITCおよびテキサスレッド励起および発光フィルター、およびFITC/テキサスレッド V3 ダイクロイック;Chroma Technology、Brattleboro、VT、USA)。フィルターホイールおよびカメラを、ソフトウェアによってコントロールし得る(例えばIPLabsソフトウェア、Scanalytics、Fairfax、VA、USA)。赤色および緑色蛍光画像のセットを採取して、赤色または緑色蛍光を有する細胞の相対的パーセンテージを分析し得る。IPLabsおよびAdobe InDesignソフトウェアによって、画像を分析し、公開のために準備し得る。画像の操作を、赤色および緑色蛍光タンパク質のグレースケール画像を重ね合わせてRGBカラーファイルを作成すること、最終的なプリントアウトの明度/コントラストを調整して顕微鏡で観察されたものに最も近く合わせること、および文字の配置およびスケールバーの追加に限定し得る。蛍光顕微鏡の装置は、当該分野で公知であり、そして市販で入手可能である。例えば、ウェブサイト<confocal−microscopy.com/website/sc_llt.nsf.>を参照のこと。
【0108】
別の実施態様において、蛍光の検出は網膜または角膜から直接的である。網膜部位は、全身性の毒性を研究するための非侵襲的な部位である。角膜は、体に侵入せずに、グリア細胞を含む臓器に対して直接適用された物質の毒性を評価するために、特にふさわしい。従って、マーカータンパク質を異なって発現する神経細胞から放出された蛍光を、レーザービームを望ましい領域に向けて、そして放出された蛍光のレベルを検出することにより、網膜または角膜の共焦点顕微鏡を用いることによって検出し得る。
【0109】
さらに、脱髄/再ミエリン化現象を、当該分野で公知の免疫組織化学的手段またはタンパク質分析によって観察し得る。例えば、試験動物の脳の切片を、オリゴデンドロサイトマーカーを特異的に認識する抗体で染色し得る。別の局面において、オリゴデンドロサイトマーカーの発現レベルを、イムノブロッティング、ハイブリダイゼーション手段、および増幅手順、および当該分野でよく確立された他の方法によって定量し得る。例えば、Mukouyamaら、Proc.Natl.Acad.Sci.103:1551−1556(2006);Zhangら、前出;Girardら、J.Neurosci.25:7924−7933(2005);および米国特許第6,909,031;6,891,081;6,903,244;6,905,823;6,781,029;および6,753,456号、それらのそれぞれの開示は、本明細書中で参考文献に組み込まれる。
【0110】
別の局面において、中枢または末梢神経系の細胞/組織を切除し、そしてタンパク質に関して処理し得る、例えば組織をホモジナイズし、そしてタンパク質をSDS−10%ポリアクリルアミドゲルで分離し、そして次いでニトロセルロース膜に移してマーカータンパク質を検出する。蛍光タンパク質レベルを、一次抗体/抗血清(例えば特定のマーカータンパク質に対して産生されたヤギポリクローナル(BD Gentest、Woburn、MA)およびペルオキシダーゼ結合二次抗体(例えばウサギ抗ヤギIgG、Sigma−Aldrich)を利用して検出し得る。当該分野で利用可能な標準的な試薬を用いて化学発光を検出し、そして組織サンプル中の蛍光マーカータンパク質のレベルを決定する。
【0111】
従って、候補治療薬/薬剤を、本発明の1つまたはそれ以上の方法においてアッセイするなら、異なる時点で比較して、かつ参照またはコントロールと比較して、薬剤に反応して全体的な差異が存在するかどうかを決定し得る。まとめると、例えば様々なデータを得るために前述の例のトランスジェニック動物を用いて、単一のグリア細胞の亜集団(例えば前駆オリゴデンドロサイト)において異なって発現するマーカーの発現を検出および定量することによって、傷害後に再ミエリン化が起こるかどうか、および候補薬剤がそのような再ミエリン化を調節するかどうか、およびどの程度まで調節するかを決定し得る。もちろん、当業者は、前述のものは、本発明の再ミエリン化モデル系を利用する単なる1つの例であることを認識する。
【0112】

細胞に基づくアッセイ:
本発明のいくつかの局面において、本発明のトランスジェニック動物は、細胞/組織培養の供給源であり得る。例えば、本発明の実施は、コントロール細胞と比較した、試験神経細胞(例えばトランスジェニックオリゴデンドロサイトまたはシュワン細胞)における遺伝子または遺伝子産物の発現、または当該遺伝子産物の活性の比較を提供するための、細胞に基づくアッセイを含み得る。本発明で使用する試験神経細胞を、中枢神経系(CNS)または末梢神経系(PNS)から単離し得、そしてトランスジェニック動物の細胞、その子孫、およびその供給源から調製した切片またはスメア、またはCNSまたはPNSのあらゆる他のサンプル、例えばオリゴデンドロサイト、シュワン細胞、またはニューロン;成熟または未成熟細胞由来の細胞培養を含む。望ましい場合、実質的にニューロン、ミクログリア細胞、および星状細胞のような他の神経細胞型を含まない、濃縮細胞培養を使用することを選択し得る。成熟オリゴデンドロサイトおよびシュワン細胞を単離、産生、または維持する様々な方法が当該分野で公知であり(Baerwaldら、J.Neurosci.Res.52:230−239(1998);Leviら、J.Neurosci.Meth.68:21−26(1998))、そして本明細書中で例示される。
【0113】
1つの実施態様において、本発明は、再ミエリン化を調節する生物学的に活性な候補薬剤を同定する方法を提供する。その方法は、(a)マーカータンパク質を差示的に発現し得る、本発明のトランスジェニック動物由来の神経細胞を得る、または単離する、およびそのような細胞を培養する工程;(b)候補薬剤を培養神経細胞と接触させる工程;(c)コントロール細胞と比較して、遺伝子または遺伝子産物の発現の変化、または当該遺伝子産物の活性の変化を検出する工程(当該遺伝子または遺伝子産物は、再ミエリン化の調節と関連する);および(d)当該コントロール細胞と比較して、当該遺伝子または遺伝子産物の発現レベルが調節されたなら、当該薬剤を候補として選択する工程を含む。
【0114】
別の実施態様において、本発明は、ニューロンの再ミエリン化を促進する生物学的に活性な薬剤を同定する方法を提供する。その方法は、(a)本発明のトランスジェニック動物に存在する脱髄病変から神経細胞を得る、単離する、および培養する工程;(b)生物学的に活性な候補薬剤を、培養神経細胞と接触させる工程;および(c)コントロール細胞と比較して、遺伝子または遺伝子産物の発現の変化、または当該遺伝子産物の活性の変化を検出する工程(当該遺伝子または遺伝子産物は、再ミエリン化と関連する);および(d)当該コントロール細胞と比較して、当該遺伝子または遺伝子産物の発現レベル、または当該遺伝子産物の活性のレベルが増加したなら、当該薬剤を候補として選択する工程を含む。ある実施態様において、その神経系が活発にミエリン形成を行っている若い対象由来のミエリン化細胞を採用することが好ましくあり得る。他の実施態様において、病原体または物理的損傷を与えられた病変、およびクプリゾンのような毒性薬剤によって引き起こされた病変を含むがこれに限らない、脱髄病変における成人オリゴデンドロサイト前駆体由来の再ミエリン化細胞を使用することが好ましくあり得る。
