説明

経口投与用放出制御型粒子状医薬組成物、その製法、及び該組成物を含有する経口用崩壊錠

【課題】服用後、該組成物が口腔内に残存する間は薬剤成分が実質的に放出されず、胃内に移行した後、速やかに放出を開始するよう精密に設計された放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)および該組成物を含有する経口投与用崩壊性粒子状組成物(ODP)、並びに、それらの製造方法の提供。
【解決手段】経口投与用の多層構造の粒子状医薬組成物であって、少なくとも、薬学的に許容される有機酸を含有する核粒子、該有機酸含有核粒子の外側に弱酸性ないし塩基性の有効成分を含有する有効成分含有層、および該有効成分含有層の外側に胃溶性皮膜層を含んでなる、放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)。該有機酸含有核粒子および該有効成分含有層の間に、徐放性被膜層を更に有してよい。また、前記MRPおよび不活性速溶粒子を含有する経口投与用粒子状組成物(ODP)および口腔内崩壊錠剤(ODT)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は経口投与用の放出制御型粒子状医薬組成物("Modified-release particles":「MRP」と略すことあり。)、該組成物を含有する経口投与用崩壊性粒子状組成物("Orally disintegrating particles"または”Orodispersible particles”:本明細書においては、「ODP」と略すことある。)および口腔内崩壊錠(本明細書においては、経口用崩壊錠ということもあり、または、"Orally disintegrating tablet"もしくは”Orodispersible tablet”:「ODT」と略すことある。)、ならびにそれらの製造方法に関する。さらに詳しくは、服用後、該組成物が口腔内に残存する間は薬剤成分が実質的に放出されず、胃内に移行した後、速やかに放出を開始するよう精密に設計された放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)、該組成物を含有する経口投与用崩壊性粒子状組成物(ODP)および口腔内崩壊錠(ODT)、ならびに、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成イミダゾトリアジノン誘導体バルデナフィル(Vardenafil)は、cGMPホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害剤として、その使用および活性スペクトルが知られている(例えば、特表2001−522851号公報(特許文献1))。バルデナフィルはレビトラ(Levitra)(登録商標)の名称で購入でき、勃起不全症処置用の即時放出(IR)錠剤として専ら使用されている。この即時放出用であるバルデナフィルの医薬剤形は、それらの迅速な作用開始および比較的短い作用時間を介して、患者の必要に即応できる処置用としての標的プロファイルを満足してきた。この好ましいバルデナフィルの吸収プロファイルは、胃腸管系(Gastrointestinal Tract: ”GIT”と略すことあり。)のうち、胃および十二指腸の部分である上部消化管(Upper Gastrointestinal Tract:"U-GIT"、または「上部GI管」と略すことあり。)で主に吸収されることに由来すると考えられている。バルデナフィルが塩基性薬剤であることから、特に、強酸性状態にある胃がバルデナフィルの主たる溶解部位であると考えられる。
【0003】
一方、バルデナフィルを含有する即時放出錠剤は、速やかな嚥下と有効成分の効率的放出を促すために水と共に口腔適用する必要がある。患者がバルデナフィルを服用する場面を考慮すると、水なしでも服用することができれば患者の利便性を大きく高めることになると思われる。
近年、患者が薬を服用する際の利便性を高めた剤形が注目されるようになり、とりわけ水なしでも服用でき、かつ嚥下が容易な口腔内崩壊錠や口腔内崩壊フィルムが次々と開発されている。しかし、こうした口腔内崩壊製剤の適用が適さない有効成分も数多く存在する。典型は、有効成分が苦味等の不快な味を有する場合で、口腔内で放出された有効成分が患者に強い不快感を与え、服薬コンプライアンスを著しく低下させる。また、有効成分が口腔内吸収される場合、水と共に服用する通常の製剤では認められなかった副作用が発現して、薬効の個体間差拡大等の問題を引き起こす懸念がある。さらに、有効成分が口腔内ないし食道への好ましくない直接作用を有する場合などは、一層適応が困難と考えられる。強い苦味や口腔内吸収が知られているバルデナフィルがこれに該当する。
【0004】
上記の問題を回避しつつ利便性を向上するためには、経口粒子状医薬組成物において、一定時間口腔内で有効成分の放出を抑制することが必要である。一方、有効成分が十分な薬効を発現するためには、経口粒子状医薬組成物から有効成分が放出され、十分量体内に吸収される必要がある。そのためには、一定時間経口粒子状医薬組成物からの有効成分の放出を抑制した後は、経口粒子状医薬組成物が消化管下部へ移行する前に、有効成分が速やかに放出されて消化管上部で吸収されることが望ましい。また、有効成分放出を抑制する時間(ラグタイム)及びその後の溶出速度は、有効成分の特性に応じて適宜コントロールできることが望ましい。
【0005】
しかしながら、初期溶出の完全抑制とその後の速やかな溶出の両立は、従来技術からはなし得ない。例えば、初期溶出抑制のために徐放性皮膜を用いた場合、その後の速やかな有効成分の放出は難しい。また、胃溶性皮膜で口腔内における初期溶出を完全に抑制した場合、胃低酸症ないし胃無酸症の患者においては有効成分が全く吸収されない。徐放性皮膜と胃溶性皮膜との組み合わせ、または、徐放性皮膜と水溶性皮膜との組み合わせにおいても、初期有効成分溶出の抑制、その後の速やかな有効成分放出、および、ラグタイムのコントロール、を同時に満たすことは、極めて困難である。
【0006】
従来、初期の有効成分の溶出を抑制した後、速やかに有効成分を放出するために、水溶性有効成分を含有する製剤に対して水不溶性物質と水溶性物質の混合皮膜を適用して被覆する方法が一般的に用いられている(例えば、特表2004−532257号公報(特許文献2))。混合皮膜中の水溶性物質が溶解するまでの間は、製剤内部への水の浸入速度が抑制され、初期の有効成分の物溶出を抑制することができる。その後皮膜中の水溶性物質が溶解すると、皮膜に細孔が形成され、水の浸入速度が加速するため、速やかな有効成分の放出を達成できる。しかしながら、この方法においても結局は、皮膜が薄いとラグタイムが不十分となり、皮膜が厚いと速やかな有効成分放出が抑制され、それらの両立は難しい。
【0007】
一方、特許第4277904号(特許文献3)は、(i)粒子状医薬組成物の中心部に不快な味を有する薬物を含有する核粒子と、(ii)中間層に2種類の水溶性成分である、不溶化促進剤と不溶化物質を含有する層と、(iii)最外層に内部への水浸入速度を制御する水浸入量制御層とを含有してなる、口腔内崩壊錠に用いられる経口投与用時限放出型粒子状医薬組成物を開示している。そして、(ii)の不溶化促進剤と不溶化物質を含有する層の一例として、酸型不溶化促進剤(クエン酸、リンゴ酸、及び酒石酸など)と酸不溶化物質(メタクリル酸コポリマーのL、LD、Sど)を含有する層が開示され、(iii)の水浸入量制御層の具体例としてエチルセルロース、アミノアルキルメタクリレートコポリマーのRS、LD、E、L、LD、Sなどが開示されている。しかしながら、この開示組成物は、環境に有害な有機溶媒を使用した製造工程を用いていること、徐放皮膜強度に難があり、徐放皮膜を厚くすると速やかな薬物放出が難しくなること、口腔内で異物感の少ない小粒子では十分なラグタイム後の速やかな薬物放出が成功していないこと、およびラグタイム後の放出がやや徐放であることから、個別具体的な薬物に関しては未だ課題を残している。即ち、例えばバルデナフィルに関して、この開示組成物を応用しても、所定の制御されたラグタイム後に、患者の必要に即応できる処置用としてのバルデナフィルの標的プロファイルを実現することは難しい。
【0008】
特許第3350059号(特許文献4)は、消化管において急速に放出し且つ味を遮蔽する3層からなる経口剤形を提示している。即ち、薬剤として具体的には抗性交不能症薬シルデナフィルを選び、(i)該薬剤と微結晶セルロース等とからなる中核粒子と、(ii)水溶性ポリマーのヒドロキシプロピルメチルセルロースと水不溶性ポリマーのメタクリル酸塩コポリマーNEとからなる内側被覆層と、(iii)唾液に不溶性のメタクリル酸アミノアルキルコポリマーEと、要すればタルク等とからなる外側被覆層とを含有する3層粒子剤形を開示している。しかしながら、本発明者らの知見によれば、初期の溶出ラグタイムとその後の急速な放出特性はまだ不十分である。
【0009】
特表2009−524698号公報(特許文献5)は、弱塩基性薬物の、即時放出(IR)ビーズ、徐放性(SR)ビーズ及び/または時限パルス型放出(TPR)ビーズの1つ以上の手段を含む医薬多粒子剤形であって、溶解剤としての有機酸(クエン酸、フマル酸、リンゴ酸など)を薬剤と分離した形で含み、薬剤が放出完了するまで有機酸が枯渇しない医薬多粒子剤形を開示する。ここで用いるIRビーズは、味覚マスクしたIRビーズであって、その層構成の具体的実施態様として、(i)フマル酸で糖質球を積層化した酸コアと、(ii)該酸コアを不溶性のエチルセルロースとトリエチルクエン酸とで被覆したSR層と、(iii)該SR層を血圧降下剤カルベジロールで被覆した薬剤層と、(iv)該薬剤層を腸溶性のエチルセルロース/胃溶性のメタクリル酸アミノアルキルコポリマーEの50/50混合物で被覆した外層とからなる4層構造を有するIRビーズを開示している。しかしながら、本発明者らの知見によれば、例えば、薬剤として抗性交不能症薬バルデナフィルを用いた場合、所期の溶出ラグタイムは得られるものの、その後の急速な放出特性は不十分である。
【0010】
特表2008−531614号公報(特許文献6)は、口中で迅速に溶解し、バイオアベイラビリティーの増加およびプラトー型の血漿濃度曲線を導くバルデナフィルの口腔内崩壊型の新規製剤を開示している。
【0011】
しかしながら、そこで得られるバルデナフィルのバイオアベイラビリティーは、現在レビトラ(登録商標)として専ら適用されている即時放出(IR)錠剤に見られる標的プロファイルからは外れており、かつ、初期のラグタイムは得られない。
【0012】
以上述べたように、PDE5阻害剤である抗性交不能症薬バルデナフィルは、現在、勃起不全の急性処置用の即時放出錠剤としての使用しか知られておらず、一方で、今日まで使用されてきたところの専ら即時放出用であるPDE5阻害剤バルデナフィルの医薬剤形は、それらの迅速な作用開始および比較的短い作用時間を介して、一定の要請に即応できる処置用としての標的プロファイルを満足してきた。
【0013】
従って、患者が薬を服用する際の利便性を高めた粒子状医薬組成物および/または該粒子状医薬組成物を含んでなる口腔内崩壊錠は水なしでも服用することができ、かつ嚥下が容易であることから、バルデナフィルの剤形としても、経口投与用放出制御型剤形の開発が待たれる。そのためには、如何にして、該剤形において、バルデナフィルの溶出プロファイルを、市販品の溶出プロファイルに合致させるかが大きな問題点となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特表2001−522851号公報
【特許文献2】特表2004−532257号公報
【特許文献3】特許第4277904号
【特許文献4】特許第3350059号
【特許文献5】特表2009−524698号公報
