説明

細胞洗浄遠心装置

【課題】血球等の生体細胞を洗浄するための細胞洗浄遠心装置において、特別な洗剤および殺菌剤を用いることなく、洗浄力および殺菌力を有する装置洗浄液を生成する装置洗浄液生成手段を備えた細胞洗浄遠心装置を提供することにある。
【解決手段】細胞洗浄遠心装置20の装置洗浄液生成手段30は供給された生理食塩水41aから電気分解によりアルカリ水および酸性水を含んだ洗浄液を生成し、これらの生成洗浄液を、モータ1を一定時間回転中に、順次、連続して装置内に注入し、装置の洗浄処理工程を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心力を利用して赤血球等の生体細胞を洗浄するための細胞洗浄遠心装置に関し、特に、生体細胞を洗浄した後の細胞洗浄遠心装置自体の洗浄と殺菌を効率よく行うことができる細胞洗浄遠心装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、輸血検査時の抗グロブリン試験、交差適合試験、不規則抗体スクリーニング等において、赤血球を生理食塩水等の洗浄液で洗浄し、懸濁液中の余分な抗体を除去するために用いられる細胞洗浄遠心装置(血球洗浄遠心装置)が知られている。
【0003】
周知の細胞洗浄遠心装置は、駆動軸を有するモータと、該モータの駆動軸に連結され、モータで回転されるロータと、該ロータ上に円形列に回動自在に装着され、かつロータの回転による遠心力によって円形列の外側水平方向に回動し、かつ磁性体部材より成る複数の試験管ホルダと、ロータに装着され、ロータと同時に回転し、複数の試験管ホルダにそれぞれ保持された複数の試験管内に洗浄液を供給する洗浄液分配素子と、磁気コイルへの通電に基づいて発生する磁気吸引力によって前記試験管ホルダを垂直又は垂直に近い角度に吸着する磁気素子とを備えている。例えば、下記特許文献1には、洗浄遠心機の洗浄液の分配素子が開示され、分配素子は内面が円錐形状容器の底面外周から放射状に設置されたノズルを有し、ロータと共に回転する洗浄液分配素子の中央から遠心力で注入された洗浄液を等分に分配し、ノズルより試験管ホルダによって保持された多数の試験管内に洗浄液を供給することを特徴としている。また、下記特許文献2には、ロータと共に回転する洗浄液分配素子に穿孔された穴からロータに回動自在に支持された試験管ホルダ内の試験管に洗浄液を供給することが開示されている。また、同特許文献には、磁気素子を使用して試験管ホルダをロータに保持させることも開示されている。さらに、下記特許文献3及び下記特許文献4には、試験管ホルダを、ロータにリムや回転部材を用いて、垂直方向から小さな角度に保持したまま低速で回転し、試験管から洗浄液の上澄液を排出する技術が開示されている。さらに、下記特許文献5には、ロータに試験管ホルダを磁気素子によって垂直方向より小さな角度で傾いた状態に保持し、該ロータを低速で回転しつつ、試験管ホルダに保持された試験管から洗浄液の上澄液を排出することが開示されている。
【0004】
一方、細胞洗浄遠心装置において、洗浄液注入工程、遠心工程、上澄液排出工程、及び揺動工程を含む洗浄プロセスを、順次、自動的に実行する自動血球洗浄遠心装置が周知である。例えば、下記非特許文献1に示されているように、本願出願人によって製品名「himacMC450」として販売している自動血球洗浄遠心装置が周知である。従来の自動血球洗浄遠心装置では、次の4つの工程からなる洗浄プロセスが実行される。
【0005】
(1)先ず、洗浄液注入工程において、血球等の生体細胞を入れた試験管をロータの試験管ホルダにセットし、ロータを駆動するモータを加速回転させ、その遠心力によって試験管ホルダ内の試験管下部を外方に回動させ、試験管を垂直方向から回転軸に対し一定の角度に傾けた状態で、ロータ(モータ)を回転させる。このとき、送液ポンプ動作をオン(ON)状態(送液ポンプに給電した状態)にすることにより、ロータの回転と共に回転する洗浄液分配素子を介して試験管へ洗浄液を注入する。血球は洗浄液注入の勢いにより攪拌され、洗浄される。
【0006】
(2)次に、遠心工程において、例えばロータ(モータ)を3,000rpm、45秒間、遠心する。これによって、血球は試験管の底部に沈殿し、血清等の不要物質は上澄に残る。
【0007】
(3)さらに、上澄液排出工程において、磁気コイルへの通電をオン(ON)状態として磁気素子動作をオン(ON)とし、該磁気素子に発生する吸引力によって、試験管ホルダを小さな角度で傾けた状態または垂直状態に吸着し、固定する。この状態で再度、ロータを低速、例えば400rpmで回転すると、試験管の上部は小さな角度で開いた状態又は垂直状態となるために、上澄液は遠心力により試験管の壁面を上昇し、外部へ排出される。直ちに回転を停止すると沈殿した血球のみが残る。
【0008】
(4)次に、揺動工程において、ロータの回転と停止を交互に小刻みに繰り返すか、又は正回転と逆回転を交互に小刻みに繰り返すことにより、ロータの試験管ホルダ内の試験管に揺動を与え、試験管の底に沈殿させ、固着した血球を解す。
【0009】
以上の4つの工程(1)〜(4)を洗浄サイクルの1サイクルとして、通常、このサイクルを3〜4回繰り返すことで洗浄を実行している。
【0010】
このような細胞洗浄遠心装置では、例えば生体試料である赤血球を洗浄した後の装置内は生体中の細胞残渣、タンパク質、または細菌もしくはウイルス等の残留物により汚染されるので、装置内の洗浄に注意しなければならない。従来、作業者の安全性の確保および装置のメンテナンスを行うため、他の医療機器と同様に、細胞洗浄遠心装置を使用した作業の終了後には、例えば1日に1回程度、細胞洗浄遠心装置内を洗浄、殺菌する工夫がされている。これにより、通常の細胞洗浄操作における細胞洗浄液への残留物の混入による洗浄不良の発生または遠心作業の信頼性の低下を防止し、かつ残留物の腐敗に伴う悪臭の発生、カビの発生による装置の腐食、および残留物の堆積もしくは腐敗による廃液流通路の目詰まりを防止している。さらに、細菌もしくはウイルス等の感染性物質による汚染もしくは感染を防止している。
