説明

細隙灯顕微鏡及びこれを備える眼科用レーザ治療装置

【課題】 作動距離(観察者眼用の接眼部から患者眼までの距離)の延長を抑え、コスト的にも有利な観察視路角の可変機構を持つ細隙灯顕微鏡及びこれを備える眼科用レーザ治療装置を提供すること。
【解決手段】 患者眼に照明光を投光する投光ユニットと、患者眼を観察する双眼の顕微鏡部であって、観察倍率を変える変倍光学系を左右の各光路に切換え配置する変倍機構部が対物レンズと双眼の接眼レンズとの間の観察光路に配置された顕微鏡部と、を備える細隙灯顕微鏡において、前記変倍機構部に左右の観察視路角を変えるための視路角変更光学系が設けられ、前記視路角変更光学系と変倍光学系とが観察光学系の光路に選択的に切換え配置される構成としたこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者眼に治療用レーザ光を照射するときに患者眼を観察するレーザ治療用の細隙灯顕微鏡及びこれを備える眼科用レーザ治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、患者眼、特に眼底に治療用レーザ光(光凝固用レーザ光)を照射する眼科用レーザ治療装置では、患者眼の眼底等の観察に双眼の細隙灯顕微鏡(スリットランプ)が用いられる。スリットランプでは、双眼の観察光学系内に変倍光学系が配置された回転ドラムを持つ変倍機構が備えられており、回転ドラムを回転すことにより観察倍率を切り換える構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、このようなスリットランプでは、双眼観察の視路角(観察部位の立体視)を好適に調整するために、両眼の視路角を切換るステレオバリエータと呼ばれる光学素子を、観察光学系対物レンズと変倍機構との間に組み込んだものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−224036号公報
【特許文献2】特開昭62−269923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献2の装置では、ステレオバリエータの機構部が70mm程あり、その分だけ装置の観察光学系が延長され、スリットランプの作動距離(本明細書では、観察者眼用の接眼部から患者眼までの距離を言う)が延長される。患者眼底の光凝固レーザ治療においては、術者は手に持ったコンタクトレンズを患者眼に接触させ、照明光や治療光を導光すると共に、患者眼の微動を抑制してレーザ照射を行う。このため、作動距離が延長されると、腕の短い術者では、患者眼を観察しながらコンタクトレンズを患者眼に接触させることが難しくなる場合がある。また、特許文献2におけるステレオバリエータの機構部は、大きく、視路角を変えるための回転機構が必要なため、コスト高になる。使用者は、通常のスリットランプに対して追加費用を要する。
【0004】
本発明は、上記従来技術の問題に鑑み、作動距離(観察者眼用の接眼部から患者眼までの距離)の延長を抑え、コスト的にも有利な観察視路角の可変機構を持つ細隙灯顕微鏡及びこれを備える眼科用レーザ治療装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
(1) 患者眼に照明光を投光する投光ユニットと、患者眼を観察する双眼の顕微鏡部であって、観察倍率を変える変倍光学系を左右の各光路に切換え配置する変倍機構部が対物レンズと双眼の接眼レンズとの間の観察光路に配置された顕微鏡部と、を備える細隙灯顕微鏡において、前記変倍機構部に左右の観察視路角を変えるための視路角変更光学系が設けられ、前記視路角変更光学系と変倍光学系とが観察光学系の光路に選択的に切換え配置される構成としたことを特徴とする。
