説明

結晶性抗hTNFα抗体

本発明は抗hTNFα抗体を結晶化させるためのバッチ晶析方法(この方法は、前記抗体の工業的規模の生産を可能にする。)、前記方法により得られるような抗体結晶、前記結晶を含有する組成物並びに前記結晶および組成物の使用方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗hTNFα抗体を結晶化させるためのバッチ晶析方法として、前記抗体の工業的規模の生産を可能にする方法、前記方法により得られるような抗体結晶、前記結晶を含有する組成物並びに前記結晶および組成物の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
a)抗体結晶
現在100種類を上回るモノクローナル抗体が臨床試験フェーズ2または3で検討中であるように、mAb市場は最も有望なバイオ医薬品市場の1つであるとみなすことができる。これらの薬剤は、多くの場合に100mgを上回る用量を単回送達すべきであるので、安定性、安全性および患者コンプライアンスを満足する適切な製剤化ストラテジーを見出すことが急務である。
【0003】
しかし、高濃度液体mAb製剤は粘度が高く、患者に優しい細い針で注射しにくい。更に、このような高濃度mAb分子の凝集傾向は適度な濃度の溶液に比較して指数的に増加する。これは安全性および安定性要件に関して決して許容できない。
【0004】
従って、高mAb用量の送達は大容量に限られるが、その場合には一般に輸液により送達しなければならない。この投与方法はコストがかかり、患者のコンプライアンスを著しく悪化させる。
【0005】
従って、医薬的に適用可能な低容量の皮下注射用mAb結晶懸濁液が非常に望ましい。理論的には、結晶格子は剛性であり、蛋白質構造内の運動を妨げるので、mAb完全性に影響を与える分解経路は著しく減速するはずである。更に、高濃度結晶懸濁液を液体製剤に比較すると、速度の増加は著しく少ないと予測することができる。持続放出の観点で、患者の体内に入るとゆっくりと溶解するように蛋白質結晶を作製または改変することは可能であると思われる。mAb構造を損なう賦形剤とプロセスの多用が避けられるので、これは徐放製剤の非常に優れた送達方法となろう。
【0006】
原薬としての蛋白質結晶の使用には大きな将来性があるが、このストラテジーを系統的に評価する試みは殆ど行われていない。
【0007】
例外としてよく知られているのはインスリンであり、数十年前に結晶化に成功している。今日、インスリンの結晶懸濁液の使用は詳細に記載されており、安定な長時間作用型製剤が市場に定着している。インスリン結晶の開発と他の全蛋白質の結晶化の間のずれは、規則的インスリン凝集物が膵臓で天然に形成されるという事実と関係があると思われる。従って、インスリンを過剰の亜鉛イオンと接触させると、インスリン結晶が容易に得られる。大半の他の蛋白質は結晶よりも不規則沈殿を形成する傾向があるため、蛋白質の結晶化条件を見出すのは時間のかかる厄介な作業である。
【0008】
X線回折分析用として蛋白質結晶を採取することに大きな関心が寄せられているが、原則として全蛋白質は挙動が異なるため、適切な結晶化条件を見出す作業は依然として経験科学である。今日までに、選択蛋白質に有効な結晶化条件を推論のみにより確実に予測できる一般原理はみつかっていない。従って、その後に予定されている目的用途に関係なく、所定の蛋白質の結晶を得ることは常に「隘路」であると言われている。
【0009】
更に困ったことに、抗体は分子の柔軟性により、特に結晶化が難しいと言われている。
【0010】
一方、免疫グロブリン結晶の例は古くから知られている。免疫グロブリン結晶の最初の例は150年前に英国の物理学者ヘンリー・ベンス・ジョーンズ(Henry Bence Jones)により記載され、彼は骨髄腫患者の尿から異常Ig軽鎖二量体の結晶を単離している(Jones 1848)。このような異常Igはそれ以来、ベンス・ジョーンズ蛋白質と呼ばれている。1938年に、骨髄腫患者の血清に由来する明白な異常Igの自然結晶化が記載されている(von Bonsdorf,Grothら,1938)が、これはIg重鎖オリゴマー(MW200kDa)と見受けられる。
【0011】
更に30年後に、同じく主に骨髄腫患者から単離された(2本の重鎖が2本の軽鎖に結合した)正常構造の結晶ヒト免疫グロブリンが記載されている(Putnam 1955)。デイビーズ(Davies)らはX線結晶構造解析を使用して「Dob」と呼ばれる無傷のヒト骨髄腫抗体の構造を最初に特性決定し(Terry,Matthewsら,1968)、1971年にその三次元構造を決定した(Sarma,Silvertonら,1971)。彼らの先駆的業績に続き、IgG「Kol」(Huber,Deisenhoferら,1976)、IgG「Mcg」(Rajan,Elyら,1983)、およびイヌリンパ腫IgG2a(Harris,Larsonら,1992)の結晶構造が得られた。
【0012】
免疫グロブリンの結晶は再溶解後もその顕著な免疫活性を維持する。1968年にニソノフ(Nisonoff)らは容易に結晶化されたウサギ抗p−アゾベンゾエート抗体「X4」について報告している。抗体X4は結晶化前と結晶の再溶解後に詳細に特性決定されている。[125I]−p−ヨードベンゾエートは再溶解後のX4と特異的に強く結合することが判明し、再溶解後の結晶は更に未精製ウサギ血清に特徴的な複数の特異的オクタロニー免疫拡散反応も示した(Nisonoff,Zappacostaら,1968)。コンネル(Connell)らは低温で血清から自然に結晶化した「Tem」と呼ばれるヒト骨髄腫γ免疫グロブリン−1κ(IgG−K)について記載している(Connell,Freedmanら,1973)。Tem結晶は形が整っていることが判明し、菱面対称であった。Temを含有する血清はアガロース免疫拡散法により詳細に特性決定されている。Tem結晶の再溶解溶液の電気泳動と免疫拡散によると、この結晶は低温沈殿法により血清から得られる物質および単離骨髄腫蛋白質と一致することが判明した(Connell,Freedmanら,1973)。
【0013】
ミルズ(Mills)らは1983年にアルブミンに対するヒトモノクローナル抗体に起因する異常な結晶クリオグロブリン血症について報告している(Mills,Brettmanら,1983)。ここでは、非常によく似た立方結晶が2人の患者から単離された。結晶の再溶解後に電気泳動と免疫電気泳動を行った処、結晶は1:2の比でモノクローナルIgG−λとヒト血清アルブミンの2つの蛋白質成分から構成されることが分かった(Jentoft,Dearbornら,1982)。元の結晶の溶解後にカラムクロマトグラフィーによりこれらの成分を分取規模で分離した。分離したどちらの成分もそのままでは結晶化しなかったが、組換え後に元の二元複合体が再形成された後、結晶化した。再溶解後に分離したIgGとそのFabフラグメントの顕著な沈降特性とヒト血清アルブミンに対する免疫反応性を更に検討した結果、再溶解後に分離した2成分の再会合体は本質的に免疫性であること、即ち結晶抗体は一旦再溶解しても(ヒト血清アルブミンに対する)高度に特異性のその天然結合特性を維持することが判明した(Mills,Brettmanら,1983)。
【0014】
最近、マーゴリン(Margolin)らは結晶抗体の潜在的治療用途について報告している(Yang,Shenoyら,2003)。彼らは治療用モノクローナル抗体トラスツズマブ(Herceptin(登録商標))を結晶化できることを発見した(Shenoy,Govardhanら,2002)。結晶トラスツズマブ懸濁液はマウス腫瘍モデルで治療効果があったため、結晶トラスツズマブは生物活性を維持することが実証された(Yang,Shenoyら,2003)。
【0015】
b)結晶化技術
所定の他の科学的または工学的試みと異なり、各種蛋白質の結晶化は規定方法またはアルゴリズムを使用して首尾よく実施することができない。確かに、世界的に著名な蛋白質結晶化の専門家であるエイ・マクファーソン(A.McPherson)が述べているように、過去20〜30年間には目覚ましい技術進歩があった。マクファーソンは巨大分子の結晶化のための方策、ストラテジー、試薬および装置について詳細に記載している。しかし、彼は当業者がそれなりに成功を見込んで実際に所定の巨大分子を結晶化させることができるようにするための方法については記載していない。マクファーソンは例えば次のように述べている。「どのような手順であれ、分子間の特異的結合相互作用を助長および促進し、一旦形成された相互作用を安定化させるために、溶媒と溶質の両者の系のパラメーターを改良および最適化する努力を惜しんではならない。問題のこの後者側面は一般に結晶化させる特定蛋白質または核酸の特定の化学的および物理的性質に依存する。」(McPherson 1999,p.159)。
【0016】
新規該当蛋白質を選択し、明確な処理工程を適用し、それにより所望の結晶を取得するためのアルゴリズムが存在しないことは蛋白質結晶化分野の当業者に広く認められている。
【0017】
特定蛋白質に潜在的に適切な結晶化条件のスクリーニングをマイクロリットル規模で可能にする数種類のスクリーニングシステムが市販されている(例えばHampton 1および2,Wizzard IおよびII)。しかし、このようなスクリーニングシステムで良い結果が得られたとしても、より大規模の工業的に適用可能なバッチ規模の結晶化を必ずしも成功できるとは限らない。マイクロリットルサイズの結晶化試験を工業的寸法に転換するのは困難な作業であると言われている(Jenら,2001参照)。
【0018】
バルドック(Baldock)ら(1996)は結晶化条件の初期スクリーニング法としてマイクロバッチ法と蒸気拡散法の比較について報告している。1組の結晶化溶液を使用して6種類の市販蛋白質をスクリーニングしている。スクリーニングは最も一般的な蒸気拡散法と、新規蒸発技術を含むマイクロバッチ晶析法の3種類の変形を使用して実施された。確認された58種類の結晶化条件のうち、43種類(74%)はマイクロバッチ法により確認され、41種類(71%)は蒸気拡散法により確認された。26種類の条件が両方の方法により確認され、マイクロバッチ法を全く使用しなかった場合には17種類(29%)は確認されなかった。このことから明らかなように、初期結晶化スクリーニングで最も一般的に使用されている蒸気拡散法により必ずしも良い結果が得られる訳ではない。
【0019】
c)hTNFα抗体結晶
ヒトTNFα(hTNFα)は多数の疾患の原因物質とみなされている。従って、このようなhTNFα関連疾患の適切な治療方法が大いに必要とされている。1つの有望な治療アプローチは医薬有効用量の抗ヒトTNFα抗体を投与する方法である。最近、D2E7(一般名アダリムマブ)と呼ばれるこのような抗体の1種が上市され、商品名HUMIRA(登録商標)で市販されている。
【0020】
国際公開第02/072636号パンフレットは完全無傷の抗体リツキシマブ、インフリキシマブおよびトラスツマブの結晶化を開示している。結晶化実験の大半はイミダゾール、2−シクロヘキシルエタンスルホネート(CHES)、メチルペンタンジオール、硫酸銅および2−モルホリノエタンスルホルート(MES)等の毒性が不明の化学薬品を使用して実施されている。実施例の大半は結晶化を開始するために種晶を使用している。
【0021】
国際公開第2004/009776号パンフレットは等容量(1μl)の各種結晶化用緩衝液とD2E7 F(ab)’またはFabフラグメントを混合することによりシッティングドロップ蒸気拡散法を使用したマイクロリットル規模の結晶化実験を開示している。前記フラグメントの各々について数種類の実験条件が報告されているが、完全無傷のD2E7抗体の結晶化の成功は報告されていない。
【0022】
従って、所定の抗ヒトTNFα完全抗体のいずれもの、特にD2E7の、結晶の作製方法は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】国際公開第02/072636号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2004/009776号パンフレット
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】Jones,H.B.(1848).“On a new substance occurring in the urine of a patient with mollities ossium.”Philosophical Transactions of the Royal Society,London 138:55−62
【非特許文献2】von Bonsdorf,B.,H.Groth,et al.(1938).“On the Presence of a High−molecular Crystallizable Protein in Blood Serum in Myeloma.”Folia Haematologia 59:184−208.
【非特許文献3】Putnam,F.W.(1955).“Abnormal human serum globulins.”Science(Washington,DC,United States)122:275−7.
【非特許文献4】Terry,W.D.,B.W.Matthews,et al.(1968).“Crystallographic studies of a human immunoglobulin.”Nature 220(164):239−41.
【非特許文献5】Sarma,V.R.,E.W.Silverton,et al.(1971).“Three-dimensional structure at 6 Ang.Resolution of a human gG1 immunoglobulin molecule.”Journal of Biological Chemistry 246(11):3753−9.
【非特許文献6】Huber,R.,J.Deisenhofer,et al.(1976).“Crystallographic structure studies of an IgG molecule and an Fc fragment.”Nature 264(5585):415−20.
【非特許文献7】Rajan,S.S.,K.R.Ely,et al.(1983).“Three−dimensional structure of the Mcg IgG1 immunoglobulin.”Molecular Immunology 20(7):787−99.
【非特許文献8】Harris,L.J.,S.B.Larson,et al.(1992).“The three−dimensional structure of an intact monoclonal antibody for canine lymphoma.”Nature(London,United Kingdom)360(6402):369−72.
【非特許文献9】Nisonoff,A.,S.Zappacosta,et al.(1968).“Properties of crystallized rabbit anti−pazobenzoate antibody.”Cold Spring Harbor Symposia on Quantitative Biology 32:89−93.
【非特許文献10】Connell,G.E.,M.H.Freedman,et al.(1973).“Human IgG myeloma protein crystallizing with rhombohedral symmetry.”Canadian Journal of Biochemistry 51(8):1137−41
【非特許文献11】Mills,L.E.,L.R.Brettman,et al.(1983).“Crystallocryoglobulinemia resulting from human monoclonal antibodies to albumin.”Annals of internal medicine 99(5):601−4.
【非特許文献12】Jentoft,J.E.,D.G.Dearborn,et al.(1982).“Characterization of human cryoglobulin complex:a crystalline adduct of a monoclonal IgG and albumin.”Biochemistry 21(2):289−294.
【非特許文献13】Yang,M.X.,B.Shenoy,et al.(2003).“Crystalline monoclonal antibodies for subcutaneous delivery.”Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 100(12):6934−6939.
【非特許文献14】McPherson,A.(1999).Crystallization of Biological Macromolecules.Cold Spring Harbor,New York,Cold Spring Harbor Laboratory Press.