【0011】
一般的な装置の洗浄作業としては、ロータや洗浄液分配素子を装置から取り外し、水道水で洗浄後、アルコールまたは適度な濃度の殺菌液を用いて殺菌する。洗浄、殺菌を行った後、真水で濯ぎ、十分に乾燥する。同様の手順に従い、装置本体も洗浄、殺菌、および乾燥を行う。一方、装置内の他の洗浄法として、細胞洗浄液とは別に、真水を注入して装置内の洗浄を実行する自動血球洗浄遠心装置が周知である。例えば、下記非特許文献2に示されているように、GMI社より製品名「Serocent24」として販売している自動血球洗浄遠心装置が周知である。
【0012】
【特許文献1】特開昭50−22693号公報
【特許文献2】実開平2−81640号公報
【特許文献3】特公昭48-27267
【特許文献4】公開昭60−150857
【特許文献5】実開昭54−167860号公報
【非特許文献1】日立工機株式会社ホームページ「日立自動血球洗浄機 himac MC450」、[平成17年2月28日検索]、インターネット<URL:http://www.hitachi−koki.co.jp/himac/products/mc450.htm>
【非特許文献2】GMI社ホームページ「Dade DAC II Automated Cell Washer」、[平成17年6月28日検索]、インターネット<URL:http://www.gmi−inc.com/CliniLab/Dade%20Dac%20II.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、従来の細胞洗浄遠心装置の洗浄においては、洗浄作業に多くの手間を必要とし、また、殺菌液として、通常の医療機器と同様に、次亜塩素酸ナトリウム、グルタールアルデヒド、アルコール類等の原液を規定濃度に調整して使用することから、殺菌液を調整する手間と多くのランニング・コストを必要とすることになる。さらに、次亜塩素酸ナトリウム等の殺菌剤は、温度や日光により経時変化を起こし易く、半年間で濃度が半分以下に低下する特質等を注意しながら薬剤の維持管理を行わなければならないという煩わしさも生ずる。さらにまた、使用する洗浄液および殺菌液のコストとは別に、それらの廃水処理、溶液の回収、再利用等により多くの設備および費用を必要とすることになる。これらはすべて輸血検査等の遠心分離作業のコストを増加させる要因となる。
【0014】
一方、上述したような人手による遠心装置の洗浄作業は、個人差が発生し易く、装置内の洗浄作業が不十分で、かつ殺菌液の濯ぎ洗いが不十分な場合には細胞洗浄液へ残留物が混入し、輸血検査等の検査の信頼性を低下させる要因となる。また、上述した自動血球洗浄遠心装置のように、細胞洗浄液とは別に、真水を注入して装置内の洗浄を実行する場合には、装置内に付着したタンパク質、細菌またはウイルスに対して洗浄および殺菌効果が十分でなく、逆に残った真水が細胞洗浄液へ混入し、輸血検査等の検査の信頼性を低下させるという問題点も考慮しなければならない。
【0015】
さらに、細胞洗浄遠心装置内に洗浄、殺菌作業では、感染性物質に汚染された洗浄液(残留液)および人体にも有害な殺菌液を取扱うことから、それらの洗浄液または殺菌液が人体に直接付着もしくは吸引されないように安全対策を考慮しなければならない。
【0016】
従って、本発明の主目的は、従来の細胞洗浄遠心装置における洗浄液および殺菌液のランニング・コストを低減させるために、低コストの装置洗浄液および装置殺菌液を生成することができる装置洗浄液生成手段を装着した細胞洗浄遠心装置を提供することにある。
【0017】
本発明の他の目的は、従来必要とされた洗浄液または殺菌液の調整および維持管理を省略し得る装置洗浄液および装置殺菌液を生成することができる装置洗浄液生成手段を一体装着した細胞洗浄遠心装置を提供することにある。
【0018】
本発明のさらに他の目的は、従来の人手による洗浄処理作業を省略し、装置洗浄処理作業の信頼性もしくは細胞洗浄作業の信頼性、および人体への安全性を確保するために、細胞洗浄遠心装置自体を自動的に、かつ所定の装置洗浄処理工程で洗浄可能な装置洗浄液生成手段を一体化した細胞洗浄遠心装置を提供することにある。
【0019】
なお、以下の本発明の説明では、「装置洗浄液」または「装置殺菌液」を総称して単に「装置洗浄液」と言う場合がある。また「装置洗浄処理」は、「洗浄処理」以外に、「殺菌処理」も含む意味として使用される。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの特徴を説明すれば、次のとおりである。
【0021】
(1)本発明の一つの特徴によれば、駆動軸を有するモータと、前記モータの駆動軸に連結され、該モータで回転されるロータと、前記ロータ上に円形列に回動自在に装着され、かつ前記ロータの回転による遠心力によって前記円形列の外側水平方向に回動する複数の試験管ホルダと、前記試験管ホルダを垂直又は垂直に近い角度に保持するために前記ロータに装着された保持手段と、前記ロータに装着され前記ロータと同時に回転し、前記複数の試験管ホルダにそれぞれ保持された複数の試験管内に細胞洗浄液を供給する洗浄液分配素子と、前記洗浄液分配素子に供給する細胞洗浄液を貯留する細胞洗浄液容器と、前記細胞洗浄液容器から前記洗浄液分配素子へ連通する洗浄液流通路と、前記洗浄液流通路に設けられ、前記細胞洗浄液容器の細胞洗浄液を前記洗浄液分配素子へ送流する送液ポンプと、前記モータ、前記送液ポンプ、および前記保持手段の動作を制御する制御装置とを備えた細胞洗浄遠心装置において、前記洗浄液流通路に前記細胞洗浄遠心装置を洗浄する装置洗浄液を生成するための装置洗浄液生成手段を備える。
