説明

細胞画像解析装置及びその方法並びにそのソフトウェア

【課題】 蛍光顕微鏡を用いて、迅速に且再現性よく、膜トランスロケーション反応の有無を判定するための細胞画像解析装置又は方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の装置は、任意の刺激を細胞に与えることにより細胞内に発生する膜トランスロケーション反応の有無を判定する細胞画像解析装置であって、細胞の刺激が与えられた後の蛍光顕微鏡像を画像データとして取得する手段と、細胞の蛍光像に於ける細胞の存在する領域を決定する手段と、細胞の存在する領域の外縁から所定の画素数の幅を有する該細胞の輪郭線を決定する手段と、細胞の輪郭線上に於ける輝度値と輪郭線より内側の輝度値とに基づいて膜トランスロケーション反応の有無を判定する手段とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学顕微鏡により得られる細胞の顕微鏡像の画像解析装置及び方法並びにそのためのソフトウェアに係り、より詳細には、細胞の蛍光顕微鏡像を解析して細胞に於いて観察される膜トランスロケーション反応の発生の有無を判定するための装置及び方法並びにそのためのソフトウェアに係る。
【背景技術】
【0002】
種々の細胞に於いて、生理活性物質又は薬剤による化学的な刺激又は光、電気、機械的な力などの物理的な刺激を与えると、細胞内の或る種のタンパク質が細胞膜に集積する「膜移行(膜トランスロケーション)反応」と呼ばれる現象が生ずることが知られている。膜受容体、例えば、細胞膜上のGタンパク質結合タンパク質(GPCR:G Protein Coupled Receptor)など、が外部からの特定の物質(リガンド)又は光子等を受容すると、当業者に於いてよく知られているように、これがトリガー、即ち、刺激、となって、細胞内で連鎖的に種々の物質の反応が進行し、刺激の情報が細胞内にて次々に伝達される。「膜トランスロケーション反応」とは、かかる細胞内の刺激若しくは信号情報伝達の過程の一部として、刺激前に細胞質内に遊離していた又は細胞小器官に存在していた或る種のタンパク質が細胞膜へ移行する現象である。かかる膜トランスロケーション反応は、膜トランスロケーション活性を有する(膜トランスロケーション反応を起す)タンパク質又はその他の生体分子を蛍光色素などで標識すると、光学顕微鏡下で細胞に於いて直接に観察することができるので、細胞生物学的、医学的又は薬学的研究又は創薬の分野に於いては、光学顕微鏡下で任意の細胞が任意の物質又は刺激に対して膜トランスロケーション反応を起こすか否かを判定することにより、その物質又は刺激がその細胞に対して(特に、細胞内信号伝達物質として)生理活性作用を有するか否か又は新薬若しくは治療法として有効か否かを評価するといったこと(Drug Discovery)が試みられている。
【0003】
膜トランスロケーション反応を観察しようとする場合、従前では、生きた細胞内の膜トランスロケーション活性を有する特定のタンパク質を標識するといったことは、個々の細胞に蛍光標識されたタンパク質又は生体分子等を顕微注射するなどの熟練した技術を要し、一度に観察できる細胞数も少なかった。しかしながら、生きた細胞内に取り込まれ特定の物質を標識することのできる蛍光色素によって一度に多数の細胞の内部の特定のタンパク質を染色したり、或いは、遺伝子導入技術によりGFP等の蛍光タンパク質を融合したタンパク質を発現する細胞を一度に大量に培養することにより、多数の細胞に於いて、その蛍光色素又は蛍光タンパク質を標識として細胞内でのタンパク質の動きを観察することが可能になってきている。例えば、非特許文献1に記載されている如く、接着性細胞HeLa(子宮頚癌細胞)等に於いて、遺伝子導入技術により膜トランスロケーション活性タンパク質であるプロテインキナーゼC(PKC)のGFP融合タンパク質を発現させた細胞を大量に調製し、蛍光顕微鏡下で、多数のGFP融合PKC発現細胞に膜移行シグナルであるPMAやその他の活性薬剤を作用して、膜トランスロケーション反応が起きるか否かを観察し判定するといったことが行われている(PKCは、刺激前は細胞質内に遊離しているが、細胞がPMA等の刺激を受けると、細胞膜の内側に結合することが知られている。)。このような実験によれば、或る刺激に対する細胞の応答性を一度に多数の細胞について観察・評価することができるので、細胞内信号伝達物質の探索、任意の生理活性作用を有する物質のスクリーニングを行う場合に非常に有利である。
【特許文献1】特開2004−54347
【非特許文献1】ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)、270巻、50号、1995年、30134−30140頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蛍光顕微鏡を用いて、膜トランスロケーション反応の有無を判定する場合、対物レンズを通して得られた細胞の蛍光顕微鏡像(以下、「蛍光像」とする。)が目視により又は顕微鏡に取り付けられたカメラで蛍光像を撮影することにより観察される。そして、観察者又は実験者の判断により、個々の細胞に於いて、細胞の外周の蛍光強度が刺激後に相対的に増大したとき、膜トランスロケーション反応が起きたと判定される。カメラで撮像された蛍光像を任意の画像処理装置等(例えば、特許文献1参照)に取り込むことができる場合には、細胞の内外の蛍光強度分布をグラフ化することができるので、蛍光像そのものではなく、個々の細胞についての蛍光強度分布のグラフを参照することにより、細胞の外周の蛍光強度の変化から細胞膜周辺にタンパク質が集積されたか否かが判定することもできる。また、任意の物質の生理活性作用のスクリーニングをする場合には、膜トランスロケーション反応を起した細胞数がカウントされ、そのカウント数の結果が、その物質の作用の評価に用いられる。
【0005】
しかしながら、上記の如き判定に於いて、或る細胞に於いて、細胞の外周の蛍光強度が刺激により増大したと認められるか否か、即ち、膜トランスロケーション反応が起きたか否かの判定は、最終的には観察者の判断に委ねられており、従って、判断にばらつきが生じ得る。実際、生きた細胞に於いて、膜トランスロケーション反応による蛍光強度の変化の程度は、個々の細胞によって、例えば、細胞の形状、細胞の(光学顕微鏡の光軸方向の)の厚みなどによってばらつきがあるところ、膜トランスロケーション反応の有無を観察者の判断による場合、そのときどきで、或いは、観察者毎に、判断基準が異なり、判定結果は、客観性又は再現性があまり高くない場合が有り得る。また、膜トランスロケーション反応の有無の判定を一つの細胞について行う場合には、蛍光強度分布のグラフを利用することにより、さほどの労力を要しないが、判定すべき細胞数が多くなると、一つずつ判定を行うことは、多くの時間と手間がかかる。更に、観察者の判断のばらつきがあるので、細胞の総数が多数になると、膜トランスロケーション反応を起した細胞のカウント結果に誤差が生じ、任意の物質の生理活性作用のスクリーニング等に於ける作用の評価結果の信頼性が低減されることとなる。
【0006】
かくして、もし膜トランスロケーション反応の有無の判定を、観察者又は実験者による個々の細胞についての個別の判断に依存する必要なく実行することができれば、判定すべき細胞数が多くなっても時間や手間がかからず、信頼性のある結果が得られることが期待される。