【0115】
あるいは、単一の「ノックイン」遺伝子(例えばPDGFα/リコンビナーゼまたはPLP/ストップライト)を含む、本発明のトランスジェニック動物から神経細胞を単離および培養し得る。そのような神経細胞を、遺伝的に改変し得る。例えば、望ましい遺伝子構築物を含む遺伝的媒体を細胞に導入することによって、神経細胞の新しい変異体を産生し得る。例えば、誘導性PDGFα/リコンビナーゼ遺伝子構築物を含むトランスジェニック動物から得た神経細胞を、PLP/ストップライト構築物を含む遺伝的媒体でトランスフェクトし得る。あるいは、トランスジェニック動物から得た神経細胞を、望ましい産物をコードする誘導性遺伝子、および1つまたはそれ以上のレポーター遺伝子をコードする発現構築物を含むバイシストロニックな遺伝的媒体でトランスフェクトし得る。それに加えて、単離した細胞を、複数の遺伝的媒体で同時トランスフェクトし得る(例えばそれぞれ望ましい産物をコードする遺伝子構築物および1つまたはそれ以上のレポーター遺伝子をコードする遺伝子構築物を含む2つのベクター)。
【0116】
適当なコントロール細胞または組織の選択は、第1に選択された試験細胞または組織、および調査中のその表現型または遺伝子型の特徴に依存する。試験再ミエリン化細胞を試験化合物と接触させるのに対して、コントロール細胞または組織は未処理の対応物であり得る。試験再ミエリン化細胞が脱髄後に検出された試験細胞であるのに対して、コントロール細胞は未処理の対応物であり得る。試験細胞およびコントロールを平行して分析することが一般的に好ましい。
【0117】
本発明の目的のために、ニューロンの再ミエリン化を調節するのに有効な生物学的に活性な薬剤は、単純な、または複雑な有機または無機分子、ペプチド、ペプチド模倣物、タンパク質(例えば抗体)、リポソーム、低分子干渉RNA、またはポリヌクレオチド(例えばアンチセンス)のような、生物学的または化学的化合物を含むよう意図されるが、これに限らない。
【0118】
広範な化合物、例えばポリペプチドおよびポリヌクレオチドのようなポリマー、および様々なコア構造に基づく合成有機化合物を合成し得、そしてそれらも本明細書中で企図される。それに加えて、植物または動物抽出物等のような、様々な天然の供給源が、スクリーニングのための化合物を提供し得る。常に明確に述べられるわけではないが、その活性薬剤を単独で、または本発明のスクリーニング法によって同定された薬剤と同じまたは異なる生物学的活性を有する、別の調節剤と組み合わせて使用し得ることが理解される。
【0119】
その生物学的に活性な薬剤が、裸のRNA以外の組成物である場合、その薬剤を細胞培養に直接加え得る、または添加のための培地に加え得る。当業者に明らかであるように、経験的に決定し得る「有効な」量を加えなければならない。その薬剤がポリヌクレオチドである場合、それをトランスフェクションまたはエレクトロポレーションによって細胞に直接導入し得る。あるいは、遺伝子伝達媒体または上記で記載した他の方法を用いて細胞に挿入し得る。
【0120】
タンパク質レベルを検出するために適当な、広く様々な標識が当該分野で公知である。制限しない例は、放射性同位体、酵素、コロイド金属、蛍光化合物、生物発光化合物、および化学発光化合物を含む。
【0121】
本発明の方法によって同定された生物学的に活性な候補薬剤を、以下の2つの種類に大きく分類し得る。第1の種類は、細胞または患者に投与された場合、再ミエリン化神経細胞に特異的なマーカー遺伝子の発現または活性のレベルを抑制する薬剤を含む。第2の種類は、再ミエリン化神経細胞に特異的なマーカー遺伝子の発現または活性のレベルを増強する薬剤を含む。
【0122】
上記の項で議論したように、これらの細胞は、ニューロン再ミエリン化状態の分子的基礎を解明するための細胞に基づくアッセイを行うために、およびニューロンの脱髄を阻害する、または再ミエリン化を促進するのに有効な薬剤をアッセイするために、特に有用である。
【0123】
従って、候補治療薬/薬剤を本発明の1つまたはそれ以上の方法でアッセイするなら、異なる時点と比較して、および参照またはコントロールと比較して、薬剤に反応して全体として差異があるかどうかを決定し得る。まとめると、単一のグリア細胞の亜集団(例えば前駆オリゴデンドロサイト)において異なって発現するマーカーの発現を検出および定量することによって、前述の例のトランスジェニック動物を使用して、再ミエリン化が傷害後起こるかどうか、および候補薬剤がそのような再ミエリン化を調節するかどうか、およびどの程度調節するかを含む、様々なデータを得る。もちろん、当業者は、前述のものは、本発明の再ミエリン化モデル系を利用する単なる1つの例であることを認識する。
【0124】
細胞運命マッピング:
別の局面において、本発明の遺伝子構築物を利用して、細胞/組織系統を追跡または規定し得る。ある細胞系統または組織由来の、規定された細胞集団の単離または同定は、細胞分化および発達を分析するための必要条件である。例えば、系統をトレースすることは、幹細胞由来細胞の分析を必要する適用の設計において重要であり、そのような適用は、選択された胚細胞クローンから細胞分化をトレースすること、または適当なプロモーターを有するストップライト構築物を含むマウスをCre発現マウスと交配する場合にインビボで発現を評価することを含む。この後者のシナリオにおいて、Creは発達の間に特定の細胞において条件的に発現し、そしてこの細胞由来の誘導体が検出される(例えばEGFPによって)。言い換えると、上記で記載したPDGFα受容体/Creと同様に、例えばWnt1−Creを用いて神経外胚葉性誘導体を、RARβ2−Creを用いて中胚葉性誘導体を、または内分泌においてPax4−Creを用いて内胚葉性起源の膵臓を追跡するために、組織特異的プロモーターを有するストップライトマウスを、条件的Creマウスと交配し得る。
【0125】
従って、いくつかの実施態様において、構築物のためのプロモーターエレメント−PDGFα受容体/CreERT2および/またはPLP/loxP−mCherry−loxP−EGFP−を、例えば胚性幹細胞および子孫細胞において、「フロックスの」レポーターを発現する構成的プロモーターで置換し得、そして続いてCre組換え、例えばストップライト構築物の第2の蛍光マーカーの発現を引き起こすCre発現を誘導することによって同定し得る。さらなる実施態様において、ストップライトおよびCre構築物を、望ましいあらゆる細胞または組織特異的なプロモーターを含むように改変し得る。そのようなプロモーターは当該分野で公知である。そのようであるので、Cre−ストップライトシステムを利用して、Creの条件的発現および生じた2つの蛍光マーカーのうち1つの異なった発現によって、細胞の系統をトレースし得る。従って、その条件的発現システムは、単一細胞の標識(例えばmCherry発現)および続くそのクローン系統のトレースを可能にし、それによってCre組換えは幹細胞クローン由来の誘導体細胞の遺伝的標識を可能にする(例えばEGFP発現)。
