説明

結晶性セフジニル塩

式(I)のセフジニル結晶性塩[式中、nが1〜3の範囲にある]、セフジニルの調製および精製のための、その調製および使用が本明細書に開示される。式(I)の塩は、リン酸による処理により、セフジニル中間体または粗製セフジニルから得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性セフジニル塩およびその調製方法に関する。これらの塩は、セフジニルの合成および精製における有用な中間体である。
【背景技術】
【0002】
セフジニル(II)は、
【0003】
【化1】

【0004】
その化学名が[(−)−(6R,7R)]−7−{[(Z)−2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド}−8−オキソ−3−ビニル−5−チア−l−アザビシクロ[4.2.0]オクタ−2−エン−2−カルボン酸であり、広範な抗菌活性スペクトルにより、および経口投与用のその他の抗生物質のものより高い、グラム陽性菌およびグラム陰性菌に対する抗菌活性により特徴づけられる、経口用途の第3世代の半合成セファロスポリンである。特に、セフジニルは、ブドウ球菌および連鎖球菌に対し優れた抗菌活性を示す。
【0005】
セフジニルは通常、1種または複数の第1アミノ、ヒドロキシイミノまたはカルボキシ官能基の保護を考えることができる方法により調製される。保護基は、合成の最後に酸加水分解により除去される。
【0006】
米国特許第4559334号には、アニソール中のTFAにより、またはBF3・Et2Oにより加水分解される、セフジニルのベンズヒドリルエステルの調製方法が開示されている。
【0007】
国際公開第01/79211号には、ヒドロキシイミノおよびカルボキシ官能基を、それぞれベンズヒドリルおよびp−メトキシベンジル基(これらは、続いて非プロトン性溶媒中で有機酸の存在下、過塩素酸により除去される)による保護を経てセフジニルを調製することが教示されている。
【0008】
国際公開第97/24358号には、ヒドロキシイミノ官能基がトリチル基で保護される、p−トルエンスルホン酸とのセフジニル塩の調製が開示されている。
【0009】
セフジニルは酸に対する安定性が低いので、前記方法の収率は、時々不十分であり、純度が薬局方基準に適合しない。したがって、得られた生成物に対し、さらに精製、たとえば再結晶化(米国特許第4935507号による)、または塩の形成(米国特許第6350869号による)を行わなければならない。
発明の詳細な開示
式(I)のセフジニルの塩、
【0010】
【化2】

【0011】
[式中、nは1から3の範囲にある]
ならびにその水和物および溶媒和物は、前記欠点を克服することを可能にし、セフジニルの調製および精製において特に有用な中間体であることを見出した。
【0012】
nが2である、式(I)の塩が特に好ましい。
【0013】
式(I)の塩は、式(III)の保護された形態のセフジニル
【0014】
【化3】