【特許文献6】特表2008−531614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、上記問題点を解決すること、すなわち、薬物の味、口腔内吸収、口腔内ないし食道への直接作用等を回避低減しつつ、同時に経口吸収性を損なわない口腔内即崩壊製剤を提供すること、この目的のために、任意のラグタイムの後、任意の速度で薬物を放出させることにある。即ち、弱酸性ないし塩基性の有効成分を水なしで経口投与すべく設計された粒子状の製剤において、十分な長さのラグタイムを有し、かつラグタイム後に速やかに薬物の放出を開始し、かつ有効成分および製剤の特性および目的に応じて、ラグタイムの長さ及びその後の溶出速度を任意にコントロール可能な放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)ならびに該組成物を含有する経口投与用崩壊性粒子状組成物(ODP)および口腔内崩壊錠(ODT)を提供することにある。更に、患者の胃内酸性度に関わらず、水なしで服用した場合にも、所定のラグタイム後に通常錠と同様の速度で有効成分を放出することが可能な放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)等を提供することにある。
【0016】
弱酸性ないし塩基性の有効成分として、例えば、塩基性薬物であるバルデナフィルで本発明の課題を具体的に説明すれば、市販品(即時放出型錠剤(IR錠剤)であるレビトラ(登録商標))の溶出プロファイルに合致した溶出プロファイルを示す、水なしで経口投与可能な、バルデナフィルの放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)ならびに該組成物を含有する経口投与用崩壊性粒子状組成物(ODP)および口腔内崩壊錠(ODT)の提供にある。バルデナフィルの場合、徐放性皮膜がないと放出が早すぎるので調整が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために本発明者らは、役割が明確に異なる複数の層によって被覆する手法が有効ではないかと着想して鋭意検討を進めた結果、驚くべきことに上記課題を解決することを見出し、本発明に到達したのである。
即ち、本発明は、経口投与用の多層構造の粒子状医薬組成物であって、少なくとも、薬学的に許容される有機酸を含有する核粒子、有機酸含有核粒子の外側に弱酸性ないし塩基性の有効成分を含有する有効成分含有層(「薬物含有層」と略すことあり。)、および薬物含有層の外側に胃溶性皮膜層を含んでなる、放出制御型粒子状医薬組成物(Modified-release particles:「MRP」と略すことあり。)を提供する。
更に、本発明は、前記医薬組成物において、医薬組成物からの薬物放出が実質的に口腔では起らず、その後、上部消化管において速やかに起るように構成されていることを特徴とする放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)、およびその製造方法、を提供する。
本発明はまた、前記該放出制御型粒子状医薬組成物を含有する経口投与用崩壊性粒子状組成物(ODP)および口腔内崩壊錠剤(ODT)、ならびにそれらの製造方法を提供する。
【0018】
本発明の多層構造の放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)においては、水なしで口腔内投与した場合でも、十分な長さのラグタイムが得られ、かつラグタイム後に速やかに薬物放出を開始させることができる。更に、薬物および製剤の特性および目的に応じて、ラグタイムの長さ及びその後の放出速度を任意にコントロールすることができる。また、胃無酸症患者に水なしで適用した場合にも、同様の効果を得ることができる。
本発明のMRPは、薬学的に許容される有機酸を含有する核粒子、その外側に薬物を含有する薬物含有層、およびその外側には製剤内部への外液(唾液等)の浸入速度を制御する外液(唾液等)浸入量制御層としての胃溶性皮膜層を被覆した粒子状医薬組成物であって、口腔内での十分な長さのラグタイムを有し、ラグタイム後に上部消化管(U−GIT)で速やかに薬物を放出可能で、かつ被覆量や各被覆層の成分を変化させることによって、ラグタイムの長さを約3〜15分の範囲で、好ましくは5〜10分の範囲(例えば、10分)でコントロール可能であるという特徴を有する。ラグタイムの間は弱酸性ないし塩基性の有効成分(例えば、塩基性薬剤であるバルデナフィル)の実質的放出はなく、ラグタイム終了後に直ちに弱酸性または塩基性薬剤(例えば、バルデナフィル)が放出されることが好ましい。
ここで本発明におけるラグタイム(本明細書において、ラグ時間ということもある)の定義について以下に説明する。
ラグタイムの定義に関しては、厚生労働省医薬食品局審査管理課長より平成18年11月24日付各都道府県衛生主管部(局)長宛に発信された薬食審査発第1124004号の「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン等の一部改正について」別紙1第19頁に「製剤から薬物が表示含量の5%溶出するまでに要する時間をラグ時間とする」とされている。また、一般的な苦味のマスキングなどでは、例えば20%溶出しても苦味を感じなければ、20%溶出するまでに要する時間と定義するケースも考えられる。しかし、本発明では、実質的に初期漏出がない、より厳しいラグタイム基準が求められる場面、例えば、口腔内吸収の寄与が無視できない場面などを想定している。従って、本発明においては、ラグタイムを「1%溶出するまでに要する時間」と定義する。本発明のラグタイムの計算方法は、厚生労働省医薬食品局審査管理課より平成18年11月24日付各都道府県衛生主管部(局)薬務主管課宛に発信された事務連絡の「「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドラインに関する質疑応答集(Q&A)について」等の改正について」別紙1第24−25頁に記載の「手順1)ラグ時間の計算」に準じたものである。
個々の溶出曲線に対する、溶出率がdA%に到達する時間tAの計算式
tA=t1+(dA−d1)X(t2−t1)/(d2−d1)
ここで、
t1:溶出率がdA%に到達する直前の測定時間
t2:溶出率がdA%を超えた直後の測定時間
d1:時間t1における溶出率
d2:時間t2における溶出率
ただし、dA=1%
【0019】
本発明における有機酸含有核粒子中の有機酸は薬学的に許容される有機酸である。そして、当該有機酸は胃溶性皮膜層を溶解させることにより弱酸性ないし塩基性の有効成分の放出を制御するという機能を有する。即ち、有機酸の溶出開始は弱酸性ないし塩基性の有効成分の溶出開始と完全に同期するが、その後の溶出プロファイルは必ずしも一致しない。有機酸は胃溶性皮膜層を通過して侵入してくる外液(唾液等)によって、所定のラグタイムに相当する期間内に核粒子から外層へと移動し、胃溶性皮膜層の一部ないし全部を溶解させて有機酸自体の溶出は完了する。薬物は胃溶性皮膜の溶解により暴露された表面積に応じた速度で溶出する。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、弱酸性ないし塩基性の有効成分を経口投与すべく設計された製剤において、十分な長さのラグタイムを有し、かつラグタイム後に速やかに薬物を放出でき、かつ薬物および製剤の特性および目的に応じて、ラグタイムの長さを任意にコントロール可能な経口投与用の放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)ならびに該組成物を含有する経口投与用崩壊性粒子状組成物(ODP)および口腔内崩壊錠(ODT)を得ることができる。
具体的には、バルデナフィルをMRP、ODPまたはODTとして水なしで服用することができて、かつ嚥下が容易である。更に、バルデナフィルの溶出プロファイルを市販品の溶出プロファイルに合致させることができるため、確立しているバルデナフィルの血中濃度推移、更には有効性及び安全性を損なうことなく適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、MRP(SR層なし)の多層構造の断面図を示す(実施例1)。層間のシール層の表示は省略してある。
【図2】図2は、MRP(SR層あり)の多層構造の断面図を示す(実施例2)。層間のシール層の表示は省略してある。
【図3】図3は、比較例1で用いた粒子状医薬組成物(有機酸含有層なし)の多層構造の断面図を示す。層間のシール層の表示は省略してある。
【図4】図4は、pH1.2(50rpm)での、比較製剤例1〜4の各MRP及びControl(市販品レビトラ(登録商標)錠10mg)におけるバルデナフィルの溶出プロファイルを示す(実施例3)。
【図5】図5は、pH6.8(50rpm)での、比較製剤例1〜4の各MRP及びControl(市販品レビトラ(登録商標)錠10mg)におけるバルデナフィルの溶出プロファイルを示す(実施例3)。
【図6】図6は、pH1.2(50rpm)での、製剤例1〜4の各MRP及びControl(市販品レビトラ(登録商標)錠10mg)におけるバルデナフィルの溶出プロファイルを示す(実施例3)。
【図7】図7は、pH6.8(50rpm)での、製剤例1〜4の各MRP及びControl(市販品レビトラ(登録商標)錠10mg)におけるバルデナフィルの溶出プロファイルを示す(実施例3)。
【図8】図8は、pH1.2(50rpm)での、製剤例5〜10の各MRP及びControl(市販品レビトラ(登録商標)錠10mg)におけるバルデナフィルの溶出プロファイルを示す(実施例3)。
【図9】図9は、pH6.8(50rpm)での、製剤例5〜10の各MRP及びControl(市販品レビトラ(登録商標)錠10mg)におけるバルデナフィルの溶出プロファイルを示す(実施例3)。
【図10】図10は、pH6.8(100rpm)での、製剤例11〜18の各MRP及びControl(市販品レビトラ(登録商標)錠10mg)におけるバルデナフィルの溶出プロファイルを示す(実施例3)。
【図11】図11は、pH1.2(50rpm)、pH5.0(50rpm)及びpH6.8(50rpm)での、製剤例12のMRPにおけるバルデナフィルおよびフマル酸の溶出プロファイルの対比を示す(実施例4)。
【図12】図12は、pH1.2(50rpm)での、製剤例12のMRP、製剤例19のODP及びControl(市販品レビトラ(登録商標)錠10mg)におけるバルデナフィルの溶出プロファイルを示す(実施例4及び6)。
【図13】図13は、pH6.8(50rpm)での、製剤例12のMRP、製剤例19のODP及びControl(市販品レビトラ(登録商標)錠10mg)におけるバルデナフィルの溶出プロファイルを示す(実施例4及び6)。
【図14】図14は、pH1.2(50rpm)での、製剤例20のMRP及び製剤例21のODTにおけるバルデナフィルの溶出プロファイルを示す(実施例3及び6)。
【図15】図15は、pH6.8(50rpm)での、製剤例20のMRP及び製剤例21のODTにおけるバルデナフィルの溶出プロファイルを示す(実施例3及び6)。
【図16】図16は、pH6.8(100rpm)での、製剤例22〜24のODP及びControl(市販品レビトラ(登録商標)錠20mg)におけるバルデナフィルの溶出プロファイルを示す(実施例6)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
まず、本発明の放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)の層構成を説明する。本発明の経口投与用に用いられる放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)は、その基本的な層構成として、粒子の中央に有機酸含有核粒子(コア)、その外側に弱酸性ないし塩基性の有効成分の活性薬物成分(API)を含有する薬物含有層(薬物層)、更にその外側に胃溶性皮膜層をこの順に含んでなる多層構造を基本層構成とする粒子である。