【0126】
Creまたはストップライト構築物において利用し得るプロモーターエレメントは、ドパミン作動性、セロトニン作動性、GABA作動性、コリン作動性、またはペプチド作動性のニューロンおよびその亜集団;神経細胞、特にグリア細胞、より具体的にはオリゴデンドロサイト、星状細胞、およびその亜集団;神経伝達物質特異的受容体、イオンチャネル、イオンチャネルゲーティングに関与する受容体、サイトカイン、成長因子およびホルモンにおいて特異的に活性なプロモーターおよび/またはエンハンサー、および当該分野で公知のもの、またはPattersonら、J.Biol.Chem.270:23111−23118(1995);米国特許第6472520号、同第7022319号、同第7033595号、米国特許出願公開第20060052327号、同第20060040386号、同第20060034767号、同第20060030541号の開示において開示されたものを含むがこれに限らず、これらは全て本明細書中で参考文献に組み込まれる。
【0127】
他の実施態様において、筋肉、腎臓、肝臓、脾臓、心臓、肺、脳、中枢神経系、末梢神経系、視神経、眼、網膜、リンパ組織、胸腺、甲状腺、副甲状腺、消化管、胃、前立腺、精巣、卵巣、真皮、皮膚、生殖器、内皮細胞または脈管構造を含む、組織/臓器で起こる再生を定義するために異なる前駆細胞を利用して、細胞運命マッピングを行い得る。例えば、本明細書中で記載した、および当該分野で公知の細胞/組織特異的プロモーターを含む、loxP導入した構築物を利用して、細胞培養またはインビボで起こる細胞/組織再生において観察される細胞系統を定義し得る。言い換えると、様々なプロモーター/エンハンサーエレメントを、loxP導入したベクターおよび/またはloxP導入したベクターに存在する隣接配列に特異的なリコンビナーゼを発現するベクターに組込みうる。部位特異的リコンビナーゼの例は当該分野で公知であり、そして本明細書中で記載される。
【0128】
従って、いくつかの実施態様において、筋肉、腎臓、肝臓、脾臓、心臓、肺、脳、中枢神経系、末梢神経系、視神経、眼、網膜、リンパ組織、胸腺、甲状腺、副甲状腺、消化管、胃、前立腺、精巣、卵巣、真皮、皮膚、生殖器、内皮細胞または脈管構造を含む、組織/臓器で起こる、細胞/組織の再生を、比色定量顕微鏡によって検出する場合、細胞系統を、観察される異なる検出可能なシグナルに基づいて決定し得る(例えば、loxP導入された構築物にコードされた検出可能なシグナル)。
【0129】
本発明の方法において利用し得るプロモーターの制限しない例は、脱共役タンパク質3、αヒト葉酸受容体、乳清酸性タンパク質の遺伝子由来のプロモーター、前立腺特異的プロモーターおよび米国特許第6,313,373号で開示されたもの、および遺伝子/活性によって分類された15,000以上の異なるプロモーター配列のデータベースである、<biobase/de/pages/products/transpor.html>でオンラインで開示されているもの;およびChenら、Nuc.Acids.Res.2006、34:Database issue、D104−107で開示されているものを含む;ウェブサイト<tiprod.cbi.pku.edu.cn:8080/index>も参照のこと、これもある細胞/組織に特異的な遺伝子のプロモーターを列挙している。
【0130】
本発明の別の局面において、使用するプロモーターは、軸索切断後のニューロンに特異的であり得、従って、損傷後の軸索の修復をモニターし得る。例えば、Creリコンビナーゼは、軸索切断後に誘導される遺伝子のプロモーターのコントロール下にあり得る。そのような遺伝子の例は、レチノイン酸結合タンパク質2、レチノール結合タンパク質1、腫瘍関連糖タンパク質pE4、内皮単球活性化ポリペプチド、ニューロリシン(メタロペプチダーゼM3ファミリー)、GADD45、モエシン、SPRR1、スフィンゴシンキナーゼ1、およびガラニンを含む(Wangら、Disease Gene Candidates Revealed by Expression Profiling of Retinal Ganglion Cell Development、J.Neurosci.27 印刷中(2007))。Creリコンビナーゼは、Creの発現が前述の遺伝子のプロモーターによって誘導された場合に活性であり得る。ストップライト構築物は、Tauのもののような、ニューロン特異的プロモーターのコントロール下にあり得る。この例において、第1のマーカータンパク質は、ニューロン細胞に発現し、そして損傷後、Creリコンビナーゼの発現が誘導され、第1のマーカー遺伝子が切除され(例えばmCherry)、そして第2のマーカータンパク質(例えばEGFP)が発現する(例えば図13)。
【0131】
あるいは、CreERT2のような誘導性Creが、Nestinのようなニューロン前駆細胞プロモーターのコントロール下にあり、そしストップライトカセットが、Best5、TIMP1、メタロチオネイン、ATF3、モノグリセリドリパーゼ、PTP非受容体5型、LPS誘導TNF因子、FXVDイオン輸送reg7、およびプロリントランスポーターのような、発生の間および軸索の損傷後に発現が増加する遺伝子のプロモーターのコントロール下にある(Wangら、Disease Gene Candidates Revealed by Expression Profiling of Retinal Ganglion Cell Development、J.Neurosci.27 印刷中(2007))。従って、第1のマーカータンパク質の発現は、発生中の軸索においてである。Creは、CreERT2に関するタモキシフェンのような、外因性の物質によって誘導され、そして細胞に損傷を与える。結果として、第1のマーカー遺伝子は切除され、そして再生軸索は第2のマーカータンパク質を発現する(図14)。
【0132】
もちろん、細胞/組織特異的プロモーターの代わりに、またはそれに加えて、当該分野で公知の調節可能なプロモーターも利用し得ることが理解される。例えば、リコンビナーゼタンパク質をコードする構築物を、tet応答性プロモーターのような、調節可能なプロモーターに作動可能に連結し得る。従って、望ましい場所および時に、誘導性物質(例えばテトラサイクリンまたはそのアナログ)を細胞または対象に投与して、リコンビナーゼタンパク質の発現を誘導し得、それは次いでloxP導入した構築物に作用し、それも組織特異的または調節可能なプロモーターを含み得、従って検出可能なシグナルの異なった発現を引き起こす(例えばEGFPまたはCherry Red)。調節可能なプロモーターの例は、MMTV、熱ショック70プロモーター、GAL1−GAL10プロモーター、メタロチオネイン(metallothien)誘導性プロモーター(例えば銅誘導性ACE1)、ホルモン応答エレメント(例えばグルココルチコイド、エストロゲン、プロゲステロン)、および培養またはインビボで、哺乳類細胞において調節可能なプロモーターとして作用することが当該分野で公知のものを含むがこれに限らない。
【0133】
エキソビボにおける適用