【0022】
(2)本発明の他の特徴によれば、前記装置洗浄液生成手段は、前記細胞洗浄液容器と前記送液ポンプとの間の前記洗浄液流通路に設けられる。
【0023】
(3)本発明のさらに他の特徴によれば、前記装置洗浄液生成手段は、電解質の水溶液から電気分解によりアルカリ性水および酸性水を生成する電解水生成装置である。
【0024】
(4)本発明のさらに他の特徴によれば、前記電解水生成装置によって生成される前記酸性水は、酸性イオン水および次亜塩素酸を含む。
【0025】
(5)本発明のさらに他の特徴によれば、前記電解水生成装置は、所定量の電解質の水溶液を貯留する水溶液容器と、前記水溶液容器を二分する隔膜と、該隔膜を挟んで前記水溶液容器内に設けられ、直流電圧を印加する少なくとも一対の対向電極とから構成される。
【0026】
(6)本発明のさらに他の特徴によれば、前記電解水生成装置は、前記細胞洗浄液容器に貯留された細胞洗浄液として用いる生理食塩水を電気分解する。
【0027】
(7)本発明のさらに他の特徴によれば、前記電解水生成装置は、水道水を電気分解する。
【0028】
(8)本発明のさらに他の特徴によれば、前記装置洗浄液生成手段は、加熱手段を備える。
【0029】
(9)本発明のさらに他の特徴によれば、前記制御装置は、前記モータを、所定時間、回転する工程と、前記モータが回転中に前記装置洗浄液生成手段により生成したアルカリ性水を、所定量、前記洗浄液流通路を通して前記洗浄液分配素子に注入する工程と、しかる後、前記装置洗浄液生成手段により生成した酸性水を、所定量、前記洗浄液流通路を通して前記洗浄液分配素子に注入する工程とを連続して実行する。
【0030】
(10)本発明のさらに他の特徴によれば、前記制御装置は、前記モータを、所定時間、回転する工程と、前記モータが回転中に前記装置洗浄液生成手段により生成したアルカリ性水を、所定量、前記洗浄液流通路を通して前記洗浄液分配素子に注入する工程と、しかる後、前記装置洗浄液生成手段により生成した酸性水を、所定量、前記洗浄液流通路を通して前記洗浄液分配素子に注入する工程と、さらに前記細胞洗浄液容器に貯留された細胞洗浄液を、所定量、前記洗浄液流通路を通して前記洗浄液分配素子に注入する工程とを連続して実行する。
【発明の効果】
【0031】
本発明の上記(1)項記載の特徴に従えば、装置洗浄液生成手段を細胞洗浄遠心装置に一体化したことにより、従来の洗浄液および殺菌液のランニング・コストを低減させ、低コストの装置洗浄液および装置殺菌液を生成することができる。また、装置洗浄液を調整する手間を省略することができる。さらに、装置洗浄液生成手段は、細胞洗浄遠心装置の洗浄液流通路中に一体化されるので、装置洗浄液または洗浄液残留物が作業者の皮膚、および目や喉の粘膜等に直接付着し、または作業者に吸引されるのを防止することができる。
【0032】
本発明の上記(2)項記載の特徴に従えば、装置洗浄液生成手段は細胞洗浄液容器と送液ポンプとの間の洗浄液流通路に設けられているので、細胞洗浄液の流れる流路のほぼ全域に装置洗浄液を流すことができ、装置の洗浄効率を上げることができる。
【0033】
本発明の上記(3)および(4)項記載の特徴に従えば、装置洗浄液生成手段は電気分解による電解水生成装置を使用するので、電気分解によって生成されるアルカリ水(アルカリイオン水)でタンパク質や油脂類を分解、洗浄し、また電気分解によって生成される酸性水(酸性イオン水)および次亜塩素酸で殺菌するので、装置の洗浄毎に、装置洗浄液や殺菌液を調整、用意する必要がなく、特別な薬剤の購入費用や保管管理の手間が不要となる。また薬品を利用した高いph度の洗浄や殺菌に比較し、アルカリ水や酸性水は金属を腐食させる問題も低減できる。
【0034】
本発明の上記(5)項記載の特徴に従えば、電解水生成装置は、所定量の電解質の水溶液を貯留する水溶液容器と、隔膜を挟んで設けられた一対以上の対向電極とから構成されるので、洗浄液および殺菌液として使用するアルカリ水、酸性水、および次亜塩素酸を、一定量、同時に効率よく生成することができる。
【0035】
本発明の上記(6)項記載の特徴に従えば、装置洗浄液生成手段は細胞洗浄液として用いる生理食塩水を電気分解し高濃度のアルカリ水、酸性水および次亜塩素酸を生成するので、特別に洗浄液および殺菌液を用いることなく、コスト的に有利に装置洗浄液を得ることができる。
【0036】
本発明の上記(7)項記載の特徴に従えば、装置洗浄液生成手段は安価な水道水を電気分解しアルカリ水および酸性水を生成するので、特別に洗浄液や殺菌液を用いることなく、コスト的に有利に装置洗浄液を得ることができる。
【0037】
本発明の上記(8)項記載の特徴に従えば、装置洗浄液生成手段は洗浄水の加熱手段を備えたことで、洗浄液の洗浄力や殺菌力を向上することができ、より少ない液量、少ない時間で効率よく洗浄を行うことができる。
【0038】
本発明の上記(9)および(10)項記載の特徴に従えば、細胞洗浄遠心装置本体のモータを一定時間回転させ、アルカリ水の注入工程と、酸性水の注入工程とを自動的に連続して実行するので、作業者の装置洗浄作業の手間を省くことができるばかりでなく、細胞洗浄遠心機装置を洗浄および殺菌する作業に生じるかも知れない、感染性物質および殺菌剤による人体の損傷を防止することができる。さらに、最初にタンパク質や油脂類を分解する効果の大きいアルカリイオン水で装置内を洗浄することで生体試料の残渣を洗い流し、続いて殺菌効果の有る酸性イオン水で装置内を濯ぐことにより、細菌およびウイルスを殺菌することができ、効率よく細胞洗浄遠心装置内を洗浄および殺菌することができる。かつ、洗浄後のアルカリイオン水と酸性イオン水は廃液中で中和するため、従来の洗剤および殺菌剤を用いた場合に伴う廃水処理、溶液の回収、再利用等の設備および費用を必要とすることはなく、ランニング・コストを低減させることができる。特に、本発明の上記(10)項記載の特徴に従えば、装置洗浄作業の後に、細胞洗浄液で濯ぎ操作を行うので、残留したアルカリイオン水や酸性イオン水が細胞洗浄液へ混入することを防止し、装置洗浄作業の後に再び行われる細胞検査の信頼性を低下させる要因を取り除くことができる。