(2) (1)の細隙灯顕微鏡において、前記変倍機構部は少なくとも3つの切換え光路を持ち、その一つの切換え光路に前記変倍光学系が配置され、他の一つの切換え光路に前記視路角変更光学系が配置され、前記視路角変更光学系はベース方向が逆向きとされた2つのプリズムを備えることを特徴とする。
(3) 治療用レーザ光源と、該レーザ光源からの治療用レーザ光を患者眼に導光照射する照射光学系と、を備える眼科用レーザ治療装置において、
(1)又は(2)の細隙灯顕微鏡を患者眼の観察手段として備えることを特徴とする。
(4) (3)の眼科用レーザ治療装置において、前記細隙灯顕微鏡が持つ前記投光ユニットは、照明光の光軸と前記レーザ光源から導光されるレーザ光の光軸とを同軸に合波する合波光学素子と、同軸に合波された照明光及びレーザ光を患者眼に向けて反射するミラーであって、前記顕微鏡が持つ対物レンズの患者眼側で左右の観察光路の間に配置されたミラーと、該ミラーを下方に移動させ、且つミラーが移動したときに照明光及びレーザ光の反射方向を上方に傾斜させるチルティング機構と、を備え、
前記視路角変更光学系が顕微鏡の観察光路に配置されて視路角が狭く変更されたときに、前記チルティング機構により前記ミラーが下方に移動されると共に傾斜され、左右の観察視野への前記ミラーの移り込みを少なくしてレーザ光の照射を可能にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、作動距離(観察者眼用の接眼部から患者眼までの距離)の延長を抑え、コスト的にも有利な観察視路角の可変機構を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の第一実施形態のスリットランプ及びこれを備える眼科用レーザ治療装置を示す概略側面図である。図2は、眼科用レーザ治療装置の構成を示す概略構成図である。
【0008】
100は、眼科用レーザ治療装置であり、本実施形態では、光凝固装置とする。1は、患者眼の観察等に用いるスリットランプである。スリットランプ1は下部に基台2を有している。基台2はテーブル3上に取り付けられているとともに、基台2に取り付けられている周知のジョイスティック移動機構により、テーブル3上を水平方向に移動可能となっている。ジョイスティック4を操作することにより、基台2をテーブル3の面上で粗動及び微動させることができる。テーブル3には患者を固定するための顎載せ台、額当て等を備えるヘッドレスト6が取り付けられている。
【0009】
5は本体ボックスであり、治療用レーザ光源5a、エイミング光を発生するエイミング光源5b、及びそれらのレーザ光を導光する光学系を備える。また、本体ボックス5には、照射するレーザ光のエネルギー量や照射時間等の手術パラメータを設定する各スイッチや、照明光量を調整するスイッチなどが設けられている。
【0010】
10は患者眼へ照明光及びレーザ光を照射するための投光ユニットである。投光ユニット10は、光学素子や光源等を収める筒状の筐体で形成され、ベース8に取り付けられる。投光ユニット10は、患者眼PEを照明するための照明光学系を備える照明部11と、患者眼PEに治療レーザ光を導光するレーザデリバリ光学系12とで構成される。照明部11の内部には後述する各種光学部材が備わっている。なお、照明部11の照明光軸の途中に、レーザ光を合波するミラーが配置され、後述するレーザデリバリ光学系12が接続される(図2参照)。投光ユニット10の頭頂部(ヘッド部80)には、照明光及びレーザ光を患者眼PEへと導光するプリズムミラー55が配置される。30はレーザデリバリ光学系12に接続されるレーザ導光用のファイバである。ファイバ30は、本体ボックス5に接続され、本体ボックス5からの治療用レーザ光及びエイミング光をレーザデリバリ光学系12へと導光する。このヘッド部80が、図中の矢印が示す方向に上下すると共に、プリズムミラー55が傾き、照明光やレーザ光の光軸を傾けさせることができるチルティング機構を有している(詳細は後述する)。チルティングによって、照明光やレーザ光の結像位置が同じであっても、照明光やレーザ光の光路があおられる。99は、ヘッド部80を取り付ける基台で、投光ユニット10を構成するランプハウス筐体98に固定されている。術者が手動でヘッド部80の外筒81を回転させて、ヘッド部81を上下させることができる(詳細は後述する)。また、投光ユニット10が固定されるベース8は基台2に対して軸Aを中心に回転可能となっており、観察者が必要に応じて照明光やレーザ光の照明角度を任意に変えることができるようになっている。
