説明

経口投与組成物

【課題】 経口投与におけるα−リノレン酸の角層細胞成熟促進作用を高める技術を提供する。
【解決手段】 1)α−リノレン酸及び/又はその塩と、2)亜鉛とを含有することを特徴とする、経口投与組成物。前記α−リノレン酸及び/又はその塩としては、シソ科の植物のオイルとして配合されていることが好ましく、亜鉛としては、グルコン酸亜鉛として配合されていることが好ましく、α−リノレン酸及びその塩をα−リノレン酸に換算した質量と、亜鉛を金属亜鉛に換算した質量との比は、1:0.001〜1:0.1であることが好ましい。前記経口投与組成物は、角層における角層細胞の成熟を促進するための食品であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口投与組成物に関し、更に詳細には、皮膚バリア機能の向上に有用な経口投与組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚組織は、外部からの化学的或いは物理的刺激から生体を守る重要な防御臓器であり、かかる皮膚組織の防御機構、所謂皮膚バリア機能 が正常に働かないと、アトピー性皮膚炎や敏感肌など慢性的に炎症を起こしやすい肌状況になるのは既に知られていることである。この様な皮膚の防御機構は角層細胞の構造の成熟度に依存していると言われている。即ち、良く成熟し、充分に扁平になり、表面積が充分に大きくなった細胞が幾層にも重なったしっかりした構造であれば皮膚バリア機能 は正常に作動しており、逆に皮膚バリア機能 が低下した肌では、未熟な面積の小さい角層細胞が角層の最上面にまで現れていることが知られている。従って、角層細胞を成熟させ、その面積を増大させることは皮膚バリア機能 の向上につながる。又、この様な角層細胞の成熟は、過剰に負荷されるストレスによって阻害されることも既に知られている。(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)社会生活において、負荷されるストレスが過剰になっている現代においては、ストレスによって妨げられた角層細胞の成熟を促進する手段の開発が重要な課題となっている。
【0003】
皮膚バリア機能を向上せしめる手段としては、保湿成分やセラミドの合成を促進する成分などを経皮的に皮膚外用剤で投与する方法などが知られている。(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5を参照)しかしながら、これらの方法は角層細胞の成熟速度に影響を及ぼすものではない。角層細胞の成熟速度を促進せしめる技術が開発できれば、これらの技術の効果を更に高められると考えられる。
【0004】
皮膚バリア機能を向上せしめる手段の内、皮膚外用剤によらない技術としては、α−リノレン酸を経口投与し、角層細胞の成熟速度を促進せしめる方法が知られている。(例えば、特許文献6を参照)しかしながら、この方法の効果は明確であるものの、更に効果を高める余地が存するのも否定できない。言い換えれば、経口投与におけるα−リノレン酸の角層細胞成熟促進作用を高める技術が望まれているが、この様な技術は未だ得られていないと言える。更に、1)α−リノレン酸及び/又はその塩と、2)亜鉛とを含有する経口投与組成物は知られていないし、この様な形態によりα−リノレン酸の角層細胞の成熟速度を促進する作用が増強されることも全く知られていない。
【0005】
【特許文献1】特開2003−171310号公報
【特許文献2】特開2002−291909号公報
【特許文献3】特開2004−051543号公報
【特許文献4】特開2003−171310号公報
【特許文献5】特開平10−259135号公報
【特許文献6】特開2004−035456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、経口投与におけるα−リノレン酸の角層細胞成熟促進作用を高める技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この様な状況に鑑みて、本発明者らは、経口投与におけるα−リノレン酸の角層細胞成熟促進作用を高める技術を求めて、鋭意研究努力を重ねた結果、亜鉛及び/又はその塩を共存させることにより、α−リノレン酸及び/又はその塩の角層細胞成熟促進作用を高められることを見出し、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に示すとおりである。