【0007】
従って、本発明の一つの課題は、蛍光顕微鏡を用いて、任意の細胞に於ける任意の刺激に対する膜トランスロケーション反応の有無を判定するための細胞画像解析装置又は方法であって、個々の細胞の膜トランスロケーション反応の判定を、観察者又は実験者による判断のばらつきの影響を受けないように行う装置又は方法を提供することである。
【0008】
また、本発明のもう一つの課題は、上記の如き装置又は方法であって、判定すべき細胞数が増えても迅速に膜トランスロケーション反応の有無の判定を実行することのできる装置又は方法を提供することである。なお、かかる装置又は方法に於いては、細胞試料を光学顕微鏡にセットした後には、細胞の蛍光像の取得から、膜トランスロケーション反応の有無の判定までが自動的にできることがより好ましいであろう。
【0009】
更に、本発明のもう一つの課題は、上記の如き細胞画像解析装置又は方法を実現するソフトウェアを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、観察者又は実験者の判断のばらつきによらずに、任意の刺激を細胞に与えることにより細胞内に発生する膜トランスロケーション反応の有無を判定する新規な細胞画像解析装置、細胞画像解析用コンピュータプログラム及び方法が提供される。
【0011】
本発明による細胞画像解析装置は、膜トランスロケーション反応の際に細胞膜へ移動するトランスロケーション分子が蛍光標識された細胞の刺激が与えられた後の蛍光顕微鏡像を画像データとして取得する手段と、細胞の蛍光顕微鏡像の画像データに於ける細胞の存在する領域を決定する手段と、細胞の存在する領域の外縁から所定の画素数の幅を有する該細胞の輪郭線を決定する手段と、細胞の蛍光顕微鏡像の画像データに於いて細胞の輪郭線上に於ける輝度値と細胞の輪郭線より内側の輝度値とに基づいて膜トランスロケーション反応の有無を判定する手段とを含むことを特徴とする。
【0012】
上記の本発明の構成によれば、まず、膜トランスロケーション反応の際に細胞膜へ移動するトランスロケーション分子が蛍光標識された細胞の刺激が与えられた後の蛍光顕微鏡像(蛍光像)が、通常の態様にて、画像データとして取得される。蛍光像の画像データは、輝度値と座標とを有する画素の集合であるので、座標を特定すれば、蛍光像に於けるその座標の蛍光強度が分かることとなる。そこで、本発明の装置に於いては、取得された蛍光像に於ける座標に対応した蛍光強度に基づいて、蛍光像の画像データに於ける細胞の存在する領域を決定し、細胞の像に於いて細胞の存在する領域の外縁から所定の画素数の幅を有する輪郭線を決定する。そして、膜トランスロケーション反応の有無の判定は、細胞の蛍光顕微鏡像の画像データに於いて細胞の輪郭線上に於ける輝度値と細胞の輪郭線より内側の輝度値とに基づいて行われる。この場合、好適には、細胞の輪郭線上に位置する全画素の輝度値の平均と細胞の輪郭線より内側に位置する画素の輝度値の平均とを算出し、細胞の輪郭線より内側の平均に対する細胞の輪郭線上の平均の比が所定値を越えたときに膜トランスロケーション反応が発生した判定するようになっていてよい。
【0013】
かかる構成によれば、膜トランスロケーション反応の判定は、観察者又は実験者の主観的な判断に左右されずに実行され、従って、判定結果の信頼性が増大することとなる。また、上記の装置の作動は、画像処理技術を用いて自動化することができるので、観察者又は実験者は、個々の測定に於いて、膜トランスロケーション反応の判断をする必要がなくなり、膜トランスロケーション反応に要する手間と時間を削減することができる。
【0014】
上記の構成に於いて、蛍光顕微鏡像は、複数個の細胞の蛍光顕微鏡像を含んでいてよく(即ち、一つの画像データに複数個の細胞が含まれていてもよく、)、その場合には、細胞の存在する領域を決定する手段が複数個の細胞の各々の存在する領域を決定し、細胞の輪郭線を決定する手段が複数個の細胞の各々の輪郭線を決定し、膜トランスロケーション反応の有無を判定する手段は、複数個の細胞の各々の輪郭線上に於ける輝度値と該輪郭線より内側の輝度値とに基づいて膜トランスロケーション反応の有無を判定するようになっていてよい。かかる構成も画像データに於ける画素の座標と輝度値を用いた自動的な演算処理によってなされるので、一度に観察すべき細胞数が多くなっても、観察者又は実験者は、個々の細胞についての膜トランスロケーション反応の判断をすることなく、膜トランスロケーション反応の判定に要する手間と時間を大幅に低減することができることとなる。また、膜トランスロケーション反応の判定の基準が、観察者又は実験者の感覚ではなく、複数個の細胞の各々の輪郭線上に於ける輝度値と該輪郭線より内側の輝度値とに基づいてなされるので、細胞毎の判定基準のばらつきがなく、判定結果の客観性と再現性が向上される。
【0015】
膜トランスロケーション反応の判定は、既に触れたように、しばしば、任意の物質の生理活性作用の評価に用いられる。その場合には、或る刺激に対してどの程度の細胞が膜トランスロケーション反応を起したかが、生理活性作用の目安となる。そこで、本発明の装置に於いては、細胞の存在する領域を決定する手段が蛍光顕微鏡像内の複数個の細胞の個数をカウントする手段を有していてよい。その場合、観察者又は実験者は、画像データ中の細胞数を手動的にカウントする手間が省かれる。また、生理活性作用の評価は、しばしば、刺激を与えられた細胞の総数のうち膜トランスロケーション反応が発生した細胞の個数の割合により為されるので、そのような膜トランスロケーション反応が発生した細胞の個数の割合を自動的に算出するようになっていてよい。
【0016】
また、上記の本発明の装置は、任意の細胞の膜トランスロケーション反応の判定に用いられてよい。その場合、細胞の種類や実験条件によって、細胞膜に集積するタンパク質の量又はかかるタンパク質の集積状態が蛍光像に反映される態様が異なり、従って、膜トランスロケーション反応が発生した際の細胞膜近傍の蛍光強度の拡がり方が異なることとなる。かかる状況に於いて、もし細胞膜近傍に集積したタンパク質の分布する領域の幅に対して輪郭線の幅と狭すぎたり、広すぎたりすると、いずれの場合も、膜トランスロケーション反応が起きたときと起きていないときの強度の差が低減してしまうので、膜トランスロケーション反応による細胞膜近傍の蛍光強度の変化を良好に捉えることができないこととなる。そこで、上記の本発明の装置に於いては、細胞の輪郭線を決定する手段に於いて決定される輪郭線の所定の幅が使用者により設定可能であってよい。
【0017】
更に、上記の本発明の装置に於いて、膜トランスロケーション反応の判定は、上記から理解される如く、細胞の輪郭線の幅とその輝度値に依存するところ、細胞に対する対物レンズの焦点の位置がずれると、蛍光像中の細胞が存在する領域や細胞膜近傍の光の広がり方及び強度が変化し、膜トランスロケーション反応の判定基準に誤差を生じることとなるので、細胞に対する対物レンズの焦点の位置は常に一定であることが望ましい。しかしながら、実際の測定に於いては、蛍光像の撮影中に蛍光顕微鏡の対物レンズの高さ又は位置がずれたり、或いは、対物レンズの視野を移動する際(実際には、観察試料標本の位置を移動する)、細胞に対する対物レンズの焦点に対する観察試料容器の底面又は上面の相対的な位置がずれたりすることがある。そこで、本発明の装置に於いては、細胞が観察試料容器の底面又は上面に接着する細胞である場合、蛍光顕微鏡の対物レンズの焦点を観察試料の底面又は上面に自動的に合わせることにより細胞に対物レンズの焦点を合わせるよう対物レンズの位置を制御する手段が設けられていてよい。これにより、本発明の装置と共に使用される蛍光顕微鏡に対物レンズの位置を自動的に調節機能が備わっている場合には、観察者又は実験者は、対物レンズの位置を確認しなくても、安定的に細胞の蛍光像を取得することができ、従って、細胞の輪郭線上の輝度値に基づいた膜トランスロケーション反応の判定が安定的に(ばらつくことなく)実行できることとなる。
