説明

細菌感染の予防または治療のためのペニシリン結合タンパク質またはそのポリヌクレオチドもしくは抗体の使用方法

本発明は、医薬品または薬学的組成物としての、髄膜炎菌によって発現されるペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体、もしくは変異体の断片、あるいはこれらをコードする核酸、あるいはこれらに対する抗体または抗体断片に関するものである。また本発明は、髄膜炎菌による感染、および/または、髄膜炎菌ペニシリン結合タンパク質の変異体を発現する細菌株による感染に対する、哺乳動物、好ましくはヒトの予防的かつ/または治療的な免疫療法を目的とする、髄膜炎菌によって発現されるペニシリン結合タンパク質、またはそれらをコードする核酸、またはそれらに対する抗体の使用にも関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品または薬学的組成物としての、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)によって発現されるペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体、もしくは変異体の断片、またはこれらをコードする核酸、またはこれらに対する抗体もしくは抗体断片に関するものである。また、本発明は、髄膜炎菌による感染、および/または髄膜炎菌のペニシリン結合タンパク質の変異体を発現する細菌株による感染に対する、哺乳類、好ましくはヒトの予防的かつ/または治療的免疫療法のための、髄膜炎菌によって発現されるペニシリン結合タンパク質、またはこれをコードする核酸、またはこれに対する抗体の使用にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
二つの補完的な治療方法が細菌感染に抵抗する能力を大きく高めてきた。すなわち、抗生物質の使用と、感染した個体の予防的または治療的なワクチン接種である。しかし、これら二つの方法の組み合わせによっていくつかの細菌性疾患はほぼ根絶することができたが、その他の感染症に関しては困難が生じた。他方、最も一般的な抗生物質に対して耐性を示すようになった細菌株の数が増え、新しい抗生物質の考案と、これらの新しい抗生物質に対する細菌の適応との間で、際限のない競争が起こっている。また、一部の細菌に対するワクチンの開発は、効率の良いワクチンの標的を見出す困難性と、タンパク質標的と考えられるものの遺伝的変異性とに直面することになった。
【0003】
特に、髄膜炎菌性感染症の管理には、その感染者に対する即時の抗生物質治療、また、二次感染および流行を防ぐために、家族の接触に対する化学的予防およびワクチン接種(利用可能なとき)が必要となる。ペニシリンGは髄膜炎菌性疾患に対する最良の抗生物質であるが(Quagliarello,V.J.,and W.M.Scheld.1997.N Engl J Med 336:708−16)、感受性の減退した髄膜炎菌株が徐々に認められてきている(Antignac,A.,et al.2003.Clin Infect Dis 37:912−20;Saez Nieto, et al.1990.Lancet 336:54)。
【0004】
髄膜炎菌に対する現状のワクチンは莢膜多糖類に基づいたものであり、血清群A、C、YおよびW135に属する株に対してのみ使用でき、血清群Bの株に対しては使用できない。血清群Bの株に対するワクチンを開発するために、主要な外膜のポーリン(PorA)およびトランスフェリン結合タンパク質B(TbpB)といったタンパク質候補が研究されてきている(Claassen,I.,et al.1996.Vaccine 14:1001−8;Rokbi,B.,et al.1997.Infect Immun 65:55−63)。外膜小胞に基づくワクチンも開発されている(Fredriksen,J.H.et al.1991.NIPH Ann 14:67−80;Holst,J.,et al.2003.Vaccine 21:734−7;Sierra,G.V.,et al.1991.NIPH Ann 14:195−210)。しかしこの方法では、遺伝子座の構造の変化という結果をもたらす、株間の水平的なDNA交換に起因する髄膜炎菌の高度な変異性が妨げとなる(Maiden,M.C.1993.FEMS Microbiol Lett 112:243−50)。
【非特許文献1】Goffin,C.and J.M.Ghuysen.1998.Microbiol Mol Biol Rev.64(4):1079−93
【非特許文献2】Goffin,C.,and J.M.Ghuysen.Microbiol Mol Biol Rev.62(4):1079−93)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、細菌の感染、特に髄膜炎菌の感染に対する新しいワクチン候補が必要となっている。理想的なワクチン候補の分子は、特定の細菌種のすべての株に存在していなければならず、また、防御抗体の標的とすることができる保存領域を有していなければならない。
【0006】
ペニシリン結合タンパク質(PBP)は、細菌の細胞壁ペプチドグリカンの合成と代謝に関与する保存されたタンパク質である(Goffin,C.and J.M.Ghuysen.1998.Microbiol Mol Biol Rev.62(4):1079−93)。PBPは二つの機能的モジュールで構成されており、一方のアシルセリントランスフェラーゼのペニシリン結合(PB)モジュールが、保存された融合部位を介して、もう一方の非ペニシリン結合(n−PB)モジュールのカルボキシ末端に結合している。この二つのモジュールは一本のポリペプチド鎖を形成し、該ポリペプチド鎖は、原形質膜の外側で折り畳まり、膜貫通スパナ(transmembrane spanner)によって固定される。PBPは二つのクラスAおよびBをなしている。各クラスにおいて、いくつかの保存されたアミノ酸パターンがPBモジュールとn−PBモジュールの両方に存在している(図1)。これらの保存されたアミノ酸パターンの外側では、髄膜炎菌および肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)のようないくつかの種の株の間で大きな変異が見られる。
【0007】
また、PBPは、ペニシリンのβ−ラクタムのアミド結合の切断と、ほとんど不活性であるためペプチドグリカンの生合成に介入することはできない、セリンエステルに結合したペニシロイル酵素の形成とを触媒する能力により、ペニシリンの抗菌作用のメカニズムに関係するものである。しかし、β−ラクタム系抗生物質の使用の結果、重要な病原菌において、薬剤に対する親和性が低いまたは低下したPBPが出現し、増加した。このペニシリンに対する親和性の減少は、PBモジュールにおける遺伝的改変に起因している(Goffin,C.,and J.M.Ghuysen.Microbiol Mol Biol Rev.62(4):1079−93)。
【0008】
β−ラクタム系抗生物質に対する耐性へのPBPの関与は十分に調査されているが、それらのワクチン候補としての考えられる役割は現時点では体系的に分析されておらず、特に髄膜炎菌においては、その役割は示唆すらもされていない。三つのPBP(PBP1、PBP2およびPBP3)が髄膜炎菌では報告されているが(Barbour,A.G.1981.Antimicrob Agents Chemother 19:316−22)、その他のPBPもゲノム配列に基づいて同定されている(Parkhill,J.,et al.2000.Nature 404:502−6;Tettelin,H.,et al.2000.Science 287:1809−15)。penA遺伝子によってコードされているPBP2は60kDaのタンパク質であり、該タンパク質は高分子量のクラスBのPBPと相同であり、髄膜炎菌の細胞壁におけるペプチドグリカンの架橋結合に必要なペプチド転移反応を最も触媒すると考えられる。関連性の高いpenA対立遺伝子および異なるpenA対立遺伝子はそれぞれ、感受性のある株(Pen)とペニシリンGに対する感受性が低下した株(Pen)に存在する(Antignac,A.,et al.2001.J Antimicrob Chemother 47:285−96)。penAの5’側の半分が高度に保存されているのに対し、該遺伝子の3’側の半分における改変はペニシリンGに対する感受性の低下の原因であり、DNAの形質転換を通して起こる(Spratt,B.G.1994.Science 264:388−93)。活性セリン残基SxK、SxNおよびKxG(通常はKTG)モチーフは、すべて3’のトランスペプチダーゼをコードする領域に位置しており、通常は保存されているが、高度な多型が周辺の配列に見られる(Antignac,A.,et al.2003.J Biol Chem 278:31529−35;Antignac,A.,et al.2001.J Antimicrob Chemother 47:285−96)。
【課題を解決するための手段】
【0009】
髄膜炎菌PBP2の保存された活性セリン残基SxK、SxNおよびKxG(通常はKTG)モチーフの周辺の配列において高度な多型が見られるにもかかわらず、本発明者は驚くべきことに、髄膜炎菌のヒトへの感染が生じている際にこのタンパク質が免疫原性であること、そしてPBP2断片によるマウスの免疫付与が抗PBP2抗体を誘発することを発見した。
【0010】
また、特定の髄膜炎菌株のPBP2タンパク質の断片に対する抗体は、異なる血清群の株および/または抗生物質に対する感受性のレベルが異なる株を含む他の髄膜炎菌株のPBP2タンパク質を結合することができる。
【0011】
最後に、本発明者はまた、ワクチン接種したマウスにおいて、PBP2断片によるマウスの免疫付与が防御免疫を誘発すること、そして特定の髄膜炎菌株のPBP2タンパク質の断片に対する抗体が、同一の髄膜炎菌株の感染、または改変したPBP2タンパク質を発現する前記株の変異体の感染からマウスを防御することができることも証明した。
【0012】
このように、本発明は、医薬品としての、髄膜炎菌によって発現されるペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片に関するものである。
【0013】