本発明のいくつかの局面において、本発明のトランスジェニック動物からトランスジェニック細胞を得て、培養および増殖させ、標的タンパク質をコードする遺伝子で形質導入し、そして供給源の動物または他の動物に移植または再導入し得る。そのようなエキソビボの方法において、そのトランスジェニック細胞を、例えば試験遺伝子/タンパク質をマーカー遺伝子発現/産生の調節に関してアッセイするために、誘導性に産生し得る、生物学的に活性な薬剤をコードする遺伝子(例えば試験産物をコードする遺伝子)でトランスフェクトし得る。そのような調節を、上記の本明細書中で記載されたように、細胞培養においてアッセイし得る。あるいは、形質導入細胞を、対象動物に再導入し、ここでマーカー遺伝子発現をアッセイし、そしてコントロールまたは参照と比較し得る、ここで移植した細胞は形質導入されない、ベクターによる目的の産物を発現しない、目的のベクターによる産物を時間的にコントロールされた方式で発現する(例えば誘導性発現)、または目的の産物を構成的に発現する(例えばCMVプロモーター)。
【0134】
例えばグリア細胞(例えばオリゴデンドロサイトまたはシュワン細胞)を、神経生検から得ることができる。細胞を培養中で増殖させ得る(例えば10%熱不活性化胎児ウシ血清(FBS)を含み、抗生物質、組換えNeu分化因子(NDF)、インスリンおよびフォルスコリン(1μg/ml)を添加したDMEMから成る増殖培地を利用する)。さらに、導入遺伝子によって提供される蛍光標識を利用して、非トランスジェニック神経細胞から、細胞を識別し得る(例えばFACS)。形質導入のために、目的の産物を伝達する、当該分野で公知の様々なベクター媒体で、細胞をトランスフェクトし得る。
【0135】
本発明の医薬品組成物
本明細書中で開示された発明の1つまたはそれ以上の方法を利用して、生物学的に活性な薬剤を選択し得、それは続いて脱髄の治療において道具となり得る。再ミエリン化の調節に有効な、選択された生物学的に活性な薬剤を、ニューロン脱髄疾患を治療するための薬物の調製に使用し得る。ある実施態様において、本明細書中で言及される脱髄疾患は、多発性硬化症である。他の実施態様において、その脱髄疾患は、進行性多巣性白質脳症(PML)、脳脊髄炎、橋中心髄鞘崩壊症(CPM)、抗MAG疾患、白質ジストロフィー、副腎白質ジストロフィー(ALD)、アレキサンダー病、カナバン病、クラッベ病、異染性白質ジストロフィー(MLD)、ペリツェウス・メルツバッハー病、レフサム病、コケイン症候群、Van der Knapp症候群、およびツェルウェガー症候群、ギラン・バレー症候群(GBS)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパシー(CIDP)、および多巣性運動ニューロパシー(MMN)から成る群から選択される。
【0136】
1つの局面において、本発明の同定/選択された生物学的に活性な薬剤を、細菌およびウイルスのような病原菌によって引き起こされたニューロンの脱髄を治療するために投与し得る。別の局面において、選択された薬剤を使用して、例えば橋中心髄鞘崩壊症およびビタミン欠乏症におけるような、毒性物質または体内における毒性代謝物の蓄積によって引き起こされたニューロンの脱髄を治療し得る。さらに別の局面において、その薬剤を使用して、脊髄損傷のような、物理的な損傷によって引き起こされた脱髄を治療し得る。さらにまた別の局面において、その薬剤を、白質ジストロフィー、副腎白質ジストロフィー、変性多系統萎縮症、ビンスワンガー脳症、中枢神経系における腫瘍、および多発性硬化症を含むがこれに限らない、遺伝的特質を有する疾患、遺伝的疾患において顕在化する脱髄を治療するために投与し得る。その薬剤をまた、再ミエリン化に影響を与える疾患、または虚血、脳卒中、またはアルツハイマー病のような、再ミエリン化に影響を与える低酸素状態、または損傷を治療するために投与し得る。
【0137】
本発明の同定/選択された生物学的に活性な薬剤を、成長因子、サイトカイン、神経成長因子、アンチセンスRNA、siRNA、免疫抑制剤、抗炎症剤、抗増殖剤、抗遊走剤、抗線維剤、アポトーシス促進剤、抗体、抗血栓剤、抗血小板剤、IIbIIIa薬剤、血管新生因子、抗血管新生薬剤、抗ウイルス剤、NGFファミリーのタンパク質、NGF、ベータNGF、ニューロトロフィン3前駆体(NT−3)、HDNF、神経成長因子2(NGF−2)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−5(NT−5)、ニューロトロフィン−4(NT−4)、またはその前駆体および組み合わせから選択し得るがこれに限らない、他の目的の産物と共に、その前に、またはそれに続いて伝達し得る。
【0138】
様々な伝達システム、例えばリポソームにおけるカプセル封入、微粒子、マイクロカプセル、組換え細胞による発現、受容体によるエンドサイトーシス(例えばWuおよびWu、J.Biol.Chem.262:4429−4432(1987)を参照のこと)、レトロウイルスまたは他のベクターの一部としての治療的核酸の構築等が公知であり、そして本発明の生物学的に活性な薬剤を投与するために使用し得る。伝達の方法は、動脈内、筋肉内、静脈内、鼻腔内、および経口経路を含むがこれに限らない。特定の実施態様において、本発明の医薬品組成物を、治療の必要がある領域に局所的に投与することが望ましくあり得る;これを、例えば、そして制限のためでなく、術中の局所注入によって、注射によって、またはカテーテルの手段によって達成し得る。ある実施態様において、その薬剤を、患者の神経系、好ましくは中枢神経系に伝達する。別の実施態様において、その薬剤を、再ミエリン化が起こっている神経組織に投与する。
【0139】
選択された薬剤の投与を、治療の過程を通して、1回投与で、連続的に、または間欠的に行い得る。最も有効な投与の手段および投与量を決定する方法は、当業者に周知であり、そして治療に使用する組成物、治療の目的、治療する標的細胞、および治療する対象によって変化する。単回または複数回投与を、治療する医師が選択した投与レベルおよびパターンで行い得る。
【0140】
本発明の医薬品組成物の調製を、医薬品調製物の調製に関して一般的に許容される手順によって行う。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第18版(1990)、E.W.Martin編、Mack Publishing Co.、PAを参照のこと。意図される使用および投与の方式に依存して、医薬品組成物の調製において活性成分をさらに処理することが望ましくあり得る。適当な処理は、適当な無毒性および非干渉成分との混合、滅菌、投与単位への分割、および送達デバイスへの封入を含み得る。
【0141】
経口、鼻腔内、または局所投与のための医薬品組成物を、錠剤、カプセル、粉末、液体、および懸濁液を含む、固体、半固体、または液体形式で供給し得る。注射のための組成物を、液体溶液または懸濁液として、エマルションとして、または注射の前に液体に溶解または懸濁するために適当な固体形式として供給し得る。気道による投与のために、好ましい組成物は、固体、粉末、または適当なエアロゾル化装置と共に使用した場合にエアロゾルを提供するものである。