本発明の上記および他の目的、ならびに上記および他の特徴は、以下の本明細書の記述および添付図面からさらに明らかにされるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明を省略する。
【0040】
図1は本発明に係る細胞洗浄遠心装置の全体構成を示す断面図、図2は、図1に示した本発明に係る細胞洗浄遠心装置の装置洗浄液生成手段を示す要部断面図、図3は、図1に示した細胞洗浄遠心装置によって実行する血球洗浄プロセスの各工程における試験管ホルダの動作状態を示す要部断面図、図4は、図1に示した細胞洗浄遠心装置によって実行する第1の実施形態に係る装置洗浄プロセスを示すフローチャート、図5は、図1に示した細胞洗浄遠心装置によって実行する第2の実施形態に係る装置洗浄プロセスを示すフローチャートである。
【0041】
図1に示すように、本発明に係る細胞洗浄遠心機20は、上面から見た断面形状が四角形を有する筐体(フレーム)22及び該筐体22の上部を開閉するドア21を備え、この筐体22内に組立てられた、駆動軸(回転軸)8を有するモータ1と、モータ1の駆動軸8に連結され、該モータ1で回転されるロータ2とを備える。ロータ2上には、上面から見て円形列に、かつ回動自在に装着された複数(例えば、24個)の試験管ホルダ3が設置されている。各試験管ホルダ3内には、予め赤血球等の生体細胞が適量入った試験管4が保持される。この試験管ホルダ3は磁性体部材より構成される。
【0042】
また、細胞洗浄遠心機20は、試験管ホルダ3をロータ2に垂直又は垂直に近い小さい角度に保持するための保持手段として、磁力によって吸着するための磁気素子7を備える。磁気素子7は、円盤状の上部磁性体部材7aと下部磁性体部材7bとを備え、さらに、これら上部磁性体部材7aと下部磁性体部材7bとによって挟み込まれるように設置された、絶縁導線のリング状コイル(磁気コイル)7cを備える。これら磁性体部材7a及び7bと、磁気コイル7cはモータ1の駆動軸8に固定され、ロータ2と共に一体に回転する。回転する磁気コイル7cには、一対のスリップリング7dを介して、制御装置11から電流が供給される。磁気コイル7cに電流を通電すると磁場を生じ、磁性体材料、例えばSUS430材、によって作られた試験管ホルダ3は、上部磁性体部材7aと下部磁性体部材7bと共に、磁気回路を形成するので、上部磁性体部材7a及び下部磁性体部材7b(磁気素子7)に強く吸着される。すなわち、磁気コイル7cに電流を通電することによって、磁気素子7(磁性体部材7a及び7b)は一個の磁石として作用し、磁性体材料から成る試験管ホルダ3を吸着する。本実施例では上部磁性体部材7aの外径は、下部磁性体部材7bに比べ大きい外径を持つ。これによって、磁性体部材7a及び7b(磁気素子7)の吸着面は、試験管4が鉛直線に対し上方に約8度開いた状態になるように試験管ホルダ3を吸着できる。
【0043】
磁気素子7の動作をオンすることによって、試験管ホルダ3は、垂直又は垂直に近い小さい角度に吸着され、一方、磁気素子7の動作をオフして吸着力を解除することによって、試験管ホルダ3は回転速度に応じて作用する遠心力で水平方向に回動する。この磁気素子7の動作を小刻みにオン又はオフすることにより試験管ホルダ3を揺動させることができる。他方、後述するように、洗浄処理工程の他の工程(遠心工程)において、磁気素子7の動作をオフして吸着力を解除した状態において、ロータ2に回転数を与えて遠心力によって試験管ホルダ3を水平方向に回動させる。これによって、試験管4を保持する試験管ホルダ3は、水平方向に回動し、試験管ホルダ3の下部がボウル10に当たるまで傾き、試験管4内の血球などの試料を遠心分離する。例えば、磁気素子7の動作をオフして吸着力を解除した状態においてモータ1の回転を3,000rpmとして、試験管ホルダ3の下端部がボウル10に当接したとき、試験管4と鉛直線がなす角度が約40°となるように回動する。モータ1は、例えば誘導モータより成り、その回転数(回転速度)は制御装置11によって制御できる。遠心力により回動した複数の試験管4内に細胞洗浄液5aを均一に供給するために洗浄液分配素子5が設けられる。洗浄液分配素子5はロータ2と一体に回転するようにロータ2上に構成される。
【0044】
洗浄液分配素子5に関連して、洗浄液流通路9a、9b、9cおよび9dが設けられる。洗浄液流通路9aには、吸入口6aと吐出口6bを有する送液ポンプ6が結合される。さらに送液ポンプ6の吸入口6a側の洗浄液流通路9bには、2方電磁バルブ(−)35aおよび2方電磁バルブ(+)35bを介して、本発明に従った装置洗浄液生成手段30が接続される。さらに装置洗浄液生成手段30の上流側には、3方電磁バルブ36および洗浄液流通路9cを介して、細胞洗浄液41aを貯留する細胞洗浄液容器40が接続される。一方、3方電磁バルブ36の他方の洗浄液流通路9dを介して、本発明に従った水道水41bが給水される。電磁バルブ36内の電磁弁(図示なし)は制御装置11によって駆動され、かつ流通路9dを遮断すると同時に流通路9cから流通路9bへ連通する第1の流通路を形成するか、または、その電磁弁を制御することによって、流通路9cを遮断し、流通路9dから流通路9bに連通する第2の流通路を形成するように制御される。つまり、電磁バルブ36は、図示されない電磁弁を切り替えて、細胞洗浄液41aまたは水道水41bのどちらか一方を、択一的に装置洗浄液生成手段30に供給するように制御される。2方電磁バルブ35aおよび35bのそれぞれは、各電磁弁(図示なし)が制御装置11によって駆動され、流通路9bを遮断または連通させるように制御される。