【0018】
ところで、上記の本発明の装置の機能は、任意のコンピュータに於いて実行されてよい。従って、本発明のもう一つの態様によれば、任意の刺激を細胞に与えることにより細胞内に発生する膜トランスロケーション反応の有無を判定する細胞画像解析用コンピュータプログラムであって、膜トランスロケーション反応の際に細胞膜へ移動するトランスロケーション分子が蛍光標識された細胞の刺激が与えられた後の蛍光顕微鏡像を画像データとして取得する手順と、細胞の蛍光顕微鏡像の画像データに於ける細胞の存在する領域を決定する手順と、細胞の存在する領域の外縁から所定の画素数の幅を有する該細胞の輪郭線を決定する手順と、細胞の蛍光顕微鏡像の画像データに於いて細胞の輪郭線上に於ける輝度値と細胞の輪郭線より内側の輝度値とに基づいて膜トランスロケーション反応の有無を判定する手順とをコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラムが提供される。
【0019】
上記の本発明のコンピュータプログラムに於いては、本発明の装置と同様に、膜トランスロケーション反応の有無を判定する手順に於いて、細胞の輪郭線上に位置する全画素の輝度値の平均と細胞の輪郭線より内側に位置する画素の輝度値の平均とを算出し、細胞の輪郭線より内側の平均に対する細胞の輪郭線上の平均の比が所定値を越えたときに前記膜トランスロケーション反応が発生した判定するようになっていてよい。また、蛍光顕微鏡像が複数個の細胞の蛍光顕微鏡像を含む場合には、本発明のコンピュータプログラムは、細胞の存在する領域を決定する手順に於いて複数個の細胞の各々の存在する領域を決定し、細胞の輪郭線を決定する手順に於いて複数個の細胞の各々の輪郭線を決定し、膜トランスロケーション反応の有無を判定する手順に於いて複数個の細胞の各々の輪郭線上に於ける輝度値と該輪郭線より内側の輝度値とに基づいて膜トランスロケーション反応の有無を判定するようになっていてよい。この場合、蛍光顕微鏡像内の複数個の細胞の個数をカウントし、蛍光顕微鏡像内の複数個の細胞のうち膜トランスロケーション反応が発生した細胞の個数の割合を算出するようになっていてよい。
【0020】
更に、本発明の装置に於ける特徴、即ち、画像データとして取得された細胞の蛍光像から、細胞の存在する領域と輪郭線とを決定し、しかる後に細胞の蛍光顕微鏡像の画像データに於いて細胞の輪郭線上に於ける輝度値と細胞の輪郭線より内側の輝度値とに基づいて膜トランスロケーション反応の有無を判定するという構成は、任意の刺激を細胞に与えることにより細胞内に発生する膜トランスロケーション反応の有無を判定する方法に於いても実現することができる。従って、本発明の更にもう一つの態様によれば、膜トランスロケーション反応の際に細胞膜へ移動するトランスロケーション分子が蛍光標識された細胞の刺激が与えられた後の蛍光顕微鏡像を画像データとして取得する過程と、細胞の蛍光顕微鏡像の画像データに於ける細胞の存在する領域を決定する過程と、細胞の存在する領域の外縁から所定の画素数の幅を有する該細胞の輪郭線を決定する過程と、細胞の蛍光顕微鏡像の画像データに於いて細胞の輪郭線上に於ける輝度値と細胞の輪郭線より内側の輝度値とに基づいて膜トランスロケーション反応の有無を判定する過程とを含むことを特徴とする膜トランスロケーション反応の有無を判定する方法が提供される。かかる方法によれば、観察者又は実験者の主観的な又は感覚的な判断基準に左右されることなく、安定的に且迅速に、膜トランスロケーション反応の有無の判定を行うことが可能となる。
【0021】
かかる方法に於いては、上記の本発明の装置の場合と同様に、膜トランスロケーション反応の有無を判定する過程に於いて、細胞の輪郭線上に位置する全画素の輝度値の平均と細胞の輪郭線より内側に位置する画素の輝度値の平均とを算出し、細胞の輪郭線より内側の平均に対する細胞の輪郭線上の平均の比が所定値を越えたときに膜トランスロケーション反応が発生した判定するようになっていてよい。また、蛍光顕微鏡像が複数個の細胞の蛍光顕微鏡像を含む場合には、細胞の存在する領域を決定する過程に於いて複数個の細胞の各々の存在する領域を決定し、細胞の輪郭線を決定する過程に於いて複数個の細胞の各々の輪郭線を決定し、膜トランスロケーション反応の有無を判定する過程に於いて複数個の細胞の各々の輪郭線上に於ける輝度値と該輪郭線より内側の輝度値とに基づいて膜トランスロケーション反応の有無を判定するようになっていてよく、細胞の存在する領域を決定する過程に於いて、蛍光顕微鏡像内の複数個の細胞の個数をカウントし、或いは、蛍光顕微鏡像内の複数個の細胞のうち膜トランスロケーション反応が発生した細胞の個数の割合を算出するようになっていてよい。
【0022】
上記の本発明に於いて、判定される膜トランスロケーション反応は、一つには、細胞に刺激を与えることにより該細胞の細胞質内に遊離しているタンパク質が該細胞の細胞膜に集積する反応である。また、本発明によれば、細胞に刺激を与えることにより該細胞内の細胞小器官に存在するタンパク質が該細胞の細胞膜に集積する反応についても発生の有無を判定することができる。細胞は、好適には、対物レンズの焦点の合わせやすい接着性細胞である。
【0023】
膜トランスロケーション反応の際に細胞膜へ移動するトランスロケーション分子が蛍光標識された細胞の調製は、例えば、細胞の蛍光顕微鏡像を取得する前に、予めトランスロケーション分子が蛍光タンパク質と融合した状態にて発現するための遺伝子を細胞に導入し、細胞に於いて蛍光タンパク質と融合したトランスロケーション分子を発現させることにより為されてよく、或いは、細胞の蛍光顕微鏡像を取得する前に、膜トランスロケーション反応の際に細胞膜へ移動するトランスロケーション分子にタグ分子を導入するための遺伝子を細胞に導入し、細胞に於いてタグ分子が導入されたトランスロケーション分子を発現させ、しかる後に、細胞にタグ分子と特異的に結合する蛍光色素を導入して、これによりトランスロケーション分子を蛍光標識することにより為されてよい。勿論、トランスロケーション分子は、上記の方法以外にて蛍光標識されてもよく、そのような場合も本発明の範囲に属する。
【発明の効果】
【0024】
上記本発明の構成から理解される如く、本発明の装置、プログラム又は方法によれば、膜トランスロケーション反応の判定を観察者又は実験者が個々の細胞について蛍光像から感覚的に判断するといったことがないので、判定結果に於いて、観察者又は実験者毎の判断のばらつきがなくなり、客観性及び再現性が向上される。また、本発明の装置の構成に関連して説明されているように、本発明の膜トランスロケーション反応の判定は、細胞の蛍光像をディジタル化して得られる画像データを用いて演算処理により自動的に実行可能なので、判定に要する労力又は時間が低減され、判定すべき細胞数が多くなっても、迅速に、判定結果が得られることとなる。