放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)は、有機酸含有核粒子と薬物含有層との間に徐放性皮膜層(SR層)を有してよい。徐放性皮膜層(SR層)は半透膜としての性質を有するものであれば特に限定するものではないが、エチルセルロースまたはアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマーを含有することが好ましい。
有機酸含有核粒子は、有機酸自体を球形に製するか、不活性コアの外側に有機酸含有層を被覆した粒子であってよい。不活性コアとしては、結晶セルロース粒(結晶セルロース(粒)と同義であり、本明細書においては、結晶セルロース(粒)またはセルロース球ということもある。)、白糖・デンプン球状顆粒、精製白糖球状顆粒、乳糖・結晶セルロース球状顆粒およびマンニトール球状顆粒からなる群から選ばれた少なくとも1つが好ましく、中でも、結晶セルロース(粒)が特に好ましい。
有機酸含有核粒子、徐放性皮膜層、薬物含有層および胃溶性皮膜層の少なくとも1つの表面をシールコート被覆層で被覆してよい。有機酸含有核粒子、徐放性皮膜層および薬物含有層の各層をそれぞれシールコート皮膜層で被覆するのが好ましい。シールコート皮膜層は水溶性被覆層であれば特に限定するものではなく、例えば、ヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、メチルセルロースなどを含有するシールコート被覆層が挙げられ、必要に応じてそれらにマクロゴール(ポリエチレングリコール)などの可塑剤を加えることができる。また別のシールコート層の例として、エリスリトール等の糖アルコールによる表面改質が挙げられ、通常、ポピドンやヒドロキシプロピルセルロース等の結合剤と混合して使用される。これらの中では、ヒプロメロース又はメチルセルロースを含有するシールコート被覆層が好ましい。
【0023】
本発明の放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)は、医薬組成物からの薬物放出が実質的に口腔内では起らず、その後、上部消化管において速やかに起るように構成されていることを特徴とする。本発明の胃溶性皮膜はpHが弱酸性付近の口腔内では溶解せず、従って、活性薬物成分が口腔内で溶出するのを実質的に阻止し(この期間をラグタイムと称する)、例えば、有効成分の不快な味による患者の不快感を解消する。ラグタイムは3〜15分、好ましくは5〜10分の範囲(例えば、10分)であってよい。粒子外部から胃溶性皮膜を通って外液(唾液等)が侵入する時間によって生じるラグタイム後に、有機酸含有核粒子から有機酸が溶出し、この有機酸が胃溶性皮膜の一部又は全部を所望の速度で溶解させる。
【0024】
本発明の放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)は、前述のとおり、有機酸が胃溶性皮膜層を内側から溶解させることにより弱酸性ないし塩基性の有効成分の放出が始まることを特徴とする。この特徴について以下、説明する。即ち、本発明における有機酸の主要な機能は外層の胃溶性皮膜を溶解させることにあり、低酸症ないし無酸症の患者でもバイオアベイラビリティーを低下させない仕掛けである。具体的に説明すると、図11(実施例4)には、本発明のMRPの、pH6.8(口腔のpHに相当する。)における、活性薬剤成分API(ここでは、バルデナフィル)の溶出率と有機酸(フマル酸)の溶出率とを時間軸に対してプロットした溶出プロファイルも示してある。双方の溶出率が共にほぼゼロである10分間のラグタイムの後に、フマル酸は5分間で約90%溶出するのに対して、バルデナフィルの溶出率は5分間で約60%に止まる。この結果は、フマル酸が外層の胃溶性皮膜層の一部のみを溶解したことを示す。言い換えると、バルデナフィルの溶出率は、フマル酸の配合量並びに徐放性皮膜層の量により適度に調整されている。なお、図11において、バルデナフィルの溶出はpH5.0〜6.8ではフマル酸によって制御されており、pH1.2の強酸性下ではフマル酸とは無関係に速やかに溶出していることが分かる。
【0025】
薬学的に許容される有機酸としては、胃溶性皮膜外層を溶解させるに足るpH(例えば、胃溶性皮膜がアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEあるいはポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートの場合、pH5以下)を与える酸であって、薬学的に許容されるものであれば特に制限はない。例えば、フマル酸、酒石酸、コハク酸、クエン酸、乳酸、フタル酸、酢酸、蓚酸、マロン酸、アジピン酸、フィチン酸、グルタル酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、アスコルビン酸、安息香酸およびトルエンスルホン酸等、並びにそれらの水和物から選ばれた少なくとも1つの有機酸が挙げられる。これらの内、フマル酸、酒石酸、コハク酸およびクエン酸、並びにそれらの水和物が好ましく、中でも、フマル酸がその適度な酸性度及び水溶性により制御のしやすさやハンドリングの面から特に好ましい。
【0026】
有機酸は、それ自体を球形に造粒するか、賦形剤(例えば結晶セルロース、乳糖、トウモロコシデンプン等)と混合して有機酸含有核粒子を形成するか、核となる不活性コアの外側に被覆して有機酸含有核粒子を形成してもよい。有機酸含有核粒子の大きさは、10〜1000μm、好ましくは、100〜300μmの範囲、例えば、約200μmである。
【0027】
有機酸含有層を不活性コアの外側に被覆する場合、有機酸単独で被覆層を形成してもよいが、通常は、水溶性の高分子結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ピプロメロース、メチルセルロース、ポビドン等)や充填剤(タルク、シリカ、ステアリン酸マグネシウム等)を含んでよい。有機酸および水溶性高分子結合剤を水、アルコール(例えば、エタノール、メタノール)またはそれらの混合溶媒に溶解ないし分散させた溶液に、要すれば、充填剤を分散させ、不活性コアに塗布して被覆層を形成する。塗布方法は、流動層コーティング装置、転動流動層コーティング装置、遠心転動コーティング装置など、粒子状医薬組成物に被覆することが可能ないずれの方法を用いてもよい。例えば、転動流動層コーティング装置中で、不活性コア粒子を流動させながら、スプレーガンにて有機酸等の被覆成分を含有する液を必要量噴霧すればよい。
【0028】
有機酸の量は、胃溶性皮膜を溶解するのに十分な量、言い換えれば局所的なpHを5以下にするのに十分な量、即ち、化学量論量で云えば、胃溶性皮膜に存する塩基性窒素と等量以上の酸当量であるのが好ましい。所望するラグタイムとその後の溶出速度の長短によっては、胃溶性皮膜に存する塩基性窒素の等量を大きく超える量の有機酸を用いてよい。ラグタイムは3〜15分、好ましくは、5〜10分の範囲(例えば、10分)であってよい。ラグタイムの間は弱酸性ないし塩基性の有効成分、(例えば、塩基性薬物のバルデナフィル)が実質的に放出されず、ラグタイム後、急速に薬物の放出が始まるのが好ましい。バルデナフィルの場合でいえば、3〜15分のラグタイムの後、胃腸管において直ちにバルデナフィルが放出されることにより、市販品(レビトラ(登録商標))の溶出プロファイルに合致させることができるため、確立しているバルデナフィルのバイオアベイラビリティー・プロファイルを損なうことなく適用することができる。
胃溶性皮膜を構成する胃溶性高分子としてアミノアルキルメタクリレートコポリマーE(オイドラギット(登録商標)E100またはEPO)を用い、有機酸としてフマル酸を用いる場合には、例えば、オイドラギット(登録商標)EPOが100重量部に対して、フマル酸が2〜200重量部、好ましくは、5〜100重量部、より好ましくは、15〜50重量部、例えば30重量部であってよい。
【0029】
有機酸含有核粒子の外側に、弱酸性ないし塩基性の有効成分を含有する有効成分含有層(薬物含有層または薬物層と称することあり。)を被覆する。有効成分は単独で被覆してもよいが、通常は、水溶性の高分子結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、メチルセルロース、ポビドン等)や滑沢剤(タルク、ステアリン酸マグネシウム等)を含んでよい。薬物および水溶性高分子結合剤を水、アルコール(エタノール、メタノール)またはそれらの混合溶媒に溶解ないし分散させた溶液に、要すれば、充填剤を分散させ、有機酸含有核粒子に塗布して薬物層を形成する。塗布方法は、流動層コーティング装置、転動流動層コーティング装置、遠心転動コーティング装置など、粒子状医薬組成物に被覆することが可能ないずれの方法を用いてもよい。例えば、転動流動層コーティング装置中で、有機酸含有核粒子を流動させながら、スプレーガンにて薬物含有液を必要量噴霧すればよい。
【0030】
本発明に用いられる薬物としては、唾液(中性の緩衝液)と接触したとき最外層の胃溶性皮膜を直ちに溶解してしまう様な強酸性でなければ何れの薬物でもよく、即ち、弱酸性ないし塩基性の有効成分であって、治療学的に有効な活性成分、あるいは予防学的に有効な活性成分であれば特に限定されない。該弱酸性ないし塩基性の有効成分の飽和水溶液のpHは2.5〜14、望ましくは3.5〜14であり、弱酸性ないし塩基性の有効成分には、フリー体または製薬的に許容され得る塩が含まれる。かかる医薬活性成分としては、cGMP特異的ホスホジエステラーゼ阻害剤、例えば、バルデナフィル、シルデナフィル等の抗勃起不全症薬、塩酸エタンブトール等の抗結核薬、塩酸バルニジピン、塩酸ニカルジピン、塩酸インデノロール、塩酸ヒドララジン等の循環器官用薬、塩酸クロルプロマジン、塩酸アミトリプチリン塩酸モペロン等の抗精神薬、塩酸ラモセトロン、塩酸グラニセトロン、塩酸オンダンセトロン等の制吐剤、塩酸プロパフェノン等の抗不整脈薬、塩酸ジブカイン等の表面麻酔薬、塩酸ラニチジン等の消化管用薬、塩酸チアプリド、塩酸ビフェメラン等の中枢神経系用薬、塩酸アンピシリンフタリジル等の抗生物質、塩酸テラゾシン等のBPH治療剤等が挙げられる。薬物は、強酸性でない限りにおいて、フリー体または製薬的に許容され得る塩のいずれをも用いることができる。また、有効成分は、1種または2種以上組合せて用いることもできる。またこれらの薬物は、本発明に適用でき得る一例であり、限定的に解釈されるべきではない。本発明の粒子状医薬組成物に含有させる有効成分としては、特に時限放出が求められ、かつラグタイム後速やかに溶出することが求められる薬物、特に好ましくは、バルデナフィル、シルデナフィル等の抗勃起不全症薬が挙げられるが、中でもバルデナフィルが好ましく用いられる。
【0031】
バルデナフィルとしては、塩酸塩および有機酸塩等の酸付加物、ならびに、酸フリー体のいずれも使用できる。中でも、バルデナフィル塩酸塩の水和物(特に、三水和物)が、水溶解性および安定性の点から好ましい。尚、バルデナフィル塩酸塩三水和物の飽和水溶液のpHは4.0であった。
【0032】
本発明の放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)中の有効成分の配合量は、通常有効成分の種類あるいは医薬用途(適応症)により適宜選択されるが、治療学的に有効な量あるいは予防学的に有効な量であれば特に制限されない。被覆される粒子と等量付近とすると、小型化・高含量化できるため好ましい。好ましくは粒子状医薬組成物全体の0.5〜90重量%であり、より好ましくは1.0〜80重量%、さらに好ましくは5.0〜70重量%である。