「ペニシリン結合タンパク質(PBP)」とは、保存された融合部位を介して非ペニシリン結合(n−PB)モジュールのカルボキシ末端に結合したアシルセリントランスフェラーゼのペニシリン結合(PB)モジュールと、膜への固定を可能にする膜貫通スパナとを有する、ペニシロイルセリントランスフェラーゼファミリーのタンパク質を指すものである。三つのPBPタンパク質(PBP1、PBP2およびPBP3)が髄膜炎菌で報告されている(Barbour,A.G.1981.Antimicrob Agents Chemother 19:316−22)。さらに、二つの髄膜炎菌株のゲノム配列の分析は、髄膜炎菌におけるさらなる二つのPBPタンパク質の存在を示唆している(Parkhill J.et al.2000.Nature 404(6777):502−6、Tettelin H.et al.2000.Science 287(5459):1809−15、該文書はここで引用することにより本発明に含まれるものとする)。これらPBPタンパク質のすべてが本発明の範囲に含まれる。特定の髄膜炎菌株によって発現される髄膜炎菌PBPタンパク質のアミノ酸配列の参照を以下の表1に示す。これらの配列はとりわけ本発明の範囲に含まれるが、その他のあらゆる髄膜炎菌株の変異体によって発現される髄膜炎菌PBPタンパク質も本発明の範囲に含まれるため、本発明を限定するものとして見なすべきではない。
【0014】
【表1】

【0015】
髄膜炎菌のペニシリン結合タンパク質の「断片」とは、この断片で免疫付与すると、髄膜炎菌の感染に対する、あるいは、この断片を含むPBPタンパク質またはその変異体を発現する細菌の感染に対する防御免疫、好ましくは防御抗体を生じさせることができる、部分的なペニシリン結合タンパク質を意味する。したがって、本発明によるPBP断片は少なくともT細胞エピトープまたはB細胞エピトープを含み、好ましくはB細胞エピトープを含んでおり、したがって、好ましくは少なくとも6個、少なくとも8個、少なくとも10個、より好ましくは少なくとも12個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも25個、少なくとも30個、少なくとも40個、少なくとも50個、少なくとも75個、少なくとも100個のアミノ酸長である。いくつかの実施態様では、前記断片は、前記PBPタンパク質のPBモジュールの3つの保存されたアミノ酸モチーフ(SxK、SxNおよびKxG)の少なくとも一つを含み、好ましくはPBモジュールの保存されたアミノ酸モチーフの2つまたは3つを含む。前記断片は前記ペニシリン結合タンパク質の完全なPBモジュールを含んでいてもよい。特に、断片は、N末端の膜貫通領域を欠いている、髄膜炎菌の部分的なペニシリン結合タンパク質であってよく、特に、N末端の膜貫通領域を欠いている、髄膜炎菌の部分的なPBP2タンパク質であってよい。
【0016】
髄膜炎菌によって発現されるペニシリン結合タンパク質の「変異体」という用語は、一つまたは複数のアミノ酸位置に変化を有するペニシリン結合タンパク質であって、
(i)具体的に説明された髄膜炎菌タンパク質のPBモジュールと、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、もっとも好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.9%の同一性を有すること、
(ii)保存されたモチーフ(SxK、SxNおよびKxG)が、具体的に説明された髄膜炎菌タンパク質の保存されたアミノ酸モチーフ(SxK、SxNおよびKxG)と、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または100%の同一性を有すること、
という特徴を有しているペニシリン結合タンパク質を指す。
【0017】
本発明によると、髄膜炎菌PBPタンパク質の変異体は、この変異体で免疫付与すると、髄膜炎菌の感染に対する、あるいは、この変異体を発現する細菌株の感染に対する防御免疫、好ましくは防御抗体を生じさせることができるものである。また、このような変異体は、この変異体で免疫付与すると、前記髄膜炎菌PBPタンパク質の別の変異体を発現する細菌株の感染に対する防御免疫、好ましくは防御抗体を生じさせることもできるものである。
【0018】
ほとんどの細菌性ペニシリン結合タンパク質の保存されたモチーフは十分に明らかにされている(アミノ酸位置および寄託番号についてはGoffin,C.,and J.M.Ghuysen.Microbiol Mol Biol Rev.62(4):1079−93を参照)。推定ペニシリン結合タンパク質の場合、保存されたモチーフは、Sx2KモチーフとSxNモチーフが少なくとも45個のアミノ酸によって隔てられ、SxNモチーフとKxGモチーフ(通常はKTG)が少なくとも100個のアミノ酸によって隔てられていると明らかにされているものが好ましい。
【0019】
好ましくは、具体的に説明された髄膜炎菌タンパク質のPBモジュールと50%未満の同一性を有している、上記で定義したような変異体は、さらに、具体的に説明された髄膜炎菌タンパク質の三次元(3D)空間構造に類似した三次元(3D)の空間構造を有している。
【0020】
「配列同一性のパーセンテージ」は比較ウィンドウで最適にアラインされた二つの配列を比較することで判定され、ここで、二つの配列の最適なアラインメントに際して、比較ウィンドウにおけるペプチド配列またはポリヌクレオチド配列の部分は、参照配列(付加も欠失も有さない)と比較して付加または欠失(すなわちギャップ)を含むことがある。パーセンテージは、同一のアミノ酸残基または核酸塩基が両方の配列で見られる位置の数を判定して、合致した位置の数を得、合致した位置の数を比較ウィンドウ内の全位置数で割り、結果に100をかけることで計算され、その結果、配列同一性のパーセンテージが得られる。
【0021】
上述した配列同一性の定義は、当業者が用いると考えられる定義である。定義自体はいかなるアルゴリズムの助けも必要とせず、このようなアルゴリズムは、配列同一性の計算よりも、配列の最適なアラインメントを得るためのみに有効である。上述の定義により、二つの比較される配列間の配列同一性についての十分に定義されたただ一つの値が存在することとなり、その値は最良あるいは最適なアラインメントで得られる値に対応している。
【0022】
2つのアミノ酸配列の間における配列同一性のパーセンテージは、デフォルトのパラメータで、国立バイオテクノロジー情報センター(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/、Tatusova et al.,“Blast 2 sequences − a new tool for comparing protein and nucleotide sequences”,FEMS Microbiol.Lett.174:247−250)によって提供されているBlastp2.0プログラムを用いて判定することができ、該プログラムは、二つの配列間の同一性を比較し判定するために、本発明者が日常的に用いているものであり、当業者が通常用いているものである。
【0023】
髄膜炎菌PBPタンパク質と推定変異体との間における「三次元(3D)構造の類似性」は、二つのポリペプチド間の合致の程度にしたがって評価することができる。合致の程度は、たとえば根平均二乗偏差(RMSD)を含む、当該技術で既知の様々なパラメータによって表すことができる。構造間のRMSDが低い方が、構造間のRMSDが高い場合よりも、合致の程度が高い(たとえば、Doucet and Weber,Computer−Aided Molecular Design:Theory and Applications,Academic Press,San Diego、CA(1996)参照)。類似の三次元(3D)構造を有するポリペプチドは、ポリペプチドの骨格についてのRMSDの平均値を比較することによって同定することができる。好ましくは、髄膜炎菌PBPタンパク質とその変異体は、互いに比較して、およそ5Aより小さい、またはおよそ3Aより小さい、骨格のRMSDの平均値を有することができる。
【0024】
特に本発明の範囲に含まれる髄膜炎菌PBPタンパク質の変異体の特定の例、ならびに、特定の細菌株におけるこれらの変異体のアミノ酸配列の参照を以下の表2に示す。ここでも、これらの配列は特に本発明の範囲に含まれるが、上記で定義したような髄膜炎菌PBPタンパク質のその他のあらゆる変異体も本発明の範囲に含まれるため、本発明を限定するものとして見なすべきではない。
【0025】
【表2】

【0026】
本発明によると、髄膜炎菌PBPタンパク質の「変異体の断片」は、上記で定義した変異体の、上記で定義した断片であり、さらに、対応する髄膜炎菌PBPタンパク質の断片と、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、もっとも好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.9%の同一性を有している。
【0027】
本発明によると、髄膜炎菌によって発現されるこのようなペニシリン結合タンパク質またはその変異体は、β−ラクタム系抗生物質への耐性に関与する場合もしない場合もある。新しい、または、変異したペニシリン結合タンパク質の発現に起因して細菌株が耐性となることのあるβ−ラクタム系抗生物質の例には、ペニシリンG、アモキシシリン、アンピシリン、およびセファロスポリンが含まれる。
【0028】
本発明によると、髄膜炎菌によって発現されるPBPタンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片は、天然由来のもの、または、ペプチド合成または慣習的な組換え技術による人工のものとすることができる。特に、これらは、糖鎖付加パターンのような、天然由来の髄膜炎菌PBPタンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片によって見られるあらゆる翻訳後修飾を有していてもいなくてもよい。本発明によると、髄膜炎菌PBPタンパク質、または断片、変異体もしくは変異体の断片はしたがって、髄膜炎菌PBPタンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片のアミノ酸配列を有するあらゆるポリペプチドを含む。
【0029】
さらに、これらは、その産生、精製を容易にするために、または、医薬品としての安定性、生物学的利用能または効率性を向上させるために、修飾することができる。たとえば、これらは、炭水化物、脂質部分に結合することができ、あるいは、その他の方法で修飾すること、たとえば、リン酸化または水酸化することができる。特に、これらはグリコシル化することができ、結合した炭水化物部分は天然分子において20〜30kDの分子量を有している。前記髄膜炎菌PBP、または断片、変異体、もしくは変異体の断片による、一つまたは複数の部分への結合は、たとえば、ポリペプチドを産生する生物によって行われるポリペプチドの翻訳後修飾、または、化学合成の結果生じる修飾によるものであってよい。