【0142】
液体の薬学的に許容可能な組成物を、例えば、本明細書中で例示されたポリペプチドを、水、生理食塩水、水性デキストロース、グリセロール、またはエタノールのような液体賦形剤に溶解または分散することによって調製し得る。その組成物は、他の医学的薬剤、医薬品、アジュバント、担体、および湿潤剤または乳化剤のような補助物質、およびpH緩衝化物質も含み得る。
【実施例】
【0143】
実施例1:血小板由来成長因子受容体−アルファ(PDGFR−α)をコードするマウス遺伝子へのCreERT2ノックインのための、ターゲティング構築物の産生
ターゲティングベクターを構築するために使用する約10.2kbの領域を、最初に相同組換えに基づく技術を用いて、陽性と同定されたC57BL/6BACクローンからサブクローニングした。NeoおよびCreERT2カセットに隣接するFLPリコンビナーゼターゲット(FRT)の5’まで、短いホモロジーアーム(SA)が1.6kb伸びるように、その領域を設計した。長いホモロジーアーム(LA)は、FRT隣接NeoおよびCreERT2カセットの3’側で終わり、そして約8.6kbの長さである。この遺伝子のエキソン1を、FRT隣接NeoおよびCreERT2カセットで置換した(図4)。
【0144】
各改変工程の後に制限酵素分析によって、およびセレクションカセットからLAの3’末端(N2)およびSAの5’末端(N1)を読むように設計されたプライマーを用いた、またはベクター配列のP6およびT7にアニーリングし、そしてBACサブクローンの5’および3’末端まで読むプライマーによる配列決定によって、ターゲティングベクターを確認した(図5)。
【0145】
エレクトロポレーションの前に構築物を再形質転換するために、BACを、アンピシリンセレクションカセットを含む約2.4kb pSP72(Promega)バックボーンベクターにサブクローニングした。プロジェクト概略図で記載したように、FRT隣接ネオマイシンカセットを遺伝子に挿入した(図4)。ES細胞へのエレクトロポレーションの前に、ターゲティング構築物を、NotIを用いて直線化し得る。ターゲティング構築物(ベクターバックボーンを含む)の全体の大きさは、約17.6kbである。
【0146】
実施例2:エレクトロポレーションおよびPDGFR−α/CreERT2組換えクローンに関するスクリーニング
実施例1のターゲティングベクター10μgを、NotIによって直線化し、そして次いでiTL IC1 C57BL/6胚性幹細胞のエレクトロポレーションによってトランスフェクトした。G418抗生物質におけるセレクションの後、生き残ったクローンをPCR分析のために増殖させて組換えESクローンを同定した。ターゲティング構築物を産生するために使用した領域の外側の短いホモロジーアーム(SA)に対して下流(3’)に、プライマーA1、A2およびA3を設計した(図6)。Neoカセットの5’末端におけるLAN1プライマーと共に、A1、A2、またはA3を用いたPCR反応は、それぞれ1.9、1.9、および2.0kbの断片を増幅する。ターゲティング構築物を産生するために使用した領域の内側のSAの5’末端にある、プライマーペアAT1およびAT2を用いて、コントロールPCR反応を行った。これは1.5kbのバンドを増幅する。PCRパラメーターは、95℃で30秒、64℃で30秒、72℃で150秒を35サイクルであった。
【0147】
個々のクローンを、A1/LAN1プライマーでスクリーニングした。組換えクローンを、1.9kbのPCR断片によって同定した。陽性のコントロールは、陽性のプールしたサンプルであり、そして(+)で示した(図7)。PCR反応のコントロールを、スクリーニングおよび内部プライマーによって行った。
【0148】
組換えクローンを増殖および確認した。陽性クローン由来のES細胞を、BALB/cの着床前の胚の胞胚腔に注射した。いくつかのキメラ動物を産生した。これらのマウスを交配して生殖系統の伝達体(transmitant)を同定する。
【0149】
実施例3:レポーター遺伝子のターゲティング構築物の産生
レポーター遺伝子のターゲティング構築物を図8に示す。mCherry−F(図9)およびpEGFP−F(図10)プラスミドの制限酵素部位を、プラスミドをAcc65IおよびSmaIで消化することによって除去した。次いでDNAをゲル抽出した。平滑末端ライゲーション(クレノウを用いて)を行って、Acc65I消化部位を埋め、そしてDNAをゲル抽出した。平滑末端のベクターをライゲーションし、そしてE.coli DH5αに形質転換した。個々のコロニーに対してプラスミドの単離を行った。正しい切断パターンを有するプラスミド調製物を、プライマーREREM−R、Cherry−FおよびEGFP−Fで配列決定して、制限酵素部位の欠失を確認した。そのベクターを、mCherry−F−REREMおよびpEGFP−F−REREMと名付けた。
【0150】
mCherry−F−REREMおよびEGFP−F−REREMを次いでpBS246にクローニングした(図11)。mCherry−F−REREMおよびpEGFP−F−REREMをどちらも、AgeIおよびMluIで消化し、そして約1.1kbのDNA断片をゲル抽出した。pBS246をSmaIで消化し、そしてホスファターゼ(CIP)で処理した。そのDNAをゲル抽出した。消化したmCherry−F−REREMおよび消化したpBS246をライゲーションし、そしてE.coli DH5αに形質転換した。個々のコロニーについてプラスミド単離を行った。正しい切断パターンを有するプラスミド調製物を、プライマーCherry−FおよびCherry−Lox−Rで配列決定して、mCherry−F−REREMが、pBS246のLoxP部位の間に正しく挿入されたことを確認した。その3.6kbのベクターをpBS246−mCherryと名付けた。pBS246−mCherryを、SpeIで消化し、ホスファターゼで処理し、そしてゲル抽出した。消化したEGFP−F−REREMを、消化したpBS246−mCherryにライゲーションし、そしてE.coli DH5αに形質転換した。個々のコロニーについてプラスミド単離を行った。正しい切断パターンを有するプラスミド調製物を、プライマーCherry−F、Cherry−Lox−R、EGFP−F、およびEGFP−Rで配列決定して、mCherryおよびEGFPがどちらも、pBS246に正しく挿入されたことを確認した。その4.8kbのベクターを、pBS246−mCherry−EGFPと名付けた。
【0151】
PCPプロモーターカセット(図12)への挿入のために制限酵素部位AscIおよびPacIを産生するために、pBS246−mCherry−EGFPをSspIおよびNotIで消化し、そして3.7kbのDNA挿入物をゲル抽出した。pNEB193をSmaIおよびNotIで消化し、そしてゲル抽出した。Lox−mCherry−Lox−EGFP挿入物を、消化したpNEB193にライゲーションし、そしてE.coli DH5αに形質転換した。個々のコロニーについてプラスミド単離を行った。正しい切断パターンを有するプラスミド調製物を、プライマーCherry−F、Cherry−R、EGFP−F、およびEGFP−Rで配列決定して、Lox−mCherry−Lox−EGFPが、pNEB193に正しく挿入されたことを確認した。その6kbのベクターを、pNEB−mCherry−EGFPと名付けた。pNEB−mCherry−EGFPをAscIおよびPacIで消化し、そしてゲル抽出した。
