説明

結晶多形のスクリーニング方法

【課題】圧力が結晶多形に及ぼす影響をスクリーニングする方法を提供すること。
【解決手段】アモルファス状の対象化合物の懸濁液を加圧処理もしくは減圧処理する工程を含むことを特徴とする対象化合物の結晶多形のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶多形のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶多形が存在する化合物においては、結晶形によって、例えば溶解度、溶解速度、安定性、吸湿性等の物理化学的性質や、例えば効力、分解性や分解物、代謝性や代謝物、製剤特性等の諸特性が異なることが多い。そのため、対象化合物を医薬用途に用いる場合には、全ての結晶多形を見出し、それぞれの結晶形の物理化学的性質や特性等を考慮して、開発を進める結晶形を決定することが行われている。このようなことから、対象化合物の結晶多形のスクリーニングが重要視されており、結晶化の溶媒種や温度を変化させて、対象化合物の結晶化を自動的に行うスクリーニング方法が提案されている(例えば特許文献1および特許文献2参照。)。
【0003】
一方で、製剤化の工程においては、医薬原体の粉砕や打錠が行われるが、その際には医薬原体に相当の圧力がかかるため、結晶形が変化する場合があるため、結晶多形に圧力が及ぼす影響についてもスクリーニングする必要があった。しかしながら、加圧条件下では、化合物の溶媒への溶解度は高まる場合があるため、化合物の溶液を単に加圧するだけでは、圧力が結晶多形に及ぼす影響を確認することが難しかった。
【0004】
【特許文献1】特表2004−504596号公報
【特許文献2】特表2005−502861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況のもと、本発明者は、圧力が結晶多形に及ぼす影響をスクリーニングする方法について検討したところ、アモルファス状の対象化合物の懸濁液を加圧処理もしくは減圧処理することにより、容易に、結晶多形への圧力の影響をスクリーニングすることができることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、アモルファス状の対象化合物の懸濁液を加圧処理もしくは減圧処理する工程を含むことを特徴とする対象化合物の結晶多形のスクリーニング方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アモルファス状の対象化合物の懸濁液を用いるため、特定の結晶形の影響なく、圧力が結晶多形に及ぼす影響を、容易にスクリーニングすることができる。また、大気圧条件下では容易に転移して安定に取り出すことができない結晶形やより高密度の安定結晶形を見出すことも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の結晶多形のスクリーニング方法は、アモルファス状の対象化合物の懸濁液を加圧処理もしくは減圧処理する工程を含むことを特徴とするものであり、かかる工程以外に、他の結晶形をスクリーニングする工程、例えば大気圧下で、種々の溶媒に、対象化合物を溶解させて、冷却晶析処理する工程等を含んでいてもよい。
【0009】
アモルファス状の対象化合物の懸濁液は、当然特定の結晶形の対象化合物を含んでいないため、圧力が結晶多形へ及ぼす影響を容易にスクリーニングすることができる。
【0010】
アモルファス状の対象化合物は、対象化合物を粉末X線回折測定し、特定の結晶形のピークが観察されなければよい。かかるアモルファス状の対象化合物は、例えば対象化合物の溶融物を急速冷却する方法、対象化合物を溶媒に完全に溶解させた後、凍結乾燥もしくは噴霧乾燥する方法等が挙げられる。
【0011】
アモルファス状の対象化合物の懸濁液は、通常アモルファス状の対象化合物の粉末と該粉末を完全には溶解させない量の溶媒とを混合することにより調製される。アモルファス状の対象化合物の粉末は、例えばアモルファス状の対象化合物の塊を、スパチュラ等で押しつぶす方法、メノウ乳鉢で粉砕する方法、気流式粉砕機により粉砕する方法等により調製される。
【0012】
溶媒としては、対象化合物を溶解し得る溶媒であれば、その溶解度によらず、使用できる。溶媒の使用量は、前述のとおり、アモルファス状の対象化合物の粉末を完全には溶解させない量であればよく、対象化合物の種類や溶媒の種類、対象化合物の粉末の使用量等に応じて適宜決めればよい。かかる溶媒は、その温度を、加圧処理もしくは減圧処理する際の処理温度と略同一に調整しておくことが好ましい。
【0013】