【0045】
装置洗浄液生成手段30は、図2に示されるように、33bが、イオン交換膜から成る隔膜32を介して対向配置される。これにより、水溶所定量(例えば、300ml)の電解質の水溶液を貯留する水溶液容器(電解槽)31を有し、水溶液容器31の中には、電気分解に必要な直流電圧(例えば、30V)を印加するための陰極板33aおよび陽極板液容器31は隔膜32によって陰極板室31aと陽極板室31bとに二分される。後述する装置洗浄において、陰極板33aと陽極板33bとの間へ直流電圧を印加すると、水溶液容器31へ供給された水道水41bまたは細胞洗浄液41aは電気分解により隔膜32を通して陰極板室31aにアルカリイオン水(アルカリ水)が、陽極板室31bには酸性イオン水(酸性水)および次亜塩素酸がそれぞれ生成される。
【0046】
さらに、装置洗浄液生成手段30の外周は、電熱線から成る加熱手段34によって覆われる。これにより、後述する装置洗浄工程においては、生成したアルカリイオン水および酸性イオン水を10°C以上の温度に加温できる。加温することによりアルカリイオン水の洗浄力や酸性イオン水の殺菌力を向上することができ、該装置洗浄工程において、より少ない液量、少ない時間で効率よく洗浄を行うことができる。また、後述する血球等の細胞洗浄工程において、陰極板33aと陽極板33bへ電気分解のための直流電圧は印加しないが、加温手段34は動作させる。これにより、細胞洗浄液容器40に貯留された細胞洗浄液41aは、電気分解されずに、加熱手段34によって加温された後に、細胞洗浄液5aとして細胞洗浄遠心装置本体20へ送液ポンプ6によって供給される。特に冬場の室温が低く、細胞洗浄液5aが低温時には血液検査の信頼性が寒冷凝集因子により低下することが知られているので、細胞洗浄液5aが10°C以下にならぬように、加熱手段34によって例えば37℃に加温し、遠心分離作業の信頼性を維持することができる。
【0047】
通常の細胞洗浄処理において、上記したように装置洗浄液生成手段30は電気分解を行わず、単なる細胞洗浄液の流通路として作用する。一方、電磁バルブ36が流通路9cと流通路9bとを連通させて、かつ電磁バルブ35aおよび35bは電磁弁(図示なし)によって開かれた状態となる。これにより、細胞洗浄液容器40の細胞洗浄液41aは、装置洗浄液生成手段30を流通し、細胞洗浄液5aとして送液ポンプ6に流入する。制御装置11によって送液ポンプ6の動作電源をオン(ON)させることにより、その細胞洗浄液5aは洗浄液流通路9aを通して細胞洗浄遠心装置20の上部に位置するノズル12に供給することができる。後述する細胞洗浄液注入工程では、ノズル12から下方に噴出した洗浄液は、ロータ2と一体で高速回転する洗浄液分配素子5の中央部内に入り、洗浄液分配素子5内の遠心力により外周に分流され、試験管ホルダ3に保持された試験管4と同数(24本)の各流路に分岐され、分配素子5の外周注入口5bから勢い良く各試験管4内に注入できる。
【0048】
かかる細胞洗浄遠心装置20によって、例えば輸血検査等を行うための血球洗浄プロセス(細胞洗浄処理プロセス)を実行する場合について、図3の細胞洗浄処理工程(1)〜(4)に示す遠心機の要部を参照して以下に説明する。細胞洗浄処理プロセスの実行において、制御装置11は、電磁バルブ36が流通路9cから流通路9bへ連通する第1の流通路を形成するように制御し、また、装置洗浄液生成手段(電解水生成装置)30の陰極板33aと陽極板33bには直流電圧を印加しないように制御する。これにより、細胞洗浄液容器40に貯留された細胞洗浄液41aが、直接洗浄液5aとして洗浄液分配素子5に供給されることになる。
【0049】
まず、図3の洗浄液注入工程(1)に示すように、予め赤血球等の生体細胞を適量入れた24本の試験管4を保持する24本の試験管ホルダ3は、モータ1(ロータ2)の最高回転数(回転速度)が3,000rpmに達するように加速回転され、遠心力が与えられる。上述したように、細胞洗浄液(例えば、濃度0.9%の生理食塩水)5aは、洗浄液分配素子5内の遠心力により外周に分流され、試験管ホルダ3に保持された試験管4と同数(24本)の各流路に分岐され、分配素子5の外周から勢い良く各試験管4内に注入される。注入された洗浄液5aは、洗浄液分配素子5の外側に位置する各試験管4の内壁に当たり、壁面を伝わり試験管4底部にある生体細胞を浮遊させ、懸濁状態を作り出す。試験管4に適量の洗浄液が入ると、制御装置11によって、送液ポンプ6の動作は停止され、洗浄液注入工程は終了する。
【0050】
引き続き、図3の遠心工程(2)に示すように、浮遊している生体細胞が試験管4の底部に沈殿し、一方血清等の不要物質は上澄に残るような高速回転の条件、例えば本実施例では3000rpm、35秒間、高速回転を継続し、遠心分離を行う。遠心分離後モータ1の回転を停止する。
【0051】
次に、図3の上澄液排出工程(3)に示すように、制御装置11よりリング状コイル7cに通電すると(すなわち、磁気素子7の動作をON状態にすると)、磁気素子7は磁性体材料の試験管ホルダ3を吸着し、保持する。上述したように、磁気素子7の上部磁性体部材7aの外径は下部磁性体部材7bに比較して若干大きな外径となっているので、試験管ホルダ3が磁気素子7に吸着される面は、上方に約8度開いたほぼ垂直状態に近い状態で保持される。次に、磁気素子7に通電した状態で、モータ1の回転数を約400rpmで回転させる。その結果、試験管4内の上澄液は、400rpmの回転による遠心力によって、試験管4の内壁面を上昇し外部へ排出され、試験管4の底部にある赤血球等の生体細胞は、そのまま底部に残る。
