説明

経路予測装置

【課題】観測データが長期間に亘って欠けている時においても信頼性ある経路予測が可能な経路予測装置を得る。
【解決手段】観測情報記憶部に記憶されている観測情報を監視し解析し、観測データが得られている間は該観測情報の解析結果を元に上記目標側経路評価関数パラメータ値調整部を周期的に実行し上記目標側経路評価関数パラメータ値記憶部に記憶されているパラメータの値を調整し、観測データが欠けている間は上記目標側経路評価関数パラメータ値記憶部に記憶されているパラメータの値を上記目標側最適経路生成部に入力して目標側最適経路を生成させる経路予測システムタスク実行部を含み、経路予測システムタスク実行部は、観測情報の解析結果に応じて、目標側経路評価関数パラメータ値調整部で調整するパラメータの数を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、飛行目標の運動を監視し、その目標が山陰に隠れる等により、観測データが欠けた場合に、その先の経路を予測する経路予測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の経路予測装置は、常時観測データが得られる場合の目標追尾を意図した追尾フィルタを利用して、観測データが欠けた後の経路予測も行われていた。観測データが欠けた後の具体的な動作は、観測データの代わりに、前回の予測値を追尾フィルタに入力し、未来時刻の目標の位置や速度を算出することを繰り返すというものである。
例えば、現在時刻の目標の位置や速度の情報、および、地形情報をファジイ推論要素に入力し、地形に対して目標が取る基本行動(目標が低対地高度を保ちながら、地形への衝突を回避する等)を前提とした目標の操縦量を算出することによって、次時刻の目標の位置や速度を求める予測部を持つ。
また、観測データが得られている間は、観測データと予測値の誤差を利用して、その誤差が小さくなるようにファジイ推論から算出される操縦量を調整する学習調整部を持つ。そして、2つの構成要素を持つことで、観測データが欠けている時においても信頼性の高い経路予測を行う(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、経路予測に利用可能な従来技術として、目標側が目的地(監視側の重要拠点)までの最適な飛行経路を計画する技術がある。以後、「目標側最適経路生成技術」と呼ぶ。目標側最適経路生成技術によって生成された経路は、地形や監視側レーダ等に対して目標が取る基本行動であることから、これを観測データが欠けた時の予測経路として利用することも可能である。
目標側最適経路生成技術の動作は、移動空間を離散化(グリッド状に分割する等)し、ある評価関数を最適化するような経路点集合をダイクストラで選択することにより、最適経路を生成するというものである。ここで利用される評価関数は、経路生成において最適化すべき各要素(移動距離、レーダからの被探知性等)の評価値の線形和としてモデル化されることが多く、各要素間のトレードオフ調整用パラメータ(各項の重みづけ係数値)が存在する。例えば、目標側が飛行経路計画を行うにあたり、総移動距離が短くレーダに探知されにくい経路を最適経路とし、以下の式(1)に示す評価関数を最小化する経路を求める。
【0004】
F(経路)=(1−α)×総移動距離+α×レーダからの探知リスク (1)
【0005】
但し、αはトレードオフ調整用パラメータである(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2749727号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Shi Xiaoli 著,「Optimization of Fighter Aircraft Evasive Trajectories for Radar Threats Avoidance」,In Proceedings of the 2007 IEEE International Conference on Control and Automation,P303〜307