【0152】
ターゲティングベクターのためにPLP−neo−SC101oriを構築するために、neoカセット、Lox−FRT−neo/Kan−Lox−FRTを、BsiWIで消化し、平滑末端にし、そしてゲル抽出した。pBR322をEcoRVで消化し、そしてホスファターゼで処理した。消化したneoカセットを、pBR322にライゲーションし、そしてE.coli DH5αに形質転換した。個々のコロニーについてプラスミド単離を行い、そしてneoカセットを消化によって確認した。その6.2KbのベクターをpBRGと名付けた。neoカセットから3’LoxP部位を除去するために、pBRGをSacIIおよびEcoRVで消化し、平滑末端にし、そしてゲル抽出し、ライゲーションし、そして形質転換した。個々のコロニーについてプラスミド単離を行った。正しい切断パターンを有するプラスミド調製物を、プライマーNeo−REREM−FおよびN1で配列決定して、neoカセットからの3’LoxP部位の除去を確認した。そのベクターを、pGLOXOUTと名付けた。SC101oriを増幅するためにプライマーを設計した。配列の5’末端にNheI部位を、および3’末端にNruI部位を加えるために、プライマーを遺伝子操作した。SC101oriをPCR増幅し、そしてゲル抽出した。PCR産物をNheIおよびNruIで消化し、そしてゲル抽出した。pGLOXOUTをNheIおよびNruIで消化し、そしてゲル抽出した。PCR産物をpGLOXOUTにライゲーションし、そして形質転換した。個々のコロニーについてプラスミド単離を行い、そしてSC101oriの追加を消化によって確認した。そのベクターをpGLOXOUT−SCORIと名付けた。pGLOXOUT−SCORIからneoカセット+SC101oriを増幅するために、プライマーを設計した。フォワードプライマーは、neoカセット(5’LoxP部位の2bp下流、これはneoカセットから最後のLoxP部位を除去する)に対する20bpの相同部分、およびPLPカセットに対する60bpの相同部分を含み、SacII制限酵素部位の下流であった。リバースプライマーは、SC101oriの3’末端に対する20bpの相同部分、およびPLPカセットに対する60bpの相同部分を含み、ApaI制限酵素部位の上流であった。続く組換え工程において使用した場合、neo−SC101oriがPLPカセットのAmpおよびpUCoriを置換する。そのPCR産物をG3O2と名付けた。個々のコロニーについてプラスミド単離を行ってPLP−G3O2を発見した。正しい切断パターンを有するプラスミド調製物を、プライマーPLP−seq−R、SCORI−R、N1およびNeo−REREM−Fで配列決定して、neoカセットが両方の隣接FRT部位がそのままで挿入されたこと、および両方のLoxP部位が存在しないこと確認し、およびSC101oriの存在、およびPLPカセットが依然として正しい位置にあることを確認した。その14.9Kbのベクターを、PLP−G3O2と名付けた。PLP−G3O2をAscIおよびPacIで消化し、そしてゲル抽出した。
【0153】
PLP−G3O2を、AscI/PacI消化lox−mCherry−EGFP−lox挿入物にライゲーションし、そして形質転換した。個々のコロニーについてプラスミド単離を行った。正しい切断パターンを有するプラスミド調製物を、ApaIおよびMluIで消化して、導入遺伝子を除去した。その18Kbのベクターを、PLP−mCherry−EGFP−neo−SCORIと名付けた。その15Kbの導入遺伝子を、ゲル抽出した。PLP、mCherry、EGFP、およびneoの存在を確認するために消化を行った。ゲル抽出したDNAを、プライマーNeo−FRT−R、neo−REREM−F、Cherry−F、Cheryy−Lox−R、EGFP−F、EGFP−R、PLP−seq−F、およびPLP−seq−Rで配列決定して、FRT−neo−FRT、loxP−mCherry−loxP、EGFP、およびPLPの存在および位置を確認した。
【0154】
配列確認したDNAを、iTL IC1 ES細胞にエレクトロポレーションした。G418抗生物質におけるセレクションの後、生き残ったクローンをPCR分析のために増幅して、組換えESクローンを同定した。
【0155】
その構築物はランダムに組み込まれ、そして陽性クローンを、ターゲティング構築物の完全性およびコピー数に関してスクリーニングする。組み込みが1回だけ起こったクローンを同定し、そしてBALB/cの着床前の胚の胞胚腔に注射した。
【0156】
実施例4:PLP/loxP−mCherry−loxP−EGFPマウスにおける脱髄の誘導および再ミエリン化の評価
実施例2で産生されたPDGFα受容体/CreERT2マウスを、実施例3で産生されたPLP/loxP−mCherry−loxP−EGFPマウスと交配して、ダブルトランスジェニックマウスを産生する(ダブルトランスジェニックマウスを産生する方法は当該分野で公知である、例えばLinら、J.Neurosci.24:10074−10083(2004)を参照のこと)。
【0157】
そのダブルトランスジェニックマウスのPDGFα受容体/CreERT2 PLP/loxP−mCherry−loxP−EGFPは、ミエリン化細胞においてmCherryを発現する。脱髄傷害の前に、動物をタモキシフェンで処置して、成体オリゴデンドロサイト前駆細胞において、Creリコンビナーゼを誘導し、それはmCherry導入遺伝子を切り出す(図1−3)。したがって、オリゴデンドロサイト前駆細胞がミエリン化細胞へ成熟した場合に、Cre構築物を含むオリゴデンドロサイト前駆細胞のみが、EGFPを発現し得る。
【0158】
脱髄を誘導するために、マウスに6週間まで0.2%のクプリゾン(Sigma−Aldrich、St.Louis、MI)を含む製粉したマウス固形飼料の食餌を与える。続いて、3週間までマウスを正常の食餌に戻して、再ミエリン化を起こさせる。
【0159】
傷害に続いて、および再ミエリン化が起こるのに十分な時間の後、小動物における蛍光の検出に関して当該分野で公知のインビトロまたはインビボの方法を用いて、蛍光を検出する。イソフルラン/酸素で麻酔したマウスを、画像化ステージに置く。関連分野で利用可能なイメージングシステムを用いて(例えばIVISイメージングシステム、Xenogen Corp.、Alameda、CA)、腹側および背側の画像を、様々な時点で得る
麻酔したマウスをまた、左心室を通じて、0.1MのPBS中4%のパラホルムアルデヒドで灌流する。脳を除去し、パラホルムアルデヒドで固定し、30%ショ糖中で凍結保存し、OCTに包埋し、そしてドライアイス上で凍結する。凍結切片を、クリオスタットで10μmの厚さに切断する。シドマン切片241−251に対応する、脳梁の脳弓領域における冠状切片を、使用のために選択し、そして全ての比較分析を、正中脳梁に制限する(Sidmanら、Atlas of the Mouse Brain and Spinal Cord、Harvard Univ.Press、Cambridge、Massachusetts(1971))。
