説明

細胞洗浄遠心機

【課題】血球等の生体細胞を洗浄するための細胞洗浄遠心機において、洗浄プロセスの工程処理時間を短縮し、かつ洗浄効果のばらつきを低減することによって、輸血検査等の検査の信頼性を向上させることを目的とする。さらに細胞洗浄遠心の消費電力の低減、長寿命化を図ることを目的とする。
【解決手段】細胞洗浄遠心機20は、洗浄液注入工程(1)、遠心工程(2)、上澄液排出工程(3)、及び揺動工程(4)の4工程からなる洗浄サイクルを、モータの回転を停止させることなく、順次、連続して実行することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心力を利用して赤血球等の生体細胞を洗浄するための細胞洗浄遠心機に関し、特に、生体細胞を洗浄するための洗浄サイクルを短縮するために好適な細胞洗浄遠心機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、輸血検査時の抗グロブリン試験、交差適合試験、不規則抗体スクリーニング等において、赤血球を生理食塩水等の洗浄液で洗浄し、懸濁液中の余分な抗体を除去するために用いられる細胞洗浄遠心機(血球洗浄遠心機)が知られている。
【0003】
周知の細胞洗浄遠心機は、駆動軸を有するモータと、該モータの駆動軸に連結され、モータで回転されるロータと、該ロータ上に円形列に回動自在に装着され、かつロータの回転による遠心力によって円形列の外側水平方向に回動し、かつ磁性体部材より成る複数の試験管ホルダと、ロータに装着され、ロータと同時に回転し、複数の試験管ホルダにそれぞれ保持された複数の試験管内に洗浄液を供給する洗浄液分配素子と、磁気コイルへの通電に基づいて発生する磁気吸引力によって前記試験管ホルダを垂直又は垂直に近い角度に吸着する磁気素子とを備えている。例えば、下記特許文献1には、洗浄遠心機の洗浄液の分配素子が開示され、分配素子は内面が円錐形状容器の底面外周から放射状に設置されたノズルを有し、ロータと共に回転する洗浄液分配素子の中央から遠心力で注入された洗浄液を等分に分配し、ノズルより試験管ホルダによって保持された多数の試験管内に洗浄液を供給することを特徴としている。また、下記特許文献2には、ロータと共に回転する洗浄液分配素子に穿孔された穴からロータに回動自在に支持された試験管ホルダ内の試験管に洗浄液を供給することが開示されている。また、同特許文献には、磁気素子を使用して試験管ホルダをロータに保持させることも開示されている。さらに、下記特許文献3及び下記特許文献4には、試験管ホルダを、ロータにリムや回転部材を用いて、垂直方向から小さな角度に保持したまま低速で回転し、試験管から洗浄液の上澄液を排出する技術が開示されている。さらに、下記特許文献5には、ロータに試験管ホルダを磁気素子によって垂直方向より小さな角度で傾いた状態に保持し、該ロータを低速で回転しつつ、試験管ホルダに保持された試験管から洗浄液の上澄液を排出することが開示されている。
【0004】
一方、細胞洗浄遠心機において、洗浄液注入工程、遠心工程、上澄液排出工程、及び揺動工程を含む洗浄プロセスを、順次、自動的に実行する自動血球洗浄遠心機が周知である。例えば、下記非特許文献1に示されているように、本願出願人によって製品名「himacMC450」として販売している自動血球洗浄遠心機が周知である。図8は、かかる従来の自動細胞洗浄遠心機において、輸血検査等を行う洗浄プロセスを実行するためのロータ駆動用モータの回転、洗浄液分配素子のポンプの運転、及び試験管ホルダを固定する磁気素子の磁気コイルへの通電に関するタイムチャートを示している。従来の自動血球洗浄遠心機を用いた洗浄プロセスは次のように実行される。
【0005】
(1)先ず、図8に示す時間(1)の洗浄液注入工程において、血球等の生体細胞を入れた試験管をロータの試験管ホルダにセットし、ロータを駆動するモータを加速回転させ、その遠心力によって試験管ホルダ内の試験管下部を外方に回動させ、試験管を垂直方向から水平方向に一定の角度に傾けた状態で、ロータ(モータ)を回転させる。このとき、図8に示したように、時間(1)においてポンプ動作をオン(ON)状態(ポンプに給電した状態)にすることにより、ロータの回転と共に回転する洗浄液分配素子を介して試験管へ洗浄液を注入する。血球は洗浄液注入の勢いにより攪拌され、洗浄される。
【0006】