【0011】
20は患者眼を観察するための顕微鏡部であり、観察部位を所定の視路で立体視可能とする双眼顕微鏡である。この顕微鏡部20は、アーム9に固定される。21は倍率切換ノブ(倍率切換手段)であり、このノブ21を回転させることによって観察倍率を変更でき、さらに、観察視路角の変更もできる(詳細は後述する)。ノブ21は回転させると図示無きクリック機構により、約60度毎にクリック感が得られるようになっており、観察倍率及び観察視路角の切り換りが判断できる。
【0012】
また、投光ユニット10の場合と同様に、顕微鏡部20が固定されるアーム9は、基台2に対して軸Aを中心に回転可能となっており、術者が必要に応じて、顕微鏡部20の観察角度を任意に変えることができるようになっている。
【0013】
次に、スリットランプ1の内部構成を図2に基づき説明する。投光ユニット10の照明部11の内部には照明光源40が備えられ、照明光源40より出射した可視光束はコンデンサレンズ41を透過した後、可変アパーチャ42により高さを、可変スリット板43により幅を決定され、スリット状の光束に形成される。その後、可変スリット板43を通過したスリット照明光は投影レンズ44を介した後、プリズムミラー55で反射されて患者眼PEを照明する。眼底を観察する場合にはコンタクトレンズCLを介して照明、観察を行う場合がある。照明部11には、合波ミラー45が設置されており、レーザデリバリ光学系12からのレーザ光が照明光と同軸にされる。ミラー45には、モータにてミラー45の傾斜を数度の範囲で2次元的に変更するマニュピュレート手段47が接続されている。マニュピュレート手段47は、術者が操作する操作手段13に接続され、操作手段13からの信号により、マニュピュレート手段47は、ミラー45の傾きを変える。このようにして、治療レーザ光の照射位置を任意に微調整可能となる。なお、治療レーザ光の照射位置の微調整はミラー45を動かす構成に限るものではない。ズーム光学系51や照明部11のレンズを動かす構成であってもよい。66は術者保護フィルタであり、患者眼PEにレーザ照射を行う際に、レーザ光の反射光の一部をカットし、観察者眼OEを保護する。図中の矢印に示すように、観察光路に挿脱可能となっており、観察の際には光路から外す。
【0014】
レーザデリバリ光学系12は、本体ユニット5より出射されるレーザ光(治療用レーザ光とエイミング光)のスポットサイズを変更し、患者眼PEへと導光する。ファイバ30には、レーザ光を出射するファイバ端31が形成されている。ファイバ端31より出射されたレーザ光は、各種のレンズで構成されるズーム光学系51により、レーザ光のスポットサイズ(スポット径、照射範囲)が変更される。スポットサイズは、ファイバ端31の直径である50μmから、その20倍である1000μmまで調整可能とされる。スポットサイズの変更は図示なきズーム調整ノブ等で、各種レンズの位置を変えることにより達成される。ズーム光学系51によりスポットサイズが調整されたレーザ光はミラー53により照明部11へと導光され、先に述べたように、ミラー45により照明光とレーザ光とが同軸に合波される。
【0015】