【0052】
次に続く、図3の揺動工程(4)に示すように、モータ1は100rpmの回転数を保った状態で、磁気素子7のリング状コイル7cに電流を小刻みにパルス状に通電する。これによって、試験管ホルダ3は、磁気素子7の磁力による吸着力と100rpmの回転による遠心力との交互の作用により、試験管ホルダ3の回動軸方向に揺動を与えられ、試験管4の底部に沈殿し、固着した細胞塊を解す効果を生じる。
【0053】
以上説明した工程を1洗浄サイクルとして、このサイクルを3〜4回連続して繰り返すことにより、試験管4内の赤血球等の生体細胞を洗浄し、抗体などの異物をより完全に分離、取り除き、細胞洗浄処理工程を終了する。
【0054】
次に、本発明に従った装置洗浄処理工程について、図4を参照して説明する。図4は装置洗浄液生成手段30への供給液として、細胞洗浄液容器40に貯留されている生理食塩水を使用して装置洗浄処理を行う場合を示している。
【0055】
まず、3方電磁バルブ36の電磁弁は細胞洗浄液容器40から細胞洗浄液41aを装置洗浄液生成手段30に供給するバルブの切り替え位置に固定される。また陰極板室31aおよび陽極板室31b(図2参照)には、細胞洗浄液41aである生理食塩水が満たされ、以下の工程が実行される。
【0056】
工程100において、モータ1の回転を開始する。なお、装置洗浄動作中はモータ1の回転を継続しておくことにより、洗浄液分配素子5に供給される洗浄液が噴霧状となって遠心装置本体の隅々までむらなく行き渡り、良好な洗浄効果が得られる。
【0057】
次に工程101において、陰極板33aと陽極板33bとの間へ直流電圧(例えば、30V)を一定時間(例えば、1分間)印加すると、水溶液容器31に供給された所定量(例えば、300ml)の細胞洗浄液(生理食塩水)41aは電気分解され、陰極板室31aにアルカリイオン(Naイオン)水が、陽極板室31bには酸性イオン水(Clイオン)および次亜塩素酸(HClO)が各々生成される。陰極板室31aに生成されたアルカリイオン水は油脂類、澱粉質に対して洗浄効果を持ち、また陽極板室31bに生成された酸性イオン水および次亜塩素酸は殺菌および消毒作用を有する。
【0058】
次に、工程102において、2方電磁バルブ(−)35aを開ける。
【0059】
さらに工程103において、送液ポンプ6を動作させることにより、陰極板室31aの中にあったアルカリイオン水(アルカリ水)は遠心装置本体20の内部へ導かれ、ロータ2およびその他に残留した油脂類、タンパク質等の汚れを洗浄する。陰極板室31aの中へは新しい供給液が細胞洗浄液容器40から導入される。
【0060】
送液ポンプ6の動作を終了した後、工程104において、2方電磁バルブ(−)35aを閉じる。
【0061】
次いで工程105において、2方電磁バルブ(+)35bを開ける。さらに引続く工程106において、送液ポンプ6を動作させることにより、陽極板室31bの中にあった酸性イオン水および次亜塩素酸(酸性水)が遠心装置本体20内部へ導かれ、ロータ2およびその他の殺菌および消毒を行う。陽極板室31bの中へは新しい供給液が細胞洗浄液容器40から導入される。
【0062】
その後、工程107において、2方電磁バルブ(+)35bを閉じ、工程108でモータ1の回転を停止し、装置の洗浄処理工程を終了する。
【0063】
上述より明らかなように、本発明に従って、細胞洗浄処理工程の終了後に、引き続いて、装置洗浄液生成手段を使用した装置洗浄処理工程を実行することができる。
【0064】
本発明に従って装置洗浄処理工程を実行する場合、装置20の洗浄毎に、特別な装置洗浄液や殺菌液を調整、用意する必要がなく、特別な薬剤の購入費用や保管管理の手間が不要となる。すなわち、装置洗浄液生成手段30は、図2に示すように、電気分解による電解水生成装置を使用するので、細胞洗浄液41aに使用した生理食塩水から電気分解によって生成されたアルカリ水(アルカリイオン水)でタンパク質や油脂類を分解、洗浄し、また電気分解によって生成された酸性水(酸性イオン水)および次亜塩素酸で殺菌するので、装置の洗浄毎に、装置洗浄液や殺菌液を調整、用意する必要がなく、特別な薬剤の購入費用や保管管理の手間が不要となる。結果的にコスト的に有利な装置洗浄液を得ることができる。
【0065】
また、装置洗浄液生成手段30は、遠心装置20の洗浄液流通路9中に一体化されるので、装置洗浄液または洗浄液残留物が作業者の皮膚、および目や喉の粘膜等に直接付着し、または作業者に吸引されるのを防止することができる。
【0066】
さらに、装置洗浄液生成手段30は細胞洗浄液容器40と送液ポンプ6との間の洗浄液流通路9に設けられているので、細胞洗浄液41aの流れる流路のほぼ全域に装置洗浄液5aを流すことができ、装置20の洗浄効率を上げることができる。
【0067】
さらに、装置洗浄液生成手段30である電解水生成装置は、所定量の電解質の水溶液を貯留する水溶液容器31と、隔膜32を挟んで設けられた一対以上の対向電極33a、33bとから構成されるので、洗浄液および殺菌液として使用するアルカリ水、酸性水、および次亜塩素酸を、一定量、同時に効率よく生成することができる。
【0068】
さらに、装置洗浄液生成手段30は洗浄水5aの加熱手段34を備えたことで、洗浄液5aの洗浄力や殺菌力を向上することができ、より少ない液量、少ない時間で効率よく洗浄を行うことができる。
【0069】