【非特許文献15】Jen,A.,Merkle,H.P.(2001),Diamonds in the rough:Protein Crystals from a from a formulation perspective,Pharm.Res.(2001),18,11,1483
【非特許文献16】Baldock Peter;Mills,Vaughan;Stewart,Patrick Shaw,Journal of Crystal Growth(1996),168(1−4,Crystallization of Biological Macromolecules),170−174.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
従って、本発明が解決しようとする課題は、抗hTNFα抗体、特にヒト抗hTNFα抗体D2E7に適したバッチ晶析条件を開発し、工業的な抗体結晶生産に適した容量に適用可能な晶析プロセス条件を確立することである。同時に、このような抗体の医薬品としての利用可能性に悪影響を与える恐れのある毒性物質を使用しない晶析方法を確立する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
発明の要旨
上記問題は、生理的に許容可能な無機リン酸塩を結晶化誘導剤として利用することにより、マイクロリットル規模を上回るバッチ晶析容量にて完全抗hTNFα抗体の結晶を得ることが可能であるという知見により意外にも解決された。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】6日後の実施例37からのD2E7結晶を示す。
【図2】1mLバッチ容量、周囲温度で製造したD2E7結晶を示す。
【図3】50mLバッチ容量、周囲温度で製造したD2E7結晶を示す。
【図4】10Lバッチ容量、周囲温度で製造したD2E7結晶を示す。
【図5A】本発明に従って製造したD2E7結晶とその複屈折を示す。
【図5B】本発明に従って製造したD2E7結晶とその複屈折を示す。
【図5C】本発明に従って製造したD2E7結晶とその複屈折を示す。
【図5D】本発明に従って製造したD2E7結晶とその複屈折を示す。
【図6】異なるゲージの針で注射した異なる濃度のD2E7結晶懸濁液を示す。
【図7】D2E7結晶懸濁液のFT−IR分析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
好ましい態様
第1の側面において、本発明は抗hTNFα抗体を結晶化するためのバッチ晶析方法に関し、この方法は、
a)例えば好ましくは溶解形態で存在する前記抗体の水溶液を溶解形態の結晶化剤としての無機リン酸塩を含有する結晶化水溶液と混合するか、あるいは固体形態の前記結晶化剤を加えることにより、結晶化剤としての無機リン酸塩と混合した前記抗体の水溶液を準備する段階と;および
(b)前記抗体の結晶が形成されるまで前記水性結晶化混合物を温置する段階を含む。
【0029】
本発明の晶析方法は一般に約pH3〜約5、特に約3.5〜約4.5または約3.7〜約4.2の範囲の前記水性結晶化混合物のpHで実施される。
【0030】
更に、前記水性結晶化混合物は少なくとも1種類の緩衝液を含有することができる。前記緩衝液は特に主成分として酢酸塩成分、特にアルカリ金属塩、特に酢酸ナトリウムを含むことができる。酸、特に酢酸を加えることにより前記塩を必要なpHに調整する。晶析方法の好ましい1態様において、前記水性結晶化混合物中の緩衝液濃度(総酢酸塩)は0〜約0.5Mまたは約0.02〜約0.5M、例えば約0.05〜約0.3Mまたは約0.15〜約0.2Mである。
【0031】
本発明の晶析方法の別の特定態様において、沈殿剤として使用されるリン酸塩はリン酸一水素塩またはリン酸二水素塩等のリン酸水素塩から選択され、特にアンモニウム塩またはアルカリ金属塩、例えばNaもしくはKイオンを含有する塩または少なくとも2種類の異なる塩を含むその混合物が挙げられる。適切な例はNaHPO、NaHPO、KHPO、KHPO、NHPO、(NHHPOおよびその混合物である。
【0032】
特に、結晶化混合物中のリン酸塩濃度は約1〜約6M、例えば約1.0〜約4.0M、または約1.0〜約3.0M、または約1.5〜約2.8M、または約2.0〜約2.6Mの範囲である。
【0033】
本発明の好ましい1態様では、蛋白質溶液と結晶化溶液を約1:1の比で混合する。従って、元の結晶化溶液中の緩衝剤/結晶化剤のモル濃度は結晶化混合物中の濃度の約2倍である。
【0034】
一般に、上記晶析方法は約1ml〜約20000リットル、または1ml〜約15000リットル、または1ml〜約12000リットル、または約1ml〜約10000リットル、または1ml〜約6000リットル、または1ml〜約3000リットル、または1ml〜約1000リットル、または1ml〜約100リットル、例えば約50ml〜約8000ml、または約100ml〜約5000ml、または約1000ml〜約3000ml、または約1リットル〜約1000リットル、または約10リットル〜約500リットルの範囲のバッチ容量で実施される。
【0035】
更に、本発明の晶析方法は以下の付加的な結晶化条件のうちの少なくとも1つを満足するように実施することができる。
a)温置を約1時間〜約60日間、例えば約1〜約30日間、または約2〜10日間実施する;
b)温置を約0℃〜約50℃、例え約4℃〜約37℃の温度で実施する;
c)結晶化混合物中の抗体濃度(即ち蛋白質濃度)を約1〜200mg/mlまたは1〜100mg/ml、例えば1.5〜20mg/ml、特に約2〜15mg/mlまたは5〜10mg/mlの範囲とする。蛋白質濃度は標準蛋白質定量法に従って測定することができる。
【0036】
特に好ましい方法によると、以下の結晶化混合物の条件下で結晶化を実施する。
リン酸塩:NaHPO、1.5〜2.5M
緩衝液:総酢酸塩,0〜0.3M
pH:3.6〜4.2
抗hTNFα濃度:3〜10mg/ml
温度:18〜24℃
バッチ容量:1〜100リットル
撹拌:なし
期間:4〜15日間。
【0037】
上記に概説したような結晶化混合物は一般に溶液または固体としての結晶化剤を蛋白質溶液に加えることにより得られる。どちらの溶液も緩衝溶液とすることができるが、必ずしもそうでなくてもよい。元の結晶化溶液は蛋白質溶液で「希釈」されるので、元の結晶化溶液中の結晶化剤モル濃度と緩衝液モル濃度は一般に結晶化混合物中よりも高い。
【0038】
別の態様において、本発明の晶析方法は得られた結晶を乾燥する段階を更に含むことができる。適切な乾燥方法としては蒸発乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥、流動層乾燥、噴霧凍結乾燥、準臨界乾燥、超臨界乾燥および窒素ガス乾燥が挙げられる。
【0039】
別の態様において、本発明の晶析方法は遠心、透析濾過、限外濾過または他の一般に使用されている緩衝液交換技術により結晶化母液を別の緩衝液、例えば約300〜8000ダルトンの範囲の分子量をもつポリエチレングリコール(PEG)またはPEG混合物を含有する緩衝液と交換する段階を更に含むことができる。
【0040】
本発明は更に上記晶析方法により取得可能な抗hTNFα抗体の結晶および一般に抗hTNFα抗体の結晶にも関する。
【0041】
本発明の結晶は、一般に約2〜500μmまたは約100〜300μmの最大長lと約3〜30のl/d比をもつ針状形態であることを特徴とするが、他の幾何学的外観でもよい。
【0042】
前記結晶はポリクローナル抗体または好ましくはモノクローナル抗体から得ることができる。
【0043】
特に、前記抗体は非キメラまたはキメラ抗体、ヒト化抗体,非糖鎖付加抗体,ヒト抗体およびマウス抗体から構成される群から選択される。特に、結晶化させる抗体は非キメラヒト抗体であり、場合により抗原結合を改善するように更に処理されている。
【0044】
好ましくは、前記結晶は例えばIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4抗体等のIgG抗体から得られる。特に、前記抗体はIgG1群の完全抗ヒトTNFα抗体である。
【0045】
好ましい1態様において、結晶はいずれも表面プラズモン共鳴法により測定した場合に1×10−8M以下、より好ましくは1×10−9M以下、更により好ましくは5×10−10M以下のKdと1×10−3−1以下のK速度定数でhTNFαから解離し、標準インビトロL929アッセイにおいて1×10−7M以下のIC50でhTNFα細胞毒性を中和する単離ヒト抗体から作製される。
【0046】
特に、前記結晶は以下の特徴:即ちa)表面プラズモン共鳴法により測定した場合に1×10−3−1以下のkoff速度定数でヒトTNFαから解離する;b)配列番号3のアミノ酸配列を含むまたは1、4、5、7もしくは8位の1カ所のアラニン置換または1、3、4、6、7、8および/もしくは9位の1〜5カ所の保存アミノ酸置換により配列番号3から改変されたアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3領域を有する;c)配列番号4のアミノ酸配列を含むまたは2、3、4、5、6、8、9、10もしくは11位の1カ所のアラニン置換または2、3、4、5、6、8、9、10、11および/もしくは12位の1〜5カ所の保存アミノ酸置換により配列番号4から改変されたアミノ酸配列を含む重鎖CDR3領域を有する、という特徴を備える単離ヒト抗体から作製することができる。
【0047】
より好ましくは、抗体またはその抗原結合部分は5×10−4−1以下のkoffにてヒトTNFαから解離する。更により好ましくは、抗体またはその抗原結合部分は1×10−4−1以下のkoffにてヒトTNFαから解離する。
【0048】
特に好ましい1態様において、前記結晶は配列番号1のアミノ酸を含む軽鎖可変領域(LCVR)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する単離ヒト抗体から作製される。
【0049】
国際公開第97/29131号パンフレットに開示されているような抗体D2E7またはその機能的等価物から作製された結晶が最も好ましい。前記抗体はチャイニーズハムスター卵巣細胞で組換え生産され、配列番号6に記載の重鎖配列と配列番号5に記載の軽鎖配列を含む。
【0050】
別の態様において、本発明は、(a)請求項15から26のいずれか一項に記載の抗hTNFα抗体の結晶および(b)抗体結晶を安定に維持する少なくとも1種の医薬的に許容可能な賦形剤を含有する、固体、液体または半固体医薬組成物に関する。
【0051】
本発明の別の側面は、(a)本明細書に記載する抗hTNFα抗体の結晶および(b)前記抗体結晶を封入または包埋する少なくとも1種の医薬的に許容可能な賦形剤を含有する、固体、液体または半固体医薬組成物に関する。前記組成物は(c)抗体結晶を安定に維持する少なくとも1種の医薬的に許容可能な賦形剤を更に含有することができる。更に、封入と包埋を併用してもよい。
【0052】
特に、前記組成物は、約1mg/mlを上回る抗体結晶濃度を有することができ、特に約200mg/ml以上、例えば約200〜約600mg/mlまたは約300〜約500mg/mlを有することができる。
【0053】
前記賦形剤は少なくとも1種の場合により生分解性のポリマーキャリヤーまたは少なくとも1種の油類もしくは脂質キャリヤーを含むことができる。
【0054】
前記ポリマーキャリヤーはポリ(アクリル酸)、ポリ(シアノアクリレート)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(酸無水物)、ポリ(デプシペプチド)、ポリ(エステル)、ポリ(乳酸)、乳酸・グリコール酸コポリマーないしPLGA、ポリ(β−ヒドロキシブチレート)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、ポリ(オルガノ)ホスファゼン、ポリ(オルトエステル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、無水マレイン酸・アルキルビニルエーテルコポリマー、プルロニックポリオール、アルブミン、アルギン酸塩、セルロースおよびセルロース誘導体、コラーゲン、フィブリン、ゼラチン、ヒアルロン酸、オリゴ糖、グリコサミノグリカン、硫酸化多糖、これらのブレンドおよびコポリマーから構成される群の1種以上から選択されるポリマーとすることができる。
【0055】
前記油類(または油性液体)は、油性アーモンド油、コーン油、綿実油、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、鉱物油、軽鉱物油、オクチルドデカノール、オリーブ油、落花生油、杏仁油、胡麻油、大豆油、スクアレン、液体トリグリセリド、液体蝋、高級アルコールから構成される群の1種以上から選択される油類(または油性液体)であり得る。
【0056】
前記脂質キャリヤーは、脂肪酸および脂肪酸塩、脂肪アルコール、脂肪アミン、脂肪酸のモノ、ジおよびトリグリセリド、リン脂質、糖脂質、ステロールおよび蝋並びに関連類似物質から構成される群の1種以上から選択される脂質とすることができる。蝋は更に天然物と合成物に分類される。天然物としては蜜蝋、カルナウバ蝋またはモンタン蝋等の植物、動物または鉱物起源から得られる蝋が挙げられる。合成蝋製品の例としては塩素化ナフタレンとエチレンポリマーが挙げられる。
【0057】
好ましい1態様において、前記組成物は約10〜約400または約50〜約300mg/mlの範囲の抗体結晶濃度で上記抗hTNFα抗体結晶を含有する注射用組成物である。
【0058】
別の側面において、本発明は約100mg/mlを上回る抗体結晶濃度、例えば約150〜約600mg/ml、または約200〜約400mg/mlで上記抗hTNFα抗体結晶を含有する結晶スラリーに関する。
【0059】
本発明は更に有効量の上記完全抗hTNFα抗体結晶または有効量の上記組成物を哺乳動物に投与する段階を含む哺乳動物の治療方法に関する。非経口経路、経口経路または注射により前記組成物を投与することが好ましい。
【0060】
更に、本発明は治療有効量の上記抗体結晶を投与する段階を含む対象におけるTNFα関連疾患の治療方法に関する。
【0061】
特に、前記hTNFα関連疾患は自己免疫疾患、特に関節リウマチ、リウマチ性脊椎炎、変形性関節症および痛風性関節炎、アレルギー、多発性硬化症、自己免疫性糖尿病、自己免疫性ぶどう膜炎およびネフローゼ症候群、感染性疾患、移植拒絶反応ないし移植片対宿主病、悪性腫瘍、肺障害、腸障害、心臓障害、炎症性骨障害、骨吸収疾患、アルコール性肝炎、ウイルス性肝炎、劇症肝炎、凝固障害、熱傷、再潅流障害、ケロイド形成、瘢痕組織形成、発熱、歯周病、肥満症および放射線傷害、脊椎関節症、肺障害、冠動脈障害、代謝障害、貧血、疼痛、肝障害、皮膚障害、爪障害、または血管炎、ベーチェット病、強直性脊椎炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、再狭窄、糖尿病、貧血、疼痛、クローン病関連障害、若年性関節リウマチ(JRA)、C型肝炎ウイルス感染、乾癬、乾癬性関節炎、および慢性プラーク乾癬、加齢性悪液質、アルツハイマー病、脳浮腫、炎症性脳損傷、慢性疲労症候群、皮膚筋炎、薬物反応、脊髄内および/または周囲の浮腫、家族性周期性発熱、フェルティ症候群、線維症、糸球体腎炎(例えば連鎖球菌感染後糸球体腎炎やIgA腎症)、人工器官の緩み、顕微鏡的多発血管炎、混合性結合組織病、多発性骨髄腫、癌および悪液質、多発性臓器障害、骨髄異形成症候群、睾丸炎、骨溶解、急性、慢性および膵膿瘍を含む膵炎、歯周病、多発性筋炎、進行性腎不全、偽痛風、壊疽性膿皮症、再発性多発性軟骨炎、リウマチ性心臓病、サルコイドーシス、硬化性胆管炎、脳卒中、胸腹部大動脈瘤修復(TAAA)、TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)、黄熱病ワクチン接種関連症候群、耳関連炎症性疾患、慢性耳炎症、または小児耳炎症、ぶどう膜炎、座骨神経痛、前立腺炎、子宮内膜症、脈絡膜血管新生、狼瘡、ショーグレン症候群並びに滲出型黄斑変性症から選択される。
【0062】
更に、本発明は上記hTNFα関連疾患の治療用医薬組成物の製造用としての上記完全抗hTNFα抗体結晶の使用に関する。
【0063】
最後に、本発明は医薬用としての上記抗hTNFα抗体結晶を提供する。
【0064】
発明の詳細な説明
A.定義
「バッチ晶析方法」は結晶化させようとする抗体の溶液に好ましくは溶解形態の結晶化剤を含有する結晶化溶液を加える段階を含む。
【0065】
「マイクロスケール晶析方法」は、例えば蒸気拡散法に基づくことができ、結晶化剤を含有するリザーバ緩衝液とマイクロリットル範囲の小容量の抗体溶液を混合する段階と;密閉容器に入れた前記混合物の液滴を前記リザーバ緩衝液のアリコートの隣に並べる段階と;蒸気拡散により液滴とリザーバの間で溶媒を交換させる段階とを含み、この間に前記液滴の溶媒含量が変化し、適切な結晶化条件に達すると、結晶化が認められる。
【0066】
「結晶化剤」(本発明の場合にはリン酸塩)は結晶化させようとする抗体の結晶形成を助長する。
【0067】
「結晶化溶液」は溶解形態の前記結晶化剤を含有する。好ましくは、前記溶液は水性系であり、即ちその液体成分は主に水から構成される。例えば、80〜100重量%または95〜100重量%または98〜100重量%を水とすることができる。
【0068】
抗体「結晶」は前記蛋白質の物質の固体状態の1形態であり、第2の固体形態即ち原則的に無秩序な不均質固体として存在する非晶質状態から区別される。結晶は一般に格子と呼ばれる規則的な三次元構造をもつ。抗体結晶は抗体分子の規則的な三次元配列を含む。Giege,R.and Ducruix,A.Barrett,Crystallization of Nucleic Acids and Proteins,a Practical Approach,第2版,1〜16頁,Oxford University Press,New York(1999)参照。
【0069】
本発明により結晶化された「完全」ないし「無傷」の抗hTNFα抗体はその抗原であるヒトTNFαをインビトロおよび/またはインビボで認識してこれと結合することが可能な機能的抗体である。前記抗体は抗体とその抗原の結合に関連する患者の後続免疫系反応、特に直接細胞傷害作用、補体依存性細胞傷害作用(CDC)および抗体依存性細胞傷害作用(ADCC)を開始することができる。抗体分子は相互に共有結合した2本の同一の重鎖(各々MW約50kDa)とおよび各々重鎖の一方と共有結合した2本の同一の軽鎖(各々MW約25kDa)とから構成される構造をもつ。4本鎖は典型的「Y」字型モチーフとして配置されている。各重鎖は重鎖可変領域(本明細書ではHCVRないしVHと略称する)と重鎖定常領域から構成される。重鎖定常領域はCH1、CH2およびCH3の3領域から構成される。各軽鎖は軽鎖可変領域(本明細書ではLCVRないしVLと略称する)と軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は1個の領域CLから構成される。VH領域とVL領域は更に相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域と、その間に配置された比較的保存度の高いフレームワーク領域(FR)と呼ばれる領域に分けることができる。各VHおよびVLはアミノ末端からカルボキシ末端に向かってFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順に配置された3個のCDRと4個のFRから構成される。完全な抗体分子は2個の抗原結合部位をもち、即ち「二価」である。これらの2個の抗原結合部位は単一のhTNFα抗原に特異的であり、即ち抗体は「単一特異性」である。
【0070】
「モノクローナル抗体」はBリンパ球(B細胞)の単一クローンに由来し、同一の抗原決定基を認識する抗体である。完全モノクローナル抗体は2本の完全な重鎖と2本の完全な軽鎖を含む上記典型的分子構造をもつ抗体である。モノクローナル抗体は抗体産生B細胞を不死化骨髄腫細胞と融合させ、細胞培養で持続的にモノクローナル抗体を産生するB細胞ハイブリドーマを作製することにより生産するのが通例である。例えばファージディスプレイ技術を使用して細菌、酵母、昆虫または哺乳動物細胞培養でモノクローナル抗体を発現させる方法;完全ヒトB細胞ゲノムを組込み、これを発現するように改変されたウシ、ヤギ、ブタ、ウサギ、ニワトリまたはトランスジェニックマウス等の遺伝子改変動物におけるインビボ生産;あるいはタバコやトウモロコシ等の遺伝子改変植物における生産等の他の生産方法も利用できる。このような全起源に由来する抗hTNFα抗体を本発明により結晶化させることができる。
【0071】
本発明により結晶化させるモノクローナル抗体としては重鎖および/または軽鎖の一部が特定種に由来または特定抗体分類もしくは亜分類に属する抗体中の対応配列と同一または相同であり、その他の部分が別の種に由来または別の抗体抗体分類もしくは亜分類に属する抗体中の対応配列と同一または相同である「キメラ」抗hTNFα抗体が挙げられる。1例として、マウス抗体の可変領域抗原結合部分とヒト抗体に由来する定常領域部分を含むマウス/ヒトキメラを挙げることができる。