具体的には、例えば、抗勃起不全症薬バルデナフィルの場合、バルデナフィルとしてMRP全体の0.5〜90重量%であり、より好ましくは1〜70重量%、さらに好ましくは5〜50重量%、例えば10〜20重量%である。
但し、ここに示した有効成分の配合量は本発明に適用できうる一例であり、限定的に解釈されるべきではない。有効成分含有層(薬物含有層)は、好ましくは、高分子結合剤を含んでよい。高分子結合剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、メチルセルロース、ポビドン、コーンスターチ、デンプン等の水溶性ポリマーが挙げられるが、中でも、ヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。有効成分含有層は、要すれば、タルクやステアリン酸(またはその塩)等の滑沢剤を含んでよい。
本発明において有効成分含有層で被覆するにより形成する有効成分含有層被覆粒子の大きさは、10〜1000μm、好ましくは、100〜300μmの範囲、例えば、約250μmである。
【0033】
本発明の放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)は、有効成分含有層の外側を胃溶性皮膜層で被覆する。胃溶性皮膜層は、粒子状医薬組成物が口腔内に存する間は有効成分が溶出されるのを防いで適切なラグタイムを付与する役目を持ち、所定のラグタイム経過後は、外層から粒子内に侵入する外液(唾液等)によって有機酸含有核粒子から溶出される有機酸に接触して一部ないし全部が溶解し、有効成分の溶出を促す役目を有する。即ち、胃溶性皮膜層は、所望の溶出プロファイルを達成するための重要な役目の一つを担っている。この様な機能を満たす胃溶性皮膜材料は、唾液に不溶性のポリマーであり、例えば、メタクリル酸ブチル/(2−ジメチルアミノエチル)メタクリル酸塩/メタクリル酸メチルコポリマーおよびジエチルアミノ酢酸ポリビニルアセタールのようなメタクリル酸アミノアルキルコポリマーが挙げられる。商業的に入手可能な高分子としては、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE(オイドラギット(Eudragit)(登録商標)E100およびEPO)、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート(商品名:AEA「三共」)等が挙げられ、その中でもアミノアルキルメタクリレートコポリマーE又はポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートが望ましい。胃溶性皮膜層は、上記胃溶性材料の他に、要すれば、他の助剤を含んでよい。それらの助剤としては、例えば、タルクやステアリン酸金属塩等の滑沢剤、マクロゴール等の可塑剤、ステアリン酸等の乳化剤、およびラウリル硫酸ナトリウム等の界面活性剤等が挙げられる。
【0034】
なお、前述の通り、本発明の胃溶性皮膜層は、有機酸核粒子から溶出してくる有機酸により作られる局所的な酸性環境に伴い溶解することによって本発明の効果を発揮するのであって、例えば水不溶性ポリマー等が混在すると、所定のラグタイム後の迅速な有効薬剤の放出という本発明所期の目的が達成されない点に留意する必要がある。具体的には、例えば、米国特許出願公開第2006/0078614号明細書(特表2009−524698号が引用する)で開示されている速溶性(Immediate−release:IR)ビーズの苦みをマスクする工程(味覚マスク工程)は、IRビーズを水不溶性ポリマー(例えば、エチルセルロース)単独で、あるいは胃溶性ポリマー(例えば、オイドラギット E100またはEPO)との組み合わせでコーティングする旨、開示されているが、この方法では、水不溶性ポリマー(エチルセルロース等)が有機酸と接触しても溶解しないことから、有効成分の迅速な溶出は期待し得ない。実際、特表2009−524698号明細書中の段落[0089]〜[0092]には、味覚マスクした即時放出型のIRビーズが開示されているが、外層はEC−10(エチルセルロース)/オイドラギットE100(登録商標)=50/50の混合皮膜となっており、発明者等の知見によれば、有効成分の迅速な溶出は期待できなかった。
【0035】
本発明の放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)において、胃溶性皮膜層は中性では半透膜として働くが、その量および厚さが増えると、外部からの外液(唾液等)の侵入が遅延し、核粒子からの有機酸の溶出開始が遅延し、胃溶性皮膜層の溶解速度が減少する。その結果、有効成分の溶出開始時間(ラグタイム)が伸びる。胃溶性皮膜層の量および厚さは、目的とする有効成分の溶出プロファイルによって適宜選択することができる。胃溶性皮膜層中の胃溶性ポリマーの量は、通常、MRP全量の5〜80重量%、好ましくは10〜60重量%、例えば、20〜40重量%であってよい。胃溶性皮膜が可塑剤や滑沢剤等の充填剤を含む場合は、胃溶性皮膜層の量は、通常、MRP全量の5〜90重量%、好ましくは20〜80重量%、例えば、30〜60重量%であってよい。
胃溶性皮膜層は、上記組成物を1回で適用して皮膜を形成してもよいが、複数回に分割して適用することができる。例えば、上記組成物を二回に分けて適用してよい。複数回に分割しもラグタイムに大きな影響はない。
本発明において胃溶性皮膜層で被覆することにより形成する胃溶性皮膜層被覆粒子(放出制御型粒子状医薬組成物(MRP))の大きさは、10〜1000μm、好ましくは、100〜500μmの範囲、例えば、約300μmである。
【0036】
本発明は、好ましくは、有機酸含有核粒子と有効成分含有層との間に、徐放性皮膜層(SR層)を有してよい。徐放性皮膜層の存在によって、外部からの外液(唾液等)の侵入速度及び内部からの有機酸の放出速度が抑制され、ラグタイム後の溶出速度の任意の制御が可能となる。
即ち、本発明は、有機酸含有層の外側に徐放性皮膜を被覆してよい。徐放性皮膜層は、有機酸含有核粒子への外部からの侵入外液(唾液等)の到達を抑制し、更には溶解した有機酸の溶出を押さえ、結果として有効成分のラグタイム後の溶出速度を調節する役目を果たす。皮膜量が多い場合には、ラグタイムの長さにも寄与する。有機酸含有層と有効成分含有層の境界をより明確にし、緻密なラグタイム制御を容易にする効果も有する。徐放性皮膜材料としては、水不溶性高分子が好ましい。エチルセルロース、メタクリル酸塩コポリマーならびにアクリル酸エチル/メタクリル酸メチルコポリマーおよびアクリル酸エチル/メタクリル酸メチル/メタクリル酸トリメチルアンモニオエチルコポリマーのようなメタクリル酸アミノアルキルコポリマーが挙げられる。商業的に入手可能な水不溶性高分子としては、エチルセルロースの水分散液であるアクアコート(Aquacoat)(登録商標:FMC社)ECD、オイドラギット(Eudragit)NEおよびオイドラギットRS(エボニック社)の商標名で市販されているものがある。
徐放性皮膜材料に他の添加物を加えても良い。このような添加物としては、例えば、タルクの様な助剤、クエン酸トリエチル(SC−60:登録商標・CBC社)の様な可塑剤等が挙げられる。
【0037】
徐放性皮膜層の量は、通常、放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)全量に対して0.1〜20重量%、好ましくは、0.5〜10重量%、例えば1〜5重量%であってよい。
本発明において徐放性皮膜を被覆することにより形成する徐放性皮膜層被覆粒子の大きさは、10〜1000μm、好ましくは、100〜300μmの範囲、例えば、約200μmである。
【0038】
本発明の粒子状医薬組成物は、有機酸含有核粒子、徐放性皮膜層、および有効成分含有層(「薬物含有層」と同義)の少なくとも1つの表面にシールコート皮膜層が被覆してあってよい。有機酸含有核粒子、徐放性皮膜層、および有効成分含有層の各表面をそれぞれシールコート皮膜層が被覆してあるのが好ましい。シールコート皮膜層の存在によって各層の完全分離が果たされ、これにより、相互作用(塩形成等)が回避され、製造再現性が向上し、経時変化(有機酸や有効成分の他層への泳動)が抑制される。即ち、本発明の目的である(1)口腔内での初期有効成分溶出の抑制、(2)その後の上部GI管での速やかな有効成分放出、並びに(3)ラグタイムのコントロール、がより一層精度よく達成することができる。有機酸含有核粒子上のシールコート皮膜層は、有機酸が口腔中の外液(唾液等)によって溶出を開始するまでは、有機酸と有効成分含有層中の有効成分との直接接触を妨げて有機酸が例えば塩基性有効成分と塩を形成して所期の効果(最外層の胃溶性皮膜の溶解)が発揮できなくなることを防ぐ機能を有する。徐放性皮膜層上のシールコートは、特にアクアコートのようにコーティング後の熱処理を必要とする場合、熱処理中の凝集を防止するのに必須である。有効成分含有層上のシールコート皮膜層は、有効成分が最外層の胃溶性皮膜と直接接触して、化学的・物理的変化が生じるのを防ぐ。これら各々の機能が相俟って、本発明の(1)〜(3)の目的の達成が、より一層推進される。
【0039】
シールコート皮膜層は溶出を妨げず各層を分離できるものであれば良く、例えば、皮膜形成性の親水性ポリマー水溶液を塗布・乾燥することによって得ることができる。シールコート皮膜材料としては通常の親水性ポリマーを用いることができる。例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC:ヒプロメロース)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシメチルセルロース(HMC)にポリエチレングリコール(PEG)6000(マクロゴール6000)、PEG−4000(マクロゴール4000)等の可塑剤の組み合わせが挙げられる。好ましい例としては、HPMCとPEG−6000の組み合わせ等である。
【0040】
本発明はまた、放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)の製造方法であって、
(i)不活性コアの外側に有機酸含有層を被覆し有機酸含有核粒子を形成する工程、
(ii)該有機酸含有核粒子の外側に徐放性皮膜を被覆する工程、
(iii)該徐放性皮膜層の外側に薬物を含有する層を被覆する工程、および
(iv)該有効成分含有層の外側を胃溶性皮膜で被覆して経口投与用の放出制御型粒子状医薬組成物を形成する工程
を含むことを特徴とする、放出制御型粒子状医薬組成物の製造方法を提供する。
【0041】
前記製造方法において、好ましくは、有機酸含有核粒子および徐放性皮膜層の間、徐放性皮膜層および有効成分含有層の間、ならびに有効成分含有層および胃溶性皮膜層の間の少なくとも1つにシールコート皮膜層を設ける工程を含んでよい。
【0042】
以下、各工程を説明する。
(i)工程では、不活性コア(例えば結晶セルロース(粒)(Celphere(登録商標)CP−102等)を転動流動層造粒機中で流動させながら、有機酸(例えば、フマル酸)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース)および滑沢剤(例えば、タルク)等を溶解・分散させた水分散液をノズルからスプレーして不活性コア上に被覆し、有機酸含有核粒子を形成する。有機溶媒の使用は、安全性や環境保全の観点から好ましくない。造粒機としては、例えば、流動層造粒機、転動流動層造粒機または遠心転動造粒機等を用いることができるが、微小粒子を作成するには転動流動層造粒機が好ましい。
不活性コアの粒径は、10〜1000μm、好ましくは、100〜300μmの範囲、例えば、約150μmであってよい。
有機酸含有核粒子の大きさは、10〜1000μm、好ましくは、100〜300μmの範囲、例えば、約200μmである。