さらに、図4に示した装置洗浄処理工程は、細胞洗浄遠心装置20本体のモータ1を一定時間回転させ、アルカリ水の注入工程と、酸性水の注入工程とを自動的に連続して実行するので、作業者の装置洗浄作業の手間を省くことができるばかりでなく、細胞洗浄遠心機装置を洗浄および殺菌する作業に生じるかも知れない、感染性物質および殺菌剤による人体の損傷を防止することができる。さらに、最初にタンパク質や油脂類を分解する効果の大きいアルカリイオン水で装置内を洗浄することで生体試料の残渣を洗い流し、続いて殺菌効果の有る酸性イオン水で装置内を濯ぐことにより、細菌およびウイルスを殺菌することができ、効率よく細胞洗浄遠心装置内を洗浄および殺菌することができる。かつ、洗浄後のアルカリイオン水と酸性イオン水は廃液42a中で中和するため、従来の洗剤および殺菌剤を用いた場合に伴う廃水処理、溶液の回収、再利用等の設備および費用を必要とすることはなく、ランニング・コストを低減させることができる。
【0070】
図4に示した装置洗浄処理工程は、細胞洗浄液から装置洗浄液を生成した例であるが、装置洗浄液のコストをさらに低減したい場合は、図5に示すような装置洗浄処理工程を実行することができる。すなわち、図5は、装置洗浄液生成手段30への供給液として、水道水41b(図2参照)を使用して装置洗浄処理を行う場合を示している。一般に飲料水として使用される水道水には、有害な微生物を殺菌するために塩素(液体)やさらし粉が用いられるので、電気分解によって次亜塩素酸、酸性水およびアルカリ水を生成することができる。次に、図5を参照して、第2の実施形態である装置洗浄処理工程について説明する。
【0071】
当初、3方電磁バルブ36は、細胞洗浄液容器40から細胞洗浄液を装置洗浄液生成手段30に供給する電磁弁の切り替え位置にあり、また陰極板室31aおよび陽極板室31b内は細胞洗浄液41aが満たされているので、3方電磁バルブ36の電磁弁を切り替えて、流通路9dの水道水を装置洗浄液生成手段30に流して水道水で置換し、以下の工程が実行される。
【0072】
まず、工程200において、モータ1の回転を開始する。次に工程201で、2方電磁バルブ(+)を開ける。次に工程202において、2方電磁バルブ(−)を開ける。
【0073】
次に工程203で3方電磁バルブ36の電磁弁の切り替え位置を水道水導入位置にする。この状態で工程204において、送液ポンプ6を動作させることにより陰極板室31aおよび陽極板室31b内は水道水で置換される。
【0074】
次に工程205および工程206で、2方電磁バルブ(−)35aおよび2方電磁バルブ(+)35bを閉じる。
【0075】
次いで工程207において、陰極板33aと陽極板33bとの間に直流電圧を一定時間印加すると、供給された水道水は、電気分解され、陰極板室31aにアルカリイオン水(アリカリ水)が、陽極板室31bには酸性イオン水(酸性水)および次亜塩素酸がそれぞれ生成される。アルカリ水は油脂類、澱粉質に対して洗浄効果を持ち、酸性水は殺菌・消毒作用を有する。
【0076】
工程208において、2方電磁バルブ(−)35aを開ける。引続く工程209において、送液ポンプ6を動作させることにより、陰極板室31aの中にあったアルカリ水は、洗浄液5aとして細胞洗浄遠心装置本体20内部へ導かれ、ロータ2およびその他に残留したタンパク質等の汚れを洗浄する。陰極板室31aの中へは新しい供給液が水道水から導入される。
【0077】
送液ポンプ6の動作を終了し、工程210において、2方電磁バルブ(−)35aを閉じる。
【0078】
続いて工程211において、2方電磁バルブ(+)35bを開ける。連続する工程212で、送液ポンプ6を動作させることにより、陽極板室31bの中にあった酸性水が細胞洗浄遠心装置本体20内部へ導かれ、ロータ2およびその他の殺菌および消毒を行う。このとき、陽極板室31bの中へは新しい供給液41bが水道水から導入される。
【0079】
次の工程213において、2方電磁バルブ(+)35bを閉じる。この工程までで、洗浄、殺菌処理が完了するが、このまま放置すると、細胞洗浄遠心装置本体20内および陰極板室31a、陽極板室31bには水道水が残存し、次の細胞洗浄処理作業を行うときに、この残液が洗浄作業の信頼性を低下させる恐れも考えられる。
【0080】
このため、次の工程214において、3方電磁バルブ36の電磁弁の切り替え位置を細胞洗浄液41aの導入流通路9cの位置へ戻し、工程215から工程217の工程において、2方電磁バルブ(+)35bおよび2方電磁バルブ(−)35a開き、さらに送液ポンプ6を動作させて、細胞洗浄遠心装置本体20内を細胞洗浄液41aで濯ぎ、かつ陰極板室31aおよび陽極板室31bの内部を細胞洗浄液41aによって満たす。
【0081】
次に、工程218および工程219において、2方電磁バルブ(+)35bおよび2方電磁バルブ(−)35aを閉じて、工程220において、モータ1の回転を停止し、装置の洗浄処理工程を終了する。
【0082】
以上の水道水および細胞洗浄液を使用した装置洗浄処理工程によっても細胞洗浄遠心装置の洗浄および殺菌を自動的に処理することができる。また、図4に示した第1の実施形態と同様な効果を得ることができる。特に、上記第2の実施形態に従えば、装置洗浄液生成手段は安価な水道水を電気分解しアルカリ水、酸性水および次亜塩素酸を生成するので、特別な洗浄液や殺菌液を用いることなく、コスト的に有利に装置洗浄液を得ることができる。この場合、装置洗浄処理作業の後工程で、細胞洗浄液で濯ぎ操作を行うので、残留した水道水、アルカリイオン水、酸性イオン水等が細胞洗浄液へ混入することを防止し、装置洗浄処理作業の後に再び開始される細胞洗浄処理の信頼性を低下させる要因を取り除くことができる。