【0072】
非ヒト(例えばマウス)抗hTNFα抗体の「ヒト化」形態も含まれる。これらは非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むキメラ抗体である。多くの場合、ヒト化抗体はヒト免疫グロブリンの相補性決定領域(CDR)または超可変ループ(HVL)からの残基が所望機能をもつマウス、ラット、ウサギまたは非ヒト霊長類等の非ヒト種のCDRまたはHVLの残基で置換されたヒト免疫グロブリンである。抗原結合親和性を改善するためにヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基を対応する非ヒト残基により置換することができる。更に、ヒト化抗体は対応するヒトまたはヒト抗体部分のどちらにも存在しない残基を含むことができる。抗体効力を更に改善するためにこれらの改変が必要であろう。
【0073】
「ヒト抗体」ないし「完全ヒト抗体」はヒトにより産生される抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列をもつ抗体または組換え生産された抗体である。本明細書で使用する「ヒト抗体」なる用語はヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域と定常領域をもつ抗体を意味する。本発明のヒト抗体はヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によりコードされないアミノ酸残基(例えばランダムもしくは部位特異的インビトロ変異誘発またはインビボ体細胞変異により誘導される変異)を例えばCDR、特にCDR3に含むことができる。他方、本明細書で使用する「ヒト抗体」なる用語はマウス等の別の哺乳動物種の生殖細胞系列に由来するCDR配列をヒトフレームワーク配列に配置した抗体を意味しない。
【0074】
本明細書で使用する「組換えヒト抗体」なる用語は組換え手段により作製、発現、創製または単離された全ヒト抗体を意味し、宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現された抗体、組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体、ヒト免疫グロブリン遺伝子に対してトランスジェニックな動物(例えばマウス)から単離された抗体(例えばTaylor,L.D.ら(1992)Nucl.Acids Res.20:6287−6295参照)またはヒト免疫グロブリン遺伝子配列と他のDNA配列のスプライシングを伴う他の任意手段により作製、発現、創製もしくは単離された抗体が挙げられる。このような組換えヒト抗体はヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域と定常領域をもつ。しかし、ある態様において、このような組換えヒト抗体はインビトロ変異誘発処理(または、ヒトIg配列にトランスジェニックな動物を使用する場合にはインビボ体細胞変異誘発処理)されるので、組換え抗体のVH領域およびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系列VHおよびVL配列に由来するが、インビボヒト抗体生殖細胞系列レパートリー内に天然に存在し得ない配列である。
【0075】
本明細書で使用する「中和抗体」(または「hTNFα活性を中和した抗体」)なる用語はhTNFαと結合することによりhTNFαの生物活性を阻害する抗体を意味する。hTNFαの生物活性のこの阻害はhTNFαにより誘導される(インビトロまたはインビボ)細胞傷害作用、hTNFαにより誘導される細胞活性化およびhTNFαとhTNFα受容体の結合等のhTNFα生物活性の1種類以上の指標を測定することにより評価することができる。hTNFα生物活性のこれらの指標は当分野で公知の数種のインビトロまたはインビボアッセイの1種以上により評価することができる。hTNFαにより誘導されるL929細胞の細胞傷害作用の阻害によりhTNFα活性を中和する抗体の能力を評価することが好ましい。hTNFα活性の付加的または代替パラメーターとしては、hTNFαにより誘導される細胞活性化の尺度としてHUVECでhTNFαにより誘導されるELAM−1の発現を阻害する抗体の能力を評価することができる。
【0076】
「親和性成熟」抗hTNFα抗体は1個以上の超可変領域の1カ所以上の改変により、親抗体に比較して抗体の抗原親和性が改善された抗体である。親和性成熟抗体は標的抗体に対する親和性値がナノモルまたはピコモルとなる。親和性成熟抗体は当分野で公知の方法により生産される。Marksら,Bio/Technology 10:779−783(1992)はVHおよびVL領域シャフリングによる親和性成熟について記載している。CDRおよび/またはフレームワーク残基のランダム突然変異誘発はBarbasら,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 91:3809−3813(1994);Scierら,Gene 169:147−155(1995);Yeltonら,J.Immunol.155:1994−2004(1995);Jacksonら,J.Immunol.154(7):3310−9(1995);およびHawkinsら,J.Mol Biol.226:889−896(1992)に記載されている。
【0077】
本明細書で使用する「単離抗体」なる用語は異なる抗原特異性をもつ他の抗体を実質的に含まない抗体を意味する(例えばhTNFαと特異的に結合する単離抗体はhTNFα以外の抗原と特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。他方、hTNFαと特異的に結合する単離抗体は他の種に由来するhTNFα分子等の他の抗原に対して交差反応性をもつ場合がある。更に、単離抗体は他の細胞材料および/または化学薬品を実質的に含まない場合がある。
【0078】
本明細書で使用する「ヒトTNFα」(本明細書ではhTNFαまたは単にhTNFと略称する)なる用語は17kDa分泌型および26kDa膜結合型として存在し、その生物活性形態が非共有的に結合した分子の三量体から構成されるヒトサイトカインを意味する。hTNFαの構造は例えばPennica,D.ら(1984)Nature 312:724−729;Davis,J.M.ら(1987)Biochemistry 26:1322−1326;およびJones,E.Y.ら(1989)Nature 338:225−228に更に記載されている。ヒトTNFαなる用語は標準組換え発現法により作製可能または市販品として購入可能な組換えヒトTNFα(rhTNFα)を意味する(R & D Systems,カタログ番号210−TA,Minneapolis,MN)。
【0079】
本明細書で使用する「koff」なる用語は抗体が抗体/抗原複合体から解離する解離速度定数を意味する。
【0080】
本明細書で使用する「K」なる用語は特定抗体−抗原相互作用の解離定数を意味する。
【0081】
本発明により結晶化された特定「親」抗hTNFα抗体の「機能的等価物」とは同一の抗原特異性を示すが、アミノ酸レベルまたは糖鎖付加レベルで「親」抗体の分子組成と相違する抗体である。但し、前記相違は単に結晶化条件が本明細書に開示するようなパラメーター範囲内であるという程度であり得る。
【0082】
抗体結晶の「封入」とは組込まれる結晶がコーティング材料の少なくとも1層により各々被覆された製剤を意味する。好ましい1態様において、このようなコーティング付き結晶は延長された溶解速度を有することができよう。
【0083】
抗体結晶の「包埋」とは封入の有無に拘わらず、結晶が分散状態で固体、液体または半固体キャリヤーに組込まれた製剤を意味する。このような包埋結晶化抗体分子はキャリヤーから制御下で持続的に放出または溶解させることができる。
【0084】
B.晶析方法
本発明の晶析方法は、原則として、抗hTNFα抗体のいずれにもに適用される。前記抗体はポリクローナル抗体または好ましくはモノクローナル抗体とすることができる。前記抗体は各々糖鎖付加または非糖鎖付加型のキメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体または非ヒト(例えばマウス)抗体とすることができる。特に、前記方法はD2E7とその機能的等価物に適用可能である。
【0085】
好ましくは、前記抗hTNFα抗体はIgG抗体、特にIgG1群の抗ヒトTNFα抗体である。
【0086】
特に指定しない限り、本発明の晶析方法は当分野で公知の技術装置、化学薬品および手法を利用する。しかし、上記に説明したように、本発明は特定結晶化条件、特に特定結晶化剤を選択し、場合により更に対応物質(緩衝液、抗体、結晶化剤)の特定pH条件および/または濃度範囲も選択することにより、抗体、特にhTNFαに対する非キメラヒト抗体の安定な結晶を再現可能に大規模製造することが初めて可能になり、これらの結晶を更に処理し、非常に有利な優れた医薬組成物の活性成分を形成できるという驚くべき発見に基づく。
【0087】
晶析方法を実施するための出発材料は通常、結晶化させようとする抗体の濃厚溶液を含む。蛋白質濃度は例えば約5〜75mg/mlの範囲とすることができる。前記溶液は前記溶解抗体を安定化させる添加剤を添加することができ、前記添加剤を予め除去するとよいと思われる。これは緩衝液交換工程を実施することにより実現することができる。
【0088】
好ましくは、結晶化を実施するための前記出発材料はpHを約3.2〜8.2または約4.0〜8.0、特に約4.5〜6.5、好ましくは約5.0〜5.5の範囲に調整した水溶液中に抗体を含有する。pHは適切な緩衝液を終濃度約1〜50mM、特に約1〜10mMで添加することにより調整することができる。溶液を更に安定化させるために、例えば溶液の総重量に対して約0.01〜15または0.1〜5または0.1〜2重量%の割合で塩、糖、糖アルコールおよび界面活性剤等の添加剤を溶液に添加することができる。賦形剤は医薬製剤に慣例的に添加される生理的に許容可能な化合物から選択することが好ましい。非限定的な例として、NaCl等の塩;ポリソルベート80(Tween 80)、ポリソルベート20(Tween 20)等の界面活性剤;スクロース、トレハロース等の糖;マンニトール、ソルビトール等の糖アルコール;リン酸緩衝系(例えば上記のようなリン酸水素ナトリウム緩衝液およびリン酸水素カリウム緩衝液)、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、マレイン酸緩衝液または琥珀酸緩衝液、ヒスチジン緩衝液等の緩衝剤;ヒスチジン、アルギニンおよびグリシン等のアミノ酸が挙げられる。
【0089】
緩衝液交換は例えば透析や限外濾過等の常法により実施することができる。
【0090】
出発材料として使用する水溶液の初期蛋白質濃度は約0.5〜約200または約1〜約50mg/mlの範囲とすべきである。
【0091】
(1ml〜20000リットルの範囲であり得る)目的最終バッチ寸法に応じて、初期容量の前記抗体水溶液を不活性材料(例えばガラス、ポリマーまたは金属)製の適当な容器(例えば液体容器、ビンまたはタンク)に入れる。前記水溶液の初期容量は最終バッチ寸法の約30〜80%、通常は約50%に対応する量とすることができる。
【0092】
必要に応じて、前記容器に充填後の溶液を標準条件に設定する。特に、温度を約4℃〜約37℃の範囲に調整する。
【0093】
次に、場合により抗体溶液と同様に予め条件設定した適当な濃度の結晶化剤を含有する結晶化溶液を抗体溶液に加える。
【0094】
結晶化溶液の添加は2液の混合を助長するために場合により温和な撹拌下に連続的または不連続的に実施する。蛋白質溶液を撹拌下に添加し、結晶化溶液(またはその固体形態の結晶化剤)を制御下に添加する条件下では、連続的に添加することが好ましい。
【0095】
結晶化剤として上記に記載したようなリン酸塩、特にリン酸水素塩、好ましくはアルカリ金属塩、または少なくとも2種類の異なるアルカリ金属塩の混合物を添加することにより、抗体結晶の形成を開始する。結晶化溶液は前記結晶化混合物中のリン酸塩の終濃度を約1〜6Mの範囲とするために十分な濃度の結晶化剤を含有する。
【0096】
好ましくは、結晶化溶液は更に結晶化混合物のpHを約3〜5の範囲に調整させるのに適した濃度の酸性緩衝液、即ち抗体溶液の緩衝液とは異なる緩衝液を含有する。
【0097】
前記結晶化溶液の添加の完了後、最大収率の抗体結晶を得るために、こうして得られた混合物を約1時間〜約60日間更に保温してもよい。必要に応じて、混合物を例えばそれ自体公知の方法で撹拌、温和に撹拌、回転または運動させてもよい。
【0098】
最後に、公知方法、例えば濾過または遠心、例えば室温または4℃にて約200〜20000rpm、好ましくは500〜2000rpmで遠心することにより、得られた結晶を分離することができる。残りの母液は捨ててもよいし、更に処理してもよい。
【0099】
必要に応じて、こうして単離した結晶を洗浄後、乾燥してもよいし、懸濁抗体の保存および/または最終利用に適した別の溶媒系に母液を交換してもよい。
【0100】
本発明により形成された抗体結晶は種々の形状をとることができる。形状としては一般に針状、円錐状、球状およびウニ状形状が挙げられる。結晶の寸法は高値のnmからmm寸法(例えば長さ)程度とすることができる。所定態様では、結晶は少なくとも約10μmの寸法であり、肉眼で見える。治療投与では、結晶の寸法は投与経路により異なり、例えば皮下投与の場合、結晶寸法は静脈内投与よりも大きくすることができる。
【0101】
蛋白質結晶と低分子量有機および無機分子の結晶の両者について従来記載されているように、結晶の形状は特定の付加的な添加剤を結晶化混合物に添加することにより変えることができる。
【0102】
必要に応じて、結晶が実際に前記抗体の結晶であることを検証してもよい。抗体の結晶を複屈折について顕微鏡分析することができる。一般に、内部立方対称以外の結晶では偏光の偏光面が回転する。更に別の方法では、結晶を単離し、洗浄し、再可溶化させ、SDS−PAGEにより分析し、場合により抗Fc受容体抗体で染色することができる。場合により、再可溶化させた抗体も標準アッセイを使用してそのhTNFαとの結合について試験することができる。
【0103】
本発明により得られた結晶を更に相互に架橋させてもよい。このような架橋は結晶の安定性を増すことができる。結晶の架橋方法は例えば米国特許第5,849,296号明細書に記載されている。グルタルアルデヒド等の二官能性試薬を使用して結晶を架橋させることができる。架橋させたら、結晶を凍結乾燥し、例えば診断または治療用途に備えて保存することができる。
【0104】
場合により、結晶を乾燥することが望ましい場合がある。窒素ガス等の不活性ガス、真空オーブン乾燥、凍結乾燥、蒸発、トレー乾燥、流動層乾燥、噴霧乾燥、真空乾燥またはローラー乾燥等により結晶を乾燥することができる。適切な方法は周知である。
【0105】
本発明により形成された結晶は、元の結晶化溶液中に維持されてもよいし、洗浄され、本発明の結晶を含有する組成物または製剤を形成するための不活性キャリヤーまたは成分等の他の物質が加えられてもよい。このような組成物または製剤は例えば治療および診断用途で使用することができる。
【0106】
好ましい1態様は製剤の結晶を賦形剤により包埋または封入するように適切なキャリヤーまたは成分を本発明の結晶に添加する方法である。適切なキャリヤーはポリ(アクリル酸)、ポリ(シアノアクリレート)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(酸無水物)、ポリ(デプシペプチド)、ポリ(エステル)、ポリ(乳酸)、乳酸・グリコール酸コポリマーないしPLGA、ポリ(β−ヒドロキシブチレート)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、ポリ(オルガノ)ホスファゼン、ポリ(オルトエステル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、無水マレイン酸・アルキルビニルエーテルコポリマー、プルロニックポリオール、アルブミン、アルギン酸塩、セルロースおよびセルロース誘導体、コラーゲン、フィブリン、ゼラチン、ヒアルロン酸、オリゴ糖、グリコサミノグリカン、硫酸化多糖、そのブレンドおよびコポリマー、SAIB、脂肪酸および脂肪酸塩、脂肪アルコール、脂肪アミン、脂肪酸のモノ、ジおよびトリグリセリド、リン脂質、糖脂質、ステロールおよび蝋並びに関連類似物質の非限定的な群から選択することができる。蝋は更に天然物と合成物に分類される。天然物としては蜜蝋、カルナウバ蝋またはモンタン蝋等の植物、動物または鉱物起源から得られる蝋が挙げられる。合成蝋製品の例としては塩素化ナフタレンとエチレンポリマーが挙げられる。
【0107】
C.組成物
本発明の別の側面は、少なくとも1種のキャリヤー/賦形剤と共に抗hTNFα抗体結晶を含有する組成物/製剤に関する。
【0108】
この製剤は固体、半固体または液体とすることができる。
【0109】
本発明の製剤は、必要な純度の抗体をキャリヤー、賦形剤および/または安定剤等の生理的に許容可能な添加剤(例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences,第16版,Osol,A.編(1980)参照)と懸濁液として混合することにより保存および/または使用に適した形態で製造され、凍結乾燥または別の方法で乾燥される。場合により、例えば別の抗体、生体分子、化学的または酵素により合成された低分子量分子等の他の活性成分も配合してもよい。
【0110】
許容可能な添加剤は使用する用量および濃度でレシピエントに非毒性である。その非限定的な例を以下に挙げる。
−酢酸、クエン酸、フマル酸、塩酸、リンゴ酸、硝酸、リン酸、希リン酸、硫酸、酒石酸等の酸性化剤。
−ブタン、ジクロロジフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、イソブタン、プロパン、トリクロロモノフルオロメタン等のエアゾール用噴射剤。
−二酸化炭素、窒素等の空気置換剤。
−メチルイソブチルケトン、オクタ酢酸スクロース等のアルコール変性剤。
−アンモニア溶液、炭酸アンモニウム、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、トロラミン等のアルカリ化剤。
−ジメチコン、シメチコン等の消泡剤。
−塩化ベンズアルコニウム、塩化ベンズアルコニウム溶液、塩化ベンズエトニウム、安息香酸、ベンジルアルコール、ブチルパラベン、塩化セチルピリジニウム、クロロブタノール、クロロクレゾール、クレゾール、デヒドロ酢酸、エチルパラベン、メチルパラベン、メチルパラベンナトリウム、フェノール、フェニルエチルアルコール、酢酸フェニル水銀、硝酸フェニル水銀、安息香酸カリウム、ソルビン酸カリウム、プロピルパラベン、プロピルパラベンナトリウム、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、ソルビン酸、チメロサール、チモール等の抗菌防腐剤。
−アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、次亜リン酸、モノチオグリセロール、没食子酸プロピル、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、メタ重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、二酸化硫黄、トコフェロール、トコフェロール賦形剤等の酸化防止剤。
−酢酸、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、ホウ酸、クエン酸、乳酸、リン酸、クエン酸カリウム、メタリン酸カリウム、一塩基性リン酸カリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム溶液、二塩基性リン酸ナトリウム、一塩基リン酸ナトリウム、ヒスチジン等の緩衝剤。
−エデト酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸および塩、エデト酸等のキレート剤;
−カルボキシメチルセルロースナトリウム、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、エチルセルロース、ゼラチン、医薬品用艶出し剤、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタル酸エステメ、メタクリル酸コポリマー、メチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリ酢酸ビニルフタル酸エステル、シェラック、スクロース、二酸化チタン、カルナウバ蝋、微結晶蝋、ゼイン、ポリアミノ酸、他のポリマー(例えばPLGA等)、およびSAIB等のコーティング剤。
−酸化第二鉄等の着色剤。
−エチレンジアミン四酸化および塩(EDTA)、エデト酸、ゲンチシン酸エタノールアミド、硫酸オキシキノリン等の錯化剤。
−塩化カルシウム、硫酸カルシウム、二酸化ケイ素等の乾燥剤。