(2)次に、図8に示す時間(2)の遠心工程において、例えばロータ(モータ)を3000rpm、45秒間、遠心する。これによって、血球は試験管の底部に沈殿し、血清等の不要物質は上澄に残る。
【0007】
(3)さらに、図8に示す時間(3)の上澄液排出工程において、図8に示すような磁気コイルへの通電をオン(ON)状態として磁気素子動作をオン(ON)とし、該磁気素子に発生する吸引力によって、試験管ホルダをほぼ垂直状態に吸着し、固定する。この状態で再度、ロータを低速、例えば400rpmで回転すると、試験管4の上部は小さな角度で開いた状態又は垂直状態となるために、上澄液は遠心力により試験管の壁面を上昇し、外部へ排出される。直ちに回転を停止すると沈殿した血球のみが残る。
【0008】
(4)次に、図8に示す時間(4)の揺動工程において、ロータの回転と停止を交互に小刻みに繰り返すか、又は正回転と逆回転を交互に小刻みに繰り返すことにより、ロータの試験管ホルダ内の試験管に揺動を与え、試験管の底に沈殿させ、固着した血球を解す。
【0009】
以上の4つの工程を洗浄サイクルの1サイクルとして、通常、このサイクルを3〜4回繰り返すことで洗浄を実行している。
【0010】
【特許文献1】特開昭50−22693号公報
【特許文献2】実開平2−81640号公報
【特許文献3】特公昭48-27267
【特許文献4】公開昭60−150857
【特許文献5】実開昭54−167860号公報
【非特許文献1】日立工機株式会社ホームページ「日立自動血球洗浄機 himac MC450」、[平成17年2月28日検索]、インターネット<URL:http://www.hitachi−koki.co.jp/himac/products/mc450.htm>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の図8に示す上記(1)〜(4)の洗浄プロセスにおいて、遠心工程(2)と上澄液排出工程(3)の間で、ロータの回転を停止させる時間aを設定し、この間に試験官ホルダを保持するための磁気素子等を動作させていた。同様に、上澄液排出工程(3)と揺動工程(4)の間でも、ロータの回転を停止させる時間aを設定し、この間に試験官ホルダを保持するための磁気素子等の動作を終了させていた。また、次の洗浄サイクルに移る前にも、ロータの回転を停止する時間aを設定していた。これらのロータの停止時間aは、洗浄サイクルにとっては無駄時間となるために、極力短く設定されていた。しかし、確実にロータの回転停止を確認するためには、最低でも0.5秒は必要となり、例えば、3サイクルの洗浄サイクルにおいて総合停止時間が20秒近くになるという問題があつた。この結果、細胞洗浄の処理時間が長くなり、輸血検査等に要する時間が長くなるという欠点を招いていた。
【0012】
また、上記揺動工程(4)では、試験管ホルダに揺動を与えるために、ロータの駆動用モータへの通電をオン・オフ(ON・OFF)させることによって、頻繁に、モータの回転と停止を繰り返していた。頻繁に回転又は停止を繰り返すことはモータに起動電流又はノイズ電流を頻繁に流すことになる。結果的に、消費電力が多くなり、処理コストが増大することになる。また、頻繁な通電のスイッチングは、大きな起動電流を流し、駆動モータや制御装置の温度上昇を招き、結果的にモータや回路装置の機能を低下させる原因にもなり、さらにはモータや回路部品の寿命を短くする要因となる。
【0013】
さらに、モータが停止状態から回転が一定になるまでの加速特性は、モータが停止していた状態に基づいて、例えば、モータのベアリング状態や、モータのカーボンブラシがコミュテータ(整流子)に当たる状態等に基づいて、ばらつきが発生する。上澄液排出工程(3)は、停止状態から回転を加速していく時に、沈殿し固着した血球よりも液体である上澄が試験管の壁面を上昇し、外部へ排出され易いことに着目して行う工程であり、モータの回転数の加速特性にばらつきが発生すると、上澄液排出の状態にばらつきが生じる。結果的に、上澄液排出工程(3)の後に生ずる上澄液量のばらつきは、洗浄効果のばらつきとして表れることになり、輸血検査等の検査の信頼性を低下させる要因となる。
【0014】