【0030】
髄膜炎菌によって発現される前記PBP、または断片、変異体、もしくは変異体の断片はまた、別のポリペプチド配列に融合することができ、該ポリペプチド配列は、生物内で発現するとタンパク質の発現増加をもたらすもの、あるいは、前記生物からの融合タンパク質の精製および回収、すなわちより簡易で経済的な回収を容易にするか改善するもの、あるいは、前記髄膜炎菌PBP、またはその断片、変異体、もしくは変異体の断片の免疫原性または薬物動態を改善するものであってよい。
【0031】
ある場合には、融合タンパク質を切断して、実質的に前記髄膜炎菌PBP、または断片、変異体、もしくは変異体の断片だけを含むポリペプチドを得ることが好適な場合がある。この場合、前記髄膜炎菌PBP、またはその断片、変異体、もしくは変異体の断片は、好ましくは、切断物質、たとえば臭化シアン、ヒドロキシルアミンおよび2−ニトロ−5−チオシアノ安息香酸のような化学物質、または、たとえばトリプシン、クロストリパイン、およびブドウ球菌プロテアーゼまたはXa因子のような、ペプチダーゼ、プロテイナーゼまたはプロテアーゼのような酵素によって特異的に認識され得るポリペプチド配列に融合している。
【0032】
本発明はまた、医薬品としての、髄膜炎菌によって発現される少なくとも一つのペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体、もしくは変異体の断片をコードする核酸に関するものである。
【0033】
本発明によると、髄膜炎菌によって発現される少なくとも一つのペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体、もしくは変異体の断片をコードする核酸は、一本鎖DNA、二本鎖DNA、一本鎖RNA、二本鎖RNA、またはRNA/DNAハイブリッドを含む、あらゆる種類の核酸であってよい。好ましい実施態様では、核酸は二本鎖DNAまたは一本鎖RNAのいずれかである。別の実施態様では、核酸はアンチセンスRNAである。
【0034】
このような核酸は、髄膜炎菌によって発現される単一のPBPタンパク質、またはその断片、変異体、もしくは変異体の断片、あるいは髄膜炎菌によって発現される複数の異なったPBPタンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片をコードすることができる。該核酸はさらに、その他のポリペプチドもコードすることができる。核酸において、少なくとも一つのコードされた髄膜炎菌PBPまたはその変異体は、他のあらゆるポリペプチドと融合することができる。
【0035】
DNAの場合、前記核酸は機能的に結合した開始コドンおよび終止コドン、プロモーター領域およびターミネーター領域、そして任意にエンハンサーのようなその他の調節配列を備えることができる。プロモーターおよび任意にはエンハンサーによって、原核細胞または真核細胞であってよい標的宿主細胞において、PBP、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片をコードする配列の発現が可能となる。一つの好ましい実施態様では、DNA核酸は、所定の細胞においてのみDNAの十分な転写を可能にする細胞特異的プロモーターを含んでいる。DNA核酸を、宿主細胞のゲノムに組み込まないように操作してもよい。
【0036】
このようなDNA核酸は、部分的に細菌由来のプラスミドであって、細菌の複製起点およびその選択を可能にする遺伝子、たとえば抗生物質に対する耐性のための遺伝子をとりわけ有するプラスミドに挿入することができる。また、このプラスミドは、該プラスミドがその宿主の標的細胞内において複製することを可能とする複製起点、たとえば、筋細胞の場合にはウシパピローマウイルスの複製起点を有することもできる。このようなプラスミドの多くが当業者には知られており、多くが市販で入手可能である。
【0037】
本発明による核酸は裸とすること、または、当業者に知られた運搬システムに挿入することができる。たとえば、運搬システムにはウイルスベクター、細菌ベクター、または化学的ベクターが含まれる。適切なウイルスベクターの例には、単純ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクターまたはアルファウイルスベクター、および、レンチウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスを含むレトロウイルスが含まれる。好ましくは、これらのベクターは複製欠損ウイルスベクターである。
【0038】
化学的ベクターの例はリポゾーム、すなわち水中油型エマルジョンである。あるいは、本発明による核酸は少なくとも一つのキャリアー分子に付着させることができる。このようなキャリアー分子は、特定の細胞タイプ、特に、膜受容体のリガンドまたは膜受容体に対する抗体のような、標的細胞の表面に結合することのできるリガンドに対する、核酸のターゲッティングを容易にする分子とすることができる。
【0039】
あるいは、本発明によるキャリアー分子は、好ましくは核酸をヌクレアーゼ酵素から保護することのできる核内結合分子とすることができる。たとえば、核内結合分子は、ポリ−L−リジン、ポリ−D−リジン、ポリエチレンイミン、ポリアミドアミン、もしくはポリアミンのようなポリカチオン性ポリマーとすることができるか、ヒストンタンパク質、プロタミン、オルニチン、プトレシン、スペルミジン、スペルミン、転写因子またはホメオボックスタンパク質のような核内結合タンパク質とすることができる。
【0040】
さらに別のキャリアー分子のタイプは、宿主細胞における核酸の細胞内局在化を方向付けることのできるポリペプチドとすることができる。たとえば、核酸を真核細胞である宿主細胞の核へ向けるシグナルポリペプチドであってよい。
【0041】
また、本発明は、医薬品としての、髄膜炎菌によって発現されるペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片に対する抗体または抗体断片にも関するものである。
【0042】
「抗体」という用語は、抗原またはエピトープに特異的に結合する能力をもち、Bリンパ球またはBリンパ球由来のクローンによって発現される、一つの免疫グロブリン遺伝子または複数の免疫グロブリン遺伝子によってコードされるポリペプチドを含む。「抗体」という用語は、最も広い意味で用いられる。したがって、「抗体」は天然由来のもの、または、ペプチド合成、もしくは慣習的なハイブリドーマ技術によるモノクローナル抗体の産生による、人工のものとすることができる。
【0043】
「抗体断片」は、免疫グロブリン分子の、その標的に結合する可変領域すなわち抗原結合領域の、少なくとも一部として定義される。よく知られた「抗体断片」には
(i)VL、VH、CLおよびCHI領域で構成される一価の断片である、Fab断片、
(ii)ジスルフィド結合によってヒンジ領域で結合している二つのFab断片を含む二価の断片である、F(ab’)2断片、
(iii)VHおよびCHI領域で構成されるFd断片、
(iv)抗体の単一のアームのVLおよびVH領域で構成されるFv断片、
(v)VH領域からなるdAb断片(Ward.et al.,(1989)Nature 341:544−546)、および、
(vi)単離された相補性決定領域(CDR)
が含まれる。
一本鎖抗体も、参照することにより「抗体断片」という用語に含まれる。
【0044】
免疫付与の方法、抗体(ポリクローナルおよびモノクローナル)の産生と単離の方法は当業者に知られており、科学文献および特許文書に記載されている。抗体は、動物を用いる従来のインビボでの方法に加え、たとえばファージディスプレイライブラリーを発現する組換え抗体結合部位を用いて、インビトロでも生成することができる。
【0045】
前記抗体または抗体断片は、IgM抗体、IgD抗体、IgG抗体、IgE抗体またはIgA抗体のようなあらゆるクラスの抗体、ならびに、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4のようなすべてのサブクラスに属するものであってよい。
【0046】
前記抗体または抗体断片はポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体、キメラ抗体あるいはヒト化抗体であってよい。
【0047】
本明細書では、抗体または抗体断片に用いられる「キメラ」という用語は、前記抗体または抗体断片の二つまたはそれ以上のセグメントあるいは部分が、異なる動物種に由来することを意味する。キメラ抗体の特定のケースが「ヒト化」抗体であり、該抗体は、ヒトのフレームワーク領域と、別の種の相補性決定領域(CDR)とを含んでいる。ヒトではない種に由来する抗体をヒト化するための技術は当業者にはよく知られている。
【0048】
本発明によるペニシリン結合タンパク質またはその断片、変異体もしくは変異体の断片、または核酸、または抗体もしくは抗体断片で構成される医薬品の好ましい実施態様では、前記ペニシリン結合タンパク質は髄膜炎菌PBP2である。
【0049】
特定の実施態様では、前記ペニシリン結合タンパク質の断片はN末端の膜貫通領域を欠いた髄膜炎菌PBP2の断片である。さらに特定の実施態様では、N末端の膜貫通領域を欠いた髄膜炎菌PBP2の前記断片は、番号I−3422でCNCM(25−28,rue du Dr Roux.75015 Paris,France)に2005年5月3日に寄託されたクローンDH5pAA2から精製される。クローンDH5pAA2は、最初の41個のアミノ酸をコードする最初のヌクレオチドが欠失した髄膜炎菌のLNP8013株のpenA遺伝子を、pET28bベクターのNdeI部位とXhoI部位の間でクローニングすることで得られたものである(Antignac,A.,et al.2003.J Biol Chem.278(34):31521−8)。
【0050】
本発明によるペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片、または核酸、または抗体もしくは抗体断片で構成される医薬品の別の好ましい実施態様において、前記変異体は淋菌(Neisseria gonorrhoeae)または肺炎連鎖球菌によって発現される髄膜炎菌PBPの変異体である。淋菌または肺炎連鎖球菌によって発現される髄膜炎菌PBPのこのような変異体には、淋菌のPBP1およびPBP2、ならびに肺炎連鎖球菌のPBP1b、PBP2aおよびPBP2Xが含まれる。好ましくは、前記変異体は淋菌のPBP2または肺炎連鎖球菌のPBP2Xである。
