説明

組電池及びその製造方法,電池パック,組電池モジュール,それを搭載した車両,電池搭載機器

【課題】組電池における,各単電池のハイレート劣化によるバラツキの発生を抑制することのできる組電池及びその製造方法,電池パック,組電池モジュール,それを搭載した車両,電池搭載機器を提供すること。
【解決手段】本発明は,複数個の2次電池を組み合わせた組電池であって,複数個の2次電池のうち,使用時により低温となる領域に配置されているものにおける電解液量と比較して,複数個の2次電池のうち,使用時により高温となる領域に配置されているものにおける電解液量が多いものである。あるいは,複数個の2次電池を組み合わせた組電池と,組電池の各2次電池の充電状態を制御する充電状態制御部とを有する組電池モジュールであって,充電状態制御部が,使用時により低温となる領域に配置されているものにおける充電状態と比較して,使用時により高温となる領域に配置されているものにおける充電状態を低くするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えば,複数個のリチウムイオン2次電池等の2次電池のセル(単電池)を組み合わせて互いに接続し,一体的に使用する組電池及びその製造方法と,組電池とその充電状態の制御を行う充電状態制御部とを有する組電池モジュール,さらには,電池パック,組電池あるいは組電池モジュールを搭載した車両や電池搭載機器に関する。さらに詳細には,冷却媒体の流路を形成することにより,個々の2次電池によって使用時の温度が多少異なる組電池及びその製造方法,電池パック,組電池モジュール,それを搭載した車両または電池搭載機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より,複数個の単電池を互いに接続して,高電圧・大容量の組電池として使用することが行われている。このようなものでは,通常,組電池の全体として充電および放電が行われているにもかかわらず,ある程度,単電池ごとに容量のバラツキが生じる。バラツキが生じたまま使用し続けると,単電池によっては過放電や過充電等の原因となる。そのため従来より,各単電池の電圧値等をモニターし,均等化するシステムが,各種提案されている。
【0003】
例えば,残存容量を検出し,その差が小さくなるように単電池ごとに充電あるいは放電する処理を行うことが行われている。さらには,特許文献1には,各単電池の端子間電圧を検出して制御する技術が開示されている。この技術によれば,電圧値の高いものを放電させるだけで,バラツキが均等化できるとされている。あるいは,特許文献2には,電圧バラツキ量に基づいて,組電池のSOC(State Of Charge;充電状態値)の目標値を決定する技術が開示されている。そして,車両の走行頻度に対応して適切な容量調整ができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−218376号公報
【特許文献2】特開2007−87863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,前記した従来の各調整方法は,いずれも,バラツキが生じた組電池に対して,事後的に調整を行うものであり,バラツキの発生自体を抑制するものではなかった。特に,走行モードによっては,ハイレートな充放電を繰り返すことによるハイレート劣化の発生が避けられない。さらに,このハイレート劣化の進行具合は,単電池ごとの使用環境等によってやや異なることが分かってきた。各単電池の劣化の程度にバラツキが生じることにより,電圧や残存容量がさらにばらつくという問題点があった。
【0006】
本発明は,前記した従来の組電池が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,組電池における,各単電池のハイレート劣化によるバラツキの発生を抑制することのできる組電池及びその製造方法,電池パック,組電池モジュール,それを搭載した車両,電池搭載機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の組電池は,複数個の2次電池を組み合わせた組電池であって,複数個の2次電池のうち,使用時により低温となる領域に配置されているものにおける電解液量と比較して,複数個の2次電池のうち,使用時により高温となる領域に配置されているものにおける電解液量が多いものである。
【0008】
本発明者は,単電池のハイレート劣化の進行が,高温環境より低温環境においてより速く,また,電解液量の少ないものより電解液量の多いものでより速いことを見出した。本発明の組電池では,低温環境で使用されるものは電解液量をより少なく,高温環境で使用されるものは電解液量をより多くしているので,これらの2つの条件によるハイレート劣化の進行のバラツキが互いに打ち消される。従って,各単電池のハイレート劣化によるバラツキの発生を抑制することのできる組電池となっている。