有機酸の量は、胃溶性皮膜を溶解するのに十分な量、言い換えれば局所的なpHを5以下にするのに十分な量、即ち、化学量論量で云えば、胃溶性皮膜に存する塩基性窒素と等量以上の酸当量であるのが好ましい。例えば、有機酸としてフマル酸を用いる場合には、オイドラギット(登録商標)EPOが100重量部に対して、フマル酸が2〜200重量部、好ましくは、5〜100重量部、より好ましくは、15〜50重量部、例えば30重量部であってよい。
【0043】
(ii)工程では、前記で得られた有機酸含有核粒子を転動流動層造粒機中で流動させながら、不溶性ポリマーの水性分散体(例えば、エチルセルロース、可塑剤としてのセチルアルコールおよび界面活性剤としてのラウリル硫酸ナトリウムを含む水性分散液であるアクアコート(Aquacoat:登録商標)ECD−30)およびコーティング助剤(例えば、クエン酸トリエチル(TEC))の水分散液をノズルからスプレーして、徐放性皮膜を被覆する。熱処理により皮膜を熟成させ、徐放性皮膜層被覆粒子を形成する。
不溶性ポリマーの量は、例えば、アクアコート(Aquacoat:登録商標)ECD−30)の固形分の量で示せば、粒子状医薬組成物全体の0.1〜20重量%、好ましくは、0.5〜10重量%、より好ましくは、1.0〜5重量%の範囲であってよい(ここで、アクアコート(登録商標)ECD−30の固形分は約30重量%である)。
本発明において徐放性皮膜を被覆することにより形成する徐放性皮膜層被覆粒子の大きさは、10〜1000μm、好ましくは、100〜300μmの範囲、例えば、約200μmである。
【0044】
(iii)工程では、前記で得られた徐放性皮膜層被覆粒子を、例えば、転動流動層造粒機中で流動させながら、弱酸性ないし塩基性の有効成分(例えば、バルデナフィル塩酸塩・3水和物)含有溶液をノズルからスプレーして、有効成分含有層(「薬物含有層」と同義。)を形成する。
有効成分含有溶液は、有効成分を水、アルコール等の溶媒に溶解ないし分散させて用いるが、結合剤としての水溶性ポリマー(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース)および滑沢剤(例えば、タルク)を含んでよい。
放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)中の有効成分の配合量は、通常有効成分の種類あるいは医薬用途(適応症)により適宜選択されるが、治療学的に有効な量あるいは予防学的に有効な量であれば特に制限されない。具体的には、例えば、抗勃起不全症薬バルデナフィルの場合、バルデナフィルとしてMRP全体の0.5〜90重量%であり、より好ましくは1〜70重量%、さらに好ましくは5〜50重量%、例えば10〜20重量%である。結合剤の量は、有効成分100重量部に対して0.1〜80重量部、好ましくは、1.0〜50重量部、更に好ましくは、5.0〜20重量部の範囲であってよい。滑沢剤の量は、有効成分100重量部に対して0.1〜80重量部、好ましくは、1.0〜50重量部、更に好ましくは、5.0〜20重量部の範囲であってよい。
本発明において有効成分含有層で被覆するにより形成する有効成分含有層被覆粒子の大きさは、10〜1000μm、好ましくは、100〜300μmの範囲、例えば、約250μmである。
【0045】
(iv)工程では、前記で得られた有効成分含有層被覆粒子を転動流動層造粒機中で流動させながら、水、アルコール等の溶媒中に胃溶性皮膜材料(例えば、オイドラギット(登録商標)EPO)を分散させた分散液をノズルからスプレーして、胃溶性皮膜層被覆粒子(放出制御型粒子状医薬組成物(MRP))を形成する。胃溶性皮膜材料含有分散液中には、乳化剤(例えば、ステアリン酸)、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)および滑沢剤(例えば、タルク)を含有してよい。
胃溶性皮膜層の量および厚さは、目的とする有効成分の溶出プロファイルによって適宜選択することができる。胃溶性皮膜層中の胃溶性ポリマーの量は、通常、MRP全量の5〜80重量%、好ましくは10〜60重量%、例えば、20〜40重量%であってよい。胃溶性皮膜が可塑剤や滑沢剤等の充填剤を含む場合は、胃溶性皮膜層の量は、通常、MRP全量の5〜90重量%、好ましくは20〜80重量%、例えば、30〜60重量%の範囲であってよい。
本発明において胃溶性皮膜層で被覆することにより形成する胃溶性皮膜層被覆粒子(放出制御型粒子状医薬組成物(MRP))の大きさは、10〜1000μm、好ましくは、100〜500μmの範囲、例えば、約300μmである。
【0046】
本発明はまた、所定のラグタイム後に急速に有効薬剤成分の放出が始まる上記の放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)に、有効成分を含有しない速溶粒子を加えてなる、経口投与用崩壊性粒子状組成物(ODP)を提供する。適当な味を有する速溶粒子を加えることによって唾液の分泌が促され、嚥下を容易にする。投与形態として取り扱いし易くする効果もある。
【0047】
速溶粒子は、適当な味があり、速溶性を有する粒子であれば特に制限はないが、甘味を有する糖アルコール、更には結合剤を含んでなる顆粒であってよい。糖アルコールとしては、例えば、エリスリトール、マンニトール、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、および分岐オリゴ糖アルコールなどが挙げられるが、エリスリトールおよびマンニトールが好ましい。結合剤としては特に制限はないが、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖などの糖類、バレイショ、コムギ、トウモロコシなどのデンプン類、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース類、並びに、ポビドン(ポリビニルピロリドン)等が挙げられる。これらの内、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびポビドンが好ましい。
【0048】
本発明はまた、上記の経口投与用崩壊性粒子状組成物(ODP)の製造方法であって、
(i)不活性コアの外側に有機酸含有層を被覆し有機酸含有核粒子を形成する工程、
(ii)第有機酸含有核粒子の外側に徐放性皮膜を被覆する工程、
(iii)該徐放性皮膜層の外側に薬物を含有する層を被覆する工程、
(iv)該有効成分含有層の外側を胃溶性皮膜で被覆して経口投与用の放出制御型粒子状医薬組成物を形成する工程、および
(v)前記放出制御型粒子状医薬組成物および速溶粒子を混合する工程
を含むことを特徴とする、経口投与用粒子状組成物の製造方法を提供する。
【0049】
これらの工程(i)〜(v)の内、(i)〜(iv)工程は、前記放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)の製造方法に於ける工程(i)〜(iv)と同一であり、経口投与用粒子状組成物(ODP)の製造方法においては、更に(v)工程を含む点に特徴がある。
即ち、経口投与用崩壊性粒子状組成物(ODP)の製造方法は、(i)〜(iv)工程を含む製造方法によって得られた放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)に速溶粒子を混合する工程(v)を更に含むことを特徴とする。そこで、以下では、工程(v)について詳しく説明する。
【0050】
工程(v)では、(i)〜(iv)工程で得られた放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)と別途調製した速溶粒子とを混合して、経口投与用崩壊性粒子状組成物(ODP)を得る。速溶粒子は、糖アルコール(例えば、エリスリトール)および結合剤(例えば、ポビドン)を、水・エタノール等を溶媒として、高速攪拌混合機(High shear mixer)等を用いて混練した後、円筒造粒機(Cylindeical granulator)等を用いて造粒し、乾燥、篩分けして製造する。更に、流動化剤ないし滑沢剤(例えば、軽質無水ケイ酸)、帯電抑制剤(例えば、タルク)、必要に応じて香料も添加することができる。
【0051】
放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)と速溶粒子との混合比は、通常、1:1〜20、好ましくは、1:2〜10の範囲、例えば1:6であってよい。混合は、例えば、交叉回転式混合機(Cross rotary mixer)等を用いて行うことができる。混合によって経口投与用崩壊性粒子状組成物(ODP)を得る際に、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク、フマル酸ステアリルナトリウム等の流動化剤ないし滑沢剤、並びにL−メントール等の香料ないし矯味剤等の助剤を加えることができる。特に、流動化剤ないし滑沢剤としての軽質無水ケイ酸及び香料としてのL−メントールの添加が好ましい。流動化剤ないし滑沢剤の添加量は、ODP全量の0.05〜5重量%、好ましくは0.1〜1重量%の範囲であり、例えば0.5重量%である。香料ないし矯味剤の添加量は、ODP全量の0.005〜0.5重量%、好ましくは0.01〜0.1重量%の範囲であり、例えば0.05重量%である。
【0052】
本発明はまた、有機酸含有核粒子および徐放性皮膜層の間、徐放性皮膜層および有効成分含有層の間、ならびに有効成分含有層および胃溶性皮膜層の間の少なくとも1つにシールコート皮膜層を設ける工程を含む、前記経口投与用崩壊性粒子状組成物(ODP)の製造方法を提供する。好ましくは、有機酸含有核粒子および徐放性皮膜層の間、徐放性皮膜層および有効成分を含有する皮膜層の間、ならびに、有効成分を含有する皮膜層および胃溶性皮膜層の間の全てにシールコート皮膜層を設ける工程を含む、前記経口投与用粒子状組成物の製造方法を提供する。本発明は更に、胃溶性皮膜層の上にシールコート皮膜層を設ける工程を含む、前記経口投与用粒子状組成物の製造方法を提供する。
【0053】
シールコート皮膜の存在によって、本発明の目的である(1)口腔内での初期有効成分溶出の抑制、(2)その後の上部GI管での速やかな有効成分放出の開始、並びに(3)ラグタイム後の溶出速度のコントロール、をより一層精度よく達成することができる。
【0054】
シールコート皮膜層を形成する工程を、例えば、有機酸含有核粒子と徐放性皮膜層との間にシールコート皮膜層を形成する場合について説明すると、有機酸含有核粒子を転動流動層造粒機中で流動させながら、皮膜形成性の親水性ポリマー(例えば、ヒプロメロース2910とPEG−6000の組み合わせ)の水溶液をノズルからスプレーすることによって、有機酸含有核粒子上にシールコート皮膜層を形成することができる。皮膜形成性の親水性ポリマーの量は、有機酸含有核粒子100重量部に対して0.2〜20重量部、好ましくは、0.5〜10重量部の範囲、例えば、2重量部であってよい。
【0055】
本発明の製造方法は、前記の別途調製した速溶粒子の製造方法として、糖類と結合剤を混合し、造粒後乾燥させる工程を含んでなる。即ち、糖類としての糖アルコール(例えば、エリスリトール)および結合剤(例えば、ポビドン)を、水・エタノール等を溶媒として、高速攪拌混合機(High shear mixer)等を用いて混練した後、円筒造粒機(Cylinderical granulator)等を用いて造粒し、棚式乾燥機(Bed dryer)等を用いて乾燥後、篩分けして粒径を揃え、速溶粒子とすることができる。速溶粒子の粒径は、0.1〜1.0mm、好ましくは、0.1〜0.3mmであってよい。
【0056】