従って、本発明の主目的は、洗浄プロセスの処理時間を短縮した細胞洗浄遠心機を提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、消費電力が少なく、処理コストの低い洗浄プロセスを実行できる細胞洗浄遠心機を提供することにある。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、駆動モータ又は回路部品に過度な起動電流が流れるのを抑制し、長寿命化した細胞洗浄遠心機を提供することにある。
【0017】
本発明のさらに他の目的は、洗浄効果にばらつきの少ない信頼性ある細胞洗浄遠心機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願において開示される細胞洗浄遠心機の一つの特徴によれば、駆動軸を有するモータと、前記モータの駆動軸に連結され、該モータで回転されるロータと、前記ロータ上に円形列に回動自在に装着され、かつ前記ロータの回転による遠心力によって前記円形列の外側水平方向に回動し、かつ磁性体部材より成る複数の試験管ホルダと、前記ロータに装着され前記ロータと同時に回転し、前記複数の試験管ホルダにそれぞれ保持された複数の試験管内に洗浄液を供給する洗浄液分配素子と、磁気コイルへの通電に基づいて発生する磁気吸引力によって前記試験管ホルダを垂直又は垂直に近い角度に保持する磁気素子とを備えた細胞洗浄遠心機において、前記モータ、前記洗浄液分配素子、及び前記磁気素子の動作を制御する制御装置を備え、該制御装置は、前記ロータの回転中に、前記洗浄液分配素子により洗浄液を前記試験管へ注入する洗浄液注入工程と、前記モータの回転を前記洗浄液注入工程より速い第1の回転速度で回転させることにより、前記試験管内の浮遊細胞を該試験管内底に沈殿させる遠心工程と、前記試験管ホルダを前記磁気素子によって垂直又は垂直に近い角度に保持した状態で前記モータを前記第1の回転速度より低速の第2の回転速度で回転させて前記試験管から前記洗浄液の上澄液を排出する上澄液排出工程と、前記モータを前記第1の回転速度より低速の第3の回転速度で回転させながら、前記試験管ホルダ(又は前記試験管)に揺動を与え、前記試験管内底に沈殿した細胞塊を解かす揺動工程とから成る洗浄サイクルを、前記モータの回転を停止させることなく、順次、実行する。
【0019】
本発明の細胞洗浄遠心機の他の特徴によれば、駆動軸を有するモータと、前記モータの駆動軸に連結され、該モータで回転されるロータと、前記ロータ上に円形列に回動自在に装着され、かつ前記ロータの回転による遠心力によって前記円形列の外側水平方向に回動し、かつ磁性体部材より成る複数の試験管ホルダと、磁気コイルへの通電に基づいて発生する磁気吸引力によって前記試験管ホルダを垂直又は垂直に近い角度に保持する磁気素子とを備えた細胞洗浄遠心機において、前記磁気素子は、前記磁気コイルへの通電によって前記モータの所定の回転速度によって前記試験管ホルダに作用する遠心力より強い磁気吸引力を発生することにより、回転中の前記試験管ホルダを垂直又は垂直に近い角度に吸着できるものから成り、前記モータが前記所定の回転速度で回転しているとき、前記磁気コイルへの通電を断続的に行うことにより間欠的に前記磁気吸引力を前記遠心力より大きくすることにより、前記試験管ホルダを揺動させる。
【0020】
本発明の細胞洗浄遠心機の他の特徴によれば、モータは正回転及び逆回転を小刻みに反復することなく、若しくは、モータは回転又は停止を小刻みに反復することなく、洗浄プロセスの間、常に正回転するように制御される。
【0021】
本発明の細胞洗浄遠心機の他の特徴によれば、洗浄プロセスの間、モータの回転が休止されることがなく、例えば50rpmから100rpmの低速回転から、例えば3000rpmの高速回転の間で回転速度が制御される。
【0022】
本発明の細胞洗浄遠心機の他の特徴によれば、揺動工程のモータの回転速度(回転数)は、磁気素子の吸着力が回転中の試験管ホルダに及ぶ回転数である50rpmから100rpmの範囲のいずれかの回転数に制御され、磁気素子の吸着力(吸引機能)が働く繰り返し周期(磁気素子への通電の繰り返し周期)は、0.2秒乃至1.0秒であることを特徴とする。
【0023】
本発明の細胞洗浄遠心機の他の特徴によれば、4つの工程を持つ洗浄サイクルは、複数回、モータの回転を停止させることなく連続して行う。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、洗浄プロセスの各工程を、モータの回転を停止させることなく、連続して行うことにより、洗浄プロセスの処理時間を短くすることができる。また、常に一定方向のモータ回転によって洗浄プロセスを実行するので、モータの起動電流も少なくなり、消費電力を少なくできる。さらに、急激なモータ起動がないので、過大電流による温度上昇や機能低下を防止できる。さらにまた、常にモータが回転している状態で各洗浄工程が実行されるので、加速特性のばらつきをなくすことができ、洗浄効果にばらつきのない信頼性の高い細胞洗浄遠心機を提供できる。