【0009】
あるいは,本発明の組電池モジュールは,複数個の2次電池を組み合わせた組電池と,組電池の各2次電池の充電状態を制御する充電状態制御部とを有する組電池モジュールであって,充電状態制御部は,複数個の2次電池のうち,使用時により低温となる領域に配置されているものにおける充電状態と比較して,複数個の2次電池のうち,使用時により高温となる領域に配置されているものにおける充電状態を低くするものである。
【0010】
本発明者はさらに,単電池のハイレート劣化の進行が,充電状態の高いものより低いものにおいてより速いことをも見出した。本発明の組電池モジュールによれば,使用時の温度によるハイレート劣化の進行のバラツキを,充電状態の高低によって打ち消すことができる。従って,各単電池のハイレート劣化によるバラツキの発生を抑制することのできる組電池モジュールとなっている。
【0011】
また,本発明は,組電池あるいは組電池モジュールを,複数個の2次電池を冷却するための冷却媒体を取り入れる入口と,冷却媒体を排出する出口とを有する組電池パックとし,使用時により低温となる領域は,組電池中の入口から最も近い電池を含む領域であり,使用時により高温となる領域は,組電池中のそれ以外の領域であるものにも及ぶ。
冷却媒体を入口から取り入れ,出口から排出するように構成された電池パックであれば,組電池中の入口から最も近い電池を含む領域の電池は,入口から取り入れられた冷却媒体によってよく冷却されるので,使用時により低温となる。
【0012】
さらに本発明では,充電状態制御部は,充電状態の高い2次電池を放電させることにより各2次電池の電圧を均等化する制御を行うものであり,使用時により低温となる領域に含まれる2次電池に対しては,放電させないか,または,使用時により高温となる領域に含まれる2次電池より高い充電状態までしか放電させないことが望ましい。
このようにすれば,使用時により低温となる領域に配置されている2次電池の充電状態を,使用時により高温となる領域に配置されているものにおける充電状態に比較して,より高い状態とすることが容易である。
【0013】
さらに本発明では,複数個の2次電池が2列に配置されている組電池に対して,第1の列の一端の2次電池における第2の列の反対側から冷却媒体を取り入れ,第1の列の各2次電池における第2の列の反対側に一端から他端に向けて冷却媒体を流し,第1の列および第2の列の他端で折り返し,第2の列の各2次電池における第1の列の反対側に他端から一端に向けて冷却媒体を流し,第2の列の一端の2次電池における第1の列の反対側から冷却媒体を排出する冷却媒体路が形成されているものについて,以下(A)〜(F)のいずれかであることが望ましい。
これらのいずれの構成であっても,各単電池のハイレート劣化によるバラツキの発生を抑制することができる。
【0014】
(A)第1の列を一端側の区間と他端側の区間とに2分したときの一端側の区間に属する2次電池の電解液量が少なく,第1の列の他端側に属する2次電池,および,第2の列に属する2次電池の電解液量が多い組電池。
(B)第2の列を一端側の区間と他端側の区間とに2分したときの他端側の区間に属する2次電池の電解液量が多く,第1の列に属する2次電池,および,第2の列の一端側に属する2次電池の電解液量が少ない組電池。
(C)第1の列を一端側の区間と他端側の区間とに2分するとともに,第2の列を第1の列の2分箇所より一端側に近い箇所で一端側の区間と他端側の区間とに2分したときの,第1の列の一端側の区間に属する2次電池,および,第2の列の一端側の区間に属する2次電池の電解液量が少なく,第1の列の他端側の区間に属する2次電池,および,第2の列の他端側に属する2次電池の電解液量が多い組電池。
【0015】
(D)第1の列を一端側の区間と他端側の区間とに2分したときの一端側の区間に属する2次電池の充電状態を高く,第1の列の他端側に属する2次電池,および,第2の列に属する2次電池の充電状態を低くする組電池モジュール。
(E)第2の列を一端側の区間と他端側の区間とに2分したときの他端側の区間に属する2次電池の充電状態を低く,第1の列に属する2次電池,および,第2の列の一端側に属する2次電池の充電状態を高くする組電池モジュール。
(F)第1の列を一端側の区間と他端側の区間とに2分するとともに,第2の列を第1の列の2分箇所より一端側に近い箇所で一端側の区間と他端側の区間とに2分したときの,第1の列の一端側の区間に属する2次電池,および,第2の列の一端側の区間に属する2次電池の充電状態を低く,第1の列の他端側の区間に属する2次電池,および,第2の列の他端側に属する2次電池の充電状態を高くする組電池モジュール。
【0016】