−アラビアガム、コレステロール、ジエタノールアミン(付加物)、モノステアリン酸グリセリル、ラノリンアルコール、レシチン、モノおよびジグリセリド、モノエタノールアミン(付加物)、オレイン酸(付加物)、オレイルアルコール(安定剤)、ポロキサマー、ステアリン酸ポリオキシエチレン50、ポリオキシル35ヒマシ油、ポリオキシル40水素化ヒマシ油、ポリオキシル10オレイルエーテル、ポリオキシル20セトステアリルエーテル、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80、プロピレングリコールジアセテート、モノステアリン酸プロピレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、モノラウリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、ステアリン酸、トロラミン、乳化蝋等の乳化および/または可溶化剤。
−粉末セルロース、精製珪藻土等の濾過助剤。
−アネトール、ベンズアルデヒド、エチルバニリン、メントール、サリチル酸メチル、グルタミン酸一ナトリウム、オレンジ花油、ハッカ、ハッカ油、ハッカ精、バラ油、高濃度バラ水、チモール、トルーバルサムチンキ、バニラ、バニラチンキ、バニリン等の香味剤および香料。
−ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、コロイド状二酸化ケイ素、タルク等の流動促進剤および/または凝結防止剤。
−グリセリン、ヘキシレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール等の湿潤剤。
−ラノリン、無水ラノリン、親水性軟膏、白色軟膏、黄色軟膏、ポリエチレングリコール軟膏、ペトロラタム、親水性ペトロラタム、白色ペトロラタム、バラ水軟膏、スクアレン等の軟膏基剤。
−ヒマシ油、ラノリン、鉱物油、ペトロラタム、ギ酸ベンジル、クロロブタノール、フタル酸ジエチル、ソルビトール、ジアセチル化モノグリセリド、フタル酸ジアセチル、グリセリン、グリセロール、モノおよびジアセチル化モノグリセリド、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリアセチン、クエン酸トリエチル、エタノール等の可塑剤。
−低分子量(約10残基未満)等のポリペプチド。
−血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン等の蛋白質。
−酢酸セルロース膜等のポリマー膜。
−アセトン、アルコール、希アルコール、アミレン水和物、安息香酸ベンジル、ブチルアルコール、四塩化炭素、クロロホルム、コーン油、綿実油、酢酸エチル、グリセリン、ヘキシレングリコール、イソプロピルアルコール、メチルアルコール、塩化メチレン、メチルイソブチルケトン、鉱物油、落花生油、ポリエチレングリコール、炭酸プロピレン、プロピレングリコール、胡麻油、注射用水、注射用滅菌水、持続洗浄用滅菌水、精製水、液体トリグリセリド、液体蝋、高級アルコール等の溶剤。
−粉末セルロース、活性炭、精製珪藻土、二酸化炭素吸着剤、水酸化バリウム、石灰、ソーダ石灰等の吸着剤。
−水素化ヒマシ油、セトステアリルアルコール、セチルアルコール、セチルエステル蝋、硬質脂肪、パラフィン、ポリエチレン賦形剤、ステアリルアルコール、乳化蝋、白蝋、黄蝋等の硬化剤。
−カカオバター、硬質脂肪、ポリエチレングリコール等の坐剤基剤。
−アラビアガム、寒天、アルギン酸、モノステアリン酸アルミニウム、ベントナイト、精製ベントナイト、マグマベントナイト、カルボマー934p、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム12、カラギーナン、微結晶およびカルボキシメチルセルロースナトリウムセルロース、デキストリン、ゼラチン、グアーガム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、メチルセルロース、ペクチン、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポビドン、アルギン酸プロピレングリコールエステル、二酸化ケイ素、コロイド状二酸化ケイ素、アルギン酸ナトリウム、トラガカントガム、キサンタンガム等の懸濁および/または増粘剤。
−アスパルテーム、デキストレート、デキストロース、デキストロース賦形剤、フルクトース、マンニトール、サッカリン、サッカリンカルシウム、サッカリンナトリウム、ソルビトール、ソルビトール溶液、スクロース、圧縮糖、粉糖、シロップ等の甘味剤。
−アラビアガム、アルギン酸、カルボキシメチルセルロースナトリウム、微結晶セルロース、デキストリン、エチルセルロース、ゼラチン、液体グルコース、グアーガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリエチレンオキシド、ポビドン、糊化デンプン、シロップ等の錠剤結合剤。
−炭酸カルシウム、二塩基性リン酸カルシウム、三塩基性リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、微結晶セルロース、粉末セルロース、デキストレート、デキストリン、デキストロース賦形剤、フルクトース、カオリン、ラクトース、マンニトール、ソルビトール、デンプン、糊化デンプン、スクロース、圧縮糖、粉糖等の錠剤および/またはカプセル希釈剤。
−アルギン酸、微結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、ポラクリリンカリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプン、糊化デンプン等の錠剤崩壊剤。
−ステアリン酸カルシウム、ベヘン酸グリセリル、ステアリン酸マグネシウム、軽鉱物油、ポリエチレングリコール、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸、精製ステアリン酸、タルク、水素化植物油、ステアリン酸亜鉛等の錠剤および/またはカプセル滑沢剤。
−デキストロース、グリセリン、マンニトール、塩化カリウム、塩化ナトリウム等の浸透圧調節剤。
賦形剤:香味付けおよび/または甘味剤入り芳香エリキシル、化合物ベンズアルデヒドエリキシル、イソアルコールエリキシル、ハッカ水、ソルビトール溶液、シロップ、トルーバルサムシロップ。
−油性アーモンド油、コーン油、綿実油、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、鉱物油、軽鉱物油、ミリスチルアルコール、オクチルドデカノール、オリーブ油、落花生油、杏仁油、胡麻油、大豆油、スクアレン、固体キャリヤー粒状糖、注射用滅菌静菌水、静菌塩化ナトリウム注射液、液体トリグリセリド、液体蝋、高級アルコール等の賦形剤。
−シクロメチコン、ジメチコン、シメチコン等の撥水剤;
−塩化ベンズアルコニウム、塩化ベンズエトニウム、塩化セチルピリジニウム、ドクサートナトリウム、ノノキシノール9、ノノキシノール10、オクトキシノール9、ポロキサマー、ポリオキシル35ヒマシ油、ポリオキシル40、水素化ヒマシ油、ステアリン酸ポリオキシル50、ポリオキシル10オレイルエーテル、ポリオキシル20、セトステアリルエーテル、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80、ラウリル硫酸ナトリウム、モノラウリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、チロキサポール等の湿潤および/または可溶化剤。
【0111】
安定性および/または持続放出を実現するために結晶にポリマーキャリヤーを添加してもよい。このようなポリマーとしては生体適合性で生分解性のポリマーが挙げられる。ポリマーキャリヤーは単一ポリマー種でよいまたは複数のポリマー種の混合物から構成してもよい。ポリマーキャリヤーの非限定的な例は上記に挙げた通りである。
【0112】
好ましい成分または賦形剤の例を以下に挙げる。
−グリシン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、ヒスチジン等のアミノ酸の塩;
−グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、アラビノース、キシロース、リボース等の単糖類;
−ラクトース、トレハロース、マルトース、スクロース等の二糖類;
−マルトデキストリン、デキストラン、デンプン、グリコーゲン等の多糖類;
−マンニトール、キシリトール、ラクチノール、ソルビトール等のアルジトール;
−グルクロン酸、ガラクツロン酸;
−メチルシクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−(3−シクロデキストリン)等のシクロデキストリン類;
−塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ホウ酸、炭酸アンモニウムおよびリン酸アンモニウム等の無機塩類;
−酢酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、乳酸塩等の有機塩類;
−アラビアガム、ジエタノールアミン、モノステアリン酸グリセリル、レシチン、モノエタノールアミン、オレイン酸、オレイルアルコール、ポロキサマー、ポリソルベート、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸、モノラウリン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタンおよび他のソルビタン誘導体、ポリオキシル誘導体、蝋、ポリオキシエチレン誘導体、ソルビタン誘導体等の乳化または可溶化剤;並びに
−寒天、アルギン酸とその塩、グアーガム、ペクチン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、セルロースとその誘導体、炭酸プロピレン、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコールおよびチロキサポール等の増粘剤。
【0113】
本明細書に記載する製剤は更に有効量の結晶抗体を含有する。特に、本発明の製剤は「治療有効量」または「予防有効量」の本発明の抗体結晶を含有することができる。「治療有効量」とは必要な用量および投与期間にて所望治療結果を達成するために有効な量を意味する。この抗体結晶の「治療有効量」は個体の疾患状態、年齢、性別および体重並びに個体に所望の応答を誘発する抗体の能力等の因子により変動し得る。治療有効量は抗体の有益な治療作用が毒性ないし有害作用を上回る量でもある。「予防有効量」とは必要な用量と投与期間で所望予防結果を達成するために有効な量を意味する。一般に、予防用量は、疾患以前または疾患の初期段階の対象において使用されるので、予防有効量は治療有効量よりも少なくなる。
【0114】
適切な用量は標準方法を使用して容易に決定することができる。抗体は、患者に一度に投与されるまたは複数回に分けて投与されるのが適切である。例えば1回もしくは2回以上に分けて投与するかまたは連続輸液により投与するかに関係なく、上記因子に応じて、抗体約1μg/kg〜約50mg/kg、例えば0.1〜20mg/kgが患者に投与する初期候補用量である。典型的な1日または1週間用量としては、症状に応じて約1μg/kg〜約20mg/kgまたはそれ以上が挙げられ、疾患症状の所望の抑制が得られるまで投与を繰返す。しかし、他の投与レジメンが有用な場合もある。場合により、製剤は再可溶化時に少なくとも約1g/L以上の濃度の抗体を含有する。他の態様では、抗体濃度は再可溶化時に少なくとも約1g/L〜約100g/Lとする。
【0115】
抗体の結晶またはこのような結晶を含有する製剤は、単独で投与してもよいまたは医薬製剤の一部として投与してもよい。これらは、非経口、経口または局所経路にて投与され得る。これらは、例えば、経口、肺、鼻、耳、肛門、皮膚、眼球、静脈内、筋肉内、動脈内、腹腔内、粘膜、舌下、皮下、経皮、局所または頭蓋内経路で投与され得るまたは口腔内に投与され得る。投与技術の特定例としては、肺吸入、病巣内投与、注射、乾燥粉末吸入、皮膚エレクトロポレーション、エアゾール送達および無針注射技術(無針皮下投与を含む)が挙げられる。
【0116】
以下、非限定的な実施例により本発明を更に詳細に説明する。当業者は以下の記載の概論部分と自身の一般知識に基づき、過度の実験を要することなしに本発明の他の態様に想到できよう。
【0117】
実験の部
A.材料
a)蛋白質
凍結モノクローナル抗体(mAb)D2E7はAbbott Laboratoriesから入手した。全実験は初期mAb濃度50mg/mlの薬剤製品ロットから実施した。
b)精製化学薬品
酢酸ナトリウムはGrussing GmbH,Filsumから入手した。各種重合度のポリエチレングリコールはClariant GmbH,Sulzbachから入手した。更に、所定のマイクロスケール実験には市販結晶化スクリーニングキットおよび試薬(Hampton Research,Nextal Biotechnologies)を使用した。全化学薬品はSigma−Aldrich,SteinheimまたはMerck,Darmstadtから入手した。
【0118】
B.一般方法
a)D2E7原薬の融解
D2E7は撹拌下の水浴中で25℃にて融解した。
b)緩衝液交換−方法A
D2E7溶液のアリコートを30KDa MWCO Vivaspin 20コンセントレーター(Vivascience)にピペットで注入した。蛋白質サンプルを新しい緩衝液で10倍に希釈し、4℃にて5,000×g(Sigma 4K 15実験室用遠心機)で遠心することにより、サンプル容量を元のサンプル容量に戻した。希釈/遠心工程を1回繰返し、元のサンプル緩衝液の100倍緩衝液を得た。蛋白質濃度の調整後、0.2μmシリンジ駆動式フィルターユニットで溶液を滅菌濾過した。
b)緩衝液交換−方法B
D2E7溶液のアリコートをSLIDE−A−LYZER透析カセット(Pierce Biotechnology Inc.)に入れた。選択緩衝液を充填したビーカーに透析カセットを入れ、4℃で一晩撹拌下に緩衝液交換を行った。蛋白質濃度の調整後、2μmシリンジ駆動式フィルターユニットで溶液を滅菌濾過した。
c)OD280−蛋白質濃度測定
ThermoSpectronics UV1装置を使用し、消光係数1.39cmmg−1を適用して波長280nmで蛋白質濃度を調べた。このために、結晶化スラリーのアリコートを14,000rpmで遠心し、上清中の残留蛋白質濃度を測定した。
d)pH測定
pH測定はMettler Toledo MP220 pH計を使用して実施した。 Inlab 413電極とInlab 423微小電極を利用した。
e)晶析方法
e1)マイクロスケール結晶化−シッティングドロップ蒸気拡散Hydra II
Hydra II結晶化ロボットとGreiner 96ウェルプレート(3ドロップウェル,Hampton Research)を使用して初期結晶化スクリーニングを実施した。プレートをセットアップ後、ウェルをClearsealフィルム(Hampton Research)で密閉した。
e2)マイクロスケール結晶化−ハンギングドロップ蒸気拡散
VDXプレート(シーラント付き,Hampton Research)と夫々OptiClearプラスチックカバースライド(正方形,Hampton Research)またはシリコンコートガラスカバースライド(円形,Hampton Research)を使用してハンギングドロップ蒸気拡散実験を実施した。リザーバ溶液の調製後、カバースライド上でリザーバ溶液1滴を蛋白質溶液1滴と混合し、液滴がリザーバの上に垂れ下がるようにカバースライドを裏返してウェルを密閉した。
e3)バッチ晶析−方法A(24ウェルプレート)
ウェル内で蛋白質溶液を等量の結晶化用緩衝液(500μl)と混合することによりバッチ晶析を実施した。次いで、水分蒸発を防ぐためにウェルを接着テープで密閉した。
e4)バッチ晶析−方法B(エッペンドルフ反応チューブ)
1.5mLまたは2mLエッペンドルフ反応チューブ内で蛋白質溶液を等量の結晶化用緩衝液と混合することによりバッチ晶析を実施した。
e5)バッチ晶析−方法C(ファルコンチューブ,撹拌)
50mLファルコンチューブ内で蛋白質溶液を等量の結晶化用緩衝液と混合することによりバッチ晶析を実施した。蓋をした直後にチューブを実験室用振盪器(GFL3013またはGFL3015)に載せるか、あるいは旋回により撹拌した。これらの方法を適用することにより、サンプルに撹拌器を挿入するのを避けた。
e6)バッチ晶析−方法D(1リットルポリプロピレン容器)
滅菌した1リットルポリプロピレンびんで蛋白質溶液を等量の結晶化用緩衝液と混合することによりバッチ晶析を実施した。蓋をした直後に、容器を周囲温度で非撹拌下に保存した。この方法を適用することにより、サンプルに撹拌器を挿入するのを避けた。
f)SDS−PAGE
蛋白質濃度を8μg/20μLに調整することによりサンプルを作製した。ブロモフェノールブルーを添加したSDS/Tris/グリセリンでサンプルを希釈した。
Invitrogen NuPage 10%Bis−Tris Gels、NuPage MES SDS Running BufferおよびMark12 Wide Range Protein Standardsを使用してSDS PAGEによる定性分析を実施した。サンプル20μLをゲルポケットにピペットで注入した。ゲルを泳動させ、酢酸/メタノール試薬で固定後、Novex Colloidal Blue Stain Kitを使用して染色を実施した。Invitogen Gel−Dry乾燥液を使用してゲルを乾燥した。
g)光学顕微鏡分析
Zeiss Axiovert 25またはNikon Labophot顕微鏡を使用して結晶を観察した。後者には偏光フィルターセットとJVC TK C1380カラービデオカメラを接続した。
h)SE−HPLC
D2E7サンプルの凝集レベルをSE−HPLCにより評価した。Dionex P680ポンプと、ASI−100オートサンプラーと、UVD170U検出器を使用した。批准Abbott標準ブロトコール(CL16−PS−02,アダリムマブ純度)を適用してAmersham Bioscience Superose 6 10/300 GLゲル濾過カラムにより凝集種を単量体から分離した。
【0119】
C.蒸気拡散結晶化実験
以下の実施例に記載する濃度値は抗体溶液とリザーバ溶液を混合する前の各溶液の初期値である。
【0120】
特に指定しない限り、全pH値は結晶化剤等の他の物質を加える前の酢酸緩衝液ストックのpHを表す。
【0121】
特に指定しない限り、全緩衝液モル濃度は一般に氷酢酸を使用して実施したpH調整前のストック溶液中の酢酸ナトリウム濃度を表す。
【実施例】
【0122】
(実施例1)
ハンギングドロップ蒸気拡散法によるPEG4,000/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニング
約0.1M酢酸ナトリウムを含有するpH約5.2の緩衝液によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を10mg/mLに調整した。
【0123】
グリース付きVDXプレートおよび正方形OptiClearプラスチックカバースライドを使用した。酢酸緩衝液、50%w/v PEG4,000溶液および(完全に脱塩し、場合により予め蒸留した)ミリQ水を各ウェル内で混合することにより特定リザーバ溶液500μLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を約0.1Mで一定に維持し、PEG4,000を約6%w/vから約28%まで2%刻みで変化させた。pHは全工程で約5.2とした。各条件を2回ずつ評価した。正方形OptiClearプラスチックカバースライド上で蛋白質溶液約1μLを特定リザーバ溶液約1μLと混合し、スライドを裏返してウェルを密閉し、ハンギングドロップ実験を行った。プレートを周囲温度で保存した。翌日から30日間、液滴の顕微鏡観察を複数回実施した。透明液滴、ランダム沈殿を含む液滴、結晶を含む液滴、および沈殿種と結晶の混合物を含む液滴に状態を分類した。
【0124】
結果:評価した24個のウェルから結晶は認められなかった。
【0125】
(実施例2)
蛋白質濃度を変更したハンギングドロップ蒸気拡散法によるPEG4,000/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニング
約0.1M酢酸ナトリウムを含有するpH約5.2の緩衝液によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を50mg/mLに調整した。蛋白質濃度以外のプロセス条件を実施例1と同一とした。
【0126】
結果:評価した24個のウェルから結晶は認められなかった。
【0127】
(実施例3)
ハンギングドロップ蒸気拡散法によるPEG400/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニング
約0.1M酢酸ナトリウムを含有するpH約5.2の緩衝液によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を10mg/mLに調整した。
【0128】
グリース付きVDXプレートおよび正方形OptiClearプラスチックカバースライドを使用した。酢酸緩衝液、50%w/v PEG400溶液およびミリQ水を各ウェル内で混合することにより特定リザーバ溶液500μLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を約0.1Mで一定に維持し、PEG400を約30%w/vから約40%まで2%刻みで変化させた。pHは全工程で約5.2とした。各条件を2回ずつ評価した。正方形OptiClearプラスチックカバースライド上で蛋白質溶液約1μLを特定リザーバ溶液約1μLと混合し、スライドを裏返してウェルを密閉し、ハンギングドロップ実験を行った。プレートを周囲温度で保存した。翌日から30日間、液滴の顕微鏡観察を複数回実施した。透明液滴、ランダム沈殿を含む液滴、結晶を含む液滴、および沈殿種と結晶の混合物を含む液滴に状態を分類した。
【0129】
結果:評価した12個のウェルから結晶は認められなかった。
【0130】
(実施例4)
蛋白質濃度を変更したハンギングドロップ蒸気拡散法によるPEG400/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニング
約0.1M酢酸ナトリウムを含有するpH約5.2の緩衝液によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を50mg/mLに調整した。蛋白質濃度以外のプロセス条件を実施例3と同一とした。
【0131】
結果:評価した12個のウェルから結晶は認められなかった。
【0132】
(実施例5)
ハンギングドロップ蒸気拡散法によるPEG10,000/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニング
約0.1M酢酸ナトリウムを含有するpH約5.2の緩衝液によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を10mg/mLに調整した。
【0133】
グリース付きVDXプレートおよび正方形OptiClearプラスチックカバースライドを使用した。酢酸緩衝液、50%w/v PEG400溶液およびミリQ水を各ウェル内で混合することにより特定リザーバ溶液500μLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を約0.1Mで一定に維持し、PEG10,000を約4%w/vから約14%w/vまで2%刻みで変化させた。pHを全工程において約5.2とした。各条件を2回ずつ評価した。正方形OptiClearプラスチックカバースライド上で蛋白質溶液約1μLを特定リザーバ溶液約1μLと混合し、スライドを裏返してウェルを密閉し、ハンギングドロップ実験を行った。プレートを周囲温度で保存した。翌日から30日間、液滴の顕微鏡観察を複数回実施した。透明液滴、ランダム沈殿を含む液滴、結晶を含む液滴、および沈殿種と結晶の混合物を含む液滴に状態を分類した。
【0134】
結果:評価した12個のウェルから結晶は認められなかった。
【0135】
(実施例6)
蛋白質濃度を変更したハンギングドロップ蒸気拡散法によるPEG10,000/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニング
約0.1M酢酸ナトリウムを含有するpH約5.2の緩衝液によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を45〜55mg/mL、好ましくは50mg/mLに調整した。蛋白質濃度以外のプロセス条件は実施例5と同一とした。
【0136】
結果:評価した12個のウェルから結晶は認められなかった。
【0137】
(実施例7)
設定を変更したハンギングドロップ蒸気拡散法によるPEG400/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニング
約0.1M酢酸ナトリウムを含有するpH約5.2の緩衝液によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を10mg/mLに調整した。
【0138】
グリース付きVDXプレートおよび正方形OptiClearプラスチックカバースライドを使用した。酢酸緩衝液、50%w/v PEG10,000溶液およびミリQ水を各ウェル内で混合することにより特定リザーバ溶液500μLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を約0.1Mで一定に維持し、PEG400を約32%w/vおよび約34%w/vとした。pHを約4.2、4.7、5.2、5.7、6.2または6.7とした。各条件を2回ずつ評価した。正方形OptiClearプラスチックカバースライド上で蛋白質溶液約1μLを特定リザーバ溶液約1μLと混合し、スライドを裏返してウェルを密閉し、ハンギングドロップ実験を行った。プレートを周囲温度で保存した。翌日から30日間、液滴の顕微鏡観察を複数回実施した。透明液滴、ランダム沈殿を含む液滴、結晶を含む液滴、および沈殿種と結晶の混合物を含む液滴に状態を分類した。
【0139】
結果:評価した24個のウェルから結晶は認められなかった。
【0140】
(実施例8)
蛋白質濃度と設定を変更したハンギングドロップ蒸気拡散法によるPEG400/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニング
約0.1M酢酸ナトリウムを含有するpH約5.2の緩衝液によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を50mg/mLに調整した。蛋白質濃度以外のプロセス条件は実施例7と同一とした。
【0141】
結果:評価した24個のウェルから結晶は認められなかった。
【0142】
(実施例9)
設定を変更したハンギングドロップ蒸気拡散法によるPEG400/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニング
約0.1M酢酸ナトリウムを含有するpH約5.2の緩衝液によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を10mg/mLに調整した。
【0143】
グリース付きVDXプレートおよび正方形OptiClearプラスチックカバースライドを使用した。酢酸緩衝液、50%w/v PEG400溶液およびミリQ水を各ウェル内で混合することにより特定リザーバ溶液500μLを調製した。本実施例では、約0.025M、0.05M、0.075M、0.15M、0.2Mまたは0.25Mの酢酸緩衝液モル濃度を使用した。PEG400は約32%w/vから約34%w/vまで変化させた。pHを約5.7または4.2とした。各条件を2回ずつ評価した。正方形OptiClearプラスチックカバースライド上で蛋白質溶液約1μLを特定リザーバ溶液約1μLと混合し、スライドを裏返してウェルを密閉し、ハンギングドロップ実験を行った。プレートを周囲温度で保存した。翌日から30日間、液滴の顕微鏡観察を複数回実施した。透明液滴、ランダム沈殿を含む液滴、結晶を含む液滴、および沈殿種と結晶の混合物を含む液滴に状態を分類した。
【0144】
結果:評価した48個のウェルから結晶は認められなかった。
【0145】
(実施例10)
設定を変更したハンギングドロップ蒸気拡散法によるPEG400/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニング
約0.1M酢酸ナトリウムを含有するpH約5.2の緩衝液によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を10mg/mLに調整した。
【0146】
グリース付きVDXプレートおよび正方形OptiClearプラスチックカバースライドを使用した。酢酸緩衝液、50%w/v PEG400溶液およびミリQ水を各ウェル内で混合することにより特定リザーバ溶液500μLを調製した。本実施例では、約0.025M、0.05Mまたは0.1Mの酢酸緩衝液モル濃度を使用した。PEG400は約28%w/vまたは約30%w/vとした。pHを約5.2、5.7、6.2または6.7とした。各条件を2回ずつ評価した。正方形OptiClearプラスチックカバースライド上で蛋白質溶液約1μLを特定リザーバ溶液約1μLと混合し、スライドを裏返してウェルを密閉し、ハンギングドロップ実験を行った。プレートを周囲温度で保存した。翌日から30日間、液滴の顕微鏡観察を複数回実施した。透明液滴、ランダム沈殿を含む液滴、結晶を含む液滴、および沈殿種と結晶の混合物を含む液滴に状態を分類した。
【0147】
結果:評価した48個のウェルから結晶は認められなかった。
【0148】
(実施例11)
ハンギングドロップ蒸気拡散法によるPEG400とPEG4,000/酢酸ナトリウムの併用のグリッドスクリーニング
約0.1M酢酸ナトリウムを含有するpH約5.2の緩衝液によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を10mg/mLに調整した。
【0149】
グリース付きVDXプレートおよび正方形OptiClearプラスチックカバースライドを使用した。酢酸緩衝液、50%w/v PEG4,000溶液およびミリQ水を各ウェル内で混合することにより特定リザーバ溶液500μLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を約0.1Mで一定に維持し、PEG4,000を約4%w/vから約8%w/vまで2%刻みで変化させた。同時に、PEG400を約24%w/v、26%w/v、28%w/vまたは30%w/vの濃度でPEG4,000/酢酸溶液に加えた。pHを全工程で約5.2とした。各条件を2回ずつ評価した。正方形OptiClearプラスチックカバースライド上で蛋白質溶液約1μLを特定リザーバ溶液約1μLと混合し、スライドを裏返してウェルを密閉し、ハンギングドロップ実験を行った。プレートを周囲温度で保存した。翌日から30日間、液滴の顕微鏡観察を複数回実施した。透明液滴、ランダム沈殿を含む液滴、結晶を含む液滴、および沈殿種と結晶の混合物を含む液滴に状態を分類した。
【0150】
結果:評価した24個のウェルから結晶は認められなかった。
【0151】
(実施例12)
設定を変更したハンギングドロップ蒸気拡散法によるPEG400とPEG4,000/酢酸ナトリウムの併用のグリッドスクリーニング
約0.1M酢酸ナトリウムを含有するpH約5.2の緩衝液によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を10mg/mLに調整した。
【0152】
グリース付きVDXプレートおよび正方形OptiClearプラスチックカバースライドを使用した。酢酸緩衝液、50%w/v PEG4,000溶液およびミリQ水を各ウェル内で混合することにより特定リザーバ溶液500μLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を約0.1Mで一定に維持し、PEG4,000を約4%w/vから約8%w/vまで2%刻みで変化させた。同時に、PEG400を約30%w/v、32%w/v、34%w/vまたは36%w/vの濃度でPEG4,000/酢酸溶液に加えた。pHを全工程で約4.2とした。各条件を2回ずつ評価した。正方形OptiClearプラスチックカバースライド上で蛋白質溶液約1μLを特定リザーバ溶液約1μLと混合し、スライドを裏返してウェルを密閉し、ハンギングドロップ実験を行った。プレートを周囲温度で保存した。翌日から30日間、液滴の顕微鏡観察を複数回実施した。透明液滴、ランダム沈殿を含む液滴、結晶を含む液滴、および沈殿種と結晶の混合物を含む液滴に状態を分類した。
【0153】
結果:評価した24個のウェルから結晶は認められなかった。
【0154】
(実施例13)
設定を変更したハンギングドロップ蒸気拡散法によるPEG4,000/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニング
約0.1M酢酸ナトリウムを含有するpH約6.5、6.0、5.5、5.0、4.5または4.0の緩衝液によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を10mg/mLに調整した。
【0155】
グリース付きVDXプレートおよび正方形OptiClearプラスチックカバースライドを使用した。酢酸緩衝液、50%w/v PEG4,000溶液およびミリQ水を各ウェル内で混合することにより特定リザーバ溶液500μLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を約0.1Mで一定に維持し、PEG4,000を約4%w/vから約26%w/vまで2%刻みで変化させた。使用した酢酸緩衝液のpHは対応する蛋白質緩衝液と同一とした。各条件を2回ずつ評価した。正方形OptiClearプラスチックカバースライド上で蛋白質溶液約1μLを特定リザーバ溶液約1μLと混合し、スライドを裏返してウェルを密閉し、ハンギングドロップ実験を行った。プレートを周囲温度で保存した。翌日から30日間、液滴の顕微鏡観察を複数回実施した。透明液滴、ランダム沈殿を含む液滴、結晶を含む液滴、および沈殿種と結晶の混合物を含む液滴に状態を分類した。
【0156】
結果:評価した144個のウェルから結晶は認められなかった。
【0157】
(実施例14)
設定を変更したハンギングドロップ蒸気拡散法によるPEG4,000/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニング
酢酸緩衝液モル濃度を約0.2M(沈殿用緩衝液のモル濃度)に一定に維持した以外は実施例13と同一の実験条件とした。
【0158】
結果:評価した144個のウェルから結晶は認められなかった。
【0159】
(実施例15)
設定を変更したハンギングドロップ蒸気拡散法によるPEG4,000/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニング
酢酸緩衝液モル濃度を0.1M(沈殿用緩衝液のモル濃度)に一定に維持した以外は実施例13と同一の実験条件とした。
【0160】
結果:評価した144個のウェルから結晶は認められなかった。
【0161】
(実施例16)
設定を変更したハンギングドロップ蒸気拡散法によるPEG4,000/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニング
酢酸緩衝液モル濃度を0.4M(沈殿用緩衝液のモル濃度)に一定に維持した以外は実施例13と同一の実験条件とした。
【0162】
結果:評価した144個のウェルから結晶は認められなかった。
【0163】
(実施例17)
PEG4,000/酢酸ナトリウムバルク実験
約0.1M酢酸ナトリウムを含有するpH約5.5の緩衝液によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を10mg/mLに調整した。
【0164】
エッペンドルフ反応チューブ4本に各々500μLずつ4個のアリコートをピペットで注入した。24%PEG4,000を0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)に溶かした溶液が微かに不透明になるまで蛋白質溶液に滴定した。次に、溶液が再び透明になるまで水を溶液にピペットで注入した。この方法をバルク結晶化と言う。サンプル2個は周囲温度、残りの2個のサンプルは4℃で滴定を行った。次いで、各サンプル対の一方を夫々周囲温度または4℃で保存した。翌日から1週間、サンプルの1μLアリコートの顕微鏡観察を複数回実施した。
【0165】
結果:4個のサンプルから結晶は得られなかった。
【0166】
(実施例18)
温度を変更したハンギングドロップ蒸気拡散法によるPEG4,000/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニング
実験条件は実施例13と同一とした。但し、チューブを4℃にてセットアップし、保存した。
【0167】
結果:評価した144個のウェルから結晶は認められなかった。
【0168】
(実施例19)
蛋白質濃度を変更したハンギングドロップ蒸気拡散法によるPEG4,000/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニング
蛋白質濃度を5mg/mLに調整した以外は、実施例13と同一の実験条件とした。
【0169】
結果:評価した144個のウェルから結晶は認められなかった。
【0170】
(実施例20)
ハンギングドロップ蒸気拡散法による硫酸アンモニウム/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニング
約0.1M酢酸ナトリウムを含有するpH約5.5の緩衝液によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を10mg/mLに調整した。
【0171】
グリース付きVDXプレートおよび正方形OptiClearプラスチックカバースライドを使用した。酢酸緩衝液、硫酸アンモニウムストック溶液およびミリQ水を各ウェル内で混合することにより特定リザーバ溶液500μLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を約0.1Mに一定に維持し、硫酸アンモニウム濃度を0.5Mから2.5Mまで0.25M刻みで変化させた。酢酸緩衝液のpHを全工程で約5.5とした。各条件を2回ずつ評価した。正方形OptiClearプラスチックカバースライド上で蛋白質溶液約1μLを特定リザーバ溶液約1μLと混合し、スライドを裏返してウェルを密閉し、ハンギングドロップ実験を行った。プレートを周囲温度でセットアップし、保存した。翌日から2週間、液滴の顕微鏡観察を複数回実施した。透明液滴、ランダム沈殿を含む液滴、結晶を含む液滴、および沈殿種と結晶の混合物を含む液滴に状態を分類した。
【0172】
結果:評価した18個のウェルから結晶は認められなかった。
【0173】
(実施例21)
ハンギングドロップ蒸気拡散法による塩化ナトリウム/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニング
約0.1M酢酸ナトリウムを含有するpH約5.5の緩衝液によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を10mg/mLに調整した。
【0174】
グリース付きVDXプレートおよび正方形OptiClearプラスチックカバースライドを使用した。酢酸緩衝液、塩化ナトリウムストック溶液およびミリQ水を各ウェル内で混合することにより特定リザーバ溶液500μLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を約0.1Mで一定に維持し、塩化ナトリウム濃度を1.5Mから2.5Mまで0.5M刻みで変化させた。酢酸緩衝液のpHは全工程で約5.5とした。各条件を2回ずつ評価した。正方形OptiClearプラスチックカバースライド上で蛋白質溶液約1μLを特定リザーバ溶液約1μLと混合し、スライドを裏返してウェルを密閉し、ハンギングドロップ実験を行った。プレートを周囲温度にてセットアップし、保存した。翌日から2週間、液滴の顕微鏡観察を複数回実施した。透明液滴、ランダム沈殿を含む液滴、結晶を含む液滴、および沈殿種と結晶の混合物を含む液滴に状態を分類した。
【0175】
結果:評価した6個のウェルから結晶は認められなかった。
【0176】
(実施例22)
ハンギングドロップ蒸気拡散法によるPEG4,000/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニング、界面活性剤の影響
約0.1M酢酸ナトリウムを含有するpH約5.5の緩衝液によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を5mg/mLに調整した。
【0177】
グリース付きVDXプレートおよび正方形OptiClearプラスチックカバースライドを使用した。酢酸緩衝液、50%w/v PEG4,000溶液およびミリQ水を各ウェル内で混合することにより特定リザーバ溶液500μLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を約0.1Mで一定に維持し、PEG4,000を約10%w/vから約20%w/vまで2%刻みで変化させた。酢酸緩衝液のpHを全工程で約5.5とした。更に、上記のように得られた全緩衝液にポリソルベート20、ポリソルベート80およびプルロニックF68を夫々0%、0.02%および0.1%の濃度で加えた。正方形OptiClearプラスチックカバースライド上で蛋白質溶液約1μLを特定リザーバ溶液約1μLと混合し、スライドを裏返してウェルを密閉し、ハンギングドロップ実験を行った。プレートを周囲温度でセットアップし、保存した。翌日から2週間、液滴の顕微鏡観察を複数回実施した。透明液滴、ランダム沈殿を含む液滴、結晶を含む液滴、および沈殿種と結晶の混合物を含む液滴に状態を分類した。