【0051】
本発明による抗体または抗体断片の医薬品は単独で使うこともでき、また他の薬剤と組み合わせて使うこともできる。たとえば、該医薬品は抗生物質と組み合わせて使うことができ、前記抗生物質は、好ましくはβ−ラクタム系抗生物質群、特にペニシリンG、アモキシシリン、アンピシリンおよびセファロスポリンから選択される。
【0052】
さらに、本発明による、ペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片、またはそれらをコードする核酸で構成される医薬品は、単独で、または他の薬剤と組み合わせて使用することができる。特に、該医薬品は抗生物質と組み合わせて使用することができる。適切な抗生物質の例には、リファンピシン、スピラマイシン、キノロンおよび、第三世代セファロスポリン、特にセフォタキシムが含まれる。
【0053】
さらに本発明は、本発明による、少なくとも一つのペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体、もしくは変異体の断片、または核酸、または抗体もしくは抗体断片を薬学的に許容できる担体または賦形剤と共に含む薬学的組成物に関するものである。該薬学的組成物において、ペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片、または核酸、または抗体もしくは抗体断片は、本発明による医薬品としてのペニシリン結合タンパク質もしくは核酸または抗体について上で説明したあらゆる特徴を有することができる。
【0054】
「薬学的に許容できる」とは、ヒトまたはその他の哺乳動物と生理学的に適合する、非毒性で不活性の組成物を指す。
【0055】
薬学的に許容できる担体または賦形剤には、分散剤、懸濁剤、希釈剤、充填剤、pH調整剤および緩衝剤、等張化剤、湿潤剤、保存剤などが含まれる。
【0056】
さらに、本発明による薬学的組成物はアジュバントを含むことができる。「アジュバント」という用語はワクチン技術の分野における通常の意味をもち、つまり、1)それ自体でワクチンの免疫原に対する特異的免疫応答をもたらすことはないが、2)免疫原に対する免疫応答を強化することができる、物質または組成物である。多くのアジュバントおよび推定アジュバント(ある種のサイトカインなど)が共通して免疫応答を強化することができる。アジュバントとして用いられる適切なサイトカインは、通常、ワクチン組成物においてアジュバントとしても機能するもの、たとえば、インターフェロンγ(IFN−γ)、Flt3リガンド(Flt3L)、インターロイキン1(IL−1)、インターロイキン2(IL−2)、インターロイキン4(IL−4)、インターロイキン6(IL−6)、インターロイキン12(IL−12)、インターロイキン13(IL−13)、インターロイキン15(IL−15)、および、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)である。少なくとも一つのPBPタンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片をコードする少なくとも一つの核酸を含んだ医薬品または薬学的組成物の場合、前記サイトカインはまた、核酸によりコードさせることもできる。あるいは、アジュバントはリステリオリシン(LLO)、リピドAおよび易熱性エンテロトキシンのような毒素であってよい。また、MDP(ムラミルジペプチド)、CFA(完全フロイントアジュバント)、トレハロースジエステルTDMおよびTDEのような、多くのマイコバクテリアの誘導体が、有益な可能性を有する。HSP70、HSP90、HSC70、GRP94およびカルレティキュリン(CRT)のような熱ショックタンパク質もアジュバントとして使用することができる。少なくとも一つのPBPタンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片をコードする少なくとも一つの核酸を含んだ医薬品または薬学的組成物の場合、前記熱ショックタンパク質も核酸によりコードさせることができる。
【0057】
上述した薬学的組成物または医薬品は、非制限的ではあるが、経口、皮下、静脈内、経鼻、経皮、腹腔内、筋肉内、肺内、膣内、直腸を含む、あらゆる経路、または他のあらゆる許容可能な方法で投与することができる。
【0058】
上述した薬学的組成物または医薬品は多様な形状、たとえば、液体、ゲル、凍結乾燥、または圧縮した固体として製剤することができる。好ましい形状は、治療される特定の適応症に応じるものであり、当業者には明らかとなるものである。いずれの場合にも、投与される活性成分または活性成分の組み合わせは、分解、特に酵素による分解から活性成分を保護するように製剤しなければならない。
【0059】
上述した薬学的組成物または医薬品は、一つまたは複数の他の治療剤と併用投与、同時投与および/または連続投与することができる。
【0060】
上述した薬学的組成物または医薬品は、治療効果のある用量の活性成分(すなわち、少なくとも一つのPBP、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片、あるいは、少なくとも一つのPBP、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片をコードする少なくとも一つの核酸、あるいは、少なくとも一つのPBP、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片に対する少なくとも一つの抗体もしくは抗体断片)を含んでいる。ここでの「治療効果のある用量」とは、投与対象の症状についての所望の効果を生み出すのに十分な用量を意味する。的確な用量は状況(病気、投与スケジュール、薬学的組成物または医薬品が単独で投与されるのか他の治療剤とともに投与されるのか、薬学的組成物または医薬品の血漿中半減期、および患者の全体的な健康状態)に依存するものであり、既知の技術を用いて当業者が確認することができるものである。
【0061】
本発明はさらに、髄膜炎菌PBPタンパク質またはその変異体を発現する細菌株による感染に対する、哺乳動物、好ましくはヒトのワクチン接種を目的とする薬学的組成物を調製するための、本発明による少なくとも一つのペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片の使用にも関するものである。このような使用において、ペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片は、本発明による医薬品としてのペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片について上で説明したあらゆる特徴を有することができる。
【0062】
また、本発明は、髄膜炎菌PBPタンパク質またはその変異体を発現する細菌株による感染に対する、哺乳動物、好ましくはヒトのワクチン接種を目的とする薬学的組成物を調製するための、本発明による少なくとも一つの核酸の使用にも関するものである。このような使用において、前記核酸は、本発明による医薬品としての核酸について上で説明したあらゆる特徴を有することができる。
【0063】
細菌株による感染に対する哺乳動物の「ワクチン接種」とは、前記細菌株に対する防御免疫を誘発する前記哺乳動物の免疫付与を意味する。「免疫付与」とは、補体系、樹状細胞、マクロファージ、好中球、好酸球のような先天性免疫系、および/または、Tリンパ球およびBリンパ球のような適応性免疫系の刺激を含む、前記哺乳動物の免疫系の刺激を意味する。細胞株による感染に対する「防御免疫」の誘発とは、免疫付与によって誘発された免疫系の刺激により、前記感染性細菌株に対する免疫抵抗の状態が生じることを意味する。感染性細菌株に対する前記免疫抵抗の状態は免疫付与の数日後に現れ、そして長期間持続する。したがって、防御免疫の誘発は、既に感染した個体において感染の進行を抑えるために有効であり、あるいは、健康な個体が続いて感染する可能性を防ぐために有効である。
【0064】
「免疫抵抗の状態」とは、前記薬学的組成物を投与されていないコントロールの哺乳動物と比較したときに、感染の程度が顕著に低下していることを意味する。細菌感染の程度は、感染したと推定される器官において、感染後いくつかの時点で、良く知られた技術によって菌血症を測定する(cfu計数)ことで判定することができる。好ましくは、「免疫抵抗の状態」という用語は、前記薬学的組成物を投与されていないコントロールの哺乳動物と比較したときに、細菌感染の程度が顕著に低下しているときに用いられる。好ましくは、感染の3〜5時間後の細菌感染の程度は、前記薬学的組成物を投与されていないコントロールの哺乳動物と比較したときに、少なくとも200〜300個の因子が減少している。このような免疫抵抗の状態は、たとえば、ワクチン接種が髄膜炎菌によって発現される少なくとも一つのペニシリン結合タンパク質またはその変異体に対する抗体を誘発するときに引き起こされうるものである。このような抗体には、IgM、IgD、IgG、IgE、およびIgA抗体のようなあらゆるクラスの抗体、ならびに、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4のようなあらゆるサブクラスが含まれる。
【0065】
本明細書の全体において、「哺乳動物」という用語は、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマおよびヒトを含む、ほ乳類として分類されるあらゆる生物を指す。本発明の一つの実施態様において、哺乳動物はマウスである。本発明の別の実施態様において、哺乳動物はヒトである。
【0066】
また、本発明は、髄膜炎菌PBPタンパク質またはその変異体を発現する細菌株による感染に対して、哺乳動物、好ましくはヒトを防御することを目的とした薬学的組成物の調製のための、本発明による少なくとも一つの抗体または抗体断片の使用にも関するものである。このような使用において、前記抗体または抗体断片は、本発明による医薬品としての抗体または抗体断片について上で説明したあらゆる特徴を有することができる。
【0067】
「防御」とは、一つまたは複数の抗体または抗体断片を含んだ前記薬学的組成物の使用によって、前記薬学的組成物を投与されていないコントロールの哺乳動物と比較したときに、細菌感染の程度が顕著に低下することを意味する。好ましくは、「防御」という用語は、前記薬学的組成物を投与されていないコントロールの哺乳動物と比較したときに、細菌感染の程度が顕著に低下するときに用いられる。好ましくは、前記薬学的組成物を投与されていないコントロールの哺乳動物と比較したとき、感染後3〜5時間の細菌感染の程度は、少なくとも200〜300個の因子が減少している。