また,本発明は,複数個の2次電池を組み合わせた組電池の製造方法であって,内部に収納される電解液量の異なる2次電池を用意し,電解液量の多い2次電池を使用時により低温となる領域に配置し,電解液量の少ない2次電池を使用時により高温となる領域に配置する組電池の製造方法にも及ぶ。
【0017】
さらに本発明は,上記のいずれかの組電池,電池パックあるいは組電池モジュールを搭載した車両にも及ぶ。さらには,上記のいずれかの組電池,電池パックあるいは組電池モジュールを搭載した電池搭載機器にも及ぶ。
【発明の効果】
【0018】
本発明の組電池及びその製造方法,電池パック,組電池モジュール,それを搭載した車両,電池搭載機器によれば,組電池における,各単電池のハイレート劣化によるバラツキの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】組電池の構成を示す説明図である。
【図2】組電池の使用時の各単電池の温度を示す説明図である。
【図3】ハイレートなパルスの例を示すグラフ図である。
【図4】温度とハイレート劣化との関係を示すグラフ図である。
【図5】電解液量とハイレート劣化との関係を示すグラフ図である。
【図6】SOCとハイレート劣化との関係を示すグラフ図である。
【図7】組電池の区分の例を示す説明図である。
【図8】組電池モジュールを示す説明図である。
【図9】組電池の区分の例を示す説明図である。
【図10】組電池の区分の例を示す説明図である。
【図11】組電池を使用する車両を示す説明図である。
【図12】組電池を使用する電池搭載機器の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下,本発明を具体化した最良の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,複数個の単電池を組み合わせた組電池に本発明を適用したものである。
【0021】
本形態の組電池10は,例えば自動車に搭載して使用される組電池10である。ここでは,図1に示すように,全部で56個の単電池A−1〜A−56が28個ずつ2列に並べられているものである。そして,各列の単電池は,その扁平面同士が対向されており,図ではそれぞれの幅狭の面が見えている。さらに,28個の単電池を並べた2つの列が,それぞれの側面を互いに対向して並べて配置されている。
【0022】
また本形態では,図1に示すように,この組電池10の外周を一巡する空気路12が形成されている。組電池10は,使用によってある程度発熱するので,この空気路12に空気を流すことによって冷却されるようになっている。組電池10の使用中には,常時,この空気路12に図中に実線の矢印Wで示すように,空気が流されている。
【0023】
本形態では説明のために,この空気流の向きに沿って,各単電池に,図1に示すようにそれぞれ番号を与えている。すなわち,図中右上隅の単電池をA−1とし,そこから図中下方に順にA−2,A−3,…,A−28とした。さらに,A−28の図中左隣をA−29とし,そこから図中上方に順にA−30,A−31,…,A−56とした。さらに,図中右側の単電池A−1〜A−28を含む列を列1,図中左側の単電池A−29〜A−56を含む列を列2とした。また,各列中で図中上側(単電池A−1,A−56の配置されている側)を一端側,図中下側(単電池A−28,A−29の配置されている側)を他端側とした。
【0024】
なお,本形態の組電池10に含まれる各単電池は,いずれも扁平形状の密閉型リチウムイオン2次電池である。さらに,本形態では,すべての単電池が互いに直列に接続されて使用されている。しかし,ここで与えた電池番号は便宜的なものであり,電気的な接続の順序を示すものではない。
【0025】
本形態の組電池10の空気路12には,図1中右上隅の単電池A−1の図中右上隅の箇所に入口13が設けられている。また,図中左上隅の単電池A−56の図中左上隅の箇所に出口14が設けられている。すなわち,列1の一端側の単電池A−1の列2の反対側に入口13が,列2の一端側の単電池A−56の列1の反対側に出口14が設けられている。このようになっているものを,電池パックという。
【0026】
そして,空気は,入口13から空気路12に入り,列1の図中右側(列2の反対側)を列1に沿って他端へ向けて(図中下方へ)流れる。空気路12は,組電池10の下端部で,その外周に沿って折り返されている。従って,空気は,他端に配置された単電池A−28と単電池A−29の図中下側に沿って,図中右から左へと流れる。さらに,列2の図中左側(列1の反対側)を列2に沿って一端へ向けて(図中上方へ)流れ,出口14から排出されるようになっている。
【0027】
なお,各単電池の扁平面同士の間には,例えば櫛歯状の保持部材を挟み込む等の手段により,多少の隙間が設けられている。そして,空気路12中の空気の一部は,その隙間を通って列1側から列2側へ流れるようになっている。すなわち,図1中に点線の矢印Yで示すように,各単電池の間を通って図中右から左へ向かう空気の流れもできるようになっている。