【0178】
結果:評価した84個のウェルから結晶は認められなかった。評価した界面活性剤が結晶化システムの動作に及ぼす影響を認めることはできなかった。
【0179】
(実施例23)
ハンギングドロップ蒸気拡散法による酢酸亜鉛/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニング
約0.1M酢酸ナトリウムを含有するpH約5.5の緩衝液によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を10mg/mLに調整した。
【0180】
グリース付きVDXプレートおよび正方形OptiClearプラスチックカバースライドを使用した。酢酸緩衝液、酢酸亜鉛ストック溶液およびミリQ水を各ウェル内で混合することにより特定リザーバ溶液500μLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を約0.1Mで一定に維持し、酢酸亜鉛濃度を0.1Mから0.9Mまで約0.2M刻みで変化させた。酢酸緩衝液のpHは全工程で約5.5とした。各条件を2回ずつ評価した。正方形OptiClearプラスチックカバースライド上で蛋白質溶液約1μLを特定リザーバ溶液約1μLと混合し、スライドを裏返してウェルを密閉し、ハンギングドロップ実験を行った。プレートを周囲温度でセットアップし、保存した。翌日から2週間、液滴の顕微鏡観察を複数回実施した。透明液滴、ランダム沈殿を含む液滴、結晶を含む液滴、および沈殿種と結晶の混合物を含む液滴に状態を分類した。
【0181】
結果:評価した12個のウェルから結晶は認められなかった。
【0182】
(実施例24)
蒸気拡散法による条件の広範なスクリーニング
20mM HEPES/150mM塩化ナトリウム緩衝液(pH7.4)によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を5mg/mL、10mg/mLまたは20mg/mLに調整した。
【0183】
Hydra II結晶化ロボットを使用し、数種類の市販結晶化スクリーニングキットを使用して96ウェルGreinerプレートを周囲温度にてセットアップした。蛋白質溶液と結晶化剤を約1:1、好ましくは1:1比で混合した。
【0184】
以下のスクリーニングキットを使用した。
Hampton Crystal Screen 1および2(Hampton Research),
Hampton Index Screen(Hampton Research),
Hampton SaltRX Screen(Hampton Research),
Nextal The Classics,The Classics Lite,The PEGs,The Anions,ThepHclear and The Ammonium sulfate(いずれもNextal Biotechnologies製品)。
【0185】
(上記のような3種類の異なる蛋白質濃度で各条件につき3滴ずつ)蛋白質を結晶化剤に添加後、プレートをClearsealフィルムで密閉した。各プレートを4枚ずつセットアップした後、夫々周囲温度、4℃、27℃および37℃で保存した。夫々5日後と12日後に液滴の顕微鏡観察を行った。透明液滴、ランダム沈殿を含む液滴、結晶を含む液滴および沈殿種と結晶の混合物を含む液滴に状態を分類した。
【0186】
結果:評価した864種類の市販条件のうち、2種類から少なくとも2週間後に以下の蛋白質濃度および温度で結晶が得られた。
−0.1M無水酢酸ナトリウム(pH4.6),0.9Mリン酸二水素ナトリウム,0.9Mリン酸二水素カリウム(=Nextal The Anions,E3)、10もしくは20mg/mLおよび27℃、または20mg/mLおよび37℃。
−0.1M Bis−Tris Propane(pH7.0),1.5M硫酸アンモニウム(=Hampton SaItRX,F2)、5、10または20mg/mLおよび27℃。
【0187】
結晶は針束状形態を示した。
【0188】
以下の条件では市販スクリーニングキットから結晶が得られなかった。詳細な溶液組成については、www.hamptonresearch.comおよびwww.nextalbiotech.comを参照されたい。
Hampton Crystal Screen 1−全条件(48)
Hampton Crytsal Screen 2−全条件(48)
Hampton Index Screen−全条件(96)
Hampton SaltRX Screen−「F2」以外の全条件(95)
Nextal−The Classics−全条件(96)
Nextal−The Classics Lite−全条件(96)
Nextal−The PEGs−全条件(96)
Nextal−The Anions−「E3」以外の全条件(95)
Nextal−The pH Clear−全条件(96)
Nextal−The AmmoniumSulfate−全条件(96)。
【0189】
(実施例25)
設定を変更したハンギングドロップ蒸気拡散法によるPEG4,000/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニング
20mM HEPES/150mM塩化ナトリウム緩衝液(pH7.4)によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を5mg/mL、10mg/mLまたは20mg/mLに調整した。
【0190】
グリース付きVDXプレートおよび円形シリコンコートガラスカバースライドを使用した。酢酸緩衝液、50%w/v PEG4,000溶液およびミリQ水を各ウェル内で混合することにより特定リザーバ溶液500μLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を約0.1Mで一定に維持し、PEG4,000濃度を4%から26%まで2%刻みで変化させた。酢酸緩衝液のpHを全工程で約5.5とした。上記のような3種類の蛋白質濃度で各条件を設定した。円形シリコンコートガラスカバースライド上で蛋白質溶液約1μLを特定リザーバ溶液約1μLと混合し、スライドを裏返してウェルを密閉し、ハンギングドロップ実験を行った。プレートを周囲温度で保存した。6日後に液滴の顕微鏡観察を行った。透明液滴、ランダム沈殿を含む液滴、結晶を含む液滴、および沈殿種と結晶の混合物を含む液滴に状態を分類した。
【0191】
結果:評価した72個のウェルから結晶は認められなかった。
【0192】
(実施例26)
ハンプトン界面活性剤スクリーニングキットを利用したハンギングドロップ蒸気拡散実験
20mM HEPES/150mM塩化ナトリウム緩衝液(pH7.4)によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を5mg/mLに調整した。
【0193】
グリース付きVDXプレートおよび円形シリコンコートガラスカバースライドを使用した。酢酸緩衝液、50%w/v PEG4,000溶液およびミリQ水を各ウェル内で混合することにより特定リザーバ溶液500μLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を約0.1Mで一定に維持し、PEG4,000濃度を約12%w/vまたは14%w/vとした。酢酸緩衝液のpHを全工程で約5.5とした。円形シリコンコートガラスカバースライド上で蛋白質溶液約4μLをHamptonスクリーニングキットの特定界面活性剤溶液1μLと混合した。次に液滴を特定リザーバ溶液5μLと混合し、スライドを裏返してウェルを密閉し、ハンギングドロップ実験を行った。プレートを周囲温度で保存した。6日後に液滴の顕微鏡観察を行った。透明液滴、ランダム沈殿を含む液滴、結晶を含む液滴、および沈殿種と結晶の混合物を含む液滴に状態を分類した。
【0194】
結果:評価した144個のウェルから結晶は認められなかった。
【0195】
(実施例27)
Hampton PEG/イオンスクリーニングキットを利用したハンギングドロップ蒸気拡散
20mM HEPES/150mM塩化ナトリウム緩衝液(pH7.4)によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を5mg/mLまたは10mg/mLに調整した。
【0196】
グリース付きVDXプレートと円形シリコンコートガラスカバースライドを使用した。夫々48種類の緩衝液製剤各500μLをウェルにピペットで注入し、ミリQ水250μLと混合した。蛋白質サンプル約1μLをカバースライド上にピペットで移した後、特定ウェルのリザーバ溶液約1μLと混合した。スライドを裏返してウェルを密閉し、ハンギングドロップ実験を行った。プレートを周囲温度で保存した。翌日から7日間、液滴の顕微鏡観察を複数回実施した。透明液滴、ランダム沈殿を含む液滴、結晶を含む液滴、および沈殿種と結晶の混合物を含む液滴に状態を分類した。
【0197】
結果:試験した96種類の条件から結晶は認められなかった。
【0198】
(実施例28)
Hampton PEG/イオンスクリーニングキットを利用し、設定を変更したハンギングドロップ蒸気拡散
20mM HEPES/150mM塩化ナトリウム緩衝液(pH7.4)によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を5mg/mLに調整した。
【0199】
夫々48種類の緩衝液製剤各500μLをウェルにピペットで注入し、ミリQ水500μLと混合した以外は実施例27と同一の実験条件とした。
【0200】
結果:試験した48種の条件から結晶は認められなかった。
【0201】
(実施例29)
Hampton低イオン強度スクリーニングキットを利用したハンギングドロップ蒸気拡散
20mM HEPES/150mM塩化ナトリウム緩衝液(pH7.4)によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を5mg/mLに調整した。
【0202】
グリース付きVDXプレートおよび円形シリコンコートガラスカバースライドを使用した。24%w/v PEG3,350脱水剤溶液1mLを108個のウェルに夫々ピペットで注入した。蛋白質サンプル約2μLをカバースライド上にピペットで移した後、18種類の特定緩衝液試薬のうちの1種約1μLと混合した。その後、6種類の異なる濃度のうちの1種のPEG3,350沈殿剤約2.5μLを液滴に加えた。スライドを裏返してウェルを密閉し、108種類の異なるハンギングドロップ実験を行った。
【0203】
プレートを周囲温度で保存した。翌日から7日間、液滴の顕微鏡観察を複数回実施した。透明液滴、ランダム沈殿を含む液滴、結晶を含む液滴、および沈殿種と結晶の混合物を含む液滴に状態を分類した。
【0204】
結果:試験した108種類の条件から結晶は得られなかった。
【0205】
(実施例30)
ハンギングドロップ蒸気拡散法による硫酸アンモニウム/ビス−トリスプロパングリッドスクリーニング
20mM HEPES/150mM塩化ナトリウム緩衝液(pH7.4)によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を5mg/mL、10mg/mLまたは20mg/mLに調整した。
【0206】
グリース付きVDXプレートおよび円形シリコンコートガラスカバースライドを使用した。硫酸アンモニウムストック溶液、ビス−トリスプロパンストック溶液およびミリQ水を各ウェル内で混合することにより特定リザーバ溶液500μLを調製した。本実施例では、硫酸アンモニウムモル濃度を約0.5M、1M、1.5Mまたは2Mとした。ビス−トリスプロパンモル濃度は全工程で0.1Mとし、ビス−トリスプロパン緩衝液pHは約5.5、6.0、6.5、7.0、7.5または8.0とした。上記全3種類の蛋白質濃度と夫々周囲温度の保存または約27℃の保存を適用し、合計24種類の条件を評価した。円形シリコンコートガラスカバースライド上で蛋白質溶液約1μLを特定リザーバ溶液約1μLと混合し、スライドを裏返してウェルを密閉し、ハンギングドロップ実験を行った。プレートを周囲温度で保存した。3日後に液滴の顕微鏡観察を行った。透明液滴、ランダム沈殿を含む液滴、結晶を含む液滴、および沈殿種と結晶の混合物を含む液滴に状態を分類した。
【0207】
結果:試験した144種類の条件から3日後に結晶は得られなかった。
【0208】
(実施例31)
ハンギングドロップ蒸気拡散法によるリン酸二水素ナトリウムカリウム/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニング
20mM HEPES/150mM塩化ナトリウム緩衝液(pH7.4)によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を5mg/mL、10mg/mLまたは20mg/mLに調整した。
【0209】
グリース付きVDXプレートおよび正方形OptiClearプラスチックカバースライドを使用した。酢酸緩衝液、リン酸二水素ナトリウムストック溶液、リン酸二水素カリウムストック溶液およびミリQ水を各ウェル内で混合することにより特定リザーバ溶液500μLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を約0.1Mで一定に維持し、酢酸緩衝液pHを約4.1、4.6、5.1または5.6とした。
【0210】
リン酸二水素ナトリウムとリン酸二水素カリウムの以下の組み合わせを使用した。
−約0.3Mリン酸二水素ナトリウムと約0.3Mリン酸二水素カリウム;
−約0.6Mリン酸二水素ナトリウムと約0.6Mリン酸二水素カリウム;
−約0.9Mリン酸二水素ナトリウムと約0.9Mリン酸二水素カリウム;
−約1.8Mリン酸二水素ナトリウム;
−約2.1Mリン酸二水素ナトリウム;
−約2.4Mリン酸二水素ナトリウム。
【0211】
上記3種類の蛋白質濃度で各条件を設定した。正方形OptiClearプラスチックカバースライド上にて蛋白質溶液約1μLを特定リザーバ溶液約1μLと混合し、スライドを裏返してウェルを密閉し、ハンギングドロップ実験を行った。プレートを周囲温度で保存した。翌日から1カ月間、液滴の顕微鏡観察を複数回実施した。透明液滴、ランダム沈殿を含む液滴、結晶を含む液滴、および沈殿種と結晶の混合物を含む液滴に状態を分類した。
【0212】
結果:評価した72個のウェルのうち、以下の結晶化用緩衝液から針束状結晶が生じた。
−約0.9Mリン酸二水素ナトリウムと約0.9Mリン酸二水素カリウム,pH約4.1;
−カリウム塩の不在下の約1.8Mリン酸二水素ナトリウム,pH約4.6。
【0213】
これらの条件では全3種類の蛋白質濃度で結晶が得られた。
【0214】
(実施例32)
温度を変更したハンギングドロップ蒸気拡散法によるリン酸二水素ナトリウムカリウム/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニング
保存温度を30℃まで上げた以外は実施例31と同一の実験条件とした。
【0215】
結果:評価した72個のウェルのうち、以下の結晶化用緩衝液から針束状結晶が生じた。
蛋白質濃度約5mg/mL:
−約0.9Mリン酸二水素ナトリウムと約0.9Mリン酸二水素カリウム,pH約4.1;
−カリウム塩の不在下の約1.8Mリン酸二水素ナトリウム,pH約4.1;
−カリウム塩の不在下の約1.8Mリン酸二水素ナトリウム,pH約4.6;
−カリウム塩の不在下の約1.8Mリン酸二水素ナトリウム,pH約5.1。
蛋白質濃度約10mg/mL:
−約0.9Mリン酸二水素ナトリウムと約0.9Mリン酸二水素カリウム,pH約4.1;
−カリウム塩の不在下の約1.8Mリン酸二水素ナトリウム,pH約4.6;
−カリウム塩の不在下の約1.8Mリン酸二水素ナトリウム,pH約5.1。
蛋白質濃度約20mg/mL:
−約0.9Mリン酸二水素ナトリウムと約0.9Mリン酸二水素カリウム,pH約4.1;および
−カリウム塩の不在下の約1.8Mリン酸二水素ナトリウム,pH約4.1。
【0216】
蒸気拡散結晶化実験結果の考察:
先ず周知マイクロスケール手法を使用して結晶化実験を実施した。PEG4,000/酢酸ナトリウム緩衝液条件は別の抗原特異性または起源の各種抗体を用いて研究していた他の発明者により有望な結晶化条件であると報告されていたので、これらの物質から開始することにした。広範な実験後に、結晶化に影響を与える因子(蛋白質濃度、沈殿剤濃度、緩衝液イオン強度およびpH、温度)の少なくとも検討した組み合わせではPEG4,000を酢酸緩衝液に溶かした場合に結晶は形成されないことが判明したため、広範な結晶化スクリーニングを続けることにし、多様な化学薬品をスクリーニングプロセスに導入した。最終的に、リン酸二水素ナトリウムを酢酸緩衝液に溶かすと、D2E7の強力な結晶化剤となり、医薬的観点から許容不能な毒性試薬を導入せずに済むことが意外にも判明した。
【0217】
D.バッチ晶析実験
以下の実施例に記載する濃度値は抗体溶液と結晶化溶液を混合する前の各溶液の初期値である。
【0218】
特に指定しない限り、全pH値は結晶化剤等の他の物質を加える前の酢酸緩衝液ストックのpHを表す。
【0219】
特に指定しない限り、全緩衝液モル濃度は一般に氷酢酸を使用して実施したpH調整前のストック溶液中の酢酸ナトリウム濃度を表す。
【0220】
(実施例33)
800μLバッチ容量でのリン酸二水素ナトリウムカリウム/酢酸ナトリウムバッチ晶析
20mM HEPES/150mM塩化ナトリウム緩衝液(pH7.4)によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を5mg/mL、10mg/mLまたは20mg/mLに調整した。
【0221】
1.5mLエッペンドルフ反応チューブ内で各蛋白質溶液約400μLを等量の結晶化溶液と混合することによりバッチ晶析を実施した。酢酸緩衝液、リン酸二水素ナトリウムストック溶液、リン酸二水素カリウムストック溶液およびミリQ水を混合することにより特定結晶化溶液400μLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を0.1Mとし、酢酸緩衝液pHを約4.1とした。リン酸二水素ナトリウムおよびリン酸二水素カリウムの以下の組み合わせ:約0.9Mリン酸二水素ナトリウムおよび約0.9Mリン酸二水素カリウムを使用した。反応チューブを周囲温度で保存した。11日後に1μLアリコートの顕微鏡観察を行った。
【0222】
結果:11日後に結晶は認められなかった。
【0223】
(実施例34)
600μLバッチ容量でのリン酸二水素ナトリウム/酢酸ナトリウムバッチ晶析
20mM HEPES/150mM塩化ナトリウム緩衝液(pH7.4)でD2E7を希釈した。蛋白質濃度を10mg/mLに調整した。
【0224】
1.5mLエッペンドルフ反応チューブ内で蛋白質溶液約300μLを等量の結晶化溶液と混合することによりバッチ晶析を実施した。酢酸緩衝液、リン酸二水素ナトリウムストック溶液およびミリQ水を混合することにより特定結晶化溶液300μLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を0.1Mとし、酢酸緩衝液pHを約4.1とした。リン酸二水素ナトリウムモル濃度は夫々約1.5M、1.8M、2.1Mおよび2.4Mとした。反応チューブを周囲温度で保存した。11日後に1μLアリコートの顕微鏡観察を行った。
【0225】
結果:11日後に結晶は認められなかった。
【0226】
(実施例35)
1mLバッチ容量でのリン酸二水素ナトリウムカリウム/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニングバッチ晶析
緩衝液を交換せずにD2E7を使用した。従って、初期組成はD2E7 50mg/mL、マンニトール12mg/mL、ポリソルベート80 1mg/mL、クエン酸一水和物1.305mg/mL、クエン酸ナトリウム0.305mg/mL、リン酸水素二ナトリウム二水和物1.53mg/mL、リン酸二水素ナトリウム脱水物0.86mg/mLおよび塩化ナトリウム6.16mg/mL,pH5.2とした。
【0227】
ミリQ水で希釈することによりD2E7を濃度約10mg/mLとした。
【0228】
24ウェルプレートのウェル内で蛋白質溶液約500μLを等量の結晶化溶液と混合することによりバッチ晶析を実施した。ウェル内で酢酸緩衝液、リン酸二水素ナトリウムストック溶液、リン酸二水素カリウムストック溶液およびミリQ水を混合することにより特定結晶化溶液500μLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を0.1Mとし、酢酸緩衝液pHを約4.1、4.6、5.1または5.6とした。リン酸二水素ナトリウムとリン酸二水素カリウムの以下の組み合わせを使用した。
−約0.7Mリン酸二水素ナトリウムと約0.7Mリン酸二水素カリウム、
−約0.9Mリン酸二水素ナトリウムと約0.9Mリン酸二水素カリウム、
−カリウム塩の不在下で約1.8Mリン酸二水素ナトリウム、