【0083】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の実施形態に係る細胞洗浄遠心装置を示す全体断面図。
【図2】図1に示した細胞洗浄遠心装置の装置洗浄液生成手段を示す要部断面図。
【図3】図1に示した細胞洗浄遠心装置によって実行する血球洗浄プロセスの各工程おける遠心分離装置の要部断面図。
【図4】図1に示した細胞洗浄遠心装置の装置洗浄処理工程を実行する第1の実施形態に係るフローチャート。
【図5】図1に示した細胞洗浄遠心装置の装置洗浄処理工程を実行する第2の実施形態に係るフローチャート。
【符号の説明】
【0085】
1:モータ 2:ロータ 3:試験管ホルダ 4:試験管
5:洗浄液分配素子 5a:洗浄液 5b:外周注入口 6:ポンプ
6a:ポンプの吸入口 6b:ポンプの吐出口 7:磁気素子
7a:上部磁性体部材 7b:下部磁性体部材 7c:リング状コイル
7d:スリップリング 8:駆動軸 9a、9b、9c、9d:洗浄液流通路
10:ボウル 11:制御装置 12:洗浄液供給ノズル
20:細胞洗浄遠心装置 21:ドア 22:筐体(フレーム)
30:装置洗浄液生成手段(電解水生成装置) 31a:陰極板室 31b陽極板室
32:隔膜 33a:陰極板 33b:陽極板 34:加熱手段
35a:2方電磁バルブ(−) 35b:2方電磁バルブ(+)
36:3方電磁バルブ 40:細胞洗浄液容器 41a:細胞洗浄液
41b:水道水 42a:廃液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸を有するモータと、
前記モータの駆動軸に連結され、該モータで回転されるロータと、
前記ロータ上に円形列に回動自在に装着され、かつ前記ロータの回転による遠心力によって前記円形列の外側水平方向に回動する複数の試験管ホルダと、
前記試験管ホルダを垂直又は垂直に近い角度に保持するために前記ロータに装着された保持手段と、
前記ロータに装着され前記ロータと同時に回転し、前記複数の試験管ホルダにそれぞれ保持された複数の試験管内に細胞洗浄液を供給する洗浄液分配素子と、
前記洗浄液分配素子に供給する細胞洗浄液を貯留する細胞洗浄液容器と、
前記細胞洗浄液容器から前記洗浄液分配素子へ連通する洗浄液流通路と、
前記洗浄液流通路に設けられ、前記細胞洗浄液容器の細胞洗浄液を前記洗浄液分配素子へ送流する送液ポンプと、
前記モータ、前記送液ポンプ、および前記保持手段の動作を制御する制御装置とを備えた細胞洗浄遠心装置において、
前記洗浄液流通路に前記細胞洗浄遠心装置を洗浄する装置洗浄液を生成するための装置洗浄液生成手段を備えたことを特徴とする細胞洗浄遠心装置。
【請求項2】
前記装置洗浄液生成手段は、前記細胞洗浄液容器と前記送液ポンプとの間の前記洗浄液流通路に設けられたことを特徴とする請求項1に記載された細胞洗浄遠心装置。
【請求項3】
前記装置洗浄液生成手段は、電解質の水溶液から電気分解によりアルカリ性水および酸性水を生成する電解水生成装置であることを特徴とする請求項1または2に記載された細胞洗浄遠心装置。
【請求項4】
前記電解水生成装置によって生成される前記酸性水は、酸性イオン水および次亜塩素酸を含むことを特徴とする請求項3に記載された細胞洗浄遠心装置。
【請求項5】
前記電解水生成装置は、所定量の電解質の水溶液を貯留する水溶液容器と、前記水溶液容器を二分する隔膜と、該隔膜を挟んで前記水溶液容器内に設けられ、直流電圧を印加する少なくとも一対の対向電極とから構成されることを特徴とする請求項3乃至4のいずれか一つに記載された細胞洗浄遠心装置。
【請求項6】
前記電解水生成装置は、前記細胞洗浄液容器に貯留された細胞洗浄液として用いる生理食塩水を電気分解することを特徴とする請求項3乃至5のいずれか一つに記載された細胞洗浄遠心装置。
【請求項7】
前記電解水生成装置は、水道水を電気分解することを特徴とする請求項3乃至5のいずれか一つに記載された細胞洗浄遠心装置。
【請求項8】
前記装置洗浄液生成手段は、加熱手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載された細胞洗浄遠心装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記モータを、所定時間、回転する工程と、前記モータが回転中に前記装置洗浄液生成手段により生成したアルカリ性水を、所定量、前記洗浄液流通路を通して前記洗浄液分配素子に注入する工程と、しかる後、前記装置洗浄液生成手段により生成した酸性水を、所定量、前記洗浄液流通路を通して前記洗浄液分配素子に注入する工程とを連続して実行することを特徴とする請求項3乃至8のいずれか一つに記載された細胞洗浄遠心装置。
【請求項10】
前記制御装置は、前記モータを、所定時間、回転する工程と、前記モータが回転中に前記装置洗浄液生成手段により生成したアルカリ性水を、所定量、前記洗浄液流通路を通して前記洗浄液分配素子に注入する工程と、しかる後、前記装置洗浄液生成手段により生成した酸性水を、所定量、前記洗浄液流通路を通して前記洗浄液分配素子に注入する工程と、さらに前記細胞洗浄液容器に貯留された細胞洗浄液を、所定量、前記洗浄液流通路を通して前記洗浄液分配素子に注入する工程とを連続して実行することを特徴とする請求項3乃至8のいずれか一つに記載された細胞洗浄遠心装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−98245(P2007−98245A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−289922(P2005−289922)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】