【0028】
本発明者は,このような,図1中に矢印W,Yで示した空気流が流れる組電池10において,使用中の各単電池に発生する温度分布を測定した。すなわち,この組電池10を搭載したモニタ用の自動車において,それぞれの単電池A−1〜A−56にサーミスタを設置し,走行中における各単電池の温度の測定を行った。その結果を図2に示す。すなわち,空気路12の流入口に近い単電池(電池番号の小さいもの)が,比較的低温であった。また,空気路12の出口14に近い電池番号の最後の方より,中程のものが高温となっていた。
【0029】
また,本発明者は,この組電池10に組み込まれている単電池のハイレート劣化について調査した。ハイレート劣化とは,ハイレート条件において電池を使用することによって進行する劣化のことである。例えば,図3の例に示すように,急激な放電または急激な充電が行われる使用条件がハイレート条件である。特に急激な放電は,組電池10に含まれる各単電池にとって負荷が大きい。そのため,ハイレート条件での使用が繰り返されると,劣化が大きく進行することが分かっている。なお,ハイレート条件は,車両の運転状況等により不可避的に発生するものであり,その発生自体を防止することはできない。
【0030】
そこで,本発明者は,このようなハイレート条件での使用における単電池の劣化の進行の程度を,その使用温度や,電解液量,SOCとの関係として調査した。すなわち,以下の3種の試験を行った。
(1)使用温度の差によるハイレート劣化の進行程度の違い
(2)電池に収納する電解液量とハイレート劣化の進行程度との関係
(3)電池を制御する目標SOCとハイレート劣化の進行程度との関係
【0031】
なお,SOC値は,電池の充電状態を示すパラメータである。可逆的に充放電可能な電池電圧の範囲内において,その上限となる電池電圧が得られる充電状態をSOCが100%,下限となる電池電圧が得られる充電状態をSOCが0%であるという。従って,その数値が大きいことは,その電池はより充電された状態にあり,例えばフル充電に近いことを示している。また,この数値が小さいことは,その電池はあまり充電されておらず,充電状態が例えば完全放電に近いことを示している。
【0032】
この実験では,評価条件として,まず,電池のSOCの目標値を60%に設定し,次の測定サイクルを用いた。電池に対して150A10s放電と40A120sCCCV(Constant Current Constant Voltage)充電との組を1サイクルとし,所定サイクル数だけ繰り返した。すなわち,150Aで10秒間放電し,次に,40Aの定電流で120秒間充電した。これにより,充電後には電池のSOCは約60%となる。なお,この充放電条件はハイレート条件に相当する。
【0033】
(1)使用温度とハイレート劣化
単電池を,25℃,40℃,60℃の3種類の環境にそれぞれおき,上記測定サイクルのサイクル数2000回,5000回,9000回において,単電池の抵抗増加率を測定した。実験(1)の結果は,図4に示す通りであった。低温環境のものほど,少ないサイクル数で抵抗が大きく増加した。この抵抗の増加は単電池の劣化によるものである。すなわち,これらの温度範囲では,高温環境で使用するほど劣化の進行は遅いことが分かった。そして,低温環境では,劣化の進行が速かった。
【0034】
(2)電解液量とハイレート劣化
単電池内に収容する電解液量を,標準より+6gまたは+9g多くした単電池,および標準量のものと3種類作成した。なお,一般的に車載される組電池では+6gが標準量の約+10〜13%程度であり,+9gが標準量の約+15〜20%程度である。本形態で使用している単電池では,+6gとは標準量の約+10%,+9gとは標準量の約+15%に相当する。これらの単電池に上記測定サイクルを行い,サイクル数400回,1000回での150A10s抵抗をそれぞれ測定した。すなわち,上記の各サイクル数において,150Aで10秒間放電した直後の抵抗を測定した。
【0035】
実験(2)の結果は,図5に示す通りであった。すなわち,電解液量を多くしたものほど,400回から1000回の間に,抵抗値が大きく上昇した。これは,その間に劣化が大きく進行したことを示している。このことから,電解液量が多いものほどハイレート劣化の進行が速いことが分かった。
【0036】
(3)SOCとハイレート劣化
同種の単電池を異なる目標SOCで制御し,SOCの目標値が60%のものと40%のものとを比較した。すなわち,先に示した測定条件のものの他に,測定条件のうちSOCの目標値を40%に変更したものについても測定した。SOCを40%とするために,充放電サイクルは先の測定条件と基本的に同じであるが,充電時間を先の条件より短くした。そして,これらの単電池に対して適宜150A10s抵抗を測定しつつ,上記と同様の測定サイクルを1000サイクルまで実施した。