【0025】
本発明の装置、プログラム又は方法は、遺伝子導入効率の評価を行う場合にも、有利に用いることができることは理解されるべきである。遺伝子導入効率を評価する場合、例えば、評価されるべき遺伝子導入技術により、細胞に、膜トランスロケーション反応に関与するタンパク質又はトランスロケーション性を有するタンパク質に蛍光標識するための遺伝子の導入が試みられる。遺伝子導入が成功していれば、蛍光標識がなされタンパク質が発現し、所定の刺激に対して膜トランスロケーション反応が観察される。そして、遺伝子導入効率は、膜トランスロケーション反応の反応率により決定される。このような場合、大量の細胞について膜トランスロケーション反応を起したか否かが判定されることとなるが、本発明によれば、そのような場合でも、迅速に且信頼性のある評価結果を与えることができると期待される。
【0026】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0028】
蛍光顕微鏡観察システムの構成
図1は、本発明による細胞の膜トランスロケーション反応を判定する細胞画像解析装置の好ましい実施形態を組み込んだ蛍光顕微鏡観察システムを模式的に表したものである。なお、説明の簡単化のため、本発明の構成に特に関りのない部分については、省略されている。
【0029】
同図を参照して、蛍光顕微鏡観察システムは、倒立型蛍光顕微鏡1と、画像解析装置100とを含む。蛍光顕微鏡1は、通常の蛍光顕微鏡と同様に、細胞試料標本P(例えば、24穴の、プラスチックマイクロタイタープレート)が載置されるXY方向(水平方向)に電動式に移動可能なステージ2と、透過光観察用照明光源3と、対物レンズ4と、対物レンズの位置(高さ)を調節する対物電動駆動機構5と、蛍光観察用の励起光源6と、ダイクロイックミラー7と、細胞の蛍光像を撮影するためのカメラ8と、画像解析装置100と協働して蛍光顕微鏡1の前記の各部の作動制御を行うマルチコントローラー10を含んでいる。蛍光顕微鏡1に於いて蛍光観察を行う場合には、励起光源6からの励起光EXがダイクロイックミラー7にて反射され対物レンズ4を通して、細胞試料標本Pを照明し、かかる励起光により励起された細胞内の蛍光標識からの蛍光FLは、対物レンズ4を通って、ダイクロイックミラー7を透過して、カメラ16の受光面(図示せず)に於いて結像する。当業者に於いて周知の如く、細胞試料を特定の波長の光にて励起し、試料からの蛍光のみがカメラの受光面に入射するようにダイクロイックミラー7には励起用フィルター7−1と蛍光用(又は受光用)フィルター7−2が設けられる。また、図示の光学顕微鏡の光学系は、所謂「無限遠系」なので、カメラの前に結像レンズが配置され、対物レンズ4の焦点面の像が受光面に結像されるよう構成されている。なお、カメラは、CCD又は冷却CCDなど、この分野に於いて通常使用されているビデオカメラであってよい。励起光源6は、水銀ランプ、キセノンランプ、レーザーなど、この分野に於いて公知の任意の光源であってよい。なお、図示の例では、R(620nm)、G(520nm)、B(460nm)、UV(365nm)の発光波長のLEDが内蔵され、これらのLEDの光がコンバインされて一本の光ファイバー12へ導入され、光ファイバーの出射光がレンズセット13により平行光にされてダイクロイックミラー7へ導かれるよう構成されている。
【0030】
蛍光顕微鏡1に取り付けられる対物レンズ4は、任意の倍率のものであってよい。本発明に於いては、10数μmから数十μmの寸法の細胞全体又は複数の細胞を一度に観察して画像データとして解析装置へ取り込むので、典型的には、40倍の対物レンズ(空浸)が使用される。かかる対物レンズには、通常、細胞試料標本Pの対物レンズの先端が対向する面のカバーガラスP0(又はスライドガラス)の厚みに応じて対物レンズの焦点位置を調整する補正環4aが設けられている。好適には、かかる補正環4aをステッピングモーター4bにより作動して自動的に対物レンズの焦点位置を調節する任意の機構が設けられていてもよい。
【0031】
更に、図示の蛍光顕微鏡1には、対物電動駆動機構5を駆動制御して対物レンズ4の焦点位置を細胞試料標本Pの細胞の位置する面に自動的に合わせる機能を有するオートフォーカスユニット(自動焦点調節機構)20が設けられていることが好ましい。後で説明されるように、本発明の細胞の画像の解析に於いては、細胞の外周に沿って定義される所定幅の輪郭線に於ける蛍光強度が参照されるところ、測定中に対物レンズの焦点位置がずれてしまうと、画像データ上で特定される輪郭線の位置及び輝度が変化し、この変化が膜トランスロケーション反応の判定結果に影響する可能性がある。そこで、かかる不具合が発生しないように対物レンズの焦点位置が細胞試料標本Pに於ける一定の高さに維持されるようオートフォーカスユニットが設けられる。
【0032】
図示の例のオートフォーカスユニット20は、所謂「瞳分割式レーザーオートフォーカスユニット」であり、対物レンズ4を通して細胞試料標本Pの底面に当てられるレーザー光の反射光を利用して対物レンズ4と細胞試料標本Pの底面との位置を自動的に調節するものである。その機構を簡単に説明すると、まず、レーザーダイオード点灯回路22により点灯されるレーザーダイオード24から出射された波長785nmの赤外光のレーザー光(図中に於いて矢印付きの点線)が、絞り26、ビームスプリッタ28を通って、蛍光顕微鏡1内の光路に備えられたオートフォーカス用ダイクロイックミラー34(700nm以上の波長の光を反射する)にて反射され、対物レンズ4へ入射させられ、細胞試料標本Pの底面のカバーガラスに到達する。カバーガラスに到達したレーザー光の少なくとも一部は、そこで反射され、再び対物レンズ4を通り、オートフォーカス用ダイクロイックミラー34で反射され、更に今度はビームスプリッタ28に於いて反射され、集光レンズ30を通って、ディテクタ32に受光される。かかる構成の光学系に於いて、レーザー光の対物レンズ4への入射位置を、その中心軸に対して偏心しておくことにより、細胞試料標本Pの底面で反射されて再び対物レンズ4を通ってディテクタ32上で受光されるレーザー光のスポットの位置は、対物レンズ4と細胞試料標本Pの底面との距離に依存して変化する。従って、予め、対物レンズ4の焦点が細胞試料標本Pの底面に一致しているときのディテクタ32上でのレーザー光のスポットの位置を特定しておき、細胞の蛍光像を撮影する間は、ディテクタ32上でのレーザー光の位置が予め特定された位置に維持されるよう対物電動駆動機構5が制御される。かかる制御は、ディテクタ32からのレーザースポットの位置の情報に基づき、AF制御回路36により自動的に行われ、従って、予め、対物レンズ4と細胞試料標本Pの底面との距離を設定しておくことにより、その後、観察者又は実験者は、対物レンズの焦点の調整を行う必要がなくなることとなる。AF制御回路36は、また、レーザーダイオード点灯回路22を介してレーザーダイオード24の発光出力又はON/OFFを制御するようになっていてよい。
【0033】
なお、かかるオートフォーカスユニット20は、本発明に於いて必須の構成ではなく、顕微鏡1にかかる機構が備わっていない場合には、観察者又は実験者は、手動的に対物レンズ4の焦点位置を調整するようになっていてよく、そのような場合も本発明の範囲に属する。また、図示の例以外の自動焦点調節機構が採用されてもよい。
【0034】