【0025】
本発明の上記特徴及び他の特徴、並びに上記効果及び他の効果は、以下の本明細書の記述及び添付図面よりさらに明らかにされるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明を省略する。
【0027】
図1は本発明に係る細胞洗浄遠心機の全体構成を示す断面図、図2は、図1に示した本発明に係る細胞洗浄遠心機によって実行する洗浄処理のフローチャート、図3は、図2に示した各洗浄処理工程における、細胞洗浄遠心機の試験管ホルダの動作状態を示す断面図、図4は、図1に示した本発明に係る細胞洗浄遠心機において、モータの回転速度(回転数)、ポンプの通電タイミング、及び磁気素子の通電タイミングを示すタイムチャートである。
【0028】
図1に示すように、本発明に係る細胞洗浄遠心機20は、上面から見た断面形状が四角形を有する筐体(フレーム)22及び該筐体22の上部を開閉するドア21を備え、この筐体22内に組立てられた、駆動軸(回転軸)8を有するモータ1と、モータ1の駆動軸8に連結され、該モータ1で回転されるロータ2とを備える。ロータ2上には、上面から見て円形列に、かつ回動自在に装着された複数(例えば、24個)の試験管ホルダ3が設置されている。各試験管ホルダ3内には、予め赤血球等の生体細胞が適量入った試験管4が保持される。この試験管ホルダ3は磁性体部材より構成される。
【0029】
また、細胞洗浄遠心機20は、試験管ホルダ3をロータ2に垂直又は垂直に近い小さい角度に、磁力によって吸着し保持するための磁気素子7を備える。磁気素子7は、円盤状の上部磁性体部材7aと下部磁性体部材7bとを備え、さらに、これら上部磁性体部材7aと下部磁性体部材7bとによって挟み込まれるように設置された、絶縁導線のリング状コイル(磁気コイル)7cを備える。これら磁性体部材7a及び7bと、磁気コイル7cはモータ1の駆動軸8に固定され、ロータ2と共に一体に回転する。回転する磁気コイル7cには、一対のスリップリング7d及び7eを介して、制御装置11から電流が供給される。磁気コイル7cに電流を通電すると磁場を生じ、磁性体材料、例えばSUS430材、によって作られた試験管ホルダ3は、上部磁性体部材7aと下部磁性体部材7bと共に、磁気回路を形成するので、上部磁性体部材7a及び下部磁性体部材7b(磁気素子7)に強く吸着される。即ち、磁気コイル7cに電流を通電することによって、磁気素子7(磁性体部材7a及び7b)は一個の磁石として作用し、磁性体材料から成る試験管ホルダ3を吸着する。本実施例では上部磁性体部材7aの外径は、下部磁性体部材7bに比べ大きい外径を持つ。これによって、磁性体部材7a及び7b(磁気素子7)の吸着面は、試験管4が鉛直線に対し上方に約8度開いた状態になるように試験管ホルダ3を吸着できる。
【0030】
モータ1の回転中において、遠心力によって試験管ホルダ3が磁気素子7から水平方向へ回動する離間距離は、遠心力によって異なるので、モータ1の回転数(回転速度)が速くなるに従って大きくなる。磁気素子7の磁気コイル7cへの通電による磁気吸引力は、所定のモータ回転数を限度とする離間距離にある試験管ホルダを吸着できるように設定される。例えば、100rpmを超える回転数では遠心力によって試験管ホルダ3と磁気素子7の離間距離が大きくなり、磁気素子7への通電による吸引力は、100rpmの回転数を限度として試験管ホルダ3を吸着できなくなる。従って、磁気素子7への通電による吸引力は、モータ回転が100rpm(所定の回転数)以内の回転数において、回動して離間した試験管ホルダ3を吸着できるように設定されることになる。後述する洗浄処理工程の一つの工程(揺動工程)において、ロータ2の回転数(回転速度)が例示のように100rpmのように所定の回転数より遅くなるように設定される場合、磁気素子7の動作をオンすることによって、試験管ホルダ3は、垂直又は垂直に近い小さい角度に吸着され、一方、磁気素子7の動作をオフして吸着力を解除することによって、試験管ホルダ3は回転速度に応じて作用する遠心力で水平方向に回動する。