【0160】
インビボにおける蛍光を、関連分野で利用可能な装置を利用して、検出および/または定量する。視覚化システムと組み合わせたパルスレーザーダイオードおよび時間相関単一光子計測検出システムを使用して、組織からの蛍光の放出のレベルを検出する(Gallantら、Annual Conference of the Optical Society of America(2004);Contagら、Mol.Microbiol.18:593−603(1995);Schindehutteら、Stem Cells.23:10−15(2005))。組織−空気界面における後方反射光子からの大きなシグナルを避けるために、検出ポイントは光源点の右3mmに位置する。レーザーおよびフィルター両方の波長の選択は、選択した蛍光マーカーに依存する。生物学的組織の吸収が低い場合、大きな組織深度(例えばレーザー出力に依存して2、3から数センチメートル)からの蛍光シグナルをインビボイメージングのために検出し得る。
【0161】
様々な標的組織からの蛍光をイメージングおよび定量する。シグナル強度を平均+/−平均についての標準誤差として文字または図で示す。蛍光シグナルを、0時および続く各時点における、所定のマーカーに関する蛍光シグナル間の違いを評価するために、post hoc t検定による分散の分析によって分析する。
【0162】
免疫組織化学のために、凍結切片を−20℃のアセトンで処理し、10%のNGSおよび0.1%のTrironX−100を含むPBSで固定し、そして固定溶液で希釈した一次抗体と一晩インキュベートする。適当な蛍光色素または酵素標識した二次抗体(Vector Laboratories、Burlingame、CA)を検出のために使用する。細胞/組織切片を、DAPIを含むVectashield封入剤(Vector Laboratories)でマウントし、そしてZeiss Axioplan蛍光顕微鏡で視覚化する。Open Labソフトウェアスイートを用いて、アップルマッキントッシュコンピューターと接続したPhotometrics PXL CCDカメラを用いて画像を捕捉する。0.04mmの領域に限定された脳梁の正中において陽性細胞を計測することによって、異なる波長の蛍光を検出および定量する。蛍光または共焦点顕微鏡を利用した、インビトロにおいて組織/細胞からの蛍光レベルを検出および測定するためのさらなる方法が当該分野で公知であり、そして上記の本明細書中で開示された1つまたはそれ以上のマーカータンパク質からの蛍光を検出または測定するのに利用し得る。
【0163】
顕微鏡による蛍光の検出に加えて、中枢または末梢神経系からの細胞/組織を切除し、そしてタンパク質に関して処理する、例えば組織をホモジナイズし、そしてタンパク質をSDS−10%ポリアクリルアミドゲルにおいて分離し、そして次いでニトロセルロース膜に移す。蛍光タンパク質レベルを、一次抗体/抗血清(例えば特定のマーカータンパク質に対して産生されたヤギポリクローナル;BD Gentest、Woburn、MA)およびペルオキシダーゼ結合二次抗体ウサギ抗ヤギIgG(Sigma−Aldrich)を利用して検出する。当該分野で利用可能な、標準的な試薬を用いて、化学発光を検出して、組織サンプルにおける蛍光マーカータンパク質のレベルを検出および決定する。
【0164】
EGFPは、再ミエリン化オリゴデンドロサイトにおいて特異的に蛍光または化学発光によって検出される。
【0165】
本発明は、上記で記載された実施態様に限定されず、添付の請求の範囲内で改変し得る。当業者は、単なる日常的な実験を用いて、本明細書中で記載された本発明の特定の実施態様の多くの同等物を認識する、またはそれを確認し得る。本発明から離れることなく、今や多くのバリエーション、変化、および置換が当業者に思い浮かぶ。本明細書中で記載された、本発明の実施態様の様々な代案を、本発明の実施において採用し得ることが理解される。以下の請求が本発明の範囲を規定すること、およびこれらの請求の範囲内の方法および構造、およびその同等物が、それによって含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱髄傷害の際に先在ミエリン化細胞を再ミエリン化細胞から区別するための方法であって、
(a)神経細胞集団に複数の導入遺伝子を導入する工程であって、少なくとも第1の導入遺伝子は第1のマーカータンパク質をコードし、第2の導入遺伝子は第2のマーカータンパク質をコードし、ここで該第1のマーカータンパク質と第2のマーカータンパク質とは異なる検出可能な波長を放出し;該第1の導入遺伝子の発現は、脱髄の誘導前の先在するミエリン化細胞を示し、該第2の導入遺伝子は再ミエリン化細胞を示す、工程;
(b)該神経細胞の集団を脱髄傷害に供する工程;
(c)該第1のマーカータンパク質または第2のマーカータンパク質を発現する細胞を同定し、それによって、該先在するミエリン化細胞を該再ミエリン化細胞から区別する、工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記第1の導入遺伝子および前記第2の導入遺伝子は、ミエリン化細胞に特異的な調節エレメントに作動可能に連結されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の導入遺伝子の発現は、前記脱髄傷害の際に再ミエリン化する能力を示す前駆細胞において発現される第3の導入遺伝子によって時間的に調節される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の導入遺伝子は、前記第1の導入遺伝子が抑制されているときに発現される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の導入遺伝子の発現は、発現オペロンから該第1の導入遺伝子を切り出すことによって抑制される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
神経損傷の際に先在するニューロンから再生したニューロンを区別するための方法であって、
(a)神経細胞集団に複数の導入遺伝子を導入する工程であって、少なくとも第1の導入遺伝子は第1のマーカータンパク質をコードし、第2の導入遺伝子は第2のマーカータンパク質をコードし、ここで該第1のマーカータンパク質と第2のマーカータンパク質とは異なる検出可能な波長を放出し;該第1の導入遺伝子の発現は、神経損傷前の先在するミエリン化細胞を示し、該第2の導入遺伝子は再ミエリン化細胞を示す、工程;
(b)該神経細胞の集団を神経損傷に供する工程;
(c)該第1のマーカータンパク質または第2のマーカータンパク質を発現する細胞を同定し、それによって、該先在するミエリン化細胞を該再ミエリン化細胞から区別する、工程
を包含する、方法。
【請求項7】