【0037】
実験(3)の結果は,図6に示す通りであった。すなわち,SOC60%のものでは,サイクル数に対する抵抗の上昇がさほど大きくないのに対し,SOCが40%のものでは,サイクル数に応じて抵抗がかなり上昇した。これにより,SOC40%では,60%のものに比較して,劣化の進行はかなり速いことがわかった。
【0038】
以上の3種類の実験により,本形態では,以下の3つの条件によりハイレート劣化の進行が特に速くなることが分かった。(1)温度環境が低温,(2)電解液量が多い,(3)SOCが低いの3つである。これらの逆の条件において,ハイレート劣化の進行は遅くなる。
【0039】
そこで,上記の各実験結果をふまえて,本形態では,組電池10に含まれる各単電池A−1〜A−56のハイレート劣化の進行状態がほぼ同程度となるようにしている。本形態の組電池10では,前述したように,単電池の配置により使用時の温度環境がやや異なる。そのため,温度環境以外の条件をすべて等しくしておくと,単電池の配置によりハイレート劣化の進行に差が生じてしまうからである。一部の単電池のみに大きく劣化が進むことは,組電池10の内部に大きい電圧バラツキを招くこととなるので好ましくない。そこで,他の(2)または(3)の条件を組み合わせることにより,温度によるハイレート劣化のバラツキをキャンセルするようにしている。これにより,各単電池のハイレート劣化の進行状態を合わせたものとしている。
【0040】
温度条件によるハイレート劣化が進行しやすいのは,使用時に低温環境となりがちな単電池であり,空気の流入口近くに配置されるものである。例えば,図2に範囲Pで示した単電池である。この範囲Pは,図7に斜線で示すように,列1を2分して,一端側の区間に属する単電池である。本形態の組電池10では,単電池A−1〜A−12である。そこで,この範囲Pに属する単電池A−1〜A−12と,それ以外(単電池A−13〜A−56)とを区分し,このいずれに属するかによって温度以外の条件を異なるものとしている。
【0041】
すなわち,本形態では,(2)または(3)の条件を用いて,この範囲Pの単電池のハイレート劣化の程度をそれ以外のものと同程度となるようにしている。すなわち,範囲Pの単電池を他のものに比較して電解液量を少なくする(第1の形態)。あるいは,範囲Pの単電池を他のものに比較してSOCを高くする(第2の形態)。
【0042】
(第1の形態)
第1の形態の組電池10は,図2の範囲Pに相当する単電池の電解液量を,他のものに比較して少なくしたものである。すなわち,収容されている電解液量の異なる2種類の単電池を用意して,少ないものをこの範囲Pに,多いものを他の領域に配置する。範囲Pに配置される単電池は,低温環境であるため,他のものよりハイレート劣化の進行が速い。一方,電解液量の少ないものは多いものよりハイレート劣化の進行が遅い。従って,範囲Pに電解液量の少ない単電池を配置することにより,組電池10の全体でのハイレート劣化の進行の程度を合わせることができる。
【0043】
ただし,標準液量はその単電池にとって最適な液量であり,通常,これより少ない液量とすることは困難である。そのため,範囲P以外の単電池の液量を,標準液量よりやや多くする。このようにしても,組電池全体の劣化という観点からはより望ましいものとなる。なお,電解液量をさらに多段階として,温度分布に応じて,少ないものほど低温環境の位置に配置されるようにしてもよい。なおここで,用意するとは,その条件を満たす単電池を社内で製造することによってもよい。あるいは,外注により製造させて入手してもよいし,該当する条件のものが仮に市場に存在した場合には,それを購入することによってもよい。
【0044】
(第2の形態)
第2の形態の組電池モジュール20は,図8に示すように,組電池10とこれを制御する制御部21,22とを有するものである。これらの制御部21,22はいずれも,いわゆる均等化制御を行うものである。均等化制御とは,組電池に組み込まれている各単電池の充電状態を均等化する制御である。この制御は,例えば特開2001−218376号公報に記載されているように,電圧が他の電池に比較して高くなりすぎた単電池を放電させることにより行うことができる。本形態の制御部21,22は,それぞれ異なるSOCを目標として均等化制御を行うものである。
【0045】
本形態の組電池10では,制御部21は,低温環境となる範囲Pに含まれる単電池A−1〜A−12を制御する。制御部22は,範囲P以外の単電池A−13〜A−56を制御する。そして,制御部21は,制御部22に比較して,SOCが高くなるように制御するのである。これにより,低温環境となりがちな単電池を,他のものに比較してSOCが高くなるように制御することができる。
【0046】