この磁気素子7の動作を小刻みにオン又はオフすることにより試験管ホルダ3を揺動させることができる。他方、後述するように、洗浄処理工程の他の工程(遠心工程)において、磁気素子7の動作をオフして吸着力を解除した状態において、ロータ2に速い回転数を与えて遠心力によって試験管ホルダ3を水平方向に回動させる。これによって、試験管4を保持する試験管ホルダ3は、水平方向に回動し、試験管ホルダ3の下部がボウル10に当たるまで傾き、試験管4内の血球などの試料を遠心分離する。例えば、磁気素子7の動作をオフして吸着力を解除した状態においてモータ1の回転を3000rpmとして、試験管ホルダ3の下端部がボウル10に当接したとき、試験管4と鉛直線がなす角度が約40°となるように回動する。モータ1は、例えば誘導モータより成り、その回転数(回転速度)は制御装置11によって制御できる。
【0031】
また、細胞洗浄遠心機20は、複数の試験管4内に洗浄液5aを供給する洗浄液分配素子5を有する。洗浄液分配素子5はロータ2と一体に回転するようにロータ2上に構成される。洗浄液分配素子5に関連して、洗浄液供給路9が設けられ、洗浄液供給路9にはポンプ6が結合される。制御装置11によってポンプ6の動作電源をオン(ON)させることにより、図示しない外部の洗浄液タンクから、洗浄液5aを、洗浄液供給路9を通して細胞洗浄遠心機20の上部に位置するノズル9aに供給することができる。後述する洗浄液注入工程では、ノズル9aから下方に噴出した洗浄液は、ロータ2と一体で高速回転する洗浄液分配素子5の中央部内に入り、洗浄液分配素子5内の遠心力により外周に分流され、試験管ホルダ3に保持された試験管4と同数(24本)の各流路に分岐され、分配素子5の外周注入口5bから勢い良く各試験管4内に注入できる。
【0032】
かかる細胞洗浄遠心機20によって、例えば輸血検査等を行うための血球洗浄プロセスを実行する場合について、図2に示す洗浄処理のフローチャート、図3に示す洗浄処理工程別の遠心機の要部断面図、及び図4に示す遠心機の動作タイムチャートを参照して以下に説明する。
【0033】
まず、図2に示す工程100[洗浄液注入工程(1)]において、図4のタイミングチャート(1)及び図3の断面図(1)に示すように、予め赤血球等の生体細胞を適量入れた24本の試験管4を保持する24本の試験管ホルダ3は、モータ1(ロータ2)の最高回転数(回転速度)が3000rpmに達するように加速回転され、遠心力が与えられる。上述したように、洗浄液(例えば、生理食塩水)5aは、洗浄液分配素子5内の遠心力により外周に分流され、試験管ホルダ3に保持された試験管4と同数(24本)の各流路に分岐され、分配素子5の外周から勢い良く各試験管4内に注入される。注入された洗浄液5aは、洗浄液分配素子5の外側に位置する各試験管4の内壁に当たり、壁面を伝わり試験管4底部にある生体細胞を浮遊させ、懸濁状態を作り出す。試験管4に適量の洗浄液が入ると、制御装置11によって、ポンプ6の動作は停止され、洗浄液注入工程は終了する。
【0034】
引き続き、図2に示す工程101[遠心工程(2)]において、図4のタイミングチャート(2)及び図3の断面図(2)に示すように、浮遊している生体細胞が試験管4の底部に沈殿し、一方血清等の不要物質は上澄に残るような高速回転の条件、例えば本実施例では3000rpm、35秒間、高速回転を継続し、遠心分離をする。
【0035】
次に、図2に示す工程102において、上記遠心工程101の終了後に、制御装置11によって、モータ1に給電する駆動電圧を制御し減速する。この時、本発明に従って、モータ1の回転は完全に停止させない。即ち、モータ1の回転数は、試験管ホルダ3が磁気素子7の吸着力によりほぼ垂直な位置に保持され得る低速の回転数、例えば100rpm以下の回転数に制御される。
【0036】