顕微鏡部20の内部に配置される観察光学系は、左右の観察光路で共用される対物レンズ61と、左右の各光路に配置された変倍レンズ群(変倍光学系)を収める回転ドラム70、結像レンズ62、正立プリズム63、視野絞り64、接眼レンズ65を備える。先に述べたように、変倍機構75を構成する回転ドラム70は約60度毎に複数対の光学素子を配置できる構造となっており、本実施例では3つの切換え光路を持つ構成とれている。3つの切換え光路の一つには観察倍率を変更する変倍光学系71としての一対の変倍レンズ71a、71bが配置され、他の切換え光路の一つには素通しの開口部73が配置されている。そして、この変倍機構75の回転ドラム70が持つ残りの切換え光路には、観察視路角を変更する視路角変更光学系72としての一対のプリズム72a、72bが左右にそれぞれ配置されている。変倍レンズ71a、71bは、回転ドラム70内で対向するように配置される。同様に、プリズム72a、72bも回転ドラム70内の別の位置で対向するように配置される。なお、図2では、回転ドラム70が持つ切換え光路は、3つで示したが、さらに切換え光路を増やせば、変倍光学系71と異なる倍率の変倍光学系を配置することができる。回転ドラム70の切換え光路は、少なくとも3つあればよい。
【0016】
図3は、変倍機構75を左右眼の観察光軸から見たときの正面図である。右眼、左眼用の開口部73、変倍光学系71及び視路角変更光学系72が設けられた回転ドラム70は、シャフト22を介して、左右にノブ21が接続される。シャフト22が、回転ドラム70の回転軸(回転ドラム70の中心)となる。ノブ21が術者に回転されると、回転ドラム70がシャフト22を軸に回転され、変倍光学系71と視路角変更光学系72とが左右眼のそれぞれの観察光軸上(観察光路上)に選択的に挿脱配置される。このとき、左右のノブ21のどちらが回転されても、回転ドラム70は回転される。
【0017】
次に、観察倍率の切換えについて説明する。図2で示したように、左右眼のそれぞれの光軸に変倍光学系71が挿脱されることで、観察倍率が切換えられる。本実施形態では、観察倍率を10倍、16倍、25倍とする。図4は、顕微鏡部20の光学系を上からみた図である。図4では、術者保護フィルタ66は図示を略している。図中のR,Lは右眼、左眼を示す。図4(a)に示すように、回転ドラム70の開口部73を、左右眼のそれぞれの光軸に配置させると、左右眼の光軸は素通しとなる。この状態では、接眼レンズ65や他のレンズが有する各倍率が組み合わさって総合的な観察倍率となる。ここでは、観察倍率は16倍とする。次に、回転ドラム70が回転され、変倍光学系71が左右眼それぞれの光軸に配置される場合を考える。図2において、光軸に変倍光学系71が配置されると、観察倍率は16倍から、10倍又は25倍に切換えられる。これは、変倍レンズ71a、71bが、それぞれ屈折力の異なるレンズであり、接眼レンズ65側からみたレンズ配置が異なる(反転配置される)ことで、一対の変倍光学系71でつくる観察時の倍率が変更される。変倍レンズ71aは変倍レンズ71bよりも倍率が大きいため、接眼レンズ65側からみて、変倍レンズ71b、変倍レンズ71aの配置(図2の状態)となれば、観察倍率は25倍となる。反対に、接眼レンズ65側からみて、変倍レンズ71a、71bの配置となると、観察倍率は10倍となる。
【0018】
次に、観察視路角の切換えについて説明する。図4(b)は、回転ドラム70の回転によって、視路角変更光学系72が左右眼のそれぞれの光軸に配置された状態を示した図である。図4(a)での観察視路角をθ1、図4(b)では、θ2とする。
【0019】
図示するように、視路角変更光学系72が左右眼のそれぞれの光軸に挿脱されるか否かによって、観察視路角が切換えられる。プリズム72a、72bは、通過光の光軸を偏向する部材であり、本実施形態では、プリズム72a、72bとも寸法、素材等が同一の部材で形成され、それぞれのベース方向が逆向きとなるように配置されている。プリズム72a、72bの配置によって、光軸の偏向度合を調節する。
【0020】