本発明はまた、前述のとおり、経口投与用錠剤であって、前記放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)と速溶粒子とを含有する原料組成物を打錠することにより得られる口腔内崩壊錠(ODT)を提供する。錠剤の成形に当たっては、ODPをそのまま、あるいは賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等の通常用いられる添加剤を追加することができる。要すれば、更に糖アルコール(例えば、エリスリトールおよびマンニトール等)を別途加えてもよい。打錠は、例えば単発打錠機やロータリー打錠機を用いて行うことができる。
【0057】
本発明の放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)には、当該分野において慣用される公知の配合処方が利用でき、前記必須成分以外の医薬添加剤としては、医薬的に許容され、添加物として使用される各種添加剤であれば特に制限されない。かかる医薬添加剤としては、例えば、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤、甘味剤、清涼化剤、着香剤・香料、芳香剤、着色剤、発泡剤、安定(化)剤、抗酸化剤、保存剤、pH調節剤、可溶化剤、溶解補助剤、流動化剤、緩衝剤、基剤、賦形剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明の範囲が限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
実施例1[徐放性皮膜層(SR)のない放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)の調製](製剤例4)
<1>[(1)有機酸含有層被覆粒子の調製]
ヒドロキシプロピルセルロース10gを含む水溶液を撹拌下、フマル酸100g、およびタルク5gを添加して分散させた。この分散液を結晶セルロース(粒)(Celphere(登録商標)CP−102)1000gに対して、転動流動層造粒機を用いて、吸気温度約60℃、排気温度約28℃で側方噴霧し、[(1)有機酸含有層被覆粒子]を得た。フマル酸の量は、セルロース核粒子100重量部に対して10重量部であった。(計1115g)
【0059】
<2>[(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子の調製]
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)20g、およびポリエチレングリコール(マクロゴール6000)5gを含む水溶液を、上記で得た(1)有機酸含有層被覆粒子に対して、転動流動層造粒機を用いて、吸気温度約85℃、排気温度約42℃で側方噴霧し、[(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子]を得た。(計1140g)
【0060】
<3>[(3)有効成分含有層被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子の調製]
ヒドロキシプロピルセルロース32gを含む水溶液を撹拌下、バルデナフィル塩酸塩・3水和物(BayerHC社製)320g、およびタルク16gを添加して分散させた。この分散液を、上記で得た[(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子]456gに対して、転動流動層造粒機を用いて、吸気温度約55℃、排気温度約28℃で側方噴霧し、[(3)有効成分含有層被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子]を得た。(計824g)
【0061】
<4>[(4)シールコート被覆/(3)有効成分含有層被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子の調製]
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)16g、およびポリエチレングリコール(マクロゴール6000)4gを含む水溶液を、上記で得た[(3)有効成分含有層被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子]に対して、転動流動層造粒機を用いて、吸気温度約85℃、排気温度約40℃で側方噴霧し、[(4)シールコート被覆/(3)有効成分含有層被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子]を得た。(計844g)
【0062】
<5>[(5)胃溶性皮膜被覆/(4)シールコート被覆/(3)有効成分含有層被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子の調製]
ラウリル硫酸ナトリウム20gを含む水溶液を撹拌下、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE(オイドラギット(登録商標)EPO)200g、およびステアリン酸30gを添加して分散させた。続いて、タルク70gを撹拌下に加えて分散液を調製した。この分散液を、上記で得た[(4)シールコート被覆/(3)有効成分含有層被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子]320gに対して、転動流動層造粒機を用いて、吸気温度約45℃、排気温度約28℃で側方噴霧し、本発明の放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)である、[(5)胃溶性皮膜被覆/(4)シールコート被覆/(3)有効成分含有層被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子](製剤例4:表2参照)を得た。胃溶性皮膜の被覆量は、[(4)シールコート被覆/(3)有効成分含有層被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子]100重量部に対して100重量部であった。(計640g)。得られたMRP粒子の平均粒径は267μm、有効成分バルデナフィルの含有量は約16重量%であった。
徐放性皮膜層(SR)のない製剤例1、2及び3も上記実施例1と同様にして製造することができる。
【0063】
実施例2[徐放性皮膜層(SR)を有する放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)の調製](製剤例10)
<1>[(1)有機酸含有層被覆粒子の調製]
ヒドロキシプロピルセルロース20gを含む水溶液を撹拌下、フマル酸200g、およびタルク10gを添加して分散させた。この分散液を結晶セルロース(粒)(Celphere(登録商標)CP−102)1000gに対して、転動流動層造粒機を用いて、吸気温度約65℃、排気温度約30℃で側方噴霧し、[(1)有機酸含有層被覆粒子]を得た。フマル酸の量は、セルロース核粒子100重量部に対して20重量部であった。(計1230g)
【0064】
<2>[(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子の調製]
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)24g、およびポリエチレングリコール(マクロゴール6000)6gを含む水溶液を、上記で得た(1)有機酸含有層被覆粒子に対して、転動流動層造粒機を用いて、吸気温度約80℃、排気温度約42℃で側方噴霧し、[(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子]を得た。(計1260g)
【0065】
<3>[(3)徐放性皮膜被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子の調製]
エチルセルロース水分散液(Aquacoat(登録商標)ECD−30)400g(固形分120g)、およびクエン酸トリエチル15gを含む水分散液を、上記で得た[(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有被覆粒子]450gに対して、転動流動層造粒機を用いて、吸気温度約75℃、排気温度約32℃で側方噴霧し、[(3)有効成分含有層被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子]を得た。徐放性皮膜の被覆量は、[(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有被覆粒子]100重量部に対して30重量部であった。(計585g)
【0066】
<4>[(4)シールコート被覆/(3)徐放性皮膜被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子の調製]
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)12g、およびポリエチレングリコール(マクロゴール6000)3gを含む水溶液を、上記で得た[(3)徐放性皮膜被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子]に対して、転動流動層造粒機を用いて、吸気温度約80℃、排気温度約40℃で側方噴霧した。噴霧完了後、引き続き、吸気温度85℃(排気温度は成り行き)で90分間の熱処理により皮膜を熟成させ、[(4)シールコート被覆/(3)徐放性皮膜被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子]を得た。(計600g)
【0067】
<5>[(5)有効成分含有層被覆/(4)シールコート被覆/(3)徐放性皮膜被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子の調製]
ヒドロキシプロピルセルロース20gを含む水溶液を撹拌下、バルデナフィル塩酸塩・3水和物(BayerHC社製)200g、およびタルク10gを添加して分散させた。この分散液を、上記で得た[(4)シールコート被覆/(3)徐放性皮膜被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子]420gに対して、転動流動層造粒機を用いて、吸気温度約50℃、排気温度約28℃で側方噴霧し、[(5)有効成分含有層被覆/(4)シールコート被覆/(3)徐放性皮膜被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子]を得た。(計650g)
【0068】
<6>[(6)シールコート被覆/(5)有効成分含有層被覆/(4)シールコート被覆/(3)徐放性皮膜被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子の調製]
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)12g、およびポリエチレングリコール(マクロゴール6000)3gを含む水溶液を、上記で得た[(5)有効成分含有層被覆/(4)シールコート被覆/(3)徐放性皮膜被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子]に対して、転動流動層造粒機を用いて、吸気温度約85℃、排気温度約42℃で側方噴霧し、[(6)シールコート被覆/(5)有効成分含有層被覆/(4)シールコート被覆/(3)徐放性皮膜被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子]を得た。(計665g)
【0069】
<7>[(7)胃溶性皮膜被覆/(6)シールコート被覆/(5)有効成分含有層被覆/(4)シールコート被覆/(3)徐放性皮膜被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子の調製]