マルチコントローラー10は、画像解析装置100からの指令に基づき、透過光観察用照明光源3、電動ステージ2、カメラ16、オートフォーカスユニット20(対物電動駆動機構5)の作動を制御するとともに、カメラ16で撮影された細胞試料標本の蛍光像を画像解析装置100へ送信する。マルチコントローラー10の構成は、当業者にとって公知の任意の態様であってよい。マルチコントローラー10と画像解析装置100との間の通信は、任意の形式、例えば、CAN通信又はUSB接続により為されてよい。
【0035】
本発明の細胞画像解析装置の各手段、プログラムに於ける各手順及び方法に於ける処理過程は、画像解析装置100の構成及び作動により実現される。画像解析装置100は、当業者にとって公知の任意の各種の画像処理が可能なコンピュータにより構成されてよい。画像解析装置100は、作動されると、内蔵の記憶媒体に記憶された本発明による膜トランスロケーション反応を判定するためのプログラムを、以下に詳細に説明する態様にて、実行する。画像解析装置100には、通常のパーソナルコンピュータと同様の態様にて、観察者又は実験者の指示が入力されるキーボード102と蛍光顕微鏡システムの各部の作動状況と、カメラ16により撮影された細胞試料標本の蛍光像が映し出されるモニター104とが設けられる。なお、図示の例では、マルチコントローラー10と画像解析装置100とが別体として構成されているが、画像解析装置100と一体的に構成されていてもよい。また、画像解析装置100は、汎用のパーソナルコンピュータであってもよいが、本発明による細胞画像解析に特化したユニット又は装置として構成されてもよい。
【0036】
膜トランスロケーション反応の判定の原理
図2は、トランスロケーション分子が蛍光標識された或る一つの細胞の膜トランスロケーション反応の前後の蛍光像を模式的に表したものである(なお、細胞は、マイクロタイタープレートのウェルの底面に張り付いた状態の接着性細胞である。)。同図を参照して、膜トランスロケーション反応前の細胞(図2(A))に於いては、トランスロケーション分子は、細胞質全体に遊離して存在しているので、細胞の蛍光強度分布は、図2(B)に示されている如く形状となる。かかる細胞に於いて、或る特定の刺激が与えられ、膜トランスロケーション反応が発生すると、トランスロケーション分子が細胞膜近傍に集積し、図2(C)、(D)に示されている如く、蛍光像に於いて細胞の外周の蛍光強度が相対的に増大する(実際には、トランスロケーション分子は、細胞の上下面を含めて細胞の全表面に集積するが、蛍光像における蛍光強度は、図2(E)に示されている如く、対物レンズの焦点深度方向について積算されるので、蛍光像で観て細胞の外周のみの蛍光強度が増大される。)。
【0037】
かかる膜トランスロケーション反応による蛍光強度の分布の変化が起きた際、従前では、図2(A)と(C)、又は(B)と(D)とを観察者又は実験者が比較し、いわば感覚的に膜トランスロケーション反応による蛍光強度の分布の変化があったか否かを判定していたので、判断基準がばらつき、また、細胞毎に判定していたので、時間を要するものであった。そこで、本発明に於いては、蛍光像に於ける輝度(蛍光強度)に基づき、蛍光像中の細胞の存在している領域を特定し、所定幅の輪郭線を決定し、輪郭線に於ける輝度と輪郭線より内側の輝度との比に基づいて、数値的に膜トランスロケーション反応が起きたか否かを決定する(図2(D)参照)。なお、輪郭線に於ける輝度と輪郭線より内側の輝度との比に基づく膜トランスロケーション反応の判定は、好ましくは、輪郭線全域に於ける輝度の平均値と輪郭線より内側の全域に於ける輝度の平均値との比が所定値を越えたか否かにより為される。理解されるべきことは、これらの処理は、画像データに於ける各画素の輝度値と座標値とを用いて演算処理することにより、画像解析装置100に於いて自動的に行われるので、判断基準のばらつきにより結果が左右されることがなくなり、また、観察者又は実験者に要求される手間と時間が大幅に削減されるということである。
【0038】
細胞試料の調製
上記の本発明の膜トランスロケーション反応を判定する装置又は方法に於いては、「発明の開示」の欄に於いて既に触れたように、細胞に刺激を与えることにより該細胞の細胞質内に遊離しているタンパク質が該細胞の細胞膜に集積する反応や、又は、細胞に刺激を与えることにより該細胞内の細胞小器官に存在するタンパク質が該細胞の細胞膜に集積する反応について判定することができる。例えば、子宮頚癌細胞株化細胞の一種であるHeLa細胞に於いて、PMA(ホルポールミリスチルアセテート)や放射線の刺激により、細胞質内に浮遊するプロテインカイネースC(PKC)が細胞膜へ移動する反応(細胞質から細胞膜への膜トランスロケーション反応の例)や、脂肪細胞株3T3−L1に於いて、インスリン非存在下ではトランスゴルジ膜上に存在している分子GLUT4が、インスリンに刺激されることにより細胞膜表面に急激に移動する反応(細胞小器官の膜から細胞膜への膜トランスロケーション反応の例。なお、GLUT4は、かかる反応によりグルコースを細胞内に取り込む活性を発揮することとなる。)などの反応の判定を行うことが可能である。
【0039】
本発明で膜トランスロケーション反応の有無の判定が為される細胞は、内部のトランスロケーション分子が蛍光標識されている必要がある。細胞への蛍光標識の導入は、好適には、遺伝子導入技術を用いて、細胞にトランスロケーション分子が蛍光タンパク質又はハロタグ分子と融合した状態にて発現させることにより行われる。細胞にハロタグ分子が導入されたトランスロケーション分子を発現させる場合には、発現後、タグ分子と特異的に結合する蛍光色素を細胞内に導入してトランスロケーション分子の蛍光標識が為される。かかる細胞への蛍光標識の導入は、当業者にとって公知の任意の方法でなされてよい。
【0040】
例えば、子宮頚癌細胞株化細胞の一種であるHeLa細胞に於けるPMAの刺激によるPKCの膜トランスロケーション反応の判定をする場合には、まず、細胞へハロタグ分子が導入されたPKCのDNAベクターが任意のリポフェクション遺伝子導入技術を用いて導入される。しかる後、細胞は16〜24時間培養され、適宜洗浄され、ハロタグリガンドを有する蛍光色素TMR(テトラメチルローダミン)が添加される。ハロタグリガンド付きTMRは、細胞内へ自動的に侵入し、細胞内にて発現されたPKC分子のハロタグに特異的に結合する。かくして、15分後、適宜、細胞は、培養液中の蛍光色素を除去するべく洗浄され、さらに通常培地を加えて、PMAが培地に与えられ、10分前後程度静置される。ここで、DNAの導入が巧く行っていれば、HeLa細胞がPMAの刺激に応答すると、TMRで標識されたPKC分子が細胞質から細胞膜へ移行し、図2(C)に模式的に示されている如く、細胞像の外縁の蛍光強度が増大することとなる。なお、上記のPKC分子の細胞膜近傍での集積は、比較的早く消失してしまうので、観察時には、80%のエタノールを培地に与え、細胞を膜トランスロケーション反応を起している状態で固定することが望ましい。
【0041】
ここで用いているPKCは、当業者にとって周知の如く、細胞内信号情報伝達の過程に於いて、リン酸化・脱リン酸化して種々のタンパク質の機能を可逆的に制御し、様々な細胞機能の調節し、細胞増殖、分化、癌化およびアポトーシスに関係する細胞内機構に深く関与している。従って、本発明に従って為される上記のPKCの膜トランスロケーション反応の判定は、細胞内信号伝達物質の探索、任意の生理活性作用を有する物質のスクリーニング、遺伝子導入効率の評価のためのツールとしての利用が期待される。