工程102に引続く図2に示す工程103[上澄液排出工程(3)]において、図4のタイムチャート(3)及び図3の断面図(3)に示すように、工程102で低下させた回転数100rpmを保持した状態で、制御装置11よりリング状コイル7cに通電すると(即ち、磁気素子7の動作をON状態にすると)、磁気素子7は磁性体材料の試験管ホルダ3を吸着し、保持する。上述したように、磁気素子7の上部磁性体部材7aの外径は下部磁性体部材7bに比較して若干大きな外径となっているので、試験管ホルダ3が磁気素子7に吸着される面は、上方に約8度開いたほぼ垂直状態に近い状態で保持され、回転する。上述したように、モータ1の回転数が100rpm以上の回転数で、磁気素子7へ通電しても、遠心力によって試験管ホルダ3は磁気素子7と離間距離が大きくなり、磁気素子7は試験管ホルダ3を吸着、保持できなくなる。次に、磁気素子7に通電した状態で、図4の(3)に示すように、モータ1の回転数を約400rpmの中速回転に上昇させる。その結果、試験管4内の上澄液は、400rpmの回転による遠心力によって、試験管4の内壁面を上昇し外部へ排出され、試験管4の底部にある赤血球等の生体細胞は、そのまま底部に残る。
【0037】
上澄液排出工程103の終了後、図2の工程104に示すように、本発明に従って、モータ1の回転を完全に停止させることなく、制御装置11によって、モータ1の駆動電圧を制御し、回転数を減速し低速回転させる。本実施例では、モータ1の低速回転は、試験管ホルダ3が垂直な位置に戻る回転数100rpmに制御され、低速回転にした状態で通電を止める。
【0038】
次に続く、図2に示す工程105[揺動工程(4)]において、図4のタイミングチャート(4)及び図3の断面図(4)に示すように、モータ1は100rpmの回転数を保った状態で、図4に示すように、磁気素子7のリング状コイル7cに電流を小刻みにパルス状に通電する。これによって、試験管ホルダ3は、磁気素子7の磁力による吸着力と100rpmの回転による遠心力との交互の作用により、試験管ホルダ3の回動軸方向に揺動を与えられ、試験管4の底部に沈殿し、固着した細胞塊を解す効果を生じる。
【0039】
揺動工程105におけるモータ1の回転数の一つの例は、試験管ホルダ3が遠心力で磁気素子7より離れることができる50rpm以上の回転数が揺動効果を大きくできる点で有利である。一方、モータ1の回転数が100rpm以上の回転数になると、上述したように、磁気素子7のリング状コイル7cへの通電による磁気素子7の吸引力は、磁気素子7(磁性体部材7a及び7b)と試験管ホルダ3間の離間距離が大きくなり、試験管ホルダ3へ吸着力が及ばない範囲となる。即ち、100rpm以上の回転においては、磁気素子7による試験管ホルダ3の吸着作用が実用に供さない範囲となる。従って、揺動工程105におけるモータ1の回転数は、50rpmから100rpmが実用的で効果が大きい。
【0040】
一方、図5は揺動工程105における磁気素子7の動作、即ちリング状コイル7cへの通電のON・OFFの駆動周期(入切の繰り返し周期)と、試験官ホルダ3の振幅との関係を示したものである。試験官ホルダ3の揺動振幅は、繰り返し周期が0.2秒乃至1.0秒の範囲で比較的に大きくなり、その周期が0.4秒のとき、試験官ホルダ3の固有周期と一致して最大振幅となる。振幅が大きいほど揺動効果が大きいことは、沈殿した血球塊が解される時間からも実測できる。従って、揺動工程105における繰り返し周期は、0.2秒乃至1.0秒が実用的で揺動効果が大きい。
【0041】
以上説明した工程100乃至工程105から成る工程を1洗浄サイクルとして、このサイクルを3〜4回繰り返すことにより、試験管4内の赤血球等の生体細胞を洗浄し、抗体などの異物をより完全に分離、取り除くことができる。上記洗浄サイクルの工程100乃至工程105を繰り返す場合、即ち、工程106で最終目の洗浄サイクルか否か判断し、最終サイクルでない場合、揺動工程105から洗浄液注入工程100へ戻る場合も、図2に示す工程107によって、モータ1の回転を停止させることなく、低速回転、例えば100rpmで回転しながら、最初の工程100に戻るように制御する(図4参照)。
【0042】
図3及び図4を参照した以上の説明から明らかなように、本発明に従えば、洗浄サイクルの全ての工程においてモータ1の回転が停止することはない。特に、遠心工程(2)の終了後において、試験管ホルダ3が垂直な位置に戻るようなモータ1の低速回転の回転数100rpmまで下がったことを確認した後に、直ちに磁気素子7等を動作させて、上澄液排出工程(3)に移行することにより、図4に示した工程又は時間(2)と工程(3)との間の時間bを極力少なく、0.1秒以内とすることができる。また、図8に示すような従来必要とされたモータの停止時間aは不要となり、洗浄サイクル時間の著しい短縮ができる。特に血液検査などの検査結果を早く知りたい場合に用いられる洗浄遠心機として適用して好適である。例えば、本発明によれば、洗浄プロセスの処理時間を従来の約10%程度短縮することができ、輸血検査等の迅速化に貢献できる。