図4(b)のように接眼レンズ65側からみたとき、光軸上にプリズム72b、72aの順に配置されると、左右眼のそれぞれの光軸は内側(対物レンズ61の光学中心方向)に偏向される。図4(b)において、左右眼のそれぞれの光軸間の距離は、図4(a)の場合より狭められるため、観察視路角θ2は観察視路角θ1より小さくなる。
【0021】
図中のS1、S2は、観察視路角θ1、θ2の場合での立体視の状態をそれぞれ模式的に示した図である。状態S1,S2において、円CR、CLは右視野及び左視野を模式的い示し、それらの円CR、CLが近づくにつれ、立体視(両眼視)の度合が低下する。状態S2では、左右の視野が状態S1に比べて近づいているため、円CR、CLの重なる部分をも広くなっている。この状態S2での観察者の立体視感覚は、状態S1と比べると劣る。しかし、観察視路角θ2がθ1より小さいため、患者眼の瞳孔の横幅が狭く、観察視路角が角度θ1の場合に左右眼いずれかの光軸のケラレを起こす状況であっても、観察視路角を角度θ2に変更すれば、眼底Fの観察を両眼で行え、立体視が可能となる。左右眼いずれかの光軸が瞳孔でケラレる状況とは、患者眼PEの眼底周辺部を観察する場合が挙げられる。患者眼PEが左右を向くことで、瞳孔が水平方向に扁平化される。このとき、観察視路角θ1のように広いと、左右眼のどちらかの光軸が瞳孔でケラレやすくなる。
【0022】
なお、図示は略すが、観察視路角を角度θ1より広げたい場合は、図4(b)に示した一対のプリズム72a,72bの配置を反転させればよい。ノブ21により、回転ドラムを約180度回転させれば、プリズム72a、bの配置が逆転され、左右眼のそれぞれの光軸は広げられる。このように、観察視路角を広げると、立体視が良好になり、瞳孔が広い場合、あるいは左右の観察光軸のケラレに注意しなくてもよいような前眼部の観察や治療には有利となる。
【0023】
以上のような構成を持つ眼科用レーザ治療装置100の動作について説明する。観察者である術者は、患者の顔をヘッドレスト6に固定させ、患者眼PEの位置を定める。術者は本体ボックスの図示なきスイッチを操作し、照明光量等を決め、接眼レンズ65から患者眼PEを観察する。術者が観察倍率を変更する際には、倍率切換ノブ21を回転させ、開口部73や一対の変倍レンズ72を光軸に挿脱させ、患部全体を見たい場合や患部の詳細な観察を行いたい場合に合せて倍率を低倍や高倍に切換る。このとき、術者は、検眼レンズ等を患者眼PEの前眼に置き、眼底を観察する。
【0024】
次に、レーザ光を患部に照射し、患者眼を治療する動作を説明する。例えば、患者眼PEの眼底の光凝固治療においては、患者眼PEの瞳孔でケラレが生じたり、眼底周辺部を光凝固したりすときは、図4(a)に示したように、通常の観察視路角θ1のままでは左右眼による眼底観察ができない場合がある。単眼のみの眼底観察状態での光凝固治療は好ましくない。これは、立体感が乏しいことにより、眼底の深さ方向の感覚が掴みにくくなるため、患部の状態が把握が難しくなるからである。特に、網膜剥離や浮腫等の眼底から、網膜が離れている状態では単眼での観察、治療は容易ではない。そこで、ノブ21の切換えによって、観察視路角を小さくし、両眼観察下で患部にレーザ光を照射する。
【0025】
術者は、眼底観察が終わった後に、本体ボックス5に配置される図示なきスイッチ類を操作し、患部に照射するレーザ光のエネルギ量や照射時間等を決定する。また、ズーム光学系51に設けられた図示なきノブ等でレーザ光のスポットサイズを決定する。そして、術者は患者眼PEの瞳孔でのケラレ等により眼底観察が容易でない場合に、ノブ21により観察視路角を変更する。装置100の設定が終わった後に、術者は、コンタクトレンズCLを患者眼PEの前眼部に接触させ、患者眼PEが動かないようにする。その後、術者は患部を観察しながら、ジョイスティック4でレーザ照射位置の位置合せを行い、図示なきフットスイッチでレーザ光を患部へと照射する。