アモルファス状の対象化合物の懸濁液は、通常耐圧密閉容器に収容し、加圧処理もしくは減圧処理がなされる。該懸濁液は、そのまま容器内に収容してもよいし、例えばポリエチレン製袋内に収容した後、ヒートシール等で該袋を密閉した後、前記容器内に収容してもよい。
【0014】
加圧処理もしくは減圧処理は、通常の加圧装置もしくは減圧装置を用い、アモルファス状の対象化合物の懸濁液を大気圧よりも高いもしくは低い圧力条件下に所定時間保持することにより実施される。必要に応じて、前記懸濁液を攪拌しながら加圧処理もしくは減圧処理してもよい。
【0015】
加圧処理もしくは減圧処理の処理圧力を変えることにより、圧力の影響をスクリーニングすることができる。また、処理温度も、前記懸濁液中の対象化合物が完全に溶解しない温度であれば特に制限されない。また、処理時間も特に制限されない。
【0016】
所定時間加圧処理もしくは減圧処理した後、大気圧条件下に戻した後、容器内の対象化合物の懸濁液を濾過処理することにより、対象化合物の固体を取り出し、取り出した対象化合物の固体の結晶形を、例えば光学または電子顕微鏡観察法、偏光分析法、粉末X線回折測定、示差走査熱量測定法、熱重量分析法、赤外線分光分析法、近赤外線分光分析法、ラマン分光分析法、固体NMR法、目視観察等の結晶形を同定し得る手法に従って分析し、結晶形を同定すればよい。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0018】
実施例1
γ形インドメタシン結晶を約180℃で融解させた後、液体窒素中へ流し込んだ。液体窒素をデカンテーションにより除去した後、塩化カルシウムを傍らにおいて減圧条件下乾燥させた。得られたアモルファス状のインドメタシンを、セイシン企業製A−Oジェットミル(ベンチュリー圧:0.5MPa、グランディング圧1:0.5MPaおよびグランディング圧2:0.5MPa)を用いて粉砕処理し(ジェットミルへのアモルファス状のインドメタシンの供給速度は、1時間あたり30〜40gとした。)、粒子径約10μm以下の粉末を得た。得られたアモルファス状のインドメタシン粉末を粉末X線回折測定し、α晶やγ晶が検出されず、アモルファスであることを確認した。図1に、得られた粉末X線回折プロファイルを示した。
<測定条件>
装置:リガク製Rint2500V型(出力:50kV×300mA,X線Cu−Kα)
走査速度 2°/分,サンプリング幅 0.02°,走査モード:連続モード,試料採取量:約50mg
【0019】
アモルファス状のインドメタシン粉末約90mgを、ポリエチレン袋(縦約3cm×横約3cm)に入れ、エタノール約0.9mLを加え、アモルファス状のインドメタシンの懸濁液を調製した。前記懸濁液が入ったポリエチレン袋の開口部をヒートシールして密閉した。
【0020】
アモルファス状のインドメタシンの懸濁液が入ったポリエチレン袋を、耐圧容器(テラメックス製高圧容器PV400−50V型)に入れ、加圧装置(テラミックス製高圧ハンドポンプTP−500型)により、25℃で、100MPaの加圧条件下で4日間保持した。その後、大気圧に戻し、耐圧容器からポリエチレン袋を取り出し、内容物を濾過処理した。得られた結晶を粉末X線回折測定したところ、前記結晶はα晶であることが分かった。図2に、得られた粉末X線回折プロファイルを示した。測定条件は、上記と同じとした。
【0021】
実施例2
前記実施例1において、加圧条件を、400MPaに代えた以外は実施例1と同様に実施した。得られた結晶を粉末X線回折測定(測定条件は前記実施例1と同じとした。)したところ、前記結晶はα晶であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1で用いたアモルファス状のインドメタシンの粉末X線回折プロファイルである。
【図2】実施例1で得られたインドメタシンα晶の粉末X線回折プロファイルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモルファス状の対象化合物の懸濁液を加圧処理もしくは減圧処理する工程を含むことを特徴とする対象化合物の結晶多形のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−275575(P2006−275575A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−91272(P2005−91272)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(505113089)
【Fターム(参考)】