このようにすることにより,範囲Pに配置される単電池A−1〜A−12は,他のものに比較して,低温環境のためにハイレート劣化の進行が速いとともに,SOCが高いためにハイレート劣化の進行が遅い。従って,組電池10の全体でのハイレート劣化の進行の程度を合わせることができる。なお,均等化制御を行わないことでSOCの高い状態を保持できるのであれば,制御部21はなくてもよい。
【0047】
なお,上記の第1の形態および第2の形態において,この低温環境となる単電池とそれ以外の単電池との区分の仕方は,図7に示した範囲Pによるものに限らない。図2に示したように,区分のための境界温度の設定により,様々なパターンが可能である。例えば,図2に示した高温となる範囲Qを設定し,それ以外のものを低温環境の範囲としてもよい。この場合には,図9に斜線で示すように,列2を2分して,他端側の区間に属する単電池が,範囲Qに含まれるものである。この例では,範囲Qに含まれる単電池A−29〜A−43を使用時に高温となる領域とし,その他の単電池A−1〜A−28,A−44〜A−56を使用時に低温となる領域とする。
【0048】
あるいは,低温領域と高温領域とがともに列1と列2とにまたがった範囲となるように区分してもよい。そのようにすると,例えば,低温領域に属する単電池の個数と高温領域に属する単電池の個数とがほぼ同数となるように区分することもできる。例えば,図2に低温範囲R1と高温範囲R2とで示したような区分である。この場合には,図10に示すように,列1と列2をそれぞれ2分する。ただし,列1を2分する箇所は他端側寄りであり,列2を2分する箇所は,列1を2分する箇所に比較して一端側寄りである。そして,図10に斜線で示す範囲,すなわち,列1と列2とのそれぞれにおいて,2分箇所より一端側の区間を合わせた範囲に属する単電池A−1〜A−26,A−55〜A−56を低温範囲R1に含まれるものとする。そして,残りの単電池A−27〜A−54を高温範囲R2とする。
【0049】
さらに,低温となる領域と高温となる領域とに2分するものに限らず,より多段階に分けてもよい。またあるいは,外気温等によって,この区分の仕方を可変のものとしてもよい。
【0050】
この組電池10または電池パックは,例えば,図11に示すように,車両200に搭載して使用される。この車両200は,エンジン240,フロントモータ220及びリアモータ230を併用して駆動するハイブリッド自動車である。この車両200は,車体290,エンジン240,これに取り付けられたフロントモータ220,リアモータ230,ケーブル250,インバータ260及び複数の2次電池(単電池)を自身の内部に有する組電池10または電池パックを有している。
【0051】
なお,車両としては,その動力源の全部あるいは一部に電池による電気エネルギを使用している車両であれば良く,例えば,電気自動車,ハイブリッド自動車,プラグインハイブリッド自動車,ハイブリッド鉄道車両,フォークリフト,電気車椅子,電動アシスト自転車,電動スクータ等が挙げられる。
【0052】
組電池10または電池パックは,あるいは,図12に示すように,電池搭載機器に使用することもできる。この図に示すのは,本形態の組電池10を搭載したハンマードリル300である。このハンマードリル300は,組電池10または電池パック,本体320を有する電池搭載機器である。なお,組電池10または電池パックは,ハンマードリル300の本体320のうち底部321に着脱可能に収容されている。
【0053】
なお,電池搭載機器としては,電池を搭載しこれをエネルギー源の少なくとも1つとして利用する機器であれば良く,例えば,パーソナルコンピュータ,携帯電話,電池駆動の電動工具,無停電電源装置など,電池で駆動される各種の家電製品,オフィス機器,産業機器が挙げられる。車両200または電池搭載機器に搭載される組電池10または電池パックは,第1の形態のものでも第2の形態のものでも構わない。
【0054】
以上詳細に説明したように本形態の組電池10によれば,使用環境によって単電池ごとにその温度が異なっているものであっても,そのハイレート劣化の進行程度を調整できる。すなわち,使用環境が低温であるものではハイレート劣化が進みやすいので,電解液量を少なく,またはSOCを大きくすることにより,他の電池と劣化の程度を合わせることができる。従って,組電池10に含まれている各単電池のハイレート劣化のバラツキを抑制することのできるものとなっている。
【0055】
なお,本形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。
例えば,上記の形態では,冷却媒体として空気を使用する例を示しているが,冷却媒体としては空気に限らない。例えば,水による水冷や油による油冷によっても冷却することはできる。また,本形態では,すべての単電池を直列に接続したものとしたが,電気的な接続の形態はこれに限らない。例えば,複数個の単電池を直列に接続したものを複数個並列に接続したものであってもよい。単電池によって使用温度が多少異なる組電池であれば,どのようなものでも適用可能である。また,組電池に組み込まれる単電池は,リチウムイオン2次電池に限らない。