【0068】
本発明による使用の好ましい実施態様において、前記感染性細菌株は髄膜炎菌である。この場合、前記使用される薬学的組成物は、好ましくは、すべての髄膜炎菌の血清群による感染に対して前記哺乳動物にワクチン接種するか、または該哺乳動物を防御する。
【0069】
「血清群」とは、その抗原の構成によって区別される関連した微生物の群を意味する。より詳細には、髄膜炎菌の血清群は莢膜抗原の構成にしたがって決定され、該構成は莢膜抗原に対する抗体を用いて判定される。髄膜炎菌の株は五つの主要な血清群、A、B、C、Y、およびW135に分けられる。髄膜炎菌に対する現状のワクチンは莢膜多糖類に基づくものであり、血清群A、C、YおよびW135に属する株に対してのみ使用可能で、血清群Bの株には使用することができない。逆に、本発明による使用によると、すべての髄膜炎菌の血清群に対して哺乳動物にワクチン接種するか、または該哺乳動物を防御することが可能である。
【0070】
本発明による使用の別の好ましい実施態様において、前記感染性細菌株は、淋菌や肺炎連鎖球菌のような、髄膜炎菌PBPタンパク質の変異体を発現する株である。
【0071】
別の好ましい実施態様において、感染性細菌株が髄膜炎菌であるとき、前記薬学的組成物はさらに、髄膜炎菌PBPタンパク質の変異体を発現する別の種または属の細菌株による感染に対し、前記哺乳動物にワクチン接種するか、または該哺乳動物を防御するものである。
【0072】
好ましくは、髄膜炎菌PBPタンパク質の変異体を発現する、別の種または属のこのような細菌株は、淋菌または肺炎連鎖球菌である。
【0073】
特定の実施態様において、髄膜炎菌のPBPタンパク質またはその変異体を発現する細菌株による感染に対する、哺乳動物、好ましくはヒトのワクチン接種を目的とする薬学的組成物を調製するための、本発明による少なくとも一つのペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体、もしくは変異体の断片、または少なくとも一つの核酸の上述した使用は、抗生物質との組み合わせで実施される。適切な抗生物質の例には、リファンピシン、スピラマイシン、キノロンおよび第三世代セファロスポリン、特にセフォタキシムが含まれる。髄膜炎菌PBPタンパク質またはその変異体を発現する前記細菌株の特徴は、上述したあらゆる特定の特徴に応じて変化しうるものである。
【0074】
別の特定の実施態様において、髄膜炎菌のPBPタンパク質またはその変異体を発現する細菌株による感染に対する、哺乳動物、好ましくはヒトの防御を目的とする薬学的組成物を調製するための、少なくとも一つの抗体または抗体断片の上述した使用は、抗生物質、好ましくはβ−ラクタム系抗生物質との組み合わせで実施される。適切なβ−ラクタム系抗生物質の例には、ペニシリンG、アモキシシリン、アンピシリン、およびセファロスポリンが含まれる。髄膜炎菌のPBPタンパク質またはその変異体を発現する前記細菌株の特徴は、上述したあらゆる特定の特徴に応じて変化しうるものである。
【0075】
また、本発明は、哺乳動物、好ましくはヒトにおける髄膜炎菌に対する抗体を検出するための、本発明による少なくとも一つのペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片の使用にも関するものである。このような使用において、前記ペニシリン結合タンパク質は、本発明による医薬品としてのペニシリン結合タンパク質について上で説明したあらゆる特徴を有することができる。髄膜炎菌に対する抗体のこのような検出は、たとえば、ワクチン接種をしていない哺乳動物において髄膜炎菌感染をインビトロで診断するため、または、ワクチン接種した哺乳動物においてワクチン接種の効果を評価するために有効である。
【0076】
検出は、たとえばELISA法のような、血清中の特異的抗体をそれらの精製した特異的抗原を用いて検出するための当該分野で知られた多くの方法のいずれを用いても行うことができる。本発明による少なくとも一つのペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片の使用の利点は、該使用によって、あらゆる血清群の髄膜炎菌株に対する抗体のインビトロでの検出が可能になることである。
【0077】
また、本発明は、哺乳動物、好ましくはヒトの生体サンプルから、髄膜炎菌感染に対する抗体をインビトロで検出する方法にも関するものであり、該方法は、
−前記生体サンプルを、上述した少なくとも一つの髄膜炎菌ペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片に接触させること、および
−前記少なくとも一つの髄膜炎菌ペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片と、前記生体サンプルの抗体との間の複合体の存在を検出すること
を含んでいる。
【0078】
好ましくは、前記生体サンプルは、血液サンプル、血清サンプルまたは血漿サンプルである。上述したように、検出過程は、たとえばELISA法のような、特異的抗体とそれらの精製した特異的抗原との間の複合体を検出するための、当該分野で知られている多くの方法のいずれを用いても実施することができる。
【0079】
さらに、本発明は、哺乳動物、好ましくはヒトの生体サンプルに基づく、髄膜炎菌感染のインビトロでの診断のための、本発明による少なくとも一つの抗体または抗体断片の使用にも関するものである。このような使用において、前記抗体または抗体断片は、本発明による医薬品としての抗体または抗体断片について上で説明したあらゆる特徴を有することができる。
【0080】
診断は、たとえばELISA法のような、血清中の特異的抗原をその抗原に特異的な抗体または抗体断片を用いて検出するための、当該分野で知られた多くの方法のいずれを用いても実施することができる。本発明による少なくとも一つの抗体または抗体断片の使用の利点は、該使用によって、あらゆる血清群の髄膜炎菌株による感染のインビトロでの診断が可能となることである。
【0081】
また、本発明は、哺乳動物、好ましくはヒトの生体サンプルに基づく、髄膜炎菌感染のインビトロでの診断方法にも関するものであり、該方法は、
−前記生体サンプルを、上述した、本発明による、髄膜炎菌によって発現されるペニシリン結合タンパク質、またはその変異体、断片もしくは変異体の断片に対する少なくとも一つの抗体または抗体断片と接触させること、および
−前記少なくとも一つの抗体または抗体断片と、前記生体サンプルの髄膜炎菌ペニシリン結合タンパク質またはその断片との間の複合体の存在を検出すること
を含んでいる。
【0082】
好ましくは、前記生体サンプルは血液サンプル、血清サンプルまたは血漿サンプルである。上述したように、検出過程は、たとえばELISA法のような、特異的抗体とその精製された特異的抗原との間の複合体を検出するための、当該分野で知られた多くの方法のいずれを用いても実施することができる。
【0083】
また、本発明は、髄膜炎菌によって発現される少なくとも一つのペニシリン結合タンパク質またはその変異体に対し、哺乳動物にワクチン接種することを含む、髄膜炎菌の感染、および/または、髄膜炎菌PBPの変異体を発現する細菌株による感染に対する、哺乳動物、好ましくはヒトの治療方法にも関するものである。
【0084】
ワクチン接種は、当該分野で知られたあらゆる方法によって、特に、上述した、髄膜炎菌によって発現される少なくとも一つのペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片、またはそれらをコードする核酸を含んだ薬学的組成物を用いて実施することができる。
【0085】
また、本発明は、上述した、髄膜炎菌によって発現される少なくとも一つのペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片に対する少なくとも一つの抗体または抗体断片を含んだ、効果的な量の医薬品または薬学的組成物を哺乳動物に注射することを含む、髄膜炎菌感染、および/または、髄膜炎菌PBPの変異体を発現する細菌株による感染に対する、哺乳動物、好ましくはヒトの治療方法にも関するものである。
【0086】
さらに、本発明は、2006年5月22日にCNCMにそれぞれI−3609、I−3610およびI−3611という番号で寄託されたハイブリドーマD2.4、D13.6およびI4.37から産生されるモノクローナル抗体から構成される群から選択される髄膜炎菌PBP2タンパク質に対するモノクローナル抗体にも関するものである。このようなモノクローナル抗体は、上述した医薬品として、または、上述したあらゆる治療的使用のために用いることができる。あるいは、このようなモノクローナル抗体は、哺乳動物、好ましくはヒトの生体サンプルに基づく、髄膜炎菌感染のインビトロでの診断のために用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0087】
全体的に本発明を説明してきたが、本発明の特徴および利点は、例示としてのみ示し、明記しない限り限定するものではないいくつかの特徴的な実施例および図面を参照することでさらに理解することができるものである。
【0088】
図1:クラスA(大腸菌のPBP1a、淋菌および髄膜炎菌のPBP1)およびクラスB(大腸菌のPBP3、淋菌および髄膜炎菌のPBP2)の、高分子量のPBPの分子組成。保存されたモチーフ(クラスAのPBPの番号1〜9、クラスBのPBPの番号1〜7)ならびにモチーフ間の距離(アミノ酸の数)を示している(Goffin and Ghuysen,1998.Microbiol.Mol.Biol.Rev.Dec;62(4):1079−93)。
【0089】
図2:髄膜炎菌のLNP8013株のPBP2で免疫付与したウサギの血清の特異性。
【0090】
図2A:大腸菌BL21(DE3)pLysS由来の細胞全体の可溶化物と、髄膜炎菌のLNP8013株の精製したHis−tag−PBP2タンパク質を含む溶出画分のSDS−PAGE。可溶化した細胞は、発現ベクターのみ(レーン1)、IPTGによる誘発のないpenA遺伝子を有する組換えプラスミド(レーン2)、およびIPTGによる誘発後のpenA遺伝子を有する組換えプラスミド(レーン3)を有する大腸菌 BL21(DE3)pLysSに由来する。矢印は、N末端の膜貫通領域(121個のアミノ酸)を欠いた、過剰発現した組換えPBP2に対応するバンドを示している。レーン4はニッケルカラムを通した可溶性画分に対応し、レーン5からレーン11は精製されたPBP2を含む溶出画分を示している。MMは分子量マーカーである。