【0026】
以上のようにして、患者眼PEの観察及び治療を行う。このとき、術者はコンタクトレンズCLを用いて治療するため、観察者眼OE(接眼レンズ65)から患者眼PEまでの距離(作動距離)が短い方が、コンタクトレンズCLを使った患者眼PEの固定がし易い。先に挙げた特許文献2のように、観察倍率を切換るユニットと観察視路角を切換るユニットが別々に組み込まれたスリットランプに比べて、本実施形態のスリットランプでは、観察倍率と観察視路角の切換えに作用する光学素子が回転ドラム70に組み込まれる一体構成となっている。このため、作動距離を延長することなく、観察倍率と観察視路角の切換えが倍率切換ノブ21によって可能となる。また、本実施形態のスリットランプは、観察視路角切換えの専用ユニットを用いず、回転ドラム70の光学素子の配置を変えるだけで、観察倍率と観察視路角の切換えに対応できるため、部品点数が少なくなり、コスト的に有利になる。なお、観察視路角を変更した上で観察倍率を変更した場合は、接眼レンズ65を異なる倍率に交換することで、種々の倍率に対応できる。また、患者眼PEの観察や治療に用いるコンタクトレンズ(検眼レンズでもよい)の倍率を何種類か用意し、選択して用いれば、観察倍率を変更できる。コンタクトレンズの倍率は、例えば、1倍、1.3倍、2倍等が挙げられる。
【0027】
次に、投光ユニット10(ヘッド部80)のチルティング機構を使った治療について説明する。先の説明では、患者眼PEの眼底治療において、瞳孔のケラレの影響を避けるために、観察視路角を変更する構成及び動作を示した。しかしながら、観察視路角を小さくしたことにより、レーザ光を患者眼PEへと導光するプリズムミラー55が観察視野に写り込む可能性が高くなる。このような、ミラー55の観察視野への写り込みを少なくさせるために、ヘッド部80のチルテイングを行う。
【0028】
図5は、ヘッド部80のチルティング機構を説明する図であり、図6は、レーザ照射における左右眼の光軸とレーザ光軸の関係及び観察視野とプリズムミラー55の関係を示す図である。図5(a)は、ヘッド部80の模式的断面図である。ヘッド部80は筒状の部材にて形成されており、これらの筒状部材はカム機構により、回転する構成となっている(図示及び詳細説明は略す)。81は、最外にある外筒であり、術者が手で回すことにより、ヘッド部80が上下移動される。82は、外筒81の下部に配置された外筒であり、基台99に固定される。83は、外筒81の内側に配置される内筒であり、外筒81の回転に伴って回転される。82aは、外筒82の上部に固定されたピンであり、ピン82aの軸は水平方向となるよう配置される。ピン82aは、各筒に設けられたカム溝(図示を略す)に嵌め合わされる。ピン82aが内筒83のカム溝に嵌め合っているため、内筒83が回転されると、内筒83のカム溝に沿って内筒83自体が上下動される。
【0029】
なお、内筒83の上部には、円状のスロープDが形成される。スロープDは、図中Dに示すように、上部の高さが異なっており、その高低差をHで示す。スロープDは、内筒83の回転によって、後述するピン93の高さ位置を上下させる。84は、レンズ44のレンズ台であり、前述のカム溝を設けられているため、内筒83の回転に伴って上下され、レンズ44の位置が上下される。
【0030】
91は、ミラー55のカバーであり、その内部は空洞になっており、後述する部材が配置される。55aはミラー55を固定するホルダであり、92はミラー55を固定する軸ピンである。ホルダ55aは、軸ピン92を軸に回転可能にカバー91に保持される。軸ピン92はミラー55(ホルダ55a)を回転させる際の基準(図中の座標中心O)となる。なお、座標の垂直方向に延びた破線(外筒81等の回転軸)は、照明光やレーザ光の光軸と一致する。93はバネ部であり、ホルダ55aはバネ部93により軸ピン92を回転中心に下方に付勢される。94は棒状のピンであり、ホルダ55aの端に上下方向に取り付けられている。ホルダ55aの回転はピン94により支えられる。ピン94の下端は、バネ部93の付勢によって、前出のスロープDと当接される。なお、カバー91は、外筒81や内筒83に当接しているのみであり、外筒81、内筒83が回転されても回転しない。