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の経路予測装置は、観測データが欠ける時に、予測値を積み重ねて経路予測を行うため、これが長くなると予測経路の信頼性が低下するという問題点があった。ここで、特許文献1では、地形に対する目標の基本行動が「目標が低対地高度を保ちながら、地形への衝突を回避する経路を通る」という前提に基づき、地形情報を経路予測に利用する。これにより、特許文献1は、目標が山陰に隠れた際の観測データ間欠時においても予測経路の信頼性を向上する。
しかし、特許文献1は、目標の基本行動として、「目標が監視側レーダに探知されにくい経路を通る」ことを前提としないため、山陰に隠れる以上の観測データが長期間に亘って欠けた時(例えば、目標が監視側のレーダ覆域を考慮して、山陰から復帰しないような経路を通った場合)において、予測経路の信頼性が低下するという問題点あった。
【0009】
一方、非特許文献1では、観測データが欠ける時の目標の経路予測に利用可能な従来技術である目標側最適経路生成技術は、目標の基本行動として、「目標が監視側レーダに探知されにくい経路を通る」ことを前提とした。しかし、経路生成時に利用する目標側経路評価関数の各項のトレードオフ調整用パラメータ値の設定が不適切であると、予測経路の信頼性が低下するという問題点あった。
【0010】
この発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、目標の基本行動が「監視側の重要拠点を目的地として、地形情報・監視側レーダ覆域情報等を考慮したある目標側経路評価関数を最適化するような経路を飛行する」との前提で、観測データが欠けている時に目標側最適経路を生成することによって目標の経路予測を行い、さらに、目標側最適経路の生成に利用する目標側経路評価関数のトレードオフ調整用パラメータ値を得られた観測情報に基づいて設定・調整することにより、観測データが長期間に亘って欠けている時においても信頼性ある経路予測が可能な経路予測装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る経路予測装置は、目標を観測して観測データを出力するセンサ部、入力される上記観測データを上記目標の観測情報として出力する目標情報取得部、順次得られる上記観測情報を時系列に記憶する観測情報記憶部、地形情報が予め格納された地形情報データベース、監視側のレーダ情報が予め格納された監視側レーダ情報データベース、上記目標が目指す対象とする可能性が高い監視側の重要拠点データが予め格納された監視側重要拠点データベース、上記目標にとっての経路の最適性に影響を与える要素の評価値の線形和で定義された目標側経路評価関数の各上記要素間のトレードオフを調整するパラメータの値を記憶する目標側経路評価関数パラメータ値記憶部、経路生成開始時刻での上記目標の位置や速度、上記目標側経路評価関数のパラメータの値、上記監視側重要拠点データベースおよび上記監視側レーダ情報データベース、上記地形情報データベースに格納されているデータに基づき、上記目標側経路評価関数を最適化する監視側の重要拠点までの経路を目標側最適経路として生成する目標側最適経路生成部、上記目標の観測情報の一連、調整モードおよび上記目標側経路評価関数の異なる複数のパラメータの値を上記目標側最適経路生成部に入力して目標側最適経路を生成させるとともに上記目標側最適経路生成部が生成した異なる複数の経路のうち上記目標の観測情報の一連と最も類似した経路で利用されているパラメータの値を上記目標側経路評価関数パラメータ値記憶部に記憶されているパラメータの値に更新する目標側経路評価関数パラメータ値調整部、上記観測情報記憶部に記憶されている観測情報を監視し解析し、上記観測データが得られている間は該観測情報の解析結果を元に上記目標側経路評価関数パラメータ値調整部を周期的に実行し、上記観測データが欠けている間は上記目標側経路評価関数パラメータ値記憶部に記憶されているパラメータの値を上記目標側最適経路生成部に入力して目標側最適経路を生成させる経路予測システムタスク実行部含む経路予測装置であって、上記観測データが欠けている時に、地形や上記監視側レーダに対して上記目標が取る基本行動に基づき上記目標側最適経路を生成することで上記目標の経路予測を行う場合、該観測情報の解析結果に基づいて、上記目標側最適経路の生成で利用する上記目標側経路評価関数の複数のパラメータの一部のパラメータに絞ってパラメータ値の調整を行う。