【0015】
[式中、
1は、ベンズヒドリル、トリチルまたはp−メトキシベンジル基であり、
2は、ベンズヒドリル、t−ブチルまたはp−メトキシベンジル基である]
をリン酸で処理することにより得られる。
【0016】
この反応は、プロトン性または非プロトン性、極性または無極性の有機溶媒中、あるいはこれらの混合物中で実施される。より詳細には、溶媒は、ニトリル、好ましくはアセトニトリルまたはプロピオニトリル;エステル、好ましくは酢酸エチル、酢酸ブチル、ギ酸エチルおよび酢酸メチル;アミド、好ましくはN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、N−メチルピロリドン(NMP);ケトン、好ましくはアセトンおよびメチルエチルケトン;エーテル、好ましくはテトラヒドロフラン(THF)またはジオキサン;スルホキシドまたはスルホン、好ましくはジメチルスルホキシド(DMSO)およびスルホラン;カルボン酸、好ましくはギ酸および酢酸;塩素化溶媒、好ましくは塩化メチレン;およびアルコール、好ましくはメタノール、エタノールおよびイソプロパノールから選択される。
【0017】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、溶媒はアセトニトリルである。
【0018】
リン酸は、1〜20当量、好ましくは1〜10当量の範囲の量で、固体形態でまたは水溶液として加えられる。
【0019】
反応温度は、−10〜60℃、より好ましくは0〜45℃の範囲にある。
【0020】
塩(I)は、通常反応混合物中で結晶化し、ろ過により回収される。完全な沈殿を達成するために、以下から選択される有機溶媒を加え得る:ニトリル、好ましくはアセトニトリルまたはプロピオニトリル;エステル、好ましくは酢酸エチル、酢酸ブチル、ギ酸エチルおよび酢酸メチル;ケトン、好ましくはアセトンおよびメチルエチルケトン;エーテル、好ましくはジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルおよびtert−ブチルメチルエーテル。
【0021】
塩(I)の調製では、保護基を加水分解すること、および結晶形態で容易に回収可能な、安定で、高純度の(純度は一般に98%を超える)セフジニル中間体を得ることが同時に可能である。
【0022】
塩(I)は、従来の方法、たとえば、有機塩基、好ましくは第3アミン、より好ましくはトリエチルアミンにより、あるいは無機塩基、好ましくはアンモニア、またはアルカリ金属、好ましくはナトリウムもしくはカリウムの炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物もしくはリン酸塩による処理、および任意選択で、得られた塩の通常の酸による処理により、セフジニル、あるいはその水和体または溶媒和体に容易に変換することができる。この反応の溶媒は、水、または水と、アルコール、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノールまたはブタノール;ケトン、好ましくはアセトンまたはメチルエチルケトン、テトラヒドロフランまたはアセトニトリルの混合物であってもよい。得られた溶液は、通常の酸で処理され、通常セフジニルが溶媒和物として沈殿する。
【0023】
式(I)の塩はさらに、任意のその他の合成方法により得られた粗製セフジニルの精製のために特に有用である。この目的のために、リン酸を、1〜20当量、好ましくは1〜10当量の範囲の量の固体の形態でまたは水溶液として、−10℃〜60℃、好ましくはから0〜30℃の範囲の温度で添加することにより、粗製セフジニルが、水、またはプロトン性または非プロトン性の極性有機溶媒、あるいはこれらの混合物中に溶解される。有機溶媒は、ニトリル、好ましくはアセトニトリルおよびプロピオニトリル;アミド、好ましくはN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)およびN−メチルピロリドン(NMP);ケトン、好ましくはアセトン;エーテル、好ましくはテトラヒドロフラン(THF);アルコール、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールまたはn−ブチルアルコールから選択される。
【0024】
通常、塩(I)は反応混合物から自発的に結晶化するが、この目的に対して前に示したものから選択される有機溶媒の添加により、結晶化を引き起こし、完了させることもできる。
【0025】
沈殿が完了した後、塩(I)を回収し、上記のようにセフジニルに変換する。
【0026】
本発明を以下の実施例により例示する。
【実施例】
【0027】
実施例1
7−(Z)−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸リン酸塩
100グラムの7−(Z)−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−トリチルオキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸ジシクロヘキシルアミン塩を、1000mlのアセトニトリル中の67mlの85%リン酸の溶液中に溶解した。出発生成物が完全に変換するまで、混合物を45℃で2時間加熱した(HPLC)。20℃に冷却後、沈殿をろ過し、アセトニトリルで洗浄した。乾燥後、61グラムのセフジニルリン酸塩が得られた。
【0028】
HPLC純度=98%(第十四改正日本薬局方の方法による)
1H−NMR分析により生成物の構造が確認され、一方、31P−NMR分析によりリン酸の存在が確認され、これは約1115および970cm-1に特有の帯域を示している、IRスペクトルからも明らかである。
【0029】
1H−NMR(DMSO−d6,300MHz):11.27(1H,広幅s)、9.47(2H,d,J=8.3Hz)、7.13(2H,広幅s)、6.93(1H,dd,J=17.5Hz,11.5Hz)、6.68(1H,s)、5.80(1H,dd,J=8.3Hz,5Hz)、5.60(1H,d,J=17.5Hz)、5.33(1H,d,J=11.5Hz)、5.20(1H,d,J=5Hz);3.80および3.57(2H,AB系,J=17.9Hz)。
【0030】
実施例2
7−(Z)−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸リン酸塩
80グラムの7−(Z)−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−トリチルオキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸を、1000mlのアセトニトリル中の60mlの85%リン酸の溶液中に溶解した。出発生成物が完全に変換するまで、混合物を45℃で2時間加熱した(HPLC)。20℃に冷却後、生成物をろ過し、アセトニトリルで洗浄し、乾燥した。61グラムのセフジニルリン酸塩が得られた。
【0031】
実施例3
7−(Z)−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸リン酸塩
10グラムの7−(Z)−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−トリチルオキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸ベンズヒドリルエステル(調製物Aで報告した通りに調製)を、106mlのアセトニトリル中の21mlの85%リン酸の溶液中に加えた。出発生成物が完全に変換するまで、混合物を45℃で6時間加熱した(HPLC)。20℃に冷却後、沈殿をろ過し、アセトニトリルで洗浄し、乾燥した。2.8グラムのセフジニルリン酸塩が得られた。
【0032】
HPLC純度=99%(第十四改正日本薬局方の方法による)。
【0033】
実施例4
7−(Z)−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸リン酸塩
10グラムの粗製セフジニル(HPLC純度94%)(国際公開第98/45299号に従って調製された)を、15mlの85%リン酸および15mlのアセトニトリル中に溶解した。得られた溶液を30℃に加熱し、230mlのアセトニトリルの添加により、セフジニルリン酸塩が結晶化された。20℃に冷却後、沈殿をろ過し、アセトニトリルで洗浄し、乾燥した。14グラムのセフジニルリン酸塩が得られた。
【0034】
HPLC純度は、〜99%(第十四改正日本薬局方の方法による)。
【0035】
実施例5
7−(Z)−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(セフジニル)
10グラムのセフジニルリン酸塩を200mlの水中に溶解し、5℃で希アンモニアの添加によりpHを6に調整し、溶液を活性炭で処理した。活性炭の除去後、35℃で希塩酸の添加によりpHを2.5に調整した。15分後、溶液を5℃に冷却し、結晶化生成物をろ過し、水で洗浄し、乾燥した。6グラムのセフジニルが得られた。
【0036】
HPLC純度=99.5%(第十四改正日本薬局方の方法による)
(1%、510nm)=99.0%(米国特許第4935507号に報告された試験)
調製物A
7−(Z)−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−トリチルオキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸ベンズヒドリルエステル
75グラムの7−アミノ−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボキシレートベンズヒドリル塩酸塩の塩化メチレン懸濁液を、攪拌下でビス−トリメチルシリルアセトアミド(90ml)で処理して、透明な溶液を得る。60グラムの2−(Z)−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−トリチルオキシイミノ酢酸S−メルカプトベンゾチアゾリルエステルを加え、反応が完了するまで攪拌を続ける。反応混合物を水中に(1リットル)注ぎ、相を分離した。有機相を硫酸ナトリウムにより乾燥し、真空下で濃縮する。残留物を攪拌下で塩化メチレンおよびメタノール(1:1)で溶解する。固体をろ過し、真空下で乾燥して、約105gの生成物を得る。
【0037】
1H−NMR(CDCl3,300MHz):7.2−7.5(26H,m)、7.05(1H,dd,J=17.6Hz,11.3Hz)、6.99(1H,s)、6.74(1H,d,J=8.5Hz)、6.67(2H)、5.95(1H,dd,J=8.5Hz,5.0Hz)、5.44(1H,d,J=17.9Hz)、5.30(1H,d,J=11.6Hz)、5.07(1H,d,J=5.0Hz)、3.41、3.42(2H,AB系,JAB=17.6Hz)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)のセフジニル塩、
【化1】