【0042】
また、脂肪細胞株3T3−L1に於けるGLUT4のインスリン刺激によるトランスゴルジ膜から細胞膜表面への膜トランスロケーション反応の判定を行う場合には、脂肪細胞株へHela細胞の場合と同様の遺伝子導入技術によりGFP等の蛍光タンパク質と融合したGLUT4を発現させる遺伝子を導入し、蛍光タンパク質融合GLUT4を発現させる。かかる細胞にインスリン刺激を当業者にとって任意の手法により与えると、遺伝子導入が成功していれば、蛍光タンパク質融合GLUT4が細胞膜近傍へ移行し、図2(C)に模式的に示されている如く、細胞像の外縁の蛍光強度が増大することとなる。
【0043】
蛍光顕微鏡のステージに載置される試料標本は、上記の如く調製された細胞試料をマイクロプレートPのウェル内に分注するか、細胞をマイクロプレートPのウェル内へ分注した後に、上記の手順により蛍光標識がなされ、刺激が与えられることにより調製されてよい。なお、既に述べた如く、細胞の輪郭線上の輝度は、対物レンズの焦点位置によって変化しやすく、従って、対物レンズの焦点の合わせやすい試料である方が有利である。従って、細胞は、好適には、マイクロプレートPのウェルの底面に接着する任意の接着性細胞であってよい。しかしながら、球形又はウェルの底面に張り付かない細胞であってもよいことは理解されるべきである(その場合、好適には、マイクロプレートPのウェルの底面に張り付くよう任意の方法で固定される。)。
【0044】
蛍光顕微鏡観察システムを用いた細胞の蛍光像の取得
図3(A)は、上記の蛍光顕微鏡観察システムに於いて上記の如く調製された細胞試料標本Pの蛍光像を画像データとして取得するまでの処理過程をフローチャートの形式にて表したものである。同図を参照して、まず、観察者又は実験者が画像解析装置100(及びマルチコントローラー)の電源を投入し、画像解析装置100に於いて、キーボード102を操作して専用ソフトウェアを起動すると、蛍光顕微鏡1の各部の設定の初期化が実行され、モニター上に蛍光顕微鏡観察システムの種々の設定と作動を指示するための画面が映し出される(ステップ10)。この段階に於いて、観察者又は実験者は、画像解析装置100から、上記の如く調製された細胞試料が分注されたマイクロタイタープレートPの撮影すべきウェル、1つのウェルについての撮影枚数、励起光波長等の種々の設定が入力される(ステップ20)。また、この時点で、ウェル内の任意の細胞試料に対物レンズ4の焦点が合うように対物レンズ4とマイクロタイタープレートPの底面との距離を確定するべくオートフォーカスユニットにて維持されるべき対物レンズの高さが決定されてよい。また、対物レンズ4の補正環6もマイクロタイタープレートPの底面のカバーガラスの厚みに合うように自動的に調節されてよい。
【0045】
しかる後に、観察者又は実験者が画像解析装置100から撮影開始指示を与えると、励起光源6が点灯され(又は図示していない励起光源6の光路のシャッターが開けられ)、カメラ16が作動されて蛍光像の撮影が開始される(ステップ30)。蛍光像の撮影に於いては、まず、ステップ20にて入力された撮影すべきウェルが対物レンズ4の視野に入るように、マルチコントローラー10の制御下、電動ステージ2がXY方向に移動される(ステップ40)。かかるステージの移動の際、既に述べた如く、オートフォーカスユニットにより対物レンズ4の焦点とウェルの底面との相対的な位置が一定に維持されるので、基本的には、観察者又は実験者が対物レンズの高さを調節する操作は必要ない。かくして、ウェルの移動が完了すると、カメラの受光面に結像している蛍光像が画像データ(静止画)としてマルチコントローラー10を介して画像解析装置100へ取り込まれる(ステップ50)。なお、当業者にとって理解される如く、画像データの取り込みは、使用されるカメラの形式に応じた態様により為されることは理解されるべきである。例えば、ビデオレートで映像を出力する形式のCCDカメラ等であれば、任意に設定されるフレーム数の画像が積算されて画像データとして取り込まれるようになっていてよい。また、冷却CCDの場合、任意に設定される露光時間に受光面に蓄積された電荷に対応する画像が一つの画像データとして画像解析装置100へ取り込まれる。かくして、現在のウェルについての蛍光像の取り込みが終了すると、ステージが移動され次のウェルの蛍光像の取り込みが実行される(ステップ40、50)。そして、予定されたウェルの全てについての蛍光像の画像データの取得が完了すると(ステップ60)、後述の画像データの解析が実行される。
【0046】
膜トランスロケーション反応の判定の手順
図3(B)は、図3(A)で得られた細胞試料標本の蛍光像(図4(A))から膜トランスロケーション反応の判定を行う処理過程をフローチャートの形式で表したものである。なお、以下に説明する画像解析は、蛍光像の取込みに続けて実行されるが、別の装置又はシステムにより調製され保存された画像データを画像解析装置100に取り込んで行ってもよい。
【0047】
同図を参照して、まず、複数の細胞の像を含む蛍光像に於ける蛍光強度に基づいて、細胞の像が存在する領域が決定される(ステップ100、110)。図2から理解される如く、細胞の存在している領域は、蛍光強度が背景に比べて高くなっているので、或る閾値以上の蛍光強度を有する画素領域に細胞が存在しているとみなすことができる。より詳細には、蛍光強度の分布は、細胞が真に存在している領域よりも若干拡がるので、任意に蛍光強度分布の裾に所定の閾値を設定し、閾値以上の蛍光強度を有する画素領域に細胞が存在しているとしてよい。演算処理に於いて、典型的には、蛍光像を所定の閾値を用いて二値化し(閾値以上の輝度を有する画素に対して1、閾値未満の輝度を有する画素に対して0の輝度を与える。ステップ100、図4(B))、しかる後、画像のXY方向について輝度1が与えられた領域が所定の面積(画素数)以上連続して拡がっている領域を細胞が存在している領域として決定する(ステップ110)。決定された細胞の存在する領域の座標は、細胞毎に記録され、後の演算に利用される。
【0048】
なお、輝度1が与えられた領域が所定の面積(画素数)以上連続して拡がっている領域の検出のアルゴリズムは、当業者に於いて任意に構成されてよい。図4(B)の細胞の像d、eの如く、核又はその他細胞小器官が蛍光標識されていないことにより、輝度1の画素が所定の面積以上連続して拡がっている領域の内部に輝度0の領域がある場合には、かかる内部の輝度0の画素領域も細胞の存在している領域として特定される。
【0049】
上記の細胞の存在する領域の特定がなされると、領域の数が蛍光像内の細胞の個数として後の計算に利用される(ステップ120)。
【0050】
上記の如く、細胞の個々の存在領域が画定され、細胞数がカウントされた後、更に、個々の細胞像の存在する画素領域の各々に於いて、その領域の外縁から内側に向かって所定幅の輪郭線が画像データ上の座標により特定される(ステップ130)。なお、輪郭線の幅は、観察者又は実験者により任意に設定されてよい。「発明の開示」の欄に於いて、既に述べた如く、膜トランスロケーション反応に於ける細胞の外縁近傍の蛍光強度の広がりは、細胞の種類によって異なり得る。図2(C)から理解される如く、輪郭線の幅が細胞像外縁の蛍光の増大部分の広がりよりも広過ぎると、輪郭線に蛍光の増大が観られない領域が入ることになり、従って、輪郭線上の蛍光強度の変化が低減されてしまうこととなる。また、逆に、輪郭線の幅が細胞像外縁の蛍光の増大部分の広がりよりも狭すぎると、輝度値を拾い出す画素数が低減され、結果の信頼度が低減されるとともに、蛍光が大きく増大した部分からはずれてしまう可能性があり、その場合、やはり、輪郭線上の蛍光強度の変化が低減されてしまうこととなる。適切な輪郭線の幅を設定するためには、予備実験を行い、適当な幅を決定しておく必要がある。