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係る経路予測装置は、目標の基本行動が「監視側の重要拠点を目的地として、地形や監視側レーダ覆域等を考慮した目標側経路評価関数を最適化するような経路を飛行する」との前提に立って、観測データが欠けている時に目標側最適経路を生成することによって目標の経路予測を行い、目標側最適経路の生成で利用する目標側経路評価関数の各要素のトレードオフ調整用パラメータのパラメータ値を設定、調整する際に、観測情報の解析結果に基づいて設定、調整するパラメータ値を絞るので、効率的にパラメータ値を設定、調整することができ、観測データが長期間に亘って欠けていても信頼性がある経路予測が可能となるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に係る経路予測装置の構成図である。
【図2】図1の経路予測システムタスク実行部が目標側経路評価関数パラメータ値調整部または目標側最適経路生成部を実行させるタイミングを示す図である。
【図3】図1の目標側最適経路生成部において生成した移動先候補点の例を示す図である。
【図4】図1の経路予測システムタスク実行部が目標側経路評価関数パラメータ値調整部を実行させるときに入力する調整モードの設定例を示す図である。
【図5】図1の目標側経路評価関数パラメータ値調整部の動作を示す図である。
【図6】図1の目標側経路評価関数パラメータ値調整部での目標側最適経路生成部で生成された経路と観測情報の一連との位置誤差の算出方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の経路予測装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る経路予測装置の構成図である。
この発明の実施の形態1に係る経路予測装置は、目標を観測して観測データを出力するレーダからなるセンサ部1、観測データが入力されるとともに目標の観測情報、例えば観測時刻、位置、速度を出力する目標情報取得部2、所定のサンプリング周期で順次得られる観測情報を時系列に記憶する観測情報記憶部3、地形情報が予め格納された地形情報データベース4、監視側のレーダ情報、例えば配置や覆域等が予め格納された監視側レーダ情報データベース5、目標が目指す対象となる可能性が高い監視側の重要拠点が予め格納された監視側重要拠点データベース6、及び、目標にとっての飛行経路の最適性に影響を与える要素、例えば飛行高度、監視側レーダからの被探知性等の評価値の線形和で定義された目標側経路評価関数の各要素間のトレードオフを調整するパラメータ値、すなわち各項の重みづけ係数値を記憶する目標側経路評価関数パラメータ値記憶部7を備える。
【0015】
また、この発明の実施の形態1に係る経路予測装置は、入力された経路生成開始時刻、経路生成開始時刻での目標の位置や速度、目標側経路評価関数のパラメータ値、および、監視側重要拠点データベース6及び監視側レーダ情報データベース5、地形情報データベース4に格納されているデータに基づいて、監視側の重要拠点を目的地とした目標側にとっての最適経路を「目標側経路評価関数を最適化するような経路」として生成する目標側最適経路生成部8、及び、入力された目標の観測情報の一連と調整モード(調整するパラメータの指定)に基づいて、目標側経路評価関数パラメータ値記憶部7に記憶されているパラメータ値を設定や調整するために、目標側最適経路生成部8を実行して目標側経路評価関数のパラメータ値が異なる経路を複数生成し、入力された目標の観測情報の一連と最も類似した経路で利用されているパラメータ値で目標側経路評価関数パラメータ値記憶部7に記憶されているパラメータ値を更新することを複数回繰り返す目標側経路評価関数パラメータ値調整部9を備える。
【0016】
また、この発明の実施の形態1に係る経路予測装置は、監視側レーダ情報データベース5及び地形情報データベース4に格納されているデータに基づいて、観測情報記憶部3に記憶されている観測情報を監視し解析し、観測データが得られている間は観測情報の解析結果を元に、調整するパラメータ数を出来る限り絞った調整モードで目標側経路評価関数パラメータ値調整部9を定期的に実行し、観測データが欠けている場合は、目標側経路評価関数パラメータ値記憶部7に記憶されているパラメータ値、すなわち観測情報に基づき調整されたものを入力として目標側最適経路生成部8を実行し、得られた経路を目標の観測データが欠けた後の予測経路として経路予測装置の外部へ出力する経路予測システムタスク実行部10を備える。
【0017】