ラウリル硫酸ナトリウム15gを含む水溶液を撹拌下、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE(オイドラギット(登録商標)EPO)150g、およびステアリン酸22.5gを添加して分散させた。続いて、タルク52.5gを撹拌下に加えて分散液を調製した。この分散液を、上記で得た[(6)シールコート被覆/(5)有効成分含有層被覆/(4)シールコート被覆/(3)徐放性皮膜被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子]320gに対して、転動流動層造粒機を用いて、吸気温度約42℃、排気温度約27℃で側方噴霧し、本発明の放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)である、[(7)胃溶性皮膜被覆/(6)シールコート被覆/(5)有効成分含有層被覆/(4)シールコート被覆/(3)徐放性皮膜被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子](製剤例10:表4)を得た。胃溶性皮膜の被覆量は、[(6)シールコート被覆/(5)有効成分含有層被覆/(4)シールコート被覆/(3)徐放性皮膜被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子]100重量部に対して75重量部であった。(計560g)。得られたMRP粒子の平均粒径は276μm、有効成分バルデナフィルの含有量は約14重量%であった。
徐放性皮膜層(SR)を有する後記製剤例5−9、11−18及び20も上記実施例2と同様にして製造することができる。
【0070】
比較例1[有機酸含有層不存在の粒子製剤](比較製剤例4)
実施例1における<1>[(1)有機酸含有層被覆粒子の調製]工程、および<2>[(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子の調製]工程を省略した以外は、実施例1に準じて粒子状医薬組成物を調製した。即ち、得られた粒子状医薬組成物は、[(4)胃溶性皮膜被覆/(3)シールコート被覆/(2)有効成分含有層被覆/(1)不活性コア粒子]からなる4層構造を有しており、有機酸含有層は存在しない。なお、胃溶性皮膜の被覆量は、[(3)シールコート被覆/(2)有効成分含有層被覆/(1)不活性コア粒子]100重量部に対して32.4重量部とした。
得られた[(4)胃溶性皮膜被覆/(3)シールコート被覆/(2)有効成分含有層被覆/(1)不活性コア粒子]の平均粒径は237μm、有効成分バルデナフィルの含有量は約28重量%であった(比較製剤例4:表1参照)。
有機酸含有層不存在の粒子製剤である比較製剤例3も上記比較例1と同様にして製造することができる。また、比較製剤例1及び2も上記比較例1及び上記実施例2に準じ、(5)シールコート被覆(オーバーコート)(4)徐放性皮膜被覆/(3)シールコート被覆/(2)有効成分含有層被覆/(1)不活性コア粒子の順序で各工程を適宜選択し、製造することができる。
【0071】
実施例3[放出制御型粒子状医薬組成物(MRP:比較製剤例1〜4並びに製剤例1〜18及び20)からの有効成分(バルデナフィル)溶出プロファイル]
【0072】
実施例1および2で得られた放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)、ならびに、比較例1並びにそれらに準じて得た粒子状医薬組成物について、有効成分(バルデナフィル)の溶出プロファイルを測定した。
【0073】
溶出試験は、日本薬局方一般試験法6.10溶出試験法のパドル法(装置2)に従って行った。即ち、37℃に設定した恒温水槽中の撹拌層内に所定のpHに調製した試験液900mLを入れ、バルデナフィル10mgに相当する量のMRPを分散させる。パドルを50rpm又は100rpmで撹拌しつつ、所定時間毎にサンプリングを行い、メンブランフィルターによるろ液につき、日本薬局方一般試験法2.24紫外可視吸光度測定法又は2.01液体クロマトグラフィーによりバルデナフィルの溶出量をモニターした(液体クロマトグラフィーではフマル酸の放出量も同時にモニター)。得られた結果を図4〜15に示す。尚、図4〜15中、Controlは、市販品(レビトラ(登録商標)錠10mg)であり、Comp.1〜4並びにEx.1〜18及び20はそれぞれ、比較製剤例1〜4並びに製剤例1〜18及び20を表す。
また、表8〜15にはMRPの1%溶出時間(t1% [分](t1% [分]と表示することもある。);本発明のラグタイムの定義である「1%溶出するまでに要する時間」を表す。)並びに15分後溶出率 (d15分 [%](d15分 [%]と表示することもある。);ラグタイム後の溶出速度の指標である。)を示す。表8〜15中、Controlは、市販品(レビトラ(登録商標)錠10mg)である。
これら溶出プロファイルの結果が示唆することを以下に要約する。
比較製剤例1及び2:有効成分層の外側に徐放性皮膜を施すことにより、短時間のラグタイムが生じるが(比較製剤例1)、ラグタイムを延ばすため皮膜を厚くするほどラグタイム後の溶出は抑制される。徐放性皮膜と水溶性高分子の混合皮膜は、徐放性皮膜単味と本質的に同じ問題をかかえる(比較製剤例2)。
比較製剤例3及び4:有効成分層の外側に胃溶性皮膜を施すことにより、口腔内のpH(pH6.8)における溶出を抑制できる。ただし、皮膜が厚いと長時間経過してもほとんど溶出せず(比較製剤例4)、薄いと皮膜の不完全さに基づく溶出の加速(短時間のラグタイム)が見られるものの、その後の放出は不完全であり、再現性は全く期待できない(比較製剤例3)。
製剤例1−4(徐放性皮膜なし実施例):胃溶性皮膜の厚みでラグタイム、フマル酸の量でラグタイム後の溶出率を調整可能である(pH6.8)。また酸性では速放である。
製剤例5−10(徐放性皮膜あり実施例):徐放性皮膜の厚みでラグタイム後の溶出速度も調整可能である(pH6.8)。また酸性ではやはり速放である。
製剤例11−18及び20:徐放性皮膜がエチルセルロース水分散液(アクアコートECD−30)でもアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液(オイドラギットNE30D)でも溶出プロファイルは精密に制御されており、すなわち半透膜であれば適用可能であることを示唆する。また、製剤例16より、要すれば放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)の表面修飾も可能で、例えばエリスリトールを10%被覆しても溶出特性は維持されることがわかる。
【0074】
実施例4 [放出制御型粒子状医薬組成物(MRP:製剤例12)からの有効成分(バルデナフィル)およびフマル酸の溶出プロファイルの比較]
実施例2に準じて調製した放出制御型粒子状医薬組成物[(7)胃溶性皮膜被覆/(6)シールコート被覆/(5)有効成分含有層被覆/(4)シールコート被覆/(3)徐放性皮膜被覆/(2)シールコート被覆/(1)有機酸含有層被覆粒子](MRP)を用いて、実施例3に準じてバルデナフィルおよびフマル酸の溶出プロファイルを同時測定した。
【0075】
測定に用いたMRPの層構成と各層の組成は表4中の製剤例12で、溶出プロファイルは図11のとおりである。図中、Ex.12は製剤例12のことを表し、FA at pH1.2 、FA at pH5.0及びFA at pH6.8はそれぞれ、pH1.2におけるフマル酸、pH5.0におけるフマル酸及びpH6.8におけるフマル酸を表す。
【0076】
その溶出プロファイルの結果から、下記のことがわかる。即ち、製剤例12は、弱酸性から中性(pH5以上)において、ラグタイムは有機酸の放出開始と一致(同期)し、有機酸は制御された放出速度に応じて最外層(オイドラギットE)の一部又は全部を溶解し、外液に曝されて表面積が増大した有効成分の溶出が始まる。また、酸性(pH1.2)では最外層から溶解が進行するので、有機酸の放出よりより先に有効成分が溶出する(速放)。
【0077】
実施例5
[非活性速溶粒子の調製]
エリスリトール980g及びポビドン20gを高速攪拌造粒機に入れ、75%エタノールを湿潤剤として加え、練合した。この練合物を円筒造粒機を用いて造粒し、棚式乾燥機で乾燥した。網式整粒機で粒径を調整し、非活性速溶粒子を得た。
【0078】
[経口投与用粒子状組成物(ODP)の調製]
実施例2に準じて得られた[徐放性皮膜層を有する放出制御型粒子状医薬組成物(製剤例12)]69.8g及び上記で得た[非活性速溶粒子]930.2gを混合し、経口投与用粒子状組成物(ODP)1000gを調製した(製剤例19)。有効成分バルデナフィルの含有量は約1重量%であった。
製剤例22−24の経口投与用粒子状組成物(ODP)も上記実施例5と同様にして製造することができる。
【0079】
[口腔内崩壊錠(ODT)の調製]
製剤例21の口腔内崩壊錠(ODT)は、実施例2で製造した放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)(製剤例10)に流動化剤(軽質無水ケイ酸)を加え(製剤例20)、[非活性速溶粒子]及び滑沢剤(フマル酸ステアリルナトリウム)と混合後、圧縮成型し、日本特許第2919771号に記載の硬化処理を施すことにより得た。
【0080】
実施例6[[経口投与用粒子状組成物からの有効成分(バルデナフィル)の溶出プロファイル]
実施例5またはそれに準じて調製した経口投与用粒子状組成物(ODP)及び口腔内崩壊錠(ODT)を用いて、実施例3と同様に、有効成分(バルデナフィル)の溶出プロファイルを測定した。得られた結果を図12〜16に示す。
【0081】
図12及び13中、Controlは、市販品(レビトラ(登録商標)錠10mg)であり、図16中、Controlは、市販品(レビトラ(登録商標)錠20mg)であり、図12〜16中、Ex.12、19、21、22、23及び24はそれぞれ、製剤例12、19、21、22、23及び24を表す。
【0082】
図13中「Ex.19,6M」とは、Ex.19の経口投与用粒子状組成物(ODP)粒子を乾燥剤とともに包装し、加速試験条件下(40℃/75%RH(相対湿度))、6ヵ月間保存したサンプルを表す。Ex.19,6Mの経口投与用粒子状組成物(ODP)の溶出特性はEx.19の経口投与用粒子状組成物(ODP)からほとんど変化しておらず、長期的な安定性を示唆する。
また、表14〜16にはODP並びにODTの1%溶出時間(t1% [分];本発明のラグタイムの定義である「1%溶出するまでに要する時間」)並びに15分後溶出率 (d15分 [%];ラグタイム後の溶出速度の指標)を示す。表14〜15中、Controlは、市販品(レビトラ(登録商標)錠10mg)であり、表16中、Controlは、市販品(レビトラ(登録商標)錠20mg)であり、表15中「製剤例19,6M」とは、製剤例19の経口投与用粒子状組成物(ODP)粒子を乾燥剤とともに包装し、加速試験条件下(40℃/75%RH(相対湿度))、6ヵ月間保存したサンプルを表す。
【0083】
製剤例19、21、22、23及び24の経口投与用粒子状組成物(ODP)又は口腔内崩壊錠(ODT)のように、唾液の分泌を促す甘味成分(別途調製した速溶顆粒)、必要に応じて流動化剤ないし滑沢剤や香料等を加えて分包化ないし錠剤化すると、服用や持ち運びに便利であると同時に、溶出特性は維持され、安定性も良好(6ヵ月間の加速試験)であった。
【0084】
比較製剤例1〜4及び製剤例1〜24の処方を以下の表1〜7に示し、1%溶出時間(t1% [分])並びに15分後溶出率 (d15分 [%])を以下の表8〜16に示す。
【0085】
表1[有機酸含有層不存在の粒子製剤:比較製剤例1〜4]
【0086】
【表1】