【0051】
図4(B)の二値化画像に於いて、細胞像の外縁から領域の内側へ数画素の幅の線状の領域、即ち、輪郭線上の画素に輝度1を与え、輪郭線の内側の画素に輝度0を与えると、図4(C)に示されている如き輪郭線のみ画像が形成されることとなる。
【0052】
かくして、個々の細胞の存在する画素領域と輪郭線の領域が特定された後、細胞毎に、輪郭線の領域の画素の輝度値を蛍光像の画像データから求め、その平均値を算出し、更に、輪郭線の領域よりも内側の細胞の存在する画素領域の画素の輝度値を蛍光像の画像データから求め、その平均値を算出する。そして、輪郭線より内側の輝度平均値に対する輪郭線の領域の輝度平均値の比を細胞毎に演算する(ステップ140)。既に述べた如く、細胞の存在する画素領域と輪郭線の領域の座標は、決定されているので、かかる演算は、コンピュータである画像解析装置に於いて、任意のプログラムにより、自動的に実行される。かくして、

(輪郭線の領域の輝度平均値)/(輪郭線のより内側の輝度平均値)>X

が成立するとき、細胞膜近傍にトランスロケーション分子が集積し、膜トランスロケーション反応が発生したと判定される(ステップ150)。なお、所定値Xは、観察者又は実験者により予め設定されてよい。また、上記の膜トランスロケーション反応の判定に於いて、輝度平均値の比の大小の評価は、複数の異なる値によりなされ、膜トランスロケーション反応の進行の程度が数段階に分類されてもよい。所定値Xは、少なくとも現在検査されている細胞の全てについて固定的に用いられるので、判定基準のばらつきは回避される。
【0053】
更に、個々の細胞の膜トランスロケーション反応の発生の有無が判定された後、膜トランスロケーション反応を起した細胞数がカウントされ、先にカウントした細胞の総数を用いて、
(膜トランスロケーション反応発生細胞数)/(細胞の総数)
により、膜トランスロケーション反応の反応率が算出されてよい(ステップ160)。
【0054】
なお、上記の一連の画像処理に先立って、好適には、蛍光像の画像データは、公知の態様にてシェーデング補正、バックグラウンド補正がなされてよい。また、細胞の総数は、細胞核を別の色素で染めて核のみの蛍光画像を撮影し、その画像を二値化して、核の存在する領域の数をカウントすることにより決定されてもよい。核は、形状、大きさが安定しているので、個々の細胞の核の存在する領域が容易により確実に決定され、細胞の像が重なっている場合でも精度よく細胞数のカウントを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、本発明の細胞画像解析装置の好ましい実施形態を組み込んだ蛍光顕微鏡システムの模式図である。
【図2】図2(A)は、膜トランスロケーション反応を起していない細胞の蛍光像の模式図であり、(B)は、(A)中の水平線上の蛍光強度分布を示している。図2(C)は、膜トランスロケーション反応を起している細胞の蛍光像の模式図であり、(D)は、(C)中の水平線上の蛍光強度分布を示している。(B)に於いて、細胞の中央部分の蛍光強度が低いのは、核内に蛍光標識されたタンパク質が分布していないためである。(C)、(D)に於いては、細胞質にあった蛍光標識タンパク質が細胞膜へ移動するため、細胞質と核とのコントラストが殆ど無くなる。図2(E)は、膜トランスロケーション反応を起して細胞膜近傍に蛍光標識されたタンパク質(灰色の領域)が集積した細胞の模式的な断面図であり、細胞膜近傍に蛍光標識が集積した場合に細胞像の外縁が明るく見えることを説明する図である。
【図3】図3(A)は、図1のシステムを用いて細胞試料標本の蛍光像を取得する処理をフローチャートの形式で表した図である。図3(B)は、(A)の処理により得られた蛍光像から膜トランスロケーション反応の判定を行う処理をフローチャートの形式で表した図である。
【図4】図4(A)は、刺激を与えられた後の細胞試料標本の蛍光像の模式図である。図中、a−c、f、gの細胞は、膜トランスロケーション反応を起した状態であり、d、eの細胞は、膜トランスロケーション反応を起していない状態である。図4(B)は、(A)の画像を所定の閾値にて2値化した画像であり、図4(C)は、輪郭線の位置を表す画像である。
【符号の説明】
【0056】
1…蛍光顕微鏡
2…電動ステージ
3…透過光観察用光源
4…対物レンズ
5…対物電動駆動機構
6…蛍光観察用励起光光源
7…ダイクロイックミラー
8…カメラ
10…マルチコントローラー
20…オートフォーカスユニット
100…コンピュータ(画像解析装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の刺激を細胞に与えることにより前記細胞内に発生する膜トランスロケーション反応の有無を判定する細胞画像解析装置であって、
前記膜トランスロケーション反応の際に細胞膜へ移動するトランスロケーション分子が蛍光標識された細胞の前記刺激が与えられた後の蛍光顕微鏡像を画像データとして取得する手段と、
前記細胞の蛍光顕微鏡像の画像データに於ける前記細胞の存在する領域を決定する手段と、
前記細胞の存在する領域の外縁から所定の画素数の幅を有する該細胞の輪郭線を決定する手段と、
前記細胞の蛍光顕微鏡像の画像データに於いて前記細胞の輪郭線上に於ける輝度値と前記細胞の輪郭線より内側の輝度値とに基づいて膜トランスロケーション反応の有無を判定する手段と
を含むことを特徴とする装置。
【請求項2】
請求項1の装置であって、前記膜トランスロケーション反応の有無を判定する手段が、前記細胞の輪郭線上に位置する全画素の輝度値の平均と前記細胞の輪郭線より内側に位置する画素の輝度値の平均とを算出し、前記細胞の輪郭線より内側の平均に対する前記細胞の輪郭線上の平均の比が所定値を越えたときに前記膜トランスロケーション反応が発生した判定することを特徴とする装置。
【請求項3】
請求項1又は2の装置であって、前記蛍光顕微鏡像が複数個の細胞の蛍光顕微鏡像を含み、前記細胞の存在する領域を決定する手段が前記複数個の細胞の各々の存在する領域を決定し、前記細胞の輪郭線を決定する手段が前記複数個の細胞の各々の輪郭線を決定し、前記膜トランスロケーション反応の有無を判定する手段が前記複数個の細胞の各々の輪郭線上に於ける輝度値と該輪郭線より内側の輝度値とに基づいて膜トランスロケーション反応の有無を判定することを特徴とする装置。
【請求項4】
請求項3の装置であって、前記細胞の存在する領域に基づいて前記蛍光顕微鏡像内の複数個の細胞の個数をカウントする手段を有していることを特徴とする装置。
【請求項5】
請求項4の装置であって、更に、前記蛍光顕微鏡像内の複数個の細胞のうち前記膜トランスロケーション反応が発生した細胞の個数の割合を算出することを特徴とする装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の装置であって、前記細胞の輪郭線を決定する手段に於いて決定される前記輪郭線の所定の幅が使用者により設定可能であることを特徴とする装置。