次に、この発明の実施の形態1に係る経路予測装置の一連の動作について説明する。
センサ部1は特定の目標を任意のサンプリング間隔で観測する。センサ部1が観測して得たデータは目標情報取得部2で処理されて、目標の観測時刻、位置、速度を含む観測情報に変換される。目標情報取得部2から得られた各時刻における目標の観測情報は、観測情報記憶部3内に時系列に順次保存される。
経路予測システムタスク実行部10は、監視側レーダ情報データベース5及び地形情報データベース4に格納されているデータに基づいて、観測情報記憶部3に記憶されている目標の観測情報を監視し解析して、目標側経路評価関数パラメータ値調整部9と目標側最適経路生成部8を実行する。
【0018】
図2は、目標側経路評価関数パラメータ値調整部9と目標側最適経路生成部8が経路予測システムタスク実行部10によって実行されるタイミングを示したものである。
目標側経路評価関数パラメータ値調整部9は、センサ部1により目標が観測されて観測データが得られている間は所定の等間隔毎に、および、観測データが欠けていた期間からの復帰後は直後に、前回の目標側経路評価関数パラメータ値調整部9の実行後から新たに取得された観測情報の一連と調整モードが入力され、パラメータ値の調整を行うために実行される。調整モードとは、調整するパラメータを指定するモードであり、これは、新たに取得された観測情報の一連の解析結果に基づいて設定される。
【0019】
目標側最適経路生成部8は、観測データが欠けているときに、観測データが欠けた直前の目標の観測時刻、位置や速度、目標側経路評価関数パラメータ値記憶部7に記憶されているパラメータ値、すなわち目標側経路評価関数パラメータ値調整部9によって調整されたパラメータ値が入力され、目標側経路生成を行うために実行される。そして、目標側最適経路生成部8から得た経路のデータは、経路予測システムタスク実行部10に送られ、経路予測システムタスク実行部10から観測データが欠けた後の目標の予測経路として本経路予測装置の外部へ出力される。
【0020】
更に、目標側最適経路生成部8の動作を詳細に説明する。
ここでは、任意の時間間隔ΔT毎に、目標の移動先候補点を複数生成し、目標側経路評価関数の評価値が良い移動先候補点を次時刻の目標の移動先として選択することを繰り返して、目標側最適経路を生成する。以下、目標の位置、速度、および、その目標がその位置、速度を保有する時刻を「目標状態」と称する。
【0021】
具体的には、以下の処理を行う。
ステップ1において、目標側最適経路生成部8を実行する際に入力として与えられた経路生成開始時刻、経路生成開始時刻の目標の位置、速度を「現在時刻の目標状態」として設定する。また、目標側最適経路生成部8を実行する際に入力として与えられた目標側経路評価関数のパラメータ値を目標側経路評価関数に設定する。
ステップ2において、経路生成開始時刻の目標状態に対する時間間隔ΔT経過後の移動先候補点を複数個生成する。移動先候補点の目標状態は、その移動先候補点に目標が存在する時刻(現在時刻tにΔTを加えた時刻)、及び移動先候補点の位置や速度である。
図3は、この発明の実施の形態1に係る経路予測装置に備えられる目標側最適経路生成部8において生成する移動先候補点の例を示す図である。
現在時刻tの目標の速度と時間間隔ΔTから目標が旋回可能な最大角度を算出し、時刻t+ΔTの移動先候補点として、図3に示すように、「旋回無しの移動先候補点」と「最大旋回角度で旋回したときの移動先候補点」に加え、「最大旋回角度より小さい旋回角度で旋回したときの移動先候補点」を複数個生成している。次時刻t+ΔTの目標の位置や速度は、移動先候補点の旋回角度と現在時刻の位置や速度より算出される。
【0022】
ステップ3において、ステップ2において生成した移動先候補点を目標側経路評価関数で評価し、最も評価値が良い移動先候補点を次時刻t+ΔTの移動先として選択する。目標側経路評価関数fの例を式(2)に示す。各項の値は、地形情報データベース4、監視側レーダ情報データベース5、監視側重要拠点データベース6に格納されているデータを元に計算する。
【0023】
f(移動先候補点)=α×目的地方向までの水平距離+β×地形高度+γ×レーダからの探知リスク (2)
【0024】
式(2)の係数α、β、γはトレードオフ調整用パラメータであり、α、β、γが係数である各項には最適性のトレードオフ関係があり、α、β、γの比重によって生成される経路は以下のようになる。