【0091】
図2B:髄膜炎菌LNP8013株のPBP2タンパク質で免疫付与した後に得たウサギ血清の結合を示すウェスタンブロット。ウサギ血清は、髄膜炎菌のLNP8013株、LNP17723株、LNP16454株、LNP18425株およびLNP17041株に対応する精製したHis−tag−タンパク質(PP)、ならびに、二つの血清群W135の単離株(LNP17592株およびLNP16635株)に由来する細菌細胞膜の抽出物(BME)について試験した。NmCは血清群Cの髄膜炎菌である。NmBは血清群Bの髄膜炎菌である。NmW135は血清群W135の髄膜炎菌である。PenはペニシリンGに対する感受性のある株である。PenはペニシリンGに対する中程度の感受性をもった株である。
【0092】
図3:自然の髄膜炎菌感染が生じている際のPBP2の免疫原性
【0093】
図3A:入院する時点(急性期血清)と7〜20日後(回復期血清)に得た、患者(P1〜P3)の二種の血清における髄膜炎菌の細胞全体に対するIgG免疫応答(中塗りの記号)。患者P1は、血清群Cの髄膜炎菌による髄膜炎菌感染が確認された患者である。患者P2は、血清群Bの髄膜炎菌による髄膜炎菌感染が確認された患者である。患者P3は、髄膜炎菌感染がない患者である。白塗りの記号は大腸菌の細胞全体に対する各患者の二種の血清の活性を示している。
【0094】
図3B:異なる血清群および遺伝系統に属する髄膜炎菌単離株Pen(PBP2)およびPen(PBP2)に対応する精製した組換えHis−tag−PBP2に対する、患者P1の二種の血清(急性期および回復期)とコントロールのP3の血清(回復期)について実施したドットブロット分析。四つの異なる血清希釈物を試験した(1:500から1:5000)。100ngと50ngを用いたLNP8013株由来のPBP2を除き、各タンパク質について、二つの濃度(300ngおよび150ng)をスポットした。髄膜炎菌のピリンを上述したように精製した(11)。
【0095】
図4:腹腔内へチャレンジしたマウスにおける髄膜炎菌性菌血症に対する受動的防御の研究。抗PBP2 IgGの防御的役割を、野生型のpenA対立遺伝子ならびに三つのpenAの同質遺伝子変異体であるTR−TH41、TR16454、およびTR16504を有する髄膜炎菌LNP8013株で腹腔内チャレンジした後に評価した。PBP2またはCrgAに対する精製したウサギのIgGを用いた。用いた株/IgGの組み合わせは各曲線の上に示している。中塗りの記号および白抜きの記号は、それぞれ、コントロールの未処理マウス(PBS)と、30μgのIgGで処理したマウスの結果を示している。データは、二つの独立した実験の各時点における三頭のマウスからなる群の平均±SDである。未処理マウスの群と処理マウスの群との間のCFUの数(log10)を比較するためにスチューデントt検定を用いた。*は、p≦0.05である。
【0096】
図5:ペニシリンに感受性のある髄膜炎菌の血清群CのLNP8013株のPBP2タンパク質で免疫付与したマウスにおいて得られた抗髄膜炎菌性防御。ワクチン接種したマウス(n=5)およびコントロールマウス(n=4)を、ペニシリンに感受性のある5×10cfuの髄膜炎菌LNP8013株で腹腔内感染によってチャレンジした。三時間後、GCBプレート上に血液の連続希釈物を置いて、血液中のcfuの計数を行った。結果は最初の血液に従って標準化した。個々のワクチン接種したマウス(黒の菱形)とコントロールマウス(黒の丸)が示されている。両マウス群間の差の有意性(P<0.05)を判定するためにスチューデントt検定を利用した。
【0097】
図6:マウスにおける髄膜炎菌性菌血症に対する受動的防御の特異性。A:抗PBP2 IgGの防御的役割を、野生型penAを有する髄膜炎菌LNP8013株で腹腔内にチャレンジした後評価した。精製した抗PBP2 IgG(30μg)を単独で、または、ペニシリンに感受性のある血清群CのLNP8013株に由来する、N末端の膜貫通領域を欠いた精製した組換えHis−tag−PBP2(20μg)とともに、細菌によるチャンレジの前に注射した。二時間後、0.5mLのPBS中の3×10cfuの細菌懸濁液でマウスを腹腔内でチャレンジした。細菌によるチャレンジの4時間後、四頭のマウスの血液のcfu計数を行った。データは、二つの独立した実験の各時点における4頭のマウスからなる群の平均±SDである。B:Aで用いた、ペニシリンに感受性のある血清群CのLNP8013株の調製物に由来する、N末端の膜貫通領域を欠いた精製した組換えHis−tag−PBP2に対する、精製した抗PBP2 IgGを用いたウェスタンブロット分析。
【0098】
図7:抗PBP2モノクローナル抗体(D2.4、D13.6およびI4.37)の結合能力をウェスタンブロットにより試験した。三つのモノクローナル抗体のすべてが、血清群B、CまたはW135に属しペニシリンに対するさまざまなレベルの感受性を有する複数の異なる髄膜炎菌株に由来する、精製した組換えPBP2を認識した。
【実施例1】
【0099】
N末端の膜貫通領域を欠いた組換え髄膜炎菌PBP2断片の産生
【0100】
いくつかの髄膜炎菌Pen単離株およびPen単離株に由来するPBP2のN末端の膜貫通領域をコードする配列を欠いた、変化したpenA遺伝子を、pET28b発現ベクター(Novagen、ノッティンガム、イギリス)にクローニングした。
【0101】
つぎに、大腸菌BL21 pLysS DE3株を組換えプラスミドで形質転換し、His−tag−PBP2をT7バクテリオファージのプロモーターの制御下で過剰発現させた。
【0102】
組換えタンパク質の精製を、過去に報告されているように(Antignac,A.et al.2003.J Biol Chem 278:31529−35)、ニッケルニトリロ三酢酸−アガロースカラム(Qiagen、デューレン、ドイツ)を用いて行った。
【0103】
SDS−PAGE分析の後、精製したPBP2を含有する画分をプールし、リン酸緩衝生理食塩水で透析し、20%グリセロールとなるように調整し(v\v)、そして−20℃で保存した。
【0104】
N末端の膜貫通領域を欠いた組換え髄膜炎菌PBP2断片が産生されたすべての髄膜炎菌株の特徴を以下の表3に示す。
【0105】
【表3】

【0106】
図2Aは、ペニシリンに感受性のある髄膜炎菌の血清群CのLNP8013株の、N末端の膜貫通領域を欠いた組換え髄膜炎菌PBP2断片を精製するさまざまな過程の分析を示している。
【実施例2】
【0107】
N末端の膜貫通領域を欠いた組換え髄膜炎菌PBP2で免疫付与した後に得られたウサギ抗PBP2血清の結合能力
【0108】
ペニシリンに感受性のある血清群CのLNP8013株に由来する、N末端の膜貫通領域を欠いた精製した組換えHis−tag−PBP2でウサギを免疫付与した後、抗PBP2血清を得た(図2A)。
【0109】
PBP2による免疫付与のために、二頭の3kgの雌のウサギに、0日目に完全フロイントアジュバント(Difco、MA)を加えた3μgの精製PBP2を、7日目および21日目に不完全フロイントアジュバントを加えた3μgの精製PBP2を皮下注射した。免疫付与前である0日目に免疫前血清を得、28日目に免疫血清を採取した。
【0110】
ウサギの抗PBP2血清の特異性を試験するため、penAおよびpenAでコードされた、さまざまな血清群および遺伝系統に属する髄膜炎菌のPBP2に対してウェスタンブロットを実施した。血清の5000倍希釈によって、免疫血清のみによる特異的な認識を示すことが可能となった。
【0111】
ウサギの抗PBP2血清の特異性を、実施例1で説明したペニシリンのN末端の膜貫通領域を欠いている、精製した組換え髄膜炎菌PBP2断片、ならびに、血清群W135に属する他の二つの髄膜炎菌株(LNP17592株およびLNP16635株)の細菌細胞膜の抽出物について試験した。
【0112】
結果は、試験したウサギの抗PBP2血清が、さまざまな株のペニシリン感受性レベルとは無関係に、血清群B、CまたはW135に属する複数の異なる髄膜炎菌の単離株に由来するPBP2を認識することを示している(図2B)。
【0113】
このことは、精製したPBP2タンパク質がウサギにおいて免疫原性であることと、抗PBP2抗体が、複数の異なる髄膜炎菌の単離株に由来するPBP2を認識することを裏付けるものであり、該抗体が、血清群Bの株を含む多くのさまざまな髄膜炎菌株による髄膜炎菌感染が生じている際の感染した対象に注射されると、防御効果を有する可能性があることを示唆している。
【実施例3】
【0114】
自然の髄膜炎菌性感染が生じている際のPBP2の免疫原性
【0115】
異なる遺伝系統、異なる血清群(BおよびC)に属し、そしてペニシリンGに対する多様な感受性を有する髄膜炎菌の単離株に対応する精製した組換えPBP2をニトロセルロース膜にスポットし、髄膜炎菌感染が確認された患者(P1)の二種の血清を用いて免疫検出した(血清群Cの髄膜炎菌については陽性培養)。二種の血清は、入院時に得た急性期血清と、10日後に得た回復期血清である。血清の連続希釈物を試験し、ヤギ抗ヒトIgG(CALTAG Laboratories、バーリンゲーム、カリフォルニア州)を用いてIgGの応答を検出した。penAおよびpenAでコードした、試験したすべてのPBP2に対して、回復期血清を用いたときだけIgGシグナルが検出された(図3B)。
【0116】
血清群Bの髄膜炎菌感染が確認された別の患者(P2)から得た二種の血清でPBP2を免疫検出したところ、同様の結果が得られた。無関係のタンパク質(大腸菌のマルトース結合タンパク質、MalE)に対しては両方の血清でシグナルが検出されなかったのに対し、髄膜炎菌の主要な免疫原性タンパク質(ピリン)に対しては回復期血清で陽性シグナルが観察された(図3B)。
【0117】
抗PBP2の免疫ブロット法におけるこの増加は、髄膜炎菌の細胞全体に対してELISAで試験した患者の血清(1:1000の希釈)の免疫応答と類似している(図3A)。
【0118】
髄膜炎菌に感染していない患者(P3)から得たコントロールの二種の血清では、シグナルの強化が観察されなかった(図3A)。これらのデータは、自然の髄膜炎菌感染が生じている際のPBP2に対する免疫応答の特異性を裏付けるものであり、髄膜炎菌PBP2が、髄膜炎菌感染が生じている際の防御抗体の相応しい標的であることを示唆している。
【実施例4】
【0119】
腹腔内へチャレンジしたマウスにおける髄膜炎菌性菌血症に対する受動的防御の研究
【0120】
4.1 ポリクローナル抗PBP2 IgGを用いた受動的防御
【0121】
次に、マウスの腹腔内(ip)感染モデルにおいて、髄膜炎菌菌血症に対する受動的防御を付与するウサギ抗PBP2 IgGの能力を試験した。