[式中、nは1から3の範囲にある]
その水和物および溶媒和物。
【請求項2】
nが2である、請求項1に記載のセフジニル塩。
【請求項3】
結晶形態にある、請求項1または2に記載のセフジニル塩。
【請求項4】
式(III)の化合物
【化2】

[式中、
1は、ベンズヒドリル、トリチルまたはp−メトキシベンジル基であり、
2は、ベンズヒドリル、t−ブチルまたはp−メトキシベンジル基である]
のリン酸による処理を含んだ、式(I)の塩の調製方法。
【請求項5】
アセトニトリル、プロピオニトリル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、N−メチルピロリドン(NMP)、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン、ギ酸、酢酸、塩化メチレン、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールから選択される有機溶媒を使用することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
溶媒がアセトニトリルであることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
1〜20当量のリン酸を使用することを特徴とする、請求項4から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
式(I)の塩の有機または無機塩基による処理であって、有機塩基がトリエチルアミンであり、無機塩基がアンモニア、炭酸ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、あるいはリン酸ナトリウムまたはリン酸カリウムから選択される処理と、それに続く、得られた溶液の通常の酸による処理とを含んだ、セフジニル(II)
【化3】

の調製方法。
【請求項9】
式(I)の塩が、粗製セフジニルとリン酸を反応させることにより得られる、請求項8に記載の方法。



【公表番号】特表2006−511561(P2006−511561A)
【公表日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−561199(P2004−561199)
【出願日】平成15年12月1日(2003.12.1)
【国際出願番号】PCT/EP2003/013524
【国際公開番号】WO2004/056835
【国際公開日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(502370960)
【氏名又は名称原語表記】ANTIBIOTICOS S.p.A.
【Fターム(参考)】