【符号の説明】
【0056】
10 組電池
12 空気路
13 入口
14 出口
21,22 制御部
200 車両
300 ハンマードリル
A−1〜A−56 単電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の2次電池を組み合わせた組電池において,
前記複数個の2次電池のうち,使用時により低温となる領域に配置されているものにおける電解液量と比較して,
前記複数個の2次電池のうち,使用時により高温となる領域に配置されているものにおける電解液量が多いことを特徴とする組電池。
【請求項2】
請求項1に記載の組電池を有する電池パックにおいて,
前記複数個の2次電池を冷却するための冷却媒体を取り入れる入口と,
前記冷却媒体を排出する出口とを有し,
前記使用時により低温となる領域は,組電池中の前記入口から最も近い電池を含む領域であり,
前記使用時により高温となる領域は,組電池中のそれ以外の領域であることを特徴とする電池パック。
【請求項3】
請求項1に記載の組電池において,
前記複数個の2次電池が2列に配置されており,
第1の列の一端の2次電池における第2の列の反対側から冷却媒体を取り入れ,前記第1の列の各2次電池における第2の列の反対側に前記一端から他端に向けて冷却媒体を流し,前記第1の列および第2の列の他端で折り返し,前記第2の列の各2次電池における第1の列の反対側に前記他端から前記一端に向けて冷却媒体を流し,前記第2の列の前記一端の2次電池における第1の列の反対側から冷却媒体を排出する冷却媒体路が形成されており,
前記第1の列を前記一端側の区間と前記他端側の区間とに2分したときの前記一端側の区間に属する2次電池の電解液量が少なく,
前記第1の列の前記他端側に属する2次電池,および,前記第2の列に属する2次電池の電解液量が多いことを特徴とする組電池。
【請求項4】
請求項1に記載の組電池において,
前記複数個の2次電池が2列に配置されており,
第1の列の一端の2次電池における第2の列の反対側から冷却媒体を取り入れ,前記第1の列の各2次電池における第2の列の反対側に前記一端から他端に向けて冷却媒体を流し,前記第1の列および第2の列の他端で折り返し,前記第2の列の各2次電池における第1の列の反対側に前記他端から前記一端に向けて冷却媒体を流し,前記第2の列の前記一端の2次電池における第1の列の反対側から冷却媒体を排出する冷却媒体路が形成されており,
前記第2の列を前記一端側の区間と前記他端側の区間とに2分したときの前記他端側の区間に属する2次電池の電解液量が多く,
前記第1の列に属する2次電池,および,前記第2の列の前記一端側に属する2次電池の電解液量が少ないことを特徴とする組電池。
【請求項5】
請求項1に記載の組電池において,
前記複数個の2次電池が2列に配置されており,
第1の列の一端の2次電池における第2の列の反対側から冷却媒体を取り入れ,前記第1の列の各2次電池における第2の列の反対側に前記一端から他端に向けて冷却媒体を流し,前記第1の列および第2の列の他端で折り返し,前記第2の列の各2次電池における第1の列の反対側に前記他端から前記一端に向けて冷却媒体を流し,前記第2の列の前記一端の2次電池における第1の列の反対側から冷却媒体を排出する冷却媒体路が形成されており,
前記第1の列を前記一端側の区間と前記他端側の区間とに2分するとともに,第2の列を前記第1の列の2分箇所より前記一端側に近い箇所で前記一端側の区間と前記他端側の区間とに2分したときの,前記第1の列の前記一端側の区間に属する2次電池,および,前記第2の列の前記一端側の区間に属する2次電池の電解液量が少なく,
前記第1の列の前記他端側の区間に属する2次電池,および,前記第2の列の前記他端側に属する2次電池の電解液量が多いことを特徴とする組電池。
【請求項6】
複数個の2次電池を組み合わせた組電池の製造方法において,
内部に収納される電解液量の異なる2次電池を用意し,
電解液量の多い2次電池を使用時により低温となる領域に配置し,
電解液量の少ない2次電池を使用時により高温となる領域に配置することを特徴とする組電池の製造方法。
【請求項7】
複数個の2次電池を組み合わせた組電池と,前記組電池の各2次電池の充電状態を制御する充電状態制御部とを有する組電池モジュールにおいて,前記充電状態制御部は,
前記複数個の2次電池のうち,使用時により低温となる領域に配置されているものにおける充電状態と比較して,
前記複数個の2次電池のうち,使用時により高温となる領域に配置されているものにおける充電状態を低くするものであることを特徴とする組電池モジュール。