【0031】
このような構成を備えるヘッド部80のチルティング動作を簡単に説明する。術者の操作により、外筒81が回転されると、内筒83が回転される。内筒83の回転に伴い、スロープDも回転される。これにより、スロープDのピン94が当接する箇所の高さ位置が上下する。ピン94が上下することにより、ピン94が固定されるホルダ55aが、図中の矢印方向に回転される。このとき、外筒81の回転の伴い、内筒83も回転され、内筒83自体(ヘッド部80)の位置が図中矢印に示すように上下される。このとき、レンズ台84もカム溝に沿って上下され、レンズ44の配置位置が変わり、照明光やレーザ光のフォーカスが補正される(フォーカスがヘッド部80の位置に依らず合わされる)。
【0032】
本実施形態のチルティングでは、操作者が外筒81を回転させ、ヘッド部80の位置を下げる。このとき、ミラー55が回転中心Oを中心として時計回りに回転される(傾く)。図5(b)は、チルティングに伴う光軸の移動について説明する図である。ミラー55の上下は、チルティングの前後を示している。図示するように、ミラー55の上下に伴い、光軸が水平であったり、仰角がついた(眼底Fを仰ぐ)ものとなる。先に述べたように、ミラー55が矢印のような上下動に連動してミラー55の傾きが変わることにより、ミラー55の高さ位置が上下しても、眼底F上でのレーザ光や照明光の結像位置(光軸と眼底Fの交点位置)は変わらない。逆に、眼底Fでの結像位置を変えることなく、レーザ光や照明光の光路を変えることができる。
【0033】
図6は、患者眼PEの瞳部分での光軸の関係を示す図である。図中の黒点で示されるRLは右眼の観察光軸、同様に、LLは左眼の観察光軸を示し、×で示されるCはレーザ光軸(同時に照明光軸になる)である。Iは患者眼PEの瞳孔を円や楕円で示す。なお、左右眼のそれぞれの光軸RL,LL及びレーザ光軸Cは、眼底上では一点に収束する。
【0034】
図6(a)では、患者眼PEがほぼ正面を向いている状態で、観察視路角は切換えていない状態(図4(a)の観察視路角θ1の状態)を示す。図では、左右眼のそれぞれの光軸RL、LLは瞳孔にケラレることない。また、左右眼のそれぞれの光軸RL,LLの中間にはレーザ光軸Cが位置している。このような状態では、左右眼の観察視野CL、CRに入るミラー55は視野の端でしかなく、ミラー55に観察が邪魔されることなく、好適なレーザ照射ができる。
【0035】
しかし、図6(b)に示すような、瞳孔Iが楕円形状に観察される場合は、問題が生じる。図6(b)は、患者眼が左右のどちらかを向いた状態、つまり、眼底の周辺部にレーザ光を照射する場合を模式的に示している。瞳孔Iが縦長な楕円となっているため、左右眼のそれぞれの光軸RL,LLが瞳孔でケラレないように、観察視路角を角度θ1より小さな角度θ2に切換える。このとき、ミラー55が左右眼のそれぞれの観察視野CL、CRに大きく写り込む。このため、光軸RL、LLの中間に位置するレーザ光軸Cが光軸RL、LLに近接し、レーザ照射が行い難くなる場合がある。
【0036】
このような問題を低減するために、先に述べた投光ユニット10(ヘッド部80)のチルティングを行う。先に述べたように、投光ユニット10を図1の下方矢印の方向に動かすことにより、ミラー55の高さ位置が下がる。
【0037】
図6(c)は、投光ユニット10のチルティングを行った状態での光軸の関係や視野とミラー55の関係を示す図である。図では、ミラー55が下方に下がり、左右眼の観察視野CL、CRへのミラー55の写り込みが小さくなる。このため、レーザ光軸Cが下方に下がり、左右眼それぞれの光軸RL、LLから離れる。これにより、レーザ照射が行い易くなる。