(1)1)α−リノレン酸及び/又はその塩と、2)亜鉛とを含有することを特徴とする、経口投与組成物。
(2)前記α−リノレン酸及び/又はその塩が、シソ科の植物のオイルとして配合されていることを特徴とする、(1)に記載の経口投与組成物。
(3)亜鉛が、グルコン酸亜鉛として配合されていることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の経口投与組成物。
(4)α−リノレン酸及びその塩をα−リノレン酸に換算した質量と、亜鉛を金属亜鉛に換算した質量との比が、1:0.001〜1:0.1であることを特徴とする、(1)〜(3)何れか1項に記載の経口投与組成物。
(5)前記経口投与組成物が、角層における角層細胞の成熟を促進するための食品であることを特徴とする、請求項1〜4何れか1項に記載の経口投与組成物。
(6)皮膚バリア機能を向上させる作用を有することを特徴とする、請求項5に記載の経口投与組成物。
(7)角層細胞の成熟を促進する作用を有する旨の表示、及び/又は、皮膚バリア機能を向上せしめる作用を有する旨の表示を製品形態に有することを特徴とする、(5)又は(6)に記載の経口投与組成物。
(8)亜鉛の、α−リノレン酸及び/又はその塩含有食品組成物への配合による、α−リノレン酸及び/又はその塩による角層細胞の成熟促進効果の増強方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、経口投与におけるα−リノレン酸の角層細胞成熟促進作用を高める技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(1)本発明の経口投与組成物の必須成分であるα−リノレン酸
本発明の経口投与組成物は、α−リノレン酸を必須成分として含有する。α−リノレン酸は既に化成品としての市販品が存し、かかる市販品を購入して利用することも出来るし、天然の食材などのうちの、α−リノレン酸を潤沢に含有する素材を配合する形で経口投与組成物に含有せしめることも出来る。かかる素材には、抽出物のような加工品も含まれる。又、α−リノレン酸は脂肪酸として含有することも出来るし、アルカリとともに処理して塩の形に誘導し、塩の形で含有することも出来る。塩としては、生理的に許容されるものであれば特段の限定はなく、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩などが例示できる。かかるα−リノレン酸は、シソの実、エゴマの実などのシソ科の植物の種子に多く含まれており、かかる種子より抽出したオイルを古来より、食材として用いてきた歴史が存するので、本発明の経口投与組成物としては、エゴマやシソなどのシソ科植物の種子の抽出物の形態で配合することが好ましい。この様な形態を取ることにより、介在物に由来する薬動力学的に優れた作用も存する。抽出物としては、基源動植物、好ましくはシソ科シ乃至はシソ科エゴマの種子を圧搾して、流動物を得る圧搾物、溶媒を加えて溶媒抽出した溶媒抽出物、溶媒抽出物から溶媒を減圧溜去などにより除去した、溶媒抽出物の溶媒除去物などが例示できる。これらの抽出物は何れも常法に則って行えば良く、例えば、圧搾物であれば、基源動植物に100〜1000Kg/cm2程度の圧力をかけ、流出する成分を集めればよい。又、溶媒抽出は、基源動植物1重量部に1〜20重量部の溶媒を加え、室温であれば数日間、沸点付近の温度であれば数時間浸漬すればよい。溶媒としては、水、エタノール、メタノール、イソプロパノール、1,3−ブタンジオールなどのアルコール類、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、アセトニトリル等のニトリル類、酢酸エチルや蟻酸メチルなどのエステル類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフランなどのエーテル類、石油エーテル等の炭化水素類、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素類などが好適に例示できる。溶媒除去の後、更にカラムクロマトグラフィーなどにより分画することもできる。特に好ましい抽出物の形態は圧搾物である。
【0010】