【0122】
ペニシリンに感受性のある血清群CのLNP8013株に由来する、N末端の膜貫通領域を欠いた精製した組換えHis−tag−PBP2による免疫付与の後、一頭のウサギの免疫血清から全IgGを精製することで、抗PBP2 IgGを得た。全IgGはまず33%の(NHSOで沈殿させ、17.5mM、pH6.3のリン酸緩衝生理食塩水で透析した。この画分を、pET28B発現ベクターを有するBL21 pLysS DE3大腸菌の細菌抽出物で事前にコーティングした、臭化シアンで活性化したセファロース4Bカラム(Pharmacia、スウェーデン)に吸着させた。溶出した画分中のタンパク質濃度を280nmの吸光度で判定した。
【0123】
受動的防御の実験については、すべての試験した髄膜炎菌株は病原性を維持するようマウスで継代し、30%のグリセロールを含むGC液体培地内で−70℃で保存した。これらを、5%COの雰囲気下において37℃でGCB寒天プレート上で一晩培養し、ついでBHI液体培地に入れた。細菌は対数期に達するまで4時間培養し、10cfu/mlに調節した。
【0124】
5週齢の雌のBALB/cマウス(Harlan、フランス)を時点0において、30μg、3μgそして0.3μgの精製したウサギの抗PBP2 IgGを静脈内投与して処理した。これらの用量は、マウスにおける特異的IgGの濃度(0.3μg/ml〜30μg/ml)をヒトにおいて期待される濃度(全IgGの約0.3〜0.5%)とほぼ同様とするように計算されている。各実験について、コントロールマウスには、PBSまたは髄膜炎菌の細胞質性の(したがって抗体にアクセスできない)調節タンパク質CrgA(Deghmane,A.E.,and M.K.Taha.2003.Mol Microbiol 47:135−43)に対する精製したウサギIgGを注射した。
【0125】
二時間後、0.5ml(5×10cfu)の、野生型penA対立遺伝子を有するペニシリンに感受性のある株である、血清群Cの髄膜炎菌LNP8013株でマウスを腹腔内でチャレンジした。二つの独立した実験における3頭のマウスの血液のcfu計数を、細菌チャレンジの1時間、2時間、3時間および4時間後に行った。チャレンジの1時間および2時間後ではマウス間における菌血症のレベルに有意差はなかった(図4)。しかし、ウサギの抗PBP2 IgGを注射したマウスは、3時間および4時間後に、コントロールと比較して菌血症の減少を示し、この減少は用いた三つの用量(30μg、3μgおよび0.3μg)について用量依存性であった(図4)。ネガティブコントロール、つまりPBSまたは髄膜炎菌の細胞質性の調節タンパク質CrgA(Deghmane,A.E.,and M.K.Taha.2003.Mol Microbiol 47:135−43)に対する精製したウサギIgGを注射したマウスでは、防御が観察されなかった(図3)。
【0126】
次に、ペニシリンに対する感受性の低い三つのLNP8013の同質遺伝子変異体を用いた腹腔内チャレンジに対する、抗PBP2 IgGの受動的防御の能力を分析した。これらの株すべてが、penA遺伝子の3’にあるトランスペプチダーセをコードする領域に改変を有している。TR−TH41、TR16454およびTR16504の株が、三つの異なる髄膜炎菌株(それぞれTH−41、LNP16454およびLNP16504)(Antignac,A.,et al.2003.J Biol Chem 278:31529−35)のPCR増幅したpenA対立遺伝子でLNP8013を形質転換することで得られた。図4で見られるように、抗PBP2 IgGは、三つのpenA変異体のすべてのチャレンジの後、それらが発現するPBP2タンパク質における改変にもかかわらず、菌血症を減少させた。
【0127】
これらの結果は、特定の髄膜炎菌株のPBP2タンパク質を結合する抗体を注射することが、この特定の株だけでなく、変異した髄膜炎菌株によって感染したマウスの防御を誘発するために十分であることを実証している。したがって、特定の髄膜炎菌株のPBP2タンパク質を結合する抗体の注射が、他の血清群の髄膜炎菌株を含む、多くの異なる髄膜炎菌株による感染に対する防御を誘発するために十分であることが示唆される。
【0128】
4.2 ポリクローナル抗PBP2 IgGを用いた受動的防御の特異性
【0129】
精製した抗PBP2 IgGを用いて観察される受動的防御の特異性をさらに確認するために一連の実験を行い、該実験において、細菌によるチャレンジは、精製した抗PBP2 IgGを単独で、または、抗PBP2 IgGの産生に用いられるN末端の膜貫通領域を欠いている、精製した組換えPBP2断片とともに注射した2時間後に行った。
【0130】
より詳細には、5週齢の雌のBALB/cマウス(Janvier、フランス)に、30μgの精製したウサギ抗PBP2 IgGのみを含んだ溶液、または、ペニシリンに感受性のある血清群CのLNP8013株に由来する、N末端の膜貫通領域を欠いた20μgの精製した組換えHis−tag−PBP2とともに含んだ溶液を、時点0で注射した。二時間後、マウスを、0.5mlのPBS中の3×10cfuの細菌懸濁液で腹腔内チャレンジした。二つの独立した実験において、4頭のマウスの血液のcfu計数を細菌チャレンジの4時間後に行った。
【0131】
精製した抗PBP2 IgG単独で処理したマウスに比べ、精製した抗PBP2 IgGと、N末端の膜貫通領域を欠いた精製したPBP2組換え断片との両方で処理したマウスにおいて、有意に高いレベルの菌血症が観察された(P=0.00012)(図6A参照)。さらに、抗PBP2 IgGは、精製した組換えPBP2断片の調製物では一つのバンドのみを認識した(図6B)。要するに、これらの結果は、ポリクローナル抗PBP2 IgGによって付与される受動的防御が髄膜炎菌PBP2の特異的認識および該髄膜炎菌PBP2への特異的結合に起因することを強く示唆している。
【実施例5】
【0132】
髄膜炎菌PBP2タンパク質の断片によるマウスのワクチン接種
【0133】
方法
6週齢の5頭の雌のBALB/cマウスを、ペニシリンに感受性のある血清群CのLNP8013株(PBP2C)に由来する、N末端の膜貫通領域を欠いた12μgの精製した組換えHis−tag−PBP2で免疫付与した。4頭のコントロールマウスに生理食塩水を注射した。注射は、0日目、7日目および14日目に皮下に行い、一回目の投与については完全フロイントアジュバント(Difco、デトロイト、ミシガン州、アメリカ)を用い、二度目の投与については不完全フロイントアジュバントを用いた。28日目にマウスを採血し、PBP2Cでコーティングした96ウェルプレートを用いて、ELISAによって、1μgの精製PBP2で免疫応答を試験した。その後、5×10cfuのLNP8013株(Pen)による腹腔内(ip)チャレンジを行った。血液のコロニー形成単位(cfu)の計数は、細菌チャレンジの3時間後にGCBプレート上で行った。
【0134】
結果
コントロールマウスと比較し、高いレベルの抗PBP2抗体力価がELISAで見られた。ワクチン接種したマウスの間では、抗体力価の差は観察されなかった。
【0135】
ワクチン接種したマウスは、コントロールマウスと比較して有意に低い血液中のcfu値を示した(P=0.0304)(図5)。これらの結果は、ペニシリンに感受性のある血清群CのLNP8013株(PBP2C)に由来する、N末端の膜貫通領域を欠いた精製した組換えHis−tag−PBP2が免疫原性であり、髄膜炎菌に対する防御反応を誘発することができることを示唆している。
【0136】
全体として、前記実施例で説明した結果は、髄膜炎菌PBP2タンパク質が通常のヒトの髄膜炎菌感染が生じている際に免疫原性であること、そしてPBP2断片によるマウスの免疫付与によって抗PBP2抗体が誘発されることを明らかに示している。
【0137】
さらに、このような免疫付与はワクチン接種したマウスにおいて防御免疫を誘発する。
【0138】
とりわけ、髄膜炎菌PBP2タンパク質の高度な遺伝的多様性にもかかわらず、結果は、特定の髄膜炎菌PBP2タンパク質に対する抗体が、他の異なる髄膜炎菌株の髄膜炎菌PBP2タンパク質を結合することができること、そして、このような抗体が、髄膜炎菌の感染が生じている際に注射されると防御を付与することを示している。
【0139】
特定の髄膜炎菌PBP2タンパク質に対する抗体が、他の異なる髄膜炎菌株の髄膜炎菌PBP2タンパク質を結合する能力は、PBモジュールにおける保存されたアミノ酸モチーフ(SxK、SxNおよびKTG)の存在と関係している可能性がある。これらのモチーフは、PBPタンパク質間、特定のPBPタンパク質の変異体間、あるいは異なる細菌群間においてでさえ高度に保存されているため、この方法は、髄膜炎菌PBPタンパク質の変異体を発現する別の種の細菌株による感染に対し、哺乳動物にワクチン接種するために応用することも可能である。
【0140】
このように、髄膜炎菌によって発現されるPBPタンパク質は、髄膜炎菌、および/または髄膜炎菌PBPタンパク質の変異体を発現する別の種の細菌株に対するワクチン接種に用いることができる。髄膜炎菌PBPタンパク質に対する抗体は、髄膜炎菌、および/または、髄膜炎菌PBPタンパク質の変異体を発現する別の種の細菌株に感染した個体の治療に用いることができる。PBPタンパク質または抗体の投与の防御効果を高めるため、いくつかのPBPタンパク質または抗体の組み合わせを用いてもよい。
【実施例6】
【0141】
髄膜炎菌PBP2タンパク質に対するモノクローナル抗体の調製
【0142】
方法
ペニシリンに感受性のある血清群CのLNP8013株に由来する、N末端の膜貫通領域を欠いた精製した組換えHis−tag−PBP2(番号I−3422として2005年5月3日にCNCMに寄託されたクローンDH5pAA2から精製された)を、特異的モノクローナル抗体の産生に用いた。
【0143】
Swissマウス(Janvier)に、0日目、7日目および21日目にPBP2を注射した。次に、精製PBP2Cに対する応答を確認した。応答したマウスを四ヶ月間、さらなる免疫付与をせずに維持した。ブースター注射を、同用量のPBP2組換え断片で、融合の3日前に行った。
【0144】
最も高い抗体力価を示したマウスを屠殺し、その脾臓を回収した。免疫付与したマウスの脾臓細胞とマウスの骨髄腫細胞P3U1を4:1の割合で混合し、ペレットにし、そして0.8mlの45%ポリエチレングリコール1000を添加して融合させた。
【0145】
得られた融合細胞を24ウェルプレート上で、5%の二酸化炭素雰囲気下で37℃で培養した。安定した雑種細胞株を、ヒポキサンチン−アザセリン培地を用いて選別した。
【0146】