【0087】
表2[徐放性皮膜層(SR)のない放出制御型粒子状医薬組成物(MRP):製剤例1〜4]
【0088】
【表2】


【0089】
表3[徐放性皮膜層(SR)を有する放出制御型粒子状医薬組成物(MRP):製剤例5〜8]
【0090】
【表3】

【0091】
表4[徐放性皮膜層(SR)を有する放出制御型粒子状医薬組成物(MRP):製剤例9〜12]
【0092】
【表4】


【0093】
表5[徐放性皮膜層(SR)を有する放出制御型粒子状医薬組成物(MRP):製剤例13〜16]
【0094】
【表5】


【0095】
表6[徐放性皮膜層(SR)を有する放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)又はMRPを用いた経口投与用粒子状組成物(ODP):製造例17〜20]
【0096】
【表6】


【0097】
表7[徐放性皮膜層(SR)を有する放出制御型粒子状医薬組成物(MRP)を用いた経口投与用粒子状組成物(ODP)又は口腔内崩壊錠(ODT):製造例21〜24]
【0098】
【表7】

【0099】
表8[Control(市販品レビトラ(登録商標)錠10mg)及びMRPのpH1.2における1%溶出時間(t1% [分])及び15分後溶出率 (d15分 [%]):バルデナフィル10mg相当量分散、パドルを50rpmで攪拌、900ml試験液使用:図4に対応する。]
【0100】
【表8】

【0101】
表9[Control(市販品レビトラ(登録商標)錠10mg)及びMRPのpH1.2における1%溶出時間(t1% [分])及び15分後溶出率 (d15分 [%]):バルデナフィル10mg相当量分散、パドルを50rpmで攪拌、900ml試験液使用:図6及び8に対応する。]
【0102】
【表9】

【0103】
表10[Control(市販品レビトラ(登録商標)錠10mg)及びMRPのpH6.8における1%溶出時間(t1% [分])及び15分後溶出率 (d15分[%]):バルデナフィル10mg相当量分散、パドルを50rpmで攪拌、900ml試験液使用:図5に対応する。]
【0104】
【表10】

【0105】
表11[Control(市販品レビトラ(登録商標)錠10mg)及びMRPのpH6.8における1%溶出時間(t1% [分])及び15分後溶出率 (d15分[%]):バルデナフィル10mg相当量分散、パドルを50rpmで攪拌、900ml試験液使用:図7及び9に対応する。]
【0106】
【表11】

【0107】
表12[Control(市販品レビトラ(登録商標)錠10mg)及びMRPのpH6.8における1%溶出時間(t1% [分])及び15分後溶出率 (d15分[%]):バルデナフィル10mg相当量分散、パドルを100rpmで攪拌、900ml試験液使用:図10に対応する。]
【0108】
【表12】

【0109】
表13[MRPのpH1.2、5.0及び6.8における1%溶出時間(t1% [分])及び15分後溶出率 (d15分[%]):バルデナフィル10mg相当量分散、パドルを50rpmで攪拌、900ml試験液使用:図11に対応する。]
【0110】
【表13】

【0111】
表14[Control(市販品レビトラ(登録商標)錠10mg)、MRP、ODP及びODTのpH1.2における1%溶出時間(t1% [分])及び15分後溶出率 (d15分 [%]):バルデナフィル10mg相当量分散、パドルを50rpmで攪拌、900ml試験液使用:図12及び14に対応する。]
【0112】
【表14】

【0113】
表15[Control(市販品レビトラ(登録商標)錠10mg)、MRP、ODP及びODTのpH6.8における1%溶出時間(t1% [分])及び15分後溶出率 (d15分 [%]):バルデナフィル10mg相当量分散、パドルを50rpmで攪拌、900ml試験液使用:図13及び15に対応する。]
【0114】
【表15】

【0115】
表16[Control(市販品レビトラ(登録商標)錠20mg)及びODPのpH6.8における1%溶出時間(t1% [分])及び15分後溶出率 (d15分 [%]):バルデナフィル20mg相当量分散、パドルを100rpmで攪拌、900ml試験液使用:図16に対応する。]
【0116】
【表16】

【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明は、バルデナフィルに代表される弱酸性ないし塩基性の有効成分において、十分な長さのラグタイムを有し、ラグタイム後に速やかに有効成分を放出でき、かつ有効成分・製剤の特性・目的に応じて、ラグタイムの長さおよびその後の溶出速度を任意にコントロール可能な放出制御型粒子状医薬組成物ならびに該組成物を含有する口腔内速崩壊粒子剤もしくは錠剤を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経口投与用の多層構造の粒子状医薬組成物であって、少なくとも、薬学的に許容される有機酸を含有する核粒子、該有機酸含有核粒子の外側に弱酸性ないし塩基性の有効成分を含有する有効成分含有層、および有効成分含有層の外側に胃溶性皮膜層を含んでなる、放出制御型粒子状医薬組成物。
【請求項2】
医薬組成物からの有効成分の放出が実質的に口腔内では起らず、その後、上部消化管において速やかに起るように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の放出制御型粒子状医薬組成物。
【請求項3】
有機酸が胃溶性皮膜層を溶解させることにより有効成分の放出が始まることを特徴とする、請求項1または2に記載の放出制御型粒子状医薬組成物。
【請求項4】
有機酸含有核粒子と有効成分含有層との間に徐放性皮膜層を有する、請求項1〜3のいずれか1つに記載の放出制御型粒子状医薬組成物。
【請求項5】
有機酸含有核粒子が、不活性コアの外側に有機酸含有層を被覆した粒子である、請求項1〜4のいずれか1つに記載の放出制御型粒子状医薬組成物。
【請求項6】
有機酸含有核粒子、徐放性皮膜層、有効成分含有層および胃溶性皮膜層の少なくとも1つの表面にシールコート皮膜層が被覆してある、請求項1〜5のいずれか1つに記載の放出制御型粒子状医薬組成物。
【請求項7】
有効成分がバルデナフィル塩酸塩水和物である、請求項1〜6のいずれか1つに記載の放出制御型粒子状医薬組成物。
【請求項8】
有機酸が、フマル酸、酒石酸、コハク酸およびクエン酸、並びにそれらの水和物からなる群から選ばれた少なくとも1つである、請求項1〜7のいずれか1つに記載の放出制御型粒子状医薬組成物。
【請求項9】
有機酸がフマル酸である、請求項1〜8のいずれか1つに記載の放出制御型粒子状医薬組成物。
【請求項10】
不活性コアが結晶セルロース粒、白糖・デンプン球状顆粒、精製白糖球状顆粒、乳糖・結晶セルロース球状顆粒およびマンニトール球状顆粒からなる群から選ばれた少なくとも1つである、請求項5〜9のいずれか1つに記載の放出制御型粒子状医薬組成物。
【請求項11】
不活性コアが結晶セルロース粒である、請求項5〜10のいずれか1つに記載の放出制御型粒子状医薬組成物。
【請求項12】
胃溶性皮膜層がアミノアルキルメタクリレートコポリマーEおよびポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートからなる群から選ばれた少なくとも1つを含有する、請求項1〜11のいずれか1つに記載の放出制御型粒子状医薬組成物。
【請求項13】
シールコートがヒプロメロースおよびメチルセルロースからなる群から選ばれた少なくとも1つを含有する、請求項6〜12のいずれか1つに記載の放出制御型粒子状医薬組成物。
【請求項14】
徐放性皮膜層がエチルセルロースまたはアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマーを含有する、請求項4〜13のいずれか1つに記載の放出制御型粒子状医薬組成物。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1つに記載の放出制御型粒子状医薬組成物の製造方法であって、
(i)不活性コアの外側に有機酸含有層を被覆し有機酸含有核粒子を形成する工程、
(ii)該有機酸含有核粒子の外側に徐放性皮膜を被覆する工程
(iii)該徐放性皮膜層の外側に有効成分を含有する層を被覆する工程、および
(iv)該有効成分含有層の外側を胃溶性皮膜で被覆して経口投与用の放出制御型粒子状医薬組成物を形成する工程
を含むことを特徴とする、放出制御型粒子状医薬組成物の製造方法。
【請求項16】
有機酸含有核粒子および徐放性皮膜層の間、徐放性皮膜層および有効成分含有層の間、ならびに有効成分含有層および胃溶性皮膜層の間の少なくとも1つにシールコート皮膜層を設ける工程を含む、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜14のいずれか1つに記載の放出制御型粒子状医薬組成物および有効成分を含有しない速溶粒子を含んでなる、経口投与用崩壊性粒子状組成物。
【請求項18】
速溶粒子が糖アルコールおよび結合剤を含んでなる、請求項17に記載の経口投与用崩壊性粒子状組成物。
【請求項19】
糖アルコールがエリスリトールである、請求項18に記載の経口投与用崩壊性粒子状組成物。
【請求項20】
結合剤がポビドンまたはヒドロキシプロピルセルロールである、請求項18又は19に記載の経口投与用崩壊性粒子状組成物。
【請求項21】
更に流動化剤もしくは滑沢剤および/または香料を含んでなる、請求項17〜20のいずれか1つに記載の経口投与用崩壊性粒子状組成物。
【請求項22】
請求項17〜21のいずれか1つに記載の経口投与用崩壊性粒子状組成物の製造方法であって、
(i)不活性コアの外側に有機酸含有層を被覆し有機酸含有核粒子を形成する工程、
(ii)該有機酸含有核粒子の外側に徐放性皮膜を被覆する工程
(iii)該徐放性皮膜層の外側に有効成分を含有する層を被覆する工程、
(iv)該有効成分含有層の外側を胃溶性皮膜で被覆して経口投与用の放出制御型粒子状医薬組成物を形成する工程、および
(v)該放出制御型粒子状医薬組成物および速溶粒子、ならびに、要すれば流動化剤もしくは滑沢剤および/または香料を混合する工程
を含むことを特徴とする、経口投与用粒子状組成物の製造方法。
【請求項23】
有機酸含有核粒子および徐放性皮膜層の間、徐放性皮膜層および有効成分含有層の間、ならびに有効成分含有層および胃溶性皮膜層の間の少なくとも1つにシールコート皮膜層を設ける工程を含む、請求項22に記載の製造方法。
【請求項24】
経口投与用崩壊性粒子状組成物の製造方法であって、速溶粒子を糖アルコール、結合剤および湿潤剤を混合し、造粒後乾燥させて製造する工程を含む、請求項22または23に記載の製造方法。
【請求項25】
口腔内崩壊錠であって、請求項17〜21のいずれか1つに記載の経口投与用粒子状組成物を打錠することにより得られる、崩壊錠。
【請求項26】
経口投与後3〜15分間は弱酸性ないし塩基性の有効成分が実質的に放出されず、その後急速に放出が始まる、請求項1〜14のいずれか1つに記載の放出制御型粒子状医薬組成物。
【請求項27】
経口投与後3〜15分間は弱酸性ないし塩基性の有効成分が実質的に放出されず、その後急速に放出が始まる、請求項17〜21のいずれかに1つ記載の経口投与用崩壊性粒子状組成物。
【請求項28】
経口投与後3〜15分間は弱酸性ないし塩基性の有効成分が実質的に放出されず、その後急速に放出が始まる、請求項25に記載の口腔内崩壊錠。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−246252(P2012−246252A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119340(P2011−119340)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(591144132)バイエル薬品株式会社 (4)
【Fターム(参考)】