−カリウム塩の不在下で約2.1Mリン酸二水素ナトリウム、
−カリウム塩の不在下で約2.4Mリン酸二水素ナトリウム。
【0229】
次いで、水分蒸発を防ぐために結晶化混合物の調製後にウェルを密閉した。4日後にプレートの顕微鏡観察を行った。
【0230】
結果:4日後に結晶は認められなかった。
【0231】
(実施例36)
1mLバッチ容量でのリン酸二水素ナトリウムカリウム/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニングバッチ晶析
20mM HEPES/150mM塩化ナトリウム緩衝液(pH7.4)でD2E7を希釈した。蛋白質濃度を10mg/mLに調整した。
【0232】
24ウェルプレートのウェル内で蛋白質溶液約500μLを等量の結晶化溶液と混合することによりバッチ晶析を実施した。ウェル内で酢酸緩衝液、リン酸二水素ナトリウムストック溶液、リン酸二水素カリウムストック溶液およびミリQ水を混合することにより特定結晶化溶液500μLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を0.1Mとし、酢酸緩衝液pHを約4.1または4.6とした。リン酸二水素ナトリウムとリン酸二水素カリウムの以下の組み合わせを使用した。
−約1.8Mリン酸二水素ナトリウムと約0.8Mリン酸二水素カリウム、
−約2.2Mリン酸二水素ナトリウムと約0.6Mリン酸二水素カリウム、
−夫々カリウム塩の不在下に0.2M刻みで約2.6Mリン酸二水素ナトリウムから約4.4Mリン酸二水素ナトリウムまで。
【0233】
次いで、水分蒸発を防ぐために結晶化混合物の調製後にウェルを密閉した。翌日から1週間、プレートの顕微鏡観察を複数回実施した。更に、3個のバッチの結晶収率をOD280により測定した。懸濁液のアリコートを14,000rpmで遠心し、上清中の蛋白質濃度を調べた。
【0234】
結果:以下の8個のバッチで針束状結晶が認められた。
−酢酸緩衝液pH4.1およびリン酸二水素ナトリウムモル濃度(0.2M刻みで)約3.6Mから約4.4Mまで、
−酢酸緩衝液pH4.6およびリン酸二水素ナトリウムモル濃度(0.2M刻みで)約4.0Mから約4.4Mまで。
【0235】
酢酸緩衝液pH4.1およびリン酸二水素ナトリウムモル濃度約4.0M〜約4.4Mのバッチの結晶収率を調べた。上清中の残留蛋白質濃度からOD280により測定した結晶収率は5日後に95%を上回っていた。
【0236】
これらのバッチには蛋白質溶液と結晶化溶液の混合直後に明白に沈殿種が存在していた(典型的な光学顕微鏡写真で乳状懸濁液)。5日後に沈殿種は認められなかったので、先の沈殿種は結晶種に再編したものと判断された。蛋白質は結晶化混合物に高度過飽和状態であり、蛋白質はすぐに沈殿した。一部の蛋白質はまだ溶解している可能性があるが、ほんの僅かに過飽和であるまたは恐らく飽和未満である。結晶が形成され、溶解蛋白質濃度は更に低下する。更に、沈殿種は明らかに時間と共に溶解し、成長中の結晶に取り込まれる。
【0237】
(実施例37)
蛋白質濃度を変更した1mLバッチ容量でのリン酸二水素ナトリウム/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニングバッチ晶析
緩衝液を交換せずにD2E7を使用した(実施例35参照)。
【0238】
ミリQ水で希釈することによりD2E7を濃度約10mg/mLとした。
【0239】
24ウェルプレートのウェル内で蛋白質溶液約500μLを等量の結晶化溶液と混合することによりバッチ晶析を実施した。ウェル内で酢酸緩衝液、リン酸二水素ナトリウムストック溶液、リン酸二水素カリウムストック溶液およびミリQ水を混合することにより特定結晶化溶液500μLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を0.1Mとし、酢酸緩衝液pHを約4.1または4.6とした。リン酸二水素ナトリウムモル濃度は約2.6Mリン酸二水素ナトリウムから約4.4Mリン酸二水素ナトリウムまで0.2M刻みで変化させた。次いで、水分蒸発を防ぐために結晶化混合物の調製後にウェルを密閉した。翌日から1週間、プレートの顕微鏡観察を複数回実施した。更に、1個の特定バッチの結晶収率をOD280により測定した。懸濁液のアリコートを14,000rpmで遠心し、上清中の蛋白質濃度を調べた。
【0240】
結果:以下の6個のバッチにおいて針束状結晶が認められた。
−酢酸緩衝液pH4.1およびリン酸二水素ナトリウムモル濃度(0.2M刻みで)約3.4Mから約4.4Mまで。
【0241】
酢酸緩衝液pH4.1およびリン酸二水素ナトリウムモル濃度約4.2Mのバッチの結晶収率を調べた。上清中の残留蛋白質濃度からOD280により測定した結晶収率は8日後に95%を上回っていた。
【0242】
これらのバッチには蛋白質溶液と結晶化溶液の混合直後に明白に沈殿種が存在していた(典型的な光学顕微鏡写真で乳状懸濁液)。6日後に沈殿種は認められなかったので、先の沈殿種が結晶種に再編する相転移が生じたものと判断された。
【0243】
(実施例38)
2mLバッチ容量でのリン酸二水素ナトリウム/酢酸ナトリウムバッチ晶析
20mM HEPES/150mM塩化ナトリウム緩衝液(pH7.4)によりD2E7を希釈した。蛋白質濃度を10mg/mLに調整した。
【0244】
2mLエッペンドルフ反応チューブ内で蛋白質溶液約1mLを等量の結晶化溶液と混合することによりバッチ晶析を実施した。酢酸緩衝液、リン酸二水素ナトリウムストック溶液およびミリQ水を混合することにより特定結晶化溶液1mLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を0.1Mとし、酢酸緩衝液pHを約4.1とした。リン酸二水素ナトリウムモル濃度は約4.0M、4.2Mまたは4.4Mとした。反応チューブを周囲温度で保存した。翌日から1週間、1μLアリコートの顕微鏡観察を複数回実施した。
【0245】
結果:6日後に全バッチで針束状結晶が認められた。
【0246】
これらのバッチには蛋白質溶液と結晶化溶液の混合直後に明白に沈殿種が存在していた(典型的な光学顕微鏡写真で乳状懸濁液)。実施例36に記載したように先の沈殿種は結晶種に再編した。
【0247】
(実施例39)
蛋白質濃度を変更した1mLバッチ容量でのリン酸二水素ナトリウム/酢酸ナトリウムグリッドスクリーニングバッチ晶析
緩衝液を交換せずにD2E7を使用した(実施例35参照)。
【0248】
24ウェルプレートのウェル内で蛋白質溶液約500μLを等量の結晶化溶液と混合することによりバッチ晶析を実施した。ウェル内で酢酸緩衝液、リン酸二水素ナトリウムストック溶液、リン酸二水素カリウムストック溶液およびミリQ水を混合することにより特定結晶化溶液500μLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を0.1Mとし、酢酸緩衝液pHを約4.1とした。リン酸二水素ナトリウムモル濃度は約0.2Mから約4.4Mまで0.2M刻みで変化させた。次いで、水分蒸発を防ぐために結晶化混合物の調製後にウェルを密閉した。翌日から1週間、プレートの顕微鏡観察を複数回実施した。更に、バッチの結晶収率をOD280により測定した。懸濁液のアリコートを14,000rpmで遠心し、上清中の蛋白質濃度を調べた。
【0249】
結果:以下の2個のバッチで針束状結晶が認められた。
−リン酸二水素ナトリウムモル濃度約3.4Mおよび約3.6M。
【0250】
これらの結晶含有バッチには沈殿種と油性沈殿相も存在していた。
【0251】
(実施例40)
撹拌下の20mLバッチ容量でのリン酸二水素ナトリウム/酢酸ナトリウムバッチ晶析
緩衝液を交換せずにD2E7を使用した(実施例35参照)。
【0252】
ミリQ水で希釈することによりD2E7を濃度約10mg/mLとした。
【0253】
50mLファルコンチューブ内で蛋白質溶液約10mLを等量の結晶化溶液と混合することによりバッチ晶析を実施した。チューブ内で酢酸緩衝液、リン酸二水素ナトリウムストック溶液およびミリQ水を混合することにより結晶化溶液10mLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を0.1Mとし、酢酸緩衝液pHを約4.1とした。リン酸二水素ナトリウムモル濃度は4.2Mとした。バッチを実験室用振盪器で撹拌しながらチューブを周囲温度で保存した。翌日から1カ月間、溶液の1μLアリコートの顕微鏡観察を複数回実施した。
【0254】
結果:このバッチには沈殿物が認められた。
【0255】
(実施例41a)
非撹拌下の100mLバッチ容量でのリン酸二水素ナトリウム/酢酸ナトリウムバッチ晶析
緩衝液を交換せずにD2E7を使用した(実施例35参照)。
【0256】
ミリQ水により希釈することによりD2E7を濃度約10mg/mLとした。
【0257】
1L透明ポリエチレンびん内で蛋白質溶液約50mLを等量の結晶化溶液と混合することによりバッチ晶析を実施した。チューブ内で酢酸緩衝液、リン酸二水素ナトリウムストック溶液およびミリQ水を混合することにより結晶化溶液50mLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を0.1Mとし、酢酸緩衝液pHを約4.1とした。リン酸二水素ナトリウムモル濃度を4.2Mとした。容器を周囲温度で保存した。翌日から1カ月間、溶液の1μLアリコートの顕微鏡観察を複数回実施した。
【0258】
結果:7日後に針束状結晶が認められた。上清中の残留蛋白質濃度からOD280により測定した結晶収率は7日後に95%を上回っていた。
【0259】
このバッチには蛋白質溶液と結晶化溶液の混合直後に明白に沈殿種が存在していた(典型的な光学顕微鏡写真で乳状懸濁液)。7日後に沈殿種は認められなかったので、先の沈殿種が結晶種に再編する相転移が生じたと判断された。
【0260】
(実施例41b)
非撹拌下の1mL、50mLおよび10Lバッチ容量でのリン酸二水素ナトリウム/酢酸ナトリウムバッチ晶析
10Lポリプロピレン容器(Nalgene(登録商標))内でアダリムマブ市販緩衝液製剤(pH5.2)(実施例35参照)中50mg/mL D2E7 1Lと注射用水(WFI)4Lとを混合することによりD2E7の大規模結晶化をまた実施した。温和な振盪により溶液を均質化した。この5LのD2E7溶液(10mg/mL)を次に沈殿剤溶液(5Mリン酸二水素ナトリウム,4,400mL,1M酢酸ナトリウム緩衝液,pH4.1,500mL,WFI(Ampuwa),100mL)5Lと混合した。沈殿剤溶液は500mLずつ加えた。添加後毎にびんを温和に回転/反転させることにより溶液を均質化した。沈殿剤溶液約2,500〜3,000mLの添加後、白色沈殿が生じた。残りの沈殿剤を一度に加えた。その後、結晶生成物を再び均質化(温和に回転/反転)した。
【0261】
バッチ製造直後(即ちD2E7溶液5Lおよび沈殿剤5Lの添加直後)に1mL(低容量エッペンドルフサンプルバイアルに充填)および50mL(50mLファルコンサンプルチューブに充填)のアリコートを抜き取り、対照の目的とD2E7結晶化に及ぼすバッチ寸法の影響の評価の目的で10L容器の隣に並べて保存した。図2〜4に要約するように、バッチ容量(即ち夫々1mL、50mLおよび10L)はD2E7結晶針/針束寸法に何ら影響を与えなかった。
【0262】
バッチ晶析実験結果の考察:
適用したマイクロスケール技術(上記セクションD参照)は蛋白質結晶の大規模製造には利用できないので、これらのマイクロスケール法により発見された結晶化条件を拡張可能なバッチ法に応用した。
【0263】
100mLバッチ容量では最終的に高い収率(>95%)と再現性でD2E7を結晶化させるのに成功し、この結晶化システムを工業的処理に適用可能であることが分かった。SDS−PAGE分析により、結晶の蛋白性が立証された。再溶解結晶のSE−HPLC分析によると、凝集種の増加はほんの僅かであった。約0.1M酢酸ナトリウム中に約4.2Mリン酸二水素ナトリウムにてリン酸二水素ナトリウムを含有するpH約4.1の酢酸緩衝液を使用することにより結晶の洗浄が可能であった。OD280により分析した処、このような洗浄用緩衝液中に測定可能な溶解度のD2E7結晶は認められず、90%を上回る結晶が回収された。
【0264】
上記バッチ実験の実験条件を下表1にまとめる。
【0265】
【表1】


【0266】
E.結晶処理および分析方法
(実施例42)
結晶の洗浄
結晶の形成後には、結晶を再溶解させない洗浄工程が好ましい。従って、結晶化工程の終了後、結晶スラリーを遠心管に移し、500〜1000×gで20分間遠心した。遠心は4℃で実施したが、他の利用可能な温度、例えば室温で実施してもよい。遠心後、上清を捨て、約0.1M酢酸ナトリウム中に約4.2Mリン酸二水素ナトリウムを含有するpH約4.1の緩衝液に結晶ペレットを再懸濁した。OD280により分析した処、このような洗浄用緩衝液に測定可能な溶解度のD2E7結晶は認められなかった。次いで遠心/再懸濁工程を1〜3回繰返し、この洗浄工程後に、約0.1M酢酸ナトリウム中に約4.2Mリン酸二水素ナトリウムを含有するpH約4.1の緩衝液にペレットを再懸濁し、保存した。
【0267】
(実施例43)
SDS−PAGEによる結晶の分析
結晶の蛋白性を立証するために、実施例42に記載したように結晶を洗浄用緩衝液で洗浄した。遠心後に上清中に溶解蛋白質が存在しなくなっていることをOD280により確認した後、上清を捨て、次いで結晶を蒸留水に溶解した。この溶液のOD280測定によると、サンプルの吸光度は残留洗浄用緩衝液中と同程度まで有意に高くなっていたので、結晶は主に蛋白質から構成されることが判明した。再溶解結晶のこの溶液のSDS−PAGEは、元のD2E7サンプルと同一パターンを示した。
【0268】
F.その他の実施例
以下の実施例に記載する濃度値は抗体溶液と結晶化溶液を混合する前の各溶液の初期値である。
【0269】
特に指定しない限り、全pH値は結晶化剤等の他の物質を加える前の酢酸緩衝液ストックのpHを表す。
【0270】
特に指定しない限り、全緩衝液モル濃度は一般に氷酢酸を使用して実施したpH調整前のストック溶液中の酢酸ナトリウム濃度を表す。
【0271】
(実施例44)
固体結晶化剤
緩衝液を交換せずにD2E7を使用した(実施例35参照)。
【0272】
ミリQ水により希釈することによりD2E7を濃度約10mg/mLとした。
【0273】
24ウェルプレートのウェル内で蛋白質溶液約500μLを等量の酢酸緩衝液(夫々0.1M,pH4.1または4.6)と混合することによりバッチ晶析を実施した。各pH設定値に対して約0.23g、0.27g、0.30g、0.33g、0.36gおよび0.39gの6種類の異なる比で固体リン酸二水素ナトリウム二水和物を加えた。即ち、結晶化剤の完全な溶解後に、濃度を0.2M刻みで約1.5Mから2.5Mまでとした。次いでウェルを密閉し、結晶化剤が完全に溶解するまでプレートを実験室用振盪器で撹拌した。その後、24ウェルプレートを非撹拌下に周囲温度で保存した。5日後にプレートの顕微鏡観察を行った。
【0274】
結果:以下の7個のバッチで針束状結晶が認められた。
−酢酸緩衝液pH4.1およびリン酸二水素ナトリウムモル濃度夫々約2.1M、2.3Mおよび2.5M。
−酢酸緩衝液pH4.6およびリン酸二水素ナトリウムモル濃度夫々約1.9M、2.1M、2.3Mおよび2.5M。
【0275】
(実施例45)
別の緩衝液調製プロトコールおよび結晶の作製
本実施例では、次のように酢酸緩衝液を調製した。氷酢酸3を精製水約42mLで希釈した。水酸化ナトリウム溶液でpHを調整し、容量を50mLに調整した。この場合には、総酢酸塩量を1M(結晶化溶液中100mM、または結晶化混合物中50mM)に固定し、pH調整により増加しない。
【0276】
緩衝液を交換せずにD2E7を使用した(実施例35参照)。
【0277】
ミリQ水により希釈することによりD2E7を濃度約10mg/mLとした。
【0278】
24ウェルプレートのウェル内で蛋白質溶液約500μLを等量の結晶化溶液と混合することによりバッチ晶析を実施した。ウェル内で酢酸緩衝液、リン酸二水素ナトリウムストック溶液、リン酸二水素カリウムストック溶液およびミリQ水を混合することにより特定結晶化溶液500μLを調製した。本実施例では、酢酸緩衝液モル濃度を0.1Mとし、酢酸緩衝液pHを夫々約4.1および4.6とした。リン酸二水素ナトリウムモル濃度は約3.4Mから約4.4Mまで0.2M刻みで変化させた。次いで、水分蒸発を防ぐために結晶化混合物の調製後にウェルを密閉した。5日後にプレートの顕微鏡観察を行った。
【0279】
結果:以下の9個のバッチで針束状結晶が認められた。
−酢酸緩衝液pH4.1およびリン酸二水素ナトリウムモル濃度0.2刻みで約3.6から4.4まで。
−酢酸緩衝液pH4.6およびリン酸二水素ナトリウムモル濃度0.2刻みで約3.6から4.2まで。
【0280】
(実施例46)
封入結晶の製造
実施例41で得られた結晶はMalvern Instruments Zetasizer nanoを使用するゼータ電位測定によると正に荷電している。
【0281】
結晶性を維持し、結晶を荷電状態に保つpHを有する賦形剤を含有する緩衝液で結晶を洗浄懸濁する。次に、適切な封入剤を結晶懸濁液に加える。この点で、適切な封入剤は毒性が低く、生分解性と対イオン特徴をもつ(ポリマー)物質である。この対イオン特徴により、前記物質は結晶に吸引され、コーティングを可能にする。この技術により、結晶性を維持する他の賦形剤を含有しない溶媒への結晶の溶解を持続することが好ましい。
【0282】
(実施例47)
封入/包埋結晶の製造
実施例41に記載したように結晶を得る。
【0283】
結晶性を維持する賦形剤を含有する緩衝液で結晶を洗浄懸濁する。
【0284】
次に、以下の操作を行うことができる。
−結晶を乾燥し、これらの乾燥した結晶を例えば圧縮、溶融分散等によりキャリヤーと混合することにより結晶を包埋する。
−結晶懸濁液を水不混和性キャリヤー溶液と混合することにより結晶を封入/包埋する。キャリヤーの溶媒の除去後にキャリヤーは沈殿する。次いで材料を乾燥する。
−結晶懸濁液を水混和性キャリヤー溶液と混合することにより結晶を封入/包埋する。キャリヤーは混合物中でその溶解度限界を越えると沈殿する。
−乾燥結晶または結晶懸濁液を水混和性キャリヤー溶液と混合することにより結晶を包埋する。
−乾燥結晶を水不混和性キャリヤー溶液と混合することにより結晶を包埋する。
【0285】
G.結晶特性決定
以下のセクションでは、結晶モノクローナル抗体D2E7が結晶材料の再溶解後に非結晶化D2E7に特徴的な生物活性を維持するか否かを判定するために実施した実験を要約する。
【0286】
G1.マウスL−929細胞による生物活性試験
a)一般方法
組換えヒトTNF(rHuTNF)の細胞傷害作用に対するD2E7溶液の中和効果を調べた。これは指標としてマウスL−929細胞を96ウェルマイクロタイタープレート中に各種D2E7濃度の存在下に48時間規定量のrHuTNFと共に37℃で温置することにより実施した。生存細胞をクリスタルバイオレットで染色した。色強度をマイクロタイタープレートの各ウェルで分光測色法により測定し、評価した。IC50、即ち細胞の50%が生存するようにL−929細胞に及ぼすrHuTNFの細胞傷害作用を低下させるD2E7の濃度を測定した。
【0287】
別の希釈ボックスで、蛋白質1μg/mL希釈液から出発し、サンプルおよび参照標準用希釈管で夫々9個の滴定曲線測定点(曲線希釈液)を調製した。
【0288】
使用するL−929細胞懸濁液を培地により希釈し、細胞60,000個/mLの濃度とした。次に、各細胞濃度の希釈液100μL/ウェルを試験プレートの1〜11列にピペットで注入した。12列のウェルには培地各100μLのみを加えた。試験プレートで37℃および5%(v/v)CO下に24時間温置を行った。
【0289】
24時間温置後に、9個の滴定曲線希釈液各50μLを希釈ボックスから参照標準またはサンプル用試験プレート、即ち参照標準用は1〜9列のA〜D行、サンプル用は1〜9列のE〜H行のウェルに移した。
【0290】
培地50μLを10列にピペットで注入し、各100μLを11列と12列にピペットで注入した。
【0291】
10列が100%溶解値(TNF対照)に対応するように、TNF参照標準(蛋白質12.5ng/mL培地)50μLを1〜10列,A〜H行にピペットで注入した。
【0292】
11列は100%増殖対照とし、12列には細胞材料を加えず、従って、ブランクとして使用した。ウェル当たりの最終容量は200μLとした。
【0293】
37℃で5%CO下に48時間試験プレートの温置を実施した。2日間温置後に、素早く裏返して下向きに1回激しく振ることにより試験プレートウェルから液体を捨てた。次にクリスタルバイオレット溶液(0.75%クリスタルバイオレット、0.35%塩化ナトリウム、32.4%エタノールおよび8.6%ホルムアルデヒド)50μLを各ウェルにピペットで注入した。溶液をウェル内に15分間放置した後、上記のように捨てた。次にプレートを洗浄し、室温で約30分間乾燥した。次いで、試薬溶液(50%エタノールおよび0.1%酢酸)100μLを各ウェルにピペットで注入した。プレートを(約300rpmで15分間)撹拌し、ウェルの各々に均一着色溶液を生じた。
【0294】