融合の二週間後、上清中のハイブリドーマを、ELISAによって特異的抗PBP2抗体の存在についてスクリーニングした。陽性のウェルの細胞を限界希釈法によってクローニングした。
【0147】
選別されたモノクローナル抗体のクラスおよびサブクラスは、さまざまなサブクラスに特異的なペルオキシダーゼ標識免疫グロブリンを用いてELISAによって判定した。
【0148】
ハイブリドーマ細胞を増殖させ、5×10個の細胞をヌードマウス(NMRI−nu、Janvier)の腹腔内に注射することで腹水を生成させた。
【0149】
結果
上述した手順を用いることで、髄膜炎菌PBP2タンパク質に対するモノクローナル抗体を産生する三つのハイブリドーマが得られた。
【0150】
これら3つのハイブリドーマは、D2.4、D13.6およびI4.37と名付けられ、それぞれ、番号I−3609、I−3610およびI−3611として2006年5月22日にCNCM(25−28 rue du Dr Roux.75015 Paris.France)に寄託された。
【0151】
前記ハイブリドーマから産生される三つのモノクローナル抗体のすべてがIgG抗体である。
【0152】
前記三つの抗PBP2モノクローナル抗体(D2.4、D13.6およびI4.37)の結合能力をウェスタンブロットで試験した。三つのモノクローナル抗体のすべてが、血清群B、C、またはW135に属し、ペニシリンに対するさまざまなレベルの感受性を有する、複数の異なる髄膜炎菌株の精製した組換えPBP2を認識した(図7参照)。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】クラスA(大腸菌のPBP1a、淋菌および髄膜炎菌のPBP1)およびクラスB(大腸菌のPBP3、淋菌および髄膜炎菌のPBP2)の、高分子量のPBPsの分子組成を示す図。
【図2】髄膜炎菌のLNP8013株のPBP2で免疫付与したウサギの血清の特異性を示す図であり、図2中のAは大腸菌BL21(DE3)pLysS由来の細胞全体の可溶化物と、髄膜炎菌のLNP8013株の精製したHis−tag−PBP2タンパク質を含む溶出画分のSDS−PAGEの結果を示す図であり、図2中のBは髄膜炎菌LNP8013株のPBP2タンパク質で免疫付与した後に得たウサギ血清の結合を示すウェスタンブロットの結果を示す図。
【図3】自然の髄膜炎菌感染が生じている際のPBP2の免疫原性示す図であり、図3中のAは入院する時点(急性期血清)と7〜20日後(回復期血清)に得た、患者(P1〜P3)の二種の血清における髄膜炎菌の細胞全体に対するIgG免疫応答(中塗りの記号)を示す図であり、図3中のBは異なる血清群および遺伝系統に属する髄膜炎菌単離株Pen(PBP2)およびPen(PBP2)に対応する精製した組換えHis−tag−PBP2に対する、患者P1の二種の血清(急性期および回復期)とコントロールのP3の血清(回復期)について実施したドットブロット分析の結果を示す図。
【図4】腹腔内へチャレンジしたマウスにおける髄膜炎菌性菌血症に対する受動的防御の研究の結果を示す図。
【図5】髄膜炎菌の血清群CのLNP8013株に感受性のあるペニシリンのPBP2タンパク質で免疫付与したマウスにおいて得られた抗髄膜炎菌性防御を示す図。
【図6】マウスにおける髄膜炎菌性菌血症に対する受動的防御の特異性を示す図であり、図6中のAは抗PBP2 IgGの防御的役割の、野生型penAを有する髄膜炎菌LNP8013株で腹腔内にチャレンジした後の評価を示す図であり、図6中のBはAで用いた、ペニシリンに感受性のある血清群CのLNP8013株の調製物に由来する、N末端の膜貫通領域を欠いた精製した組換えHis−tag−PBP2に対する、精製した抗PBP2 IgGを用いたウェスタンブロット分析の結果を示す図。
【図7】抗PBP2モノクローナル抗体(D2.4、D13.6およびI4.37)の結合能力のウェスタンブロットによる試験の結果を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬品としての、髄膜炎菌によって発現されるペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片。
【請求項2】
医薬品としての、髄膜炎菌によって発現される少なくとも一つのペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体、もしくは変異体の断片をコードする核酸。
【請求項3】
医薬品としての、髄膜炎菌によって発現されるペニシリン結合タンパク質、またはその変異体、断片、もしくは変異体の断片に対する抗体または抗体断片。
【請求項4】
前記ペニシリン結合タンパク質が髄膜炎菌PBP2である、請求項1〜請求項3のいずれか一つに記載の医薬品。
【請求項5】
前記ペニシリン結合タンパク質の断片が、N末端の膜貫通領域を欠いた髄膜炎菌PBP2の断片である、請求項4に記載の医薬品。
【請求項6】
N末端の膜貫通領域を欠いた髄膜炎菌PBP2の前記断片が、番号I−3422として2005年5月3日にCNCMに寄託されたクローンDH5pAA2から精製される、請求項5に記載の医薬品。
【請求項7】
前記変異体が、淋菌または肺炎連鎖球菌によって発現される髄膜炎菌PBPの変異体である、請求項1〜請求項3のいずれか一つに記載の医薬品。
【請求項8】
前記変異体が淋菌PBP2または肺炎連鎖球菌PBP2Xである、請求項7に記載の医薬品。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか一つに記載の、少なくとも一つのペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片、あるいは、少なくとも一つの核酸、あるいは、少なくとも一つの抗体または抗体断片と、薬学的に許容可能な担体または賦形剤とを含む、薬学的組成物。
【請求項10】
髄膜炎菌PBPタンパク質またはその変異体を発現する細菌株による感染に対する、哺乳動物、好ましくはヒトのワクチン接種を目的とした薬学的組成物の調製のための、請求項1または請求項4〜請求項8のいずれか一つに記載の、少なくとも一つのペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片の使用方法。
【請求項11】
髄膜炎菌PBPタンパク質またはその変異体を発現する細菌株による感染に対する、哺乳動物、好ましくはヒトのワクチン接種を目的とした薬学的組成物の調製のための、請求項2または請求項4〜請求項8のいずれか一つに記載の、少なくとも一つの核酸の使用方法。
【請求項12】
髄膜炎菌PBPタンパク質またはその変異体を発現する細菌株による感染に対する、哺乳動物、好ましくはヒトの防御を目的とした薬学的組成物の調製のための、請求項3〜請求項8のいずれか一つに記載の、少なくとも一つの抗体または抗体断片の使用方法。
【請求項13】
前記感染性細菌株が髄膜炎菌である、請求項10〜請求項12のいずれか一つに記載の使用方法。
【請求項14】
前記薬学的組成物が、すべての髄膜炎菌の血清群による感染に対し、前記哺乳動物にワクチン接種し、該哺乳動物を防御する、請求項13に記載の使用方法。
【請求項15】
前記感染性細菌株が淋菌または肺炎連鎖球菌である、請求項10〜請求項12のいずれか一つに記載の使用方法。
【請求項16】
前記薬学的組成物がさらに、髄膜炎菌PBPタンパク質の変異体を発現する別の種または属の細菌株による感染に対し、前記哺乳動物にワクチン接種し、該哺乳動物を防御する、請求項13または請求項14に記載の使用方法。
【請求項17】
髄膜炎菌PBPタンパク質の変異体を発現する、別の種または属の前記細菌株が、淋菌または肺炎連鎖球菌である、請求項16に記載の使用方法。
【請求項18】
抗生物質と組み合わせる、請求項10〜請求項12のいずれか一つに記載の使用方法。
【請求項19】
前記抗生物質がβ−ラクタム系抗生物質である、請求項16に記載の使用方法。
【請求項20】
哺乳動物、好ましくはヒトにおける髄膜炎菌に対する抗体を検出するための、請求項1または請求項4〜請求項8のいずれか一つに記載の、少なくとも一つのペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片の使用方法。
【請求項21】
哺乳動物、好ましくはヒトの生体サンプルから髄膜炎菌感染に対する抗体を検出するためのインビトロでの方法であり、
−前記生体サンプルを、請求項1または請求項4〜請求項8のいずれか一つに記載の、少なくとも一つの髄膜炎菌ペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片に接触させること、および
−前記少なくとも一つの髄膜炎菌ペニシリン結合タンパク質、またはその断片、変異体もしくは変異体の断片と、前記生体サンプルの抗体との間の複合体の存在を検出すること、
を含む方法。
【請求項22】
哺乳動物、好ましくはヒトの生体サンプルから、髄膜炎菌感染をインビトロで診断するための、請求項3〜請求項8のいずれか一つに記載の少なくとも一つの抗体または抗体断片の使用方法。
【請求項23】
哺乳動物、好ましくはヒトの生体サンプルから、髄膜炎菌感染を診断するためのインビトロでの方法であり、
−前記生体サンプルを、請求項3〜請求項8のいずれか一つに記載の少なくとも一つの抗体または抗体断片に接触させること、および
−前記少なくとも一つの抗体または抗体断片と、前記生体サンプルの髄膜炎菌ペニシリン結合タンパク質またはその断片との間の複合体の存在を検出すること、
を含む方法。
【請求項24】
番号I−3609、I−3610およびI−3611として2006年5月22日にCNCMにそれぞれ寄託された、ハイブリドーマD2.4、D13.6およびI4.37から産生されるモノクローナル抗体で構成される群から選択される、髄膜炎菌PBP2タンパク質に対するモノクローナル抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−545383(P2008−545383A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−511732(P2008−511732)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【国際出願番号】PCT/EP2006/062509
【国際公開番号】WO2006/122986
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(501173391)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT PASTEUR
【Fターム(参考)】