αとγには、目的地までの最短経路を通るか、レーダから探知されてにくい経路を通るかのトレードオフ関係がある。そして、αの値を大きくすると最短経路をより重視した経路となる。逆に、γの値を大きくするとレーダからの被探知性をより重視した経路となる。
【0025】
αとβには、低対地高度を保つ飛行を行うにあたり、地形への衝突を避ける際に、地形追従、すなわち目的地方向から逸脱しないことを重視して、例えば、山がある場合は山の斜面に沿って上っていくことで地形への衝突を回避するか、地形回避、すなわち低高度を飛行することを重視して、例えば、山がある場合は山を迂回することで地形への衝突を回避するかのトレードオフ関係がある。そして、αの値を大きくすると地形追従型の経路となる。逆に、βの値を大きくすると地形回避型の経路となる。
【0026】
ステップ4において、ステップ3において選択された移動先候補点の目標状態として「移動先が監視側重要拠点の近く、すなわち任意に設定された距離に到達する」という終了条件を満たすならば、これまでに選択された全ての移動先候補点(目標状態)の集合を生成経路として出力し、目標側最適経路生成部8の処理を終了する。
終了条件を満たさない場合は、現在時刻にΔTを加え、現在時刻の目標状態を選択された移動先候補点の目標状態として、ステップ2へ戻る。
【0027】
次に、経路予測システムタスク実行部10で目標側経路評価関数パラメータ値調整部9を実行する際に、入力として与える調整モードの設定方法を説明する。
前回、目標側経路評価関数パラメータ値調整部9が実行されてから新たに取得された観測情報の一連の解析結果に応じて、出来る限り調整するパラメータを絞るように調整モードを設定する。
例えば、式(2)の目標側経路評価関数の場合は、観測情報の一連の解析結果に応じて、以下のように調整モードを設定する。ここで、図4は式(2)の目標側経路評価関数に対する調整モードの設定例を示したものである。
【0028】
新たに取得された観測情報の一連の解析結果が「目標の初期探知直後」である場合、1度もパラメータ調整処理が行われていないため、「パラメータ値初期化モード」を調整モードに設定する。
新たに取得された観測情報の一連の解析結果が「地形がある程度平坦な箇所を通過後」である場合、目標は地形の影響をあまり受けずに飛行したことが予測されるため、この観測情報に基づいてαとβの比重調整をすることは難しい。よって、αとγに絞った比重調整を行う「α、γの比重調整モード」を調整モードに設定する。
【0029】
新たに取得された観測情報の一連の解析結果が「ある山の見通し外へ出て、同じ山(または近くの山)の見通し外からの復帰後」である場合、目標は地形の影響を強く受けた飛行をしたこと予測されるため、この観測情報を元にαとγを調整することは難しい。よって、αとβに絞った比重調整を行う「α、βの比重調整モード」を調整モードに設定する。
新たに取得された観測情報の一連の解析結果が「地形がある程度複雑な箇所を通過後」または「データが長時間に亘って欠けていた後」である場合は、地形、監視側レーダが目標の飛行にどのように影響したか分かりにくいため、調整するパラメータは絞らずにα、β、γ全ての比重調整を行う「α、β、γの比重調整モード」を調整モードに設定する。
【0030】
次に、目標側経路評価関数パラメータ値調整部9の動作について詳細に説明する。図5は、この発明の実施の形態1に係る経路予測装置に備えられる目標側経路評価関数パラメータ値調整部9の動作を示すイメージ図である。
まず、目標側経路評価関数パラメータ値記憶部7に記憶されているパラメータ値を読出し、パラメータ調整処理で利用する基準パラメータにその値を設定する。そして、入力された観測情報の一連と設定された調整モードに応じて、基準パラメータに以下の調整処理を複数回繰り返す。
【0031】
ステップ11において、設定された調整モードに応じて、基準パラメータPの近傍パラメータP〜P、すなわち基準パラメータPの値を少し変化させた値からなるパラメータを複数個生成する。例えば、式(2)の目標側経路評価関数の場合、基準パラメータPは各項のパラメータ値の集合P={α,β,γ}であり、調整モードに応じて、近傍パラメータP〜Pを以下のように生成する。
パラメータ値初期化モードの場合、様々な数値のα、β、γの組合せを近傍パラメータとして複数生成する。
α、βの比重調整モードの場合、α、γは基準パラメータ値をそのまま利用し、βのみを基準値に対して増減させたα、β、γの組合せを近傍パラメータとして複数生成する。