試験プレートウェル内の色素の吸光度をプレート光度計を用いて620nmにて測定した。個々の値をグラフにプロットし、抗体の夫々の希釈度ないし濃度ng/mL(x軸)に対して吸光度(y軸)をプロットした。4パラメータープロットから、細胞の半数が生存し、半数が死滅する濃度(IC50値)を読出した。この濃度は曲線データの4パラメーター関数のパラメーター3により計算した。参照標準濃度の平均値を計算した。参照標準の平均IC50値をサンプルの個々のIC50値で割り、100%を掛けることによりサンプルの相対生物活性を計算した。次に相対活性を平均した。
【0295】
b)D2E7結晶の相対活性
参照標準に対するサンプルの生物活性の比較として試験を実施した。D2E7の濃度に対して吸収値をプロットし、4パラメーター非直線回帰により評価した処、抗体によるTNF作用を阻害するIC50値が判明した。両方のサンプルをマイクロプレート1枚で4回ずつ繰返して試験したので、夫々D2E7参照標準およびサンプルに4個のIC50値となる。次に、参照標準のIC50値の平均を計算し、参照標準の平均IC50値をサンプルの該当IC50値で割り、100%を掛けることによりサンプルの各反復の相対生物活性を計算した。
【0296】
サンプル(実施例36に記載したように調製した結晶懸濁液2.7mg/mL)の試験の結果、相対生物活性は111%であることが判明した。
【0297】
従って、サンプルは完全に生物学的に活性であるとみなすことができる。
【0298】
G2.顕微鏡による特性決定
以下、D2E7の結晶の顕微鏡による特性決定に関するデータについて記載する。
【0299】
a)mAb結晶バッチサンプルの光学分析
均質化後、1〜10μLサンプル容量のアリコートを対物レンズホルダープレートにピペットで滴下し、ガラスカバースライドをかぶせた。E−PI 10倍接眼レンズと夫々10倍、20倍および40倍対物レンズを装着したZeiss Axiovert 25倒立型光学顕微鏡を使用して結晶調製物を評価した。デジタルカメラ(Sony Cybershot DSC S75)を使用して写真撮影した。
【0300】
b)蒸気拡散実験の光学分析、近似結晶寸法の評価および複屈折の検出
この目的には、CFW 10倍接眼レンズと夫々4倍、10倍、20倍および40倍対物レンズを装着したNikon Labophot顕微鏡を使用した。
【0301】
蒸気拡散実験を評価するために、24ウェルプレートのサンプル液滴をスクリーニングした。
【0302】
JVC TK C1380カラービデオカメラにより顕微鏡写真をコンピュータスクリーンに転送し、JVC Digital Screen Measurement Cometソフトウェアバージョン3.52aを利用して代表的な針状または針束状結晶の長さまたは直径を測定することにより結晶寸法を評価した。更に、顕微鏡にフィルターセット(偏光板と検光板)を装着し、サンプルの複屈折挙動を調べた。
【0303】
偏光板と検光板のフィルターの偏光方向を相互に90°の角度にセットする場合(「交差偏光」)には、光は顕微鏡接眼レンズまで透過せず、画像は暗くなるかまたは黒くなる。交差させた偏光板間の光ビームに挿入したサンプルが光の偏光面を回転させることができるならば、暗い背景に対してサンプルの鮮明な明滅光が観察されよう。この挙動は「複屈折」と呼ばれ、規則的な結晶(異方性)物質を不規則な非晶質(等方性)物質から区別する。複屈折は異方性物質に特徴的であるため、この明滅光の出現は結晶物質の存在を立証するものである。しかし、結晶は立方対称を示す場合もあり、従って、非晶質物質と同様に等方性の場合もあるので、複屈折を示さないからといって結晶物質が存在しないとは限らない。
【0304】
c)結果
添付の図1〜4には、D2E7結晶の代表的な写真を示す。
【0305】
図1は実施例37に従って室温で6日後に小規模バッチ晶析により得られたD2E7結晶を示す(最終蛋白質濃度5mg/mL;結晶化用緩衝液:0.1M酢酸ナトリウム中4.2Mリン酸二水素ナトリウム,pH4.1)。結晶は複屈折を示した。
【0306】
図2〜4は実施例41bに従って大規模バッチ晶析により得られたD2E7結晶を示す。
【0307】
注射適性:蛋白質200mg/mLを結晶に組込み、20%(m/v)PEG4,000を添加した緩衝液で製剤化したD2E7結晶懸濁液は27 1/2G針で注射可能である。
【0308】
G3.複屈折
アダリムマブ結晶化により実際に結晶物質が得られることを実証するために、その複屈折を分析した。
【0309】
蛋白質:製剤化用緩衝液中70mg/mlアダリムマブを2回蒸留水で10mg/mlまで希釈。
【0310】
沈殿剤:4M NaHPO(粉末を2回蒸留水に溶解)。
【0311】
方法:2mLコンパートメントウェルを備えるハンギングドロップトレーでマイクロバッチ晶析。蛋白質溶液500μlを蛋白質500μlと混合;溶液にNaOAcは加えない。
【0312】
温度:24℃。
【0313】
複屈折測定用技術装置:Nikon SMZ1500立体解剖顕微鏡にNikon CoolPix CCDカメラを接続。偏光板を交差させ、結晶複屈折を撮影した。倍率は約200倍とする。
【0314】
対応する顕微鏡写真を図5Aに示す。アダリムマブ針状結晶束の顕著な複屈折が認められる。結晶針軸の方向が偏光方向に対して回転するにつれて結晶の色は青から赤に変化した後、青に戻る。
【0315】
別の顕微鏡写真を図5B、CおよびDに示す。
【0316】
全画像はNikon Eclipse E600 POL顕微鏡とNikon DXM 1200デジタルカメラを使用して撮影した。倍率は約40倍である。
【0317】
図5Bの画像(グレー)は直線偏光で撮影し、粒子形態を示す。黒の背景上の白の結晶(図5D)は複屈折を示し、交差偏光で撮影した。紫色の背景上の青とオレンジ色の結晶(図5C)は複屈折を示し、交差偏光と赤色補償板ないし1/4波長板を使用して撮影した。
【0318】
H.結晶注射適性
以下のセクションでは、各種ゲージ針を使用してモノクローナル抗体D2E7(10〜200mg/ml)の(PEG)結晶懸濁液の注射適性を検討するために実験を実施した。
【0319】
PEG緩衝液:
20%PEG4,000m/v
12mg/mLマンニトール
0.1mg/mLポリソルベート80
1.305mg/mLクエン酸一水和物
0.305mg/mLクエン酸ナトリウム
1.53mg/mLリン酸水素二ナトリウム脱水物
0.86mg/mLリン酸二水素ナトリウム脱水物
pHは水酸化ナトリウムで5.2に調整した。
【0320】
投与中に患者が手動で実施しているように注射器消費(1mL充填容量)を実施した。20〜27.5G針サイズを評価した。
【0321】
注射器:
20/23/26G:
Henke Sass Wolf GmbH 1mL Norm−Ject注射器に以下の針を装着した。
−Henke Sass Wolf GmbH Fine−Ject(登録商標)20G針
−Terumo(登録商標)23G針
−Neopoint(登録商標)26G針。
27.5G:
BD HyPak SCF(登録商標)1mL長尺注射器に27.5G RNS針38800 Le Pont du Claixを装着した。
【0322】
結果(図6)から、高濃度では針のゲージが大きいほど結晶の送達が遅くなると思われる。
【0323】
I.安定性データ(SE HPLC,FT−IR)
以下のセクションでは、2〜8℃で12カ月保存後のモノクローナル抗体D2E7(50および200mg/ml)の結晶懸濁液の安定性を検討するために実験を実施した。
【0324】
注射適性試験で使用した溶媒に懸濁した結晶:
20%PEG4,000m/v
12mg/mLマンニトール
0.1mg/mLポリソルベート80
1.305mg/mLクエン酸一水和物
0.305mg/mLクエン酸ナトリウム
1.53mg/mLリン酸水素二ナトリウム脱水物
0.86mg/mLリン酸二水素ナトリウム脱水物
pHは水酸化ナトリウムで5.2に調整した。
【0325】
SE−HPLC
【0326】
【表2】

【0327】
SECによる安定性分析にはDionex HPLCシステム(P680ポンプ,ASI 100オートサンプラー,UVD170U)を使用した。流速0.5mL/分を適用してD2E7サンプルをGE Superose(登録商標)6カラムで分離した。波長214nmでUV定量(検出)を実施した。ランニング緩衝液は0.02Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)中0.15M塩化ナトリウムから構成した。Bruker Optics Tensor 27でConfocheckを使用してIRスペクトルを記録した。MicroBiolytics AquaSpecセルを使用して液体サンプルを分析した。25℃で120〜500個のスキャンの測定を少なくとも2回実施して各サンプルを評価した。ブランク緩衝液スペクトルを蛋白質スペクトルから夫々差し引いた。フーリエ変換により蛋白質二次導関数スペクトルを作成し、相対比較のために1580〜1720cm−1からベクトルを正規化した。結晶の再溶解を次のように実施した。結晶懸濁液をHumira(登録商標)市販緩衝液で蛋白質濃度10mg/mLまで希釈した。PEG濃度を低下させることにより、結晶は再溶解した。
青−標準、凍結/融解後のHumira(登録商標)
赤−50mg/mLを25℃で6カ月後に再溶解した結晶
緑−200mg/mLを25℃で6カ月保存後に再溶解した結晶,。
【0328】
結果:図7は25℃で6カ月間保存後に構造変化がなかったことを示す。
【0329】
J.形態
2〜8℃で12カ月間保存後に、結晶の光学顕微鏡分析により有意形態変化は認められなかった。
【0330】
1〜10μLサンプル容量のアリコートを対物レンズホルダープレートにピペットで滴下し、製剤化用緩衝液(20%PEG)で希釈し、ガラスカバースライドをかぶせた。E−PI 10倍接眼レンズと夫々10倍、20倍および40倍対物レンズを装着したZeiss Axiovert 25倒立型光学顕微鏡を使用して結晶調製物を評価した。
【0331】
【表3】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)結晶化剤としての無機リン酸塩と混合した前記抗体の水溶液を準備する段階;および
(b)前記抗体の結晶が形成されるまで前記水性結晶化混合物を温置する段階
を含む抗hTNFα抗体を結晶化するためのバッチ晶析方法。
【請求項2】
前記水性結晶化混合物のpHが約pH3から5の範囲である、請求項1に記載の晶析方法。
【請求項3】
前記水性結晶化混合物が緩衝液を含有している、請求項1または2に記載の晶析方法。
【請求項4】
前記緩衝液が酢酸緩衝液を含む、請求項3に記載の晶析方法。
【請求項5】
前記緩衝液が酢酸ナトリウムを含む、請求項4に記載の晶析方法。
【請求項6】
前記水性結晶化混合物中の緩衝液濃度が0Mから0.5Mである、請求項3から5のいずれか一項に記載の晶析方法。
【請求項7】
リン酸塩がリン酸水素塩である、請求項1から6のいずれか一項に記載の晶析方法。
【請求項8】
リン酸塩がアルカリ金属塩、または少なくとも2種類の異なるアルカリ金属塩の混合物である、請求項7に記載の晶析方法。
【請求項9】
結晶化混合物中のリン酸塩濃度が約1から6Mの範囲である、請求項1から8のいずれか一項に記載の晶析方法。
【請求項10】
結晶化混合物中の塩濃度が約1.0から3.0Mの範囲である、請求項9に記載の晶析方法。
【請求項11】
以下の追加の結晶化条件:
a)温置を約1時間〜約60日間実施する;
b)温置を約4℃〜約37℃の温度で実施する;
c)抗体濃度を約0.5〜約100mg/mlの範囲とする
のうちの少なくとも1つを満足する、請求項1から10のいずれか一項に記載の晶析方法。
【請求項12】
前記結晶を乾燥する段階を更に含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の晶析方法。
【請求項13】
結晶化母液を別の緩衝液と交換する段階を更に含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の晶析方法。
【請求項14】
バッチ容量が約1ml〜20.000リットルの範囲である、請求項1から13のいずれか一項に記載の晶析方法。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の晶析方法により取得可能な抗hTNFα抗体の結晶。
【請求項16】
抗体がインフリキシマブ以外のものである抗hTNFα抗体の結晶。
【請求項17】
約2〜500μmの最大長lと約3〜30のl/d比をもつ針状形態である請求項15または16に記載の結晶。
【請求項18】
前記抗体がポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体である、請求項15から17のいずれか一項に記載の結晶。
【請求項19】
前記抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体、非糖鎖付加抗体、ヒト抗体およびマウス抗体から構成される群から選択される、請求項18に記載の結晶。
【請求項20】
前記抗体がIgG抗体である、請求項17または18に記載の結晶。
【請求項21】
前記抗体がIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4抗体から構成される群から選択される、請求項19に記載の結晶。
【請求項22】
前記抗体がIgG1群の抗ヒトTNFα抗体である、請求項21に記載の結晶。
【請求項23】
いずれも表面プラズモン共鳴法により測定した場合に1×10−8M以下のKdと1×10−3−1以下のKa速度定数でhTNFαから解離し、標準インビトロL929アッセイにおいて1×10−7M以下のIC50でhTNFα細胞毒性を中和する単離ヒト抗体から作製される請求項22に記載の結晶。
【請求項24】
以下の特徴:即ちa)表面プラズモン共鳴法により測定した場合に1×10−3−1以下のKoff速度定数でヒトTNFαから解離する;b)配列番号3のアミノ酸配列を含むまたは1、4、5、7もしくは8位の1カ所のアラニン置換または1、3、4、6、7、8および/もしくは9位の1〜5カ所の保存アミノ酸置換により配列番号3から改変されたアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3領域を有する;c)配列番号4のアミノ酸配列を含む、または2、3、4、5、6、8、9、10もしくは11位の1カ所のアラニン置換または2、3、4、5、6、8、9、10、11および/もしくは12位の1〜5カ所の保存アミノ酸置換により配列番号4から改変されたアミノ酸配列を含む重鎖CDR3領域を有するという特徴を備える単離ヒト抗体から作製される請求項22に記載の結晶。
【請求項25】
配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)および配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する単離ヒト抗体から作製される請求項22に記載の結晶。
【請求項26】
抗体D2E7から作製される請求項25に記載の結晶。
【請求項27】
(a)請求項15から26のいずれか一項に記載の抗hTNFα抗体の結晶および(b)少なくとも1種の医薬賦形剤を含有し、固体、半固体または液体製剤として提供され、各製剤は結晶形態の前記抗体を含有する、医薬組成物。
【請求項28】
(a)請求項15から26のいずれか一項に記載の抗hTNFα抗体の結晶および(b)前記抗体の結晶を包埋または封入する少なくとも1種の医薬賦形剤を含有する、医薬組成物。
【請求項29】
前記組成物の抗体濃度が約1mg/mlを上回る請求項26に記載の組成物。
【請求項30】
前記組成物の抗体濃度が約200mg/mlを上回る請求項27に記載の組成物。
【請求項31】
前記賦形剤が少なくとも1種の場合により生分解性のポリマーキャリヤーまたは少なくとも1種の油類または脂質キャリヤーを含む請求項26から28のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項32】
前記ポリマーキャリヤーがポリ(アクリル酸)、ポリ(シアノアクリレート)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(酸無水物)、ポリ(デプシペプチド)、ポリ(エステル)、ポリ(乳酸)、乳酸・グリコール酸コポリマーないしPLGA、ポリ(β−ヒドロキシブチレート)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、ポリ(オルガノ)ホスファゼン、ポリ(オルトエステル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、無水マレイン酸・アルキルビニルエーテルコポリマー、プルロニックポリオール、アルブミン、アルギン酸塩、セルロースおよびセルロース誘導体、コラーゲン、フィブリン、ゼラチン、ヒアルロン酸、オリゴ糖、グリコサミノグリカン、硫酸化多糖、これらのブレンドおよびコポリマーから構成される群の1種以上から選択されるポリマーである、請求項29に記載の組成物。
【請求項33】
約10から400mg/mlの範囲の抗体濃度にて請求項15から26のいずれか一項に記載の抗hTNFα抗体結晶を含有する注射用液体組成物。
【請求項34】
約100mg/mlを上回る抗体濃度にて請求項15から26のいずれか一項に記載の抗hTNFα抗体結晶を含有する結晶スラリー。
【請求項35】
有効量の請求項15から26のいずれか一項に記載の抗hTNFα抗体結晶を哺乳動物に投与する段階を含む哺乳動物の治療方法。
【請求項36】
有効量の請求項27から32のいずれか一項に記載の組成物を哺乳動物に投与する段階を含む哺乳動物の治療方法。
【請求項37】
非経口経路、経口経路または注射により組成物を投与する請求項34および35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
治療有効量の請求項15から26のいずれか一項に記載の抗体結晶を投与する段階を含む、対象におけるTNFα関連疾患の治療方法。
【請求項39】
前記TNFα関連疾患が、自己免疫疾患、特に関節リウマチ、リウマチ性脊椎炎、変形性関節症および痛風性関節炎、アレルギー、多発性硬化症、自己免疫性糖尿病、自己免疫性ぶどう膜炎およびネフローゼ症候群、感染性疾患、移植拒絶反応ないし移植片対宿主病、悪性腫瘍、肺障害、腸障害、心臓障害、炎症性骨障害、骨吸収疾患、アルコール性肝炎、ウイルス性肝炎、劇症肝炎、凝固障害、熱傷、再潅流障害、ケロイド形成、瘢痕組織形成、発熱、歯周病、肥満症および放射線傷害、脊椎関節症、肺障害、冠動脈障害、代謝障害、貧血、疼痛、肝障害、皮膚障害、爪障害、または血管炎、ベーチェット病、強直性脊椎炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、再狭窄、糖尿病、貧血、疼痛、クローン病関連障害、若年性関節リウマチ(JRA)、C型肝炎ウイルス感染、乾癬、乾癬性関節炎、および慢性プラーク乾癬、加齢性悪液質、アルツハイマー病、脳浮腫、炎症性脳損傷、慢性疲労症候群、皮膚筋炎、薬物反応、脊髄内および/または周囲の浮腫、家族性周期性発熱、フェルティ症候群、線維症、糸球体腎炎(例えば連鎖球菌感染後糸球体腎炎やIgA腎症)、人工器官の緩み、顕微鏡的多発血管炎、混合性結合組織病、多発性骨髄腫、癌および悪液質、多発性臓器障害、骨髄異形成症候群、睾丸炎、骨溶解、急性、慢性および膵膿瘍を含む膵炎、歯周病、多発性筋炎、進行性腎不全、偽痛風、壊疽性膿皮症、再発性多発性軟骨炎、リウマチ性心臓病、サルコイドーシス、硬化性胆管炎、脳卒中、胸腹部大動脈瘤修復(TAAA)、TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)、黄熱病ワクチン接種関連症候群、耳関連炎症性疾患、慢性耳炎症、または小児耳炎症、ぶどう膜炎、座骨神経痛、前立腺炎、子宮内膜症、脈絡膜血管新生、狼瘡、ショーグレン症候群並びに滲出型黄斑変性症から構成される群から選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
請求項38に記載のTNFα関連疾患を治療するための医薬組成物を製造するための請求項15から26のいずれか一項に記載の抗hTNFα抗体結晶の使用。
【請求項41】
医薬用としての請求項15から26のいずれか一項に記載の抗hTNFα抗体結晶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−507670(P2010−507670A)
【公表日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−534651(P2009−534651)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際出願番号】PCT/US2007/022622
【国際公開番号】WO2008/057240
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(503448572)アボツト・バイオテクノロジー・リミテツド (30)
【Fターム(参考)】