斯くして得られたα−リノレン酸は、経口投与することにより、角層細胞の成熟を促進せしめ、皮膚最上部に存する角層細胞の面積を増大させる効果を有する。この様な効果を奏するためには、α−リノレン酸及び/又はその塩をα−リノレン酸に換算して、1日あたり、1〜5g、より好ましくは、1.5〜3gを1回乃至は数回に分割して経口投与出来るように製剤設計することが好ましい。かかる成分の投与量が少なすぎると、前記効果を得られない場合が存し、多すぎると、下痢などの好ましくない作用を発現する場合が存する。
【0011】
(2)本発明の経口投与組成物の必須成分である亜鉛
本発明の経口投与組成物は、亜鉛を必須成分として含有する。亜鉛は金属のまま含有することも出来るし、水酸化物、酸化物或いは塩の形を取って含有することも出来る。塩としては、生理的に許容されるものであれば特段の限定はなく適用でき、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩などの鉱酸塩、クエン酸塩、蓚酸塩、酒石酸塩、グルコン酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩などの有機酸塩などが好適に例示でき、グルコン酸塩が特に好ましい。これは一般的にグルコン酸塩の形態を取ることにより、金属の毒性が著しく軽減されるためである。本発明の経口投与組成物においては、かかる亜鉛は唯一種の形態で含有することも出来るし、二種以上の形態を組み合わせて含有することも出来る。本発明の経口投与組成物に於いて、かかる亜鉛は、前記α−リノレン酸の角層細胞の成熟促進作用を更に高める作用を有する。この様な作用を発現するためには、亜鉛は、金属亜鉛の質量に換算して、α−リノレン酸及びその塩の質量をα−リノレン酸に換算した質量1に対して、0.001〜0.1、より好ましくは0.005〜0.05になるように含有させることが好ましい。亜鉛の量が少なすぎると前記効果を奏さない場合が存し、多すぎると副作用の発現する場合が存する。
【0012】
(3)本発明の経口投与組成物
本発明の経口投与組成物は、経口で投与される製品であれば特段の限定無く適用することが出来る。この様な製品としては、食品が特に好適に例示でき、該食品としては、専ら、角層細胞の成熟を促進し、皮膚バリア機能を向上させる目的の食品、例えば、特定保健用食品や健康食品などに適用することが好ましい。この様に専ら角層細胞の成熟を促進し、皮膚バリア機能を向上させる目的を有することを消費者に教宣し、的確な使用態様を守ってもらうことが本発明の効果を高める手段となるので、的確な使用態様を明示するために、角層細胞の成熟を促進する作用を有する旨の表示、及び/又は、皮膚バリア機能を向上せしめる作用を有する旨の表示を製品形態、特に包装形態に掲げておくことが好ましい。
【0013】
本発明の経口投与組成物は、前記必須成分以外に、通常化粧料で使用される任意の成分を含有することが出来る。この様な任意成分としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、乳化・分散剤、被覆剤、糖衣剤、矯味・矯臭剤、着色剤などが例示できる。
【0014】
本発明の経口投与組成物は、前記必須成分と、任意成分とを常法に従って処理することにより製造することが出来る。斯くの如くに製造される製品形態としては、機能的な目的の食品、例えば、特定保健用食品や健康食品など、本発明で言えば、専ら、角層細胞の成熟を促進し、皮膚バリア機能を向上させる目的の食品、例えば、特定保健用食品や健康食品などで使用されている製品形態であれば特段の限定無く実施することが出来、この様な製品形態としては、例えば、ハードカプセルやソフトカプセルなどのカプセル剤、錠剤、1回分ごとに分包されていても良い顆粒剤、粉末剤、ドリンク剤、エリキシール剤などが好ましく例示できる。
【0015】
以下に、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がかかる実施例にのみ限定されないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0016】
下記に示す処方に従って、本発明の経口投与組成物であるカプセル剤形の食品、及び、比較例1〜3を作成した。即ち、処方成分を良く混練り、攪拌し、これをゼラチン120mg及びグリセリン30mgから成形したカプセルに充填し、密閉してカプセル剤形の食品を得た。(表1は、1カプセルあたりの含有量を示す。)尚、シソ油はエゴマの種子を圧搾して得たエゴマの種子油である。
【0017】
【表1】