α、γの比重調整モードの場合、α、βは基準パラメータ値をそのまま利用し、γのみを基準値に対して増減させたα、β、γの組合せを近傍パラメータとして複数生成する。
α、β、γの比重調整モードの場合、αは基準パラメータ値をそのまま利用し、β、γを基準値に対して増減させたα、β、γの組合せを近傍パラメータとして複数生成する。
【0032】
ステップ12において、入力された観測情報の一連の中で、最も早い時刻の目標の位置や速度、および、基準パラメータPとステップ11で生成した複数個の近傍パラメータPK1〜PKNのそれぞれを入力として、目標側最適経路生成部8で経路R、RK1〜RKNを生成し、それぞれのパラメータ値を目標側経路評価関数に設定した場合の目標側最適経路を得る。
【0033】
ステップ13において、ステップ12において生成した経路R、R〜Rのうち、入力された観測情報の一連と最も類似した経路を選択する。類似した経路とは、例えば、観測情報の一連に対して位置誤差が最も小さい経路を示す。この場合の位置誤差は以下の処理によって算出される。図6は、その算出法を示したものである。
ここで、目標側最適経路生成部8によって生成された経路は移動先として選択された移動先候補点の集合R={r,r,・・・,r}であり、観測情報の一連はOB={ob,ob,・・・,ob}である。そして、各r(j=1,2,・・・,n)、ob(i=1,2,・・・,m}は、目標の位置、速度に加え、obの場合は観測時刻、rの場合は目標がその位置に存在する時刻の情報を保持する。
【0034】
ステップ13−1において、時刻を用いてrとobを対応づける。尚、この目標側最適経路生成部8の例では生成される経路は時刻情報を持つが、もし、目標側最適経路生成部で生成される経路が時刻情報を持たない場合はrとrj−1の距離をそれぞれ算出し、目標の速度で割ることによって、時刻を算出する。
ステップ13−2において、対応づけたr、obの位置誤差(距離)を算出する。
ステップ13−3において、ステップ13−2で算出した位置誤差の総和を求め、目標側最適経路生成部8で生成された経路と観測情報の一連との位置誤差とする。
ステップ14において、基準パラメータ値をステップ13で選択された経路(観測経路の一連と最も類似した経路)を生成するのに利用されていたパラメータ値で更新する。予め指定された任意の繰返し回数に達した場合、目標側経路評価関数パラメータ値記憶部7に記憶されているパラメータ値を基準パラメータ値(調整後のパラメータ値)で更新して目標側経路評価関数パラメータ値調整部9の動作を終了する。そうでない場合、ステップ11へ戻る。
【0035】
この発明の実施の形態1に係る経路予測装置は、目標の基本行動が「監視側の重要拠点を目的地として、地形や監視側レーダ覆域等を考慮した目標側経路評価関数を最適化するような経路を飛行する」との前提に立って、観測データが欠けている時に目標側最適経路を生成することによって目標の経路予測を行い、目標側最適経路の生成で利用する目標側経路評価関数の各要素のトレードオフ調整用パラメータのパラメータ値を設定、調整する際に、観測情報の解析結果に基づいて設定、調整するパラメータ数を絞るので、効率的にパラメータ値を設定、調整することができ、観測データが長期間に亘って欠けていても信頼性がある経路予測が可能となるという効果がある。
【0036】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2に係る経路予測装置は、この発明の実施の形態1に係る経路予測装置と目標側最適経路生成部が異なり、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記し説明を省略する。
この発明の実施の形態2に係る目標側最適経路生成部は、利用する経路生成の終了条件に「目標が監視側レーダに再び検知可能となる」という条件を加えること以外はこの発明の実施の形態1に係る目標側最適経路生成部8と同じである。
【0037】
この発明の実施の形態2に係る経路予測装置は、目標が目的地(監視側重要拠点)へ到着する前に、監視側レーダで探知可能となる状況が予測された場合にも、直ぐに予測経路が外部へ出力されるので、経路予測の目的として重要となる「目標の再出現時刻、位置や速度」の情報取得のリアルタイム性が向上するという効果がある。
【0038】
実施の形態3.