【0043】
また、図4に示すような本発明における揺動工程(4)では、頻繁なモータ1の回転及び停止の繰り返し、即ちモータヘの給電のON・OFFスイチングの頻繁な繰り返しが不要となり、更には洗浄サイクルと次の洗浄サイクルの間もモータの回転を停止することが不要となる。この結果、従来に比べ、モータに過大起動電流を流すことが少なくなり、消費電力の減少及び処理コストの低減が実現できる。さらに、過大サージ電圧や過大起動電流によるモータ1や制御装置11の温度上昇を防止でき、装置機能の長時間の安定化と、モータや回路部品の長寿命化を実現できる。
【0044】
さらに、本発明に従えば、工程102でモータ1を低速回転とし、その状態で工程103の上澄排出工程(3)に連続して移行するので、上澄液排出工程(3)において、モータ1の加速特性のばらつきを低減させることができる。これによって、ばらつきのない上澄液排出効果を得ることができる。この効果を図6及び図7を参照してさらに説明する。
【0045】
図6は、図8に示す従来の洗浄サイクルのタイムチャートに従って実行した上澄液排出工程において、モータの回転を停止した状態から上澄液排出のためにその回転を400rpmまで加速させた状態の加速特性を表したもので、洗浄サイクルを3回繰り返したときの測定結果を重ねて表示してある。この従来例のように、モータ回転が停止から一定の回転になるまでの加速特性は、モータのシャフト軸受におけるベアリング内のグリース状態や、モータのカーボンブラシがコミュテータ(整流子)に当接する状態等によりばらつきが発生する。図6に示す従来例では加速時間として約30%のばらつきが測定された。特に上澄液排出工程は、停止状態から回転を加速していく工程に、沈殿し固着した血球よりも上澄液が試験管の壁面を上昇し、外部へ排出され易い性質を利用して行う工程である。このため、従来技術のようにモータの加速特性に大きなばらつきが発生すると、上澄液排出効果に大きなばらつきを生じさせる。結果として、洗浄効果に大きなばらつきを発生させ、輸血検査等の検査の信頼性を低下させる要因となる。このような従来例に対し、図4に示す本発明のタイムチャートに従って実行した上澄液排出工程(3)では、モータの回転を完全に停止させることなく、低速回転(100rpm)より所定の回転(400rpm)に加速させるので、本発明の加速特性は、図7に示すように、洗浄サイクルを3回繰り返したときの測定結果にばらつきが少なく、加速時間のばらつきを約8%に低減させることができた。その結果、洗浄能力の信頼性を向上することができた。
【0046】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態に係る細胞洗浄遠心機を示す全体断面図。
【図2】本発明の実施形態に係る細胞洗浄遠心機によって実行する血球洗浄プロセスのフローチャート。
【図3】本発明の実施形態に係る細胞洗浄遠心機によって実行する血球洗浄プロセスの各工程おける遠心分離機の要部断面図。
【図4】本発明の実施形態に係る細胞洗浄遠心機のモータの回転速度、ポンプ動作、及び磁気素子動作の通電タイミングを示すタイムチャート。
【図5】本発明の実施形態に係る細胞洗浄遠心機において磁気素子動作の繰り返し周期と試験官ホルダの振幅の関係を示す特性図。
【図6】従来例に係る細胞洗浄遠心機によって上澄液排出工程を実行するモータの回転停止状態から一定回転までの加速特性示す特性図。
【図7】本発明の実施形態に係る細胞洗浄遠心機によって上澄液排出工程を実行するモータの低速回転状態から一定回転までの加速特性示す特性図。
【図8】従来例に係る細胞洗浄遠心機のモータの回転速度、ポンプ動作、及び磁気素子動作の通電タイミングを示すタイムチャート。
【符号の説明】
【0048】
1:モータ 2:ロータ 3:試験管ホルダ 4:試験管
5:洗浄液分配素子 5a:洗浄液 5b:外周注入口 6:ポンプ
7:磁気素子 7a:上部磁性体部材 7b:下部磁性体部材
7c:リング状コイル 7d、7e:スリップリング 8:駆動軸
9:洗浄液供給路 9a:洗浄液供給ノズル 10:ボウル
11:制御装置 20:細胞洗浄遠心機 21:ドア