【0018】
<飲用試験>
前記実施例1、比較例1〜3のカプセル剤形の食品を用いて、刺激に敏感と自認しているボランティアのパネラーによる飲用試験を行った。パネラーは1群10名とし、各処方ごとに、ソフトカプセルを1日当り6粒を8週間の連日飲用してもらった。各パネラーは、飲用前と飲用8週間後に、角層水分蒸散量をTEWAメータで測定した。測定は温度22〜24℃、相対湿度40〜60%の条件下で洗顔20分後に行った。結果を表2に示す。これより、α−リノレン酸を含むシソ油とグルコン酸亜鉛として亜鉛との両方含む実施例1は、大幅に角層水分蒸散量が低下し、角層保護力の改善効果が見られた。α−リノレン酸を単独で含むもの(比較例1)も改善効果が見られたが、両方含むもの(実施例1)より効果は少なかった。亜鉛を単独に含むもの(比較例2)の効果は非常に少なく、両方含まないもの(比較例3)の効果は、ほとんどなかった。これは本発明の経口投与組成物に於いて、亜鉛がα−リノレン酸の角層細胞の成熟促進作用を増強しているためと思われる。
【0019】
【表2】

【0020】
この飲用試験において、8週目に、飲用開始時に比較した肌状態の改善状態も確認した。即ち、パネラー自身の印象として、肌状態の改善度を下記の基準で判定してもらった。判定はアンケートによって回答してもらった。結果を出現例数として、表3に示す。この結果より、TEWL(経皮的水分散逸量)の抑制効果が肌状態としても使用者自身が確認できることが判る。
【0021】
(判定基準)
スコア5:著しく改善
スコア4:明確に改善
スコア3:やや改善
スコア2:不変
スコア1:やや悪化
スコア0:悪化
【0022】
【表3】

【0023】
前記の飲用試験において、飲用試験前と8週後にパネラーの頬部より、粘着ディスクを用いて角層細胞を採取し、ブリリアントグリーンで染色した後、角層細胞の面積を計測した。結果を平均面積として表4に示す。前記の結果は角層細胞の面積の増大、言い換えれば、何らかの理由で角層細胞が未成熟のまま角層が形成されて、刺激に敏感になっている人の角層が、成熟速度が増大し、成熟した形で角層を形成し、皮膚バリア機能が増大したためと思われる。(単位はμm
【0024】
【表4】

【実施例2】
【0025】
実施例1と同様に、下記に示す処方に従って、本発明の経口投与組成物であるカプセル剤形の食品を作成した。カプセルは実施例1と同じものを用いた。飲用試験における角層細胞の面積の変化は飲用前が633±127であったのが、飲用試験後は658±117であった。(n=3)
【0026】
(処方)
シソ油(エゴマの種子油) 300mg
塩化亜鉛 5mg
【実施例3】
【0027】
実施例1と同様に、下記に示す処方に従って、本発明の経口投与組成物であるカプセル剤形の食品を作成した。カプセルは実施例1と同じものを用いた。飲用試験における角層細胞の面積の変化は飲用前が625±131であったのが、飲用試験後は667±111であった。(n=3)
【0028】
(処方)
シソ油(エゴマの種子油) 300mg
クエン酸亜鉛 15mg
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、食品に応用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)α−リノレン酸及び/又はその塩と、2)亜鉛とを含有することを特徴とする、経口投与組成物。
【請求項2】
前記α−リノレン酸及び/又はその塩が、シソ科の植物のオイルとして配合されていることを特徴とする、請求項1に記載の経口投与組成物。
【請求項3】
亜鉛が、グルコン酸亜鉛として配合されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の経口投与組成物。
【請求項4】
α−リノレン酸及びその塩をα−リノレン酸に換算した質量と、亜鉛を金属亜鉛に換算した質量との比が、1:0.001〜1:0.1であることを特徴とする、請求項1〜3何れか1項に記載の経口投与組成物。
【請求項5】
前記経口投与組成物が、角層における角層細胞の成熟を促進するための食品であることを特徴とする、請求項1〜4何れか1項に記載の経口投与組成物。
【請求項6】
皮膚バリア機能を向上させる作用を有することを特徴とする、請求項5に記載の経口投与組成物。
【請求項7】
角層細胞の成熟を促進する作用を有する旨の表示、及び/又は、皮膚バリア機能を向上せしめる作用を有する旨の表示を製品形態に有することを特徴とする、請求項5又は6に記載の経口投与組成物。
【請求項8】
亜鉛の、α−リノレン酸及び/又はその塩含有食品組成物への配合による、α−リノレン酸及び/又はその塩による角層細胞の成熟促進効果の増強方法。

【公開番号】特開2007−14294(P2007−14294A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−201071(P2005−201071)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】