この発明の実施の形態3に係る経路予測装置は、この発明の実施の形態1に係る経路予測装置と目標側最適経路生成部および目標側経路評価関数パラメータ値調整部が異なり、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記し説明を省略する。
この発明の実施の形態3に係る目標側最適経路生成部は、経路生成終了時刻が入力されることと、経路生成の終了条件に「生成した経路を目標が現在時刻から飛行した場合に経路生成終了時刻に達する」という条件を加えること以外はこの発明の実施の形態1に係る目標側最適経路生成部8と同じである。
【0039】
この発明の実施の形態3に係る目標側経路評価関数パラメータ値調整部は、パラメータ調整処理に利用するために、目標側最適経路生成部を実行して目標側経路評価関数に設定されるパラメータ値が異なる経路を複数生成する。この際に生成する経路は、目的地までの経路を必要とせず、目標側経路評価関数パラメータ値調整部に入力として与えられた観測情報の一連に対応した経路のみを必要とする。よって、目標側最適経路生成部を実行する際に、経路生成終了時刻として、観測情報の一連のうち、最も遅い目標の観測時刻を入力する。以上を除き、目標側経路評価関数パラメータ値調整部の動作は実施の形態1と同じである。
【0040】
この発明の実施の形態3に係る経路予測装置は、目標側経路評価関数パラメータ値調整部において、必要部分だけを指定して目標側最適経路生成部を実行することによって、目標側経路評価関数パラメータ値調整部のパラメータ調整処理が効率化され、リアルタイム性が向上するという効果がある。
【0041】
実施の形態4.
この発明の実施の形態4に係る経路予測装置は、この発明の実施の形態1に係る経路予測装置と経路予測システムタスク実行部が異なり、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記し説明を省略する。
この発明の実施の形態4に係る経路予測システムタスク実行部は、観測データが欠けているときに目標側最適経路生成部8を実行し得た予測経路を出力するが、引き続き観測データが欠けている場合には、目標側経路評価関数パラメータ値調整部9を再び実行し、目標側経路評価関数パラメータ値記憶部7に記憶されているパラメータ値を調整する。尚、この場合、目標側経路評価関数パラメータ値調整部9へ入力される観測情報の一連は、前回、または過去に入力された観測情報の一連である。そして、目標側経路評価関数パラメータ値記憶部7に記憶されている再調整後のパラメータ値を目標側最適経路生成部8に入力し、最適経路生成処理を実行し、得られた経路を予測経路として再び外部へ出力する。以上を除き、経路予測システムタスク実行部の動作は実施形態1と同じである。
【0042】
この発明の実施の形態4に係る経路予測装置は、経路予測システムタスク実行部において、観測データが欠けているときに予測経路を出力後、引き続き観測データが欠けている場合には、目標側経路評価関数のパラメータ値を観測情報に基づいてさらに調整し、その調整後のパラメータ値によって生成された経路を再び予測経路として外部へ出力するので、より信頼性の高い予測経路を提供するという効果がある。
【0043】
実施の形態5.
この発明の実施の形態5に係る経路予測装置は、この発明の実施の形態1に係る経路予測装置に目標側経路評価関数パラメータ値記憶部7に記憶されているパラメータ値を外部からユーザが設定できる機能を追加したことが異なり、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記し説明を省略する。
この発明の実施の形態5に係る経路予測装置は、目標側経路評価関数のパラメータ値の初期値をユーザが設定できるし、パラメータ調整処理においてもユーザと対話型でできるので、より信頼性の高い経路予測が可能となるという効果がある。
【0044】
実施の形態6.
この発明の実施の形態6に係る経路予測装置は、この発明の実施の形態1に係る経路予測装置と経路予測システムタスク実行部が異なり、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記し説明を省略する。
この発明の実施の形態6に係る経路予測システムタスク実行部は、この発明の実施の形態1に係る経路予測システムタスク実行部と観測データが欠けていて目標側最適経路生成部8を実行して予測経路を生成するときに、異なる複数のパラメータ値を用いて複数の経路を生成することが異なり、それ以外は同様である。
異なる複数のパラメータ値とは、例えば以下のようなものである。
目標側経路評価関数パラメータ値記憶部7に記憶されているパラメータ値の近傍パラメータ。
経路予測システムタスク実行部にユーザが予測経路として追加表示させたいパラメータ値を設定できる機能を付加し、それを利用して入力されたパラメータ値。
【0045】
この発明の実施の形態6に係る経路予測装置は、目標側最適経路生成部8で利用する目標側経路評価関数に異なる複数のパラメータ値が異なる複数の経路を予測経路として出力することで、ユーザは目標の観測データが欠けている時の経路として様々なケースを想定することが可能となるという効果がある。