【請求項8】
請求項7に記載の組電池モジュールにおいて,
前記組電池が,前記複数個の2次電池が2列に配置されているものであり,
第1の列の一端の2次電池における第2の列の反対側から冷却媒体を取り入れ,前記第1の列の各2次電池における第2の列の反対側に前記一端から他端に向けて冷却媒体を流し,前記第1の列および第2の列の他端で折り返し,前記第2の列の各2次電池における第1の列の反対側に前記他端から前記一端に向けて冷却媒体を流し,前記第2の列の前記一端の2次電池における第1の列の反対側から冷却媒体を排出する冷却媒体路が形成されており,
前記第1の列を前記一端側の区間と前記他端側の区間とに2分したときの前記一端側の区間に属する2次電池の充電状態を高く,
前記第1の列の前記他端側に属する2次電池,および,前記第2の列に属する2次電池の充電状態を低くすることを特徴とする組電池モジュール。
【請求項9】
請求項7に記載の組電池モジュールにおいて,
前記組電池が,前記複数個の2次電池が2列に配置されているものであり,
第1の列の一端の2次電池における第2の列の反対側から冷却媒体を取り入れ,前記第1の列の各2次電池における第2の列の反対側に前記一端から他端に向けて冷却媒体を流し,前記第1の列および第2の列の他端で折り返し,前記第2の列の各2次電池における第1の列の反対側に前記他端から前記一端に向けて冷却媒体を流し,前記第2の列の前記一端の2次電池における第1の列の反対側から冷却媒体を排出する冷却媒体路が形成されており,
前記第2の列を前記一端側の区間と前記他端側の区間とに2分したときの前記他端側の区間に属する2次電池の充電状態を低く,
前記第1の列に属する2次電池,および,前記第2の列の前記一端側に属する2次電池の充電状態を高くすることを特徴とする組電池モジュール。
【請求項10】
請求項7に記載の組電池モジュールにおいて,
前記組電池が,前記複数個の2次電池が2列に配置されているものであり,
第1の列の一端の2次電池における第2の列の反対側から冷却媒体を取り入れ,前記第1の列の各2次電池における第2の列の反対側に前記一端から他端に向けて冷却媒体を流し,前記第1の列および第2の列の他端で折り返し,前記第2の列の各2次電池における第1の列の反対側に前記他端から前記一端に向けて冷却媒体を流し,前記第2の列の前記一端の2次電池における第1の列の反対側から冷却媒体を排出する冷却媒体路が形成されており,
前記第1の列を前記一端側の区間と前記他端側の区間とに2分するとともに,第2の列を前記第1の列の2分箇所より前記一端側に近い箇所で前記一端側の区間と前記他端側の区間とに2分したときの,前記第1の列の前記一端側の区間に属する2次電池,および,前記第2の列の前記一端側の区間に属する2次電池の充電状態を低く,
前記第1の列の前記他端側の区間に属する2次電池,および,前記第2の列の前記他端側に属する2次電池の充電状態を高くすることを特徴とする組電池モジュール。
【請求項11】
請求項7から請求項10までのいずれか1つに記載の組電池モジュールにおいて,
前記充電状態制御部は,充電状態の高い2次電池を放電させることにより各2次電池の電圧を均等化する制御を行うものであり,
使用時により低温となる領域に含まれる2次電池に対しては,放電させないか,または,使用時により高温となる領域に含まれる2次電池より高い充電状態までしか放電させないことを特徴とする組電池モジュール。
【請求項12】
請求項7に記載の組電池モジュールにおいて,
前記組電池が,
前記複数個の2次電池を冷却するための冷却媒体を取り入れる入口と,
前記冷却媒体を排出する出口とを有する電池パックとなっており,
前記使用時により低温となる領域は,組電池中の前記入口から最も近い電池を含む領域であり,
前記使用時により高温となる領域は,組電池中のそれ以外の領域であることを特徴とする組電池モジュール。
【請求項13】
請求項1から請求項5までのいずれか1つに記載の組電池または電池パックを搭載することを特徴とする車両。
【請求項14】
請求項7から請求項12までのいずれか1つに記載の組電池モジュールを搭載することを特徴とする車両。
【請求項15】
請求項1から請求項5までのいずれか1つに記載の組電池または電池パックを搭載することを特徴とする電池搭載機器。
【請求項16】
請求項7から請求項12までのいずれか1つに記載の組電池モジュールを搭載することを特徴とする電池搭載機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−170942(P2010−170942A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14311(P2009−14311)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】