前記第2の導入遺伝子は、前記第1の導入遺伝子が抑制されているときに発現される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の導入遺伝子の発現は第3の導入遺伝子によって調節され、該第3の導入遺伝子は、軸索の損傷の際に誘導される調節エレメントに作動可能に連結されており、そして該第3の導入遺伝子の発現のときに、前記第1の導入遺伝子の発現は抑制される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
ベクターであって、
(a)第1のマーカータンパク質をコードする第1の導入遺伝子であって、該第1の導入遺伝子の発現は、グリア細胞特異的調節エレメントのコントロール下にある、第1の導入遺伝子;および
(b)第2のマーカータンパク質をコードする第2の導入遺伝子であって、該第2のマーカータンパク質は、該第1のマーカータンパク質が抑制されているときに発現され、該第1のマーカータンパク質と該第2のマーカータンパク質とは異なるタンパク質である、第2の導入遺伝子、
を含む、ベクター。
【請求項10】
前記第1のマーカータンパク質および第2のマーカータンパク質は蛍光であり、それぞれ異なる検出可能な波長を放出する、請求項9に記載のベクター。
【請求項11】
請求項10に記載のベクターを含む、細胞。
【請求項12】
前記細胞は神経細胞である、請求項11に記載の細胞。
【請求項13】
第1の蛍光マーカータンパク質をコードする第1の導入遺伝子および第2の蛍光マーカータンパク質をコードする第2の導入遺伝子を含むトランスジェニック動物であって、該第2のマーカータンパク質は該第1のマーカータンパク質と区別可能であり、該第1のマーカータンパク質おとび第2のマーカータンパク質は外因性の物質によって時間的にコントロールされ、該発現はグリア細胞の亜集団において生じる、トランスジェニック動物。
【請求項14】
グリア細胞の前記亜集団は成熟オリゴデンドロサイトである、請求項13に記載のトランスジェニック動物。
【請求項15】
グリア細胞の前記亜集団は再ミエリン化オリゴデンドロサイトである、請求項13に記載のトランスジェニック動物。
【請求項16】
前記外因性の物質は、前記第1のマーカータンパク質および第2のマーカータンパク質の発現を時間的に調節するように、グリア細胞の前記亜集団における第3の導入遺伝子の発現を誘導する、請求項13に記載のトランスジェニック動物。
【請求項17】
前記第1のマーカータンパク質の発現は前記外因性の物質による誘導の前に存在していたミエリン化細胞において起こり、前記第2の蛍光マーカータンパク質の発現は、該外因性の物質による誘導の際の再ミエリン化グリア細胞において起こる、請求項16に記載のトランスジェニック動物。
【請求項18】
前記グリア細胞は、星状細胞、オリゴデンドロサイト、およびシュワン細胞からなる群より選択される、請求項13に記載のトランスジェニック動物。
【請求項19】
請求項13に記載のトランスジェニック動物の細胞。
【請求項20】
動物において再ミエリン化が起こったか否かを決定するための方法であって、
(a)請求項17に記載のトランスジェニック動物を提供する工程;
(b)前記外因性の物質を投与し、前記第3の導入遺伝子の発現を誘導する工程;
(c)該動物を脱髄傷害に供する工程;および
(d)前記第1のマーカータンパク質および/または前記第2のマーカータンパク質の発現を検出し、それによって再ミエリン化が起こったか否かを決定する工程、
を包含する、方法。
【請求項21】
候補物質が再ミエリン化を調節するか否かを決定するための方法であって、
(a)請求項17に記載のトランスジェニック動物を提供する工程;
(b)外因性の物質を投与し、前記第3の導入遺伝子の発現を誘導する工程;
(c)該動物を脱髄傷害に供する工程;
(d)該動物を該候補物質に曝露する工程;および
(e)コントロールと比較して前記第1のマーカータンパク質および/または前記第2のマーカータンパク質からの蛍光シグナルを検出する工程であって、該候補物質への曝露後の該第2のマーカータンパク質の該蛍光シグナルにおける減少は該物質が再ミエリン化を阻害することを示し;該蛍光シグナルにおける増加は該候補物質が再ミエリン化を促進することを示す、工程、
を包含する、方法。
【請求項22】
再ミエリン化を促進するための候補物質を同定するための方法であって、
(a)複数のグリア細胞を提供する工程であって、該複数のうちの少なくとも1つのメンバーは、第1の蛍光マーカータンパク質をコードする第1の導入遺伝子および第2の蛍光マーカータンパク質をコードする第2の導入遺伝子を含み、該第2のマーカータンパク質は該第1のマーカータンパク質から区別可能であり、該第1のマーカータンパク質および該第2のマーカータンパク質の発現は、外因性の物質による誘導の前から存在していたミエリン化グリア細胞において該第1のマーカータンパク質の発現が起こるように、該外因性の物質によって時間的に調節され、該第2のマーカータンパク質の発現は該外因性の物質による誘導の再の再ミエリン化グリア細胞において起こる、工程;
(b)該外因性の物質を投与する工程;
(c)該細胞を脱髄傷害に供する工程;
(d)該細胞を候補物質に曝露する工程;
(e)コントロールと比較して、該第1のマーカータンパク質および/または該第2のマーカータンパク質からの蛍光シグナルを検出する工程であって、該候補物質への曝露後の該第2のマーカータンパク質の該蛍光シグナルにおける減少は、該物質が再ミエリン化を阻害することを示し;該蛍光シグナルにおける増加は、該候補物質が再ミエリン化を促進することを示す、工程、
を包含する、方法。
【請求項23】
再ミエリン化を検出および定量するための動物モデルであって、先祖オリゴデンドロサイトにおいて発現されるリコンビナーゼを時間的に発現することができるダブルトランスジェニック動物を含み、それによって該リコンビナーゼの発現が蛍光マーカータンパク質の発現をもたらし、該蛍光マーカータンパク質の発現が該先祖オリゴデンドロサイトによる再ミエリン化に対応し、該発現が発現のレベルの測定を提供し、それによって再ミエリン化の検出および定量の両方のためのシステムを提供する、動物モデル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2010−500039(P2010−500039A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−524018(P2009−524018)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【国際出願番号】PCT/US2007/075742
【国際公開番号】WO2008/022045
【国際公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(501243030)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー (17)
【出願人】(503294773)ユニバーシティ オブ シカゴ (11)
【Fターム(参考)】