【符号の説明】
【0046】
1 センサ部、2 目標情報取得部、3 観測情報記憶部、4 地形情報データベース、5 監視側レーダ情報データベース、6 監視側重要拠点データベース、7 目標側経路評価関数パラメータ値記憶部、8 目標側最適経路生成部、9 目標側経路評価関数パラメータ値調整部、10 経路予測システムタスク実行部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標を観測して観測データを出力するセンサ部、
入力される上記観測データを上記目標の観測情報として出力する目標情報取得部、
順次得られる上記観測情報を時系列に記憶する観測情報記憶部、
地形情報が予め格納された地形情報データベース、
監視側のレーダ情報が予め格納された監視側レーダ情報データベース、
上記目標が目指す対象とする可能性が高い監視側の重要拠点データが予め格納された監視側重要拠点データベース、
上記目標にとっての経路の最適性に影響を与える要素の評価値の線形和で定義された目標側経路評価関数の各上記要素間のトレードオフを調整するパラメータの値を記憶する目標側経路評価関数パラメータ値記憶部、
経路生成開始時刻での上記目標の位置や速度、上記目標側経路評価関数のパラメータの値、上記監視側重要拠点データベースおよび上記監視側レーダ情報データベース、上記地形情報データベースに格納されているデータに基づき、上記目標側経路評価関数を最適化する監視側の重要拠点までの経路を目標側最適経路として生成する目標側最適経路生成部、
上記目標の観測情報の一連、調整モードおよび上記目標側経路評価関数の異なる複数のパラメータの値を上記目標側最適経路生成部に入力して目標側最適経路を生成させるとともに上記目標側最適経路生成部が生成した異なる複数の経路のうち上記目標の観測情報の一連と最も類似した経路で利用されているパラメータの値を上記目標側経路評価関数パラメータ値記憶部に記憶されているパラメータの値に更新する目標側経路評価関数パラメータ値調整部、
上記観測情報記憶部に記憶されている観測情報を監視し解析し、上記観測データが得られている間は該観測情報の解析結果を元に上記目標側経路評価関数パラメータ値調整部を周期的に実行し、上記観測データが欠けている間は上記目標側経路評価関数パラメータ値記憶部に記憶されているパラメータの値を上記目標側最適経路生成部に入力して目標側最適経路を生成させる経路予測システムタスク実行部含む経路予測装置であって、
上記観測データが欠けている時に、地形や上記監視側レーダに対して上記目標が取る基本行動に基づき上記目標側最適経路を生成することで上記目標の経路予測を行う場合、該観測情報の解析結果に基づいて、上記目標側最適経路の生成で利用する上記目標側経路評価関数の複数のパラメータの一部のパラメータに絞ってパラメータ値の調整を行うことを特徴とする経路予測装置。
【請求項2】
上記目標側最適経路生成部は、利用する経路生成の終了条件として上記目標が監視側レーダに再び検知可能となるという条件を加えたことを特徴とする請求項1に記載の経路予測装置。
【請求項3】
上記目標側最適経路生成部は、利用する経路生成の終了条件として生成した経路を目標が現在時刻から飛行した場合に設定された経路生成終了時刻に達するという条件を加え、
上記目標側経路評価関数パラメータ値調整部は、パラメータ調整処理に必要とする経路部分のみを生成するように、上記目標側最適経路生成部に経路生成終了時刻を入力することを特徴とする請求項1に記載の経路予測装置。
【請求項4】
上記経路予測システムタスク実行部は、予測経路を出力した後でも観測データが欠けている場合は、上記目標側経路評価関数パラメータ値調整部を再度実行してパラメータ値を調整し、且つ該パラメータ値を入力して上記目標側最適経路生成部を実行して得られた経路を再び予測経路として外部へ出力することを特徴とする請求項1に記載の経路予測装置。
【請求項5】
上記目標側経路評価関数パラメータ値記憶部に記憶されているパラメータ値を外部からユーザが設定できる機能を有することを特徴とする請求項1に記載の経路予測装置。
【請求項6】
上記経路予測システムタスク実行部は、観測データが欠けていて上記目標側最適経路生成部を実行して予測経路を得る際に、上記目標側経路評価関数パラメータ値記憶部に記憶されているパラメータ値および該パラメータ値と異なる複数のパラメータ値を上記目標側最適経路生成部に入力するとともに上記目標側最適経路生成部が生成した複数の経路を得て予測経路として出力することを特徴とする請求項1に記載の経路予測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−237339(P2011−237339A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110347(P2010−110347)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】