22:筐体(フレーム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸を有するモータと、前記モータの駆動軸に連結され、該モータで回転されるロータと、前記ロータ上に円形列に回動自在に装着され、かつ前記ロータの回転による遠心力によって前記円形列の外側水平方向に回動し、かつ磁性体部材より成る複数の試験管ホルダと、前記ロータに装着され前記ロータと同時に回転し、前記複数の試験管ホルダにそれぞれ保持された複数の試験管内に洗浄液を供給する洗浄液分配素子と、磁気コイルへの通電に基づいて発生する磁気吸引力によって前記試験管ホルダを垂直又は垂直に近い角度に保持する磁気素子とを備えた細胞洗浄遠心機において、
前記モータ、前記洗浄液分配素子、及び前記磁気素子の動作を制御する制御装置を備え、該制御装置は、前記ロータの回転中に、前記洗浄液分配素子により洗浄液を前記試験管へ注入する洗浄液注入工程と、前記モータの回転を前記洗浄液注入工程より速い第1の回転速度で回転させることにより、前記試験管内の浮遊細胞を該試験管内底に沈殿させる遠心工程と、前記試験管ホルダを前記磁気素子によって垂直又は垂直に近い角度に保持した状態で前記モータを前記第1の回転速度より低速の第2の回転速度で回転させて前記試験管から前記洗浄液の上澄液を排出する上澄液排出工程と、前記モータを前記第1の回転速度より低速の第3の回転速度で回転させながら、前記試験管ホルダに揺動を与え、前記試験管内底に沈殿した細胞塊を解かす揺動工程とから成る洗浄サイクルを、前記モータの回転を停止させることなく、順次、実行することを特徴とする細胞洗浄遠心機。
【請求項2】
前記磁気素子は、前記磁気コイルへの通電によって前記第3の回転速度によって前記試験管ホルダに作用する遠心力より強い磁気吸引力を発生することにより、回転中の前記試験管ホルダを垂直又は垂直に近い角度に吸着できるものから成り、前記制御装置は、前記揺動工程において、前記モータが前記第3の回転速度で回転しているとき、前記磁気コイルへの通電を断続的に行うことにより間欠的に前記磁気吸引力を前記遠心力より大きくすることにより、前記試験管ホルダを揺動させることを特徴とする請求項1記載の細胞洗浄遠心機。
【請求項3】
前記揺動工程において、前記モータの前記第3の回転速度は50rpm乃至100rpmの範囲に制御され、前記磁気素子の通電の繰り返し周期は0.2秒乃至1.0秒の範囲に制御されていることを特徴とする請求項2に記載された細胞洗浄遠心機。
【請求項4】
前記制御装置は、前記洗浄サイクルを複数回、前記モータの回転を停止させることなく連続して実行することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載された細胞洗浄遠心機。
【請求項5】
駆動軸を有するモータと、前記モータの駆動軸に連結され、該モータで回転されるロータと、前記ロータ上に円形列に回動自在に装着され、かつ前記ロータの回転による遠心力によって前記円形列の外側水平方向に回動し、かつ磁性体部材より成る複数の試験管ホルダと、磁気コイルへの通電に基づいて発生する磁気吸引力によって前記試験管ホルダを垂直又は垂直に近い角度に保持する磁気素子とを備えた細胞洗浄遠心機において、
前記磁気素子は、前記磁気コイルへの通電によって前記モータの所定の回転速度によって前記試験管ホルダに作用する遠心力より強い磁気吸引力を発生することにより、回転中の前記試験管ホルダを垂直又は垂直に近い角度に吸着できるものから成り、前記モータが前記所定の回転速度で回転しているとき、前記磁気コイルへの通電を断続的に行うことにより間欠的に前記磁気吸引力を前記遠心力より大きくすることにより、前記試験管ホルダを揺動させることを特徴とする細胞洗浄遠心機。
【請求項6】
前記モータの所定回転速度は50rpm乃至100rpmの範囲であることを特徴とする請求項5に記載された細胞洗浄遠心機。
【請求項7】
前記磁気素子の通電を断続的に行う繰り返し周期は0.2秒乃至1.0秒の範囲であることを特徴とする請求項5又は6に記載された細胞洗浄遠心機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−254749(P2006−254749A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74505(P2005−74505)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】