【請求項7】
請求項1乃至6の装置であって、前記細胞が前記細胞の蛍光顕微鏡像を得るための蛍光顕微鏡内に配置される観察試料容器の底面又は上面に接着する細胞であり、更に、前記蛍光顕微鏡の対物レンズの焦点を前記観察試料の底面又は上面に自動的に合わせることにより前記細胞に前記対物レンズの焦点を合わせるよう前記対物レンズの位置を制御する手段が設けられていることを特徴とする装置。
【請求項8】
任意の刺激を細胞に与えることにより前記細胞内に発生する膜トランスロケーション反応の有無を判定する細胞画像解析用コンピュータプログラムであって、
前記膜トランスロケーション反応の際に細胞膜へ移動するトランスロケーション分子が蛍光標識された細胞の前記刺激が与えられた後の蛍光顕微鏡像を画像データとして取得する手順と、
前記細胞の蛍光顕微鏡像の画像データに於ける前記細胞の存在する領域を決定する手順と、
前記細胞の存在する領域の外縁から所定の画素数の幅を有する該細胞の輪郭線を決定する手順と、
前記細胞の蛍光顕微鏡像の画像データに於いて前記細胞の輪郭線上に於ける輝度値と前記細胞の輪郭線より内側の輝度値とに基づいて膜トランスロケーション反応の有無を判定する手順と
をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項9】
請求項8のコンピュータプログラムであって、前記膜トランスロケーション反応の有無を判定する手順に於いて、前記細胞の輪郭線上に位置する全画素の輝度値の平均と前記細胞の輪郭線より内側に位置する画素の輝度値の平均とを算出し、前記細胞の輪郭線より内側の平均に対する前記細胞の輪郭線上の平均の比が所定値を越えたときに前記膜トランスロケーション反応が発生した判定することを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項10】
請求項8又は9のコンピュータプログラムであって、前記蛍光顕微鏡像が複数個の細胞の蛍光顕微鏡像を含み、前記細胞の存在する領域を決定する手順に於いて前記複数個の細胞の各々の存在する領域を決定し、前記細胞の輪郭線を決定する手順に於いて前記複数個の細胞の各々の輪郭線を決定し、前記膜トランスロケーション反応の有無を判定する手順に於いて前記複数個の細胞の各々の輪郭線上に於ける輝度値と該輪郭線より内側の輝度値とに基づいて膜トランスロケーション反応の有無を判定することを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項11】
請求項10のコンピュータプログラムであって、前記蛍光顕微鏡像内の複数個の細胞の個数をカウントし、前記蛍光顕微鏡像内の複数個の細胞のうち前記膜トランスロケーション反応が発生した細胞の個数の割合を算出することを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項12】
任意の刺激を細胞に与えることにより前記細胞内に発生する膜トランスロケーション反応の有無を判定する方法であって、
前記膜トランスロケーション反応の際に細胞膜へ移動するトランスロケーション分子が蛍光標識された細胞の前記刺激が与えられた後の蛍光顕微鏡像を画像データとして取得する過程と、
前記細胞の蛍光顕微鏡像の画像データに於ける前記細胞の存在する領域を決定する過程と、
前記細胞の存在する領域の外縁から所定の画素数の幅を有する該細胞の輪郭線を決定する過程と、
前記細胞の蛍光顕微鏡像の画像データに於いて前記細胞の輪郭線上に於ける輝度値と前記細胞の輪郭線より内側の輝度値とに基づいて膜トランスロケーション反応の有無を判定する過程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12の方法であって、前記膜トランスロケーション反応の有無を判定する過程に於いて、前記細胞の輪郭線上に位置する全画素の輝度値の平均と前記細胞の輪郭線より内側に位置する画素の輝度値の平均とを算出し、前記細胞の輪郭線より内側の平均に対する前記細胞の輪郭線上の平均の比が所定値を越えたときに前記膜トランスロケーション反応が発生した判定することを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項12又は13の方法であって、前記蛍光顕微鏡像が複数個の細胞の蛍光顕微鏡像を含み、前記細胞の存在する領域を決定する過程に於いて前記複数個の細胞の各々の存在する領域を決定し、前記細胞の輪郭線を決定する過程に於いて前記複数個の細胞の各々の輪郭線を決定し、前記膜トランスロケーション反応の有無を判定する過程に於いて前記複数個の細胞の各々の輪郭線上に於ける輝度値と該輪郭線より内側の輝度値とに基づいて膜トランスロケーション反応の有無を判定することを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14の方法であって、前記細胞の存在する領域に基づいて、前記蛍光顕微鏡像内の複数個の細胞の個数をカウントすることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項15の方法であって、更に、前記蛍光顕微鏡像内の複数個の細胞のうち前記膜トランスロケーション反応が発生した細胞の個数の割合を算出することを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項12乃至16の方法であって、判定される前記膜トランスロケーション反応が前記細胞に刺激を与えることにより該細胞の細胞質内に遊離しているタンパク質が該細胞の細胞膜に集積する反応である方法。
【請求項18】
請求項12乃至17の方法であって、判定される前記膜トランスロケーション反応が前記細胞に刺激を与えることにより該細胞内の細胞小器官に存在するタンパク質が該細胞の細胞膜に集積する反応である方法。
【請求項19】
請求項12乃至18の方法であって、前記細胞が接着性細胞である方法。
【請求項20】
請求項12乃至19の方法であって、前記細胞の蛍光顕微鏡像を取得する過程に先立って、前記膜トランスロケーション反応の際に細胞膜へ移動するトランスロケーション分子が蛍光タンパク質と融合した状態にて発現するための遺伝子を前記細胞に導入する過程と、前記細胞に於いて前記蛍光タンパク質と融合したトランスロケーション分子を発現させる過程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項12乃至20の方法であって、前記細胞の蛍光顕微鏡像を取得する過程に先立って、前記膜トランスロケーション反応の際に細胞膜へ移動するトランスロケーション分子にタグ分子を導入するための遺伝子を前記細胞に導入する過程と、前記細胞に於いて前記タグ分子が導入されたトランスロケーション分子を発現させる過程と、前記細胞に前記タグ分子と特異的に結合する蛍光色素を導入しこれにより前記トランスロケーション分子を蛍光標識する過程とを含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−186291(P2009−186291A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25777(P2008−25777)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】