【0038】
以上のようにして、投光ユニット10のチルティングにより、レーザ光及び照明光を患者眼PEへと導光するミラー55を下方に下げ、且つミラー55を傾斜させることにより、観察視路角を小さくした状態でも、観察がミラー55に邪魔されるこを低減でき、好適にレーザ照射を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】眼科用レーザ治療装置を概略側面図である。
【図2】眼科用レーザ治療装置の概略構成図である。
【図3】変倍機構75を左右眼の観察光軸から見たときの正面図である。
【図4】顕微鏡部20の光学系を上からみた図である。
【図5】ヘッド部80のチルティング機構を説明する図である。
【図6】レーザ照射における左右眼の光軸とレーザ光軸の関係及び観察視野とプリズムミラー55の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
20 顕微鏡部
21 ノブ
55 プリズムミラー
61 対物レンズ
65 接眼レンズ
71 変倍光学系
71a、71b 変倍レンズ
72 視路角変更光学系
72a、72b プリズム
70 回転ドラム
75 変倍機構
80 ヘッド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者眼に照明光を投光する投光ユニットと、患者眼を観察する双眼の顕微鏡部であって、観察倍率を変える変倍光学系を左右の各光路に切換え配置する変倍機構部が対物レンズと双眼の接眼レンズとの間の観察光路に配置された顕微鏡部と、を備える細隙灯顕微鏡において、
前記変倍機構部に左右の観察視路角を変えるための視路角変更光学系が設けられ、前記視路角変更光学系と変倍光学系とが観察光学系の光路に選択的に切換え配置される構成としたことを特徴とする細隙灯顕微鏡。
【請求項2】
請求項1の細隙灯顕微鏡において、前記変倍機構部は少なくとも3つの切換え光路を持ち、その一つの切換え光路に前記変倍光学系が配置され、他の一つの切換え光路に前記視路角変更光学系が配置され、前記視路角変更光学系はベース方向が逆向きとされた2つのプリズムを備えることを特徴とする細隙灯顕微鏡。
【請求項3】
治療用レーザ光源と、該レーザ光源からの治療用レーザ光を患者眼に導光照射する照射光学系と、を備える眼科用レーザ治療装置において、
請求項1又は2の細隙灯顕微鏡を患者眼の観察手段として備えることを特徴とする眼科用レーザ治療装置。
【請求項4】
請求項3の眼科用レーザ治療装置において、前記細隙灯顕微鏡が持つ前記投光ユニットは、照明光の光軸と前記レーザ光源から導光されるレーザ光の光軸とを同軸に合波する合波光学素子と、同軸に合波された照明光及びレーザ光を患者眼に向けて反射するミラーであって、前記顕微鏡が持つ対物レンズの患者眼側で左右の観察光路の間に配置されたミラーと、該ミラーを下方に移動させ、且つミラーが移動したときに照明光及びレーザ光の反射方向を上方に傾斜させるチルティング機構と、を備え、
前記視路角変更光学系が顕微鏡の観察光路に配置されて視路角が狭く変更されたときに、前記チルティング機構により前記ミラーが下方に移動されると共に傾斜され、左右の観察視野への前記ミラーの移り込みを少なくしてレーザ光の照射を可能にしたことを特徴とする眼科用レーザ治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−86435(P2008−86435A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−268677(P2006−268677)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】